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多数台ディスク環境でのデータベース処理実行時における ストレージ省

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多数台ディスク環境でのデータベース処理実行時における ストレージ省
DEIM Forum2015 C3-1
多数台ディスク環境でのデータベース処理実行時における
ストレージ省電力手法の提案と評価
飯村
奈穂†
西川
記史††
中野美由紀†††
小口 正人†
† お茶の水女子大学
〒 112-8610 東京都文京区大塚 2-1-1
†† 日立製作所 横浜研究所
〒 224-0817 神奈川県横浜市戸塚区吉田町 292 番地
††† 芝浦工業大学
〒 135-8548 東京都江東区豊洲 3-7-5
E-mail: †[email protected], ††[email protected], †††[email protected],
††††[email protected]
あらまし
近年デジタル情報量は爆発的に増加しており,データセンタの大規模化が進んでいる.これにより,デー
タセンタ内の管理運用コストも増加しており,その中でも電力コストの増加は見過ごせないものとなっている.そこ
で本研究ではデータセンタの省電力化に向け,データセンタの電力消費の中で一定の割合を占めるストレージに注目
し,アプリケーションの性能劣化を最小限に抑えつつ,消費電力を抑えることを研究目的とする.本稿では業界標準
のデータベースベンチマークである TPC-H を利用し,TPC-H 実行時におけるストレージの省電力化に向けて,実行
時のシステム性能と消費電力量の解析を行った.さらに,大規模システム環境を想定し,TPC-H 実行時のシステム性
能評価,および本研究の提案手法のデータ配置制御手法の評価を多数台ディスク環境にて行った.
キーワード
省電力,ストレージ,データインテンシブアプリケーション,性能評価,TPC-H
The Proposal and Evaluation of Storage Power Saving Method in Run-Time
Database Processing in Many HDDs Environment
Naho IIMURA† , Norifumi NISHIKAWA†† , Miyuki NAKANO††† , and Masato OGUCHI†
† Ochanomizu University 2-1-1 Otsuka, Bunkyou-ku, Tokyo, 112-8610 JAPAN
†† Hitachi,Ltd. Yokohama Research Laboratory
292, Yoshida-cho, Totsuka-ku, Yokohama, 224-0817 JAPAN
††† Shibaura Institute of Technology
3-7-5 Toyosu, Koto-ku, Tokyo, 135-8548 JAPAN
E-mail: †[email protected], ††[email protected], †††[email protected],
††††[email protected]
1. は じ め に
データセンタのエネルギー消費量は 2050 年には 2010 年度の
日本の発電電力量の約 3 倍になると予測されており,社会全体
近年デジタル情報量は爆発的に急増しており,今後 10 年で
での節電が求められる中でデータセンタの消費電力を削減する
約 44 倍になるとも言われている.これに伴いストレージの出
ことは急務になっている [1]. また,データセンタの消費電力割
荷容量も急増していることからストレージの管理運用コストは
合の中でストレージの消費電力比率は約 13%を占めていること
見過ごせないものとなっており,データの効率的管理に注目が
から,ストレージの消費電力を削減することでデータセンタ全
集まっている.
体の省電力化が可能であると言える.
—1—
ストレージの省電力化を考える場合,読み書きが行われてい
案されてきた [8]- [10].特に [9] では,アプリケーション協調型
ないハードディスクをスタンバイ状態へ移行させれば,消費電
のストレージ省電力システムの構築を目指し,データインテン
力を削減する事ができる.しかしスタンバイ状態となっている
シブアプリケーションの I/O 挙動特性を解析,評価して, スト
ハードディスクに対しアクセスが行われると,まずアクティブ
レージ電力制御モデルの提案を行っている.これらの研究では,
状態へ移行してから読み書きが行われるため,アプリケーショ
提案手法におけるストレージの消費電力削減を考慮した上で,
ンの実行性能が劣化する.さらに,アクティブ状態とスタンバ
アプリケーションの性能評価を行っている.
イ状態間の移行には,アクティブ状態を継続するよりも多くの
そこで,本研究では,データインテンシブアプリケーション
電力が消費されるため,スタンバイ状態への移行が頻繁に行わ
の SLA(Service Level Agreement) に注目し,アプリケーション
れると,かえって電力消費量が増大してしまう.従ってスタン
の性能劣化を最小限に抑えつつ,ストレージの消費電力を削減
バイ状態への移行は適切なタイミングで行われる必要があり,
し,性能評価を行っていくことを研究方針とする.
その判断が省電力化実現のポイントとなる.
これまでの研究で,データ配置制御によるストレージ省電力
データベース実行時のストレージ省電力化を考える場合,い
化が有効であるということが示されている [11].しかし,[11] の
くつかの階層におけるアプローチが存在する.まず上位層のア
環境では評価に使用している HDD の台数や容量は少なく,大
プリケーションにおける判断に基づく省電力化が考えられる.
規模なデータを想定しているとは言い難い.そのため,データ
アプリケーションはどのタイミングで I/O が発行され,どのタ
の配置方法も単純なものに限られる.そこで本稿ではより大規
イミングで停止するかをわかっているため,アプリケーション
模な環境を想定し,提案手法の評価を行う.
を解析し,その結果に基づいてハードディスクをスタンバイ状
ストレージにおける省電力を検討する場合,ハードディス
態へ移行させれば,省電力効果が期待できる.しかしこれを実
クを SSD (Solid State Drive) に変える方法も考えられ,SSD を
現するためには,実行するすべてのアプリケーションの I/O の
利用した様々な省電力手法が検討されてきた [12]- [14].ハード
解析を行わなければならず,現実的ではない.逆に最も下位層
ディスクを SSD に置き換えられるかどうかはコスト次第であ
といえるストレージのレベルで I/O を観察する事もできる.I/O
ると言えるが,将来的にはそのような方向へ進むものと予想さ
が発行される時にはストレージをアクティブ状態に,発行され
れる.本研究のアプローチは,ハードディスクが SSD に置き換
ない時にはスタンバイ状態に移行して,消費電力の削減を行う
わってもそのまま適用できるものである.さらに,SSD はアク
というものである.しかし,データベース実行時にストレージ
ティブ状態とスタンバイ状態の切換えに,ハードディスクのよ
レベルで I/O の発行を事前に予測する事は極めて難しく,これ
うな電力消費を要しないので,SSD の時代になったら,より有
により省電力化を図る事は困難である.
望なアプローチであると言える.
それに対し,ミドルウェアであるデータベース層ではアプ
リケーションの最適化実行のための SQL 解析が行われており,
3. 提 案 手 法
データベース処理実行時にここで I/O の振舞いを把握する事が
本研究の提案手法は,データ配置制御を利用したストレージ
可能である.そこで本研究は,データベース実行時に,ミドル
省電力手法である.実環境においてアプリケーションを動かす
ウェアであるデータベース層で I/O の振舞いを把握し,その情
場合,各ディスクに対する負荷が均等になるように (ディスクに
報に基づきストレージをアクティブ状態からスタンバイ状態へ
配置するデータ量が均等になるように),ディスクにデータを配
移行させる事によって,電力消費量の削減を図る.
置するのが一般的である.これをナイーブ手法と呼ぶ.しかし,
本研究ではデータの効率的管理という点からクラウド上の
ナイーブ手法では各ディスクに対して均等に I/O が発行される
データベースの省電力化を考え,アプリケーションの性能劣化
ため,効率的に省電力化を図ることは難しい.そこで,本研究
を抑えつつ,ストレージの消費電力を削減することを研究目的
の提案手法では,アプリケーション実行時における各データの
とする.本稿ではデータベースベンチマークである TPC-H [2]
入出力状況に基づいて,ディスクへ発行される I/O 発行間隔が
の省電力化に向けて,実行時のシステム性能と消費電力量の解
より長くなるようにデータ配置を変更する.そして,ディスク
析を行った.さらに,大規模システム環境を想定し,提案手法
への I/O が発行されていない期間にディスクを省電力 (Standby)
であるデータ配置制御のための実装と評価に向けた TPC-H 実
状態へ移行させることによって ,消費電力量を削減する.
行時のシステム性能評価,および提案手法の評価を多数台ディ
スク環境にて行った.
2. 関 連 研 究
これまでにも多くのストレージ省電力手法が提案されてき
実環境で使用されているデータベースにおいて,各データに
は使用頻度のばらつきが生じていると考えられる.さらに,ど
のデータがどの程度使用されているかということは,統計をと
ればある程度把握することができる.そのため,実環境のデー
タベースにおいて問い合わせの多い処理で使用されているデー
た [3]- [7].これらの研究では,ストレージレベルの入出力頻度
タを調査し,その使用頻度に応じてデータの配置を変更する等,
に従ってディスクを停止する等の手法が提案されている.しか
によって実環境において本提案手法を一般化することができる.
し,実際にストレージレベルでの入出力を予測することは必ず
また,ストレージは CPU インテンシブなアプリケーション
しも容易ではない.
省電力アプリケーション協調型のストレージ省電力手法も提
を動かす場合よりも,データインテンシブなアプリケーション
を動かす場合に,消費電力や性能が重要とされている.そこで,
—2—
表2
本研究では,データインテンシブなアプリケーションとして業
ディスクの遷移状態における消費電力とエネルギー量
Standby1(W) Standby2(W) Idle(W) Active(W)
界標準のデータベースベンチマークである TPC-H を使用し,本
提案手法の評価を行う.
1.05
まず,提案手法の評価のための準備としてディスクの消費電
0.88
5.22
Spindown(J) Spinup1(J) Spinup2(J)
力特性を調べるために,ディスクの各遷移状態における消費電
6.79
力を測定し,省電力化のための 1 つの指標となる Break-Even
108.5
7.25
105.5 Time を算出する.
5. 2 Break-Even Time
続いて,提案手法の評価方法を以下に示す.初めに,TPC-H
実行時における各データの入出力状況を調査する.次に,調査
ディスクの Spindown 及び Spinup により消費されるエネル
した入出力頻度に基づいてディスクに対するデータ配置を変更
ギーと,ディスクを Standby 状態に移行し,その状態を維持す
する.そして,TPC-H 実行時における提案手法の消費電力量と
ることにより削減できるエネルギーが等しくなる Standby 状
システム性能をナイーブ手法と比較し,評価する.
態の持続時間を Break-Even Time と呼ぶ.これは Spindown に
必要なエネルギーを Ed ,Spinup2 に必要なエネルギーを Eu2 ,
4. 測 定 環 境
Standby1 状態の消費電力を P s1 ,Standby2 状態の消費電力を
本研究で使用する実験環境のスペックを表 1 に示す.これら
P s2 ,Idle 状態の消費電力を Pi ,Spindown と Spinup2 に必要な
の測定環境は全て遠隔アクセスによる実験が可能である.電力
時間をそれぞれ T d ,T u2 ,Standby1,Standby2 状態の持続時間
計はサーバ PC の HDD に繋がれており,電力計は電力計操作
をそれぞれ T s1 ,T s2 とすると,Break-Even Time T be は,
用 PC で操作する.またサーバ PC,電力計,電力計操作用 PC
は,ローカル PC と全てリモート接続されている.
(
)
T be = Ed + Eu2 − P s2 × T d − P s2 × T u2 + T s1 × (P s1 − P s2 )
表1 実験環境
OS
CentOS 5.10 64bit
CPU
AMD Athlon 64 FX-74 @ 3GHz(4 cores) x2
Memory
8 GB
HDD
Seagate Barracuda 7200 series 3.5 inch
SATA 6 Gb/s 3 TB 7200 rpm 64 MB 4K sector x 11
DBMS
/(Pi − P s2 )
により求めることができる.
本研究では Standby を 2 種類の状態に区別するため,Break-
Even Time の算出式は [15] を参考に作成した.
本研究で用いた HDD1,HDD2 では Break-Even Time はそれ
HITACHI HiRDB Single Server Version 9
Power Meter YOKOGAWA WT1600 Digital Power Meter
ぞれ約 24 秒であった.これより Standby 状態を利用して省電
力化を実行するためには,ディスクへの I/O 発行間隔が HDD1,
HDD2 それぞれのディスクにおいて約 24 秒以上必要である.
5. ディスクの消費電力特性
ディスクの遷移状態の種類と,各状態における消費電力を
調査し,それに基づいて,省電力可能性の 1 つの指標となる,
図 1 は今回使用したディスクにおいて Idle 状態から Standby1
状態を経て,Standby2 状態に移行した後,再び Idle 状態に移行
した時の消費電力の推移を示している.
Break-Even Time を算出する.
5. 1 ディスクの遷移状態と消費電力
本研究で使用したディスクの遷移状態は Standby1,Standby2,
Idle,Active の 4 種類である.Idle/Active 状態から Standby1 状
態に移行することを Spindown,Standby1 状態から Idle/Active
状態に移行することを Spinup1,Standby2 状態から Idle/Active
状態に移行することを Spinup2 と呼ぶ [8].
[8] では使用するディスクの状態を Standby,Idle,Active の
3 種類としているが,本研究で使用するディスクの遷移状態を詳
細に調査したところ,Standby 状態時に消費電力が異なる 2 種
図1
ディスクの状態遷移における消費電力と Break-Even Time
類の期間がみられたため,本研究では 2 種類の状態を Stanby1,
Standby2 と区別している.
6. 提案手法の評価
各状態におけるディスクの消費電力の測定を行った.測定対
象のディスクは,表 1 に記載のディスクである.Standby1 時,
Standby2 時,Idle 時,Active 時の最大消費電力と,Spindown,
Spinup1,Spinup2 に必要なエネルギーを表 2 に示す.
本節では,TPC-H 実行時の I/O 発行間隔を制御するという目
的のもと,TPC-H の各表と索引のバッファに対する I/O の状況
を調査し,提案手法であるデータ配置制御手法の評価を,多数
台ディスク環境において行う.
6. 1 節で TPC-H 実行時における各データの入出力状況を調査
—3—
する.6. 2 節で TPC-H のデータの中でも約半分のデータ量を占
める LINEITEM 表および索引を 10 個に分割して,分割データ
の配置方法について,議論する.6. 3 節で多数台環境での提案
手法の評価と,SLA を考慮した場合にナイーブ手法と比較して
本提案手法がパレート最適な曲線に近いことを示す.
6. 1 入出力状況の調査
本研究におけるストレージ省電力化のための提案手法である,
データ配置制御の評価を行うために,TPC-H 実行時の各デー
タに対する入出力状況を調査する.DB の規模を示す SF(Scale
図3
各配置方法における分割表の配置例
Factor) は 10 とし,1 秒毎に pdbufls(DBMS 付属のバッファ情報
表示ツール) を用いて入出力状況を取得する [17].調査の結果,
表3
データ配置方法の種類による I/O 発行間隔の長さと回数
LINEITEM を除いて,実行期間中に入出力が見られたデータは
I/O 発行間隔 (秒) 0-24 25-100 101-200 201-
12 個,入出力が見られなかったデータは 9 個であった.
(1) ラウンドロビン (回)
111
58
9
8
(2) 分割番号順 (回)
12
35
14
14
LINEITEM 表および索引は,ハッシュ関数を用いてそれぞれ
10 個に分割する.分割した LINEITEM 表の入出力頻度を調査
した結果を図 2 に示す.Lxx の xx が分割した表の番号を示し
ている.図 2 より,分割した表は分割した番号順に読まれてい
る.つまり,L1 から L10 まで周期的に繰り返し読まれている.
このことから,分割した表と索引は,できるだけ番号が近いも
のを同じディスクに配置することで,ディスクに対してより長
い I/O 発行間隔を得られるということがわかる.
2 種類の配置方法において,ディスク 3 台にスタンバイ状態
へ移行するタイムアウトを設定した場合 (省電力状態適用また
は省電力ありと呼ぶ) と,そうでない場合の TPC-H 実行時にお
ける消費電力量の削減率と実行時間について比較を行った.消
費電力量の比較を図 4 に,実行時間の比較を図 5 に示す.消費
電力量の削減率は,配置方法 (1) が約 15%であるのに対し,配
置方法 (2) では約 33%であった.また,実行時間の遅延率は配
置方法 (1) が約 22%であるのに対し,配置方法 (2) では約 8%で
あった.以上から,より長い I/O 発行間隔が得られる (2) の方
が多くの消費電力を削減することができることがわかる.また,
(2) の方がディスクをスタンバイ状態へ移行する際に生じる起
動オーバヘッドも少ないため,遅延率も小さいことがわかる.
これらのことから,今回使用した TPC-H では,分割した表番
号を万遍なくラウンドロビンに配置するよりも,表番号が近い
ものをできるだけ同じディスクに配置した方が,より効果的な
図2
分割表の I/O 頻度
ストレージ省電力化が可能であるということがわかる.
6. 2 分割表の配置方法
分割した LINEITEM 表と索引,およびその他の表と索引を
ディスク 3 台に配置する.ここで,分割した表と索引に関して,
2 種類の配置方法を用意する.
(1) 分割した表と索引をラウンドロビンに配置
(2) 分割した番号の近いものをできるだけ同じディスクに配置
の 2 種類である.その他のデータはディスク 3 台のデータ量が
均等になるように配置するものとする.上記 2 種類の配置方法
について,配置例を図 3 に示す.Lxx の xx は分割番号を示し
図4
表分割を用いた場合の各配置方法における消費電力量の比較
ている.
2 種類のデータ配置の方法において,TPC-H 実行時の各ディ
スクに対する I/O 発行間隔の期間と回数を調査した.ディスク
3 台で調査した I/O 発行間隔の回数の合計値を表 3 に示す.表
3 より,ラウンドロビンに配置した (1) の方が Break-Even Time
未満の I/O 発行間隔の回数が多いことがわかる.つまり,今回
使用した TPC-H では,分割した表と索引をラウンドロビンに
配置して,ディスクを省電力状態に移行すると非効率であり,
6. 3 多数台ディスク環境での提案手法の評価
6. 1,6. 2 節の結果に基づき,ディスク 10 台を利用して提案
手法の評価を行う.ディスクの消費電力量と実行時間の関係を
調べるために,使用するディスク台数および提案手法に基づき
I/O 有のデータのみを配置した Hot 状態のディスク台数を変化
させて評価を行う.今回用意したディスク環境は使用するディ
スク台数が 10 台,5 台,2 台の 3 種類で,さらにそれぞれ「ナ
余計に電力を消費してしまうことがわかる.
—4—
状態適用と呼ぶ.ディスク 2 台環境の提案手法では,HDD1 を
Idle/Active 状態,HDD2 から HDD10 の 9 台に省電力状態を適
用する.ディスク 5 台環境の提案手法について,HDD4 以外に
省電力状態を適用したものを提案手法’(Hot4 台’) と呼ぶ.例と
してディスク 5 台環境のナイーブ手法のデータ配置例を図 6 に,
提案手法のデータ配置例を図 7 に示す.ピンク色のディスクは
Hot 状態を,水色のディスクは I/O が無データを配置した Cold
状態である,もしくは不使用のディスクであることを示してい
図5
表分割を用いた場合の各配置方法における実行時間の比較
る.灰色で網掛けされているディスクは,省電力状態を適用し
ているディスクであることを表している.
イーブ手法」と「提案手法」の 2 種類を用意する.ナイーブ手法
とは,提案手法であるデータ配置制御の対比となる単純なデー
タ配置手法である.つまり,提案手法はデータに対する I/O に
基づいてデータを配置するのに対し,ナイーブ手法は,I/O の
頻度に関わらず,データがおおむね均等になるように配置する.
6. 3. 1 データの配置方法
図6
ディスク 5 台環境のナイーブ手法 (Hot 5 台) におけるデータ配置例
本評価において我々が用意したデータ配置は以下である.
( 1 ) ディスク 10 台環境
•
ナイーブな手法 (Hot10 台)
– データの利用頻度に関わらず,データ量が均等になるよ
うにディスク 10 台に配置
•
提案手法 (Hot9 台)
– 分割した LINEITEM 表を HDD1 から HDD3 に配置し,
図7
ディスク 5 台環境の提案手法 (Hot 4 台) におけるデータ配置例
I/O 有の残りのデータをスキーマ毎に 1 台のディスクに配置し
(HDD4∼HDD9),HDD10 には I/O 無のデータを配置
( 2 ) ディスク 5 台環境
•
ナイーブな手法 (Hot5 台)
– データの利用頻度に関わらず,データ量が均等になるよ
うにディスク 5 台に配置,残りのディスク 5 台は使用しない
•
提案手法 (Hot4 台)
– 分割した LINEITEM 表を HDD1 から HDD3 に配置し,
I/O 有の残りのデータを HDD4 に配置し,I/O 無のデータを
HDD5 に配置,残りのディスク 5 台は使用しない
( 3 ) ディスク 2 台環境
•
ナイーブな手法 (Hot2 台)
– データの利用頻度に関わらず,データ量が均等になるよ
うにディスク 2 台に配置,残りのディスク 8 台は使用しない
•
提案手法 (Hot1 台)
– I/O 有のデータを HDD1 に配置,I/O 無のデータを HDD2
に配置,残りのディスク 8 台は使用しない
ディスク 10 台環境とディスク 5 台環境の提案手法において,
分割した LINEITEM 表は 6. 2 節の結果に基づいて,できるだ
け近い番号の分割データを同じディスクに配置する.ここでは,
L1, L2, L3, L4 を HDD1 に配置し,L5, L6, L7 を HDD2 に,L8,
L9, L10 を HDD3 に配置する.ディスクの電力状態に関して,3
種類にディスク環境におけるすべてのナイーブ手法は,Hot な
ディスク全てを Active/Idle 状態とする.ディスク 10 台環境と
ディスク 5 台環境の提案手法では,10 台全てに Standby 状態へ
移行するためのタイムアウト (5 秒) を設定する.これを省電力
6. 3. 2 性 能 比 較
各配置方法において,TPC-H 実行時のディスク 10 台の消費
電力量とクエリの実行時間を測定した.また,本評価では SF
を 30 とする.今回実験を行った TPC-H のデータ量 (SF=30,約
30GB) は,実際には 1∼2 台のディスクに格納することが可能
であるが,より大規模な DB を処理する場合を想定して,最大
で 10 台までのディスクを用いる実験を行った.各ディスク環
境におけるナイーブ手法と提案手法の TPC-H 実行時における
ディスクの消費電力量と実行時間の比較を図 8,9 に示す.図
8 において,ディスク 5 台環境のみ提案手法’ として,Hot4 台’
の結果を示している.図 8 に示すように,提案手法を利用する
ことにより,各ディスク環境において実行時間の遅延劣化を数
%に抑えつつ,TPC-H 実行時の消費電力量を削減することが
できている.また,ディスク 10 台環境のナイーブ手法を基準
とした消費電力量の消費率と実行時間の遅延率を表 4 に示す.
表 4 にも示すように,消費率が最も低いのはディスク 2 台環境
の提案手法のときで,最も高いのはディスク 5 台環境のナイー
ブ手法であった.ディスク 2 台環境の提案手法における消費率
が最も低いのは,I/O 有のデータを 1 台にまとめて配置し,そ
の他のディスクに省電力状態を適用しているためである.また
ディスク 5 台環境のナイーブ手法において消費率が最も高いの
は,Hot なディスクが 5 台で,かつ省電力状態を適用しておら
ず,常に Idle/Active 状態であるためである.一方,図 9 に示す
ように,実行時間は各配置方法でそこまで大きな差は生じてい
ないことがわかる.実行時間の遅延率に関しては,表 4 に示す
ように,最も低いのはディスク 5 台環境のナイーブ手法のとき
—5—
で,最も高かったのはディスク 5 台環境の提案手法であった.
6. 3. 3 SLA を考慮した提案手法の評価
ディスク 5 台環境の提案手法では I/O があるデータを配置した
実行時の消費電力量と実行時間の相関について考察する.各
ディスクに省電力状態を適用したことにより起動オーバヘッド
配置方法における,消費電力量と実行時間の相関を図 10 に示
が頻繁に生じ,遅延率が増加したものと考えられる.ただし,
す.図中の点線はこれ以上,電力消費率と遅延率を同時に低く
ディスク 5 台環境の提案手法 (Hot4 台) において,HDD4 以外に
することができないパレート最適な曲線が存在することを示し
省電力状態を適用したディスク 5 台環境の提案手法’(Hot4 台’)
ている.各ディスク環境において提案手法を利用した配置方法
では,遅延率が格段に低くなっている.ディスク 5 台環境のナ
(Hot9 台,Hot4 台’,Hot4 台,Hot1 台) では,それぞれ同じディ
イーブ手法 (Hot5 台) では I/O 有のディスクに省電力状態を適
スク台数を用いたナイーブな手法に比べ,よりパレート最適に
用していないため,起動オーバヘッドの影響が無く,遅延率が
近づいていることがわかる.以上のことから,本測定における
低かったと考えられる.いずれの台数においても,遅延率はナ
本研究の提案手法を利用した配置方法はパレート最適に近い配
イーブな手法の方が提案手法より低いものの,数十%の削減が
置方法であると言える.
行われる電力消費率に対し,遅延率は高さ数%に留まっている.
以上より,この結果は妥当であり,提案手法は省電力化に有効
であることがわかる.
図 10
図8
消費電力量と実行時間の相関
7. まとめと今後の課題
各配置方法における消費電力量の比較
本研究では,データの効率的管理という点からストレージの
消費電力を削減することで,データセンタの省電力化が可能で
あると考え,アプリケーションの性能劣化を最小限に抑えつつ
省電力の実現を目指す SLA を考慮したストレージ省電力手法
の提案を研究目的とした.本稿では,ディスクの省電力状態が
2 種類あることを考慮し,その時のディスクの消費電力から,
Break-Even Time を詳細に算出した.さらに,提案手法の評価
として,TPC-H 実行時の各データに対する入出力状況に基づい
てデータ配置を変更することにより実行時の消費電力が削減で
きることを示した.それらの結果に基づき,SLA を考慮したス
図9
トレージ省電力手法として,ディスク 10 台を使用した提案手
各配置方法における実行時間の比較
法の評価を行った.ナイーブな手法と比較して,提案手法では
表4
ディスク環境 (台) 性能劣化を数%に抑えつつ,実行時のストレージ省電力化が可
電力消費率と遅延率
Hot ディスク台数 電力消費率 (%) 遅延率 (%) 能であることを示した.
10
10
100
0.0
今後の課題としては,以下の 3 点が考えられる.まず 1 つめ
10
9
43
4.4
の課題は,より詳細な提案手法の評価である.具体的には,Hot
5
5
66
1.1
5
4(Hot4 台’)
41
2.6
なディスクの台数を変化させた場合の性能測定や,他のデータ
5
4
37
9.4
配置での評価を行いたい.2 つめは,より大規模なデータでの
2
2
41
1.3
提案手法の評価である.今回は使用した TPC-H のデータがディ
2
1
31
4.0
スク 1 台に収まってしまう環境であったため,今後は,たとえ
ば 1TB のデータなど,より大規模なデータを用いて提案手法の
評価を行いたい.3 つめは,TPC-H 以外でのベンチマークツー
ルでの提案手法の評価である.以上,これらについての評価を
行い,本研究の提案手法がストレージ省電力化に有効であるこ
とをより詳細に示したい.
—6—
謝
man/smartd.conf.5.html
辞
本 研 究 は 一 部, 文 部 科 学 省 科 学 研 究 費 基 盤 研 究 課 題 番 号
24300034 によるものである.
文
献
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