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エンジンブロック用CV黒鉛鋳鉄の 生産技術の開発
財団法人素形材センター会長賞 エンジンブロック用CV黒鉛鋳鉄の 生産技術の開発 ㈱ 豊田自動織機 峯田 宏之 仁科 芳彦 安達 直功 横井 隆 小原 卓 自動車用エンジンへの高い環境・性能に対する要求から、基幹部品であ るシリンダーブロックには、高強度化による軽量化や高い冷却性能が求 められている。この要求を満たす材料としてCV黒鉛鋳鉄に注目した。 課題である材質・鋳造品質のばらつきと難切削性に対して合金制御と鋳 造条件管理による工法開発で克服し、エンジンブロック用のCV黒鉛鋳 鉄量産化を実現した。 1.はじめに CV 黒鉛鋳鉄は従来の普通鋳鉄と比べ被切削性に などの黒鉛球状化元素を添加することで調整し、黒 劣り、鋳造性・品質ばらつきが大きい材料であり機 鉛球状化率(以下、球状化率と記す)で表される。 能部品や量産部品に適用されてこなかった。 鋳鉄は黒鉛形態により機械的特性が変わるため、要 従来の鋳鉄材料と CV 黒鉛鋳鉄の比較を表 1 に示 求に応じて種々の合金・接種剤を添加して組織制御 す。黒鉛の形態はマグネシウム(以下 Mg と記す) を行っている。 表1 鋳鉄材料の特性値 項目 FC (片状黒鉛鋳鉄) 黒鉛形状 片状黒鉛 芋虫状黒鉛 球状黒鉛 球状化率 0〔%〕 20 - 70〔%〕 70 以上〔%〕 SOKEIZAI FCD (球状黒鉛鋳鉄) 引張強度 180 - 300 MPa 350 - 500 MPa 400 - 900MPa 熱伝導度 48〔W/m -℃〕 38〔W/m -℃〕 30〔W/m -℃〕 被切削性 良い 劣る 劣る 鋳造性 良い 難しい 難しい 組織 48 CV (芋虫状黒鉛鋳鉄) Vol.50(2009)No.12 特集 素形材月間 ∼素形材産業技術賞∼ CV 黒鉛鋳鉄は高強度なだけでなく、エンジンの 要求特性である放熱性や振動吸収性も優れており、 シリンダーブロックの材料として適している。しか しながら、従来の鋳造工法では球状化率が安定しな いため、そのままではシリンダーブロックに適用で きない。そこで、材料要求値に適合させるために課 題を明確にして、CV 黒鉛鋳鉄を安定して量産でき る鋳造工法の開発をし、エンジンブロック(写真 1) への適用を実現したので報告する。 写真 1 エンジンブロック粗材の外観 2.開発目標と課題 エンジンのシリンダーブロックに CV 黒鉛鋳鉄を (2)軽量化と鋳造品質を両立させる最適設計 適用するためには以下に示すように大きく 3 つの課 (3)安定した品質が確保できる工程の確立 題があった。 これらを解決するために設計・加工・鋳造部門が (1)要求材料特性を満足する鋳造条件の決定 協業での開発を行った。 3.課題解決への取り組み 3.1 要求材料特性を満足する鋳造条件の決定 る。初期の試作形状では、ボア下部の厚肉部に広く 材料要求値はボア・ジャーナル部の強度を確保す 引け巣が分布し貫通により圧洩れになることが予測 ることであり、ボア部のフェライト組織の析出を抑 された。構造解析を踏まえ適正形状にすることで問 制する必要がある。これを満足するための鋳造条件 題のないレベルまで引け巣領域を縮小することがで の決定を行った。 きた。このように鋳造要件を設計にフィードバック 対策として銅(Cu)、錫(Sn)等の合金添加を試み、 することで鋳造品質を確保することを行った。 被切削性を考慮して硬度への影響が最小となる最適 値を決定した。次に球状化率を調整し実体の強度を 3.3 安定した品質が確保できる工程の確立 測定して、管理すべき球状化率の範囲を 20 % 以上と CV 黒鉛鋳鉄が不安定な材料とされる原因のひと し、上限値は被切削性を考慮して 40 % 以下とした。 つは球状化率のばらつきが大きいことである。黒鉛 の球状化に寄与する Mg の残留量が工程条件によっ 3.2 軽量化と鋳造品質を両立させる最適設計 て変化することがそのばらつきを引き起こしている CV 黒鉛鋳鉄はシリンダーブロックのような複雑 と考え、図 2 に推定要因を模式的に示した。図中の 形状では肉厚変化が大きいことによる引け巣やピン ①∼③に要因を分類し対策を実施した。 ホールなどの鋳造欠陥の発生が懸念される。従って 設計段階でいかにつくりやすい形状にするかが重要 軽量誤差 である。 図 1 は CAE 解析により引け巣を予測した例であ フェイディング Mg介在物 MgO・MgS 設定Mg量 有効Mg量 図 1 CAE による閉ループの解析 有効Mg量 残留Mg量 有効Mg量 図 2 Mg の減耗プロセスの推定 Vol.50(2009)No.12 SOKEIZAI 49 【要因①】計量精度 球状化合金の計量精度を高めるため、切出しの振 動・時間を適正化を実施し、計量ばらつきを低減さ せた。また計量結果に対してインターロックを取る ことで後工程への流出を防止した。 【要因②】フェイディング・Mg 合金の反応ばらつき Mg は溶湯との接触で激しく反応するため、蒸発・ 気化によるロスと強力な酸化作用による酸化ロスが 発生する。それらに加えフェイディング現象による 球状化率の低下が起こる。対策として Mg の反応を 抑えて歩留りよく Mg を残留させることを考え、酸 化作用のあるカルシウム(Ca)、セリウム(Ce)等の 図 4 S 量と Mg 合金定量添加時の残留 Mg 量の関係 合金を混合する効果を検証した。 Ce を適量混合することで Mg の添加量を低減する ことができ、かつ球状化反応を安定化させることに 成功した。フェイディングに対しても抑制効果があ り、球状化率を安定維持することを実現した(図 3)。 写真 2 分析室に設置された元湯成分入力盤 S 量の分析値を入力すると最適な Mg 合金量が計 算され,自動計量機へ指示されるようになっている。 図 3 球状化率の減少率と時間経過 同様に炭素(C)、珪素(Si)の分析値の入力により 最適な追加接種剤の量も計算される。 以上の工法で製造した CV 黒鉛鋳鉄は従来の方法 【要因③】Mg の介在物化 Mg は硫黄(S)や酸素(O)と結合しやすく、MgS と比較して残留 Mg 量のばらつきを半減させること ができた(図 5)。 など介在物化することで球状化の能力を失う。対 策として溶湯中 O 量の影響を最小にするため、パ 残留Mgのばらつき ラメータ設計実験を行い接種剤種類と添加量の最 適化を図った。次に溶湯中の S 量に対して常に最適 な Mg 合金量を添加できることを検討した。図 4 は ばらつき45%減 S 量を変化させた溶湯に Mg 合金球状化剤を 0.3 wt % 添加した時の残留 Mg 量の挙動分析結果を示す。 残留 Mg 量と S 量の関係を数式化することで、事前 に元湯分析した S 量から最適な Mg 合金量を予測する ことを可能にした。写真 2 は装置化して分析室に設 置した自動計量操作盤の成分入力モニタである。 50 SOKEIZAI Vol.50(2009)No.12 図 5 残留 Mg ばらつき低減取組み結果 特集 素形材月間 ∼素形材産業技術賞∼ 4.球状化率の保証 製品の球状化率を全数保証する方法として超音波 組織が大きく影響していることを突き止めた。検査 による球状化率測定を採用した。球状化率が低い 工程に測定部の切削(写真 3)と肉厚自動測定機を導 CV 黒鉛鋳鉄では検出力が落ちる欠点がある(図 6)。 入することで欠点を克服し、球状化率をインライン 検出力が落ちる要因として測定面の平滑度と表層 で全数計測することを実現した。 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 黒皮面 研磨面 ! 反射波 [dB] 理想的な線 ⇒反射波の減衰が無い 切削により 検出能向上 0 10 20 30 40 50 60 70 入射波 [dB] 80 90 100 図 6 面と研磨面での反射波と入射波の強度の関係 ジャーナル部の 音速測定のため切削実施 写 真 3 ブロックジャーナル部の音速測定位置 5.おわりに 本工法開発により CV 黒鉛鋳鉄を安定して生産で 今後、エンジンブロックに限らず、本材質特性の きる方法を確立することができた。現在、この工法 メリットを活かした製品への展開を進め、さらに技 により月産 5,000 台以上のエンジンブロックを生産 術を向上させていきたいと考えている。 している。今後、自動車の環境配慮への要求はます ます強くなってくると考えられ、本技術はエンジン 分野での新たな材質アイテムとして位置づけること ができた。 株式会社豊田自動織機 〒 475 - 0033 愛知県半田市日東町 4-15 (東知多工場) TEL. 0569 - 26 - 4812 FAX. 0569 - 26 - 5505 http://www.toyota-shokki.co.jp/ Vol.50(2009)No.12 SOKEIZAI 51