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Miltenyi Biotec Report

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Miltenyi Biotec Report
Miltenyi Biotec
Report
マウスモデルにおける IL-12/23 p40 抗体は
IFN-γ/IL-17 産生細胞の抑制を介し GVHD を軽減する
岡 本 幸 代
藤 原 英 晃
前 田 嘉 信
岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 薬 学 総 合 研 究 科 血 液・ 腫 瘍・ 呼 吸 器 内 科 学
慢 性 GVHD( 移 植 片 対 宿 主 病 ) は、 同 種 造 血 細 胞 移 植 後 晩 期 の 主 な 死 因 の 一 つ で あり、 自 己 免 疫 疾 患 に 類
似し た 臨 床 像 を 呈 する。MACS マ イクロ ビ ーズ を 用 い て 分 離し た 細 胞 を 別 系 統 の マ ウス に 移 入 することに よ
り、 慢 性 GVHD の マ ウス モ デ ル を 構 築 で きる。 この マ ウス モ デ ル に、IL-12 と IL-23 の 共 通 サ ブ ユ ニット p40 を
認 識 す る モ ノクロ ー ナ ル 抗 体 を 投 与し た ところ、 慢 性 GVHD 症 状 の 緩 和 が み ら れ た。 リン パ 節 や 皮 膚 局 所
の T 細 胞 を 刺 激 すると、IFN-γ/IL-17 共 産 生 細 胞 の 数 が 抗 体 投 与 により有 意 に 減 少して い ることが 認 めら れ た。
IL-12/IL-23 シグナルは、慢性 GVHD の予防および治療の有望なターゲットとなり得る可能性が示唆された。
ご使用いただいた MACS 製品
• gentleMACS™ Dissociator(オーダー番号 130-093-235)
• Whole Skin Dissociation Kit(ヒト)(オーダー番号 130-101-540)
• C Tubes(オーダー番号 130-093-237)
• autoMACS® Pro Separator(オーダー番号 130-092-545)
• autoMACS® カラム(オーダー番号 130-021-101)
• CD90.2 マイクロビーズ(マウス)(オーダー番号 130-049-101)
• MACSQuant® Analyzer
著者プロフィール
岡本 幸代 OKAMOTO Sachiyo, MD:2009 年から岡山大学大学院医
歯薬学総合研究科大学院生、現在に至る。
藤原 英晃 FUJIWARA Hideaki, MD, PhD:医学博士。2014 年より岡
山大学病院血液・腫瘍内科がんプロコース助教、現在に至る。
前田 嘉信 MAEDA Yoshinobu, MD, PhD:医学博士。2004 年より岡
山大学病院血液・腫瘍内科にて助教、2014 年より同講座講師、現
在に至る。血液・造血幹細胞移植を専門とし、GVHD マウスモデル
を用いた基礎研究および臨床研究に取り組んでいる。
www.miltenyibiotec.co.jp
Introduction
に 1 匹あたり 500 μg を腹腔内投与した。
移植後期に発症する慢性 GVHD は急性 GVHD と発症時期が異な
慢性 GVHD の評価
るだけでなく、その病態も異なると考えられている。慢性 GVHD は、
マウス皮膚の状態を以下のようにスコアに表した。
同種造血細胞移植の長期生存者の約半数が発症すると言われてお
• 健康 [0], 脱毛 <1 cm2 [1], 脱毛 1-2 cm2 [2], 脱毛 >2 cm2 [3]
り、強皮症やシェーングレン症候群のような自己免疫疾患様の臨
• 耳 / 尾 / 足に皮膚病変が認められた場合、それぞれ [0.3] を加算
床症状を呈する。ステロイドが標準的な治療法であり約半数はこの
最小スコアは [0]、最大スコアは [3.9] となる
治療に反応するが、ステロイド抵抗性の慢性 GVHD 特に強皮症に
は有効な治療法が見つかっていない。
細胞内サイトカイン / 転写因子染色と解析
慢 性 GVHD の 病 因 に関しては 未 解 明 な 部 分 が 多 い が、 急 性
Figure 2 の通りに行った。
GVHD と同様に組織への免疫学的攻撃にはドナー T 細胞が中心
的な役割を担っていることが知られている。マウスモデルを用いた
Real-Time PCR
我々の研究では、慢性 GVHD において Th1 と Th17 の増幅が起
急速凍結した皮膚サンプルから total RNA を抽出し cDNA を作製、
きており、それが病気の進行の一因となっていることを以前に報告
ABI Prism 5300 system(Applied Biosystems)にて定量的 PCR
した 1)。また、同種移植時に見られるドナー由来の IFN-γ/IL-17 共
を行った。
産生細胞は、同種抗原刺激によって誘導されたものと示唆された。
この特徴的な T 細胞は、マウスおよびヒトの種々の炎症性疾患に
おいて検出されており、その機能の解明に注目が集まっている。
Results & Discussion
IL-12 と IL-23 は、それぞれ Th1 と “alternative” Th17 の誘導を
Anti-IL-12/23 p40 抗体は、マウス慢性 GVHD 症状を緩和する
促進する鍵となるサイトカインであり、共通のサブユニット p40 を
MHC(主要組織適合性抗原)一致、マイナー組織適合性抗原
持つことが知られている。今回、我々は慢性 GVHD に Th1 と “al-
不一致の同種骨髄移植(B10.D2 → BALB/c)による慢性 GVHD
ternative” Th17 が深く関与しているとの仮説に基づき、マウスモ
モデル(Figure 1)は、これまでにも詳細な解析がなされており、
デルにおける Anti-p40 抗体の影響を検討した。
よく使用されるマウスモデルである。このモデルにおいて、移植日
から 3 日毎に Anti-p40 抗体もしくはアイソタイプコントロール抗体
Materials & Methods
を腹腔内投与して、その影響を調べた。
移植後 14 日目にキメリズム解析を行ったところ、Ly9.1+ レシピエ
慢性 GVHD マウスモデルの構築と抗体投与レジメ
ントマウス(BALB/c)の脾臓、末梢リンパ節、末梢血において、
95% 以上の CD3+ T 細胞、B220+ B 細胞が、Ly9.2+ ドナー由来
Figure 1 の通りに行った。
細胞に入れ替わっていることが観察された(完全ドナー型キメリズ
Anti-p40 モノクローナル抗体の投与
ム)。これは、Anti-p40 抗体投与群、コントロール群共に同様の結
Anti-IL-12/23 p40 抗体は、慶応大学医学部吉村昭彦先生より供
果であった(末梢血の結果を Figure 1 に示す)。
与された。 Anti-IL-12/23 p40 抗体又は、Rat IgG アイソタイプコ
慢 性 GVHD スコアを Figure 3 に示 す。 同 系 移 植コントロー ル
ントロール抗体(Sigma-Aldrich)は、移植日含め、以降 3 日毎
キメリズム解析:フローサイトメトリー
Ly9.2
A
ドナー
B10.D2 (H-2d)
骨髄
B220+ cells
レシピエント
BALB/c (H-2d)
照射
CD90.2 マイクロビーズ(マウス)
CD3+ cells
Rat IgG
Rat IgG
Syn
Syn
Ly9.1
Day
0
3
TCD-BM
Anti-p40
Anti-p40
6
9
12...
Ly9.1
T 細胞ディプリーション
分離プログラム:
DEPLETE_S
B
T 細胞ポジティブセレ
クション
分離プログラム:
POSSEL
% of Ly9.1+ cells
脾臓
100
B220
細胞移入
Spleen-T
Anti-p40 抗体、または
コントロー ル IgG 抗 体
を 3 日毎に腹腔内投与
CD3
B220+ cells
100
80
80
60
60
40
40
20
0
CD3+ cells
20
Syn Rat
Ig
G
Anti-
p40
0
Syn Rat
Ig
G
Anti-
p40
Figure 1. 慢性 GVHD マウスモデルの構築と抗体投与レジメ
MHC(主要組織適合性抗原)一致、マイナー組織適合性抗原不一致の同種骨髄移植(B10.D2 → BALB/c)による慢性 GVHD マウスモデルの構築。 autoMACS® Pro Separator と CD90.2 マイクロビーズを用いて、
B10.D2 マウスの骨髄細胞から T 細胞をディプリーションした分画(TCD-BM)、および脾細胞から T 細胞をポジティブセレクションした分画(Spleen-T)を調製し、亜致死線量の放射線を照射した BALB/c マ
ウスに静脈注射により細胞輸注した。同様の操作を BALB/c マウス由来の骨髄と脾臓を用いて行ったマウスをコントロールマウスとした(Syn:同系移植)。Anti-p40 抗体もしくはコントロール IgG 抗体を移
植した日を含め 3 日毎に腹腔内投与し、14 日目に脾臓、リンパ節、末梢血を採取しキメリズム解析を行った。末梢血を溶血した後、白血球を CD3、CD45R(B220)、Anti-Ly9.1 抗体で染色し、フローサイトメー
ター MACSQuant® Analyzer を使用して測定し、FlowJo ソフトウェアを用いて生リンパ球にゲートをかけて解析した。
(A) Anti-p40 投与マウス、コントロール IgG 抗体投与マウス、Syn(同系移植コントロール)マウスの、末梢血 B 細胞(左)および T 細胞(右)における Ly9.1 抗原の発現解析をヒストグラムにて示した。
(B) 各細胞タイプにおけるレシピエント(BALB/c)由来細胞の割合。
Miltenyi Biotec
Report
マウスモデルにおける IL-12/23 p40 抗体は IFN-γ/IL-17 産生細胞の抑制を介し GVHD を軽減する
皮膚組織の採取
皮膚組織の分散
単細胞懸濁液の調製
T 細胞刺激
移植後マウス
B10.D2-BMT BALB/c
慢性 GVHD 発症
フローサイトメトリー
IL-17
PMA / Ionomycin
Anti-CD3 抗体
表面抗原の解析
細胞内サイトカインの解析
細胞内転写因子発現の解析
酵素およびプロトコール
:Whole Skin Dissociation Kit
IFN-γ
Figure 2. 皮膚組織の分散と MACSQuant® Analyzer による細胞内サイトカインの解析
同種移植後キメラマウス背中の 2 cm2 角の皮膚を、Whole Skin Dissociation Kit の酵素を用い、キットのプロトコール通りに gentleMACS™ Dissociator にかけることによって単細胞懸濁液に分散した。細胞
懸濁液を 50 ng/mL PMA + 100 ng/ml Ionomycin(Sigma-Aldrich)、もしくは 1 μg/mL Anti-CD3 抗体で 3 時間刺激し、GolgiStop(BD Biosciences)にて分泌を止めたのち、膜透過固定処理を行い、細
胞内サイトカイン(IFN-γ および IL-17)を染色した。同時に CD3 や CD4 などの細胞表面抗原、および、T-bet や ROR-γt などの転写因子の染色を行い、7 色の解析が可能な MACSQuant® Analyzer を用い
てマルチパラメーター測定を行った。データ解析は FlowJo ソフトウェア(TreeStar)を使用して行った。
(Syngenic)では皮膚病変が認められなかったのに対し、同種移
しくは CD3 抗体で刺激し、CD4+ T 細胞のサイトカインと転写因子
植後にコントロール抗体を投与した群(Allo + Rat IgG)では明ら
の発現を調べたところ、Anti-p40 抗体投与群では特に T-bet 陽性
IL-17+ 細胞の割合の減少が見られた(Figure 4B, C)。
かな臨床スコアの上昇が認められた。一方、Anti-p40 抗体投与
群(Allo + Anti-p40 Ab)では、40 日目の臨床スコアが有意に
減少していた。同様の傾向は、皮膚、唾液腺、肝臓の組織染色
皮膚局所における Anti-IL-12/23 p40 抗体の影響
とその病理スコアにおいても認められており(data not shown)
、
慢性 GVHD のターゲット組織である皮膚においても、リンパ節と同
Anti-p40 抗体による IL-12/IL-23 のブロックが、慢性 GVHD の臨
じ現象が見られるのかどうかを検討するため、Figure 2 に示すよう
床症状および病理像を減弱することが示唆された。
+
に皮膚より単細胞懸濁液を調製し、PMA/Ionomycin 刺激を入れ
て、CD4+ T 細胞内サイトカインの解析を行った。皮膚においても、
+
Anti-IL-12/23 p40 抗体は、IFN-γ IL-17 ダブルポジティブ細胞を
抑制する
IFN-γ+ IL-17+ 産生細胞が Anti-p40 抗体投与によって有意に減少
移植後 28 日目にリンパ節を採取し、PMA/Ionomycin で刺激し、
CD4+ T 細胞の細胞内サイトカインの発現を調べたところ、慢性
していた(Figure 4D)
。また、皮膚組織における mRNA 発現を
Real-time PCR で調べたところ、Anti-p40 抗体投与で ROR-γt は変
GVHD モデル(Allo + Rat IgG)で増加している IFN-γ 産生細胞、
特に IFN-γ+ IL-17+ 産生細胞の割合が、Anti-p40 抗体投与によっ
化が見られないが、Tbx21 は著明に低くなっていることが示された
(Figure 4E)。
て減少していることが認められた(Allo + Anti-p40 Ab)(Figure
これらの結果は、リンパ節においても、皮膚においても、Th1 細
4A)。
IFN-γ+ IL-17+ 産生細胞は、いくつかの自己免疫疾患モデルで病
胞や “alternative” Th17 細胞が Anti-p40 抗体投与によって抑制さ
れていること、一方、IFN-γ- IL-17+ 細胞はコントロール抗体投与
変部に集積しており、組織炎症と自己免疫において特に病因となり
同種移植マウスと有意な変化がないことを示している。
得ること、IL-17 単独産生細胞に比較して転写因子 T-bet の発現が
高いことが知られている。Figure 4A と同様に PMA/Ionomycin も
リンパ節 CD4+ T 細胞
Allo + Rat IgG
B
Allo + Anti-p40 Ab
*
2
*
0.5
0.5
3
0
0
10
20
30
Days after BMT
40
移植後マウス皮膚の臨床 GVHD スコアを測定
した。各グループの平均値± SE(n=6)。
**p < 0.01
CD4+ IL-17+ IFN-γ+
2.5
1.0
2
0.8
1.5
0.6
0
4
2
0.2
Syn Rat
Ig
Figure 4.
0
Anti-
p40
CD4+ IL-17+ IFN-γ6
*
0.4
1
0.5
G
Figure 3. Anti-p40 抗体投与による慢
性 GVHD 症状の緩和
IgG
0
Anti-
p40
1
Syn Rat
IgG
0
Anti-
p40
Syn Rat
Ig
G
Anti-
p40
0
Syn Rat
Ig
G
E
Anti-
p40
Tbx21
0.004
Syn Rat
IgG
Anti-
p40
ROR-γt
1.5x10-10
Relative expression of
ROR-γt/GAPDH
CD4+ IL-17- IFN-γ+
(%)
0
2
皮膚 CD4+ T 細胞
D
1
p40
Syn Rat
Relative expression of
Tbx21/GAPDH
2
IgG
0
Anti-
3
2
(%)
**
(%)
Skin Score
IFN-γ
Syn Rat
4
4
(%)
(%)
1
CD4+ IL-17+ ROR-γt+
PMA
Anti-CD3
5
6
1
1.5
IL-17A
4
C
CD4+ IL-17+ T-bet+
PMA
Anti-CD3
1.5
2.5
(%)
A
Allo + Anti-p40 Ab
(%)
Syngeneic
Allo + Rat IgG
*
0.003
1.0x10-10
0.002
0.5x10-10
0.001
0
Syn Rat
Ig
G
Anti-
p40
0
Syn Rat
Ig
G
Anti-
p40
リンパ節および皮膚における Anti-p40 抗体投与による Th1 および Th17 細胞への影響
移植後 28 日目に移植後マウスのリンパ節(A, B, C)または皮膚(D, E)のヘルパー T 細胞を解析した。PMA/Ionomycin 刺激による CD4+ T 細胞のサイ
トカイン産生を細胞内染色により解析した(A)。PMA/Ionomycin もしくは Anti-CD3 抗体刺激による、CD4+ IL-17+ T-bet+ T 細胞の割合(B)あるいは
CD4+ IL-17+ ROR-γt+ T 細胞の割合(C)。Figure 2 に示す方法で解析した皮膚 CD4+ T 細胞の各サイトカイン産生細胞の割合(D)。皮膚組織における各
転写因子 mRNA 発現を Real-time RT-PCR にて定量した(E)。*p < 0.05
Conclusion
References
Anti-p40 抗体(ustekinumab)は、慢性炎症性疾患の治療に有
ここで紹介した実験の詳細については、下記の論文を参照された
効との知見が積まれつつある。今回、マウスモデルにおいて慢性
い。
GVHD への抗体投与の有効性が示され、それは Th1 細胞や ”al-
Journal of Immunology, 2015, 194: 1357-1363
ternative” Th17 細胞の抑制を介するものであることが示唆された。
1)Blood, 2012, 119: 285-295
慢性 GVHD の治療のターゲットとして IL-12/IL-23 経路が浮上し、
臨床に利用可能な Anti-p40 抗体が有効な治療薬となる可能性が
示された。
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MACS および autoMACS、MACSQuant は Miltenyi Biotec GmbH の登録商標です。また、gentleMACS は Miltenyi Biotec GmbH の商標です。
特別な明示がない限り、Miltenyi Biotec 社の製品とサービスは研究目的のみに提供され、治療・診断・検査に用いることはできません。
NEX
Fly UP