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プレート&フィン熱交換器の流路蛇行化による高性能化

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プレート&フィン熱交換器の流路蛇行化による高性能化
プレート&フィン熱交換器の流路蛇行化による高性能化
~排熱を有効的に利用し,地球に優しいエネルギーを生成する~
工学研究科 機械系工学専攻
ほ ん だ いつろう
准教授
本田逸郎
熱交換器・数値流体計算・伝熱・波状流路
近年,エネルギー資源として,放熱され
たエネルギーの再利用が注目されている.
家庭用に使用されている給湯器は,排熱を
利用し,家庭内の電力をまかなうことが可
能であるため,環境に優しいエネルギーと
して注目されている.しかしながら,そこで用いられる燃料電池
は,電気発生の際に反応熱が発生し,そのまま放置しておくと,
反応効率が下がるだけでなく,
機器の耐久性を損なう問題がある
ため,効果的に冷却を行うことが求められている.
図 1:燃料電池に設置される熱交換器
図 2:プレートアンドフィン型熱交換器
図 3:波状プレート
そこで,この熱を効果的に取り去り燃料電池の冷却を効果的に行うために,熱交換器が使用される.
熱交換器とは,温度の高い物体から低い物体へ効率よく移動させる機器であり,一般に,液体や気体と
いった流体を取り扱う.様々な種類の熱交換器があるが,その中でも伝熱面積が広く,熱交換効率が良
いものとして,プレートアンドフィン形状のものが注目されている.このプレートの形状において,単
純な矩形管に比べて,流路形状を変化させることによって伝熱面積を広くするだけでなく流体混合作用
が期待できる渦を形成できる,蛇行流路に注目している.
本研究では,この流路蛇行化の設計指針を得るために,三次元数値シミュレーションおよびアクリ
ル模型を用いた可視化実験を行い,流路内における流動特性を調査した.
本研究では,数値計算を用い,熱交換器内の流体流動現象を解いて流路設計を
行っている.市販の流体解析ソフトよりも高精度である自作コードにおける計算
により,熱流体の挙動を精度良く予測している.また,数値シミュレーションだ
けではなく,流体可視化実験も行い,レーザー光を用いた可視化画像を PIV と呼
ばれる流速測定法によって定量的な評価も行っている,さらに熱実験では,サー
モビュアを用いて流路内における温度変化を調査した.このように,コンピュータシミュレーション,流
れの可視化および流速測定,さらに画像による面での温度計測を一体として行っている機関,研究例は
非常に少なく,多角的な面からの熱交換器の性能評価が可能となっている.
高圧力下の新しい鉛蓄電池の充電技術の開発
〜次世代の高速充電技術〜
工学研究科 機械系工学専攻
ふくい
教授
けいすけ
福井 啓介
鉛蓄電池,高圧力,充放電操作,晶析技術
近年、注目されている蓄電池の充
6
PL
電容量や劣化は電極の品質に依
4
2
VT
存している。電極は表面で緻密な
3
酸化被膜が維持されることが不
1
可欠である。また、一般に超高圧
PH
力下では、結晶成長において緻密で格子欠陥の少ない
VL1 VL2
ものが得られる。電極反応にこの高圧力結晶化技術を
5
VH1
VH2
VH3
応用することで、大容量で急速充電にも耐えうる蓄電
1. 高圧セル
池の開発が可能であると考えられる。そこで、本研究
PH
高圧側圧力計
2. 増圧機
PL
低圧側圧力計
では超高圧力による新しい充電技術を開発することを
3. 六方バルブ
VH1,2,3 高圧バルブ
4. プランジャーポンプ
VL1,2 低圧バルブ
目的とし、鉛蓄電池を用いて充電/放電特性に対する圧
5. 圧力媒体(水)
VT
トップバルブ
6.
ソースメジャーユニット
力の依存性を検証した。実験では、図 1 に示すような
高圧充放電装置を用いて鉛蓄電池の製作を試みた。電
図 1 高圧力充放電装置
池は棒状の鉛を電極とし、電解質溶液として 27wt%の希
硫酸を用い、電極間距離は 5mm とした。電源装置を用いて、定電流による任意の時間の充電と定電流によ
る 0V までの放電を繰り返した。充放電の間、1sごとに電極間の電圧を測定し記録した。今回は、充電電
流を 10mA、放電電流を 0.5mA、充電時間を 3 分として、1atm(大気圧)及び 100atm の圧力下でそれぞれ 50
回充放電を繰り返し、充電効率を比較した。実験結果として、充放電の繰り返し数とアンペア時効率の関
係を図 2 に示す。アンペア時効率とは、放電時に得られた電気量と充電時に与えた電気量の比である。こ
の実験では放電開始から端子電圧が 1.89V になるまでの電気量を放電時に得られた電気量として使用し
た。図 2 より、充放電の回数が 28 回までは 1atm,100atm ともほぼ同じ挙動であるが、その後 1atm よりも
100atm の方が充電効率は高くなった。これは、通常大気圧下での高電流の充放電ではガス(酸素と水素)が
発生するが、高圧力下ではガスは発生せず、その結果電極の劣化を防いだと考えられる。この実験で得ら
れた正電極の表面写真を図 3 に示す。この図より、100atm で充放電した電極では結晶粒子が小さくなって
いることがわかる。これによって、充電効率が増加したものと考えられる。
アンペア時効率 [-]
1.0
1atm
100atm
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
10
20
30
40
充放電回数 [-]
50
60
図 2 アンペア時効率と充放電回数の関係
1atm x3000
100atm x3000
図 3 正極表面の結晶の顕微鏡写真
すべての2次電池の充放電の基本原理に対する高圧力効果の研究により、電
極での核発生と成長をコントロールできるようになれば、すべての2次電池
において充電時間の大幅な短縮、蓄電池の耐久性と電気容量の大幅な向上が
実現できるようになる。今後,この高圧力バッテリーが普及すれば、電気自
動車や一般家庭用蓄電池等の新しい電気利用システムに役立つ。
高機能ネットワークポリマーの設計指針
〜エレクトロニクスデバイスや先進複合材料への展開を目指して〜
工学研究科
機械系工学専攻
教授
きし
はじめ
岸
肇
高分子、エポキシ樹脂、ポリマーブレンド、高靱性、
高弾性率、低熱膨張、接着、複合材、
接着性、耐熱性に優れるエポキシ樹脂は、塗料、接着剤、電子材料、航空機構造材、
土木・建築等の多分野で用いられるネットワークポリマーだが、脆さが課題である。
強靭化すれば、例えば航空機、自動車の部品厚みが薄くなり、構造体の軽量化・省
兵庫県立大学工学研究科『高分子材料工学研究室』のキーワード
エネルギーに貢献できる。
Chemical 相構造・ゲル構造 Physical
本研究室では、高分子改質剤を設計
自己組織化
し、エポキシブレンド樹脂中に様々な形態のナノサイズの
植物バイオマス
光劣化、環境
構造を自己組織的に形成する技術を見出した。ナノ相構造
力学特性
熱特性
導電、イオン伝導
樹脂
(強度、靭性等)
解体性
形成技術を用いれば、例えばエポキシ樹脂本来の接着性や
エポキシ、シアネート 変形・破壊・疲労
レオロジー、緩和
ネットワークポリマー
耐熱性を維持したまま、元のエポキシ樹脂と比べて 10~20
相互作用
振動・エネルギー吸収
ブロック共重合体
倍強靭な樹脂となる。この技術は他のエンジニアリングプ
界面
ラスチックにも活用でき、導電性接着剤や制振性接着剤の
接着・粘着
複合材
作成への応用も可能。さらには、熱特性、イオン伝導性や
ナノコンポジット
疲労機構解明といった基礎研究にも注力している。
Mechanical
c)
b)
a)
200nm
200nm
200nm
200nm
図 1 エポキシ/アクリルブロック共重合体ブレンド樹脂中に形成される種々のナノ相構造
(a)ランダムシリンダー
(b)湾曲ラメラ
(c) 配列シリンダー
H 2N
2500
67
2000
湾曲ラメラ
1500
1000
1-4APB
69
ランダムシリンダー
球
500
線膨張係数 (ppm/K)
破壊靭性 ;GIC [J/m2]
3000
O
O
H 2N
65
H2N
O
O
NH2
1-2APB
NH2
H 2N
O
O
NH 2
4-4DDS
2-3APE
NH2
59
O
3-4APE
63
61
NH 2
1-3APB
NH2
O
NH2
H2N
O
S
NH2
O
57
0
O
4-4APE
H2N
H2N
3-3DDS
O
NH2
S
O
0
5
10
15
20
ブロック共重合体添加量 [wt%]
図 2 アクリルブロック共重合体添加エポキシ樹脂の靱性
(ランダムシリンダー構造により 20 倍以上の強靭化を実現)
55
1.18
1.19
1.2
1.21
1.22
1.23
1.24
密度 (g/cm³)
図 3 線膨張係数と化学構造や密度の関係
・種々の高分子(樹脂)
・接着剤・複合材の高性能化、高機能化を目指した工学研究
・化学・物理学・力学といった基礎学問を融合し、新コンセプトを提案
・物質と現象の徹底的観察と基礎理解から仮説を立て、実験検証する研究姿勢
・専門領域を限定せず現場から学び、切磋琢磨の中で成長する研究室(学生たち)
プラズマと光が拓く未来
〜核融合から産業応用まで〜
工学研究科
電気系工学専攻
こ
准教授
が
ま
ゆ
こ
古賀麻由子
レーザー,プラズマ,核融合,放射光,X 線,高時間空間
分解計測,DLC
エネルギー問題の解決策の 1 つとして核融合が注目されています。核融合の方式と
して大きく分けて磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式の2つがありますが、私は
レーザーを用いた慣性核融合、なかでも高速点火核融合について研究を行ってきま
した。高速点火核融合とはターゲット燃料をナノ秒パルスレーザーで爆縮し、最大
圧縮に至った瞬間、外部から超高強度ピコ秒パルスレーザーを注入して追加熱を行
うというものです。実験では数 100keV 以上の高エネルギーX 線や強力な電磁波が発生する「過酷な状況で
使用できる計測器」が不可欠です。またそれらの計測器を用いてプラズマをモニターしながら「高効率加
熱」を行うことが求められています。
実験で発生する高エネルギーX 線は計測器に強力
な背景ノイズを引き起こします。私は入射 X 線の
エネルギーが高くなるほど全反射に必要な臨界角
が小さくなることに着目し、X 線フレーミングカ
メラ(図参照)にプラチナ蒸着ミラーを導入して
全反射 X 線エネルギー弁別システムを構築、過酷
環境下で鮮明な画像計測を行うことに成功いたし
ました。
また高速点火核融合において高効率加熱を行うた
めには、爆縮コアプラズマの最大圧縮のタイミン
図 X 線フレーミングカメラの原理
グで追加熱レーザーを入射する必要があります。
つまり、爆縮コアプラズマと追加熱レーザー入射タイミングの同時計測が不可欠であるということです。
そこで、高エネルギーX 線の信号を有効利用し、爆縮コアプラズマ計測と同時に追加熱レーザーの入射タ
イミングを算出する方法を確立しました[1]。
現在の研究テーマの1つは「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーンの開発」です。原子番号が低い材
料(低 Z 材料)をコーン材料に用いることで、加熱に寄与する高速電子の散乱を低減し、加熱効率を上げ
ることができると予想されています。またレーザーを用いた計測器開発も行っています。
「21 世紀は光の時代」と言われます。私はこれまで「プラズマと光」をキーワード
に研究を行ってきました。高速点火核融合実験は特別な装置を用いた実験ですが、
この実験に関連する研究成果は産業応用にも生かすことができると考えています。
例えば DLC 厚膜形成技術や DLC による微細構造の形成技術などです。DLC の蒸着は工
業分野で広く行われていますが、ほとんどが厚さ 0.3 ミクロン以下であり、コーン
を形成可能だと考えられる 10 ミクロン程度という厚膜を形成した研究はまだ多くありません。これらの技
術は高強度、低摩擦力を有する微細部品の製作技術として工業分野で広く応用可能であり、非常に有益な
技術となると考えられます。
他にも X 線画像計測とレーザープラズマの知識を応用し、よりシンプルな構造で安価な高速画像計測シス
テムを構築できるのではないかと考えています。高速画像計測はエンジン燃焼、射出成形、レーザー加工
など様々な産業分野で必要とされていますが、計測機器が大変高額なためあまり普及していません。レー
ザーを用いた高速画像計測システムはこれらの産業分野に役立つものになると考えています。
関連論文
[1] M. Koga et al., Rev. Sci. Instrum. 79, (2008) 10E909.
マイクロリアクターを用いた携帯型 ELISA 分析装置の開発
〜環境・食品・臨床現場でのその場分析を手軽に安価に!〜
工学研究科 物質系工学専攻
たけお
准教授
武尾
まさひろ
正弘
マイクロリアクター,環境分析,食品分析、臨床分析、酵
素免疫測定法(ELISA)
近年、海外から輸入される農作物の増加と 2006 年に国が施行したポジティブリスト
制度(分析すべき農薬の種類を大幅に拡大)により、輸入農作物から残留農薬が検
出される件数が一挙に増加し、食の安全性の観点から国民の大きな関心事になって
いる。スーパー等の食品販売現場では、その場分析で残留農薬の迅速な判別ができ
れば心配なく商品を販売することができる。また、鳥インフルエンザなどの新型感
染性疾病の国内への侵入が危惧されているが、空港等で迅速に感染者を判断できれば、このような疾病の
侵入を未然に防ぐことができる。さらに、高齢化社会では在宅での老人の健康ケアーが重大な課題となっ
ているが、唾液等、無痛で採取できる試料を用いて在宅で健康診断できれば、病院へ行く労力やコストを
大幅に削減できる。これまで、このような高感度分析は専門の施設で大型分析装置によってなされてきた
が、同機能・同感度を有する携帯型分析機が開発できれば、大きな社会貢献となる。
本研究では、このような携帯型の高感度分析装置を開発するために、まず、当学工学研究科・遊佐准教
授と共同で開発した環境ホルモン・ノニルフェノール分析用の抗原内包型樹脂を用いて、高度産業科学技
術研究所・内海教授に放射光施設 New SUBARU でマイクロフィルターに加工して頂いた。次いで、これを積
層型マイクロリアクター
に設置した。このマイク
ロリアクターに、複数台
⑥
の精密マイクロシリンジ
③
②
④
ポンプ、パームトップサ
イズの蛍光分光光度計、
高輝度 LED 光源などを接
⑤
続し、完全自動分析シス
テムを構築した(左図)。
このシステムを用いてノ
ニルフェノールの高感度
③
分析を実施し、市販分析
②
キットより 10 倍以上高
④
⑥
⑤
感度に測定することがで
①制御/測定用PC
②高輝度LED光源
きた。また、市販分析機
③蛍光フローセル
レベルの再現性を達成で
④光ファイバー分光光度計
①
きた。現在、実機開発に
⑤積層型マイクロリアクター
向けたシステムの小型化
⑥精密シリンジポンプ
とパッケージ化を進めて
いる。
全自動ELISA分析システム
酵素免疫測定法(ELISA)は、臨床分析等の分野で広く採用されている分析法であ
り、簡便な分析手法で大型高感度分析機並みの分析が可能であるが、プレートウォ
ッシャーやプレートリーダーなどの装置が必要で、未だ可搬型の分析機が市場に出
ていない。本研究では、マイクロリアクターに新規開発の抗原内包型樹脂製のフィ
ルターを装着する新規競合 ELISA 法で、環境ホルモンのような低分子の高感度自動
分析に成功しており、システムの小型化やパッケージ化が実現すれば、実機の販売が近い将来可能となる。
システムのパッケージ化や制御用プログラムの作成に実績のある協力会社の参画を期待する。
セシウムおよびストロンチウムイオン吸着材の開発
〜放射性物質の除去をめざして〜
工学研究科 物質系工学専攻
准教授
にしおか
ひろし
西岡
洋
放射性物質,セシウム,ストロンチウム,吸着材
平成 23 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原
子力発電所事故に伴う放射性物質の拡散が問題となっています。原子力発電はウラ
ン 235 の核分裂によって発生するエネルギーを利用しています。ウラン 235 が分裂
する場合には質量数が 140 付近のグループの原子と 95 付近のグループの原子が生成
します。前者のグループにはセシウム 137 が含まれ、後者のグループにはストロン
チウム 90 が含まれます。セシウム 137 もストロンチウ
ム 90 も半減期が約 30 年の放射性同位体です。セシウム
はカリウムと同じアルカリ金属元素で、化学的性質もカ
リウムに似ています。したがって、カリウムを必要とす
る植物に吸収されたり、土壌中の粘土鉱物と結合したり
します。一方、ストロンチウムはカルシウムと同様にア
ルカリ土類金属元素であり、化学的性質はカルシウムに
似ています。したがって、生物に吸収されると骨などに
長くとどまる性質を持っています。このため、セシウム
137 もストロンチウム 90 も体内に入ってしまうと、内部
で放射線を出し続ける(内部被曝)危険性があります。
このような放射性物質の除去を目的として、我々の
研究グループでは、セシウムやストロンチウムを選択
的に取り込む吸着材を開発しました。この吸着材は図
1 に示すような無機の結晶性物質です。このような構
造が前後、左右、上下に規則正しく連なった構造とな
っています。この結晶の内部には図2に示すように、
セシウムイオンがぴったりと収まるサイズのリング
があります。セシウムイオンは 8 個の酸素イオンが作
るリングの穴にちょうどフィットするため、この吸着
材はセシウムイオンを捕らえやすい性質を持ってい
ます。一方、ストロンチウムイオンに対しては、結晶
中の別の場所で捉えます。すなわち、一つの吸着材でセシウムイオンもストロンチウムイオンも別々
に捉えることができる吸着材です。
セシウムイオンやストロンチウムイオンだけなら、それぞれに適した吸着材が
存在しますが、両方を使用すると放射性物質を保持した吸着材がかさ高くなり、
処理コストもかかります。本吸着材には上述のように“一人二役”の吸着材とい
うメリットがあります。また、海水中でも高い吸着性を示しますので、海水が混
じった汚染水を浄化するのにも適しています。原料には牡蠣殻やガラスなどの無
機廃棄物を使用することも可能です。環境中に拡散したセシウムは粘土鉱物と結合しているためにセ
シウムイオン吸着材は無意味という見方もありますが、本吸着材を微細化して水に分散したスラリー
溶液を用いると土壌洗浄剤としても使用可能です。応用例は多くありますが、難燃性の粉末なので、
原子力発電所に常備する消火剤にも使えそうです。難燃性吸着材なので事故発生時の初期消火にも使
用でき、放射性物質の拡散を抑えこむことができるからです。本吸着材の特許は昨年兵庫県とフジラ
イト工業株式会社から協同出願(出願番号:特願 2011-239290)済みです。今後さらに改良を加える
べく研究しています。
環境とお財布にやさしい有機薄膜太陽電池の開発
工学研究科 電気系工学専攻
た だ
かずや
准教授 多田 和也
有機薄膜太陽電池,ハロゲンフリー化,無修飾フラーレン,導電性高分子
電気を流しやすいプラスチックである導電性高分子と,サッカーボールや
ラグビーボールのようなカゴ型に炭素原子が結合した分子であるフラーレン
を,有機溶媒に溶かして作ったインクは,光を電気に変える機能を持ちます。
このインクを利用した太陽電池は,導電性高分子とフラーレンの両方が炭
素を主成分とする材料,すなわち有機材料であることから有機(高分子)薄膜太陽電池と呼ばれ,世
界中で非常に活発な研究開発が行われています。
現在,この研究分野では,比較的簡単に高いエネルギー変換効率を得るための「常識」として,
①フラーレンには,化学修飾を施して良
く溶けるようにしたものを用いる
②有機溶媒としては,クロロベンゼンや
10%!
ハロゲン
h hn
系溶媒
ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物
化学修
を用いる
飾フラー
e
レン
というものがあり,殆どの研究者はこの
常識に沿った研究を行っています。
私はこの常識とは逆に,
環境にや
ハロゲン系溶媒
さしい??
①化学修飾をフラーレンに施さなくても
・毒性
ゲームチェンジング!
・エネルギー浪費
良い太陽電池ができるのではないか?
化学修飾フ
②ハロゲン化物以外に良い溶媒があるの
ラーレン
・資源浪費
ではないか?
という可能性を探っています。
最近,1,2,4-トリメチルベンゼンという非ハロゲン溶媒を使えばよいのではないか,ということ
を見出しました。現在,少しでも高い変換効率が得られるように検討している最中です。
C6H13
S
+
x
-
O
O
フラーレンを化学修飾して使う場合,そのまま使うのに比べて,当然のこ
とながらお金と手間,そして環境への負荷がかかります。
また,ハロゲン化物(特に「クロロ」と名前のつく塩化物はいわゆるダイ
オキシン類の発生原因ともなります)は,一般に環境や生体に悪影響を与え
ると考えられています。さらに最近では,ハロゲン化物の生産の過程で,大
量にエネルギーを消費するということも,問題視され始めてきました。
本研究により,これらを取り除いた形で有機薄膜太陽電池が作ることができれば,環境とお財布
にやさしい太陽電池の開発に寄与できるのではないか,と考えています。
発表論文:K. Tada, ” Yet another poor man’s green bulk heterojunction photocells: Annealing
effect and film composition dependence of photovoltaic devices using
poly(3-hexylthiophene):C70 composites prepared with chlorine-free solvent”, Solar
Energy Materials and Solar Cells, Vol. 117 (2013) 194-197.など 4 編
高圧力操作による鉛蓄電池の次世代高速充電技術の開発
〜高圧力の世界に見る新しい二次電池の可能性〜
工学研究科 機械システム工学専攻
まえだ
こう じ
教授 前田 光治
二次電池,高圧力,晶析,電解質溶液,化学熱力学
電池は電気エネルギーを柔軟に利用するための非常に重要な電気化学装置
である.再利用できる実用的な二次電池では電気容量、耐久性が重要な特性
と考えられる.私たちは,最も普及している鉛蓄電池を取り上げ,その電極
反応において高速の核発生と成長に関する晶析技術を適用すれば,電池とし
ての性能向上に貢献できるものと期待している.高速かつ緻密な電極活物質の生成においては晶析
技術の観点から高圧力が最も効果的に作用するものと考え,すでに高圧力の鉛蓄電池を試作し初期
化成の充放電における高圧力の影響を検討し,高圧力では電極反応において非常に微細な化合物が
生成することを明らかにした.最近の進展で,高圧力晶析では鉛蓄電池の限界充電速度と圧力の関
係がわかり,基準とした鉛蓄電池よりも 40 倍程度の高速(大電流)でも充電できることがわかった.
超臨界のような気体性の高圧力場と比較して,液体や固体では比較的身近に高
圧力場が手に入る.深海や地中,さまざまな油圧システムでは,100MPa 程度の圧
力はしばしば容易に達成されている.しかし,高圧力場が持続しないため,工業
操作としてあまり研究されてこなかった.高圧力の物理化学的効果を考えれば,
新しい材料やプロセスシステムを開発できる夢のある世界であることに気づく.わたしたちは,古典であ
るが最も普及している鉛蓄電池を取り上げ,高圧力による充放電性能の飛躍的向上を目指し,さらに他の
二次電池へ応用することも十分できると考えている.
x 3000
50MPa
5μm
5μm
150MPa
100MPa
Ampere-hour efficeincy [-]
1.0
0.1MPa
0.8
0.6
5mA
0.4
10mA
0.2
20mA
0.0
5μm
5μm
0
50
100
150
200
Pressure [MPa]
図1 高圧力による電極活物質の微細化
図2 高圧力による高速充電効率の向上
問い合わせ:
TEL 079-267-4854 前田([email protected])
下水汚泥の濃縮・可溶化に向けた蒸気エジェクタの開発
〜汚泥から生まれるバイオメタンガス有効利用へのチャレンジ〜
工学研究科 機械系工学専攻
いとう
かずひろ
准教授 伊藤 和宏
バイオメタンガス,嫌気性メタン発酵,蒸気エジェクタ,
減圧濃縮,可溶化・減容化
下水処理における嫌気性消化(発酵)は巨大な消化槽の中で10~30日か
けて行われるが,汚泥の99%を占める水分を減らすことができれば消化効
率が飛躍的に向上し,
再生可能エネルギーであるバイオメタンガスを有効
利用できる可能性がある.そこで本研究は,図1に示すような新しい濃縮
システムを提案し,汚泥の含水率を大幅に減少させることを目指している.
本システムは,汚泥を濃縮槽に導いて減圧し,
発泡した泡を固形物に付着させて浮上させる
ことにより固液分離を図る.減圧器に高速蒸
気噴流によって流体を吸引する蒸気エジェク
タを用いることで,汚泥を自吸・輸送しつつ,
連続濃縮することが可能である.濃縮管直径
が50 mmの装置を作成して,実証試験を行
い,姫路市中部析水苑から提供された初沈汚
泥と余剰汚泥の混合物を浮上濃縮に適した圧
力(69 kPa)まで減圧できることを示した.
また,エジェクタを通過した汚泥はろ過抵抗
が減少して可溶化されており,脱水性が向上
することを実験的に明らかにした.
図1 減圧浮上濃縮と蒸気エジェクタによる汚泥濃縮
本システムは消化槽を温める蒸気を利用して,汚泥の水分を減少させる
ことを目指しており,下記のようなメリットがある.
①新たなエネルギーを投与せずに,バイオメタンガスを増産し,
②蒸気エジェクタを通過させることで,汚泥を温め,
③加速蒸気の凝縮衝撃で有機物を瞬時に破壊,可溶化する.
これらは消化促進に効果的であり,また,フィルタープレスなどにおける脱水性を向上させる
ため,下水のみならず製紙や食品からの有機汚泥の減容化や脱水時間の短縮に効果的である.
本研究は,H25年度兵庫県COEプログラム推進事業(環境・エネルギーイノベーション特別枠)
に採択され,
(株)テクノプランを始めとする兵庫県内の企業,神戸大学,神戸高専とも連携し
て研究を進めている.システム開発を一緒に行っていただける企業,各種汚泥処理への本技術
の適用を検討される企業との共同研究を期待しています.
沸 騰 で モ ノ を 冷 や す
〜宇宙機器への適用を目指して〜
工学研究科 機械系工学専攻
かわなみ
准教授 河南
おさむ
治
沸騰冷却、熱制御、電子機器
沸騰熱伝達を利用した電
子機器冷却、および熱管理技
術の開発を行っています。沸
騰冷却は、気液相変化による
潜熱輸送を伴うため、従来の
空冷や液冷に比較して、非常に高性能な冷却方法で
あり、高発熱密度の電子機器に対して有効な冷却方
法と考えられています。図1は空冷・液冷・沸騰冷
却の除熱能力を端的に示したもので、パワーデバイ
スやインバータなどの高発熱密度機器の冷却に、沸
騰冷却が適していることがわかります。
本研究室では、沸騰伝熱について基礎理解を深め
図 1 冷却方法による除熱能力の違い
るとともに、様々な伝熱促進技術についても研究を
進めている。例えば、伝熱面の濡れ性を制御し、高温の伝熱面に液体を効果的に供給するため
の方法や、扁平気泡を効率的に生成し、伝熱促進を実現するマイクロチャンネル群冷却器、マ
イクロチャンネル内の局所的流量制御、などです。
さらに、沸騰伝熱を深く理解するため、透明伝熱管や感温塗料等を用いた新しい計測技術の
開発も行っています。
本研究に関して、実機器における様々な熱管理技術へ適用できます。
特 開 2010-212402, 特 開 2010-212403, 特 開 2010-212404, 特 開
2013-016589,
特開 2013-016590, 特開 2013-017279, 特開 2013-044496
など、産学連携の成果もご参考下さい。
問い合わせ:工学研究科 機械系工学専攻 河南 治([email protected])
リチウムイオン二次電池正極の特性改善と新作製法
~ナノメートルオーダーのDLC保護膜によって高温での長寿命化、
および液中プラズマ処理によって水溶媒での正極塗料作製に成功~
大学院工学研究科
助教
電気系工学専攻
おか
岡
よしひろ
好浩
リチウムイオン二次電池、正極、DLC膜、サイクル特性、水溶媒、プラズマ処理
リチウムイオン二次電池は電気自動車等の大型電源への応用が期待されてい
るが、高温環境での性能劣化が問題となっている。性能劣化の原因は正極と電解
液の界面での副反応であることが報告されている。そこで、正極表面に電気化学
的に安定なDLC(Diamond-like carbon)を成膜することで正極を保護する(図1)こ
とにより高温環境での性能劣化を改善した(図2)。
リチウムイオン二次電池の正極は、NMP溶媒に正極活物質、導電材、結着材を分散させた塗料を
用いて作製される複合体膜である。この溶媒のNMPを水に置き換えることによって、環境負荷低減
と低コスト化を目指している。水溶媒系では、導電材のアセチレンブラックが疎水性であるため、
水中に均一に分散されにくいことが問題となっている。そこで、液中でプラズマ処理を行い、アセ
チレンブラック粒子の表面に親水性を付与することにより、水に均一に分散させることに成功した
(図3)。この懸濁液を用いて塗料を作製し、均一な塗布正極が得られた。この水溶媒で作製した正
極では従来のNMP溶媒で作製した正極と同等の優れたサイクル特性が得られた。
Discharge capacity (mAh/g)
200
150
100
図 1 DLC コーティングした正極断面の模式図
50
0
0
Pristine
DLC 2 nm
DLC 5 nm
20
40 60 80
Cycle number
図 2 高温サイクル特性
図 3 液中プラズマ処理前後のアセ
チレンブラック混濁液
特願 2013- 19187 「リチウムイオン二次電池用正極及びその製造方法」
100
ナノ相構造中でのイオン液体局在化が及ぼす
効率的なイオン伝導
~次世代二次電池に向けた“イオン液体”型高分子電解質の開発~
工学研究科
機械工学専攻
かきべ
助教 柿部
たけし
剛史
イオン液体・二次電池・高分子電解質・ナノ相構造・ブロック共重合体・局在化
現在、電池に使われている主な電解質は液体電解質であり、液漏れによる発火の
危険性や小型化が困難といった問題がある。そのため、電解質の固体化が望まれて
いるが固体化によるマトリックスの運動性低下に伴うイオン伝導性の低下という
課題がある。我々はこの問題を解決するために、ナノレベルで相分離するブロック共重合体(BCP)に注目
し、イオン源として構造設計が容易、つまり物性の制御が可能な“イオン液体”を混合した。これによ
り、BCP はイオン伝導相と構造形成材相とに役割を分担することができ、イオン液体の構造を制御する
ことで運動性が高く、効率的にイオンを輸送できるイオン伝導相にのみイオンを局在化できることも示
唆された。
図 ブロック共重合体とイオン液体の構造設計による高速・効率的なイオン輸送
イオン液体は常温で液体の「塩(えん)」であり、水、有機溶媒に次ぐ「第
三の液体」として注目されている。高いイオン密度、低粘性、難揮発性等の
他に類を見ない特徴を有していることから、近年多くの研究開発が進められ
ている。我々は電気化学的応用(電池等)を筆頭に、新規な溶媒や触媒として
の研究開発も行っており、様々な用途での共同研究を行っている。
有機エレクトロニクスを指向した新規機能性色素の開発
~有機半導体・有機EL・有機太陽電池に用いられる有機色素を合成する~
工学研究科物質系工学専攻
合成バイオ部門・機能有機分子化学
教授
かわせ
川瀬
たけし
毅
有機合成、有機半導体、有機発光物質、有機センサー
本グループは、有機合成・物性・機能評価をキーワードに、分子を基盤にした
有機材料の設計とその機能発現のメカニズム解明に関する研究を行っている。
有機エレクトロニクスへの応用を目標に、有機半導体、有機 LED、有機太陽電
池、などの有機材料の開発に取り組んでいる。具体的には以下に掲げる 3 つの
テーマを推進している。
1.有機金属試薬や錯体を用いた新規有機色素の合成法の開発
その他ヘテロ環を含む機能性有機色素
2.機能性色素としての物性評価
図1.結晶構造回析による色素 1,2 の分子構造
図2.1 の半導体特性の評価
3.白色有機EL素子への応用が期待される発光分子
図3.テトラベンゾフルオレン骨格をもつ新規機能性色素 3 の合成と蛍光に対する大きな溶媒効果.
有機合成の手法を用い、これまで知られていなかった新しい骨格・機能をもつ
有機色素を合成している。X線結晶構造回析や各種分光学的手法により有機色
素の分析を行うとともに、物性評価を行っている。その結果をもとに有機デバ
イスへの応用を目指している。
エピタキシャル(Bi3.25Nd0.75-xEux)Ti3O12 ナノプレートの
格子歪と圧電特性
〜世界初のマルチフェロイックデバイス応用を目指して〜
工学研究科 物質系工学専攻
ナノドメイン・環境材料化学研究グループ
こぶね
まさふみ
教授 小舟 正文
ビスマス層状構造強誘電体, エピタキシャル成長, 斜方晶歪,
高温スパッタ法, ナノプレート構造体, 強誘電性, 圧電性
高温スパッタ法により, 導電性 Nb:TiO2(101)単結晶基板上に膜厚 3.0
mの(Bi3.25Nd0.75-xEux)Ti3O12 (BNEuT, x = 0-0.75)ナノプレートを作製し,
その構造及び圧電特性を詳細に調べた. 作製した BNEuT 膜は X 線回折
(XRD)及び圧電応答顕微鏡(PFM)測定より, a 軸に強配向していた. 電界
放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察より, 薄膜がナノプレート構
造体であることを見出した. Eu (x) = 0.1 において強誘電性及び圧電性は最大を示した. ナノ
プレート化は本材料の結晶成長速度の大きな軸異方性による. 今後, 当該構造体は強磁性体と
の複合化により, 理想的なマルチフェロイックデバイス用強誘電体テンプレートとなり得ると
期待される.
図 1. 表面及び断面微細構造観察
図 2. 圧電・強誘電特性
世界に先駆けて, 高温スパッタ法により BNEuT の特異な結晶成長軸異方
性を応用してナノレベルでエピタキシャル成長した強誘電体ナノプレー
ト合成に成功した. 今後, 本開発材料を複合化することで強誘電性秩序
と磁気秩序間の交差相関を利用したスマートフォン等の待機電力補充用
無線給電素子への応用展開が期待できる.
1) M. Kobune et al.,“Effects of Eu3+ Doping on Characteristics of (Bi3.25Nd0.75)Ti3O12
Nanoplates”, Jpn. J. Appl. Phys., (査読有), Vol. 52 (2013) in press.
2) M. Kobune et al.,“Characterization of (Bi3.25Nd0.75)Ti3O12 Thin Films with a- and b-Axis
Orientations Deposited on Nb:TiO2 Substrates by High-Temperature Sputtering”, Jpn. J.
Appl. Phys., (査読有), Vol. 49, pp. 09MA03-1-5 (2010).
放射性物質の回収を目指した磁性吸着材の開発
〜放射性物質の除去をめざして〜
工学研究科
物質系工学専攻
准教授
にしおか
ひろし
西岡
洋
放射性物質,セシウム,ストロンチウム,磁性吸着材
平成 23 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原
子力発電所事故に伴う放射性物質の拡散が問題となっています。原子力発電はウラ
ン 235 の核分裂によって発生するエネルギーを利用しています。ウラン 235 が分裂
する場合には質量数が 140 付近のグループの原子と 95 付近のグループの原子が生成
します。前者のグループにはセシウム 137 が含まれ、後者のグループにはストロン
チウム 90 が含まれます。セシウム 137 もストロンチウ
ム 90 も半減期が約 30 年の放射性同位体です。セシウム
はカリウムと同じアルカリ金属元素で、化学的性質もカ
リウムに似ています。したがって、カリウムを必要とす
る植物に吸収されたり、土壌中の粘土鉱物と結合したり
します。一方、ストロンチウムはカルシウムと同様にア
ルカリ土類金属元素であり、化学的性質はカルシウムに
似ています。したがって、生物に吸収されると骨などに
長くとどまる性質を持っています。このため、セシウム
137 もストロンチウム 90 も体内に入ってしまうと、内部
で放射線を出し続ける(内部被曝)危険性があります。
このような放射性物質の除去を目的として、我々の
研究グループでは、セシウムやストロンチウムを選択
的に取り込む吸着材を開発しました。この吸着材は図
1 に示すような無機の結晶性物質です。このような構
造が前後、左右、上下に規則正しく連なった構造とな
っています。この結晶の内部には図2に示すように、
セシウムイオンがぴったりと収まるサイズのリング
があります。セシウムイオンは 8 個の酸素イオンが作
るリングの穴にちょうどフィットするため、この吸着
材はセシウムイオンを捕らえやすい性質を持ってい
ます。一方、ストロンチウムイオンに対しては、結晶
中の別の場所で捉えます。すなわち、一つの吸着材でセシウムイオンもストロンチウムイオンも別々
に捉えることができる吸着材です。
セシウムイオンやストロンチウムイオンだけなら、それぞれに適した吸着材が
存在しますが、両方を使用すると放射性物質を保持した吸着材がかさ高くなり、
処理コストもかかります。本吸着材には上述のように“一人二役”の吸着材とい
うメリットがあります。また、海水中でも高い吸着性を示しますので、海水が混
じった汚染水を浄化するのにも適しています。原料には牡蠣殻やガラスなどの無
機廃棄物を使用することも可能です。応用例は多くありますが、難燃性の粉末なので、原子力発電所
に常備する消火剤にも使えそうです。難燃性吸着材なので事故発生時の初期消火にも使用でき、放射
性物質の拡散を抑えこむことができるからです。本吸着材の特許は昨年兵庫県とフジライト工業株式
会社から共同出願(出願番号:特願 2011-239290)済みです。今回の磁性吸着材ではさらに改良を加
え、海水中での吸着率を向上させています。また、吸着材を磁性体としていますので、汚染水に吸着
材粉末を撒いて吸着した後、磁石で回収することが可能となりました。この改良型磁性吸着材も近々
特許出願の予定です。
携帯型ELISA分析機用自動送液・検出システムの開発
~持ち運びができる抗原抗体反応用の分析装置の開発が進んでいます~
工学研究科
物質系工学専攻
准教授
たけ お
武尾
まさひろ
正弘
マイクロリアクター,環境分析,食品分析、臨床分析、
酵素免疫吸着測定法(ELISA)
我々は病院等で広く
普及している酵素免
疫 吸 着 測 定 法
(ELISA)による分析
システム(右写真)を、病院の検査室か
ら抜け出させ、病人や高齢者の病状チェッ
マイクロタイタープレート
発色
プレートウォッシャー
クや健康管理にベッドサイドで手軽にいつ
プレート
でも使えるように携帯型にすることを試み
リーダー
ております。このような携帯型の分析機が開
発できれば、医療用途に限らず、食品の即時
分析やスポーツ選手のドーピング検査、給食
のアレルゲン検査、空港でのテロ対策・感染症侵入予防など多くの用途で活躍できる
と考えられます。昨年の本シンポジウムの口頭発表で、システムの大まかな仕組みや
デスクトップサイズのプロトタイプモデルをお示し致しましたが、本ポスター発表で
は、いよいよポンプの小型化等で持ち運びできるサイズになってきましたので、本体
の展示も含め、ご覧頂きます(色素液を使った送液実験のデモを行います)
。
この分析システムには、積層型マイクロリアクターと呼ぶ、直径 3mm の流路が垂直
方向に走る小型反応槽(下写真、黄色矢印)が設置され、2種類のマイクロフィルタ
ーがその流路に置かれています。一方は反応用でもう一方は撹拌用のフィルターです。
この流路にマイクロピエゾポンプと言う 500 円玉サイズのポンプ6台で種々の溶液
を送液し、抗原抗体反応で微量の化学物質を検出します。マイクロリアクターには光
液面センサー(下写真、赤矢印)が設置され、流路の反応用フィルターで常に溶液が
次 世 代 の ELISA 分 析
止まるように制御致します。これにより精度の高い分析が可能となります。マイクロ
システムのイメージ図
ピエゾポンプとその流量、作動時間、停止時間を指
定できるプロセスを6つ連続で実行できるプログ
ラムをタブレット PC 上で実行し、これを無線(ブルーツース)で飛ばして
送液を実行します。反応液はフローセルを通り、高輝度 LED 光源から光フ
ァイバーで送った励起光で励起し、得られた蛍光をパームトップサイズの
光液面
分光蛍光光度計で検出致します。この蛍光検出システムはまだ小型化され
センサー
ていませんが、そのシステムを含めて、現在 25cm 角のアクリルケースに全
マイクロリアクター
てを収納することに成功しています。デスクトップサイズのシステムでは、
環境ホルモン・ノニルフェノールのサブ ppb レベル
の微量定量に成功しておりますので、この携帯型シ
ステムでの測定評価を今年度実施致します。
携帯型の ELISA 分析機は、あ
りそうなのですが、実際は未
だ市場には登場しておりま
せん。蛍光検出システムを小
型化することでさらに小さ
なシステムの構築を進めますが、このような分析機
に適用できる技術やご興味をお持ちの会社があり
ましたらお声掛け下さい。
([email protected]
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