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ニュースレター第19号
News Letter No. 19 巻頭言 2016 年 11 月 30 日発行 「A は人工自動アメーバの A」 でお話にならない。班員総出で収率を上げると、次はモータが剥が れる。剥がれない工夫をすると、今度は球形から動かない…。検討 を重ねた末、2016 年初春、人工自動アメーバ (Artificial Autonomous Amoeba) はとにかく、動いた。膜分子 1 種の追加がカギだっ た。心細い稼働率だったが、改良を続け、冷凍分子ロボ・キットをクー ル宅急便で配布した。名古屋からは元気に動く個体の動画が届いた。 もちろん、論文が発表されるまで、研究は為されなかったのと同じ であり、それが科学の常識である。しかし分子アメーバはそんな人 間の都合なんぞどこ吹く風で、対物レンズの上にてひょいひょい動 東北大学 野村 M. 慎一郎 いている。ぼくにはそれがどうも痛快なのだ。人の見ていないとこ ろで静かに笑っているのは、月やリンゴの天然物だけではないのだ。 さて、いま分子ロボティクスがいるのはどのあたりだろう?技術 分子ロボットをやる理由、それをわかりやすい言葉で説明するの の成熟度は、時間に対して右肩上がりになだらかで高い階段ひとつ、 は難しい。SF の夢、未来の医療、最小のロボット、かつてない原理 いわゆる S 字曲線で描かれることが多い。ぼくらが居るのはおそら のロボット、ドレクスラーの予想、ファインマンの言葉。しかして く段の直前、線形近似できるのぼり坂の終盤あたりと思っている。 本心は「人間の工作の限界を知りたい」なのだろう。ノーベル化学賞 足された要素が個々の性質を失わずに扱える線上、分子アメーバは の分子機械はまさに工作の限界への挑戦であるし、学生の国際分子 まさにそこで苦労してきた。3種の分子をあわせれば3種が、27 種 デザインコンペの BIOMOD も好例だ。では、工作の魅力とは何だ なら 27 種がそのまま動く。プレイヤーの研究者が 3 人寄れば 3 人 ろう?どうやったら思いどおりに作れるのか、動くのか。原理から 分の業績が加算される。もちろん加算にも相応な苦労はあるが、 考えてデザインし、上手くいくととても楽しい。しかも分子ロボで 見上げればはるか上空に変曲点が待っている。その分子ロボ技術が あれば、その舞台は人の手の届かない、支配的な物理法則が異なる 急発展するあたりでは、分子間相互作用の非線形性がガンガン利用 微小スケールなのだ。当たり前が当たり前でない、ということは工 されるだろうし、若手の会や BIOMOD で増えたプレイヤー間の相 作の楽しみに加えて、未知の新発見なんてボーナスまで期待できて 互作用にも非線形性が増して、1 つの事実が 10 以上のアイディア しまう。やっちゃえ分子ロボ。 を産み片っ端から大当たり、ということもあるだろう。急激な変化 というわけで、ぼくらは今、新学術分子ロボティクスのアメーバ は楽しみでも恐ろしくもあるがしかし、S 字の上の台地(ひとりし 班として 5 年目、最終年度を過ごしている。添削で赤く染まった分子 か立てないピークでなく)はきっと見晴らしがよくて、みんなでケ アメーバ論文を横目に、少し苦労話も書いてみたい。アメーバ型、 ラケラ笑いながら SF 作家が立てた次の未来のフラグを指さし狙い とはマイクロサイズの膜袋にロボットの分子要素を詰め込んだタイプ 放題、そんな瞬間を共有できれば幸せにちがいない。 である。 2012 年に出たお題は「とにかく動かす」 「制御系分子に とても楽しい、を原動力に、当たり前でないことを当たり前にして、 DNA を使う」であった(裏に「外部からの制御は論外」というのもあっ 成果を全プレイヤーに提供できる、それは悪くないプロジェクトだ。 た)。分子モータを膜袋に詰めればちゃっちゃと動くだろ、という予測 なのでもうちょっとがんばろう、みなさま引き続きよろしくお願い はいきなりコケる。厚み 5nm の油膜はあっさり割れ、収率低すぎ いたします。 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 1 BIOMOD2016 国内大会 開催日時 : 2015 年 8 月 28 日(日) 開催場所 : 東京大学 弥生キャンパス I-REF 世話人 : 中茎 隆(九州工業大学) 今年で 6 回目となる BIOMOD は学部学生主体の生体分子デザインコンテストで、毎年 10 月下旬 〜 11 月上旬に アメリカにて国際大会が開催されます(今年はカリフォルニア大学サンフランシスコ校が会場)。その前哨戦 として、東京大学弥生キャンパス内の I-REF 棟にて BIOMOD 日本大会を 8 月 28 日 ( 日 ) に行いました。 今年度は、東北大学、東京大学、大阪大学、関西大学、九州工業大学の 5 大学から合計 6 チームがプロジェ クトを英語で発表しました。事前の web ページの審査と当日の発表の審査により採点した結果、見事、東京 大学のチームが優勝しました。個人的な印象ではありますが、日本チームの平均的な英語でのプレゼンテー ション能力は年々向上しており、今年の世界大会も日本チームの活躍が期待されます。 参加チーム 大学 チーム名 Kyushu Institute of Technology YOKABIO Kansai University Team Kansai The University of Tokyo Team UT-Komaba Project A Tohoku University Team Sendai Osaka University Team HANDAI The University of Tokyo Team UT-Komaba Project B プログラム 13:00-13:05 開会 13:05-13:10 スケジュール、ルール説明 13:10-13:30 プレゼン 1 九州工業大学 13:30-13:50 プレゼン 2 関西大学 13:50-14:10 プレゼン 3 東京大学1 14:10-14:20 休憩(10 分) 14:20-14:40 プレゼン 4 東北大学 14:40-15:00 プレゼン 5 大阪大学 15:00-15:20 プレゼン 6 東京大学2 15:20-15:30 集合写真 15:30-15:50 休憩および採点(20 分) 15:50-16:00 表彰 16:00-16:10 総評 16:10 閉会、解散 17:00 学生懇親会 ( ノンアルコール )・ メンター親睦会 2 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 日本大会 成績 順位 大学 チーム名 1 位 東京大学 Team UT-Komaba (DNAnet) 2 位 九州工業大学 YOKABIO 3 位 東北大学 Team Sendai 4 位 関西大学 Team Kansai Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 3 CBI 学会 2016 年大会共催 新学術領域「分子ロボティクス」公開シンポジウム - DDS / 人工筋肉への可能性を探る - 分子ロボティクスシンポジウム -DDS/ 人工筋肉への可能性を探る - タワーホール船堀小ホール ( 東京都江戸川区) 2016 年 10 月 25 日(火)- 26 日(水)14:00-17:30 入場無料 本シンポジウムの参加証で CBI 学会大会のポスター会場(分子ロボティクス関連のポスターも発表されます)もご覧いただけます。 10 月 25 日(火) 分子ロボットのドラッグデリバリーシステム (DDS) への適用可能性 萩谷 昌己(東京大学)14:00-14:30 「開会の辞」 および 「分子ロボティクス:その成果のかたち」 《招待講演》 安永 正浩(国立がん研究センター )14:30-15:00 「抗体 DDS」 《招待講演》 西山 伸宏(東京工業大学)15:00-15:30 「精密合成高分子材料を基盤するがん診断 ・ 治療ナノマシンの創製」 村上 達也(富山県立大学),H. Kim, 中辻 博貴, 福田 亮介,延山 知弘,杉山 弘,今堀 博(京都大学)16:00-16:30 「リポ蛋白質による DDS」 瀧ノ上正浩(東京工業大学)16:30-17:00 「マイクロ液滴の生物物理学による細胞型 DNA 分子ロボット」 佐藤 佑介(東北大学), 平塚 祐一 (JAIST), 川又 生吹 , 村田 智 , 野村 M. 慎一郎(東北大学)17:00-17:30 「アメーバ型分子ロボット」 開催日時 : 2016 年 10 月 25 日(火)- 26 日(水) 10 月 26 日(水) 分子人工筋肉プロジェクトキックオフ大会 《招待講演》 浅田 稔(大阪大学)14:00-14:45 「マイクロダイナミクスから社会的相互作用に至る過程の理解と構築に基づく 未来 AI ・ ロボット」 《招待講演》 川合 知二(大阪大学)14:45-15:30 「バイオナノ工学からの分子ロボットへの期待」 開催場所 : タワーホール船堀5F 小ホール(東京) 《招待講演》 中島 秀之(東京大学)16:00-16:45 「知能の作り方」 関根 久プロジェクトマネージャ(NEDO)16:45-16:50 来賓ご挨拶 小長谷明彦(東京工業大学)16:50-17:20 「アメーバ型分子ロボットから分子人工筋肉へ」 世話人 : 小長谷 明彦(東京工業大学) 山本 拓(関西大学)17:20-17:30 「関西大学イノベーション創生センターについて」 お問い合わせ:分子ロボティクスシンポジウム事務局 〒226-8502 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 J3-25 (東工大小長谷明彦研究室内) Tel:045-924-5654 Fax:045-924-5684 e-mail:[email protected] シンポジウム会場 参加登録はこちらから 分子ロボティクスシンポジウムを CBI 学会年会の共催シンポジウムとして 10 月 25 日 - 26 日、船堀タワーホール において開催しました。今年は、分子ロボティクスの応用としてドラッグデリバリーシステム(DDS) ならびに 人工筋肉に焦点を当て、DDS、ロボット、ナノバイオ、AI の第一人者の先生方に招待講演をお願いしました。 お蔭様で、二日間で総勢 88 名の参加者を迎えることができ、分子ロボティクスの可能性について幅広く議論する ことができました。講演者、 参加者ならびにシンポジウム開催に関わった関係者にこの場を借りて御礼申し上げます。 小長谷 明彦(東京工業大学) プログラム ◆ 10 月 25 日(火)分子ロボットのドラッグデリバリーシステム (DDS) への適用可能性 14:00-14:30 萩谷 昌己(東京大学) 「開会の辞」および「分子ロボティクス:その成果のかたち」 14:30-15:00 安永 正浩 先生 ( 国立がん研究センター ) 招待講演 「抗体 DDS」 15:00-15:30 西山 伸宏 先生 ( 東京工業大学 ) 招待講演 「精密合成高分子材料を基盤するがん診断・治療ナノマシンの創製」 15:30-16:00 ポスター発表 (1 階 CBI 学会 2016 年大会ポスター会場 ) 16:00-16:30 ○村上 達也(富山県立大学)、Hyungjin Kim、中辻 博貴 , 福田 亮介、延山 知弘、杉山 弘、 今堀 博(京都大学) 「リポ蛋白質による DDS」 16:30-17:00 瀧ノ上 正浩(東京工業大学) 「マイクロ液滴の生物物理学による細胞型 DNA 分子ロボット」 17:00-17:30 佐藤 佑介 ( 東北大学 )、平塚 祐一 (JAIST)、川又 生吹、村田 智 , ○ 野村 M. 慎一郎 ( 東北大学 ) 「アメーバ型分子ロボット」 17:30-19:30 ポスター発表 4 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 ◆ 10 月 26 日(水)分子人工筋肉プロジェクトキックオフ大会 14:00-14:45 浅田 稔 先生(大阪大学) 招待講演 「マイクロダイナミクスから社会的相互作用に至る過程の理解と構築に基づく未来 AI・ロボット」 14:45-15:30 川合 知二 先生 ( 大阪大学 ) 招待講演 「バイオナノ工学からの分子ロボットへの期待」 15:30-16:00 ポスター発表 16:00-16:45 中島 秀之 先生(東京大学) 招待講演 「知能の作り方」 16:45-16:50 関根 久 プロジェクトマネージャ(NEDO) 来賓ご挨拶 16:50-17:20 小長谷 明彦(東京工業大学) 「アメーバ型分子ロボットから分子人工筋肉へ」 17:20-17:30 山本 拓 先生(関西大学) 「関西大学イノベーション創生センターについて」 17:30-17:35 小長谷 明彦(東京工業大学) 「閉会の辞」 17:35-18:30 ポスター発表 (1 階 CBI 学会 2016 年大会ポスター会場 ) 18:30-20:30 懇親会(2F「瑞雲」 ) 東北大学 鬼塚 和光が Excellent Poster 賞を受賞しました Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 5 MEMS センシング&ネットワークシステム展 2016 開催日時 : 2016 年 9 月 14 日(水)- 16 日(金) 開催場所 : パシフィコ横浜 世話人 : 小長谷 明彦(東京工業大学) 説明員 : 平塚 祐一(JAIST)、角五 彰(北大) 、上野 豊(産総研) 、森島 圭祐(阪大) 、葛谷 明紀(関西大) 小宮 健(東工大) 、村田 智(東北大)、萩谷 昌己(東大)、小長谷 明彦(東工大) イベント会場来場者数: 約 2600 名 / 日 分子ロボティクスの成果を社会に発信するために、ブース展示を行った。分子ロボティクスブースには多数の企業 関係者が来訪し、生体分子を用いてロボットを創るというコンセプトに驚かれた人が多かった。今回は分子ロボット が実際に動作しているビデオを見せることができたので来訪者に技術的先進性を十分に伝えることができた。領域 関係者にこの場を借りて感謝します。 DNA 模型作り 6 出展者プレゼンテーション Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 研究活動紹介 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス系 藤本 健造 超高速光クロスリンク反応を基盤とした 核酸類操作法の開発 その他、従来操作の難しかったゲノム DNA などの二本鎖 DNA に対する光操作技術の開発を進めており、すでに試験管 内におけるゲノム DNA の光操作法の開発にも着手している [5]。 我々は酵素を使わずに、光を用いて核酸類を操作する方法 の開発を行っており、これまで [2+2] 光環化反応を組み込 んだ DNA 光ライゲーション反応ならびに光クロスリンク反 応の開発に成功し、ビニル基含有ヌクレオシドを含む光応答 性人工オリゴ DNA が相補的核酸存在下でのみ光ライゲーショ ンならびに光クロスリンク可能であることを見出している。 今回、この場を借りてこの1年間の成果について報告する。 まず、超高速 DNA 光クロスリンカーで 3-cyanovinylcarbazole(CNVK) に関して CNVK によって架橋された核酸複合 体から配列選択的に光開裂可能な手法を開発した [1] 。複数 図 . 超高速光クロスリンク反応を用いた細胞イメージング の架橋体から目的の配列のみを光開裂させることが可能と なった。 次に、光クロスリンク反応の架橋相手であるピリミジン塩 [1] Nakamura S, Kawabata H, Fujimoto K. Sequence-specific 基の5位の置換基の効果により、光架橋速度が変化する(制 DNA photo-splitting of 3-cyanovinylcarbazole using 御できる)ということを明らかにした [2] 。既に本領域会議 でも報告している DNA 鎖交換速度の光制御と組み合わせる DNA strand displacement. ChemBioChem, 17, 16, 14991503, 2016. ことで、より緻密な制御が可能となるため、核酸反応をベー [2] Nakamura S, Kawabata H, Muramatsu H,Fujimoto K.Effect スとした情報処理システム構築に関連して重要な知見と考え of 5-substitution of uracil base in DNA photo-cross- られる。 linking using 3-cyanovinylcarbazole. Chem. Lett., 45, 8, また、超高速光クロスリンク反応を用いることにより、光 TF 架橋前後でトリフルオロチミジン ( T) 由来の 19F MR シグ ナルを8ppm 程、大きく変化させることに成功した [3] 887-889, 2016. [3] Nakamura S, Fujimoto K.Photo-cross-linking usingtrifluoro- (通 thymidine and 3-cyanovinylcarbazole induced large 常のハイブリダイゼーションでは 0.5ppm のケミカルシフ chemical shifted 19F MR signal. Chem. Commun.,51, ト) 。少量の核酸についても HCR 法と組み合わせる事で高 感度検出可能であることも併せて実証した。 11765-11768, 2015. [4] F u j i m o t o K , To y o s a t o K , N a k a m u r a S , S a k a m o t o T. さらに、Fluorescence in situ hybridization (FISH) 法 RNA fluorescence in situ hybridization using 3-cyanovinyl- において、大腸菌内の高次構造を形成する 16SrRNA に対し carbazole modified oligonucleotides as photo-cross- CNV ても、 K を導入したプローブ (K8, K9, K15, K17) と光架 橋させることで、高次構造に依存することなく高感度で細胞 イメージングが可能であることを見出した ( 図 ) [4] linkable probes. Bioorg. Med. Chem. Lett., 2016, in press. [5] 藤本健造、中村重孝、特願 105622-2016. 。 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 7 プローブは基板表面上を様々な方向に向かって運動する。 研究活動紹介 しかし、基板を伸展した直後に、プローブは基板の伸展方向 に対して平行方向に並び、一方、基板を元の状態まで縮める 井上 大介 北海道大学大学院 東京工業大学 理学研究院 情報理工学院 アリフ・コビル 角五 彰 小長谷 明彦 と、プローブが基板の収縮方向に対して垂直方向に並ぶこと が見出された ( 図 2b)。この結果より、基板表面の変形方向 はプローブの運動方向から評価可能であることが分かった。 さらに、より複雑な変形や異なる材料を用いて同様の実験を 行った場合でも、自己駆動するプローブがソフトマター基板 表面の変形をセンシングすることが確かめられた。このように、 本研究において我々は、分子ロボットとして微小管・キネシン からなる自己駆動型プローブを用いて、ソフトマター表面の 変形をリアルタイムにセンシングできることを実証した。 自己駆動する超小型の生体分子機械が ソフトマター表面の変形をセンシングする ゲルに代表される柔らかい材料 ( ソフトマター ) は特に近年、 医療やエレクトロニクスをはじめ様々な分野において注目さ れており、その応用例はコンタクトレンズや人工関節、曲が る液晶など多岐にわたる。これらの材料にさらに複雑な機能 や構造を導入するには、材料の変形を考慮した設計をする必 要がある。しかし、ソフトマターは自身の柔らかさゆえ、材 図 1 伸縮するシリコーンゴム基板上で微小管 ( プローブ ) の運動挙動 を観察するシステムの概略図 料内部の変形と表面の変形が一致しないという問題があり、 材料の内部と表面の変形を別々に測定することが困難である。 一方、 微小管は細胞内に存在する繊維状のタンパク質であり、 細胞の運動、形状の維持、細胞分裂において重要な役割を果 たしている。 近年ではこれらの細胞内機能に加えて微小管は、 力学的な刺激を感知するセンサーとしても機能していること が示唆されている。そこで、我々は細胞のセンサーである微 小管を力学プローブとして用いて、ソフトマター表面の変形 の大きさや方向を評価する方法を着想した [1]。 微小管 ( プローブ ) をソフトマター基板表面上で運動させ るために、生体分子モーター “キネシン” を用いた ( 図 1)。 キネシンを伸縮可能なシリコーンゴム(ポリジメチルシロキ 図 2 (a) 基板の伸縮によるプローブの速度変化および (b) 基板の変形 モードに応じて変わるプローブの配向 サン :PDMS)基板表面に固定すると基板上でプロ―ブが並進 運動を発現する。このシリコーンゴム基板を我々が独自開発 した伸展装置 ( 図 1)[1,2,3] を用いて伸縮させ、基板の伸縮に 応じて、自己駆動するプローブの運動速度と運動方向がどの ように変化するのか評価した。まず、シリコーンゴム基板を 伸縮させ、プローブの運動速度の変化を評価したところ、 プローブの速度は基板の変形量に依存して可逆的に変化す ることが明らかとなった ( 図 2a)。次に、基板の伸縮によ るプローブの運動方向の変化について評価を行った。従来、 8 [1] Inoue, D, Nitta T, Kabir A. M. R, Sada K, Gong J.P, Konagaya A, Kakugo A. Nature Communications,7,12557,DOI: 10.1038/ ncomms12557, 2016. [2] Kabir A. M. R, Inoue D, Hamano Y, Mayama H, Sada K, Kakugo A. Biomacromolecules, 15, 1797 − 1805 ,2014. [3] Kabir A. M. R, Inoue D, Afrin T, Mayama H, Sada K, Kakugo A. Science. Reports, 5, 17222, DOI:10.1038/srep17222, 2015. Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 BIOMOD2016 国内大会奮戦記 東北大学 東京大学(駒場) ■タイトル:国内大会を振り返って ■タイトル:世界大会に向けて ■チーム名:Team Sendai ■チーム名:UT-Komaba team ■メンバー:○岩渕祥璽、鈴木駿久、武田祐貴、水野康平、 ■メンバー:○木口利公、大島知子、久米弘朗、渡邊弘太、 渡辺侑希、喜多浩士、宮崎優大、荒舘 笙、 渡 邊 有 、小塚友太、田邉由佳、山中耀裕、 菊池顕生、Hu Jiamin 和氣拓海 ■教官メンター:村田 智、野村 M. 慎一郎、川又生吹 この文章を書いている時点では、我々のチームは国際大 ■教官メンター:萩谷昌己、藤原 慶 東京大学のチームを代表して今年の意気込みを述べさせて 会に向けて各自が日々順調に作業や実験に取り組んでいる。 いただきます。唯一、僕は去年も BIOMOD を経験している しかし、8 月までの国内大会までの活動は控えめに言っても のですが、去年と比較すると今年のチームは「個性」が強く 散々な内容であった。 感じられます。毎年駒場のチームは他の大学とは異なり、教 4 年連続 3 位以内入賞という過去の偉業をプレッシャーに 養学部の一、二年生が中心となっているので、ほぼ知識0 感じていたからだろうか。4 月に結成された我々のチームは、 の状態からスタートです。教養の忙しい授業と並行しつつ、 毎週行われるミーティングで良いアイディアを出すことが出 論文や過去の文献を読みあさり必死に世界大会に調整する 来ず、7 月の中旬までは殆ど進捗が出せずにいた。先生や先 次第です。今年は学内にとどまらず学外から生徒や専門の先 輩方から、例年と比べて活動状況が悪いと何度も言われ続け 生の指導を受け、史上最強のチームができたのではないかと た。プロジェクトの大筋が決定し、ようやく BIOMOD の活 思います。国内大会では2チーム出場したため、単純に考え 動が始まったと言える状況になったのは 8 月の上旬。最後 ると僕らが優勝できる可能性は他の大学より倍の確率なので の最後で追い込み、なんとか形にこそなったものの総合で 3 優勝できて当たり前なのかもしれませんが、しっかりプレゼ 位という決して納得できない結果に終わった。 ンできるまでに2つのプランを仕上げる根気強さとチーム力 何がいけなかったのだろうか。それは、直前まで BIO- を武器に世界大会でも最後までやりきります。この段階では MOD に楽しさを見い出せていなかったから。国内大会まで まだ実験や wiki の進捗が不透明なのでどこまでやりきれる は、活動の大変さや先生やメンターの方からの叱責の言葉に かわかりませんが、せっかく出場するからには世界の舞台で 屈してしまい、積極的な活動が出来ていなかった。しかし、 も必ず金賞を取って帰りたいです。とはいってもアメリカで 国内大会で他大学の発表を見たりメンバーと交流したりする 本番が行われるので楽しみです。日本人は英語力の壁もあっ 中でチーム全員がこれまでの活動の不十分さを自覚し、そし てあまり海外の他の大学とは交流しない傾向にあるのです て BIOMOD が楽しいものだと認識し直した。 が、大会の会場で優秀な熱意のある学生がたくさんいるので、 未知の分野に飛び込む楽しさとその中で専門知識に限らな プレゼンに集中しつつも、他の学生と触れ合うことも視野に い様々な能力を身に付けられる面白さ。それが BIOMOD の 入れて臨みたいです。日本大会で優勝できたという自信も 醍醐味だと考える。チーム全体がその醍醐味に気づけた今で あるので、慢心することなく残り一ヶ月のラストスパート、 は、リーダーの自分から見てもチームのモチベーションがと 頑張ります。 ても上がっているのが実感出来る。Jamboree までは残り 1 ヶ月弱。課題や作業こそ山積みではあるが、活動自体は面 白いもの。全力でやりきって国内大会のリベンジを果たして やろうではないか。 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 9 大阪大学 関西大学 ■タイトル:国内大会に初出場してみて ■タイトル:Team Kansai 奮闘記 ■チーム名:Team HANDAI ■チーム名:Team Kansai ■メンバー:池内大志、上田彩花、沖本将崇、○田坂直也、 ■メンバー:○山崎裕太、阪本康太、馬場 史、山口尚斗、 田崎 旭、田中澪士、西尾美穂、宮下和大、 安部翔太 門田優哉、山口弥利安 ■教官メンター:葛 谷 明 紀 ■教官メンター:森島圭祐 私達 Team Kansai は、今回の BIOMOD 東京大会に至る 私たち Team HANDAI は BIOMOD に初出場ということで、 までに様々な苦難を乗り越えてきました。まず、自分たち 国内大会まで苦しい日々が続きました。ほとんどのメンバー の Team は、全員が 4 回生であるため、既に研究室に所属 が 1 回生であり、ノウハウを持った先輩もいない中でチー しています。そして、それぞれに対して研究テーマが与え ムが発足しました。どうやって Wiki・Youtube を作ればい られています。そういった中で、個人のテーマを進めつつ、 いのか、シミュレーションソフトは何を使えばいいのか、右 BIOMOD について考えていくのはなかなか難しかったです。 も左も分からないまま1か月、2か月と過ぎていきました。 しかし、各々がやるべきことを自覚し、その両立をすること しかし私たちはこの状況を嘆くのではなく、自由な発想がで で、実験をどのようにして効率的に進めていくかなど、「考 きるということでアドバンテージとして捉えました。そして える」といった面で各々の成長を感じられたと思います。 生まれたアイデアが、 「DNA spring-mass system」。かつ また、話し合いを進めていく中で、方向性の違いから て BIOMOD ではほとんど取り扱われなかった物理学の観点 Team 内での衝突もありました。そんなとき、最初から相手 から研究を始めました。ただ DNA のバネマス系を構築する 側の意見を否定するのではなく、一歩引いてそういう考え方 のは困難を極めるため、カーボンナノコイルを用いた簡略モ もいいのではないかと思うことによって、自分たちの BIO- デルで実験を開始しました。実験結果を示すことを国内大会 MOD のテーマについて多角的に考えることができました。 の目標にして、無事に成功モデルを画像に収めることができ そして、実験では、3 つの蛍光色素を用いて 16 色を表現 ました。次に待ち構えるのは Wiki とプレゼンでした。Wiki するというところで、単純に PC 上でのシュミレーション の知識があるメンバーがほとんどいない中、締め切り1週間 通りに 3 つの蛍光色素を混ぜても目的の色が出なかったり、 前から作業が始まり、数分前まで作業室に籠りきりでした。 写真で溶液を撮る際に、撮り方によって色が違ったりと様々 さらに Wiki が終われば国内大会のプレゼンもありました。 な苦難を味わいました。そういった苦難に打ち勝つためにさ どの作業も締め切り間近までかかり、プレゼンのスライドが まざまな検討をしました。 完成したのも会場に入ってからでした。そんな中始まった国 Wiki でも、ある程度英語で文章を考えていましたが、話 内大会。案の定結果は6チーム中5位。結果発表のときは、 し合いによって方針が変わったため、何度も文章を作り直し 期待感などはなく、後悔しかありませんでした。理論構築不 ました。さらに、途中まで出来上がっていたプログラミング 足、質問対応対策不足など様々な課題が挙がり、このままで が消えてしまったりしました。このように、苦難を乗り越え は国際大会で恥をかく、とメンバー1人1人が今まで以上の ての東京大会でしたが、終わって振り返って見ると、BIO- 努力をしなければいけないと反省しました。この経験を活かし、 MOD 本大会に向けていい経験になったと思います。 国際大会では他を圧倒できるようなチームになりたいです。 10 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 九州工業大学 ■タイトル:YOKABIO の軌跡 ■チーム名:YOKABIO ■メンバー: 青崎優也、田中雄己、○日高大成 , 吉田優木 ■学生メンター: 大曲智隆、緒方研仁、西島勝浩 ■教官メンター:中 茎 隆 私たち YOKABIO は、今年度は排他的論理和を題材とした 反応系に取り組みました。チームを結成した 4 月、はじめ 国内大会会場 のアイデア出しが最も大変でした。なかなか「これだ !!」と いうアイデアが浮かばず、ここの部分が一番苦労したとおも います。また、XOR に取り組むことになってからも、理想 とする形になかなか近づいてくれないシミュレーション、想 定している鎖の形にならない塩基配列設計でのシミュレー ション、そして実験、Wiki の作成と英訳など、大変な日々 を過ごしていたのだと今になっておもいます。 しかしその反面、私は非常に充実した時間を過ごせたとお もいます。大学生になってから何かに熱中することを忘れて いましたが、今回チーム一丸となってこの BIOMOD に取り 組むことで、みんなで苦労を分かち合え、そしてみんなで楽 しむことが出来たとおもいます。1日中 BIOMOD のことを 考えて過ごした仲間達とのチームワークや、シミュレーショ BIOMOD2016 本大会速報 !! ~東北大学チームが総合 2 位に!~ ンの手法、実験を行うまでの過程や実験のやり方、動画作成 や Wiki 作成における PC スキルの向上なども BIOMOD を通 して得られたかけがえのない財産だとおもいます。 日本大会では最終的に 2 位という結果を残すことができ 嬉しい半面、世界ではこのクオリティ以上のものを叩き出す 必要があるということでプレッシャーを感じています。その ためには英語力だけでなく、プロジェクト自体の完成度を高 める必要も出てきます。 10 月 29 - 30 日にカリフォルニア大学サンフランシスコ校 にて、BIOMOD2016(国際生体分子デザインコンペ ティション)が開催されました。今年の総合第 1 位は オーストラリア "Team Tiny Trap" 、そして東北大学 "Team Sendai" が第 2 位を獲得しました。 日本から参加した各大学チームも大健闘でした。 世界大会では日本大会の結果に満足することなく、Project Awards Gold を目指して精進していきたいです。 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 11 TOPICS ●受賞報告 ♪北海道大学角五 彰が「生体分子モーターを用いた動的自己組織化に関する研究」により、2016 年度高分子学会 学術賞を受賞しました。 ♪京都大学東 俊一が「ブーリアンネットワークのネットワーク構造とダイナミクス多様性、計測自動制御学会 論文集」により、2016 年度計測自動制御学会論文賞を受賞しました。 ♪東京農工大学大学院生平谷萌恵さん(川野研究室)がアイルランドで開催された MicroTAS2016 で "CHEMINAS Young Researcher Poster Award" を受賞しました。 http://www.microtas2016.org/ ● 東京農工大学川野竜司研究室の miRNA ナノポア計測の成果が、日経産業新聞に「がん分泌物質 迅速検出~ 東京農工大が新技術」という見出しで掲載されました。(2016 年 10 月 19 日付) ● 北海道大学角五 彰の論文(東京工業大学小長谷明彦との共著)が英国科学誌「Nature communications」に 掲載されました。 http://www.nature.com/articles/ncomms12557 ♪ 北海道大学のプレスリリース(2016 年 10 月 4 日付) http://www.hokudai.ac.jp/news/research/ ●「ノーベル賞で注目を集めた『分子機械』の源流は実は日本にある」との内容で、分子ロボティクスの研究が 日刊工業新聞の「深層断面」で紹介されました。(2016 年 10 月 31 日付) ● 2016 年 11 月 12 日に慶応義塾大学日吉キャンパスにて、第 62 回人工知能学会分子生物情報研究会(SIG-MBI) 「分子ロボティクスとマテリアルインテリジェンス」が開催されました。 ● 2016 年 11 月 14 日に田町 CIC にて、BIOMOD2016 本大会 日本チームの帰朝報告会が行われました。 今後の予定 2017 年 3 月 11 日 -13 日 最終領域会議(成果公開シンポジウム)(東京大学小柴ホール) 7 月 15 日 最終公開シンポジウム(東京大学伊藤国際) 次号 No.20(BIOMOD 特集号)は 12 月発行予定です Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19 発行:新学術領域 分子ロボティクス 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 事務担当 :村田智(東北大学 [email protected]) 広報担当 :小長谷明彦(東京工業大学 [email protected]) http://www.molecular-robotics.org/ 12 Molecular Robotics Research Group. News Letter No.19