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要 旨 集 - 日本生化学会 東北支部

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要 旨 集 - 日本生化学会 東北支部
日本生化学会東北支部
第80回例会・シンポジウム
要
旨
集
会期:平成 26 年 5 月 10 日(土)
会場:アキタパークホテル
(秋田市山王 4 丁目 5 番 10 号)
主催:日本生化学会
日本生化学会東北支部
第 80 回例会・シンポジウム
会期:平成 26 年 5 月 10 日(土)
会場:アキタパークホテル
(秋田市山王 4 丁目 5 番 10 号)
◯
受付開始:8:15~
◯ 一般演題を口演される方へ
1)口演 30 分前までに受付を済ませて下さい。
2)一般口演時間は 12 分、討論時間は 3 分です。時間の厳守をお願いします。
3) 口頭発表は Adobe Reader(最新版)と Windows PC を用いて行います。発表フ
ァイルは PDF 形式で USB メモリーに保存してご持参ください。文字化け等の
防止のため PowerPoint 形式および Keynote 形式のファイルでは受付できま
せんのでご留意ください。ファイルの映写用 PC へのコピー及び試写に関し
ましては、午前の部は原則 8:50 までに、午後の部は 12:50 までにお済ま
せ下さい。不都合がある場合は事務局にお問い合わせ下さい。
◯ ポスター発表をされる方へ
1)ポスターボードの寸法は、幅 850 mm、高さ 1150 mm です。
2)ポスターは、発表日の朝に掲示して下さい(8:15~)。
3)ポスターの討論時間は、11:00~12:00 です。
4)ポスターは、14:00 までに撤去して下さい。
◯
評議員会(12:00~13:00:アキタパークホテル 2 階パールルーム)
◯
懇親会 18:30~
場所:アキタパークホテル 2 階ゴールデンルーム
懇親会参加費:一般(4,000 円)、大学院生・学生(無料)
1
プログラム
8:50-9:00 開会の辞
9:00-10:00
一般口演(O-1~O-4)
座長:後藤 猛(秋田大院・工学資源)
O-1)
生体の低酸素病態をイメージングするプローブの開発:高輝度改良体 BTPDM の検証
○寺田幹1、吉原利忠2、飛田成史2、穂坂正博1
(1秋田県大・生物資源科学、2群馬大院・理工)
O-2)内分泌細胞の分泌顆粒に局在するセクレトグラニン III の役割
○前田佳紀1、暮地本宙己2、渡部剛2、穂坂正博1
(1秋田県大・生物資源科学、2旭川医大・解剖)
O-3)
ハタハタ精巣型乳酸脱水素酵素の活性温度依存性
○菅原琴美1、中川瑞希2、米澤美香2、涌井秀樹2、布村渉 2,3
(1秋田大・工学資源・生命化学、2秋田大院・工学資源・生命科学、3秋田大院・環資研)
O-4)
リポタンパク質プロファイル評価による新規脂質異常症改善薬評価系の構築
○畠恵司1、岩間由香2、木村文子2、中川志穂2、三浦瑞穂2、戸嶋彦2、高橋純一郎2
(1秋田県総食研、2(株)スカイライト・バイオテック)
10:00-11:00
一般口演(O-5~O-8)
座長:小林正之(秋田県大・生物資源科学)
O-5)
昆虫細胞発現系を用いたヒトアンギオテンシン変換酵素2の生産
○宮脇舞1、高栖智明2、横田早希1、韮澤悟3、高橋砂織4、後藤猛1
(1秋田大院・工学資源、2秋田大・工学資源、3国際農研、4秋田県総食研)
O-6)
原核微生物由来 D-アスパラギン酸エンドペプチダーゼ paenidase(パエニダーゼ)
ホモローグの構造と活性
○韮澤悟1、高橋砂織2
(1国際農研、2秋田県総食研)
O-7)
弘前ヘアレスラット脾臓での濾胞性ヘルパーT 細胞の分化異常と胸腺内 CD4+CD8+
細胞でのレチノイン酸結合タンパク質遺伝子および受容体遺伝子の発現異常
2
○山田俊幸1、七島直樹 1,2、清水武史1、土田成紀1
(1弘前大院・医・ゲノム生化学、2弘前大院・保健・生体機能)
O-8)
Ppp6c 遺伝子欠損は、マウス皮膚腫瘍形成を促進する
林克剛 1,2、小河穂波3、岸本綾子3、加藤浩之 1,2、田沼延公 1,2、渡邊利雄3、○島礼 1,2
(1宮城県がんセ・研・がん薬物療法、2東北大院・医・がん分子制御、3奈良女子大院・人
間文化)
11:00-12:00 ポスターセッション
P-1)
内在性トランスポゾンによる麹菌変異株の麹酵素活性と味噌醸造適性
○小笠原博信1、渡辺隆幸1、佐藤勉2、今野宏2、高橋砂織1、五味勝也3
(1秋田県総食研、2秋田今野商店、3東北大院・農・生物産業創成)
P-2)
Adh3 と Nrf2 による GSH 依存的な協調作用
○後藤まき 1,2,5、北村大志1、澤智裕3、赤池孝章3、長谷場健4、秋元敏雄4、山本照子2、
山本雅之5、本橋ほづみ1
(1東北大・加齢研・遺伝子発現制御、2東北大院・歯・顎口腔矯正、3東北大院・医・環境
保健医学、4日本医大・医・法医、5東北大院・医・医化学)
P-3)
肝毒性物質に応答した肝保護にはたらく Nrf2 の役割
○田口恵子1,2、本橋ほづみ1、山本雅之2
(1東北大・加齢研・遺伝子発現制御、2東北大院・医・医化学)
P-4)
ヒト IL-6 遺伝子 BAC(大腸菌人工染色体)レポーターマウスを用いた in vivo
イメージングによる炎症状態モニターリングシステムの開発
高井淳1、○林真貴子1、于磊1、本橋ほづみ2、森口尚1、山本雅之1
(1東北大院・医・医化学、2東北大・加齢研・遺伝子発現制御)
P-5)
酵母ユビキチンリガーゼ Rsp5 変異株のストレス感受性を利用した2種の
スクリーニング系の比較
○渡部涼1、上杉祥太2、渡辺大輔3、川村悠実1、高木博史3、木村賢一1
(1岩手大院・農、2岩手大院・連合農、3奈良先端大・バイオ)
P-6)
Doxorubicin 耐性 K562 細胞を用いたグアニンヌクレオチド交換タンパク質(guanine
nucleotide-exchange protein; GEP)の P-糖タンパク質発現における役割の検討
3
○蓬田伸1、染谷明正2、菅野秀一1、冨澤亜也子1、長岡功2、石川正明1
(1東北薬大・薬物治療、2順天堂大院・医・生化・生体防御)
P-7)
インテグリンα2β1のノックダウンによる気道ムチン MUC5AC 産生への影響
○伊藤佑歩1、岩下淳1、木村大地2、村田純1
(1秋田県大院・生物資源科学、2秋田県大・生物資源科学・応用生物)
P-8)
マウス ES 細胞の分化過程において出現するホメオティック遺伝子 Egam1C の発現細
胞系列を特定する
斎藤耕一、○野中愛純、佐藤梓織、佐藤由貴、菊地貴裕、小林正之
(秋田県大院・生物資源科学)
P-9)
マウス EGAM1 ホメオタンパク質群をコードする遺伝子のプロモーター解析
斎藤耕一、○菊地貴裕、福島淳、佐藤梓織、佐藤由貴、野中愛純、小林正之
(秋田県大院・生物資源科学)
P-10)
新規鉄酸化細菌のゲノム構造と代謝様式
○福島淳、東條ふゆみ、小林弥生、浅野亮樹、志村洋一郎、岡野邦宏、宮田直幸
(秋田県大・生物資源科学)
P-11)
Treponemadenticola メチオニンγ-リアーゼの酵素活性測定と結晶化の検討
○佐藤裕也、毛塚雄一郎、野中孝昌
(岩手医大・薬・構造生物)
P-12)
HeLa 融合細胞(CGL1 及び CGL4)からのエクソソーム分泌の検討
○澤田栞、奈良場博昭、佐京智子、川口未央、北川隆之
(岩手医大・薬・細胞病態生物学)
P-13)
ラットザイモサン胸膜炎モデルにおけるエクソソームの検出
○鈴木隆宏、大坊拓、柴田健太郎、奈良場博昭、佐京智子、川口未央、北川隆之
(岩手医大・薬・細胞病態生物学)
P-14)
Caco-2 細胞における GSK-3 阻害剤の GLUT3 発現抑制と細胞増殖制御
○三浦佳奈子、佐々木かな恵、佐京智子、川口未央、奈良場博昭、北川隆之
(岩手医大・薬・細胞病態生物学)
4
P-15)
メタボリックシンドロームモデルラットの特性解析と DNA メチル化解析のための
腎糸球体内皮細胞の分取
○小泉友輝、三浦陽香里、川崎靖、千葉侑希、米澤正、杉山晶規、名取泰博
(岩手医大・薬・衛生化学)
P-16)
腎がん治療薬によるオートファジー誘導と細胞膜タンパク質 CRIM-1 の発現変化
○田沼孝仁1、秋浜沙織1、杉山晶規1、菊池彩菜1、小笠原信敬1、川崎靖1、米澤正1、
宮城洋平2、名取泰博1
(1岩手医大・薬・衛生化学、2神奈川がんセ・臨床研・がん分子病態)
P-17)
細胞膜タンパク質 CRIM-1 の細胞内ドメイン結合因子の探索と機能解析
○菊池彩菜1、杉山晶規1、田沼孝仁1、秋浜沙織1、寺澤徹1、千葉まなみ1、島礼奈1、
北田正美1、柏崎郁美1、石田舞1、工藤有未1、川崎靖1、米澤正1、宮城洋平2、
高橋悟3、名取泰博1
(1岩手医大・薬・衛生化学、2神奈川がんセ・臨床研・がん分子病態、3武庫川女子大・薬・
免疫生物)
P-18) 小胞体ストレス誘導タンパク質 Herp のユビキチン非依存プロテアソーム分解
機構解析
○阿部ちひろ、鄒鶤、藤田融、劉俊俊、劉姝余、前田智司、駒野宏人
(岩手医大・薬・神経科学)
P-19)
小胞体ストレス誘導タンパク質 Herp の分解機構の解析
○七木田理乃、鄒鶤、藤田融、劉俊俊、劉姝余、前田智司、駒野宏人
(岩手医大・薬・神経科学)
P-20)
飢餓および加齢に伴う線虫腸細胞内膜構造の動的変動の観察
○上川原麻弥 1、鈴木成惇 1、錦織健児 1、丹治貴博 1、松浦絵里 2、小笠原勝利 2、
石田欣二 2、遠山稿二郎 2、白石博久 1、大橋綾子 1
(1 岩手医大・薬・生体防御学講座、2 岩手医大・医歯薬総合研・超微形態科学)
13:00-14:00
一般口演(O-9 ~ O-12)
座長:鈴木未来子(東北大院・医・RI)
O-9)
Keap1-Nrf2 システムは糖尿病発症を抑制する
○宇留野晃1、古澤裕樹 1,2、柳下陽子1、福富俊明1、山本雅之1
(1東北大院・医・医化学、2持田製薬(株)・創薬研)
5
O-10) Keap1-Nrf2 制御系の造血幹細胞における役割の解明
○村上昌平1、山本雅之2、本橋ほづみ1
(1東北大・加齢研・遺伝子発現制御、2東北大院・医・医化学)
O-11)
転写因子 Nrf2 の遺伝子発現量の重要性
○鈴木隆史1、柴田龍弘 2、高屋快1、本橋ほづみ3、山本雅之1
(1東北大院・医・医化学、2国立がん研究セ・がんゲノム、3東北大・加齢研・遺伝子発現
制御)
O-12)
転写因子 GATA2 の腎尿細管細胞での生理機能
Yu Lei、相馬友和、山本雅之、○森口尚
(東北大院・医・医化学)
14:00-15:00
一般口演(O-13~O-16)
座長:前田智司(岩手医大・薬・神経科学)
O-13)
凝固第 XIII 因子 B サブユニットとフィブリノゲンとの相互作用部位
○惣宇利正善、尾崎司、一瀬白帝
(山形大・医・分子病態)
O-14)
臓器の線維化における細胞外基質タンパク質の酸化的折畳み機構に関する研究
○倉橋敏裕1、西田隼 1,3、齋藤由香1、李在勇1、鍋島篤典2、山田壮亮2、冨田善彦3、
宮田哲4、高尾敏文5、藤井順逸1
(1山形大院・医・生化分子生物、2産業医大・第二病理、3山形大・医・腎泌尿器外科、4
大阪厚生年金病院・内科、5大阪大・蛋白研)
O-15)
ドパミン D2 受容体 long アイソフォームの細胞内活性化機構の解析
○塩田倫史、福永浩司
(東北大院・薬学・薬理学)
O-16)
ドパミン神経細胞において脂肪酸結合蛋白質 FABP3 はαシヌクレイン多量体形成を
促進する
○小野里美咲1、塩田倫史1、矢吹悌1、大和田祐二2、福永浩司1
(1東北大院・薬学・薬理学、2山口大院・医・器官解剖学)
6
15:00-15:15 休憩
15:15-15:45 日本生化学会東北支部奨励賞受賞講演
座長:山本雅之(東北大院・医・医化学)
多角的視点からの低分子二重特異性がん治療抗体の高機能化デザイン
浅野竜太郎(東北大院・工・バイオ工学)
15:45-16:15 日本生化学会東北支部優秀論文賞受賞講演
座長:山本雅之(東北大院・医・医化学)
胎児期におけるエリスロポエチン産生機構の解析
平野育生(東北大院・医・医化学)
16:15-18:15 シンポジウム「細胞内輸送機構とその破綻がもたらす病態」
特別講演(1)16:15-17:15
座長:岡野桂樹(秋田県立大・生物資源科学)
メンブレントラフィックスと共役する多様な細胞機能の調節
中山和久(京都大院・薬・生体情報)
特別講演(2)17:15-18:15
座長:穂坂正博(秋田県立大・生物資源科学)
イノシトールリン脂質代謝による生体調節
佐々木雄彦(秋田大院・医・微生物)
18:15~18:20 閉会の辞
18:30~
懇親会(アキタパークホテル2階ゴールデンルーム)
7
案 内
図
アキタパークホテルまでの交通手段
タクシー:秋田駅西口より7分
バ ス :秋田駅西口より「県庁経由」バス、バス停「県庁第2庁舎前」下車
徒歩5分
車
:秋田中央インターより 20 分
ホテル周辺のご案内
アキタパークホテル
連絡先:〒010-0951 秋田市山王 4 丁目 5 番 10 号
Tel: 018(862)1515 Fax: 018(865)1684
8
無料駐車場(100 台)
会 場 案 内
アキタパークホテル 2 階間取り図
プラチナルーム A
(世話人控え室)
記帳台
プラチナルーム B
ゴールデンルーム
(口頭発表)
(ポスター会場)
受付
パールルーム
(評議員会会場)
懇親会
エリア
9
10
特別講演(1)
メンブレントラフィックと共役する多様な細胞機能の調節
中山 和久
京都大学大学院薬学研究科 生体情報制御学分野
小胞体やゴルジ体、リソソームなどのオルガネラは内膜系を構成し、オルガネラどう
しの間やオルガネラと細胞膜との間でのタンパク質や脂質のやりとりを常に行っていま
す。このようなオルガネラ間の選択的な輸送は、メンブレントラフィック(特に小胞輸
送)によって媒介され、多様な細胞機能の適正な調節を支えています。例えば、細胞分
裂の際には、複製後の染色体 DNA だけでなく、細胞内に存在するさまざまなオルガネラ
も2つの娘細胞に均等に分配されます。また、細胞分裂の際(特に最終段階の細胞質分
裂時)には、細胞の形状やサイズが劇的に変化します。とりわけ、細胞の赤道面がくび
れ、2つの娘細胞への切断が起こる細胞間橋の部分では、膜の脂質成分だけでなく、膜
や微小管のリモデリングに関与するタンパク質の局所的な供給や除去が起こります。し
たがって、細胞分裂はメンブレントラフィックと共役しながら進行します。
私たちは、細胞質分裂の際のオルガネラの分配、特にリサイクリングエンドソームの
分配、および細胞質分裂に関与する低分子量 GTPase の Rab11 と Arf6 の役割について研
究してきました。私たちは、リサイクリングエンドソームの小胞が、細胞分裂の前期か
ら前中期にかけて、微小管に沿ってダイニン依存的に中心体周辺に集積した後、中期か
ら後期にかけて複製した中心体とともに紡錘体極に移動することを見いだしました。そ
して、細胞分裂の終期には、リサイクリングエンドソームの小胞は中央紡錘体に沿って
移動し、2つの娘細胞への切断が起こる部位(フレミング・ボディー近傍)へと膜やタ
ンパク質を供給することによって、細胞質分裂の完了において重要な役割を果たすこと
も見いだしました。さらには、このリサイクリングエンドソームの時間的・空間的な局
在変化は、低分子量 GTPase の Rab11 や Arf6 の局所的な活性化、および Rab11 や Arf6 と
相互作用するエフェクタータンパク質(Rab11-FIP3 や MKLP1/KIF23)による調節を受け、
細胞質分裂の過程と厳密に共役することを見いだしました。
本講演では、メンブレントラフィックと共役する細胞分裂の調節に関して、私たちの
最近の研究成果を中心にして紹介します。
11
特別講演(2)
イノシトールリン脂質代謝による生体調節
○佐々木雄彦 1,2、江口賢史 1、高須賀俊輔 1、木村洋貴 2、中西広樹 2、佐々木純子 1
1
秋田大院・医・微生物学講座、2 秋田大・生体情報研究センター
イノシトールリン脂質(PIPs)は、ホスファチジルイノシトール(PI)のイノシトール
環の3位,4位、5位水酸基が可逆的にリン酸化される結果生じる派生体の総称である
(図1)
。形質膜やオルガネラ膜に微量に存在する PIPs は、タンパク質の局在や活性の
制御を介して様々な細胞機能を調節している。
PI を含め 8 種類の PIPs は、リン酸化・脱リン酸化反応によって相互に変換される。哺
乳動物では、これらの反応を触媒するキナーゼ遺伝子 19 種,ホスファターゼ遺伝子 29
種が同定されている。現在考えられている PIPs の相互変換反応は 18 反応であり、これ
に対して 48 遺伝子にコードされた(spliced isoform を考えると 100 種類を超える)酵素
が存在する。すなわち、複数の PIPs 代謝酵素が1つの PIPs 変換反応に関与することにな
る。特定の PIPs がどの酵素によって生成されるのかという過程が、その PIPs が多様な局
面で発揮する特異的な機能を担保する一つの機構であろうと考えられている。
我々は、PIPs の相互変換を司るキナーゼ、ホスファターゼ、また、アシル基のリモデ
リングに関わる酵素の遺伝子欠損マウスを作製・解析し、PIPs 代謝酵素の異常が細胞死、
増殖、分化、遊走、物質代謝といった細胞応答の異常につながり、個体レベルでは癌、
免疫・炎症性疾患、糖代謝異常、神経変性疾患、心不全などの幅広い病態を導くことを
明らかにしてきた。また、ヒト疾患においても実際に、PIPs を基質とする 4 種のキナー
ゼと 13 種のホスファターゼの遺伝子異常が報告されている。一部の PIPs 代謝酵素につ
いては、医療応用にむけた研究開発も手掛けられている。このように、PIPs 代謝酵素に
よる生体制御機構は、創薬の観点からも、注目を集める研究対象の一つとなっている。
本シンポジウムでは、PIPs 代謝研究の現状を概説するとともに、新しい PIPs 測定技術
の開発や PIPs アシル基多様性の生物学的意義などに関する最新の知見を紹介し、これか
らの PIPs 代謝研究についても議論したい。
12
奨励賞受賞講演
多角的視点からの低分子二重特異性がん治療抗体の高機能化デザイン
〇浅野 竜太郎
(東北大院・工・バイオ工学)
抗体は、がんなどの難治療性の疾患に対する分子標的薬としても利用されてきたが、
動物細胞を用いた製造に起因するコスト高が大きな問題となっているのが実情である。
また従来型の IgG 抗体では治療効果が限界との見方もある。このため様々な観点からよ
り高機能な次世代型の人工抗体の開発が進められており、例えば抗がん剤や毒素との融
合、多価化、多重特異性化などが挙げられる。我々も、がん治療を目的とした種々の人
工抗体を作製してきたが、特にがん細胞とリンパ球を強制的に架橋することで特異的な
抗腫瘍効果を発揮する二重特異性抗体の開発に注力してきた。その過程で、がん関連抗
原であるヒト上皮増殖因子受容体(EGFR)と T リンパ球表面抗原である CD3 を標的とした
Ex3 と名付けたヒト型化低分子二重特異性抗体が極めて効果的であることを見出した。
我々はこの Ex3 をリード化合物として、ヒト Fc 領域との融合、ドメインの組換え、多量
体化、高親和性化などの観点から高機能化を進めてきたが、いずれも活性の向上がみら
れ、またそれぞれを組み合わせることで、さらなる比活性の向上にも成功している。特
にドメインの組換えでは、一見構造フォーマットが同一でも配向性の違いにより治療効
果に大きな差がみられるなど興味深い結果を得ている。これら多角的視点からの高機能
化を進める一方で、低分子二重特異性抗体の巻き戻し法を用いた効率的な最適化法や、
免疫原性が懸念される精製のためのペプチドタグの付加を必要としない調製法の開発も
進めてきた。今後は、高機能化させた Ex3 の医薬化を目指すと共に、さらに魅力的な人
工抗体医薬の高機能性構造デザインの開発と新たな抗体を用いた検証を重ねることで、
実用的な人工抗体医薬の創製プラットフォームを確立していきたいと考えている。
13
優秀論文賞受賞講演
胎児期におけるエリスロポエチン産生機構の解析
○平野育生
東北大院・医・分子血液学分野、医化学分野
エリスロポエチン(Epo)は赤芽球の分化増殖を促し、赤血球造血を誘導するホルモン
である。発生期において赤血球造血は、卵黄嚢で行われる一次造血に始まり、その後、
大動脈・生殖原器・中腎管領域、胎児肝臓などで行われる二次造血が生じる。Epo 遺伝子
破壊マウスは胎生 13 日頃に胎生致死となることから、胎児期の赤血球造血に Epo は必須
であることが示されている。さらに、Epo 遺伝子破壊マウスの詳細な解析を行った結果、
卵黄嚢でおこなわれる一次造血においても、胎生 9 日から、CD71 の発現低下、細胞増殖
不全などの異常が認められた。胎児期の Epo 産生は、胎児肝臓でおこなわれることがし
られている。胎児肝臓からの Epo 産生は胎生 9.5 日以降におこなわれるが、それより以
前の発生段階に開始する一次造血に対応する Epo 産生細胞は不明であった。胎児肝臓以
外の Epo 産生細胞を同定する目的で、Epo 遺伝子転写開始点から上流 17 kbp および下流
15 kbp を含む領域を制御領域として用い、レポーター構築を作成し、トランスジェニッ
クマウス解析をおこなった結果、胎生 8.5 日以降の胎児頭部で胎児肝臓に先んじてレポ
ーター遺伝子の発現が認められた(Neural Epo Producing cells、NEP 細胞)
。免疫染色
による組織学的な解析の結果、NEP 細胞は神経上皮細胞の一部と、神経堤細胞の一部、眼
原器であった。また、分取した NEP 細胞を用いた、遺伝子発現解析の結果、高い Epo 遺
伝子の発現が認められた。これらのことから、胎児肝臓からの Epo 産生が始まるより早
い発生段階において、NEP 細胞から Epo が産生されていることが示された。同時期のマウ
ス胎児において、他の臓器からの Epo 産生は認められないことから、NEP 細胞で作られた
Epo が、卵黄嚢における一次造血を支持していると考えられた。
14
一般演題(口演)
O-1
生体の低酸素病態をイメージングするプローブの開発:高輝度改良体 BTPDM の検証
◯寺田幹 1、吉原利忠 2、飛田成史 2、穂坂正博 1
1
秋田県立大学 生物資源科学研究科、2 群馬大学 理工学研究院
生体内において低酸素状態は、がん、動脈硬化プラーク、脳梗塞・心筋梗塞、などの病
態組織で観察され、我国の3大死亡原因、がん、脳卒中、心筋梗塞の基本的病態となっ
ている。低酸素環境を非侵襲的にイメージングする技術は、これらの疾患の早期診断に
つながる手法として臨床応用が期待されている。
我々の研究グループは生体内の低酸素環境を検出するプローブとして、ニトロイミダ
ゾールや ATSM とは異なる機序で低酸素環境を感知するイリジウム錯体を用いる方法を考
案した。イリジウム錯体は、近年、有機 EL 用発光材料として注目され、壁掛け照明、ス
マートフォン、次世代テレビのディスプレイとして電機大手が開発に力を入れている。
イリジウム錯体のりん光は酸素消光を示し、通常の酸素分圧では発光せず、低酸素状
態になると発光する。これまでに我々は赤色領域で発光する[BTP:(btp)2Ir(acac)]を用
い、低酸素下の培養細胞と担がんマウス(腫瘍を移植したヌードマウス)の腫瘍部をイ
メージングできることを明らかにした(Cancer Research 70, 4490-4498,10)。現在、更
に BTP の応用範囲を広げるために BTP の高輝度化、長波長化を図っている。
本支部例会では、BTP の発光特性に関与しない補助配位子であるアセチルアセトン配位
子にジメチルアミノ基を付加した BTPDM について、担がんマウスのイメージング、細胞
浸潤性、組織内動態について報告する。
BTPDM は BTP と比較して 10 倍程度細胞に取り込まれ易く、そのため BTP の 1/10 量で生
体の腫瘍をイメージングすることが可能である。また生体に投与したイリジウム錯体を
チェイスし、イリジウム量を測定することにより、各臓器が取り込む量、その排出経路
を明らかにした。さらに本研究過程で、BTP と BTPDM は組織集積性が異なることを見出し
た。このことは臓器特異的がんを発見するうえで有効であると期待している。
15
O-2
内分泌細胞の分泌顆粒に局在するセクレトグラニン III の役割
○前田佳紀 1、暮地本宙己 2、渡部剛 2、穂坂正博 1
1
秋田県立大学 生物資源科学研究科、2 旭川医科大学 解剖学講座
ペプチドホルモンは、ホルモン分泌組織(内分泌組織)にあるホルモン分泌細胞の
粗面小胞体上で合成された後、ゴルジ装置を経て、トランスゴルジネットワーク
(TGN)から分泌顆粒へと選別輸送される。分泌顆粒内でホルモンは貯留され、細胞
外からの刺激に応じて放出されてターゲット細胞にシグナルを伝達する。内分泌細
胞の分泌顆粒には、その内部にペプチドホルモンの他にグラニンタンバク質群、ホ
ルモンを修飾して活性化するプロセッシング酵素群が存在し、顆粒膜上の細胞質側
には分泌制御タンパク質、イオンチャンネル、ポンプが局在する。
我々は、これまで『ペプチドホルモンが分泌顆粒へ運ばれるメカニズム』につい
て解析を行い、TGN から分泌顆粒にホルモンを運ぶ因子としてセクレトグラニン III
(SgIII;471 個のアミノ酸からなる)を見出した。さらに生化学的、細胞生物学的
解析から 1)SgIII がアミノ酸 23 番-186 番目のドメイン SgIII 23-186 で TGN 膜の
高コレステロール組成ドメイン(コレステロール組成が 40-45 mol%)に着床して、2)
SgIII 187-373 でペプチドホルモンとクロモグラニン A (CgA:分泌顆粒内に局在す
るグラニタンパク質)の凝集体と結合し、ホルモンを顆粒へ選別する、ことを示し
た(Endocrine J. 57, 275-286, 10 (review);Traffic 14, 205-218, 13)。そこで
本研究は SgIII を欠損させたノックアウトマウスを作製して、個体レベルで SgIII
の役割を明らかにすることを目的とした。
本支部例会では SgIII を欠損したノックアウトマウスの解析について報告する。
16
O-3
ハタハタ精巣型乳酸脱水素酵素の活性温度依存性
○菅原琴美 1 中川瑞希 2 米澤美香 2 涌井秀樹 2 布村 渉 2,3
1
秋田大・工資・生命化学
2
秋田大院・工資・生命科学
3
秋田大院・環資研セ
【緒言】
乳酸脱水素酵素(LD)は、ピルビン酸還元と共役して NADH 酸化により NAD+を解糖系
、心筋型(H4)の他に精巣型のアイソザイムが存
に供給する。LD には、骨格筋型(M4)
在する。ハタハタ(Arctoscopus japonicus)は海水温 13°C 以下で受精するが、精子のエネ
ルギー獲得機構は不明であり、また、魚類の精巣型 LD に関する知見も乏しい。本研究
ではハタハタ精巣型 LD の反応速度論的特性を白筋型と比較して明らかにした。
【方法】
(1)秋田県近海で漁獲されたハタハタ精巣及び白筋から LD を部分精製した。
(2)LD
活性は 340 nm
(NADH)
における 1 分間当たりの吸光度変化から求めた。
標準条件は pH7.0,
25°C とした。LD のピルビン酸に対する Km と Vmax は、両逆数プロットにより解析した。
(3)活性の温度依存性は、反応溶液を 4°C~70°C の任意の温度に保持して LD 活性を測
定し、活性化エネルギーを求めた。
(4)Km と Vmax の温度依存性を解析した。
【結果】
(1)
ハタハタ精巣型 LD のピルビン酸に対する Km は 0.35 ± 0.02 mM で、
Vmax は 1157 ± 65.5
μmols/min/mg だった。Km と Vmax は、温度依存性に上昇したが、Vmax/Km は温度非依存的
に一定だった。
(2)ハタハタ精巣型 LD の至適温度は 35°C 付近にあり、白筋型 LD は 30°C
付近だった。また、ハタハタ精巣型 LD の活性化エネルギーは 20.1 ± 1.8 kJ/mol で、白筋
型は 21.7 ± 1.6 kJ/mol だった。
【考察】
精巣型 LD 活性の至適温度は受精時の環境温度 13°C よりも 17°C 以上高く、Vmax/Km が温
度非依存性であることは、精巣型 LD は至適温度までの温度変化に左右されることなく
触媒活性を維持できることを示していおり、構造の安定性が担保されていると考えられ
る。精巣型と白筋型 LD 活性には大きな違いは認められず、今後、さらに詳細な構造的
な解析が必要であると考えられる。
17
O-4
リポタンパク質プロファイル評価による新規脂質異常症改善薬評価系の構築
○畠恵司 1、岩間由香 2、木村文子 2、中川志穂 2、三浦瑞穂 2、戸嶋彦 2、高橋純一郎 2
1
秋田県総食研、2(株)スカイライト・バイオテック
リポタンパク質は、アポリポタンパク質、リン脂質、中性脂肪およびコレステロール
からなる球状粒子であり、粒子サイズや比重に従い、キロミクロン(chylomicron、CM)
、
超低比重リポタンパク質(very low density lipoprotein、VLDL)
、低比重リポタンパク質
(LDL)
、高比重リポタンパク質(high density lipoprotein、HDL)の主要クラスに大別さ
れる。食事などに含まれる脂質(中性脂肪やコレステロール)は、主に小腸から吸収さ
れ、CM に結合した状態で肝臓に運ばれる。肝臓で再合成された脂質は、リポタンパク質
の形で血液中に分泌される。このため、スタチンやフィブラートといった脂質異常症治
療薬の多くは、肝臓における脂質再合成を標的にしたものが多い。(株)スカイライト・バ
イオテックでは、これら 4 種主要リポタンパク質および 13 種サブクラスをゲル濾過
HPLC で分画後、リポタンパク質中の脂質をインライン酵素反応で定量することで、創薬
ならびに診断支援サービスを行っている(サービス名、LipoSEARCH® )。我々は
LipoSEARCH®を活用することにより、ヒト由来の肝細胞あるいは小腸上皮細胞が産生す
るリポタンパク質中の脂質を定量することで、脂質異常症改善薬剤探索系を構築した。
ヒト肝癌細胞 HepG2 は VLDL、LDL、HDL の 3 種リポタンパク質を産生する。我々
の評価系において、抗コレステロール薬のスタチンは、これらリポタンパク質中のコレ
ステロールを主に抑制し、フィブラート系薬剤は両者の分泌を抑制するなど、各々の薬
剤の特長を捉えた結果が得られた 1)。一方、ヒト大腸癌細胞である Caco2 は、酪酸ナト
リウム処理により、小腸上皮細胞に分化することが知られている。この小腸上皮細胞に
分化した Caco2 細胞でもリポタンパク質の産生が認められ、既知のリポタンパク質合成
阻害である Pluronic L-81 処理により、リポタンパク質の分泌の抑制が観察された 2)。
1. Itoh M. et al., Biotechnology Letters, 31, 953-957 (2009)
2. Takahashi J. et al., 3 Biotech, 3, 213-218 (2013)
18
O-5
昆虫細胞発現系を用いたヒトアンギオテンシン変換酵素2の生産
○宮脇 舞 1,高栖智明 2,横田早希 1,韮澤 悟 3,高橋砂織 4,後藤 猛 1
1
秋田大院工資,2 秋田大工資,3 国際農研,4 秋田県総食研
1. 緒言
哺乳動物における重要な血圧調節系にレニン‐アンギオテンシン系 (RAS)がある。この系
では,アンギオテンシン変換酵素 (ACE)により不活性型のアンギオテンシン I (AngI)が活性型
のアンギオテンシンⅡ (AngⅡ)に変換され,血圧上昇を引き起こす。近年,AngⅡを基質にす
ることで RAS を負に調節して心血管等の機能を制御するアンギオテンシン変換酵素 2
(ACE2)が見いだされた。本研究では,ACE2 の詳細な機能解析を目指し,昆虫細胞発現系に
よるヒト ACE2 の生産を目的とした。
2.実験方法
2.1 ACE2 の生産と精製
His タグを付加した ACE2 の cDNA を導入した組換えバキュロウイルス (vACE2)を
Bac-to-Bac システムにより作成し,
これを Sf9 昆虫細胞に MOI 0.1 pfu/cells で接種して,28℃,
100 rpm の条件で旋回振とう培養を行った。感染培養後に回収した細胞に 0.5% TritonX-100 含
有 PBS を加え,
遠心分離して得られた上清を Ni-アフィニティーカラムに通し,
吸着した ACE2
を 500 mM イミダゾールで溶出させた。
kDa M 0 1 2 3 4 5 6 [d]
2.2 ACE2 の分析
100
ACE2
ACE2 (93.8 kDa)の発現と精製度は,anti-His タグ抗
70
体による Western blotting および SDS-PAGE によって分
100
ACE2
70
析 し た 。 ACE2 の 活 性 は , 蛍 光 消 光 基 質
Fig. 1 Western Blotting により分析した ACE2 の
Mca-Ala-Pro-Lys(Dnp)-OH を用いて測定した。
発現挙動.
(上)細胞画分;
(下)培地画分
3.結果と考察
感染培養による ACE2 発現の経時的挙動を Western
blotting により調べたところ (Fig.1),3 日目以降の細
胞画分に分子量 93.8 kDa のバンドが検出されたが,培
地画分には検出されなかった。これより,細胞画分に
His タグが付加した ACE2 が発現していることが分か
った。次に,ACE2 の経時的な生成量を ACE2 活性に
より調べた(Fig.2)。ACE2 活性は感染 2 日目から細胞内
で増加し始めて 3 日目以降にほぼ一定となるが,培地
中にも 3 日目以降に増加が認められた。これより,His
タグを含む部位が加水分解された ACE2 が感染 3 日目
から細胞外に漏出することが示唆された。細胞画分の
ACE2 を Ni-アフィニティークロマトグラフィーによ
り精製した結果を Fig.3 に示す。このクロマトグラフ
ィーで夾雑タンパク質の大部分が取り除かれ,93.8
kDa の ACE2 が主成分であることが確認された。
19
Fig. 2 昆虫細胞培養液中の ACE2 活性の経時的挙動.
MOI: 0.1 pfu/cell.
kDa M C F 1 5 6 55 57 59
116
ACE2
66.2
Fig. 3 SDS-PAGE.M:分子量マーカー,C:精製前,
F:未吸着成分,数字:フラクション番号
O-6
原核微生物由来 D-アスパラギン酸エンドペプチダーゼ paenidase(パエニダーゼ)
ホモローグの構造と活性
○韮澤悟 1、高橋砂織 2
1
国際農研セ、2 秋田県総食研セ
これまで、一部の細菌の細胞膜に D 型アミノ酸の存在することが知られていたが、近
年、哺乳類の生体内にも遊離の D 型アミノ酸や D 型アミノ酸を含有するタンパク質の存
在することが見出されている。高橋らは D-アスパラギン酸エンドペプチダーゼ生産菌
(Paenibacillus sp. B38 株)を分離するとともに、産生する酵素を paenidase(パエニ
。今
ダーゼ) と命名し、その性質を明らかにした(J. Biochem. 139, 197-202, 2006)
回我々は、paenidase のアミノ酸配列と相同性をもつ各種ホモローグをクローニングし、
大腸菌における発現を行うとともに、それらの酵素活性を調べた。BLAST データベース解
析により、paenidase のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、種々のβ-lactamase、
penicillin-binding protein、 D-Ala-D-Ala carboxypeptidase と 35〜50%の相同性が
あることが明らかになった。これらのうち、全長カバー率及びアミノ酸残基一致率の高
い 3 種類のホモローグ(D14、DF、JDR)を選択し、遺伝子合成を行った。つぎに、大腸
菌においてこれらのホモローグを発現させたところ、全てにおいて可溶性組換え酵素を
得ることに成功した。つづいて、得られた組換え酵素について、suc-[D-Asp]-MCA 分解活
性を検討した結果、D14 は活性を示したが、DF 及び JDR は活性を示さなかった。さらに、
paenidase、D14、DF、JDR のホモロジーモデリングを行い、活性部位近傍に位置するアミ
ノ残基について解析した。その結果、paenidase 及び D14(D-Asp 基質分解活性あり)に
おいてアミノ酸残基が一致し、なおかつ DF 及び JDR(D-Asp 基質分解活性なし)におい
てアミノ酸残基が異なるものは、6 カ所存在することが明らかとなった。また、DF 及び
JDR には paenidase 及び D14 に無い構造が 1 カ所存在することが明らかとなった。以上の
結果は、paenidase の基質認識機構を考察するうえで、有力な手掛かりになると考えられ
る。
20
O-7
弘前ヘアレスラット脾臓での濾胞性ヘルパーT 細胞の分化異常と胸腺内 CD4+CD8+
細胞でのレチノイン酸結合タンパク質遺伝子および受容体遺伝子の発現異常
山田俊幸1、七島直樹1、2、清水武史1、土田成紀1
1
弘前大学大学院医学研究科ゲノム生化学、2弘前大学大学院保健学研究科生体機能
弘前ヘアレスラット (Hirosaki hairless rat: HHR) は SD ラット (SDR) より自然発
生した乏毛ラットである。我々はこれまでの本学会において、HHR 胸腺での制御性 T 細胞
の分化異常について報告してきた。HHR 胸腺は CD4+CD8+ (double positive: DP) 細胞で
の CD4 の発現低下という異常も示す。DP 細胞期は T 細胞の分化決定に重要な時期である
ので、今回は CD4 陽性のヘルパーT 細胞の異常を検討した。Keyhole limpet hemocyanin
(KLH) 投与後、血中の抗 KLH IgM、IgG 量は HHR において SDR より低く、HHR 脾では抗体
産生細胞の分化関連遺伝子、Aid、Oct-2 の発現や、胚中心における Peanut agglutinin
陽性の抗体産生細胞の数が減少していた。次に抗体産生細胞の分化を促進する濾胞性ヘ
ルパーT 細胞 (Follicular helper T cell: Tfh) に注目した。KLH 投与後 HHR、SDR 共に
脾胚中心に同程度の Tfh と考えられる CD3 陽性細胞が出現した。しかしながら、HHR 脾で
は CD4 陽性細胞における Tfh の機能関連遺伝子、Icos、 Cd40L、Pd-1、Il4 の発現が SDR
に比べて低く、また胚中心における Icos あるいは Pd-1 陽性の細胞数も減少していた。
さらに脾より単離した CD4 陽性細胞を in vitro において ionomycin と PMA により刺激し
たところ、HHR 由来の細胞で Il4 遺伝子の発現誘導が低下していた。また胸腺での CD4
陽性細胞および脾でのヘルパーT 細胞の分化に重要な転写因子 Gata-3 の遺伝子発現は、
HHR の胸腺 DP 細胞、CD4 single positive 細胞、脾 CD4 陽性細胞のすべてで低下してい
た。これらの結果は HHR 脾では Tfh の機能低下が抗体産生細胞の分化抑制につながり、
Tfh の異常は胸腺 DP 細胞の異常に起因する可能性を示唆している。
そこで HHR および SDR
の胸腺 DP 細胞を用いてマイクロアレイ解析を行なったところ、HHR では、細胞質でレチ
ノイン酸 (RA) に結合して核への移行を制御する Crabp1 の遺伝子発現が顕著に増加し、
RA の核内受容体である Rarαの遺伝子発現が低下していた。RA は T 細胞の分化に関わる
ことから、HHR では DP 細胞における RA の作用異常がヘルパーT 細胞の分化異常につなが
るものと考えられた。
21
O-8
Ppp6c 遺伝子欠損は、マウス皮膚腫瘍形成を促進する。
林克剛 1,2、小河穂波 3、岸本綾子 3、加藤浩之 1,2、田沼延公 1,2、渡邊利雄 3、○島礼 1,2
1
宮城県立がんセンター研究所・がん薬物療法、2 東北大院・医・がん分子制御、3 奈良女
子大院・人間文化研究科
セリン・スレオニンプロテインホスファターゼ 6 型(PP6)は、PP2A、PP4 と共に、サ
ブファミリーを形成する。PP6 の触媒サブユニットをコードする Ppp6c 遺伝子は、ヒトか
ら酵母に至るまで保存されている。酵母や線虫の機能解析により、PP6 は細胞周期のチェ
ックポイントに働いていることが示された。また、ほ乳類培養細胞を用いた研究から、
DNA 修復、染色体分離、NFκB シグナル制御などにおいて重要な機能をもつことが報告さ
れている。しかし、これまで Ppp6c 遺伝子を欠くマウス個体は作製されておらず生理機
能に関して未解明な部分が多く残されている。最近、悪性黒色腫の全 exon シークエンス
のデータより、Ppp6c が、悪性黒色腫のがん抑制遺伝子である可能性が示唆された。
我々は、PP6 の生理的な機能、および発がんとの関連を明らかにする目的で、
conditional に Ppp6c のエクソン4(活性ドメイン)を欠損可能なマウスを作製した。ま
ず、Ppp6c-/-マウスについて解析したところ、ホモ欠損胚は受精 8.5 日目で小さく退縮し
た異常胚となり胎生致死であった。次に、発がんにおける機能の解明のため、皮膚特異
的に誘導欠損可能なマウス(K14-CreERtam;Ppp6cflox/flox)を作製し、2 段階皮膚腫瘍形成実験
を行った。遺伝子欠損が、DMBA 誘発皮膚腫瘍発生を強く促進することが明らかとなった。
その解析結果について報告する。
22
O-9
Keap1-Nrf2 システムは糖尿病発症を抑制する
○宇留野晃 1、古澤裕樹 1,2、柳下陽子 1、福富俊明 1、山本雅之 1
1
東北大院・医・医化学分野、2 持田製薬(株)創薬研究所
転写因子 Nrf2 は、解毒代謝酵素や抗酸化酵素を誘導する生体防御の鍵因子である。転
写調節因子 Keap1 は定常状態では Nrf2 を負に制御しているが、Keap1 が親電子性物質や
酸化ストレスなどを感知すると、Nrf2 タンパク質が核に蓄積し、その標的遺伝子発現を
誘導する。この一連の制御系を Keap1-Nrf2 システムと呼んでいるが、解毒代謝や抗酸化
作用における役割は広く報告されてきたが、近年癌細胞を中心として代謝にも強い影響
を及ぼすことが報告された。糖尿病は重篤な合併症を併発する社会的にも重要な代謝系
疾患であるが、その発症と進展には酸化ストレスが関与することが知られてきたことか
ら、
Keap1-Nrf2 システムの糖尿病発症における役割の解析を行なった。
全身性恒常的 Nrf2
誘導モデルとして Keap1 発現が減少した Keap1flox/–マウス(以下 Keap1KD)を用い、さら
に Nrf2 との二重欠失マウス(Keap1KD::Nrf2KO)の解析も行なった。
Keap1KD マウスを糖尿病モデル db/db マウスと交配したところ、db/db マウスでは血糖
値が著明に上昇したが、db/db::Keap1KD マウスでは血糖上昇はほぼ完全に抑制された。
その血糖上昇抑制作用は db/db::Keap1KD::Nrf2KO マウスで完全に解除されたことから、
Keap1KD による血糖上昇抑制作用は Nrf2 に依存することが明らかとなった。病理学的解
析にて db/db マウスで強い膵β細胞障害を認めたが、db/db::Keap1KD マウスでは膵β細
胞はほぼ正常に保たれていた。db/db マウスに Nrf2 誘導剤 CDDO-Im を週 3 回経口投与を
行なったところ、Keap1KD と同様に血糖降下作用と膵β細胞保護作用を認めた。db/db マ
ウスからの単離膵島を CDDO-Im で処理したところ、解毒代謝酵素や抗酸化酵素の誘導を
認めた。さらに、Keap1-Nrf2 システムの膵β細胞以外の血糖上昇抑制作用として、肝臓
の糖新生酵素関連遺伝子群の発現を調べた。db/db::Keap1KD マウスで糖新生酵素関連遺
伝子群の発現低下を認め、ピルビン酸負荷試験で血糖上昇抑制作用を認めたことから、
db/db マウスにおける糖新生抑制作用も明らかとなった。以上の結果より、Keap1-Nrf2
システムの活性化は、db/db マウスにおいて膵β細胞保護作用および肝糖新生抑制作用に
より、糖尿病の発症を強力に抑制することが明らかとなった。
23
O-10
Keap1-Nrf2 制御系の造血幹細胞における役割の解明
○村上昌平 1、山本雅之 2、本橋ほづみ 1
1
東北大学・加齢医学研究所・遺伝子発現制御分野、2 東北大院・医・医化学分野
Keap1-Nrf2 制御系は外来性異物や酸化ストレスに応答し、細胞の恒常性維持に寄与する
分子機構である。転写因子 Nrf2 は、通常状態では Keap1 と結合することで、プロテアソ
ーム依存的に分解される。一方、親電子物質や酸化ストレス曝露下では、Keap1 が失活す
ることで Nrf2 は安定化する。安定化した Nrf2 は核内に移行し、小 Maf 群因子とヘテロ
二量体を形成し、解毒代謝系酵素や抗酸化酵素などの標的遺伝子の転写を活性化する。
近年、Keap1-Nrf2 制御系は細胞の増殖・分化を制御することが明らかになりつつある。
しかしながら、造血幹細胞における幹細胞性の維持や分化系統決定に Keap1-Nrf2 が寄与
しているかどうかは不明のままである。本研究では、Nrf2 欠損(Nrf2–/–)マウスおよび
条件付き Keap1 欠損(Keap1F/F::Mx1-Cre, Keap1CKO)マウスを用いて、造血幹細胞の機能
制御における Keap1-Nrf2 制御系の寄与を検討した。これらマウスをドナーとして、その
造血幹細胞(Lin–Sca-1+c-kit+ CD48–CD150+)を解析・単離し、競合的骨髄移植を行った。
その結果、以下の 3 点が明らかになった。1)幹細胞の維持について:Nrf2 欠損および
Keap1 欠損の造血幹細胞では、レシピエントマウスへの生着能が低下していた。このこと
から、造血幹細胞の維持には生理的な Nrf2 活性化レベルを保つことが重要であることが
示された。また、Keap1 欠損の造血幹細胞では静止期にある細胞の割合が減少していたこ
とから、Keap1 欠損における造血幹細胞の機能障害は、細胞周期の亢進が一つの原因であ
ると考えられた。2)成熟細胞への分化について:Nrf2 欠損の造血幹細胞では促進、Keap1
欠損の造血幹細胞では抑制されていた。したがって、Nrf2 活性化には、造血幹細胞の分
化を抑制することで未分化な状態を維持する側面もあることが示された。3)分化系統決
定について:Nrf2 欠損の造血幹細胞では赤血球・巨核球系へ、Keap1 欠損の造血幹細胞
では顆粒球・単球系へ偏っていることが明らかとなった。このことは、Keap1-Nrf2 制御
系は刺激応答的に造血幹細胞の分化系統を顆粒球・単球系へ偏らせることを示唆してい
る。以上の結果から、Keap1-Nrf2 制御系は造血幹細胞において幹細胞性の維持と分化系
統決定制御に貢献していることが明らかとなった。
24
O-11
転写因子 Nrf2 の遺伝子発現量の重要性
○ 鈴木隆史1、柴田龍弘2、高屋快1、本橋ほづみ3、山本雅之1
1
東北大院・医・医化学、2国立がん研究セ・がんゲノム、3東北大・加齢研・遺伝子発現
制御
私たちの身体は発癌物質や環境汚染物質などの環境ストレスに常にさらされている。環
境ストレスから防御するために生体には様々な遺伝子が備わっている。転写因子 Nrf2 は
生体防御に働く抗酸化蛋白質や異物代謝酵素群の誘導発現を制御し広く疾患予防に働く。
Nrf2 は定常状態では Keap1 によりユビキチン化されプロテアソームにより急速に分解さ
れるが、ストレス刺激時にはその抑制から逃がれて核に蓄積し標的遺伝子群の発現を活
性化する。蛋白質量は合成と分解のバランスによって決定されるが、Nrf2 合成量の重要
性はこれまでほとんど注目されていなかった。そこで、マウス遺伝学を用いて Nrf2 遺伝
子発現量の重要性を調べたところ、Nrf2 合成量が生体での Nrf2 活性に大きな影響を与え
ることが明らかになった。また、ヒト疾患と Nrf2 の関連について注目した研究を行った
ところ、NRF2 遺伝子発現に重要な制御性一塩基多型(Regulatory Single Nucleotide
Polymorphism; rSNP)が肺がん患者、特にタバコ喫煙者に有意に多いことを見出した。
すなわち、この NRF2 rSNP を有すると NRF2 遺伝子の発現量が減少し、NRF2 による生体防
御能が減弱化し、タバコ等による突然変異頻度が増加した結果、肺がんリスクを高める
と考えられた。以上の結果は遺伝子発現レベルの Nrf2 量の重要性を強く示唆すると同時
に、発がんリスク予測と個別化医療への応用に Nrf2 が深く関与することを示した。
25
O-12
転写因子 GATA2 の腎尿細管細胞での生理機能
Yu Lei, 相馬友和, 山本雅之, ○森口 尚
東北大学大学院医学系研究科医化学分野
Zn フィンガー型転写因子 GATA2 は血液細胞分化に必須であることが知られている。
我々
はこれまで、Gata2 低発現マウスを用いて GATA2 が腎尿路系発生に重要な貢献を果たす
ことを明らかにしてきた。一方で、成体マウス腎臓内での GATA2 の発現分布やその生理
機能に関してはまだ良く知られていない。そこで、我々は Gata2 遺伝子座に GFP を挿入
したマウスを用いた解析を進め、GATA2 が腎集合管特異的に発現することを明らかにし
た。腎集合管での GATA2 の生理機能を明らかにするために、尿細管上皮細胞特異的に
GATA2 を欠失する条件つき欠失マウス
(Gata2 CKO マウス)
を用いた解析を行った。Gata2
CKO マウスは正常に生育し、腎臓に組織学的な異常を認めなかったが、多尿と尿濃縮障
害を示した。Gata2 CKO マウス腎集合管細胞を単離し、トランスクリプトーム解析を行
ったところ、水分再吸収と尿濃縮に関わる遺伝子群の発現パターンが大きく変化してい
ることを見いだした。とくに、バゾプレッシン反応性の水分再吸収に関わる水チャネル
である aquaporin2 (Aqp2) の遺伝子発現が著しく低下していた。マウス集合管由来細胞株
mIMCD 細胞を用いたクロマチン免疫沈降解析、およびルシフェラーゼレポーター解析か
ら、GATA2 が Aqp2 遺伝子プロモーターに存在する動物種間で保存された GATA 結合サ
イトに直接結合し、Aqp2 遺伝子の発現を活性化することを確認した。
これらの結果から、
GATA2 は成体マウス腎集合管において、Aqp2 遺伝子の発現を制御することにより体液恒
常性を保つ役割を担うことが明らかとなった。
26
O-13
凝固第 XIII 因子 B サブユニットとフィブリノゲンとの相互作用部位
○惣宇利 正善、尾崎 司、一瀬 白帝
山形大・医・分子病態学
血漿トランスグルタミナーゼ前駆体である凝固第 XIII 因子(FXIII)は、酵素部位である
A サブユニット(FXIII-A)とそのキャリアである B サブユニット(FXIII-B)2分子ずつか
ら成る異種四量体として血中を循環し、凝固反応においてはフィブリンを中心としたタ
ンパク質分子間の架橋反応を触媒して、止血の維持と創傷治癒の促進に働く。我々は昨
年度の本支部会で、FXIII-B がフィブリノゲンと直接結合してフィブリン架橋反応を促
進することを報告した。今回は、FXIII-B とフィブリノゲンの相互作用に寄与するそれ
ぞれの部位の検索を行った。
FXIII-B は 10 個のスシドメインから成るタンパク質であることから、個々のスシド
メインと分泌型ルシフェラーゼ(MetLuc)との融合タンパク質を作製して、フィブリノ
ゲンとの結合能を調べた。
それぞれのスシドメインをもつ MetLuc はいずれも抗 FXIII-B
ポリクローナル抗体と結合すること、第1スシドメインとの融合 MetLuc が FXIII-A と
結合することが確認されたが、いずれの融合 MetLuc とも、フィブリノゲンとの特異的
な結合は認められなかった。バキュロウイルス発現系にて作製した組換え FXIII-B を用
いたところ、第1もしくは第 10 スシドメインを欠いた FXIII-B 欠失体はいずれも、フ
ィブリノゲンとの結合能が野生型 FXIII-B と比べて著しく低かったことから、第1と第
10 スシドメインの両方がフィブリノゲンとの結合に必須であることが示唆された。
プラスミンによるフィブリノゲンの消化において、フィブリノゲン D ドメインにある
γ鎖の切断が FXIII-B により保護された。プラスミン消化断片の質量解析から、FXIII-B
による保護部位としてγ鎖 C 末端側の K302 および K356 が同定された。フィブリ(ノゲ)
ンγ鎖の架橋部位が C 末端(Q398, Q399, K406)にあることと、FXIII-B の第1スシド
メインが FXIII-A との結合部位であることから、本研究で同定された部位でのフィブリ
ノゲンと FXIII-B との結合が、フィブリンγ鎖間の迅速な架橋反応に大きく寄与してい
ることが強く示唆された。
27
O-14
臓器の線維化における細胞外基質タンパク質の酸化的折畳み機構に関する研究
○倉橋敏裕 1)、西田隼 1)3)、齋藤由香 1)、李在勇 1)、鍋島篤典 2)、山田壮亮 2)、
冨田善彦 3)、宮田哲 4)、高尾敏文 5)、 藤井順逸 1)
1)
山形大学大学院医学系研究科生化学分子生物学、2)産業医科大学第二病理学、
3)
山形大学医学部腎泌尿器外科学、4)大阪厚生年金病院内科、5)大阪大学蛋白質研究所
虚血などによって細胞死が起った臓器では様々な細胞を起源として筋線維芽細胞が生
じ、それがコラーゲンなどの細胞外基質タンパク質を分泌して線維化もたらす。分泌タ
ンパク質は翻訳された後に小胞体で酸化的折畳みを受け、適切な立体構造をとった後に
分泌されるが、この過程が傷害され異常構造をとるタンパク質が蓄積した場合には小胞
体ストレスとなる。このチオール基の酸化に働くチオールオキシダーゼである Ero1 と
Prdx4 を二重に欠損すると、ビタミン C が枯渇しコラーゲンの分泌障害が起って壊血病に
なるため、Prdx4 はコラーゲンの形成に密接に関係すると考えられる。
今回、筋線維芽細胞の小胞体機能に着目して、コラーゲンの酸化的折畳みにチオール
オキシダーゼとアスコルビン酸がどのように関わるか検討した。マウスを用いて腎臓の
線維化を来す一側尿管結紮モデルで検討したところ、分泌タンパク質の産生亢進に一致
して Prdx4 の発現誘導が認められた。コラーゲンの形成にはアスコルビン酸が必要とさ
れているが、マウスはアスコルビン酸を合成できることから欠乏症にはならない。そこ
でアスコルビン酸合成能が通常マウスの 1 割程度しかない Akr1a 欠損マウスを用いて検
討したところ、驚いたことに、生成するコラーゲン量などに関しては野生型マウスとの
間に違いを認めなかった。
この結果は、アスコルビン酸に代わる電子供与体が存在することを示唆している。ま
た、Halo-tag を付加した Prdx4 を用いた Pull down 産物の解析から、Prdx4 は Bip・ERp5・
ERp46 と相互作用することが分かったので、こうした分子と相互作用するチオールオキシ
ダーゼを検索することで、細胞外基質タンパク質の酸化的折畳み機構の全体像を理解で
きると考えられる。
28
O-15
ドパミン D2 受容体 long アイソフォームの細胞内活性化機構の解析
○塩田 倫史、福永 浩司
東北大学大学院薬学研究科 薬理学分野
【目的】ドパミン D2 受容体は 7 回膜貫通型の G タンパク質共役型受容体であり、細
胞内第 3 ループの 29 アミノ酸残基の有無により、D2 受容体 long アイソフォーム
(D2L 受容体) と short アイソフォーム (D2S 受容体) のスプライスバリアントが存在
する。ほとんどの抗精神病薬が D2 受容体遮断作用を有し、遺伝子解析から D2 受容体
には統合失調症等の精神疾患に共通する遺伝子多型が見出されることから、 D2 受容体
は精神機能に重要な役割を担っている。しかしながら、 D2 受容体のシグナル伝達系の
異常と精神疾患との詳細な関与は不明である。本研究では、D2L 受容体アイソフォーム
特異的な細胞内シグナル伝達系に着目し、研究を行った。【方法・結果】D2L 受容体特
異的 29 アミノ酸残基に結合するタンパク質を同定するため、GST-29AA を結合させた
カラムにマウス脳 lysate を添加し、結合した抽出物を電気泳動した。その後、銀染色に
より特異的なバンドを同定し質量分析を行った。その結果、Rabex-5 が候補のひとつと
して同定された。 Rabex-5 は初期エンドソームの形成に関与する低分子量 G タンパク
質 Rab5 の GEF として知られている。興味深いことに、D2L 受容体を発現させた
HEK293T 細胞にドパミン刺激を加えることで Rabex-5 の GEF 活性は増加した。Rab5
の活性化は、受容体型チロシンキナーゼの活性化に関与している。免疫ブロット法と免
疫染色法より、ドパミン刺激により PDGF 受容体-β とその下流である Akt, ERK の持
続的な活性化が見られ、D2L 受容体と PDGF 受容体-β は初期エンドソームに共局在し
た。また、それらの活性化はインターナリゼーション阻害剤である dynasore で阻害され
た。 in vivo における機能的な役割を検討するため、中枢神経特異的 PDGF 受容体-β 遺
伝子欠損マウスを用いてドパミン D2 受容体遮断薬ハロペリドールによるカタレプシー
反応を解析した。 PDGF 受容体-β 遺伝子欠損マウスではハロペリドールによるカタレ
プシー反応が有意に減弱した。【考察】本研究により、D2L 受容体は Rabex-5 を介した
PDGF 受容体-β とのクロストークにより、 D2 受容体シグナル伝達系の一部を制御して
いることが明らかとなった。
29
O-16
ドパミン神経細胞において脂肪酸結合蛋白質 FABP3 は α シヌクレイン多量体
形成を促進する
○小野里 美咲 1 塩田 倫史 1 矢吹 悌 1 大和田 祐二 2 福永 浩司 1
1
東北大学大学院薬学研究科・薬理学分野
2
山口大学大学院医学研究科・器官解剖学分野
【目的】パーキンソン病は黒質ドパミン神経細胞の変性を伴う錐体外路障害を呈する疾
患であり、その病態発症には α シヌクレインの不飽和脂肪酸との結合による多量体形成
が関与すると考えられている。しかしながら、細胞内での多量体形成機構は明らかとさ
れていない。私達は、細胞内への脂肪酸、特にアラキドン酸の取り込みに関与する脂肪
酸結合蛋白質 FABP3 が黒質ドパミン神経細胞に高発現することを明らかにした
(Shioda et al., J. Neurosci. 2010)。本研究では、黒質ドパミン神経細胞における FABP3 の α
【方法・結果】パーキンソン病症状
シヌクレイン凝集体形成への関与について検討した。
を引き起こす神経毒である MPTP を投与し、行動解析と組織解析を行った。 FABP3 遺
伝子欠損マウスでは野生型マウスと比較して錐体外路障害と黒質緻密部におけるドパミ
ン神経細胞数の低下が有意に抑制された。また、FABP3 遺伝子欠損マウスでは黒質緻密
部ドパミン神経細胞における α シヌクレインの多量体及び凝集体の形成も有意に抑制さ
れた。野生型マウスでは MPTP 投与により、α シヌクレインと FABP3 のタンパク質発
現は有意に上昇し、α シヌクレイン凝集体と FABP3 の共局在が見られた。αSyn と
FABP3 の精製蛋白質を用いて結合実験を行ったところ、これらが複合体を形成すること、
また、FABP3 が αSyn の多量体形成を促進することが明らかになった。 PC12 細胞にお
いて FABP3 を過剰発現させることで、 MPTP の代謝物である MPP+ 処置及びアラキド
【考察】FABP3 はパーキン
ン酸処置による α シヌクレインの多量体形成が促進された。
ソン病を含むレビー小体病患者の血清において高発現しており、バイオマーカーとして
注目されている。さらに、ヒト及びげっ歯類においてアラキドン酸の過剰な摂取はパー
キンソン病のリスクを増大させることが示唆されている。今回の結果より、黒質ドパミ
ン神経細胞における α シヌクレイン凝集体形成の一因として FABP3 を介した細胞内へ
のアラキドン酸の取り込みが関与することが明らかになった。
30
一般演題(ポスター)
P-1
内在性トランスポゾンによる麹菌変異株の麹酵素活性と味噌醸造適性
○小笠原博信 1、渡辺隆幸 1、佐藤勉 2、今野宏 2、高橋砂織 1、五味勝也 3
1
秋田県総合食品研究センター、2(株)秋田今野商店、3 東北大院・農・生物産業創成
【目的】麹菌が保有している活性型 DNA トランスポゾン Crawler は通常の醸造条件下で
の転移は認められていないが、高濃度 Cu や高温ストレス処理により顕著な転移活性を示
す。我々はこの特性を実用株に利用した「組換えによらない」遺伝子改変育種法につい
て検討を行ってきた。これまでに、
「まるごと秋田味噌」に使用され、抗変異原活性や植
物組織の高分解活性を特徴とする味噌用麹菌 Aspergillus oryzae AOK139 株から、高温
処理によって wA(ポリケタイド合成酵素)遺伝子コード領域内に Crawler が転移挿入し
た白色分生子変異株(AOK139-WS61 株)が取得されている。新規育種法の実用性評価を目
的に製麹試験、小仕込みによる味噌醸造試験を行い親株との醸造適性比較を行った。
【方法】WS61 株の白色分生子形成など形質の安定性については、モデル種麹培養とプレ
ーティング培養を繰り返し行い、肉眼による復帰株の検出と wA 遺伝子領域の PCR により
確認を行った。製麹特性については、親株と WS61 株を麹蓋法により製麹し、酵素力価の
測定(キッコーマン製キット)、糖化試験および糖分析(DIONEX)により比較を行った。
味噌醸造試験は麹歩合 10 歩(原料大豆:原料米=1:1)、食塩 12%、仕込重量 8kg で
実施した。
【結果】(1)10 回の繰り返し培養においてプレート上および PCR でも WS61 株の復帰変異
株は検出されなかった。(2)麹蓋製麹における WS61 株の品温経過等の製麹特性は親株と
同等であったが、やや白色の出麹となった。(3)糖化力や ACP およびチロシナーゼなどの
米麹の酵素力価は親株と比較して大きな差は認められなかった。(4)糖化液のグルコース
量やマルトース濃度が高いという親株の特徴を有していた。(5)味噌熟成後のアミノ酸組
成に大きな差は認められなかったが、外観および色差計の測定結果から WS61 株を用いる
ことで淡色傾向となることが認められた。
以上の結果より、トランスポゾン Crawler を用いた遺伝子改変は、白色分生子変異以
外の形質は親株とほぼ同等であることが示され、新規実用株を得るための有効な手法で
あることが示唆された。
31
P-2
Adh3 と Nrf2 による GSH 依存的な協調作用
後藤 まき 1,2,5, 北村 大志 1, 澤 智裕 3,赤池 孝章 3, 長谷場 健 4, 秋元 敏雄 4, 山
本 照子 2,山本 雅之 5,本橋 ほづみ 1
1
東北大・加齢研・遺伝子発現制御、2 東北大院・歯・顎口腔矯正、3 東北大院・医・環境
保健医学、4 日本医大・医・法医、5 東北大院・医・医化学
Adh3 はアルコール脱水素酵素の中で種をこえた保存性が最も高い酵素であり、グルタチオンを利
用して NO やホルムアルデヒドを解毒し、その過程でグルタチオンを再生する。Adh3 は、グルタチ
オン再利用の促進を通して細胞内グルタチオン濃度を維持し、生体防御に貢献することが予想され
るが、その詳細は不明である。本研究では、生体防御におけるAdh3 の役割をグルタチオン代謝の側
面から明らかにすることを目的とした。まず Adh3 欠損胎児線維芽細胞(MEF)で総グルタチオンの
定量を行ったところ、総グルタチオンが有意に低下していた。Adh3 欠損および野生型MEF にBSO を
添加しグルタチオン合成を阻害して総グルタチオン量の半減期を測定したところ、前者で有意に短
縮していた。これらの結果から、Adh3 は細胞内グルタチオン濃度の維持に貢献していることがわか
った。次に、Adh3 の in vivo における生体防御への貢献を調べるために、活性酸素種の蓄積により
肝障害をもたらすメチオニン・コリン欠乏食(MCD)を 5 日間投与して、肝障害の発症を検討した。
Adh3 欠損マウスでは、
軽度の肝障害が認められた。
野生型マウスでは肝障害は認められなかったが、
グルタチオン産生と還元の鍵因子である Nrf2 が欠損し還元型グルタチオンの供給が低下した状態
では、Adh3 によるグルタチオン濃度維持機能の重要性がより明確になると予想し、Adh3::Nrf2 二重
欠損マウスを作成して同様のMCD 投与実験を行った。Nrf2 欠損マウスでは肝障害の発症はなかった
が、Adh3::Nrf2 二重欠損マウスでは極めて重篤な肝障害が認められた。また、Nrf2 の抑制因子であ
る Keap1 を欠損させた Adh3::Keap1F/-二重変異マウスでは MCD による肝障害は認められなかった。
Adh3 欠損によりグルタチオンの維持能が低下していても、グルタチオン産生能を増強させることで
肝障害を免れることができたと考えられる。これらの結果から、Nrf2 制御系と Adh3 が協調的に作
用してグルタチオン濃度を維持しているものと結論される。Nrf2 がグルタチオンの産生と還元を担
い、Adh3 がグルタチオンの再利用を促進するという協調作用が、生体防御に重要な役割を果たして
いるものと考えられる。
32
P-3
肝毒性物質に応答した肝保護にはたらく Nrf2 の役割
○田口恵子 1.2、本橋ほづみ 1、山本雅之 2
1
東北大・加齢研・遺伝子発現制御、2 東北大院・医・医化学
肝臓は再生能力が高く、障害を受けても機能を回復することができる。肝切除時には肝
細胞の増殖が亢進し、重篤な肝障害時には未分化なオーバル細胞が出現して肝再生に寄
与する。オーバル細胞は肝細胞と胆管細胞への分化・増殖能を有しており、肝幹/前駆
細胞とも呼ばれる。解毒代謝酵素や抗酸化タンパク質をコードする遺伝子群のマスター
制御因子である転写因子 Nrf2 は、肝切除後の肝再生を促進すると報告された。そこで、
我々は Nrf2 が重篤な肝障害からの肝再生も促進すると予想し、オーバル細胞出現モデル
として利用されている肝毒性物質 DDC 混餌食投与によりその検証を試みた。Nrf2 欠損
(Nrf2KO)マウス、野生型マウス、Nrf2 が恒常的に活性化した Keap1 ノックダウン
(Keap1KD)マウスおよび肝特異的 Keap1 欠損(Keap1CKO)マウスを用いて、DDC による
肝毒性とオーバル細胞形成を調べた。野生型および Nrf2KO マウスでは DDC 投与4週間後
まで著しい体重減少が認められたが、Keap1CKO マウスでは投与2週間後には投与前の体
重に回復した。DDC による肝肥大は Nrf2 存在量に依存しており、Keap1CKO マウスで最も
顕著であった。通常 DDC 投与1週間後に認められる血中肝障害マーカーやビリルビン値
の増加は、Keap1CKO マウスでは低く抑えられた。DDC 投与による肝臓へのポルフィリン
沈着も、Keap1KD および Keap1CKO マウスで著しく軽減した。これらの結果から、Nrf2 の
安定化・活性化は、DDC による肝毒性を軽減し、肝肥大を促進することがわかった。一方、
DDC 投与により出現する門脈周囲の胆管様管状構造は、Nrf2KO および Keap1CKO マウスに
おいて増加した。これに一致して、DDC による胆管細胞マーカーKeratin19 の誘導がみら
れた。DDC により上昇するオーバル細胞特異的マーカーTrop2 の発現は、Keap1CKO と野生
型マウスに有意な差は認められなかった。したがって、Nrf2 は肝再生にはたらくオーバ
ル細胞の形成ではなく、肝毒性物質の解毒代謝を促進することにより、肝細胞保護に貢
献するものと考えられた。
33
P-4
ヒト IL-6 遺伝子 BAC(大腸菌人工染色体)レポーターマウスを用いた in vivo
イメージングによる炎症状態モニターリングシステムの開発
高井 淳 1、○林 真貴子 1、于 磊 1、本橋ほづみ 2、森口 尚 1、山本雅之 1
1
東北大院・医・医化学、2 東北大・加齢研・遺伝子発現制御
慢性炎症は、ガン、糖尿病、多発性硬化症、慢性関節リウマチや、アトピー性皮膚炎
などの様々な疾患の病態メカニズムに密接に関わっている。インターロイキン6(IL-6)
はこれら慢性炎症に伴う病態形成に関わる炎症性サイトカインのひとつであり、リンパ
球、マクロファージ等の免疫細胞以外に、線維芽細胞や神経細胞などからも産生されて
いる。 IL-6 遺伝子の発現は様々な感染症や炎症性刺激により誘導され、感染防御や自己
免疫による炎症反応の誘導に関わる。我々は、IL-6 遺伝子の持つ炎症性刺激に対する高
い反応性を利用し、非侵襲的に動物個体内での炎症状態をモニターできるレポーターマ
ウスラインの開発に取り組んだ。まず、ヒト IL-6 遺伝子座を含む BAC(大腸菌人工染色
体)DNA を準備し、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を相同組み換えにより、IL-6 遺伝
子翻訳開始点に合わせて挿入した。次に、この組み換え BAC DNA 構築を用い、マウス
受精卵雄性前核へのマイクロインジェクションにより、3ラインの IL-6 BAC LUC レポー
ターマウスラインを樹立した。いずれのマウスラインにおいても、LPS(リポポリ多糖)
投与刺激による全身での炎症の惹起が、ルシフェラーゼ活性の in vivo イメージングにて
観察された。マウスから臓器を取り出して後の、ルシフェラーゼ活性 ex vivo イメージン
グ観察においては、脳、肺、胸腺を含む各種臓器において、LPS 刺激によるルシフェラ
ーゼ活性の誘導が観察された。
我々は、環境化学物質暴露によるアトピー性皮膚炎症状を再現するモデル動物として、
恒常的活性型芳香族炭化水素受容体(AhR-CA)過剰発現マウスを樹立した。本マウスの
皮膚での炎症症状の推移を、IL-6 BAC LUC マウスとの交配によりルシフェラーゼ活性に
て観察した。AhR-CA:: IL-6 BAC LUC 複合マウスでは、生後4週以降の皮膚炎症状進行
と相関して、ルシフェラーゼ活性が増強していくことを確認した。以上の結果から、IL-6
BAC LUC マウスは、動物個体内での炎症状態をモニターする評価系として非常に有用で
あり、慢性炎症に伴う各種疾患の病態メカニズムを解明するために、重要な役割をはた
すと考えられる。
34
P-5
酵母ユビキチンリガーゼ Rsp5 変異株のストレス感受性を利用した2種のスクリ
ーニング系の比較
○渡部 涼 1、上杉祥太 2、渡辺大輔 3、川村悠実 1、高木博史 3、木村賢一 1,2
1
岩手大院・農、2 岩手大院・連合農、3 奈良先端大・バイオ
【目的】酵母 Saccharomyces cerevisiae に存在する 5 種の HECT 型ユビキチンリガーゼ
のうち、唯一生育に必須である Rsp5 の機能欠損変異株(rsp5A401E 株)は、高温(37℃)
やプロリンの毒性アナログ L-azetidine-2-carboxylic acid(AZC)などのストレスに対
して野生株より高い感受性を示す 1)。本研究では、ストレスによる rsp5A401E 株の生育阻害
を回復させる物質の探索、及びその作用メカニズムを明らかにすることを目的とした。
【方法・結果】細胞数を 3.5×105/ml に調整した rsp5A401E 株に、高温ストレス(YPD 培地、
37℃、30 h → 28℃、2 days)または AZC ストレス(SD 培地+0.1 mM AZC、28℃、3 days)
を誘導し、各標準阻害剤(324 種)の生育回復活性を評価した。その結果、高温ストレス
では calcineurin 阻害剤の FK506 などが、一方、AZC ストレスでは電子伝達系複合体Ⅲ阻
害剤の antimycin A などがそれぞれ生育回復活性を示した。すなわち、同じ rsp5A401E 株
を用いているにも関わらず、誘導するストレスによりその生育を回復させる物質が異な
った。高温ストレスに関しては、calcineurin 経路の CNB1 遺伝子または CRZ1 遺伝子の破
壊により rsp5A401E 株の感受性の低下が確認され、実際に生育回復活性を指標として、
calcineurin 阻害活性を有する dehydroabietic acid などが単離できたことから、本スク
リーニング系が calcineurin 阻害剤の探索に有効であることが判明した 2)。一方、AZC ス
トレスに関しては、AZC がストレス応答転写因子 Hsf1 の活性化を介して細胞周期を停止
させることが知られており 3)、HSF1 遺伝子の過剰発現株において antimycin A の生育回
復活性が消失し、その活性は CNB1 遺伝子の破壊によっても低下した。以上の結果から、
本スクリーニング系が電子伝達系複合体Ⅲ阻害剤の探索にも有効であり、その作用は
calcineurin 経路の活性化や Hsf1 の不活性化などが関与している可能性が示唆された。
1) C. Hoshikawa, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 11505-11510 (2003).
2) S. Uesugi, et al., FEMS Yeast Res., in press.
3) E. W. Trotter, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7313-7318 (2001).
35
P-6
Doxorubicin耐性K562細胞を用いたグアニンヌクレオチド交換タンパク質(guanine
nucleotide-exchange protein; GEP)のP-糖タンパク質発現における役割の検討
○蓬田 伸1、染谷明正2、菅野秀一1、冨澤亜也子1、長岡 功2、石川正明1
1
東北薬大薬物治療学、2順天堂大院・医・生化学・生体防御学
【目的】ARF-GEP100は、ARF(ADP-ribosylation factor)を活性化する因子として発見
され、細胞機能に関与することが知られている。最近、ARF-GEP100が、乳がん細胞に
おいてARF6を活性化することで、乳がん細胞の浸潤や転移に関係することが報告されて
いる。一方、P-糖タンパク質 は抗がん剤に対する多剤耐性を獲得したがん細胞において
発現しており、様々な抗がん剤を細胞外に排出輸送することから、多剤耐性因子として
位置づけられている。そして、P-糖タンパク質の抗がん剤排出機能を阻害することによ
り多剤耐性の克服が期待されている。そこで今回我々は、K562細胞を用いて薬剤耐性化
に伴うP-糖タンパク質の発現にARF-GEP100が関与しているかを代表的な抗がん性抗生
物質であるDoxorubicin(DOX)を用いて耐性細胞を作製し検討した。
【方法】ヒト白血病細胞株であるK562細胞を低濃度のDOX存在下で継代培養し、耐性細
胞を作製した。ARF-GEP100およびP-糖タンパク質の発現は、特異抗体を用いてWestern
blottingで検討した。
【結果・考察】DOX を処理した K562 細胞における ARF-GEP100 や P-糖タンパク質の
発 現 を経 時的 に 確認 した 。 その 結果 、 P- 糖 タン パ ク質 の発 現 が確 認さ れ ると、
ARF-GEP100 の発現が増加することが確認された。一方、P-糖タンパク質が発現されて
いる耐性細胞に DOX を処置しても、ARF-GEP100 の発現量には変化は認められなかっ
た。さらに、P-糖タンパク質に対する抗体を用いて、免疫沈降を行ったところ、
ARF-GEP100 は P-糖タンパク質とともに共沈した。白血球の機能発言に ARF6 などの
低分子G タンパク質の関与が示唆されていることから、
これらに対する siRNA を作成し、
P-糖タンパク質と ARF-GEP100 の発現を検討したところ、ARF6 のノックダウンでは、
いずれのタンパク質の発現に変化が認められなかった。以上のことから、ARF-GEP100
は、P-糖タンパク質の発現にともなって増加し、ARF6 が関与しない pathway によって
P-糖タンパク質の発現に影響を与えることが示唆された。
36
P-7
インテグリンα2β1 のノックダウンによる気道ムチン MUC5AC 産生への影響
○伊藤 佑歩 1、岩下 淳 1、木村 大地 2、村田 純 1
1
秋田県立大院・生物資源科学研究科、2 秋田県立大・生物資源科学・応用生物科学科
【背景 目的】ヒトの気道表面は、糖タンパク質ムチンを主成分とする粘液に覆われて
おり、粘液層は異物からの生体防御に重要な役割を果たしている。ヒトでは少なくとも
19 種類のムチンサブタイプが知られており、気道では主として MUC5AC ムチンが分泌され
ている。MUC5AC の過剰分泌は気道を閉塞させ、喘息などの症状を悪化させる。従って、
ムチン産生のメカニズムの解明は呼吸器系疾患の予防や治療の観点から重要である。
これまで本研究室では、細胞外基質とムチン産生との関係を解析してきた。その結果、
Ⅳ型コラーゲン(Col4)上で培養したヒト肺癌上皮細胞株 NCI-H292 では、MUC5AC ムチン
の産生が減少することを見出した。Ⅳ型コラーゲン等の細胞外基質構成タンパク質と細
胞との結合に関与する代表的な分子は細胞膜上のインテグリンである。インテグリンは
αとβの二つのサブユニット構造から成り、αサブユニットは細胞外基質の認識を、β
サブユニットは細胞内へのシグナル伝達を担っている。
本研究では Col4 を認識する主要な受容体であるインテグリンα2β1 の MUC5AC 産生制
御における役割を検討するため、siRNA を用いてインテグリンβ1 とα2 の発現を抑制し、
MUC5AC 産生に与える影響について解析した。
【方法】底面を Col4 でコートした 96 穴プレート上にヒト肺癌上皮細胞株 NCI-H292 を播
種した。siRNA を用いてインテグリンβ1、或いはα2 の mRNA を分解し、MUC5AC 産生への
影響を検討した。
【結果・考察】Col4 上で培養した NCI-H292 細胞において、siRNA によりインテグリンβ
1 の発現を抑制した場合、コントロールと比較し、MUC5AC の産生量が増加した。一方、
α2 の発現を抑制した場合にはコントロールと比較し、MUC5AC の産生量は減少した。
以上の結果から、Col4 と結合する細胞膜上のインテグリンα2 及びβ1 は MUC5AC の産
生に関与することが示唆されたので報告する。
37
P-8
マウス ES 細胞の分化過程において出現するホメオティック遺伝子 Egam1C の発現
細胞系列を特定する
斎藤 耕一,○ 野中 愛純,佐藤 梓織,佐藤 由貴,菊地 貴裕,小林 正之
秋田県立大学大学院 生物資源科学研究科
【目的】 マウスにおける最初の細胞分化は 8 細胞期から桑実期にかけて開始する。私
達は,桑実期に発現量が増加するホメオタンパク質 EGAM1C を発見した(Saito et al.,
。
Biol Reprod 2010; Saito et al., Reproduction 2011; Iha et al., Reproduction 2012)
マウス ES 細胞をレチノイン酸処理により分化誘導すると Egam1C 発現量が増加するが,
どの細胞系列で発現しているかは不明である。そこで本研究では,ES 細胞の分化過程に
おいて Egam1C を発現する細胞系列を特定することを試みた。
【方法】 Egam1C プロモーター領域の下流に EGFP cDNA を連結して Egam1C プロモータ
ー・レポーターベクターを構築した。ベクターを ES 細胞に導入した後,レチノイン酸処
理による分化誘導を行い,EGFP 蛍光を指標として Egam1C プロモーター活性化細胞の形態
を観察した。Egam1C プロモーター活性化細胞における遺伝子発現解析を行うために,
Egam1C プロモーターの下流にピューロマイシン(Pur)耐性遺伝子を連結して Egam1C 発
現細胞選抜ベクターを構築した。ベクターを ES 細胞に導入した後,Pur 存在下でレチノ
イン酸処理により分化誘導した。分化誘導処理を行った ES 細胞を試料として RT-PCR を
行い,分化マーカー遺伝子の発現について検討した。
【結果と考察】 Egam1C プロモーター活性により発現が制御される EGFP 蛍光は,特定の
形態を示す分化細胞において観察された。Pur 耐性を指標として Egam1C プロモーター活
性化細胞を選抜したところ,EGFP 蛍光が観察された細胞と形態的に類似した細胞が選抜
された。この Egam1C プロモーター活性化細胞では,コントロールと比較して約 12 倍高
い Egam1C mRNA の発現が検出された。また,コントロールと比較して原始内胚葉マーカ
ー遺伝子発現量が約 3 倍高いことが判明した。一方,原始外胚葉マーカー遺伝子,栄養
外胚葉マーカー遺伝子の発現量はコントロールと比較して低レベルであった。以上の結
果から,ES 細胞をレチノイン酸処理により分化誘導した時に出現する Egam1C 発現細胞は,
原始内胚葉系列細胞であると考えられる。
38
P-9
マウス EGAM1 ホメオタンパク質群をコードする遺伝子のプロモーター解析
斎藤 耕一,○ 菊地 貴裕,福島 淳,佐藤 梓織,佐藤 由貴,野中 愛純,小林正之
秋田県立大学大学院・生物資源科学研究科
【目的】 本研究室では,マウス ES 細胞の未分化状態維持および細胞分化に関与する
EGAM1 ホメオタンパク質群(EGAM1,EGAM1N,EGAM1C)を発見した(Saito et al.,Biol Reprod
2010)。NIH3T3 細胞と比較して, ES 細胞における EGAM1 ホメオタンパク質群 mRNA の発
現量は高いことが判明しているが,差が生じる理由は不明である。そこで本研究では,
当該タンパク質群をコードする遺伝子のプロモーター解析を行った。
【方法】 スプライシングバリアントである Egam1 および Egam1N のプロモーター解析は
Egam1(N) 上流域,トランスクリプトバリアントである Egam1C のプロモーター解析は
Egam1C 上流域を用いた。それぞれの上流域が示すプロモーター活性に重要な領域を特定
するために,転写因子 Sp1/Sp3 推定結合配列へ変異を導入し,プロモーター活性を測定
した。また,ES 細胞および NIH3T3 細胞の核抽出物を試料としてゲルシフト解析,および
Sp1 および Sp3 に関するウェスタンブロット解析を行った。
【結果と考察】 Egam1(N)および Egam1C 上流域には, プロモーター活性に関与する領
域が含まれていることが示された。Egam1(N)プロモーター活性には,開始コドン上流
100 bp-200 bp に 2 箇所存在する Sp1/Sp3 結合配列が必須であること,Egam1C プロモー
ター活性には,開始コドン上流 100 bp-200 bp に 2 箇所隣接して存在する Sp1/Sp3 結合
配列が必須であることが判明した。またゲルシフト解析により,これら Sp1/Sp3 結合配
列には Sp1 および Sp3 が結合することが判明した。これらのことから,Sp1 および Sp3
は,Egam1(N)および Egam1C プロモーター活性を促進する転写因子として機能しているこ
とが考えられる。また,Sp1 および Sp3 の結合量,および核抽出物中のこれらタンパク質
量は,NIH3T3 細胞と比較して ES 細胞において約 10 倍多いことが判明した。以上の結果よ
り,ES 細胞の核内に多く存在する Sp1 および Sp3 が Sp1/Sp3 結合配列に結合して,
Egam1(N)および Egam1C プロモーター活性を促進することが考えられる。
39
P-10
新規鉄酸化細菌のゲノム構造と代謝様式
○福島淳、東條ふゆみ、小林弥生、浅野亮樹、志村洋一郎、岡野邦宏、宮田直幸
秋田県大・生資科
鉱山酸性排水や硫酸土壌、温泉などの硫酸酸性環境には一般的に鉄酸化細菌が存在し
ている。II 価鉄の生物的酸化は環境での鉄の移動性に寄与している。現在まで鉄酸化細
菌に関しては Proteobacteria (Acidithiobacillia 綱)に属する Acidithiobacillus
ferrooxidans がよく研究され、金属の生物精錬等に使用されている。またこの反応はプ
リント基板などの産業廃棄物からの金属回収にも応用されようとしている。現在まで鉄
酸化細菌は Nitrospira、Firmicutes、Actinobacteria や Proteobacteria に属するもの
が知られ、非常に多様な分類群に存在している。しかし実際に種として報告されている
ものは A. ferrooxidans 以外に A. ferrivorans 、 Acidiferrobacter thiooxydans 、
Thiobacillus prosperu、 Ferrovum myxofaciens などと少数であるため、新規の鉄酸化
細菌の探索を行った。その結果、秋田県仙北市玉川温泉下流の渋黒川の堆積物から全く
新しい Betaproteobacteria に属すると考えられる鉄酸化細菌 GJ-E10 株を集積培養によ
り分離した。この GJ-E10 株は酸性環境(pH 2.2−3.5)で生育できる独立栄養菌である。
16S rRNA 遺伝子配列の解析から、Burkholderiales 目に含まれると考えられた。本菌を、
以降 Burkholderiales bacterium GJ-E10 と呼ぶ。 本菌は既存の科には分類できず、新
規性が高いため、我々はこの菌のゲノム構造の解析を試みた。ここでは三種の次世代シ
ーケンサを使用した。すなわち PacBio RS II、Illumina HiSeq1000、Roche GS JR.であ
る。それらのデータをアッセンブルしたところ、1つの Contig を得る事ができた。MiGap
パイプラインより 3099 の CDS 領域が検出された。また、KEGG パイプラインによる解析
から、1553 個の遺伝子の機能が推定され、還元的 TCA サイクルによる炭素固定能、窒素
固定能に関する遺伝子が同定された。
40
P-11
Treponema denticola メチオニン γ-リアーゼの酵素活性測定と結晶化の検討
◯佐藤裕也、毛塚雄一郎、野中孝昌
岩手医大・薬・構造生物
歯周病原細菌の持つメチオニン γ-リアーゼ (Methionine γ-lyase, TdMGL) は、L-メチオ
ニンを基質として、メチルメルカプタン、2-ケト酪酸およびアンモニウムイオンを生成す
る。メチルメルカプタンは腐敗野菜臭を持つ気体であり、歯周病患者が示す口臭の原因
物質であるだけでなく、歯周病を進行させる一因とも考えられている。歯周病原細菌に
おけるメチルメルカプタン産生機構の解明を目指し、酵素学的解析および立体構造解析
を進めている。
本研究課題では、
歯周病原細菌である Treponema denticola MGL (TdMGL) を試料とし、
その大量調製のために mgl 遺伝子を含むプラスミドを使って大腸菌を形質転換した。
TdMGL は GST (Glutathione S-transferase) 融合タンパク質として大量発現させ、アフィニ
ティーカラムにより一次精製を行った後、プロテアーゼにより GST タグを切断した。次
いで、イオン交換クロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーを経て精製酵素を
得た。これを試料としてメチルメルカプタンと等量生成される 2-ケト酪酸を定量する系
により酵素活性測定を行った。L-メチオニンを基質とした場合、回転数 kcat が 5.0 [sec-1]、
ミカエリス定数 Km が 0.4 [mM]という酵素学的パラメーターが得られた。同じく歯周病原
細菌として知られる Fusobacterium nucleatum MGL (FnMGL) の示すパラメーターと比較
した結果、Km に数倍の差がみられ、TdMGL は FnMGL よりも基質との親和性が高いこと
が確認された。
これと並行して、TdMGL の構造機能相関を明らかにするため、分子モデリングにより
モデル構造を構築するとともに、ハンギングドロップ蒸気拡散平衡法を用いた結晶化を
進めている。
41
P-12
HeLa 融合細胞(CGL1 及び CGL4)からのエクソソーム分泌の検討
○澤田 栞、奈良場 博昭、佐京 智子、川口 未央、北川 隆之
岩手医大・薬・細胞病態生物学
我々は、これまでに HeLa 細胞と正常線維芽細胞の融合細胞系である CGL1 細胞(非腫
瘍性)と CGL4 細胞(腫瘍性)を用いた比較検討から、糖輸送タンパク質(GLUT3)の特
異的発現や特定のタンパク質リン酸化酵素阻害剤(GSK3Ⅸ)の感受性の差異等を見いだ
し、これらが、抗腫瘍効果における新たな分子標的となる可能性を検討してきた。また、
近年、多くの細胞がエンドソーム由来の分泌小胞を細胞外に排出していることが報告さ
れ、これらエクソソームが病態生理に関わる可能性が注目されている。特に腫瘍細胞に
由来するエクソソームをバイオマーカーとしての活用することも検討されている。本研
究では、CGL1 及び CGL4 細胞を用いて、エクソソームの分泌を検証し、それに対する GSK3
阻害剤による影響を検討した。
これまで報告してきた様に、GSK3Ⅸに対して CGL4 は CGL1 より高い感受性(細胞致死
性)を示すことが確認された。また、GSK3Ⅸ添加によりβカテニンの細胞核への蓄積が
核タンパク質を用いた検討から明らかとなった。更に、このβカテニンの核への集積は、
細胞免疫染色による核及びβカテニンの二重染色からも確認された。
次に、蛍光リン脂質(N-Rh-PE)を用いてエクソソームの分泌を解析した。低温環境で
全細胞脂質を N-Rh-PE を用いて標識し、その細胞に由来し培養上清に分泌されたエクソ
ソームについて蛍光強度を指標に解析した。その結果、CGL1 及び CGL4 における分泌の時
間経過に大きな違いは認められなかったが、両細胞とも GSK3Ⅸ添加により、エクソソー
ムの分泌は用量依存的に強く抑制された。しかし、siRNA によりβカテニンの発現を阻害
した場合でも、この GSK3Ⅸによるエクソソームの分泌抑制作用は影響を受けなかった。
以上から、エクソソームの分泌経過は、腫瘍性及び非腫瘍性細胞における差異は認め
られなかったが、共に GSK3Ⅸにより強く抑制され、エクソソームの分泌に GSK を介した
細胞内情報伝達が関与することが示唆された。しかし、この作用は、βカテニンの核移
行とは無関係と考えられ、今後、そのシグナル系の解析が必要であると思われた。この
機序の解明は、エクソソームの分泌機構を明らかにすることにつながると考えられた。
42
P-13
ラットザイモサン胸膜炎モデルにおけるエクソソームの検出
○鈴木 隆宏、大坊 拓、柴田 健太郎、奈良場 博昭、佐京 智子、川口 未央、
北川 隆之
岩手医大・薬・細胞病態生物学
近年、様々な細胞から分泌された小胞(エクソソーム)が、生体制御系に関わること
が示唆されている。エクソソームの関与が注目される疾患としては、がん等の腫瘍性疾
患が挙げられるが、我々は免疫性疾患における役割に関して注目してきた。特にマクロ
ファージにおいて、抗原提示や生体防御における関与を検討している。我々は、これま
でにマウス腹腔に誘導したマクロファージを in vitro で培養し、そこから分泌されるエ
クソソームにプロスタグランジン E2 の産生に関与する酵素群(シクロオキシゲナーゼ-2
や膜結合型プロスタグランジン E 合成酵素)が存在することを見いだしており、エンド
トキシン刺激によるその発現上昇も確認している。今回は、急性炎症のモデルとしてラ
ット胸膜炎における炎症性滲出液及び血中でのエクソソームの検出を検討した。また、
蛍光ラベルしたエクソソーム局所投与による検出法の確立も試みた。
微量生体成分からのエクソソームの回収と免疫沈降法を利用したタンパク質の検出方
法を検討したところ、エクソソームのマーカー分子である Tsg101 が血中由来のエクソソ
ーム分画において認められ、その量はザイモサンの投与により胸腔に炎症を惹起した場
合に増加した。そして、シクロオキシゲナーゼ 2 は、炎症を起こしたラットの血中のエ
クソソーム分画にのみ検出された。しかし、炎症局所である胸腔滲出液のエキソソーム
分画には、tsg101 もシクロオキシゲナーゼ 2 も検出出来なかった。
赤外蛍光色素にて標識した培養細胞由来のエクソソームのラットの皮内に投与し、そ
の動態に関してホールボディイメージングシステムを用いて検出したところ、エクソソ
ームが比較的長時間にわたり局所に留まることが示唆された。この手法は、エクソソー
ムの炎症性病態における役割の解明において、有用な手法となることが考えられた。シ
クロオキシゲナーゼ 2 の発現が炎症を惹起したラットの血中のエクソソーム分画にのみ
検出されたことは、エクソソームが局所の炎症を全身性の反応にまで広げる新たな制御
系として機能していることを示唆する可能性があると考えられた。
43
P-14
Caco-2 細胞における GSK-3 阻害剤の GLUT3 発現抑制と細胞増殖抑制
○三浦 佳奈子、佐々木かな恵、佐京 智子、川口 未央、奈良場 博昭、北川 隆之
岩手医大・薬・細胞病態生物学
糖は栄養素として細胞増殖に必須であり、糖輸送タンパク質を介して細胞内に取り込
まれることが知られている。促進型糖輸送タンパク質(GLUTs)は現在 14 種類程度のファ
ミリーメンバーが報告されている。それぞれが発現する臓器・組織には特異性があり、
近年、多くのがん細胞で GLUTs ファミリーの過剰発現が報告され、がんの標的分子とし
て注目されている。
本研究室では、ヒト子宮頸がん由来 HeLa 細胞とヒト正常繊維芽細胞の腫瘍性融合細胞
において、腫瘍化に伴う GLUT3 の過剰発現を見出した。そこで、GLUT3 発現を指標とした
腫瘍性 CGL4 細胞選択的に増殖阻害効果を示す抗がん剤候補薬のスクリーニングを行い、
GSK3 阻害薬が腫瘍性 CGL4 細胞選択的に細胞増殖阻害効果を示され、同時に、GLUT3 タン
パク質の発現抑制することを明らかにした。
本研究では、GSK3 阻害剤の他のがん細胞への効果を調べる目的で、GLUT3 を過剰発現
するヒト大腸がん由来 Caco-2 細胞を用いて検討を行ったところ、GLUT3 の発現抑制と細
胞増殖抑制が確認された。さらに Caco-2 細胞における GSK3 阻害剤による GLUT3 の発現
抑制が細胞増殖抑制効果と直接的に関連しているのかを明らかにするため、Caco-2 細胞
における GLUT3、GLUT1 のタンパク質発現を抑制し、細胞増殖に与える影響を検討した。
RNA 干渉により GLUT3、GLUT1 の発現をそれぞれ抑制し、細胞増殖性を比較したところ、
いずれの場合もアポトーシスの誘導や細胞増殖の抑制は確認できなかった。
今回の検討で、GSK3 阻害剤による Caco-2 細胞の増殖抑制に GLUT3 発現抑制は直接的に
関与せず、他の制御因子が存在する可能性が示唆された。Caco-2 細胞における GLUT3 発
現の抑制による直接的な細胞増殖抑制は確認できなかったが、現在、GLUT3 発現状態の異
なる大腸がん細胞に対する GSK3 阻害剤の有効性と、GSK3 阻害剤による in vivo 細胞増殖
抑制メカニズムについて検討中である。
44
P-15
メタボリックシンドロームモデルラットの特性解析と DNA メチル化解析のための
腎糸球体内皮細胞の分取
○小泉 友輝、三浦 陽香里、川崎 靖、千葉 侑希、米澤 正、杉山 晶規、名取 泰博
岩手医科大学・薬学部・衛生化学講座
肥満と高血糖、高血圧および脂質代謝異常を伴うメタボリックシンドロームは、循環
器疾患および肝脂肪疾患等の危険因子である。近年、生体内での栄養環境は“Metabolic
Memory”として、エピジェネティクス変化を介して記憶されることが提唱されている。
しかし、エピジェネティクスによる遺伝子発現制御の中でも DNA メチル化の解析は、細
胞種毎に DNA のメチル化が詳細に決定されており、異種細胞が混在していると解析が困
難であるなどの理由からあまり解析が進んでいない。本研究ではメタボリックシンドロ
ームが、腎臓の DNA メチル化にどのような影響を与えるか解析する目的で、長期飼育し
たメタボリックシンドロームモデルラットの特性解析と、メタボリックシンドロームの
影響を直接受ける腎糸球体血管内皮細胞に着目し、その分取を行った結果を報告する。
高血圧で肥満を発症するメタボリックシンドロームモデルラット(SHR/NDmcr-cp/cp)、
その対照群として高血圧発症ラット(SHR/NDmcr-+/+)と正常ラット(WKY/Izm)を通常飼料
にて 15 カ月間飼育し、経時的に体重、血糖値、尿中タンパク質量の測定と屠殺時の肝臓、
腎臓および脂肪組織の重量を測定した。その結果、メタボリックシンドロームモデルラ
ットは正常ラットと比べ、体重および脂肪組織重が 1.7 倍および 4.8 倍と、著しい肥満
を示した。しかし、これらの期間では血糖値の上昇はみられず、体重も上昇し続けてい
た。次に、種々の細胞群から成り立つ腎糸球体より、糸球体内皮細胞を分取するために、
血管内皮細胞特異的な CD31 を指標に、フローサイトメトリーを用いて細胞分取を行い、
血管内皮細胞が分取できたかを定量的 PCR により実証した。CD31 陽性細胞は 90%以上の
純度で分取でき、腎皮質、糸球体および CD31 陽性細胞における、血管内皮細胞、メサン
ギウム細胞およびポドサイト特異的な遺伝子の mRNA の発現を定量的 PCR により解析した
結果、血管内皮細胞特異的な von Willbrand factor の著しい発現が確認された。現在、
糸球体血管内皮細胞の DNA メチル化について解析中であり、その結果を合わせて報告す
る。
45
P-16
腎がん治療薬によるオートファジー誘導と細胞膜タンパク質 CRIM-1 の発現変化
○田沼孝仁 1、秋浜沙織 1、杉山晶規 1、菊池彩菜 1、小笠原信敬 1、川崎靖 1、米澤正 1、宮
城洋平 2、名取泰博 1
1
岩手医科大学・薬・衛生化学、2 神奈川がんセ・臨床研・がん分子病態
ソラフェニブやテムシロリムスは、転移性腎がんの治療薬として利用される分子標的
薬である。ソラフェニブは Raf キナーゼや VEGFR など多くのキナーゼ阻害活性により、
テムシロリムスは mTOR キナーゼ阻害活性により抗がん活性を発揮する。一方、メトホル
ミンはビグアナイド系糖尿病治療薬であるが、メトホルミン服用者のがん発生率が低い
ことから抗がん剤としての効果も期待されている。しかしながら、その抗がん活性の分
子メカニズムは明らかとされていない。そこで本研究では、ソラフェニブ、テムシロリ
ムス類似体のラパマイシン、及びメトホルミンによる腎がん細胞へのオートファジー誘
導と CRIM1 タンパク質の発現変化について解析した。細胞の増殖は、程度の差はあるが
いずれの薬剤の処理によっても抑制された。ソラフェニブ処理あるいはメトホルミン処
理では、オートファゴソーム形成に必要な LC3-Ⅱタンパク質の発現増加が見られ、オー
トファジー発生が認められたが、ラパマイシン処理では LC3-Ⅱは増加せず、オートファ
ジー発生は認められなかった。一方 CRIM1 は、さまざまな腎がん細胞で見られ、CoCl2 が
誘導するオートファジーを抑制する可能性が考えられているが、この CRIM1 の発現は、
メトホルミン処理では、調べたすべての腎がん細胞での低下が、ソラフェニブ処理では、
5 株中 1 株の腎がん細胞での低下が認められたが、ラパマイシン処理では低下せず、むし
ろ増加が認められた。一方、オートファジー実行に関わる Beclin 1 をオートファジー抑
制因子から遊離させることが知られている CRIMBP-4 の発現は、ソラフェニブとメトホル
ミン処理では増加しなかったが、ラパマイシン処理では増加した。以上より、腎がん細
胞におけるソラフェニブ誘導性オートファジーには CRIM1 と CRIMBP-4 システムには関係
なく、メトホルミン誘導性オートファジーには CRIM1 の発現低下が関与すること、一方
ラパマイシンは、腎がん細胞にオートファジーを誘導できないが、これには CRIM1 の発
現の上昇が関与している可能性が示唆された。
46
P-17
細胞膜タンパク質 CRIM-1 の細胞内ドメイン結合因子の探索と機能解析
○菊池彩菜 1、杉山晶規 1、田沼孝仁 1、秋浜沙織 1、寺澤徹 1、千葉まなみ 1、島礼奈 1、北
田正美 1、柏崎郁美 1、石田舞 1、工藤有未 1、川崎靖 1、米澤正 1、宮城洋平 2、高橋悟 3、
名取泰博 1
1
岩手医科大学・薬・衛生化学、2 神奈川がんセ・臨床研・がん分子病態、3 武庫川女子大
学・薬・免疫生物
CRIM1(cysteine-rich motor neuron 1)は 1 回膜貫通型の膜タンパク質である。CRIM1
は胎盤や腎臓などの組織で高発現していることが報告されており、腎の正常発生に必須
な因子であると考えられている。CRIM1 には、934 個のアミノ酸からなる長い細胞外ドメ
インと 76 個のアミノ酸からなる短い細胞内ドメインがある。細胞外ドメインでは BMP や
VEGF などと結合することが報告されているが、細胞への刺激を細胞内へどのようにして
伝えているかについては不明である。そこで本研究では CRIM1 の細胞内ドメインに結合
するタンパク質を酵母の 2-hybrid sysytem を用いて探索した。300 万個の cDNA をスクリ
ーニングした結果、転写調節因子、細胞死制御因子、細胞骨格タンパク質、細胞接着因
子などを含む 33 種類のクローンが得られ、CRIMBP-1~33 と名付けた。これらのうちアポ
トーシスやオートファジーの実行に関わる因子として報告されている CRIMBP-4 について
解析を行った。CRIM1 の CRIMBP-4 を介した機能を解析するために、まず、さまざまな腎
がん細胞におけるこれらの発現をウエスタンブロットで調べた。A498、ACHN、Caki-1、
SN12C、TK10 など調べたすべてのがん細胞で CRIM1 の発現が見られたが、HK2 や 293 細胞
での発現は認めらなかった。一方、低酸素処理と類似の効果を持つ CoCl2 処理をこれらの
細胞に行うと、CRIM1 の発現は処理時間及び処理濃度依存的に低下したが、CRIMBP-4 の
発現は増加した。さらにオートファゴソーム形成に必要な LC3-Ⅱタンパク質やリン酸化
型 Beclin 1 タンパク質の発現増加がみられ、CoCl2 処理によりオートファジーが発生し
ていた。CRIMBP-4 は、Bcl-2 結合型 Beclin 1 を Bcl-2 から遊離させることが知られてい
る。これらのことから CRIM1 は、細胞内ドメインで CRIMBP-4 と結合し、Beclin 1 遊離能
を阻害することでオートファジーの抑制に関わっていることが示唆された。
47
P-18
小胞体ストレス誘導タンパク質 Herp のユビキチン非依存プロテアソーム分解機
構解析
○阿部ちひろ、鄒鶤、藤田融、劉俊俊、劉姝余、前田智司、駒野宏人
岩手医科大学 薬学部 神経科学講座
Homocysteine-induced ER protein(Herp)は小胞体ストレスにより誘導される小胞体
局在タンパク質である。Herp は、小胞体関連分解(ERAD)を促進する事で小胞体を保護
する蛋白質であると考えられている。また、Herp は ERAD に関与している小胞体局在 E3
ユビキチンリガーゼである Synoviolin/Hrd1 と相互作用し、さらに、当研究室において
Synoviolin により分解される事を明らかにした。しかしながら、ユビキチン化の標的ア
ミノ酸であるリジン残基が Synoviolin 依存 Herp 分解に関与していないことが示唆され
た。さらに、すべてのリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体(Herp9KR)において
もユビキチン化およびプロテアソームでの分解が観察された。そこで、Herp の分解には
リジン残基以外のアミノ酸のユビキチン化、または、ユビキチン非依存プロテアソーム
分解系の少なくとも 2 つの分解機構の関与が考えられた。本研究では、ユビキチン非依
存プロテアソーム分解系が Herp の分解に関与しているか検討を行った。その結果、NADH
quinone oxidoreductase 1(NQO1)が関与するユビキチン非依存プロテアソーム分解系で
の Herp の分解および、NQO1 との相互作用が認められた。一方、Herp の N 末端側に位置
する ubiquitin like domain(ULD)を欠失させた変異体(∆Ub-Herp)では分解の促進は認め
られなかった。しかしながら、∆Ub-Herp と NQO1 との相互作用は観察された。以上の結
果より、Herp の分解にはユビキチン非依存プロテアソーム分解系の関与が示唆された。
また、ULD の欠失により分解が抑制されたことより、ULD がプロテアソームとの相互作用
に重要であることが考えられた。今後は、NQO1 が関与しているユビキチン非依存的プロ
テアソーム分解系の詳細の検討と Synoviolin との関係について解析を進めていく予定で
ある。
48
P-19
小胞体ストレス誘導タンパク質 Herp の分解機構の解析
○七木田理乃、鄒鶤、藤田融、劉俊俊、劉姝余、前田智司、駒野宏人
岩手医科大学 薬学部 神経科学講座
Homocysteine-induced ER protein(Herp)は小胞体ストレスにより誘導される小胞体
局在タンパク質である。Herp は、小胞体関連分解(ERAD)を促進する事で小胞体を保護
する蛋白質であると考えられている。また、Herp は ERAD に関与している小胞体局在 E3
ユビキチンリガーゼである Synoviolin/Hrd1 と相互作用することが報告されている。そ
こで、本研究では、Synoviolin が Herp の分解に関与しているか Synoviolin 欠損細胞を
用いて解析を行った。その結果、Synoviolin の欠損細胞において野生型と比較して Herp
タンパク質レベルの増加が観察された。さらに、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘ
キシミドを用いて Herp の安定性の解析を行った。その結果、Synoviolin 欠損細胞では、
Herp の分解の遅延が観察され、プロテアソーム阻害剤でも Herp の分解が抑制された。こ
れらの結果から、Synoviolin 欠損細胞で観察される Herp タンパク質レベルの増加は、
Herp の分解が抑制され Herp が細胞内に蓄積したために生じたと考えられた。次に、
Synoviolin 依存の Herp の分解においてユビキチン化されるリジン残基の同定を行った。
その結果、すべてのリジン残基が Synoviolin 依存の Herp 分解に関与していないことが
示唆された。また、すべてのリジン残基をアルギニンに置換した変異体(Herp9KR)を用い
てユビキチン化の検出およびプロテアソームでの分解について検討を行った結果、
Herp9KR においてもユビキチン化およびプロテアソームでの分解が観察された。以上の結
果より、Herp の分解に Synoviolin が関与していることが明らかとなり、その際、Herp
上のリジン残基は関与していないことが示された。さらに、Herp の分解にはリジン残基
以外のアミノ酸のユビキチン化の関与が示唆された。今後は、Herp 分解に関与するリジ
ン残基以外のアミノ酸のユビキチン化の同定を進めていく予定である。
49
P-20
飢餓および加齢に伴う線虫腸細胞内膜構造の動的変動の観察
○上川原麻弥 1、鈴木成惇 1、錦織健児 1、丹治貴博 1、松浦絵里 2、小笠原勝利 2、石田欣
二 2、遠山稿二郎 2、白石博久 1、大橋綾子 1
1
岩手医大・薬・生体防御学講座、2 岩手医大・医歯薬総合研・超微形態科学研究部門
線虫 C. elegans の腸はわずか 9 組 20 個の大型細胞から構成されており、その細胞内
には性質を異にする複数種の顆粒状オルガネラ(以下、腸内顆粒)が存在する。これら
の腸内顆粒は、貯蔵や代謝・分解の場として個体の恒常性維持に関与していると予想さ
れるが、細胞や個体の生理機能に及ぼす腸内顆粒の役割に着目した研究は進んでいない。
我々は、細胞内ペプチド輸送体と予想される ABC 輸送体 HAF-4、HAF-9 が局在する機能
未知の腸内顆粒(HEBE (HAF-4/HAF-9-enriched body evanescent with age)顆粒)
(Kawai
et al. (2009) Mol. Biol. Cell, Tanji et al. (2013) Biochem. J.)を中心に、各種
腸内顆粒に着目した研究を進めている。これまでに、飢餓条件下で HEBE 顆粒が減少する
こと、また、通常飼育条件下では加齢に伴って HEBE 顆粒が減少し、脂質顆粒が増加する
ことを見出している。そこで、透過型電子顕微鏡を用いて、腸内顆粒の飢餓、および加
齢に伴う微細構造の形態学的変動を観察した。
まず、餌(大腸菌)の無い環境で 0、1.5、3、5、21 時間飼育した成虫 1 日目の個体を
比較し、飢餓条件下の腸細胞内膜構造の変動を調べた。その結果、細胞の飢餓応答に特
徴的なオートファゴソームよりもむしろ、HEBE 顆粒の崩壊過程と予想される特徴的な顆
粒が顕著に観察された(3 時間)
。更に、HEBE 顆粒の殆どが消失した後(5 時間)
、歪な半
月状の膜構造体が出現した(21 時間)
。次に、通常飼育条件における加齢変化について、
成虫 1、3、4、5、7、10 日目の個体を観察した。3 日目には、飢餓時に観察された崩壊過
程と思われる HEBE 顆粒に加え、目玉焼き様の新たな構造体の増加も認められ、10 日目に
向けて徐々にそれぞれの顆粒の比率や形態に変動が観察された。これらの結果は、栄養
条件や日齢に応じた消失・新生を伴うダイナミックな腸細胞内膜構造の変動の存在を示
しており、腸内顆粒の物質的基盤の解明に向けた今後の生化学・分子生物学的解析にあ
たり、その種類や動態を把握する上で有益な知見が得られた。
50
実行委員メンバー
世話人
高橋砂織、穂坂正博
広報・ホームページ担当
樋渡一之
財務担当
堀
プログラム担当
後藤 猛、杉山俊博、小林正之、小代田宗一、
小泉幸央
会場担当
小笠原博信、岡野桂樹、福島
岩下 淳、横田早希
一之
51
淳、水野幸一、
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