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『氷と濃硫酸』の実験
『氷と濃硫酸』の実験 岩手県立盛岡北高等学校 佐藤琢夫 ※下記の内容は、 『理科教室』2001年5月号に掲載された内容である。 『化学と教育』に「氷+硫酸」は冷える き氷器で作った −寒剤の物理化学注)1という興味深い実 氷を入れる。写真 験が紹介されている。追試を行い授業に取 2、温度は0℃で り入れてみた。追試を行う前、濃硫酸のも ある。写真3、1 のすごい溶解熱が頭から離れないので、本 0mlの濃硫酸 当に冷えるのかという半信半疑な気持ちが を素早く加える。 先に立つ。実験のやり方と結果について、 写真4、温度計で 次の通りである。 「水分を少し含んだ製氷 撹拌する。写真5、 器のザラメ状の氷を 撹拌後の温度を確認する。−8℃であった。 100mlビーカーいっぱいに入れる。そ 授業での取り組み こに濃硫酸10mlを一気に注ぎ、温度計 溶解 の授業の でかき混ぜたら、2,3分間のうちに混合 後、熱化学の授業 物の温度は でこの実験を取 −10℃ま り上げた。化学変 で下がった。 化(溶解も含め ビーカーの て)に熱の出入り 外壁にはま が伴うことを、こ ず水滴がつ れまで事あるごとに指摘してきた。金属と き、冷える 酸による水素の につれてそ 発生の際など、必 れは霜のよ ず試験管をさわ うになって らせる。物質の状 いった。 」 態変化に伴う熱 以下追試 の出入りを通し、 を行った内 ミクロの様子を 容である。 考えさせる試み 写真1につ を行っている。 『発熱,吸熱の便り:ミクロ いて。20 (イオン,分子)の出会い(結合)はアツ 0mlのビ アツ(発熱)だ。ミクロの別れ(解離)は ーカーにか ヒエヒエえ(吸熱)だ』というルールを事 前に提示する。 「ルシャトリエの原理によれば氷を溶か アツアツの例、ホッカイロ。鉄粉と酸素 すためには、生成した水を取り去ってしま との出会い。ヒエヒエの例、腕にぬった消 えばよい。別の表現では水としての活量を 毒用のアルコールのなど。気化に伴うアル 減らせばよい。NaClの添加は生成した コールの別れ。 水にNaClが溶解することで水の活量を 実験1 濃硫酸の溶解熱。試験管の水に 下げるのに役立っている。この原理による 濃硫酸を加えると、水温が20℃から9 と水に溶けるものならばNaClでなくて 0℃まで上昇する。発熱だからミクロで何 も何でもこの作用があるといえる。寒剤と と何が出会ったのかと問う。なお、既に水 しては氷−NaClがよく知られているが、 和について学んでいる。 (中略)硫酸の系も寒剤として有効に働い 実験2(演示)濃硫酸と氷。200ml ていることに驚く。硫酸を水で希釈すると のビーカーにかき氷器で作った氷を入れ、 多量の熱が出るため、まさかこれが寒剤に 濃硫酸を約10ml加える。 (写真3)次の なろうとは考えにくいが 予想に対して挙手させ、その後実験で確認 、実際氷に硫酸を注いでみると氷の融解熱 する。 が硫酸の希釈熱をうち消して、寒剤として 【予想】最初0℃であったものが、加える の働きを示していることがわかる。 」 と0℃より 以上の内容は、寒剤の原理及び雪国の岩 1.あがる(14名) 手にとって冬の道路に散布する融雪剤の働 2.変わらない(8名) きを生徒にわかりやすく説明できるもので 3.下がる(0名) ある。 実験1の溶解熱があまりにもインパクトが あり、20名ほどの生徒は判断できず挙手 しなかった。 この結果と実験1をもとに、氷が融ける だけという単純なミクロの別れでないこと に気づかせる。確認の質問する中で、2つ の相反する変化、氷が融けることによる吸 熱と水和による発熱のそれぞれ大きさが違 うことで反応熱(溶解熱)が決まることを 参考文献 理解させる。 注)1 木村 優 化学と教育 46 184 (1998) 寒剤について 注)2 神谷 伸行 再度『化学と教育』より引用する。寒い 化学と教育 42 740 (1994) 時の寒い話、暖かい話注)2に寒剤の話が 高校生でも理解できるルシャトリエの原理 で説明されている。