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第5回「高齢者クラウド」シンポジウムを開催いたしました。

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第5回「高齢者クラウド」シンポジウムを開催いたしました。
第5回
「高齢者クラウド」シンポジウム
我が国は、総人口の 25%以上が 65 歳以上のシニア層で占められる超高齢社会を
迎え、2055 年にはシニア層が 40% を超える見込みです。しかしながら、最近の調査
によると現在のシニア層は 20 ∼ 30 年前と比べると心身ともに 10 歳以上も若くなっ
ているという報告があります。それは、視点を変えると元気高齢者が活躍できる社
会をつくることで、人口ピラミッドを再逆転し、超高齢社会において安定した社会
構造を構築できると見ることができることでもあります。
東京大学はIBMと連携し、超高齢社会において元気シニアの社会参加と就労を
支援するICT基盤、
「高齢者クラウド」の研究開発を、( 独 ) 科学技術振興機構 (JST)
の研究成果展開事業【戦略的イノベーション創出推進プログラム】(S- イノベ ) の一
環で展開しております。今年で 4 回目を迎える本シンポジウムは、科学技術振興機
構と合同で開催し、S- イノベにおける「高齢社会を豊かにする科学・技術・システ
ムの創成」に関する招待講演と研究発表、そして、
「高齢者クラウド」が提唱するモ
ザイク型就労についてシニアの視点、ビジネスの視点から議論を行うべく、招待講
演とパネルディスカッションを展開しました。
開催概要
2015年12月7日(月)
日経カンファレンスルーム ( 日経ビル6F )
主催:東京大学
後援:
東京大学大学院・博士課程教育リーディングプログラム
「 活力ある超高齢社会を共創するグローバル・リーダー養成プログラム」
協力:
日本バーチャルリアリティ学会
超高齢社会の VR 活用研究委員会
総合進行
檜山 敦
東京大学 特任講師
目次
はじめに 「高齢者クラウド」の展開
2
廣瀬 通孝 東京大学 教授
小林 正朋 日本アイ・ビー・エム株式会社 リサーチ・スタッフ・メンバー
招待講演
日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
13
坪田 知巳 日本アイ・ビー・エム株式会社 常務執行役員
講演後パネルディスカッション
廣瀬 通孝 東京大学 教授
浅川 智恵子 日本アイ・ビー・エム株式会社 IBM フェロー
講演1 柔軟なワークスタイルを支える ICT
30
テレワーク普及の現場から
田澤 由利 株式会社ワイズスタッフ 代表取締役 ,
株式会社テレワークマネジメント 代表取締役
ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
曽根 秀晶 ランサーズ株式会社 執行役員
地域高齢者の就労と ICT
セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
矢冨 直美 一般社団法人セカンドライフファクトリー 代表理事
講演2 ジョブマッチングとワークスタイル
52
高齢者クラウド × サーキュレーション
シニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
久保田 雅俊 株式会社サーキュレーション代表取締役
講演後パネルディスカッション
シニアワーカ・ミドルワーカ・サイドワーカの方々を交えて
有賀 貞一氏・伊熊 克裕氏・竹居 淳一氏
講評
伊福部 達 東京大学 名誉教授 64
はじめに
「高齢者クラウド」の展開
廣瀬 通孝
東京大学 教授
プロジェクトマネージャー/
研究リーダー
このプロジェクトのシンポジウムでは毎回申し上げていることでありますけれど、プロジェ
クト自身が見ているタイムスケールは 2050 年くらいです。2050 年というのは何が起こるかと
いうと、現在の人口統計の中で働くと言われている人――15 歳くらいから 65 歳くらいですが
――その人たちの人口比が半分を割ってしまう。それが 2050 年ぐらいになります。そのとき
ICT
(情報通信技術)
に何ができるのか、
ということを考えていきたいのです。最初にこのプロジェ
クトのスタンスを申し上げておきたいのですが、65 歳以上の人が今のような考え方で社会に関
与していく限りにおいては、つまり 65 歳まで働いて、その先はハッピーリタイアメントじゃな
いですけれども、ちょっとおまけみたいな形で人生を生きているというようなスタイルで考え
ている限りにおいては、たぶんこの国の未来はないだろうということ。これがこのプロジェク
トの一番大きなスタンスです。
最近この考え方に賛同してくださる方たちが、特に行政に増えておりまして、つい最近も経
済産業省で審議官クラスの方がお話しに来られて、
「高齢社会対策」と我々が言っているのはそ
もそも問題じゃないかと。むしろ高齢社会をすでに織り込み済みのところで、何か考えておか
ないといけないのではないか。例えば、我々が死ぬってことはすでに織り込み済みですよね。
それで人生を考えていくわけですが、ちゃんと働いて高齢化して、辛い時間を乗り切ってとい
うふうな感じの考え方ではもうだめなんじゃないか。特に人生 100 年時代――それはちょっと
まだ先にしても、2050 年にはもしかしたらそれくらいになっているかもしれません――そうす
ると 50 歳くらいが折り返し点になるわけです。そうすると人生二毛作時代、そういう話が当然
出てくるわけですね。
ちなみに、ここに「二周目の人生設計」という本があります。これは石井威望先生という工
学の先生が書かれた本です。この方は実は僕の師匠です。1990 年にご退官されたのですが、ご
退官のときにこういう本を書かれているのですよ。それで不肖の弟子としては「あ、先生も退
官だからこういう本を書くんだ」とは思ったものの、本自体はほとんど意識していなかったの
ですが、今になって読み返してみるとさすがに師匠はすごいなと思います。そのときは人生 70
4
年時代を迎えていたのですけれども、当時は 60 歳リタイア時代で、そこで、60 歳のその先と
いうのをちゃんと考えて二周目を考えないとだめだと。そのために ICT というのはすごい力が
あるのだと。アマゾンなどで探してみても絶版になっているのですが、もしどうしても読みた
いっていう人があればうちの研究室に何冊かありますのでお貸しすることは可能だと思います。
最初にざっくりと話した
わけですが、この方をご存
じですか? 学生は知ってい
ます ?
うちの研究室であれば絶
宮脇俊三
• 1926年12月9日 • 1945年 • 1946年 • 1951年
対知らなければいけないの
ですが(笑)
、ご存じの方
いますか?「鉄ちゃん」だっ
たら絶対知っていると思う
のですが、宮脇俊三さんと
いう人です。この人は「鉄
ちゃん」というか、いわゆ
る鉄道マニアで、中央公論
• 1978年6月30日
埼玉県川越市に生まれる。
東京帝国大学理学部地質学科に入学(19)
文学部西洋史学科を再受験、合格。
東京大学文学部西洋史学科卒業。(24)
中央公論社(現在の中央公論新社)に入社。
建築家を目指しいったん退社するも再び中央公論社に復帰。
以後編集者として活躍し、『中央公論』編集長に就任。
その後『婦人公論』編集長、開発室長、編集局長などを歴任。
「世界の歴史」シリーズ、「日本の歴史」シリーズ、「中公新書」などに関わる。
常務取締役編集局長を最後に中央公論社を退社。 (51)
退社理由としては『時刻表2万キロ』の上梓に際して生じた自己矛盾を挙げている。
1978年7月10日
• 1978年
• 1981年
• 1985年
• 1992年
• 1999年
国鉄全線完乗の旅をつづった『時刻表2万キロ』で作家デビュー。
『時刻表2万キロ』で第5回日本ノンフィクション賞受賞。
『時刻表昭和史』で第6回交通図書賞受賞。
短編小説集『殺意の風景』で第13回泉鏡花文学賞受賞。
『韓国・サハリン鉄道紀行』でJTB第1回紀行文学大賞受賞。
第47回菊池寛賞受賞。気力・体力に限界を感じ、休筆宣言。
• 2003年2月26日
東京都内の病院で没する。享年76。戒名「鉄道院周遊俊妙居士」。
死去の報道は葬儀が済む3月になるまで差し控えられた。宮脇の死が発表されると
!
世田谷区の自宅に多くのファンが詰め掛け、自宅周辺はちょっとした混乱状態になった。
社という出版社の常務取締
役までやった方です。石原
慎太郎さんが作家をやっていたころ、編集者として石原さんの本を出したりしたのですが、51
歳のときに辞めるのですね、会社員を。それで作家になったわけです。で、このあと我々が知っ
ている宮脇俊三の快進撃が始まるわけです。
「時刻表 2 万キロ」といって、まあ、会社にいると
きからずっと「鉄ちゃん」ですから一貫してやってきたのだろうと思うのですが、そこから紀
行作家になった。亡くなったときには朝日新聞の特集が出て、
いろんな雑誌で「宮脇俊三を悼む」
みたいな感じで、またそんな感じの本が出たりしていました。この方なんかは、まあ本関係と
いう意味では同じなのですが、50 歳までの人生と 50 歳以降の人生がまったく変わったわけで
す。それが、一周目、二周目ということにつながるわけです。非常に特殊な人だというふうに
お考えかもしれませんけれども、ただ翻って考えると、我々は技術屋である。で、基本的に技
術というのは、
昔は王侯貴族とか非常に特殊な人たちだけが「あ、
いいね」と思っていたものを、
凡人のレベルと言っては失礼ですが、そういうところに落としてくる。昔は海外へ行くという
のは非常に大変だったのが、航空機という技術ができて、もうどこのあんちゃんだろうが外国
に行ったことがある、という時代をつくる。それが技術だと考えているわけであります。
最初のつかみで話が長すぎたかもしれませんが、こういう考え方でもって我々はプロジェク
トを運営しているわけです。ICT はこういった状況の中で何ができるだろうか、というのが高
齢者クラウドです。先ほど申し上げたように、現状としてはこれから高齢者の方たちがマジョ
リティになっていくわけですが、マジョリティ化した高齢者の方たちというのがとにかくアク
ティブに社会に関与していくことが必要になっていくわけで、そのために一体何ができるだろ
うか、ということを考えるのです。
例えば「働く」ということを考えてみたときに、高齢者の方たちはある意味においてはこの
まま働き続けられればいいわけだけれども、ただ生物学的限界ってやつがあって、1 週間に 2
回ぐらい病院にちょっと行かないといけないという状況になるかもしれないし、例えば技術者
はじめに 「高齢者クラウド」の展開
5
であれば、技術が陳腐化してしまっているから――蒸気機関車の設計者でも、蒸気機関車の職
場はもうないわけですから――新しいところに適応していくということも考えなければいけな
いのです。そういうことを考えてみたときに、クラウド型のメディアというかコンピュータが
あると、利用するのが非常に難しいような労働者を組み合わせることによってバーチャル化す
ることができる。それによって、
利用するのが簡単な労働者を、
「労働者」という言い方もちょっ
と変ですけれども、バーチャルヒューマンというのをつくることができるのではないか、とい
うのが基本的なアイデアです。
こういうのを我々は「モザイク型」就労と言っています。要は、我々の持っている才能であ
るとか、働く力であるとか、興味であるとか、知識であるとか、そういったものをどうやって
組み合わせていったら、社会に働くことができるだろうかということです。そこに ICT の力が
使えるのではないか、
というのはいま申し上げたとおりでありますが、
いろんな意味があります。
さっき申し上げたように、一週間のうち何日かは働けるのだけれども、この日とこの日はだめ
――例えば月曜日と火曜日は働けるという人と、水、木、金がオーケーだという人を合わせれ
ばフルタイムの労働ができるわけだから、時間的なばらつきを平準化することができるのでは
ないか。これを時間モザイクと言っています。それから、空間モザイクというのは、極端な話、
物理的に外に出るのが難しいとか、すぐ近くだったらいいのだけれども、という人がいたとき
に、
遠方と何かをつなぐ技術が使えるかもしれない。そういうのを空間的なモザイクと言います。
それから、これが一番おもしろいのですが、人の能力はさまざまなので、A という能力がある
人が使われる職場は限られている、その A と B という能力の人と組み合わせればいいことがあ
るのではないかというときには、A さんと B さんを組み合わせて第三の労働力をつくることが
できるかもしれない、というのをスキルモザイクと言います。
そういうふうにネットを介して何か活動することによって、いままでのリアルワールドでで
きないことができるはずだから、というのが我々のひとつのアイデアになります。そのために
はどんなテクノロジーが要るだろうかということを我々は模索しているわけです。ひとつは
「ク
ラウドソーシング」で、これはネットの中で小さく労働することによってたいそうなことがで
きるという意義を持っています。それから「テレプレゼンス」というのは、ネットワークを使
6
うことによって、遠方から空間を越えて人がいろいろ働くことができる。
「ジョブマッチング」
というのは、どの人とどの人を組み合わせると最適な結果が出るか、ということを考えていく
技術です。これらの三つの技術でプロジェクトを推進しております。
プロジェクトを始めて 5 年も経つと、社会的な環境がとにかく整ってきて、プロジェクトを
始めた当時は「クラウドソーシングって何?」って話だったのですけれども、最近はもうクラ
ウドソーシングによって働いている人たちが――これは高齢者という意味ではないですが――
ものすごく増えてきている事実がございます。これはかなりの量です。これはランサーズとい
うクラウドソーシングの大手の実績です。
テレプレゼンスも、テレビ
会議が今もう実用化されてい
ますが、そのテレビ会議を越
テレプレゼンス技術の進展
フォトリアリスティックアバタ
えるその先ですよね。例えば
こういうアバターの技術。こ
れはオバマさんですけれど、
もうこれほどリアルです。こ
テレプレゼンスロボット
の人がテレビを介して何か政
策を言ったら、本人が言って
いるのではないかと感じられ
るぐらいリアルな人間像をつ
くることができるわけだし、
ロボットで空間の中に参加す
ることも、かなり安い値段で
できるようになってきたので
す。そんな状況も捉える必要
があります。
そ れ か ら、 こ れ は IBM の
有名な Watson ですけれども、
最近これはやり過ぎじゃない
かってくらいに AI がブーム
になってきています。いろん
な推論エンジンを使うとジョ
ブマッチングなんか非常にう
ま く い く の で は な い か。 そ
ういう社会的な状況が整って
きているということでありま
す。
結局、シニア人材に対してこの三つの技術を使って何がやりたいかというと、ひとつは比較
的いままで家に引きこもっていた、そもそも社会に対して影響を与えていなかった人に外に出
ようと言う、すなわち非アクティブなシニアをアクティブなシニアにする。それからいま既に
働いておられるのだけどそれをさらにスーパーにするという、そういう二つのことができるの
ではないかということです。
はじめに 「高齢者クラウド」の展開
7
「高齢者クラウド」が目指す価値
非アクティブな方たちをアク
ティブにする、またアクティブ
な方たちをさらにスーパーアク
ティブにすることによって、社
会の中に関与してない、今まで
ですと 65 歳以上は完全にリタイ
アメントという話ですけど、社
会の中のアクティブな層をずっ
と下のほうに下げていこう、と
いうのが我々の考えであります。
プロジェクトも 5 年目になっ
(超)アクティブシニアの裾野を拡げる
てくると、
「ほんとにこれできる
のか?」みたいな話がずいぶん
言われるようになってきました。幸いにして技術的なところはある程度できるということが見
えているのですね。一方、これをどうやって社会実装していくかということが、ひとつの重要
な課題になってきているわけです。
これは、IBM がどうやって
けるかという話を勝手に東大で考えた例ですけれど、例えば、
元気な人なんかは、シニアマッチング事業者に登録しておくといい働き口が見つかって、それ
でより大きな収入を得ることができるから、おそらくこういったビジネスモデル(モデル 1)
はあるでしょう。今日お話いただくサーキュレーションは既にそういうサービスを提供してい
ますし、IBM がビジネスツールを提供することによってひとつの産業生態系ができていくでしょ
う。こちらの例(モデル 2)はそもそも働いてないような方たちをどういう形で結んでいくか
ということですけれども、例えば上の方、新しいテレワークのスタイルでクラウド的な働き方
を供給するような企業が出てくると、こういう形でクライアントから手数料をもらって、そこ
から報酬を与える、という形のビジネスモデルが考えられるかもしれません。完全ではないで
すけれども、このような形。それから、もうちょっと弱い人たちには少し福祉という考え方を
入れていかなければいけないのかなとも思いますし、こういうお金の回り方というのも考えて
いく必要があるわけです。
時間がだいぶ過ぎてしまいましたけれども、あと 10 分ぐらいで小林さんから具体的に、今
年 1 年ぐらいに関して、こういうことをやっているというお話をしていただきたいと思います。
8
小林 正朋
日本アイ・ビー・エム株式会社
リサーチ・スタッフ・メンバー
代わりまして、こんにちは。日本 IBM の小林と申します。本日 35 歳になりました。研究開
発プロジェクトとして着々と技術開発や実証実験を進めておりますので、その一部をこれから
ご紹介したいと思います。ジョブマッチング、クラウドソーシング、テレプレゼンスという三
本柱で研究開発を進めておりますというお話をしたのですけれども、それぞれ実証実験を進め
ておりまして、スキルジョブマッチングに関してはこのあと登場いただきますけれども、株式
会社サーキュレーションと一緒にやっております。また、クラウドソーシングについては、図
書校正クラウドソーシングの実験を日本点字図書館と国立国会図書館と一緒にやっておりま
す。また、テレプレゼンス遠隔講義の実験もやっております。
「高齢者クラウド」社会実証
・スキル-ジョブマッチングプロトタイプ評価実験
株式会社サーキュレーション
ジョブ
マッチング
・クラウドソーシング図書校正実証実験
日本点字図書館 国立国会図書館
クラウド
ソーシング
・テレプレゼンス遠隔講義実験
西宮市清瀬台自治会 仙台シニアネットクラブ
テレ
プレゼンス
まず、スキルジョブマッチングのプロトタイプシステムについての評価実験です。株式会社
サーキュレーションはエグゼクティブなシニア人材をクライアントに紹介するお仕事をなさっ
ているのですけれども、そういった人材は非常に多様な経歴、バックグラウンド、能力を持っ
ています。それをまた非常に曖昧なクライアントの要求とマッチングしなければいけないとい
はじめに 「高齢者クラウド」の展開
9
うことで、そういった定型フォームに納まりきらないような多様性のあるデータをうまくマッ
チングするようなシステムを、東京大学のユーザインタラクション技術と IBM のテキストアナ
リティクス技術を使って実現しようとプロトタイプシステムをつくっています。
人材を探し出そうとするとき、コンピュータと人間、それぞれに得意、不得意があります。
つまり、コンピュータを使って自然言語で書かれた経歴書をマッチングすると、コンピュータ
というのは全部のデータを漏れなく分析することに長けていますので、その多様な人材の中で
もきわだった特徴を引き出すことに非常に得意な面があります。一方で人間の場合は、この人
はだいたいこういう分野のこういう案件にちょうどいい人だなという感覚があって、どちらが
いいかというと、案件によって違うのです。どういう風にマッチングをするかというのがマッ
チング担当者のノウハウ、暗黙知ですので、人間が感覚を使ってマッチングするような検索軸
を横軸に、コンピュータが全体のテキストデータを考慮してマッチングしたような結果を縦軸
に置く二次元のビジュアライゼーション技術を使います。横軸の下のほうには、人間が見ると
実は良い人、ただコンピュータにはなかなか見つからないような人材というのが出てきますし、
右上のほうには、コンピュータにとっても人間が見ても良いような人材、左上のほうにはコン
ピュータが見ると良い人材、人間にはなかなか気づけないような人材が分布するというような
仕組みで、サーキュレーションにご協力いただいて、2タイプのユーザに試してもらいました。
片方は普段から人材のマッチングをしている人材コンサルタントの方です。もう片方は、普段
はマッチング業務をなさっていないアシスタントの方々です。その2タイプのユーザに試して
もらったところ、人材コンサルタントの方がこのシステムを使ったときによりよい結果を引き
出せた。つまり、人材コンサルタントの暗黙知、ノウハウをうまくこのシステムで引き出せた
と考えております。このシステムは今後も引き続き実証実験を進めていく予定でございます。
ヒューマン&マシン協調マッチングプロセス
人間:一般的なスキル領域による絞り込みが得意
コンピューター:個々人の際立ったスキルの発見が得意
UI
Y
2 10
10
!
!
10
X
二つ目、クラウドソーシングの図書校正について。障害者用の音声読み上げ図書のテキスト
データをつくるということですけれども、そのデータをつくる際に、本をスキャンして光学文
字認識エンジン(OCR)にかけて、その認識結果を人の手で校正して、完成版の読み上げ用テ
キストをつくるということをしております。ただ、校正の部分が非常に手間のかかる作業でご
ざいまして、そこをクラウドソーシングでインターネットを介して大勢の方に参加してもらう
ことで効率化しようということです。例えば、どんな校正があるかと言いますと、OCR エンジ
ンが苦手な文字――人間が見ればすぐに分かるのだけれども、機械にとってはちょっと似てい
るように見える文字――というのがあって、例えば、「あ」 と 「わ」 という平仮名は難しいです。
あるいは印刷の文字がつぶれていたりすると、「愛」 という漢字が「憂」という漢字になってし
まったり、「福」という漢字が「禍」になってしまったり、「日本」 という文字が 「呆」 という字
に誤認識されることもあります。こういった誤認識がひとつひとつ出てきますので、それを大
勢の方ががんばって校正するというような仕組みです。
これまでクラウドソーシングを知らなかったというような高齢者の積極的な参加を動機付け
るため、ソーシャルな気持ち、コミュニティの気持ちを刺激するように工夫しています。2013
年から 2 年以上継続しているのですが、これまでに一般参加の数が 500 名以上で、そのうち
34%が 60 歳以上の高齢者でございます。最高齢が 85 歳で、今まで校正された冊数が計 1,100
冊ということですけれども、こちらの波線はこれまでの参加者の推移を表していて、このよう
に一定の参加者を獲得することに成功しております。なんでもないことのように見えるのです
けれども、こういったプロジェクトをやると大抵最初は流行るのですが、そのうち流行らなく
なってしまうということが非常に多いので、このプロジェクトの場合はうまく継続を引き出せ
たのではないかと考えております。もう少し詳しく年齢分布を見るとこんな感じです。60 代が
最も多くて、40 ∼ 60 代がボリュームゾーンですけれど、全体として高齢者が多い。単に人数
が多いだけではなくて、高齢者の年齢の高い方ほど非常に熱心に貢献してくださるということ
も分かってまいりました。トップ
10 の貢献者のうちの 7 人が 60 歳以
上、3 人が 80 歳以上となっており
本格展開フェイズ(2015年4月1日∼)運営体制
ます。この取り組みは、昨年度まで
は日本点字図書館での実証実験と
いう位置付けでしたが、今年度から
は日本点字図書館と国立国会図書
館の協働事業という形で展開を進
めております。このプロジェクト、
参加募集中ですので、ご興味のある
方は「みんなでデイジー」で検索し
てみてください。
最後、遠隔講義実験ですね。仙台の先生と西宮にいる高齢者をテレプレゼンスでつないでタ
ブレットの使い方を教えてあげる ICT 教室の試みです。テレプレゼンスロボットを導入すると、
ロボットの実体があることによって、仙台と西宮の間の心理的な距離が縮まって非常に親近感
が湧きますということ、またロボットの身体があることで困っている生徒を見つけやすくなる
とか、先生に対して「ちょっと教えてください」と話しかけやすく、コミュニケーションが取
りやすくなるということがありました。
以上は昨年もご紹介した実験結果ですけれども、こういったシステムを使っていますと、教
はじめに 「高齢者クラウド」の展開
11
室のように大勢の方と遠隔でつながってコミュニケーションを取る場合に、みんなの声がワー
と集まってしまって、一人ひとり個別にサポートしようとしても誰と話しているのか分からな
いという課題が出てきました。そこで新しく「音声ズーミング」というタブレット上でどの辺
の音を聞くか、うまく指で範囲を絞ってあげるとその人と話せるようになる仕組みを開発しま
した。試してみたところ、実際にうまく使われて、ICT 教室では全員に説明する講義の時間と
個別のサポートが必要になる実習の時間が交互に発生するのですが、実習の時間にうまく範囲
を絞って、一人ひとりをケアしてあげることができて、受講生の側でも嬉しいし、先生の側で
もうまく教えることができて良かったという結果になっております。
こういった技術開発を進めていって、クラウドプラットホームの上に載せて提供したいと考
えております。こういったシステムというのは、技術自体は開発すればだんだんできてくるも
のですけれど、それを実際に使う、使われるコミュニティを作っていくことのハードルが高い
と言われています。テクノロジーがあることで、今までにないような新しい社会参加、仕事の
やり方が生まれてくると思いますし、まだ我々が気づいていないやり方があると思います。こ
の会場にはいろいろな立場の方がご参加なさっていますので、ぜひ今後の議論に参加していた
だければと思っております。
12
招待講演
日本郵政グループ・IBM・Apple による
高齢者向け生活支援サービス事業の概要
坪田 知巳
日本アイ・ビー・エム株式会社
常務執行役員
IBM の坪田でございます。今日伺っている IBM の社員、私以外はみんな研究開発部門の者で
すが、私は金融・郵政システム事業部長ということで営業部門に所属しております。
本日のテーマは超高齢化社会を支援する IT サービス・インフラについてです。こうした社会
的意義の追求と企業から見たビジネスの両立という意味合いにおいて、ひとつの事例として日
本郵政グループ、IBM、Apple 3 社による高齢者向け生活支援サービス事業をご紹介したいと思
います。この写真は、実は今年の 4 月 30 日にニューヨークで 3 人の CEO が集まって記者会見
をして世界にメッセージを出したときのものです。真ん中が日本郵政の西室社長、左が Apple
のティム・クック CEO、右が私どもの CEO のジニー・ロメッティーでございます。主な記者
会見の骨子は、3 つございまして、一つは IBM、Apple は高齢者に特化した使い易い高齢者向
け iPad を提供していきます。二つ目は、日本郵政は 2020 年までに日本国内の高齢者 4 ∼ 5
百万人に対して iPad サービスを提供していきます。三つ目、3 社の提携により高齢化社会の課
題に応じた生活サポート・サービスを提供していきますということです。ただ、あとで申し上
げますように、この 3 社だけで推進していくわけではなくて、こうした高齢者市場に対してこ
れから参入していく、サービスを提供していこうという企業ですとか自治体ですとかそういっ
たところとは広範に今後提携していく予定でございます。この発表の反響ですけども、実は日
本では、私どもが想定していたよりも反応は少なかったです。実はこのとき、たまたま、安倍
総理が一緒に渡米しておられまして、ちょうどタイミングが両院議員総会で、日本の総理とし
て初めての演説と生憎、生憎という言い方はよくないかもしれませんけど、重なってしまいま
して、翌日のメディアのトップニュースは全部安倍総理のほうにいっちゃいまして、これちょっ
と脇役のほうにいってしまいました。ただ、一方において海外での反響は、もうこれは想定を
はるかに超える反響がございました。グローバルでは 300 以上のメディアがこのニュースを掲
招待講演 日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
13
載してくれました。これは、ネットのメディアと合わせてですけれども、私もこの日ニューヨー
クにいましたが、あの 3 大ネットワーク、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャー
ナル、とかにも出まして、すごくこれを取り上げていただきました。やっぱり本当に海外の反
応っていうかこのこういう高齢化の問題に対しての熱さというのを非常に感じたわけです。
じ ゃ あ、 東 京 じ ゃ な く て な ぜ
高齢化は日本だけでなく世界的な問題
ニューヨークでやったのかというこ
とですが、このグラフにもあります
ように、日本がやっぱり高齢化の
トップ・ランナーということで、3
人の CEO が口を
えて言っていま
したのは、左側が、赤線が日本の高
齢化の推移で、左側が先進国との比
較、右側が途上国との比較です。い
ずれにしましても日本がトップ・ラ
ンナーで、先進国途上国に拘わらず
(出典)総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」
遅かれ早かれ同じような高齢化の問
題に直面するということで、日本で
1
作ったソリューションを IBM あるい
3社提携で取り組む高齢化社会の課題 ---- まとめ ----
は Apple のようなグローバル企業が
それを横展開していくというような
ことを背景にニューヨークで世界に
対してメッセージ致しました。実際、
今日もここでこういう形で講演させ
ていただいていますが、世界からも
講演の依頼が結構来まして、私、先
日もオーストラリアのキャンベラの
日本は世界一の高齢化先進国。今後いっそう深刻化。
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活力ある高齢化社会を創るために必要なことは、
! ����������� �����������������������
ICTで容易に解決 !?
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! �����������������������������
そこで、3社提携により「高齢者はICTが苦手」の壁を打破 !
学会で今日のようなお話をさせてい
ただきました。また 3 カ国ぐらい同
しかし高齢者はICTが使いこなせない・・・
(
(タブレット使用率は70才以上で4.5%未満
)
全国24,000の郵便局リアルネットワーク
高齢者アクセシビリティー技術とWatson
iPadのユーザーフレンドリーなアプリと圧倒的普及率
じような講演依頼が来ております。
やはり海外からの反応というのは日
本以上かなという感じさえしております。
最近このプロジェクトのお話を、セミナーですとか企業さんとかあちこちでよくお話しさせ
ていただいていますが、そのときはいつも最初の 3 枚くらいで高齢化社会の深刻さを分かって
いただくために数字のお話をしています。今日はだいたい専門家の方がお集まりなのでそこは
省きますけども、ただこれだけ少子高齢化の問題が世の中で騒がれているにも拘わらず、一般
のかたにお話しすると、それほど高齢化の問題を深刻に捉えていない方がほとんどだなという
気がしています。例えば、あの、今 4 人に 1 人が高齢者で、これが 10 年もすれば 3 人に 1 人
になるということをお話しすると、「えっ」という感じになりますし、小林さんはさっき 35 歳
になられたそうですけど、30 代の方に対して、2050 年になると高齢者の割合は 40% になって、
あなたがたこっち側の緑のほうに入るのですよと言うと、ちょっと深刻になってくるのですよ
ね。後でお話しするように、健康寿命のお話をして、だいたいみなさん、さっきも廣瀬先生の
14
お話もありましたけれど、65 歳ぐらいまでは、定年退職までは頑張って働いて、その後は有意
義に自分の好きなことを毎日して送ろうなんて、みなさん夢を抱いているわけですけども、そ
ういう人たちに対して日本の健康寿命というのはだいたい、あとでお話ししますように、72 歳
ぐらいなので、65 歳で定年したらだいたい健康で好きなことをできるのはたった 6 ∼ 7 年ぐ
らいなのですよというようなお話をするともっとますます深刻になられます。こう言う私も、
このプロジェクトに携わるまでは同じようなレベルだったのですけど、やはりいつも感じるの
は、とくに若い人に国民レベルでこの高齢化社会の進展の深刻さというようなものをもっと認
識、共有させていく必要があると強くいつも感じております。
それでこういう数字を出して、さ
てこれは何の数字でしょうという
高齢者世帯の推移
りません。実はこれは 2014 年の統
1,221
1,221万世帯
5,043万世帯
万世帯
ことを言うとたいていの方はわか
200
2012年
2010年
2014年
単独世帯(男)
3
0
2008年
者の独り暮らしということで、こ
単独世帯(女)
400
2006年
らし、その下が男性の独り、高齢
600
2004年
で、その下が女性の高齢者の独り暮
夫婦のみ世帯
800
2002年
ピンクが高齢者ご夫婦のみの世帯
1000
1998年
ラフにありますように、一番上の
その他の世帯
1200
1995年
高齢者のみの世帯の割合です。グ
1992年
計で日本のすべての世帯に占める
出展: 厚生労働省
平成26年 国民生活基礎調査
1400
の右肩上がりのグラフを見ますと、
もう既に家族が高齢者をケアしていくっていうような時代は不可能ということで、これからは
やっぱり社会全体が仕組みとして高齢者をサポート、見守っていかなきゃいけない、こういう
時代だろうということがこのプロジェクトを始めるきっかけ、動機になっています。
そうは言いましても、IBM も Apple も、ボランティア団体ではないですし、日本郵政も今回
上場して完全に民営、民間会社としてやっていきます。後でお話しするように、このプロジェ
クトにはいろんな民間企業も参加いただくことになっています。ですから、やはりビジネスと
招待講演 日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
15
して成立していかなきゃいけないというのが重要な課題だと思っています。
ところが、高齢者になればなるほど資産は、お金は持っているけども、高齢者になればなるほ
どお金を使いません。解決策というのはこの高齢者の資産を子供や孫の世代に移転していかな
きゃいけないと。そうしないと、高齢化社会になればやはり経済成長も鈍化していくというこ
とで、政府もやはり生前の贈与といいますか、資金を移転するための税制を変えることをして
いますので、そうした政策と一致するようなコンテンツ、金融のサービスを iPad を通じて提供
していこうと考えています。もう一つは、やはり高齢者自身にも、もっと消費意欲を掻き立てて、
もっと支出していただくことをやっぱり促すサービスも iPad を通じて提供していく予定です。
相続相談といったようなコンテンツも必要になってくると思います。なぜこう生前に資金を移
転していかなきゃいけないかと言いますと、相続税の対象となるような資金、資産を持って亡
くなられたかたは、今やもう 7 割くらい 80 歳以上の年齢が占めています。90 歳以上が 25% も
占めています。従いまして、高齢者が亡くなって相続する相手がまた高齢者だということです。
結局、日本、個人の総資産というものは 1,500 兆円あると言われていますけども、そのうちの 6
割を高齢者が保有していて、その資金が眠ったままになっているわけです。それが次の世代に
移転したとしても、またそれが眠ったままになるということで、相続に行く前に生前に資金を
例えば教育資金ですとか住宅資金でお金の要る世代に移していくことが必要ではないかと思っ
ています。政府も子や孫の教育資金に贈与する場合には今 1,500 万円まで非課税という税制改革
も行なっています。そういう政策とリンクしたサービスをしていかなきゃいけないと思います。
理想的には、移転された資産を子供が親のために使っていくサービスまでできればいいなと思っ
て、今流行の 3 世代マーケティングというのがありますけども、参加企業には 3 世代にわたっ
て囲い込みのマーケティングができるサービスの基盤を整えていこうという目標です。
今、この資産の移転が必要で、そういうサービスを提供したいという話をしました。次には
高齢者自身にもやっぱり消費を促して支出していってもらわないといけないということで、買
い物のサービスは潜在的に非常にニーズが高いと思っています。いわゆるネット・ショッピン
グに対するニーズは非常に高いと見ています。
ところが、見ていただいたらおわかりのように実態としては、例えばネット・ショッピングは、
ほとんど高齢者の利用はありません。
一般的には、私なんかも、高齢者
にとってはパソコンよりタブレットの
ほうが使い易いと思うわけですけど
も、実は逆で、高齢者にとってはタブ
年齢階層別ネットショッピング利用率
レットというのは非常に馴染みがない
デバイスになっています。であれば、
やっぱり高齢者にとって使い易いタブ
レットを普及させていく必要があるの
ではないかと考えています。それにつ
いては後ほどお話し申し上げます。タ
ブレットでこんなサービスがもし簡単
に使えるといくらまでお金を出します
かというのを高齢者に
ねた総務省の
2 年前のデータによると、例えばネッ
16
平成26年4月 総務省統計局調べ
4
ト・ショッピングで買った商品の
値段とかは入っていないいわゆる
基本料金だけで、総じて言えば、
月 額 1,000 円 か ら 2,000 円 ぐ ら い
高齢者のタブレット利用率は、他の年代と比べて極端に低い。
出展:総務省通信利用動向調査(平成26 年)
は基本料金として高齢者はサービ
スにお金を支払うと、タブレット
のサービスにお金を支払うという
高齢者のタブレット利用率
潜在的な意志は持っておられるの
かなと思っています。今はもっと
高いと思います。但し、先ほども
申し上げたように、使い易い iPad、
タブレットが前提ということは言
高齢者に使いやすいタブレットの普及が必要 !
5
うまでもありません。
今いろいろ総務省等が調べたサービスの内容をズラッとまとめましたが、IBM、Apple、郵政
3 社で調査した結果では、だいたい高齢者のニーズはこの 3 つに集約されます。守られている
という安心感、生活支援してくれるという便利さ、そして、家族や社会との繋がりです。これ
を高齢者の 3 大ニーズと位置づけています。ですから、この 3 つの領域に対して IBM、Apple、
日本郵政はこれからアプリケーションを充実させていく予定ですし、こういう領域に経験、ノ
ウハウを持った企業とか積極的な自治体と提携してやっていきたいと思っています。日本郵政
がどうしてこういう事業をやるのですかとよく、質問いただきまして、私から答えるのもおか
しな話ですけども、いつも郵政さんが答えておられることをご紹介致します。日本郵政は、11
月 4 日ご存じのように上場されました。メディアに載っていますが、一番大きな課題というの
は全国に 24,000 の郵便局があって、法律で決まっていますからユニバーサル・サービスを維
持していくことが前提です。いかに過疎地といえども郵便局を勝手に閉鎖するわけにはいかな
いという前提がございます。過去 10 年前に対して他の業種とくらべてリアル店舗数がどう変
わるかというと、郵便局はずっと 24,000 維持していきますが、
他の業種は、
全部、
リアルからネッ
トのほうに移ってリアル店舗はどんどん減っていきます。日本郵政もこの 24,000 の郵便局を
維持していくのは負担が非常に大きいことは事実ですが、一方において物理的に全国津々浦々
に 24,000 の郵便局のネットワークを持っている、こういう店舗を持っている業種はもう他に
なくなってきましたから、これを逆に強みとして活かしていきたいと考えています。郵便局を
今までの郵便事業だけじゃなくて、これからは生活支援をしていく、そういうサポート企業に
変革していくというのが成長戦略になっています。その一環として今ご紹介している事業をス
タートされたとお聞きしています。国のほうも、総務大臣のほうも、このプロジェクトに関し
て前回の国会でも答弁していただいたとおり、非常に期待を持っていただいております。こう
いう期待に応えていかなければいけないな、と強く感じているところであります。
ここからは、iPad が提供するコンテンツの中身を少し具体的にお話ししたいと思います。健
康不安を抱えて家族や社会からの疎外感を感じているような高齢者に対しては家族、地域社
会、郵便局による見守りサービスというのを提供していきます。例えば、買い物難民、買い物
弱者ともいいますけども、健康上の理由でとか、近隣にお店がないとかといった理由で買い物
に行けない買い物難民と呼ばれるかたが今 700 万人と言われています。これは年々増えていっ
ています。こうした高齢者に対して買い物の代行サービス、お届けサービスを提供していきま
す。画面を見せるのは今回初めてですけども、見守りサービスの画面です。高齢者が持ってい
る iPad の画面でなくて見守る側の郵便局のスタッフのかたが持っている iPad の画面です。写
招待講演 日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
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真で郵便局と契約している見守り対象の高齢者が載っていて、iPad に最後に接触した時間が
載っています。接触といっても触るだけじゃなくて iPad が定期的に呼びかけてくる、それに
対して何も反応しない、こういうことも含めて、iPad と接触した時間が表示されています。24
時間以上 iPad との反応がない人に対しては、場合によっては家族のスマホに通知が行く、場
合によっては郵便局の方が自宅に訪問するというフォローの仕組みを作っています。
IBM 独自の高齢者向けアクセシビリティでは、あまり研究職の方がいる前で、結構特許が関わ
るのでお話しはできませんが、1 つだけ事例を挙げると、例えば 1 つのサイトでアプリケーショ
ンの画面を展開していって、普通若い人でしたらスムーズに操作できるのですが高齢者に限っ
て必ずと言っていいほど画面のこの場所で行き詰るところがあるということが研究で分かって
います。そういう場合、例えば我々でしたら、知っている人に
ねたりコールセンターに電話
したりして解決していきますが高齢者は一切そういうことをしません。分からなかったらもう
それで iPad を諦めて置いちゃうのです。一回置いちゃったらもう使えないということで二度
と iPad は手にしません、という傾向が非常に顕著です。ですから、Watson の技術を使いまし
て、高齢者がここで今行き詰ったと iPad が判断したら iPad から声でガイダンスを出していく、
こういう仕組みを取り入れていく予定です。勿論、基本的な画面の字を大きくしたり画面を声
で読み上げたりということもアクセシビリティの機能ですけども、Watson を使った特徴的な
機能も今後装備していく予定です。
今お話ししたようなことは、既にこの 10 月から全国 1,000 人の高齢者のみなさんに実際に
テストで使っていただいています。その模様を 3 分間にまとめたものがありますので、ご覧い
ただきたいと思います。
(動画 URL:https://youtu.be/Zrqi4eK3F3o) →
ということで、また 10 月からのテストでは、短期間ですけ
どもご利用いただいている高齢者には、非常に手前味
ですけ
ど、好評です。特に、iPad がいろいろ ねてくる、ご機嫌伺い
等も含めまして、健康確認をしてくることに関しては高齢者に
とっては非常な驚きだという声もございます。
今のビデオでも後半ありましたように、次の試みもスタートしておりまして、11 月 18 日に
東京でこのプロジェクトのバージョン 2 を発表致しました。このバージョン 2 は今のビデオで
も後半に少しお話ししたのですが、健康寿命延伸ビジネスへのチャレンジを目標に掲げていま
す。健康寿命というのは高齢者が健康で誰の手助けも借りずに自立して生活していける年齢と
定義しています。最近ちょっとメディアでもこの言葉時々耳にするようにはなったのですが、
元々は去年の安倍内閣の成長戦略に盛り込まれています。ただ、この健康寿命を伸ばすビジネ
ス・モデルがなかなかまだ大きな成功例が見当たりません。
ご承知のように平均寿命は日本が群を抜いて世界で一番なわけです。ただ、健康寿命に関し
てはさほどでもない。平均寿命から健康寿命を差し引いた期間がこの横の棒の長さになってい
ます。日本はこれが世界で群を抜いて 11 年。11 年間誰かの手助けを借りながら生活していか
なければいけない。この平均の期間が 11 年間ということです。これは高齢者にとっても幸福
なことではないですし、国の財政負担という意味からしましても、この期間に医療費、介護費
が集中するわけですから財政的にも非常に大きな問題があります。ですから、もう毎年日本の
平均年齢が伸びているのですが、平均年齢が伸びたからと言って喜んでばかりはいられないと
いうのが今の実情でございます。
18
60.0
65.0
70.0
75.0
平均寿命
健康寿命
80.0
85.0
83.0
72.0
11.0年
私たちは、
➀ 安心かつ不自由のない老後生活に貢献します。(4月30日発表)
➁ 健康寿命の延伸に貢献します。(11月18日発表)
前半でお話ししたのはこの 11 年間、人の手を借りて生きていかなければいけないこの 11 年
間に対して見守りのサービスですとか買い物サービスとかを提供していくアプリケーションを
充実させていくお話をしました。このバージョン 2 では、この健康寿命をいかに伸ばしていく
かということにチャレンジしていく予定であります。タブレットのサービスでやはり健康管理
に対するニーズはなかでも非常に高い値を示しています。この健康寿命を伸ばしていくための
最大の敵が実はここにあります生活不活発病だと言われています。生活不活発病っていうのは、
例えば、きょうも 1 日 1 歩も家の外に出なかったとか、きょうも 1 日誰とも会話をしなかった、
あるいは 1 日中朝昼晩と食事は冷蔵庫の残り物を、同じ物を摂りました、というのが典型的な
生活不活発病です。この生活不活発病がとくに言われるようになったのは東日本大震災を契機
にしています。事例として載せましたけども、南三陸町のケースでは、3,000 人の高齢者を調
査した結果、震災後に元気だった高齢者が仮設住宅等に入りまして、そのうちの 24% がたっ
健康的自立性の維持=生活不活発病が最大の敵
招待講演 日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
19
た 7 ヶ月で歩行困難を感じるようになったというデータが出ています。これも一番大きな原因
は生活不活発病だと言われています。そしてこの生活不活発病を防ぐために、一番重要な 3 つ
の要素が、食事のバランス、適度な運動、社会参加です。この 3 つの要素に対して iPad でサー
ビスを提供していくのが今後の方向性になってきます。先ほど廣瀬先生のほうからもご紹介あ
りましたけども、ビッグデータを活用して運動ですとか健診の結果などを収集しながら、ある
いは社会参加を促すような、先ほどはジョブ・マッチングのお話がありましたけども、iPad で
例えば趣味の会、趣味のマッチングでこういうグループを作るお手伝いですとか、高齢者に適
したボランティアの社会参加を呼びかけるとか、そういうようなこともアプリケーションで提
供していきますし、そういう実績のデータを収集していく。そして個人ごとの食生活のデータ
等も収集していって、それを、それぞれの高齢者に合った健康アドバイスをフィードバックし
ていくというのが目標になっています。当然、各領域で専門知識を持った大学あるいは研究機
関、ヘルスケアのノウハウを持ったデバイスのメーカーですとか高齢者サービスに積極的な自
治体、団体とのコラボも推進していく予定です。
このサービスの基盤となるのが先ほどちょっと触れていただきました Watson Health という
IBM の基盤です。Watson は 2011 年にアメリカの人気クイズ番組のチャンピオン大会にコン
ピュータとして初めて出場しましてグランド・チャンピオンになりました。今の人工知能 AI ブー
ムの先駆けで、IBM は人工知能と呼んでいなくてコグニティブ・コンピューティングと呼んで
いるのですが、経験と情報収集をすればするほど賢くなっていくコンピュータという意味です。
その Watson の技術を利用してこのシステムを構築していく予定です。実際のところもういろ
んな業界で実用化されておりまして、日本においても特に金融機関とか保険会社、それから製
造業、自動車メーカーあるいは小売業で実際に Watson が使われ始めています。ただ、IBM が
一番いま投資している領域はこのヘルスケアの領域です。具体的には、この 4 月に、Watson
高齢者生活支援の異業種連携型「社会インフラ」を目指して
全国24,000
iPadを
お届け・設定
買物弱者
日々の食事・洗濯
健康不安
子供や孫との絆
社会からの疎外感
まだ働きたい
買物代行
医療・介護
相談
仮想かかり
つけ薬局
健康データ
収集
金融・保険・相続相談
行政サービス
20
話し相手が欲しい
高齢者向け
配食
エコシステム
家族への相続
アクセシビリティ
見守り
)
テレワーク
コミュニティーに
参加
家族とFaceTime
健康支援による国費 (医療費・介護費) 削減。
事業部からほぼ独立的に 2,000 名のスタッフ、例えばコンサルタントとかお医者さん、研究者、
開発者から成る、事業部門をボストンに設立致しまして、医療情報の収集あるいは分析のサポー
ト等提供し始めております。これも米国の例ですけども、8,400 万人の医療データに基づいて
健康の状態を分析したりアドバイスをしたりということをずっと手がけてきた大手の会社 2 社
を買収して、それを今後の研究基盤母体としております。専門の会社とともに、個人に最適な
健康アドバイスを提供するアプリケーションの開発、Apple 社、製薬メーカー、医療機関等々
とも協業しまして実際のヘルスケアのアプリケーション開発も手がけ始めています。当然これ
から、日本でも、多彩な企業と今後提携していく予定でおります。実際に、もう実績もありま
して、筑波大学の久野先生のデータですけども、そういう健康プログラムに取り組んだ場合、
例えば、健康年齢がこれくらい若返ったとか、ある地域での実験の例ですけども、この健康プ
ログラムを実践していくことによって、健康プログラムに取り組んだ高齢者の年間の平均の医
療費が 10 万円以上下がった実例もございます。ビデオでもありましたように、このサービス
はまず東北からスタートして全国に拡大していく予定でございます。元々政府も日本郵政株の
売却益 4 兆円を復興財源に充てることを表明しておりまして、政策ともリンクしながら、まず
は東北の高齢者の健康をサポートしていくところから始めて徐々に全国に拡大していくように
計画しているところでございます。
高齢者にとっての悩みは本当に多彩で、いろんな悩みがあります。それに、高齢者に対して
24,000 の郵便局という強みを持つ日本郵政グループが、高齢者向けの使い易さのアクセシビリ
ティの機能が装備されている iPad をお届けして、今後その iPad にテレワーク等を含めそれぞ
れの高齢者に合ったアプリケーションを、多彩な企業ともコラボしながら充実させていく計画
です。
最後に強調したいことは、やはりこの IBM、Apple、日本郵政だけではなくて、異業種連携
型のエコシステムとして高齢者の生活を支援していく社会インフラにしていきたいというのが
大きな目標でございます。ですから、そういうサービスを今後計画しておられるような企業あ
るいは自治体も含めまして、ぜひ、一緒にコラボしていけたらと思っています。本日はご出席
のみなさんにも積極的なご理解をお願いして私のお話を終わりにさせていただきたいと思いま
す。どうも有難うございました。
招待講演 日本郵政グループ・IBM・Apple による高齢者向け生活支援サービス事業の概要
21
講演後パネルディスカッション
浅川 智恵子
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM フェロー
コグニティブアシスタント
浅川:
日本 IBM の浅川です。いまご紹介いただきましたタイトルですが、
「コグニティブアシスタ
ント」って何だろう、と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、前半、まず疑問に
お答えしたいと思います。この研究は、視覚障害者を最初のターゲットユーザとして研究して
いますが、間違いなく本日のテーマである高齢者の助けにもなると考えております。また後半
では、
「もっとこんなふうに使えるんじゃないか」とか、そういうご意見をいただければと思っ
ております。様々なアイデアが、中長期的に実現されていくことによって、
「次世代シニア」
――昨年のこのシンポジウムでも話題になりました、今の 40 代を皮切りに始まる次世代の高
齢者の方々――を支援できる技術につながっていくと思っております。
「シニアクラウド」の
目的のひとつは、まさにシニア世代が元気になり、若者を、社会を支えていくというところに
あります。ぜひ、皆さんの経験を共有いただければと思います。
さて、唐突ですが、私たちを取り巻くこの世界というものは非常に複雑です。私たちの身の
回りには本当に多くの情報があります。街の中にはたくさんのお店があり、多くの看板があり、
情報にあふれている。でも、私のように視覚に障害があると、こうした情報にアクセスできま
せん。お店の中に入って自分の欲しい商品を探したり、見知った店員さんを探したりといった
ことも簡単にはできません。視覚障害者は、ひとりでウィンドウショッピングを楽しむとか、
知り合いを自分の目で探し出すといったような、普通のことができないという状況です。一方、
テクノロジーに目を向ければ、すべての人やモノが今やネットワークを介してつながり、コン
ピュータが学習能力を持ち始めています。こうしたテクノロジーの力で、身の回り、そして世
界のすべてを「読む」ことができるようになれば、視覚障害者だけでなく、すべての人々の生
活をより快適にできるでしょう。それが「コグニティブアシスタント」のコンセプトです。
ところで、皆さんは「光速エスパー」というテレビ番組をご存知でしょうか。知っていらっしゃ
22
る方は手を叩いてください……ありがとうございます。今日は良い感じですね。大学で同じ質
問をすると、誰も知らないのです。学生はご両親に聞いてみてください。昔々の子ども向けの
番組です。私もそのころは目が見えていて、大好きな番組だったのですけれども、肩の上に乗っ
ているのは「チカ」という名前の小鳥型ロボットで、主人公の少年に色々なことを語りかけ、
助けてくれます。番組の設定は、別の惑星から来たお母さんが少年にテレパシーを送っていた
という、まったくの SF なのですが、視覚障害者になり、研究者になってから、このチカのこ
とがよく頭に浮かぶようになりました。いつか、これが新しいインタフェースとして通用する
時代が来るのではないか――私が IBM に入社して 30 年、ずっと考え続けていたことでした。
最近、ようやくこの時代が来たかな、と感じています。先ほど坪田がご紹介しましたが、
IBM では知的な機械のことを「コグニティブシステム」と呼び、
全社をあげて力を入れています。
推論、予測、対話、学習といった処理を駆使し、これまでより一層高度なサービスを提供可能
なコンピュータのことを指します。きっかけとなったのは、2011 年、「ジョパディ!」 という
アメリカのクイズ番組に出場し、みごと人間のチャンピオンに勝利したコンピュータ「Watson」
です。2021 年には、国立情報学研究所(NII)のコンピュータ 「東ロボくん」 が東大入試への合
格を目指しています。つい最近、11 月だったと思いますが、ニュースでこの東ロボくんがつい
に偏差値 57 以上を達成したというすばらしいニュースがありました 。まだ苦手な科目がある
ところは人間的な感じもしますが、東ロボくんが東大に合格
する日も近いと思います。
← (NII プレスリリース:http://www.nii.ac.jp/news/2015/1114)
私たちは、こういった次世代のコグニティブシステムが
人々の生活を助けることができると考えています。様々なセ
ンサから得られた膨大な情報をもとに、周囲の状況を認識し、
重要で有用な情報を人に知らせるコンピュータ――私たちは
これを「コグニティブアシスタント」と名づけました。例え
ば、街の中で「今朝テレビで放映された人気のアンテナショッ
プがこの近くにあります。ただ、人気の商品はすでに売り切
講演後 パネルディスカッション
23
れです」とか、「レジは 10 分待ちで混んでいます」といった情報を知らせます。GPS や屋内測
位技術を用いてその人の現在位置を認識し、カメラ映像をもとに混雑具合を認識するといった
具合に、様々な認識技術から様々な支援を引き出すことができるわけです。こうしたコンピュー
タの使い道は、視覚障害者の日常生活のサポートだけではありません。例えば緊急時の避難の
手助けになることはもちろんですし、日本人としては、オリンピックやパラリンピックで来日
した外国人に対してそれぞれの言語で様々なサポートを提供するサービスの実現に大きな期待
を持っています。
この「コグニティブアシスタント」の実現を目指し、2014 年 9 月からカーネギーメロン大
学(CMU)に赴任し、客員教授として「コグニティブアシスタンスラボ」を立ち上げました。
ロボット工学、コンピュータビジョン、機械学習、自然言語処理、エンジニアリング等々、様々
な分野の研究者とともに活動しています。今ようやく1年数か月が経ち、少しずつ成果が出て
きました。ラボで現在、力を入れているのが、CMU キャンパスをアクセシブルにする取り組み
「ア
クセシブル CMU キャンパス」です。まず、様々なセンサを環境に埋め込み、視覚障害者が単
独でキャンパス内を移動できるようにします。また、
ただ移動だけではなく、人間やモノ、場所にまつわ
る様々な情報を得て、キャンパスライフをより楽し
めるようになることが、この取り組みのゴールです。
例えば、コーヒーショップに行くと、本日のおすす
めメニューが読み上げられる。ここで、中長期的な
ビジョンをまとめたビデオをご覧下さい。10 月に
TED で話をした際に放映したものです。12 月 3 日に
TED のホームページで公開されましたので、その一
部をお見せしたいと思います 。(TED@IBM)→
ビデオの内容について、少し補足させていただ
き ま す。 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン に 関 し て は、 現 在、BLE
(Bluetooth Low Energy)ビーコンとスマートフォンを使って、屋内・屋外を含めて平均約 1.5
メートルの精度 (CMU 実環境での測定 ) を実現しています。アプリは「NavCog」という名前で、
App Store で公開されています。環境内にセンサを設置して地図を用意すれば、CMU 以外の場
所でも利用可能です。地図データ作成ツールをオープンソースソフトウェアとして提供してい
ますので、誰でも地図を作ることができます。
現在、視覚障害者ナビゲーションだけでなく、いろいろな応用を議論しているところです。
例えば、病院ですね。アメリカでも日本でもそうですけれど、病院は建て増しを重ねてすごく
複雑になっていることが多い。次に行かなくてはいけないレントゲン撮影室まで自分のスマー
トフォンがナビゲーションしてくれれば、多くの人の役に立つでしょう。また、認知症の方を
家に連れて帰ってもらうというような使い方もあると思います。
他に、コンピュータビジョン技術の活用ですね。人物の顔の認識や表情の認識に関しては、
今はビデオの中でご覧いただいたように CMU の技術を使っており、ウェアラブルカメラの精
度など、実用化のために解決しなければならない様々な周辺の課題を研究中です。また、視
覚障害者はよく経験するのですが、周りの人が誰に向かって話しているのか分からない。道で
「ハーイ」と声を掛けられた気がしたので「ハーイ」と返事をすると、実は自分に話し掛けら
れたのではなかった、というようなことです。これに関しては、視線を追跡して、その人がど
こを見ているかということを認識できる技術がありますので、中長期的にはそうした技術も組
み込んでいけるでしょう。次の例は物体認識――ビデオの中ではポテトチップスとチョコレー
24
トを認識していますが――これはかなり実用レベルに近づいていると思っています。世の中に
は数限りない品物がありますので、すべてを認識させるためにはデータのトレーニングが必要
ですが、かなり近い将来、実用レベルのシステムができるでしょう。
ビデオの終盤で、私がチョコレートを取ろうとしたところでシステムから 「君は昨日より 2
キロ太ったからチョコレートをやめてリンゴにしろ」 と言われたのですけれど、自分が何を食
べたかというようなことを毎日きちんと記録しておくことによって、そういった健康管理のサ
ポートが可能になります。すべてがまだ実用レベルというわけではありませんが、このような
方向でもコグニティブアシスタントの研究を進めています。食べ物の例だけでなく、電話だっ
たり、会話だったり、友だちとの約束だったり、見たものや聞いたものをきちんと認識して、
ライフログのような形で記録しておけば、記憶を補うシステムとしても利用できるでしょう。
また、外出支援――例えば車椅子のナビゲーション――もコグニティブアシスタントの有力な
使い道のひとつになると考えています。車椅子に突然乗ることになると、やはりどうやって移
動していいか分からず、外出が苦になるということがあると思うのですが、これまでご紹介し
たような技術を応用すれば、車椅子に最適化され、またひとりひとりのユーザの状態に合わせ
たナビゲーションが可能になります。アメリカでは、本当に驚くぐらい大勢の高齢者が車椅子
を使っていますが、日本でもそういう時代がきっと近いうちに来るでしょう。精度の高い位置
情報や環境認識は障害者や高齢者を支援する技術として非常に有効で、様々な用途に利用でき
ると考えています。この活動については 10 月に IBM と CMU で共同発表したのですが、ワシ
ントンポストをはじめとした様々なメディアに取り上げていただきました。今後、この分野で
の研究が活発になり、障害者や高齢者の社会参加を促進する技術の開発が加速することを期待
しています。
今、スクリーンに映っている
図は、情報技術の果たす役割を
説明する際に私がよく使ってい
いきがい
る図です。情報技術は、障害者
や高齢者の就労をはじめとした
社会参加を促進します。これに
つながり
学習
よって、地域社会や仕事仲間と
いった人々とのつながりを持つ
ことができます。そしてそのつ
社会参加
ながりは、誰かの役に立つ、誰
かに必要とされているという生
情報技術
きがいをもたらします。その生
コグニティブ・アシスタント
きがいはまた、もっと学びたい、
もっと知りたいという意欲を生み出します。このようなポジティブなループを広げていくこと
が、私たちの研究のゴールです。コグニティブアシスタントは、社会参加をサポートします。
また、人と人とのコミュニケーションやつながり、そして人が学ぶことをも手助けすることが
できるかもしれない。ただ、それによって与えられる生きがいは、人間だけが持てるものです。
生きがいをアシストしていくことこそが、コグニティブアシスタント研究のゴールなのです。
このループを、徐々に向上していくスパイラルにすることができれば、日本は世界のロールモ
デルになれるのではないでしょうか。2020 年のオリンピック、パラリンピックへ向け、先進
的な東京を世界に示していくためには、情報技術を用いて、高齢者にやさしい日本、障害者に
やさしい日本を実現していくことがひとつの鍵になるのではないかと考えております。ありが
とうございました。
講演後 パネルディスカッション
25
どこまでが境界条件か?
廣瀬:
今年の 9 月に一度 CMU のラボを見せて頂きました。キャンパスのなかにビーコンがいろいろ
組み込まれていて、今のところはドアの位置をナビするタイミングが微妙に遅れたりというこ
ともあるみたいですが、随分、可能性のある技術が出てきたなと思います。ここで、AI という
言葉は使ってないですね。坪田さんにも申し上げたのですが、
これはすごく良くて、
AI というと、
やたら賢さとか、そういうところにスティックしちゃうのが日本の悪いところ。浅川さんの話
にも出てきましたが、知識から推論するとか、予測するとか、いろんなコアが横に串刺しになっ
ていないと全てのことがうまくいかないよね、というのは 20 年くらい前に一度 AI ブームが起
こった時に思ったことです。いまの情報技術のいいところは、そういうものが横に串刺しにな
るための技術ができてきて、例えば先ほどの浅川さんのお話は、コンピュータビジョンの技術
や地図のインフラが一緒になってはじめて出来るようになるわけなので、そういった全体的な
底上げがこの 20 年の間にできるようになってきたという意味で、20 年前の AI ブームの時とは
またちょっと違ったタイプの波が来ているということは、皆さん方も覚えていていいと思いま
す。特に、最近盛り上がっている「2020 年までに自動車の自動運転が行われる」という話も、
この技術と関係あるのですよね。そういうところも見ておいていいのかなと思いました。
それで、せっかくパネルということなので、いままでのところをちょっと薮睨み的に。坪田
さんのお話も大変面白くて、高齢者がいま iPad をなかなかまだ使えないので工夫していかな
ければならない、まさにその通りであります。それから浅川さんには、支援技術があることに
よって、高齢者あるいは障害者が通常と同じような生活というものを担保されるような、そう
いうことをおっしゃっていただきました。
例えば、僕も AR(Augmented Reality:拡張現実)なんかやっていますけれども、ヘッド
26
マウンテッドディスプレイを着けて外を歩くわけですね。そうすると、まあ、僕自身でも、前
会った人の顔は憶えていても誰だったかなといったことが良くあるわけで、これはたぶん高齢
になってくると段々忘れっぽくなってきますから、そういうメガネがあったりしたら嬉しいよ
ねという話も聞きます。さっきの浅川さんのビデオにあったような、パッと会うとこの人は誰、
この人はこの前こういうことを言った人で、あまりこういう話題はするな、ということをすべ
て教えてくれるような、そういうのがあったらすごく嬉しいなと思います。一方、そういう技
術によって、スーパーな新しいメガネというのが登場してきたとしても、これくらい(デザイ
ンの)クオリティが高くならないと皆かけてくれないと思います。こういったメガネが大事な
のは、掛けなければいけないようになるということは、障害をもつとか、高齢ということにな
るわけで、通常の場合、それを掛けることによって、普通の人と一緒のレベルにまで持ち上げ
るということがひとつ可能性としてあるわけですよね。しかしですね、技術ってとっても面白
いもので、ふつう生身の身体能力は若者に比べて高齢者のほうが低くなる。すると、例えばメ
ガネをかけないといけないという羽目になるわけです。しかし、技術的拡張を特段にして、す
ごくいい――いいというか、too much powerful なメガネをかけたりなんかすると、へたする
と健常者ないしは若者を上回っちゃったりするのですね。そういうことも考えてもいいのかも
しれない。我々、生身がいいと思っているのですが、なにかの機械をつけなければいけないと
なると――たとえば、おおきな HAL ですけど――そしたら、それをつけてない人よりは、すご
く力を持っちゃうことになる。こういうのを、
「Augmented Human」というのですけど、拡
張された人間になる。拡張することで、技術的制約によって何かを失うことにはなるわけです
けれども、ある部分の成績は逆にあがっちゃう。そういうことは考えておいたほうがいいのか
もしれません。
結局ですね、パラリンピックも、
そういうことがもしかすると起こ
るようになるかもしれなくて、こ
れはにわかにもう言われています
が、別の意味での「シンギュラリ
ティ問題」があるよねって言われ
ています。パラリンピックの記録
は ガ ー ッ と 伸 び て い る の で す ね。
もしかしたら、オリンピックの記
録よりも優れた脚を我々は持つよ
うになる。考えてみたら自動車に
乗ったほうが早いよね、という当
たり前の話なのですけども。そう
いう意味で、強化された人間というのは、強化されていない人間よりも、もしかしたらいい能
力を持つようになるのかもしれない。というようなことも多少どこかで考えておくといいのか
もしれません。そしたら、もしかしたら高齢者の集団のほうが若者よりも高い能力を持つよう
になるかもしれない。
坪田さんがおっしゃったように、一般的に高齢者は、今は「コンピュータが使えない」
。だ
から、現時点においては、高齢者の人たちっていうのは、そういうものを使うというパラダイ
スがあるのにも関わらず、残念ながら、そのサービスをほとんど受けられていない。だから、
ヒューマンインタフェースの改善をしなければいけないという話も一方であります。しかし、
これも去年言われていたことですけれども、次世代高齢者というのがあって、高齢化問題が本
講演後 パネルディスカッション
27
当に「問題」になるのは小林さんのような世代の人が、お年寄りになった時。小林さんは今す
でに結構爺くさいと言われていますけども、小林さんが本当にお年寄りになった時に、果たし
て iPad を使うのを嫌がるか。別の意味で、もしかしたら iPad とは違ったものがその時の主流
機器になっているので、「まだ iPad 使っているのか」みたいな、そういう世代になるかもしれ
ません。けれども、ヒューマンインタフェース問題というのは、その時点においては、もしか
すると問題にならないのかもしれないですね。要は、高齢化問題というのは、とっても非常に
難しくて、時間的に動的に考えていかなければいけない。確かに、10 年後、20 年後の時点では、
ヒューマンインタフェースは非常に大きな問題でありますけれども、2050 年を考える時には、
いま平気で LINE やっているような世代が高齢者になるっていうことですから、高齢者という
ことをステレオタイプで捉えない方がいいのかもしれないということは考えていくべきもので
あります。「高齢者はコンピュータが使えない」であるとか、
「高齢者は技術が嫌い」であるとか、
「高齢者はおとなしい」――おとなしくないのかもしれない。だから、動的にどんどんどんど
ん変わっていくことを考えないといけないし、それから、高齢者は貯蓄を持つと言われていま
すが、もしかすると、次世代高齢者というのは逃げ遅れた世代なので、お金を持っていないか
もしれないということもあります。一方、先ほど坪田さんがおっしゃったように、資産の移転
が非常にうまくいけば、高齢者というのは常にお金を持っている世代に並び続けるわけですか
ら、この命題というのは何が正しいのかということではなくて、常に検証しながら進めていか
なければいけないと思います。高齢者クラウドは、高齢者が知識を持っていることを前提とし
てやっていますけれども、いざ労働の話になると、
(求められる知識がどんどん変わっていく
という点で)それと同じ話になるじゃないかということも考えなければいけないのかな、とい
うことを考えています。
さて、この方(所ジョージ)をご存知ですよね? 60 歳ですね。愕然としますね。同い歳か
俺は! これは、高齢者というか、ステレオタイプの高齢者にまったく合ってない方だと思い
ますし、自分自身もものすごく楽しめるのだと思います。むしろ、働いてそのあとでもう一回、
1 周目、2 周目だろうと関係ないような感じのロールモデルの方だろうと思いますが、要はそ
ういうことを考えないといけない。やはり、生物学的には衰えていくことはあるはずです。ただ、
文化的なものっていうのは、操作変数として、環境利用として自分達でコントロールできる問
題ですので、そこはなんとか操作して豊かになれるかもしれないと思います。
最後に、ここで申し上げさせて頂いたのは、あくまで薮睨み論的な話なので、学生達はこれ
が全てだというふうに思うと大変な誤解をすることになると思います。そういう視点も持って
ないと駄目だよ、ということで話題提供させて頂きました。どうもありがとうございました。
28
小林:
先生にきれいにまとめていただいたところで、会場からなにかひとこと聞きたいという方
がいらっしゃいましたらお手を挙げてください。
フロアからの意見:
どうもありがとうございました。とても勉強になりました。あと2年で健康寿命が切れる
というところでドキッとしたのですけども、今日のお話の中で、ちょっと二つだけ、これ
から皆さん、学生さん達も研究してほしいなと思ったことがあります。坪田さんのお話の
中で、平均寿命と健康年齢を引いて、というところがあったのですが、平均寿命というの
は、いま生まれた人がこれから何年生きるかという数字ですよね。で、健康寿命というのは、
いまの現状の中で、例えば男は 71 とか、女性は 73 だとか、こういうことですから、本来
差し引きすると、71 歳の人の平均余命とその健康年齢をひいて、あと何年というような論
議のほうがいいのではないのかなと感じました。厚労省のいろんなデータも、まさに平均
寿命と健康年齢をそのまま引いているのですが、果たして、それでいいのかなというのが、
ひとつ疑問で残りました。それから、浅川さんのキャンパスライフの事例、とても楽しく
見させて頂きました。社会参加のループの中で、つながりと、それから生きがいと、学習
というのがあって、これがひとつの流れの中にあるのですが、2025 年とか 2050 年という
ところを見て、地域社会における町会とか自治会が、どういう存在だったらいいのかなあ
と――今ということではなくて、25 年とか 50 年に、町会とか自治会が、どういう役割を
果たすことが出来るのかなという研究があると、私は地域の中でちまちまやっております
ので、参考になると思いました。今日は、研究をして頂きたいというテーマで、二つお話
しさせて頂きました。ありがとうございました。
浅川:
すごく面白いなと思いました。デジタル町会、デジタル自治会、
(年齢を問わず使える)ソー
シャルなシステムがあれば、入りやすくなるのではないかなと、ふと思いました。
廣瀬:
ぼくからちょっと申しますと、すごく重要なことを指摘されたような気がするのですけど
も、地縁ですよね。いわゆるコミュニティというと地縁でありますけれども、やっぱりあ
る部分、地縁というのが一旦消えちゃって、こういうコンピュータ技術というのは一方で
全然違うところに、アメリカには友達がいるのだけれど、日本にはひとりもいないという
ような、そういう空間的な繋がりというのを無視する方向に一回行きますよね。だけどこ
れからは、今おっしゃったような、やっぱり地理的に近いということ自身がもうちょっと
意味を持つみたいな話とか、浅川さんからいろいろご紹介いただいたようなタグを埋め込
むというところから、もう一回地理情報が発展してくるみたいな話が出てくるかもしれま
せん。2050 年の町内会がどうなっているかというのは分からないところがあって、それは、
僕がしたような話で、いろんなことを動的に考えて行かないといけない。もしかしたら地
理的な意味における町内会は消滅しているかもしれないし、逆に非常に重要になっている
のかもしれない。良く分かりません。ただ、そういうウォッチングを続けていくっていう
点で非常に重要なことをご指摘いただいたかと思います。
講演後 パネルディスカッション
29
講演1
柔軟なワークスタイルを支える ICT
田澤 由利
株式会社ワイズスタッフ 代表取締役 ,
株式会社テレワークマネジメント 代表取締役
テレワーク普及の現場から
私はテレワークをずいぶん長い間やっておりまして、田澤由利の紹介ページをご覧いただき
ますと、ここ数年は 3 つ賞をいただいたりとか、企業さんのコンサルティングをやったりとか、
あるいは国の事業をさせていただいたりとか、いろいろとさせていただいております。
その中で最近のニュースで言うと、総務省さんからテレワークよくがんばったね、というこ
とで総務大臣賞をいただくことができました。これも長年コツコツとやってきたことと、何よ
りもいま、国を挙げてテレワークを推進してくださっているからだと思っております。
さて、私の会社の説明になりますけれども、コンサルティング、テレワークを専門としたコ
ンサルティングをやっております。コンサルティングと言いましても、ほんとに在宅勤務が主
になっておりまして、柔軟な働き方、
時間に捉われない働き方を推進して
いく会社でございます。
テレワークとは、という基本的な
ことから始めさせていただきます
と、離れた場所で働くという用語で
ございます。意味としましては、離
れているので、今日の話題にもあり
ますように、道具として ICT を使う。
これまでは、離れていると、例えば
書類を持って帰って家でコツコツし
なきゃいけなかったのが、ICT のお
30
かげで、より離れた場所で、時間に捉われずに、柔軟に働くことができるになった。それがテ
レワークという新しい働き方のコンセプトワードなっています。
ポイントは場所や時間が柔軟になるということです。これによって働きたくても働けなかっ
た人が働けるようになる、そういった働き方をする人が、まあ例えば 1 週間のうちに 8 時間以
上だったとすると、その人がテレワーカーである、というふうになっています。
さて、このテレワークの分類についてお話をしたいと思います。ICT を活用した場所や時間
に捉われない柔軟な働き方ということで、あらゆる働く人に当てはまるのがテレワークです。
混乱することがございますので、ちょっと説明をさせていただきます。
まず、会社に勤めている人がテレワークをすることを雇用型テレワーク、自分で仕事をして
いる人が自営で、テレワークで働くことを自営型テレワークといいます。更にもうひとつ、テ
レワークをする背景、その人の状況として移動できる、移動しやすい、移動したい、というこ
とでテレワークをしているのをモバイル型テレワークといいます。これに対して、移動できな
い、移動しにくい、移動したくない、ということで、家で仕事をする、テレワークをすること
を在宅型テレワークといいます。これを上下左右に分けてみますと、大体どっちのほうにどう
いう人が収まるかというのが、おわかりいただけるかと思います。
まず、雇用されながらモバイルで仕事をしている営業担当者。それから、雇用されながら在
宅で仕事をしている在宅勤務。更に、自営型ですと、最近はソーホーやフリーランスと言われ
る方がほとんど自営のモバイル型だと思います。
また、自営なので会社に勤めてないのですが、家でしている在宅ワークと言われる分野がご
ざいます。
このように、テレワークと申し上げてもさまざまな人がいる。また、それぞれの人にとって
講演 1 ・ テレワーク普及の現場から
31
の必要なツールであるとか、制度であるとか、っていうのは自営型と違ったものであるという
ことで、テレワークについてのご紹介をいたします。
このテレワーク、さまざまなメリットを企業よりも働く人にもたらすということで、多くの
人がテレワークはいいよね、っておっしゃってはくださいますが、なかなか日本では難しい面
も多くございます。
テレワークの現状についてお話させていただきます。今年度、テレワークが記載されている
国の政策方針なのですが、みなさまご存知のように、日本再興戦略骨太の方針、あるいは ICT
関連の方針の中に、テレワークやふるさとテレワークという言葉があり、国としてはこれを非
常に推進しております。テレワークが入って 3 年目ですね。
ただ、ふるさとテレワークという言葉は、今年の 6 月末の改定から入りました。ですから、
そういう意味ではふるさとテレワークは国の新しい方針の中に付け加えられた、という感じで
ございます。
そして、国としての世界最先端、IT 国家創造宣言の中では、テレワーク導入企業を 3 倍にする、
週 1 日以上在宅勤務をする人を、全労働者の 10 パーセント以上にする、という大きな目標を
掲げています。
実際にいまテレワークを導入する企業が続々と増えている状況でございます。ただ IT 系だけ
ではなくて、メーカー、国保、それから保険、さらには小売り、自治体、国も省庁でいま進め
ているところです。それぞれがそれぞれの形、ルールを持って、テレワーク、特に在宅勤務と
いうのを進めているところです。
じゃあ全国ではどうか、ということですけれども、全国において見てみますと、まだまだ少
ないのが現状です。全国で導入している在宅勤務ですね、先ほどの右上のほうを導入している
のは
か 2.7 パーセントです。嬉しいことは去年よりはちょっとずつ増えていることです。い
まの日本のテレワークの現状と言いますと、導入企業の業者数はまだ少ないのですけれども、
確実に増加傾向にあるということです。
テレワークによって、高齢者も含めて就業可能性人口っていうのはどれくらいあるのだろう
か。これは非労働力人口ですけれども、その非労働力人口のうち、いまは働いてないけど、ほ
んとうは働きたいという人が 419 万人です。働いていない理由には近くに仕事がありそうもな
い、あるいは出産育児のため、介護看護のため、健康上の理由のため、という人たちが 208 万
人もいます。
日本はこれから労働人口が減っていく中、テレワークでこういった方々の就業の可能性が広
32
まるっていうのは本当に重要なことで
はないかなと思います。
最近は女性活躍に関しては、在宅勤
務をなしにしては語れないくらいで、
女性が活躍する会社はベスト 100 の中
のベストテンだけに絞りますと、6 社が
在宅勤務制度を導入しています。
みなさんご存じの企業ばかりだと思
いますが、最近は大手企業さん、メディ
アの取材とか、問い合わせが多くて、
在宅勤務制度をもう導入せざるを得な
い、そういう雰囲気がでてきています。
また働く人からも、テレワーク制度を
導入していますか、と聞かれることも
増えてきております。
それからもうひとつ、介護離職とい
うキーワードも最近注目されておりま
す。先日、NHK で放送された番組では
5 年以内に介護を担う可能性のある 40
代以上の社員は 87 パーセントというショッキングな数字が出ています。これまでの時代に
は、親の介護で会社を辞める人は少なかったかも知れませんが、これからの時代は違うのです。
少子化による一人っ子の増加、女性の社会進出、男性の生涯未婚率の増加、高齢者雇用の拡大、
さまざまな状況の中から、働いている人が親を介護する時代になりました。
これからは、毎日朝から晩まで会社に来る人しか雇わないという企業はおそらく、会社を
支えてきてくれた 40 代、50 代の社員は辞めていき、新しい社員は来ないという非常につら
い状態になるのではないか。その意味でも、テレワークによる柔軟な働き方が非常に重要で
ある。
そしてもうひとつ、地方創生においても、テレワークは注目されております。こちらは昨
年の夏に開催された「まち・人・仕事・創生に関する有識者懇談会」の写真ですが、総理の
向かいに私が座らせていただきました。地方創生においても国はテレワークが非常に重要で
あるということが、謳われたのです。このあと、総務省のほうで会議が開かれ、ふるさとテ
レワークという新しいことばが生まれ、いま地方創生においてもテレワークが推進していま
す。
ふるさとテレワークについて簡単にだけお話しておきます。地方において、産業創出や企
業誘致という地域活性化を訴えていましたが、これからは人材誘致ではないかということに
なってきました。例えば北海道で生まれ育った優秀な人材が東京に就職すると、そこで家族
をつくってもう帰らなくなっちゃう。いままでは当たり前だったのですが、様子が変わって、
企業が人材不足を生みたくない、というか離したくない、というときに、親の介護で帰ると
いう人が、辞めるのではなくテレワークで雇用する、というような形ができるようになります。
そうすると、東京の企業からもらったお給料で、地域で消費し、子育てをし、社会参加をす
るという新しい形の地方創生ができる、というこれがふるさとテレワークです。
「そんなに簡
単にできないでしょ?」っておっしゃるかも知れませんが、ICT が進化し、クラウド環境が充
講演 1 ・ テレワーク普及の現場から
33
実していく中で、やはりみなさんの意識を変えて、企業や地域が動き始めればこれはいける、
ということで、国が今年度は約 10 億円の予算をかけてふるさとテレワークの実証事業を実施
しているところです。
このテレワークに関しまして課題もまだたくさんあります。在宅でできる仕事がない。在宅
だから仕事しているかどうかわからない。家に場所がないとか、
不公平だとか、
肩身が狭いとか、
ついつい在宅だから仕事をしちゃうとか、おそらく今日ここにいらっしゃる多くの方々は、
「そ
んな家でする仕事たくさんないに、この人は何言っているのだろう」と思われるかも知れませ
んが、家でできる仕事、テレワーク、離れてできる仕事は限られていると思っていると、おそ
らくこれからの日本はとても大変なことになります。
そうではなく、資料作成や翻訳とかデータ分析といった持ち帰りやすい仕事だけではなく、
それ以外のものもできるようになる、発想を転換する必要がある。テレワークでもできるよう
に仕事のやり方を変える、こういう仕事しかできないと思っちゃったら、諦めちゃってもう全
然進まなくなってしまいます。IT 化、会社機能のモバイル化、
いろんなものを進めていくことで、
いつもの仕事がどこででもできる環境ができれば、当然家でも、地方でもできる。これがテレ
ワークを正しく推し進めるためのポイントだと考えております。
従来のテレワークは、会社に必要な道具があるから会社に行くのですけど、ちょっと持ち出
すことができない。でも、これから目指すところのテレワークというのは、会社の道具や仲間
をクラウド上に置き、どこからでも仕事ができる、コミュニケーションができるようにする必
要がある。それができれば朝起きて電車が動かないという場合でも、昨日の続きを家でするこ
とができるようになります。そのために、いろいろな ICT を活用して課題を解決することにな
ります。
それではテレワークの課題解決ということで、最後少しだけお話ししたいと思います。コス
トがかかるのではないか、ということに関しては、最近よく言われているストレージ、グルー
プウェアですね、いわゆるクラウドサービスを使えばコストを抑えてできるようになる。離れ
34
ているとコミュニケーションが取れないということに関しましても、バーチャルオフィスとい
うのを我々は使っています。こんなふうに会社が見えて、あっ今、田澤が講演しているな、と
かですね、あの人と会議やっているな、ということが見えるようになっています。声を掛ける
のも簡単ですし、仕事をしているか、していないかなんて不安になることもない。そういった
新しいクラウド上のサービスができてきています。またセキュリティに関しましても、弊社の
場合は仮想デスクトップやリモートデスクトップでセキュリティを確保しています さぼって
いないか、ということに関しては専用のアプリですね、働いた時間を小間切れで記録していく
ことができるツールなんかも用意されています。例えば、子供のお迎えでちょっと抜けたら、
その抜けた分は夜また仕事しますよ、ということも可能になります。ただしですね、着席した
まま、自分は仕事していると言ったまま子供のお迎えに行っちゃったら困るということで、本
人が仕事をしているという時間は画面がランダムに保存されて、上司が夕方ササッと見ること
ができる。「あ、きょうもよくがんばったなあ」みたいな、そんなことができるツールもでき
ています。なかなか家でできる仕事はない、とおっしゃる方もいらっしゃいますけれども、い
まの仕事を見直し、在宅でやるには、離れてもできるにはどうすればいいんだろう、というこ
とをしっかり、会社として考えていくことによって、在宅で仕事ができる、テレワークででき
る仕事が増え、より多くの人が柔軟に働くようになることができると思っております。
ちょっと長くなりましたが、最後になります。私、
ワークライフバランスとか、
ダイバーシティ
とか、テレワークとか、いろいろわからないと言われたときに、このように説明をしておりま
す。ワークライフバランスは人の生き方、ダイバーシティは社会のあり方、テレワークはこれ
らを実現する働き方です。私自身でさえもテレワークが最良の働き方だとは思っていませんが、
これからの日本を支える上ではテレワークという選択肢がないと、企業も働く人もとても厳し
い状況になっていくと思っております。
すいません長くなりましたが、私からは以上です。
講演 1 ・ テレワーク普及の現場から
35
会場からの質問:
芝浦工業大学の大倉と申します。大変勉強になりました。ありがとうございます。最後に、
「私
でさえもテレワークが最良の働き方とは思っていません」というところが、
非常にあの「あれっ?」
というふうに思いまして。そうすると田澤さまの考えておられる最良の働き方っていうのはテレ
ワークとどういう点が違うのか、っていうのを簡単にご説明いただけますでしょうか。
田澤:
正直言いますと、やっぱり会って話して、コミュニケーションをとって、仲間といっしょに仕
事ができるという環境っていうのは、私はすごくいいと思っています。で、なにもテレワーク
が普及して、世の中全員が家で働いたほうがいいと思っているわけではない、という意味です。
ですから、普段は会社に来ていたり、あるいは会社に来る日があったりとか、なかったりとか
しながら、効率よく仕事をすることがベストの働き方だと思っていますので、何が何でもみな
さん、テレワーク、家で仕事してください、会社には来なくていいです、みたいなのは理想で
はないという意見ですね。やはりその人のライフステージにあって、会社に来てバリバリ、ま
あ時間かけてでもガンガン働けるときがあっていいし、子育てや親の介護でペースを落とすと
きは、テレワークという選択肢をとりながらも、しっかり仕事が続けられる、そういうのが理
想じゃないか、と思っております。
質問者:
はい、あのまったく同感です。最近、実は私は大学の教員なので、学生が家でもできると言って
来ない傾向にあって ( 会場笑 )、それで、一人前じゃない場合にはいろいろと周りから学ぶこと
が多いので、少なくとも学生の間はこういうテレワーク的な研究の仕方ではなく、学校に来いと
言っているものですから、いまの田澤さまのお答えたいへん私にとっては理想的なご回答いただ
きまして、あのたいへん自分の言っていることに自信がもてました。ありがとうございました。
田澤:
はい。ただ、来られない方は来られないでもいいということですよね。
質問者:
もちろん、学生でも、まあ妊娠しているとかですね、いろいろの状況の場合はもちろん状況が
変わってくる、ということで、何もない、あの健常な学生の場合です。はい、ということであ
りがとうございました。
田澤:
はい、どうもありがとうございました。
檜山:
ありがとうございました。きょうも研究室の学生がたくさんお手伝いに来ていますけれども、
学生にとってもいいご質問であったと思います。
36
曽根 秀晶
ランサーズ株式会社
執行役員
ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
まず簡単に自己紹介をさせていただきますと私はランサーズで、取締役社長室長という形で
経営戦略、企画、広報、人事などを統括させていただいております。ランサーズに入社する前
は 楽天株式会社において国内の事業戦略、海外の事業展開および全社の経営企画などを担当
しておりました。それ以前は、経営コンサルティングのマッキンゼーという会社において、新
規事業のマーケティング戦略などのプロジェクトに 3 年ほど従事しております。前職で、楽天
で E- コマース、電子商取引ということで、商業プラットフォーム、今、ランサーズで労働プ
ラットフォームというところで、また、ミッションという意味でも、中小企業のエンパワーメ
ントをミッションとしている楽天から個人のエンパワーメントをミッションとするランサーズ
に移って、このエンパワーメント・プラットフォームの仕事をさしていただいております。
本日はランサーズという会社の紹介を通して、クラウドソーシングという新しい時代の潮流
関して簡単に説明できればなと思っております。本日は、クラウドソーシング= IT ×働き方、
定年のない働き方の実践者と仕事の事例、新しい働き方の今後の広がりという 3 つのお話をさ
していただきたいと思います。
それでは1つ目になります。まず、ランサーズ゙のご紹介になりますけれども、2008 年に秋好
陽介という者が創業したサービスになります。彼が学生時代に、実はフリーランスとして、イ
ンターネットを通して起業して、その中で発想を温めた、企業が個人に対してインターネット
上で、仕事を発注する、個人がインターネット上で企業から仕事を受注することができる。そ
ういったサービスになります。
2008 年から順調に拡大しておりまして、現状依頼の累計の総額で 667 億円、依頼の件数で
は 81 万件に至る規模になっております。従業員規模で言うと 120 名ぐらいのいわゆるベン
チャー企業ということになります。こうした渋谷の一介のベンチャー企業ですけれども、いろ
んな外部の団体で活動さしていただいておりまして、例えば新経済連盟という経団連に並ぶ新
しい経済団体があるのですけれども、こちらの方で幹事企業という形で、働き方あるいは地方
創生というところを軸に分科会をリードさせていただいたりしております。それから、クラウ
ドソーシング協会、先程田澤様からありましたテレワーク協会というところでも、先程ご紹介
のあったふるさとテレワークの総務省の受託案件を我々の方でやらせていただいたりしていま
す。まさにこのランサーズが何故 IT の小さなベンチャーでありながら、こうした非常に大きな
講演1 ・ ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
37
外部での取り組みをさせていただいているかということですけれども、非常に大上段で恐縮で
すが、日本の現状を課題先進国というところで、労働者人口、高齢者比率の推移に関係があり
ます。今後ですね、労働者人口が減少していって現状の 6,300 万人から 30%減って 4,400 万人
になる、高齢者比率が現状 25%から 1.5 倍の 38%になると言われております。先日私聞いた
話で非常に印象的だったのは、人口が 1 億人程度あるフィリピンの話ですが、高齢比率で言う
と 5%、平均年齢で言うと 23 歳ということで、日本の平均年齢は 46 歳ですので、約半分。人
口のボーナス期からオーナス期という話もありますが、まさに同じような人口の規模でも、国
家のステージによって課題が変わってくるのだなあということで、改めて日本の現状、課題が
浮き彫りになっていると思っております。こうした中で、やはりそのこう1人1人の労働人口
の生産性を上げることと同時に、いまだ活用されていない潜在的な労働力、例えば、総務省の
データによれば女性であったり、シニアであったり、その他無業者とされる方々が、1,000 万
人いると言われておりますけれども、こういった潜在的労働力をいかに活用するかが日本に
とって重要になってくるのではないかなと我々は考えております。そうした背景もあって、先
般、安倍首相の方から 1 億総活躍社会ということで、加藤勝信一総活躍の担当大臣も任命され
ましたけれども、まさにこう一人ひとりが自分らしく輝けて、個々人ができるだけ長く元気で
いられるような社会を目指すということで、先程申し上げたような高齢者の社会進出、女性の
就業支援ということが非常に大きな社会課題になってきていると認識しております。
もう一つ注目したいのが、個人
の働き方がこの 30 年非常に大きく
変革してきているということです。
こちらは、労働力人口における正
規社員、非正規社員の比率の推移
になります。一部役員を除いてあ
りますので足して 100% になって
いないのですが、この数字を見ま
すと 30 年前の非正規雇用社員の
14.4%が 35.6%になり、つい先月、
この比率が 40%を上回ったという
ニュースが流れております。非正
規社員の比率が増えてきたというと非常にネガティブな潮流としてとらえる方が多いかと思う
のですけども、実はその非正規社員に不本意で自ら望まずになった方の割合って 2 割を切るの
です。残りの 8 割の方々は、自らの選択肢としてこの新しい非正規社員という形を選んでいる。
あるいは、この正規雇用社員 6 割弱いらっしゃいますけれども、こちらも実はその 3 割近くは、
職種、勤務地、勤務時間、こうしたところを限定した限定正社員や4時間正社員のような多様
な正社員の新しい潮流が出ており、正社員と非正規正社員の間の垣根も非常に低くなってきて
いると認識しております。勿論、正規社員を否定するものでもありませんし、非正規社員をネ
ガティブに捉える訳でもなく、社会がこう新しい多様なキャリアを受け入れる器に変化しつつ
あるのだと考えております。我々は民間企業ですので、これをビジネスの観点から捉えなおし
ますと、これはインターネットがもたらす新しいライフスタイルの一角だと考えております。
1995 年頃からそのグーグルが検索のサービスによって情報の新しい探し方を発明、
浸透させて、
アマゾンがE - コマース、電子商取引において物の新しい買い方を発明、浸透させて、アップ
ルがこの iOS という OS 上のアップストアでサービス、新しい使い方を浸透させ、そしてフェ
38
イスブックが SNS において人、新しいつながり方を浸透させてきた。この情報、物、サービス、
人という流れにつながるような形でこれから時間という新しい領域において新しい働き方がイ
ンターネットによって実現されていくのではないかと考えております。
そうした流れで申しますとこのクラウドソーシングというものはまさにこの(IT = ICT)×
働き方という領域でして、言葉の語源から申しますとこのクラウド、雲でなくて、群衆のほう
のクラウドに対してアウトソーシング、発注するという仕組みで、冒頭申し上げた通り、企業
側のサイドからすると従業員という人的資源、一番最も重要な経営資源をオープンに柔軟にス
ピーディに市場から調達する。個人の側からすると時間であったり場所であったりの制約から
解き放たれて、企業に雇用されるだけでない新しい働き方をインターネット上で、オンライン
で出来る。そうしたことをクラウドソーシングと我々呼んでおりまして、時間と場所に捉われ
ない新しい働き方をつくるということをビジョンに掲げてさせて頂いております。
このクラウドソーシングを簡単にご紹介しますと依頼方法大きく 3 つございまして、
プロジェ
クト形式、コンペ形式、タスク形式とございます。プロジェクト形式というのは、主に開発、ウェ
ブ制作、IT を使った仕事において企業さんがその依頼をする。それに対してたくさん人が見積
もりの提案をしてくる。そして一番いいと思った方に仕事を発注する形でスキルを市場から調
達するものです。コンペと呼んでいるものは、主にデザインの案件に関して、例えばブログを
作りたい、例えば名刺のブランド、ロゴとか、あるいはチラシを作りたいということに対して
沢山の方からそのアイデアを調達する。そして一番いいと思ったアイデアを採用する。タスク
に関しては、ライティング、データ入力、アンケートに対して、多数の人に同時に比較的単純
な作業をお願いするというものです。プロジェクトはスキルを、コンペはアイデアを、タスク
は時間をマーケットから調達するというモデルになっております。
このクラウドソーシング市場、非常に急成長しておりまして、去年の 2014 年で 400 億円ぐ
らい、2015 年、今年で 600 億円ぐらい。市場規模で弊社は 50% のマーケットシェアを持つマー
ケットリーダになっております。2018 年には、この市場規模が 1,800 億円超え、2023 年には
1 兆円に達するというほど急成長している市場になっております。その中において弊社は 2008
年に創業して、この業界におけるパイオニアとしてやらせて頂いておりますけれども、海外
講演1 ・ ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
39
見渡すとこの一番左にある
イ ー ラ ン ス(Elance) と い
う 所 が 1998 年 に ア メ リ カ
で始めたモデルになります。
この後、
オーデスク(ODesk)
と い う 世 界 最 大 手 の 2004
年にでき上がったサービス
と合併されて、今アップワー
ク(Upwork)という企業が
2013 年に出来上がり、これ
が世界最大のマーケットプ
レイスになっております。
我々は日本のマーケット
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リーダとしてやっておりま
すけれども、既に国内だけ
でも 2 ∼ 300 社このクラウ
ドソーシングを事業展開し
ているプレイヤがいて市場
として非常に活発に動いて
いる状況です。数字が非公
開になので入っていません
が、左が登録者数、右がク
ライアント企業数、ともに
直近 1 年で倍増している状
況で、登録者数は非公開で
すけれども 100 万人に近い
形になっておりまして、クライアント企業の数も 10 万人を突破するような形で、社会にも受
け入れられ始めている状況です。
続きまして定年のない働き方の実践者と仕事の事例ということで本シンポジウムの高齢者ク
ラウドにもつながる話になってきます。まずは、登録者の内訳ですが、左側がこの種別、右側
が年齢別です。左側の方ですけれども、この専業でフリーランスをやっておられる方が半数、
一方、その副業・兼業や、主婦という形でやられている方が 3 割ぐらいになっております。数
としては小さいのですけれども、この左側の副業されている方、主婦でやっていらっしゃる方、
非常に伸びています。冒頭申し上げた通り、例えば、高齢者、女性、そういった潜在労働力の
活用という所で、本当に女性の方々が積極局的に、在宅でクラウドソーシングの仕組みを活用
して仕事をしていらっしゃいまして、非常に真面目にアクティブにやってらっしゃいます。右
側の方ですけれども、IT 関連の仕事が多いということで、現在 約 20 代から 40 代が 90% を
占めるような状況で、50 代以上で 9%、60 代以上で 2% の方々が活躍していらっしゃいます。
数としては少ないように見えるのですけれども、こちらは非常にアクティブな形で活躍されて
いらっしゃいまして、且つその高齢者の方、非常に実績、経験が豊富でいらっしゃいますので、
収入の大きい傾向にあります。実際に、年間ですと 1,500 万円稼がれている方々もいらっしゃ
40
るのですけれども、こうした方の一例として、宮城県で 50 代の男性が 1,500 万円稼がれてい
るという事例もございます。冒頭、地方創生というところをテーマに述べさせていただきまし
たが、我々のサービス上で仕事の再分配、東京から地方への仕事の再分配が起こっております。
これは何を申し上げるかというと、左側の方が依頼額、企業が依頼する、こちらの半数以上が
東京からです。一方で右側、受注する個人の方に関しては、8 割弱が東京以外の地方になります。
つまり、地方から東京に戦後 1,000 万人以上の方が流出し、東京で出生率が低いために起こっ
ている人口減少のスパイラルにおいて、地方に魅力を呼び戻すために地方に仕事を戻すことが
重要と言われています。まさにオンライン上で東京から地方に仕事が流れており、我々のサー
ビスの社会的意義が非常に高くなっております。具体的に典型的なフリーランスの働いている
方々ですけれども、例えば女性で典型的なのは、子育て出産を機に仕事を辞められて、一旦子
育てが落ち着いてからその
間時間を使って子供を背負いながらデザインの仕事をする。ある
いは、移住者では、一旦東京に出てきたり 都会に出てきたりして、就職した後で、実家の家
業を継ぐために、例えばスモモ農園を継ぎに山形の地元に戻ってから、やはり折角なので東京
で培ったスキルを自分の空いた時間で活用して、自分の金銭的価値であったり自己充足感に繋
げたい、という方々も結構いらっしゃいます。また、今回のテーマに沿う所のシニアの方で、
70 代の大学の元教授でいらっしゃいますけれども、大学の時に培ったこうリサーチの高いスキ
ルを使ってライティング、記事制作を自分のライフワークとして、定年を設けずにやりたいこ
とを続けていくためにやってらっしゃったりします。一方で、クライアント企業、発注する側
の方ですけれども、こちらも非常に幅広く大手企業から中小企業、官公庁までいろんな方々が
このクラウドソーシングを活用して、集合知、オープンイノベーションといった形で活用され
ていらっしゃいます。一例をあげると、一番左のパナソニックですけれども、レルミックスと
いうデジタル・カメラのパッケージのデザインにおいて 1 週間で 1,300 以上のアイデアを広く
集合知として募って、そのうちから 50 のアイデアを実際に採用されています。コストでいう
と 3 分の 1 以下、スピードでいうと 5 倍ぐらいのスピードで、しかも社内では出てこないよう
なアイデアを 1,300 も募って、そして 50 個の商品アイデアに繋げられたということで、非常
にクラウドソーシングの典型的なメリットを活用されているなと感じております。
続いて、二人ほど、高齢者の方のご紹介をしたいなあと思います。一人目は、関口さんとい
う方でグローバルナビという所で番組にご紹介させて頂きました。60 代で神奈川県にお住いの
方ですけれども、元々その外資系のエンジニアでご活躍されていた方で、60 代手前で独立を決
断されました。やはり独立されて、ご自身で営業活動して、自分はこんなスキルを持っている、
こんな技術を持っているというのを広く、いろんな営業先にお伝えするのって中々骨が折れる
んですよね。そこでランサーズのクラウドソーシングのサービスでは、もう月間で 2 ∼ 3 万件
の仕事がワーッと流れてくるので、自分で足を運ばずにこう営業活動をオンライン上で出来る
というところに非常にメリットを感じて、活躍されていらっしゃいます。二人目は、83 歳の島
村さんという方ですが、この方も非常にバイタリティ
れる方で、人生 100 年余命 20 年、浮
世離れまだ早いということで、結構センセーショナルなキャッチですけれども、今までタイプ
ライターとして活躍されていて、まだ 20 年は現役で頑張るんだということで、先ほどの一億
総活躍社会になるので、できるだけ長く現役で続けられるじゃないですけれども、80 歳にして
ウェブライター、ウェブライティングの業務に挑戦をしたいということで、ランサーズにはウェ
ブライティングの仕事沢山あるので、ここでチャレンジして稼いでいらっしゃるという事例が
あります。
実 際 の で す ね 仕 事 内 容 と し て は、 弊 社 で は 141 種 類 の 非 常 に 幅 広 い 仕 事 を 提 供
さ せ て 頂 い て い ま す。 そ の 中 で は、 ウ ェ ブ 関 連、ICT 関 連 そ し て デ ザ イ ン、 ラ イ テ ィ
講演1 ・ ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
41
ングが主になっております。
ただ、
シニアの方々に特定した案件と
いうのも実際にありまして、
例えばシニアの方々に向けた携帯の
ネーミングのアイデア募集、
例えばオイシックスさんという
インターネット上の通販会社
のお試しセットのレビュー、
シニアの方の健康の悩み
に関して実体験を基に記
事を作成してくださいとか、
高齢者の方へのニーズに沿
うお仕事もたくさん出てき
ております。
最後に、新しい働き方の今後の広がりに関して簡単にご説明いたします。先ほど田澤様の方
からテレワークっていう形で個人の側の方の話でしたが、企業の側からするとクラウドソーシ
ングという新しい潮流を説明させて頂きました。東京工業大学の比嘉教授が、クラウドソーシ
ングについて記述されていらっしゃいます。クラウドコンピーティングというコンピューティ
ング資源を広く、柔軟に活用できる仕組みという雲のクラウドを企業は採用しているわけです
けれども、まさに同じようにクラウドソーシングが人的資源のオープン化ということで広がっ
てきていると話しています。また、先ほどご紹介した世界最大手のアップワーク、前身オーデ
スクという会社の CEO でいるグレイ・スワートさんも 2020 年までに世界の労働者の 3 分の 1
はオンライン・ワーカになっている、と結構センショーナルな予言されています。我々も実際
の数字を調査もさせて頂いて、アメリカで昨年 9 月に行われたフリーランシング・イン・アメ
リカという民間の調査で、労働力人口 1 億 6,000 千万人の 3 分の 1 に当たる 5,300 万人が広義
のフリーランスであると定義して、そのもたらす経済効果が 72 兆円であると発表されていま
す。まさに、それと同じような調査を我々も今年の 3 月にやりまして、結果として日本での労
働力人口の 19% に当たる 1,200 万人が広義のフリーランスであると定義しました。このうち
400 万人ぐらいは、狭義の自営業をやっているフリーランスなのですが、残りの 800 万人はど
ちらかいうと正社員でありながらも副業をしているとか、2 社以上に勤めてパラレルワーキン
グ、ダブルワーキングしている方々で潜在的労働力は大きいと実感しております。仮にアメリ
カと同程度になると 2,200 万人になり、労働力人口が減っていく中で大きな潜在力になってい
くと考えております。最後に、このクラウドソーシングという仕組みが拡がっていることで働
ける環境が広がっている、そして非正規の社員が 40% を超えているという、この潮流は何だ
ろうと我々も考えております。究極はやはり個人がより多い選択肢を持って自身の仕事を主体
的に選んで、企業に従属する個人でなくて、個人が企業と対等にパートナーシップ、アライア
ンスを組んでいけるような世界がいずれやって来る可能性があるんじゃないかと考えておりま
す。先に進んだ言い方をすると、フェイスブックでは、ソーシャル・グラフっていう SNS の中
で色んな人が繋がっているそのグラフを経営の資産にしていますが、我々はワーク・グラフと
いう、個々人の仕事の実績、あるいは、個々人のスキルをオンライン上で見える化して、それ
が資産となって、例えばデザイナーであったらそのご自身の作品、ライターであったら自分の
記事、エンジニアであったら自分のコード、そういったものが実際に履歴書や職務経歴書の替
42
代わりになって、仮に学歴がなくても 仮に企業に勤めていなくても、私はこの 30 社から評
価、48 件の実際の仕事をして評価 4.9 でこんな素晴らしい作品を実際に作りました、というよ
うな形で個人の能力そのものが与信として見える化されていく。それよって個々人が選択肢を
持って、もちろん企業に勤めてもいいですし、企業から離れてご自身で起業されてもいいです
し、またその両立をされてもいいです。非常に選択肢を広く、
今まで活用されてこなかった時間、
スキルが世の中に価値として還元されていく、そういった世界がやって来るのではないかと考
えております。
檜山:
曽根様どうも有難うございました。実は本日皆様のお手元にお配りしております資料の中に昨
年の第 4 回「高齢者クラウド」シンポジウムという冊誌がありますが、こちら実はランサーズ
に登録されている 50 歳以上のシニアのランサーズの方のご協力のもと作ったものです。記録
の映像から文字起こしをして頂いて、更に表紙のデザインのコンペをランサーズで行わせて頂
きました。その結果、60 名位から 100 件近い応募がありまして、どれも素晴らしいデザイン
でかなり選ぶのに苦労したのですけれども、オンラインの活躍の場があることでいろんなシニ
アの人たちが自分のスキルを、市場に出す機会を多く得ることができるとシニアの喜びの声と
シニアの力を知るきっかけに、私達にとってはなりました。
会場からの質問:
フリーランスの今井と申します。フリーのユーザリサーチャです。最近海外にとってもフリー
ランサーが多いんですけれども、一時的に国内で一緒に活動してほしいフリーランサーを探し
てほしいと話を何件か聞いています。あの今後こういう海外からの仕事というものを日本に
持ってくる傾向は増えていくのでしょうか?と言いますのは、最近お目にかかった高齢の方で、
海外で活躍していた方で、英語を使った仕事がしたいとお伺いしたので、そういった仕事は増
えていくのかどうかということをお伺いしたいです。
曽根:
有難うございます。海外からの仕事、クロスボーダー、海をまたぐような仕事が増えていくか
講演1 ・ ランサーズ 新しい働き方の創造 年齢に関係なくスキルを活かしているシニア事例
43
というご質問であったと理解しています。結論からすると、私は増えていくと考えております。
「時間と場所に捉われない新しい働き方」という本があります。例えば日本に来られた海外の
人に関連しては、先ほどご紹介したアップワークさんという会社とかは、もう世界の 150 か国
くらいにフリーランスの方々を抱えていらっしゃって、例えばフイリッピンの方がアメリカの
仕事を受ける、例えばベトナムの方がドイツの仕事を受ける、アメリカの方がオーストラリア
から仕事を受けることが結構日常的に起こっています。日本においてはまだ日本語での仕事を
やることが多いので、そんなに多くはないのが確かに現実であります。ただ、既に 80 か国以
上のユーザが実際にランサーズのサービスを使っていらっしゃいますし、我々は3月にデザイ
ンクルーというサービスを買収したのですが、そこではデザインなのであまり言語に左右され
ずに、アジアの方中心に日本からの仕事、海外の仕事を実際に受けていらっしゃって、この動
きは中々止められないというか、広がっていくと思っています。もっというと、日本の労働力
人口がある意味増えていかない中で、より既に働いていらっしゃる方はより付加価値の高い作
業をしていかないといけないと思っていて、今までしていた作業で外の労働力に振ることがで
きるものがあれば、外に出すことで日本の生産性をより高めていく方向に我々行かなければい
けと思っていて、今言ったような海外からの仕事は増やしていくべきだし増えていくと考えて
おります。
檜山:
おそらくいま 50 代、60 代以上のシニアランサーの方って割合として数%ですが。この次のご
講演のセカンドライフファクトリーの矢富さんもランサーズの活動に関心を持たれていらっ
しゃいます。シニア層はまだまだ沢山方がランサーズの存在をご存じないと思うのですが、そ
ういう人たちにランサーズというオンラインで働く場があるんだということを知らしめるよう
な活動の計画などございましたらお知らせ下さい。
曽根:
承知いたしました。まずクラウドソーシングという言葉がやはり横文字であることもあるので、
まだ普及認知度と言う所では一桁から 10%前半だと思います。我々としては、いろいろ啓蒙活
動・認知活動を進めておりまして、具体的には、クラウドソーシング協会と言う協会を作って、
中小企業庁さんから受託事業で全国にクラウドソシングプロデューサーという我々のアンバサ
ダーになってくれる方を 120 団体ほど任命してその方々が中小企業にリーチして実際にクラウ
ドソーシングを使ってもらう活動を行っています。今年度で 800 社ほどに使ってもらっている
ようなクラウドソーシング普及推進事業というものをやっています。社会的大義が非常に大き
い事業領域なので国、自治体、例えば一事例で、今、奄美市と包括提携させていただいて一緒
になってこのクラウドソーシングをいう取り組みを、草の根的ですが徐々に広めさせていただ
いております。
檜山:
有難うございます。シニアの方のバイタリティがどんどん、どんどん広まって行くといいなあ
と思います。
曽根:
是非、よろしくお願い致します。
44
矢冨 直美
一般社団法人セカンドライフファクトリー
代表理事
地域高齢者の就労と ICT
セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
私はセカンドライフファクトリーという高齢者が作った組織の理事長をしております。もう
ひとつの肩書は、東京大学の高齢社会総合研究機構の研究員です。かつては東京都老人総合研
究所というところで研究員をしておりまして、そのときの最後の 10 年間は認知症予防の研究
をしておりました。退職してちょっと間がありましたけれども、東大の研究員として就労の研
究を現場でやっているという研究者でございます。
今日の話はわれわれが ICT を使いこなして高齢者就労をやっているということというより、
むしろ ICT に対する期待をお話ししたいと思います。
廣瀬先生の、超高齢社会の深刻さをまだ我々は認識していない、相当厳しい時代がやってく
るというご指摘でしたが、そのとおりなのです。あと 10 年もすれば、後期高齢者と前期高齢
者が逆転するという時代が来るわけです。
そのときの解決法を日本はまだ見いだしていないのではないかと思うのです。課題先進国と
先ほどのいくつかの発表の中にありましたけれども、課題解決先進国というふうにならなきゃ
いけません。その深刻さの中のひとつのデータがこれです。障害をもって生きなきゃいけない、
健康寿命のあとに 9 年とか、13 年とかいう時間がある、ということを自覚しなければいけな
いのですね。平均寿命はすごく長くなりました。いまの高齢者は昔の高齢者よりも非常に若々
しいのですが、先ほど言ったような高齢社会の相当深刻な時代がやってくる。それを解決する
方法は高齢者が社会参加する、社会に積極的に参加して社会を支えるということしかないのだ、
と私は思います。これは医療費と高齢者就労の率をプロットしたものです。長野県は一番医療
費が少ないのですね。67 万ぐらいかな、いや 65 万ちょっとですね。ところが、福岡とか北海
道になりますと 100 万近くになっています。斜線が引いてありますけれども、斜線が回帰曲線
で、各県の就業率と医療費は相関するということです。ですから、高齢者がいつまでも働いて
いる社会は医療費が低いということが言えると思うのです。もうひとつデータを示すと、これ
は日本福祉大学の近藤克則先生が JAGES プロジェクトで、数万人のデータを集めていますが、
その中で 3 年前と 3 年後を比較して、介護状態になることにはどのようなファクターが効い
ているのかを調査した研究報告があります。女性では、何かの会に自由に参加しているという
ことが非常に効いている。男性についても、仕事をしているとか、あるいは家事をしていると
か、そういう社会参加をしていることによって介護状態にならない、ということが追跡調査で
分かっております。こういうことからも、高齢社会の課題のソリューションとして社会参加は
講演1 ・ 地域高齢者の就労と ICT セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
45
課題解決の切り札であると私は思います。先ほどの繰り返しになりますが、医療費や介護費用
の軽減、それから労働人口の減少を補う、特に介護領域とか都市農業とか、中小企業の人手不
足というのは非常に深刻ですので、そういう労働力不足を補う必要があります。それから、地
域でいろいろな社会問題が起こっているわけですけれども、そのときの地域の課題解決の担い
手になる、そのときの人的資源として高齢者は本当に活用可能な人材だと思います。地域の活
性化、活性化支援、防災、介護予防活動、こういうことを高齢者が担っていける、ということ
ですね。そういうことに携わることによって高齢者自身が元気になって、医療費、介護費用を
抑えるということにもなると思います。
柏市には東大のキャンパスがありまして、そこが高齢社会の諸問題を解決するための研究の
フィールドになっております。そこでは、柏市と UR と東京大学が三者で協定を結んで高齢社
会の研究をしています。常磐線の上野からだいたい 2 ∼ 30 分のところにある都市です。東京
に通勤している人が非常に多いベッドタウンで、東京都特別区内への通勤率が約 30 パーセン
トです。みんな東京に働きに行って、寝に帰ってくる場所です。柏の高齢化率はまだちょっと
少なくて、22.9 パーセント。介護認定の率が 13 パーセント、これは千葉県下でかなり低い。
たぶん 2 ∼ 3 位を争うような低さです。沼南町という農村とそれから柏市とが合併して農村的
な特徴があります。農地と山林率を足したものをプロットしてみました、北側と南、西側にこ
ういう農村地帯を抱えている、とても研究材料としては面白いです。面白い、というのはちょっ
と語弊があるかも知れませんけれども、6 万人の調査データを分析させてもらいましたが、赤
いところは虚弱リスクが高い地域です。これは農村の率と、農地率と非常に一致している。そ
れから、ウォーキングを実施している率ともよく一致していまして、15 パーセントから 75 パー
セントまで地域の高齢者のウォーキング率が分布していますが、農村の人たちはあまり歩いて
いないのです。そして虚弱者が非常に多いという関係があります。ところどころに青が非常に
濃いところがあると思いますが、こういうところは住宅が開拓されて 20 年前とか 30 年前とか
に東京から移り住んで来た人たちが居住しているところで、健康意識が高くて健康行動をさか
んにやっている。こういうところのウォーキング率が非常に高い。同じ柏市の中でも、どうい
う開発の経緯があったかによって非常に健康度が違う、ということがわかります。これは、文
46
化あるいは意識の差というふうに言ってもまあいいと思います。こういうところで、高齢者就
労、あるいは社会参加、就労ばかりでなくてボランティアとか収益活動とかを誰が担うのか、
ということです。私は柏市に移住して住んでいますが、ちょっと驚いたことに柏市ではまだま
だ地縁組織が生き残っていて、先ほど日本の町内会はどうなるのだって話がありまたけど、実
は私は東京都内で高齢者の悉皆調査を何か所かでやりましたが、武蔵野市ってありますね。吉
祥寺という駅を抱えていて、そこは高齢者が憧れて移住していく町なのです。武蔵野市は町内
会がなくなっています。崩壊しているのです。で、誰が地域の活動を世話しているかというと、
地域社協です。ですから、もう住民の力というか組織力については、もしかしたら武蔵野市は
日本の未来を反映しているかも知れません。柏市においても町内会の役員は 1 年交代というと
ころが多く、行事を消化するに過ぎない町内会になっているところが多いです。それで町内会
が問題解決をするというのはとても期待できない、というようなことがあります。シルバー人
材センターとか高齢者クラブ、あるいは多くのサロンの人たちが運営していますが、その人た
ちのやり方とかが、新しい都市的な自由な生活スタイルを好む人たちに嫌われていて、なかな
か機能していないことになっているというのが、まあ大方の東京周辺のベッドタウンの現状だ
ろうと思います。ひとことで言うと、旧
来の組織が制度疲労を起こしていて、新
しい住民たちに魅力がないという状況で
す。なので、それに替わる、新しい、地
縁 を 越 え た、 機 能 的 な 地 域 の プ ラ ッ ト
フォームが必要なんじゃないか、という
のが私の問題提起です。
それで、先ほどの青いところがありま
したね。その中のひとつに柏ビレッジと
いう場所があります。1,500 戸が集まっ
ている、かつては柏のビバリーヒルズと
言われた、まあ 1 億円くらい使わないと
入れないところがあります。そこでどん
なサービスが必要とされているかという
調査をしました。第 1 位が緊急時のサポー
トですけれども、第 2 位が驚いたことに
庭木の剪定だったのです。自分の住宅の
中にシンボルツリーがあって、お庭を大
切にするという、そういうところです。
それ以外にもいろんなコミュニティで出
てくるようなニーズがあるのですが、学
習したい、買い物とか病院へ付き添って
欲しい、というのはまだ少なかったです。
住民の人たちの中で、どういう組織がこ
ういうサービスをしたらいいのか、とい
う調査をすると、一番適切だと回答した
講演1 ・ 地域高齢者の就労と ICT セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
47
のは、非営利組織、NPO のような組織がそういうサービスをしてくれる、という回答が一番
多かったのですね。コミュニティビジネスも多少は支持があるのですけれども、一番多いのは
NPO です。意外なことに自治体とか、自分たちの近隣というようなところがこういうサービス
をすべきであるという回答は非常に少ない。ということは、隣の人でなく、できたら知らない
人に自分たちのサービスをして欲しい、っていう都会的な自由さを一方で求め、しかし企業で
はなくて、社会貢献を目的とした NPO のような組織を、住民は求めているということがわか
りました。
それは私が経験した、地域の調査だったのですが、それを基にしてシンポジウムとかワーク
ショップをやりまして NPO が立ち上りました。自治会と連携しながら NPO が立ち上がったの
ですが、一番の稼ぎ頭は庭木の剪定です。20 人ぐらいが働いていて、一番 NPO の中で稼いで
いる、という稼ぎ頭になります。
先ほど紹介しましたように、私は一般社団法人セカンドライフファクトリーという組織の理事
長をしています。これは東大が、柏で行った「生きがい就労」研究の協力に集まった 500 名の
人たちがセカンドライフファクトリーという組織を結成しました。地域に貢献して、地域高齢
者が元気になるような介入をしていこう、というのが目的の組織です。どんなことをやってい
るかというと、月々の講演会、それから職能講座、つまり仕事に就く前のトレーニング。例え
ば植木とか、保育とか、あるいは生活支援の勉強とか。最近では、パソコンでホームページを
つくる勉強会とか、そういう職能講座をやっています。それから、人々のつながりをつくるた
めの、例えば旅行とか、スマホの勉強とか、あるいはエネルギーの勉強とか、写真を撮ろうとか、
そういう勉強会とか趣味の活動の 3 つのことが主にやっている組織ですね。その他に、柏市か
ら「生涯現役プラットフォーム」事業の委託を受けています。
東大が生きがい就労モデルとして考えてきたことをちょっと紹介します。この絵は特別養
護老人ホームの朝の 7 時から 9 時の間で、その時間だけ食事の支度をして、配膳のところまで
やっているところです。実際ケアは正規の職員がやるのですけれども、高齢者がそのお膳立て
のところをやる、つまり 1 日の中の 2 時間を働くプチ就労事例の写真です。高齢になってどう
48
いう働き方を望んでいるかというと、以前よりもゆるい働き方、ストレスの少ない働き方で働
きたい、というのが大部分です。働く目的というのは、お金も多少ありますが、生きがいとし
て働きたいとか、健康のためにとか、人とつながりたい、という目的もけっこうあります。こ
ういうのが生きがい就労です。お金のために、一生懸命稼ぐために働きたいという人は、まあ
50 パーセントぐらいだと思います。未就労で、しかも働きたいと望んでいる人は大体 60 歳代
で 10 パーセントから 15 パーセントぐらいいらっしゃる。その人たちの働き方は、このような
価値観に基づいて今後は働きたいと思っているのですね。言わば贅沢なのです。自分が働きた
い時間で働きたい、とか自分が好きな仕事で働きたい、という選択をしたいということが一番
重要な要素になっています。それで我々は、80 歳まで働ける仕組み作りに取り組んでいます。
地域の仕事でワークシェアリングするとして、2 時間の仕事を週 2 回か 3 回やるとすると、全
部埋めるためには 3 人の人が必要ですね。先ほどの廣瀬先生のお話でタイムシェアリングをす
る時間モザイクということです。このようなことを目指して就労の実践的な研究をしています。
ワークシェアリングのメリットは労働時間を短くする。例えば農作業は 6 時間やるとヘトヘト
に疲れるのですけれども、2 時間ずつ 3 人で分けると、
まあまあ体がもつということがあります。
何か起こったときに他の人に替われるとか、仲間がつくれる、というようなメリットがあるの
ですね。デメリットとしては、3 人で 1 人分のシェアをするわけですから、収入が少なくなる。
あるいは、3 人分が 1 人として働くための情報共有が煩わしい。ここに ICT の力が非常に役に
立つ、と考えています。他のメリットとしては、余分な雇用が省くことができます。あるいは
年金とかそういう負担が少ないとか、労働力を確保できないということが、人が替わることに
よってリスクが少なくなります。それから、高齢者も生きがいとして働いて、切磋琢磨してだ
んだん能力を上げていくことができるので、チーム力を発揮できることがあります。デメリッ
トとしては、いろいろな人がくるので質が均等でない。あるいは労務管理で作業時間が増える
ことです。具体的にどういうふうにやるかというと、私はいつ働けるという時間を申告します。
それから誰かがいなければ私が働いてもいいという時間を申告します。それから働きたくない
というのは白い空白になります。その 3 つを申告しておいて、次の月のシフトを組む。そのや
り方でワークシェアリングしていきます。こういうふうに仕事を取ってきてやるのですけれど
も、これをちょっとシェーマ化して、フルタイム、パートタイム、プチタイムという、お金を
重視から生きがいを重視する方向の軸、労務的な意味の仕事、経験や知識を生かした高度な専
門的な仕事という方向の軸、それから自分で自分を雇用して働くという自己雇用という働き方、
要するに事業主として働くのと、人に雇われて働くという方向の軸に整理しています。課題は
山ほどありますが、仕事の発掘、それから人材の発掘、それから職業教育、職業評価が挙げら
れます。
私どもの就労のプロセスを図式化して書いてみました。主に自己雇用の働き方に対して ICT
の活用がどう関係しているかを図式化したものです。先ず企業に行ってヒアリング、アンケー
トして、どういう人材が求められているか把握して、セミナーを開いて人材を獲得します。獲
得した人たちに勉強しませんかと言って、講座に参加していただいて、グループをつくってい
く。その人たちが実際に企業に出かけて、仕事ありませんか、と営業をかけて、見積もりして、
実際に契約が成立したら実行するという、まあこういうプロセスになります。それぞれのプロ
セスの中で、例えばホームページとか受付事務とか、あるいは会員管理とか SNS とか、ICT 活
用のニーズが生じてきます。テキスト、動画、遠隔レッスンというのがありますが、例えば先
講演1 ・ 地域高齢者の就労と ICT セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
49
4%
6% 12%
18%
20%
20%
58%
62%
ほど、田澤さんが北海道から一対多で講演をされましたが、一対一の遠隔レッスンみたいなこ
ともスカイプなんかを使って行うことができます。それから、植木とか農業というのは非常に
天候に左右されますので、臨機応変なチーム編成というのが必要です。植木でも松ができる人
もいれば、松は高級なので生垣しかできない、という能力差もいっぱいあります。そういうこ
とを考慮して注文に応じてどのような人材チームを編成すればいいのか、ということを計算で
バラバラっとやって、チームができる、というようなことが必要になってくると思います。こ
ういうところに ICT が使えます。ひとつの問題は、ICT リテラシーがまだまだ低いということで、
高齢者に例えばスマホの使い方を勉強してもらって、前述の技術を使いこなせるようにしてい
くことが必要です。特に、音声入力、動画による技術の共有、スケジュール共有とか、SNS の
使い方を知っていただくことが必要なんじゃないかと思います。
最後に、プラットフォームを構築するにあたって、どういうことが必要なのか、お話しした
いと思います。廣瀬先生がおっしゃったとおり、老後の 2 ∼ 30 年って日常生活がないのです
ね。もっと社会につながって生きないといけないということを国民みんなが認識をして、改め
る必要がある。セカンドライフのライフスタイル、価値観を転換しなければいけない、という
ところに差し掛かっています。そうしないと、長い被介護生活とか病気生活が待っている、と
いうことを自覚しなければいけない。平均で 9 年とか 12 年とか、あれは平均ですからね、もっ
と長い人がいるわけです。20 年も 30 年もそういう状態で生活しなきゃいけない人が出てくる。
そのために、啓発のイベント、例えば還暦式って最近ちょっと流行ってきているのですが、地
域デビューの会とか、高齢化シンポジウムとか、こういうことで啓発をすべきだと思っていま
す。それから、社会参加を学ぶ方法が必要です。学校とか塾をつくる。これは案外言われてな
50
ICT
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いことですが、小学生が社会化するためには、小学校という勉強するところがあるわけです。
高齢者も残りの 20 年、30 年をどうやって生きるかを学ぶことは必要だと思います。
高齢者はすぐ高齢化すると書いてありますが、ほんとうにそうなのです。65 歳で退職して 2
年間は遊びまくりたい、とルンルン気分で遊んでいても、だんだん虚しくなるのですね。で、
そこから勉強しようといって、例えば、梨の剪定というのはプロでも 5 年かかるのですね。梨
園で働きたいと思ったら、相当修行に時間がかかります。ほんとにお金が取れる技術を身に付
けるには、まあ 3 年としても、その時点でもう 70 を越えてしいます。で、75 までしか働けな
いとすると、もうアッと言う間に年を取ってしまう、という意味で高齢化するわけです。です
から、学習は早くやるべきです。50 代からやってもいいのではないでしょうか。50 代がター
ンの齢だと言われますが、その通りです。スキルを獲得するための社会的支援が必要です。大
学の公開講座とか生涯学習、そういうところを積極的に、セカンドライフの就労を学ぶ、ある
いはボランティア・スキルを学ぶ場にすべきだと思います。それから、社会参加を支援する仕
組みが実際上あまりないのですね。この仕組みをつくらなくてはいけません。例えば、ハロー
ワークもあまり高齢者に対しては一生懸命にならないのですね。これは失業者のための組織で
す。仕事の無料紹介所とか、ナノコーポの企業支援とか、職能グループのグループ化の支援と
か、こういうことをしっかりやる組織が必要であろう、
と思います。先ほどの講演にありました、
ランサーズのようなシニアの働き方に即したクラウドソーシングのサイトがあります。そこに、
例えば「シニア応援の仕事」みたいなものをちょっと特化してつくっていただければ非常にあ
りがたいなと思います。それから、そういう人たちを多く巻き込んでいく SNS、地域 SNS もあっ
て、働く外縁の人たちがだんだんにそこへ入って行く、という仕組みも必要だと思います。
講演1 ・ 地域高齢者の就労と ICT セカンドライフファクトリーの実践から見えてきたこと
51
講演2
ジョブマッチングとワークスタイル
久保田 雅俊
株式会社サーキュレーション
代表取締役
高齢者クラウド × サーキュレーション
シニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
みなさん、こんばんは。株式会社サーキュレーションの久保田と申します。ここからですね
90 分弱、長いですが、できるかぎり盛り上げていきたいと思います。
高齢化社会における弊社サーキュレーションは、シニアワーカー、ミドルワーカーの新しい
働き方を推進しており、リアルに実際アドバイザリーとして、シニアの方々に企業様の経営支
援案件に入っていただいています。ですので、その辺の具体的なところを事例でお話しようと
思ったのですが、むしろ、実際にそういう方々と言葉を交わしながら共有したほうがより魅力
も伝わるのではと思いましたので、前半は私から、サーキュレーションの目指す姿ということ
でお話しさせていただきます。テーマとしては、ワークシフト、これから働き方はどうなって
いくのかという話。そして次にオープンイノベーション。企業側がそれを受け入れる際に、ど
のように多様な人材を受け入れていくのか。そして、最後に先ほど廣瀬先生よりかなりお話し
いただきましたが、シニアの科学について少しだけお話したいなと思います。
後半は、実際に新しい働き方で働かれている方、企業に入った方、プロジェクトで働いてい
るということをされている方々とパネルディスカッションを行います。
冒頭、私からサーキュレーションが何をやっているのかというご説明をいたします。
男性寿命が 64 歳から 80 歳に、女性寿命が 69 歳から 86 歳に実際、寿命が延びている。
52
少子高齢化というのは、もう当たり前で、あまり細かいデータよりも、大きく定性的に世の
中とその中で生きていく私たち自身がどう変わっていくのかということを含めてお話したいと
思います。申し遅れましたが、自己紹介をさせて頂きます。わたし久保田と申します、静岡県
出身、学習塾の社長/塾長の長男として、5 人兄弟という家庭に生まれました。革命家とか冒
険家とか、そのような本ばかり小さい頃から読まされすぎて、昔の教育ですね、とにかく伝記
を読んでいたら冒険家に憧れて、学生時代 19 歳の時に起業します。この時に、国際物流の会
社とデザイン会社を起業して世界を広げることができました。
大学に入り、静岡から出てきて、絶好調と、これから人生冒険家のように行くぜと、そのよ
うな心持ちでいたのですが、いきなり暗い話となり申し訳ないのですが父が倒れます、21 歳の
時です。塾以外にも中小企業を何社か運営していた父が。父の会社の倒産処理を母親と二人で
しながら、まだ下の妹は小学校の低学年という状況であります。いろいろありました。いろい
ろあったのですが一言でお伝えしたいことを言うと、中小企業の脆弱さを思う存分知った。長
男として。
事業承継をその歳でできないですし、買ってくれる会社もないですし、そもそも倒れてから
半年ぐらいは、これは亡くなったわけではなくて脳がやられてしまって、植物人間の一歩手前
くらいの状況だったのですが、帳簿がどこにあるか分からない。そんなレベルですね。もちろ
んパソコンもなかったですし。結局企業は人だなと思って、わたしは大手の人材業に入ります。
人材開発支援の世界に入って、とにかくガッツだけでやっていて、27 才でマネジメントをやら
せて頂き、これまで父が倒れてから 10 年間、毎週水曜日、その会社にお願いをして半休を頂き、
御殿場に介護をしに行っていました。要介護の施設だったので外から通うことしかできなかっ
た。一種、中小企業の脆弱さを知ったあとに、介護が苦しいということが良く分かりました。
そして、28 歳になりまして、その大手の人材業の中で始めてシニアビジネスを立ち上げます。
世の中にはあまりなかったので新しく立ち上げをしました。社内ベンチャーというやつですね。
カッコ良くイントレプレナーと呼んでいただくとちょっとテンションがあがります。
世の中では、35 歳で転職できにくくなり、50 歳を超えると誰もサポートができない。少子
高齢化の世の中なのに、なぜシニアの労働力というのは一切使われないのかということに疑問
を持って、社内ベンチャーとして、顧問のビジネスを立ち上げます。そして、1200 件くらい
のシニアのサポートをさせて頂きました。
ちなみに過去 5 年間、この会社では 60 歳の決定事例は 1 名もありませんでした。なんとか
行けるぞと思ったのですね。結局、新しい働き方の専門会社を作るべきだと。徹底的にオフラ
インでもオンラインでも新しい働き方の専門会社を作るべきだということで、このサーキュ
レーションという会社を起業しました。要するに外部の知見の重要性ということが良く分かり
ましたということと、大手にはイノベーションジレンマがあるということ、中の人材だけでは
どうにもならないという現状が分かったということです。
今、設立 24 ヶ月で、非常に素晴らしい仲間がいろんなところから集まって、いま 40 名位の
組織になっております。経験や知識をもう少し社会の中で好循環させられるのではないか。こ
ういう経緯でサーキュレーションという会社を設立しています。
講演2 ・ 高齢者クラウド×サーキュレーションシニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
53
サーキュレーションというのは何者なのかということについてご説明したいと思います。ビ
ジョンは、世界中の経験知見が循環する社会の創造ということです。グーグルがプラットフォー
ムになり、世界中の情報を彼らは整理している。彼らが整理できない情報は何だ。頭の中にあ
る経験・知見など。その経験や知見をもう少し好循環させる。例えば、正社員の転職だけに拘っ
てしまうと、シニアの方の転職は極めて困難な市場なのですね。そこで、仕組みを変える。そ
こにクラウドを挟むことで、そういう経験・知見が循環することができるんじゃないか。今実
際やっていることは、シニア/ノマドの労働力と地方創生を含めた中小企業の経営課題とを、
新しい働き方を含めてマッチングしています。週 3 時間か、ひと月に 5 日間だけ海外に行くよ
うな、新しい働き方でマッチングをしています。今日、人生 3 回の転職の時代になりました。
今後は、人生 3 回の転職ではなくて強みを生かして 3 社で同時に働くような働き方ができるん
じゃないか。今日はそのうちのワークシフトとオープンイノベーションについてご説明してい
きたいと思います。
まずワークシフトです。新しい働き方は、今どういう条件下ででき上がっていこうとしてい
るか、ここまでも、いろんな経営者や先生の話の中にもあったところを弊社なりにまとめてみ
ました。まず、人口構造の変化と長寿化。ここはもう何も説明は必要ないかと思います。40%
がシニアです。若者の街渋谷という言葉がいつまで続くのか。あの、シニアの方が実はかなり
増えてきています。そういうことです。グローバル化、365 日 24 時間眠らない市場があるの
に日本の正社員の雇用体系の 97%から 98%が 9 時から 6 時まで、大体そういうところです。
365 日市場が眠らないのに、働き方は一切進歩していない。
テクノロジーの進歩、なぜか大手のエリートであればあるほど、業務システムは使えるが、
ウィジェット、ガジェットが使えなくなっていく。スカイプの ID を持っていない。エネルギー、
環境問題の深刻化、もう要するに産業構造のシフトです。言葉濁さずに言うと、製造業の収束、
そして、そこから ICT やサービス業へのシフト。その状況下の転職で、製造業から ICT のプロ
グラマになれるかということです。いまの雇用転換だけではなかなか難しいということです。
54
そして社会の変革、女性の活用、ダイバーシティ。こういう大きな構造を見ながらサービスを
考えています。
どのようにシニアが働きたいか、働きたいシニア登録者にアンケートを取ったのですが、就
業理由はなんですかということです。我々のご登録者、いわゆる登録いただいている登録者に
関しては、定年後も社会に役立ちたいというのが圧倒的な数です。要するに、自分の経験・知
見をアウトプットしないともったいないと思っている人材です。そして、定年後も生きがいや
りがいを求めたい。生きがいやりがいの世界ですね。
我々は、ビジネスノマドジャーナルというメディアを持っていまして、ライターと記者をつ
けて、新しい働き方をしている人たちに取材に行っています。その中で、アメリカのデータと
かを取っているのですが、実はアメリカでは既に約 3000 万人のインディペンデントコントラ
クター、IC と呼ばれる独立業主の方々がいます。これすごい数です。先ほど、ランサーズさん
からのお話の中に潜在的に日本には実際は副業とか含めて 1000 万人とありました。マイクロ
タスクも非常に重要ですし、システムもすごく重要ですけど、注目すべき所は、アメリカでは
キャリアパスとして存在しているということです。インディペンデントキャリアが成立してい
ることが非常に重要なのです。その理由が、若い層、21 ∼ 33 歳ぐらいの方々もキャリアの最
初から、例えばアイビーリーグのトップのレベルの人たちは起業したり、IC としてベンチャー
に参画したりするわけです。正社
員を私は否定している訳ではな
いのですが、働き方の多様性と
いうことでは、日本は非常に後
進国であるという側面があると
いうことです。雇用という時代
から外部のプロフェッショナル、
多様な人材を活用していくとい
3,000
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う時代に推移していくのではな
いかと考えています。
ちょっと大きくお伝えすると、過去はビジネス人生に 40 年 1 社に勤める時代、そして現在
では転職 3 回の時代になりました。これから、ビジネス人生、プロフェッショナルで自分に職
能があるならば、同時に 3 社で働くような時代が来るのではないか。これによって、実は労働
力の担保にもなるということです。プロワーカーが複数の会社の労働力を担保している。これ
までの起業と仕事の関係、企業の採用ですね。企業が Web に求人情報を掲載して人を採用する。
リンクトインやビズリーチですね。個人が自身のプロフィールを掲載し選んで貰う。それから、
自分の能力を活かしてプロジェクトで働いていく。こんな働き方ができるのではないかという
ことです。
この流れで、オープンイノベーション、つまりは外部人材の活用をどういうふうにしていく
のかについてご説明したいと思います。我々は大手のお客様から中小のお客様までご支援実績
がありますが、大手のお客様にはオープンイノベーションの専門会社としてご期待いただいて
いる形です。オープンイノベーションの定義はご存知の方も多いと思いますが、企業の内部と
講演2 ・ 高齢者クラウド×サーキュレーションシニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
55
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外部のアイデアや技術、諸々のノウハウを有機的に結合させ価値を創造するということです。
ここで簡単にアメリカと日本の比較を簡単にします。あるある話ですが、自社の人材を重要な
経営資源と位置付ける。これはもう日本の中小企業の社長の本当に素晴らしい部分だと思いま
すが、その活用を第一に考える人本主義、なにか困った経営課題があったら、なにか新規事業
をやるのだったら、自社のメンバーでどうやるかということが主語になりそのまま終わってい
く。労働人口は減っていくのに、こういう形です。アメリカ的な考えでは、不採算部門は早い
段階で閉鎖し、新しい事業へ投資する。そして、外部から必要な経営資源を取り入れる、オー
プンイノベーションというものを推進していくということです。
弊社が大手の企業に対して行っているサービスをご紹介します。例えば、新規事業をつくり
たいという、かなり重厚長大な企業の場合です。バッティングしたのは大手のコンサルティン
グファームでした。私共もリサーチをします。外部の専門家を弊社に集めてぐるぐる回して頂
きます。そして、ヒアリングの項目をどんどん各論に落としていきます。要するにその会社の
シナジーは何があるのか的を絞ったあとに、専門家からの知見をインプットすることになりま
す。そして二つ目、事業の方向性を大きく決めていく。ちなみに、
多忙な社長が非常に多いので、
ちゃんと時間を取って、この時間だけコミットする専門家をアサインするということです。そ
して三つ目、マーケティングと販路の拡大ですね。実際に事業開発のプロで 5 名単位とか、あ
と 10 名単位のケースもあります。雇用リスクを負わずに一種のプロジェクトを組成して問題
を解決していく。これが大手企業に対して提案している内容になります。一例を見せましたが、
大きなビジネスモデルでいうとこんなイメージです。社会が成熟化し、少子高齢化、労働人口
が減少する。優秀な人材の確保のハードルが上がっていく。そのために、唯一、ある意味唯一
残された資源であるシニア層の知見経験を活用するというコモンワークデザインというサービ
ス。そして、もう一つ、終身雇用が崩壊し、専門性が求められる社会になり、強みを活かして
複数社で働いていく働き方ができる時代に変わる、ノマドワークデザイン。この二つのサービ
56
スを持ちながら、登録した個人の方々にカウンセリングを行い、コーディネーションをさせて
いただく、過去のプロジェクト資料等から一番合う案件はどういう案件なのかを精査します。
要するに、企業の経営課題や専門性、経験、知見をマッチングする。これによって新しい経営
課題のソリューションや新しい働き方の実現を担っていこうと考えております。
現状、3000 名を超えてきている専門家のデータベース、大体 6 割ぐらいがシニアの方、4 割
ぐらいがミドル̶我々はノマドと呼んでおりますが̶という形です。
実際に弊社の動き方の一番大きなところでいうと、経営者の経営課題にどれだけ向き合うか
が弊社のひとつのミッションだと思っています。人事部に採りに行くと、年齢だけで一発でス
クーニングされてしまいます。企業課題分析や経営課題の仮説を作り訪問をし、経営者とディ
スカッションして、課題を具体化するということです。法人側のメリットはとてもシンプルで
す。一つ目、今どこかに雇用されているわけではないので、来週月曜日からでも活用できるの
ですね。二つ目、他の人材データベースには無い高いスキルを有する方しかいません。転職し
たい方ではなくて、プロワーカーで自分の職能を活かしていきたい方です。そして三つ目、フ
レキシブルであることです。週一日の働き方、
ないしは月 4 回のミッションの働き方が可能です。
まあ、諸々あるのですけれど、この大きな 3 つのメリットを感じていただいた後に、実際の課
題に対してどういうふうに専門家を活用して解決イメージを構築し、プロジェクトを組成して、
そのプロジェクトをフォローしていくという流れで進んでいきます。今、650 くらいプロジェ
クトの累計稼動実績を持っていま
す。 常 時、200 か ら 300 案 件 ぐ
らいを持っているところです。弊
社のサービスを通じて、最初お一
人がすごく上手く働くと、あと一
!circulaAon!
人、あと一人という形でどんどん
リピートしていくことが多く、約
6 割の法人様がリピートしている
形になっています。メディアに対
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してはそんなに大きく推してはい
ませんが注目して頂いているよう
です。
最後に、「シニア×働くを科学する」について。弊社が企業の経営者の方に、どのように仕
事を定義してシニアの働く案件を持ってくるのかということです。我々はシニアを、シニアエ
グゼクティブと呼んでいます。働くイメージは、どの業界で、どんなテーマで、どんなポジショ
ニングなのか。社長の横なのか、部長の上なのか、プロジェクトリーダーのパートなのか、な
いしは先生として事業承継二代目の横につくのか、そういうポジションの定義。そして、解決
のステップ、ここは専門家の方と一緒に考えていく、ないしは専門家の方が非常にできる方で
あれば、その方に一定お任せする、という形になります。最後にどういう専門家の方々とどう
いうプロジェクトに組んでいくのか、ということを考えています。
沢山のデータがありすぎて持ってこなかったのですけど、社内にラボラトリーを組んでいま
す。弊社は人材業と思われることが多いのですが、社員はどちらかというと投資銀行にいたメ
ンバーだとか、戦略ファームのメンバーとか、メソッドを書けるメンバーで、いろんなテーマ
講演2 ・ 高齢者クラウド×サーキュレーションシニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
57
シニア活用の科学①
専門家個人に蓄積している経験・知見を、
現代経営にスムーズに活用いただくメソッドを開発
• 
• IT
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• IPO
• M&A
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• AsLIs
• ToLBe
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PMO
• 
• 
PDCA
• 
• 
• 
HD
• am.pm.
CEO
©!Copyright!Showeet.com!
クライアント1社1社それぞれにカスタマイズ
やインダストリーにおいてメソッドを構築し、企業からまたフィードバックを受けという形で、
どんどんメソッドの活用方法の幅や深さを拡大しつつ精度を上げていきます。
そして、科学の分野です。シニア科学に関して廣瀬先生からかなりご説明があったと思いま
す。同じ内容は飛ばさせていただいて、将来どんな姿になっているのかという事だけをお話さ
せていただきたいと思います。今、入り口として行っているのは、ビッグデータ、そして暗黙
知を活用して、案件が自動マッチングされる仕組みをデータアナリティックスによって実現を
目指しています。我々がサービスを提供する側として目指しているのは、グローバルまで含め
た自動マッチングです。この自動マッチングが、転職だったらレジュメと求人票でマッチング
するのですが、案件と人の職能というのは、そんな簡単にマッチングしないので、テキスト解
析と実際の暗黙値̶どういう所作なのか挙動なのかなど̶をビッグデータ解析してマッチング
します。こうすると、本質的な、ピンポイントな案件と人の職能というのは繋げられるのでは
ないかということで、未来への仕掛けとして我々はやらせていただいています。そして、二つ
目のポイントは、誰が、どこに、どんな案件で入っていて、それがシェアできて、そこにアサ
インできてというのが、結局、我々を介してだけではない形でどこまでやれるのか、を把握し
ていくことです。未来のために、いま東大と IBM とご一緒させて頂いています。
最後、私から未来の仕掛けだけお話したいなと思っています。弊社、実はまだ設立 24 ヶ月
で、来月 1 月で 3 年目を迎えることになっていますが、実はここまでで Web サービスを 3 本
リリースしています。こちらのご登録者は、今回含めていませんが、かなりの数の登録者がい
ます。一つ目は、マイクロコンサルティングサービスです。いま既存のクラウドソーシングマー
ケットは非常に素晴らしいものですが、システム、デザイン、マイクロタスクに関してはグロー
バルマーケットができ上がっています。我々はアドバイザリーを、時間軸を超えてどう繋げる
かを、Web サービスを通じて推進しています。具体的には、1 時間のマイクロコンサルティン
58
グをスカイプや電話、或いは訪問にて、1 時間いくらという形でアドバイザーに繋ぐというも
のです。アドバイザリーというと非常に専門家っぽく感じられるかもしれないですけど、弊社
はそのとおり専門家です。ここがちょっと違います。いろんな方に登録して貰うというよりも、
専門知識、何を有しているかということが定義できる方に繋ぐことを目指して行きたい。二つ
目、フレキシィというサービスで、これはエンジニアだけを対象としています。ですが、常勤
は無しにしています。CTO だとか週 1 日こういう案件で働きたいという方、もっとニッチなポ
ジション、例えばデザインアーキテクチャだったら 3 日間だけ来てプロジェクトを解決しても
らう、そういう案件を持ち寄っているサービスです。そして、先ほどお伝えしたメディアです。
これからは地方創生。地方創生の事業承継、東京進出、非常にシンプルですが、実は東京のプ
ロはなかなか地方に出ないけれども、プロワーカーが月に 4 回だったら行くことができる、そ
ういう地方創生です。そしてグローバルですね。いま全体の売り上げの 3 割ぐらいのニーズが
地方とグローバル案件です。ここをどこまで広げて行こうか、という段階です。以上、急に暑
苦しい奴が来た、みたいな印象だったかもしれませんが、弊社のご説明をさせて頂きました。
講演2 ・ 高齢者クラウド×サーキュレーションシニアワーカー・ミドルワーカーの新しい働き方のリアルとは?
59
講演後パネルディスカッション
シニアワーカ・ミドルワーカ・サイドワーカの方々を交えて
モデレーター
久保田 雅俊
株式会社サーキュレーション
代表取締役
前半は、サーキュレーション代表取締役社長の久保田雅俊氏による「Work Shift」
「Open
Innovation」のコンセプトは大変興味深く、新しい働き方を実践するシニアの存在を多く知る
ことができました。
続く後半は、実際に新しい働き方で働かれている方、企業に入った方、プロジェクトで働く
ということをされている方の 3 名を交えたパネルディスカッションを実施いたしました。有賀
貞一氏(元 NRI 取締役)、竹居淳一氏(元エン・ジャパン上海総経理)
、伊熊克裕氏(元アサツー
ディ・ケイ執行役員)と、いずれもハイキャリアな方々です。それぞれのパネリストが、話さ
れていた印象的な言葉をいくつかご紹介いたします。
60
IT 業界のご意見番
有賀 貞一
氏
メディア戦略の礎を築く
伊熊 克裕
氏
戦略・事業構築のプロ
竹居 淳一
氏
有賀氏は、現状 12 社の外部の専門家として、経営支援をされています。10 社が経営顧問、
2 社が社外取締役として参画しています。平均年齢 29 歳の若い会社に対しても応援されていて、
若い方に対してもものすごく強烈にフラットに関わろうとする姿勢が印象的でした。
「2 時、3 時に帰って 4 時ぐらいまで仕事して 9 時に起きるというのがベンチャー的だよね」と
ご自身の現在の時間の使い方について語っています。
「iPhone アプリ作る Swift って言語をアッ
プルがオープンソース化しましたよね。ああいうのを見てないと結局何も喋れないわけです。
特にベンチャーはみんな先端技術で勝負していますから。その辺りを何て言うのかな、能書き
的に理念的に顧問ですなんて言ったって何も役に立たないのでね。だから、極端に言うと、若
手よりも僕のほうが実力ありますというジャンルをどんどん作っていかなきゃ」と、変化の著
しい IT 業界における情報収集の習慣化についてお話しになりました。
「物事、事象を一般化で
きるとか抽象化できるとかルール化できるとかいう能力があれば、どういう局面の情報でも有
効に活用できると思います。むしろ、そこは、もう一つ、それをドキュメント化するっていう
か、一つのパッケージにすることが必要です。だから、自分で例えば何か理屈を説明しようと
したときに、それが一般化されて普遍化できて、そしてそれがさらにドキュメント化できて教
育可能だってところまで持ち込めないのであれば、どんなでかい会社で立派な業績上げても多
分、小さいとこ行っても、大きいとこ行っても使えないという気がします。だから、そのへん
は実は大学じゃなくて中高あたりの教育制度も実は絡むのですが、言うと長くなるから、とに
かくそういう能力があればアウトプットができます。
」と、これからの時代の働き方に対して
まとめられました。
講演2 ・ パネルディスカッション シニアワーカ・ミドルワーカ・サイドワーカの方々を交えて
61
伊熊氏は、40 年一貫してマーケティング、広告それからメディア、セールス、プロモーショ
ンさらに広報の領域で実戦的に、数えてみたら 400 社以上を支援されてきました。定年退職 7 ヵ
月の現在、顧問新人として気さくに話されていました。これから始める定年後の働き方、株式
会社サーキュレーションと出会ってからについて「幕の内弁当のような仕事の押し込み方はも
う現役のときにさんざんやったので、せいぜい週に 2 つぐらいの、例えばお手伝いをして、あ
とは友人知人との関係とか今のような形でスケジュールが入るようにしたいです」「(新しい働
き方を実施してみて気が付いたのは)知見とか経験をやっぱりきちっと活かせるっていうのが
大きいですね。これもすごく何か無駄じゃなかったなと思うのですよ、自分自身の人生を。経
験とか知見が活かせるっていうのは 40 年やってきた体験が無駄じゃなかったという意味の何
か安心感に繋がります。」と、お話しになっていました。
竹居氏は、経営企画に計 16 年携わってきました。経営企画と言っても一種のコンサルティ
ング・ファーム、B to B で経営をサポートするところも含めています。うち 4 年間が海外の生
活とのことでした。人材ビジネスのプロで、人材ビジネスで区切ると、10 年間務められたこと
になります。3 回転職していて起業を 1 回されています。既にそれだけの経験を積まれています。
株式会社サーキュレーションと出会ってからの働き方の変化については、
「ずっとほとんど終
電か下手すりゃ徹夜みたいな、そういうのを何十年もやってきたので、そこはだいぶ変わりま
したね。自分で時間をコントロールできるので、まず土日の感覚はなくなる。その代わり、
ちょっ
と子供のことで妻と夜、中々話す時間がないと多少午前中に時間を取って話したりとか、あと、
子供が今、ちょうど上下受験なので早目に帰って面接の特訓とかやったりしていますね。その
あとにまた仕事したりしています。これは会社勤めのときにはやっぱりどうしても組織なので、
部下もいるとなかなかそこまで自由度は高くなかったので、そこは変わりましたね。
」と、語
られました。また、起業することを決めたときの周囲の反応については、
「友人の反応は大き
く分けると 2 種類で、私に比較的仕事で知り合って仲いい方っていうのは結構自分にどうして
も近いタイプ、人によっては起業していたり独立したり、会社にいながらも結構自立してやっ
てらっしゃるって方が多いので、そういうかたは、
「ああ、やっとやるのね」みたいな、
「遂に
やるのね」みたいな、もしくは「やっとこっちの仲間に来たね」っていう反応が片側でありつ
つ、それこそ高校の同級生とか大学の同級生とか昔の友達に会うと、
「まあ、お前よくやるよね、
そんなカミさんいて子供いて、リスク取って」、もう全く逆の反応です。
」
と、お話しになりました。
3 名の皆様は久保田氏のリードにより引き出されるかたちで、これまでのキャリアを踏まえ
ての現在、そしてこれからの新しい働き方についてざっくばらんに語ってくださいました。全
ての内容を掲載することはできないのは残念ですが、シニアの働く実態が垣間見えたパネル
ディスカッションとなり、大変盛り上がりました。
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講演2 ・ パネルディスカッション シニアワーカ・ミドルワーカ・サイドワーカの方々を交えて
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講評
伊福部 達 JST S イノベ「高齢社会を豊かにする科学・技術・システムの創成」
プログラムオフィサー,
東京大学 名誉教授
JST、科学技術振興事業機構には戦略的イノベーション推進事業、略称 S- イノベというプロジェ
クトがありまして、2010 年に、高齢者を対象とした研究テーマが発足いたしました。
2010 年になったころから日本は高齢化が非常に世界のトップに躍り出たということもあっ
て、労働者人口の減少とか、社会保障費の増加とか、老後の生きがいとか、それに合った支援
技術を開発してほしいということで、高齢社会を豊かにする科学技術プロジェクトができたわ
けです。
本日のお話を伺って、われわれが最初目指していたことが非常に具体化されてきて、広がり
を見せてきているのは、大変心強く思っております。そのために廣瀬先生とか、みなさんが大
変な努力をされたことについて感謝したいと思います。
ちょっとだけ、私が代表でやっている S- イノベプロジェクトについて宣伝をさせていただき
ます。発足にあたっていろんな議論をしました。特に高齢化社会に対して、まずは高齢者って
虚弱になるよね、じゃあ介護する、介護する機械を作ろう、という発想になりました。例えば、
これから高齢者は体が弱くなるね、病気にならないようにしようと。健康のための運動をしよ
う、食事を良くしようとか。もう健康のためなら死んでもいい、そういう極端な価値観が、初
めての頃はかなり占めていました。でも、そうじゃないよね、っていうことをわれわれが話し
合って、この段階でもっとできることがあるのではないか、ということで行きついたのがひと
つは社会参加なのですね。社会参加することによって、労働者人口の減少を少しでも減らすこ
とができるかも知れない。社会保障費の増加を防ぐことができるかも知れない。そして一番大
きいのは老後の生きがいですね、これは増えるに違いない。ところが、この社会参加のメリッ
トについてはあまり考えた経験がないのです。それで、何をすべきかと考えました。若いとき
はある機能が弱ったり、失ったりする、それを補うようにどんどん学習して適応能力が育ちま
す。でも、年を取って獲得するのは何かっていうと、知識とか経験とか技能ですね。それを社
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会に還元する、結果として元気高齢者にはそういう道が必要じゃないかということになりまし
た。ただ元気高齢者といっても、心身機能が衰えてくることがありますので、それを支援しな
がら社会参加、就労を促す、そういう技術、システムをつくろうと。実際 70 パーセントの高
齢者は社会参加を希望しているわけです。それで支援する技術を、本当に虚弱になった人たち
のための QOL の向上とか介護負担の軽減に生かそう。そして、虚弱な高齢者をできるだけ元
気高齢者に持ちあげよう。これをプロジェクトの目標にしました。
それに対してどういうことが必要かということで、いろいろな整理しました。人間の感覚や
脳や運動を支援するためのウェアラブル ICT が必要だ。知識、経験、技能を伝達するインフラ
ICT も必要だ。移動、特に高齢化により、足腰の弱くなった人たちが移動、安心して移動でき
る自動車も大切だ。介護したり、物を運んだりする負担を軽くするのも大事だ。記憶が低下し
たり、軽い認知症になったりした人たちを助けるロボットも大切だ、ということで、いろいろ
な分野の人たちがいろいろな提案をしてくれました。その中で、具体的に 4 つのテーマに絞ら
れました。その中には物を持ってもそんなに足腰に負担を与えない軽労化スーツ。それから自
律運転制御システム。これは、いま自動運転が脚光を浴びていて火付け役になりました。それ
から、生活支援ロボットシステム、これもコミュニケーション・ロボットとしていまいろんな
ものが出てきております。
そして本日のお話の高齢者クラウドです。これは、基本的にはインフラ、プラットフォーム
をつくるということです。個々の話はちょっと省略しますが、最終的にプラットフォームをつ
くって、そしてこれをできれば国際標準にする。こういうプラットフォームでいくと高齢社会
が非常に良く機能すると、高齢者を資源とすることで、経済だけでなく精神的にも豊かな世界
につながるのではないか。大きな目標を持っていまプロジェクトを進めております。
2010 年から始まって 2019 年で終了なのですけれども、現在 6 年、もう 3 分の 2 近く過ぎま
して、あと 3 年です。本日はみなさんのお話を聞かせていただきまして、非常に心強く思った
のは、これがほんとうに具体化し始めているな、ちょうどマグマが噴き出しているような、そ
ういう感じを受けたからです。ただ、このプロジェクトがほんとうに力になるためには、これ
だけでは足りないのですね。ほか製造業など、いままでの日本の得意な分野をもっと有機的に
つなげながら、日本だけじゃなく世界に広がる高齢化社会、そして人類の福祉のために尽して
いただければ、と思います。応援いたしますので、よろしくお願いします。
講評
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本シンポジウムは、一般社団法人セカンドライフファクトリー のご協力によっ
て当日の開催運営を行いました。
また、本冊子は一般社団法人セカンドライフファクトリーのご協力によるテー
プ起こし作業と、
ランサーズ株式会社のご協力による 50 歳以上のシニアランサー
を対象とした表紙デザインコンペにおける応募の中から選定されたデザインに
て作成いたしました。
表紙デザイン
703G 福岡市在住 フリーランス歴 28 年
会社員時代もフリーランスになってからも
締切に追われ徹夜が当たり前の生活を続けてきました。
50 半ばを過ぎ、もう少しゆとりのある時間を持ちたいと思い始め
見つけたのがクラウドソーシングです。
自由に仕事が選べる、時間にとらわれない、
少し楽になって、まだ走り続けることができる、
そんな思いを表紙に表しました。
第5回高齢者クラウドシンポジウム記録集
2016 年 3 月 31 日発行
発行者 高齢者クラウド・プロジェクト
WEB http://sc.cyber.t.u-tokyo.jp/
E-mail [email protected]
編集 檜山 敦
本文デザイン 勝村 富貴
©Senior Cloud Project Printed In Japan All Rights Reserved 禁・無断転載
高齢者の経験・知識・技能を社会の推進力とするための
I C T 基盤「 高齢者クラウド 」の 研究開発
Senior Cloud ICT Platform for Advancing Society
by Circulating the Experience, Knowledge, and Skills of the Elderl
本研究は ( 独 ) 科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業【戦略
的イノベーション創出推進プログラム】( S - イノベ)の支援の下、
平成 22 年度より、東京大学を中心に実施しているものである .
Members
東京大学
プロジェクト・マネージャー / 研究リーダー
廣瀬 通孝 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
檜山 敦 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 特任講師
三浦 貴大 高齢社会総合研究機構 特任助教
徳田 雄嵩 工学系研究科 先端学際工学専攻 大学院生
有田 祥馬 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 大学院生
小嶋 泰平 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 大学院生
山田 浩史 学際情報学府 学際情報学専攻 大学院生
鈴木 啓太 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 大学院生
木下 由貴 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 大学院生
姉川 将之 工学部 機械情報工学科 学部生
日本アイ・ビー・エム株式会社
開発リーダー
小林 正朋 東京基礎研究所 リサーチ・スタッフ・メンバー
浅川 智恵子 東京基礎研究所 IBM フェロー
高木 啓伸 東京基礎研究所 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー
井床 利生 東京基礎研究所 スタッフ・リサーチャー
小杉 晋央 東京基礎研究所 スタッフ・ソフトウェアエンジニア
福田 健太郎 東京基礎研究所 リサーチ・スタッフ・メンバー
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