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このPDFをダウンロード - 国公私立大学図書館協力委員会(JULIB) β
IT大国インドにおける学術情報流通の最新事情
吉 植庄 栄
抄録lIT大国と呼ばれるインドの学術情報流通を調査するため,研究大学の図書館等を訪問し,図書館大
会に参加した。機関リポジトリは,立ち上げが早かったものの,日本ほどは発展していない。学術情報の契
約においては,全国的なコンソーシアムが約12程度立ち上がり,国からの資金投入を受けているものもあ
る。そして,日本の価格と比べると非常に安い価格での契約に努力している。またライブラリアンの職制や
オープンソース図書館システムKohaの積極的導入など,特徴的なことを多々見聞した。調査の結果,今
後経済面のみならず学術研究や図書館の分野での爆発的な発展が起きる予感を持った。
キーワード:インド,学術情報,大学図書館,機関リポジトリ,コンソーシアム,ライブラリアン,S.R.ラ
ンガナタン
1.はじめに しい。IT大国の由来となるITサービスについて
同じアジアの一員にして,日本にも大きく文化的 は,次の主な要因で産業として大いに発展した。ま
影響を与えているインドであるが,ここ数年の高度 ずは歴史的にイギリスの植民地であった経緯で英語
経済成長により,しばしば「IT大国」と呼ばれる を流暢に話す人材が豊富であること,第二に数学に
ようになった。素朴な疑問であるが,ITの大国に 強く論理的な思考をする民族性であること,そして
なったのであれば,そのIT技術を支えるインドの 第三にIT産業が根強い社会階層の縛りつけ,つま
高等教育,そしてその高等教育を支える大学図書館 りカースト制を問わない能力主義であることであ
は,どのような発展を遂げ,そしてどのような力を る。そのほか,物価が先進国に比べると各段に安
発揮しているのであろうか。この疑問を数年前から く,低賃金で優秀な人材を確保できる背景や,生活
持っていた筆者は,このたびインド渡航が叶い,研 時間が正反対であるという時差を生かしたアメリカ
究大学の図書館等を訪問し,図書館大会に参加する からのアウトソーシングを可能とする立地という面
ことができた。これはひとえに平成24年度国立大 もある。
学図書館協会海外派遣事業のおかげによるもので, 言語は,デーヴァナーガリ文字を使うヒンディー
本稿はその調査成果報告である。 語をはじめとして,1千万人以上の話者を持つ言語
調査内容は,IT大国インドにおける学術情報流 が約20もある。先に述べたイギリス統治の背景と
通や大学図書館の状況である。またインドの図書館 国内の意志疎通のため,共通言語としての英語が広
の情報がわが国においてそれほど多くないこともあ く流布しており,高等教育と学術研究の中心は英語
り,図書館大会を通して概況を入手することも目指 をもって行われている。
した。調査方法としては,訪問インタビューを主と 宗教もヒンドゥー教をトップに,イスラム教仏
し,後日メールによる調査も補足的に行った。 教シク教ジャイナ教キリスト教など多数の宗
教が混在している。
2.インドの今 日本から見ると,インドは仏教の発祥地であり,
最初にインドの概況について簡単に紹介する。イ 天竺や西方浄土といった聖地という見方がかつて
ンド共和国は,人口約12億人で世界第2位,面積 あった。また近年では非暴力不服従主義のガン
は約3百万平方キロメートルで世界第7位の大国で ディー(Mohandas Karamchand Gandhi,1869−1948)
ある。首都はデリーで,28の州と6つの直轄地と に対する畏敬もある。その他,いまや国民食の一つ
で構成される連邦制国家である。中央政府と州政府 であるカレーの起源国でもあり,そのような親しみ
があり,中央政府は大統領を元首とする,上院と下 もあることは言うまでもない。
院からなる議院内閣制である。しかし大統領には実 教育制度2)は義務教育が8年(6歳から14歳),
権はなく,首相が政治を実際に動かしている。1947 その後,前期中等教育2年(15歳から16歳),後
年にイギリスからの独立後,武装中立の第三勢力・ 期中等教育2年(17歳から18歳),その後高等教
社会主義的な国家方針を歩んでいたが,1991年に 育となる。高等教育は日本で言う学部教育に当たる
経済自由化を行い,規制緩和と外国資本の導入を Collegeと大学院教育にあたるUniversityがある。
行った。この施策が功を奏し,現在は経済成長が著 また国家の威信をかけて力を傾注している重点研究
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IT大国インドにおける学術情報流通の最新‘事情
機関,Instituteがある。ここでは研究に特化して の数学者・図書館学者で,『図書館学の1[法則』「コ
いるだけではなく,教育をも行うことから,ll本の ロン分類法」など多数の著作を表わし,「インド図
名門研究大学のようなものと考えて良い、修業年限 、彗:館学の父」とも呼ばれる,)の1三導とユネスコの
はCollegeが基本的に3年であり, Universityが修 援助を元に設立された 初代首相ジャワハルラール
1:課程(日本の学部4年生に’1]たる。),博1:準備過 =ネルー(Jawaharlal Nehru,1889−1964)は独、アイ
程(日本の修卜1課程に当たる。)がそれぞれ2年, ンドの発展を科学技術研究の重点化をもって達しよ
博士課程が3−5年でInstltuteは.4−5年がll参業年 うと考え,その背景から政府は科学技術基盤として
限である。 のドキュメンテーションを非常に亟要視し,その結
果,S.R.ランガナタンの尽力もあって.このIN−
3.訪問機関・参加大会の紹介 SDOCの設立に至る、、その後,時を経て2002年に
今回の調査においては,北インドの首都デリーを は,行政改革の一端として国立科学コミュニケー
起点とし.中インドのグジャラート州ヴァドーダラ ション研究所(NISCOM(ニスコム):National In−
(バローダ),南インドのカルナータカ州ベンガルー stitute of Science C()mmunication)と統合され,今
ル(バンガロール)の3都ll∫を訪問した(各都ll∫の の名称となった,、
位置関係は図1を参照のこと)。訪問機関・参加大 訪1}1塒には以ヒの経緯を詳しく聞き,当所の事業
会について以ド紹介する、、 について習うほか,次に紹介する国、Z科学図書館や
教育研修部の見学をそ」こった.
〆⇒一““芝㌫』一一1戎
図1 インド及び訪問した三都市II
3.1 インド国、‘た科学コミュニケーション情報資源
研究所(NISCAIR(ニスケア):National Institute 写真1 Thc Natiollal Scie1コce Library
of Science Communicatioll and Information Re−
sources)[デリー] 国、‘元科学図書館は科学コミュニケーション情報資
’」]所はインドの科学技術分野に関する情報流通を 源研究所(以下NISCAIR)の敷地内にあり,約25
支える機関で,科学産業研究評議会(CSIR:the ノ」冊の科・学技術文献を所蔵するほかISSNの付与も
Council of Scielltific and lndustrial Research)に所 行っている。
属する37機関のうちの一つである1‘。学術雑誌の 所蔵,1}:は,英語文献を中心としているほか,ピン
1:ll行.電子図、1{:館サービスの開発,電子ジャーナル ディー語などインド諸語による文献もある,またか
コンソーシアム,文献翻訳,人材育成など多ll皮にわ つて社会ヒ義的な国家方針であった経緯もあり.ロ
たった事業に取り組んでいる、 シア語資料も大旨;:に保持されていた、電子資料の部
当所の起源は1952年に設、玩されたインドll{1、γ科 門もあり,ここではWeb of Sciellceの契約などを
学ドキュメンテーションセンター(INSDOC(イン 行うほか, CD−ROM資料の保管を行っていた
スドック):Indian Natiollal Scientific Documenta−
tion Centre)に遡る。このセンターは,かのSR.ラ 3⊥2 教育研修部(ETD:The Education and Trai一
ンガナタン(Shiyali Ramamrita Ranganathan,1892− ning I)ivision of NISCAIR)
1972,インド・マドラス州:現タミルナドゥ州川身 図∼}:∬{情報学の教育と研修をffう部門である 2
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大学図書館研究XCVIII(2013.8)
年制で修士レベルの教育を行い,一学年20名前後 訪問した中央図書館の蔵書数は約21万冊,製本
が在籍する。インドのみならず他国からの受講i生も 雑誌は約10万5千冊,契約雑誌数は約580種であ
受け入れている。筆者が訪問した際にはパキスタ る。館内ではRFID完備の蔵書による自動貸出機の
ン,スリランカ.ネパール,ブータン,バングラデ 運用が行われており,多数の学生が静寂且つ熱心に
シュ1といったインドの隣国からの受講生が熱心に 学習をしていた。
実習をしていた。入学案内・シラバスを入手したが 筆者は中央図書館の見学をするとともに,インド
これによると,150冊近い専門書を1年間で読み, の学術情報業界において著名なコンソーシアムであ
その上で10本の論文を作成し,2年目には学位論 るINDEST−AICTE((インデストーアイクテ)In一
文を作成するというかなり厳しい教育内容であった。 dian National Digital Library in Engineering
Sciences and Technology−All India Council for
欝灘灘1 難・ 元」 Technical Education)についての調査も併せて
羅響1 叢 […行った.・のコンソーシアムは当校が主轍を務め
麟一」一…_1…1灘ている∩この』・2・’にて幸艮告する゜
i㍍ 難1, ., 3.3 マハラジャ・サヤジラオ大学Smtハンサ・メ
繍げ 。 ハタ図書館(The Maharaja Sayajirao University()f
l欝 而 逐 Baroda, Smt Hansa Mehta Library)[ヴァドーダ
團韻醗 嚢轍 ラ]
忽灘魏 羅 ,繊騰 部は13,学生数は約3万名を数える。このヴァ
写真2 ETD研修風景 ドーダラという都市は,人口が約160万人という規
模であるので,その割には比較的大規模な大学と言
3,2 インド工科大学デリー校中央図書館(IIT:In一 えよう。当大学の中央図書館であるSmtハンサ・
dian Institutes of Technology, Delhi. Central メハタ図書館は蔵書数約60万冊で1957年に建てら
Library)[デリー] れた。
インドコ[科大学は,インドをIT大国にたらしめ
る人材を輩出する名門研究大学である。全国に15
校が展開しているが,2012年には約50万人の受験
者に対し約1万人しか合格しないという,非常に難
易度が高い機関である。このデリー校は13学部11
センターを抱える機i関で,QS WORLD UNIVERSI−
TY RANKINGS BY SUBJECT 2013によると,電
気・電子工学部門で世界第37位であり5∴学生数
は約5千6百名である。
写真4 Maharaja Sayajirao University of Baroda
当館は図書館大会であるNACLIN2012の会場館
を担当しており,筆者は大会開催中に見学をした。
そのNACLIN2012については,3.7で改めて説明
する。館内には無線LANが完備され.ここでも多
数の学生が閲覧席に座っていた。
ここで印象深かったのは館内の温度管理である。
筆者が訪問した11月は気温が最高でも30℃程度で
写真3 11T Delhi あったが夏は40℃を超える毎日と聞く。館内の空
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IT人国インドにおける学術情報流通の最新‘じ情
調は屋根からぶら下がる扇風機のみで.利用者・職
員にとって厳しい環境であることが想像できた。
写真7 JRD TATA MeInorial Library
当館で勤務しているライブラリアンのDr. Fran一
写真5 Slnt Hansa Mehta Lil〕rary閲覧室 cis Jayakanth氏はインドの機関リポジトリの第一
人者であり,筆者は彼にインタビューを行った。そ
の内容は4.1.2にて述べる,、
3.5 インド統計大学 ドキュメンテーション研究
研修センター(ISI:Indian Statistical IIlstitute, BaIlg−
alore Cellter, DRTC:Documelltation Research and
Training Centre)[ベンガルール]
写真6 Smt Hansa Mehta Libraryの製本雑誌
そのため,蔵書の保存には厳しい環境にあり,90
年代の製本雑誌であっても劣化が進んでいることが
目に付いた.,
されるというニュースをウェブサイトで得たf}1.こ 写真8 DRTC:Documelltation Research alld Trtlinillg
れで利用者・職員・資料にも一定の心地よさが訪れ Centre
ることであろう、、この一件は,大学図,ll:館における
インフラ面の整備が,現在進行中であることの一例 インド統計大学は,西ベンガル州コルカタに本部
である. を置く研究大学で学生数は約750名である.、ドキュ
メンテーション研究研修センターはこのインド統計
3.4 インド科学大学院大学JRDタタ記念図書館 大学のドキュメンテーション部門の付置センターと
(IISc:Indian IIlstitしlte of Science, Bel19aluru, JRD して,南インドのカルナータカ州ベンガルールにあ
TATA Memorial Library)[ベンガルール] る。かつてSRランガナタンが晩年に後進の指導を
1909年創立のIIScは, IITと並ぶインド屈指の 行った機関で,ドキュメンテーション研究及びイン
理1:系研究大学である.学生数約3T・2rl名で、ほ ド図書館界を支える人材の育成拠点となっている、、
とんどが大学院生である.ここの図,1}館である ここでは学生が学んでいる講義を見学したほか,
JRDタタ記念図書館は,蔵書数約19川ll},受入雑 n本の図書館’lr情,とくにNIIのJAIRO CIoudに
誌数約750種.製本雑誌約22万冊を所蔵している, ついて請われてレクチャーを行った また館内には
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大学図書館研究 XCVIII(2013.8)
Libraryも併設されており,蔵1}:は, S.R.ランガナ 力組織の一つDELNET((デルネット)Develop一
タン川来のコロン分類法による請求番り‘が付’∫され ing Library Network)が主催する図書館大会であ
ている 請求番号の実際は,写真9を見て欲しい。 る.DELNETは4.3で詳しく解説するが,筆者は
2012年の大会であるNACLIN2012に参加した,、15
回目の記念開催である今回は,「未来のための図,η:
館:コレクション,能力,そして協力(Libraries
for the Fllture:Collections, Competencies and
Cooperation.)」をテーマとし,これからのインド
の図書館について活発な討論や発表を行っていた、、
またインドの図、1}:館運動に大きな影響を与えたバ
ローダ王サヤジラオ31U:の生誕150周年,そのサヤ
ジラオ3世がrl領に図書館を建設し,バローダがイ
ンドの図k館運動の拠点となってから100周年を記
念した大会でもあった。この大会においてインドの
図書館に関する話題を多数聴講することができ,彼
写真9 コロン分類 らが課題としていることについて知見を得ることが
できた.また多くのライブラリアンと知り合うこと
3.6サラダ・ランガナタン図.,1]:館情報∼1ζ:基金 ができ,帰国後もSNSや電子メールにて交流を継
(SRELS:Sarada Ranganathan Endowment for Lib一 続している.
rary Science)[ベンガルール] 今回の会場は3.3で述べたグジャラート州ヴァ
SRELSはSRランガナタンが図,1}:館情報学の振 ドーダラのマハラジャ・サヤジラオ大学であった
興のため創ウ1した基金であり,夫人の名前を冠した が,2013年はラージャスターン州ジャイプールの
ものである、 国立マラヴィア技術大学(Malavia Natiollal Insti−
tute of Technology)にて12月に開催される、
※主なプログラム1
・
・
Koha(コーハ)のレクチャー
インドの図1}}:h官運動
・
学びの空間とネットワークとしての図llF館
・
電了資料
・
・
・
図書館情報学の教育とその技能
技術が図ll}:館を変える
図書館サービス
これらのうち数点の概要を報告する、、本報告の
テーマでもある学術情報流通に関する話題は,まと
写真10Sarada Rangalコathan EIldowmellt for Library めて4、インドの学術情報流通事情にて述べる、‘
Scienceにて
3.7.1 Koha
、kに図,1}:館情報学関連の出版・研修・講演活動, Kohaは,ニュージーランドで開発されたオープ
SRランガナタンの著作の復刻を行っている、ここ ンソースの図、1}:館システムである“。1999年に
では直接S、R.ランガナタンに習ったDr. A. ニュージーランドのカティポ・コミュニケーション
Neelalneghan氏から思い出などをインタビューし (Katipo Comlnunications)にて開発され,今や全
たほか,川版活動の概要を伺った、 IU:界で採川されている、,
インドでは,デリー公共図書館(Delhi Pしlblic
3.7NACLIN2012((ナックリン)National Con− Library)やマイソール大学図書館(Mysore Uni−
vention on Knowledge, Library and Illform∼ltion versity Library)といった大規模館でも採川されて
Networking)’[ヴァドーダラ] いる。特に識字率も高く教育熱心な州である最南端
NACLINは1988年に発足したインドの図書館協 のケララ州での導人率が高い,またこのNACLIN
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IT大国インドにおける学術情報i庇通の最新事情
を主催するDELNETをはじめ,数々の図書館団体 力社会とそれを支える教育システムを学んだ イン
等でワークショップやトレーニングセミナーが開か ドに戻った後,1910年にはアメリカ型の公共図書
れている。NISCAIRでも3.1.2で紹介したETD 館システムを導入するために,かのC.A.カッター
で学生の教育に使われていた。 (Charles A. Cutter,1837−1903)に学んだWAボー
インドで大きく受け入れられた背景としては,ま デン(William Alanson Borden,1853−1931)をバ
ず何より無料であること,そして充実したユーザ・ ローダに招いた。州図、1}:館の館長となったボーデン
コミュニティが確立されていることである。その中 は,中央図書館を基点として4つの地区図,1;:館,45
で疑問の解消ができるだけでなく,ソースがオープ の町の図i辱館,そして1.000を超える村落の図書館
ンであるので共同でカスタマイズできる,,加えて数 を整備する計画を立てた.、その計画には移動図書館
が多いインド諸語をシステムトで取り扱い可能であ の運用もあった。
ることも魅力の一つである。ユーザからも雑誌管理 W.A.ボーデンは,インド資料の分類法や図書館
システムに少々不満があるものの.概ね好評を得て 員養成プログラムを作るほか,バローダ図書館組合
いるようである,, 基金の創立やその機関誌“Library Miscellany”も
このセッションではインストールから実際の業務 刊行した.これらの諸活動はインドの図書館界のモ
までの講義が続いた。講獅からは何度も「このシス デルケースとなり,これら目覚ましい功績を導いた
テムは無料で,学校図書館,大学図書館,公共図書 サヤジラオ3世は「インド図書館運動の父」と呼ば
館… といったどこの図書館でも使えるシステム れるようになるのである一
であるからまだ機械化していない図二書館は,導人す その他,南インドのケララ州やゴア州の図書館運
るべきである。」という説明があった。参加者には 動についても発表があった。
KohaのインストールCDも配布されるというノ」の
入れようであった
写真12NACLIN2012修」’証書手受与式
写真11NACLIN2012 3.7.3学びの空間とネットワークとしての図書館1°‘
インターネットをはじめとするICT技術の発展
3.7.2 インドの図書館運動91 により,図11}:館が学ぶ場所(Place)から学ぶ空間
会場となったグジャラート州ヴァドーダラはかつ (Space)に意味づけが変化したことについての
てバローダ藩1三国の首都であった。19世紀末から セッションである、、図,{{:館はICT技術の発展によ
20世紀初頭の藩王サヤジラオ3111:(Maharaja るパラダイム転換により.資料の電子化やネット
Sayajirao Gaekwad III,1863−1939)は,街に鉄道と ワーク化,そしてラーニングコモンズへの進化の渦
電気を引き,各種の近代化を推し進めた。領民の教 中にあること、そして我々も変化し,図書館のマネ
育環境の向上にも尽力し,彼の指示で図書館が次々 ジメントも変わらねばならないという発表であっ
と建設された。 た,またICT技術は結局図書館に取って代わるこ
彼は領民に義務教育を行うためには,その支えと とができず,むしろ伝統的な図、1}:館機能を補完する
なる図書館が必須と考えていた。すなわち与えた教 もので,それゆえ我々図書館で働く者は何も心配す
育を,図書館での恒常的な自己教育によって保障す る必要はない,という発表もあった.、ちなみにこれ
ることが必要であると考えたのだ、 らの話題は大会のテーマでもあり,全体の閉会式で
彼は1906年にアメリカ合衆国を視察し,アメリ は「図書館の未来は,従来の資料,設備に加えて
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大学図書館研究XCVIII(2013.8)
ICT技術が結ぶ協力の輪によって明るい。」という 4.1.2 ePrints@IIScl4)
結論で締められた。 3.4で紹介したインド科学大学院大学の機関リポ
ジトリであるePrints@IIScは,インドでは最も早
4.インドの学術情報流通事情 く2002年に立ち上がった老舗である。現在の所収
4.1機関リポジトリ データ数は約3万5千件で,インド国内では最大規
最初にインドの機関リポジトリの概況を説明す 模の件数を誇る。
る。Sawant(2012)1uよると,ほとんどの機i関が,
ライブラリアンの主導の下,自主財源自助努力で機 4.1.3Shodhganga15)
関リポジトリを構築しており,専従職員はおらず, グジャラート州アフマダバードに本部があるIN一
兼任の職員が運営を行っている。そして機関リポジ FLIBNET((インフリブネット)Information and
トリの評価はアクセス数とダウンロード数に基づ Library Network)が提供する,高等教育機関を中
き,79%の機関リポジトリがDSpaceを利用してい 心とする共同機関リポジトリである。136大学等機
るとのことである。Dash(2012)’2)によると, 関が加盟しており,7千件以上の学術論文が所収さ
DSpaceの利用が多い理由はオープンソースでカス れている。3.3.4で述べたマハラジャ・サヤジラオ
タマイズが可能であること,大学の組織構造を階層 大学もここに学術成果物を登録している。
的に表現して文献管理ができる分かり易さ,英語で
はない言語でも使えるプラットフォーム等が挙げら 4.1.4 その他
れている。 その他,大規模研究大学を中心に機関リポジトリ
次に3.4で紹介したJRDタタ記念図書館に勤務 の構築が進んでいる。例えば3.2で述べたインドエ
するDr. Francis Jayakanth氏にインタビューをし 科大学デリー校や3.5で紹介したインド統計大学な
た内容を紹介する。彼は,インドで最初に構築され どである。しかしこれらの所収件数は数千件程度で
た機関リポジトリであるePrints@IIScの立ち上げ あり,インド科学大学院大学やインド国立科学コ
から運営に携わっている。彼については過去様々な ミュニケーション情報資源研究所のものに比べると
媒体に取り上げられており13),それらの記事を参考 小規模であるので,今後の発展が期待される。また
にしてインドの機関リポジトリの概況を質問した。 CASSIR((カッシール)Cross Archive Search Ser一
彼によるとインドの機関リポジトリは発足が早 vices for Indian Repositories)’6)という複数の機関
かったのだが,その後資金不足や支持者を集めが進 リポジトリを横断的に検索するシステムもある。
まず,それほど発展しなかった。しかし近年は機関
リポジトリによる学術情報の無償アクセスは雑誌価 4.2電子ジャーナル
格高騰への対抗手段として有効であることが徐々に 90年代の世界的な外国雑誌価格の高騰と慢性的
浸透してきたという。そしてS.Rランガナタンの な財政難のため,学術情報の契約は深刻な危機に
『図書館学の五法則』の第二法則「全ての人にその 陥った。そのような環境下でインドは数々のコン
人の本を」の考え由来の「全ての人にその人の学術 ソーシアムを立ち上げた。松井(2004)17)による
情報を」という理念が,インド図書館関係者の共感 と,インドは,ナショナルサイトライセンス的な対
を産み,徐々に支持者が増えているとのことであ 抗策つまり各コンソーシアムへの国庫補助金の投
る。 入や,そのコンソーシアムの地道な交渉努力によ
続いてインドで代表的な機関リポジトリについて り,電子ジャーナルの廉価契約に成功した。
インタビューや文献を元に紹介する。 インドの物価は日本と比較すると約8分の1であ
り,大学予算もそのようなスケールで運営されてい
4.1.1NISCAIR Online Periodicals Repository るため,日本と同規模の電子ジャーナル価格は到底
3.1で紹介したNISCAIRでは,機関リポジトリ 支払うことができない。そのような背景で全国的な
NISCAIR Online Periodicals Repositoryを運営して 高等教育機関連合による価格交渉は必要不可欠であ
おり,ここには当所が発行する科学関係逐次刊行物 る。そのためコンソーシアムの樹立は自然なことと
を中心に約1万3千件のデータが登録されている。 言える。それも国家の援助を受けたナショナルサイ
機関リポジトリについてはNISCAIRが全国的に補 トライセンス的な対応は,我が国とは違った特色が
助金を給付し,機関リポジトリ構築を促す事業を あるものである。
行ってきた。日本のJAIRO CIoudの様なクラウド インドの主要なコンソーシアムは約12組織があ
システムも現在着手中であると説明があった。 り,インタビューや文献を元にここで主なものを紹
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IT大国インドにおける学術情報流通の最新事情
介する18)。 4.3DELNET 22)
DELNET(Developing Library Network)は1988
4.2.l INDEST−AICTE 19) 年に発足した図書館協力組織であることを3.7で簡
2003年に人的資源開発省(MHRD:Ministry of 単に触れた。このDELNETは当初,インド国際セ
Human Resource Development)により発足した ンターのプロジェクトとして発足し,最初はDelhi
INDESTは,インド政府から援助を受けつつ,加 Library Networkが正式名称であった。この名称か
盟館による雑誌価格交渉を受け持っている。現在は らもデリーとその周辺に限られた組織であったこと
INDEST−AICTEという名前となっており,全国の が分かる。その後,着実に発展を遂げ2000年に今
インド工科大学各校とインド科学院大学を含む57 の名称に変更し,現在,インド国内で4241館,国
館のコアメンバーを中心に合計1,364館に及ぶ工学 外機関23館が加盟する組織に成長している。内訳
系大学が加盟するコンソーシアムに成長している。 は大多数を高等教育の図書館3,903館が占め,その
24件のフルテキスト・パッケージ,5件の書誌デー うち理工系分野の図書館3,584館が大勢を占める。
タベースの廉価契約2°)に成功している。本部はイン 現在は首都デリーのジャワハルラール=ネルー大学
ド工科大学デリー校が務めている。 (Jawaharlal Nehru University)に本部を置く。主
な目的は,加盟館の資源の共有と,ネットワーク化
4.2.2UGC−Infonet の促進を掲げており,事業としては加盟館による総
大学(university)を中心としたコンソーシアム 合目録の構築や資料の共同分担購入, MARC21と
であり,4.1.3で述べたINFLIBNETが運営してい DDCによる書誌情報の共通化,データベース,電
る。2004年に発足し,加盟館は358館である。 子ジャーナルコンソーシアムの運営,そして人材育
INDEST−AICTEが科学技術系の研究・教育機関の 成が挙げられる。筆者が参加したNACLINは,人
コンソーシアムであるのに対して,このUGC一 材育成と交流の促進のために開催している事業であ
Infonetは科学技術のみならず,人文科学,社会科 る。 DELNETの総合カタログには既に13,955,351
学を含む7千5百誌以上のタイトルが閲覧可能であ 件が入力されており,そのうち12,891,696件は図書
る契約を結んでいる。年間予算は,約1億2千万ル で占められている。そのほか雑誌が35,068件,雑
ピー,日本円換算で約2億円2Dである。このUGC一 誌の所蔵情報が20,235件,雑誌記事が912,042件と
InfonetもINDEST−AICTEと同じく国から資金を なっている。その他,加盟館のILL/DDSを支える
投入されており,残りは加盟館から資金を集めてい ことで,資料の分担収集事業を行う。そして図書館
る。 システムのソフトウェア提供や電子図書館プロジェ
クト,そしてコンサルタントサービスも行っている。
4.2.3NKRC(National Knowledge Resource Cen一 またこのDELNETの理事長であるDr. H.K.Kaul
tre:CSIR e−Journal Consortia) 氏はインド文化省のヴァーチャル図書館プロジェク
先に紹介したNISCAIRが運営するもので2002 トの主査を務めている。筆者はこの計画の情報を,
年に作られた。CSIRの傘下の機i関をはじめとする 当大会の記者会見記事23}を読んで知ったが,詳しく
65機関が加盟しており,契約雑誌は科学技術分野 は別文にまとめたので拙稿(2013)24}を参照された
と経営分野である。年間予算は6百万ルピーであ い。
り,日本円換算で約1千万円である。
5.インドの図書館事情
4.2.4DELNET 5.1 ライブラリアン
4.3で詳しく述べるが,このDELNETもコン インドのライブラリアンの職制について,インド
ソーシアム的な働きをしている。 科学院大学のDr. Francis Jayakanth氏とDKTE繊
維大学図書館(DKT.E. Society’s Textile and En−
4.2.5 その他 gineering lnstitute)のRamesh B.Patil氏にインタ
その他のコンソーシアムとしては,分野別のもの ビューをした。前者によるとUniversity Librarian
がある。例えば防衛関係機関のコンソーシアムであ になるには自分の専攻と図書館情報学の学位の二つ
るDRDO(2007年DESIDOCによる),農学関係 が必要である。その下の位階のAssistant Librarian
のCeRa(2007年IARIによる),宇宙工学関係の であれば図書館情報学の修士号で良い。一方Col−
FORSAなどがある。 lege Librarianは特に資格要件は無いとのことであ
る。
70
大学図書館研究XCVIII(2013.8)
最も筆者が感銘を受けたことは,ライブラリアン またNACLIN2012では無料のオープンソース図
が学生を指導することである。インドでライブライ 書館システムであるKohaについて,第一日目の午
アンは教育者でもあり,Facultyとして講義を持っ 後の数時間をレクチャーに割いていた。主宰である
ている話や指導教官として学生を指導している姿を DELNETは,このKohaの導入・運用サポートも
実際に見た。 事業としている。その主な原因は先に述べたように
NACLIN2012をはじめとして数多くのライブラ 無料であることであり,ここから推測されるのは,
リアンと接したが,彼らの専門は多くが理工系であ 図書館システムがまだ全ての図書館に行き渡ってお
り,二人を除いて全て理工系を専攻する者であっ らず,その原因としてシステム構築の財源に悩んで
た。その例外の二人も経済学と経営学ということで いるということが考えられた。そのためこのような
社会科学であった。人文科学専攻のライブラリアン オープンソースソフトウェアを歓迎するのであろ
には出会うことは無かったが,Dr. Francis氏によ う。
ると最近増加しているとのことであった。もう一つ
印象深かったことを紹介する。会話の冒頭では自己 5.3 カスタマイズ
紹介に続きしばしば「あなたの専攻は何ですか?」 機関リポジトリや図書館システムで,オープン
と尋ねられた。このことから,インドでは自分の大 ソースソフトウェアを歓迎する傾向には,もう一つ
学での専攻が重視されていることが感ぜられた。日 理由がある。それはカスタマイズを好むことであ
本では職員になってしまえば,大学での専攻は表面 る。5.1で指摘した通り大半のライブラリアンは理
上重要視されなくなることと大きく異なる。 工系であるためか,自分でプログラムを組むことや
最後に年収は50代の大都市の名門大学に属する システムをカスタマイズすることに抵抗が無いよう
University Librarianが日本円換算で約8万円,40 である。
代の地方College Librarianで約4万円とのことで
ある。ここからもインドの物価安の様子が垣間見ら 5.4SRランガナタン
れる。その反面,これでは海外への出国は容易では インド図書館学の父と言われるS.R.ランガナタン
ない。 は,未だにインド図書館界にとって偉大な存在であ
彼らには日本についてどう感じるかも合わせてイ る。NACLIN2012でのプレゼンテーションでも,
ンタビューした。返ってきた言葉は,日本製の車と S.R.ランガナタンに触れる発表は多くあり,発表予
バイクへの賞賛と津波であった。では日本には行っ 稿集を見ても,多くの引用文献や参考文献に彼の作
てみたいかと聞くと,国費等の留学や出張でない限 品が挙げられている。
り,この給料では無理だとのことである。たとえ海
外に行く機会があっても,日本語は難しいので英語
圏に行くとのことである。街を行き交う車には日本
車や日本製バイクを多く見ることができ,我が国の
影響は大きいと感じられたのだが,考えていた以上
に言語と金銭面の壁があることが分かった。
5.2 資料の保存とオープンソース図書館システム
から見る財政難
現地の図書館訪問と図書館大会への参加で感じた
ことが財政難である。ここでは資料の保存とオープ
インドは年間を通して平均気温が高く,また湿度 写真13S.R.ランガナタン胸像(SRELSにて)
も高い。その反面空調の整備が追い付いておらず,
館内には扇風機がよく見られた。真夏には40℃を DRTCの説明をしてくれたDr. Devika P. Madalli
超し,多湿な環境は館内の利用者にとって酷である 女史によるとs.R.ランガナタンは古典扱いされ,コ
のみならず,資料保存の観点でも過酷な環境であ ロン分類法を採用している図書館もごくわずかに
る。実際劣化が激しい資料がしばしば見られた。こ なっているが,彼の思想はこのWebの時代におい
れらについては財政難による空調の未整備に原因が て再び注目すべきものである,と語っていた。とく
あると推察された。 に彼の作品である『Prolegomena to library classi一
71
IT大国インドにおける学術情報流通の最新事情
fication』(1937)には現代のセマンティック・ウェ ・英語で行われる高等教育
ブの概念に有益な知見が書かれているので再評価す 訪問した図書館の蔵書は英語資料がほとんどで,
ることができる,と述べていた。 授業も英語で開講されていた。これは英語が通じる
またそのDRTCの教室にはランガナタンの肖像 国であればどこででも活躍可能な人材を養成してい
画が飾られており,未だにインドの図書館の行く末 ることを意味し,インドが世界に人的資源を供給し
を彼が後ろから見ているようにも感じられた。 ている一つの要因になっている。逆に英語さえ理解
できれば,インドで職を得ることができる。つまり
6.その他の所見 インドは,世界中から人材を集めることが可能なの
これまで述べてきたこと以外のインドの所見を数 である。図書館大会も英語で開催されるため,筆者
点紹介したい。 も参加が可能であった。しかし逆に彼らを日本に招
IT大国インド く場合は,そう簡単ではない。
IT大国についてであるが,筆者が訪問した場所 ・論理的な思考
限れば,街中にIT機器が溢れている,という状況 S.R.ランガナタンの著作を少しでも読んだ方なら
からはほど遠かった。都市部のインターネット環境 分かると思うが,図書館の話題ですら,非常に論理
は,不便を感じる程ではなかったが,人口の7割を 的な思考を好むと感じられた。0を発明し数学に強
占める農村部でのインフラ整備は発展途上である。 く,深淵な哲学を生み出したインドならではであ
また,急に停電になるといったインド特有の問題も る。NACLIN2012の発表でも理論的な発表が多く,
あり,筆者も図書館大会参加中に経験した。あくま 事例発表を一段低く見ているような発言も耳に数回
で筆者の推測であるが,ベンガルールなどIT産業 残った。
が盛んな都市部の関連企業が集まる地区に先進的な ・陽気で元気な国民性
オフィスが集中していると考えられる。今回はその 基本的に陽気で元気な国民性であると感じた。
ような所への訪問が叶わなかったので,IT大国の NACLIN2012も一日の全セッションが終わると伝
力を実感することができなかった。 統舞踊,それも組み体操の大技や火の輪くぐり等と
大学図書館 いった見応えのあるショーになり,参加者はそれを
現在経済発展がうまくいっているためか,人材養 見て盛り上がることに驚いた。ちなみに酒を飲む風
成を支える高等教育の図書館は,従来型のものと変 習がどうやらない人々でもあるので,日本の様な酒
・
・
わりが無いと感じられた。たしかに世界の学術情報 を介した懇親会という概念は無いようであった。ま
流通に追いついていく努力(機関リポジトリ,電子 た大会でも全食が提供される(全部カレーだが。)
ジャーナル等)をしているものの,現在日本で話題 ほか訪問先では大体ごちそうになるなど,食に対す
になっているような,ラーニングコモンズといった る考えは我々以上に拘りがあることが感じられた。
新しい設備やサービスについては,見ることができ ・ネガティブな面
なかった。図書館が変化を遂げ,インド独特な発展 インドは,衛生面や安全面での不安がまだまだ多
をするとすれば,これからである。 い。水道水や生ものは口に入れないことが鉄則であ
・
大学図書館の機器環境 るし,街は日本と比べるとしばしば不衛生な光景が
大学図書館の中にも端末が多数配置され,そこで 見られた。人口が爆発的に増加しているので道路は
熱心に学ぶ学生が多く居ることをイメージしていた 渋滞し,列車はすし詰めであり,筆者も4人がけの
が,訪問した図書館は従来型の図書館であり,利用 シートに8人で乗るという経験を一晩した。車の運
者端末が一箇所に固まって30台程度配備されてい 転は荒く,赤信号でも関係なく車は交差点に突入す
るに過ぎなかった。大学内の情報処理センターや研 るなどの経験も多く味わった。交通規則を守らない
究室等といった別の箇所に機器が完備されていたの ので,街にはクラクションの音が溢れていた。
かもしれないが,学内全体まで足を伸ばすことはで ・これから
きなかったので不明である。 日本と異なり模倣に頼らず,図書館について基礎
館内には無線LANサービスが完備されている図 理論から着実に考えた上で議論すること,そして英
書館も存在したが,利用者を見ると自端末を持ち込 語がベースであり,世界に開かれていること,そし
んで学習をしている者は僅かであった。図書館大会 て元気で明るいことは,衛生面・安全面の不安の解
の会場でも同じく無線LANが利用可能であった 消,経済発展の成就,そして勤勉さが加わることで
が,参加しているライブラリアンで,ノートPCや 今後経済面のみならず,学術研究や図書館の分野で
iPadを駆使している者は僅少であった。 も爆発的発展の可能性を持つと感じた。
72
大学図書館研究XCVIII(2013.8)
7.おわりに:謝辞 Maharaja Sayajirao Gaikwad”.Knowledge, Library
この海外派遣事業について,次の皆さまにお世話 and Information Networking:NACLIN2012. edited
になりました。この場にて御礼申し上げます。国立 by Kau1,H・K・:Trivedi, Mayank J., New Delhi,
国会図書館関西館 西願博之様,Nature Japan 宮 delneL 2012・P・12−27・(ISBN 9789382735007)
入暢子様,この海外派遣事業にてお世話になった北 10)Singh・Jagtar・Libraries as Learning Spaces:Meta
海道大学附属図書館の片山俊治様,一橋大学附属図 pho「Inta吐.Myths Exploding・ibid・P64一70
書館の小陳左和子様東北大学留学生であるH・・i1’)
ご蒜謬溜:惣㌶ごs;麗
Krishna Chilukoti様,そして留守を預かって頂き 28(3),p.130−143.
ました宮城教育大学附属図書館の皆さま,インドで 12)Dash, Ranjita N.“Institutional Repository(IR)of
はNISCAIRのDr. Ashok K Chawla様, DELNET the Babaria Institute of Pharmacy(BIP)Library
のDr.H.KKaul様Dr.Sangeeta Kaul様そして一 Using DSpace Software”.Knowledge, Library and
番の恩人であるIIScのDr.Francis Jayakanth様, Information Networkingl NAcLIN2012. edited by
本当にありがとうございました。 Kaul・H・K・:Trivedi, Mayank J・, New DelhL delnet,
2012,p.274−297.(ISBN 9789382735007)
注 13)P・y・d…Ri・h・・d・“Th・OA i・tervi・w・・F・an・i・
tu「e C°nce「ninギhei「Ope「ati°ns Science& SIR・.(。nli。,), http、//ca、i。.ncsLiisc.。,n,、i。/in−
Tech≡1°gy L’b「a「1e□1029 P362385 d,xph,/,(accessed 2013与6).
4)南アンア地域協力連合諸国(SAARC・S・u・h A・i・17)松井祐次郎.“イ。ドにおけるナシ。ナルサイトラ
Ass°ciati・n f・・R・gi・n・I C・・perati・n) イセ。スの実践.国家的プ。ジェクトINDEST。
加盟亘は・イζド・パキスタン・バングラデシユ・ ンソーシアム.・.カレントアウェアネス.2。。4。3.
http・//www・・pun・vers・……・m・・n・vers・・予・a・k
監:、灘:㌶霊1二㌶a「y and
. . the country. ibid. pユ70−180.
http://smthmL blogspot・JP/2013/03/h−m41brary−to− 20)インドエ科大学デリ_校中央図書館のDrBibhuti
・)鑑三d惣㌫竺ll。蒜s㌫;=麟霊ご1嚇㍊㌫答請
・)▽11=漂2:t=二=:・d21)㍑霊円換算、。13年,月現在
use「pe「cept’°ns°f K°ha llbrary m・n・g・m・nt 22)DELNET. NACLIN2012、Librari,、 and F。ture
May÷nk J・“The Lib「a「y M・v・m・nt irl・di・・With http、//。,、i,les.,imes。且。di。i。di。、im,_/2。12.11−
Speclal Reference to the Cntributlon of the
73
IT大国インドにおける学術情報流通の最新事情
20/vadodara/35227128」_public−libraries−school一 室通報2010.6,8(2),p.2−9.
libraries−community−libraries,(accessed 2013−4−27). 水流添真紀.インドの電子図書館と機関リポジトリ.カ
24)拙稿.“インドのヴァーチャル図書館:公共図書館 レントアウェアネス.2009.3,299,p.5−7.
充実化への挑戦”.カレントアウェアネスーE.CA−E一 山下博司,岡光信子.インドを知る事典.東京堂出版
1399,No.232,2013.2.21.(オンライン),http://cur− 2007,428p.(ISBN 9784490107227)
rent.ndLgo.jp/e1399,(参照2013−4−27). 榊原英資インドIT革命の驚異.文藝春秋,2001,217p.
【参考文献】 (ISBN4166601695)
西願博之.インドの情報源とその利用.情報の科学と技
術2012.1,62(1),p.2−7. <2013.5.13 受理 よしうえ しょうえい 宮城教育
同.インドの出版事情と図書館一出張報告.アジア情報 大学附属図書館学術情報管理係長〉
Shoei YOSHIUE
The science information and academic libraries in India as“IT Super Power”
Abstract:The author visited a number of libraries at research universities and attended a library
conference in India to study the general situation of scholarly information in a country that is considered an
IT Super Power. Institutional repositories are not as well developed as in Japan, which started operations
much earlier. With regards to licensing of scholarly information, there are about 12 consortia in operation,
including some that are receiving financial support from the government. They are working hard to get
contracts at prices that seem unbelievably low from a Japanese perspective. Furthermore, he observed a
number of differences in India such as an active pursuit of implementing open source library software Koha
and the staffing structures of librarians. As a result of his study, the author predicts that not only economic
prosperity but also that Indian libraries and scholarly communication are poised to make rapid
developments for the foreseeable future.
Keywords:India/academic information/university libraries/institutional repositories/consortia/
1ibrarians/S.R. Ranganathan
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