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河川管理レポートの作成について

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河川管理レポートの作成について
河川管理レポートの作成について
加藤
関東地方整備局
江戸川河川事務所
信一・人見
管理課
寿
(〒278-0005 千葉県野田市宮﨑134)
近年、河川構造物が老朽化する中で、維持・管理の重要性が増してきている。河川の維持管
理業務を円滑に行っていくためには、一般市民に業務内容を知ってもらう必要がある。
江戸川河川事務所では、①読みやすく②細やかに③続けていくという3つのコンセプトのも
と、河川管理レポートをパンプレット(E-naだより)や広報パネルの形で発行した。この河川管
理レポートをよりよいものにしていくために、資料配付後読者に向けてアンケートを実施した。
このアンケート結果を整理することにより様々な傾向がわかり、より読みやすい内容のものに
するための改善案を検討した。
キーワード 河川維持管理、河川管理レポート、アンケート
1. 背景と目的
20年後に設置後40年を超える施設数
高度経済成長期以後、多くの河川管理施設が建設され
てきた。これらの施設は今後急速に老朽化することが予
想され、図1の全国の河川管理施設の推移を示したグラ
フで示されるように、10年後には、設置後40年経過
する施設が全体の約6割になり、20年後には、約8割
になる。そのため今後は、これらの造られてきた構造物
の維持・管理がさらに重要になってくると考えられる。
河川構造物は災害時などに能力を発揮するものが多い
ため、国民の安全を守っていくために構造物の機能を維
持していくことは極めて重要であるが、実際のメンテナ
ンスなど維持管理業務についての認知度や関心は低い。
そこで、一般的には見えにくい日々の維持管理の実績
を、地域住民等に「見える化」することで、河川維持管
理に対する理解を得ることを目的に河川管理レポートを
作成した。
また、平成24年度から河川管理レポートの作成は、
全国的に取り組まれているが、既存のレポートは、項目
が多岐にわたるため資料の量が概ね30頁以上となり、
一般市民に簡易に配布したり手に取ってもらうには、資
料の量が多く、なかなか気軽に読めるようなものではな
かった。このため、当事務所としては、地域住民の方に
まずはレポートを手にとって頂くことを大前提として作
成することとした。
2. 河川管理レポートの作成
10年後に設置後40年を超える施設数
図1 全国の河川管理施設の推移
(1)作成の流れ
図2のフローチャートで示すように、河川管理レポー
トを作成するにあたり、作成方針決定時やレポート案作
成時、次年度作成に向けた検討などの節目で所内の各部
署が参加し、いろいろな意見が聞けるような場として河
川保全推進PT会議を開催した。会議では、広く意見を
聴取することができ、極めて有効であった。
また、河川管理レポートを次年度以降よりよいものに
改善していくために、レポート公表後に事務所HPとW
ebでレポートの内容についてのアンケートを実施した。
アンケートの集計結果から読者が知りたい情報や説明が
読者に伝わりやすい効果的な方法を検討し、次年度以降
のレポート作成方針を決定した。
河川管理レポートの作成方針について
(第1回河川保全推進PT会議)
レポート案の所内回覧
河川管理レポート公表案について
(第2回河川保全推進PT会議)
河川管理レポートの公表(E-naだより)
管理レポートに対するアンケート実施
アンケート結果整理について
次年度の河川管理レポート作成方針について
(第3回河川保全推進PT会議)
図3 パネル形式(一般向け)A-1サイズ
図2 河川管理レポート作成の流れ
(2) 作成方針
以下に示す①、②、③の3点を作成方針とし、レポー
トを作成した。
① 読みやすく
河川管理レポートを公表するにあたっては、事務所、
出張所、イベント、河川愛護モニターの活用、自治体の
回覧版、事務所ホームページ等、様々な広報の場が考え
られる。そのため、これら複数の広報の場に応じて、事
務所全体のものとして公表するパンフレット形式と資料
館やイベントで活用可能なパネル形式(A-1サイズ)を
作成した。パネル形式では、子供が多く来場するイベン
トなどに対応するため、図3、図4のような一般向けと
子供向けの2種類に分け作成し公表した。子供向けのパ
ネルは、一般向けに比べ文章量を少なく、絵を多くし、
うさちゃんとかーくんというキャラクターが会話をしな
がら、説明していく内容になっている。
また、パンフレットの名称は、親しみを持ってもらい
やすいものとして、以前、江戸川河川事務所の広報誌と
して使用されていた『E-naだより』とし、継続的に発行
されていく予定の『E-naだより』の一部として位置付け、
副題として~河川管理レポート~を付けるものとなった。
パンフレット形式の河川管理レポートでは、簡潔で読
みやすいものにするため、A-4冊子12ページ程度で
の作成を予定した。そこで、ページ数を減らすために、
重点的に示すテーマを定め、なぜその河川維持管理行為
が必要なのかをイラスト等を用いて説明した。また、グ
ラフや地図、写真により視覚的に分かりやすく示し、項
目に応じたトピックを盛り込むことで、閲覧者の関心を
引くような作成の工夫をした。
図4パネル形式(子供向け)A-1サイズ
② 細やかに
年に一度とりまとめを作成するだけではなく、日頃の
維持管理を小まめに広報する細やかさを重視した。
③ 続けていく
継続して作成するため、将来的には職員による更新が
できるようなシンプルなシステムを検討。
また、出張所の出張所だより発行の労力を減らせるよ
う出張所だより作成に使うデータを整理し、提供した。
(3) 作成のポイント
取り扱うテーマとして、実施にかかる労力が比較的大
きく、維持管理の実績が数値として示しやすい以下に示
す4つを選定した。
(a)洪水に備えた堤防の安全性確保のための取り組み
(堤防点検)
(b)水門、樋門、排水機場などの施設の維持管理の取り
組み(施設点検)
(c)河川を安全に利用するための取り組み
(d)河川の状態を把握するための日々の取り組み
図5 導入の項目
③
①
②
④
図6 堤防点検の項目
また、パンフレットの1~2頁目には、「みんなの安
全・安心を守るために、河川を維持するため、様々な取
組みを行っています。」と題した図5のような項目を用
意し、導入部分を取り入れた。
また、4つのテーマの構成は同じものとし、読者が興
味を持ちやすく、説明内容をイメージしやすいように工
夫した点を図6「堤防点検」を例に説明する。
図6の該当箇所に各工夫点の数字①~④を書き入れる。
① 堤防点検の必要性について、「なぜ?」と問いかける
形で説明し、読者に興味を持ってもらう。
② 堤防点検の実施結果について、変状箇所等を写真を
用いてわかりやすく説明する。
③ 堤防点検の実施箇所について、点検区間をイラスト
を用い分かりやすく説明する。
④ トピックを掲載し、上記以外の詳しい説明や新しい
情報を盛り込む。
また作成後、技術系だけではなく業務内容に詳しくな
い事務系の職員にも読んでもらい意見を反映した。
3.アンケートの実施と集計結果
公表した『E-naだより ~2013年度 河川管理レポー
ト~』に対する住民の意見を収集し、次年度以降のレポ
ート作成に役立てるため、アンケートを実施した。アン
ケートはWeb方式を基本とし、主に事務所HPにおけ
る回答収集と、Webアンケートモニターを活用した回
答収集の2種類で実施するものとした。
表1 Webでアンケートの実施内容
設問の目的
設問内容
回答方法
掲載した各テ
ーマの分かり
やすさに対す
る意見収集
『洪水に備えた堤防の安全性確保
のための取り組み』について、分
かりやすさはいかがでしょうか?
また、その理由についても教えて
なお、Webアンケートモニターを活用したアンケー
トでは、対象を沿川の16市区町の在住者とした。また、
沿川住民の年齢階層は幅広く分布しているが、Webア
ンケートモニターは20代~40代までが多いことに留
意し、各年代で最低40サンプル(全体の10%)程度
以上を確保できるように、年齢別回答者数に制限を設け
て実施するものとした。
河川管理レポートの掲載内容へのアンケート実施項目
を表1に示す。
(1) アンケート回答者の属性
アンケート結果として、事務所HP、Webアンケー
トモニター、手書き回答により497人から回答を得た。
回答者の属性としては、幅広い年齢層から回答を得てい
るが、40歳~60歳の回答がやや多く、男女比では男
性の比率が高かった。日頃の河川の利用頻度としては、
利用しない人がWeb回答で61%、事務所HP・手書
き回答では24%となっており、事務所HP・手書き回
答の方が利用者の比率が高かった。
(2) 分かりやすさについて
アンケート結果を整理すると、テーマ別の分かりやす
さでは、項目による大きな違いはなかった。図7に示す
堤防点検を例に、河川の利用頻度別に各項目の分かりや
すさを比べると、日頃河川を利用する人からは、今回の
河川管理レポートは約8割に対して分かりやすいとの回
答を得られた。
洪水に備えた堤防の
安全性確保の取り組み
下さい
『水門、樋門、排水機などの施設
選択回答
の維持管理の取り組み』につい
①非常に分かり
て、分かりやすさはいかがでしょ
やすい
うか。また、その理由についても
②分かりやすい
教えて下さい。
③わかりにくい
『河川を安全に利用するための取
④非常にわかり
り組み』について、分かりやすさ
にくい
利
用
し
な
い
分かり
にくい
63
22%
非常に 非常に
分かり 分かり
にくい やすい
27
20
9%
7%
分かり
やすい
183
62%
はいかがでしょうか。また、その
理由についても教えて下さい。
理由についても
『河川の状態を把握するための
自由記入
りやすさはいかがでしょうか。ま
た、その理由についても教えて下
さい。
各項目のう
ち、関心の高
い項目の把握
掲載内容で、特に関心のあった項
次年度以降に
取り上げるテ
ーマについて
の要望の把握
今後、江戸川、中川、綾瀬川に関
その他、意
見・要望等の
把握
その他、お気づきの点等ありまし
目があれば教えて下さい。
選択回答
各項目の中か
ら、チェック方
河川の利用頻度
日々の取り組み』について、分か
分かり
にくい
5
14%
週
に
1
回
以
上
非常に
分かり
やすい
10
28%
分かり
やすい
21
58%
式で選択
自由記入
する情報として、取り上げてほし
分かり
にくい
1
8%
いものがあれば教えて下さい。
たら教えて下さい。
自由記入
ほ
ぼ
毎
日
非常に
分かり
やすい
2
15%
分かり
やすい
10
77%
図7 利用頻度別の各項目の分かりやすさ(堤防点検)
理由
洪水に備えた堤防の
安全性確保
一方、河川を利用しない人についても、約7割に対し
て分かりやすいとの回答を得られた。
全体を通して、「非常に分かりやすい」が1割、「分
かりやすい」が6割以上で、概ね75%の回答者から分
かりやすいという回答が得られ、今回のレポートは利用
する人にとっても、利用しない人にとっても分かりやす
い内容であったと考えられる。
なお、全体を通して「非常にわかりにくい」と回答して
いる人のほとんどは河川を「利用しない」人であり、河
川の利用者で「非常にわかりにくい」と回答しているの
は1~2人であった。
洪水に備えた堤防の
安全性確保
水門、排水機場などの
施設の維持管理
河川
利用
あり
河川
利用
あり
河川
利用
なし
合計
河川
利用
なし
河川の
安全利用
河川
利用
あり
合計
河川
利用
なし
河川の状態
の把握
河川
利用
あり
合計
河川
利用
なし
合計
説明不足、具体
性に乏しい
6
3
9
5
3
8
7
4
11
6
6
12
文章表現、用語
が分かりづらい
1
2
3
4
7
11
2
2
4
0
3
3
文章量が多い
1
3
4
0
2
2
0
2
2
0
2
2
地図・写真が分
かりにくい
0
1
1
0
2
2
0
2
2
0
0
0
見づらい、分かり
づらい
1
7
8
1
9
10
1
6
7
1
7
8
興味がない、関
わりがない
0
7
7
3
7
10
0
6
6
1
7
8
(3) 関心の高い項目の把握
24
57
81
21
62
理由なし
16
58
74
23
60
83
図8より、全体の中で最初の導入部(図5)の関心が一
番高いことがわかった。この結果より閲覧者は、最初の
17
4
9
13
6
9
15
8
11
その他
8
9
頁には関心を持ちやすい傾向があると考えられる。
また、4つのテーマでの関心の高さの差はあまりなく、
33
90
123
40
99
139
40
88
128
37
98
各テーマとも「なぜ・何を実施するのか?」という項目の 合計
関心が高かった。この結果より、結果を示す内容よりも、
図10 「分かりにくい」・「非常に分か
疑問形で示す内容の方が、閲覧者の関心を得やすいとい
りにくい」と回答した理由
う傾向があると考えられる。
(4)『わかりにくい』と回答した理由
また、図9で示すとおり、関心の高い項目を選んだ理
河川管理レポートの内容が分かりにくいと回答した理
由としては、それまでに知ることのなかった情報であっ
由としては、説明や具体性の不足、文章や用語の表現、
たこと、また、それを理解できたことが理由として多く
文章量の多さ、地図・写真の見づらさがあげられている。
挙げられた。この結果より、新しい情報を求めている
人が多いと考えられる。
図10は「分かりにくい」・「非常に分かりにくい」
と回答した理由のアンケート結果だが、このアンケート
結果より、河川利用がある人は、赤枠のように説明や具
関心のあった項目
体性の不足を感じている人が多い傾向にあり、河川を利
みんなの安全・安心を守るために、河川を維持するため、
44.4%
用しない人にとっては青枠のように文章量が多いと感じ
様々な取組みを行っています。
る人が多い傾向が示された。この結果より、今回のレポ
なぜ堤防点検を実施するの?
25.2%
ートの情報量としては、河川を利用する人、しない人が
求める情報量の中間くらいであったと考えられる。
平成25年度の実施状況
17.8%
16.0%
堤防点検実施箇所
(5)今後取り上げてほしい情報
今後取り上げてほしい主なものとしては、図11に示
すように防災、イベント等、水質、自然環境、不法投棄
等があげられた。
また、工事・施設整備に関しては、従来から事業概要
や出張所だよりで取り扱っている内容である。防災、イ
ベント、水質、自然環境・生態系、文化・歴史は維持管
理に関するメインテーマとはなりにくいが、住民の関心
が高い項目として留意すべき項目である。
12.5%
(トピック)水上から河岸も点検しています!
図8 関心のあった項目(堤防点検)
145
知る機会がないから・新しい情報だから
76
維持管理や取り組みの内容が理解できた
災害や安全への関心が高い
43
河川への関心が高い・身近だから
41
見た目がよい・分かりやすい
12
河川環境への関心が高いから
11
0
50
100
回答数
図9 関心の高い項目を選んだ理由
150
200
文化・歴史
6
4%
工事・
その他
施設整備
19
6
12%
4%
不法投棄・
河川美化
7
自然環境・
4%
生態系
21
水質
13%
25
16%
防災
44
28%
イベント・
レジャー・
スポーツ・
親水
30
19%
図11 今後追加して欲しい情報の内訳
83
19
135
4.まとめと今後の方針
アンケート結果より、公表した『河川管理レポート
2013』は、河川を利用する人、しない人両者にとって、
概ね「分かりやすい」という回答を得ており、文章や写
真・イラスト・図等による工夫により住民の理解を得や
すい内容になっていると判断できる。そのため、次年度
のレポートの資料構成自体は基本的に変更しないものと
して良いと考えられる。
ただし、「分かりにくい」という回答については、内
容の具体性や、文章や用語の分かりやすさの不足が問題
としてあげられていることから、より分かりやすい表現
の工夫や、用語解説の方法について改善する必要がある。
また、河川を利用しない人の中には、文章量が多いと感
じる人がおり、一方で、河川を利用する人の中には説明
の詳しさを求める人もいる。今回は概ね75%の回答者
から分かりやすいとの回答を得たため、両者にとって分
かりやすいレポートになったと判断したが、よりニーズ
に応えるためには、対象者によって、河川管理レポート
の内容を分けることも考える必要がある。
以上より、次年度以降表現の訂正やデータの更新など
を行っていくが、今後の河川管理レポート作成の大きな
方針として、以下の3点を挙げる。
①読む人は最初の頁に関心を持ちやすいと考えられるた
め、イメージしやすい内容や、疑問形で問いかけるよう
な見出しにする等により、1~2頁目の導入部分の作り
方を工夫する。
②関心の高い項目を選んだ理由としては、それまでに知
ることのなかった情報であったこと、またそれを理解で
きたことが挙げられた。そのため次年度以降、維持管理
業務に係わる新しい情報を盛り込んで行く。
③アンケート結果によって、河川を利用する人、しない
人両方にとって今回のレポートはわかりやすいものにな
ったと考えられるため、資料構成自体は基本的に変更し
ないものとする。
2013年河川管理レポートでアンケートを行った結果
をもとに、今年3月末に発行した「平成26年度河川管
理レポート」は一部改良してすでに発行済みである。前
年度からの修正例を図12に示す。
最後に、以下のURLに作成された河川管理レポートが
掲載されているため、興味のある方は、ご覧になって頂
きたい。
http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/edogawa00691.html
2013年発行版
イラスト・用語説明を追加
2014年発行版
図12 河川管理レポートの改善例
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