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進化するオープン統合化分散制御システム
富士時報 Vol.74 No.9 2001 進化するオープン統合化分散制御システム 森 孝一(もり こういち) まえがき 図1 継承システム構成 富士電機は,アナログ計装,コンピュータによる DDC リモートAOS-PC Web-PC ネットワーク プリンタ (Direct Digital Control)の時代を経て,電気・計装・コ ンピュータ(EIC)の技術要素を統合した分散監視制御シ ステム(DCS:Distributed Control System)を数多く製 作・納入している。DCS は監視制御専用システムを指向 情報LAN データベース オペレータ AX ステーション AX ステーション DB ADS-2000/ HMI AOS-2000/ PC2000 PC2000 しており,信頼性・高速応答性を重要視したことが評価さ AX HMI エンジニア リング ワークステー ションAES 制御LAN回線2 FL-net れて,プラントの安定・安全操業に不可欠な存在となって コントローラ ACS-2000 いる。しかし,監視制御専用システムにとどまる DCS に はオープン性・柔軟性の面での不満が指摘されている。 制御LAN回線1DPCS-F 昨今のパソコンの急伸は,監視制御分野にとっても大き な影響を及ぼしている。パソコンライクな画面構成や操作 環境による監視操作が好まれ,ツールの開放(エンジニア 既存各種コントローラPCS/HDC/ICS/ACS リングの開放)といったエンドユーザーコンピューティン グ(EUC)への対応や,企業生産情報や環境・保全情報 とのシームレスな共有(蓄積したデータの高度利用)が望 2の「機能分散・フラット化と IT(Information Technolo- まれている。プラント監視制御分野におけるこのような gy)統合化 PAS」を提案する。 ニーズを 「情報と制御の融合・オープン化」と呼ぶ。 さらに「情報と制御の融合・オープン化」のためには, 富士電機は「進化と継承」をコンセプトとしてオープン 「制御情報のリアルタイム性を乱さないで情報系信号 統合化分散監視制御システム(Advanced Open Process 〔TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Pro- 「継 Automation System) 「MICREX-AX」を開発した。 tocol) 〕を重畳させる」技術が不可欠となる。これらの技 承」とは,すでに多くの顧客に使用していただいている 術を取り入れた例として,アセットマネジメント(Asset DCS 財産の継続と信頼性・高速応答性の維持である。継 Management:設備管理)の拡張としての PAS の ASP 「進化」とはオープン化,多 承システム例を図1に示す。 (Application Service Provider)について紹介する。富士 様な顧客要求へのソリューション提供,すなわち DCS か 電機はこのように将来を見据えた開発を行っている。開発 ら PAS(Process Automation System)への進化である。 コンセプト「進化と継承」の「継承」については本特集号 富士電機が顧客にコンテンツとして得意分野のベストソ の別稿に譲り,本稿では「進化」について紹介する。 リューションを提供するのはもちろんであるが,メーカー 1社ですべてのソリューションを提供するよりは,それぞ IT 統合化 れのベストソリューションを簡単に取り込めるシステムを 提供する方が顧客に歓迎されるものと考えている。それを IT 統合化は情報 LAN のオープン化によって実現する。 〈注1〉 具現化する手段として,Ethernet ベースのオープンな情 報 LAN,制御 LAN およびフィールド LAN で実現する図 ERP( Enterprise Resource Planning), SCM( Supply Chain Management),MES(Manufacturing Execution System) ,MRP(Material Requirements Planning) ,環 〈注1〉Ethernet :米国 Xerox Corp. の登録商標 森 孝一 民需 EIC システムのエンジニア リング業務に従事。現在,富士電 機システムズ (株) エンジニアリン グ本部ソリューション統括部計測 ソリューション部担当部長。 498(10) 境・保全情報などそれぞれのベストソリューションを簡単 富士時報 進化するオープン統合化分散制御システム Vol.74 No.9 2001 図2 機能分散・フラット化と IT 統合化 PAS 企業情報システム (ERP,SCM,MES,MRP…) 新たな制御システム 情報と制御の融合・オープン化 設備管理サービス (保全,環境,省エネルギー) インターネット Webターミナル AX HMI/DB AX HMI/DB 汎用 SCADA OPC OPC 統一 オペレーション AX コントローラ オープンPIO PLC Ethernetベース TCP/IP 情報 ネットワーク FL-net準拠LAN コントロール ネットワーク ターミナルI/O デバイスネットなど フィールド ネットワーク インターネット ファイアウォール PLC FFフィールドバス PROFIBUS I/O M ディスクリート制御 プロセス制御 フラット化 に取り込める。 フラットに接続できるので,いわゆるパソコン計装から大 インターネットがそれぞれのインタフェース統一化のキー になる。 規模 PAS までスケーラブルに機種に依存しない統一オペ レーションを実現している。フラット化が次の「機能分散 化」「情報と制御の融合・オープン化」のベースとなる。 機能分散・フラット化 3.2 機能分散化(制御・情報機能分散システム) 制御 LAN のオープン化による自由度の増加について述 べる。 3.2.1 FL-net 準拠 LAN と TCP/IP プロトコルの重畳 情報系信号を取り扱うプロトコルとしては,すでに TCP/IP がデファクトスタンダードとなっている。TCP/ 3.1 フラット化 Ethernet(TCP/IP)はリアルタイム性において制御 LAN に不向きといわれている。これを克服するために各 IP をベースに各種コンテンツなどのソフトウェアやネッ トワーク機器などのハードウェアが開発されている。一方, FL-net 準拠 LAN は「サイクリック伝送」や「トークン 社独自のプロトコルを創造している。これではせっかくの パッシング方式伝送」などの制御に特化した伝送方式を採 Ethernet ベース制御 LAN も,マルチベンダシステムの要 用しているが故に,例えばその信号はルータを通り抜ける (かなめ)にはなり得ない。富士電機は,この制御 LAN に JIS 化を計画中の (社) 日本電機工業会標準(JEM 1479) の FL-net 準拠 LAN を採用している。 この FL- net 準 拠 LAN に は富士電機製の HMI(Hu- man Machine Interface)やコントローラに加えて,HMI ことができない。 この問題を,①「ドメイン優先制御による FL-net 準拠 LAN と TCP/IP プロトコルの重畳」 ,②ネットワークの 高速(100M ビット/秒)化により解決した。 FL-net 準拠 LAN と TCP/IP プロトコルの重畳の仕組 には OPC(OLE for Process Control)インタフェース/ みを図3に示す。 ActiveX 画 面ベ ー ス の 各 社 SCADA( Supervisory Con- 3.2.2 機能分散化 trol And Data Acquisition)を,コントローラにはテレメー FL-net 準拠 LAN と TCP/IP プロトコルの重畳による タ・テレコントローラやディスクリート制御・プロセス制 制御(制御アプリケーション)と情報(Web サービス画 御用プログラマブルコントローラ(PLC)をフラットに混 面)のイントラネット一元化システム構成例を図4に示す。 。 在接続(Right Sizing)できる(図2) 高速な光ネットワークが安価に供給されることにより,実 富士電機は,プロセス制御を PLC で実現するために, (1) 制御 LAN の二重化→ FL-net 準拠 LAN 現する。 制御 LAN が制御・情報一元化 LAN となることで,プ (2 ) PLC の二重化→ MICREX-SX ロセス(工場)単位の PAS は事業所単位の PAS へと移 (3) I/O の二重化→オープン PIO 行する。 図 5 に複数工場の操業を1か所の操業管理セン を開発した。小規模システムにおいても,PLC と上記 ∼ (1) を組み合わせることにより,高信頼性を維持しつつ安価 (3) な PAS を提供可能になった。 このように,制御 LAN に各種 HMI やコントローラを ターで,同様に複数工場の保全を保全管理センターで行う システム構成例を示す。 制御 LAN にイントラネット(専用線)を使用すること で,各操業・保全機器の設置に対する制約が緩和される 499(11) 富士時報 進化するオープン統合化分散制御システム Vol.74 No.9 2001 (Right Locating) 。制御,操業,保全の自立分散を目指す。 Java などの言語で制御プログラムを書けるようになるこ とで,豊富な情報エンジニアを活用できるようにもなる。 それぞれのグループの分担は次のとおりである。 1秒以下のリアルタイム性を要求される制御はローカル コントローラ(オープン PIO など)やフィールド機器の PAS の ASP インテリジェント化(FF フィールドバス,PROFIBUS な ど)で実現する。悪環境下に設置されるのはこれらの制御 グループのみとなる。操業・保全グループは好環境下に設 機能分散化の将来像例として「制御システムの ASP」 を紹介する(図6) 。 前章で「顧客に統合化」されていた制御装置を「メー 置することが可能である。 制御装置は秒オーダーの処理を担当する。また,制御装 置は情報システムとの連携をより強化する。制御装置の要 カーに統合」し, 「イントラネット」を「インターネット」 に広げることにより,より良い設置環境,より良い保全体 〈注2〉 件としては情報システムとのオブジェクト連携,C,Java などのアプリケーション搭載が求められるようになる。C, 図3 FL-net 準拠 LAN と TCP/IP プロトコルの重畳の仕組み 〈注2〉Java:米国 Sun Microsystems, Inc. の登録商標 図5 イントラネット一元化情報と制御の融合システム 構成例(2) プロセス 操業DB プロセス 監視 FL-net準拠LANと TCP/IPの重畳 事業所 操業管理センター FL-netの高速化(100 Mビット/秒) FL-net に伴って,ネットワークアイドル時間 アダプタ FL-net準拠 を多目的に利用できるようになった。 LAN+TCP/IP アイドル時間にTCP/IPを重畳する。 バックボーン 単純にFL-netとTCP/IPを混在させ ただけではFL-netフレームがブロー TCP/IP スイッチ ドキャストのために衝突が発生し無 視できないサイクル遅延を引き起こ スイッチ FL-net す。 アダプタ AX SX 解決手段 ドメイン (1)各ノード,FL-netアダプタが 優先制御 スイッチドメインでのFL-net 優先フロー制御を行う。 (ポーズフレーム:MAC/NDIS) (2)各ノード,FL-netアダプタが ターミナル ハードウェアによるFL-net優 I/O プロセス 先制御を行う。 I/O DDC駆動装置 FL-netサイクル時間 FL-netサイクル時間 サイクル 遅延 TCP/IP TCP/IP フレーム フレーム インターネット Webターミナル AX HMI/DB 汎用 SCADA OPC OPC インター ネット ファイア ウォール 工場A ローカル コント ローラ 工場B ローカル コント ローラ 制御 装置B 工場C PLC オープン PIO FL-net サイク リック フレーム (BC) TCP/IP TCP/IP TCP/IP フレーム フレーム フレーム 制御 装置A FL-net準拠LAN+TCP/IP(イントラネット) オープン PIO FL-net サイク リック フレーム (BC) 設備管理サービス (保全,環境, 省エネルギー) TCP AX HMI/DB アイドル時間 FL-net サイク リック フレーム (BC) 保全管理センター 企業情報システム (ERP,SCM, MES,MRP…) ターミ ナル I/O I/O M 図6 制御システムの ASP モデル 図4 イントラネット一元化情報と制御の融合システム ユーザー 構成例(1) メーカー保全管理 センター 操業管理センター 企業情報システム 設備管理サービス (ERP,SCM, (保全,環境, MES,MRP…) 省エネルギー) 企業情報システム (ERP,SCM, MES,MRP…) インターネット Webターミナル インターネット Webターミナル 設備管理サービス (保全,環境, 省エネルギー) TCP TCP AX HMI/DB AX HMI/DB 汎用 SCADA OPC OPC AX HMI/DB インターネット ファイアウォール 工場A PLC PLC OPC OPC ローカル コント ローラ オープン PIO オープン PIO ターミナル I/O I/O M 500(12) 汎用 SCADA 制御 装置 汎用 AX SCADA HMI/DB OPC FL-net準拠LAN+TCP/IP(インターネット) FL-net準拠LAN+TCP/IP(イントラネット) AX コントローラ AX HMI/DB 工場B ローカル コント ローラ 工場C PLC オープン PIO ターミ ナル I/O I/O M 富士時報 進化するオープン統合化分散制御システム Vol.74 No.9 2001 制下でシステムを維持することにより,より安定・安全操 富士電機の現状は図4である。富士電機は PAS の製造 業が期待できる。さらに小規模ユーザーは制御装置を買い メーカーにとどまらず,制御装置の ASP や操業・保守・ 取るのではなく,制御システムをリースすることにより, 管理業務代行を今後推進する考えである。 制御装置の ASP 化が実現する。 参考文献 あとがき (1) 福本武也.製造業の TCO を削減する生産・環境・保全ソ リューションの提供.計装(500号記念増刊号) .vol.42,no.10, 情報と制御の融合・オープン化,制御・情報機能分散シ ステムの考え方を紹介した。 (1) 現場にはセンサ・操作端と I/O のみを設置 ™耐環境性を考慮したオープン PIO を開発 ™センサ・操作端はフィールドバス化 (2 ) 制御装置は情報システムとの連携強化 ™リアルタイム性の必要な機能はローカル側へ ™制御言語は C や Java へ ↓ 1999. (2 ) 山田隆雄.フィールドネットワークの動向と展望.2000 計装制御技術チュートリアルセミナ SESSION 2 IT 活用/パ ソコン・ネットワーク技術.2000- 7- 6. (3) 森 孝 一 . 機 能 分 散 ・ フ ラ ッ ト 化 と IT 統 合 化 . 計 装 . vol.43,no.10,2000,p.56- 60. (4 ) 小堀隆哉ほか.イーサネットベースの I/O バス.2000 計 装技術会議.2000- 12- 6. (5) Massachusetts,E.デバイスレベルへの Ethernet は論 (3) ネットワークはインターネット化 理的である──当たりまえか,頑固か,ただ必要なだけか? (4 ) 操業は好環境設置遠隔・集中化・統一化 ARC News.2001- 6- 6. (5) 制御装置は好環境設置, 遠隔メーカー管理 501(13)