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ボランティアのための海岸林植栽の手引書

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ボランティアのための海岸林植栽の手引書
ボランティアのための海岸林植栽の手引書
公益社団法人国土緑化推進機構
目
次
はじめに ............................................... 1
1
日本の海岸林 ....................................... 2
2
岩手県・宮城県の海岸砂丘地の植物 .................. 4
2-1
自然状態の砂丘地の植生 ...................... 4
2-2
つくられたクロマツ海岸林と広葉樹の侵入 ..... 4
《 スナガニとハマボウフウ》 ................ 5
《海岸林の風衝形》 ........................ 6
3
海岸砂丘地の植栽の基本 ............................. 7
3-1
厳しい気象条件への対応 ...................... 7
3-2
適地適木 .................................... 8
(1)クロマツ .................................. 8
《抵抗性マツの薬剤防除は必要ないのか》 ... 9
(2)広葉樹 .................................... 9
3-3
過湿砂丘地の樹木根系と盛土 ................. 11
《過湿地の樹木根系は浅くなる》 .......... 12
4
海岸林植栽の手順 .................................. 13
《身支度と持ち物》 ....................... 13
4-1
クロマツの植え方 ........................... 13
(1)植え穴掘りと大きさ ....................... 13
(2)基
肥 ................................... 14
(3)苗木の植栽 ............................... 14
《悪い植え方》 ........................... 16
(4)支
柱 ................................... 16
(5)植え付け後の肥料 ......................... 17
(6)植え終わった後の敷藁、チップ ............. 17
《コンテナ苗の利点》 .................... 17
4-2
広葉樹の植え方 ........................... 18
《広葉樹種の配置区分》 ................... 20
表紙の写真は「佐々木松男:高田松原ものがたり」より引用
はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した巨大地震により千年に 1 度の確率といわ
れる大津波が発生し、太平洋沿岸の海岸林に未曾有の被害をもたらし
ました。この災害後、海岸林の大切さが改めて認識されました。
現在、各地で海岸林の再生に向け、ボランティアや NPO 等の団体が
積極的に植栽活動に参加をしています。
この手引書は、岩手県や宮城県を中心として、被災した海岸林の再
生を目指して植栽に参加する人々のために、海岸林の役割と植栽に関
する知識についてやさしく解説しました。この手引書が被災地の植栽
現場で役立つことを期待しています。
(被災後の貞山堀のマツ林)
1
1
日本の海岸林
―
海岸砂丘地の植栽の歴史
―
日本の河川の河口周辺に多くの砂丘地が形成されています。これら
の海岸砂丘地は昔から飛砂の害に悩まされ、飛砂地を安定させるため、
海岸林をつくることが実行されてきました。しかし、多くの樹種の砂
丘植栽が試みられてきましたが、砂丘地の厳しい環境で生育する樹種
は簡単には見つかりませんでした。
1600 年代に、東海地方の海岸砂丘地で、クロマツが砂丘地に最も適
する樹種であることがわかり、その後に東海地方から北陸・東北の各
地方まで、クロマツが運ばれ、全国的にクロマツ林を主とする砂丘植
栽が行なわれてきました。
藩政時代の砂丘植栽は豪農、豪商が資材を提供し熱心に取り組みまし
たが、飛砂などの害により消滅と再植栽の繰り返しでした。その後、藩
政時代から明治・大正・昭和時代にかけ、海岸砂丘植栽は継続して行わ
れました。戦後、砂丘植栽に関する法律が整ったことや植栽技術が各地
で確立したことに伴い、1960 年代にほぼ全国的にクロマツ海岸林が完成
しました。これらの海岸林は、保安林に指定され大切に管理されてきま
した。
クロマツ林の植栽地
(九十九里浜)
環境に適応して成長したクロマツ林
(虹の松原)
2
日本全国には人手によって植栽された多くの海岸マツ林があります。
なお、歴史的・文化的背景をもつ美しい景観のマツ林に、親しみを
込めて“○○松原”と呼ぶ習慣もあります。
―
海岸林の役割
―
海岸林は災害を軽減する防災林として、海岸林の背後に位置する耕
地・農作物や人家・施設を飛砂、強風・潮風、海霧、高潮・高波や津
波の被害から保護することを目的につくられました。また、様々な被
害を軽減する以外に、魚つき、航行目標の役割や景観保持、保健休養・
レクリエーションの場や生物多様性の場として貢献しています。
日本の海岸林の分布
3
2
岩手県・宮城県の海岸砂丘地の植物
2-1
自然状態の砂丘地の植生
砂浜の環境は潮の満ち引き、潮風、飛砂などにより、汀線から内陸
へ向かって変化し、植物の様子も、その環境に応じて変化します。
自然状態では海岸の波打ち際から一定の範囲は、まったく植物の無
い砂浜があります。
その内陸側で飛砂等が安定してくると、ハマヒルガオやコウボウム
ギなどの海浜植物の砂草類が一つの集団をつくります。
ついで、チガヤやハマゴウが生育する安定した砂浜の内陸側ではマ
サキ、トベラ、シャリンバイ、ハマヒサカキなどの背丈の低い低木群
が出現します。
2-2
つくられたクロマツ海岸林と広葉樹の侵入
岩手県・宮城県の砂丘地には、人の手によってつくられたクロマツ・
アカマツ海岸林があります(津波で大半が被災しました)。これらの海
岸林も、海岸線側は低木林で内陸にいくほど高木林となっています。
砂丘地にクロマツ海岸林が成林し、土壌や気象環境が改善されると
クロマツ林内や内陸側の比較的環境のよい場所に、広葉樹が徐々に出
現するようになります。東北地方では、カシワ、イタヤカエデ、ケヤ
キ、コナラなどの落葉広葉樹が出現しています。
これらの樹木が出現する順位は、潮風や乾燥、そして養分の乏しい
土壌環境に対する適応能力の差を表しているとともに、環境に応じて
棲み分けしている姿と捉えることもできます。
4
ひとこと《スナガニとハマボウフウ》
夏の浜辺でスナガニを追いかけて遊んだ経験をお持ちの方も
多いことでしょう。砂浜に巣穴を掘って生活するスナガニは警戒
心が強く、人の気配を感じると素早く穴に逃げ込みます。
東北以南の砂浜に生息するスナガニは、砂浜の浸食や護岸工事
の影響で次第に生活の場を奪われ、その数も減少しています。
ハマボウフウという海浜植物は、濃い緑の葉と夏に咲く白い小
花、深く伸びる根に特徴があり、日本のどこの海岸にも生育して
いたセリ科の多年草です。5月の浜辺で新芽を摘む風景は地域の
風物詩にもなっていましたが、宮城県では乱獲が原因でその数が
激減しています。海浜植物にはその他にハマニンニク、コウボウ
ムギ、ハマヒルガオ、ハマニガナなど、たくさんの種類がありま
すが、それらは“砂草”と呼ばれ、砂浜に深く根を伸ばして砂の
飛散を防ぐはたらきをしています。
スナガニやハマボウフウは、宮城県では絶滅危惧種の一つに挙
げられています。わたしたちが手を差し伸べてやらないと種が途
絶えてしまう浜辺の生物についても考えてみましょう。
スナガニ
ハマボウフウ
5
ふうしょうけい
ひとこと《海岸林の 風 衝 形 》
砂浜の環境は、特に潮風が強いのが大きな特徴です。そのために
海岸近くの強風地帯では、海岸林の横断面が独特の形状をもつ樹林
になります。それが「風衝形」と呼ばれるものです。
樹木が新芽を出して成長しようとしても、風の影響で真直ぐ上に
伸びることが出来ず、陸側へ枝葉を広げながら成長していくため、
海岸線に近いほど樹高は低く、内陸に行くにつれ徐々に樹高を高め
てゆく形状です。更に強風地帯では、樹幹自身も内陸側へ傾いた樹
形になります。このように汀線から内陸へ向かって変化する風環境
は樹木の生育にとって非常に大きな影響を及ぼします。
海岸林の風衝形
6
3
海岸砂丘地の植栽の基本
3-1
厳しい気象条件への対応
潮風、季節風等の厳しい気象条件に対応するためには、これまでの
先人の経験を参考にすることが大切です。
植栽予定地は、風を遮るための柵(防風柵)や砂の移動を防ぐため
の垣根(静砂垣)が整然と並んでいます。
この他に、人工砂丘、飛砂を抑えるための砂草植栽、静砂木植栽や
チップや藁を敷く覆砂工など、樹木を植栽する前に砂丘地の環境を緩
和するため、多くの作業が伴います。
これらの施設・作業は、これから植えようとする小さなクロマツ苗
などを潮風や飛砂から守るためのものです。
防風柵と静砂垣
7
3-2
て き ち て き ぼく
適地適 木
山地や海岸砂丘地の樹木植栽は、農業と異なり、植栽地の条件を大
きく改善することが難しいため、それぞれの植栽地の自然条件に合っ
た樹種を選んで植栽することが重要です。このことを適地適木といい
ます。
植栽樹種を選択する場合は、その土地の環境に適応力のある樹種を
選ぶ適地適木の考え方が大切です。
―
海岸林の樹種
―
(1)クロマツ
クロマツの根は菌根菌と呼ばれる菌類と共生していて、痩せ地で
も元気に育つことができ
ます。また、クロマツは他
の樹種に比べ潮風や痩せ
地に非常に強く、しかも樹
高成長に優れており、砂丘
地に最も適する樹種です。
先 人たちの長年の経験
により、現在の海岸林のほ
とんどはクロマツが植栽
岩手県の海岸マツ林
されています。
クロマツはマツ材線虫病に弱いため、クロマツを植栽することが
一時危惧されましたが、マツ材線虫病に対し抵抗性をもつ苗が生産
されるようになり、松枯れが再び猛威を振るう可能性は低くなって
います。
8
ひとこと《抵抗性マツの薬剤防除は必要ないのか》
マツ材線虫病に強い抵抗性マツの育成には時間と手間が必要です。
先ず、激害地に生き残っていたマツから、若芽、種子を採取し育
てたつぎ木苗、実生苗にマツノザイセンチュウを人工接種します。
これを 2 回繰り返し、生き残った苗木を生育させ、その種子から実生
苗を育成し、抵抗性マツとして流通させています。一部の県では、
抵抗性マツ苗に、さらに人工接種し、枯れない苗だけを出荷してい
ます。
流通している抵抗性マツの抵抗性にはばらつきもあり、「枯れない
マツ」ではなく「枯れにくいマツ」になります。現地での植栽試験で
は、クロマツの樹齢が 17 年生時点で 70%が生存していたとの結果が
報告されています。
このように抵抗性マツ苗は枯れにくいマツですが、抵抗性マツ苗の
植栽地でも適度な薬剤防除は必要です。
(2)広葉樹
マツ材線虫病が猛威を振るっていたことから、マツ一辺倒だけで
は防災機能を維持することができなくなる心配があり、クロマツに
加えて広葉樹も一緒に植えようという考え方が出てきました。
広葉樹を植えようとするもう一つの理由は、海辺の生き物の生息
場所や移動・交流の場として、生態系の維持に重要な役割を果たす
ものと考えられています。
しかし、将来大きくなるような広葉樹の多くは、海岸線に近い砂
浜のように乾燥し、養分が非常に少ない場所ではうまく育つことが
できません。ただし、環境が緩和、改善された内陸部へいくにつれ
クロマツ林内やクロマツ林の背後に自然に侵入しています。
9
広葉樹の植栽樹種として現在有力視されているのは、カシワ、イ
タヤカエデ、コナラ、クリ、ミズナラ、オオヤマザクラ、ケヤキな
どの落葉広葉樹であり、植栽試験などが行われています。
一方、岩手県、宮城県の砂丘地は、タブノキなどの常緑広葉樹に
とっては厳しい環境下にあります。落葉広葉樹の侵入場所よりさら
に内陸側で、環境が良好な場所では常緑広葉樹の植栽も検討されて
います。
カシワ
イタヤカエデ
コナラ
ミズナラ
ケヤキ
タブノキ
海岸地帯に生育する広葉樹
10
3-3
過湿砂丘地の樹木根系と盛土
樹木の根系は樹齢とともに本来の性質により垂直・水平方向に発達し
ます。クロマツは垂下根(垂直根)を最も深部まで発達させる性質をも
った樹種です。しかし、海岸砂丘地には相当程度の過湿地が存在し、そ
こでは、地下水位の影響により本来の垂下根は枯損し、やむをえず水平
方向に多くの根を発達させています。
津波被災地は、過湿地が多く、根系が垂直方向に発達しなかったこと
に加え、地震による地盤沈下、液状化により、クロマツの根返り、流失
の被害が助長されたと推測されています。岩手県の調査では同じ被災地
内でも海抜高数m以上の場所で、胸高直径が 35cm 以上のクロマツの大
木は津波の力に抵抗し、流失を免れ残存している事例が多く観察されま
した。
高齢・高木の海岸林として育てて行くには、植栽地の地盤高として、
海抜数m以上の高さにすることが必要です。
11
ひとこと《過湿地の樹木根系は浅くなる》
2011.3.11 の大津波被害の際、過湿地のクロマツは根返りをし
て、内陸側に多数流失しました。流失したクロマツの根系は深さ
方向に 70~90cm前後しかありませんでした。本来、クロマツは
深く根を伸ばしますが、湿地帯では地下水の影響のため、伸びた
垂下根も枯死し、水平に伸ばします。
下の図は過湿でない場所(非過湿型)と地下水位の高い過湿地(過
湿型)の樹齢約 20 年生のクロマツの根系を比較したものです。
過湿地で根が浅いのは広葉樹も同じで、根は地下水位の上部まで
しか伸びません。一般に過湿地の樹木は、強風や津波に対し、根
返りしやすい形状になります。
乾燥した砂丘地のクロマツの根は樹齢 50 年生で垂直方向に 3m
近くまで発達する場合もあります。盛土を海抜高数m以上として
植栽基盤を造成すれば、クロマツ、広葉樹を問わず、樹木は本来
の深さまで根を伸ばすことができます。
クロマツの非過湿型と過湿型の根系
12
4
海岸林植栽の手順
砂丘地の植栽は山地の植栽と比較して、自然条件が厳しいので、苗木
を植える前に、海からの強風を緩和する防風工や砂の移動を抑える静砂
工などの工事を行います。これらの工事を終えると苗木の植栽になりま
す。
植栽時期は、春植えと秋植えの2回ありますが、海岸砂丘植栽では季
節風の強く、寒い時期を避けることもあり、春植えが一般的です。
ひとこと《身支度と持ち物(自分でそろえましょう)》
ヘルメット、季節に合わせた長袖、長ズボン、軍手を用意しま
しょう。その他、移植コテ、手ぬぐい、長靴・作業靴、ザック(リ
ュック・デイバック・バックバック)、飲み物、雨具、救急セット
(とげぬき、消毒薬・消毒絆創膏、虫よけスプレー等)、さらに風
が強いのでマスク、防塵ゴーグルなどがあると便利です。
4-1
クロマツの植え方
砂丘地のクロマツの植栽は、厳しい環境に植栽されるので、しっか
りと丁寧に植えるよう心がけましょう。
(1)植え穴掘りと大きさ
スコップやクワで砂地表面を覆う雑草、石、枯れ葉などを取り除きま
す。掘り上げた砂は植え穴の周りにまとめて置き、石やガレキなどが出
てきたら埋め戻しには使えないので、掘り上げた砂とは別の場所にまと
めて置きます。
13
植え穴の大きさは、縦・横・深さと
もに30cmが目安ですが、苗木の大きさに
より調整します。ポット苗の植え穴はポ
ットが入る大きさがあればよく、コンテ
ナ苗の植え穴は、通常細長い根の大きさ
に合わせた専用の道具を用いて掘りま
す。
(2)基肥(もとごえ、きひ)
植え穴掘りが終わったら、基肥を入れます。指示された数量(宮城県
の場合、苗木1本当たり500gのバーク堆肥が標準)を計測して植え穴に
入れ、スコップでかき混ぜながら穴底になじませます。この時、中央部
が少し盛り上がるような形にすると良いでしょう。そして、基肥が完全
に見えなくなるくらいまで砂土で埋め戻します。底に埋め戻しの砂土の
高さは、根がなじむように、中央部を7~15cm程度に盛り上げます。
(3)苗木の植栽
①
植え付け本数は、林帯幅の広い場合は内陸部にいくにつれ本数を
減少させます。1ha当たり5,000~10,000本が標準的ですが、1ha
当たり2,500本植栽の場合もあります。苗木の間隔にするとおよそ
1.0~2.0mになります。
②
海岸砂丘地の土壌の養分条件が極めて悪い地点では、肥料木(ハ
ンノキ類やアキグミなど)を植栽木と一緒に植える場合がありま
す。肥料木は空中窒素を固定し、養分の少ない土壌を良好にして
植栽木の成長を助けます。
14
③
植え穴の底に土をお椀状に高さ7~15 ㎝の高さに盛上げま
す。盛上げた土に一番太い根(直根)を少し差し込み、そのま
わりにひげ(髭)根をていねいに四方に広げてから土をかぶせ
ます。ポット苗は、ポットをはずし、苗木の根をほぐして伸ば
してください。
④
中央部の底の埋め戻した砂土の上に根を広げた状態で苗木を
置き(片手で支えながら)、もう一方の片手で苗木が倒れなくな
るまで埋め戻します。苗木がきちんと根付くように、苗木をソ
フトに持って少し揺さぶりながら周囲の土を根の間に入れる
ようにしてかけ、かるく引っ張っても抜けない程度に踏みます。
⑤
根と土の間に空間ができると、苗木が強い風で揺れたり倒れ
たりして根付かない危険性があります。植え穴を七分程度埋め
戻したら、苗木を持って 1 度軽く両足で踏みつけます。
踏みつけの強さは、体重をかける程度を目安にします。さらに
その上にかき上げた土を盛り、踏みつけます。埋め戻しでは枯
れ葉やガレキなどが入らないように気をつけます。
⑥
苗木は深く植えないようにし、土の埋め戻しは、幹と根の境目
位を目安にします。ポット苗であれば埋め戻しの土は根鉢の上面
くらいにします。
植え付けの断面図
苗木を軽く引っ張りながら踏む
15
ひとこと《悪い植え方》
植栽が成功しない原因としては強い潮風による苗木の揺れ、飛砂害
や潮風害、乾燥害、高温等があります。しかし、不適切な植え方が原
因で、枯死することもあります。下図は3つの悪い事例です。
①
②
③
① 植え穴が小さすぎて根が巻いて上にあがっています。根に対して
十分な穴の大きさを準備し、根を伸ばして植えます。
② 土を埋めもどす時に、落葉、草の根やガレキが混入すると、苗木
の根と土が十分になじまない状態になり、乾燥しやすくなりま
④
す。落葉、草の根やガレキは出来るだけ取り除くようにします
⑤
③ 斜めに植わっています。両足で踏みつける際に苗木をつかんで、
⑥
持ち上げるようにするとまっすぐに植わります。
(4)支柱
苗畑での 1 回床替え 2 年生、2 回床替え 3 年生の小さい苗木の場合、
樹高は 20~30cm です。通常、苗木を支えるための支柱は必要ありませ
ん。まれに樹高 50cm 以上の大きい苗を植える場合があります。大苗は、
支柱を打ち込み、シュロ縄などで支柱と大苗を結びつけます。きつ過
ぎると成長に伴い縄が幹に食い込んだり、折れたりします。
支柱は風による根の部分の振りまわし(動揺)や乾燥を防ぐためな
ので、風の強い地域では必要です。大苗の根が活着し、自立をしたら
取り外します。
16
(5)植え付け後の肥料
踏みつけが済んだら肥料を施します。化成肥料は固形と粒状の 2 種
類があり、固形肥料では根元から 20~30cm 離した場所に円形均等にな
るように 1 個ずつ埋めます。粒状では 50~150g 程度の量を根元から 20
~30cm 離した周囲に輪状に埋めます。
しき わら
(6)植え終わった後の敷 藁 、チップ
砂丘地では砂の移動を防ぐこと、水分の蒸発を防ぐこと、地温の上
昇・低下を防ぐために、藁、チップで覆います。現場技術者の指示があ
ると思いますが、藁を敷く量は植栽木の周囲に300g/本程度です。植栽
地全面に施す場合は6,000~10,000kg/ha(ヘクタール)を基準とします。
ひとこと《コンテナ苗の利点》
苗木は、苗畑で育ったものを掘り取る「裸苗・ふるい苗」、とポ
ットで育てる「ポット苗」が使用されてきました。
最近注目を集めている苗木が、通称「コンテナ苗」です。コンテ
ナとは、樹脂製の個々の栽培容器が一体成形されたものです。
コンテナ苗は裸苗、ポット苗に比べ作業効率、活着率、初期成長、
植栽時期を選ばない点で優れているので、被災地の苗木として期待
されています。
コンテナ苗
コンテナ苗(奥)と裸苗(手前)の形状
17
4-2
広葉樹の植え方
植栽の準備作業から植え穴掘り、植え付け、埋め戻しなどの基本作
業はクロマツ植栽と変わりないので、同じように行います。
ここでは広葉樹植栽の特徴的な部分や留意点を中心に植栽の仕方を
説明します。
広葉樹の植栽
①
広葉樹の苗木のサイズは、クロマツの苗長およそ 20~30cm
に対して、苗長 30~100cm サイズのものが多く用いられていま
す。そのため広葉樹の植え穴は苗木のサイズ 100cm の場合では
縦・横・深さともに約 40cm を目安とします。広葉樹の大きい苗
木を使用する場合には、支柱が必要になります。苗木の大きさ
は通常 100cm サイズ以下なので1本タイプの支柱を使用します。
18
②
植え穴掘りが終わったら、基肥(もとごえ)を入れます。基
肥を砂で埋め戻した後、苗木の根を良く広げて植え付け、さら
にその上に砂を被せていきます。
③
広葉樹ではさらに客土を入れる場合があります。客土とは養
分に富み、水分を多く保つことのできる土壌のことをいいます。
土壌に養分が少なく、植栽が困難な場合に植栽地に導入されま
す。1本当たり 0.03m3 の客土を標準としています。客土は、広
葉樹の苗木の活着や成長などを促進する効果があります。
客土だけでは植え穴が満たされないことがあります。この場
合には一端埋め戻し用の砂を入れて植え穴を満たし、砂と客土
を攪拌してから再度植え付けに適した深さまで掘り下げ、改め
て植栽し直すようにします。
④
広葉樹は、数種類を組み合わせて植栽するのが一般的です。
例えば、環境の良い場所に海側から1列目はケヤキ、2列目は
オオヤマザクラ、3列目はコナラなどのケースです。開葉前(落
葉した)の広葉樹は見分けが難しいので、樹種を間違わないよ
う目印をしておきます。
海岸砂丘地への広葉樹植栽の経験は、クロマツ植栽と比べて非常に
浅く、植栽技術は十分に確立されているとはいえません。また、地域
によって植栽に適する樹種に違いがあり、用いる資材等が異なる場合
があります。したがって、現地で不明な点は自己判断にまかせず、植
樹担当者に指導を仰ぐようにしましょう。
19
ひとこと《広葉樹種の配置区分》
広葉樹の植栽では、基本的には耐性や成長などの特性を活かすこ
とに加え、クロマツと一帯となってより優れた機能を発揮させてい
くような配置が大切となります。
まず、A の部分は、砂丘環境に強いトベラやマサキ、カシワなどを
配置することで、クロマツ林帯の裾を守るとともに、砂浜の生き物
の保全にも役立ちます。
次に B の部分は、クロマツの成長に伴ってクロマツの下枝が枯れ
上がり、津波が来た場合には津波が通過しやすくなります。そこで、
やや暗い所でも育つエゾイタヤやシロダモなどをクロマツの下に植
え、2層構造の森林にすることによって津波に対する減災機能を高
めることに貢献します。
最後に C の部分ですが、海岸域では環境が最も良い場所となりま
す。ここでは長寿命で大木となるケヤキ、コナラやタブノキなどを
育てることによって直接人家などを保全するとともに、散策やレク
リエーションなど健康や憩いの場としての活用も期待されます。
A
C
B
砂丘環境に対する耐性と機能を考慮した広葉樹の配置
(原図は林野庁ホームページより引用)
20
発
行:2013 年 7 月 12 日
企画編集:一般社団法人森林保全・管理技術研究所
住
所:東京都千代田区六番町 7 番地
日林協会館 4 階
電話番号:03-5212-8148
執筆者(五十音順)
大橋信彦
ゆりりん愛護会(名取市閖上)会長
金子智紀
秋田県農林水産技術センター環境経営部長
河合英二
森林保全・管理技術研究所主任研究員
小堤
宮城県森林整備課技術副参事
裕
吉崎真司
東京都市大学環境学部長
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