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HS.臨床分科会(小動物) - 帯広畜産大学 技術情報データベースサーバ

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HS.臨床分科会(小動物) - 帯広畜産大学 技術情報データベースサーバ
特別企画
A解 剖
B病 理
C寄生虫
HS.臨床分科会(小動物)
微生物(細菌)
DB
一般演題:63題(HS-1~HS-63)
DI
微生物
(免疫)
座長
9 月16日
(木)
9:00~17:40 第 2 会場
HS-24~HS-26 大石 明広(岩手大学)
滝口 満喜(北海道大学大学院)
HS-27~HS-29 上野 博史(酪農学園大学)
HS-6~HS-9
松木 直章(東京大学大学院)
HS-30~HS-33 奥田 優(山口大学)
HS-34~HS-37 廉澤 剛(酪農学園大学)
HS-14,HS-15 富張 瑞樹(帯広畜産大学)
HS-38~HS-40 辻本 元(東京大学大学院)
HS-16~HS-18 三好 雅史(帯広畜産大学)
HS-41~HS-43 高木 哲(北海道大学大学院)
HS-19,HS-20 中出 哲也(酪農学園大学)
HS-44,HS-45 亘 敏広(日本大学)
F公衛生
HS-10~HS-13 深田 恒夫(岐阜大学)
E家 禽
鷲巣 誠(岐阜大学)
HS-4,HS-5
微生物
(ウイルス)
HS-1~HS-3
DV
G繁 殖
HS-21~HS-23 宮原 和郎(帯広畜産大学)
9 月17日
(金)
9:00~12:00 第 2 会場
HS-58~HS-60 秋吉 秀保(大阪府立大学大学院)
HS-53~HS-55 中市 統三(山口大学)
HS-61~HS-63 望月 学(東京大学大学院)
HS HS
臨床
(小動物)
HS-50~HS-52 前原 誠也(酪農学園大学)
臨床
(小動物)I生理・化
HS-56,HS-57 山下 和人(酪農学園大学)
臨床
(産業動物)
HS-46~HS-49 稲葉 睦(北海道大学大学院)
HL
J薬・毒
K実動医
【目的】犬の胆道系疾患の画像診断は超音波検査が一般的であるが、
肝管や総胆管を描出することは難しく、胆汁の流れや十二指腸へ
の疎通を評価することは不可能である。また、X線による点滴静
注胆管胆嚢造影(Drip infusion cholecystolangiography: DIC)は、
得られるコントラストが不十分でありほとんど実施されていない。
一方、ヒトでは胆道系の評価にCTを用いたDICが臨床応用されて
おり、犬においても有効な検査法と考えられるが十分な検討は行
われていない。そこで本研究では、胆道系疾患を伴った犬に対し
DIC-CTを実施し、その有用性について評価した。
【材料および方法】血液検査および超音波検査から胆道系疾患が
疑われた犬22例(1.9-19.6kg、中央値5.0kg)を研究対象とした。胆
道系造影剤としてイオトロクス酸メグルミン(100mgI/kg)を30
分かけて橈側皮静脈から点滴静注した後、全身麻酔を施し16列マ
ルチスライスCTで腹部を撮影した。画像解析は三次元画像解析装
置を用いて評価した。
【結果および考察】DIC-CTにより20例が胆嚢内貯留物、胆嚢発
育不全、胆石症、異所性胆嚢に分類され、十二指腸へ造影剤の排
泄が確認された。また、胆嚢内貯留物の犬の半数は胆嚢内に造影
剤が流入しなかった。ビリルビンが上昇していた2例では胆道系
を造影することができず、その肝実質におけるCT値は69および53
HUと造影された犬と比較して低い値であった。なお、総胆管径は
DIC-CTで詳細に評価することができた。以上の結果から、DICCTは黄疸のない犬の胆道系疾患で多くの情報を非侵襲的に提供す
る検査法であると考えられた。
【目的】門脈圧亢進症(Portal hypertension: PH)は慢性肝疾患
や原発性門脈低形成の犬でしばしば遭遇する病態であり、その評
価には門脈圧の測定が必要である。しかし、犬で一般に実施され
ている開腹下による門脈圧測定は侵襲性が高く、実際に門脈圧を
測定していないのが現状である。一方、ヒトでは末梢静脈からバ
ルーンカテーテルを用いて肝静脈の閉塞前後の圧を測定すること
で間接的にPHを評価している。そこで本研究では、犬のPH評価
法の基礎研究として健常犬の肝静脈圧について検討した。
【材料および方法】健常犬に全身麻酔を施し、門脈圧(PVP)測
定のため超音波ガイド下にて18Gの血管留置用カテーテルを経皮的
に脾臓から脾静脈を経由して門脈本幹に設置した。次に、頸静脈
に設置した5Frシースイントロデューサーから左肝静脈内に5.2Fr
バルーンカテーテルを導き、バルーンを拡張しない圧(自由肝静
脈圧:FHVP)および拡張させ血管を閉塞した圧(閉塞肝静脈圧:
WHVP)を測定した。また、右心房内圧(RAP)、後大静脈圧(CVP)
も測定した。なお、すべての圧は右下横臥位で圧トランスデュー
サーを用いて測定し、測定部位はX線透視下にて確認した。
【結果および考察】すべての健常犬でカテーテルによる圧測定は
容 易 で あ り、WHVPは7.8±1.0mmHg、FHVPは5.0mmHg、 肝 静
脈圧較差(HVPG)は2.8±1.0mmHgであった。また、RAPとCVP
はそれぞれ4.3±0.5mmHg、4.8±0.5mmHgであった。なお、PVP
は6.3±0.5mmHgであった。以上の結果から、類洞内圧に相当する
WHVPはPVPと比較して高い傾向が認められ、HVPG等を評価す
ることでヒトと同様にPHを分類できることが示唆された。
HS-3
HS-4
○阪本裕美1、坂井 学2、浅野和之3、亘 敏広1(1日本大
総合臨床獣医学、2日本大 獣医内科、3日本大 獣医外科)
○林幸太郎1、阪本裕美1、岡西広樹1、佐野忠士1、坂井 学2、
亘 敏広1(1日本大 生・総合臨床獣医学、2日本大 生・獣
医内科)
【目的】犬の門脈圧亢進症(Portal hypertension: PH)は、一般
に慢性肝疾患(CH)や原発性門脈低形成(PHPV)により持続的
な門脈血圧の上昇を示し多発性門脈体循環側副路による肝性脳症
や腹水貯留を呈する病態である。肝硬変によりPHを伴ったヒトの
患者では、血漿エンドセリン-1(ET-1)濃度がPHの重症度と肝
臓の線維化に関与していることが報告されている。しかし、犬で
PHを引き起こす肝疾患において血漿中のET-1濃度を評価した報告
はない。そこで本研究では、PHの病態解明を目的としてCHおよ
びPHPVの犬における血漿中のET-1について評価した。
【材料および方法】肝生検により病理組織学的にCHまたはPHPV
と診断した犬6例を研究対象とした。採血により得られたEDTA血
漿は、4℃、1600gで15分間冷却遠心した。EDTA血漿に10%酢酸
を滴下撹拌し、Sep-pakライトC-18カラム(Walters社)に添加し
た後、蒸留水にて洗浄した。その後、抽出液にてサンプルを溶出
し凍結乾燥を行った。凍結乾燥した血漿を溶解し、希釈用緩衝液
を加えてEndothelin-1 Assay Kit(IBL)を用いてET-1濃度を測定
した。なお、コントロールとして健常なビーグル犬5頭から得られ
た血液も同様に処理しET-1濃度を測定した。
【 結 果 お よ び 考 察 】 肝 疾 患 の 犬 のET-1濃 度 は1.32±0.47pg/ml
(CH:1.38±0.55pg/ml、PHPV: 1.18±0.33pg/ml)であるのに対し、
健常ビーグル犬のET-1濃度は0.58±1.18pg/mlであり、肝疾患の犬
におけるET-1濃度は健常なビーグル犬と比較し有意に上昇してい
た(p<0.05)
。また、線維化が関与しないPHPVの犬においても
ET-1濃度の上昇が認められたことから、ET-1はPHの病態と密接
に関連している可能性が示唆された。
【目的】消化管の腹部超音波検査(AUS)は消化管内のガスや食
渣の影響により診断価値のある画像を得るのが困難な場合がある。
そのため、消化管壁の構造を内側から描出する内視鏡超音波検査
(EUS)は有用と考えられる。本研究は犬の十二指腸のEUSを行
い臨床的有用性について検討をした。【材料・方法】対象群とし
て健常犬10頭(雄5頭、雌5頭 体重9-33 kg)および病理組織学的
に異常を認めなかった臨床例33例(体重1.2-36 kg)を用いた。疾
患群として組織学的に十二指腸のリンパ球形質細胞性腸炎(LPE)、
リンパ管拡張症と診断された91例を用いた。健常犬ではAUSおよ
びEUS、正常症例群、疾患群ではEUSを用いて十二指腸下行部の
観察、測定を行った。EUSによる観察は生理食塩水充満法を用い、
AUS、EUS共に腸壁の全層および粘膜、粘膜下(M,SM)層、筋、
漿膜(PM,S)層の厚さを測定した。その結果を診断名、リンパ管
拡張の有無、炎症の重症度の3つについて統計学的に比較検討を
行った。【結果・考察】EUSでの対照群の十二指腸壁の厚さはM,SM
層 で2.6±0.65 mm、PM,S層 で0.9±0.31 mmで あ り、M,SM層 で 体
重との相関が認められた。疾患群ではM,SM層で正常群と比較し
てLPE(2.92±0.66 mm)、リンパ管拡張症(3.46±0.65 mm)で有意
に肥厚していた。さらに、リンパ管拡張のある疾患群(3.15±0.63
mm)は、ない群と比較し有意に肥厚していた。また、炎症の重症
度では有意な差は認められなかった。炎症に伴う浮腫や肥厚によ
るリンパ管の閉塞がリンパ管拡張の原因となる場合があり、本研
究のように炎症、特にリンパ管拡張がある症例で粘膜層に肥厚が
認められたと考えられた。疾患群でEUSによるM,SM層の肥厚が認
められたことより、本検査法の有用性が示唆された。
A解 剖
B病 理
C寄生虫
微生物(細菌)
DI
微生物
(免疫)
DV
微生物
(ウイルス)
E家 禽
F公衛生
犬の肝疾患におけるエンドセリン-1の評価
DB
犬における内視鏡超音波による十二指腸壁の評価
G繁 殖
臨床
(産業動物)
HL
臨床
(小動物)
HS HS
K実動医
○吉田昴生1、坂井 学1、阪本裕美2、亘 敏広2、上地正実1(1日
本大 獣医内科、2日本大 総合臨床獣医学)
J薬・毒
○佐藤慶太1、坂井 学1、早川修平2、亘 敏広2、上地正実1(1日
本大 獣医内科、2日本大 総合臨床獣医学)
門脈圧亢進症の評価を目的とした肝静脈圧測定の基礎
的検討
臨床
(小動物)I生理・化
HS-2
胆道系疾患の犬におけるCT-点滴静注胆嚢胆管造影の
評価
特別企画
HS-1
HS-5
HS-6
○石岡克己1、早川典之2、中村健太郎3、寺島 薫3(1日獣大
獣 医 保 健 看 護・ 臨 床 部 門、2日 獣 大 付 属 動 物 医 療 セ ン
ター、3富士フイルム株式会社 ライフサイエンス研究所)
○保田恭志1、高嶋 諭1、高木 充1、大場恵典2、北川 均2(1岐
阜大院連獣 獣医内科、2岐阜大 応用生物科学部・獣医内科)
【目的】現在、獣医臨床でイヌの膵炎マーカーとして最も感度と
特異性に優れているのは膵リパーゼ免疫活性(PLI)であり、血
中アミラーゼやリパーゼ活性の有用性は低いとされている。しか
し、ヒトの臨床検査ではリパーゼ活性の測定には基質や反応助剤
の組合せによって複数の方法が実施されており、獣医領域でそれ
ぞれの方法を比較・検討した研究は少ない。今回、犬でも膵リパー
ゼに比較的特異性が高いと期待される2つの試薬について、犬膵リ
パーゼ測定における有用性の検討を行った。
【方法】日本獣医生命科学大学付属動物医療センターで得られた
犬の血液検体93例を対象とした。これらをDGGRを基質とする液
状法用試薬(ロシュ・ダイアグノスティクス)およびトリオレイ
ンを基質とし反応助剤に陰イオン性界面活性剤を用いたドライケ
ミストリー用試薬(富士フイルム)を用いてリパーゼ活性を測定
した。得られた値をPLI濃度と比較し、膵リパーゼ特異性について
検討した。
【結果】DGGR試薬を用いて液状試薬法で測定したところ、得ら
れた値はPLI濃度と正の相関を示し、r=0.96であった。また、ト
リオレイン/陰イオン性界面活性剤試薬を用いてドライケミスト
リー法で測定したところ、得られた値はPLI濃度と正の相関を示し
r=0.94であった。
【結論】今回検討した試薬はいずれもPLI濃度と高い相関を示し、
膵リパーゼに対して高い特異性を有することが推察された。膵炎
は迅速な診断が必要な疾患であるが、本試薬を用いたドライケミ
ストリー法はPLI濃度の異常高値を迅速に予測するのに有効であり、
PLI濃度が判明するまでの治療方針を考える上で有用なデータを提
供すると考えられた。
【目的】ネコにおいてアミノ酸および脂肪酸に対するインスリン
応答性を検討する目的で、必須アミノ酸、エネルギー代謝に重要
なアミノ酸および必須脂肪酸を投与し、血漿インスリン濃度の変
化を検討した。【方法】実験には臨床的に健康な正常体型のネコ5
頭(12時間以上絶食)を使用した。負荷物質として、アミノ酸は
アルギニン、アラニン、ロイシン、バリン、メチオニン、タウリ
ン、グルタミンの7種類、脂肪酸は静脈用脂肪乳剤(リノール酸
53%、リノレン酸7%、オレイン酸24%、パルミチン12%、ステア
リン4%)を用いた。投与経路は静脈とし、負荷物質投与前、投与
2、4、6、8、10、20、30、45、60分後に採血した。血漿インスリ
ン濃度はELISAで測定した。
【結果】負荷物質投与後の血漿グルコー
ス濃度は正常範囲内で変化した。アルギニンでは、投与直後(2か
ら4分後)に血漿インスリン濃度が急激に上昇し(2.7-7.3 ng/ml)
、
20分後には低下した。アラニン、ロイシン、脂肪酸乳剤では、血
漿インスリン濃度は緩やかに上昇した。バリン、メチオニン、タ
ウリン、グルタミンでは、血漿インスリン濃度は変化しなかった。
【総括】ネコでは、一部のアミノ酸と脂肪酸の投与によりインス
リン分泌が刺激され、特にアルギニンは投与後に明瞭なインスリ
ン分泌刺激性を示した。アルギニン負荷試験は、血糖値上昇がなく、
短時間で結果が得られるため、ネコにおけるインスリン分泌能の
検査に応用できる可能性がある。
HS-7
HS-8
○西飯直仁1、前田晴香2、松鵜 彩2、日笠喜朗2(1鳥取大 農・
獣医薬物治療、2鳥取大 農・獣医内科)
○高島 諭1、小川静子2、西飯直仁3、高木 充5、大場恵典2、
蜂巣達之4、北川 均2(1岐阜大院連獣 獣医内科、2岐阜大
応生・獣医内科、3鳥取大 農・獣医薬物治療、4株式会社シ
バヤギ、5岐阜大院連獣 獣医外科)
【目的】高脂血症がネコのインスリン感受性に及ぼす影響につい
て検討すること。
【方法】健康なネコ7頭を使用し、生理食塩水投与または脂肪乳剤
投与の2条件で試験を行った。静脈を確保し、生理食塩水または
20%脂肪乳剤を3 ml/kg/hourで3時間、静脈内に点滴投与した。そ
の後全身麻酔下にてグルコースクランプ法によりGlucose infusion
rate (GIR)を測定した。グルコースクランプ法では、インスリンを
10 mU/kg/minで持続点滴しながら、5~10分ごとに血糖値を測定
し、血糖値が100~120 mg/dlの範囲内となるように25%グルコー
スの静脈内注入量を調節した。インスリン投与開始から90~120分
後の平均グルコース注入量よりGIRを算出した。2条件間の血糖値
の差について二元配置分散分析を用いて、GIRの差について一標本
t検定を用いて検定した。
【結果】2条件間で、試験中の血糖値に有意な差はみられなかった。
GIRは脂肪乳剤投与条件(5.66±0.62 mg/kg/min)では、生理食塩
水投与条件(8.52±1.83 mg/kg/min)よりも有意に低い値を示した。
【考察】ネコにおいて脂肪乳剤の投与によってインスリン感受性
が低下した。よってネコにおいても高脂血症がインスリン抵抗性
を誘導したと考えられた。また本研究結果は、脂肪乳剤を使用し
たネコの経静脈栄養時の糖代謝異常の可能性について、注意を喚
起するものである。
【背景と目的】ヒトやイヌでは「自己抗体」は、何らかの疾病や
薬物投与に対する反応として出現し、自己免疫疾患の発症に重要
な役割を演ずる。いっぽうイエネコでは、正常個体の血清中にイ
ンスリンと結合する自己抗体(IgG)が自然に存在する。しかし、
現時点ではこの自己自然抗体の機能は不明である。この発表では、
ネコの持つ抗インスリン自己自然抗体の生理的および臨床的意義
を検証するために、新たに開発したELISAを用いて、ネコの血中
抗インスリンIgG抗体濃度を測定した。【方法】抗インスリンIgG
のELISAとして、健康なイエネコの膵臓から抽出したインスリン
を固定したプレートに結合した抗インスリンIgGを、HRP標識した
ネコIgG抗体(R1308HRP, Acris Antibodies GmbH, Germany)で
検出する系を作成した。成イエネコ130例および他のネコ科動物(ラ
イオン、ジャガー、アムールヒョウ、ボブキャット、シベリアオ
オヤマネコなど)11例について血漿抗インスリンIgG濃度を測定し、
同時に血漿総IgG濃度を測定した。イエネコについては、年齢およ
び性、肥満度との関係を検討した。【結果と考察】ネコ科動物を含
めすべての検体から80~4,884 μg/mlの抗インスリンIgGが検出さ
れた。イエネコでは、抗インスリンIgG濃度は年齢、性との関係は
なかったが、痩せ型のネコの抗インスリンIgG濃度は高く、さらに
総IgG濃度と正の相関関係にあった。以上の所見から、個体差があ
るが、ネコ科動物は抗インスリン自己自然抗体を保有していると
考えられた。また、抗インスリンIgGと栄養状態との関係が推察さ
れたが、詳細は不明である。
DGGR基質法およびドライケミストリー法で測定した
イヌ血中リパーゼ活性の膵特異性の検討
脂肪乳剤投与がネコのインスリン感受性に及ぼす影響
ネコにおけるアミノ酸、脂肪酸のインスリン分泌刺激
性
ネコにおける抗インスリンIgG抗体濃度
糖 尿 病 猫 で 発 現 が 増 加 す る 血 清 中 マ イ ク ロRNA
(miRNA)の同定
糖尿病犬における糖化アルブミン(GA)測定の有用性
○森 昭博1、板橋由起子2、左向敏紀1(1日獣大
看護・臨床部門、2株式会社モノリス)
獣医保健
F公衛生
歯科処置が糖尿病犬の血糖コントロールに及ぼす影響
について
HL
臨床
(産業動物)
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
【緒言】糖尿病犬はしばしば尿路感染症や歯周病などの感染症に
羅患しやすいことが知られている。なかでも歯周病は、歯周病巣
から産生される炎症性サイトカインがインスリン抵抗性を生じさ
せ、血糖コントロールに悪影響を与えるという報告も数々あるこ
とから、糖尿病犬における歯周病の治療と予防は、ヒトの糖尿病
患者と同様極めて重要であると考えられ、本研究では糖尿病犬に
歯科処置を行い、血糖コントロールにどのような影響を及ぼすか
を検討した。【材料・方法】本学で飼育している糖尿病犬4頭を用
いた。血液サンプリングは歯科処置前日と歯科処置1、2、3、4週
間後に行った。測定項目は、空腹時血糖値(FBG)と長期血糖コ
ントロールマーカーとして用いられる糖化アルブミン(GA)を
測定した。また、炎症マーカーとして腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、
CRP、生体内酸化ストレスレベルとしてd-ROM test、BAP testを
測定した。【結果・考察】GAは歯科処置前日に比べ3、4週間後で
CRPは4週間後で有意に低下した。しかし、FBG、TNF-αには処
置前後で有意な変化は認められなかった。また、酸化ストレスレ
ベルを表すd-ROM testは処置前後で有意な変化は認められなかっ
たが、抗酸化力を表すBAP testは処置前に比べ処置後4週間で有意
に上昇していた。以上より、歯科処置が口腔内炎症を抑制し、血
糖コントロールを良化させたと考えられる。さらに、炎症の抑制
や血糖コントロールの改善が、生体内における抗酸化力を増加さ
せたことが示唆された。よって、糖尿病犬に歯科処置を行うこと
は、炎症の抑制や血糖コントロールの改善に有効であり、歯周炎
による痛みが惹起するストレスの軽減、および高血糖の是正により、
結果的に糖尿病犬のQOL向上が可能であると考える。
G繁 殖
1,5アンヒドログルシトール (1,5AG)はグルコースに似た構造を持つ
ポリオールであり体内に豊富に存在する。ミオイノシトール (MI)
もまたグルコースに似た構造を持つイノシトールの立体異性体で
ホスホファチジルイノシトールの前駆物質である。1,5AGならびに
MIは糸球体で濾過され、腎細管で99%以上が再吸収される。しか
し高血糖状態下では人では1,5AGとMIは構造がグルコースに似て
いるため、腎細管でグルコースに再吸収において競合阻害を受け
ると報告されている。そのため医学領域において、1,5AGならびに
MIは血糖コントロールマーカーや糖尿病の診断に用いられている。
本研究では健常犬における血中及び尿中1,5AGならびにMI動態を
究明したGC/MS法の測定によって犬の血清および尿中には1,5AG
ならびにMIが存在する事がわかった。健常犬を長時間、高血糖
状態を持続しても (300-400mg/dL 2-3時間)血清MI濃度は変動しな
かったが、血清1,5AG濃度は低下した。1,5AGの尿中排泄量はグル
コースの腎閾値 (血糖値 約200mg/dL)に達した後に指数関数的に
増加した。またMIの尿中排泄量は血糖値が250mg/dLに達すると
指数関数的に増加した。さらに血清1,5AG濃度と血糖値との間には
負の相関性が認められた (P<0.05)。しかし血清MIと血糖値との間
には相関性が認められなかった。
本研究により正常犬において血清および尿中1,5AGならびにMI濃
度は血糖値によって変動することが明らかになった。血清1,5AG濃
度は持続的な高血糖状態では低下するので血清1,5AGは犬において
新たな血糖コントロールマーカーになる可能性がある。しかし血
清MI濃度は今回の成績では高血糖状態を反映しなかった。
E家 禽
○小田民美1、佐伯香織1、三木陽平1、栗島みゆき1、野澤聡司1、
三村可菜1、早川典之2、森 昭博1、石岡克己1、左向敏紀1(1日
獣大 獣医保健看護・臨床部門、2日獣大 付属動物医療セ
ンター)
DV
微生物
(ウイルス)
○三木陽平1、森 昭博1、仁木 巴1、小田民美1、佐伯香織1、
栗島みゆき1、野澤聡司1、三村可奈1、佐藤稲子2、田崎弘之2、
早川典之3、左向敏紀1(1日獣大 獣医保健看護・臨床部門、2日
獣大 獣医学科・生物構造学教室、3日獣大 動物医療セン
ター)
DI
微生物
(免疫)
HS-12
犬における血清および尿中1,5-アンヒドログルシトール
ならびにミオイノシトールの評価
DB
微生物(細菌)
HS-11
C寄生虫
[背景と目的]フルクトサミンや糖化ヘモグロビンおよび糖化アルブ
ミン(以下GAと省略)といった糖化蛋白質の測定は、近年医学
領域において糖尿病の血糖管理を行うのに用いられている。フル
クトサミンの測定は獣医学領域で一般的であったが、現在日本で
は行われておらず、フルクトサミンの主成分であるGAを測定す
ることがその代用としての役割を果たすと考えた。GAの有用性
を検討するため、健常および糖尿病犬においてフルクトサミンと
GAの相関性を検討すること、およびGAを診断マーカーとして
使用するために、健常な犬から参照範囲を設定することを目的と
した。[材料と方法]正常犬96頭と糖尿病犬63頭から採血を行い、フ
ルクトサミンおよびGAを測定した。[結果]フルクトサミンとGA
の相関性では、犬の健常動物および糖尿病動物から有意な正の相
関関係が確認できた。さらに健常犬におけるGAの参照範囲は、9.4
~14.3%(95パーセンタイル)と設定した。さらにフルクトサミン
濃度より、糖尿病の血糖コントロールを優 (200µmol/L以下)、良
(200-250µmol/L)、 可(250-300µmol/L)、 不 可(300µmol/L以 上)の4つ
の段階に分類したのちに、ROC曲線を用いてGAのカットオフ値を
決定したところGA13.7-15.2%が優、15.2-23.0%が良、23.0-27.8が可、
27.8%以上が不可という結果となった。[総括]GA測定はフルクト
サミン測定とほぼ同様に、犬の糖尿病の診断および治療における
血糖コントロールモニタリングに有用であると考えられた。
B病 理
【背景と目的】マイクロRNA(miRNA)は18~25ヌクレオチド
の小分子RNAであり、自身はタンパク質をコードしないが他の標
的遺伝子の翻訳阻害により遺伝子発現を制御することで発生、分
化から代謝や癌化にいたるまでの多くの生物学的過程に関与して
いる。さらに近年、血清などの体液中にもmiRNAが安定に発現し
ていることが報告されており、特に血液中のmiRNAは新しいバイ
オマーカーとして注目され、癌の超早期診断や転移、予後診断の
目的で広く研究が進められている。しかし癌以外の疾患とmiRNA
の関連については報告がほとんどないことから、今回我々は猫の
糖尿病で発現量が増加するmiRNAを同定し、診断や治療のための
マーカーとしての可能性について検討を行った。【方法】健康な成
猫(NDM)の絶食時血清および本学付属病院に来院した糖尿病猫
(DM)の血清から約200塩基以下の小分子RNAを抽出し、リアル
タイムPCRで検出を行った。miRNA特異的PCRプライマーには猫
脂肪組織で発現が確認されている10種類のmiRNAの全長配列を利
用した。
【結果・考察】NDMとDMでの各miRNAのCt値を比較す
ると全体的にDMでの発現が増加していた。血清中には内部標準と
なる遺伝子が存在しないため、今回は発現量が比較的高く、NDM
とDMで発現に差がみられなかったmiR-23aで標準化を行い、発
現比率を比較したところ、DMではmiR-20a、miR-22、miR-30a、
miR-30c、miR-143の発現が増加していた。miR-30aおよびmiR-30c
の標的遺伝子としてはUCP3、レプチン受容体、インスリン受容体
基質1および2、IGF1受容体、PPARγコアクチベーターαなどの
インスリン感受性に関わる遺伝子が予測されたことから、これら
のmiRNAは新しい糖尿病の診断マーカーとして利用できる可能性
が示唆された。
A解 剖
○ 佐 々 木 典 康1、 森 昭 博2、 小 田 民 美2、 石 岡 克 己2、
2 1
2
日獣大 獣医生理化学、
日獣大 獣医保健看護)
左向敏紀(
HS-10
特別企画
HS-9
HS-13
糖尿病犬における運動療法の有用性について
○佐伯香織、小田民美、栗島みゆき、野澤聡司、三木陽平、
三村可菜、森 昭博、石岡克己、左向敏紀(日獣大 獣医保
健看護・臨床部門)
HS-14
猫伝染性腹膜炎罹患ネコの腹水中に存在する蛋白の解
析
1 1
○東 文香1、輪田真理1,2、田中勝啓3、竹中重雄3、田島朋子(
大
2
3
阪府大院 生命環境・獣医微生物、 谷動物病院、 大阪府大
院 生命環境・細胞分子生物)
【目的】犬の糖尿病はインスリン療法が必須であり、補助療法と
して食事療法や運動療法が挙げられる。近年、人の1型糖尿病にお
いて運動療法の有用性が注目されているが、犬の糖尿病において
運動療法を行った報告は少なくその効果は明らかではない。今回
我々は、糖尿病犬に対し運動療法を行い、血液パラメーターに変
動が認められるか検討した。【材料方法】日本獣医生命科学大学で
飼育している糖尿病犬5症例を実験に用いた。運動時間は<8分歩
く 2分走る 10分歩く>の20分間とし、1ヶ月間運動を行った。採血は、
運動開始前および運動開始から1週間ごとに4週間後まで空腹時に
行い、得られた検体を用いて血液生化学検査として血糖値、遊離
脂肪酸(NEFA)、クレアチニンキナーゼ(CK)、乳酸デヒドロゲナー
ゼ(LDH)および糖化アルブミン(GA)を測定した。【結果】血
糖値は運動前と比較して、各週に有意な変動は認められなかった
ものの、
運動開始2、
4週間後と低下傾向が認められた。またGA(%)
は運動開始1週間後から低下し始め、運動開始3、4週間後において
有意な低下が認められた。NEFA、CKおよびLDHは運動開始後に
有意な低下が認められた。【考察】運動の刺激は骨格筋においてイ
ンスリン作用とは別の経路で血中のグルコース取り込みを促進さ
せることが報告されている。そのため運動刺激により運動開始前
と比較して運動開始後にGAが低下したと考えられた。また、1ヶ
月間の継続的な運動は血中グルコース取り込みの増加に加え、筋
力の増加やトレーニング効果が期待され、NEFA、LDHおよびCK
の有意な低下につながった可能性が考えられた。したがって、糖
尿病犬において運動療法を行う事で、血糖コントロールの良化に
つながる可能性が示唆された。
【背景・目的】猫コロナウイルス(FCoV)感染症は、猫伝染性腹
膜炎ウイルス(FIPV)による腹膜炎(FIP)と、猫腸コロナウイルス
(FECV)感染症に分類される。両ウイルスは抗原的に交差する
ため、抗体検査によるFIPの確定診断は困難である。臨床現場で
有用な診断方法として胸・腹水を酢酸溶液に加え、沈殿形成の有
無を調べるリバルタ反応(RiR)が挙げられる。我々は第144回本学
会で、RiRの結果がRT-PCRの結果とよく一致することを報告した。
しかし、RiRで生じる沈殿蛋白の組成は不明である。そこで、RiR
沈殿蛋白の解析を行い、FIP特異的蛋白を検索した。【材料・方
法】我々の研究室でFIPと確定診断した45例を含むネコの胸・腹水
91例を検体として用いた。まず、沈殿とウイルスの関連を調べる
ため、精製FIPV、精製FIPVをRiR陰性腹水に加えたもの、FIPV
感染培養細胞抽出液の3種を用いてRiRを行った。さらに、FIP3例
と 非FIP3例 のRiR沈 殿 物 でSDS-PAGEを 行 っ た 後、Multi Gauge
によりFIPに特異的なバンドを選択、トリプシン消化して質量分
析を行った。【結果・考察】ウイルスのRiRではいずれも沈殿が生
じず、本反応がウイルス粒子によるものではない可能性が示され
た。Multi Gauge分析で、FIPで高く非FIPで低いピークを示すバ
ンド、FA1~FA7を特定した。質量分析により、FA1がFCoV RNA
polymerase 1ab、FA4がネコ血清アルブミン、FA5がその前駆体
である可能性が示された。RNA polymeraseは腹・胸水中でのウイ
ルスの増殖を示唆することから、腸で増殖するFECVとの鑑別へ
の応用が考えられる。FA4とFA5は非FIPでバンドが薄いことから、
蛋白の修飾や変異の可能性も考えられる。これらの特異的蛋白を
検出することで、特異性の高い迅速診断法の作出も可能と考える。
HS-15
HS-16
○井口愛子1、松鵜 彩1、筏井宏実2、日笠喜朗1(1鳥取大
獣医内科学研究室、2北里大 獣医寄生虫学研究室)
○牧野ゆき(日獣大 獣医保健看護学科臨床部門)
【序論】犬のバベシア症は我が国では主にBabesia gibsoniの赤血
球寄生による疾患である。近年、本感染症に対する新規治療薬
剤として高い治療効果を示すアトバコン(ATV)が注目されている。
しかしATV投与後の再発原虫はATV耐性を示す事も明らかとなり、
ATVの適切な臨床応用に向けて、in vitroでの詳細な研究が必要で
ある。本研究ではATV耐性原虫株を確立し、その解析を行うこと
を目的とした。
【材料および方法】B. gibsoni培養株(野生株)に対し
て、ATVを800nM添加し1週間の暴露を行った後、生存原虫を培
養した。この生存原虫のATV感受性を確認するとともに、ミトコ
ンドリアcytbの塩基配列を確認した。同様の解析を野生株から得ら
れたクローン化原虫株4株に対しても実施した。生存原虫がATV
耐性を示した場合、これをATV耐性株とし、ジミナゼンアセチュ
レート(DA)、ドキシサイクリン(DOXY)、アジスロマイシン(AZM)、
クリンダマイシン(CLDM)、プログアニル(PG)に対する感受性試験
を行った。
【結果と考察】野生株から得られた生存原虫は明らかな
ATV感受性の低下を示し、ATV耐性株とした。本培養株はcytbに
アミノ酸の置換を伴う一塩基多型M121Iを有する事が確認された。
一方クローン化原虫から得られた生存原虫は明らかなATV感受性
の変化および一塩基多型は認められなかった。この事より、ATV
耐性およびM121I原虫の出現は、選択的な増殖によるものである
ことが疑われる。また、ATV耐性株はDAおよびDOXY、AZM、
CLDM、PGに対して野生株とほぼ同等の感受性を示し、ATV耐性
原虫は他剤に対する交差耐性を示さない事が明らかとなった。
【背景】医療過誤事例の中には、医師の過失と悪しき結果との間
の因果関係が立証できない場合に、医師の過失によって「当該患
者が現実に死亡した時点でなお生存していた相当程度の延命可能
性」や「適切な治療を受ける機会」等が侵害されたとして、患者
の損害賠償請求を認容するものがある。【獣医療領域への適用】近
時、獣医療領域においても同様の理論構成を採用した事例(東京
地判平成13年11月26日ウェストロージャパン)が現れている。本
件は被告獣医師の過失により飼い犬が適切な治療を受ける時機と
機会を失ったなどとして、飼い主が損害賠償を請求した事例である。
裁判所は、被告獣医師の過失を一部認めたものの、当該犬が高齢
で極めて衰弱した状態であったことに加え、獣医師が適切な処置
をとっていた場合に、当該犬が現実に死亡した時点でなお生存し
ていた「高度の蓋然性」ないし「相当程度の可能性」は認められ
ないとして原告の請求を棄却した。【考察】このような理論構成が
採用されるにいたった背景としては、一般社会においてペットは
家族の一員であるとの認識が相当程度定着してきたことに加えて、
裁判所がこのような社会的認識を前提とした判断をなすケースが
増加してきたことがあげられる。本件においては原告の訴えは認
められなかったものの、「相当程度の可能性」論が獣医療領域で適
用される一定の可能性が示されたものと見られる。
【残された問題】
本件において裁判所が一定の留保を行っている通り、獣医療事故
の事例に対して医療分野の理論を適用することが直ちに適切かど
うか、さらにこれが可能である場合に「相当程度の可能性」の程
度とその証明のあり方、損害賠償の範囲等の問題について、詳細
に検討することが必要である。
アトバコン耐性Babesia gibsoni培養株の確立とその解
析
獣医療事故事例に対する「相当程度の可能性」論の適
用の可否
HS-18
○野呂田惇子、荒田明香、武内ゆかり、森 裕司(東大院
農学生命科学研究科・獣医動物行動)
○竹内 崇1、土岐志保1、杉山晶彦1、柴田篤志2、田邉和子3(1鳥
取大 獣医臨床検査、2カネタツ株式会社、3日本アニマルア
ロマセラピー協会)
【目的】イヌの攻撃行動が発現する背景には各個体の気質が関連
すると推測されているにもかかわらず、その詳細は明らかにされ
ていない。本研究では、様々な対象への攻撃行動に関連する気質
を調査するとともに、その程度の犬種差について解析した。
【目的】近年、小動物におけるアロマセラピーに関心が高まって
いるが、その効果は十分に検討されていないのが現状である。そ
こで本研究では、車の移動によるストレス負荷条件下でのラベン
ダー精油の効果について解析した。
【方法】実験には、健康かつパッチテストにてラベンダーにアレ
ルギー症状を示さないビーグル犬4頭を使用した。試験前日に、心
電図用電極を装着(L-R誘導およびM-X誘導)し、専用ジャケットを
着せた。試験日の移動開始1時間前からホルター心電計(フクダエ
ム・イー, QR2100)による心電図記録を開始した。車の移動は、車
内に設置した簡易ケージ内に犬を入れ、片道1時間のほぼ平坦な
コースを、20分の休憩をはさんで往復した。移動開始の30分前に
両耳介内側に各0.18 mlのラベンダー精油(原液)を塗布した。対
照処置としてオリーブオイルを同様に塗布した。心電図記録は心
拍変動解析ソフト(フクダエム・イー, HS1000V)により、心拍数
(HR)、LFパワー(0.01-0.1 Hz)、HFパワー(0.1-0.6 Hz)およびLF/
HF比を5分ごとの移動平均として算出した。また、移動前後に計4
回採血し、血漿コルチゾール濃度を測定した。
【結果】オリーブオイル処置では、車の移動に伴うLF/HF比の
顕著な上昇を認め、移動終了後には徐々に安静レベルに回復した。
一方、ラベンダー処置では、移動に伴うLF/HF比の上昇は抑制され、
逆にHFパワーは上昇した。心拍数には明らかな変化は認められな
かった。血漿コルチゾール濃度は移動に伴って増加傾向を示したが、
ラベンダー処置による影響は認められなかった。以上の結果から、
ラベンダー精油の耳介塗布は、犬の移動ストレスに伴う交感神経
緊張を軽減するための処置として有効であることが示唆された。
イヌの攻撃行動に関わる気質の犬種差
G繁 殖
体外循環下僧帽弁修復術を受けた犬の急性腎障害に関
する検討
臨床
(産業動物)
HL
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
【目的】開心術後に腎不全が発症することが報告されている。本
研究の目的は、犬における僧帽弁修復術後の急性腎障害の発生率
および急性腎障害を呈した犬の周術期の特徴を明らかにすること
である。【方法】2006年10月から2010年5月の期間に、日本大学付
属動物医療センターにおいて体外循環下僧帽弁修復術を受けた犬
を対象とした。術中死を含め術後24時間以内に死亡した犬は、本
調査対象から除外した。手術後 5 日以内に血清 Cr 濃度 (SCr) が
術前に比較して 0.5 mg/dL または 50% 上昇した犬を急性腎障害
(AKI) 群、それ以外を非 AKI 群として、周術期の特徴を比較した。
また、平均動脈血圧、直腸温、ならびにCBCおよび血液ガス分析
の結果に関して、手術中の経時変化を比較した。【結果】適格基準
を満たした犬は94例であった。AKI群は13例、非 AKI 群は81例で
あった。体外循環後の急性腎障害の発生率は 14% であった。AKI
群における SCr は、術前に比較して術後2日から5日まで有意に上
昇した。また、術後1、3、および6ヵ月の時点におけるSCr は、非
AKI群と比較して、AKI 群で有意に高値であった。AKI群は年齢
が有意に高値であり、麻酔中尿量は低値であった。大動脈遮断後
のHCO3-、総二酸化炭素濃度およびTP、ならびに大動脈遮断60分
後のHGBおよび血液中酸素含量は、AKI群で有意に高値であった。
遮断解除後のSaO2、プロタミン投与後のPaO2はAKI 群で低値で
あった。【総括】高齢な犬に対しては、術中の酸塩基平衡や体液状
態の調整による腎血流量の維持が、術後AKI を避ける上で重要で
あると考えられた。
F公衛生
【はじめに】三尖弁逆流症 (TR) は重度の僧帽弁閉鎖不全症 (MR)
に合併することが多い。三尖弁逆流症の有無が僧帽弁修復術の術
後成績に及ぼす影響について検討した。【材料および方法】2006
年8月~2010年3月までに僧帽弁修復術を行った犬 90 頭を対象とし
た。術前にTRを認めた群(MR+TR群; n = 41)と認めなかった群
(MR群; n = 49) において生存率、ISACHCスコア (1a = 1点、1b =
2点、2 = 3点、3a = 4点、3b = 5点) 、VHS (胸部X線検査) 、左房
大動脈径比 (LA/Ao) 、拡張末期内径 (LVIDd) の変化率 (心エコー
検査) 、内服薬の種類数について、術前、術後 (1ヵ月、3ヵ月) に
て評価した。また、MR+TR群では三尖弁逆流速度についても評
価した。
【結果】術後1ヵ月生存率はMR+TR群にて 76 %、MR群
にて 82 %、3ヵ月生存率はMR+TR群で 68 %、MR群で 78 %であっ
た。両群共に術前に比べ、術後のISACHCスコア、VHS、LA/Ao、
LVIDd変化率、
内服薬の種類数が有意に減少した (P < 0.05) 。また、
MR+TR群では三尖弁逆流速度が術後1ヵ月で有意に低下 (3.4±0.9
m/sec vs. 2.7±1.0 m/sec, P < 0.05) し、圧較差は47±3 mmHgか
ら29±1 mmHgに低下した。【考察】MR群とMR+TR群の術後経
過に差を認めず、全ての項目において有意な改善が認められたこ
とから、三尖弁閉鎖不全症を合併した重度の僧帽弁閉鎖不全症の
犬に対しても僧帽弁修復術は有効であると考えられた。
E家 禽
○河野正太、原田佳代子、水野 祐、水野壮司、水越崇博、
粕谷新音、内田周平、沢田 保、篠田麻子、遠藤征明、中村 隆、
上地正実(日本大院 獣・獣医内科)
DV
微生物
(ウイルス)
○中村 隆、竹内潤一郎、水越崇博、水野 祐、水野壮司、
原田佳代子、沢田 保、内田周平、粕谷新音、篠田麻子、
遠藤征明、河野正太、上地正実(日本大院 獣・獣医内科)
DI
微生物
(免疫)
HS-20
三尖弁逆流症を合併した僧帽弁閉鎖不全症の犬に対す
る僧帽弁修復術の術後成績
DB
微生物(細菌)
HS-19
C寄生虫
【総括】本研究により、対象別攻撃行動にはそれぞれ異なる気質
が関わること、攻撃行動の背景に存在する気質には犬種差が存在
することが示唆された。このことは、イヌの攻撃行動のメカニズ
ムを研究する上で重要な知見になると考えられる。
B病 理
【結果】7犬種、計989頭分の回答を得た。気質因子と攻撃行動の
関連を解析したところ、例えば攻撃行動の高いチワワでは、飼い
主に対する攻撃行動には『音や動きに対する反応性』が、子供や
見知らぬヒトに対する攻撃行動には『生き物に対する反応性』と
『ヒトに対する興味』が、イヌに対する攻撃行動には『生き物に
対する反応性』が有意に関連することなどが明らかとなった。また、
攻撃行動全般としてコーギーでは『音に対する不安』が、チワワ
では『生き物に対する反応性』が関わっていることが示された。
犬の移動ストレスに対するラベンダーオイルの効果
A解 剖
【方法】年齢、
性別などの基本情報と、気質に関する質問(14項目)
および攻撃対象別の攻撃行動に関する質問(6項目)を頻度による
5段階で評価するアンケート用紙を準備し、ドッグフェスティバル
および動物病院において、飼い主に対する調査を実施した。先行
研究より、同アンケートの気質項目は、
『生き物に対する反応性』、
『音や動きに対する反応性』
、
『ヒトに対する興味』
、
『音に対する
不安』の4因子に分類できることが示されていることから、本研究
ではこれら4気質因子について、対象別攻撃行動との関連(スピア
マンの順位相関係数)を解析した。
特別企画
HS-17
HS-21
HS-22
○山本崇史、城取宏治、三浦綾乃、大島 毅、佐久間悠、
橘 裕之、上田俊平、藤本鉄兵、森 香澄、和田成一、柿崎竹彦、
伊藤伸彦(北里大 獣医・獣医放射線)
○大島 毅、藤本鉄兵、佐久間悠、橘 裕之、山本崇史、
上 田 俊 平、 三 浦 綾 乃、 森 香 澄、 和 田 成 一、 柿 崎 竹 彦、
伊藤伸彦(北里大 獣医・獣医放射線)
【目的】心電図同期心筋単一光子放射断層撮影(SPECT)は、心
筋血流、左室駆出率分画(EF)、心筋細胞のバイアビリティーの
評価方法として人の虚血性心疾患や心筋症の診断に用いられてい
る。しかし、獣医療域では撮像方法が確立していないため、中型
犬として標準的体格のビーグル犬のボランティアを募って健康診
断を実施し、撮像方法を検討した。
【方法】体重11 kg前後の臨床的に健康なビーグル犬4頭を全身麻
酔下で撮像した。放射性医薬品に99mTc-tetrofosminを用い、投与量
を575~687 MBqとした。この薬剤は胆嚢への移行が大きく、心臓
と胆嚢との距離が解剖学的に近い犬では胆嚢への集積が心臓の画
像解析に悪影響を及ぼす。そこで、気腹により心臓と胆嚢を物理
的に離すことを試みた。気腹は医療用炭酸ガスを腹腔内に20 ml/
kg注入した。1心拍分割数は8分割、ピクセルサイズは事前の心エ
コーによる測定値から標本化定理に基づいて行った。撮像時間は
100 counts/pixel以上の計数値が得られる時間を確保し、再構成画
像はQGS (Quantitative Gated SPECT) 解析により3次元及び極座
標表示を行い、拡張末期容積(EDV)、収縮末期容積(ESV)、EFを算
出した。
【結果】気腹を行わないで撮像したところ、胆嚢の陰影が心臓領
域と重なり、QGS解析による3次元及び極座標表示、EDV、ESV、
EFの算出に大きく影響した。その後、気腹下で撮像したところ、
胆嚢の影響は回避され、それぞれの解析が可能となった。他の3頭
においても、気腹を行うことで解析が可能となった。
【総括】今後は体格の異なる犬種を撮像し、データを蓄積してい
く必要がある。また、撮像時間が約30分と長いため、動物に出来
る限り負荷を掛けないように撮像時間を短縮する方法も現在検討
中である。
【背景】核医学において腎機能の指標である糸球体濾過率(GFR)は、
99m Tc-dietylenetriaminepentaacetic acid(99mTc-DTPA)を用いた
腎シンチグラフィで測定することができる。腎シンチグラフィで
のGFRの算出は99mTc-DTPAの腎への摂取率を求め、腎臓の背側
にある組織に対する吸収補正を行う。そのため腎シンチグラフィ
では撮像した側臥位から、背面と腎臓の中心までの距離(腎深度)
を計測している。しかし腎シンチグラフィによる側臥位像は、画
像が不鮮明なため腎深度の精度が悪くなり、その結果GFRの精度
も悪くなる。【目的】腎深度に依存しない解析法として、脳血流定
量解析に用いられているPatlak plot法を用いた解析法を提案する。
【方法】臨床的に健康なビーグル及び泌尿器系疾患が疑われるパ
ピヨンに対して腎シンチグラフィ検査を行った。いずれも投与前
に補液を行い、99mTc-DTPAの投与量は150 MBq以下とした。腎
シンチグラフィより得られたデータからGFR、レノグラム及び流
入速度定数を求め、Patlak plot法の効果を比較・検討した。【結果】
Patlak plot法では腎臓および腹大動脈にROIを設定する。そのため
背腹方向に対して同じレイヤーを評価しているので、腎深度を考
慮する必要がなくなる。また膀胱のROIを設定することで、腎臓
から膀胱への排泄機能、すなわち尿管の運動能も評価することが
できるというメリットがある。【総括】Patlak plot法の有用性を確
認することができた。今後は臨床データを蓄積し、より正確な診
断ができるようにする必要がある。
HS-23
HS-24
○橘 裕之、森 香澄、大島 毅、佐久間悠、山本崇史、
上 田 俊 平、 藤 本 鉄 兵、 三 浦 綾 乃、 和 田 成 一、 柿 崎 竹 彦、
伊藤伸彦(北里大 獣医・獣医放射線学)
○藤川 護1、小林沙織1、屋比久文子1、御領政信2、佐々木淳2、
神志那弘明1、安田 準1、佐藤れえ子1(1岩手大 農・獣医
小動物内科、2岩手大 農・獣医病理)
【背景】泌尿器は18F標識フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)
の排泄経路であるため人のPET検査では原発巣の診断は困難とさ
れているが、転移検査に広く用いられている。しかし、犬におけ
る移行上皮癌のPET検査報告はほとんどなく、今回移行上皮ガン
の症例についてPET検査を実施する機会を得たので検査を行った。
【目的】犬における移行上皮癌の転移検査として18F-FDGを用いた
PET検査の有用性を検討する。
【方法】今回は事前検査によって膀胱移行上皮癌と診断された犬
2 頭(ミニチュアシュナウザー 1 頭、ヨークシャーテリア 1 頭)
と、事前検査およびPET検査で異常を認めなかった犬(ビーグル)
を比較した。麻酔導入後、PET装置に仰臥位で固定し、18F-FDG
を投与後、胸部および腹部をそれぞれ2回撮像した。18F-FDG集積
は視覚評価と関心領域の腫瘍組織放射能比の最大値(maximum
standardized uptake value:SUVmax)を用いた半定量的な評価
を行った。
【結果および考察】
膀胱移行上皮癌の犬において、1例は左腰リ
ンパ節および右乳腺に、もう1例は右鼠径リンパ節に18F-FDG集積
がみられた。左腰リンパ節、乳腺、右鼠径リンパ節ともSUVが正
常犬より高値を示し視覚的にも発見できため転移の可能性が強く
示唆され、膀胱から派生するリンパの支配領域かの中から最適な
リンパ節郭清部位が判断できる。一方、膀胱内および壁は18F-FDG
が尿中に排泄されるため腫瘍の悪性度の評価は困難であった。今
回実施した膀胱移行上皮癌においてのPET検査を用いた転移検査
はわずかな腫脹や形体的に変化がないものなどCTやMRIでは見逃
しがちな異常を検出できる点で有用であると考えられる。今後は
様々な腫瘍患者における転移検査の有用性をより検討していく必
要がある。
【背景と目的】ヒトの常染色体優性多発性嚢胞腎(PKD)はPKD1あ
るいはPKD2遺伝子のヘテロ型の変異により生じる。嚢胞形成機
序としてツーヒット説、遺伝子量減少効果などが提唱されており、
マウスのモデル動物において腎嚢胞細胞にはツーヒットを受けた
ホモ型が混在することが報告されているが、未だその機序は解明
されていない。ネコの多発性嚢胞腎はPKD1遺伝子の変異による
常染色体優性の遺伝病であることが近年明らかになったが、腎嚢
胞上皮細胞である体細胞の変異については未だ解析されていない。
そこで、ネコ腎嚢胞上皮細胞におけるPKD1遺伝子を解析し、嚢胞
形成機序の検討を行った。【方法】画像診断で両側の腎臓に多数の
嚢胞が認められた症例ネコ2頭に対して、PKD1遺伝子診断を実施
した。すなわち、白血球DNAを用いPCR-RFLP法およびダイレク
トシークエンス法にてexson29のPKD1領域の遺伝子配列を解析し
た。剖検にて得られた腎臓からパラフィン包埋切片を作成し、病
理組織学的検索および腎嚢胞上皮のPKD1遺伝子解析を行った。マ
イクロダイセクションから得られた数個の腎嚢胞上皮細胞でダイ
レクトシークエンス解析を行った。【結果と考察】2頭のネコにお
いて白血球DNAのPKD1遺伝子第3284番目のC>Aのミスセンス変
異が検出され、ヘテロ変異体であった。病理組織学的に腎臓には
多発性の大小の嚢胞が認められ、嚢胞は立方あるいは扁平な一層
の嚢胞上皮細胞によって内張りされていた。腎嚢胞上皮細胞から
得られたDNAにおいてもヘテロ変異体が検出された。このことよ
り、ネコのPKDでは嚢胞上皮細胞にツーヒットが起こらなくても、
嚢胞が形成される可能性があると思われた。
犬における心電図同期心筋SPECT撮像法の最適化
移行上皮癌を発症した犬の18F-FDGを用いたPETがん
転移検査の有用性
腎シンチグラフィ解析へのPatlak plot法の適用
猫多発性嚢胞腎の腎嚢胞上皮細胞における遺伝学的検
討
HS-26
1 1
○植田浩之1、鯉江 洋1,2、滝山直昭1、坂井 学1、上地正実(
日
2
本大 獣医内科、 日本大 獣医生理)
○早川典之1、淺川裕美2、清沢好男3、石岡克己1,4(1日獣大
付属動物医療センター、2株式会社シマ研究所 動物検査
薬、3株式会社モノリス、4日獣大 獣医学部獣医保健看護学
科臨床部門)
A解 剖
【目的】現在最も利用されているアルブミンの定量法はBCG法な
どの色素結合法である。しかし、この方法は微量なアルブミンを
定量することが出来ない。このため尿、髄液などの微量アルブミ
ンを定量する場合は抗アルブミン抗体を用いた免疫学的測定方法
が主流となっている。ヒトの医療においては抗ヒトアルブミン抗
体を用いた免疫比濁法が主流であり、いくつかの試薬メーカーが
体外診断用医薬品として製品化しているが獣医療ではまだ出来て
いない。今回、ネコの微量アルブミンを測定するために抗ネコア
ルブミン抗体を用いたラテックス試薬の基礎的な検討を実施した。
【方法】日本獣医生命科学大学付属動物医療センターで得られた
猫の血清をBCG法試薬で血清アルブミン値を測定し、その血清を
生理食塩水で100倍希釈した後に抗ネコアルブミン抗体を用いた試
薬で微量アルブミンを測定した。これらの測定値を比較して微量
アルブミン測定試薬の有用性を検討した。【結果と考察】BCG法に
よる血清アルブミン測定値と今回使用した抗ネコアルブミン抗体
を用いたラテックス試薬によるアルブミン測定値は良好な正の相
関を示した。この結果から今回検討したラテックス試薬はネコの
アルブミンに対して比較的高い特異性があると推察され、微量な
アルブミンを測定する試薬として有用性があると考えられた。
DB
尿道狭窄の雄犬に対してバルーン拡張術を行った2治験
例
微生物(細菌)
DI
微生物
(免疫)
DV
微生物
(ウイルス)
【手技】
麻酔下にて軟性鏡を挿入し尿道狭窄部を観察後、外尿道口から狭
窄部までの距離を測定した。
血管用カテーテルガイドワイヤーを膀胱まで通した後、拡張用バ
ルーンカテーテルを尿道内へ挿入し、X線透視下にてバルーンを
狭窄部位へ誘導した。バルーンを造影剤にて拡張し、そのまま5分
間維持した後に減圧した。
この作業を3~4回繰り返した。拡張術が終了した後に、膀胱内視
鏡にて尿道狭窄部周囲の観察を行った。
C寄生虫
【症例】
症例は2010年5月に日本大学付属動物病院に、持続する頻尿・排尿
障害・尿貯留などを主訴として来院した
尿道狭窄症を疑う雄犬2例(ゴールデンレトリーバー1例、雑種1例)
を用いた。逆行性尿路造影検査および膀胱軟性鏡検査にて狭窄部
位を確認したことから
尿道狭窄症と診断し、バルーン尿道拡張術を実施した。
抗ネコアルブミン抗体を用いたラテックス比濁法によ
る微量アルブミン定量の基礎的検討
B病 理
【はじめに】
現在までのところ獣医学領域では尿道狭窄の治療を行う場合、外
科的治療が一般的である。
しかし外科的治療法には、手術部位の再狭窄などの問題も存在する。
一方で尿道バルーン拡張術はこれらの方法に比べ比較的安全かつ
簡単な尿道狭窄の治療法である。
今回、血尿や頻尿および排尿障害を示した2例の雄犬に逆行性尿路
造影検査および内視鏡検査を行い、尿道に狭窄部位を認めた。
それらの犬に対してバルーン尿道拡張術を実施したのでその概要
を報告する。
特別企画
HS-25
E家 禽
【考察】
本治験では拡張術後に膀胱内視鏡にて尿道を観察したところ、尿
道の発赤および腫脹が認められた。
このことからバルーン尿道拡張術は外科的治療に比較して非侵襲
的であるものの、尿道浮腫による尿閉に注意を払い実施するべき
であると思われた。
今後さらに症例を重ね治療手技を確立することにより、さらなる
臨床応用が期待できると思われる。
HS-28
○伊藤哲郎1、茅沼秀樹2、菅沼常徳2、斑目広郎1(1麻布大
附属動物病院・小動物臨床、2麻布大 獣医・獣医放射線)
○上田綾子1、田中 栄2、秋山 達3、Jaroensong Tassanee1、
Choi Sung-Jin4、 中 川 貴 之1、 望 月 学1、 西 村 亮 平5、
2
3
東大 医・整形外科、
自
佐々木伸雄1(1東大院 農・獣医外科、
治医科大 整形外科、4東大 医・臨床医工学、5東大院 農・
高度医療)
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
【背景と目的】骨肉腫(OSA)はイヌにおいて最も予後不良な悪性
腫瘍の一つである。OSAは骨増殖と同時に骨破壊を伴うのが特徴
であるが、これまでにその分子機序は明らかになっていない。近
年転移性骨腫瘍および原発性骨腫瘍における骨破壊にTNFファミ
リーに属するサイトカインRANKLおよびその受容体RANKを介
した破骨細胞誘導系の関与が報告されている。そこで本研究では
種々のイヌOSA細胞株におけるRANKL, RANKの発現を蛋白レ
ベルで検討し、マウスOSA移植モデルにおける骨病変との関連を
検討した。【材料・方法】イヌOSA細胞株としては、われわれが
樹立した4つの細胞株(HMPOS, POS, OOS, CHOS)を使用した。こ
れらの細胞におけるRANK, RANKLの発現は特異的な抗体を用い
たWestern blot法及び免疫細胞化学染色法により検討した。また
CHOSとHMPOS細胞株(1 x 105 cells/10μl)をヌードマウス脛骨
内に移植し、単純X線、マイクロCT、および病理組織学的によっ
て骨破壊様式を検討した。【結果・考察】使用したイヌOSA細胞株
全てにおいてRANKLとRANKの発現を認めた。POSとそのクロー
ン株であるHMPOSではRANKの発現が高く、RANKLの発現は低
かった。一方CHOSではPOSやHMPOSと比較して、RANK発現は
低レベルであったが、高レベルのRANKL発現を示した。HMPOS
およびCHOSをヌードマウスに移植したところ、それぞれ増骨型、
骨融解型の病態を示した。CHOS移植マウスでは増殖した腫瘍と
皮質骨の境界において多数の破骨細胞誘導が確認された。以上の
結果、より高いRANKL発現を示すCHOS細胞では破骨細胞の活性
化が生じ、骨融解の強い病態に呈する可能性が示唆された。一方
増骨型の病態における破骨細胞の関与は明らかではなく、今後さ
らなる検討が必要であると考えられた。
HL
臨床
(産業動物)
IVLは全身諸臓器の血管内腔に腫瘍性リンパ球増殖を生じる発
生の稀なリンパ腫の一病型である。実質組織、末梢血、リンパ節、
骨髄に腫瘍細胞を認めないため生前診断が極めて困難である。犬
では主に初期に神経症状を示し、短期間で死亡した症例が報告さ
れている。今回、剖検により診断された下腿部動静脈瘻を併発し
たIVLの犬の1例を報告する。
【症例】7歳齢、去性雄の秋田犬
が右下腿腫脹を主訴に来院した。全身状態は良好であり、右下腿
部は肢端まで限局性浮腫により正常肢の2倍に腫脹し、皮膚色素沈
着と紫斑を認めた。【臨床検査所見】血液検査において網状赤血
球増加と血小板減少を認めた。胸部および腹部諸臓器に著変は無
く、右下腿部の血管造影X線検査およびCT検査では、遠位大腿
後静脈および外側伏在静脈が著しく拡張、蛇行し、末梢では塞栓
像を認めた。周囲軟部組織の浮腫を認め、tru-cut生検組
織は皮下出血の所見であった。【経過】血栓性静脈炎を疑い、抗血
栓および抗炎症療法を実施して後肢浮腫、血小板減少は軽度に改
善された。1
5
0病日まで良好に維持されたが、その後は浮腫、紫斑
が悪化するとともに血球3系統が急速に減少して206病日に斃死し
た。
【剖検診断】IVL(肝臓、脾臓、腎臓、心臓、肺、脳、皮膚)、
血栓形成を伴う動静脈瘻(右外側伏在静脈)
【組織所見】CD3(+)、
CD7
9a(-)のT細胞性大型リンパ球が前述組織の血管腔内に
存在し、
虚血性と推定される壊死病変を複数臓器に認めた。
【考察】
本症例の臨床所見は犬で報告されたIVLと大きく異なっており、
静脈炎に誤診される皮膚病変を示し、長期生存例が多いヒトのI
VL cutaneous variantに類似していると考え
られた。
イヌ骨肉腫細胞株におけるRANK/RAKL/OPG発現と細
胞移植マウスモデルにおける骨病変
G繁 殖
下腿部動静脈瘻を併発した血管内リンパ腫(intr
avascular lymphoma:IVL)の
犬の1例
F公衛生
HS-27
HS-29
HS-30
○Lobna Mkaouar、Takayuki Nakagawa、Yoshifumi Endo、
Manabu Mochizuki、Ryohei Nishimura、Nobuo Sasaki(東
大 農・獣医外科)
○石井典子1、杉崎 修1、小林正人1、山田 理1、西上達也2、
吉田俊一3、礒谷真弓1、伊藤慶太1、盆子原誠1、小野憲一郎1、
鷲巣月美1(1日獣大 獣医臨床病理学教室、2田原台動物病
院、3吉田動物病院)
Effects of Curcumin on Growth and Metastasis of
Canine MGT in a Nude Mice Xenografted Model
The effects of curcumin on the inhibition of NF-κB is well
known in human breast cancers, however, studies on canine
mammary gland tumor (MGT) are lacking. The objective of
this study was to evaluate the effects of curcumin on NF-κ
B activation in the primary tumor and on the incidence of lung
metastasis in a cell line xenografted nude mice model. Nude
mice xenografted with CHMp-5b cell line were fed with standard
foods (control group) or those containing 2% curcumin, and
development of tumor mass and lung metastasis were compared.
In addition, tumor tissues developed in nude mice were analyzed
for Ki-67 and NF-κB expressions on immunohistochemistry
and I-κBα and p-I-κBα expressions on Western blot analysis.
Tumor growth seemed slower in curcumin-treated mice with
lower Ki-67 nuclear expression (17.2%) when compared to the
control group (27.6%). Lung metastasis was observed in 4 and
2 out of 5 mice in the control and curcumin-treated group,
respectively. In addition, tissues in curcumin-treated mice
showed lower NF-κB nuclear localization (3.1%) compared to the
control group (11.4%). On the other hand, 2 out of 5 tissues of
mice of the control group showed stronger p- I-κBα expression,
while all tissues from curcumin-treated mice, showed its lower
expression. These data may suggest that curcumin could be
a potentially therapeutic agent in canine MGTs through the
inhibition of NF-κB function.
猫の肥満細胞腫における新規c-kit遺伝子変異の同定と
イマチニブによるKITリン酸化抑制の検討
【背景と目的】猫の肥満細胞腫では、KITをコードするc-kit遺伝
子に変異を有する例が多くみられる。変異は第5イムノグロブリン
様領域をコードするエクソン8および9に多く発生し、これらの変
異は幹細胞因子(SCF)非依存性にKITのリン酸化を亢進させるが、
他の領域における変異については十分検索されておらず、KITの
リン酸化及ぼす影響も不明である。今回、肥満細胞腫の猫2例にお
いてc-kit遺伝子のエクソン11に新たな変異を同定したので、この
変異のKITリン酸化に及ぼす影響とイマチニブに対する感受性に
ついて検討した。【材料と方法】皮膚肥満細胞腫の日本猫2例から
FNAあるいは腫瘍切除により腫瘍細胞を採取した。ゲノムDNAを
抽出した後、エクソン8、9、11、13および17の塩基配列を解析し
た。KITリン酸化の解析には293細胞発現系を用いた。KITを強制
発現させた293細胞の培養液にSCFあるいはイマチニブを添加した
後、免疫沈降によりKITを精製しリン酸化の変化を解析した。【結
果と考察】2症例はともにエクソン11に同一の新規変異(c.1672
1676delinsCTTCC)が認められ、この変異はKITの膜近傍領域
の2アミノ酸を変化させた。293細胞に強制発現させた変異KITは、
SCF非依存性に自己リン酸化が亢進し、さらにこのリン酸化はイ
マチニブ添加により抑制されることが明らかとなった。このこと
から、今回同定したエクソン11の変異は機能獲得型の変異であり、
この型の変異を持つKITはイマチニブに感受性を有すると考えら
れた。
HS-31
HS-32
○小林正人、杉崎 修、小堤友香梨、田中 優、守谷友加里、
石 井 典 子、 山 田 理、 磯 谷 真 弓、 伊 藤 慶 太、 盆 子 原 誠、
小野憲一郎、鷲巣月美(日獣大 獣医臨床病理学教室)
○石川真由子、遠藤能史、新井田直樹、小松嵩弘、渡部あい、
廉澤 剛(酪農大 獣医臨床腫瘍学研究室)
【背景と目的】犬の肥満細胞腫では、幹細胞因子(SCF)の受容体で
あるKITの細胞膜近傍領域をコードするc-kitエクソン11に挿入変
異が見られることがあり、このような症例ではイマチニブが奏功
することが知られている。一方、エクソン11に変異を持たない症
例においてもイマチニブが奏功することがあり、このような症例
では他の領域にイマチニブ感受性の変異が存在すると推測されて
いるが、これまで特定されていない。今回、イマチニブが奏功し
た1例においてエクソン9に新たな変異が同定されたので報告する。
【症例】症例は15歳の雑種犬で、右前肢指間に肥満細胞腫が認め
られた。右浅頚リンパ節への転移と高度の肥満細胞血症(5500/μl)
が認められた。イマチニブ(10 mg/kg)を投与後、第8病日には右前
肢の腫瘤と右浅頚リンパ節は著しく縮小した。第15病日には末梢
血中の肥満細胞は消失した。【材料と方法】腫瘍細胞から総RNAを
抽出した後、c-kit遺伝子を単離し全長の塩基配列を解析した。次
いで単離したc-kit遺伝子を293細胞に導入し、KITを強制発現させ
た。この細胞にSCFあるいはイマチニブを作用させた後、KITを
免疫沈降しリン酸化の変化を検討した。【結果と考察】単離した
c-kit遺伝子のエクソン9に相当する領域に点変異(c.1536T>A)が認
められた。この変異を有するKITは、SCF非依存性にリン酸化が
亢進することが示された。さらに、このリン酸化はイマチニブに
より抑制された。以上のことより、エクソン9に認められた点変異
は肥満細胞腫の発生要因の一つであり、この変異を有する肥満細
胞腫ではイマチニブが奏功すると考えられた。
【背景・目的】
犬肥満細胞腫(MCT)におけるc-kit遺伝子exon11のITD変異は、KIT
蛋白の活性化をもたらし、MCTの悪性化に関与する。この変異を
有するMCT症例においてメシル酸イマチニブは高い治療効果を示
す一方で、長期投与により耐性が生じる症例は少なくない。しかし、
イマチニブ耐性機構や耐性症例に対する新規治療法の検討はほと
んどない。そこで本研究では、イマチニブ奏功の後に再燃を示し
た症例よりMCT細胞株を樹立し、その性状を解析した。
【材料・方法】
腫瘍組織はイマチニブ投与により約3ヶ月間の奏功を認めた後、再
燃の認められたMCT症例のリンパ節より採材した。この腫瘍組織
を細切、初代培養し、その後浮遊細胞を継代培養した。得られた
細胞株について、犬特異的プライマーを用いたRT-PCRにより肥満
細胞マーカーの発現と、c-kit遺伝子exon11のITD変異の有無を評
価した。さらに、イムノブロット法によりKITならびにリン酸化
KITの発現解析、SDI法によりイマチニブ感受性試験を実施した。
【結果】
樹立した細胞株は50継代後も安定した増殖を示し、細胞倍加時
間は41.0時間であった。さらに、FcεRIα、β、FcRγ、CD23、
c-kitのmRNA発現を認め、exon11のITD変異も確認された。また、
KITとリン酸化KITの強い発現を認めた。イマチニブ感受性試験
で算出したIC50は27.9μMであり、イマチニブ低感受性を示した。
【考察】
以上の結果より、樹立した細胞株はc-kit遺伝子exon11にITD変異
を有し、KITの自己リン酸化を示す一方で、イマチニブに低感受
性を示すMCT細胞株であった。さらに、この細胞株はイマチニブ
耐性が生じた症例より得られたことから、MCTのイマチニブ耐性
機構を解明する上で有用なツールとなることが示唆された。
イマチニブが奏功したc-kitエクソン9に点変異を有する
肥満細胞腫の犬1例
c-kit遺伝子exon11にITD変異を有しイマチニブ低感受
性を示す犬肥満細胞腫細胞株の樹立
HS-34
○岩田泰介、黒木哲也、森 光平、小澤佑太、手塚雅典、
中川朋子、廣井輝代、伊藤慶太、盆子原誠、小野憲一郎、
鷲巣月美(日獣大 獣・獣医臨床病理教室)
○佐々木東1、中村健介1、村上正紘1、Kumara Bandula1、
田村 悠1、大田 寛1、山崎真大1、工藤信樹2、滝口満喜1(1北
大 獣・獣医内科、2北大 情報科学研究科生命人間情報科
学専攻)
犬の悪性黒色腫株化細胞に対する分子標的薬の増殖抑
制効果に関する研究
DI
微生物
(免疫)
DV
微生物
(ウイルス)
E家 禽
F公衛生
HS-36
イヌリンパ腫におけるニトロソウレア系抗癌剤耐性に
及ぼすMethylguanine‐DNA methyltransferaseの影響
G繁 殖
○尾川由華1、南 晃司1、梶 有沙1、平岡博子2、水野拓也1、
奥田 優1(1山口大 農・獣医内科、2山口大 農・獣医臨床
診断)
HL
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
ニトロソウレア系抗癌剤 CCNUはイヌのリンパ腫に対するレス
キュー療法に用いられるが、CCNUも複数回の投与後に腫瘍細胞
に対する反応性低下が経験される。近年、人医領域ではCCNU
への薬剤耐性機構の原因の一つとしてDNAアルキル化修復酵素
Methylguanine‐DNA methyltransferase(MGMT) の 働 き が 明
らかになった。しかしながら、獣医学領域ではMGMTの腫瘍細胞
への関与について未報告であるため、本研究では5種のイヌリンパ
系腫瘍細胞株CL-1、Ema、GL-1、Nody-1、UL-1を用い、イヌのリ
ンパ系腫瘍におけるMGMTの働きを明らかにすることを目的とし
た。
まず各濃度のCCNUによる細胞毒性効果と、その効果がMGMT
阻害剤であるO6-benzylguanine(BG)添加の有無により影響を
受けるか検討した所、CL-1、Nody-1では50%阻害濃度(IC50)が
BGの添加により有意に減少したが、その他の細胞株では大きな変
化は認められなかった。次にメチル化蛍光オリゴヌクレオチド法
を用いてMGMT活性を解析した所、CL-1、Nody-1ではMGMT活
性が検出されたが、その他の細胞株では検出されなかった。さら
にReal-time PCR法を用いたMGMTのmRNA発現量測定ではCL-1、
Nody-1でmRNA発現が確認された。
以上の結果からイヌのリンパ系腫瘍細胞にはMGMTを発現し、ニ
トロソウレア系抗癌剤に比較的耐性である細胞と、MGMTを発現
せず、同抗癌剤に対して比較的感受性の高い細胞が存在する可能
性が示唆された。今後、本研究で得られた知見をもとに、臨床応
用へと発展させたいと考えている。
臨床
(産業動物)
【目的】犬の横紋筋肉腫(RMS)は比較的転移率の高い軟部組織肉
腫であり、抗がん剤治療の適応になることもあるが、現在のとこ
ろ有効な抗がん剤は報告されていない。我々は犬のRMSの病態解
析のために犬のRMS由来細胞株を2株樹立し、第148回および149回
本学術集会にて報告している。今回我々は、樹立した2株の犬RMS
細胞株において、獣医療において一般的に用いられる抗がん剤に
対するin vitro感受性を検討した。
【方法】2頭の犬のRMSより樹
立したCMS-CおよびCMS-J細胞株を実験に供した。対数増殖期に
あるRMS細胞株をそれぞれ回収し、103個/wellになるように100μ
lのDMEM培地と共に96穴プレートに播種した。37℃、5%CO2条
件下で24時間培養後、各抗がん剤(VCR、DOX、CBDCA、MIT、
L-ASP、ACNU)を報告されている最高血中濃度(PPC)を基にPPC
×1、×10-1、×10-2の濃度になるようDMEM培地に添加し、さら
に72時間培養した。各抗がん剤と接触後、WST-8溶液を各wellに
添加して2時間培養し、主波長450nm、副波長620nmで各wellの吸
光度を測定した。得られた吸光度よりInhibition Index(%)を算出
し、II値が50%以上のものを感受性有りと判定した。
【結果および
考察】試験に供した抗がん剤の中で、RMS細胞株2株に共通して感
受性が最も強く認められた抗がん剤はVCRであり、次いでDOXお
よびMITに対して感受性を有していた。これらの抗がん剤はヒト
のRMSの標準的治療であるVAC療法で用いられる薬剤であり、犬
のRMSにおいても同様の抗がん剤が有効であることが示唆された。
DB
微生物(細菌)
○渋谷葉菜、長澤優紀、木幡祥子、土肥まりえ、丹保 瞳、
高崎麻理子、百田 豊、石岡克己、左向敏紀、呰上大吾(日
獣大 獣医保健看護・臨床部門)
C寄生虫
犬の横紋筋肉腫由来細胞株のin vitro抗がん剤感受性
【目的】近年、超音波の治療への応用に注目が集まっており、そ
の中にソノポレーションがある。ソノポレーションとは、超音波
により微小気泡を破壊し、生じる衝撃波で細胞膜透過性を変化さ
せ、細胞内に薬物や遺伝子を導入する技術である。ソノポレーショ
ンによる超音波治療の基礎的知見を得るためにin vitroでの検討を
行った。【方法】犬甲状腺癌由来株細胞を対象に、ソナゾイド2×
105個/ml、シスプラチン(CDDP)1μg/mlで使用した。96穴プレー
トに細胞を培養し、CDDPとソナゾイドの懸濁培養液で満たした。
プレートをシール後、裏返してインキュベーションし、超音波診
断装置の造影対応リニアプローブで超音波照射した。超音波の
MI値、照射時間は実験毎に調整した。照射直後にCDDPを除去し、
24時間後にトリパンブルー色素排除法で細胞生存率を求めた。ま
た、FITC-dextran(FD)を用いて同様の実験を行い、共焦点レーザー
顕微鏡とフローサイトメーターで評価した。【結果】インキュベー
ション5分かつ照射60秒の条件で、超音波および微小気泡、CDDP
の有無で8群に分けて検討したところ、3つを併用した群の生存率
は62%と他の7群に比較して有意に低下した。同じ条件下でFDを
用いると、FDは細胞内に存在し、封入率は15%だった。インキュ
ベーション時間、MI値、および照射時間の影響をそれぞれ個別に
検討したところ、インキュベーション5分以上、またMI値0.51以上
では細胞生存率が有意に低下した。【総括】超音波診断装置と微小
気泡を併用することでCDDPの抗腫瘍効果を増強できることが示
された。この増強効果は超音波照射で細胞近傍の微小気泡が破裂し、
細胞内にCDDPが導入されたためと考えられた。今回の結果を基に、
現在、in vivoでの実験を計画中である。
B病 理
HS-35
微小気泡存在下での診断用超音波照射によるシスプラ
チンの抗腫瘍効果増強の検討
A解 剖
【背景と目的】犬の口腔内に発生する悪性黒色腫はきわめて転移
性の高い腫瘍である。治療にはダカルバシンやカルボプラチンな
どの化学療法剤が用いられるが、これらの薬剤に対する反応性は
低く新たな治療法が必要とされている。近年、人医療では特定の
分子機構を標的として作用する分子標的薬が様々な悪性腫瘍に対
して用いられているようになり、いくつかの腫瘍においては著し
い治療成績の向上がみられている。しかしながら、犬の悪性腫瘍
における分子標的薬の適応についてほとんど知られていない。そ
こで犬の悪性黒色腫に対する、新たな治療薬としての分子標的薬
の可能性を検討した。
【材料と方法】犬の悪性黒色腫株化細胞5株
(CMM-1、CMM-2、KMeC、LMeCお よ びChMC、 東 京 大 学 獣
医外科教室佐々木教授より分与)を用いて、分子標的薬21種の細
胞増殖抑制効果を検討した。各株化細胞を96ウェルプレートに播
種した後に分子標的薬を0から10 μMの濃度で添加し、3日後に
WST-1細胞増殖アッセイキットを用いて生細胞数を測定した。各
細胞に対する分子標的薬のIC50はGrahPad Prism 5.0で解析した。
【結果および考察】今回用いた21種の分子標的薬のうち、トザセ
ルチブ(オーロラキナーゼ阻害剤)、ボルテゾミブ(プロテアソー
ム阻害剤)
、カネルチニブ(EGFR阻害剤)およびレスタウルチニ
ブ(FLT3阻害剤)は全ての細胞株において濃度依存性に腫瘍細
胞の増殖を抑制し、IC50は1 μM以下であった。特にボルテゾミ
ブによる腫瘍の抑制効果は顕著であり、IC50は<0.3 μMであった。
これらの分子標的薬は、犬の悪性黒色腫に対する治療薬の候補に
なると考えられた。
特別企画
HS-33
HS-37
HS-38
○市橋朋典1、浅野 淳1、荻原喜久美2、山野好章1(1鳥取大
農・獣医生化学、2麻布大 生命・環境科学・病理学)
○山崎裕毅1、高木 哲1、細谷謙次1、奥村正裕1(1北大院
獣医学研究科獣医外科学教室、2北大院)
【目的】I型インターフェロン(IFN)であるIFNα/βは、細胞増殖
抑制作用やアポトーシス作用があることが知られている。近年発
見されたIII型IFNであるIFNλは、I型IFNと細胞内シグナル伝達
系を共有するため、同様の作用を有すると考えられる。本研究では、
組換えイヌIFNλ1タンパク質のイヌ細胞における抗腫瘍作用を検
討した。
【材料と方法】ゲノムデータベース検索の結果、イヌゲノム中に
IFNλ1(IL29)お よ びIFNλ3(IL28B)遺 伝 子 の 存 在 を 確 認 し た。 イ
ヌ腎細胞株MDCKより、IFNλ1(アクセッション番号XM_850270)
cDNAのうちシグナル配列を除くコード領域(513bp)をRT-PCR
法を用いて増幅し、クローニングした。これをpET-28aベクター
に導入しHisタグ融合タンパク質として大腸菌に発現させ、アフィ
ニティー精製した。次に、MDCK、イヌ肺がん細胞株および尿路
上皮がん細胞株を用いて、IFNλ受容体IL28RA、IL10RB発現を
RT-PCR法を用いて確認した。さらに、組換えIFNλ1を細胞培養
液に添加し、72時間後の細胞生存率をWSTアッセイにて算出した。
【結果と考察】MDCKと比較して、肺がん細胞株と尿路上皮がん
細胞株ではIL28RAの強い発現が認められた。組換えイヌIFNλ1は、
肺がん細胞株および尿路上皮がん細胞株において細胞増殖抑制作
用を示したが、MDCKでは示さなかった。以上の結果から、組換
えイヌIFNλ1は腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果を有する可能
性が示唆された。
【背景と目的】犬の組織球肉腫は臨床挙動の極めて悪い樹状細胞
由来の腫瘍であり、有効な治療法が確立されていない。本腫瘍の
短い生存期間は、ある程度効果がある抗がん剤に対する早期の耐
性獲得に関連している。多くの腫瘍において抗がん剤に対する耐
性獲得機序の一つとしてアポトーシス抑制因子が関連しているが、
犬の組織球肉腫においては、これに関連する因子の発現について、
報告されていない。そこで本研究では、各組織球系疾患における
アポトーシス抑制因子としてBcl-2ファミリーであるBcl-2、Mcl-1
およびBcl-xLとIAPファミリーであるSurvivin、XIAP、cIAP1お
よびcIAP2の各発現を評価することを目的とした。【材料と方法】
2010年1月から2010年6月までに本学附属動物病院に来院し、病理
組織学的検査により確定診断された犬の組織球肉腫5例、組織球腫
1例、皮膚組織球症1症の組織を採材してRNAを抽出し、RT-PCR
法 に よ りBcl-2、Mcl-1、Bcl-xL、Survivin、XIAP、cIAP1お よ び
cIAP2の各mRNAの発現を検索した。なお、陰性対照として正常
犬の樹状細胞を用いた。【結果と考察】組織球肉腫と皮膚組織球症
のすべてにおいて、検索した全アポトーシス抑制因子のmRNA発
現が認められたが、組織球腫ではそれらの発現が確認されなかった。
この結果から組織球肉腫においてもアポトーシス抑制因子がその
悪性挙動に関与していることが推測された。わずか1症例であるが
非腫瘍性疾患である皮膚組織球症においても組織球肉腫と同様に、
これら因子の発現がみられたが、それは本疾患の難治性と関与し
ているのかもしれない。今後、症例数を増やし、これら因子の意
義をさらに検討していく必要がある。
HS-39
HS-40
○野口俊助1、森 崇2、星野有希2、丸尾幸嗣2、中川貴之3、
佐々木伸雄3、赤尾幸博4(1岐阜大院連獣 獣医分子病態学研
究室、2岐阜大 応用生物科学部獣医分子病態学研究室、3東
大 農学部獣医外科学研究室、4岐阜大 大学院連合創薬医
療情報研究科)
○西川 翔(農工大 農・獣医分子病態治療学)
組換えイヌインターフェロンλ1タンパク質の抗腫瘍作
用
microRNA-145は悪性メラノーマにおいてがん抑制遺伝
子として機能する
悪性メラノーマ(MM)はイヌの口腔内およびヒトの皮膚に発生
する最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、イヌおよびヒトにおい
て予後不良腫瘍である。MMが予後不良である理由の一つに、発
がんおよび進行に関与する遺伝子が十分に解明されていないこと
が挙げられる。現在、がん研究においてmicroRNA(miRNA (miR))
が注目されており、がんとmiRNAの関係が解明されつつある。
miRNAは18~25ヌクレオチドの小さなRNAであり、様々な動物種
において広く存在することが知られている。miRNA自身はタンパ
クをコードせず相補的塩基配列を有する標的mRNAの翻訳を阻害
することで、遺伝子発現を負に調節する。これまでに様々なヒト
腫瘍において特異的に発現が亢進あるいは低下しているmiRNAが
同定されてきているが、悪性メラノーマの発がんおよび進行に関
わっているmiRNAはまだ明らかにされておらず、イヌにおいては
全く研究されていない。
miR-143および-145はヒト染色体5q32-33に共局在し、多くのヒト腫
瘍で発現低下が認められており、がん抑制遺伝子として機能する
ことが知られている。我々は、自然発生イヌ口腔内MMにおいて
もmiR-143および-145が発現低下していることをreal time RT-PCR
によって確認した。さらに、イヌおよびヒトMM細胞株にmiR-145
をtransfectionすることでその増殖が抑制されることを発見した。
これらのことから、イヌおよびヒトMMの発がんメカニズムには
miR-145によって制御されている経路が関与し、miR-145はヒトの
みならずイヌにおいてもがん抑制遺伝子として機能する、という
ことが示唆された。
犬の組織球系疾患におけるアポトーシス抑制因子の発
現
ヒト中皮腫細胞における腫瘍性増殖制御分子としての
転写因子NF-κBの役割
【目的】多くの上皮系および非上皮系腫瘍において、転写因子NFκBの活性化が明らかとなっており、上皮間葉形質転換や腫瘍性
細胞増殖への関与が示唆されている。本研究では、アスベスト等
の異物に対する炎症から惹起されると考えられているヒト中皮腫
について、その細胞株を用いて、細胞周期調節因子および癌幹細
胞の動態と転写因子NF-κBの活性化との関連を検証した。有効な
治療法の少ない悪性中皮腫に対する分子標的治療法のための基礎
的検討とした。【方法】実験にはヒト中皮腫細胞株であるMSTO211H、NCI-H28、NCI-H2052を用いた。恒常的なNF-κBの活性化
はウェスタンブロット法で調べた。NF-κB特異的阻害剤IMD-0354
の、細胞増殖抑制効果をBrdU取り込み試験で、細胞周期調節分
子のうち特にG1/S期の移行に関連する蛋白の発現に対する作用を
ウェスタンブロット法で評価した。また、無血清培養法により中
皮腫細胞株から浮遊細胞塊(sphere)を分離した。このsphere形
成細胞を用いて、IMD-0354のsphere形成抑制作用を評価した。【結
果】使用したヒト中皮腫細胞株では恒常的なNF-κBの活性化が確
認され、その阻害によりD型サイクリンの発現が抑制された。こ
のとき、細胞周期の停止と増殖抑制効果が認められた。また、NFκBの阻害によりsphere形成細胞の生存や増殖が抑制された。【考
察】以上の結果から、NF-κBの活性を抑制することによって、細
胞周期調節蛋白発現の阻害を介して中皮腫細胞の腫瘍性増殖が抑
制されたものと考えられた。また、癌幹細胞を含むと考えられて
いる浮遊細胞塊(sphere)の増殖阻止効果が明らかとなり、NF-κ
Bが中皮腫の分子標的治療の一つのターゲットとなる可能性が示唆
された。
犬の乳腺腫瘍におけるVEGF-A とVEGF-Cの発現
犬乳腺腫瘍と周囲間質細胞に発現するテネイシンの発
現に関する研究
○芳我彩佳1、日下部守昭2、中川貴之1、李 秀貞1、望月 学1、
佐々木伸雄1(1東大院 農・獣医外科、2東大院 農・食の安
全センター)
F公衛生
Pセレクチン糖蛋白リガンド1の過剰発現による付着系
細胞の浮遊現象の解析
HL
臨床
(産業動物)
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
P-selectin glycoprotein ligand-1(PSGL-1)は白血球表面に発現し
ている糖蛋白質であり、血管内皮細胞に発現するP-selectinを介し
て炎症時の白血球のローリングに関与する。今回、付着系細胞に
PSGL-1を過剰発現させたところ、細胞が類円形を呈し接着能を失
い浮遊するという現象を認めたため、その概要を報告する。
イヌPSGL-1を哺乳類発現ベクターに組み込み、ヒト胎児腎由来細
胞株であるHEK293T細胞に一過性に過剰発現させたところ、遺伝
子導入後約24時間頃から類円形を呈する細胞が出現し、約72時間
後には遺伝子導入された細胞の多くが浮遊した。また、PSGL-1の
発現量が高い細胞ほどより浮遊する傾向にあった。同様にヒトま
たはマウスのPSGL-1をHEK293T細胞に過剰発現させた場合、さ
らにヒトまたはイヌPSGL-1をその他の付着系細胞株に過剰発現さ
せた場合にも同様の現象が確認された。このことより、付着系細
胞においてPSGL-1が過剰発現することで細胞が円形化し接着能を
失うことが示された。さらに、この機序を解析するために、ヒト
PSGL-1の様々な変異体を作製しHEK293T細胞に遺伝子導入後、浮
遊現象への関与を検討した。その結果、PSGL-1の細胞質内および
細胞質外領域ともに細胞の浮遊現象に関与している可能性が示唆
された。
PSGL-1の過剰発現による細胞接着能の変化の意義については現時
点では不明であるが、通常は白血球に発現するPSGL-1が付着系細
胞に発現することで、細胞の形態や細胞外基質への接着能が変化し、
何らかの作用を及ぼす可能性が示唆される。今後は、この現象が
生体機能にどのように関与するのかを検討する予定である。
G繁 殖
【背景と目的】
イヌの上皮向性リンパ腫がその他のリンパ腫と大きく異なる点は
皮膚に主要病変が形成されることである。リンパ球の遊走はケモ
カインおよびケモカイン受容体の相互作用によって制御されてい
ることから、上皮向性リンパ腫の病態においては皮膚指向性を決
定づける特異的な分子メカニズムが関与しているものと思われる。
そこで我々はイヌの上皮向性リンパ腫における分子病態を解明す
るために、皮膚病変部におけるリンパ球遊走関連分子の遺伝子発
現量を定量したのでその概要を報告する。
【方法】
上皮向性リンパ腫と診断されたイヌおよび正常イヌの皮膚組織
からそれぞれtotal RNAを抽出し、cDNAを作製した。Real-time
PCRを用いて皮膚病変部および正常皮膚における各種ケモカイ
ン、ケモカイン受容体およびサイトカインmRNAの転写量を定量し、
両群で比較した。
【結果】
皮膚病変部において、CCL2、CCL19、CCL21、CCL22、CXCL13、
CCR4、CCR7、CCR10、CXCR3、IL-2、IL-12、IFN-γ、TNF-α、
TGF-β、LT-αおよびGM-CSF mRNA転写量の有意な増加が認め
られた。
【考察】
皮膚病変部におけるケモカインおよびサイトカイン発現プロファ
イルから、腫瘍化リンパ球の由来はTc1サブセットであることが
示唆され、これらリンパ球の皮膚指向性はCCL22およびCCR4に
よって制御されている可能性が示された。またCCL19、CCL21、
CXCL13およびCCR7の発現増加は、腫瘍化リンパ球の転移メカニ
ズムを説明できる興味深い知見であった。
E家 禽
○梅城沙織1、鈴木綾一1、江馬康夫1、西村順裕2、奥田 優1、
水野拓也1(1山口大 農・獣医内科、2感染研 ウイルス第二
部)
DV
微生物
(ウイルス)
○千村直輝1、柴田早苗2、近藤菜穂3、藤山博文4、村山信雄5、
寺田有里5、永田雅彦5、前田貞俊3(1岐阜大院連獣 連合獣
医学研究科、2農工大 農・獣医内科、3岐阜大 応生・獣医
臨床放射線、4犬山動物病院、5ASC皮膚科)
DI
微生物
(免疫)
HS-44
イヌの上皮向性リンパ腫病変部におけるリンパ球遊走
関連分子の遺伝子発現解析
DB
微生物(細菌)
HS-43
C寄生虫
【背景および目的】
悪性腫瘍の転移・浸潤には、原発部位での増殖、離脱、脈管への侵入、
転移部位での脈管外への浸潤と増殖など様々な段階があり、極め
て多数の因子が関与しているが、その詳細は十分解明されていな
い。細胞外マトリックスのひとつであるテネイシンCは、器官形成
過程の組織間質などで発現をするが、成長と共に多くは消失する。
一方で、癌組織間質や創傷治癒過程の組織に再び強く発現する「癌
胎児性分子」として知られているが、獣医学領域ではテネイシンC
と腫瘍に関する研究はほとんどない。そこで、本研究では犬乳腺
腫瘍を対象とし、その発現と腫瘍転移との関連を解明することを
目的として、細胞株を移植したヌードマウスモデルで検討した。
【材料および方法】
増 殖 速 度 の 異 な る 犬 由 来 乳 腺 腫 瘍 細 胞 ク ロ ー ン 株2株CHMp5b,CHMp-13aをヌードマウスに移植し、形成された腫瘍組織にお
けるテネイシンCの発現パターンを免疫組織学的に評価した。抗体
は、ラット抗ヒトテネイシンCモノクローナル抗体ライブラリ-よ
り、14種類のモノクローナル抗体を用い、犬乳腺腫瘍株と交差す
る抗体をスクリーニングした。
【結果および考察】
2種類の犬乳腺腫瘍細胞株は組織学的に間質量の異なる腫瘤を形
成し、また、CHMp-5b株においてのみ肺転移がみられた。使用し
たテネイシンC抗体のうち4種類が犬乳腺腫瘍と交差することがわ
かった。これらの抗体は、腫瘍細胞株によって異なるテネイシン
発現パターンを示した。従ってテネイシンCは犬乳腺腫瘍組織形成
と増殖速度・転移能に関与している可能性が示唆された。
B病 理
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の過剰発現が、腫瘍の血管、リン
パ管の増生や転移さらには腫瘍の進行や予後に関連することが
人の乳癌、大腸癌など様々な癌で報告されている。VEGFの中で
VEGF-Aは血管新生、VEGF-Cはリンパ管新生に重要な因子であ
るが、犬の乳腺腫瘍におけるこれらの発現に関する報告はほと
んどなく、これらと腫瘍増殖、転移や予後との関係は不明であ
る。本研究では、2006年から2008年までの間に本学動物医療セン
ターで乳腺腫瘍の摘出手術を受けた犬25頭の49の原発病巣を用い、
VEGF-AとVEGF-Cの免疫組織化学検査を行った。同時に、腫瘍
増殖率(Ki-67発現)
、腫瘍関連マクロファージ(TAM)を測定し、
腫瘍の悪性度との関連を検討した。その結果、まず腫瘍の組織型
との関連で見ると、乳腺癌では過形成、乳腺腫、良性混合腫瘍群
と比較して有意に高いVEGF-Aの発現が見られた(P<0.01)。また、
腫 瘍 の 増 殖 率(r = 0.4417、P = 0.0009)とTAMの 数(r = 0.4833、P
= 0.0002)についてもVEGF-A発現と有意な相関関係が認められた。
さらに、複数の腫瘍を持つ症例では最も悪性度の高い組織をその
症例の組織型とした場合、VEGF-Aの高い発現を示す犬では低発
現の犬より生存率は有意に(P=0.0447)短く、予後との関連が示唆さ
れた。一方、VEGF-Cは、すべての組織に発現したものの、組織
型との関連や腫瘍の悪性度との有意な関係は見られなかった。以
上の結果から、犬の乳腺腫瘍においてもVEGF-Aは腫瘍の組織型
や悪性度、さらには生存率とも関連することが認められ、今後予
後判定の有用な指標になり得ると考えられた。今後、腫瘍の血行
性転移やリンパ行性転移における、VEGF-A 、VEGF-Cの役割に
ついて、さらなる検討が必要と考えられた。
A解 剖
○ 李 秀 貞1、lobna mkaouar1、 遠 藤 能 史2、 中 川 貴 之1、
佐々木伸雄1(1東大院 農・獣医外科学研究室、2酪農大)
HS-42
特別企画
HS-41
HS-45
HS-46
○瀬川和仁、近藤立樹、木村志野、藤本あゆみ、加藤 崇、
根尾櫻子、久末正晴、山田隆紹、土屋 亮(麻布大 獣医・
内科学第二)
○ 小 西 千 紘1、 杉 浦 喜 久 弥1、 赤 澤 隆2、 鳩 谷 晋 吾1、
稲葉俊夫1(1大阪府大院 先端病態解析学、2大阪府立成人病
センター 分子遺伝学)
【目的】
輸血は小動物の医療においても徐々に一般化した治療法となって
いるが、血小板の輸血については十分な技術が確立されていない。
血小板の著しい減少や機能不全による止血不良は犬や猫において
も少なからず存在し、これらの動物に対しては歯科処置や外科手
術も実施困難な状況にある。本研究では、犬の輸血用血小板濃厚
液(platelet concentrates;PC)の作製技術について、より実用
性の高い方法を開発し、その輸血効果を検討した。
【方法】
血小板は刺激に対して鋭敏に反応する為、多血小板血漿(PRP)
からPCを作製する際の強遠心で強くパックされた血小板は、容易
に浮遊しない。その為、PRPからPCへの血小板回収率が必ずしも
十分なものではなかった。そこで、血小板機能を可逆的に抑制す
るプロスタグランジンE1(PGE1)をPRP強遠心前に添加する事で、
血小板の活性化を一時的に抑制し、問題の改善を図った。そして
血小板の回収効率、PC中血小板の凝集能、PC輸血後の血小板体内
寿命、更には輸血された血小板の機能を評価した。
【結果】
PGE1添加によりPC分離後の血小板回収率が上昇した。そしてこ
の血小板をPGE1の無い環境に戻すと、血小板は凝集能を回復した。
また、このPCを元の犬に輸血(返血)したところ、それに由来す
る血小板の体内寿命は、PRP輸血の場合と同程度であった。更に、
PC輸血に由来する血小板が、体内でP-selectin発現能を保持してい
た。
以上から、犬の血小板輸血において、PGE1を添加して作製したPC
の有効性が示唆された。
【目的】イヌの血小板減少症および貧血の治療に向けて、同種サ
イトカインの獲得と遺伝子導入による持続的な効果をもつ治療法
の開発を目指し、イヌトロンボポエチン(TPO)およびエリス
ロポエチン(EPO)遺伝子のクローニングを行った。【方法】1)
TPO:データベースのオオカミTPOゲノムの塩基配列をもとにプ
ライマーを設計し、イヌ肝臓から目的とするcDNAをPCRにより増
幅し、それをクローニングして塩基配列を解析した。2)EPO既報
のイヌあるいはヒトEPO遺伝子の塩基配列をもとにプライマーを
設計し、イヌ腎臓を材料として同様にPCR-クローニングを行った。
【結果】1)クローニングにより1,059 bpのcDNAを得た。塩基配
列解析の結果,イヌおよびオオカミにおいて未報告であった第469
塩基から第960塩基までの配列が明らかになった。また、cDNA全
塩基配列をアミノ酸配列に変換したところ、既報のイヌTPOのも
のと全て一致していた。2)既報のイヌEPOの遺伝子情報に基づい
てクローニングを行ったところ、119 bpのシグナル配列と504 bp
の機能部位の配列を得た。しかし、そのシグナル配列では、既報
の配列の第21塩基と第22塩基の間に二つのアデニンが挿入されて
おり、その結果、機能部位は、既報のものとは全く異なるアミノ
酸配列となった。既報のヒトEPOの遺伝子情報に基づいてクロー
ニングを行ったところ、78 bpのシグナル配列と504 bpの機能部位
の配列を得た。この機能部位の塩基配列は、イヌEPOの機能部位
の配列と一致し、開始コドンからの翻訳による予想アミノ酸配列は、
既報のイヌEPOに一致するものであった。【結論】イヌTPO遺伝子
の全配塩基列を明らかにした。また、本研究で得られたイヌEPO
遺伝子のシグナル配列は、既報の配列とは異なっていた。
HS-47
HS-48
○ 大 森 啓 太 郎1、 神 間 史 恵2、 武 田 一 男2、 松 田 浩 珍1、
田中あかね1(1農工大 獣医分子病態治療学、2オンチップ・
バイオテクノロジーズ)
○呰上大吾1、越智康浩2、渋谷葉菜1、高崎麻理子1、赤荻晴海1、
小澤恵吾1、清野由布紀1、佐藤令奈1、高見秋奈1、丹保 瞳1、
長澤優紀1、宮部真裕1、石岡克己1、左向敏紀1(1日獣大 獣
医保健看護、2シスメックス株式会社)
犬 の 輸 血 用 血 小 板 濃 厚 液(PC) 作 製 過 程 に お け る
PGE1添加の有効性
細胞表面マーカーによるイヌ末梢血好塩基球同定方法
の試み
【目的】好塩基球は細胞表面上に高親和性IgE受容体を発現し、
IgEおよびアレルゲンと結合することで活性化してアレルギーの病
態に関与する。これまでにイヌの末梢血液において細胞表面マー
カーにより好塩基球を検出した報告はない。そこで本試験におい
ては、様々な細胞表面マーカーを用いてイヌ末梢血好塩基球の同
定を試みた。
【方法】健常犬末梢血液を溶血処理後、精製イヌIgE
と反応させ、末梢血白血球細胞表面上のIgE受容体にイヌIgEを結
合させた。IgE受容体に結合したIgEを抗イヌIgE抗体により検出
すると同時に、IgEが結合する可能性がある好塩基球以外の血液
細胞を抗CD21抗体(B細胞マーカー)および抗CD14抗体(顆粒
球・単球マーカー)で染色し、IgEが結合した好塩基球と他の細
胞集団とを区別した。
【結果】末梢白血球細胞表面上のIgE受容体、
CD21およびCD14をそれぞれ単染色した場合、IgE受容体陽性細胞
が5 %程度、CD21陽性細胞が5 %程度、CD14陽性細胞が65%程度
存在していた。これらの細胞表面マーカーと、side scatterおよび
forward scatterを組み合わせることにより、好塩基球と考えられ
るIgE受容体陽性CD21陰性CD14陰性の細胞集団は、末梢血液にお
いて約0.5%認められた。この細胞集団をセルソーターにより分離
した後、形態を解析した結果、細胞質に好塩基性の顆粒が認めら
れた。
【考察】本研究結果から、イヌ末梢血好塩基球を細胞表面マー
カーにより同定できることが示された。今後は、今回同定した好
塩基球様細胞の遺伝子発現および機能解析を行い、アレルギー疾
患評価法への可能性を検討していきたい。 イヌの血小板減少症および貧血の治療に向けたトロン
ボポエチンおよびエリスロポエチン遺伝子の作製
動物病院向け血球計数機器のサンプルサーベイに使用
する犬新鮮血材料の基礎的検討
【目的】我々が過去に実施した加工血を用いた動物病院向けサン
プルサーベイでは、いくつかの項目において加工血の特性と考え
られるアーチファクトが認められた。より正確に施設間差を把握
するためには新鮮血を用いたサーベイを行う必要があるが、犬の
新鮮血を用いたサンプルサーベイは報告されていない。そこでまず、
動物病院向け血球計算機器のサンプルサーベイに使用する犬新鮮
血試料の調整方法および保存安定性を検討した。
【方法】健常ビーグル犬3頭からそれぞれ採血し、EDTA-2Kおよ
びEDTA-2Kを添加したCPDA液にて抗凝固処理した。これらを
1mlずつ分注したものを冷蔵または室温で保存し、経時的(24、36、
48、72、96hr)に測定を行った。全ての検体は測定直前に10回の
転倒混和を行い、冷蔵保存検体は15分間室温で静置した後に測定
を行った。
【結果および考察】室温で保存したEDTA処理血では、24h経過後
より顕著に安定性が低下した。また、冷蔵保存したEDTA処理血
においても24-48hr後に安定性が低下した。一方、EDTA-CPDA処
理血は室温および冷蔵のどちらでも96hrの保存中は安定していた
が、冷蔵保存したEDTA-CPDA処理血が最も安定していた。以上
の結果より、動物病院向けサンプルサーベイに使用する新鮮血試
料の調整にはEDTA処理血よりもEDTA-CPDAを用いることが好
ましいと考えられた。
○水上圭二郎、張 慧淑、矢吹 映、大和 修(山口大院連
獣 鹿児島大学農学部獣医学科臨床病理学分野)
HS-50
犬の血清抗αクリスタリン自己抗体に対する種々の体
組織の抗原性
○印牧信行、大野智史、高橋真弓(麻布大 附属動物病院)
E家 禽
○金井一享1、伊藤吉將2、長井紀章2、伊藤直之1、近澤征史朗1、
堀 奏智1、星 史雄1、樋口誠一1(1北里大、2近畿大学 薬
学部医療薬学科)
DV
微生物
(ウイルス)
○寺門邦彦1、余戸拓也1、土田修一2、山本一郎3、根津欣典1、
原田恭治1、原 康1、新井敏郎3、多川政弘1(1日獣大 獣医
外科学教室、2日獣大 比較細胞生物学教室、3日獣大 獣医
生理化学教室)
DI
微生物
(免疫)
HS-52
DB
微生物(細菌)
HS-51
C寄生虫
【目的】アメリカン・コッカー・スパニエルでみられた抗血清α
A-およびαB-クリスタリン自己抗体に対する種々の体組織の抗原
性を調べる。【方法】アメリカン・コッカー・スパニエルでみられ
た抗血清αA-およびαB-クリスタリン自己抗体は犬水晶体から精
製したα-クリスタリンを用いたウェスタン・ブロット法で検出し
た。死体ビーグル犬から網膜、肝、脾、精巣、腎、大脳皮質、心筋、
骨格筋を得てそれぞれの組織蛋白抽出液を調製した。抗血清αAおよびαB-クリスタリン自己抗体と市販のヒトαB-クリスタリン
抗体(FL-175)と各種組織蛋白抽出液を用いたウェスタン・ブロット
法で、各種組織の抗血清αクリスタリン抗体に対する抗原性につ
いて調べた。【結果】抗血清αクリスタリン抗体は71頭のアメリカ
ン・コッカー・スパニエルで調べた。抗αAおよびαB-クリスタ
リン自己血清抗体を持つ個体は全体の7%に対して、抗αA-クリス
タリン自己血清抗体を持つ個体は全体の36%でみられた。市販の
ヒトαB-クリスタリン抗体(FL-175)に対する抗原性が網膜組織で認
められた。抗αA-クリスタリン自己血清抗体に対する抗原性はい
ずれの組織でも認められなかったが、抗αB-クリスタリンに対す
る抗原性が網膜組織でわずかに認められた。【総括】αB-クリスタ
リンが犬の網膜組織で発現し、熱ショック蛋白としての役割を網
膜で示しているかもしれない。
B病 理
【背景および目的】MDR1/ABCB1遺伝子は、細胞毒性を有する
化合物などの細胞外排出に関わるP糖蛋白をコードする遺伝子であ
る。この遺伝子の4塩基欠失がコリー関連犬種で多く認められ、変
異アレルのホモ接合体におけるイベルメクチン中毒発症に関与し
ている。従来の遺伝型検査法では、変異部位を含むPCR産物にお
ける4塩基長の相違をポリアクリルアミドゲルやアガロースゲル電
気泳動にて確認する方法が採用されていた。今回、我々はマイク
ロチップ電気泳動を用いて検査を迅速化するとともに、新たにリ
アルタイムPCRを用いた方法も開発した。また、この方法を用いて、
国内ボーダーコリーにおける病原性アレル頻度を調査した。【材料
および方法】コントロール(正常、キャリア、変異ホモ)として、
ラフコリーおよびビーグルから採取したDNAを用いた。マイクロ
チップ電気泳動には、MCE-202 MutliNA(島津)を用い、リアル
タイムPCR法にはTaqMan MGBプローブ法を採用した。さらに、
ランダムに収集された384頭の国内ボーダーコリーについて、リア
ルタイムPCR法を用いて遺伝子型を検査した。
【結果】マイクロチッ
プ電気泳動では、4塩基長の相違を明確に識別できた。リアルタイ
ムPCR法では、各遺伝子型を明確に区別することができた。また、
国内ボーダーコリーの調査では、2頭のヘテロ接合体キャリア(遺
伝子頻度0.26%)が同定された。
【考察】本研究で開発された方法
により、
遺伝子型検査が簡易迅速化した。また、国内ボーダーコリー
における本病原性アレル頻度は極めて低く、現時点では本犬種に
おける集団検査や予防措置などは特には必要ないと考えられた。
A解 剖
MDR1/ABCB1遺伝子変異のマイクロチップ電気泳動
およびリアルタイムPCRを用いた新規検査法開発なら
びに国内ボーダーコリーにおける病原性アレル頻度
特別企画
HS-49
エンドトキシン誘発ぶどう膜炎モデルにおけるジスル
フィラムの点眼効果
HL
臨床
(産業動物)
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
[目的]我々は、148回の本学会においてエンドトキシン誘発ぶど
う膜炎(EIU)モデルにおけるジスルフィラム(DSF)経口投与
の効果を報告した。DSFの経口投与は、用量依存性に炎症抑制
効果が認められ、750mg/kg DSFは、0.5mg/kg デキサメサゾン
(Dexa)と同等の効果を持つことを明らかにした。今回、我々は
2-hydroxypropyl-β-cyclodextrinを基にしたドラッグデリバリーシ
ステムによるDSF点眼液のEIUへの炎症抑制効果とその機序につ
いて検討した。 [材料と方法]ルイスラットにリポポリサッカライ
ド(LPS)を接種しEIUモデルを作出した。LPS接種1時間前、直
後、1時間後ならびに2時間後に0.125、0.25、0.5% DSF点眼液を両
眼に各々20μlの局所投与をおこなった。さらに陽性対象群として
0.05% デキサメサゾン点眼群と各DSF投与群の炎症抑制効果を比
較した。LPS投与24時間後に眼房水(n=8)を採取し、房水中の浸
潤細胞数、蛋白濃度、炎症性サイトカイン(TNF-α)と炎症関
連物質(NOとPGE2)を測定した。さらに病理組織学的検索とし
て病態スコアと虹彩毛様体の免疫組織学的検索(NF-κB、iNOS、
COX-2)を実施した。[結果] EIUにおけるDSFの局所投与は、その
用量依存的に有意に房水中の浸潤細胞数、蛋白濃度、各サイトカ
イン濃度、炎症関連物質濃度と病理組織学的評価を抑制した。ま
た、0.5% DSF投与群の炎症抑制効果は、0.05% Dexa投与群と同等
であった。さらに免疫組織学的検索におけるDSF投与は、LPS接
種後3時間の虹彩毛様体のNF-κBと24時間後のiNOSとCOX-2の発
現を抑制した。[考察]本実験において、DSF点眼液の局所投与は、
NF-κB-dependent pathwayを抑制することによってEIUを抑制し、
その後の炎症メディエターの産生を抑制することを明らかにした。
G繁 殖
【背景】ヒトの涙腺にはアクアポリン(AQP)5という水チャネルが
存在し、涙液の分泌に関与していることが知られている。ヒトで
はドライアイの症状を示すシェーグレン症候群の病態を明らかに
するために研究が行われている。しかし、イヌの涙腺中のAQP5の
発現に関する報告はされていない。また、ヒトやマウスには存在
しないが、イヌには涙液を産生するもう一つの器官である瞬膜腺
が存在するものの、こちらについても報告はされていない。
【目的】
イヌの涙腺および瞬膜腺のAQP5のmRNA発現量を調査し、比較
を行った。
【材料および方法】涙液分泌量が正常なビーグル成犬8
頭16眼のうち、涙腺は12眼、瞬膜腺は15眼を用いて、AGPC法に
よりtotalRNAを抽出した。RNA濃度はOD260nmの吸光度を用い
て算出し、得られたtotalRNAを用いてcDNAを合成した。涙腺お
よび瞬膜腺におけるAQP5のmRNA発現はリアルタイムPCR法を
用いた絶対定量解析を行った。
【結果】12眼の涙腺と15眼の瞬膜腺
でのAQP5のmRNA発現量の比較では、瞬膜腺のほうに有意に発
現量が多いことが確認された。また、涙腺と瞬膜腺の両方を採取
可能であった11眼のうち10眼で瞬膜腺のほうがAQP5のmRNA発
現量が多く、その両郡間で有意差が認められた。
【考察】イヌの
瞬膜腺にもAQP5のmRNA発現が認められたため、涙腺と同様に
AQP5が涙液分泌に関与していると考えられた。また、涙腺よりも
瞬膜腺のほうにAQP5のmRNA発現が多かったことの意義につい
ては今後の検討課題としたい。
F公衛生
イヌの涙腺および瞬膜腺におけるアクアポリン(AQP)
5のmRNA発現量の比較
HS-53
HS-54
○瀧野麻衣亜1、奥野 剛1、鳩谷晋吾1、大村 雅1、鳥居隆三2、
杉浦喜久弥1、玉田尋通1、川手憲俊1、高橋正弘1、稲葉俊夫1(1大
阪府大院 大学院生命環境科学・先端病態解析学、2滋賀医
大 動物生命科学研究センター)
○田村勝利1,2、原田恭治1、長島奈歩2、国見麻紀2、糸井崇将1、
余戸拓也1、根津欣典1、原 康1、多川政弘1(1日獣大 獣医
外科学教室、2愛甲石田動物病院(神奈川県))
サルES細胞からオリゴデンドロサイトへの簡便な分
化誘導法
【目的】本研究では、神経疾患の再生医療に向けて、既に樹立さ
れているサルES細胞を用いてオリゴデンドロサイト(OL)へ分化誘
導させる簡便な技術について検討した。
【方法】(1)サルES細胞か
ら神経幹細胞への分化誘導:カニクイザル由来ES細胞株(CM6K)を、
霊長類ES細胞培養液を用いて、マイトマイシンCで不活化したマ
ウス胎子線維芽細胞上で培養した。形成したES細胞コロニーをア
ストロサイト培養上清の入ったディッシュに移し、浮遊培養を行っ
て神経幹細胞類似の浮遊細胞塊(neurosphere)を形成させた。そ
の後、B27培養液に移して接着培養を行い、増殖した細胞について
神経幹細胞のマーカーを調べた。本細胞を、アストロサイト培養
上清で継続して培養し、幼若ニューロンおよびアストロサイトの
関連マーカーを調べた。(2)神経幹細胞からOLへの分化誘導:(1)で
得た細胞を、B27培養液にIGF-Iを添加して培養し、OLの関連マー
カーを調べた。
【結果】(1)サルES細胞から神経幹細胞マーカーで
あるnestin陽性の細胞が選択的に分化増殖した。本nestin陽性の細
胞は、アストロサイト培養上清で培養を継続することで幼若ニュー
ロンやアストロサイトのマーカーであるClass 3β-tubulin(tuj1)、
およびglial fibrillary acidic protein(GFAP)陽性を示した。(2)nestin
陽性の細胞は、IGF-I添加培地で培養することでOLのマーカーで
あるO4陽性を示した。【結論】neurosphereの形成、nestin陽性、
および神経系細胞への多分化能の確認により、サルES細胞から神
経幹細胞を簡便な方法で分化誘導できることが分かった。さらに、
培養液にIGF-Iを添加する簡便な方法でOLに分化誘導できること
が示唆された。
HS-55
高気圧療法の獣医療への応用性に関する基礎的研究
○柳澤洋喜、金井詠一、茅沼秀樹、信田卓男、菅沼常徳(麻
布大 獣医放射線学研究室)
【背景・目的】従来から実施されている高気圧酸素療法は、気圧
を約2ATA、かつ酸素濃度を100%に設定した高圧酸素チャンバー
内に生体を留置し、神経障害などの改善を目的とした治療法の一
つである。しかし、本法は高圧酸素を使用していることから、安
全性・経済性・技術面において多くの問題点が指摘されている。
一方、酸素を使用しない高気圧療法(Hyperbaric Air Therapy:
HBA)は、弱高気圧、かつ大気と同等の酸素濃度のチャンバーを使
用することから、これらの問題点を解決する方法として期待され
ている。しかし、現在の獣医臨床分野においてはHBAに関する報
告は全く見られない現状である。そこで、イヌにおけるHBAの応
用性に関する基礎的研究を行った。【材料・方法】実験には臨床上
健康とみなされたビーグル成犬3例を使用し、HBA装置は日本ライ
トサービス株式会社製オアシスO 2 ならびにテクニコ株式社製動
物用高気圧チャンバーを使用した。初めに、犬に対する適正加圧
速度・加圧値・加圧維持時間について検討した。次いで、チャンバー
内における動脈血中酸素分圧・組織酸素飽和度・組織酸素分圧の
測定を行い、加圧・減圧に伴う生体内酸素の推移について検討した。
【結果・考察】イヌに対するHBAの加圧速度は0.31ATA/min、加
圧値は1.3ATA、および加圧維持時間は45~90分間が適正であると
判断された。また、加圧にともない、血中・末梢組織の酸素分圧、
および末梢組織の酸素飽和度の上昇が認められた。以上の結果から、
HBAは獣医学領域に十分な応用性があるものと判断された。今後
は本法の適応疾患等について検討していきたいと考えている。
M.ダックスフントの胸腰部椎間板ヘルニア
(グレード5)
症例に対する自家骨髄細胞移植の臨床効果の検討
【はじめに】犬の椎間板ヘルニアグレード5の外科的治療は、1950
年代より片側椎弓切除術(Hoerlein 1952年)、背側椎弓切除術(Greene
1951年)などがおこなわれてきた。術後回復率は33(Butterworth
1991年)~76%(Anderson 1991年)であり、既存の治療方法で
の臨床的回復率には限界がある。今回、我々は、犬の胸腰部椎間
板ヘルニアグレード5の新たな治療方法として、片側椎弓切除術後
に自家骨髄細胞の移植術を実施したところ良好な成績を得たので
報告する。【症例】胸腰部椎間板ヘルニアグレード5と診断された
M.ダックスフント16症例を対象とした。【方法】全身麻酔下で上腕
骨より骨髄液を採取後、比重液を用いて赤血球を遠心分離し有核
細胞群を移植用骨髄細胞とした。すべての症例に片側椎弓切除術
を実施し、逸脱椎間板物質を除去後に病変部周囲の脊髄くも膜下
腔に骨髄細胞の移植をおこなった。
【結果】16症例中14症例(87.5%)
で歩行回復およびSEPの回復、1症例(6.2%)で随意運動の回復を
認めた。歩行が改善した14症例の歩行回復日数は20.14日であった。
同施設における非細胞移植群(n=46)の術後歩行回復率は56.5%であ
り、その平均歩行回復日数29.46日であった。【考察】骨髄中に存在
するマクロファージ、リンパ球、間質細胞、間葉系幹細胞などは
軸策の再生や神経保護等に効果を示すことが報告されている。骨
髄細胞移植後の歩行回復率、歩行回復日数は、非細胞投与群に比
較して良好な成績が得られたため、移植した骨髄細胞が、損傷し
た脊髄の回復を補助した可能性が示唆された。
HS-56
硬膜外鎮痛が肝血流量に与える影響について犬を用い
た検討
○中森正也、井芹俊恵、狩野宏太、藤本由香(大阪府大 高
度医療学講座)
【背景と目的】
手術中の肝血流量を一定以上に維持する麻酔は、肝機能を保護し、
麻酔のリスクを減少させる上で重要である。局所麻酔薬を用いた
硬膜外鎮痛は知覚神経の神経伝達を遮断する鎮痛法であり、同時
に交感神経の神経伝達を遮断することで遮断領域の血管を拡張さ
せ、血液量を増加させると考えられる。そこで、本研究では肝臓
の支配領域を遮断するとされる第2‐3 腰椎(L2‐3)間からの硬
膜外鎮痛を実施し、肝血流量に与える影響について検討した。
【材料と方法】
健常雌ビーグル犬6 頭(平均体重11 kg,平均年齢1.6 歳)を用いた。
供試犬はプロポフォールとベクロニウムによる全静脈麻酔下でL2
‐3 間から硬膜外カテーテルを留置し、クロスオーバー法を用いて
硬膜外腔に生理食塩水を投与した群(C群)と2%塩酸リドカイン
を投与した群(L群)に分類した。全身循環動態への影響は硬膜外
投与前(pre)と、投与以降10 分毎に110 分まで評価した。肝血流
量への影響は有効肝血流量を反映するインドシアニングリーン試
験を用いて評価した。
【結果】
C群ではpreと比較して、すべての測定項目において経時的な変化
は認められなかった。L群ではpreと比較して、動脈血圧と体血管
抵抗が有意に減少したが、動脈血圧の平均値は正常範囲内であっ
た。また、L群ではC群と比較して有効肝血流量が有意に上昇したが、
心拍数や心拍出係数に変化は認められなかった。
【考察】
硬膜外腔に投与されたリドカインにより末梢血管が拡張して血圧
が低下したが、心拍数や心拍出係数が保たれ、肝臓では交感神経
遮断による血液量の増加がおこり、肝血流量が増加したと考えら
れた。
○張 迪 、長濱正太郎 、藤田直己 、鎌田正利 、柿島 圭 、
1 1
2
東大院 農・高度医療、
東大 動物医療センター)
西村亮平(
1
2
1
1
1
bFGFを結合したテーラーメイド人工骨移植による犬の
大きな骨欠損の治療
○崔 成眞1、井川和代2、劉 以立1、本阿彌宗紀1、鈴木茂樹3、
望月 学1、西村亮平1、鄭 雄一2、佐々木伸雄1(1東大院
獣医外科研究室、2東大院 工学系研究科 バイオエンジニ
アリング、3(株)NEXT21)
【目的】bFGF結合及び非結合テーラーメイド人工骨による犬の大
型骨欠損に対する長期の効果を検討する。
【方法】イソフルラン麻酔下でビーグル犬の頭蓋骨に直径20mmの
骨欠損部を作製した。術後はフェンタニルによる鎮痛処置を行った。
また事前にCT像を基に欠損部と同形状のテーラーメイド人工骨を
作製した。実験群は、欠損部に人工骨を用いないコントロール群、
bFGF非結合人工骨移植群(TI群)、および200μgbFGF結合人工骨
移植群(fTI群)の3群で各群3頭を用いた。移植後1-2ヵ月毎にCT撮
影を行うとともに、2ヵ月、6ヵ月、12ヵ月の時点でそれぞれテト
ラサイクリン、カルセイン、アリザリン・コンプレクソンによる
蛍光染色を行った。12ヵ月後に安楽死し、組織を採取してマイク
ロCTおよび蛍光染色による組織学的評価を行った。
【結果】CT画像では骨形成がfTI群でTI群より多く、また画像を
基にした人工骨の体積が有意に大きかったことから、より多くの
骨形成の生じたことが示唆された。12ヵ月後の組織所見をみると、
コントロール群では骨欠損部に明らかな新生骨はなかった。一方、
TI群とfTI群では、人工骨はその形態を維持していたが、その一部
は新生骨に置換されていた。さらに、新生骨量はTI群よりfTI群で
有意に多かった(p<0.05)。蛍光染色の結果、これらの新生骨のほ
とんどは、移植後1-2ヵ月の間に形成されていたことが確認された。
【総括】骨欠損部に対するテーラーメイド人工骨の移植により良
好な骨形成効果が認められ、特に、fTI群ではより多くの骨形成
が認められたことから移植の比較的早期に人工骨より放出された
bFGFが骨形成効果を示したことが推測された。
E家 禽
F公衛生
犬の再発性汎軟骨炎の診断に寄与する抗体価測定方法
の開発
HL
臨床
(産業動物)
臨床
(小動物)
HS HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
【目的】再発性汎軟骨炎(以下RP)は、ヒトにおいては全身の軟
骨組織、特に耳介・鼻・気道・関節・眼などに両側性または全身
性の慢性・再発性軟骨炎を生じる自己免疫性疾患である。犬や猫
におけるRPは主に両側性の耳介軟骨の障害と炎症を特徴とする
が、報告数が少なく、また診断は主に耳介軟骨の病理生検によっ
て行われるが飼い主の協力が得られにくいことなどから確定診断
に至らない。第148回本学会にて、犬のRP症例の報告とその症例
の循環自己抗体の標的抗原がII型コラーゲンであることを明らか
にした。本研究では、精製した抗原を使用して犬RPの自己抗体価
を測定する方法の開発を目的とした。【方法】RPと診断された犬と、
耳血腫と診断された犬、健康犬からそれぞれ採取した血清を用いた。
抗体価の測定にはドットブロット法を用いた。抗原として犬II型コ
ラーゲンを使用した。得られたブロットの濃度をScionImageを用
いて数値化し、RP群とコントロール群、RP群と耳血腫群、耳血腫
群とコントロール群において比較を行った。【結果】ドットブロッ
ト法で抗体価の比較を行ったところ、コラーゲンをコートしたウェ
ルのみで比較を行うと一部のコントロール群や耳血腫群でも高い
抗体価が認められた。そこで、コラーゲンコートを行わないウェ
ルを同時に測定し、コラーゲンをコートしたウェルのデータから
差し引いた。その結果、コントロール群と耳血腫群でも抗体価が
低下するとともに、相対的にRP群の抗体価が高い値としてみられ
た。また、耳血腫群はコントロール群と有意差がなく、一方、RP
群の抗体価はコントロール群と耳血腫群に対して有意に高い値を
示した。【総括】本研究で用いたドットブロット法はRPの診断に
寄与する方法であると示唆された。
G繁 殖
【はじめに】BMP-2が骨前駆細胞に作用して骨再生を促進するこ
とが認められているが、犬の骨髄培養細胞とBMP-2を同時に移植し、
その相乗効果を評価した報告は少ない。【目的】ビーグル犬尺骨骨
欠損モデルに、BMSCs(骨髄間質細胞)とBMP-2を生体吸収性人工
骨 β-tricalcium phosphate(β-TCP)に播種移植し、骨再生の過程
を経時的に評価すること。【材料および方法】健常ビーグル犬11頭 (
性別 ; 雌、平均年齢 ; 12.8ヶ月齢、平均体重 ; 9.7kg ) の尺骨骨幹部
に25mm長の骨欠損を作製し、BMSCs(細胞数)とBMP-2(投与量)お
よびβ-TCP(重量)複合体を移植した。また、コントロールとして
BMSCsを移植していない動物モデルを作製し、比較に用いた。術
後毎週単純X線検査を行い、新生骨の幅を計測した。また術後4 ,8
,12週目にCT検査を行い、再生骨の断面積とCT値を測定し、得ら
れたCT値から骨密度を算出した。実験期間終了後は、移植部を採
取し組織学的検査を行った。【結果】BMSCs移植郡は、コントロー
ルに比較して骨幅、断面積、骨密度ともに有意に高い値を示した。
組織学的検査では、移植部再生骨の骨梁構造は母床骨と類似した
構造を示した。
【考察】BMSCsを移植することで、BMP-2単独よ
りも骨形成が促進されたことから、低用量のBMPでもBMSCsを同
時に移植することで、十分な骨形成を誘導できる可能性が示唆さ
れた。
DV
微生物
(ウイルス)
○百田 豊1、柿崎 萌1、神志那弘明2、片山泰章3、谷 健二4、
渋谷葉菜1、高崎麻理子1、三木陽平1、佐伯香織1、小田民美1、
呰上大吾1、石岡克己1、左向敏紀1、中村 悟5(1日獣大 獣
医保健看護 臨床部門、2岩手大 小動物内科学研究室、3岩手
大 小動物外科学研究室、4山口大 獣医外科学教室、5七里
動物病院)
DI
微生物
(免疫)
○糸井崇将1、原田恭治1、入江洋之2、坂本美知子3、田村勝利1、
添田 聡4、原 康1、根津欣典1、余戸拓也1、尼崎 肇4、
多川政弘1(1日獣大 獣医外科学教室、2株式会社オステオ
ファーマ、3HOYA株式会社 ニューセラミックス事業部開
発部、4日獣大 獣医解剖学教室)
DB
微生物(細菌)
HS-60
BMP-2と骨髄由来間質細胞を用いた犬の骨再生に関す
る研究
C寄生虫
HS-59
B病 理
To investigate the safety and feasibility of two lumbar epidural
catheter indwelling techniques, 13 beagles were randomly
assigned to a caudal lumbar vertebra group (group CauL, n=6)
or a cranial lumbar vertebra group (group CraL, n=6) depending
on epidural catheter indwelling placements. The rest one was
used as a control. Anesthesia was induced and maintained
with isoflurane. An epidural catheter was introduced at the
lumbosacral junction, and between 1st and 2nd or 2nd and 3rd
lumbar vertebra in group CauL and group CraL, respectively,
then advanced 10 cm cranially in both groups following by saline
injection. Dogs were euthanized, and catheter tip location was
confirmed. Success rate, time consumed, and catheter position
were recorded. Histological evaluation of spinal cord around the
catheter inserted was performed by macro- and microscopical
observations. In each treated dog, epidural catheter was inserted
into the epidural space successfully. Time consumed in epidural
needle puncture, epidural catheter indwelling was 74.3 ± 18.6
(mean ± SD), 90.0 ± 43.6 sec and 57.3 ± 20.1, 44.3 ± 11.1 sec
in group CauL and group CraL, respectively. No significant
histopathological changes were detected in spinal cord in both
groups. These results may indicate that epidural catheter
indwelling from cranial lumbar vertebrae is feasible and safe as
well as from caudal lumbar vertebrae at least in medium-sized
dogs.
HS-58
A解 剖
The comparison of safety and feasibility of two
lumbar epidural catheter indwelling techniques in
dogs
特別企画
HS-57
HS-61
犬培養滑膜細胞に対するテポキサリンのアポトーシス
誘導作用と細胞内シグナル伝達系への関与
○須永隆文、細谷謙次、高木 哲、奥村正裕(北大 獣医学
研究科獣医外科学教室)
【背景】テポキサリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)/リポキシ
ゲナーゼ(LOX)共阻害薬であり、犬の変形性関節症(OA)に
広く用いられている。これまでにCOX-2選択性が比較的高い非ス
テロイド性抗炎症薬と比較して、テポキサリンは犬培養滑膜細胞
に対してアポトーシスを誘導することを示してきた。しかし、テ
ポキサリンがどのように作用してアポトーシスを誘導するかはよ
くわかっていない。今回、テポキサリンの培養滑膜細胞に対する
アポトーシス誘導に関与する細胞内機構について検討した。【材料
と方法】OAを罹患した犬の膝関節から採取した滑膜組織をコラ
ゲナーゼによって処理し、滑膜細胞を分離して単層培養した。得
られた細胞に1~100μMのテポキサリンを添加し、24時間作用さ
せたのちMTTアッセイ法およびAnnexin-Vを用いた細胞質の蛍
光染色法で培養滑膜細胞の細胞活性およびアポトーシスを評価し
た。また、アポトーシスの発現が認められたテポキサリン濃度に
おける培養滑膜細胞のJNK、P38およびAktのリン酸化をウエスタ
ンブロッティング法により評価した。【結果と考察】テポキサリン
は、培養滑膜細胞に対してアポトーシスを誘導した。このときの
培養滑膜細胞内のJNKおよびP38は活性化される傾向があり、一方、
Aktのリン性化抑制は認められなかった。これらのことから、テ
ポキサリンはJNKおよびP38の活性化に関与してアポトーシスを誘
導している可能性があるが、一方、Aktを介した細胞活性の制御
には関与していないかもしれない。
HS-63
イヌの前十字靭帯切断モデルにおける動的安定化装置
の張力変化に関する検討(in vitro)
○神野信夫、網本宏和、一戸登夢、林 佑将、原 康、原田恭治、
根津欣典、余戸拓也、多川政弘(日獣大 獣医外科学教室)
【背景】小動物整形外科領域において、前十字靭帯断裂はイヌの
後肢跛行の原因として最も一般的な疾患の一つである。膝関節は
骨性構造のみでは非常に不安定であるため、十字靭帯に代表され
る静的安定化装置、および関節周囲筋群よりなる動的安定化装置
により安定性を得ている。膝関節の前方安定性には前十字靭帯が
果たす役割は大きい事が認識されているが、その走行から坐骨下
腿筋群も副次的にこの安定性に関与していると推察される。静的
安定化装置の膝関節安定性への役割に関しては様々な報告が存在
するものの、動的安定化装置に関する膝関節への安定性の検討は
ほとんど存在しない。【目的】前十字靭帯切断による関節周囲筋
群の張力変化を検討すること。【供試動物と方法】健常ビーグル成
犬7頭(性別:雄3頭・雌4頭、平均年齢:65.3ヵ月齢、平均体重:10.0kg、
平均TPA:31.2°)より採取された左側後肢を用いた。得られた検
体に大腿四頭筋群、坐骨下腿筋群、腓腹筋を模したワイヤを設置
し、任意の張力を与え検体を起立させ、その張力を計測した。張
力はIntact、前十字靭帯切断(ACLT)、坐骨下腿筋群の張力解放
(Released)、坐骨下腿筋群の再引張(Readjusted)の4項目で計測さ
れた。得られた数値は床反力との比により平均化された。【結果】
ACLTの坐骨下腿筋群の張力は、intactと比較して有意に高値を示
した。ReleasedおよびReadjustedの脛骨前方変位量はACLTと比
較して有意に増加した。脛骨の回旋変位量に関して、ACLTと比
較してReleasedおよびReadjustedでは有意に内旋を呈した。
【考察】
坐骨下腿筋群は、前十字靭帯の機能の一部を代償していると考え
られた。
HS-62
犬猫における四肢の荷重分布の比較
○村上功成1、草場宏之1、松井英享2、金谷友広1、永岡勝好1(1み
なとよこはま動物病院 なし、2株式会社クリックス)
【目的】
犬や猫は四足荷重動物であり、運動器疾患を有する患肢の荷重が
減少する事は周知の事実である。したがって、日常診療において
荷重分布の推移を知ることは正確な診断の一助となる。
従来は、荷重分布の簡便で客観的な評価法が少なく、獣医師の経
験や技量によって評価に差が生じた。今回、分散型荷重計を用い
て犬猫における荷重分布の測定、比較を行い、興味深い結果が得
られたので報告する。
【方法】
来院した犬猫を対象とし、分散型荷重計「バランスウェイト」(ク
リックス)を用いて起立静止時の荷重分布を測定した。
運動器疾患の無い犬猫の荷重分布の平均値を求め、犬と猫との比較、
及び犬種別比較を行った。また、運動器疾患を有する犬を抽出し、
荷重分布の変動を正常犬と比較した。
【結果】
犬の荷重分布率の平均は前肢が62%、後肢が38%であり、猫では
それぞれ46%、54%であった。犬種別比較では、前肢荷重率が最
も大きい犬種はフレンチブルドッグで67%、最も小さい犬種はト
イプードルで50%であった。前肢荷重率は、前肢に疾患を有する
犬では57%に減少し、後肢に疾患を有する犬では65%に増加した。
また、四肢のいずれか一肢を挙上している動物では、重心の対角
の肢に荷重が移動する傾向が認められた。
【総括】
犬と猫の運動能力を比べると、犬は前方への推進能力に優れ、猫
は跳躍能力に優れている。犬は前方へ進むために重心が前肢寄りで、
猫は跳躍のために重心が後肢寄りにあると考えられる。また、骨
格の違いや運動器疾患の有無によって荷重分布は変化し、適応す
ることが示唆された。
荷重分布は運動器疾患の診断における客観的評価の一つとして有
用であり、今後、更なる荷重分布データの蓄積と疾患別比較の検
討が望まれる。
Fly UP