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理科を中心に広がる 中学校でのメディア利用

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理科を中心に広がる 中学校でのメディア利用
理科を中心に広がる
中学校でのメディア利用
~2015年度「NHK中学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~
メディア研究部
宇治橋祐之
NHK 放送文化研究所では,全国の学校現場におけるメディア環境の現状を把握するとともに,放送・ウェブ・
イベントなど NHK 教育サービス利用の全体像を調べる調査を定期的に実施している。1950 年から2012 年までは
学校を単位とする「学校放送利用状況調査」を実施してきたが,2013 年度からは,調査対象を「学校」から「教
師個人」に変更し,各クラス(教師)単位でのメディア環境や利用の実態,さらに教師のメディア観や教育観を調
べる新たな調査を開始した。2013 年度と2014 年度は小学校教師個人(1 ~ 6 年生の担任)を対象として行った。
2015 年度は対象を幼稚園と中学校として,中学校については,これまでの調査結果から授業でのメディア利用
が多いと考えられる理科と社会科の教師を対象に調査を実施した。
中学校の理科や社会科の授業ではテレビ受像機やプロジェクター,パソコンが日常的に利用できるようになり,
電子黒板や指導者用デジタル教科書,そしてタブレット端末などの新しいメディアの導入も進んできている。こうし
たメディアの利用は,理科・社会科教師とも年代差や性差はみられなかった。
また,こうした機器に提示されるメディア教材として,NHK for School(「NHKテレビ学校放送番組」とインター
ネットのコンテンツ「NHKデジタル教材」)の利用が,理科教師では半数以上,社会科教師では 3 分の1 強で,こ
こでも年代差や性差はみられなかった。
一方,デジタル機器やサービスに対する教師の意識をみてみると,デジタル機器やサービスに対して積極的な態
度をとる教師のほうが,メディアを利用した授業をする傾向がみられた。
全体として,中学校の理科・社会科教師は教科の特性や学校の環境に合わせてメディア機器やメディア教材を
選択し,今後の時代を見据えて日々の授業を行っている。
〈 目次〉
3. NHK for School の利用
はじめに:調査の背景
1. 教師をとりまくメディア環境と教育課題
(1)教師の基本プロフィール
(2)仕事・授業外での利用機器
2. 授業における教師のメディア利用
(1)授業で利用できるメディア環境と
教師の利用頻度
(1)教師の属性別にみた
NHK for School の利用
(2)NHK for School の認知・利用経験の状況
(3)NHK for School の利用のきっかけ
(4)NHK 教育サービスの利用
4. 教師の意識でみるメディア利用の傾向
(1)教育関連情報の入手手段
(2)授業で生徒に利用させているメディア機器
(2)デジタル機器やサービスに対する意識
(3)メディア教材の利用頻度
(3)教師の授業方法に対する意識
(4)メディア教材の効果
5. 今後求められる教育サービス
おわりに
50
JUNE 2016
2015 年度は対象を幼稚園と中学校として,中
はじめに: 調査の背景
学校については,これまでの調査結果から授
NHK では,公共放送の重要な使命のひと
業でのメディア利用が多いと考えられる理科と
つとして,ラジオの時代からテレビ,そしてイ
社会科の教師を,幼稚園については,園の代
ンターネットが普及している現在にいたるまで,
表者と若手保育者をその対象とした。本稿で
全国の学校や幼稚園,保育所に向けて,学校
は中学校教師調査の結果を報告する。
放送番組を中心とする教育サービスを提供して
近年の学 校現場では,教師が電子黒 板な
どの大型提示機器にインターネットで静止画や
いる。
NHK 放送文化研究所では,こうした学校向
動画などのさまざまなコンテンツを提示したり,
け教育サービス全体を検討する基礎資料とす
パソコンやタブレット端末などを児童・生徒 1
る目的と,学校現場でのメディア利用の状況を
人 1人が活用したりする姿が各地で見られるよ
伝える目的で,1950(昭和 25)年から2012(平
うになってきている。こうした学校現場の実情
成 24)年まで 60 年余,継続的に「学校放送利
を明らかにするために,2015(平成 27)年度の
用状況調査」を実施してきた。この調査では,
中学校教師を対象とする調査は表 1 の要領で
放送関連機器をはじめとする各種メディアの学
実施した。
校への普及状況や教室のメディア環境整備状
況,学校放送番組及び各種メディア教材の利
用実態,学校放送全般あるいは新しいメディ
アや教育動向に関する学校の関心や意向を調
べて,新たな時代の教育サービスの検討に向
表 1 2015 年度調査の概要
調査実施期間:2015( 平成 27 )年 10 月 1 日( 木 )~
12 月 24 日( 木 )
1)
けて提言を続けてきた 。
しかし,特に1990 年代以降,パソコンをは
調 査 対 象:全国の中学校(休校を除く 1万 427 校)
から系統抽出した 745 校の理科担当
じめ教室にさまざまなメディア機器が導入され,
教師 745 名,社会科担当教師 745 名
【 学 校 の 抽 出 は 『 全 国 学 校 総 覧
授業で利用できるメディア教材も多種多様にな
2015 年版』
(原書房刊)を用いて実施】
る中,教師によって,利用するメディア機器や
教材の種類や使い方も,多様かつ複雑になり
調 査 方 法:学校長あての調査協力依頼,無記名
回答。郵送法で督促 2 回。
始める状況が顕著になっている。
基本的に 2 年生を担当している教師
そこで調査対象を「学校」から「教師個人」
の回答を依頼した。
に変更し,各教師(クラス)単位でのメディア環
境や利用の実態,教師のメディア観や教育観を
標本数
有効
回答数
有効
回答率
(%)
理科
担当教師
745
534
72
社会科
担当教師
745
537
72
調べ,デジタル化の進展等によって変容する教
育現場の実態とニーズの詳細な把握を図る調査
を新規に実施することとした。
2013 年度と2014 年度は小学校教師個人(1
2)
~ 6 年生の担任)を対象として調査を実施 ,
JUNE 2016
51
に回答を依頼した 3)。
1. 教師をとりまく
メディア環境と教育課題
( 2 )仕事・授業外での利用機器
( 1 )教師の基本プロフィール
教師の日常生活でのメディア利用の状況を
表 2 に示す。パソコンは理科・社会科とも,
今回の調査の回答者である教師の性・年代
分布は図 1 に示すとおりである。理科・社会科
男女,年代にかかわらず 9 割程度の教師が日
とも男女比は,男性が 8 割程度,女性が 2 割
常生活で利用しており,一般的な社会人より
程度で年代差はなかった。また,今回の調査
も多い 4)。
では原則として中学 2 年生を担当している教師
理科・社会科教師とも携帯電話の利用は4
割程度,スマートフォンの利
用は 6 〜7 割で全体としてス
図 1 教科別にみた教師の性・年代分布
理科
(n=534)
20代
30代
40代
50代
20代
19%
19
16
21
7
男性75
社会
(n=537)
17
18
6
5
タブレット端末
(iPad)など
パソコン
携帯デジタルプレーヤー
(iPod など)
電子書籍リーダー
ブルーレイディスク
レコーダー
携帯電話やカーナビ
などのワンセグ放送
無回答
1
性 別
男性
女性
1
42
44
35
(%)
32
36
45
52
57
54
31
31
93
90
6
10
3
3
45
39
33
26
1
5
47
40
27
26
96
89
11
9
8
5
48
34
28
25
1
4
理科
68
66
71
82
84
61
59
71
88
69
理科
30
32
24
31
30
社会
30
29
33
34
30
理科
93
93
94
94
90
社会
90
89
90
90
88
理科
18
14
26
34
16
社会
16
15
19
31
16
理科
4
3
5
1
3
4
26
29
19
22
3
3
社会
4
4
2
理科
38
38
40
社会
38
39
33
理科
28
30
23
社会
26
26
25
理科
1
1
2
社会
4
3
7
2
34
51
34
32
1
4
注:■にゴシックは全体に比べて有意に高い層であることを,■にイタリックは低い層であること
を示している(95%水準)。
52
JUNE 2016
高く,50 代ではスマートフォ
る率が高い。また,携帯デ
年 代 別
30 代
40 代
社会
40 代では携帯電話よりスマー
ンより携帯電話を利用してい
20 代
50 代
理科 (n=534)(n=399)(n=131)(n=140)(n=134)(n=114)(n=141)
社会 (n=537)(n=435) (n=97) (n=122)(n=111)(n=147)(n=151)
50
53
理科
38
41
31
25
28
社会
れ,理科・社会科とも20 ~
トフォンを利用している率が
女性18
表 2 教師のふだんの利用機器(仕事・授業外)
スマートフォン
5
6 2 6 4
24
男性81
携帯電話
ただし,年代による差がみら
40代
女性25
22
全体
マートフォンの利用が 多い。
無回答
30代 50代
ジタルプレーヤーの利用は
20 代 で 多く40 ~ 50 代 で少
ない。
ブルーレイディスクレコー
ダーの利用は理科・社会科と
も全体で4 割弱であるが,20
代で少なく,理科 50 代,社
会科30 代で多い。授業の参
考になる放送番組を録画する
目的での利用もあると考えら
れる。理科 50 代は電子書籍
リーダーの利用もやや多く,
他の年代に比べて利用機器
が特徴的である。
タブレット端末の利用は,
理科・社会科とも3 割程度で,
性差,年代差はみられず,多様な層が日常生活
ソコン」,
「インターネット」の「利用環境あり」と
で利用している様子がうかがえる。
答えた教師は 8 ~ 9 割で,パソコンでインター
ネットを利用できる環境も整ってきている。新
しいメディア機器である「電子黒板」は 6 割,
「タ
2. 授業における教師のメディア利用
ブレット端末」も4 割の教師が「利用環境あり」
としている。
ここからは,理科・社会科の教師が担当して
しかし,実際に授業で利用した「利用あり」
いる授業で,どのようなメディア機器を利用でき
るかなどのメディア環境をみた上で,どのようなメ
をみると,
「パソコン」は理科が 81%,社会科が
ディア教材を使っているのか,メディア教材にど
70%とよく利用されていたが,他のメディアにつ
のような効果があると考えているのかをみていく。
いては「機器はあるが利用していない」教師が 2
まず,理科・社会科を担当している教師がそ
~ 5 割近くいて,授業であまり利用されていな
れぞれどこで授業をしているかをみる。図 2 は
いメディアがあることもわかった。
理科・社会科それぞれを担当している教師が,
教科別でみると理科教師のほうが社会科教師
授業をしている場所の割合を回答したものの平
よりメディアの利用が多い。特に,
「実物投影機」
均である。理科教師は教室より理科室を利用
と「デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ」の利
していることが多く,社会科教師はほとんどの
用は理科教師で多かった。実験や観察に使う
授業を教室で行っている。なお,理科教師の
実物を「実物投影機」や「デジタルカメラ・デジ
30% は授業の 8 割以上を理科室で行っていると
タルビデオカメラ」で拡大提示することで,わか
5)
りやすく生徒に伝えようとしていると考えられる。
回答した 。
全体としてはイラストに示したように,理科
図 2 教科別にみた主に授業をしている場所
理科
教室
理科室
42%
57
(n=534)
0
教室
室を中心に,普通教室でも「プロジェクター」
その他
や「テレビ受像機」などに「パソコン」を接続し,
「インターネット」を利用できる環境は整ってき
視聴覚室 その他
社会
ているといえる。
94
(n=537)
3
3
( 1 )授業で利用できるメディア環境と
教師の利用頻度
次ページの図
3 は「テレビ受像機」
や「パソコ
20代
30代
40代
50代
ン」など 9 種類のメディアの,授業での利用頻
18.9%
18.9
15.9
21.0
度である。理科・社会科とも「プロジェクター」,
男性74.7
「テレビ受像機」,
「録画再生機」の「利用環境
16.8
18.2
21.6
24.4
あり」と答えた教師は 7 ~ 9 割で,大型画面で
男性74.7
映像を提示する環境は整っている。また,
「パ
30代 50代
20代
40代
7.3 6.2 5.4 5.4 0.9
女性24.5
2.4
6.0
5.8 3.7 1.1
女性24.5 大型画面とパソコンのある理科室
JUNE 2016
53
図 3 授業におけるメディア利用頻度
理科(n=534)
社会(n=537)
週に3∼4回
程度
ほとんど毎日
週に1∼2回
程度
テレビ受像機
理科
6% 4
社会
11
録画再生機
9
16
3
担任クラスの 無回答
授業に利用できる
該当機器がない
機器はあるが
利用していない
月に1∼3回
年に数回
程度
7
21
9
19
20
20
25
6
16
注1
利用 利用環境
あり
あり
55%
74%
50
75
60
80
56
83
56
90
44
85
25
56
23
56
62
84
28
71
3 3
81
94
8
70
89
63
82
55
79
27
44
25
46
57
88
32
81
9
注2
理科
12 6
社会
12 4
19
32
15
35
21
13
26
9
7
9
プロジェクター
電子黒板
理科
8
5
社会
9
2 3
7
9
27
7
34
22
5
40
5
5
11
注3
理科
7
2 4
社会
7
22 3
4
8
31
9
37
33
7
32
12
実物投影機(OHC,教材提示装置,書画カメラなど)
理科
6
社会
6 12 5
理科
14
5
8
15
27
14
22
43
11
5
16
13
パソコン
社会
6
16
13
5
7
22
27
11
13
30
19
3
注4
インターネット
理科
3 4
社会
4 3
9
8
17
29
11
19
29
24
14
4
13
9
タブレット端末
理科
社会
22 4
5 13
6
4
12
11
17
49
21
7
42
13
デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ
理科
11 4
社会
12
1
14
7
38
21
31
49
6
6
13
7
注1 グラフ右の「利用あり」は,
「ほとんど毎日」から「年に数回」までの合計。「利用環境あり」は,
「ほとんど毎日」から「機器はあるが利用
していない」まで含めた合計の数値である。
注2 「録画再生機」は,VTRやDVDレコーダー,DVD機能とハードディスクを内蔵している録画機,ブルーレイディスクレコーダーなどを含む。
注3 「電子黒板」は,電子情報ボードやインタラクティブホワイトボードなど,書き込みやタッチしての操作ができる大画面のものも含む。
注4 「インターネット」は,パソコン,携帯電話,スマートフォンなど機器の種類は問わない。
54
JUNE 2016
しかし,インターネットの接続環境は必ずし
も十分ではないことが今回の調査で明らかに
なった(図 4)。インターネット接続ができる環
図 5 授業で生徒に利用させているメディア
(複数回答)
19%
23
A. パソコン
境にある教師に,動画視聴環境について尋ね
たところ,理科・社会科とも「問題なく動画を
視聴できる」は4 割程度,
「時々動画をスムーズ
8
9
B. 電子黒板
に視聴できないことがある」も4 割程度で,安
定した状態でインターネット経由の動画が見ら
C. デジタルカメラ・
デジタルビデオカメラ
れる環境が整っているとはいえない。
10
5
図 4 インターネット接続がある場合の動画視聴環境
(100%=インターネット利用可能教師)
問題なく動画を
動画をスムーズに
視聴できる
視聴できないことが多い
時々動画をスムーズに
不明
視聴できないことがある
理科
(n=437)
社会
(n=421)
43%
37
40
39
13 5
17
理科
D. タブレット端末
10
9
(n=534)
社会
(n=537)
A∼Dまでの
いずれかで
生徒使用あり
30
33
8
メディア機器を利用している場合もあると考え
られるが,理科・社会科でみると,あまり生徒
( 2 )授業で生徒に利用させている
メディア機器
次に,生徒にどの程度メディア機器を利用さ
に積極的にメディア機器を利用させているとは
いえない。図には示していないが,特に 20 〜
30 代の教師にその傾向が強かった。
せているかをみてみる。調査では,図 5 にあげ
なお,授業で生徒にタブレット端末を利用さ
た A ~ D の 4つについて,利用の有無を調べ
せている教師のクラスで,生徒が利用できるタ
た。A ~ Dまでのいずれかで生徒が利用して
ブレット端末の平均台数は,母数が少ないの
いると回答した教師は理科・社会科とも3 割程
で参考値となるが,理科14台(n=52),社会
度であった。2014 年度「NHK 小学校教師のメ
科21台(n=49)で,配備されている場合には生
ディア利用と意識に関する調査」では,同じ質
徒 2 ~ 3人で1台を利用できる環境であった。
問に対して小学校教師の 64% が児童にメディア
機器を利用させていると回答,低学年より高学
年になるほど利用の割合が高くなり,高学年で
は 85%に達していた。
中学校には理科・社会科以外に英語,数学,
( 3 )メディア教材の利用頻度
ここまでみてきたようなメディア環境のある
理科室や教室で,教師はどのようなメディア教
材をどの程度利用しているのであろうか。放送
国語などの教科があり,特に技術・家庭科では
番組やDVD 教材,インターネット上のコンテン
コンピューターを扱うので,他の教科で生徒が
ツなど,図 6 に示した 9 種類のメディア教材の利
JUNE 2016
55
図 6 メディア教材の利用頻度
週に3回以上
月に1∼3回
程度
利用頻度
無回答
週に1∼2回
程度
A. NHK学校放送番組
理科 (n=534)1 5%
年に数回
程度
14
社会 (n=537) 2 4
10
9
0
B.「A」以外のNHKの放送番組
理科 (n=534)1 5
0
C. NHK以外の放送番組
社会 (n=537) 11 5
F. 指導者用のデジタル教科書
理科 (n=534) 1
社会 (n=537)
8
10
5
6
2 4
I. あなたや他の先生が
作成した教材(自作教材)
A.NHK学校放送番組と
D.NHKデジタル教材の
いずれかでも利用
【NHK for School利用】
社会 (n=537)
7
5
0
4
10
社会 (n=537) 4
7
28
0
16
11
0
23
1
26
10
7
27
17
11
理科 (n=534) 3
JUNE 2016
5
42
0
13
社会 (n=537) 1 3
0
20
12
8
理科 (n=534) 1 3
理科 (n=534) 2
21
2
4 1
5
5
37
4
14
社会 (n=537) 1 2 3
H. 市販のビデオ教材や
DVD教材
6
5
理科 (n=534) 1 2
G. 「F」以外の
パソコン用教材
21
0
14
7
社会 (n=537) 3
理科 (n=534)
22
12
6
27
0
15
5
30
0
16
社会 (n=537) 2 4
E.「D」以外のインターネット上の
コンテンツや動画,静止画
56
理科 (n=534) 2 4
理科 (n=534) 2
D. NHKデジタル教材
30
0
21
0
45%
8
5
24
社会 (n=537)1 5
利用あり
18
16
13
7
41
1
35
1
17
9
41
1
25
8
40
7
11
55
35
年代でみる教師のメディア利用
教師のメディア機器やメディア教材の利用については,全体として年代差はあまりなかったが,理科・
社会科とも 20 代の若手教師と,50 代のベテラン教師を比べると特徴的な違いがいくつかあった。
20 代教師は,日常生活でのスマートフォンや携帯デジタルプレーヤーの利用や,授業でのタブレット
端末利用が多く,新しいメディアをよく使っている。
それに対して 50 代教師は,録画再生機の利用が多く,学校放送番組以外の NHK の放送番組もよ
く利用している。また 20 代教師よりも生徒にメディアをよく利用させているのも特徴的である。
スマートフォンやタブ
レットを活用して,イ
ンターネットの教材を
活用しています。
ふだ んから 教 材 探し
をしていて,長年録り
ためた DVD を授業で
よく使います。
用状況をみてみると,全体として理科教師のほ
利用頻度は「年に数回程度」が多く,映像を利
うが社会科教師より利用が多かった。図 3 で示
用するのが効果的と考えられる単元に絞って利
した理科教師のほうがメディア機器の利用が多
用していると考えられる。それに対して「F. 指
かった結果とも一致している。
導者用のデジタル教科書」6)は,利用は理科で3
理科で利用が多いのは,
「A. NHK学校放送
割,社会科で 2 割程度であるが,利用頻度はど
番組」
(45%),
「E.「D」以外のインターネット上
ちらも「週に 3 回以上」が最も多く,配備されて
のコンテンツ」
(42%),
「I.自作 教 材」
(41%),
いる学校では日常的に利用している姿がうかが
社会科で利用が多いのは,
「H.市販のビデオ教
える。
材やDVD 教材」
(41%),
「I.自作教材」
(35%),
「A. NHK学校放送番組」
(30%)である。
また,
「A. NHK学校放送番組」と「D. NHK
( 4 )メディア教材の効果
こうしたメディア教材を授業で利用する際に,
デジタル教材」のいずれかでも利用した【NHK
教師はどのような効果を求めているのであろう
for School 利用】
は,理科では 55%で他のメディ
か。図 7 に示した 8 項目についてみてみると,理
ア教材すべてを上回っており,社会科でも35%
科・社会科とも「1. 生徒の関心・意欲を高める」
で,
「H.市販のビデオ教材やDVD 教材」の次に
「I.自作教材」と並んで多かった。
(理 科 93%, 社会 科 95%)が 最も多く,
「4. 生
徒の知識・理解を深める」
(理科75%,社会科
それぞれのメディア教材の利用頻度をみてみ
62%),
「6.一斉提示することで,情報が早く確
ると「H.市 販のビデオ教 材やDVD 教 材」は,
実に伝わる」
(理科 50%,社会科 46%)が次に
理科・社会科とも利用は4 割を超えているが,
多かった。
JUNE 2016
57
図 7 教師が期待するメディア教材の効果(複数回答)
1. 生徒の関心・
意欲を高める
93%
95
(理科 60%,社会科71%),
「6. 教科 書や資料
集,板書を補う形で利用する」
(理科 54%,社
会科 50%)が多かった。自然現象や社会事象
の具体的な映像などを,授業の導入として生徒
生徒の思考・
2.
判断を促す
33
3. 生徒の技能育成に
役立つ
徒の関心・意欲を高める」役割を期待する教師
が理科・社会科とも多いので,教科書や資料
62
内容のイメージを作るためにメディア教材を利
用しているようである。
4
3
一方 で, 理 科と社会 科でやや 違 いもみら
れた。
「3.学習のまとめとして利用する」
(理科
50
46
図 8 メディア教材の利用場面(複数回答)
授業で意見の
7. 共有や議論をする
機会が増える
12
25
32
理科
(n=534)
3
1
2.
43
45
授業の展開で
利用する
社会
(n=537)
また,全体としては多くなかったが,
「2. 生
徒 の思考・判断を促す」
(理 科33%, 社 会 科
46%),
「8. 生 徒 の 活 動 が 活 性 化 する」
(理 科
22%,社会科32%),
「7. 授業で意見の共有や
議論をする機会が増える」
(理科12%,社会科
25%)
はいずれも社会科のほうが理科より多かっ
た。社会科教師のほうが理科教師より,メディ
ア教材に対して,生徒の思考をゆさぶったり,
意見の共有や議論を行ったりして活動が活性化
する役割を期待していると考えられる。
さらに,メディア教材の利用場面について調
べてみた(図 8)。8 項目の選択 肢のうち,理
科 ・社会科とも「1. 授業の導入として利用する」
58
60%
71
1. 授業の導入として
利用する
22
生徒の活動が
活性化する
9. その他
集を使って学習する導入として,これから学ぶ
75
一斉提示する
6. ことで,情報が
早く確実に伝わる
8.
る。図 7 で示したように,メディア教材には「生
9
10
4. 生徒の知識・
理解を深める
個人の能力に
5. 合わせた
学習ができる
に提示して利用することが多いためと考えられ
46
JUNE 2016
52
3. 学習のまとめとして
利用する
4.
36
33
発展教材として
利用する
27
5. メディア教材を
元に授業を進める
14
14
教科書や資料集,
6. 板書を補う形で
利用する
54
50
新しい話題や
7. 情報を示すのに
利用する
25
29
生徒が自分たちで
8. 調べる活動に
利用する
9. その他
7
12
2
1
理科
(n=534)
社会
(n=537)
52%,社会科36%)は理科で多く,
「8. 生徒が
扱う第 1分野よりも,生物・地学を扱う第 2 分野
自分たちで調べる活動に利用する」
(理科7%,
でメディア教材の効果が高いと考える教師が多
社会科12%)は,全体としては多くないが,社
い。特に「地球と宇宙」
(86%),
「大地の成り立
会科で多かった。理科教師は図 7に示したよう
ちと変化」
(71%),
「気象とその変化」
(71%)の
に知識・理解を深める効果を期待しており,ま
地学分野で多かった。これは,地学で扱う内
とめとしてメディア教材を利用することが多く,
容に教室で直接観察できるものがあまりなく,
社会科教師は,理科教師に比べると生徒が自
また,変化の様子などを映像で見せることで,
分たちでメディア教材を活用して多様な考えを
生徒の理解が深まることを期待しているためと
築くことを期待していると考えられる。
考えられる。
理科教師,社会科教師のメディア教材への
逆に第 1分野は,理科室で実験できる内容
期待をより深くみるために,単元レベルでのメ
が多いので,メディア教材への期待が第 2 分野
ディア教材の効果についても調べてみた。
ほど高くないと思われる。
図 9 に示したように,理科では物理・化学を
図 9 メディア教材の効果を期待する分野 理科
(複数回答)
第1分野
(n=534)
身近な物理現象
身の回りの物質
電流とその利用
21
運動とエネルギー
37
化学変化とイオン
(n=537)
33%
71
51
42
大地の成り立ちと
変化
71
58
気象とその変化
71
生命の連続性
43
地球と宇宙
86
36
33
71
27
14
14
日本の様々な地域
教科書や資料集,
板書を補う形で
利用する
公民的分野
新しい話題や
私たちと現代社会
情報を示すのに
利用する
私たちと経済
生徒が自分たちで
調べる活動に
私たちと政治
利用する
私たちと国際社会
の諸課題 その他
52
36
64
地理的分野
メディア教材を
世界の様々な地域
元に授業を進める
40
動物の生活と
生物の変遷
52
現代の日本と世界
発展教材として
利用する
34
43
45
51
近世の日本
学習のまとめとして
利用する
近代の日本と世界
第2分野
自然と人間
歴史的分野
授業の展開で
中世の日本
利用する
31
39
植物の生活と種類
図 10 メディア教材の効果を期待する分野 社会科
(複数回答)
歴史のとらえ方
授業の導入として
利用する
古代までの日本
41%
化学変化と原子・
分子
科学技術と人間
社会科では図 10 のように,
「地理的分野」で
90
82
54
50
25
47
29
55
7
12
2
1
55
理科
66
(n=534)
社会
(n=537)
JUNE 2016
59
効果があるとする教師が多い。日本や世界の
理科・社会科の教師の中にはクラス担任とし
地形の特徴や人々の暮らしを知るために,メ
て道徳や特別活動も担当している教師がいる。
ディア教材が必要と考えられているのであろう。
自分が専門としている教科以外でメディア教材
また,
「歴史的分野」では「現代の日本と世界」
の効果があると考える教科・領域について尋ね
(71%),
「近代の日本と世界」
(64%)と近現代
たところ(図 11),理科・社会科教師とも「道
が多く,
「公民的分野」では「私たちと国際社会
徳」
(理科 61%,社会科 64%)が最も多かった。
の諸課題」
(66%)で高い。図 7,図 8 の結果と
以下,理科教師では「情報モラル」
(57%),
「環
合わせて考えると,近現代の複雑な事象の理
境教育」
(55%),社会科教師では「情報モラル」
解を,メディア教材を利用することで深めるだ
(63%),
「総合的な学習の時間」
(62%)の順に
けでなく,現在向き合うべき課題に対して,さ
多かった。
「環境教育」以外では,社会科教師
まざまな意見や議論があることを生徒が知った
のほうが理科教師よりも,専門教科以外でメ
り調べたりすることにメディア教材の効果があ
ディア教材の効果が高いとしていた。
ると期待されていると考えられる。
図 11 メディア教材の効果を期待する教科・領域
(複数回答)
61%
64
道徳
総合的な
学習の時間
学校放送番組は,中学校向けの教育番組とし
て,教科・領域が明示されている番組を指す。
グ視聴と,資料映像を短くまとめた動画の「ク
リップ」,番組内容の理解を深めるための双方
37
向教材などの「きょうざい」,教師向けの番組
46
活用情報「先生向け」などが利用できるインター
24
ネット上のサービスを指す。本稿では両方を合
32
わせたものを,NHKの学校教育向けサービス
57
情報モラル
の総称でウェブサイトの名称でもあるNHK for
63
Schoolとして記述する。
NHKデジタル教材は,学校や家庭でパソコ
49
防災教育
54
ンやインターネットが利用できる環境に合わせ
た新たな教育サービスとして,2001年に開始
55
環境教育
60
また NHKデジタル教材は,番組のストリーミン
62
いじめ問題
その他
用の実態について詳述する。ここでいうNHK
51
キャリア教育
この項では NHK学校放送番組とNHKデジ
タル 教 材を合わせた,NHK for Schoolの利
29
35
特別活動
3. NHK for School の利用
50
理科
(n=534)
1
1
社会
(n=537)
JUNE 2016
され,段階的に番組数やサービスを拡大してき
た。2011年からは NHK for Schoolという名称
で統一され,NHK が提供する学校向け教育
でもみたとおり,他のメディア教材よりも高く,
学校現場でよく利用されていることが明らかに
なった。理科と社会科を比べると,性別・年代
別にかかわらず理科のほうが多かった。また理
科・社会科とも性別・年代別による差はあまり
みられず,広く利用されていることもわかった。
図12 のグラフは左から順に「テレビ学校放送
番組のみ利用」,
「両方の利用」,
「NHKデジタ
ル教材のみ利用」を示している。
「テレビ学校放
送番組のみ利用」と「両方の利用」を合わせた
ものを「①テレビ学校放送番組の利用」として,
「NHKデジタル教材のみ利用」と「両方の利用」
を合わせたものを「② NHKデジタル教材の利
用」としてグラフの右側に数値を示している。
中学校向けの理科・社会科の学校放送番組
NHK for School
『10min. ボックス 理科 2 分野』トップページ
http://www.nhk.or.jp/rika/10min_rika2/
各番組で,番組のストリーミング視聴と「クリップ」
などのコンテンツが利用できる。
は 2015 年度 現 在,木 曜日午前 1:15 ~ 1:45 の
深夜の時間帯に放送されている7)。小・中学校
対象の道徳や総合的な学習の時間向けの番組
は午前中に放送されているが,教科担任制のた
サービスにアクセスできるようになっている。調
め複数の学級に同じ内容で授業をする必要が
査時点では 2,000 本以上の番組,5,000 本以上
ある中学校では,放送時間に合わせた生利用
の動画クリップを公開していた。
はほとんどないと考えられ,
「①テレビ学校放送
番組の利用」はほぼすべてが録画利用といえる。
( 1 )教師の属性別にみた
NHK for School の利用
NHKの学 校放送番 組・デジタル教材の量
図 12 では理科・社会科とも,性・年代を問
わず,
「①テレビ学校放送番組の利用」が「②
NHKデジタル教 材の利用」を上回っている。
的な利用を表す指標として,調査では「NHK
教科担任制で,小学校のように時間割をフレキ
for School 教師利用率」を用いた。これは,調
シブルに変えにくく,教室の移動などもある中
査実施年の 4月から12月までに「テレビ学校放
学校では,安定して映像を見せられることが大
送番組」あるいは番組と連動した「NHKデジタ
事にされている。図 4 の動画視聴環境と合わせ
ル教材」を,授業で利用した教師の割合である
ると,教室や理科室のインターネット環境が不
(図 12)。
今回の中学校教師調査でのNHK for School
安定だと,確実に動画を見せられる録画利用
が中心になり,
「①テレビ学校放送番組の利用」
教師利用率は,理科担当教師で 55%,社会科
がネット環境を必要とする「② NHKデジタル教
担当教師で 35%であり,前述の図 6(56 ページ)
材の利用」より多いと考えられる。
JUNE 2016
61
図 12 NHK テレビ学校放送番組と NHK デジタル教材の利用
NHK for School教師利用率*
①
②
①and/or②
NHK
NHK for テレビ学校
School 放送番組 デジタル
の利用 教材の利用
の利用
55%
45%
37%
①テレビ学校放送番組の利用
②NHKデジタル教材の利用
全体
理科(n=534)
18%
社会(n=537)
13
17
テレビ学校放送番組
のみ利用
● 性別
理科
男性(n=399)
女性 (n=97)
28
9
26
14
17
11
35
30
21
55
46
36
55
42
39
34
30
20
37
30
26
58
46
39
49
39
34
52
44
33
60
52
42
34
28
25
38
32
23
36
35
23
30
26
15
NHKデジタル教材
のみ利用
両方の利用
16
男性(n=435)
10
4
19
女性(n=131)
社会
27
13
4
19
7
● 年代別
理科
20代(n=140)
19
30代(n=134)
社会
16
40代(n=114)
19
50代(n=141)
18
20代(n=122)
30代(n=111)
40代(n=147)
50代(n=151)
26
9
23
10
25
8
34
19
8
7
15
16
13
15
12
6
22
11
1
4
* NHK for School 教師利用率
調査実施年(2015 年)の 4 月から 12 月までに,テレビ学校放送番組あるいは番組と連動した NHK デジタル教材を授業
で利用した教師の割合。学校放送利用の量的側面をとらえる指標として用いている。
続いて,理科・社会科それぞれの個別の番
が高いとした教師が多かった結果と一致して
組シリーズの利用についてみる(表 3)
。2015 年
いる。社会科についても,
『10min.ボックス 地
度授業利用は,理科では『10min.ボックス 理
理』
( 20%),
『10min.ボックス 日本史 』
( 18%),
科2 分野』
(27%),
『10min.ボックス 理科1分
野』
(23%)の順に多い。図 9 で第 2 分野の効果
『10min.ボックス 公民』
(9%)の順となり,図
10 の結果とほぼ同様である。
NHK学校放送教師利用率
①テレビ学校放送番組の利用
62
JUNE 2016②NHKデジタル教材の利用
①
②
①and/or②
NHK
NHK テレビ学校
学校放送 放送番組 デジタル
の利用 教材の利用
の利用
表 3 NHK for School 個別番組の認知と利用
分 野』,
『10min.ボ ックス
理科 野外観察的分野』も
番組の
認知有
利用経験有
2015 年度
授業利用
10min. ボックス 理科1分野
65
40
23
10min. ボックス 理科2分野
66
43
27
10min. ボックス 理科 物理・化学的分野
59
30
16
60
33
19
の考え方~』などの,実験
55
26
13
や顕微鏡観察,科学的思
大科学実験
56
27
14
ミクロワールド
42
15
8
考 法に特 化した番 組につ
考えるカラス~科学の考え方~
42
15
8
カガクノミカタ
30
7
3
58
29
18
番組名
教師の担当
教科
(%)
10min. ボックス 理科 生物的分野
10min. ボックス 理科 野外観察的分野
理科
(n=534)
10min. ボックス 日本史
10min. ボックス 地理
社会
(n=537)
ココロ部!(道徳)
メディアのめ(総合)
学ぼうBOSAI(総合)
げんばるマン(総合)
いじめをノックアウト(特別活動)
人生デザイン U-29(キャリア教育)
10min. ボックス 職業ガイダンス
(キャリア教育)
科学実験 』,
『ミクロワール
ド』,
『考えるカラス~科学
いても4 割以上の教師に認
知され,1割程度の利用が
みられた。
58
30
20
理 科・社会 科と比べる
54
22
9
理科
24
8
3
と,それ以外の学校放送
社会
26
7
2
理科
17
3
2
社会
20
2
1
ドキュメント』
(道徳),
『い
理科
12
2
1
じめをノックアウト』
(特別
社会
15
1
0
理科
14
3
1
活 動),
『10min.ボ ックス
社会
16
2
0
理科
12
2
0
社会
15
1
0
かった。図11では,理科・
理科
27
7
2
社会科教師とも,道徳など
でのメディア教材に対する
10min. ボックス 公民
道徳ドキュメント(道徳)
利用されていた。また『大
社会
28
7
2
理科
16
3
1
社会
19
2
0
理科
20
6
2
社会
21
5
1
番組は,全体として利用が
少ない。その中では『道徳
職 業 ガイダンス』
(キャリ
ア教育)の認知が他より多
効果を期待している姿はみ
られたが,NHK for School
の道徳などの番組・デジタ
ル教材の利用には結びつ
いていないようである。
理科については,現行の学習指 導 要領に
中学校の理科や社会科の授業では,学習指
沿って放送されている『10min.ボックス 理科1
導要領に沿って作成されている学校放送番組
分野』,
『10min.ボックス 理科2 分野』だけで
だけでなく,
『NHK スペシャル』などの一般番
なく,旧シリーズではあるが,1テーマ 5 本,4
組を授業で利用していることが,これまでの学
テーマ計 20 本で,特定のテーマを深める形で
校放送利用状況調査から明らかになっている。
構成されている『10min.ボックス 理科 物理・
今回の調査でも,2015(平成 27)年度に限らず,
化学的分野』,
『10min.ボックス 理科 生物的
一般番組の利用について選択肢を 9 つあげたと
JUNE 2016
63
( 2 )NHK for School の認知・
図 13 学校放送番組以外の番組利用経験
(複数回答)
NHKスペシャル
理科
社会
クローズアップ現代
理科
社会
プロジェクトX
理科
社会
プロフェッショナル
・仕事の流儀
理科
社会
利用経験の状況
41%
34
60%
ここまで,2015
年度のNHK学校放送番 組
道徳
64
やデジタル教材の利用の実態をみてきたが,過
去の利用も含めた利用経験や,番組やデジタル
29
特別活動
8
35
教材の認知についてはどうであろうか。
14
38
42
図 14 に示したように,テレビで見る
「NHK
総合的な
51
学習の時間 と,インターネット上のコ
62
テレビ学校放送番組」
ンテンツをパソコンなどで見る「NHKデジタル
37
キャリア教育
教材」について,教師の認知と利用経験の状況
46
25
をまとめてみた。
27
24
サイエンスZERO
歴史秘話ヒストリア
理科
社会
NHK高校講座
理科
社会
民放の番組
32
15
組」では,
「認知あり」が 理科 担当教師 83%,
24
57
社会 科 担 当教
師 76%で,
「利用経 験 あり」
が
情報モラル
63
7
理科担当教師 60%,社会科担当教師 47%と,
7
理科担当教師のほうが認知・利用とも多かっ
49
た。
10
理科
社会
サイエンスチャンネルの番組 理科
ヒストリーチャンネルの番組 社会
いじめ問題
全体としてみると
「NHKテレビ学校放送番
理科
社会
54
また,インターネットの「NHKデジタル教材」
55
14
環境教育
50
では,
「認知あり」が理科担当教師 76%,社会
科 担当教師 70%。
「利用経験あり」が 理科 担
5
1
2
理科
その他の番組
防災教育
(n=534)
5
10
社会
(n=537)
その他
当教師 47%,社会
科 担当教師
34%で,全体
1
としては「NHKテレビ学校放送番組」より少な
く,理科と社会科で比較すると理科のほうが
多かった。
今回の調査では,テレビの利用,インター
ころ,図 13 の結果となった。
ネットの利用とも,理科・社会科のどちらにも,
理科・社会科とも『NHK スペシャル』
(理科
性別や年代別による差がみられなかったのが
41%, 社会 科34%),
『プロジェクトX』
(理 科
特徴的である。2014 年度「NHK 小学校教師
38%,社会科 42%),
『プロフェッショナル・仕
のメディア利用と意識に関する調査」では同じ
事の流儀』
(理科25%,社会科27%)の利用が
質問に対して,
「NHKテレビ学校放送番組」で
多かった。授業で利用した『NHK スペシャル』
は,年代差がみられ,20 代の
「利用経験なし」,
として,理科教師からは「人体」,
「生命」,
「地
「認知なし」が他より多かった。また「NHKデ
球大進化」など,また社会科教師からは「映像
ジタル教材」については学年差があり,高学年
の世紀」や東日本大震災関連などの番組名が
になるほど「利用経験あり」が増え,
「認知なし」
あげられた。
が減っていて,中学校教師とは異なっていた。
64
JUNE 2016
図 14 NHK テレビ学校放送番組及び NHK デジタル教材の認知・利用経験の状況
〈 NHKテレビ学校放送番組 〉
〈 NHKデジタル教材 〉
認知はあるが利用経験なし 認知なし
認知はあるが利用経験なし 認知なし
無回答 2015年度 2015年度は利用ないが,
2015年度 2015年度は利用ないが,
無回答
過去には利用あり
授業利用あり 過去には利用あり
授業利用あり
全体
理科(n=534)
社会(n=537)
45%
15
30
24
17
8
29
37%
9
16
9
10
21
29
12
15
36
9
21
9
● 性別
理科
男性(n=399)
46
女性(n=131)
社会
12
42
男性(n=435)
30
女性 (n=97)
30
25
22
8
20
16
8
28
21
16
30
36
9
14
5
31
39
8
10
9
15
20
13
26
10
16
8
21
36
8
14
22
38
9
20
8
13
12
18
9
● 年代別
理科
20代(n=140)
46
30代(n=134)
39
40代(n=114)
28
30代(n=111)
32
50代(n=151)
16
35
26
16
27
16
16
28
8
15
29
31
17
17
42
9
9
25
12
15
14
8
26
14
9
35
14
23
29
20
8
15
11
25
8
37
10
34
13
38
23
10
36%),
「2. 同じ学 校の教 師から勧められて」
33
13 3 8
38
17
24
11
認知あり 90%
たが,利用している教師はどういうきっかけで
● 担当学年別
認知あり 79%
ンフレットで知ったため」
(理科17%,社会科
50
9 3 17%)
7
11
27
33
の順に多かった。
2年生担任(n=401)
26
44
「NHKテレビ学校放送番組」
の利用のきっか
10
(理科23%,社会科24%)
「3. NHK 配布のパ
利用経験あり 55% ,
Schoolの利用経験,認知に差がみられなかっ
利用経験あり 77%
1年生担任(n=400)
30
利用し始めたのであろうか
(表 4)。
17
23
5
31
組の存 在を知ったため」
(理 科 35%,社会 科
中学校では理科・社会科教師ともNHK for
44%
13
9
33
11
29
7
34
6 7
( 3 )NHK for School の利用のきっかけ
全 体 (n=2,387)
8
19
20
39
5 8
19
26
17
6 11
19
52
20代(n=122)
40代(n=147)
29
18
44
50代(n=141)
社会
9
16
4 10
17
12
14
29
29 の利用のきっか
16
12
また「NHKデジタル教材」
けとして選択肢で示した
9 項目では,理科・社
3年生担任(n=392)
46
31
科で少し順位は異なるが,
13 3 けは,理科と社会
6
39
14
27
11 10
会科とも
「1. NHK for SchoolのサイトやNHK
4年生担任(n=397)
53
24
13 2 8
デジタル教材を先に知っており,そこから番
5年生担任(n=395)
51
6年生担任(n=402)
● 男女別
男性
女性
(n=947)
(n=1,430)
26
59
49
41
21
25
38
「1. NHK学校放送番組を視聴して,関連する
49
11
21
9 10
インターネットのサービスがあることを知った
13 2 8
53
13 2 6
15
60
3 8
11 2 8
11
10
9
16
8
6 8
8 8
20
JUNE
2016
49
30
19
15
18
27
13
11
65
表 4 NHK テレビ学校放送番組・デジタル教材 利用のきっかけ(複数回答)
(100%= NHK 学校放送番組利用教師全体)
【 NHK テレビ学校放送番組 】
全体
男性
性別
女性
(n=240) (n=184) (n=55)
(%)(n=162) (n=131) (n=29)
1.
NHK for SchoolのサイトやNHKデジタル教材を
先に知っており,そこから番組の存在を知ったため
2. 同じ学校の教師から勧められて
3. NHK 配布のパンフレットで知ったため
4. 自分が子どもの頃に視聴していたため
5. 学校を超えた教師仲間から勧められて
6. 研究会や研修で知ったため
7. 教育関連のホームページで知ったため
8. 大学の授業で知ったため
9. その他
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
【 NHK デジタル教材 】
35
36
23
24
17
17
10
8
13
12
14
14
7
7
3
1
8
10
全体
38
34
25
24
16
16
11
9
11
12
13
15
8
8
4
1
8
12
男性
性別
NHK 学校放送番組を視聴して,関連する
インターネットのサービスがあることを知ったため
2. 同じ学校の教師から勧められて
3. インターネットで検索して知ったため
4. NHK 配布のパンフレットで知ったため
5. 研究会や研修で知ったため
6. 学校を超えた教師仲間から勧められて
7. 教育関連のホームページで知ったため
8. 大学の授業で知ったため
9. その他
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
理科
社会
ため」
(理 科22%, 社 会 科 30%),
「2. 同じ 学
校の教師から勧められて」
(理科21%,社会科
26%),
「3.インターネットで検索して知ったため」
22
30
21
26
22
23
20
19
14
14
9
11
6
4
2
2
3
3
24
28
22
24
22
24
20
21
15
15
8
10
7
3
3
1
2
2
年代別
30 代
40 代
50 代
(n=64)
(n=34)
(n=52)
(n=35)
(n=50)
(n=51)
(n=73)
(n=39)
24
41
20
17
18
24
6
3
16
10
18
10
9
3
0
0
9
7
30
27
34
47
6
9
13
12
13
15
14
9
2
3
8
3
8
9
40
37
25
34
15
14
12
14
17
17
15
17
12
9
4
0
8
14
36
37
16
10
12
24
8
4
12
4
22
12
8
4
0
0
2
8
34
39
18
8
30
21
8
5
10
15
8
18
8
13
0
0
12
13
女性
20 代
(n=195) (n=144) (n=51)
(%)(n=114) (n=88) (n=25)
1.
20 代
18
32
18
36
22
20
20
16
14
12
10
12
2
4
0
4
4
4
年代別
30 代
40 代
50 代
(n=54)
(n=31)
(n=45)
(n=25)
(n=37)
(n=34)
(n=59)
(n=23)
20
26
32
42
22
20
9
3
9
10
11
10
2
0
6
7
2
3
20
28
20
36
16
36
16
24
18
16
7
20
4
8
2
0
0
4
24
38
14
15
32
15
16
24
24
15
5
0
8
3
0
0
0
0
24
22
15
13
20
26
36
30
10
17
10
18
8
4
0
0
7
4
19%)の順で多かった。
理科・社会科とも,放送番組の存在をウェブ
サイトで知る,あるいはウェブサイトの存在を
(理科22%,社会科23%),
「4. NHK 配布のパ
放送番組から知るというように,メディアをクロ
ンフレットで知ったため」
(理科20%,社会科
スした形で存在を知り,利用している教師が多
66
JUNE 2016
かった。NHK for Schoolという名称で放送番
表 5 教師による NHK 教育サービスの利用
組,インターネット上のコンテンツをまとめたこと
全体
が,相互の存在を知ることにつながったと考え
NHK for School
教師利用率
(%)
NHK 教育
サービス
教師利用率
理科
(n=534)
55
62
社会
(n=537)
35
47
理科 男性 (n=399)
55
63
理科 女性 (n=131)
55
63
社会 男性 (n=435)
34
47
校の教師から勧められて」の割合が高かったこ
社会 女性
(n=97)
37
51
とが注目される。
理科 20 代 (n=140)
58
63
理科 30 代 (n=134)
49
57
理科 40 代 (n=114)
52
59
理科 50 代 (n=141)
60
71
社会 20 代 (n=122)
34
44
社会 30 代 (n=111)
38
53
社会 40 代 (n=147)
36
49
社会 50 代 (n=151)
30
44
られる。
また,表には示していないが,年代別にみ
組」,
「NHKデジタル教材」のどちらも「同じ学
性別
ると,20 代・30 代で「NHKテレビ学校放送番
これまで述べた傾向はすべて小学校教師調
のきっかけは学校種に関係なく共通することも
明らかになった。
(4)
NHK 教育サービスの利用
NHKでは「テレビ学校放送番組」や「NHK
デジタル教材」以外にもさまざまな教育イベント
やサービスを行っている。表 5 の注記に示した 9
項目をあげて利用経験を調査した。
「NHKテレビ学校放送番組」や「NHKデジ
タル教 材」のほかに,2015 年の 4月から12月
までに NHKの実施する教育イベント等も含め
た NHKの教育サービスを利用している教師を
「NHK 教育サービス教師利用率」として算出し
たところ,その値は理科教師で 62%,社会科
教師で47%であった。
教科ごとの性別,学年別でみると,理科 50
年代別
査の結果とも一致し,NHK for Schoolの利用
注:「NHK for School 教師利用率」は,図 12 でも示した値で,
NHK 学校放送テレビ番組,NHK デジタル教材のいずれ
か,あるいは両方を授業で利用した教師の比率,「NHK 教
育サービス利用教師の比率」は ,NHK 学校放送のほかに,
NHK が実施する教育イベント等も含めた NHK の教育サー
ビスを利用した教師の比率である。
調査では,NHK 教育イベントとしては,下記 9 項目を選
択肢として示した。
1. NHKティーチャーズ・ライブラリー(学校向け DVD 貸出)
2. NHKクリエイティブ・ライブラリー(映像素材利用がで
きるウェブサイト)
3. NHK 全国学校音楽コンクール
4. NHK 杯放送コンテスト
5. 最寄りの NHK や,東京の NHK 放送センター,放送博
物館の見学・訪問
6.「NHK for Schoolリエゾン」
(学校等での NHK for School
入門研修)の利用
7.「学校放送番組・ICT 活用講座」
(NHK 主催の NHK for
School 活用研修)への参加
8. 放送教育・視聴覚教育研究会の全国大会や地域大会へ
の参加
9. その他
代が 71%とやや高いが,それ以外は差がみら
れなかった。
また,表には示していないが,個別の教育イ
ベント等で利用が多かったのは,
「NHK 全国
4. 教師の意識でみる
メディア利用の傾向
学校音楽コンクール」,
「最寄りのNHKや,東
前項までは教師のメディア機器やメディア教
京のNHK 放送センター,放送博物館の見学・
材についての全体的な利用状況と,NHK for
訪問」であった。
Schoolの具体的な利用実態についてみてきた。
この項では,教師の日常的な情報入手手段や
JUNE 2016
67
デジタル機器に対する意識,授業の進め方など
教師から」と「8.インターネットで情報検索して」
の調査結果から,メディア利用の背景となる教
が多い。口コミとインターネットが教師の重要な
師の意識をみる。
情報入手手段となっていることがわかる。
3 つの場面ごとに細かくみていくと,
「A. 教育
( 1 )教育関連情報の入手手段
界の動向をめぐる情報を集める時」では,
「5.テ
レビ番組から」
(理科 50%,社会科 51%),
「6. 新
「A. 教育界の動向をめぐる情報を集める時」,
「B. 授業の方法を工夫したい時」,
「C. メディア
聞から」
(理科 52%,社会科 60%)も他の場面よ
を使った授業の工夫をしたい時」という3 つの場
り多く,口コミやインターネットと合わせて,テ
面を設定した上で,教師の情報入手手段につ
レビや新聞などマスメディアからも情報を入手し
いて調査を行った(図 15)。
ていることがわかる。
「B. 授業の方法を工夫したい時」は,
「2. 学
全体として理科・社会科とも「1. 同じ学校の
図 15 教育関連情報の入手手段(複数回答)
〈 理科 〉(n=534)
1.同じ学校の教師から
51
40
2.学校を超えた
教師仲間から
37
5.テレビ番組から
50
20
20
75
31
9.教育関連の
ホームページから
10.メールマガジンや
メーリングリストから
11.ソーシャルメディアから
無回答
68
33
5
4
3
3
2
6
1
1
2
JUNE 2016
54
60
29
29
62
8.インターネットで
情報検索して
45
51
37
47
62%
32
32
29
31
52
13
27
7.書籍から
35
21
27
26
9
39
25
25
15
6.新聞から
37
34
60
40
4.教育専門の
新聞や雑誌から
56
52
50
37
3.教科単位などの
研究会を通して
(n=537)
〈 社会 〉
65%
64
55
64
72
68
81
40
27
37
35
4
2
2
7
5
5
3
3
4
A.教育界の動向をめぐる情報を集める時
B.授業の方法を工夫したい時
C.メディアを使った授業の工夫をしたい時
校を超えた教師仲間から」
(理科 50%,社会
て使いたい」という質問に肯定的に回答するな
科 45%),
「3. 教科単位などの研究会を通して」
ど,デジタル機器の利用に積極的な教師は理
(理科 60%,社会科 54%),
「7.書籍から」
(理
科 31%,社会科27%であった。この値は,性
科 47%,社会科 55%)でも多いのが特徴的で
別では男性教師がやや高く,年代別では若年
ある。授業の方法という専門的なことになると,
層ほど高い傾向がみられた。
マスメディアよりも,その分野を専門としている
メディア機器やメディア教材の利用について
人や書籍から情報を入手しようとしていると考
の,他の質問では性差・年代差はあまりみられ
えられる。
「C. メディアを使った授業
図 16 デジタル機器やサービスに対する教師の意識
の工夫をしたい時」は,
「8.イ
ンターネットで情報検索して」
(理 科75%, 社 会 科 68%),
「1. 同じ学校の教師から」
(理
科 51%, 社 会 科 52%)で 多
い。
デジタル機器利用
積極教師
全体
● 性別
理科
それぞれの情報入手の傾
向は小学校教師調査とほぼ
同様であり,同じ学校の教
師とインターネットから情報
を集めることを基 本としつ
社会
31%
社会(n=537)
27
男性(n=399)
女性(n=131)
男性(n=435)
女性 (n=97)
33
社会
サービスに対する意識
50代(n=151)
1
26
67
7
36
61
30
65
5
69
25
38
60
3
69
26
68
68
0
6
31
19
3
68
32
20代(n=122)
40代(n=147)
6
6
30代(n=111)
( 2 )デジタル機器や
62
76
66
40代(n=114)
50代(n=141)
4
6
28
30代(n=134)
手手段を使い分けていると
66
67
24
● 年代別
理科 20代(n=140)
つ,知りたい内容により,入
いえる。
理科(n=534)
デジタル機器利用
消極教師
中間
6
0
14
さらに, パソコン, 携 帯
電 話,タブレット端末,イ
ンターネットなどのデジタル
機器やサービスに対する教
師の意識についても質問した
(図 16)
。
「デジタル 機 器 や サービ
スは積極的に利用したい」,
「デジタル機器の機能はすべ
・「デジタル機器利用積極教師」
「デジタル機器やサービスは積極的に利用したい」,「デジタル機器の機能はすべて使いたい」とい
う質問に「そう思う」「
,どちらかといえばそう思う」と回答し,
「 仕事や授業などで必要な場合以外は,
デジタル機器やサービスをあまり使いたくない」,「デジタル機器の操作を覚えるのは面倒だ」という
質問に「そう思わない」,「どちらかといえばそう思わない」と回答した教師
・「デジタル機器利用消極教師」
「デジタル機器やサービスは積極的に利用したい」,「デジタル機器の機能はすべて使いたい」とい
う質問に「そう思わない」,「どちらかといえばそう思わない」と回答し,「仕事や授業などで必要な
場合以外は,デジタル機器やサービスをあまり使いたくない」,「デジタル機器の操作を覚えるのは
面倒だ」という質問に「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」と回答した教師
・「中間」は上記以外の教師
JUNE 2016
69
なかったが,デジタル機器やサービスに対して
し合いなど集団での協働的なプロセスを大切
は,若年層が積極的な意識を持っているといえ
にする」など,アクティブ・ラーニング 8)の視点
る。
を意識した考え方を持つ教師が多かった。ま
た「授業の中で,学習内容の定着をはかる」も
( 3 )教師の授業方法に対する意識
多く,限られた授業時間の中で生徒が主体的,
協働的に学べるようにしたいという意識がうか
授業を進めるにあたっての教師の考え方につ
がえる。
いて,表 6 に示した4 項目をあげて尋ねた。そ
れぞれ「新しい授業方法を,積極的に取り入れ
授業の進め方について,表 6に示した形でタ
てみる」,
「生徒の自発的な学習をうながすこと
イプ分けを試みたところ,
「生徒自発・協働重
に重点をおいて授業をする」,
「生徒同士の話
視型」
(理科 47%,社会科 45%),
「教師主導・
個別重視型」
(理科19%,社会科24%)と
表 6 授業の進め方で教師が重視していること
なった。
(%)
理科
社会
(n=534)
(n=537)
(1)
指導方法
確立された指導方法を使って
授業をする
31
32
で,年代では 20 ~ 30 代でやや多く,理
2
新しい授業方法を,
積極的に取り入れてみる
67
66
科・社会科とも50 代男性教師に「教師主
2
2
64
63
34
36
2
2
1
生徒の自発的な学習をうながす
ことに重点をおいて授業をする
教師主導で,必要なことを
2
きちんとおさえるように授業をする
3 無回答
(3)
個別指導 /
協働的な
プロセス
(4)
学習内容の
定着
1
個別指導を大切にして子ども
一人一人に力がつくことを考える
36
42
2
生徒同士の話し合いなど集団での
協働的なプロセスを大切にする
62
57
3
2
1 授業の中で,学習内容の定着をはかる
74
75
宿題や家庭学習を積極的に
取り入れて,学習内容の定着をはかる
24
24
2
2
3 無回答
2
3 無回答
〈上記設問を用いて試みた授業の進め方に関する教師のタイプ 〉
・
「生徒自発・協働重視型教師」
・・・設問(2 )では「1 」に,設問(3 )
では「2 」に回答した教師。理科教師の 47%,社会科教師の 45%。
・
「教師主導・個別重視型教師」
・・・設問(2 )では「2 」に,設問(3 )
では「1 」に回答した教師。理科教師の 19%,社会科教師の 24%。
・「中間型教師」・・・上記のいずれにも当てはまらない教師。理科
教師の 34%,社会科教師の 32%。
70
協働重視型」は,男性教師より女性教師
1
3 無回答
(2)
生徒と教師の
関係
教師の属性に注目すると,
「生徒自発・
JUNE 2016
導・個別重視型」が多かった。
5. 今後求められる教育サービス
最後に今後の授業でどのような教育
サービスが必要と考えるか,図 17 の 6 つ
の選択肢を示してみた。理科・社会科と
も「タブレット端末」
(理科 63%,社会科
64%),
「電子黒板」
(理科 52%,社会科
56%)の順に多く,図には示していない
が,性差や年代差はあまりみられなかっ
た。
また「協働学習で利用できるソフトウェ
アやツール」は社会科教師がやや多く,
58頁の図 7,図 8 の結果で示したように,
社会科教師のほうが協働学習への関心
がやや高いと考えられる。
今後利用したいメディアについて,教
師の意識との関連を知るために,図16 で
示した「デジタル機器やサービスに対する意識」
図 17 今後,授業で利用したいメディア(複数回答)
と表 6 で示した「授業の進め方」の項目で整理
52%
電子黒板
したものが表 7 である。
56
全体としてみると,デジタル機器・サービス
63
64
タブレット端末
利用に積極的な教師のほうが消極的な教師よ
りも,また,授業の進め方が「生徒自発・協働
指導者用の
デジタル教科書
重視型」のほうが「教師主導・個別重視型」よ
42
42
学習者用の
デジタル教科書
協働学習で利用できる
ソフトウェアやツール
りも,新規メディアの利用意向が高かった。特
33
に「2.タブレット端末」の利用については顕著な
32
差がみられた。
また「5. 協働学習で利用できるソフトウェア
32
やツール」についても「2.タブレット端末」ほど
41
教師が教材などについて
情報交換できる
ウェブサイトやSNS
顕著ではないが,同様の傾向がみられた。す
でに一定の配備が進んでいる「1.電子黒板」や
26
27
「3. 指導者用のデジタル教科書」では大きな差
理科
はみられなかった。
(n=534)
5
このなかにはない
社会
6
(n=537)
表 7 デジタル機器やサービス利用に対する意識と授業の進め方で重視していることでみた,
教師の今後の授業におけるメディア利用意向
授業の進め方で教師が重視していること
教師主導・
個別重視型
社会
中間
生徒自発・
協働重視型
教師主導・
個別重視型
理科
中間
生徒自発・
協働重視型
消極教師
中間
積極教師
消極教師
中間
積極教師
社会
全体
全体
理科
デジタル機器・サービス利用に対する
意識の積極度別
理科
社会
(%)(n=534)(n=537)(n=165)(n=350)(n=19) (n=147)(n=357)(n=33) (n=252)(n=182)(n=100)(n=241)(n=169)(n=127)
1. 電子黒板
52
56
58
49
32
58
57
30
54
51
47
58
60
45
2. タブレット端末
63
64
73
61
21
75
64
21
72
57
54
69
35
54
3.
指導者用の
デジタル教科書
42
42
45
42
26
40
44
21
42
42
43
42
43
39
4.
学習者用の
デジタル教科書
33
32
41
30
32
37
33
3
36
32
29
35
32
28
5.
協働学習で利用できる
ソフトウェアやツール
32
41
41
30
5
48
40
18
37
32
21
46
39
33
教師が教材などに
6. ついて情報交換できる
ウェブサイトや SNS
26
27
24
27
11
36
25
9
22
32
22
30
26
24
注:■にゴシックは全体に比べて有意に高い層であることを, ■にイタリックは低い層であることを示している(95%水準)。
JUNE 2016
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1 点目は,小学校調査と中学校調査をして強
おわりに
く感じたことだが,メディアを活用する力を系
全国各地の中学校の先生方にご協力いただ
統的に育成する必要性である。子どもたちが
き,メディア利用と意識に関する調査を行うこ
文字だけでなく静止画や動画から情報を読み
とができた。調査からは理科を中心にメディア
取り,分析し,整理した上で発表していく一連
機器やメディア教材の利用が進んでいること,
の流れに対応したメディア機器やメディア教材
利用にあたっては教科の特性とメディア利用の
とカリキュラムがこれからの社会では必要と考
効果を意識して使う場面を設定していることが
える。
わかった。その一方で動画視聴環境はまだ十
2 点目は,タブレット端末のように学習者1人
分でなく,電子黒板やタブレット端末などの新
1人がメディアを活用できる時代に合わせたメ
しいメディアの利用はあまり進んでいないことも
ディア教材の必要性である。教師が一斉提示
明らかになった。
するものだけではなく,学習者のペースに合っ
教 師の意 識 分析 からは,
「デジタル機 器・
た個別学習のためのメディアや,集団で学ぶ場
サービス利用に積極的な教師」,
「生徒自発・
で利用できる協働学習用のメディアの両方が必
協働重視型で授業を進める教師」が新しいメ
要である。
ディアを利用する意向が高いことがわかった。
調査時の教育界では,次期学習指導要領
9)
3点目は,学校でも家庭でも学習者が学べ
る時代にあって,学校と教師にすべてを任せ
に関する議論に注目が集まっていた。議論のた
るのではなく,地域社会やさまざまな組織が
たき台となる教育課程企画特別部会論点整理
教育に関わっていく重要性である。公共放送
(平成 27年 8月26日)では,
「新しい時 代に必
であるNHK が教育番組やインターネット上のコ
要となる資質・能力」として,
「何を知っている
ンテンツを安定して提供することも大事である
か,何ができるか」,
「知っていること・できる
し,当研究所で行っているような調査・研究の
ことをどう使うか」,
「どのように社会・世界と
成果を広げていくことも重要であると考える。
関わり,よりよい人生を送るか」という3 つの柱
変化を予測するのが難しい時代に生きる子ど
のもと,
「アクティブ・ラーニングの視点からの
もたちが,自分の可能性を最大限に発揮できる
不断の授業改善」,
「カリキュラム・マネジメン
ようになるために,メディアが教育に何をでき
10)
ト の充実」が必要であるとした。
そして,そのために「教育の情報化」をどう
進めていくかを審議する「2020 年代に向けた
教育の情報化に関する懇談会」11)では,
「次世
代に求められる情報活用能力の育成」などを提
言している。
こうした時代状況の中,教育メディアに求め
られる役割について 3点ほど指摘してまとめと
したい。
72
JUNE 2016
るのか,今後も調査・研究を続けていきたい。
(うじはし ゆうじ)
注:
1)
調査の詳細については次の文献が参考となる。
・小平さち子(2014)「調査 60 年にみる NHK 学
校教育向けサービス利用の変容と今後の展望~
『学校放送利用状況調査』を中心に~」『NHK
放 送 文 化 研 究 所 年 報 2014』 第 58 集,pp91169。NHK 放 送 文 化 研 究 所 の ウ ェ ブ サ イ ト
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/title/
year/2014/pdf/003.pdf で全文が公開されてい
る。
2)
2013 年度の調査結果は,「メディア変革期にみ
る教師のメディア利用 ~2013 年度『NHK 小
学校教師のメディア利用に関する調査』から~」
『 放 送 研 究 と 調 査 』2014 年 6 月 号,pp48-71,
2014 年度の調査結果は「進む多様化と新しい
メディアへの期待 ~ 2014 年度『NHK 小学校
教師のメディア利用と意識に関する調査』から
~」2015 年 6 月号,pp68-94 を参照のこと。い
ずれも NHK 放送文化研究所のウェブサイトで
全文が公開されている。
3)
理科・社会科とも約 9 割が 2 年生を担当してい
る教師が回答し,1 年生のみ担当,3 年生のみ
担当などの教師と回答傾向に大きな差はなく,
また,教室や理科室のメディア環境は学年にか
かわらず学校で同一であるので,回答結果は一
律に扱った。
4)
総務省の平成 26 年通信利用動向調査(世帯全
体編)によると,パソコンの保有率は全体で
78.0%,男性 80.8%,女性 64.4% であった。
5)
理科担当教師(n=534)の理科室利用の割合は,
2 割以下が 17%,2 〜 4 割が 25%,4 〜 6 割が
15%,6 〜 8 割が 13%,8 割以上が 30% であった。
6)
既存の紙の教科書の内容に連動した音声や動
画,アニメーションを加え,教師が電子黒板な
どに提示して利用するパソコン用教材。各教科
書会社が自社の教科書をもとに制作・販売して
おり,授業における指導者用の教材として導入
が進んでいる。
7)
『10min.
ボックス』など,中学校を主な対象と
するシリーズ番組はすべて,2008 年度から録
画しやすい深夜の時間帯に放送されている。
8)
文部科学省の中教審答申用語集では下記のよう
に定義されている。「教員による一方向的な講
義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学
修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。
学修者が能動的に学修することによって,認知
的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を
含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習,問
題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれる
が,教室内でのグループ・ディスカッション,
ディベート,グループ・ワーク等も有効なアク
ティブ・ラーニングの方法である。
」
http://www.mext.go.jp/component/
b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/
afieldfile/2012/10/04/1325048_3.pdf
9)
学習指導要領はほぼ 10 年ごとに改訂される。
現行の学習指導要領は中学校では 2012(平成
24 年)度から完全実施。次期学習指導要領は
2016 年度内に中央教育審議会として答申,中
学校では周知,教科書の作成及び検定・採択等
を経て 2021(平成 33)年度から全面実施の予定
である。
10)
学校の教育目標の実現に向けて,子どもや地域
の実態を踏まえ,教育課程(カリキュラム)を
編成・実施・評価し,改善を図る一連のサイク
ルを計画的・組織的に推進していくこと。
11)
教育の情報化に向けた当面の施策の検討を行う
ため 2016(平成 28)年 2 月設置,4 月に中間取
りまとめを公表した。
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