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第7章 日本のベンチャーキャピタル

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第7章 日本のベンチャーキャピタル
第7章 日本のベンチャー・キャピタル
1. ベンチャーキャピタルの歩み
日本のベンチャー関連産業の歴史を追ってみると、そのほとんどが米国から始まった流れや
制度を後追いしながら発展したものである。公的なベンチャーキャピタルは米国のSBICを
下敷きにし、初の民間VCは米国のARDにならって作られた。VCファンドもしかり、リ
サーチパーク、株式公開基準、ストックオプションなど、多くの施策はかつて米国が作り広め
た制度を日本がひな型にして導入するというサイクルの繰り返しである(図表7-1)。以下で、
順を追ってベンチャーキャピタルの歩みを整理してみよう。
(1)中小企業投資育成会社の発足(63年)
日本のベンチャー・キャピタルは、中小企業投資育成会社という公的なVCにはじまる。
1963年6月に制定された「中小企業投資育成株式会社法」により、同年11月に東京、名古屋、
大阪の3大都市に同法に基づいて政府、地方自治体、民間の3者共同出資(1)により株式会社と
して設立された。
投資育成会社の設立には、第一に米国のSBIC(中小企業投資会社 (2))の発展が背景にあ
り、まさにSBICを下敷きに作られた制度である。第二に、59年頃から60年代前半にかけて
の日本の株式公開の活況がある。61年、62年には店頭売買承認銘柄および第二部市場に公開さ
れた会社が150社を越え、戦後初めての株式公開ブームが起こった。また、61年の証券取引所
図表7-1 ベンチャーキャピタルに関する出来事
●ベンチャーブーム
第一次:米国(69∼69年)、日本(70∼73年)
第二次:米国(78∼87年)、日本(82∼86年)
第三次:米国(93年∼)、日本(94年∼)
●中小企業庁の発足
米国:1953年(SBAの発足)
日本:1948年(中小企業庁の発足)
●民間ベンチャーキャピタルの発足
米国:1946年(ARDの設立)
日本:1972年(京都エンタープライズ・ディベロップメント他の設立)
●公的ベンチャーキャピタルの発足
米国:1958年(SBICの設立)
日本:1963年(東京、大阪、名古屋の中小企業投資育成会社の発足)
●VCファンドの発足
米国:1969年(アーサー・ロックがパートナーシップ・ファンド設立)
日本:1982年(日本合同ファイナンスによる投資事業組合設立)
●リサーチパークの発足
米国:1951年(スタンフォード・リサーチパークの設置)
日本:1982年(かながわサイエンスパークの設置)
(1)
第二部の発足(店頭売買承認銘柄を吸収)、63年の店頭売買銘柄登録制度の発足のように証券
市場で新制度が創設されたことも投資育成会社制度発足の背景にあった。
中小企業投資育成会社は、ともすれば民間VCの陰に隠れて目立たない存在であるが、現在
まで30年余の間着実な投資活動が行われている。現在までで3社あわせて約2,500社の投資実
績があり、78社の企業が株式公開を実施、投資残高は692億円である(3)。
(2)第一次ベンチャーブーム(70∼73年)
①民間ベンチャーキャピタルの発足
民間ベンチャーキャピタルの嚆矢は、72年設立の「京都エンタープライズ・ディベロップメ
ント」(KED)である。京都財界は、60年代半ばから知識集約型中堅産業の育成に取り組ん
できたが、米国のベンチャーキャピタルを日本に導入しようとする構想が設立のきっかけと
なっている。71年に京都経済同友会が米国ハイテク産業の実態視察を目的にボストンを訪問
し、当時ボストンの代表的VCであったARD(4)の活動に注目した。京都経済同友会はARD
にならったVCの設立構想を企画し、72年11月にKEDが正式に発足した。同社の資本金は3
億円、大株主は、立石電機、京都証券取引所、京都銀行、京都信用金庫、日本興業銀行等で、
43社が株主となった。
同じ72年11月に、「日本エンタープライズ・デベロップメント」(NED、現エヌイーデ
ィー)も設立された。これは、日本長期信用銀行、富士銀行、大和銀行、第一勧業銀行の他、
大和証券、伊藤忠商事などが大株主となり、総数39社の企業が出資した。当初NEDはどの特
定企業グループのも属さない中立色を姿勢として、ベンチャー経験者と金融機関出身者が共同
で実務を行う体制であった。また、住友銀行、住友商事など住友グループ16社が「日本ベン
チャーキャピタル」 (5)を72年12月に設立し、73年4月には野村証券の主導により、三和銀行、
日本生命、東洋信託銀行など16社が株主となって「日本合同ファイナンス」(現ジャフコ)が
発足した。
これらのほか、ユニバーサル・ファイナンス(現山一ファイナンス。山一証券系列)、セン
トラル・キャピタル(同上、東海銀行、日興証券)、東京ベンチャーキャピタル(第一勧業銀
行)、ダイヤモンドキャピタル(三菱銀行、三菱グループ各社)の、あわせて8社の民間ベン
チャーキャピタルが設立された(図表7-3)。
なお、当時は民間ベンチャーキャピタルの設立が独占禁止法に抵触する問題が議論された
が、72年11月に公正取引委員会がVCに関するガイドラインを通達し、これに添ったかたちで
民間VCが設立されている(6)。
②オイルショック後の停滞
この第一次ブームで発足した民間ベンチャーキャピタルは、スタートしてすぐに大きな試練
を迎えた。73年10月に起こった第一次オイルショックを発端にした不況によって、経営基盤の
弱いベンチャーが決定的なダメージを受けたからである。新規株式公開企業は78年の66社から
75∼80年には年間20∼30社にまで落ち込んだ(図表7-4)。
高度成長期と列島改造ブームにより積極化していた企業マインドは冷え込み、省エネ、コス
トダウンに注力する守りの減量経営に徹するところがほとんどであった。こうした中、積極的
に事業を拡大しようとする中小企業は少なく、しかもVC自体の認知度が低かったこともあっ
て中小企業の資金需要がVCの出資に結び付くケースが少なかった。
このリセッションで、VCの活動は停滞した。京都エンタープライズ・ディベロップメント
は80年3月にわずか7年余りの営業期間をもって解散し、日本ベンチャーキャピタルはベン
(2)
年
図表7-2 設立時期別にみたベンチャーキャピタル
25
設立社数・社
20
その他
保険
15
地銀
銀行
10
証券
5
0
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96
(西暦年)
(注) 秦・上條編『ベンチャーファイナンスの多様化』による。 96年はニッセイ基礎研の推定。
チャー投融資活動を収束させ、社名を総合ファイナンスに変更しファクタリング中心のファイ
ナンス業務に専念することになった。第一次ブームに設立されたもののうち、現在もVCとし
て活動している会社は6社である。
(3)第二次ブーム(82∼86年)
①ベンチャーキャピタルの参入
第一次ブームから10年が経過した82年、ベンチャー・キャピタルの設立が再び活発化した。
米国におけるNASDAQ市場の活況や、日本の店頭公開市場改革の論議を背景に、銀行、証
券を中心に相次いでベンチャーキャピタルを設立した。
この時期の特徴をまとめると、次のようになる。
●銀行、証券の参入
金融機関がこぞって系列ベンチャーキャピタルに進出した目的は、一言でいえば「有望企業
の青田刈り」である。銀行は、直接融資が実行できるほど成長していない中小企業にVCの投
融資を通じて資金を供給し、かつ将来の取引先候補として関係を強化できる。証券会社にとっ
ても同様で、将来引受幹事を獲得できる有望企業を、あらかじめ系列VCの投融資によって関
係を強化する目的がある。また、VCのような系列金融会社によって中小企業への融資やリー
ス分野をグループとして拡大できる。
こうして、82年には日本インベストメント・ファイナンス(大和証券系)、三洋総合キャピ
タル(三洋証券系)、新日本ファイナンス(新日本証券系)など5社、83年にはオリックス・
キャピタル(オリックス系)、日興キャピタル(日興証券系)、富士銀キャピタル(富士銀行
系)、三和キャピタル(三和銀行系)など10社、84年には地銀系のベンチャーキャピタルを中
心に現在までの最高件数である22社が設立されている(図表7-3)。
(3)
図表7-3 第一次、第二次ブーム当時に設立されたVC
会 社 名
系 列
(第一次ブーム)
中小企業助成会 #
独立
公的
公的
公的
*京都エンタープライズ・ディベロップメント # 京都財界
日本エンタープライズ・デベロップメント # 長信銀
住銀ファイナンス
都銀
*日本ベンチャーキャピタル(旧)
銀行
日本合同ファイナンス #
証券
ユニバーサル・ファイナンス #
証券
セントラル・キャピタル
都銀
東京ベンチャーキャピタル
証券
ダイヤモンド・キャピタル
三菱Gr.
(第二次ブーム)
三井ファイナンスサービス
都銀
日本アセアン投資 #
証券
東京中小企業投資育成
大阪中小企業投資育成
名古屋中小企業投資育成
三洋総合キャピタル
日本インベストメントファイナンス
名古屋キャピタル
新日本ファイナンス
和光ファイナンス
オリックス・キャピタル
丸三ファイナンス
岡三ファイナンス
コスモ総合ファイナンス
メターリンク
丸万ファイナンス
日興キャピタル
富士銀キャピタル
ナショナルエンタープライズ
名銀総合ファイナンス
勧角インベストメント
横浜キャピタル
中小企業ベンチャー振興基金
中京キャピタル
りゅうぎんベンチャ-・キャピタル
北海道ジャフコ
証券
証券
証券
証券
証券
事業会社
証券
証券
証券
個人、VC
証券
証券
銀行
事業会社
地銀
証券
地銀、VC
公的
地銀
地銀、VC
VC、地銀
設立
年月
52. 2
63.11
63.11
63.11
72.11
72.11
72.12
72.12
73. 4
73.12
74. 1
74. 4
74. 8
79.12
81. 7
82. 8
82. 8
82. 9
82.12
82.12
83. 1
83. 3
83. 4
83. 5
83. 5
83. 6
83. 7
83. 7
83. 8
83.11
84. 2
84. 3
84. 3
84. 3
84. 4
84. 4
会 社 名
十六キャピタル
スルガ・インベストメント・ファイナンス
ちばぎんキャピタル
第四合同ファイナンス
大阪インベストメント・ファイナンス
十八合同ファイナンス
福銀合同ファイナンス
たくぎんキャピタル
三和キャピタル
静岡キャピタル
九州キャピタル
八十二キャピタル
共立キャピタル
肥後ジャフコ
三重銀ファイナンス
北越キャピタル
TKCマネジメントコンサルティン
グ
中信合同ファイナンス
阿波合同ファイナンス
ぎふしん総合ファイナンス
インターコンチネンタル・テクノロジー
群馬キャピタル
シュローダー・ピーティービー
京都インベストメント・ファイナンス
とみんキャピタル
鹿児島キャピタル
兵銀キャピタル
紀陽ビジネスファイナンス
国際ファイナンス
北国キャピタル
北陸キャピタル
大和銀企業投資
エム・シー・ファイナンス
しがぎんキャピタル
東和ユニベン
ひめぎん総合ファイナンス
ジャミール・エス・アイ
ユニバーサル・ファイナンス
系 列
地銀
地銀
VC、地銀
地銀、VC
地銀
地銀、VC
VC、地銀
銀行
都銀
地銀、証券
VC、地銀
地銀,VC
証券、地銀
VC、地銀
地銀
地銀、VC
事業会社
設立
年月
84. 4
84. 4
84. 5
84. 6
84. 6
84. 7
84. 7
84. 7
84. 8
84. 8
84. 9
84. 9
84. 1
84.11
84.12
84.12
85. 2
信金、VC
地銀、VC
信金
独立
地銀、VC
独立
地銀、証券
地銀
地銀、VC
地銀
地銀他
証券
VC、地銀
地銀、VC
証券
事業会社
地銀他
地銀他
地銀他
独立
証券
85. 2
85. 3
85. 4
85. 4
85. 4
85. 6
85. 6
85. 7
85. 8
85. 1
85. 1
85.12
85.12
85.12
86. 1
86. 1
86. 4
86. 5
86. 5
86. 6
87. 1
(注) 日本経済新聞社『日経ベンチャービジネス年鑑』等による。*印の会社は現存していない。
#の中小企業助成会は現在テクノベンチャー、日本エンタープライズ・デベロップメントはエヌ・イー・ディー、日本合
同ファイナンスはジャフコ、ユニバーサル・ファイナンスは山一ファイナンス、日本アセアン投資は日本アジア投資に社名を
変更している。
●地銀の参入
84年には地銀系のVCを中心に現在までの最高件数である22社が設立されている。大手銀行
の参入をみて、地銀も地場の成長企業の株式取得を系列VCに担わせる目的から、地銀の大
手・中堅クラスが多数参入した。地銀の場合、自行だけの力でVCを設立するよりも、大手V
Cや大手証券と組んで共同出資で設立するケースが多かった。VCの運営ノウハウや投資案件
発掘の面で互恵関係が組める点があったからだろう。
(4)
図表7-4 新規株式公開件数の推移
第一次ブーム
←70∼73年→
200
第二次ブーム
←82∼86年→
第三次ブーム
94年→
店頭新規登録
東証新規上場
150
第一次
オイルショック
円高不況
(86∼87年)
100
50
0
69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96
(出所) 日本証券業協会、東証資料。 (注) 単位は件。
●投資事業組合の設立
以上のように日本のベンチャーキャピタルは、金融機関の出資による株式会社としてスター
トし、主に系列銀行から借入れた資金でベンチャー投資を行っていた。こうした調達形態で
は、VCがベンチャー投資が成功して収入が得られるまでの間、利子や元本を返済しなければ
ならず、VCはキャピタルゲインが生まれるまで長期間赤字状態にならざるを得ない。米国で
も、萌芽期である第二次大戦後から60年代までのVCは会社形態であり、程度の差はあれ日本
と同じ問題を抱えていた。しかし、69年にアーサー・ロックがリミテッド・パートナーシップ
法に基づくファンドを初めて設立し、70年代以降は次第にこのパートナーシップの形態による
VCファンドの運営が米国の主流となっていった。
日本合同ファイナンス(当時)は、この米国のファンドによる資金調達を調査し、日本に導
入しようと検討した (7)。当然日本にはパートナーシップ制度は存在していないため、法制度上
パートナーシップと同様な運営の行える形態を使わざるをえない。ここで最も重要なことは、
ファンドを運営する主体が法人税法上で課税対象にならないようにすることであった。このた
めに、「民法上の任意組合」(民法第667条)を根拠法にして投資事業組合が組成された。こ
の組合は独立した組合員(出資者)による共同事業と解釈され、組合自体は非課税対象となり
二重課税を回避できる。
この任意組合方式を用いて、日本で初めて設立されたVCファンドが日本合同ファイナンス
による「JAFCO1号」(82年4月設立、出資金総額16億円)である。80年代以降このJA
FCO方式を用いて各社が投資事業組合を設立しており、96年度末時点では46社のVCが総額
6,144億円のファンドを運営している(8)。
(5)
●非ベンチャーキャピタル業務の拡大
これら相次いで設立されたベンチャーキャピタルは、ベンチャー投資業務だけを行っている
わけではない。先述のようにVCは利払いや諸経費などのコストをまかなう収入は、ベンチ
ャー投資だけではなかなか実現できない。ベンチャー投資も未確実であり、それだけに経営を
絞るにはリスクがあった。そのサポートとして、各社は中小企業への融資やリース、ファクタ
リング(債権買取)のウェイトを高めた。図表7-5は、70年代に設立された先発6社の当時の
投資状況である。収益状況がはかばかしくないことも明確だが、総資産に占める投資残高は1
社を除き3割以下であった。このように、当時は大手のVCでも「中小企業向け金融業」の性
格をあわせ持っていた。
②円高不況後の停滞
プラザ合意後の円高不況を背景に、86年にはベンチャー企業の雄と呼ばれた急成長企業の大
型倒産が多発した。三和機材(86年3月倒産、負債総額100億円)、大日産業(86年4月、300
億円)、勧業電気機器(86年7月、120億円)、ミロク経理(86年8月、500億円)などであ
る。これらの倒産を機にベンチャー企業の投資を見直す動きが一挙に広がり、82年以降の第二
次ベンチャーブームは鎮静化した。
円高不況は2年足らずの短期間に収束し、続いてバブル経済が数年間にわたり続いたが、こ
の時期のVCはベンチャー株式の取得だけでなく、中小企業に対する不動産関連融資を拡大さ
せる会社が増えた。通産省「ベンチャーキャピタル投資状況調査」においてVCの融資残高を
みると、調査企業の融資残高は87年末に約3千億円であったものが、91年末には1兆円強と4
年間で3倍以上に急増している。ところが、90年代初頭のバブル崩壊によってこれらの不動産
関連融資が多額の損失や含み損となり、手痛い損害を被ったベンチャーキャピタルがかなり多
い。当時は中堅以上のVCの大多数が融資業務を行っており、多かれ少なかれバブル崩壊の痛
手を90年以降に処理して現在に至っている。日本のベンチャーキャピタルで現在の収益体質が
充分でないのは、不動産関連融資の影響が相当大きい。
また、90、91年にも金融機関のベンチャーキャピタル設立が増えている。これは大手保険会
社や、第二次ベンチャーブーム時にVCを設立しなかった銀行、証券が系列VCを設立したた
めである。
図表7-5 第二次ブーム当時の先発6社の経営状況
決算期 総資産
(a)
営業
収入
純利益
投資
総資本 投資比率
(b)
残高(b) 純利益率
(b/a)
億円
16.5
億円
1.3
億円
13.4
%
0.5
%
4.9
日本エンタープライズ・
デベロップメント
82/3
億円
273
日本合同ファイナンス
82/9
760
63.2
2.3
50.3
0.3
6.6
ユニバーサル・ファイナンス
82/9
162
10.7
1.4
4.2
0.9
2.6
セントラル・キャピタル
82/4
239
17.4
1.0
10.4
0.4
4.4
東京ベンチャー・キャピタル
82/3
30
2.1
0.2
6.5
0.7
21.7
ダイヤモンド・キャピタル
82/12
31
4.2
1.1
22.1
3.5
71.3
(出所) 東洋経済『ベンチャーキャピタル&ベンチャービジネス』(1982)p.65。
(6)
図表7-6 第三次ブームに設立されたベンチャーキャピタル
設立日
会 社 名
系 列
メイン
96/1
96/2
96/3
96/4
96/4
96/4
96/4
96/4
96/4
96/春
96/春
96/4
96/4
96/4
96/4
96/6
96/6
96/6
96/6
96/7
96/7
96/7
96/8
96/9
96/9
96/11
96/12
96/12
96/12
97/2
97/3
97/春
97/春
ごうぎんキャピタル
日本ベンチャーキャピタル
徳銀オリックス
香川銀キャピタル
ユーラシア・ベンチャーキャピタル
やまぎんキャピタル
殖銀キャピタル
ドリーム・ネットワーク
グロービス・インキュベーション・ファンド
NTTリース
テクノキャピタル
山口キャピタル
みちのくキャピタル
宮銀ベンチャーキャピタル
エムティービーキャピタル
紀陽キャピタル
阿波銀リース
やまぎんキャピタル
グローバル・ベンチャーキャピタル
しんわベンチャーキャピタル
第三キャピタル
日本商工経済研究所
山梨中銀キャピタル
宮崎太陽キャピタル
しあわせファイナンス
肥銀ベンチャーキャピタル
安田火災ベンチャーキャピタル
光栄キャピタル
ワールドビューテクノロジー
エッジキャピタルアンドパートナーズ
ぶぎんキャピタル
アドバンテッジ・パートナーズ
エム・ヴィー・シー
地銀他
独立
地銀他
地銀、VC
独立
地銀他
地銀他
独立
事業会社
事業会社
事業会社
地銀、信金等
地銀、VC
地銀
信託
地銀、VC
地銀
地銀
独立
地銀
地銀
政府系
地銀
地銀、VC
地銀
地銀
保険
事業会社
独立
独立
地銀、VC
独立
三井グループ
山陰合同銀行
日生、ウシオ電機等41社
徳島銀行、オリックス
香川銀行
山形銀行
殖産銀行
グロービス
NTT
応用工学研究所
NIF、山口銀、西京銀
みちのく銀行
宮崎銀行
三菱信託銀行
紀陽銀行
阿波銀行
山形銀行
親和銀行
第三銀行
商工中金
山梨中央銀行
宮崎太陽銀行
山形しあわせ銀行
肥後銀行
安田火災
光栄
資本金
(億円)
注 記
1.5
10.5
VC業務を兼業
0.5
0.2
0.3
0.1
事業組合を組成
VC業務を兼業
1.0
1.0
0.3
1.0
0.5
VC業務を兼業
1.0
0.1
0.5
VC業務を兼業
1.0
0.5
VC業務を兼業
1.0
4.0
事業組合を組成
武蔵野銀行
0.2
三井物産、さくら銀行
4.5
VC業務を兼業
(注) 新聞報道より作成。報道ベースのため設立予定の会社および推定値を含む。
(4)第三次ブーム(94年∼)
94年に通産省が「創造支援事業」を開始し、95年には新規事業法の改正、中小創造法の施行
などベンチャー育成への期待が強まる中で、金融機関や事業会社でベンチャー・キャピタルに
進出するケースや既存の系列VCを強化する動きが再び拡大した。
95年以降、新たにVCを設立した会社は、金融機関だけでなく幅広い分野から参入してい
る。大手企業の共同設立(日本ベンチャーキャピタル、96年2月)や、地銀・第二地銀(みち
のく銀行、紀陽銀行、山口銀行、親和銀行、宮崎銀行など)の系列VC、あるいは企業経営者
やベンチャーキャピタルの中堅層による独立系VCの設立が主なものである。
また後述するように、中小創造法に基づく「創造的中小企業創出支援事業」により、地方自
治体のベンチャー財団(9)が95年後半以降続々と設立され、公的VCとしてベンチャー投資に乗
り出している。
(7)
図表7-7 系列別にみたベンチャーキャピタル会社数
年末
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
(系列)
証券 都銀・
長信銀
2
9
16
17
18
18
19
19
20
22
23
23
22
22
22
22
4
4
5
9
10
11
11
12
14
15
14
15
15
15
16
17
地銀
0
0
1
1
3
3
3
3
4
5
6
6
6
6
7
17
地銀+
VC
0
0
17
29
32
32
32
32
32
34
34
34
34
34
34
38
保険
0
0
0
0
0
1
1
1
2
5
8
10
10
10
10
11
合計
うち
投事
*
8
18
49
72
83
86
88
91
97
109
117
120
119
121
123
147
0
1
7
15
18
21
22
24
24
26
29
31
33
38
43
46
外資系 事業会社、
独立系
1
3
3
3
4
4
4
4
4
3
3
3
3
4
4
4
1
2
7
13
16
17
18
20
21
25
29
29
29
30
30
38
(出所) 秦・上條編『ベンチャーファイナンスの多様化』による。
(注) *は投資事業組合を運営しているVC会社数。96年はニッセイ基礎研の推定。
2.日本におけるベンチャーキャピタルの構造
(1)未解明部分が多い
日本のベンチャーキャピタルは80年代以降に発展した若い産業である。そのマーケットも小
さく、VCは中小規模の会社がほとんどである。信頼のおける関連統計も少なく、外部からV
Cの経営状況やファンドの収益状況を知ることは難しい。ある意味でこの業界は大手金融機関
の関連会社としての捉え方しかされておらず、その構造は関係者以外にはほとんど知られてい
ないまま現在に至っている。
ベンチャーキャピタルの業界団体が何ら存在しないこともその一因であろう。多くのVCは
大手金融機関の関係会社であり、VCとしての意志よりも親会社の利害関係を重視しがちなこ
とや、新規に参入したVCが多く関心が業界としての発展に向かっていないこともある。広く
資金をVCに集め、洗練された業界活動を発展させるためには、確たる情報が公開され広く世
の中に認知されるような仕組みが必要になってきている。
(2)VC会社の分布
正確なデータは存在しないが、現在のベンチャーキャピタル会社数は160社前後と推定され
る。日本経済新聞の「96年度ベンチャーキャピタル調査」では、調査対象となったVCが160
社であることからも裏付けられよう。図表7-7のように81年末が8社、85年末が86社であった
から、ほとんどのVCは最近15年間で設立された会社である。また、96年以降に報道されただ
けで30社以上の民間VCが設立されており、今後もさらに増える勢いである。
ほとんどのVCは株式会社によって運営されているが、銀行・証券・保険を設立母体とする
金融機関の系列会社が大多数を占めている。96年末時点のVC147社のうち、証券系が22社、
(8)
図表7-8 ベンチャーキャピタルの投融資額
自己資金(単位:億円)
調査
時点
87/12
88/12
89/12
90/12
91/12
92/12
93/12
94/3
95/3
96/3
調査
時点
87/12
88/12
89/12
90/12
91/12
92/12
93/12
94/3
95/3
96/3
投資
残高計
1,414
1,754
2,331
3,850
5,114
5,328
4,963
5,837
5,876
5,423
投資
残高計
825
822
967
1,419
1,876
2,167
1,978
2,488
2,655
2,835
SB
株式
813
1,046
1,327
2,344
3,251
3,619
3,627
4,259
4,393
4,085
株式
717
720
871
1,248
1,635
1,907
1,752
2,093
2,154
2,295
WB
公開 未公開
136
677
173
873
246 1,080
491 1,852
707 2,544
866 2,752
967 2,660
884 3,375
929 3,464
981 3,104
568
660
951
1,424
1,789
1,618
1,242
1,085
946
798
CB
カム
68
68
65
81
98
120
77
73
100
135
X
499
592
886
1,343
1,691
1,498
1,165
1,012
846
663
投資事業組合資金(単位:億円)
WB
公開 未公開
カム
X
32
685
59
25
34
36
685
53
25
28
52
818
41
29
11
58 1,190
106
47
59
78 1,557
154
57
97
72 1,835
138
63
75
360 1,392
95
54
42
88 2,005
92
56
36
103 2,051
113
54
60
160 2,135
106
64
42
33
49
53
83
74
92
94
222
233
224
融資
出資金
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
271
304
315
CB
出資金
49
48
56
65
86
123
130
165
243
297
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
138
144
137
47
41
60
105
81
81
74
92
63
57
3,018
5,609
6,146
9,961
10,379
9,508
9,563
4,403
4,140
2,305
回答
社数
37
39
41
47
51
48
46
70
70
70
(出所) 通産省『ベンチャーキャピタル投資状況調査』。
(注) 当調査は回答企業が固定していないため、厳密な前年度比較はできない。
銀行系(都銀・信託・長信銀)17社、地銀系55社(うち地銀とVC等との共同設立が38社)、
保険系11社と、金融系だけで全体の7割を占めている(図表7-7)。また、公開企業はジャフ
コ(87年6月店頭登録)、日本アジア投資(同96年9月)の2社のみである。
(3)投融資活動
①高い融資比率
VC業界を定期的に把握している唯一の統計は、通産省の「ベンチャーキャピタル投融資状
況調査」である(図表7-8)。これによると、96年3月末時点の日本のVC全体(回答社数70
社)における投融資残高は1兆620億円(前年度比4.3%減)である。内訳は、投資残高が
8,258億円(同0.4%増)、融資残高が2,362億円(同18%減)である。融資残高が大幅に減少し
たのは、80年代後半に増やした不動産関連融資の処理が進行しているものと思われる。なお、
投資会社数は12,209社と前年度(10,915社)に比べ12%増加している。
ベンチャーキャピタルでありながら、融資が投融資残高全体の3割を占めているのは、以下
の要因がある。
(9)
●自己資金でベンチャー投資を行う場合、投資会社が公開してVCが株式売却益を得られるま
でに長期間を要し、その間VCは収益を確保できない。このためVCは運営経費を確保する
ため融資の金利収入に依存していたこと。
●VCが投資する未公開企業も、資本政策上VCが高い出資比率となることを回避する傾向が
強く、出資と融資および債券取得の組合わせを望むケースが多いこと。
●金融機関系列VCの場合は、親会社である銀行・証券等の戦略に協調するケースが多く、親
会社が積極的な企業に対し共同歩調ないしは肩代わりのかたちでVCも関与していること。
②多いエクイティ債
投資残高のうち、ワラント債と転換社債の比重が高い点も日本の特色である。先の通産省調
査では、95年度末の自己資金投資のうち14.7%がワラント債、4.1%が転換社債とあわせて投
資残高の2割弱を占めている(図表7-8)。これは、VCの投資対象がレイターステージ以降
の企業であり、増資をせずとも融資や社債発行で資金調達できる状況にあることや、経営者が
外部株主比率の大幅な上昇を回避したい意向が強いことなど、いくつかの要因が考えられる
が、いずれにせよVCにとっては高い収益率が期待できる仕組みではない。
③急増する投資額(図表7-10)
第三次ブームのもとで、ベンチャーキャピタルの投資が再び活発化している。通産省調査に
よると、95年度の投資額は1,644億円(前年度比8.8%増)となり、投資会社数も2,903社(同
55%増)と増加した。96年度はさらに投資額が増えている。日本経済新聞社「96年度ベンチ
ャーキャピタル調査」によると、96年度の投資額は2,319億円(同調査による95年度投資額
1,538億円)と、前年度に比べて50.8%も増加している。
また、投資対象1社当りの投資額も、ベンチャーキャピタル間の競争激化を反映して減少し
ている。後述するように、中堅クラス以下のVCが95年度以降に投資件数を大幅に増加させて
いるが、彼らの1社当り投資額は3∼5千万円と上位(1社当り投資額7千万∼2億円)に比
べて小さい。中堅クラス以下の投資急増が、1社当りの投資額を引き下げていると考えられ
る。
④投資企業の社齢
日本のVCは、レイターステージの企業への投資が主軸である。通産省調査では、95年度に
投資を実施した企業は、設立後5年未満が351社(新規投資会社全体の17.7%)と前年度(248
社、全体の16.7%)より大幅に増加している。日本経済新聞社調査でも、設立後20年以上の投
資企業の割合が94年度が48.7%、95年度41.3%、96年度35.0%と急速に減少しており、アー
リーステージ企業への投資が活発化している。特に、95年以降は既存のベンチャーキャピタル
図表7-9 VCの年間投資額
調査元
93暦年
94年度
95年度
96年度
投資額 (a)
億円
759
1,511
1,644
−
通産省
延べ投資会社数 (b)
社
1,062
1,875
2,903
−
1件当り投資額 (a/b) 百万円
71
81
57
投資額 (c)
億円
−
−
1,538
2,319
日本経済 延べ投資会社数 (d)
社
−
−
1,838
3,017
新聞
1件当り投資額 (c/d) 百万円
84
77
(出所) 通産省『ベンチャーキャピタル投資状況調査』、日本経済新聞社『ベン
チャーキャピタル調査』。
(10)
図表7-10 VCの業種別、地域別の投資額
投資残高合計
(非製造業)
農林水産、鉱業
建設
電気・ガス・水道
運輸業
通信
卸売・小売
飲食店
金融・保険
不動産
サービス
娯楽
リース・レンタル
ソフトウェア
情報処理・サービス
学習塾・フィットネス
医療サービス
その他サービス
投資
残高
億円
構成比
7,917
3,652
18
410
9
130
66
1,173
53
650
126
1,017
97
81
241
66
52
29
451
100.0
46.2
0.2
5.2
0.1
1.6
0.8
14.8
0.7
8.2
1.6
12.8
1.2
1.0
3.0
0.8
0.7
0.4
5.7
%
(製造業)
食品・飲料・たばこ
化学・石油石炭
窯業土石
鉄鋼・非鉄金属
一般機械
電気機械器具
通信機械
電子計算機
電子部品・デバイス
その他電機
輸送用機械
精密機械
その他製造業
国内企業計
海外企業計
国内ファンド
海外ファンド
投資
残高
億円
構成比
2,662
159
245
87
179
378
199
58
119
211
68
42
123
794
6,314
1,080
172
352
33.6
2.0
3.1
1.1
2.3
4.8
2.5
0.7
1.5
2.7
0.9
0.5
1.6
10.0
79.8
13.6
2.2
4.5
%
地域別国内投資
北海道
東北
関東(除東京都)
東京都
甲信越
東海
北陸
近畿(除大阪府)
大阪府
中国
四国
九州・沖縄
(地域別海外投資)
米 国
欧州
アジア
投資
残高
億円
構成比
188
129
646
2,992
417
498
185
328
761
192
60
193
2.9
2.0
9.8
45.4
6.3
7.6
2.8
5.0
11.6
2.9
0.9
2.9
261
207
903
3.3
2.6
11.4
%
(出所) 通産省『ベンチャーキャピタル投資状況調査』。 (注) 数値は96年3月末時点。
や新規参入したVC、銀行・保険などが競って未公開企業への投資を増やしている。こうした
競争激化の中で高リスクの案件に多数参加しているVCが少なくないことが業界では指摘され
ている。
⑤業種別投資(図表7-9)
投資対象業種は、多くの業種に広がっており特定業種への偏りが少ない。ウェイトが高い業
種は、卸小売(投資残高全体の14.8%)、サービス(同12.8%)、その他製造(10.0%)、金
融保険(8.2%)、建設(5.2%)の順である。米国のVCではコンピュータと情報通信関連で
4割前後を占めているが、日本では電子計算機が1.5%、電子部品が2.7%、通信が0.8%、ソ
フトウェアが3.0%、情報処理・同サービスが0.8%と、これらをすべてあわせても全体の1割
に満たない(10)。
⑥地域別(図表7-9)
投資を地域別にみると、東京都の割合が国内投資残高の45.4%と半分近くを占める。次いで
大阪府が11.6%、東京を除く関東9.8%、東海地域7.6%と大都市圏企業への投資が大半であ
る。また、海外企業や海外ファンドへの投資も多く、投資残高全体の18.1%が海外である。中
でもアジア企業が投資残高全体の11.4%を占めている。
(4)自己資金と投資事業組合
日本のVCでは、自己資金と投資事業組合の2つの形態による投融資活動が行われており、
リミテッドパートナーシップの形態がほとんどである米国VCとは大きく異なる。
●自己資金投資
(11)
図表7-11
時点
85/12
86/12
87/12
88/12
89/12
90/12
91/12
92/12
93/12
95/3
96/3
設立
総額 ファンド
(億円) 件数
372
156
534
19
135
6
362
11
1,152
24
1,013
26
425
14
134
7
405
12
657
29
残高
総額 ファンド
(億円) 件数
1,301
42
1,457
48
1,991
67
2,126
73
2,488
84
3,640
108
4,653
134
5,078
148
5,212
155
4,827
129
5,169
149
投資事業組合の設立状況
年度
都銀・長信銀・信託
地銀・第二地銀
信金・信組等
証券
生保
損保
国内事業会社
海外投資家
個人
ベンチャーキャピタル
調達額(億円)
94
95
構成比(%)
94
95
32.5
38.5
12.5
11.0
37.0
6.0
209.5
8.0
9.0
41.0
8.0
9.5
3.1
2.7
9.1
1.5
51.7
2.0
2.2
10.1
101.3
53.5
30.0
15.0
47.5
11.5
284.7
27.0
7.0
44.6
16.3
8.6
4.8
2.4
7.6
1.8
45.8
4.3
1.1
7.2
(出所) 通産省『ベンチャーキャピタル投資状況調査』。
VC会社が外部から資金調達を行って未公開企業に投融資を行う。VC自社の勘定内でも投
融資であり、利子配当収入や株式売却による利益損失はすべてVCに帰属する。
●投資事業組合
民法上の任意組合に根拠を置き、「人権のない社団」として組合方式の投融資運営を行う形
態である。米国のリミテッドパートナーシップを実務的に取り入れるために、法律上この形態
が取られたものである。VCは外部の組合員から出資を募り、VCが出資金を未公開企業への
投融資に振り向けることによって運営し、資産の管理手数料および運用収益の一部を報酬とし
て得る。従って投資事業組合の資金はVC会社の資産とはならない。
投資事業組合を組成する会社は大手VCが中心である。投資事業組合の投資残高は95年度末
時点で2,835億円と、自己資金による投資残高(5,423億円)の約半分となっている(11)。なお、
日本経済新聞社の調査によれば、96年度末時点で46社のVCが投資事業組合を運営しており、
出資金総額は6,144億円(同上46社の合計)となっている。
(5)資金調達
VCの資金調達は、上記の自社資金、投資事業組合資金により大きく異なる。自社資金の場
合、資金調達は借入金が主である。証券系VC大手では、借入金融機関が20社を越え調達先も
多様化しているが、銀行系や保険系は親会社やグループ内ファイナンス会社からの借入に依存
している。
投資事業組合では、組合員による出資金が調達資金となる。95年度に設立された組合の出資
構成は、国内事業法人45.8%、都銀・長信銀・信託16.3%、地銀・第二地銀8.6%、生保7.6、
VC本体7.1%などとなっている(図表7-11)。米国VCの出資者が、年金基金が50%前後、
大学財団が20%前後を占めており、日本の出資構成は米国とはかなり違っている。
(12)
3. ベンチャーキャピタル会社
(1)二極分化
ベンチャーキャピタルを規模的にみれば、大手VCと中小に二極分化している。投資残高
(自己資金と投資事業組合の合計値)でみた上位5社は、97年3月末時点で合計4,429億円と
VC86社の投資残高の50.5%にあたる(12)。同じく上位10社の投資残高は全体の66.5%を占め
る。投資事業組合はさらに大手に偏っており、保有ファンド総額の上位5社はVC全体のファ
ンド額の67.6%を占める。
97年3月時点で投資残高が10億円以上のVCは98社のうち58社、同じく50億円以上が29社、
100億円以上は19社で、1,000億円以上の会社は1社(ジャフコ)のみとなっている。また、大
手3社では200名を越える従業員を抱え、複数の営業部や国内・海外支店、および専門の管理
部門、審査部門を設置している一方、中位以下のVCでは従業員数が20名以下であり、一つの
営業部が全地域の投資案件発掘から審査、投資実行まですべてを扱っている。
つまり、日本では8割以上のVCが投資額100億円に満たない中小規模の会社である。米国
でも管理資産が1億ドルを超えるVCは全米600社の中で数十社しかない。ベンチャーキャピ
タルは、まさに少数の人間が集まり投資企業を育てる手づくりの事業といえよう。この点、企
業投資会社といっても、投資顧問や投資信託会社とは本質的に異なっている。
(2)タイプ別の特徴
このように、ベンチャーキャピタルといっても大手とそれ以外でかなり異なるが、資本系列
によって以下のようにタイプ分けすることができる。
①証券系ベンチャーキャピタル
証券会社にとって、系列VCは投資先が株式公開を実施する際の引受幹事を取得する布石と
して重要である。現在の証券系VC22社のうち6社がトップテンに入っており、大手VCの多
くは証券系である。
証券系の中で上位のVCは、いわゆる四大証券や準大手の関連会社であり、投資残高が200
億円以上、従業員100名以上と規模は大きい。業務は専門機能別の部門によって運営され、海
外投資も活発で残高は全体の1割を越えている。準大手以下の証券会社が出資する中堅以下の
証券系VCは、総資産50∼百数十億円、従業員30∼70名程度の規模である。
証券系VCでは、投資事業組合を活発に設立して資金を調達している。安定資金源がある銀
行や生損保系と違い、借入資金のみでVCを運営することは難しいことが第一の理由である。
主なVCとしては、ジャフコ(メイン株主:野村証券)、日本インベストメント・ファイナ
ンス(同、大和証券)、日本アジア投資(四大証券)、日興キャピタル(日興証券)、山一
ファイナンス(山一証券)、国際ファイナンス(国際証券)がある。
②大手銀行系VC
都銀、長信銀は、第一次、第二次ベンチャーブームの際に系列VCを設立している。中小企
業取引拡大の先兵としての役割を期待されたからであるが、先述のようにベンチャーキャピタ
ル業務だけではなく、中小企業向けファイナンス会社の機能も同時平行的に拡大していった会
社が多い。現在は、後者のファイナンス業務は縮小し、VC業務に専念する体制である。
(13)
図表7-12 主なベンチャーキャピタル
順
位
会社
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
日本合同ファイナンス
日本インベストメントファイナンス
日本アジア投資
エヌイーディー
日興キャピタル
富士銀キャピタル
東京中小企業投資
山一ファイナンス
大阪中小企業投資
国際ファイナンス
三和キャピタル
東京ベンチャーキャピタル
あさひ銀事業投資
大和銀企業投資
ダイヤモンド・キャピタル
セントラル・キャピタル
名古屋中小企業投資
(*)
勧角インベストメント
新日本ファイナンス
さくらキャピタル
CSKベンチャ-キャピタル
横浜キャピタル
ニッセイ・キャピタル
オリックス・キャピタル
テクノベンチャー(*)
八十二キャピタル
岡三ファイナンス
三洋総合キャピタル
たくぎんキャピタル
興銀インベストメント
日本ベンチャーキャピタル
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
系列
メイン
(投資残高の上位順、単位:億円)
投資
うち
融資
投事
営業
経常
投資
残高
海外
残高
組合
収益
利益
額
(97/3) (97/3) (96/3) 総額 96年度 96年度 96年度
証券
証券
証券
長信銀
証券
都銀
公的
証券
公的
証券
都銀
証券
都銀
証券
三菱系
都銀
公的
野村証券 1,904
大和証券
864
四大証券
807
長銀
469
日興証券
386
富士銀
318
−
317
山一証券
294
−
243
国際証券
224
三和銀
208
勧角証券
182
あさひ銀
178
大和銀
171
東海上等
168
東海銀
168
−
155
証券
証券
都銀
事業会社
地銀,VC
生保
事業会社
独立
地銀
証券
証券
都銀
長信銀
独立
勧角
新日本
さくら銀
CSK
横浜銀
日本生命
オリックス
−
八十二銀
岡三証券
三洋証券
北拓銀
興銀
−
130
125
101
100
94
89
80
78
66
65
61
57
54
54
464
305
555
86
59
6
0
65
0
54
3
7
4
6
0.5
1.5
0
1,333
611
630
22
198
0
0
N.A.
0
1,354
0
850
67
36
3
224
0
1,569
737
1,035
56
458
60
0
355
0
352
0
0.5
0
179
5
11
0
15
5
N.A.
48
6
N.A.
13
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
0.7
29
3
174
N.A.
2
17
0
0
0
3
13
1,009
192
1.2
N.A.
80
58
10
103
11
0
0
150
3
44
0
0
84
141
299 103.4
N.A. N.A.
81 31.2
N.A. N.A.
51 20.6
17
3.4
40 23.4
87 N.A.
31 13.1
98 17.0
26 12.8
55
8.6
27
4.7
10
0.3
29 17.0
26 N.A.
43 26.6
18
31
14
6
N.A.
3
N.A.
N.A.
13
8
N.A.
5
14
4
0.8
14.2
1.8
-0.3
N.A.
0.1
N.A.
N.A.
3.3
0.8
N.A.
1.5
8.9
0.3
425
303
249
79
110
74
27
63
26
85
75
26
58
50
56
62
12
25
21
32
32
19
54
19
N.A.
17
9
2
0.3
21
54
(注) 日本経済新聞『日経ベンチャー年鑑97』による。(*)印の会社は95年度(末)の数値。
これらの大手銀行系VCは、規模的にみれば投資残高上位10社から30社の間の準大手グルー
プが多く、投資残高50∼200億円程度、従業員数が20∼70名程度の業容である。資金調達は、
投資事業組合方式を取るVCはほとんどなく、大部分は親銀行や関連ノンバンクからの借入で
ある。
主な会社には、エヌイーディー(メイン株主:日本長期信用銀行)、富士銀キャピタル(
同、富士銀行)、三和キャピタル(三和銀行)、あさひ銀事業投資(あさひ銀行)、大和銀企
業投資(大和銀行)、セントラル・キャピタル(東海銀行)がある。
③地銀系VC
地銀や第二地銀が、第二次ブーム以降に相次いで設立したVCである。大手銀行が系列VC
を設立したため、地銀が自行の営業地域にある中小企業の取引を奪われる危機意識が背後に
(14)
図表7-13
順
位
会 社
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
日本合同ファイナンス
日本アジア投資
日本インベストメントファイナンス
日興キャピタル
山一ファイナンス
国際ファイナンス
大和銀企業投資
テクノベンチャー(*)
日本ベンチャーキャピタル
シュローダー・ピーティーヴィー
事業組合
総額
(億円)
1,569
1,035
737
458
355
352
179
150
141
134
投資事業を運営している主なVC
ファンド
件数
順
位
45
20
16
9
14
14
5
9
1
4
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
(投資残高の上位順、単位:億円)
事業組合 ファンド
会 社
総額
件数
勧角インベストメント
明治生命キャピタル
オリックス・キャピタル
富士銀キャピタル
TKCマネジメントコンサルティング
新日本ファイナンス
エヌイーディー
いずみキャピタル
コスモ総合ファイナンス
岡三ファイナンス
(億円)
80
80
78
60
60
58
56
50
45
44
4
3
5
2
3
6
3
2
2
3
(出所) 日本経済新聞『日経ベンチャー年鑑97』。
(注) 数値は96年度末(*印の会社は95年度末)。
あったものと考えられる。地銀や第二地銀は、経営体力やノウハウ上の側面から独力でVCを
設立するよりも大手ベンチャーキャピタルや大手証券会社と共同でVCを設立したケースが多
い。大手VCとしても地方の投資案件発掘で地銀の協力を得られるメリットがある。こうして
設立されたVCは、現在投資残高が数億∼50億円、従業員が10名未満と中堅以下の規模で、投
融資対象の企業も親銀行の営業地域に限定されている。
④生損保系VC
生損保系列のベンチャーキャピタル会社は、多くが90年以降の設立である。設立後10年未満
の会社であり、現在の投資残高は10億∼90億円と、中堅クラスのVCが多い。最近は他のグ
ループ以上に積極的に投資活動を行っており、96年度の投資額が前年度比50%以上増えたVC
が4社もある。なお、資金調達はほとんどが親会社からの借入である。
⑤独立系・その他
このグループは多様である。
●事業会社のVC進出:CSKベンチャーキャピタル、オリックス・キャピタル等
●大手企業の連合型VC:日本ベンチャー・キャピタル、ダイヤモンド・キャピタル等
●海外投資家のVC参加:シュローダー・ピーティーヴィー、インターコンチネンタル・テク
ノロジー等
●スピンアウト組によるVC設立:ワールドビュー・テクノロジー、グローバル・ベンチャー
キャピタル等
●企業投資会社からの発展:第二次大戦前に財閥経営者であった鮎川義介氏の企業投資会社
(中小企業助成会、1952年設立)から発展したテクノベンチャー
以上のように複数のタイプがある。会社規模は中堅以下のVCが大多数であるが、親会社主
導の色彩が強い金融機関系列とは違って独自性を前面に出した戦略を取るVCが多い。アー
リーステージの投資も他グループより多く、また1件当りの投資額も大きい。また、資金調達
は大半のVCが投資事業組合方式を採用している。
(3)収益状況
(15)
ベンチャーキャピタルの収益は、投資企業の有価証券売却によるキャピタルゲイン、投資事
業組合の管理収入、貸付金の利息がコアである。管理収入は投資事業組合を運営する限り組合
員から得られる安定収入で、貸付金は中小企業融資の金利収入である。したがって、VCの収
益力は自社の勘定や、投資事業組合の資金(VCの資産には含まれない)によって投資した有
価証券が、どれだけの含み益を持っているかにかかっている。
前述したように、日本のVCのうち公開企業はジャフコと日本インベストメント・ファイナ
ンスの2社だけで、収益状況をはっきりと把握できるデータに乏しい。ただし、この点は欧米
のVCも同様である。
数少ないデータや業界情報から側聞する限り、日本のVCの収益状況は芳しいものではな
い。最近の公開企業数の増加によりVCの収益環境は好転しているけれども、96年度の経常利
益を公表しているVC71社のうち60社が経常利益10億円未満で、経常赤字のVCが13社もある
(13)
。割合安定した利益を計上しているのは上位のVCに限られている。第6章で述べたよう
に、米国のVCは空前の利益を得ており、ベンチャーキャピタリストの年収がシニアクラスで
は平均2億円を超えている。一方、日本のVCはバブル崩壊で発生した不良債権を最近のキャ
ピタルゲインで何とか処理している状況で、彼我の格差はかなり大きいようだ。
さらにいえば、日本では投資事業組合のパフォーマンスが外部から全く把握できない。米国
では、80年代にメイン出資者である年金基金を中心にVCファンドの収益状況をディスクロー
ズする要求が高まり、現在では個別ファンドの収益率は当事者以外に公表されないが、類似す
るファンドのグループ別に集計した収益率が公表されている。また、正確性、信頼性には問題
があるが、米国の専門誌やコンサルタントが個別のファンドやVCを対象に収益率を発表して
いる。いずれにせよ、日本ではまだデータが不足しているため、投資事業組合の評価は難し
い。こうした情報がオープンになれ、成果の良否はともかくとして一般の評価を受ける場が作
られない限り、日本のVCの社会的な認知や年金のような国民資産の流入は難しいであろう。
**************************************
(注)
1)中小企業投資育成会社の資本構成は、設立当初は政府(中小企業金融公庫)が11%、地方自治体18%
、民間71%(以上は3社合計の数値)の割合となっていた。
2)SBICについては、第8章4節を参照。
3)96年3月末時点の数値。東京、大阪、名古屋の3投資育成会社の合計。
4)ARD(American Research Development)については、第6章1節を参照。
5)現在VCとして活動している日本ベンチャーキャピタル(株)とは異なる。
6)独占禁止法では、寡占市場構造の形成を阻止する観点から、事業会社、金融機関の株式保有に制限を
設けている。民間VCの場合、持ち株会社設立の禁止条項(独禁法第9条)に抵触するため、独禁法の
特例措置が必要であった。こうしたことから、公正取引委員会は民間VCが発足する前である72年10月
に、ガイドラインを発表しており、この見解に従う限りVCの設立が容認されることとなった。当時、
公取委が示した主な基準は以下のとおりである。
・VCの投資はあくまで資金供給であり、投資先企業の支配を目的としない。
・VCは、投資先企業に対して、役員の派遣、および役員の兼任を行わない。
・VCの投資対象となる株式は、原則として新株であること。
・VCの出資比率は、投資先企業の資本金の49%を超えないこと。25%を超えるときは他の出資者との
関係および企業支配が不可能であることを明らかにすること。
・VCの取得した株式は、その投資目的が達成された場合は、相当の期間内に処分すること。
7)「JAFCO15年の歩み」(88年、日本合同ファイナンス編)による。
8)日本経済新聞「96年度ベンチャーキャピタル調査」による。
9)地方ベンチャー財団については第8章2節を参照。
10)、11)通産省「ベンチャーキャピタル実態調査」による。96年3月末時点の数値。
12)、13)日本経済新聞「96年度ベンチャーキャピタル調査」による。
(16)
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