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小型犬の頚髄疾患における動的病変の特徴に関する検討

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小型犬の頚髄疾患における動的病変の特徴に関する検討
小型犬の頚髄疾患における動的病変の特徴に関する検討
田中 宏 1) 北村雅彦 1) 栗山麻奈美 1) 中垣佳浩 1)
小関清人 1)
黒川慶一 2) 中山正成 1)
1) 中山獣医科病院・奈良県 2) 生光動物病院・大阪府
松本有紀
1)
長田翔伍
1)
糸井崇将
1)
【はじめに】大型犬によくみられる頚部脊椎脊髄症(ウォブラー症候群)は、椎間板、支持靭帯、関節突
起などの変性により脊髄圧迫を起こす症候群である。主に椎間板関連性の脊椎脊髄症がみられ、中~高年
齢の非軟骨栄養性犬種、特にドーベルマンピンシェルによく発症する。この椎間板関連性の頚部脊椎脊髄
症にみられる脊髄圧迫は頚部の牽引や屈曲によりその程度が変化する動的病変を示すことが多く、この動
的病変の検出は、外科手術の選択に重要である。同様の病態が小型犬でも認められるが、非常に稀である
と言われている。今回、当院で頚部脊髄疾患と診断した小型犬において、実際どれだけの動的病変を示す
症例がいるかを調査し、その特徴について検討した。
【材料と方法】2004~2013 年の 9 年間に脊髄造影により頚部の圧迫性脊髄症と診断した体重 10kg 以下
の小型犬を対象とした。腰椎穿刺による脊髄造影を実施し、頚髄領域が十分造影されていることを確認し
たのち、中立位で頚部脊髄領域を撮影後、牽引および屈曲撮影(ストレス撮影)を行い、動的病変の存在
を確認した。ストレス撮影により脊髄の圧迫に変化がないものを静的病変(図 1)
、圧迫が消失、軽減ある
いは増強されたものを動的病変(図 2A-C)として分類した。動的病変の特徴に関して、以下の項目につい
て静的病変の症例と比較して検討した。
・年齢および性別
・犬種(軟骨異栄養性犬種と非軟骨異栄養性犬種)の関連性
・病変数(単一病変と 2 椎体以上の多発病変)
・病変部位(頭側頚椎:C2-4 と尾側頚椎:C4-7)
・病変部あるいは隣接する椎体の変形や脊椎症の有無との関連性
本研究における統計的検定は有意水準を 5%として行った。また、動的病変を持つ症例に対する治療はプレ
ドニゾロンによる内科的治療、外科的治療として、病変部の背側椎弓切除による減圧もしくは両側関節突
起の固定の併用を行った。
【結果】64 例中、動的病変の症例は 9 例(14%)、静的病変の症例は 55 例(86%)であった。動的病変の
症例の全例で腹側の圧迫があり、3 例は背側にも圧迫を認めた。動的病変の所見は牽引、屈曲で圧迫が消
失・軽減したものが 6 例、屈曲により圧迫が消失・軽減したものが 2 例で、1 例は屈曲で増強された。動
的病変の症例の平均年齢は 7.9 歳で、静的病変の症例との有意差は認められなかった。性別に関しては病
変との関連性は認められなかった。犬種では、動的病変の症例で軟骨異栄養性犬種が 1 例(11.1%)、非
軟骨異栄養性犬種が 8 例(88.9%)、静的病変の症例では軟骨異栄養性犬種が 45 例(81.8%)、非軟骨異
栄養性犬種が 10 例(18.2%)で、動的病変の発症は非軟骨異栄養性犬種に、静的病変の発症は軟骨栄養性
犬種に多く、犬種と病変の関連性が認められた(図 3)。病変数では、動的病変の症例では単一病変が 4 例
(44.4%)、多発病変が 5 例(55.6%)、静的病変の症例では単一病変が 53 例(96.4%)、多発病変が 2
例(3.6%)で、動的病変の症例は多発病変が、静的病変の症例では単一病変が多く、病変数と病変の関連
性が認められた(図 4)。病変部位との関連性は認められなかったが、動的病変は尾側頚椎での発生が高
い傾向にあった(図 5)。また、動的病変はその病変部あるいは隣接する椎体の脊椎症や椎骨変形の有無
と関連性が認められた(図 6)。動的病変を持つ 9 例のうち、1 例は内科的治療を、8 例は外科的治療を実
施した。外科的治療は、6 例に背側椎弓切除術のみを実施し、2 例には関節突起の固定も併用した。すべて
の症例で症状の改善が認められたが、外科手術を行った 1 例に再発が認められた。
【考察】圧迫性脊髄症と診断された小型犬の 14%が動的病変を示した。これらの発生年齢、発生犬種、病
変部位、レントゲン学的特徴は大型犬の椎間板関連性の脊椎脊髄症の特徴と類似していた。小型犬では、
大型犬の脊椎脊髄症と同様の病態を示す例は非常に稀であるとされているが、今回、決して稀とは言えな
い結果であった。動的病変の検出は、伸延固定術、背側椎弓切除術、関節突起固定など外科的治療法の選
択に重要であると言われている。小型犬でも動的病変があることを認識し、それを検出する検査(脊髄造
影時のストレス撮影、MRI 時の牽引)をルーチンに実施するべきあると考えられた。特に、非軟骨栄養性
犬種、変形性脊椎症のある部位、もしくはその隣接する部位では動的病変が存在する可能性が高いと考え
ておくべきである。
動的病変に対する外科的治療方法として、大型犬では、様々な伸延-安定化や背側椎弓切除術といった外科
的治療の有効性が検討されている。今回、小型犬の動的病変に対する外科的治療として、背側椎弓切除術
(および関節突起の固定を併用)を実施し、良好な結果が得られた。しかしながら、症例数は少ないため、
今後は、その他の外科的治療も含めて、動的病変に対する外科手術法について比較検討していく必要があ
ると思われる。
C6
C6
図 1 静的病変と判断する脊髄造影所見(上:中立像、下:牽引像)
中立位で第 4-第 6 頚椎間の腹側に圧迫(矢印)を認めるが、牽引で圧迫の程度に
変化は認められない。ミニチュアシュナウザー、10 歳年齢、雄。
C5
C5
図 2A 動的病変(屈曲で増強)と判定する脊髄造影所見(上:中立像、下:牽引像)
中立位で第 4-第 5 頚椎間に軽度の圧迫を認めるが(矢印)、屈曲により第 5 頚椎椎体
の頭側部に押し上げられるように圧迫が増強されている。マルチーズ、6 歳齢、雌
C5
C5
図 2B 動的病変(牽引で消失)と判定する脊髄造影所見(上:中立像、下:牽引像)
第 4-第 5 頚椎間に腹側からの圧迫が認められるが(矢印)
、牽引により椎間板腔が
拡張し、圧迫が消失している。ヨークシャテリア、15 歳齢、雌
C6
C6
図 2C 動的病変(屈曲で消失)と判定する脊髄造影所見(上:中立像、下:牽引像)
中立位では第 3-第 4 頚椎間に軽度の腹側からの圧迫と第 5-第 6 頚椎間に椎体のずれ
がみられ、腹側からと背側からの圧迫を認める(矢印)
。これらの圧迫は屈曲により
いずれも消失している。ホイペット、11 歳齢、雌
軟骨異栄養性犬種
非軟骨異栄養性犬種
%
%
100
100
8/9(88.9%)
45/55(81.8%)
80
80
60
60
40
40
20
10/55(18.2%)
20
1/9(11.1%)
0
動的病変
静的病変
0
動的病変
静的病変
図 3 犬種(軟骨異栄養性犬種 vs. 非軟骨異栄養性犬種)との関連性
動的病変は非軟骨栄養性犬種、静的病変は軟骨異栄養性犬種に発生しやすい
病変と犬種との関連性が認められる(P < 0.05, Fisher’s exact test )
単発病変
多発病変(2 椎体以上)
%
%
53/55(96.4%)
100
100
80
80
60
60
5/9(55.6%)
4/9(44.4%)
40
40
20
20
0
0
2/55(3.6%)
動的病変
静的病変
動的病変
静的病変
図 4 病変数(単発性 vs. 多発性)
動的病変は多発性に発生しやすく、静的病変は単発性に発生しやすい
病変と病変数との関連性が認められる(P < 0.05, Fisher’s exact test )
病変部・隣接椎体の変形性脊椎症
や椎体の変形がある
病変部・隣接椎体の変形性脊椎症
や椎体の変形がない
%
%
9/9(100.0%)
100
100
80
80
60
60
40
40
50/55(90.9%)
20
20
5/55(9.1%)
0
0
動的病変
動的病変
静的病変
静的病変
図 5 病変と病変部あるいは隣接する椎体の変形性脊椎症や変形の有無
病変と病変部あるいは隣接する椎体の変形性脊椎症や変形の存在と関連性が認められる
(P < 0.05, Fisher’s exact test )
%
静的病変(57 椎間)
50
動的病変(16 椎間)
40
6/16
20/57
30
(37.5%)
(35.1%)
4/16
3/16
20
10
3/16
(20.0%)
(18.8%)
(18.8%)
10/57
10/57
20/57
7/57
(17.5%)
(17.5%)
(35.1%)
(12.3%)
2/57
(3.5%)
0
C2-3
C3-4
頭側頚椎
C4-5
C5-6
C6-7
C7-T1
尾側頚椎
図 6 発生部位(頭側頚椎 vs. 尾側頚椎)
動的病変では尾側頚椎で発生が多い傾向にあるが、発生部位と病変の関連は認められない
(P = 0.19, Chi-square test)
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