...

周術期における止血・凝固系モニタリング

by user

on
Category: Documents
44

views

Report

Comments

Transcript

周術期における止血・凝固系モニタリング
シンポジウムⅡ 15:20 ~ 17:00 第一会場(横浜シンポジア)
周 術 期における止 血・凝 固 系モニタリング
司会:稲田 英一(順天堂大学麻酔科学・ペインクリニック講座)
SⅡ-1 ROTEM によって変化した欧米の止血凝固管理
香取 信之
慶應義塾大学医学部麻酔学教室
周術期は凝固線溶系が最もダイナミックに変化する機会の一つである。外科的侵襲は凝固系の活性化から
血小板や凝固因子の消費を生じ、全身性炎症反応の亢進は白血球表面の組織因子発現による凝固亢進や
血管内皮細胞からのt-PAの分泌亢進など、凝固・線溶系に大きく影響する。周術期はこのような変化に外科
的な出血も加わるため出血の原因鑑別が困難となる。
また、
これらの変化は互いに影響しあい、時間経過とと
もに悪循環に陥るため、速やかな診断が必要となる。一般に検査室で施行する凝固線溶関連検査としてPT、
APTT、血小板数、
フィブリノゲン濃度、FDP、D-dimerなどが挙げられるが、PTやAPTTは血漿成分を用いた検
査であり、必ずしも生体内の血液凝固状態を反映しない。
また、検査室での凝固検査は結果が得られるまでに
時間がかかることが多く、刻一刻と変化する患者の状態に追いつくことが難しい。
したがって、周術期のように凝
固線溶系がダイナミックに変化する状況では、結果が早く得られるモニターが有用である。
また、患者の体の中で
起こっている変化をとらえるには血漿成分検査ではなく、全血を用いて血小板と凝固因子の相互作用による血
液凝固能を評価できる機器が望ましい。血液弾性粘調度の変化を測定するトロボエラストメトリー
(ROTEM®)
は、一般凝固検査が凝固線溶過程を点で評価するのに対し、凝固から線溶までの一連の経時的変化を測定で
きるため、
いわゆる凝固能でなく止血能をより的確に評価可能である。血液弾性粘調度変化測定を取り入れた
輸血療法アルゴリズムによって輸血量の減少が可能であるとの報告は多く、周術期は積極的な凝固モニタリン
グを行って、系統的な輸血療法を行うことが求められる。
SⅡ-2 危機的出血・大量出血を起こした救急患者における血液凝固・モニタリング救急現場の
止血・凝固モニタリングでは何が求められているか
齋藤 伸行
日本医科大学千葉北総病院救命救急センター
【背景】近年、戦場の輸血療法の進歩が、市中外傷へも応用されるようになり成績向上に寄与している。特に、
事前に取り決めた輸血製剤数を簡略化して依頼し使用する大量輸血プロトコール(以下、MTP)と外傷早期
の凝固障害に対する積極的な血漿輸血の有効性が相次いで報告されている。
これらの輸血療法と止血前
の低血圧容認、体温管理を組み合わせた包括的な外傷蘇生法としてDamage control resuscitation(以下
DCR)が提案されている。当センターでは2008年9月からDCR戦略を採用し、MTPにより輸血製剤を一定の
割合(RCC:FFP:PC=1:1:1)で依頼・投与している。
このMTPの問題点には、個々の患者ごとに合わせた血液
製剤量を決定しないため、不適切な血液製剤使用となる可能性があることが挙げられる。
これはリアルタイムに
coagulopathyを評価するための凝固検査が未確立であることに起因する。
【目的】重症外傷患者において通
常の凝固検査および臨床因子によりcoagulopathy発生が予測可能かどうか判断すること。
【対象・方法】2008
年9月から2010年9月までに当センターで治療した重症外傷患者94例を対象とした(輸血+人工呼吸実施)。
CoagulopathyはICU入室後赤血球輸血10単位以上使用もしくは再止血術が必要となった場合と定義した。
Coagulopathy発症の有無により2群(Coagulopathy有:C群28例、無:non-C群66例)
に分け比較検討を行った。
【結果】全対象患者の年齢、ISSの中央値はそれぞれ51歳、31であった。C群ではnon-C群と比較してダメー
ジコントロール手術(以下、DCS)実施の割合が高く、
すべての輸血製剤の使用量が多かった。多変量解析に
よって明らかとなったCoagulopathy発症との独立した関連因子には、DCS実施(OR 8.55、95%CI 1.8-39.6、
P<0.001)、来院時平均血圧<50mmHg(OR 6.3、95%CI 1.4-89.9、P=0.016)、来院時PT%<70(OR 5.7、
95%CI 1.4-23.5、P=0.015)
が挙げられた。ICU入室時の凝固検査は独立した因子とはならなかった。
【結語】
来院時のショック状態と凝固検査異常を呈した患者では、DCSを実施せざるを得ず、ICU入室後も大量輸血が
必要となることが明らかとなった。
しかし、重症外傷患者のCoagulopathy発症の予測には従来の凝固検査では
不十分であり、進行する出血に対応できるようリアルタイムに測定可能な凝固検査が必要である。
SⅡ-3 産科危機的出血時の凝固機能管理
角倉 弘行
国立成育医療研究センター産科麻酔科
周産期管理の進歩により母体死亡率は著明に低下したものの、出血は依然、母体死亡の主要な原因であ
る。2010年に日本産科婦人科学会、日本麻酔科学会を含む関連5学会は、
より安全な周産期管理の実現を目
的に、産科危機的出血に対する対応ガイドラインを発表した。
このガイドラインでは産科危機的出血の特徴を考
慮し、
赤血球製剤だけではなく新鮮凍結血漿を投与すること、
さらに血小板濃厚液、
アルブミン、
抗DIC 製剤など
も躊躇せずに投与することが推奨されているが、具体的な投与基準は示されていない。
産科危機的出血における凝固機能管理および輸血、輸液管理の要諦は、刻々と変化する患者の状態に合
わせて適時、適切に対応することであるが、現在、一般的に指標とされている凝固機能検査(PT、aPTTなど)
は
迅速性に欠け、
また必ずしも生体内での止血能を反映していないなどの欠点がある。
また消費性凝固障害や希
釈性凝固障害から産科DICへのカスケードの進展を阻止するためにはフィブリノゲンの補充の重要性が認識さ
れているが、
フィブリノゲン測定にも時間を要するのが現状である。
このような状況で対応が後手に回らないようにするためにはフィブリノゲンや場合によっては活性型第VII因
子製剤などの凝固因子を早期から補充することが必要であるが、FFPの過剰投与は肺水腫のリスクを、活性型
第VII因子製剤の過剰投与は血栓症のリスクを増加させるので、適時適切な対応を可能とする凝固系のモニ
ターが必要とされている。
シンポジウムでは、産科危機的出血の凝固管理に利用可能なモニターについて整理し、
その有効な活用法
について検討したい。
SⅡ-4 心臓血管外科領域における凝固モニタリング
池崎 弘之
大和成和病院
心臓血管外科領域の周術期凝固管理の特徴を考えてみたい。心臓血管外科手術では手術患者が術前か
ら抗凝固療法を受けている症例が少なくなく、
これらの症例ではワルファリン、抗血小板剤、
もしくはヘパリンが
投与されている。
またほとんどの心臓血管外科の手術では術中にヘパリンが使用され、
そして術後にはワルファ
リンが新たにもしくは再投与され、
ヘパリンが併用される症例が多い。
すなわち心臓血管外科患者は常に血液
凝固状態をモニターされる状態にあるといっても過言ではない。
さて心臓血管外科患者では周術期の目標と
する凝固状態は各時期において相違がある。術前、術後には脳、心臓、血管血栓イベントが起きぬよう管理され
る。術中、特に人工心肺中には一切の血液凝固がないように管理され、
これに対して術中、人工心肺直後には
血液が凝固するように管理される。
そして出血がなくなったら、術後数日間は過凝固にならぬように管理される
のである。
このように繊細な凝固管理を行うためのモニター、検査としては次のようなものが一般的であると考え
る。
ワルファリンにはPT-INR(プロトロンビン時間 国際標準比)、TT(トロンボテスト)、
ヘパリンにはACT(活性化
凝固時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
などである。
さらに近年では血小板機能モニターや凝
固能モニターも使用されつつありその管理はより綿密になりつつあろうが、
その一方でベッドサイドでのモニター
のできない低分子ヘパリンや、
また抗血小板薬も多岐にわたって使用されており、
そのモニターの利便性も限界
が存在する。
シンポジウムでは心臓血管外科周術期に行われる凝固モニターにつき自験例を交えて問題点な
どについてもディスカッションしたい。
Fly UP