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米国留学記: ニュージャージーからニューヨークへ
〔千葉医学 92:103 ∼ 105,2016〕 〔 海外だより 〕 米国留学記 : ニュージャージーからニューヨークへ 千葉大学大学院医学研究院循環器内科学 門 平 忠 之 2013年11月から米国に研究留学をしており約二 にあり,EHMC における心臓カテーテル治療の 年半が経過いたしました。前半はニュージャージー 年間件数800−900件の半数近くを彼一人でこなし 州エングルウッド市にあるEnglewood Hospital and ております。米国人は心カテを行う際に冠動脈 Medical Center(EHMC)で,現在はニューヨー イメージングを使用しないことが多いのですが, ク市マンハッタンにあるCardiovascular Research De Gregorio 先生は血管内超音波の有用性に精通 Foundation/Columbia University Medical Center しておられ多用されています。治療方針に迷うよ (CRF/CUMC)で虚血性心疾患における冠動脈イ うな症例では「こんな時,Yoshi(小林教授)は メージングの臨床研究を行っております。留学記寄 どうするんだ ?」としばしば質問されました。日 稿という貴重な機会を頂きましたのでこちらでの体 本のカテーテル事情も絡めながら小林教授がされ 験をご紹介させていただきます。 るであろう decision making を返答するといつも 興味深そうに耳を傾けてくれました。研究面で ニュージャージー − EHMC − は, 1 万件超のカテーテル治療データベースを元 に,冠動脈分岐部病変や冠動脈レーザー治療の解 2013年11月から EHMC で勤務を開始いたしま 析,放射線被爆量の評価などをご指導いただきま した。ここで師事した De Gregorio 先生は,小林 した。 欣夫教授がミラノに留学されていた時に同僚だっ た先生で温厚かつ紳士的な方です。臨床面では熟 練したカテーテル術者として心カテの指導的立場 写真 1 コロンビア大学メディカルセンター。マンハッタン北部168丁目周辺に 病院と関連ビルが林立している。 104 門 平 忠 之 ニューヨークへ − CRF/CUMC − 空間分解能が10μm と極めて高く,冠動脈壁の脂 質,マクロファージ,石灰,線維性組織を描出, 2015年 7 月から CRF/CUMC に異動しました。 識別します。これを用いることで,従来の血管内 CRF はマンハッタンのタイムズスクエア傍にオ 超音波では描出できない詳細な所見が得られま フィスを構えており,様々な大規模臨床試験の中 す。私の研究テーマの一つは冠動脈の動脈硬化進 心施設として毎年のように New England Journal 行プロセスの解明であり,この光干渉断層法を用 of Medicine 誌に論文を掲載している,冠動脈研 いて冠動脈プラーク進行の natural history をより 究で世界を牽引している研究所です。小林教授は 微細なレベルで明らかにすべく日々奮闘しており アメリカにいらした時に,この CRF でご自身の ます。最も新しい画像モダリティが近赤外線分光 ラボ(血管内超音波ラボ)を持っておられました。 法で文字通り近赤外光を用いて冠動脈壁脂質の量 多くの米国人スタッフを雇い入れたり様々な国 的分布を検出するものです。これは血管内超音波 から留学生を受け入れて研究チームを組織され, と一体型のカテーテルになっており,通常の超音 数々の研究業績を発表してご活躍されておりまし 波画像と近赤外光画像を同時収集でき新たな知見 た。現在の私は,そこにリサーチフェローとして を生む可能性があります。これを用いた多施設共 在籍しております。主な業務は大規模臨床試験の 同研究のフォローアップ期間がちょうど終了した 画像解析を行うとともに自身の臨床研究や論文を ばかりで,現在リサーチフェローが一丸となって 執筆することです。私の研究テーマは,血管内超 データ解析に取り組んでいるところです。今夏頃 音波,光干渉断層法,近赤外線分光法を用いた冠 には私達フェローがその解析結果を順次発表して 動脈イメージングです。いずれも先端にセンサー いく予定です。 がついた直径約 1 ㎜の血管内カテーテルで,冠動 これらの研究を進めたり論文を執筆する過程 脈内に挿入することで冠動脈断面を観察できま で,上司の Mintz 先生から日々ご指導いただいて す。血管内超音波は20年以上前からあり日本の心 います。彼は冠動脈イメージングの世界的権威 カテ現場では幅広く使用されていて,空間分解能 で,膨大な知識量とその正確さに驚くばかりで は100−150μm で冠動脈内径,プラークの分布・ す。カンファレンスのディスカッションでは「○ 量などを描出,測定できます。光干渉断層法は, ○年の○○という雑誌の○○という著者が書いた 近赤外光を用いる比較的新しい画像モダリティで 論文の第○ページにある図を参考にしなさい」な 写真 2 Mintz 先生(前列中央)と留学生仲間。中段左端が筆者。留学生のほ とんどがアジア系。日本,中国,韓国,シンガポール,インドなど。 米国留学記 : ニュージャージーからニューヨークへ 105 どといった発言をしばしばされるので,私を含め ていきますが(しかも日本人は元来より手先が器 たフェロー一同はいつも目を丸くしています。 用 ! ),米国の心カテは個々の術者が若い頃から 週 1 − 2 日はコロンビア大学メディカルセン 独立してしまうため熟練者から技術指導を受ける ターのカテ室で冠動脈イメージング業務を行って 機会がほとんどありません。結果として,各術者 おります。心カテ術者の要請に沿って冠動脈イ の技量差が大変大きく未熟な心カテ術者も少なく メージング機器(血管内超音波,光干渉断層法, ありません。そのような場合には,我々のアドバ 近赤外線分光法)や冠動脈生理学機器(血流予備 イス一つで手技の成否が左右されることもあり, 量比 / 冠血流予備能 /iFR)を操作して所見を伝 その意味ではこのコロンビア大学メディカルセン えるとともに心カテに必要なアドバイスをすると ターカテ室での業務は大変やりがいのあるものに いうものです。「冠動脈プラークはどこからどこ なっています。 まで存在しており,そのプラークの長さは何ミリ で,冠動脈直径は何ミリである。途中には高度石 おわりに 灰化病変があるので十分なバルーン拡張が必要で ある」などと伝えます。これをもとに心カテ術者 今回の留学の機会を与えてくださった小林欣夫 が治療戦略を考えたり,ステントの大きさや長さ 教授に心から感謝申し上げます。今夏に帰国予定 を選択します。日本の心カテはチームとして行わ ですので米国留学で得たものを千葉大学での日常 れることが多く,熟練者が若手術者の手技を監督 診療と臨床研究に還元していきたいと考えており するため自ずとチーム全体の技術レベルが向上し ます。