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好熱性アーキア Thermoplasma acidophilum における DNA 複製
氏 名 論文題名 :尾木野 弘実 :Studies on the activation of the replicative helicase from the thermophilic archaeon, Thermoplasma acidophilum (好熱性アーキア Thermoplasma acidophilum における DNA 複製ヘリカーゼ 活性化機構に関する研究) 区 分 :甲 論 文 内 容 の 要 旨 DNA 複製の開始段階において二本鎖 DNA が解離した後、ヘリカーゼが装着されて複製前複合体 (pre-RC)が形成される。本研究は、pre-RC から複製フォークの進行に進む過程の分子機構解明を目 指したものである。真核生物ではヘリカーゼの本体である MCM が Cdc6、Cdt1 に依存して複製起 点上に pre-RC を形成し、DNA 上に乗った MCM は GINS、Cdc45 と共に「CMG complex」を形 成してヘリカーゼ複合体として活性化すると提唱されている。真核生物の GINS は 4 種類の異なる サブユニットからなるヘテロ 4 量体のタンパク質複合体である。全てのサブユニット間でアミノ酸 配列の相同性が認められ、これらのタンパク質はパラログの関係にある。しかし多くのアーキアで は、Gins タンパク質は 1 種類(Gin51)しか保存されておらず、アーキアにおける GINS 複合体の 機能解析は未だ不十分である。さらに、CMG complex の構成要素のうちの Cdc45 に相当するタン パク質がアーキアには見つからないとされてきたが、最近、アーキアの持つ RecJ 様タンパク質 GAN (GINS-associated nuclease)が Cdc45 と相同性を有することが指摘され、アーキアにおける複製 ヘリカーゼ複合体の正体の解明が急がれている。本研究では Gins51 のみを持つアーキアのうち、 Thermoplasma acidophilum をモデル生物として、Gins51 の構造及び機能の解析を行うことによ って、Gins51 が DNA 複製において果たす役割を明らかにすることを目的とした。また、GAN が 存在する場合の MCM の活性化の有無についても調査した。 まず、T. acidophilum Gins51 タンパク質を高純度に精製し、ゲル濾過クロマトグラフィー及び 電子顕微鏡観察を行い、Gins51 が 4 量体を形成していることを明らかにした。配列比較の結果、 Gins51 しか持たないアーキアでは Gins タンパク質に広く保存された A、B 両ドメインの間に、変 性状態のリンカー領域が存在することがわかった。さらに変異体解析により、このリンカー領域が 4量体の形成に必須であることを示し、Gins51 のみを有するアーキアでは、ホモ4量体形成のた めに特有の構造を獲得したことを提唱した。次に Gins51 が MCM の機能に与える影響を調べ、 Gins51 存在下で MCM の ATPase、ヘリカーゼ活性が促進されることを明らかにした。この結果は、 T. acidophilum においてホモ 4 量体の GINS が機能的に働いていることを示すものであり、同時に ホモ4量体の機能的な GINS 複合体を初めて示した結果である。 T. acidophilum には複製起点認識因子である Cdc6/Orc1 様のタンパク質が2種類(Cdc6-1, Cdc6-2)が存在するが、ゲルシフトアッセイによって、MCM、Gins51、Cdc6-2 は一本鎖 DNA 上 で複合体を形成することがを明らかにした。さらに興味深いことに、Gins51、Cdc6-2 の存在下で は MCM の DNA 結合量が上昇しており、Gins51 と Cdc6-2 両方が存在する場合に MCM は最も安 定に DNA 上に存在した。また、Cdc6-2 と GINS の共存下では、両者が相乗的に MCM のヘリカー ゼ活性を促進することも明らかにした。さらに、T. acidophilum 細胞抽出液を用いた免疫沈降実験 の結果、MCM、Gins51、Cdc6-2 は細胞内においても同じ複合体内に存在していることを示した 。 また、T. acidophilum には 2 種類の RecJ(RecJ1、RecJ2)が存在するが、RecJ1 は GINS と相 互作用せず、RecJ2 は GINS と安定な複合体を形成すること、その相互作用には Gins51 の B ドメ インが必須であることを発見した。しかし、RecJ2 存在下で MCM のヘリカーゼ活性の上昇は検出 されなかった。Gins51 の野生型と B ドメイン欠損型は同じ効率で MCM のヘリカーゼ活性を促進 したことから、MCM の活性化には Gins51 の B ドメインと RecJ2 は関与していないことが示唆さ れた。 以上の研究により、著者はアーキアの複製ヘリカーゼ複合体に関する多くの新しい知見を提供し、 アーキア・真核生物型の複製装置の構造と機能、および進化に関する我々の理解を大きく進展させ た。Cdc6 ホモログの関与する MCM の活性化は現在までに他の生物種では観察された例のない現 象であることから、T. acidophilum は、アーキアと真核生物に分岐した後で Cdc45 ホモログ(少な くとも RecJ 様タンパク質)を用いずに MCM を活性化する独特の機構を獲得したと予想される。