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Bluetoothプロトコルアナライザ BX1000

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Bluetoothプロトコルアナライザ BX1000
Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
Bluetooth Protocol Analyzer BX1000
伊 藤 猛 *1
河 邊 祐之介 *1
今 村 栄 *2
ITO Takeshi
KAWABE Yuunosuke
IMAMURA Sakae
Bluetooth は,手軽な近距離無線通信規格として期待されている。相互接続性を確保するため,アプリケー
ション分野毎にプロトコルスタックの使用方法を定義したプロファイルと,そのテスト手順が規格に含まれる
こと,および細かく規定されたロゴ認証制度があることを特徴とする。
Bluetooth対応機器の開発・テスト・デバッグ支援ツールとして,Bluetooth プロトコルアナライザBX1000を
開発した。本器と Bluetooth 対応機器との通信を行い,そのやり取りを記録・解析する。規格の要求するプロ
ファイルテスト機能をオプションで提供する。ロゴ認証のため,テスト機関へ持ち込む前のインハウステスト
を行うために,非常に有用なツールである。
Bluetooth is one of the standards of short distance wireless communication. To secure the mutual
connection between appliances, the standard of Bluetooth has "Profiles" of usage specifications of protocol stacks and test procedures of them in every application field, and also logo certification programs
that prescribe test procedures.
We have developed the BX1000 Bluetooth Protocol Analyzer that supports developments, tests and
debugs for Bluetooth devices. On the communication with Bluetooth devices, BX1000 stores and analyzes the communication data. Moreover, BX1000 provides optionally the profile test function that
performs the required tests conforming to the Bluetooth standard. In order to qualify the products by
in-house previous test ahead of formal certification tests, BX1000 is one of the useful tools.
1.
は じ め に
近距離無線通信規格の本命と目されている Bluetooth
要求するテストにパスしなければならず,当然負担が増
える。この負担を少しでも軽減するよう,Bluetooth Protocol Analyzer BX1000(図 1)
を開発した。
は,当初の見込みより 1 ∼ 2 年遅れて今ようやく市場が
現在 Bluetooth のプロトコルアナライザと呼ばれるも
立ち上がりつつある。遅れの要因には,相互接続性を確
のには,大きく分けて 2 種類ある。自らは通信に加わる
保するため規格の作成に時間がかかっているためと,製
ことなく,他の機器間でやり取りされるBasebandパケッ
品の認証制度を厳しく策定したことがあげられる。
トを記録するものと,自ら他の機器との間で通信を行い,
I E E E 1 3 9 4 や U S B など先行する他のデジタルインタ
HCIレイヤ上でその通信の様子をモニタするものである。
フェースにおいて,当初製品間の相互接続性に問題が
BX1000 は後者にあたる。
あったことの反省に立ち,Bluetoothではロゴを付けるた
めには満たさなければならない基準,パスしなければな
らないテストが定められている。これらの条件を満たす
ことにより,世界中どのメーカの製品同士でもBluetooth
ロゴの付いた製品であれば“繋がる,使える”ことを保
証する。このロゴ認証制度は Bluetooth という規格を特
徴付けるものである。
Bluetoothデバイスの開発者としては,ロゴ認証制度の
*1 通信事業センター 技術 2 部
*2 通信事業センター 技術 1 部
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図 1 BX1000 外観
横河技報 Vol.46 No.2 (2002)
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Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
L2CAP(Logical Link Control and Adaptation Protocol)
:
Profile Applications
論理チャンネルの設定,上位レイヤと下位レイヤ間の
OBEX
SDP
RFCOMM
パケット長変換,プロトコルの種類に応じてデータの
TCS
振り分けを行うプロトコル。
L2CAP
SDP(Service Discovery Protocol)
:
HCI
相手機器が提供するサービスを検索するプロトコル。
LMP
TCS(Telephony Control Protocol Specification)
:
Baseband
電話における通話のコントロール等を行う。
RF
RFCOMM:
RS-232C
(COMポート)
のエミュレーションを行う。こ
図 2 Bluetooth のプロトコルスタック模式図
れにより,Bluetoothによる接続を従来のCOMポート
における接続のように扱うことができ,既存のアプリ
2.
ケーションを容易に Bluetooth 対応とすることができ
Bluetooth とは
る。
Bluetooth とは,Ericsson,Nokia,Intel,東芝,IBM
OBEX
(Object Exchange Protocol):
など 9 社を中心とする Bluetooth SIG(Special Interest
ファイルやスケジュール,名刺などのデータオブジェ
Group,現在2000社以上が加盟)
が提唱,管理する近距離
クトを送受信するためのプロトコル。
無線通信の技術標準規格である。データ伝送速度は最大
723.2 kbps,伝送距離は送信電力が1 mWのとき約 10 m
2.2 プロファイル
である(100 mW 出力により最大 100 m)
。使用者が無免
Bluetooth機器では,前述のプロトコルスタックを使用
許で利用可能な 2.4 GHz 帯の ISM
(Industry Science and
することにより,様々なアプリケーションを実現するわ
Medical Band)
帯を使用しており,世界各地で共通に使う
けであるが,その使用方法が実装者毎に異なっていれば,
ことができる。1台のマスターに最大7台までのスレーブ
相互接続に支障をきたしてしまう。そこで Bluetooth 規
を同時に接続することができ,低消費電力で低価格,小
格では,想定されるアプリケーション毎に,プロトコル
型化に有利とあって,携帯電話などの通信機器とPC関連
スタックの使用方法を細かく規定している。それがプロ
製品,さらには家電品などをワイヤレスで繋ぐ次世代技
ファイルと呼ばれるものである。
現在13のプロファイルが規定されており,それらを使
術として注目されている。2005 年には携帯電話の 95%,
用するプロトコルによってグループ分けすると,図 3 の
ノート PC の 90% に搭載されるとの予測もある。
昨年 2 月には Bluetooth 規格 ver 1.1 が策定され,規格
ようになる。開発者は,開発する機器に実装するアプリ
の不明瞭点がかなり解消されたので,今後数多くの対応
ケーションにより,これらの中から必要なプロファイル
製品が登場すると思われる。
を選んで機器に組み込む。
2.1 Bluetoothのプロトコルスタック
Bluetoothのプロトコルスタック
Generic Access Profile
の模式図を図 2 に示す。
LMP(Link Management Protocol)
:
TCS Binary-based Profiles
Service Discovery
Application Profile
Cordless Telephony Profile
Intercom Profile
接続の確立,セキュリティ管理,
制御を行う。
HCI(Host Controller Interface)
:
ホスト(ソフトウェア)とホスト
コントローラ(B l u e t o o t h モ
Serial Port Profile
Dial-up Networking Profile
Generic Object Exchange
Profile
Fax Profile
File Transfer Profile
Headset Profile
Object Push Profile
LAN Access Profile
Synchronization Profile
ジュール)間の通信を規定する。
HCI が規格化されているおかげ
で,ソフトウェア開発者はLMP
等の下位レイヤを直接制御する
必要がなくなり,無線技術に関
する知識を必要としない。
図 3 Bluetooth のプロファイル
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Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
Performs
category “B”, “C” test
Test reports,
declarations &
documentation
BQA
(Bluetooth
Qualification
Administrator)
BQB
Product
Manufacturer
(Bluetooth
Qualification
Body)
BQTF
(Bluetooth
Qualification
Test Facility)
Product and
documentation
Performs
category “A” test
Test Report
Qualified
products list
Qualification
Program
Documents
図 4 Bluetooth ロゴ認証手続き
この他にも,様々なプロファイルが現在検討策定作業
3.1 BX1000 の機能
中であり,Extended Service Discovery Profile, Personal
BX1000は,プロトコルスタックの各レイヤの任意のコ
Area Network Profile, Basic Printing Profile, Hands Free
マンドを発行し,相手機器とやり取りするパケットを
Profile, Basic Imaging Profile, Hardcopy Cable Replace-
キャプチャし,デコード表示する。また,オプションと
ment Profile は策定間近である。
して,プロファイルテスト機能を持っている。
“他の機器
と通信を行う”という BX1000 の特長を積極的に利用す
2.3 Bluetooth のロゴ認証
ることにより,Bluetooth SIGで定められたConformance
Bluetoothロゴ認証手続きの流れを図4に示す。開発し
(規格を満たしているか)および Interoperability(相互接
た Bluetooth 対応製品は,BQTF(現在世界中で 5 ケ所が
続性の確認)
テストを行うと同時に,その経過を記録して
認定を受けている)
へ持ち込み,Bluetooth SIGで定めら
デコードし,テストおよびデバッグの支援を行う。
れたテスト手順に基づいて様々なテストを受け,それら
図5に,BX1000コントロールソフトウェアの画面を示
に全てパスした上で,BQB による審査に通って初めて
す。画面右上には,検出した Bluetooth 機器をリスト表
Bluetooth ロゴの認定を受けることができる。認定製品
示し,それらとの各レイヤでの接続情報を表示する。画
は,Bluetooth SIG の公式ウェブサイトに,“Qualified
面左側のコマンド設定欄では,HCI,L2CAP,SDP,
Product”として掲載される。
RFCOMM,TCS 等の各レイヤのパケットを選択して発
この他,製品を販売するためには,各国の法規に基づ
行する。パケットを並べてシーケンスを組み,順次自動
き,電気通信端末としての認定を受ける必要がある。日
本国内では,TELEC
(財団法人テレコムエンジニアリン
グセンター)
の認定を受けねばならない。公衆網へ接続す
る機器であれば,JATE(電気通信端末機器審査協会)の
認定も必要である。
3.
Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
これまで述べてきたように,Bluetooth 機器の開発で
は,Bluetooth SIGで定められたテスト手順を満たすこと
が必須である。ソフトウェアの開発者は,プロファイル
毎に定められた何十ものテスト手順を,一つ一つ実行し
て機器の動作をテストしなければならない。
図 5 コントロールソフトウェアの画面例
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Bluetooth プロトコルアナライザ BX1000
TELEC 認証:
“証明規則第 8 条第 23 号の無線設備 2.4 GHz 帯高度化
小電力データ通信システム”として,
“特定無線設備の
工事設計の認証”の申請を提出し,TELECにて試験を
受け認証された。
CE 認証
(欧州):
R&TTE 指令に従い,ETS 300 826 : 1997 と ETS 300
328 : 1996 + A1 : 1997に基づく試験を行い,適合を自
己宣言した。その後,販売予定の欧州各国に対して
Notification を提出している。
FCC 認証
(米国):
FCC Rules and Regulations Part 15 Subpart B Unin図 6 キャプチャーデータ解析ソフト
tentional Radiators および Subpart C Intentional Radiators に基づく試験を行い,適合を自己宣言した。
発行する機能も有している。さらに,BX1000にBluetooth
Bluetooth ロゴ認証:
プロファイルで規定されたアプリケーションサービスを
デモンストレーションや開発向けのBluetooth機器は,
登録し,擬似的にアプリケーションのサーバとすること
ロゴ認証を受けることはできるが,テストを受ける義
ができる。発行するパケットおよび相手機器からの応答
務はない。BX1000 は開発用途の製品なのでテスト仕
パケットは,画面右下の通信履歴欄にリアルタイムで表
様に定められたテストは省略し,BQB にはその旨と
BX1000 の仕様の申請のみ行った。
示され,それをキャプチャして後述するキャプチャデー
タ解析ソフトウェアで,詳細に解析することができる。
JATE 認証:
公衆網に接続する機器ではないため,取得せず。
プロファイルテスト機能では,Bluetooth SIGで定めら
れた各プロファイルのテスト仕様に基づき,テスト手順
を,コマンドパケットのシーケンスとして定義したもの
4.
お わ り に
のリストが画面に表示される。ユーザはシーケンスを選
本文では,Bluetooth 規格について概観し,Bluetooth
択し,必要に応じてパラメータを変更し,被検査機器側
機器開発者が,機器の開発途上またはBQTFへの持ち込
の初期設定を行った後,画面上の実行開始ボタンをク
み前に,手軽にテストを行うためのツールとして
リックするだけで必要なテスト手順を実行できる。テス
BX1000の機能を紹介した。また,BX1000が取得した各
ト手順の実行と同時にデータキャプチャも行われ,実行
種認証についても述べた。今後とも,BX1000によるテス
完了するとキャプチャも自動停止するので,テストの経
ト可能なプロファイルを拡充していく予定である。
過を詳細に検討することができる。なお,本プロファイ
ルテスト機能では,結果の判定はユーザが行う。
なお,BX1000 は,2001 年度のグッドデザイン賞を受
賞した。
図 6 に,キャプチャデータ解析ソフトウェアの表示例
を示す。キャプチャしたパケットは,時系列でリスト表
示され,画面左上の操作ボタンにより,選択したレイヤ
のフォーマットに従ってデコード表示される。パケット
毎に,より詳細なデコード情報をダイアログボックスに
表示し,パラメータの値を確認することもできる。下位
レイヤから上位レイヤに亘って,接続や交渉の過程が容
易に調べられる。万一テストに失敗したら,不具合はど
参 考 文 献
(1)Bluetooth SIG, Specification of the Bluetooth System, Volume 1
Core, Version 1.1(Feb. 2001)
(2)Bluetooth SIG, Specification of the Bluetooth System, Volume 2
Profiles, Version 1.1(Feb. 2001)
(3)Bluetooth SIG, Qualification Program Reference Document,
Version 0.9(Aug. 2000)
の時点かを知ることができ,デバッグの効率が著しく向
(4)Bluetooth SIG の公式サイト,http://www.bluetooth.com/
上する。
(5)ネットテクノロジーラボ,"最新技術解説 入門Bluetooth",技術
評論社,2001
3.2 BX1000 における各種認証
ここで,BX1000の受けている各種認証について述べて
(6)入谷,伊藤," ブルートゥースプロトコルアナライザ ",電子材
料,vol. 40,no. 1,2001,p. 74-77
おく。BX1000 は開発用途に用いるアナライザではある
が,Bluetooth対応機器であり,電気通信端末としての認
証も受けなければならない。
66
横河技報 Vol.46 No.2 (2002)
* Bluethooth は,ザ・ブルーツース・エスアイジー・インコーポレー
テッドの登録商標です。
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