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新たなビジネス創出に向けた未来への 洞察アプローチ

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新たなビジネス創出に向けた未来への 洞察アプローチ
ビジネス・クリエーション
新たなビジネス創出に向けた未来への
洞察アプローチ 業種:業種共通
アブストラクト
市場環境が激変している昨今、不確実性の高い未来に対していかに柔軟かつ迅速
に対処していくかということが課題となっている。企業が永続的に発展するために
目指すのは、広く社外に未来に対する自社のビジョンを指し示した上で、独創的な
市場を創造し続けることである。我々はこれまでのコンサルティングノウハウを集
約し、非線形の未来を洞察するための方法論を確立した。これは業界を跨る様々な
データや事例とニーズを踏まえて「変化の予兆」を捉え、そこから各プレーヤの役
割の変化や価値提供の新たな流れを示した「未来洞察像」を導く方法論である。本
論文では、その方法論の概要と適用事例、活用方法について述べる。
佐々木哲也(ささき てつや)
(株)富士通総研 第二コンサル
ティング事業部 産業コンサル
ティング事業部 所属
現在、製造業の企画業務を中心と
したコンサルティングに従事。
120
FRIコンサルティング最前線. Vol.1, p.120-124 (2008)
新たなビジネス創出に向けた未来への洞察アプローチ
ま え が き
未来洞察のための手法体系
昨今の企業においては、顧客ニーズの多様化や
非線形の未来を洞察し将来像を描く一連の手法
グローバルでの価格・品質における競争環境の激
体系を我々は“Future Opportunity Modeling
化といった外部環境上の問題と、法規制等への対
メソッド”と名付けている。それぞれのステップ
応のための業務プロセス/ルールの見直しや人員構
における手順やポイントは後述するが、全体を通
造の問題といった内部構造上の問題がより一層鮮
じて根底にある考え方、基本方針をここでは述べる。
明となってきている。これらの問題に対応してい
本メソッドでは非線形の未来を洞察するために
くため、コスト、品質といった現在の競争領域で
そのような考え方から脱却し、市場の構造や登場
何をすべきか、ということよりも、新市場の創出
人物および価値観が大きく変化する可能性のある
によって非競争領域をいかに見出していくか、と
要因を多数抽出した上で、その要因を組み合わせ
いうことに関心をシフトさせてきている企業が増
た将来像を描くということをキーポイントとして
加している。
いる。この要因を我々は「変化の予兆」と呼んで
そこで多くの企業が未来予測に着手しているが、
おり、これを抽出するためには膨大な事象や事例
過去から現在にわたるデータを蓄積し、漸進的に
といったデータを収集した上で、既存の市場を構
将来像を考えていくケースが大半である。その際
成するプレーヤが真に何を求めているかを察し双
の前提は、未来は破壊的な構造変化を起こさず連
方の関係付けを行うことが重要となる。また、上
続的に推移していくということである。従って突
記の将来像をここでは「未来洞察像」と呼ぶ。
然変異ともいえる革新的なプレーヤが登場し、市
本メソッドではこのキーポイントを主軸として
場の原理原則自体が破綻することも、自らが革新
無数の情報を組み合わせて発想を繰り返すための
的プレーヤとなり市場を形成していくことも、予
情報整理手法や発想手法、検討における視点およ
期してはいない。
び観点を体系化した。それにより発想の斬新さと
本来求められるのは、現状の市場をベースとし
た発想から脱却し、業界の垣根を意識することな
く非線形の未来を洞察し、意思を込めて革新的な
将来像を描くことである。そのためには、市場、
納得性のバランスを取りながら、複数のシナリオ
を生成させることが可能となる。
“Future Opportunity Modeling メソッド”概要
技術、政策、社会といった様々な要素における「変
本メソッドは図-1のプロセスを辿る。発想を促
化の予兆」をいかに幅広く捉え、読み解くか、と
すために発散と収束をひたすら繰り返していく構
いうことが重要となる。「変化の予兆」に基づき具
成となっている。以降では各ステップにおける進
体化した将来像に対し、実現するためのシナリオ
め方とポイントを説明する。
を逆展開して自社の計画に落とし込むことで、不
● STEP1 ターゲットエリアの設定
確実性の高い未来に対応することが可能となる。
本メソッドを用いて描く将来像のターゲットエ
結果、企業は顧客にとってのパートナーというポ
リアを定義する。ターゲットエリアは、主要製品
ジションであり続け、持続可能性を高めることが
やサービスを中心として、それらが用いられてい
できるのではないか。このような新たなアプロー
る業界・業種や、関連する業界・業種を広く設定
チが今まさに必要となってきている。
する。
そのための手法や手順は個別には存在するもの
● STEP2「重要ドライバネットワーク」の作成
の、体系的に確立されたものがないことから、我々
ターゲットエリア周辺における変化をもたらす
はこれまでのコンサルティングで培ったノウハウ
様々な事象・事例や動向についての、公開・非公
を集約化させ、独自の手法体系としての構築を行っ
開を含めた情報を我々は「ドライバ情報」と呼ん
ている。本論文ではその具体的な進め方とアウト
でいる。この「ドライバ情報」に基づき、ドライ
プットの概要について述べる。
バ間で関連性があると思われるものを線で結び付
けていき、
「重要ドライバネットワーク」を作成する。
FRIコンサルティング最前線. Vol.1, (2008)
121
ビジネス・クリエーション
STEP 2
「重要ドライバ」
ネットワークの作成
地球環境
政策
・規制
経済
・市場
社会
・人口
技術
グローバル
STEP 4
「重要ドライバ」と
「重要ニーズ」関連付け
STEP 2
ターゲット
エリアの設定
STEP 6
「未来洞察像」の策定
STEP 5
「変化の予兆」の
抽出
プレーヤ
予兆ネットワーク
変化の予兆
R&D
①プレーヤの機能/役割
①プレーヤの機能/役割
①プレーヤの機能/役割
②提供される価値
②提供される価値
②提供される価値
③価値に対する富の流れ
③価値に対する富の流れ
③価値に対する富の流れ
④実現性および制約条件
④実現性および制約条件
④実現性および制約条件
⑤投資領域
⑤投資領域
⑤投資領域
⑥実現シナリオ
⑥実現シナリオ
⑥実現シナリオ
プレーヤ
変化の予兆
設計
プレーヤ
変化の予兆
調達 生産 販売
販売 回収
重要ニーズ
重要ドライバ
STEP 3
各プレーヤにおける
「重要ニーズ」の定義
使い手
売り手
作り手
素材・
部品供給
変化の予兆
プレーヤ
変化の予兆と
プレーヤのマッピング
新規
プレーヤ・
代替品
図-1 “Future Opportunity Modeling メソッド”全体プロセス
変化の予兆
重要ドライバ
マップ
変化領域
7. ネットワーク家電サービスと組込ソフトのセット提案
企業
43. 商品企画・デザインのアウトソーシング
44.メーカーと企画会社・他ブランドとのコラボレーションの場形
3.組込ソフト
②新しいキーテクノロジーの登場
低電力化
設備メーカ
重要ニーズ
4.家電製品共通汎用LSI
28. 各社標準の共同設計・開発・生産
38. メーカ横断の共通部品化・横断化
生産準備(外部)
生産準備
素材・材料
の変化
生産(
部品)
生産(
部品)
高精細化
生産技術
(生産の効
率化、設備
社内、社外
5. 家電メーカーの
コンテンツ事業拡大
18 プロセッサ性能
による買換需要喚起
・バックライト
販売
全産業
回収
アフタサービス
購買(外部)
購買請負企業
小売
メーカ
エンド
ユーザ
メーカ
13. EMS 化の進展
(作らないメーカの増加)
生産(外部)
R&D
設計
39. メーカポイントサービスのアライアンス
42. リサイクル起点設計の拡大
24. メーカ横断のユーザ登録の仕組み
拡張品/オプション市場
による拡張(スロットイン)
リサイクル
リサイクル
調達 生産 販売 回収
40. メーカ横断共同直販サイト(Web)の登場
15. 外付・オプション品
市場の形成
14. ソフト・アプリ組込デバイス
EMS企業
41. リサイクルチェーンの拡大
23. ネットワーク家電各社による
不具合対応連携
共同ファブの設立
37. 企業間購買取引所(Web)の一本化
BPO
世界
日本メーカー離れ
低価格テレビ市場
生産(製品)
32. 生産技術革新の激化
36. BPO 購買請負会社の登場
29. LSI 化進展による
半導体メーカの
設備増強・連携強化
広告代理店
16. コンテンツ直結型広告市場の拡大
(動画を介したオンライン広告)
17. テレビ専用検索エンジンの登場
6. コンテンツ業者の (個人の嗜好に合わせた番組表)
22. アフターサービスの共同会社設立
26. 既存サプライヤの衰退
電子部品メーカ
広告市場
コンテンツ
制作業者
11. メーカと
モジュラ企業の連携
27. セットメーカと化学サプライヤの連携
モジュール化の
モジュール化の
進展
8.脱・組込ソフト化(SaaS)
25. 新たなサプライヤの登場
低価
ルに
ルに
中国
21. ユビキタスエコノミーによる
新たなライフスタイル
アプリ
制作業者
制作業者
12. 企画販売企業(モジュール寄せ集め)の台頭
生産(モジュール)
10. モジュラ企業の台頭
(家電のT1企業誕生)
業界
19. ホームエレクトロニクスの
司令塔としてのテレビ
コンテンツ/アプリ市
場
33. 設備メーカ(外部)による生産革新
モジュラ企業
省エネ技術
簡素化、軽
量化
31. 組込ソフト開発者の増強
30. 組込ソフト会社との連携
化学メーカ
大画面
化
1.組込ソフト共同開発
2. メカ・エレキ設計開発の競合間連携
住宅
業界
セキュリティ
20.ネットワーク家電による生活情報の活用
エンドユーザ
・より綺麗で、よりコンパクト
で、より電力を消費しない
テレビ
テレビ
新型FPD(有
新型FPD
(有
機EL、SED、
機EL、SED、
FED)
FED)
設計/開発
設計/開発(外部)
設計/開発(外部)アウトソーシング激化
ベンダ
≪使い手の視点≫
テレビの性能強化
ネットワーク家電市場
34. 産学官連携による研究開発増加
35. 研究開発費分散のための共同開発
IT系ベンダ
IT系ベンダ
企画/デザイン(外部)
企画/デザイン
組込みソフト
1
ヘルスケア
業界
R&D
9.ベンダ各社による
オープンイノベーション激化
プレーヤ
音響系メーカ
OA
サプライメーカ
図-2 「ドライバ/ニーズ関連図」の例
図-3 「変化の予兆マップ」の例
● STEP3 各プレーヤにおける「重要ニーズ」
それぞれのプレーヤがどのようなことを求めてい
の定義
ターゲットエリアにおけるそれぞれのプレーヤ
(使い手、売り手、作り手、素材・部品供給、新規
参入業者等)を定義する。特に重要と思われるニー
ズ、もしくは複数のプレーヤに共通するニーズを
「重要ニーズ」として定義する。
● STEP4 「重要ドライバ」 と 「重要ニーズ」 関
連付け
各プレーヤの「重要ニーズ」に対し、「重要ドラ
るか、ということを咀嚼し、今後変化が起きるこ
とが想定される、「変化領域」を設定する。
● STEP5 「変化の予兆」の抽出
定義した「変化領域」ごとに仮説を立案する。
プレーヤの役割がいかに変化していくかというこ
とを中心に、「変化の仮説」として詳細に記述して
いく。
「変化の仮説」を記述した際に具体的に表現され
た無数の要素を、「変化の予兆」として抽出する。
イバネットワーク」のどの領域が対応しているか
抽出した「変化の予兆」を一覧化し、それらをター
を検証し、図-2のような「ドライバ/ニーズ関連図」
ゲットエリアにおける業務のどのあたりに位置づ
を作成する。
けられるかを配置し、多角的な評価を行った上
「ドライバ/ニーズ関連図」を作成し見出した、
「重
で「変化の予兆」をいくつかのクラスタに分類し、
要ニーズ」に対応する「重要ドライバ」の領域に
図-3のような「変化の予兆マップ」として記述する。
ついて、どのような未来の方向性が考えられるか、
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FRIコンサルティング最前線. Vol.1, (2008)
新たなビジネス創出に向けた未来への洞察アプローチ
● STEP6 「未来洞察像」の策定
時系列を踏まえて「変化の予兆」の相互の関係
メーカが新たな業態に変革し、今以上に様々なプレーヤと連携
消費者
性について、明確化する。それにより「変化の予兆」
ハンドリングした
データを活用
生活・感情
・思考ログ
ペタスケールの
データハンドリング
兆」を中心に、クラスタ別に今後起こりうる変化
について、全体の傾向、それぞれのプレーヤの意思、
個人主役
間の関係性や、影響を及ぼしやすいキーとなる「変
化の予兆」を明確にする。キーとなる「変化の予
企業・教育
デジタル家電メーカ
個人のパフォーマンス最大化
(仕事の時間、順番、方法 等)
住宅・エネルギー
感情に合わせたコントロール
(照明、内外装、温湿度、音響 等)
ヘルスケア・食品
健康状態・嗜好に応じた
食・行動プログラム
センサー付
家電で状態感知
役割の変化、実現上の課題について検討する。
各プレーヤの価値変化がどのように起こるかと
いうことを基軸として、現状との差分を明確に記
図-4 “A.センサー型ネットワーク家電による
ライフデザインサービス”イメージ(一部)
述していく。妥当性検証(収益性の想定や制約条
件の抽出)や投資領域の整理を行い、それぞれの
「未来洞察像」を策定している。以下に、そのうち
プレーヤの役割・機能を定義する。描いた将来像
の一つとして“センサー型ネットワーク家電によ
はどのような要素が実現される必要があるかを踏
るライフデザインサービス”を挙げる。
まえ、シナリオを検討する。
上記のような検討結果を踏まえ、「未来洞察像」
概要としてはホームエレクトロニクスの進展に
伴い、冷蔵庫、洗濯機等のいわゆる白物家電も含
が生成される。「未来洞察像」には、①プレーヤの
めたあらゆる家電製品が家庭内でネットワーク化
機能/役割、②提供される価値(プロダクト/サービ
され、様々なサービスが完全にパーソナライズ化
ス)、③価値に対する富(対価)の流れ、④実現性
されるというものである。そこでは家電製品は一
および制約条件、⑤投資領域、⑥実現シナリオが
括コントロールされるだけでなく、個人の感情や
構成要素として盛り込まれる。
思考、生活ログといった情報をリアルタイムに反
デジタル家電を中心とした事例紹介
映させた個人の嗜好や状態に合わせた最適なサー
ビスが無数に登場するようになる。そして、デジ
本章では、実際にお客様からの依頼を受け、デジ
タル家電メーカはこれまでのビジネス領域を大き
タル家電業界にFuture Opportunity Modeling
く拡大し、様々なサービス事業者と連携しつつ新
メソッドを適用したケースを紹介する。
たなサービス事業を展開することになる。
STEP1では、デジタル家電を中心としたター
ゲットエリアを設定し、STEP2で 個人・ネット
うなプレーヤの機能/役割や提供される価値の流れ
上でのコンテンツ作成や組込ソフトのオープン
が詳細展開されると同時に、実現に向けて障壁と
化、有機ELやSED等の新たな技術の登場といっ
なる法規制や商慣習等の制約条件やITを中心とし
た近年の動向を「重要ドライバ」として定義した。
た投資領域の定義、制約条件をブレイクスルーす
STEP3では特に使い手(視聴者)の性能・機能・
るための促進化要因(技術革新/変革要素)がアウ
サービス・コンテンツに対するニーズ、作り手(セッ
トプットされる。
トメーカ)の技術の高度化・複雑化への対応や徹
底したコストダウンに対するニーズを「重要ニー
それぞれの「未来洞察像」では図-4で示したよ
む す び
ズ」として定義している。STEP4では「重要ドラ
Future Opportunity Modeling メソッド適用
イバ」と「重要ニーズ」を関連付け、①アナログか
後に重要なことは、「未来洞察像」をベースとした
らデジタルへの技術変化、②新しいキーテクノロ
ディスカッションである。具体的には、①社内で
ジーの登場、③サービス業態への変革、④モジュー
の展開と、②社外との対話、双方を進めていくこ
ル化の加速、を「変化領域」として定義している。
とが重要となる。
そこからSTEP5において、数十の「変化の予兆」
社内での展開とは、「未来洞察像」を元にして描
を抽出・定義した。この「変化の予兆」を踏まえて、
いたシナリオの時間軸での推移や発生確率、定点
STEP6で「予兆ネットワーク」を作成し、5つの
観測すべきポイントを明確にしていくことである。
FRIコンサルティング最前線. Vol.1, (2008)
123
ビジネス・クリエーション
中期計画や技術ロードマップとの整合性もはから
が出来れば幸いである。
なくてはならない。同時に自社の従業員に対して、
「未来洞察像」を積極的に開示していくことが重要
となる。全社として共有し、組織的・継続的にブラッ
シュアップしていくための仕組みや、ITとしての
整備も必要となる。
社外に対する開示とは、「未来洞察像」をお客様
へ積極的に提示し、議論を深めることを中心とす
る。そのような議論の中で「未来洞察像」そのも
参考文献
(1) P.F. ドラッカー:すでに起こった未来―変化を読む
眼、P.333、ダイヤモンド社、1994.
(2) キース ヴァン・デル・ハイデン:シナリオ・プラ
ンニング「戦略的思考と意思決定」、P.312、ダイヤモ
ンド社、1998.
(3) カール=ヘンリク ロベール:ナチュラル・チャレン
のも常にブラッシュアップされていくことが望ま
ジ―明日の市場の勝者となるために、P.301、新評論、
しい。同様にビジネスパートナーと共有、或いは
1998.
広く社外へ発信することも重要である。
Future Opportunity Modeling メソッドは企
業がイノベーションを起こし続けることを狙いと
している。そのために業界・業種、お客様のニー
ズに合わせて範囲・規模や進め方を最適化させて
ご提供差し上げている。本メソッドによって、お
(4) 鷲田 祐一:未来を洞察する―Foresight、P.229、エ
ヌティティ出版、2007.
(財)
(5) 経済産業省:未来を創るイノベーション、P.330、
経済産業調査会、2007.
(6) 根本昌彦:未来学―リスクを回避し、未来を変える
ための考え方、P.206、WAVE出版、2008.
客様が目指す姿を実現するための総合的なご支援
124
FRIコンサルティング最前線. Vol.1, (2008)
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