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E:\紀要(第5巻2号)\05 モスク - 防衛省防衛研究所

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E:\紀要(第5巻2号)\05 モスク - 防衛省防衛研究所
小川 モスクワ条約の意義と課題
モスクワ条約の意義と課題
小 川 伸 一
はじめに
2002年5月24日、
米露は、
それぞれの戦略兵器運搬手段に搭載している戦略核弾頭 を約
三分の二削減 することを 定めたモスクワ条約に署名した。
モスクワ条約は、
停滞していた
STARTプロセスに代わり、
戦略核戦力の削減を再活性化する協定として 歓迎すべきだが、
戦略核弾頭の配備上限を 2012年 12月 31日までに 1,700∼ 2,200発とすること以外、ほと
んど何も米露に義務づけていない。しかも、1,700∼ 2,200発の配備上限は2012年 12月31
日の1日のみに 適用され、
翌日の2013年1月1日にはそうした義務はなくなる。
したがっ
て、
モスクワ条約下の米露両国は、
一時的な戦略核弾頭の配備上限と国防予算 という
「縛
り」
を除けば、
戦略環境の変化に応じて柔軟な戦略核戦力政策を打ち出すことができる。
こ
うした特徴を持つ条約が締結されたことは、
戦略核戦力について米露が互いに規制し合う時
代が終わったことを示唆しているのかもしれない 。
また、
モスクワ条約は、
米国の意向が強
く反映されているが 、
そうした条約が締結された背景には、
2001年9月11日に米国で生起
した同時多発テロを契機として米国との政策協調の度を高めたロシアの変化がある 。
本稿
は、
こうした特徴を有するモスクワ条約の意義と課題について論ずるものである。
1 経緯
冷戦終結前後から、米ソ(露)の戦略核兵器の大幅削減の道筋がつけられた。1991年7
月、米国のブッシュ(父: George H.W. Bush)大統領とソ連のゴルバチョフ(Mikhail
Gorbachev)
大統領は、
9年余り費やして交渉された第1次戦略兵器削減条約(STARTⅠ)
に署名し、ICBM、SLBM、重爆撃機など戦略兵器運搬手段の配備量を1,600基(機)、その
運搬手段に搭載できる戦略核弾頭を 6,000 発までに削減することに合意した 1 。そして
STARTⅠが署名されて約1年半後の93年1月には、
ブッシュ
(父)
大統領とロシアのエリ
START Ⅰは、戦略核弾頭・爆弾の配備数の上限を6,000 発に定めているが、これはSTARTⅠ独自
の弾頭・爆弾算定方法によるものである。すなわち、ICBMやSLBM搭載の核弾頭については、
「デー
タ・ベースの設定に関する了解覚書」で規定された実数を数えるが、重爆撃機搭載核弾頭・爆弾につ
いては「みなし数」で算定される。例えば、核弾頭搭載空中発射巡航ミサイル (ALCM) については、
1
『防衛研究所紀要』防衛研究所創立50 年記念特別号(2003 年 3 月)93 ∼ 110 頁。
93
ツイン(Boris N. Yeltsin)大統領の間で、個別誘導複数目標弾頭(MIRV)搭載 ICBM の
全廃ならびに戦略核弾頭 の配備上限を3,000∼3,500発と規定するSTARTⅡも署名された。
さらに 97年3月には、クリントン(William J. Clinton)
、エリツイン両首脳の間で、戦略
核弾頭の配備上限を2,000∼2,500発までに削減することを骨子とするSTARTⅢの枠組み
が合意された。
しかしながら、上記の合意のうち、条約として発効したのは START Ⅰのみである。
START Ⅱについては、条約の履行期限 を新たに5年間延長して2007年 12月 31までとす
る「STARTⅡ議定書」
や戦略弾道ミサイルを迎撃するABMとその他の弾道ミサイルを迎
撃する ABMの区別を定めた「ABM制限条約に関する第1、第2合意声明」の取り扱いを
めぐって米露の足並みが揃わなかったために 、
発効に至らなかった。
米国上院は、
1996年
1月、START Ⅱを批准したが 、クリントン政権は、97年9月に署名されたSTARTⅡ議定
書やABM制限条約に関する第1、
第2合意声明が上院によって承認される見込みが立たな
かったために 、
これらの合意文書を上院に送付することはなかった 。
他方、
ロシアの下院
は、2000 年5月にSTART Ⅱ、START Ⅱ議定書、それに ABM制限条約関連の合意を一括
して承認した。
このため、
米露は、
それぞれ履行期限の異なるSTARTⅡを批准する結果と
なった。さらにロシア下院は、START Ⅱ及び START Ⅱ議定書の批准時に、
「START Ⅱ批
准に関する連邦法」を成立させ、START Ⅱの批准書の交換は、97 年9月に署名された
STARTⅡ議定書 やABM制限条約関連 の合意を米国が批准することを 条件にしたため2、米
国上院がこれらの合意文書を承認しない 限り、
STARTⅡは発効できないこととなった。
ま
た、STARTⅢの枠組み合意に関しては、
STARTⅡの発効を条件に条約化交渉 が進められ
ることになっていたために3、
予備交渉の機会はあったものの、
本交渉は進められることが
なかった。
このように、
STARTプロセスは中途で停滞した。
その一因は、
クリントン 大統領と共和
党が多数を占めていた当時の米連邦議会との間の確執であったが、
最も大きな理由は、
クリ
ントン政権が進めていた国家ミサイル 防衛
(NMD)
およびABM制限条約をめぐる米露間
の対立であった 。クリントン政権は、いわゆる「無法国家(rogue states)
」が米国に届く
米国の重爆撃機1機あたり10 発、ソ連の場合、1機あたり8発と算定し、さらに核爆弾や核弾頭搭
載短距離攻撃ミサイル (SRAM) については、重爆撃機1機あたりの積載量にかかわりなく、1発と
数えることになっている。このため、実際に配備できる核弾頭・爆弾数は、優に6,000発を上回るこ
ととなった。
2
Arms Control Association,“Document: START Ⅱ Resolution of Ratification,” Arms Control Today , Vol. 30, No. 4 (May 2000), p. 28.
3
Arms Control Association,“Joint Statement on Parameters on Future Reductions in Nuclear
Forces,”Arms Control Today, Vol. 27, No. 1 (March 1997), p. 19.
94
小川 モスクワ条約の意義と課題
弾道ミサイルを開発・配備する事態に備えて、ABM制限条約を改定し、限定的なNMDを
配備する道を拓こうとした。
これに対しロシアは、
NMDをロシア の対米抑止力 を危うくす
るものと捉え、
NMD配備を阻止するためにABM制限条約の堅持を主張し続けた。
そして、
ABM制限条約の温存を図るためにSTARTプロセスの進展とABM制限条約をリンクさせた
のである 4 。2000年3月に発足したロシアのプーティン(Vladimir V. Putin)
政権は、
ABM
制限条約の若干の改定に応じる姿勢をとるようになったものの、
同条約の廃棄には反対の姿
勢をとり続けた。
2001 年1月に米国大統領に就任したブッシュ(George W. Bush)は、今日のロシア が
冷戦時代のソ連ではなく、
したがって米露関係も敵対関係にはないとして、
2001年5月1
日の米国防大学における演説で、
戦略核兵器の大幅削減を含む
「新たな戦略枠組み」
の構築
を訴えた5。
国防予算が米国の国防予算の約1割程度 で6、
しかも財政逼迫に苦しむロシア
のプーティン政権にとって、
こうしたブッシュ政権の新たな戦略核削減提案は渡りに船で
あった。こうしてプーティン大統領 が訪米した2001年 11月 13日、米露両首脳は、ホワイ
トハウスでの共同記者会見において、
戦略核兵器を大幅に削減する意向を示したのである7 。
他方、
ABM制限条約の取り扱いをめぐる 米露間 の対立は続いていたが、
この問題は戦略
核戦力の大幅削減という動きを押しとどめることはなかった。
米露首脳がホワイトハウスで
戦略核弾頭の大幅削減 を発表した日から丁度1カ月後の2001年12月13日、
ブッシュ大統
領は、
ABM制限条約から一方的に離脱する声明を出したが、
戦略核戦力の大幅削減を進め
るというロシアの姿勢は変化しなかった 。
プーティン大統領は、
米国がABM制限条約から
離脱する決定を下したことを「誤り(mistake)
」とする一方で、その決定がロシア の安全
保障の脅威にはならないと述べたのである8 。
ブッシュ政権は、
当初、
戦略核兵器の削減を、
条約など法的拘束力を有する文書で制度化
することに反対していた。
確かに、
核軍備管理・軍縮協定を締結するのは対立関係を前提と
4
例えば、
「START Ⅱ批准に関する連邦法」第2条は、米国がABM 制限条約に違反したり、離脱し
た場合、ロシアはSTART Ⅱから離脱する権利を有すると規定している。Arms Control Association,
“Document: START Ⅱ Resolution of Ratification,”p. 26.
5
U.S. White House,“Remarks by the President to Students and Faculty at National Defense
University,”May 1, 2001 [http://www.whitehouse.gov/news/releases/2001/05/20010501-10.html].
6
The International Institute for Strategic Studies, The Military Balance 2001-2002 (Oxford: Oxford
University Press, 2001), pp. 19, 112.
7
U.S. Department of State, Office of International Information Programs, “Bush, Putin Agree on
Cutting Nuclear Arsenals,”Washington File, November 13, 2001 [http://usinfo.state.gov].
8
U.S. White House, Office of the Press Secretary,“Response to Russian Statement on U.S. ABM
Treaty Withdrawal,”December 13, 2001 [http://www.whitehouse.gov/news/releases/2001/12/print/
20011213-8.html].
95
しているからであり、
米露関係はもはや敵対関係にはないと宣言してきたブッシュ大統領の
姿勢を考慮すれば、
敵対関係を前提とする条約のたぐいを米国から提案するわけにはゆかな
かった。
また、
戦略核戦力に最大限の柔軟性を付与するためにも 、
条約という 形で縛りをか
けられることに難色を示していた。
しかしながら、
ロシアが戦略核戦力の削減を条約化する
ことを主張し続けたことを考慮してか、
2002年2月上旬頃までには戦略核兵器の削減を法
的拘束力を備えた文書にまとめる方向に転換した9。
こうして、
ブッシュ、
プーティン両大
統領がワシントンにおいて戦略核弾頭の大幅削減を発表してから僅か半年後の2002年5月
10
23日、
両首脳はモスクワにおいて「戦略核弾頭削減条約」
(通称モスクワ条約)
に署名し
たのである。
2 モスクワ条約の骨格
モスクワ条約は、
前文と5カ条の条文からなる条約である。
第1条は、
戦略核弾頭の数的
上限と履行期限 を規定している。それによると、米露は、2012 年 12月 31 日までに、戦略
核弾頭を 1,700 ∼ 2,200 発以下に削減する。条文からは、1,700∼ 2,200発に上限を設定さ
れた戦略核弾頭が、
STARTⅠ、
Ⅱ条約のように戦略兵器運搬手段に配備されている 核弾頭
のみを指すのか、
あるいは予備として保管されている核弾頭も含んでいるのか明らかではな
い。しかし、同じ条文で、
「米国大統領が2001 年 11月 13日に、ロシア大統領が 2001年 11
月13日と2001年12月13日に述べたように戦略核弾頭を削減する」
と記されていることか
ら、
米国について 言えば、
1,700∼2,200発に上限を設定された 戦略核弾頭は、
「実戦配備の
戦略核弾頭(operationally deployed strategic nuclear warhead)
」を指していることに
なる。
「実戦配備の戦略核弾頭」
とは、STARTⅠ、
Ⅱ条約で言及されていたいわゆる
「配備
9
Peter Slevin & Walter Pincus,“U.S. Now Seeking Binding Deal with Russia on Nuclear Arms,”
The Washington Post, February 6, 2002. ちなみに米連邦議会のジョセフR. バイデン前上院外交委員
会委員長や共和党の有力者ジェシー・ヘルムズ上院議員なども条約にまとめることを要請していたと
言われる。David E. Sanger,“Bush and Putin to Sign Treaty to Cut Nuclear Warheads,” The New
York Times, May 14, 2002.
10
正式名称は、“Treaty Between the United States of America and the Russian Federation on
Strategic Offensive Reductions”である。START Ⅰ、Ⅱ条約では“Strategic Offensive Arms”と
の表現が用いられていたが、モスクワ条約では、戦略核弾頭の削減を企図しているものの、
“Arms”
を構成するICBM、SLBM、重爆撃機など戦略兵器運搬手段の削減を何ら規定していないため、意図
的に“Arms”という文言が条約名から削除されたという。この点については、ブッシュ政権が公表
したモスクワ条約の条文解釈を参照。したがって、
「戦略核弾頭削減条約」との邦訳がモスクワ条約
の実体をより正確に表現する名称といえよう。なお、上記条文解釈については、Arms Control Association, “Document: Letter of Transmittal and Article-by-Article Analysis of the Treaty
on Strategic Offensive Reductions,” Arms Control Today, Vol. 32, No. 6 (July/August 2002),
p. 29 を見よ。
96
小川 モスクワ条約の意義と課題
核弾頭(deployed nuclear warhead)
」とは異なり、実戦配備中の ICBM、SLBM、重爆撃機に
搭載されている戦略核弾頭と重爆撃機の基地内 に保管されている核爆弾
(弾頭)
のみを指
し、
オーバーホールなどでSSBN/SLBMから取り外された核弾頭 や一時的 にICBMから取
り外された弾頭などを含まない11 。
他方、
プーティン大統領 は、
ホワイトハウスでの記者会
見で、
「類似の措置をとる」との旨 12 、述べるに留めている。プーティン大統領が1,700∼
2,200発の戦略核弾頭の意味について明確に言及しなかった 理由は、
ロシアが、
米国と異な
り、STARTⅠ、Ⅱ条約と同様の
「配備核弾頭」
を基準に上限を規定することを望んでいた
からである。米露のこの相違は、
現在も未解決のままに残されている13 。
また、
第1条は、
戦略兵器運搬手段を含む戦略核戦力の構成に触れているが、
戦略核弾頭の削減途中、
あるい
は削減後の戦略核戦力の構成については、
米露が独自に決定できると規定しているに過ぎない。
戦略核戦力 の削減、
あるいは規制に関するモスクワ条約の条文は、
STARTⅠが効力を持
ち続けると述べる第2条を除くと、
上記の第1条のみであり、
戦略核弾頭の削減方法や削減
された核弾頭 の取り扱い、
さらにはICBM、SLBM、
重爆撃機など戦略兵器運搬手段につい
ては何ら規定されていない。
したがって、
既にSTARTⅠで規定された戦略核弾頭の削減義
務を履行し終えている米露両国は、
削減する戦略核弾頭の種類や削減された弾頭の処置につ
いては、
それぞれ自由に決定できることになる。
また、
戦略兵器運搬手段の削減・解体義務
も規定されていないことから 、
米露ともに、
STARTⅠの効力を存続せしめるとした第2条
の規定に則り、START Ⅰで設定された 配備上限1,600基(機)を超えない限り、戦略兵器
運搬手段を削減する必要はない。
第2条は、
STARTⅠ条約が、
同条約の規定通り、
効力を持ち続けることを 確認している。
こうした主旨の条文を載せた理由は、
ブッシュ政権によると、
モスクワ条約とSTARTⅠ条
約がそれぞれ独立した条約であり、
別々に効力を持たせるためであるという14 。
モスクワ条
Arms Control Association,“Document: Letter of Transmittal and Article-by-Article Analysis of
the Treaty on Strategic Offensive Reductions,” p. 29. U.S. Department of State, Office of
International Information Programs, “Bush, Putin Agree on Cutting Nuclear Arsenals.”また、
Michael R. Gordon,“U.S. Arsenal: Treaties vs. Nontreaties,” The New York Times, November
14, 2001.
12
U.S. White House,“President Announces Reduction in Nuclear Arsenal: Press Conference by
President Bush and Russian President Vladimir Putin, ”November 13, 2001 [http://
www.whitehouse.gov/news/releases/2001/11/print/20011113-3.html]. なお、
「類似の措置をとる」
との表現は“try to respond in kind”を邦訳したもの。
13
ロシアは、モスクワ条約で設置が予定されている「二国間履行委員会」でこの問題の解決を図る
ことを希望している。Philipp C. Bleek,“News and Negotiations: U.S., Russian Sign Treaty Cutting Deployed Nuclear Forces,”Arms Control Today, Vol. 32, No. 5 (June 2002), p. 25.Wade Boese &
J. Peter Scoblic,“The Jury is Still Out,” Arms Control Today, Vol. 32, No. 5 (June 2002), pp. 4-5.
14
Arms Control Association, “Document: Letter of Transmittal and Article-by-Article Analysis of
the Treaty on Strategic Offensive Reductions,”p. 30.
11
97
約には、
査察・検証規定が盛り込まれていないこと 、
そしてモスクワ条約署名時の米露共同
宣言において、
モスクワ条約の実施にあたってはSTARTⅠ条約の規定が援用されることを
謳っていることに鑑み15 、
モスクワ条約はSTARTⅠ条約の存続を前提にまとめられたとみ
ることができる。
ただし、
STARTⅠ条約は、
新たに5年間の有効期限の延長が合意されな
い限り、
発効して15年後の2009年12月5日に失効する可能性を秘めていることに 注意し
なければならない16 。
第3条は、
モスクワ条約の履行にあたっての 諸問題を討議する機関として、
「二国間履行
委員会(Bilateral Implementation Commission)
」を設置するよう規定している。この委
員会は、
少なくとも年2回開催 されることになっている。
第4条は、
条約の批准、
発効、
有
効期限、
脱退について規定している 。
批准と発効に関しては、
通常の条約と同様、
各当事国
の憲法上の手続きに従って批准され、
批准書の交換をもって発効することが定められてい
る。有効期限については、発効後、既に指摘した条約の履行期限である2012年 12月 31日
までと規定されている。
したがって、
モスクワ条約は、
条約の規定を履行し終えた日の翌日
には失効するという特異な条約ということになる。
ただし第4条2項は、
失効前に他の条約
によって取って代わられる可能性、
さらには当事国の合意に基づき、
有効期限を延長する途
も残している。また、
条約からの脱退に関しては、STARTⅠ、
Ⅱ条約などと異なり、
「自国
の至高の利益を危うくしている」
事態が生起したか否かに関わらず、
他の当事国に条約から
脱退する旨を書面で通告して3カ月後に脱退できると定めている。
第5条は、
条約の登録と
正文規定である。
3 モスクワ条約の意義
モスクワ条約は、
戦略核弾頭の削減に関し、
停滞していたSTARTプロセスに代わる新た
な道筋を提供した点で評価できる。STARTⅢの枠組み合意では、2007年12月31日までに
米露の戦略核弾頭の配備上限をそれぞれ2,000∼2,500発までに 削減するとされていたが 、
STARTⅢ枠組み合意の条約化交渉がSTARTⅡの発効を前提としていたために、
結局、
枠
組み合意のままで終わったことは既に指摘した通りである。
Arms Control Association, “Joint Declaration,” Arms Control Today, Vol. 32, No. 5 (June
2002), p. 11.
16
1994 年 12 月5日に発効したSTART Ⅰ条約は、その第17 条2項で、有効期限を条約発効後15 年
と規定しているが、当事国の合意を条件に、さらに5年間づつ延長できる。
15
98
小川 モスクワ条約の意義と課題
(1)
米国にとっての 意義
ブッシュ大統領は、
2000年の大統領選挙運動中から、
戦略核戦力の大幅削減を唱えてい
た。
モスクワ条約を成立させたことでその公約を果たしたことになるが、
ブッシュ政権に
とってさらに重要な点は、
ロシアがその対米姿勢を大きく変化させたことから、
戦略核弾頭
の削減とミサイル防衛
(ABM制限条約)
の問題を切り離すことに成功したことである。
プー
ティン政権は、ブッシュ政権の提案、すなわち、
米国とともにABM制限条約の廃棄、
ある
いはそれに同意できない場合はミサイル防衛を許容する米露共同宣言の発出17 、
という呼び
かけを拒否し続けていたが、
2001年9月11日に生起した米国同時多発 テロを境に、
その対
外政策の基本方針を対米協調へと大きく変化させた。
プーティン大統領は、
かねてからロシ
アの再生が米国を中心とする西側諸国との政治・経済上の協力関係の成否如何にかかってい
ると認識していたようだが、
こうした協力関係の進展が、
ABM制限条約という対立関係を
前提とする協定によって妨げられてはならないと 考えたと想定される18 。
ブッシュ政権は、
こうしたプーティン大統領の認識を推し量り、
大きな政治・安全保障上のコストを払わずに
ABM制限条約を廃棄できると考えたのであろう19 。
ブッシュ政権にとっての第二の意義は、
柔軟な戦略核戦力政策を可能とした点にある。
既
に述べたように 、モスクワ条約は、2012 年 12月 31 日までに「実戦配備の戦略核弾頭」を
1,700∼2,200発のレベルまでに削減することを規定するのみで、
戦略核戦力に関わるその
ほかの点にはほとんど規制を加えていない。
さらにこの配備上限も永続的なものではなく、
新たに合意が為されない限り、
2012年12月31日の翌日には失効することになっている。
こ
の結果、
ABM制限条約を廃棄してミサイル防衛の開発・配備に対する規制を取り払ったこと
と相俟って、
戦略環境の変化の応じて柔軟な戦略核戦力政策を採ることが可能となった。
第三の意義は、
核兵器の運用政策に関するブッシュ政権の考え方の多くをモスクワ条約に
反映させることに成功した点である。
例えば、
ブッシュ政権下の国防省 がまとめ 、
2002年
1月上旬、記者説明会の形でその概要が公表された「核態勢見直し(Nuclear Posture
Review)
」
とその4カ月後に署名されたモスクワ条約の間には、
以下の共通項 、
ないしは関
連性が見受けられる。
第一に、
戦略核弾頭の削減幅 と削減に要する期間である。
「核態勢見
直し」では、
「実戦配備の戦略核弾頭」を2007会計年度までに 3,800発、そして2012年ま
Alan Sipress,“U.S. Will not Seek to Alter ABM Treaty,”The Washington Post, July 25, 2001.
Joseph Cirincione,“No ABM Treaty, No Missile Defense,”The Daily Times (Pakistan), June 19,
2002.
19
同様の意見は、James M. Lindsay & Michael E. O’Hanlon,“Missile Defense after the ABM
Treaty,”The Washington Quarterly, Vol. 25, No. 3 (Summer 2002), p. 167.
17
18
99
でに 1,700∼2,200発に削減する方針を示していたが20 、
モスクワ条約においても、
同じく
2012年12月31日までに1,700∼2,200発に削減することが 規定されている。
二つ目は、
ICBM、
SLBM、
重爆撃機など戦略兵器運搬手段に対する姿勢である。
「核態勢見直 し」
では、
戦略兵
器運搬手段に関して、
10発のMIRV弾頭を搭載する50基のピースキーパーICBMを全廃する
とともに、
4隻のトライデント型SSBNを非核任務に転換すると述べる以外21 、
言及してい
ない。
しかも、
これらの措置は、
クリントン 前政権 が既に決定していた方針である22 。戦略
兵器運搬手段に手を加えないというブッシュ政権の姿勢は、
戦略兵器運搬手段の削減義務を
定めなかったモスクワ条約に受け継がれている。
三つ目は、
戦略兵器運搬手段から撤去する
形で削減する戦略核弾頭の取り扱いである 。
ブッシュ政権は、
「核態勢見直 し」
のなかで、
「実戦配備の戦略核弾頭」
に次ぐ第二のカテゴリーの戦略核戦力とも言うべき
「対応戦力
(responsive force)
」と称される予備戦力を構築する意向を示している。
「対応戦力」とは、
「核態勢見直し」
に関する上院軍事委員会公聴会に臨んだダグラス Jフェイス
(Douglas J.
Feith)
政策担当国防次官補によると、
戦略核戦力 の再構築の要に備える核弾頭であり、
戦
略兵器運搬手段に再装填するためには数週間、
あるいは数カ月の時間を要するものとされて
いる23 。
他方、
モスクワ条約では、
戦略兵器運搬手段 から撤去した核弾頭の処置については
何ら規定しておらず、
当事国の裁量に任せている。
撤去した核弾頭の取り扱いを不問に付し
たのは、
米国の上記の計画の為せるわざと言えるであろう 。
(2)
ロシアにとっての 意義
モスクワ条約には、
米国の意向が強く反映される一方、
ロシアの主張の多くは盛り込まれ
ることはなかった。例えば、ロシアは、撤去した戦略核弾頭の解体・廃棄を強く主張した
が、
米国の受け入れるところではなかった。
また、
常時発射できる核弾頭の配備上限を1,700
∼2,200発とした戦略核弾頭の数え方についても、
ロシアの主張は条約に反映されていな
い。さらに、ブッシュ大統領が2001年 12月 13日に ABM制限条約からの離脱声明を発し
た際、
こうしたABM制限条約からの脱退はロシアの安全保障を損なうものではないとの発
U.S. Department of Defense,“Findings of the Nuclear Posture Review,”January 9, 2002.
U.S. Department of Defense,“Special Briefing on the Nuclear Posture Review,”News Transcript,
January 9, 2002 [http://www.defenselink.mil/cgi-bin/dlprint.cgi].
22
Jim Garamone, “Review Changes Status of Nuclear Deterrent,”News Article, American Forces
Information Service, January 9, 2002.
23
Douglas J. Feith, “Statement of the Honorable Douglas J. Feith,”Undersecretary of Defense for
Policy, Senate Armed Services Hearing on the Nuclear Posture Review, February 14, 2002. 尚、そ
のほか再装填まで数年の年月を要する弾頭もあるとされている。
20
21
100
小川 モスクワ条約の意義と課題
言を添えていたが24 、
そうした文言は、
ロシア側の要求にも拘わらず、
モスクワ条約に盛り
込まれていない。
ロシアの戦略核戦力が逓減状況にあることやABM制限条約をこれまでの
ように対米交渉カードとして使用できなくなっていたことなど、
ロシアの対米交渉能力が損
なわれていたためである。
このようにモスクワ条約は、
ロシアの主張の多くを拒絶したが、
ロシアにとってメリット
がないわけではない。
第一は、
プーティン政権の主張通り、
戦略核弾頭の削減を法的拘束力
のある文書にまとめ上げることができた点である。
しかも、
条約で規定された戦略核弾頭の
上限は数字の上では均衡しており、
少なくとも外観上、
米国に並ぶ核大国としての面目を維
持できる 形となっている。
既に指摘したように 、
ブッシュ政権は、
当初、
戦略核兵器の削減
を一方的あるいは自主的に進めようとし、
条約など法的拘束力を有する文書で制度化するこ
とに難色を示していた。
しかしながら、
ロシアの立場に立つと、
米国の主張する自主的削減
を受け入れるわけにはゆかない 事情があったのである。
ロシアの戦略核戦力 は、
経済・財政
上の理由から逓減状態にあり、
米国の柔軟な戦力運用に対応する余力は限られている。
今日
のロシアの経済・財政情勢や国防予算の配分の在りようが大きく変化しないと仮定すると、
ロシアの戦略兵器運搬手段 に配備されている 戦略核弾頭は、
2010年頃までには、
1,000発未
満に落ち込むと予想する向きもある25 。
こうした状況において、
自主性を容認し、
米国に戦
略核戦力の削減、
あるいは維持・増強を自由に行えるような余地を残すことは、
核大国とし
てのロシアの地位を危うくすることになる。
また、
米国によって一定程度の国家ミサイル防
衛システムが配備されることが不可避であるとすれば、
戦略バランスを維持することがさら
に困難になる 。
したがって、
ロシアから見ると、
まず米国の戦略攻撃戦力の削減を固定化
し、
可能であれば、
ロシアの財政能力に見合った戦力レベルに近づけるべくさらなる削減を
求めようとしていたはずである。
このような理由から、
プーティン政権は戦略核弾頭削減の
条約化を求め続けたのである。
こうしたプーティン政権の意図は、
モスクワ条約に十分反映
されているわけではないが、
モスクワ条約が同条約に取って代わる新たな協定を締結する可
能性も残していることから、
少なくとも今後の交渉に望みを託することができよう。
ロシアにとってのモスクワ条約の第二の意義は、
MIRV化ICBMを配備し続けることが
可能となり 、
財政上の理由から戦略核戦力が縮減してゆくペースを緩和することが可能と
なった点である。
ブッシュ大統領がSTARTⅡで予定されていた戦略核弾頭の削減幅に匹敵
する削減を打ち出し、
ロシアもそれに呼応したことにより、
MIRV化ICBMの全廃を定めてい
The U.S. White House, Office of the Press Secretary, “Remarks by the President on National
Missile Defense,”December 13, 2001 [http://www.usinfo.state.gov/topical/pol/arms/stories/
01121302.htm]
25
Walter Pincus,“The Tough Task of Nuclear Reduction: History Shows Weapons are Hard to
Eliminate,”The Washington Post, November 17, 2001.
24
101
たSTARTⅡの死文化が決定的となっていたが、
これに追い打ちをかけるように、
プーティン
政権は、
ABM制限条約が失効した翌日の2002年6月14日、
かねてからの宣言通り、
STARTⅡ
を廃棄した 26 。この結果、ロシアは、STARTⅡで義務づけられたSS-18、-19、-24などMIRV
化ICBMを廃棄する必要はなくなり、
戦略核戦力維持のための費用の低減を図ることが可能
となるのみならず、
核弾頭の大幅縮減を回避できることになった 。
例えば、
SS-18だけを見
ても、
現在約1,440発の核弾頭が配備されており27 、
これらの核弾頭 はモスクワ 条約の有効
期間中、
配備し続けることができるのである 28 。
4 モスクワ条約の課題
先に指摘したように、
モスクワ条約に対しては、
頓挫していた米露の戦略核戦力の削減を
活性化させるものとして評価しなければならない 。
しかしながら、
同時に、
米露関係の安定
性、
核軍備管理・軍縮、
さらには核不拡散の視点から幾つかの疑問点 が見受けられるのも 事
実である。
第一の問題点 は、
米国主導の下で設定された 戦略核弾頭 の配備上限 がなぜ1,700∼2,200
発で、
それ以下でないのか説得力のある説明がないことである。
常時使用可能な戦略核弾頭
の配備上限 を1,700∼2,200発もの多数に設定した理由として、
ブッシュ大統領が不透明 な
将来に備えるためと説明しているほか29 、
米国に挑戦しようとする国家が現れるのを防止す
るためとか、
同盟国に安心感 を与えるためであるとの 説明がダグラス J フェイス国防次官
補によってなされている30 。
しかしながら 、
ロシアの戦略核戦力は逓減状況にあり、
このま
26
Michael Wines,
“After U.S. Scraps ABM Treaty, Russia Rejects Curbs of Start II,”The New York
Times, June 15, 2002.
27
Robert S. Norris et al., “Nuclear Notebook: Russian Nuclear Forces, 2002,” The Bulletin of the
Atomic Scientists, Vol. 58, No. 4 (July/August 2002), p. 72.
SS-18 の予想退役年は2012 年頃と見積もられている。例えば、Harold Feiveson,“Nuclear Arms
Control at a Crossroads,”Harold Feiveson, ed., The Nuclear Turning Point: A Blueprint for Deep Cuts
and De-Alerting of Nuclear Weapons (Washington, D.C.: Brookings Institution Press, 1999), p. 5 を
見よ。
29
U.S. White House, Office of the Press Secretary,“President Bush, Russian President Putin Sign
Nuclear Arms Treaty: Remarks by President Bush and President Putin at Signing of Joint Declaration and Press Availability,”May 24, 2002 [http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/05/
print/20020524-10.html].
30
Feith,“Statement of the Honorable Douglas J. Feith.”なおプーティン大統領は、米露両国以外
に核保有国が存在していることや核兵器が戦争を防止する効果を有していることを、配備上限を
1,700 ∼ 2,200 発もの多数に設定した理由と述べている。U.S. White House, Office of the Press
Secretary, “President Bush, Russian President Putin Sign Nuclear Arms Treaty.”
28
102
小川 モスクワ条約の意義と課題
まではモスクワ条約で規定された1,700∼2,200発の配備上限以下に落ち込む可能性がある。
また、ABM制限条約の論理を否定した2001年5月1日の米国防大学におけるブッシュ大
統領の演説から判断すると 、
ブッシュ政権のミサイル防衛構想は、
単に
「無法国家」
からの
ミサイル脅威に対処する限定的なミサイル防衛のみならず、
長期的にはより規模の大きなミ
サイル防衛システム、
すなわちロシアや中国をも念頭に置いた本格的な本土ミサイル防衛シ
ステムも視野に入れている可能性がある31 。
そうであれば 、
事前に、
ロシアや中国など挑戦
国となる可能性のある国家の戦略弾道ミサイル増強の余地を極力絞り込んでおかねばならな
いが、
そのためにはまず米国自身の戦略弾道ミサイル戦力の配備上限を下げておくことが不
可欠である。
1,700∼2,200発もの多数の核弾頭 を配備上限としたり、
数千もの核弾頭を備
蓄すれば、
挑戦国にもそうしたレベル の核弾頭の配備や備蓄を許すことになり、
その結果、
国家ミサイル防衛システムの軍事的効用が低下せざるを得ないことになる。
さらに、
米国の同盟国向けの核の傘の観点からみても、
戦略核弾頭が1,700発以下に落ち
込むと、
核の傘の信憑性・信頼性が低下するわけではない。
他の核兵器国 との比較におい
て、
「硬化目標即時破壊能力
(prompt hard-target kill capability)
」
を中心とする カウンター
フォース能力の優越性を維持できる見通しが立つ限り、
他の核兵器国と足並みを揃えて戦略
核戦力の削減を追求しても核の傘の信憑性・信頼性を脅かすことにはならない。
なぜなら、
核報復とその後の核エスカレーションの威嚇の信憑性の鍵となるのは、
軍事的には核の傘を
供与する国の「損害限定能力(damage-limitation capability)
」であるが、核の傘の供与国
の損害限定手段は、
ミサイル防衛などの戦略防衛と相手の核戦力を叩くカウンターフォース
能力、
とりわけ抗堪化された相手の攻撃戦力を短時間に攻撃・破壊できる硬化目標即時破壊
能力であるからである 。
今日、
中露の戦略核戦力に比べ、
圧倒的に優位なカウンターフォー
ス能力を持つ米国の戦略核戦力を顧みれば、
米国にはさらなる削減の余地があると言えるの
である。
ブッシュ大統領は、
米露関係がもはや敵対関係にはないと繰り返し宣言しているが、
結局
のところ、
即座に使用できる核弾頭 として1,700∼2,200発もの多数を配備することにした
ことにより、
従来通り、
ロシア、
とりわけロシアの戦略攻撃戦力を攻撃目標に据えた抑止戦
略をとり続けていると疑われても仕方がない32 。
繰り返し米露は敵対関係にないと言い続け
ながら、
他方でこうした姿勢をとり続けることは、
ロシアに対米不信感を持たせることにな
り、
米露関係の進展を妨げる要因となりかねない。
31
ブッシュ政権のミサイル防衛構想の二面性を指摘した文献としては、Lindsay & O’Hanlon,
“Missile Defense after the ABM Treaty,”p. 164.
32
同様の見方として、Richard Sokolsky,“Demystifying the U.S. Nuclear Posture Review,” Survival, Vol. 44, No. 3 (Autumn 2002), p. 140.
103
また、
条約で規定された1,700∼2,200発の上限は、
クリントンとエリツインの間で合意
に達したSTARTⅢの枠組みで明記された2,000∼2,500発より踏み込んだ削減というわけで
はない。
モスクワ条約が上限と規定した1,700∼2,200発は、
先に指摘したように オーバー
ホール中の核弾頭約250∼300発を除いていることから 33 、
結局、
STARTⅢと同レベル の核
軍縮と言って差し支えない。
第二に、
モスクワ条約で示された戦略核弾頭の削減は、
そのペース が異常に遅い。
しかも
撤去する形で削減する戦略核弾頭の処置については何も定めていない。
モスクワ条約では、
署名から約10年半後の2012年 12月31日までに「実戦配備の戦略核弾頭」を1,700∼2,200
発のレベルまで削減するとしているが、
戦略兵器運搬手段から核弾頭を撤去するのに、
何故
10年もの歳月を要するのか理解し難い。
ましてや運搬手段から撤去した核弾頭 を解体・廃
棄する義務はなく、
予備戦力として保管する途も残しているのである。
ちなみに、
1991年
9月、
ブッシュ
(父)
大統領が、
一方的核軍縮措置として、
西欧や韓国に配備されていた地
上発射の戦術核の撤去と廃棄、
海洋に展開されていた戦術・戦域レベルの核兵器の撤去と一
部解体を打ち出したが、
それから1年も経たない92年7月までにアジア・太平洋地域に配
備されていた 戦術・戦域レベル核兵器 は総て撤去され34 、
また欧州にあっては、
91年の時点
で配備されていた戦術・戦域核の8割以上が95年6月までの約4年間で撤去されたのであ
る 35 。
モスクワ条約が戦略兵器運搬手段から撤去する形で削減する戦略核弾頭について何ら規定
していないために、
撤去した戦略核弾頭 を解体・廃棄せずに 保管することが可能となった。
撤去した戦略核弾頭をこのように 取り扱うことになったのは、
ブッシュ政権が
「対応戦力」
と称する戦略核弾頭の備蓄政策を押し進めようとしたためであることは既に述べた通りであ
るが、同様の核弾頭の備蓄政策は、核軍縮を「主導(lead)
」するが、同時に不測の事態に
「備える
(hedge)
」
とのスローガンの下36 、
クリントン前政権もとっていた 。
しかしながら 、
クリントン大統領は、1997年3月のSTART Ⅲ枠組み合意で、撤去した核弾頭の廃棄・解
体協定の可能性を探ることや備蓄した核弾頭の透明性向上策を検討することをロシアとの間
で合意していたのである。
Ivo H. Daalder & James M. Lindsay,“A New Agenda for Nuclear Weapons,”Working Paper, The
Brookings Institution, January 9, 2002.
34
The International Institute for Strategic Studies, The Military Balance 1992-1993 (London:
Brassey’s, 1992), p. 14.
35
U.S. Department of Defense, Office of International Security Affairs, United States Security Strategy
for Europe and NATO (Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office, June 1995), p. 29.
36
U.S. Department of Defense,“Results of Department of Defense Nuclear Posture Review,”
September 22, 1994.
33
104
小川 モスクワ条約の意義と課題
今日の米国は、
保管施設からそのまま 戦略兵器運搬手段 に搭載できる
(active)
核弾頭を
約2,500発、
一定の措置を講じて使用可能な状態にできる
(inactive)
核弾頭を同じく約2,500
発備蓄していると 言われている 37 。
モスクワ条約に則って戦略核弾頭の削減が進められれ
ば、2012年末までに4,000発以上の核弾頭 が運搬手段 から撤去されることになる。
これら
の核弾頭のうち何割が
「対応戦力」
と位置づけられるのか不明であるが、
既存のアクティブ
核弾頭約2,500発の存在を考慮するならば、
数千のオーダーの核弾頭 が
「対応戦力 」
とされ
る可能性がある。
こうしたブッシュ政権の方針は、
戦略攻撃戦力の再構築 の途を残すなど 、
戦略環境の変化に適応できる柔軟性の保持、
あるいはロシアなど他の核兵器国と異なり、
米
国は核弾頭を製造する施設をもはや有していないために既存の核弾頭の解体・廃棄を急ぐわ
けにはゆかないためと説明されている38 。
しかしながら、
米国が戦力の再構築を睨んで柔軟
性を確保しようとすれば、
ともに戦略核の削減を約束したロシアにもこうした柔軟性を確保
する余地を残すことになる。
ましてや、
核弾頭を保管することの方が解体するよりコストが
かからないことを考慮すれば、
ロシアが核弾頭の保管を目指すことは火を見るより明らかで
ある。
ロシアの核管理の現状に鑑みると、
核弾頭をそのまま保管する方が、
核弾頭を解体した後
の兵器級核物質を保管する場合よりも盗難などの危険が少ないことは確かである。
しかしな
がら、
米露の戦略核弾頭が数千のオーダーで保管される事態となれば、
撤去した核弾頭の解
体・廃棄の方策を探ろうとしたSTARTⅢからの 後退を意味するのみならず、
核兵器などロ
シアの大量破壊兵器およびその 運搬手段の解体 を進めている「協調的脅威削減
(Cooperative Threat Reduction)
」計画との整合性も問われることになる。米国は、1991
年に成立したナン・ルーガー法に基づき、
協調的脅威削減計画との名称の下、
今日まで約
70億ドルを費やして旧ソ連邦諸国の核兵器などの大量破壊兵器およびミサイルの解体や管
理の強化を進めてきた39 。
ブッシュ政権はこうした政策を引き継ぎ、
2002年6月末にカナ
ダのカナナスキスで開催された G8サミットにおいて、
ロシアを除く参加国 に対し、
核兵
器を含むロシアの大量破壊兵器の処分や兵器級核分裂制物質の保全強化をさらに進めるた
めに、10年間にわたり新たに200億ドルの拠出を提唱し、他の参加国から合意を取り付
Philipp C. Bleek,“News and Negotiations: Nuclear Posture Review Released, Stresses
Flexible Force Planning,” Arms Control Today, Vol. 32, No. 1 (January/February 2002), pp. 2829.「核態勢見直し」に関する記者説明によると、
“active”な核弾頭とは、別段、手を加えることな
くそのまま戦略兵器運搬手段に搭載できる核弾頭であり、
“inactive”な核弾頭とは、トリチウムや
中性子発生装置などを取り外した核弾頭とされている。U.S. Department of Defense, “Special
Briefing on the Nuclear Posture Review.”
38
Feith,“Statement of the Honorable Douglas J. Feith.”
39
“Nuclear Weapons Subtraction,”Editorial, The New York Times, January 12, 2002.
37
105
けている 40 。こうした拠出金を求めながら 、
他方で、
ロシアに戦略核弾頭の保管を可能と
する途を残すことは、
同盟国にとって理解し難い政策と言わざるを得ない。
第三に、
STARTⅡ条約は、
戦略核弾頭を撤去したために不要となり 、
退役を余儀なくさ
れた戦略兵器運搬手段の多くについて解体・廃棄を予定していたのに 対し41 、
モスクワ条約
は、戦略兵器運搬手段に何ら規制・削減を課していない。この結果、米露両国は、START
Ⅰで定められた戦略兵器運搬手段 の配備上限 である1,600基
(機)
を超えない限り42 、戦略
兵器運搬手段の数量、
構成ともに自由に決定できることになる。
安定的な相互抑止関係の維
持という観点から見ると、
多数の戦略兵器運搬手段の配備を容認し、
その構成についても当
事国の自由裁量に任せることは理にかなっている。
しかしながら、
モスクワ条約は、
米露が
敵対関係にないことを 前提にしているはずである 。
したがって、
相互抑止の安定、
不安定と
いう問題は重要な考慮要素ではなく、
一定程度の戦略兵器運搬手段の削減を義務づけること
も可能であったはずである。
戦略兵器運搬手段に何ら規制を加えていないために、
モスクワ
条約は、
撤去した戦略核弾頭の処置を不問に付している事実とも相俟って、
必要とあらば、
STARTⅠが許容しているレベルまで戦略核戦力を増強する途を残していると言えるのであ
る。
また、
モスクワ条約は、
戦略兵器運搬手段や撤去した核弾頭の処置を両当事国に任せる
ことによって米露それぞれの戦略核戦力政策に最大限の柔軟性を与えているが、
こうした政
策は、
反面、
相手の戦略核戦力に対する予測可能性を困難にしていることも忘れてはならない。
第四は、
MIRV化ICBMの取り扱いである。
STARTⅡに匹敵する戦略核弾頭の削減を定めた
モスクワ条約が成立したことやブッシュ政権がABM制限条約から離脱したことなどから、
MIRV化ICBMの全廃を定めたSTARTⅡが未発効のままで終わることになったが、
ブッシュ政
権がMIRV化ICBMの全廃にこだわらない姿勢をとっているのは、
中国の戦略核戦力の増強、
とりわけICBMが近い将来MIRV化される可能性を考慮してのことであろう43 。
ブッシュ政権
が開発・配備を急いでいる本土ミサイル防衛システム に対する対抗手段の一つがICBMの
MIRV化を含む弾道ミサイル戦力の増強であるとするならば、
中国がMIRVの開発・配備に拍
車をかけてもおかしくない。
MIRV化ICBMを禁止するSTARTⅡが発効する一方で、
中国がICBM
のMIRV化に踏み切れば、
米国は中国のMIRV化ICBMに規制を加える有力なバーゲニング・
チップを失うことになる。
勿論、
中国のMIRV化をもたらす直接的誘因が国家ミサイル防衛
G8首脳声明「大量破壊兵器および物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」2002
年6月 27 日。
41
とりわけ、配備、未配備を問わず、SS-18・ICBM のミサイル本体を総て解体・廃棄することを定
めていた。
42
既に指摘したように、モスクワ条約の下では、START Ⅰ条約の効力が維持される。
43
2002 年1月に実施されたDF-31・ICBM の発射実験においては、MIRV が実験されたが、失敗し
たと伝えられている。The Washington Times, January 4, 2002.
40
106
小川 モスクワ条約の意義と課題
計画であるとすれば、
そのミサイル防衛システムを取引材料にすることも考えられる。
しか
し、
国家ミサイル防衛システムの迎撃能力が不確かであること、
さらに費用対効果の面で攻
撃ミサイルと迎撃ミサイルを如何に算定するかなどの困難な問題に直面する。
このように中
国がそのICBM戦力を増強する可能性に鑑みれば、
米国がMIRV化ICBMの温存を図ろうとす
ることも理解できないわけではない。
また、
ロシアのプーティン政権が米露関係の協調を志向していること、
さらにはロシアの
MIRV 化 ICBM である SS-18、-19、-24 の耐用年数が僅かとなっているため、START Ⅱの
発効如何にかかわらず、
早晩これらのICBMのほとんどが退役することも想定されること
から 44 、ロシアにMIRV化 ICBMの配備を容認しても、米国にとって深刻な脅威とならな
いと判断していると見ることもできる。
しかしながら、
米国がミニットマンⅢに施している
のと同様、ロシアもそのICBMに対し、延命措置をとることが可能である。また、MIRV弾
頭3発を搭載可能な新型 ICBM・SS-27も増強されている。1970年代に進められた第2次
戦略兵器制限交渉(SALTⅡ)以降、米国は、対ソ核軍備管理・軍縮交渉の重要な目標のひ
とつとして、ソ連の MIRV 化 ICBM の全廃を追求してきた。その理由は、MIRV 化 ICBM
の廃棄が米ソ間の戦略的安定を確保するために欠くことのできない措置であったからであ
る。
ブッシュ政権は、
米露関係が敵対関係ではないとしながらも 、
既に指摘したように実質
的にロシアを念頭に置いた戦略核戦力配備態勢をとっている。
ロシアの指導部がこうした米
国の姿勢を察知しないはずがないとすれば、
米露関係の推移次第で、
MIRV化ICBMが再び両
国間の戦略的安定を脅かすことも考えられるのである。
第五に、
モスクワ条約は戦術核兵器について何ら対策を講じていない。
今日、
国際安全保
障上の喫緊の課題は、
テロリストが戦術核兵器 にアクセスするのを防止することにある。
1997年3月、
ヘルシンキで開催されたクリントン・エリツイン首脳会談後に発表された共
同声明において 、
STARTⅢの枠組み合意に加え、
核弾頭搭載海洋発射巡航ミサイルと戦術
核兵器に対する規制を追求することが宣言されたことを顧みると45 、
モスクワ条約は核軍縮
の面で後退しているとの印象を持たざるを得ない。
戦術核兵器は持ち運びも容易であり、
テ
ロリストにとって格好の武器である 。
とりわけ、
発射統制装置
(PAL)
を備えているか 否か
不確かなロシアの戦術核兵器に関しては 、
依然として8,000∼12,000発も保管されている
と言われ、
解体・廃棄の進捗具合も明らかになっていない 。
ロシアの戦術核兵器 の総量把握
44
ちなみに、1998 年に米国の戦略司令部によって見積もられたSS-18、SS-19、SS-24の退役予想年
は、それぞれ2012 年、2006 年、2005 年であるFeiveson,“Nuclear Arms Control at a Crossroads,”
p. 5.
45
Arms Control Association,“Joint Statement on Parameters on Future Reductions in Nuclear
Forces,”p. 19.
107
と解体・廃棄を促進する新たな施策を米露間 で合意することが求められる。
第六に、
米露が保有・配備している戦略核戦力をどのように処理するかという 問題は、
米
露関係の推移や米露それぞれの戦略核戦力政策のみならず、
核拡散防止の視点からも思いを
巡らさなければならないが、
モスクワ条約には、
核拡散防止を念頭に置いて合意が図られた
という形跡は見あたらない。
例えば、
戦略兵器運搬手段をSTARTⅠレベルに温存し、
しか
も撤去した戦略核弾頭の多くを保管して戦力再構築の途を残そうとするモスクワ条約の姿勢
は、2000年5月に開催された核拡散防止条約(NPT)運用・検討会議の最終文書で言及さ
れた核軍縮の
「不可逆性」
に反することになる。
核軍縮の
「不可逆性」
が採択された 背景に
は、
後戻りを許さない核軍縮がNPT体制の信頼性や安定性 を確保するために不可欠との認
識があるからである。確かに、非核兵器国が核開発・保有に走る動機は、安全保障上の懸
念、
地域覇権、
外交手段の獲得など様々であり 、
米露など核兵器国が核軍縮 を進めても 、
そ
のこと自体必ずしも核拡散防止に直結するわけではない。
しかしながら、
非核兵器国が核開
発・保有の禁止義務を受け入れているのは、
米国など5核兵器国が核軍縮を進めることを前
提にしていることも事実である。
したがって、
米国をはじめとする核兵器国が核軍縮努力を
怠ったり 、
核兵器の意義を過度に強調したりすれば、
NPTの信頼性 や安定性を脅かすこと
になるのである。
以上、
モスクワ条約が抱える問題点を列挙したが 、
これらの課題の幾つかは、
米露の協力
関係の進展と、
それを反映した両国の戦略核戦力政策の展開如何で解決される可能性もあ
る。
また、
モスクワ条約自体がそれに取って代わる新たな協定の可能性を排除していないこ
とから、
将来、
解決に向けて交渉の対象となるかもしれない。
いずれにせよ、
今後の米露両
国の動向を注視する必要があろう。
おわりに
モスクワ条約は、戦略核戦力に対する規制・削減を追求している点で、
START(START
Ⅰ、Ⅱ)条約に類するが 、両者は似て非なる条約である。START が米ソ対立(STARTⅠ)、
あるいは協力関係が芽生えつつあった 米露関係
(STARTⅡ)
を背景に纏められた本格的 な
核軍備管理・軍縮条約であったのに対し、
モスクワ条約は、
ロシアの対米歩 み寄りと米露の
協力関係の進展を背景に、
合意内容よりも、
とりあえず合意文書を纏めることを重要視した
感を与える条約である。
例えば、
削減の対象となっている戦略核弾頭の数え方は合意に至ら
ないままにされているほか、
削減方法についても規定は見あたらない。
条約で定められたの
は、2012年12月31日までに 戦略核弾頭 を一定の数量までに 削減することであり、
その日の
108
小川 モスクワ条約の意義と課題
前後の配備数については、
米露の自由裁量 に任せる形となっている 。
また、
核弾頭を解体・
廃棄するか、
あるいは予備戦力として備蓄し、
将来に備えるか否かも自由に決定できること
になっている。
つまり、
モスクワ条約は、
米露の戦略核弾頭について 、
一定の時点における
搭載量を定めただけで、
戦略核態勢や核戦力の運用などはそれぞれ独自に決定する事柄であ
り、
互いに関知しないとの立場をとっていると 言っても過言ではない。
換言すれば、
米露、
とりわけ米国の為政者が、
上記の特徴を有するモスクワ条約を成立させることにより、
戦略
核戦力に関する核軍備管理・軍縮がもはや米露関係を律する最も重要な事案ではなく、
単に
米露間の幾つかの懸案の一つと見なしているとも受け取れるのである。
事実、
ブッシュ大統
領は、
モスクワ条約の批准を求めて同条約を上院に送付した際に添付したメッセージのなか
で、
モスクワ条約が新たな協力関係に入った米露関係の柱でも基盤でもなく、
単にこうした
関係の
「象徴」
であるとの認識を示しているのである46 。
モスクワ条約は、
米露間の戦略的安定の基盤が、
戦略核戦力などの軍事的要素よりも、
政
治、
経済、
国際安全保障上 の協力の在りようなど、
政治・経済的要素に移行しつつあること
を示唆している。
モスクワ条約の署名と同時に発表された共同宣言で、
「
(米露)
協力のため
の基盤」を説明した後、
「政治協力」
「経済協力」
、
「人的交流の強化」、
、
「大量破壊兵器 の拡
散防止:不拡散と国際テロ」
「
、ミサイル防衛、
戦略核攻撃戦力 のさらなる 削減、
戦略的安全
保障に関する新しい協議体」
と五項目を列挙し、
それぞれの分野での米露の協力関係の強化
を謳っていることからも 、
こうした変化を読みとれる47 。
しかしながら、
米露間の戦略的安定の基盤が、
核戦力を中心とした軍事力というハードウ
エアから、
解釈や認知に左右されがちな政治・経済、
安全保障上の協力関係に移るというこ
とは、
それだけ慎重且つ相手の利害を考慮した政策を打ち出すことが要請されることを意味
する。
こうした姿勢をとり続けることが容易でないことは、
今日、
米露がテロをめぐって協
力関係にありながら、
テロ問題と表裏の関係にある大量破壊兵器の拡散防止策でさえ、
両国
の政策には軋みが見られることからも窺える48 。
軍備管理・軍縮協定を纏め上げる第一の目的は、
事前に軍事力の構成や能力に一定の規制
を加えておくことによって、
何らかの理由で国家が対立関係に陥っても、
その対立がただち
に軍事力の行使に直結しない
「戦略的安定」
を創り出すことにある 。
こうした観点から見る
と、モスクワ条約は、軍備管理・軍縮の理念に則った協定とは言い難い。また、軍備管理・
U.S. White House,“Moscow Treaty: Message to the Senate of the United States,”June 20, 2002
[http://www.state.gov/p/eur/rls/or/2002/11347pf.htm] .
47
同様の見方は、戸崎洋史「戦略攻撃兵器削減条約 ―― 戦略的安定に持つインプリケーション」
『軍
縮・不拡散問題シリーズ』No. 17 (2002 年7月)、4頁。
48
ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と称するイラン、イラク、北朝鮮に対するロシアの政策、あるい
はロシア国内の生物兵器関連施設の取り扱いをめぐる米露間の意見の相違などを見よ。
46
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軍縮協定は、
対立関係が深刻な時代には成立しにくいが、
対立関係が緩和した時代には成立
しやすいという 特質を持つ。冷戦期(1982年)に交渉が開始されたSTART Ⅰが約9年半
の年月を費やして妥結したのとは対照的に、
冷戦終結後に交渉が開始されたSTARTⅡは約
1年半、
モスクワ条約に至っては 半年で纏められたことからも、
このことは明らかであろ
う。
もはや敵対関係ではないと 互いに宣言し、
多くの分野で政策協調が見られる現在は、
米
露にとって、
将来生起するかもしれない対立を政治的対立に留めるべく核戦力に規制を加え
ておく絶好の機会なのである。
米露が早期にモスクワ条約をフォロー・アップする協定に取
り組むことを期待したい。
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