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診療記録統合管理ソリューション

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診療記録統合管理ソリューション
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
Integrated Management Solution for Medical Records
要
旨
近年、医療分野における IT 化は、電子カルテシステ
ムを中心に発展を続けている。電子カルテシステム
は、病院内の様々な部門システムと連携して患者情報
を閲覧できる。しかし、情報の実体は部門システムに
分散し、紙媒体の情報が取込まれない。患者の全記録
を対象にした管理や長期に閲覧可能な環境を担保す
るなど、診療記録を管理するための様々な問題が顕在
化している。
この問題を解決するため、大阪大学医学部附属病院
医療情報部が、DACS(Document Archiving and
Communication System:診療記録統合管理システ
ム)コンセプトを提唱した。DACS とは、病院内の様々
な情報をドキュメント形式にして一元管理すること
で、診療記録の電子保存に関する要件(真正性、見読
性、保存性の担保)を満たし、長期的に診療記録を保
管するシステムである。
本稿では、DACS コンセプトの説明と DACS コン
セプトに基づき富士ゼロックスが開発した診療記録
統合管理ソリューションを紹介する。
Abstract
島崎 浩(Hiroshi Shimazaki)
伊藤 恵一(Keiichi Itoh)
松永 英樹(Hideki Matsunaga)
周 斌(Bin Zhou)
丸山 泰弘(Yasuhiro Maruyama)
倉林 則之(Noriyuki Kurabayashi)
大坪 隆信(Takanobu Otsubo)
矢後 友和(Tomokazu Yago)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
Recently, the use of electronic patient record
systems becomes popular. Browsing of patients' data
is supported by linking with various department
systems within a hospital. Patients' data is actually
managed in each individual department system and
paper documents are not managed electronically.
However, various issues are turning up, such as the
management of all patient records and the assurance
of lifelong readability.
To solve these issues, Department of Medical
Information Science, Osaka University Hospital
proposed the DACS (Document Archiving and
Communication System) concept. DACS is a system
to enable long-term storage of patient records and
assures integrity, readability, and preservative quality
by integrated management of various data within the
hospital using the common document formats.
This paper describes the concept of DACS and
introduces the solution developed by Fuji Xerox.
143
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
Communication System:診療記録統合管理
1. 緒言
システム)というコンセプトを提案した。
医療機関では、
「医療の質と安全のため、患者
DACS は、X 線画像、CT、MRI などの医用
がいつどの診療科を受診し、どんな検査、治療、
画 像を統合管 理するシス テムである PACS
手術を受け、経過がどうなっているかなどの情
(Picture Archiving and Communication
報を俯瞰して把握したい」、「チーム医療の推進
System)にならって付けた名称である。
により、それらの情報を医療従事者が診療科を
DACS は、診療情報をデ−タ単位ではなく、
越えて迅速に共有したい」などの要望がある。
文書(Document)単位で扱うという形式の統
最近の医療情報システムは、電子カルテシス
一化を図り、さまざまな診療情報を文書単位で
テムを中心とした IT 化が急速に進んでいるが、
記録し、一元管理するシステムである。
一つの電子カルテシステムで全ての診療業務に
対応することは、医療機関の規模が大きくなる
文書は、検査報告書、手術レポートなど記録
ほど困難である。医療機関には、異なる目的や
書類を前提としたものが一般的であるが、経過
異なる時期に導入された様々な診療部門ごとの
記録や熱型表など時間的に連続する記録やデー
専門システムが存在する。これらが多種多様な
タについても、何らかの区切り(1 回、1 日、
情報を生成し、この情報を統合管理するコスト
1 週間など)を設け、この区切りの単位でデー
や労力が増大している。
タのスナップショット情報を取得することで文
様々なシステムを統合化するような電子カル
書として扱える。また、紙文書はスキャナーで
テシステムでは、患者情報をキーに各システム
取り込むことで電子文書にする。このように生
が連動して、患者の様々な情報を統合的に閲覧
成される文書は、診療記録として長期保管が前
できる。しかし、このような情報はリファレン
提であり、将来閲覧できなくなるリスクを回避
ス情報であり、情報の実体は各システムに分散
するため PDF などの汎用的なフォーマットで
管理される。
管理する。
全てのシステムが電子カルテシステムに連携
病院内の全ての診療記録をこのような文書で
できるとは限らない。連携できない古いシステ
一元管理すると、電子カルテシステムの構成や
ムなどは情報を紙で印刷している。また、捺印
システム提供ベンダーに関わらず、長期的に診
やサインを必要とする多くの紙文書が、日常的
療記録の見読性を確保できる。患者の全診療記
に院内・院外を大量に流通している。このよう
録を対象にした情報提供が迅速かつ正確に行な
な紙の記録管理が存在することは、電子カルテ
え、医療従事者が診療分野を超えて、情報共有
システムが目指すペーパーレス化の大きな課題
することでチーム医療の推進に貢献できる。
となっている。
患者の診療記録が、電子カルテシステムの
データ、各連携システムのデータ、紙文書と分
散して管理されることは、保存性や検索性に大
きな課題を抱えることになる。
2. 診療記録統合管理ソリューション
の特徴
富士ゼロックスは、オフィス分野を中心に
患者に関わる全ての診療記録を長期にわたっ
培ってきた文書管理の技術やノウハウを医療情
て統合的に管理し、迅速に検索・活用できるシ
報分野にも展開すべく、医療現場で求められる
ステムへのニーズが高まっている。
記録管理のあり方の調査、研究、実証実験を重
ね DACS コンセプトに基づいた診療記録統合
大阪大学医学部附属病院
医療情報部は、紙
管理ソリューションを構築した。
文書と電子データが混在する問題に対して、病
本ソリューションは、DACS のシステム要件
院 情 報 シ ス テ ム ( Hospital Informaiton
に合わせて、紙文書から各種電子データまであ
System : HIS)を構成する新たな基本要素とし
らゆる診療記録を一元管理するソリューション
て 、 DACS ( Document Archiving and
である(図 1)。
144
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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診療記録統合管理ソリューション
ステムが連携し、記録の実体がシステムで分散
管理された環境ほど、情報の取りこぼしが発生
しやすい。また、情報の発生順など系統的に整
理して出力することは、連携システムが多いほ
ど困難である。
本ソリューションは、連携システムごとに情
報検索や出力作業をする必要はない。患者の全
記録を一元管理するシステムで、期間検索や画
面表示順の出力指示をするだけで良い。必要な
情報を素早く揃えることができるため、カルテ
開示請求に迅速かつ正確な情報提供ができる。
2.2
真正性を確保する長期保存
電子的な医療情報の取扱いに関して厚生労働
省が「医療情報システムの安全管理に関するガ
図 1. 診療記録統合管理ソリューションのシステムイメージ
Integrated Management Solution for Medical Record
System
院内に存在する様々な形態の電子データや紙
文書を、仮想プリンターやスキャナーで「ドキュ
メント」に変換して一元管理する。
イドライン(第 4.1 版)」を定義している。こ
のガイドラインでは、電子保存に関する要件(真
正性、見読性、保存性の担保)が示されている。
さらに、真正性を担保するための電子署名を用
いた管理について以下のような記載がある。
医療に係る文書に電子署名を付与する際は、
管理するドキュメントは PDF、DocuWorks
電子証明書の有効期間や失効、また暗号アルゴ
など、汎用性の高いフォーマットで保存するた
リズムの脆弱化の有無によらず、法定保存期間
め、院内システムの変更に伴うデータ移行を最
等の一定の期間、電子署名の検証が継続できる
小限に抑え、様々なシステムの導入・更新に影
必要がある。また、対象文書は行政の監視等の
響を受けることなく長期間にわたる記録管理を
対象であり、施した電子署名が行政機関等に
実現する。
よっても検証できる必要がある。
医療情報は5年以上の保存期間を要求される
2.1
「ここになければ、どこにもない」
を実現
ものがあり、真正性を確保するためには、単に
いつどの診療科を受診し、どんな治療や手術
く、長期にわたって継続的に検証可能な環境を
を受け、検査や経過がどうだったかなど、患者
電子署名とタイムスタンプを付与するだけでな
実現しなければならない(図2)
。
に関わる全ての情報を医師が迅速に把握するた
めの情報は、診療記録を一元管理することで提
供できる。まさに、
「ここになければ、どこにも
ない」と言える環境を実現する。
●原本性保証の電子保存システム
コピー感覚で、
簡単に紙文書を
電子化
認証局/
時刻認証事業者
診療支援以外にも、診療記録を一括で扱う作
業に有効である。医療機関は様々な理由で情報
開示が求められる。訴訟に至る場合には、証拠
保全としてカルテの提示が求められ、これに対
し一部でも提示しない場合は、意図的でなくて
基幹システム
ApeosPort
複合機
署名・タイムスタンプ付与
署名・タイムスタンプ検証
基幹システム
と連携
文書管理システム
一括署名・
タイムスタンプ付与/検証
も、隠ぺいとみなされる可能性がある。
請求があった場合に、指定された期間の全て
図 2. 原本性保証のシステムイメージ
Integrity Assurance System
の診療情報を提出する必要があるが、様々なシ
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診療記録統合管理ソリューション
また、システム更新や検証システムの互換性等
Archiver に文書を登録すると共に、文書内の情
の観点から、標準技術を利用することが望ましい。
報を文書登録の結果とあわせて Data Sharing
富士ゼロックスは、2005 年に次世代電子商取
Server などのデータベースシステムに分析用
引推進協議会(ECOM)が実施した長期署名
のデータとして配信することもできる。
フォーマット相互運用性テストに参加しており、
医療現場の端末は、Document Viewer に
JIS X 5093:2008 XML 署名利用電子署名
よって Document Archiver に保管されている
(XAdES )採用商品の相互運用実績を持つ。
文書情報を閲覧することができる。
*1
本ソリューションでは、この XAdES の長期
Document Generator
署名プロファイルを採用することで長期に真正
スキャナー
性を担保し、電子的な医療情報の保存要件を満
電子カルテシステム
部門システム
File Maker
・・・
たしている。
2.3
システム連携
仮想プリンター
他システムとの柔軟な連携
本ソリューションは、病院の基幹システムだ
PDF
XDW
・・・
けでなく、院内で稼動するさまざまなシステム
Document Deliverer
と柔軟に連携するための手段を提供する。これ
により、システム構築の初期投資を抑えるほか、
散在する診療記録管理にかかる医療従事者の付
XML
・・・
Document
Viewer
Data Sharing
Server
Document
Archiver
帯業務の負担軽減に貢献する。
市販ソフトを使ったシステムでも、電子ド
キュメントに変換した上で簡単に記録を収集で
Data ware
House
図 3. DACS コンセプトの概念図
Conceptual diagram for DACS
き、既存のインフラやワークフローを活かしな
がら、分散管理された記録を集中管理する仕組
+ XML
本ソリューションで各機能概念をどのように
実現しているか以下に述べる。
みを構築できる。
3. DACS コンセプトを実現する機能
DACS コンセプトは、以下の機能概念から構
3.1
Document Generator
本ソリューションは、帳票印刷、スキャナー
登録、仮想プリンター登録などの機能を統合し
た Windows® クライアントアプリケーション
成される。
・Document Generator
の Documents Deliverer Client(DDC)と、
・Document Deliverer
複合機 ApeosPort によるスキャン登録サービ
・Document Archiver
スの二つの Document Generator を提供する。
・Document Viewer
これらの機能概念がシステムとして動作する
3.1.1
Document Deliverer Client(DDC)
<帳票印刷機能>
フローを図3に示す。
電子カルテやレポートシステム、スキャナー
DDC は、帳票データを管理する帳票データ
など院内で文書の作成に使用されているシステ
ベースから帳票テンプレート等の情報を取得す
ム全てが、Document Generator に該当する。
る。DDC は、電子カルテシステムから起動さ
Document Generator から生成される文書
れることで、テンプレートに患者情報などのテ
は、全て Document Deliverer に送られる。
Document
Deliverer
は 、 Document
キストデータやシステム管理情報を埋め込んだ
QR コード®などを付与して、患者ごとに帳票を
生成することができる。
*1
XadES: XML Advanced Electronic Signatures
の略
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帳票は、
「同意書」
、
「同意書以外の帳票」、
「ス
キャン依頼票」の 3 種類の印刷が可能であり、
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診療記録統合管理ソリューション
いずれも QR コード®が付与された文書として
仮想プリンターから生成された文書内の特定領
印刷される。
域の描画情報を抽出し、文書の属性情報として
自動生成できる。
<スキャン登録機能>
DDC は、PC に TWAIN 対応スキャナーが接
印刷
続されている場合に、スキャナーと連動してス
キャンイメージを取込み Document Deliverer
に文書登録処理を依頼できる。
イベント発生日
仮想プリンター
(DACS 登録)
QR コード ®管理された帳票をスキャンする
場合は、システム側で帳票の情報を把握してい
書庫から
属性抽出
るため、文書登録時の属性情報は自動設定され
る(図 4 は、DDC の QR 付きスキャンで QR
患者 ID
文書種コード
®
コード を付与した帳票をスキャンした状態)
。
登録
図 5. 仮想プリンター登録
Virtual printer registe
生成した文書に対応する帳票の解析設定がな
ければ、手動で属性情報を設定した登録もできる。
仮想プリンター登録機能により、病院内でシ
ステム統合されていない独自システムから印刷
操作だけで、連携用の個別開発を行なうことな
く、情報を文書として登録できる。
また、DocuWorks ファイルは、DocuWorks
図 4. Document Deliverer Client の画面
A screenshot of Document Deliverer Client
文書生成時のオリジナルファイル(Word、
Excel など)やデータを添付することができる。
この機能を活用することで、文書から元情報を
®
QRコード 管理がされていない帳票(院外な
取り出して再利用することができる。
どシステム管理外の外部文書)をスキャンする
場合には、属性情報を DDC 画面上でマニュア
ル設定しながら登録することもできる。
3.1.2
複合機によるスキャン登録サービス
富士ゼロックスの複合機 ApeosPort は、ネッ
トワーク上のサービスと連携するためのフレー
<仮想プリンター登録>
ム ワ ー ク 「 Apeos iiX ( Apeos Internet
富士ゼロックスのドキュメントハンドリン
Integration framework based on XML)
」を
グ・ソフトウエア「DocuWorks」は、仮想プ
有しており、この Apeos iiX インターフェイス
リンター(DocuWorks Printer)を用い、様々
を介し、外部アプリケーション連携が可能である。
なソフトウエアの印刷処理から DocuWorks 文
本ソリューションでは、この機能を活用して、
書を生成することができる。
本ソリューションでは、様々なシステムの情
報を文書として取り込む手段として、この仮想
ApeosPort の操作パネル上の Web ブラウザー
から、直接呼び出されるスキャン登録用 Web
アプリケーションを提供している。
プリンターで生成された文書の内容を解析して
一文書単位にスキャン内容を確認して登録す
自動配信・登録する仮想プリンター登録機能を
る処理と、QR コード®付きの文書を複数部まと
提供する。
めてスキャンを行ないシステムで分割処理を行
帳票を管理するデータベースにて、帳票別に
画像解析設定を定義することで、図5のように
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
なう二通りの処理方式を選択することが可能で
ある。
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診療記録統合管理ソリューション
る。Document Deliverer は、この番号を用い
3.2
Document Deliverer
て診療に関わる文書の状態管理を行なう。
Document Deliverer は、ドキュメント登録、
スキャン予約番号に紐づいて、帳票生成時の
外部システム連携インターフェイスの提供、ス
イメージ、登録前のチェック待ちスキャンイ
キャン帳票の状態管理、ドキュメント解析、処
メージ、登録結果が統合的に管理される。帳票
理結果への病院情報補完といった大きく五つの
の印刷→スキャン処理→登録完了までの文書の
機能を有している。
状態管理ができることで、患者に渡した同意書
の回収管理を徹底することができる。
3.2.1
ドキュメント登録
Document
Deliverer
は 、 Document
Generator から登録文書と登録情報などが記載
されている診療情報ファイルを受け取る。診療情
報ファイルには、Document Archiver に診療
3.2.4
ドキュメント解析
Document Deliverer は、処理する文書に対
して、様々な画像処理解析ができる。
文書が複数部まとめてスキャンされた場合は、
記録文書として登録するための情報が記載され
イメージファイルを QR コード®で分割して、文
ており、この情報に従って文書登録を行なう。
書ごとに 1 部ずつ処理することができる。
文書登録と合わせて、文書内の重要なデータ
また、白紙ページを判定してページを自動削
を診療情報ファイルに記録しておき、Data
除する機能や、上下左右の自動正立を行なう機
Sharing Server など情報共有するデータベー
能などのイメージハンドリング機能により、文
スシステムに診療情報として出力できる。文書
書登録時のユーザー操作を簡略化できる。
登録と同時にデータベースに情報を蓄積するこ
とで、臨床評価や臨床研究に活用することがで
きる。
3.2.5
病院情報の補完
Document Generator が外部連携システム
Document Deliverer は、PDF、TIFF、BMP、
の場合には、患者 ID やファイル情報など最低限
JPEG、XDW(DocuWorks フォーマット)の
の情報だけが診療情報ファイルに記述され、送
ファイルを診療記録文書として受付ける。
られてくる場合がある。
TIFF 、 BMP 、 JPEG の 画 像 フ ァ イ ル は
このような場合、Document Deliverer は、
DocuWorks ファイルに変換されるため、最終
病院内の基幹システムと連携して、不足する病
的に PDF か XDW のいずれかのフォーマット
院情報(患者名、性別、などの患者情報および
の文書として登録する。
医師名、診療科などの診療情報)を診療情報ファ
イルに補完してから、これらの情報を文書の属
3.2.2
外部連携インターフェイス
性として登録できる。
本ソリューションは、他システムからの文書
登録の受付けを可能とするため、SOAP、FTP、
®
病院情報を確実に揃えた状態で管理すること
で、情報の検索性を向上させる。また、補完、
Windows フォルダー共有などの外部連携イン
整備された診療情報を外部の連携システムに出
ターフェイスを用意している。
力することで、連携システム間で、文書ととも
このインターフェイスは、登録する文書と文
に正確な病院情報を交換できる。
書に関する診療情報ファイルをセットで送受信
する簡単な仕様であるため、電子カルテシステ
ムや部門システムなどを容易に Document
Generator として機能させることができる。
3.3
Document Archiver
Document Archiver は、アーカイブサイト
とアクティブサイトの二つの文書管理サイトを
3.2.3
スキャン帳票の状態管理
組合せて構成する。いずれのサイトも構成する
®
ベースとなるソフトウエアは、富士ゼロックス
化されたスキャン予約番号を付与され印刷され
の内部統制ソリューションで実績のある
DDC で作成された院内帳票は、QR コード
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診療記録統合管理ソリューション
「Apeos PEMaster Evidence Manager」を
を検索対象から除外することで、アクセスパ
用いている。
フォーマンスの低下を防ぐことが可能である。
なお、診療記録がアーカイブサイトとアク
3.3.1
ティブサイトのいずれに存在するかは、
アーカイブサイト
Document Archiver 内で自動調整するため、
電子文書の原本性保証を可能とし、長期アー
ユーザーはどちらのサイトにアクセスするかを
カイブ環境を提供するサイトである。
意識する必要はない。
Apeos PEMaster Evidence Manager は、
e-文書法対応を実現する機能を有しており、前
3.4
述のガイドラインに定められた「電子保存の 3
Document Viewer
要件」に準拠できる。XAdES 準拠の e-文書保
Document Viewer は、患者単位の診療記録
管を行なうことで、保管文書の長期原本性保証
を閲覧する Medical Record Viewer と、病院
を実現している。
全体の診療記録を対象に、文書種、診療科、日
ドキュメント単位で、電子署名、タイムスタ
付 の 単 位 で 検 索 ・ 閲 覧 す る Document
ンプ処理を施した管理を行なうことにより、改
Register Viewer の2種類の Web アプリケー
ざん検知と公的な第三者の時刻認証を提供する。
ションを用意している。
また、データの上書きや削除制限などのアク
セス制御とアクセス履歴の管理を行なうことで、
3.4.1
監査証跡情報を保管することができる。
Medical Record Viewer(MRV)
医師が患者の診療記録を閲覧して診療行為の
意思決定につなげるために用いるアプリケー
3.2.2
アクティブサイト
ションである。
診療記録が日々増大する中で、システムのパ
診療記録から意思決定に至るまでの過程は、
フォーマンスを低下させないために、アクセス頻
三つの閲覧タイプに分類できる(図 6)
。
度の高い患者情報のみを管理するサイトである。
MRV はこの閲覧タイプに従ったビュー表示
アーカイブサイトとアクティブサイトは同期
を用意している。
して診療記録を管理している。患者が完治する
などして、参照することがなくなった診療記録
は、随時アクティブサイトから削除される。こ
のように、アクセスする可能性が低い診療記録
現状の理解から想定される仮説を立案し
それを指示する証拠集めに基づく検証を行なう
(通常は複数の仮説生成・検証を行なう)
収集した情報を解釈する
それに基づき現状を理解する
有益と思われる情報を集める
(検索範囲の設定や文書発生
パターンの観察なども含む)
ゴール設定
仮説検証結果を用いて
診療上の意思決定を行なう
(複数の結果を総合的に判断)
情報収集
現状把握
探索的閲覧
仮説生成
仮説立案
確証的閲覧
仮説検証
仮説検証
意思決定
診療行為
文書作成
焦 点 化 された閲 覧
図 6. 診療記録閲覧から意思決定に至る過程
Decision-making process starting from medical records view
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
149
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
① 探索的閲覧(マトリクスビュー)
診療文書が紐づいているイベントの概要を把
握し、傾向やパターンを観察することを主眼と
する閲覧タイプである(図 7)。
図 8. Medical Record Viewer(ツリービュー)の画面
A screenshot of Medical Record Viewer (Tree View)
り、定型的な文書の探索を効率化できる。
入院外来の別、診療科別、日付別、文書種別な
ど、目的の文書を Windows エクスプローラー
図 7. Medical Record Viewer(マトリックスビュー)の画面
A screenshot of Medical Record Viewer (Matrix View)
ライクにツリー構造で表現することで素早く探
すことができる。
想定される利用場面は、病歴が未知である(初
診、転科、他の医師が担当していた)患者の診
③ 焦点化された閲覧(フォーカスビュー)
察などである。検査や治療の種類、時期、頻度
閲覧対象の文書が特定されている場合に、その
など、病歴把握に有益と思われる情報を集め、
内容を確認するための閲覧タイプである(図 9)
。
収集した情報を解釈しそれに基づいて現状を理
解する業務を支援する。
患者の長期間(5年以上)に渡る診療イベン
トを俯瞰し、外来受診、手術や重要な検査、検
査レポート、入院の4種類のイベントの発生時
期、頻度、パターンを視覚化する(図 7)。
患者が、いつ、どの診療科を受診し、どんな
検査、治療、手術を受け、その後の検査や経過
までの全体像を、視覚的かつ迅速に把握できる。
② 確証的閲覧(ツリービュー)
閲覧対象がある程度明らかな場合に、対象文
図 9. Medical Record Viewer(フォーカスビュー)の画面
A screenshot of Medical Record Viewer (Focus View)
書を絞り込んで素早く探すことを主眼とする閲
覧タイプである(図 8)
。
マトリックスビューやツリービューで選択し
想定される利用場面は、日常の外来診察など
た文書から起動され、診療記録と検査レポート
である。前回の検査結果や退院時サマリの記述
を見比べたり、退院時サマリを見ながら詳細レ
に対応する経過記録といった医師が必要とする
ポートを確認するなど、文書の内容を比較した
条件に一致する文書を探す操作(医師による仮
り関連する文書を探すことができる。
説検証と捉える)を支援する。
文書の分類方法を複数提供することで、多様
3.4.2
Document Register Viewer(DRV)
な視点で文書を探すことが可能である。文書の
診療現場で作成される文書を文書種単位で検
種類や日付だけでなく、入院ごとや検査種ごと
索・閲覧し、診療録の管理や内容の精査を支援
といった日常的な診療場面を想定した分類によ
するアプリケーションである(図 10)
。
150
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
ダー(14 社)の協力により、この方式による
システム間連携を実現、実証することができた。
本プロジェクトの成功は、医用文書のシステム
間連携の標準化へ向けて大きな前進となったと
言える。
本ソリューションの導入により、患者の診療
履歴を俯瞰して迅速に確認できるようになった
ほか、研究や分析での活用も始まっている。ま
た今後は、診療業務を効率化するだけにとどま
図 10. Document Register Viewer の画面
A screenshot of Document Register Viewer
例えば、検査技師が自分で作成した担当レ
らず、ペーパーレス化による院内全体の業務改
善、ひいては、より安全で質の高い医療サービ
スの提供にも寄与して行きたいと考える。
ポート類の状況確認や、診療情報管理士が院内
の退院時サマリーを全患者について確認する場
合において Document Archiver に登録されて
いる文書を文書種単位で俯瞰できる。
5. ドキュメントによる地域医療サー
ビスの発展
MRV は閲覧対象文書が特定患者に限定され
DACS コンセプトの可能性は、単に病院業務
るのに対して、DRV では、全ての患者の文書を
の効率化を進めるだけではない。この技術を社
取得できるため、ログインするユーザーのアク
会インフラに活用することで、地域医療サービ
セス資格にあった権限レベルを設定できる。
スのありかたを変えていくことも視野に入れて
いる。
病院や診療所の診療記録、検診センターの健
4. 大阪大学医学部附属病院様の導入
実績
康診断記録、薬局での処方記録、介護センター
大阪大学医学部附属病院様では、2010 年 1
情報は各施設で管理されている。このような医
月から本ソリューションの運用を開始している。
療情報を、DACS コンセプトをベースに一元管
院内の約 40 システムが連携し、2,000 種類以
理することを提案する。
の介護記録など、地域社会における住民の医療
例えば、図 11 のように DACS のデータバン
上のドキュメントが統合管理されている。
保管される文書は、電子カルテや各システム
クを担う仲介機関を地域社会に設置し、住民一
で生成された電子文書はもちろん、市販ソフト
人ひとりの医療情報が、診療所や総合病院、健
で作成された文書、スキャナーで電子化した手
康センター、薬局などから DACS コンセプト
書きの報告書や同意書などの文書も含まれる。
に従いドキュメント化された記録としてデータ
外来診察日には、1日で 8,000∼10,000 文書
バンクに保存される。電子カルテが導入されて
が登録され、このうち約 1,500 文書が紙媒体
いない診療所でも、診療後の紙カルテをデータ
をスキャン登録した文書である。DDC や複合
バンクにファクス送信すれば、情報がドキュメ
機連携が生成した文書は、全保管文書の2割程
ント化されて保存される。
度であり、約 8 割は、各種連携システムが生成
した文書で占められる。
PACS に お い て 医 用 画 像 の 標 準 規 格
DICOM*2 があるように、DACS コンセプトで
は、医用文書の標準化実現にむけて、属性情報
を XML ファイルで規定してシステム間通信に
活用する提案をしている。大阪大学医学部附属
病院様のシステム開発においては、参加ベン
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
*2
DICOM(Digital Imaging and Communications
in Medicine):医用画像のフォーマットと、それらの
画像を扱う医用画像機器間の通信プロトコルを定義し
た標準規格
151
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
z Windows®は、Microsoft Corporation の
米国およびその他の国における登録商標また
は商標です。
z QR コード®は、株式会社デンソーウェーブの
登録商標です。
z その他、掲載されている会社名、製品名は、
各社の登録商標または商標です。
7. 参考文献
図 11. 地域医療システムのイメージ
Community health system
1) 武田裕、松村泰志ほか . 医療の新システム
概念である「医療ドキュメント保管通信シ
ステム(DACS)」.(株)エム・イー振興
こ の よ う に 集 積 さ れ た 情 報 を DPR
*3
2
協会 . 月刊新医療 2009 年3月号
(Document centric Patient Record)と呼
2) 松村泰志 . 見読性の確保のための統合的
び、住民がどの医療機関で受診しても医療情報
文書管理システム DACS の提案. 第 29 回
は DPR に集約されることで、
「生涯カルテ」シ
医療情報学連合大会・一般講演プログラム
ステムの構築が可能となってくる。
2009 年 11 月 23 日発表
こうした地域連携ネットワークは、住民がよ
3) 厚生労働省 . 医療情報システムの安全管
り的確な医療サービスを受診できるようになる
理 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン 第 4.1 版 .
だけでなく、診療所と総合病院の役割分担の促
2010 年 2 月
進、医療費の削減、予防医療の強化、医師不足
4) 次世代電子商取引推進協議会 . 長期署名
や医療格差の解消など、社会に様々なメリット
フォーマット相互運用性実験報告書 .
をもたらすことになる。
2006 年 3 月
富士ゼロックスは、健康かつ安全で安心な暮
5) 山下哲也ほか . コンテンツマネージメン
らしの実現に向けて、いつでもどこでも誰でも
ト . 富士ゼロックステクニカルレポート
最良の医療を受けられるという国民の権利を実
No19 . (2010).
現する情報環境を提供するため、ドキュメント
を切り口とした技術で医療情報システムの発展
に寄与し、お客様に新たな価値提供を実現して
いく。
6. 商標について
z DocuWorks、Apeos PEMaster Evidence
Manager、Apeos iiX、ApeosPort は、富
士ゼロックス株式会社の商標または登録商標
です。
*2
3
DPR(Document centric Patient Record):ドキュ
メントをベースに一人ひとりの医療情報を記録する概念。
大阪大学医学部附属病院 医療情報部により提唱されて
いるコンセプト。
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
商品技術解説
診療記録統合管理ソリューション
筆者紹介
島崎
浩
ソリューション本部 ソリューション開発部に所属
Solution Development, Solution Group
専門分野:情報工学
伊藤
恵一
ソリューション本部 ソリューション開発部に所属
Solution Development, Solution Group
専門分野:情報工学
松永
英樹
ソリューション本部 ソリューション開発部に所属
Solution Development, Solution Group
専門分野:情報工学
周
斌
ソリューション本部 ソリューション開発部に所属
Solution Development, Solution Group
専門分野:情報工学
丸山
泰弘
ソリューション本部 ソリューション開発部に所属
Solution Development, Solution Group
専門分野:情報工学
倉林
則之
ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属
Medical Information System Business Development Office, Solution
Group
専門分野:情報工学
大坪
隆信
ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属
Medical Information System Business Development Office, Solution
Group
専門分野:情報工学
矢後
友和
ソリューション本部 医療情報開発推進室に所属
Medical Information System Business Development Office, Solution
Group
専門分野:情報工学
富士ゼロックス テクニカルレポート No.20 2011
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