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泌尿器
190 泌尿器
泌 尿 器
Ⅰ.膀胱癌
1.放射線療法の目的・意義
膀胱癌では筋層浸潤の程度がリンパ節や遠隔転移の頻度と相関する。そのため筋層
浸潤の有無が大きな分岐点となり,筋層浸潤のない表在性膀胱癌と筋層浸潤を有する
浸潤性膀胱癌では治療方法,予後が大きく異なる。診断時に,20〜25%の症例は浸潤
性膀胱癌であり,その他は筋層浸潤のない表在性膀胱癌である。表在性膀胱癌の治療
は経尿道的腫瘍切除(TURBT)が主体であり,その後の抗癌剤やBacille Calmette−
Guerin(BCG)などの膀胱内注入が再発予防に有効であることが確立されており,放
射線治療が表在性膀胱癌の初期治療として行われることはない。それに対して,浸潤
性膀胱癌の標準治療については未だ結論に至っていない部分がある。その最大の理由
は膀胱全摘除術と放射線治療を比較した臨床試験が行われていないためである。膀胱
全摘除術は,代用膀胱形成術などの膀胱再建術の進歩もあり浸潤性膀胱癌の治療とし
て現在も広く行われている。根治照射後の手術例と手術先行の比較試験を解析した
Cochrane Database reviewで 3 年および 5 年累積生存率が手術例 45%,36% に対して
放射線治療例 28%,20%と膀胱全摘除術で良好な解析結果が報告されているが,両者
の優劣は厳密には明確ではない1, 2)。
放射線治療の最大の利点は臓器機能の温存である。排尿に直接関わる膀胱機能の温
存は,患者の生活の質を高く維持できるため放射線治療の役割は大きい。放射線治療
単独療法が手術不能例や拒否例に施行され欧米を中心にデータが蓄積され,局所制御
率や遠隔成績は決して満足のいくものではないものの,膀胱温存可能症例の特徴が明
らかとなってきた3)。近年,シスプラチンを中心とする化学療法の有効性が尿路系腫
瘍でも明らかとなり,化学療法を手術や放射線治療と組み合わせた併用療法が積極的
行われ,有効性を実証するための臨床試験が行われている。術前または照射前の化学
療法の有効性を確認する臨床試験(局所療法は放射線治療または膀胱全摘除術のいず
れか,またはその併用)のうち, 5 つの比較試験を対象としたメタアナリシスでは術
前化学療法の有無の間に有意差はなく,術前化学療法を標準治療とするには至ってい
ない4,
5)
。現在では化学療法による顕微鏡学的遠隔転移病巣の抑制効果に加え,放射
線増感作用を期待した放射線治療と化学療法の同時併用療法が試みられている。根治
的膀胱全摘除術との比較試験は施行されていないものの,膀胱全摘除術に匹敵する生
存率に加え高い膀胱温存率が得られている。
以上のように,放射線治療は浸潤性膀胱癌の治療において膀胱温存を目指した治療
の重要な柱となりつつあるのが現状である。
泌尿器 191
2.病期分類による放射線療法の適応
膀胱癌取り扱い規約は2001年11月に改定され,TNM分類は1997年改訂第 5 版が用
いられている。1987年との相違は,T2(筋層浸潤)がT2a(内側1/2までの浸潤)と
T2b(外側1/2までの浸潤)に細分化され,T3が膀胱周囲脂肪組織への浸潤があるもの
となり,T3a(顕微鏡学的)とT3b(肉眼的)に細分化された。1987年のT2がT2aに,
T3aがT2bとなり,T3bがT3aとT3bに相当する。表在性膀胱癌に分類されるTisから
T1に変更はない。以下の病期,治療成績は改訂版の病期分類に基づいて記述する。
前述したように放射線治療が標準治療として行われることはない。しかし,組織学
的悪性度が高い高リスクのT1表在性膀胱癌はTURBT後の再発率または浸潤性膀胱癌
への進展が30%前後と報告されているため,膀胱全摘除術も治療選択のオプションの
ひとつと考えられている。そのような背景から組織学的悪性度G3のT1表在性膀胱癌
に対してTURBT後にシスプラチンを中心とした化学療法併用放射線治療が行われ,
再発率の低下による膀胱機能温存が報告されている6)。臨床試験では確認されていな
いが,高リスクT1表在性膀胱癌の治療において放射線治療は治療選択肢の一つとな
りうる。
膀胱全摘除術と放射線治療の臨床試験は現在までに行われていないため,T2から
T4の浸潤性膀胱癌の標準治療は現状では膀胱全摘除術である。放射線治療は合併症
などによる手術不能例や,手術の侵襲に耐えられない高齢者に対する標準的治療法で
ある。化学療法との併用に関する詳細は後述するが,現在のT2〜T4の浸潤性膀胱癌
に対する標準的な放射線治療は,TURBTにより可能な限り腫瘍切除を行った後に腎
機能や全身状態に問題がなければシスプラチンを中心とする化学療法を同時併用する
方法が推奨される。
3.放射線治療
1)標的体積
GTV:膀胱原発巣および転移リンパ節。
CTV:膀胱腫瘍の進展に合わせ,全膀胱を含める。筋層浸潤がある場合には,両側の
腸骨リンパ節をCTVに含める必要がある。
2)放射線治療計画
放射線治療の計画には,正確な病期診断は必須である。リンパ節転移の頻度はT因
子と密接に関係している(pT2a: 6 〜20%,pT3b:20〜30%,pT3:30〜64%,pT4:
45〜59%)。そのため,膀胱鏡,触診,CT,MRIまた排泄性腎盂造影などによるT因子,
リンパ節転移また尿管閉塞の有無の診断は重要である。
3)照射法
X線のエネルギーは10MVまたはそれ以上が望ましい。45〜50Gyで両側の内・外腸
192 泌尿器
骨リンパ節を含めた照射野から病巣進展範囲に応じて照射野を縮小し,膀胱の腫瘍お
よび腫大リンパ節に限局して15〜20Gy追加する。総線量は60Gyから60Gy後半が推奨
される。骨盤リンパ節を含めた照射野の治療では,前後対向二門や左右対向二門照射
を加えた四門照射が行われる。左右からの照射野決定には,直腸内のバリウム注入で
直腸の位置を確認することは,治療計画に役立つ。照射野の上縁は仙腸関節中央の高
さ,または第 5 腰椎下縁の高さとし,下縁は閉鎖孔下端,外側はリンパ節を含めるた
め骨盤骨の縁から1.5〜2.0㎝外側とする(図1)。外側縁決定には,リンパ管造影など
が役立つ。また,下縁は前立腺などの膀胱外浸潤や尿道への進展に応じて適宜変更す
る。縮小後の膀胱へのブーストは四門照射で行われることが多い(図2)。膀胱に尿を
貯めた状態,または造影剤や空気などを注入して膀胱を進展させ安全域を決定する。
CTを用いた三次元治療計画は,解剖学的な情報に基づいて正確に治療範囲を決定で
正面像
側面像
図1.骨盤リンパ節を含めた照射野
前後左右四門照射の標準的な照射野を示す。青塗りは膀胱。
図2.膀胱に対する四門照射時の照射野と線量分布図
膀胱に対して1.5㎝のマージンを設定した場合の照射野を示す。
ピンクはPTV,茶塗りの臓器は直腸を表している。
泌尿器 193
きるため正常組織への線量を抑制して有害事象を低減することに役立つが,膀胱は臓
器の動きや尿の貯留の状態で大きさ変化が比較的大きな臓器であることに注意を払う
必要がある。膀胱へブーストする際のPTVマージンとして最低で 1 ㎝以上, 2 ㎝程
度は必要であると報告されている7)。照射時に排尿をさせるべきかどうかについては,
膀胱癌の存在により頻尿症状や残尿が多い症例も少なくないため個別に検討する必要
があるが,排尿から照射までの時間を一定に保つなど再現性を担保する配慮は必要で
ある。
4)線量分割
1 回線量2Gyの通常分割照射法が一般的に行われる。多分割照射法の有効性を通常
分割照射法と比較した臨床試験も行われており,これらを対象としたメタアナリシス
では多分割照射法が生存率,局所制御率向上に有効であるとの結果が得られている8)。
しかし,対象とされた臨床試験は 2 つと少なく,症例数も決して十分ではない。加速
過分割照射と通常分割照射を比較した第Ⅲ相試験の結果も報告されているが,治療成
績の向上は認められていない9)。膀胱癌の標準治療としての多分割照射法および加速
過分割照射法の有効性は現状では確立されていない。
表1.放射線治療単独
症例数 臨床病期 CR率 5 年局所制御率 5 年生存率
London Hospital
105
T2〜T3
52%
−
40%
Princess Margaret
108
T2〜T4
58%
−
39%
MD Anderson
111
T2〜T4
59%
31%
26%
Scotland
109
T1〜T4
46%
55%
36%
Australia
110
T1〜T4
68%
45%
−
化学療法・放射線治療同時併用による膀胱温存療法
症例数 臨床病期
Erlangen
139
T1〜T4※1
MGH
106
T2〜T4
RTOG
85−12
42
T2〜T4
RTOG
89−03
126
T2〜T4
Paris
179
T2〜T4
5 年 5 年膀胱
生存率 温存率
neoadjuvant
薬剤/総線量
CR率
TURBT
CDDP/56Gy
80%
52%
41%
MCV+TURBT CDDP/64.4Gy 66%
52%
43%
66%
52%
42%
MCV+TURBT CDDP/64.8Gy 60%
50%
82%
( 2 年)
CDDP+5−FU/
77%
44Gy※2
63%
−
TURBT
TURBT
CDDP/64Gy
※ 1:T1はTCC G3症例のみ ※ 2:24Gy at 3Gy bid + 20Gy at 2.5Gy bid
194 泌尿器
5)併用療法
照射前の化学療法併用による生存率向上はT2〜T4全体では明確でないが,T2b〜
T4では生存率向上が報告されており併用が望ましい。T2aでは照射前の化学療法併用
の有効性は明らかではない。照射前の化学療法に代わり,TURBT後に化学療法を放
射線治療と同時併用する膀胱温存療法により,高い膀胱温存率と良好な生存率がT2
〜T4症例で得られている10)。同時化学放射線療法に加えて化学療法を先行すること
の意義について検討したRTOG 89−03では,先行化学療法を加えることによる生存率
の向上は得られていない11)。組織内照射や抗癌剤の動脈内注入と放射線治療の併用の
結果も報告されているが比較試験はなされていないため,その有効性は確立されてい
ない。
4.標準的な治療成績
膀胱癌に対する放射線治療の標準的な治療成績を表1に示す。T2〜T4を対象とした
放射線治療単独の完全奏功率は40〜60%, 5 年生存率は30〜40%,T因子別ではT2:
40〜50%,T3:20〜30%が標準的な治療成績である。同じようにT2〜T4を対象とし
たTURBT後にシスプラチン単剤または多剤併用の化学療法と放射線治療の同時併用
を行う集学治療成績の完全奏功率は60〜80%, 5 年生存率は50〜60%と,放射線治療
単独と比較し良好な結果が得られている。 5 年の膀胱温存率は40%を超えている。
5.合併症
膀胱癌の放射線治療に伴う急性の有害事象として,下痢,頻尿,排尿時痛などが放
射線治療期間の中盤から後半にみられる。晩期有害事象は,直腸出血を主体とする直
腸障害ならびに慢性的な頻尿や排尿困難,高度になると膀胱出血や委縮がみられる。
Grade 3 以上の膀胱の有害事象の頻度は膀胱全体に照射される線量とともに増加し,
50〜60Gyの照射で10〜30%と報告されている。しかし,60Gy以上の場合でも,65Gy
を超える線量が照射される膀胱の範囲を20%以下にすることにより,有害事象を10〜
20%に抑えることが可能であったと報告されている。そのため,可能であれば治療の
後半に膀胱の一部を照射野からはずすことが望ましい。
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泌尿器 195
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1998.
(東京女子医科大学放射線医学教室 秋元哲夫)
196 泌尿器
Ⅱ.前立腺癌 −外部照射−
1.放射線療法の目的・意義
前立腺癌の放射線治療は大きな進歩をとげ,前立腺に線量を集中し,その周囲への
被曝を低減する種々の技術が開発された。我が国でも三次元原体放射線治療,強度変
調放射線治療,小線源療法などが用いられるようになり,副作用を少なく,安全に,
そしてより効果的に治療できるようになっている。放射線治療は根治的治療の有効な
手段のひとつであり,成績は手術とほぼ同等であると考えられている。
放射線治療の利点は,手術と比較して,男性機能,尿路系機能に対する治療後の
QOLが高いことである。一方,主な有害事象は直腸障害であるが,総じて放射線治
療のほうがQOLを高く保つことができるとされている。
前立腺癌の放射線治療を行うにあたり,前立腺癌の予後は他の悪性腫瘍と比較して
きわめて良好であること,治療効果の主な指標に用いられるPSA(prostate specific
antigen)再発は,前立腺癌死と直接関係しているかどうかはっきり証明されていない
こと,よって治療後の患者のQOLがより重要になることを念頭に置いて,治療方針
を決定すべきである。
本稿では,主に外照射について述べる。
2.病期分類による放射線療法の適応
前立腺癌の予後因子には,臨床病期のみならず,治療前PSA,Gleason分類などが
あり,被膜外浸潤,精嚢浸潤,リンパ節転移のリスクが推定できる1)。前立腺癌の放
射線治療は,単に病期分類のみならず,これらのリスク因子を考慮に入れた治療戦略
を立てる必要がある。NCCN Clinical Practice Guide­lines in Oncologyでは,低リス
ク群(T1~2aかつGleason score 2 ~ 6 かつPSA<10ng/ml),中リスク群(T2b~2cま
たはGleason score 7または PSA10~20ng/ml),高リスク群(T3a以上またはGleason
score 8 ~10またはPSA>20ng/ml)および期待余命にて,治療方針の決定を行ってい
る2)。この分類を用いた場合,局所療法,すなわち手術や70Gy程度の外照射単独での
10年PSA非再発率は,低リスク群で約80%,中リスク群で約 50%,高リスク群で
約 30%となると考えられている3)。
低リスク群では,外照射単独が推奨されている。リスクが高くなるにしたがって,前立腺
外への浸潤やリンパ節転移の可能性が高くなり,
内分泌療法との併用が推奨される4〜7)。
しかし,リスク分類にはいくつかの方法があり,すべて欧米のデータより得られたものであ
るため,直接日本人にも当てはまるかどうか,今後の検討が必要である。また,治療前
または治療後のP S A倍加時間と予後との関連が指摘されており,P S A倍加時間の短
いものに対しては,内分泌療法併用を検討するなどの慎重な対応が必要である。
通常,前立腺癌の予後は長いため,年齢,合併症などで患者の期待生存期間が短い
泌尿器 197
と判断される場合には,無治療もひとつの選択枝となる。
3.放射線治療
1)標的体積
GTV:治療計画画像その他から決定される全腫瘍。
CTV:GTVに顕微鏡的浸潤を含めた範囲。低リスク群では,GTVを前立腺,CTVを
前立腺または前立腺+精嚢の一部とする。 精嚢浸潤が疑われる場合では全精
嚢を照射野に含むことが多い。
PTV:前立腺は直腸や膀胱の状態により位置が変動することが知られており,通常,
CTV+1.0㎝程度とすることが多い。マージンは各施設のセットアップの精度
などに依存する。高線量を照射する場合には,特に直腸側をさらに小さくする
ことが多い。
2)放射線治療計画
前立腺の解剖をよく表すのはCTよりもMRIであり,治療計画CT上にて前立腺を囲
む場合,MRIを参照することが望ましい。インターネット上に放射線治療のための詳
しい解剖が公開されているので,参考にされたい8)。
治療計画CTでは,膀胱および直腸が過度に拡張していないように注意する。場合
によっては,浣腸などで直腸内容を排泄させることも必要である。
予後因子にて十分にリスク評価を行い1,
2)
,リンパ節転移,精嚢浸潤,被膜外浸潤
などの可能性を考慮して,照射範囲を決定する。 骨盤リンパ節への転移のリスクの
高い群については,骨盤照射と内分泌療法を併用することにより,PSA再発率が低下
することが知られているが5),実際に骨盤照射を行うかどうかは,現在のところ治療
医の判断にゆだねられている。
3)照射法,X線エネルギー
6 〜10MV以上の高エネルギーX線を用いる。治療体位による再現性は両論があり
腹臥位,背臥位はいずれでも良い。三次元治療計画では,四門以上の固定多門照射,
両側方向80〜120°程度の振り子照射,回転原体照射(直腸線量を減少させるために,
回転角を前方240〜300°程度にする)などが行われる。
骨盤領域を照射する場合には四門照射で行う。前立腺癌の所属リンパ節は総腸骨動
脈の分岐部以下の骨盤リンパ節であり,上縁をL5~S1間,下縁を坐骨結節下縁とする。
側方からの照射野の後縁は,S3 以上の骨盤,仙骨前面のリンパ節領域を含み,S2 以
下では直腸後壁をはずすようにする。前縁は恥骨結合前縁より0.5~1.0㎝後方とする。
4)線量分割
通常, 1 回1.8~2Gyにて照射する。骨盤部を照射する場合には, 1 回1.8~2Gy,
総線量45~50Gyを骨盤領域に投与する。三次元治療計画を行うことにより,直腸前
壁の線量を低減できるため,三次元原体放射線治療または強度変調放射線治療が用い
られるべきである。
198 泌尿器
全骨盤への照射野の1例
黄:前立腺および精嚢,ピンク:膀胱,ブルー:直腸
前立腺への照射野の1例
黄:前立腺および精嚢,赤:前立腺および精嚢の一部をCTVとした場合のPTV
ピンク:膀胱,ブルー:直腸
精嚢を含めない場合
術後照射野の1例
黄:腫瘍床,赤:腫瘍床をCTVとした場合のPTV,ピンク:膀胱,ブルー:直腸
泌尿器 199
米国NCCN clinical practice guidelineでは,低リスク群には前立腺(±精嚢の近位
部)をターゲットとし,70〜75 Gy/35〜41回/ 7 〜 9 週が推奨され,全骨盤照射や
内分泌療法の併用は推奨されていない2)。中リスク群以上では,さらなる線量増加が
なされるか,またはネオアジュバント±アジュバント内分泌療法の併用が勧められる。
臨床試験では高リスク群で長期内分泌療法が併用される場合には70Gy程度の線量が
用いられることが多い4)。
しかし,70〜72Gyを越える高線量に関しては,あくまでPSA非再発率を改善する
ことのみが証明されており,生存率が改善するかどうかは今後の臨床試験の結果を待
たなければならない。70Gy以上の高線量を投与する場合には,出来る限り三次元原
体照射法を用い,将来的には強度変調放射線治療や画像誘導放射線治療などを利用し
て,直腸前壁が過線量にならないように工夫することが望ましい。。
5)併用療法
前立腺癌はアンドロゲン依存性であることが多く,内分泌療法が有効であり,しば
しば放射線治療と併用される。特に高リスク群では, 2 〜 3 年の長期の内分泌療法が
推奨されている6)。また,内分泌療法には身体的・精神的副作用があるため低リスク
群への併用は十分慎重にすべきである。
4.標準的な治療成績
70Gyまでの放射線治療単独での10年PSA非再発率は,低リスク群で約80%,中リ
スク群で約50%,高リスク群で約30%とされている。しかし,中~高リスク群では高
線量投与により治療成績が向上する可能性があり,また内分泌療法を併用することに
よっても成績の向上が見込める。
5.合併症
急性の有害事象として,下痢,肛門周囲の皮膚炎,直腸出血,頻尿などがあるが,
可逆的である。晩期有害事象として最も問題となるものは直腸出血である。手術を要
するような出血や閉塞をきたす頻度は 1 %以下であるが,輸血を含めた内科的な処置
の必要な出血の起こる頻度は数%から20%程度にみられるとされている。これは直腸
線量に依存し,三次元治療計画を行えば頻度は低い。そのほか,放射線性膀胱炎,尿
道狭窄などがある。性機能障害が起こる可能性もあるが,手術に比べ頻度は低い。
6.前立腺全摘除術後の放射線治療
全摘除術にて断端陽性であった場合,アジュバント療法として外照射などを行うこ
とがあるが,PSAの上昇を確認してからなんらかの救済治療を行う場合もあり,一定
のコンセンサスは得られていない。pT3など病理的に高リスクであった場合,外照射
200 泌尿器
を加えたほうがPSA再発率は低いと考えられているが,無転移発生率,生存率には影
響がないとされている9)。アジュバント療法としての放射線治療においては,60Gy程
度の線量が照射されていることが多い。
術後にPSAが上昇した場合には救済療法として外照射を考慮する必要がある。
PSAの上昇時,尿道吻合部付近の生検がなされても必ずしも病理学的に再発が証明さ
れるわけではないが,この場合にも照射の対象となる。治療開始の目安となるPSAカ
ットオフ値は0.4〜1.0ng/程度とされ,早い時期での治療開始が予後が良いとされ
ている。膀胱尿道吻合部を十分含めた前立腺床を照射野とする。ASTROコンセンサ
スパネルでは,アジュバント療法より多めの64Gy以上の線量が推奨されている10)。
通常四門照射で行われることが多い。有害事象として,尿道狭窄などの合併症が 1 〜
3 %に認められる。
7.参考文献
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(福岡大学医学部 中村和正)
202 泌尿器
Ⅲ.前立腺癌 −密封小線源永久挿入療法−
PSA検査の導入により,前立腺に限局した早期前立腺がん症例が急速に増加してい
る。前立腺がんにおける治療法の選択肢として,手術,放射線療法(小線源治療,外
部照射),ホルモン療法などがある。その中で,小線源治療は短期間で治療が行える
ため,特に米国においては15年以上前から施行されてきた。わが国では2003年 9 月
から I−125シード線源を用いた密封小線源永久挿入療法が開始された。米国において
は I−125シード線源による永久挿入治療は限局性前立腺癌の標準的治療法として定着
しており,その有効性は多くの報告で確認されており,生化学的非再発率は手術に匹
敵するとしている1, 2)。
1.適応基準
密封小線源永久挿入療法単独での治療は原則的にはABS(American Brachytherapy
Society)の適応基準が示されているが3),Gleason's score 7 がどのリスクに分類され
る の か が 不 明 確 で あ る た め, こ こ で はNCCN(National Comprehensive Cancer
Network)による適応基準を示す 。ただし,リスク分類にはいくつかの分類法があり,
注意が必要である。表1に代表的なリスク分類を示す。
表1.リスク分類
Seattle
Mt. Sinai
D’Amico
低リスク
PSA ≦10.0
GS 2〜6
T1a〜T2b
PSA ≦10.0
GS 2〜6
T1a〜T2a
PSA ≦10.0
GS 2〜6
T1c〜T2a
中リスク
(IM)
PSA > 10.0
Or
GS ≧7 or T2b
PSA=10.1〜20.0
Or
GS=7 or T2b
PSA =10.1〜20.0
GS7 and/or T2b
高リスク
2 or 3 of IM risk factors 2 or 3 of IM risk factors PSA >20.0 and/or
Or GS 8〜10 or
GS=8〜10 and/or
PSA >20.0 or T2c
T2c
1)密封小線源永久挿入療法単独 T1〜T2a
PSA
Gleason's score 6 以下
10ng/未満
いわゆる低リスク群2)が密封小線源永久挿入療法の適応となる。
2)密封小線源永久挿入療法+外照射
T2b〜T2c
泌尿器 203
PSA
10〜20ng/
Gleason's score 7
中リスク群や高リスク群において密封小線源永久挿入療法を行うには,外照射との
併用が推奨される。
3)臨床的除外項目 除外項目として①期待余命 5 年未満,②TURP(Trans Urethral Resection of the
Prostate)による前立腺の欠損が大きい場合,③線源留置術に不適な状況,④遠隔転
移がある場合,⑤大きな石灰化が前立腺内にあり線源留置に支障がある場合となって
いる。
4)比較的禁忌項目
比較的禁忌事項として
①大きな中葉症例 ②骨盤照射の既往 ③AUA(American Urological Association)症状スコア高値 ④多数回の骨盤領域の手術既往 ⑤創傷治癒遅延を伴う高度の糖尿病 ⑥TURPの既往 ⑦前立腺容積50㏄以上
ESTRO/EAU/EORTCからのrecommendationでは4, 5),IPSS(International Prostate
Symptom Score)8 以下では急性期の排尿障害は軽度であり,遷延する可能性が低い
が,IPSS20以上では30〜40%の頻度で急性期有害事象の増強があり,遷延するとさ
れており注意が必要である6,
7)
。また,前立腺容積については35㏄以下が理想的であ
るが,50〜60㏄ではホルモン療法による容積減少をはかることが推奨されている。
表2
RECOMMENDED
OPTIONAL
INVESTIGATIONAL
Do well
Fair
Do poorly
PSA(ng/)
>10
10〜20
>20
Gleason Score
5〜6
7
8〜10
Stage
T1c〜T2a
T2b〜T2c
T3
IPSS
0〜8
9〜19
>20
Prostate Volume(g)
<40
40〜60
>60
Q max mls/sec
>15
15〜10
<10
Residual Volume cc
>200
TURP +/−
+
204 泌尿器
2.線量計画
1)線量計画法
術前計画法 Preplanning
通常, 3 〜 4 週間前に前立腺容積,形状を計測し十分な線量を投与するのに必要な
線源個数および線源配置を算出する。これをpreplanと呼ぶ。TRUS(Trans Rectal
Ultra Sound)を用いて実際の線源挿入と同様に砕石位で行われる。
術中計画法 Intraoperative planning
Intaroperative preplanning
手術室において当日行われる。患者は経直腸プローブを挿入したままvolume
studyおよび挿入術を行う方法。
Interactive planning
計画前に全ての針を挿入し,この針の位置を用い治療計画を行う。
Real time(dynamic dose calculation)
線源を挿入するたびに仮想の線源位置を実際の線源位置に修正し,最適な線量分
布を実現する計画を行う。
これらはまだ,標準的なものではなく,各施設の責任において術前計画法による十
分な治療経験の後,施設ごとに判断して行うべきである。また,術中計画法で施行の
際 に は, 事 前 に 必 要 な 線 源 個 数 の 判 定 を ど う す る か が 問 題 と な る。Anderson
nomogramにより事前に前立腺容積から必要な線源強度および線源個数を導き出す方
法がある。実際に必要な線源個数とやや異なる(実際よりも個数が多め)ことがある
ようであるが,許容範囲内との報告が多い。施設ごとにそれまでに経験した症例につ
いて手技とDVHの結果を検討し,施設ごとに微調整して使用することが重要である。
2)ターゲットおよびリスク臓器の輪郭入力
ターゲットの輪郭入力
通常,TRUSにより前立腺底部から尖部にかけて5㎜ごとに画像収集を行う。得ら
れた画像で前立腺の輪郭入力を行う。ESTRO/EAU/EORTC(Eeuropean Society for
Therapeutic Radiology and Oncology/European Association of Urology/European
Organization for Research and Treatment of Cancer)ではGTV(Gross Tumor
Volume)は定義せず,前立腺に対し直腸側を除いて最大 5 ㎜程度のマージンを加えた
ものをCTV(Clinical Target Volume)とする。前立腺がん密封小線源永久挿入療法に
おいてセットアップエラーはほとんどないものと考えられるため,PTV(Planning
Target Volume)はCTVと同一とする。
リスク臓器(OAR)の輪郭入力
尿道:前立腺内の尿道を底部から尖部まで描画する。
一般的にはバルーンカテーテルを留置し尿道を同定する。しかし,尿道の過
度の拡張を防ぐため10Fr程度が適切である。カテーテルの外側を尿道とし
泌尿器 205
て描画する。
直腸:直腸は直腸前壁の直腸粘膜及び外側壁を囲む7)。
3)線源配置法
辺縁配置法(peripheral loading)または辺縁配置法と均一配置法(uniform loading)
の変法である均一配置変法(modified uniform loading)を用いる。前立腺中心部の線
量が過剰とならないように注意する。
4)線量評価
密封小線源永久挿入療法単独での処方線量は144Gyとする。なお,外照射との併用
においては外照射40〜45Gyが一般的であり,I−125の処方線量は100〜110Gyである。
CTV : V100(CTVが処方線量で囲まれる割合)は少なくとも95%以上とする。即ち,
V100≧95%となる。また,D90(CTVの90%が囲まれる線量)は処方線量の
100%よりも高い線量となることが望ましい。V150(処方線量の150%の線量で
囲まれるCTVの割合)は50%以下であること。
OAR's
直 腸:D2㏄(2㏄ の 直 腸 へ の 線 量 )は144Gy以 下 と な る よ う に,D0.1㏄(~Dmax)は
200Gy未満となることが望ましいが,DmaxよりはD0.1㏄が重要とされている。
尿道 :D10(尿道の10%が囲まれる線量)は処方線量の150%未満となるように,ま
た,D30(尿道の30%が囲まれる線量)は処方線量の130%未満となるようにす
べき。
3.術後計算 Post plan
挿入後の線量評価は通常挿入術後およそ1ヵ月頃にCTを用いて行う。MRIによる評
価も有用ではないかといわれているが,ESTRO−EAU−EORTC recommendationでは
MRIによるCTV輪郭描出能は優れているが,線源位置の同定においてはCTが優って
いることからCTによる術後計算およびCTとともに 2 方向のX線写真による線源個数
の確認も合わせて行うことが推奨されている。(図1,2)
1)ターゲットの輪郭入力 CT画像による輪郭入力が行われる。
ESTRO−EAU−EORTC:recommendationでは 2 つの輪郭入力が示されている。
CTV−P(rostate):画像上認められる被膜で囲まれる前立腺容積
CTV−P(rostate)M(argin):CTV−Pに対して直腸側を除く最大で 5 ㎜程度のマージ
ンを含む容積
2)リスク臓器の輪郭入力
CT 画像上で行う場合,直腸外側を輪郭入力する。
MR 画像上で行う場合,外側と内側壁を輪郭入力する。
尿道の同定は本来,尿道カテーテル留置により行うことが望ましいが,実際には留
置せずに行う施設が多い。I−125 挿入直後(通常は術翌日)にCT像が撮像されている
206 泌尿器
図1.治療後24時間の単純写真
図2.治療後1ヵ月でのCT画像
黄色の線が95%線量域を示す。
場合はそれを参考とする。これがない場合には尿道を前立腺中心として評価すること
もできる。あるいはTRUSによる画像とCT, MRIをimage fusionすることにより尿道
輪郭を得てもよい。
3)線量評価の指標
前立腺においてはCTV−P, CTV−PMそれぞれについて V100, V150及びD90を記載す
る。さらに,V200,D100 についても記載する。V100 は挿入の質をV150 は合併症を引き
起こす可能性をD90は挿入の正確さを示す。
尿道線量の評価:D10を主とし,さらにD5, D30を指標とする。
直腸線量の評価:D2㏄を主とし,さらにD0.1㏄, V100を指標とする。
目標:V100>90%,V150:30〜60%,D90:140Gy
4.外照射併用のタイミングと照射野
外照射併用がコンセンサスを得ているわけではないが,外照射を併用する場合,密
封小線源永久挿入療法とのタイミングについてもコンセンサスは得られていない。お
よそ60日の半減期を考慮すると尿道,直腸への重複した照射による有害事象増加を危
惧し,外照射先行をよしとする考えかたや,同時で相乗効果を狙う考え方もあり,そ
の施設の判断による。照射野については,前立腺のみ,あるいは骨盤リンパ節を含め
る場合とこれもどちらが良いかコンセンサスは得られていないが,前立腺のみとする
施設が多い。
泌尿器 207
5.治療成績
それぞれのリスク群で治療成績は異なる。低リスク群においては 5 〜10年でb−
NEDは85〜98%と良好である8)。中リスク群では外照射併用によるものであり, 5 年
で85%程度と比較的良好な治療成績であり,最近12年で78%との報告もある8)。しか
し,中リスク群への密封小線源永久挿入療法単独での治療成績については様々な報告
がなされている。密封小線源永久挿入療法単独で60%のb−NED(10年)に対し,外照
射併用群で76%(統計的有意差はなく有意傾向のみ)との報告がなされているが,外
照射不要論もあり,結論には至っていない。最近,米国のPCSにおける泌尿器科医,
表3.低リスク群の治療成績(b−NED)
Risk factor
Grado
5 years
GS≦2〜4
95%
GS:5〜6
82%
Potters
PSA≦10,GS≦6, stageT1〜2
93%
Zelefsky
PSA≦10,GS≦6, stage≦T2b
88%
Grimm
PSA≦10,GS≦6, stage≦T2b
Stone
PSA≦10,GS≦6, stage≦T2b
10 years
87%
91%
表4.中間リスク群の治療成績(b−NED)外照射併用
Risk factor
5 years
10 years
Potters
PSA>10, GS>6, stage>T2
85%
Zelefsky
77%
Critz
PSA:10-20
75%
Sylvester
PSA>10 or GS≧7 or stage≧T2c
77%
Grimm
PSA>10 or GS≧7 or stage≧T2c
76%
5 years
10 years
表5.高リスク群の治療成績(b−NED)外照射併用
Risk factor
Grado
GS≧7
58%
Potters
PSA>10, GS≧7, stage≧T2cの内2因子
85%
Critz
PSA>20
75%
Stock
PSA>20, GS: 8〜10
Sylvester
PSA>10, GS≧7, stage≧T2cの内2因子
47%
Critz
PSA>10, GS≧7, stage≧T2bの内2因子
63%
76〜79%
208 泌尿器
放射線腫瘍医へのアンケート調査で中リスク群であっても,Gleason's score7( 3 +
4 )あるいはPSA10〜20ng/で cT1cであればコアー陽性率30%未満においてはほ
とんど全ての医師が密封小線源永久挿入療法単独を行うとの回答が得られているよう
である9)。今後の治療成績によっては中リスク群への単独療法の可能性も考えられる。
高リスク群では一般的には50〜80%であり,決して良好な治療成績とはいえないが,
最近,長期のホルモン療法との併用により 4 年で79%と良好な治療成績が報告されて
おり10),何らかの後療法の追加が必要である。表3〜5にそれぞれのリスク群におけ
る治療成績を示す。
6.合併症
線源配置法によって,かなり差が出てくるが一般的に有害事象は軽度である。GU
toxicityはRTOG Grade 4 が 1 %,grade 3 は 7 %程度であり,GI toxicityではgrade1〜
2 で 2 %〜12%と報告されている。性機能に関しては,勃起能維持率はおよそ50%
と報告されている。
7.参考文献
1)D' Amico AV, Whittington R, Malkowicz SB, et al. Biochemical outcome after
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radiotherapy <72Gy, external beam radiotherapy> or = 72Gy, permanent seed
implantation or combined seed/external beam radiotherapy for stage T1〜T2
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J Radiat Oncol Biol Phys 44 : 789-799, 1999.
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permanent seed implantation for localized prostate cancer. Radiother Oncol
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recommendations on prostate brachytherapy. Radiother Oncol 83 : 3-10, 2007.
6)Terk MD, Stock RG, Stone NN. Identification of patients at increased risk for
prolonged urinary retention following radioactive seed implantation of the prostate.
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泌尿器 209
guided transperineal prostate seed implantation. Int J Radiat Oncol Biol Phys
45 : 59-67, 1999.
8)Frank SJ, Grimm PD, Sylvester JE, et al. Interstitial implant alone or in com­
bination with external beam radiation therapy for intermediate-risk prostate cancer :
A survey of practice patterns in the United States. Brachytherapy 6 : 2-8, 2007.
9)Potters L, Morgenstern C, Calugaru E, et al. 12-year outcome following
permanent prostate brachytherapy in patients with clinically localized prostate
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10)Copp H, Bissonette EA, Theodorescu D, et al. Tumor control outcomes of
patients treated with trimodality therapy for locally advanced prostate cancer. Urol
65 : 1146-1151, 2005.
(千葉県がんセンター放射線治療部 幡野和男)
210 泌尿器
Ⅳ.精巣腫瘍
1.放射線療法の目的・意義
精巣腫瘍は,胚細胞腫瘍,精巣間質腫瘍,続発性腫瘍に分けられるが,一般には胚
細胞腫瘍をさしている。胚細胞腫瘍はさらに精巣上皮腫と非精巣上皮腫に分類される。
精巣上皮腫と非精巣上皮腫が混在する場合は,非精巣上皮腫として治療する。なお,
HCGは精巣上皮腫でも生産されるがαフェトタンパクは生産されることはないので,
αフェトタンパクが血清中で上昇している場合は病理組織が精巣上皮腫でも非精巣上
皮腫が混在していると判断する。放射線治療が適応となるのは,主にⅠ・Ⅱ期精巣上
皮腫に対する術後照射であり,進行期精巣上皮腫では手術および化学療法が,非精巣
上皮腫では手術単独あるいは手術に化学療法が併用される。ここでは,Ⅰ・Ⅱ期精巣
上皮腫の治療を中心とする。
2.病期分類による放射線療法の適応
臨床上リンパ節転移の無いⅠ期精巣上皮腫に関しては,高位精巣摘除術後,患側骨
盤部および腹部傍大動脈領域に術後照射する事が一般的であった。しかし,近年,術
後照射を省き厳重に観察を行う方法(surveillance)や,カルボプラチン単剤による術
後化学療法が放射線治療に代わる方法として開発されている。また,術後放射線治療
も合併症を減らす目的で総線量の減量および照射野の縮小が図られている。
Ⅰ期精巣上皮腫では,術後照射を省き厳重に観察を行うと15〜20%で主に傍大動脈
領域リンパ節に再発する(術後照射を行えば照射野内再発はほぼ 0 %)。再発後に化
学療法や放射線治療を施行することで,全生存率は術後照射を行った場合と等しいと
報告される1〜3)。ただsurveillanceでは,原発腫瘍のサイズが 4 ㎝を越える場合や精巣
縦隔中の精巣網への浸潤がある場合に再発のリスクが高く3),術後放射線療法か化学
療法を行うべきと考えられる。Ⅰ期精巣上皮腫の術後カルボプラチン 1 回投与は術後
放射線治療とのランダム化比較試験の結果,
治療成績の差がないことが示されている4)。
術後照射を傍大動脈のみへ限局することに関してはランダム化比較試験結果によ
り,従来の傍大動脈および患側骨盤照射との比較において,傍大動脈領域照射群では
骨盤再発が1.8%で認められたものの,全体の無再発生存率に有意差が認められなかっ
た5)。線量に関しても20Gy/10回と30Gy/15回のランダム化比較試験で,両線量の
治療効果に差を認めず,かつ20Gy/10回で治療に伴う合併症が少ないことが明らか
になった6)。放射線治療の晩期合併症として,治療後15年以上経過すると,第 2 癌,
および心障害の頻度が高くなることが示され7),以下の治療方針がとられることが標
準となりつつある8, 9)。
1)術後放射線治療を省き厳重に観察を続ける,2)術後放射線治療を行う場合は照
射範囲を傍大動脈領域に絞り,かつ総線量を20Gy/10回まで減量する,3)術後放射
泌尿器 211
線治療を省き,カルボプラチンを中心とする化学療法を行う。
Ⅱ期ではリンパ節転移が 5 ㎝以下の場合,術後照射の適応である。しかし, 5 ㎝を
越える場合(ⅡC期)に関しては,シスプラチンを中心とした化学療法中心の治療と
なる8, 9)。
3.放射線治療計画の実際
1)治療体積
精巣腫瘍の所属リンパ節は腹部大動脈,
下大静脈周囲のリンパ節である。なお,精
巣静脈に沿ったリンパ節も領域リンパ節と
考えるべきとUICC TNM Classification of
Malignant Tumours (6th ed)には記載され
ている10)。陰嚢や鼠径部の手術後は,骨盤
内リンパ節および鼠径部リンパ節も所属リ
ンパ節となる。CTVはこれら所属リンパ
節とする。
精巣上皮腫の術後照射に用いられた従来
の照射野は,先にも述べたが腹部傍大動脈
領域リンパ節および患側の骨盤リンパ節を
含めたいわゆるドッグレッグ状の照射野で
ある(図1)
。上縁は通常第11胸椎上縁とす
るが,施設によっては第10胸椎上縁あるい
は第12胸椎上縁にする場合もある。下縁は
図1.精巣上皮腫の術後照射に用いられ
た従来の照射野
腹部傍大動脈領域リンパ節および患
側の骨盤リンパ節を含めたいわゆる
ドッグレッグ状の照射
寛骨臼上縁とするが,閉鎖孔とする施設も
ある。なお高位精巣摘除術の術創は照射野
に含める必要はない。傍大動脈領域の照射
野の外側縁はおよそ横突起端としてできる
だけ腎が含まれないように設定する8)。左
精巣原発では精巣静脈が左腎静脈に流入す
るので,左腎門部がCTV内に含まれるよ
うにする。
Ⅰ期精巣上皮腫に対する現在の標準的な
術後照射は傍大動脈領域に限られる。この
場合は上縁は第11胸椎上縁,下縁は第5腰
椎下縁とする (図2)
。外側縁は腎門部とし
腎が含まれないように設定する。対側は,
図2.Ⅰ期精巣上皮腫に対する現在の標
準的な術後照射野
傍大動脈領域に限られる。
212 泌尿器
通常,横突起を含む範囲とする8)。三次元計画に関しては,明確な設定法の記載がな
いが,大動脈,下大静脈,および患側腎静脈に1.4㎝のマージン(腎静脈の腎側は 0 ㎝)
でPTVを設定し,これに 1 ㎝のマージンをつけて照射野を設定すると上記二次元計
画に比較して良好との報告がある11)。
陰嚢や鼠径部の手術歴がある場合は,ドッグレッグ状の照射野を用い,患側の鼠径
部を照射野に含める。また,陰嚢に浸潤があれば,陰嚢にも照射が必要となる。
ⅡA期精巣上皮腫ではドッグレッグ状の照射野を用い,ⅡB期ではドッグレッグ状の
照射野および腫大したリンパ節に1.5〜 2 ㎝のマージンをつけて照射野を設定する8, 12)。
4.放射線治療の実際
1)照射法
放射線治療は,6 〜10MV以上の高エネルギーX線を用い前後対向二門照射を行う。
治療体位は仰臥位で行う。ドッグレッグ照射野を用いる場合は,放射線治療の合併症
としての不妊を予防するため必要に応じて精巣のシールドを行う。
2)線量分割
Ⅰ期精巣上皮腫では,20Gy/10回/2週で照射する。ⅡA期では病変部に30Gy/15
回/ 3 週,ⅡB期では36Gy/18回/3.5週を照射する。
5.標準的治療成績
放射線治療を行ったⅠ期精巣上皮腫の無病生存率は95%以上,ほぼ100%に近い。Ⅱ
期では90%の治癒率である。Classenらは上述の治療法で治療した場合,ⅡA期 6 年
無病生存率 95.3%,ⅡB期 88.9%と報告している12)。
6.合併症
精巣上皮腫の術後照射にともなう急性期合併症としては悪心などの消化器症状,晩
期合併症として 2 次発癌,心障害,不妊などが主なものである。重篤な消化管症状は
1 回線量,総線量が少ないためほとんど経験することはない。第 2 癌,心障害は治療
後15年以後に発現することが知られている7)。骨盤部への術後照射により一過性の精
子数減少が認められるが,傍大動脈領域までの照射では危険性はない。骨盤部への術
後照射を行う場合にはシールドを考慮する8, 13)。
7.参考文献
1)Thomas GM. Over 20 years of progress in radiation oncology : Seminoma, Semin
Radiat Oncol 7 : 135-145, 1997.
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7)Zagars GK, Ballo MT, Lee AK, et al. Mortality after cure of testicular seminoma.
JCO 22 : 640-647, 2004.
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11)Martin JM, Joon DL, Ng N, et al. Towards indivi­dualized radiotherapy for stage I
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(新潟大学医学部放射線医学講座 笹井啓資)
214 泌尿器
Ⅴ.陰茎癌
1.放射線療法の目的・意義
陰茎癌に対しては外科的手術療法が標準治療とされているが,放射線治療の最も大
きな利点は陰茎の温存であり,機能温存を希望するT1~T2症例には根治的放射線治
療が推奨される1〜3)。外照射または小線源治療が施行され,T1病変に対しては80~
90%という外科的手術療法と同等の局所制御率が達成可能であり1〜
5)
,生存率に関し
3, 5〜7)
ても遜色ない成績が報告されている
。
2.病期分類による放射線療法の適応
I期(T1,N0)病変は低エネルギーX線(表在治療用のKV X線),電子線による局
所への外照射や小線源治療(モールド照射,組織内照射)が適用となる。組織内照射
の適用となる対象は,最大径 4 ㎝以下の病変である3)。T2以上の病変は原則的に外照
射による全陰茎照射の適用であり,浸潤範囲に応じて照射野を適宜拡大する。リンパ
節領域に対する治療法に関する統一見解は確立されていないが,一般的にT2以上の
病変に対しては臨床的にN0であっても両鼠径リンパ節領域±骨盤リンパ節領域に対
する郭清術や予防照射が行われることが多い。一方,リンパ節転移陽性例に対しては
通常郭清術後に術後照射が施行される。
3.放射線治療
1)標的体積
GTV:触診・視診または画像診断で認められる原発部位および腫大リンパ節。
CTV:原発部GTVの周囲 1 ~ 2 ㎝の領域または陰茎全体,およびリンパ節領域を加
療する場合は両側鼠径リンパ節領域±骨盤リンパ節領域(外腸骨および内腸骨
リンパ節を確実に含めること。)。
PTV:CTVに適切なマージン(0.5~1.0㎝程度)をつけた領域(総論を参照)。
2)放射線治療計画,照射法,X線エネルギー
原発部位の特殊性から現在でも主として二次元治療計画が行われており,三次元治
療計画の適用となることは稀である。
T1病変への局所照射においては,PTVを十分含む照射野設定で,低エネルギーX
線または電子線を使用した一門照射が行われることが多い。電子線を用いる場合は,
ボーラスを使用して皮膚線量を確保しつつ十分な深部線量が得られるエネルギーを選
択する。T2以上の病変は全陰茎照射の適用である。この場合,陰茎全体をカバーす
るプラスチックボックス(waxブロック)等の陰茎用ボーラスを使用し4,
8)
,6MV以下
の高エネルギーX線を用い一般的には左右対向二門照射法にて治療する(図1)8,
9)
。
通常,50Gy以降はGTVに限局した照射野に縮小する。T3~T4病変については腫瘍の
進展範囲に応じて十分腫瘍をカバーできるように高エネルギーX線を使用した照射野
泌尿器 215
を設定する。
また,小線源治療は,T2までの病変が
組織内照射またはモールド照射が行われ
ている。各手法に応じた適切な治療計画
ボーラス
照射野
適応であり,主として192Ir線源を用いた
を行うことが必要である。
鼠径リンパ節領域への照射は,高エネ
ルギーX線を用いて前方一門または前後
対向二門照射で行う。前後対向二門照射
の場合は,鼠径リンパ節の位置を考慮し
て前方からのビームの比率を高くするこ
とが推奨される。ブースト照射には電子
線等を使用し,大腿骨頭線量を抑えるよ
うに配慮することが望ましい3〜5)。また,
陰茎部への照射と重ならないように注意
する。骨盤リンパ節領域の照射には高エ
図 1.陰茎癌の照射野(全陰茎照射)
ネルギーX線を用いて前後対向二門照射
の照射野を設定する。膀胱遮蔽ブロックは必要に応じて適宜使用する。
3)線量分割
原発巣に対して以前は小分割照射法による治療も行われていたが,現在は晩期合併
症軽減のために 1 回2Gyの通常分割照射法が一般的である。また,総線量60Gy未満,
1 回線量2Gy未満,総治療期間45日超で局所再発率が高くなる傾向が報告されており4),
T1病変に対しても最低60Gy,T2病変以上に対しては60~70Gyの投与が推奨される。
192
Irワイヤーを用いた低線量率組織内照射においては,通常60~70Gyを 5 ~ 7 日で
投与する。
鼠径または骨盤リンパ節領域に対する照射は,予防目的では50Gy程度,根治目的
ではGTVに限局してさらに10~16Gy程度のブーストを行う。
4)併用療法
大部分の病変が扁平上皮癌であるためシスプラチン主体の多剤化学療法の併用効果
が期待できる。また,進行病変ではアドリアマイシンやブレオマイシン併用の有効性
が示唆されている8)。しかしながら臨床データが非常に限られているために,併用化
学療法の位置付けは現時点で明らかではない。
4.標準的な治療成績
T1病変に関しては80~95%,T2病変に関しては45~80%の局所制御率が報告され
ている1,
3〜5)
。 5 年生存率は,リンパ節転移陰性例で70~90%,陽性例で12~40%と
216 泌尿器
報告されており,リンパ節転移の有無が予後を大きく分ける2, 3, 7, 9)。
5.合併症
急性期合併症:陰茎部および外陰部の皮膚炎,表皮剥離,浮腫,尿道粘膜炎等はほぼ
全例に観察されるが基本的に可逆性である。
晩期合併症:最も重要なのが尿道狭窄で10~30%に見られるが,多くは拡張術で対処
可能である7, 9)。皮膚の毛細血管拡張や潰瘍生成・壊死等も見られる5)。放射線
治療後の安易な生検は壊死の引き金になることが多く,生検の実施には慎重な
判断が望まれる2,
3)
。下肢のリンパ浮腫は,リンパ節郭清術と術後照射の併用
例に頻度が高い。勃起機能や造精子能への影響に関するエビデンスは明らかで
はない。
6.参考文献
1)Horenblas S, van Tinteren H, Delemarre JF, et al. Squamous cell carcinoma of the
penis : Ⅱ. Treatment of the primary tumor. J Urol 147 : 1533-1538, 1992.
2)Pizzocaro G, Piva L, Bandieramonte G, et al. Up-to-Date Management of
carcinoma of the penis. Eur Urol 32 : 5-15, 1997.
3)Gerbaulet A, Lambin P. Radiation therapy of carcinoma of the penis : indications,
advantages and pitfalls. Urol Clin North Am 19 : 325-332, 1992.
4)Sarin R, Norman AR, Steel GG, et al. Treatment results and prognostic factors in
101 men treated for squamous carcinoma of the penis. Int J Radiat Oncol Biol Phys
38 : 713-722, 1997.
5)Crook JM, Jezioranski J, Grimard L, et al. Penile brachytherapy : results for 49
patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys 62 : 460-467, 2005.
6)Ozsahin M, Jichlinski P, Weber D C. et al. Treatment of penile carcinoma : to cut
or not to cut? Int J Radiat Oncol Biol Phys 66 : 674-679, 2006.
7)Zouhair A, Coucke PA, Jeanneret W, et al. Radiation therapy alone or combined
surgery and radiation therapy in squamous-cell carcinoma of the penis? Eur J
Cancer 37 : 198-203, 2001.
8)Chao KS, Perez CA. Penis and male urethra. In : Principles and Practice of
Radiation Oncology. Perez CA, Brady LW, eds, 3rd edition, Philadelphia,
Lippincott-Raven Publishers, 1998. p1717-1732.
9)McLean M, Akl AM, Warde P, et al. The results of primary radiation therapy in
the management of squamous cell carcinoma of the penis. Int J Radiat Oncol Biol
Phys 25 : 623-628, 1993.
(京都大学医学部放射線腫瘍学・画像応用治療学 溝脇尚志)
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