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第3教室 土づくりを考える(PDF:159KB)
分科会 第3教室 「土づくりを考える」 アドバイザー 太田保夫氏、横山和成氏 進行役 向山茂徳氏 ○向山茂徳氏 これから第3分科会を始めます。よろしくお願いします。申し遅れました、黒富士農場 の向山と申します。それでは、横山先生、太田先生から、自己紹介、これまでに取り組ま れた経過、経歴を含め、土づくりのお話をいただきたいと思います。 ○横山和成氏 はじめまして、中央農研の横山と申します。最初に資料の訂正ですが、アドバイザーの 紹介の部分で、土壌微生物学の専門家はあっているのですが、ザンビア、トルコ、ブラジ ル、フィリピンでの自然農法の普及は身に覚えがないので、カットしてもらえればと思い ます。では、簡単にやっていることの説明を行ないます。資料の中にソイルマークという のがあると思いますが、ソイルというのは英語で土壌、では、土壌と土の違いは何かとい うと、我々に恵みを与えてくれる土が土壌です。学生から30年、研究者になって21年 になるのですが、土壌というものはよく分からないものなのですね。この世の中で誰一人、 農業の恩恵を受けなくて生きている方はいない。それなのに農業の基本となっている土壌 について、はっきりとこうですと言える人は誰もいない。今でも毎日の研究の中で、新し い知識、情報がでてくるという世界です。その中で私がやっているのは、無数にいると言 われている微生物です。微生物を簡単に言ってしまえば、目には見えない小さな生き物。 私がノルウェーにいたときに、直接微生物を観察する技術があったものですから、見てび っくりしたのですが、1gあたり1兆いました。これを皆さんの畑で換算するとどの位に なるのか、1兆の生き物を1つの立方体になおすと、1辺が 1/1,000 ミリ、これが1兆積 み上がると 1/10g、皆さんの畑で、カサにすると1/10が生き物ということなのです ね。土というものは、元々は岩石。腐植という重要なものもありますが、それを除いたほ とんどが生き物で埋め尽くされている。ですから、土を見たら、それは生き物である。地 球というのは人類の惑星ではないのです。生物の惑星で彼らの遙かに長い歴史をもって、 僕らは最後の方で出てきて、彼らの力を少し借りて偉そうなことを言っているだけなんで すね。ですから非常に大きなものなのですけど、何をしているのか分からないということ で、なんとか一般の方にも伝えられるように、数字で表せないかやってきたのですけど、 いろんな名前が一杯出てきてですね、1兆の中には少なくとも 1,000 種はいるだろと。ほ とんど名前なんか付いていないので、種類を分類する方に聞いたら、1個の名前を決める のに2ヶ月はかかるよと言われてですね、じゃあ1兆決めるのにどの位かかるのかと、そ んなことをやるのはいやだと。今、先進的な農家さんに使っていただいているのが、ここ 2、3年前からですが、プラスティックの板にくぼみが96個、左方の1個だけが微生物 の餌が入っていないのですけど、他の95個にはいろんな糖であるとか、アミノ酸である とか、有機酸であるとか、デンプンのような大きな分子が入っていまして、色が付いてい るところは微生物が分解できない、それを発色により分かるようにした。もともとアメリ カのNASAとスタンフォード大学のベンチャーが作ったものなのですけど、それをもっ てきて土の研究に使ったのですね。連作障害というのは、なぜ起きなくなるのか、土壌の 微生物の生物多様性が一定レベルまであがると起きなくなる、物理的な技術でできるよう になりました。これには非常にお金がかかる。これをいかに安くできる、ちょっと試しに やってみようとなるまでにダウンサイトしたということで、今、民間企業が事業としてで きるまでになりました。皆様の土づくりの努力がどのレベルを達成しているのか数字で分 かる、今はもっと進んで、中にいる生物のバランスがどの位になっているのか、分かるよ うになってきました。土壌の健康診断として使っていただくと、皆さんのやっていること の正しさが分かる。ソイルマークは正しい農業をやっている証拠で、ある一定以上の農家 しか発行していません。客観性をもった指標を提供するということをやらせてもらってい る。 ○太田保夫氏 皆さんに知ってもらいたいことは、植物がうんこをしていることを知っていますか。生 き物というのは、自分で吸収をして、いらなくなったものは排せつしている。植物の排せ つ物はムシゲルというのですが、この中には微生物が一杯います。私も農水省に40年勤 めていましたが、農薬の検査で、微生物に対する影響というのを試験場では何もやってい ない。微生物がどういう役割をしているかというのをはっきりさせてもらう必要があると 思っております。植物の根のところに寄生している菌のことを菌根菌というのだけれども、 キノコも菌根菌なのですよ。微生物と植物は共生しているのですよ。講演の中で、人間は 60兆の細胞に対して100兆の微生物がいると言いましたが、人間は微生物と共生して いるのですよ。化学肥料とか農薬を使うと免疫力が無くなってくる。今までの農業を否定 するつもりはないが、これから農業を始めようとする人には化学肥料とか農薬を使うのを やめて欲しいと思っている。これからやっていただけたら非常にありがたい。生き物とい うのは排せつをする。その排せつ物に微生物が集まる。生物と微生物は関係して生きてい る。そういうことを覚えてもらいたい。 ○北杜市で有機農業、自然栽培をやっている畑山と申します。有機農業は最近やっている 人も増えて、技術というか効率化というところで進んできている。その中でよく見るのが、 透明のビニルによる太陽熱消毒で雑草の種を殺して、雑草の処理の手間を省くというもの が行なわれている。その他、通路に防草シートをひくことも行なわれている。こうしたこ とを行なうことによる微生物に対する影響というものを教えてもらいたい。 ○太田氏 畦をビニルで覆うと、ネコブとかが出なくなる。これはたぶんね、ビニルをかけて土壌 に温度をかけると、病原菌を抑えると言うこともある。植える前に1ヶ月位このように準 備をするといいのかなと思っています。 ○横山氏 これに関連して、化学農薬による燻蒸と、太陽熱や有機物を入れて水を張る還元消毒と かの違いは、微生物による影響なのです。農薬なんかをやると皆殺しなのですよ。皆殺し ということはマイナーなものからいなくなる。メジャーなものは残る。それが増えていく ので生物の多様性というのは減っていく。太陽熱なんかは、活発に動いているものから死 ぬのです。良く分裂しているとか、胞子を発芽したときに死ぬとか、そうした緩やかな方 法でやると生物の多様性は上がっていきます。あと雑草を何とかしたいという気持ちは分 かりますが、草生栽培という考え方もありますし、それほど、雑草を目の敵にする必要は ないのではないかと思います。太田先生が言っていたとおり、ムシゲルは植物によってみ な違う。微生物のムシゲルの好き嫌いがありますので、いろんなムシゲルがたくさん畑の 中にあるというのは、これは山の中と同じことになると思うのです。いろいろなムシゲル があることでマイナーなものが生きていける。きれいにすればするほど、ムシゲルは減っ ていく。土壌をつくってくれているという点で雑草もいいかなと思います。もう一点、科 学的な皆殺し消毒はもうやめた方が良い。自分の体にも良くない。使う人が一番被害を受 けている。農作物を作る人が一番健康でより良い生活をしているから、食べる人も健康に なれるのだと思うので、今からでもやめて頂ければ、新しい世界が開けると思います。 ○千葉県からきました、普及指導をやっています。雑草対策でマルチを使うが、長く使う と発芽が悪くなるという声を農家から聞くが、どうなのでしょうか。 ○太田氏 千葉県の農家に畑に苔が生えているかと聞くと、2~3人は生えているという。その点 で千葉県の農家は土づくりが進んでいる。苔が生えている水田では、土用干しをしなくて も良い。その当時、私は土用干しをすれば根っこが良くなり、実入りが良くなるからやれ よと言った一人です。だけど今は、鶏ふんを使った有機農業でお米を作っているのですが、 土用干しはしません。それは、シアノバクテリアや苔があれば、その光合成により出され る酸素により、根は健全に育つ。佐渡でトキを飼育している所の近隣の人達も、土用干し はしていない。有機農業をすれば、土用干しをする必要はない。私の村では、有機栽培の 米を森の大地コシヒカリという名前で販売している。 ○横山氏 還元消毒を開発したのは、北海道の道南農業試験場という道立のところ。彼らがやった のは、還元消毒期間を段々長くしていきます。そうすると次の年、病気が出るようになる。 やりすぎるとだめなのですね。ですから、ビニルマルチを張っている期間が長すぎること によって、最初は微生物の活性も高まるのですが、また落ちていく。そういうところに来 ているのかも知れませんし、また逆に、植物の根にとって微生物はストレスになっていの で、無菌にすると僕らが見たこともないくらい大きく育つ。土壌消毒というのはここから きていて、消毒することで無菌にする。そうすると、そこから窒素が出てくることと、植 物のストレスがなくなることで大きく育つ。これは凄いことだということで、土壌消毒が 広がった。それで、1回やるとやめられない。薬物中毒のようなもの。それで今でも続い ているということです。植物のストレスと微生物の活性は非常に難しいバランスにあるの ですが、植物のストレスが多いほど根は張る。無菌とは明らかに違う。土壌が豊かなとこ ろは根のボリュウムが全然違う。それだけ土にある養分を吸ってきます。そうすると味が よい作物が育つ。有機だから高く買ってもらうという時代ではないと思っている。有機だ から植物が健康になって、しかも美味しい。それで食べる人の健康に繋がって、初めて価 値というものになる。理屈に合った農業を行なっていくことが、皆さんの利点になってい くと思う。これが、土作りの本来の姿ではないのかなと思います。 ○山梨県で低減栽培をやっていまして、去年から無農薬、無化学肥料に近いことをやって いる。稲作で有機栽培を行なうのにハードルが高いというのは、有機は何もやってはいけ ない。土壌に有効成分がないと、どうしても味が落ちる。土壌中に最低限必要なミネラル とか養分の数値が示されれば、取り組みやすくなる。 ○横山氏 私は、有機農業、自然農法絶対主義ではない。ただ、方法として正しいと考えているの で、なるべく早く転換されれば良いと考えているのですけれども。北海道で一緒にさせて 頂いた農家でSRUという、土壌研究組合という農家の集まりなのですが、その方々は、 有機ではないのだけども過剰な化学肥料は使わない。それは経営的にももったいない。リ ン酸というのはいっぱい土の中にあるのに、菌根菌がいないために吸えないだけなんです よ。それでも散布するから、どんどんリン酸がたまっていく。そういうことはやめようと いう方達です。一番やっているのはミネラルバランスです。毎年計って、足りないものを 補給する。過剰にあると対極にあるミネラルの吸収を阻害してしまうのです。土壌を調べ ても微生物の活性は高いので、化学肥料をやれば全部だめかというものではないのです。 土を壊さない使い方、影響が少ないものを使いながら、だんだん土を良くして、微生物を 育てて薬から手を引いていく。冷静に考えていくことをしないとスローガンで終わってし まうとか、ちょっと変わった人しかできない農業では、やっている人も食べる人も不幸だ なと思います。 ○北杜市長坂町で農業をやっています。新規就農で16年くらいになるのですけど、生理 的に農薬は使いたくなかったので、いわゆる有機農業だったのですが、土地が疲弊してき てしまってうまくいかなくて、これではダメだなと思ったところ、たまたま、土壌学とか 施肥の仕方とかを教えてくれる人がいまして、それで改善したのですね。先ほど木村先生 が、窒素を入れなくても作物は育つということを言っていたのですが、どういうことで育 つのか。イネの場合、100kg採るのに2kgの窒素が必要と教えてもらったのですけ ど、それで土壌分析をして、残留量を引いて施肥量を決めて作物を育てている。窒素を入 れなくても育つメカニズムみたいなものが分かれば参考になる。 ○太田氏 木村先生はそう言っていたが、私は、有機物を堆肥にして、土壌に返していくことを行 なわないとダメだと思う。山の中の腐食というものは20%ある。ところが田んぼや畑は 6%くらいで、それがどんどん減ってきている。腐食の中には微生物も住んでいるわけで すから、非常に大事なもの。私は堆肥を入れていくということを前提に考えた方が良いと 思う。私が住んでいる村の有機農家の方は、水田で堆肥を使っていて、最小限の化学農薬 は使っている。私はこのお米を発芽玄米で食べている。非常に美味しい。 ○横山氏 少量でいかに作るかということは有りだけど、何も無くて作るとなるとまじないか、手 品ですよね。ただ、手品にもたねはある訳で、例えば空気中に窒素固定菌というのはいっ ぱいいるんですよ。ただそれが、どれだけ1年間の植物の肥料として固定されるかという と懐疑的なんでね。必要な分はなければいけない。木村先生は過剰にやる必要はないとい うことを言っていると思うので、必要量を調べて施肥をするというのは絶対に必要なこと。 今、自然農法でやっていることも科学的な方法で調べていて、確かに採り続けられるので すよ。私はこういう性格でして、化学は懐疑主義なのですよ。信じては終わりなのですね。 信じるのは信仰ですからね。分かったのは、自然農法の人達は、そんなにどっさり採らな いのですね。これは大事なことで、その場所にあるポテンシャル以上採ろうとすると、外 から足さなければいけない。微生物があって腐食があって蓄積があって、そこで採れるだ けのもの採る。上手なのですよ。売り先が決まっていて、それ以上採る必要がないのです ね。そして、ちゃんとした値段で売れるから、ちゃんとペイする。なおかつ、肥料も農薬 もやらないから経費が掛からない。理にかなっている。怪しいのは水稲で反あたり11表 とったとか、それはおかしいと思います。考えるとしたら、私達の農業はどの位の規模で 年間投資と売上げをどういう形で維持していくか、そのためにはどの位の値段で売るのか、 考えていけば経営は成り立っていくと思います。 ○甲府市でお米を作っています。兼業から専業になりまして3年になります。減農薬、減 化学肥料で作っています。食味、収量に重点をおいている。そのためには、どの様な土作 りをしようか、考えています。アドバイスをお願いします。 ○太田氏 私のところの村がね、鶏ふんを使って、減農薬で、除草剤なんかは使うのだけど、化学 肥料は使わない。それは、高く売れています。私なら、秋に鶏ふんとワラを入れて、土と 混ぜて、もう一回春先に鶏ふんをやって、そうしたらいけると思う。ジャガイモなんかは、 10月に鶏ふんの堆肥を積んで3月に畦の中に入れて、ビニルをかけておく。土をつくる ことを惜しんではだめだよ。田んぼもワラがあるから鶏ふんを入れて、土の中で混ぜてお く。そうすれば土がずっと良くなりますよ。 ○横山氏 鶏ふんについてですが、鶏ふんは特出する多様性を起こす。できれば牛ふんや馬ふんの 堆肥が良い。また深く入れると嫌気的な状態なので根を傷める。岐阜県の白川町の有機を やっている人は、水田は深耕しないで浅く耕すと、言われてみればそのとおりなのですけ ど。有機というのが、入れない、何かを使わないという、ないない有機じゃないですか。 こんなことを言って良いか分かりませんが、今、東日本の農業は原発事故で大変苦しんで いますよね。微生物がセシウムを喰うということはありません。いくら生き物だからと言 って原子を喰うということはないのです。だけどソイルマークの農家は全国で2,000 人くらいいると思うのですけど、微生物を多様化した農家の中で出荷停止になった農家は 1人もいません。土の中にはセシウムが入っているのですけど、セシウムとカリウムとい うのはすごく似ているので、ミネラルがバランス良く豊富にあると、選択的にセシウムを 吸わない。因果関係を言われると証拠がないので厳しいのですけど、経験則的に言うと、 土づくりをしっかりやっている農家は助かっている。土作りというのは重要なのですけど も、土というのは正直なので、これが良いだろうと思って、どさっとやるとしっぺ返しを してくれる。これが良いと思っても、めちゃくちゃぶち込めば何とかなると言うよりは、 やりすぎると害になる。皆さんの畑で自らリスクを負ってやるわけですから、少しずつや って、良いところを掴み取っていくということに尽きると思います。 ○東京から来ました市川と言います。減農薬、減化学肥料での米づくりを10年やってい まして、有機農業とか自然農法とかがいいよと言うけれど、なぜ、良いのかというものを、 生産者を力づけるようなものを作っていかない限り、消費者からは有機農業と言うけれど 雑多なものも含めたものにもなっていますので、これがこれからの課題だと思っています。 セシウムの話がでましたけど、今、東北地方でも有機農業というのが見直されている。研 究者の方々や生産者がなぜ、有機農業が良いのかというものや、生産性をあげるためには どうしたら良いのか、これからやらなければならない。そうしないと、有機の火は消えて しまう。 ○笛吹市で有機農業と自然栽培をやっています、服部と申します。私が作ったものを食べ て栄養になっているのか、体は健康になっているのか。土と体の免疫力の関係について、 はっきりできないか。 ○太田氏 私は84才になりますが、毎日、山を1時間歩いている。そして野菜を有機栽培で作っ て食べている。元気で長生きできるような農業を考えていくことが大事ではないか。 ○横山氏 免疫力の話ですけど、健康に育ったものを食べるというのは大事なことなのですけど、 健康に育ったもの、特に葉物は硝酸態窒素の量にすごい差があるのですよ。まさに研究の 現場では医学の部分と、そういった植物がもっている病気との抵抗力の関係について、研 究が始まろうとしている。私のところでは、活性酸素を生み出さないような成分がどの位 入っているか、土の微生物との関係がどうなっているのかという研究が始まっています。 また、次回、話が出来れば良いなと思っています。より良いものを作るというのが全ての 基本ですので、皆さん、自信をもって続けていただければと思います。