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フランジ締結用ガスケットの熱物性に関する研究

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フランジ締結用ガスケットの熱物性に関する研究
技術時報
2007年 1号 NO. 349
〈技術レポート〉
フランジ締結用ガスケットの熱物性に関する研究
浜松研究所 研究部門 熱音チーム チームリーダー 大 村 高 弘
研究員 入 村 純 一
シール材事業部 パッキンガスケットチーム リーダー 花 島 完 治
広島大学 大学院 教授 沢 俊 行
かれた場合の基礎研究として,定常・非定常温度
1.要 旨
場における,鋼製ボルトにより締結されたアルミ
ボルトフランジ締結用ガスケットとして一般的
ニウム合金製の中空円筒および長方形厚板締結体
に使用されている当社のジョイントシート
のボルト軸力変動およびボルト最大応力につい
T/#1995,T/#1120,T/#1100 の熱物性,特に熱
て,理論・実験の両面より検討している。しかし
伝導率,比熱,線膨張率等について報告する。中
ながら,これらの研究においても,ガスケットの
でも,熱流計法により測定された熱伝導率につい
熱特性が十分知られていなかったため,温度変動
ては,ガスケットの厚さとその内部構造の関係か
下における締結体の熱特性,例えば温度と熱伝導
ら,熱伝導率の挙動を熱の等価回路を使って説明
率の関係や,締付け力すなわちかさ密度と熱伝導
し,さらに熱伝導率とかさ密度の関係式を,熱の
率の関係等をいかに決定するかという問題が残っ
固体,ふく射,気体による伝播に基づいて提案し
たままである。このように,締結体特性の把握の
た。また,ガスケットの線膨張率が 150 ℃以下で
ために必要不可欠なガスケットの熱物性をより正
大きく変化することや,昇温速度,ガスケットに
確に測定することは,非常に重要な課題であるこ
作用する荷重に依存していることを示した。
とがわかる。
本研究では,ガスケットの熱特性,特に熱伝導
2.緒 言
率,比熱,線膨張率など,代表的な特性について
高温下におけるボルトフランジ締結体を設計す
測定し,その結果を解析した。試験対象としては,
る場合,ガスケットの接触応力分布,温度変化に
締結体に一般的に使用されている当社のジョイン
より生じるフランジハブ応力,内力係数(外部か
トシートガスケット(以下ガスケットと記す)
らの荷重に対するボルト軸力増加分との比)等が
T/#1995,T/#1120,T/#1100 を選んだ。それら
重要となってくる。しかしながら,熱負荷作用状
の熱伝導率測定については,熱流計法による測定
態でのボルトフランジ締結体の特性については十
装置を使って,25 ∼ 85 ℃の温度範囲において実
分な研究がなされておらず,早急な検討が望まれ
施した。さらに,熱伝導率測定装置内の試料を保
ている。これまでのところ,温度変化に対する締
持する部分において,その圧力を変化させること
結体の特性についてはいくつかの研究例が報告さ
で厚さ,すなわちかさ密度を変えて熱伝導率を測
れており,例えば,沢ら 1)は,温度上昇下で内圧
定した。その結果を用いて,熱伝導率の温度とか
作用状態における管フランジ締結体の熱応力分布
さ密度に対する依存性を検討し,固体,ふく射,
を,ガスケットの応力−ひずみ曲線のヒステリシ
気体による熱伝導に基づいて,温度とかさ密度を
スを考慮し,弾性理論と有限要素法を使って解析
パラメータに持つ近似式を提案した。また,比熱
2)
している。熊野ら は,締結体が熱的条件下に置
と線膨張率についても測定し,特に,線膨張率に
─ ─
1
ニチアス技術時報 2007 No. 1
ついては 150 ℃以下において大きく変化し,昇温
ここで, q e, q r ef , q s は,それぞれ空の容器,標
速度やガスケットに加えられる荷重にも大きく依
準試料,未知試料の DSC 出力,すなわち流入出
存することが分かった。
熱量であり,mref ,m は,それぞれ標準試料およ
び未知試料の質量,cref(T)は標準試料の比熱で
3.測定方法
3.1
ある 3)。
熱伝導率
本研究では,理学電機(株)製の DSC(Ther-
ガスケットの熱伝導率測定は,熱流計法に基づ
mo Plus 2)を使用して比熱を測定した。その際,
く測定装置(英弘精機(株)HC-110)により行っ
標準試料として,米国標準技術研究所(NIST ;
た。熱流計法とは,熱が試料を一次元方向に伝播
the National Institute of Standard and Technolo-
するとしてフーリエの式
gy)のα-Al 2O 3(SRM 720 Synthetic Sapphire)
dT
Q =−λ d x ………………………………………(1)
を使用した 4)。ただし,NIST が提示している比
熱は,0 ℃を基準とした比エンタルピーを使って
に基づいて測定する方法であり,ここで,Q は試
得られた値であるため,まず,NIST が推奨して
料を通過する熱流[W/m2],λは熱伝導率[W/
いるα-Al 2O 3 の比熱の近似式を使って,25 ℃を基
(m・K)],dT/dx は試料の熱流方向に対する温度
準とする各温度における比エンタルピーを再計算
勾配[K/m]である。本装置では,試料を挟む熱
した。次に,所望の温度における再計算された比
板に設置された熱流計により熱流 Q を測定し,熱
エンタルピーを,その温度と基準温度 25 ℃との
電対を使って温度勾配 dT/dx を測定し,これらの
温度差で割り算することで,標準試料の正確な比
値を式(1)に代入することで熱伝導率λを得た。
熱を求め,その値を使って DSC により未知試料
3.2
の比熱を決定した。
TG-DTA
熱重量測定(thermogravimetry, TG)とは,
3.4
線膨張率
試料を加熱,冷却,あるいは一定温度等に保持さ
線膨張率は,その材料が温度とともに膨張する
せながら,その重量変化を温度あるいは時間の関
比率を表す係数であり,ここでは,室温 20 ℃を
数として測定する技法である。一方,試料の転移
基準として膨張する比率を線膨張率とした。測定
や融解,反応等の吸発熱が生じる温度を測定する
には,理学電機(株)製の TMA(Thermome-
のが DTA(Differential thermal analysis)であ
chanical analysis ; Thermo Plus 2)を使用した。
り,本研究では,TG と DTA が同時測定可能な理
TMA は,線膨張率が既知である標準試料に対す
学電機(株)製の TG-DTA(Thermo Plus 2)を
る相対的な膨張量を時間あるいは温度の関数とし
使用した。
て測定する装置であり,試料の長さを室温下でマ
3.3
イクロメーターを使って測定し,それを基準長さ
比 熱
比熱は DSC(Differential scanning calorimetry)
を使って測定した。DSC による比熱測定では,未
知試料の比熱を,比熱が既知である標準試料と熱
として連続昇温下における線膨張率を測定した。
4.試料と測定条件
測定対象となった試料は,当社の代表的なガ
量比較することで知ることができる。実際の測定
では,試料を詰めるアルミニウム製の容器の熱容
量も含まれてしまうため,空の容器,標準試料,
未知試料の 3 者を同じ条件で測定し,容器の熱容
表 1 使用したガスケット
ガスケット かさ密度[kg/m3] 厚さ[mm]
構成繊維
T/#1995
1,800 ∼ 2,060
1.5 or 3.0
アラミド
(ノンアスベスト)
により得られる。
T/#1120
1,350 ∼ 1,530
1.5 or 3.0
アラミド
(ノンアスベスト)
m ref q s q e
(
c T)
=c ref(T)m q ref− q e ………………………(2)
−
T/#1100
1,760 ∼ 1,930
1.5 or 3.0
アスベスト
量を差し引いて計算することになる。
試料の絶対温度 T に対する比熱 c(T)は,次式
─ ─
2
ニチアス技術時報 2007 No. 1
スケットである T/#1995,T/#1120,T/#1100
であり,表 1 に,それらの測定時におけるかさ密
度と厚さ,および主たる構成繊維を示す。ここで,
かさ密度に範囲があるのは,かさ密度と熱伝導
試料
率の関係を調べるためである。その他の熱物性測
定では,厚さ 1.5mm と 3.0mm の二種類について
行った。
4.1
熱伝導率測定
各ガスケットについて,厚さ方向と面内方向の
二種類の熱伝導率を 25 ∼ 85 ℃の温度範囲で測定
した。厚さ方向の測定では,1.5mm と 3.0mm の 2
写真 2 ガスケット(試料)が TMA にセットされた様子
種類の厚さについて実施し,また,装置に内蔵さ
れている試料ホルダーのクランプ圧力を変えるこ
さは 1.5mm であり,標準試料の重量は,19.9mg,
とでかさ密度を調節し,かさ密度と熱伝導率の関
昇温速度 10K/min,測定温度範囲は 25 ∼ 200 ℃で
係を調査した。写真 1(a)に使用したガスケッ
ある。
トの写真を示す。ガスケットの直径は約 50mm で
4.4
線膨張率測定
写真 2 に示すように,試料を標準試料と同じ材
ある。
一方,面内方向の測定では,まず,ガスケット
質の棒の上に載せ,並置されている標準試料とほ
を適当な幅(ここでは約 7.5mm)の短冊状に多数
ぼ同じ高さになるようにして測定した。これは,
切り出し,それらを 90 °回転させて貼り合わせて
試料が非常に薄いため,通常の設置では測定でき
試料とした。貼り合わせには接着剤を使用せず,
ないためである。標準試料としては,高さ約
写真 1(b)に示すように,針金で固定した。試
19mm のアルミナ(Al2O3)の棒状試料を用いた。
料の外径は,いびつではあるが約 50mm である。
測定条件としては,試料に 2g の荷重をかけて昇
4.2
TG-DTA 測定
温速度 5,10,15,20K/min の 4 種類で,それぞ
TG-DTA 測定では,アルミニウム製の容器を
れ200℃まで加熱する場合と,昇温速度を10K/min
使い,10 ∼ 20mg の試料を昇温速度 10K/min で加
に固定し,試料に 2,5,10,40g の荷重をかけて
熱した。
同じく 200 ℃まで加熱する場合を実施した。
4.3
比熱測定
比熱測定では,アルミニウム製の容器の中に 40
∼ 80mg 程度の試料を入れて測定した。試料の厚
5.測定結果
5.1
熱伝導率
図 1 ∼ 3 に,ガスケット T/#1995,T/#1120,
T/#1100 の温度θに対する厚さ方向の熱伝導率λ
を示す。ここで,白抜きは厚さ 1.5mm のガスケ
ットの熱伝導率,黒と×印は厚さ 3.0mm の熱伝
導率である。
図 1 はガスケット T/#1995 の熱伝導率を示して
t
いるが,記号○,△,□が,厚さ 1.5mm でかさ
3
密度 1802,1986,2061kg/m の熱伝導率をそれぞ
れ表しており,また,☆,▽,◇は,同厚さのか
(a)厚さ方向測定用のガス
ケット(表皿側の写真)
(b)面内方向測定用の
ガスケット
写真 1 熱伝導率測定用のガスケット写真
さ密度 1854,1989,1817kg/m3 の熱伝導率をそれ
ぞれ表している。さらに,●,▲,■は,厚さ
t
3.0mm でかさ密度 1800,1849,1862kg/m 3 の熱
─ ─
3
ニチアス技術時報 2007 No. 1
0.25
0.4
λ
[W/(m・K)]
λ
[W/(m・K)]
0.3
0.2
0.20
0.15
0.1
0.10
0
0
0
20
40
60
80
100
20
40
60
80
100
θ
[℃]
θ
[℃]
図 3 T/#1100 の厚さ方向における熱伝導率
(白抜き印は厚さ 1.5mm のガスケット,
黒と×印は 3.0mm 厚さのガスケット)
図 1 T/#1995 の厚さ方向における熱伝導率
(白抜き印は厚さ 1.5mm のガスケット,
黒と×印は 3.0mm 厚さのガスケット)
1.0
0.6
λ
[W/(m・K)]
λ
[W/(m・K)]
0.8
0.4
0.6
0.4
0.2
0.2
0
0
20
40
60
80
0
0
100
20
θ
[℃]
40
60
80
100
θ
[℃]
図 2 T/#1120 の厚さ方向における熱伝導率
(白抜き印は厚さ 1.5mm のガスケット,
黒と×印は 3.0mm 厚さのガスケット)
図 4 ガスケットの面内方向における熱伝導率
(白抜き印は厚さ 1.5mm のガスケット,
黒と×印は 3.0mm 厚さのガスケット)
伝導率をそれぞれ表しており,また,×,▼,◆は,
1764,1876,1906kg/m3 の熱伝導率をそれぞれ表
同厚さのかさ密度 1741,1829,1860kg/m3 の熱伝
しており,また,☆,▽,◇は,同厚さのかさ密
導率をそれぞれ表している。
度 1781,1870,1931kg/m3 の熱伝導率をそれぞれ
同様に,図 2 ではガスケット T/#1120 の熱伝導
表している。さらに,●,▲,■は,厚さ
率が示されているが,○,△,□が,厚さ 1.5mm
t
3.0mm でかさ密度 1783,1857,1889kg/m 3 の熱
でかさ密度 1357,1449,1527kg/m3 の熱伝導率を
伝導率をそれぞれ表しており,また,×,▼,◆
それぞれ表しており,また,☆,▽,◇は,同厚
は,同厚さのかさ密度 1772,1846,1895kg/m3 の
さのかさ密度 1397,1495,1578kg/m3 の熱伝導率
熱伝導率をそれぞれ表している。
t
図 4 に,ガスケットの面内方向における熱伝導
をそれぞれ表している。さらに,●,▲,■は,
t
3
厚さ 3.0mm でかさ密度 1356,1414,1438kg/m の
熱伝導率をそれぞれ表しており,また,×,▼,
◆は,同厚さのかさ密度 1358,1404,1453kg/m
3
t
率を示す。○,□,◇が,厚さ 1.5mm の T/#1995
3
3
(1758kg/m ),T/#1120(1374kg/m ),T/#1100
(1759kg/m3)の熱伝導率をそれぞれ表しており,
t
また,●,■,◆は,厚さ 3.0mm の T/#1995
の熱伝導率をそれぞれ表している。
図 3 はガスケット T/#1100 の熱伝導率を示して
t
いるが,○,△,□が,厚さ 1.5mm でかさ密度
(1717kg/m3),T/#1120(1437kg/m3),T/#1100
(1673kg/m3)の熱伝導率をそれぞれ表している。
─ ─
4
ニチアス技術時報 2007 No. 1
0
c[J/(kg ・K)]
TG[%]
1,000
−5
T/#1995
T/#1120
T/#1100
500
−10
T/#1995
T/#1120
T/#1100
0
100
200
300
400
0
0
500
50
100
θ
[℃]
θ
[℃]
図 5 ガスケットの熱重量(TG)測定
150
200
図 7 ガスケット(厚さ 1.5mm)の比熱
×10 −5
200
10 K/min
8
T/#1995
T/#1100
β[1/K]
DTA[μV]
T/#1120
100
6
4
T/#1995
T/#1995
T/#1120
T/#1120
T/#1100
T/#1100
0
2
−100
0
100
200
300
θ
[℃]
400
0
500
図 6 ガスケットの示差熱分析(DTA)
5.2
0
50
100
150
θ
[℃]
No.
No.
No.
No.
No.
No.
1
2
1
2
1
2
200
250
図 8 ガスケット(厚さ 1.5mm)の線膨張率
(昇温速度 10K/min,TMA 荷重 2g)
×10 −5
TG-DTA
10 K/min
図 5 と図 6 に,ガスケットの TG および DTA の
10
β[1/K]
結果を示す。両図とも,実線,破線,一点鎖線が,
T/#1995,T/#1120,T/#1100 の結果をそれぞれ
表している。
5.3
比 熱
5
T/#1995
T/#1120
T/#1100
図 7 に,温度θに対する厚さ 1.5mm のガスケッ
トの比熱 c を示す。ここで,記号○,△,□は,
0
それぞれ T/#1995,T/#1120,T/#1100 の比熱を
5.4
0
50
100
150
200
250
θ
[℃]
表している。
線膨張率
図 9 ガスケット(厚さ 3.0mm)の線膨張率
(昇温速度 10K/min,TMA 荷重 2g)
図 8 と図 9 に,温度θに対する厚さ 1.5mm と
3.0mm のガスケットの線膨張率を示す。ここで,
両測定とも,昇温速度 10K/min,TMA 荷重 2g の
で,△と▲が T/#1120 の試料 No.1 と No.2,□と
条件である。
■が T/#1100 の試料 No.1 と No.2 である。
t
t
また,図 9 では,○が,3.0mm の T/#1995 の
図 8 では,記号○と●が,それぞれ 1.5mm の
T/#1995 の試料 No.1 と No.2 であり,同様の厚さ
線膨張率であり,同様の厚さで,△が T/#1120,
─ ─
5
ニチアス技術時報 2007 No. 1
□が T/#1100 の線膨張率である。
それぞれ昇温速度 5,10(No.1),10(No.2),15,
t
一方,図 10 は,1.5mm の T/#1995 に対して昇
20K/min の場合の測定結果である。
t
温速度を 5,10,15,20K/min にして測定した場
図 11 は,1.5mm の T/#1995 に対して試料にか
合の線膨張率を示している。試料にかかる荷重は
かる荷重を 2,5,10,40g にして測定した場合の
2g である。ここで,記号○,△,▲,□,◇は,
線膨張率を示している。昇温速度は 10K/min で
ある。ここで,記号○,△,□,■,◇は,それ
ぞれ荷重 2,5,10(No.1),10(No.2),40g の場
×10 −5
合の測定結果である。
10
β[1/K]
6.考 察
6.1
5
0
0
50
100
150
200
熱伝導率
図 1 ∼ 3 より,ガスケットの厚さ方向における
5K/min
10K/min No.1
10K/min No.2
15K/min
20K/min
熱伝導率には,厚さ依存性があることがわかる。
その原因は,ガスケットが,それぞれ熱伝導率の
250
θ
[℃]
違う 3 層構造(表皿−中材−裏皿)になっている
ためと考えられる。図 12(a)にガスケットの 3 層
構造モデルを示す。このようなモデルの場合,ガ
図 10 T/#1995 の線膨張率の昇温速度依存性
(TMA 荷重 2g)
スケットの熱抵抗は,図 12(b)に示すような熱
の等価回路モデルで表わされる。すなわち,ガス
×10 −5
10
β[1/K]
ケットの熱抵抗 R は,
2g
5g
10g No.1
10g No.2
40g
10K/min
R=R r+R m+R b …………………………………(3)
となり,ここで,Rr は表皿の熱抵抗,Rm および Rb
はそれぞれ中材,裏皿の熱抵抗である。熱抵抗は
5
試料の厚さに比例し,熱伝導率に反比例するから,
それぞれの熱抵抗は,
0
0
dr
dm
db
d
R=λ ,R r=λr ,R m=λm ,R b=λb ……………(4)
50
100
150
200
250
と表される。ここで,d とλは試料の厚さと熱伝
θ
[℃]
図 11 T/#1995 の線膨張率の TMA 荷重依存性
(昇温速度 10K/min)
導率,d r と λ r は表皿の厚さとその熱伝導率,d m
とλ m は中材の厚さとその熱伝導率,db とλ b は裏
皿の厚さとその熱伝導率であり,さらに,
表皿
表皿 Rr
d=d r+d m+d b ……………………………………(5)
である。
中材
中材 Rm
裏皿
裏皿 Rb
式(3)∼(5)より,ガスケットの熱伝導率は,
dr
db
d m +1+ d m
λ=
1 dr 1
1 d b …………………………(6)
+
+
λr d m λm λb d m
となる。式(6)より,中材の厚さ dm が厚くなれ
(a) ガスケット断面図 (b) 等価回路モデル
ばなるほど,ガスケットの熱伝導率λは中材の熱
図 12 ガスケットの模式図と熱の等価回路モデル
伝導率 λ m に近づいてくることがわかる。通常,
─ ─
6
ニチアス技術時報 2007 No. 1
ガスケットの厚さが厚くなるということは,中材
のみが厚くなることを意味しており,3 層全ての
い。したがって,熱伝導率λは試料の厚さ d,す
なわち中材の厚さ dm に依存することになり,厚く
なることで中材の熱伝導率λ m に近づいていくこ
λ
[W/(m・K)]
厚さが比率を変えずに均等に厚くなるわけではな
,
,
,
,
0.25
T/#1120
0.20
,
,
,
,
:
:
:
:
25 ℃
45 ℃
65 ℃
85 ℃
T/#1100
0.15
t
とになる。そのため,今回のように 1.5mm の試
t
料の熱伝導率と 3.0mm のそれに大きな差が生じ
T/#1995
0.10
たものと考えられる。また,今回の結果が,
t
1,400
t
1.5mm の試料の熱伝導率に対して 3.0mm のそれ
の方が大きいことを示していることから,中材の
熱伝導率λ m の方が表皿,裏皿の熱伝導率λ r ,λ b
1,600
1,800
2,000
ρ[kg/m3]
図 13 ガスケット(厚さ 1.5mm)の熱伝導率測定結果と
式(7)による推定結果の比較
よりも大きいことが予想される。
0.7
方向のそれと比較して約 3 倍大きいことがわか
0.6
る。その理由は,ガスケットに含まれる繊維が配
向構造を作っているためと考えられる。配向構造
を持つと,面内方向を流れる熱は繊維中を伝播す
るため,熱抵抗が非常に小さくなるが,厚さ方向
λ
[W/(m・K)]
一方,面内方向の熱伝導率は,図 4 より,厚さ
へは繊維同士の接触部分が大きな熱抵抗となるた
0.5
:
:
:
:
25 ℃
45 ℃
65 ℃
85 ℃
0.4
T/#1995
0.3
T/#1100
0.1
が生じてしまうことになる。それが,今回の結果
の原因になったと考えられる。ただし,約 3 倍の
も参考値である。というのは,写真 1(b)にも
,
,
,
,
0.2
め伝播しにくくなり,両者の熱伝導率に大きな差
差というのはかなり大雑把な値であり,あくまで
,
,
,
,
T/#1120
1,400
1,600
1,800
ρ[kg/m3]
図 14 ガスケット(厚さ 3.0mm)の熱伝導率測定結果と
式(7)による推定結果の比較
あるように,面内方向の熱伝導率を測定した試料
の表面にはかなりの凸凹があり,熱伝導率測定装
る。ここでは,筆者らが断熱材に対して提案して
置内の試料を加熱する加熱面と試料面との間に空
いる次式 5)6)を使って解析を試みた。かさ密度を
気層ができてしまい,正確な測定ができなかった
ρ,絶対温度を T とすると,ガスケットの熱伝導
と考えられるからである。これについては,今後
率λは,
の課題としたいと考えている。
B
λ=Aρ+ ρ T 3+λg+E ……………………………(7)
図 13 と図 14 に,試料のかさ密度ρと熱伝導率
λ の関係を示す。両グラフとも,丸,三角形,
となる。ここで, λ g は空気の熱伝導率,A,B,
四角形,逆三角形は,それぞれ 25,45,65,
E は係数であり,係数については測定により決定
85 ℃の熱伝導率を表しており,さらに白抜き,
される。また,右辺の第 1 項は固体部分が寄与す
黒,灰色の印は,それぞれ T/#1995,T/#1120,
る熱伝導率,第 2 項はふく射が寄与する熱伝導率,
T/#1100 の熱伝導率を表している。例えば,灰
第 3 項は空気の熱伝導率,第 4 項は繊維同士の接
色の丸は 25 ℃の T/#1100 の熱伝導率を表してい
触部分や粒状物質同士が作り出す微小な空隙内
ることになる。
で,気体が固体部分の熱抵抗に影響を及ぼす効果
一般的に,多孔質体の熱伝導率は,固体,ふく
を表している。これらの係数を決定するには,ま
射,気体に寄与する熱伝導率の和で表され,多く
ず測定で得られた熱伝導率λから,空気の熱伝導
の研究者により実験式や経験式が提案されてい
率λ g を差し引き,その値を絶対温度 T の 3 乗に対
─ ─
7
ニチアス技術時報 2007 No. 1
6.2
表 2 式(7)の係数
ガスケット 厚さ
[mm]
T/#1995
T/#1120
T/#1100
TG-DTA
図 5,図 6 より,200 ℃を超えたところから急激
A
B
1.5
1.28 × 10 − 4
4.73 × 10 − 6
− 0.2190
な重量減少および発熱現象が生じていることがわ
3.0
6.55 × 10 − 4 6.84 × 10 − 6
− 1.1060
かる。これは,試料に含まれる有機成分の融解や
1.5
−
E
−
−
3.0
2.61 × 10 − 3 1.14 × 10 − 5
− 3.5060
1.5
6.81 × 10 − 5 4.91 × 10 − 6
− 0.0944
3.0
1.50 × 10 − 4 5.63 × 10 − 6
− 0.2380
燃焼等によるものと考えられる。
6.3
比 熱
図 7 より,T/#1120 の比熱が他の二つに比べ,
10%程度高くなっていることがわかる。これは,
T/#1120 に高い比熱を持つグラファイトが,かな
してプロットする。すると T 3 とλ−λg との間に
り含まれているためと考えられる。
直線関係が得られ,その傾きが B/ρであり,切片
6.4
線膨張率
が Aρ +E である。したがって,さらにかさ密度
図 8,図 9 より,ガスケットの線膨張率が広い
ρ を変えて測定することにより,係数 A,B,E
温度範囲で大きく変化しているのがわかり,特
が決定されることになる。
に,150 ℃以下における変化が激しいことが明
今回使用した 3 種類のガスケットについて得ら
らかとなった。この原因は,ガスケット内部に
れた係数を表 2 に示す。ただし,T/#1120
存在する水分の影響によるものではないかと推
t
(1.5mm )については,係数を決定できなかった。
測している。図 15 と 16 に,ガスケット(厚さ
これは,正の数であるべき係数 A が負になってし
1.5mm と 3.0mm)の温度θに対する線膨張量Δ l
まったためであるが,その原因は,試料内部に含
を示す。両グラフとも,実線は T/#1995,一点
まれる水分の影響による測定誤差と考えられる。
鎖線は T/#1120,破線は T/#1100 である。これ
式(7)および表 2 を使って得られた熱伝導率を
らのグラフから,線膨張量が 50 ∼ 150 ℃の温度
図 13 と図 14 に示す。両グラフとも,破線,一点
範囲において緩やかなカーブを描いていること
鎖線,二点鎖線,実線が,それぞれ 25,45,65,
がわかる。大凡ではあるが,この温度範囲では
85 ℃における式(7)の推定結果であり,また,
ガスケットに含まれる水分の蒸発が活発になり,
黒の太線,黒線,灰色線が,それぞれ T/#1995,
試料温度は一定あるいは変化が非常に小さくな
T/#1120,T/#1100 の推定結果であることを示し
ると考えられる。そのため,試料の膨張も抑制
ている。これらのグラフから,推定結果と測定結
され,線膨張率に大きな変化をもたらしたと考
果が比較的良く一致しており,式(7)を使うこ
えられる。
図 10 より,約 160 ℃以上になると昇温速度にか
とでガスケットの熱伝導率を,大雑把に推定で
かわらず線膨張率はほぼ一定となるが,160 ℃以
きることがわかる。
50
10K/min
Load 2g
10
T/#1995
T/#1120
T/#1100
0
0
10K/min
Load 2g
40
Δl[μm]
Δl[μm]
20
100
30
20
T/#1995
T/#1120
T/#1100
10
0
0
200
100
200
θ
[℃]
θ
[℃]
図 16 ガスケット(厚さ 3.0mm)の熱膨張量
図 15 ガスケット(厚さ 1.5mm)の熱膨張量
─ ─
8
ニチアス技術時報 2007 No. 1
下では大きくばらついているのがわかる。これは,
水分の蒸発が昇温速度に大きく影響を受けるため
と考えられる。また,図 11 に示すように,今回
の実験により,試料にかける荷重によって線膨張
率が大きく変わることがわかった。したがって,
パイプフランジガスケット締結体を設計する際に
は,それ自身の温度変化や締め付け荷重等を考慮
に入れる必要があると考えられる。
7.結 論
本研究により,以下の結論を得た。
1.ガスケットの熱伝導率は,その厚さに依存し
ており,原因は,厚さの変化が中材の厚さのみの
変化であるためであった。
2.ガスケットの熱伝導率に関する推定式を提案し,
その推定結果は測定結果と比較的良く一致した。
参考文献
1)Sawa T., Takagi Y., and Tatsuoka T., Proc.
ASME Pressure Vessels and Piping Division
Conference, PVP2005-71427,(2005)
2)Kumano H., Sawa T., and Hirose T., ASME
Journal of Pressure Vessel Technology, 116,
pp. 42-48,(1994)
3)Wilthan B., Cagran C. and Pottlacher G., Proc.
15th Symposium on Thermophysical Properties, Boulder, Colorado, U.S.A., June 22-27,
(2003)
4)National Bureau of Standards Certificate,
Standard Reference Material 720, Synthetic
Sapphire α-Al 2O 3.(Nat. Inst. Stds. Tech.,
Gaitherbarg, Maryland, 1982)
5)大村・富村,日本機械学会講演論文集,Vol.3,
808,pp. 15-16,
(2005)
6)大村・富村,日本機械学会山梨講演会講演論
文集 410,pp. 103-104,
(2005)
3.TG-DTA 測定から,200 ℃以上で急激な重量
減少と発熱が生じることがわかった。
筆者紹介
4.ガスケットの線膨張率は,150 ℃以下で大きく
大村高弘
ばらついており,その原因は,含有する水分の蒸
浜松研究所 研究部門
発によるものと推定した。
熱音チーム チームリーダー
5.昇温速度に対する線膨張率の依存性は,160 ℃
工学博士
以上では非常に小さいが,それ以下では非常に大
きく,その原因は内在する水分の蒸発による影響
入村純一
と考えられる。
6.ガスケットの線膨張率は,それにかかる荷重
浜松研究所 研究部門
熱音チーム 研究員
に大きく依存することがわかった。
[転 載]
本レポートは,2006 年 7 月 23 日∼ 27 日にカナダ
のバンクーバーで開催された国際会議,2006
花島完治
ASME Pressure Vessels and Piping Conference
シール材事業部 において発表したものである。
パッキンガスケットチーム リーダー
なお,本レポートに記載の T/#1100 をはじめ,
石綿ジョイントシートにつきましては,多くの
ユーザーさまから代替化推進のご理解を得るこ
沢 俊行
とができましたので,2006 年 12 月末日をもって,
広島大学 大学院 教授
販売を終了いたしました。
工学博士
─ ─
9
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