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ポスターで見る 浜松文芸館のあゆみ

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ポスターで見る 浜松文芸館のあゆみ
浜松文芸館だより
No.30
い ざ な い
特別収蔵展 開催中
公益財団法人 浜松市文化振興財団
発
行
浜松文芸館(文責:溝口)
平成27年3月3日(火)まで
「ポスターで見る 浜松文芸館のあゆみ」
ポスターと多くの資料から、『浜松文芸館のあゆみ』を振り返
ろうと企画した展示会です。昭和63年4月に開館した『浜松文
芸館』。第1回の展示は、女流作家『鷹野つぎ展』でした。
「鷹野つぎ」は、明治23年浜松町下垂(現浜松市中区尾張町)に岸
家の二女として生まれ、本名は次。浜松高等女学校(現浜松市立高等学
校)に入学、校長田辺友三郎(童謡「モモタロウ」の作詞者)の影響を
受け文学に関心をもつ。
明治40年女学校を卒業後程なく、長野県出身で地方新聞の記者であ
った鷹野と出会い結婚。その後、島崎藤村に師事し、藤村の後援のもと
に創刊された女性雑誌『処女地』の誌友となる。同誌でもっとも実質的
な文学活動をし、作家として認められたのは彼女一人であった。
<第1回 ポスター>
著作は、
『子供と母の領分』『幽明記』
『四季と子供』等11冊である。
作品には望郷の思いが込められ、浜松は、生涯を通じて離れることがなかったようだ。
《浜松文芸の先駆者 参考資料より》
浜松市立高等学校に「鷹野つぎ」の詩碑が、村櫛海水浴場に歌碑が建てられています。
文芸館の四季
文芸館の大きなイチョウも全ての葉を落とし、風に吹か
れてとても寒そうに見えます。
厳しい寒さの中、駐車場を囲む緑の中に赤いツバキの花
を見つけました。裏庭にある木にもツバキが花を咲かせ始
めました。寒さに耐えて咲く冬の花の強さを感じます。
左の写真は、ランの一種「パフィオペディラム」でしょ
うか?ギリシャ語のパフィア(ヴィーナス)とペディロン
(サンダル、上靴)の2語からなり、
『ヴィーナスのスリ
ッパ』という意味で、花びらの一部が袋状になるところに
由来するそうで、英名は『レディーススリッパ』だそうで
す。事務室の裏に咲いています。
浜松文学紀行
井上靖と浜松
7
浜中時代の靖の文才と沼中時代のホラ話
井上靖の文学の目覚めは、
「夏草冬濤」に描かれているように、沼津中学校時代、図画と国
漢の教師前田千寸(ゆきちか)や親友藤井寿雄、金井広、岐部豪治らの影響で文学に親しむよ
うになったと考えられてきた。実際に、沼中卒業直前の大正15年(1926)2月の「学友
会会報」には、
「ここちよき衣のしめりよ靄ふかき灯ともし頃の町をゆきけり」など短歌9首
を残している。
しかし、それより5年も前の、浜松中学を去る直前の2月に刊行された「校友会雑誌」第五
十一号に、靖は「秋の夜」と題した次の文章を発表していた。
大空には宵の明星が煌(きら)めいている。月は昼の様に、梢の上に冱(さ)へ渡って居る。僕は何
時の間にか、月の麗しさにうかされて、裏の田圃の小川の橋の上に佇んだ。天林寺の森がこんもりと
して、薄黒く月の光に見へて居る。世間はひっそりとして木の葉の戦(そよ)ぎもなく、深い眠に落ち
た様に静かである。地には早や夜霧が降りたのか、稲の葉末には、琥珀の様な水晶の様な玉が煌めい
ている。月に対して、余声を張上げて悲しく鳴く虫の音は、切々にいよいよ秋の深くなったのを思は
せる。
折しも、冷やかな風は汀の秋草を吹き乍ら、面をはらった。町の方を見るとただ電燈ばかりが、輝
いてゐる。夜更けた郊外には、犬の鳴き声一つ聞へない。夜はいよいよ更けて、虫の声細く哀れは愈々
増してくる。
(大正10年2月)
すでに、作文の名人として学校中に知れ渡っていた靖だったが、この文章によって彼の名
はさらに高められたに違いない。原稿用紙1枚にも満たない短文だが、みずみずしい感性と
表現力の豊かさが感じられる文章である。
沼津中学に転校した一年間、靖の住まいは三島町大中島、現在の三島駅と広小路駅の中間
位の所にあった。近所に住み、靖ともう一人の転校生小林と三人で毎日電車通学した増田潔
は、
「われわれより少し小柄で、色は白く全体がシャクレ顔で、笑うと銀の前歯が光り」、二人
に比べると「なんとなく垢抜けしていて、都会的な雰囲気を多分にただよわせて」おり、
「わ
れわれ田舎者の知らない事をいろいろと沢山知っていた」と靖を語っている。
また、
「三人集まると彼は身振り手振りを交えて、面白おかしく、いろいろな話を二人に話
してくれた」が,靖の話はあまりに誇張され過ぎて、
「一種のホラ話になるここともしばしば
あった」とも言っている。シュウマイの話、増田が転校することになった浜松中学が如何に乱
暴な中学であるかという話、ジンギスカンというあだ名の級友に手紙を出してよろしく頼ん
でくれた話等々、全てが創作であったことを増田は暴露している。これらは文学好きな仲間
藤井らと出会う前のことで、中学一、二年の頃から靖には、後年小説家になる素地が萌芽して
いたことがわかる。
浜松文芸館「文学散歩」講師:和久田雅之
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