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要旨集(PDFファイル:1MB)
独立行政法人水産総合研究センター
水産技術交流プラザ
第2回技術交流セミナー
水産物の機能性
~高付加価値化を目指して~
要
旨
集
○プログラム
14:00
開
14:10~
機能性成分素材としての海苔
水産総合研究センター中央水産研究所利用加工部
石原賢司
大型クラゲの機能性と有効利用
水産総合研究センター中央水産研究所利用加工部
金庭正樹
14:50~
休
15:40~
16:30
~17:00
会
憩
健康に寄与する日本型食生活への水産食品の役割
水産総合研究センター中央水産研究所利用加工部長 村田昌一
質
疑
閉
会
参加者交流
2008年6月10日(火)
クイーンズフォーラム(クイーンズタワーB棟7階)会議室E
機能性成分素材としての海苔
独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所
利用加工部機能評価研究室
石原賢司
1. は じ め に
海苔は、様々な日本料理に登場する、
こ と が 予 想 さ れ 、国 内 の 海 苔 生 産 に と っ
日 本 型 食 生 活 を 構 成 す る 食 品 で あ り 、生
てはマイナス要因となると考えられま
産 額・生 産 量 と も に 日 本 で も っ と も 大 き
す 。こ う い っ た 課 題 に 対 し て 、公 立 水 産
い 海 藻 で す( 年 間 約 1 0 0 0 億 円 、1 0 0 億 枚
試 験 場 や 大 学 、当 水 産 研 究 セ ン タ ー な ど
( 湿 重 で 約 4 0 万 ト ン ))。
でも海苔の高品質化・ブランド化・コス
海 苔 は 、北 海 道 で も 少 量 養 殖 さ れ て い
トダウン・新品種育種・新規利用方途開
る そ う で す が 、ほ ぼ 宮 城 県 あ た り を 北 限
発 な ど が 研 究 さ れ て い ま す 。私 共 も 、そ
として大半が西日本で生産されていま
の 一 端 と し て 、海 苔 の 機 能 性 成 分 に つ い
す。特に有明海(佐賀県、福岡県、熊本
て 、熊 本 県 水 産 研 究 セ ン タ ー や 民 間 企 業
県 )は 海 苔 栽 培 に 適 し た 環 境 の た め 養 殖
と 共 同 で 研 究 を 進 め て お り ま す の で 、以
が 非 常 に 盛 ん で 、有 明 海 だ け で 全 国 の 生
下にご紹介致します。
産 量 の 半 分 近 く を 生 産 し て い ま す( 図 1 ,
写 真 1 )。
日本人の食生活には欠かせない海苔
2. プ レ バ イ オ テ ィ ッ ク 成 分 グ リ セ ロ ー
ルガラクトシド
で す が 、食 卓 に 海 苔 を 供 給 す る 海 苔 養 殖
先 に も 述 べ ま し た が 、海 苔 養 殖 に お い
業はいくつかの課題を抱えています。1
て は 、「 色 落 ち 海 苔 」 と 呼 ば れ る 低 品 質
つ は 海 苔 の 消 費 動 向 で す 。従 来 高 品 質 の
の海苔が発生し、問題になっています。
海苔は贈答品として消費されてきまし
色 落 ち 海 苔 ( 図 2 , 3 )は 、外 観 上 黒 み が
た が 、贈 答 用 の 海 苔 消 費 は 減 少 傾 向 に あ
乏 し く 、海 苔 品 質 の 指 標 と な る タ ン パ ク
り 、コ ン ビ ニ の お に ぎ り 用 な ど 単 価 の 安
質 含 量 、ア ミ ノ 酸 含 量 が 低 く 食 用 に は 適
い 業 務 用 消 費 の 比 率 が 高 ま り 、平 均 単 価
さ な い た め 買 い 手 が つ か ず 、廃 棄 さ れ る
が 低 下 し つ つ あ る こ と で す 。も う 一 つ は 、
こ と が 多 い 海 苔 で す 。色 落 ち 海 苔 は 海 苔
い わ ゆ る「 色 落 ち 」と 呼 ば れ る 、低 品 質
養殖においてはある程度の量毎年発生
の 海 苔 の 発 生 で す 。漁 場 の 栄 養 塩 な ど の
す る も の で 、ケ イ 藻 の 発 生 に よ っ て 栄 養
( 海 苔 の 成 長 に 必 要 な 成 分 )濃 度 が 低 下
塩が枯渇し色素タンパク質等が合成で
す る こ と に よ り 起 こ る と さ れ 、 平 成 12
きないため海苔の色調が黄緑色を帯び
年度に有明海で大発生して問題になり
てきて色落ちの状態となると考えられ
ま し た 。も う 一 つ は 、I Q 枠( 輸 入 割 当
て い ま す 。色 落 ち 海 苔 の 発 生 は 全 国 一 律
枠 )の 対 象 国 の 拡 大 で す 。海 苔 は 輸 入 割
に お き る の で は な く 、海 域 ご と( 有 明 海 、
当制度によって輸入量が制限されてい
瀬 戸 内 海 な ど )で 発 生 状 況 が 異 な り ま す 。
ま す が 、 こ の I Q 枠 が 平 成 17 年 度 に グ
色落ち海苔を有効利用しようという
ロ ー バ ル 化 さ れ 、枠 自 体 も 拡 大 し て い く
研 究 は 各 地 で な さ れ て い ま す が 、熊 本 県
水 産 研 究 セ ン タ ー で は 、当 水 産 研 究 セ ン
し た 。さ ら に 、人 の 皮 膚 の 細 胞 の 増 殖 を
ターで開発された海藻の発酵技術を色
促 進 す る こ と も 見 出 し ま し た 。こ の 様 な
落ち海苔に応用する研究を行っている
機 能 性 に よ っ て 、マ イ コ ス ポ リ ン 様 ア ミ
と き に 、通 常 の 海 苔 に く ら べ 色 落 ち 海 苔
ノ酸は化粧品などに応用できると考え
が乳酸菌によって非常によく発酵する
て お り ま す 。実 は 海 苔 に は 上 記 の 3 種 類
こ と を 発 見 し ま し た 。 さ ら に 、「 色 落 ち
の マ イ コ ス ポ リ ン 様 ア ミ ノ 酸 の う ち 、ポ
海苔には乳酸菌を増殖させる物質が多
ル フ ィ ラ - 334 、 シ ノ リ ン が 含 ま れ て い
い の で は な い か 」と 考 え て 成 分 を 精 製 し 、
ま す( 図 6 )。さ ら に 海 苔 に は 、保 湿 性 を
グ リ セ ロ ー ル ガ ラ ク ト シ ド( G G )を 同
有するポルフィランなどの成分も含ま
定 し ま し た( 図 4 )。G G は 通 常 品 質 の 海
れ て お り ま す の で 、こ れ ら の 成 分 の 組 み
苔 に は ほ と ん ど 含 ま れ て い ま せ ん が 、色
合わせによっても優れた効果を持つ化
落 ち 海 苔 に は 大 量 に 含 ま れ て い ま す( 図
粧品素材となりうる可能性を秘めてい
5 )。私 共 は 熊 本 県 水 産 研 究 セ ン タ ー と G
るのではないでしょうか。
G に 関 す る 共 同 研 究 を 行 い 、G G が 腸 内
の 有 用 な 乳 酸 菌 を 増 や す 活 性( プ レ バ イ
4. お わ り に
オ テ ィ ッ ク 活 性 )を 有 す る か ど う か 等 に
海苔は日本人には最もポピュラーな
つ い て 、ま た 民 間 企 業 と 色 落 ち 海 苔 か ら
海 藻 と も 言 え 、古 く か ら 研 究 さ れ て き た
のGGの抽出技術などについて共同研
こともあってすでに研究しつくされた
究・共 同 開 発 を 行 っ て い ま す 。そ の 結 果 、
感 も あ り ま し た が 、実 際 に 研 究 し て み る
GGは腸内で有用なビフィズス菌を選
とまだまだ興味深い物質や現象が見つ
択的に増やすプレバイオティック活性
か る 素 材 だ と 思 い ま す 。私 共 は 海 苔 に 含
を 有 す る こ と ( 図 5, 表 1) を 動 物 実 験
まれるGGやマイコスポリン様アミノ
な ど で 明 ら か に し ま し た 。ま た 、色 落 ち
酸 等 を 実 用 化 す る こ と で 、低 品 質 海 苔 に
海苔からGGの安全で効率的な大量抽
最新の技術で新たな価値を生み出して
出技術についても順調に開発が進んで
行 こ う と し て い ま す 。そ の た め に は 。今
おります。
後はこれら機能性成分の応用面(製品
化・商 品 化 )が カ ギ と な る と 考 え て い ま
3 .有 害 な 紫 外 線 を 吸 収 す る ア ミ ノ 酸( マ
す 。本 講 演 内 容 に ご 興 味 を 持 っ て い た だ
イコスポリン様アミノ酸)
い て 、一 緒 に 開 発 す る こ と を 検 討 し て い
我 々 は 元 々 、ホ タ テ ガ イ の 卵 巣 に 、マ
ただけましたら幸いです。
イコスポリン様アミノ酸と総称される、
有 害 な 紫 外 線( U V B や U V A )を 吸 収
し無害化するアミノ酸が含まれている
こ と を 発 見 し 、機 能 性 の 評 価 を し て お り
5. 参 考 文 献
下記に本講演に関係する特許や文献
を記しますのでご参照下さい。
ま し た 。ホ タ テ ガ イ か ら と れ た 3 種 類 の
マ イ コ ス ポ リ ン 様 ア ミ ノ 酸( ポ ル フ ィ ラ
GG関連
- 334 、 シ ノ リ ン 、 マ イ コ ス ポ リ ン - グ
1) ビ フ ィ ズ ス 菌 増 殖 促 進 性 組 成 物 、 特
リ シ ン )は 、我 々 の 研 究 で 人 の 細 胞 を 紫
開 2006-136240
外線の害から守る事が明らかになりま
2) グ リ セ ロ ー ル ガ ラ ク ト シ ド の 抽 出 方
法 、 特 開 2007-290971
1)
3 ) T . M u r a o k a , et a l . , F e r m e n t a t i o n
2007-016004
Properties of Low-Quality Red Alga
2) K. Ishihara, et al., Relationships
P o rp h yr a
Susabinori
y ez o en s i s
by
繊 維 芽 細 胞 増 殖 促 進 剤 、 特 開
between
quality
parameters
and
I n t e s t i n a l B a c t e r i a , Bi o sc i . B i o te c h.
content of glycerol galactoside and
B i o ch e m. , i n p r es s ( 2 0 0 8 ) .
porphyra-334
4 ) K . I s h i h a r a , e t al . , R e l a t i o n s h i p s
P o r ph y ra ye z o en s is . F i s he r ie s S c i en c e
between
74(1), 167-173(2008).
quality
parameters
and
in
dried
laver
nori
content of glycerol galactoside and
3)C.Oyamada, et al., Mycosporine-Like
porphyra-334
nori
Amino Acids Extracted from Scallop
P o r ph y ra ye z o en s is . F i s he r ie s S c i en c e
( P a ti n op ec t e n ye s soe n s is ) O v a r i e s : U V
74(1), 167-173(2008).
Protection
and
Activities
on
in
dried
laver
マイコスポリン様アミノ酸関連
Growth
Human
Stimulation
Cells,
M a ri ne
B i o te c hn ol o g y 1 0 ( 2 ) , 1 4 1 - 1 5 0 ( 2 0 0 8 ) .
大型クラゲの機能性と有効利用
独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所
利用加工部機能評価研究室長
1.はじめに
金庭正樹
のうちビゼンクラゲは中国沿海に広く
こ こ 数 年 、日 本 海 に 大 型 の ク ラ ゲ( エ
分 布 し 、中 国 の 食 用 ク ラ ゲ 生 産 量 の 9 0 %
チ ゼ ン ク ラ ゲ )が 大 量 に 出 現 し 、定 置 網
以 上 を 占 め る 。価 格 も 一 番 高 い 。そ の た
や底引網に入り込んで大きな被害を与
め 本 種 に 関 す る 研 究 論 文 も 最 も 多 い 。エ
1)
( 写 真 1 、 2 )。 こ の ク ラ ゲ は
チ ゼ ン ク ラ ゲ は 、ビ ゼ ン ク ラ ゲ に 比 べ 研
大 き い も の で 直 径 1m 以 上 、 重 さ 100kg
究例は少なく、北方の東海(東シナ海)
以 上 に な り 、こ れ が 何 十 、何 百 と 網 に 入
から黄海、渤海に分布している。
えている
ると網揚げの際に取り除くのに多大な
中 国 で は ク ラ ゲ は 通 常 、塩 ク ラ ゲ に 加
労 力 が か か る 。ま た 、網 の 中 の 漁 獲 物 も
工されている。加工されている種類は、
ク ラ ゲ に 押 し つ ぶ さ れ た り 、ク ラ ゲ の 毒
ほ と ん ど が ビ ゼ ン ク ラ ゲ で あ る が 、エ チ
に よ っ て 品 質 が 劣 化 す る な ど し て 、商 品
ゼ ン ク ラ ゲ も 一 部 加 工 さ れ て い る 。写 真
価 値 が 著 し く 下 が っ て し ま う 。水 産 総 合
1~ 2 は 上 海 の 南 に あ る 浙 江 省 舟 山 市 内
研究センターではいち早くこの大型ク
の 市 場 の 様 子 で あ る 。一 般 に 塩 ク ラ ゲ は
ラ ゲ 対 策 に 取 り 組 み 、 平 成 16 年 度 か ら
傘部「海蜇皮」と口腕部「海蜇头」に分
1 8 年 度 ま で の 3 年 間 、「 大 型 ク ラ ゲ の 大
け て 販 売 さ れ て い る( 図 1 )。塩 ク ラ ゲ の
量 出 現 予 測 、漁 業 被 害 防 除 及 び 有 効 利 用
価 格 は 、2 0 0 5 年 の 舟 山 市 内 の 市 場 で 両 種
1)
( 表 1 )。 こ
の 価 格 を 比 較 す る と 、傘 部「 海 蜇 皮 」で
の事業の中で中央水産研究所利用加工
4 . 7 倍 、口 腕 部「 海 蜇 头 」で は 2 0 倍 も ビ
部が中心となった研究グループが有効
ゼ ン ク ラ ゲ の ほ う が 高 い 。と こ ろ が 2 0 0 5
利 用 技 術 の 開 発 を 担 当 し 、ク ラ ゲ 成 分 の
年 12 月 の 上 海 市 内 銅 川 路 水 産 市 場 で は 、
機能性の解明や様々な利用技術の開発
傘 部「 海 蜇 皮 」5 0 0 g 当 た り 、ビ ゼ ン ク ラ
を 行 っ た 。ま た 、本 事 業 で は 中 国 に お け
ゲ が 16 元 、 エ チ ゼ ン ク ラ ゲ が 8~ 15 元
るクラゲの利用や機能性研究に関する
で 、せ い ぜ い 2 倍 か ら 同 等 く ら い ま で の
論 文 等 の 調 査 も 行 っ た の で 、こ れ ら を あ
価 格 差 と な っ て い た( 表 3 )。ま た 、上 海
わせて報告する。
の 北 隣 、江 蘇 省 南 通 市 に あ る ク ラ ゲ 加 工
2. 中 国 に お け る ク ラ ゲ の 研 究 と 利 用 の
業 者 の 話 に よ る と 、最 近 で は 塩 ク ラ ゲ の
現状
原料にエチゼンクラゲを使うことが多
技術の開発」を実施した
クラゲは中国では古くから食材とし
く な っ て き て お り 、こ の 業 者 は ビ ゼ ン ク
て 用 い ら れ て お り 、ク ラ ゲ の 分 類 、形 態 、
ラゲとエチゼンクラゲの区別をつけな
分布、生態、習性、生理、加工方法、食
い そ う で あ る 。こ れ ら の こ と か ら 中 国 の
用及び薬用成分などについての多くの
沿 岸 で も 、エ チ ゼ ン ク ラ ゲ の 資 源 量 が 増
論 文 が あ る 。中 国 で 食 用 に さ れ て い る ク
えていることがうかがわれた。
ラ ゲ は 、表 2 に 示 す 5 種 で あ る 。こ れ ら
中国ではクラゲには様々な薬効があ
る と 言 わ れ て お り 、ク ラ ゲ に 含 ま れ る 成
ン タ ー 、同 下 北 ブ ラ ン ド 研 究 開 発 セ ン タ
分の機能性や薬理効果などについても
ー 、鳥 取 県 商 工 労 働 部 産 業 技 術 セ ン タ ー
いくつかの論文や記事が発表されてい
に よ っ て 、様 々 な 利 用 技 術 が 開 発 さ れ た 。
る 。た だ 総 説 的 な も の が 多 く 、具 体 的 な
1)クラゲの粉末素材
実 験 デ ー タ に 基 づ い た 論 文 は 少 な い 。こ
ド ラ ム 乾 燥 に よ っ て 脱 水・脱 塩 し 、粉
れからの研究が期待される分野である。
末 化 し た 食 品 用 素 材 で 、こ の ク ラ ゲ 粉 末
3. 大 型 ク ラ ゲ 有 用 成 分 の 抽 出 と 機 能 性
を 様 々 な 材 料 に 混 ぜ る こ と で 、例 え ば か
の探索
りんとう、マカロン、飴、乾パン、グミ
ク ラ ゲ の 成 分 は 水 分 が 約 96% 、 灰 分
2.8% 、 タ ン パ ク 質 0.1〜 0.2% で 、 ほ と
などに応用できる。
2)塩クラゲ製法の改良法
ん ど 海 水 に 近 い 体 成 分 で あ る( 表 4 )。こ
通 常 、塩 ク ラ ゲ の 製 造 で は 、食 塩 と ミ
れらの成分の中で中央水産研究所では
ョウバンを用いて脱水を繰り返し、3 週
タ ン パ ク 質 に 注 目 し 、そ の 抽 出 方 法 と 抽
間程度の日数がかかる。本改良法では、
出したタンパク質成分の機能性につい
脱水時に加圧処理を行うことによって、
て 検 討 し た 。抽 出 方 法 の 検 討 で は 、大 型
製 造 期 間 の 短 縮 と 使 用 す る 食 塩・ミ ョ ウ
クラゲから加熱とエタノール処理等を
バンの減量が可能になった。
組み合わせた方法によってタンパク質
3)調味料など
含 有 量 約 83% の ク ラ ゲ タ ン パ ク 質 粉 末
加熱などによって脱水したクラゲ濃
を 調 製 し た 。こ の 粉 末 に つ い て ラ ッ ト を
縮 物 を 原 料 に 、加 水 分 解 し て ア ミ ノ 酸 調
用いた動物試験よって機能性を検討し
味 料 、あ る い は 醤 油 麹 で 発 酵 さ せ て ク ラ
た と こ ろ 、こ の 粉 末 を 餌 に 混 ぜ て 飼 育 し
ゲ醤油などを試作した。
たラットでは血液中の中性脂質の値が
こ れ ら の 他 、本 事 業 の 成 果 は「 大 型 ク
低 く な る と い う 結 果 が 得 ら れ た ( 図 2 )。
ラ ゲ 加 工 マ ニ ュ ア ル 」 2)に ま と め て あ る
ま た 、高 脂 肪 の 餌 を 調 製 し 、こ の 餌 に ク
のでそちらを参考にしていただければ
ラゲタンパク質粉末を混ぜた餌を与え
幸 い で あ る ( 図 3 )。
た ラ ッ ト で は 、混 ぜ な い 餌 を 与 え た ラ ッ
5. 参 考 文 献
トに比べ体重の増加が抑えられていた。
1) 水 産 総 合 研 究 セ ン タ ー 広 報 誌 編 集 委
こ の よ う な 結 果 か ら 、ク ラ ゲ タ ン パ ク 質
員 会 編 : FRA ニ ュ ー ス 、 5 : 4-14
粉末には脂質代謝改善効果があること
(2006).
が示唆された。
4. 大 型 ク ラ ゲ 加 工 マ ニ ュ ア ル
本事業の有効利用技術開発グループ
2) 水 産 総 合 研 究 セ ン タ ー 監 修 : 大 型 ク
ラゲ加工マニュアル:水産総合研究
セ ン タ ー (2007).
で は 、中 央 水 産 研 究 所 の 他 、福 井 県 食 品
http://www.fra.affrc.go.jp/press
加 工 研 究 所 、青 森 県 ふ る さ と 食 品 研 究 セ
release/pr18/190316/kurage4.pdf
健康に寄与する日本型食生活への水産食品の役割
独立行政法人水産総合研究センター 中央水産研究所利用加工部
村 田 昌 一(むらたまさかず)
1.はじめに
農林水産省と厚生労働省は「食生活指針」を具
近年、我が国では高血圧,糖尿病,動脈硬化
体的な行動に結びつけ、国民一人ひとりがバラ
症,心臓疾患等のいわゆる生活習慣病の罹患率
ンスのとれた食生活を実現していくことができ
が年々増加し,健康に老いることが非常に難し
るよう、食事の望ましい組み合わせやおおよそ
い時代となっています。
これらの原因には穀類,
の量をわかりやすくイラストで示した「食事バ
豆類,野菜類,魚介藻類等の多種多様な食品素
ランスガイド」を決定し、国民の健全性の育成
材を用いることを特徴とする日本型食事体系か
をめざした「日本型食生活」の推奨を行ってい
ら脂質、砂糖含量が多く、畜肉、乳製品主体の
ます。
欧米型食生活へと変化したことが一因となって
いると指摘されています。
近年,食品素材に体調を整える(体調調節)
作用を有する成分が含まれることが明らかにな
アメリカでは上院栄養特別委員会レポート
っており,食品の機能性に注目が集まっていま
(マクガバン・レポート 1975-1977 調査)で,
す。食品の中の体調調節機能が初めて明らかに
アメリカ人の肥満,糖尿病,循環器系疾患等の
されたのは日本型食生活(日本型食事構成)の
生活習慣病の予防には,①脂肪からのエネルギ
主要な食品素材であり,かつ,近年その摂取量
-摂取を 30%以下に抑えること,②砂糖の摂取
が減少傾向にある魚介藻類でした。魚介藻類を
を控えること,③でんぷんを多く含む食品を積
好む日本人は海藻類約 20 種,魚類 100 種,そ
極的に食べること等を勧告しました。この勧告
の他,エビ,カニ,タコ,イカ,貝類を合わせ
はまさにこれら組成を持つ日本型食生活が各種
ると約 200 種近くを摂取していると推定されて
疾患の予防に有効であることを推奨していると
います。従って,日本人の健康に水産生物由来
言えます。
食品素材が大きく寄与していると考えられます。
我が国では、日本人の食生活が海外からの食
事実、厚生労働省研究班が全国 4 万人を対象と
料輸入の増大に加え、
「食の外部化」や「生活様
して行った調査の結果、魚を週 8 回食べる人は
式の多様化」の進展にともなう「飽食」
、
「脂質
1 回しか食べない人に比べて、心筋梗塞を発症
の取りすぎ等の栄養バランスの偏り」
、
「食糧資
するリスクが約 6 割低いことがわかりました。
源の浪費」等の状況をふまえ、農林水産省が平
このような状況において私たちは、
「食生活指
成 12 年に当時の厚生省、文部省と共同して 10
針」
、
「日本型食生活の推奨」がいかに私たちの
項目からなる「食生活指針」を策定しました。
健康に役立つか、特に水産食品についてその機
さらに、国民運動として「食育」を推進するこ
能性を明らかにし、これら指針や推奨に対する
とにより国民が生涯にわたって健全な心身を培
国民への理解と、さらに詳細な健康のための食
い、豊かな人間性をはぐくむために「食育基本
生活情報の提供を目的として研究を行いました。
法」が 17 年に施行、その後、平成 17 年 6 月に、
2.日本型食生活の健康への役割を科学的に証
ようにワカメの摂取は血液と肝臓の中性脂質濃
明するためには
度を低下させることが分かりました。
それでは,
日本型食生活と欧米型食生活の違いはそれを
構成する食品素材の種類の違いだけではなく,
日本型食生活は多種多様な食素材を組み合わせ,
ワカメはどの様に私たちの体に働きかけてこれ
らの作用を発揮するのでしょうか。
体の中の中性脂質の濃度は肝臓で作られる量
さらに味,色,香りを楽しむ文化であり,その
と分解させる量で調節されています。そこで、
ために蒸す,焼く,揚げる等の各種調理を行う
私たちはワカメによる中性脂質濃度の低下が
ことが特徴の一つとなっています。しかし,こ
「肝臓での中性脂質が作られる量の低下」
,
ある
の特徴は食品素材内,あるいは組み合わされる
いは「肝臓での分解の量の増加」
、もしくは「両
食品素材間で各種機能性成分もまた組み合わさ
方」が原因となっていると考え、肝臓でそれら
れ複雑な組成になり、さらに調理により機能性
の役割を演じている酵素の活性(強さ)がワカ
成分が化学的に変化を受ける可能性を意味して
メを食べることでどのように変化しているかを
います。これにより、機能性成分は作用が強ま
調べてみました。その結果、ワカメを含むエサ
ったり,弱まったり,あるいは完全に消失する
を食べたラットの、肝臓の中性脂質を作るため
可能性が考えられます。従って,食品の真の効
の酵素の強さはコントロールとワカメ食で大き
果を確認するために,また,効率良く作用させ
な違いはありませんでした。しかし、分解する
るためには食品素材丸ごと,食品素材の組み合
酵素の強さがワカメ食で高まることが明らかと
わせ,あるいは加熱,粉砕等の調理を考えた,
なりました。このことは,ワカメによる血液と
すなわち,
「実際の食生活に即した科学的検討」
肝臓中の中性脂質濃度の低下が肝臓での中性脂
が必要だと考えます。
質の分解を高めた結果であり、ワカメを丸ごと
3.ワカメは血液と肝臓中の中性脂質濃度を低
食べることが動脈硬化症などの予防に役に立つ
下させます
ことを示しています。さらにワカメは肝臓での
そこで,私たちは水産食品素材丸ごとの摂取
中性脂質の分解を高めることから、肥満の予防
がヒトの健康へ与える影響の科学的解明の手始
にも役に立つと考えられます。
めとして海藻の機能性を明らかにする実験を行
4.ワカメと魚の食事メニューではこの効果が
いました。
増強します
乾燥ワカメの粉末をいろいろな含量で含むエ
さて、ここで食生活を考えてみましょう。ワ
サで実験動物(ラット)を 3 週間飼育後,ワカ
カメのみそ汁と焼き魚、これは典型的な日本食
メを含まないエサ(コントロール食)を食べた
の組み合わせです。実はこのメニューには複数
ラットと血液中と肝臓中の脂質濃度を比較しま
の機能性成分が組み合わさっています。魚に含
した。すると、血液中の中性脂質濃度がワカメ
まれる n-3 系高度不飽和脂肪酸と呼ばれるエイ
を混ぜたエサを食べたラットで,2%のワカメ食
コサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン
で下がり初め,10%のワカメ食でコントロール
酸(DHA)とワカメです。どちらも血液と肝臓中
の半分まで低下しました。肝臓中の中性脂質濃
の中性脂質濃度を下げる作用があります。同様
度は 1%のワカメ食で下がり始めました。この
の作用を持つ 2 つの機能性成分が組み合わされ
るとその作用はどのように変動するでしょうか。
や冠動脈性心臓疾患(心筋梗塞)の原因は血液
EPA を含む魚油を入れたエサ(魚油食)とワ
中に血栓ができ、その血栓が脳や心臓の血管を
カメを含んだ餌(ワカメ食)
、および魚油とワカ
詰まらせることにより、血液が流れなくなった
メを同時に含んだエサ、対照として魚油もワカ
脳細胞や心臓筋細胞が死ぬことに起因します。
メも含まないエサ(コントロール食)の 4 種類
よって、これら疾患の予防には血液が固まるこ
のエサをそれぞれラットに食べさせ、血液中と
と(血液凝固)を抑えること(抑制)と余分な
肝臓中の中性脂質濃度、肝臓での中性脂質の合
血栓を溶かすこと(線溶(せんよう))が重要であ
成と分解に関係する酵素の強さを調べました。
ると考えます。
その結果、魚油食はワカメ食と同様,コントロ
これまで魚食は EPA 等の高度不飽和脂肪酸
ール食に比べると血液と肝臓の中性脂質濃度を
が血液凝固を抑制することで血栓形成を防ぐ
下げました。ところが、ワカメと魚油の同時摂
(血栓形成抑制)と報告されてはいますが、一
食はそれ以上に下げることが確認されました。
部の研究者たちは、それだけの理由で魚食の血
次に肝臓の中性脂質を分解する酵素の強さを
栓形成の抑制作用は説明できないと考えていま
調べると,魚油が肝臓のペルオキシダーゼとい
す。そこで、私たちは、魚食による血栓形成抑
う器官(肝臓の部位)の中性脂質分解を高める
制作用が高度不飽和脂肪酸の作用だけではない
のに対して,ワカメはミトコンドリアという器
と想定し、魚の何の成分が、どのような働きで
官での中性脂質の分解を高めることが明らかと
血栓形成を抑制しているかを実験することにし
なりました。同じ作用を持つ 2 つの機能成分の
ました。
組み合わせでも作用の成り立ちが同じであれば、
6.魚のタンパク質に血栓を溶かす働きが見つ
せっかく同時に食べても弱い方の作用が強い方
かりました
の作用に隠れ、作用が強まらないと考えられま
イワシから純度の高いタンパク質を調製し,
す。しかし、同じ作用でも作用の成り立ちが異
実験動物(ラット)に食べさせ、血液が固まる
なれば作用が積み重なってさらに強まる可能性
時間(血液凝固時間)や血液が凝固するための
が考えられ、ワカメと魚の組み合わせがこの例
いろいろな因子量(血液凝固因子活性)
,できた
だと考えます。この結果は水産食品素材が動脈
血栓を溶かす能力への影響(血液線溶系因子活
硬化の予防に有効な食品素材であることと共に、
性)を測定し,魚の油(28%の EPA を含む)
食事として組み合わせることで一層強い作用が
のみを含むエサを食べたラットのそれと比べま
期待できることを明らかにし、日本型食生活が
した。
健康に良いとの科学的な一つの証明だと考えま
その結果,魚の油はこれまで複数の研究者が
す。
報告しているように、血液の凝固を抑える作用
5.魚食(魚をたべること)は血栓(血のかた
があることがこの実験でも確かめられました。
まり)の形成を調節します
しかし、魚の油には血栓を溶かす作用は見られ
最近、動脈硬化症が致死的疾患へ進展するか
ませんでした。一方、魚のタンパク質を食べた
は血管の中で血栓が形成されることが危険因子
ラットで、わずかな血液凝固を抑える作用はみ
の一つと考えられ始めています。また、脳梗塞
られたものの、魚の油に比較すると弱い作用で
した。しかし、魚のタンパク質に、できた血栓
とりまとめ、そこでは「生活習慣病予防を重視
を溶かす作用があることがわかりました。これ
し、これに対応するために「栄養成分摂取量の
らのことから、魚食による血栓形成を抑える作
範囲」を示し、①その範囲に摂取量がある場合
用が、魚に含まれる油が血液の凝固を抑える作
には生活習慣病のリスクが低いとする考え方を
用と、魚のタンパク質ができた血栓を速やかに
導入する、②それ以上の摂取量になると過剰摂
溶かす作用が組み合わさった(複合的)作用に
取による健康障害のリスクが高くなり、障害を
よることを世界で初めて明らかにしました。こ
与える場合もある、と機能性成分の取りすぎに
の研究により、魚を丸ごと食べる食生活が脳梗
十分に注意することと明記しています。また、
塞や心筋梗塞などの余分な血栓の形成が原因と
特定成分の健康性をアピールしたマスコミ報道
なる疾病の予防や治療に有効な食生活であるこ
(番組)が、視聴者に「中毒症状」を与えた事
とが科学的に解明できたと考えています。
件、一度は特定保健用食品として認められた成
7.私たちは食品の機能性成分は食品から取る
分が万人向けではなく、特定の人には障害を生
ことが原則だと考えます
じる可能性があると追認識された例等があり、
食品中に機能性成分が見いだされて以降、こ
これらの問題を解決するためには、作る側の慎
れらの研究の成果として、
機能性成分を抽出し、
重で正確な研究成果に基づいた商品設計と、消
純度を高めた機能性食品や特定保健用食品が数
費者側のこれら商品に対する十分な知識が必要
多く市場に出ています。その一方、これら製品
であると思われます。
には、ほんとうに効果があるのか、安全性は確
私たちは原則として、食品に期待する機能性
保されているのか、多量に長期間食べても安全
成分は食品あるいは素材の形で、すなわち食生
か、など、各種の疑問が消費者、関係機関、研
活の中で機能性成分を摂取することが最善であ
究機関等から指摘され始めています。厚生労働
ると考えます。そのためにも食品機能性の研究
省は平成 17 年度から平成 21 年度の 5 年間使用
には「食生活」を加味した評価方法が必要であ
する「日本人の食事摂取基準(2005 年版)
」を
ると考えます。
8.主要参考資料、報告、論文
食生活指針、農林水産省、文部省、厚生省、平成 12 年 3 月
食育基本法、内閣府、平成 17 年 7 月
食事バランスガイド、農林水産省、厚生労働省、平成 17 年 6 月
日本人の食事摂取基準(2005.4~2010.3)
、厚生労働省 平成 16 年 11 月
心疾患-脳血管死亡統計の概況、人口動態統計特殊報告、厚生労働省、平成 18 年 3 月
Murata,M.,Ishihara,K.and Saito,H. (1999) J.Nutr.129:146-151.
Murata,M.,Sano,Y.,Ishihara,K.and Uchida,M., (2002) J.Nutr.132:742-747.
Murata,M. and Nakazoe,J. (2001) J.A.R.Q.35: 281-290.
Murata,M.,Sano,Y.,Bannai,S.,Matushima,R.,Ishihara,K.and Uchida,M. (2004) Ann.Nutr.Metb.,48:348-356.
Sano, Y., Sato, K., Uchida, M. and Murata, M. (2003) Biosci. Biotech. Biochem. 67: 2100-2105.
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