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事業原簿(公開)2(4.8MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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事業原簿(公開)2(4.8MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
Ⅱ
研究開発マネジメントについて
3)研究開発成果について
4)実用化・事業化の見通しについて
・評価委員
委員長
遠藤
剛
山形大学
工学部
工学部長
委員
臼杵
有光
株式会社
委員
小田
正雄
ソニー株式会社
委員
酒井
忠基
株式会社
委員
田代
孝二
大阪大学大学院理学研究科
委員
中西
八郎
東北大学多元物質科学研究所
所長
委員
藤木
道也
奈良先端科学技術大学院大学
物質創成科学研究科
委員
藤田
照典
三井化学株式会社
豊田中央研究所
有機材料研究室
マテリアル研究所
日本製鋼所
総務部
室長
融合領域研究部
係長
顧問
高分子科学専攻
触媒科学研究所
教授
教授
研究主幹
(2)事後評価委員会
平成20年5月予定
基本計画の改訂履歴
(1)平成13年3月、制定。
(2)平成14年3月、材料ナノテクノロジープログラムからナノテクノロジープログラム
への改編を受け、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等、改訂。
(3)平成15年3月、研究開発の目的、内容、目標を明確化する等、改訂。
(4)平成16年3月、独立行政法人化に伴い、名称及び根拠法等、改訂。
(5)平成17年3月、中間評価結果を反映し、改訂。
(6)平成18年3月、本研究によって得られた知的財産、成果についての取り扱いについ
て記載。プログラムの変更に伴い改訂。
Ⅱ-29
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ 研究開発成果について
Ⅲ―1 研究開発成果の概要
プロジェクト後半(平成17—19年度)では研究開発テーマの選択と集中を図り、光・電子材
料、構造材料、高強度繊維等を対象とする実用化13テーマと共通基盤技術2テーマに集中して研
究開発を行った。プロジェクト基本計画に示した全15テーマについていずれも最終目標を達成で
きた。研究開発の方針は下図内周に示した外場により自己組織化過程を制御し高分子特有のナノレ
ベルの高次構造を発現させ、外周に示した実用化テーマの目標特性、機能を達成することとした。
種々の自己組織化や外場制御技術の実績、基盤を有する大学等を集中研として実用化チームが集合
して研究開発を進めて来た。
ポリマテック集
中研
高性能
材料
山形大集中研
ホログラム
記録材料
高耐熱光学
材料
反射防止膜
材料
東工大集中研
耐熱性
高性能ダイボンド
絶縁フィルム
高配向性厚膜
高接着性
高熱伝導率
低誘電
非粘弾性
低屈折率
損失材料
易成形性
結晶化 透明性
可とう性
可とう性
表面
水性塗料
過程
電線被覆材
機械的強度
動的架橋、 高磁場
材料
低誘電損失
超臨界
難燃性
せん断場、
状態
九大集中研
東工大集中研
接着性能
液晶 ミクロ
リアクティブ
化学
接着性
配向 相分離
高強度 絡み合い
プロセシング
超撥水・
反応場
制御技術
繊維
制御・
相分解
紡糸、
超撥油性
超撥水・
表面・界面
高強度
延伸過程 溶融構造
撥油性材料
構造
自動車用構
造材
実用化
目標特性
テーマ
・機能
自己組織化
外場による非平衡状態制御
目標特性
実用化
・機能
テーマ
【研究開発テーマの設定と位置付け】
集中研毎に主な研究開発成果を以下に述べる。
【九大集中研】走査型粘弾性顕微鏡(SVM)を世界に先駆けて開発するなど、高分子材料の表面・界
面構造解析、表面・界面制御技術で優れた実績を持つ。
・ 接着性制御技術の開発:最新の解析技術を駆使して接着界面構造を徹底的に解析することによ
り、自動車部品の接着に対する信頼性向上並びに接着工程のウェットプロセスからドライプロ
セスへの転換を実現した。
・ 超撥水・超撥油性材料の開発:簡便な塗装工程による透明かつ超撥水性の機能表面作成技術を
開発し実用化も進捗している。
【山形大集中研】わが国で数少ない高レベルの成形加工技術の開発実績を持つ大学である。VBL の
他、成型加工技術の研究開発に必要な広面積の実験室にも恵まれている。
・ 自動車用構造材の開発:世界で初めて L/D=100 の押出機を設計、製作し、リアクティブブレン
ディングにより新規ポリアミド系ナノアロイの創製に成功し、非粘弾性というこれまでにない
特筆すべき特性を見出した。その優れた耐衝撃性に基づき、まず、スポーツ用品の事業化が実
現し、さらに自動車外板など広範囲の用途開発が期待されている。
・ 可とう性電線被覆材の開発:成形プロセスにおける動的架橋により、可とう性と強度に優れた
Ⅲ―1
Ⅲ
公開
研究開発成果について
非ハロゲン難燃性電線被覆材の作成に成功し、エコキャブタイヤケーブル規格を業界他社に先
駆けてクリアした。
・ 高性能ダイボンドの開発:成形プロセスにおける反応誘起型相分解により、高性能ダイボンド
の薄膜化を達成し、今後急速な市場拡大が期待されるフラッシュメモリ等多層実装用接着剤と
しての応用が期待される。また、実態に即した接着評価機器も合わせて開発した。
(PPE)
・ 絶縁フィルムの開発:安価ではあるが加工性に難点があるエンジニアリングプラスチック
とエポキシを含むポリエチレン(EGMA)のリアクティブブレンディングにより易成形性でかつ
低誘電率・高耐熱性の絶縁フィルム創製に成功した。
【東工大集中研1】高性能・高機能材料の開発に重要な配位重合、重縮合等の精密高分子合成や三
次元構造制御等で高い実績を持つ大学。
・ 水性塗料材料の開発:プロピレンとブタジエンの共重合体を官能基化し、接着性能の JIS 規格
をクリアした。また、エマルション化を実現し水性塗料材料としての外部評価を受けた。
・ 低誘電損失材料の開発:エンジニアリングプラスチック(PPE)への官能基導入、複合化により、
低誘電損失(誘電正接<0.001@10GHz)材料を開発、大型積層板の試作、伝送特性評価を行っ
た。高周波帯域での絶縁材料として近い将来に実用化、事業化を計画している。
・ 高耐熱光学材料の開発:ミクロ相分離と結晶化過程の制御により低線膨張率の高耐熱光学材料
の開発に成功。光学特性評価等をおこない、高精度光学レンズ、ディスプレイ基板等への応用
を期待している。
・ ホログラム記録材料の開発:中分子設計技術によりホログラム記録材料を開発し、目標の光書
き込み感度(0.5cm2/J)をクリアした。配向厚膜(100 μm)を作成し繰り返し記録の評価を行って
いる。
・ 反射防止膜材料の開発:ナノ多孔膜作成法を確立し、反射率がほぼ0の反射防止膜材料作成を
達成した。ナノ多孔特性を利用した反射防止膜以外の用途開発も複数の企業と検討中。
【東工大集中研2】わが国で数少ない紡糸技術、設備、プロセス解析、構造・特性解析に実績をも
つ大学。
・ 高強度繊維の開発:繊維5社が協力し溶融構造制御を高強度化のベースとして、従来の2倍の
強度 2GPa を持つ PET 繊維を2倍以下のコストで作製する高い目標に挑戦し、紡糸工程における
分子量制御と絡み合い構造制御に関する各種要素技術を開発、複合化した結果、1.72GPa まで
達成できた。外部評価でタイヤコードとして使用出来る特性を備えていることが明らかになっ
ている。
【ポリマテック集中研】高磁場による複合材料の配向技術で実績のある企業。
・ 液晶性高分子鎖の高磁場による板材垂直方向への高度な配向により、SUS鋼同等の高い熱伝
導性材料の開発に成功し、急速放熱を必要とする多くの電子材料への応用が期待されている。
【共通基盤技術(配列制御共重合体の精密合成技術)
】実用化開発7チームと連携して材料開発に
貢献するとともに、重縮合、配位重合により高機能材料開発につながる新規ブロックポリマー
合成手法などの基盤技術を開発した。
【共通基盤技術(構造・ダイナミックス評価技術)
】全実用化チームと連携して実際の材料開発に
貢献するとともに、基盤技術として三次元電顕や X 線 CT の製作と計測技術、走査型プローブ
顕微鏡によるナノ物性マッピング技術などを開発し、その成果は世界中から注目され広範囲の
材料開発への応用が期待されている。
投稿論文数:
「査読付き」492件
特 許
:
「出願済み」104件(うち国際出願24件)
Ⅲ―2
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2 高機能高分子材料の実用化技術開発
Ⅲ―2.1 分子設計及び三次元構造制御による高性能・高機能材料の開発
(東京工業大学集中研1)
研究題目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究
(b)光・電子材料の研究
集中研テーマ名
実施場所
分子設計及び三次元構造制御による高性能・
高機能材料の開発
東工大集中研1
(1)集中研の基本概念
・研究目的と基本原理:化学構造を精密に制御した高分子を合成し、適切な外場下で結晶化やミ
クロ相分離等の過程を経て自己組織的三次元構造を形成することにより、有機高分子が本来持っ
ている機能を発現させ、高機能材料を開発することを目的とする。
・基盤技術、要素技術:高分子化学構造の精密制御技術のひとつである配列制御共重合法および
ミクロ相分離や結晶化過程における三次元構造制御手法に関して本集中研において優れた研究成
果の蓄積があり、これらの基盤技術に基づき高機能材料の開発をおこなう。
配列制御共重合法では配位重合のリビング性、立体特異性、共重合性、連鎖移動制御、並びに連
鎖的重縮合によるブロック共重合、オリゴマー分子設計などが、三次元構造制御では結晶性ドメ
インを含むミクロ相分離構造制御などが主要な基盤技術の研究課題である。
(2)実用化テーマへの展開
本集中研では分子設計と三次元構造制御を基盤技術として下図に示すように、PPE の化学修飾に
よる低誘電損失材料、新規オレフィン共重合体による高耐熱性光学材料、ブロック共重合体のナ
ノ多孔化による反射防止膜材料、ポリプロピレンへの極性基導入による水性塗料材料、高速光応
答性中分子アモルファス液晶によるホログラム記録材料の開発をおこなう。
低誘電損失材料の開発
ポリフェニレンエーテルの化学構造制御
目標:誘電率2.5、誘電特性tanδ=
0.001@10GHz、耐熱性 Tg > 200oC
ホログラム記録材料の開発
中分子アモルファス液晶の高速
光応答性
目標:感度0.5cm2/J,多重記録・
リラタビリテイ
分子設計
(配列制御共重合)と
三次元構造制御
による高機能化
高耐熱性光学材料の開発
プロピレン/スチレン共重合体、
結晶・非晶ブロック共重合体の
合成
目標:耐熱性、透明性、複屈折
水性塗料材料の開発
反射防止膜材料の開発
ポリプロピレンへの極性基導入
目標:接着強度試験
(JIS5400)に合格。
ブロックポリマーを用いたナノ多孔膜
目標:屈折率1.3以下、可視光透明、
高強度
Ⅲ―3
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.1.1 高耐熱光学材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(b)光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(日本ゼオン)
高耐熱光学材料の開発
<東工大、広島大>
(1) 背景・目的等
近年、電子・通信技術の急速な発展により、大量の情報をやり取りする高度な情報化社会が構
築された。特に、情報化社会を支える通信、記録、表示技術の発展は目覚しいものがある。さら
に、今後、いつでもどこでも情報のやり取りができるユビキタス社会が想定されており、そのた
めには、より簡便で手軽に情報をやり取りできる電子機器の開発が欠かせない。材料分野におい
ては、ガラス材料は、光学特性、耐熱性、環境安定性に優れるため、高精度を要求される電子機
器に広く用いられているが、重くて割れやすく、成形性に難があり、エネルギー消費型の材料で
あるという問題点がある。したがって、将来のユビキタス社会に向けて、光学ガラスの特性を有
する機能性高分子材料が強く求められている。
そこで、本プロジェクトは、成形性に優れる熱可塑性樹脂でありながら、光学ガラスに匹敵す
る光学特性、耐熱性、環境安定性を有する樹脂材料を開発することを目的とする。
具体的には、結晶‐非晶ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造制御技術と相分離構造内で
の結晶化制御技術を開発し、結晶性樹脂でありながら、透明で、結晶構造に基く機械強度、耐熱
性、寸法安定性に優れた光学透明樹脂の創製と実用化・事業化を目指す。さらに、本成果の波及
効果として汎用モノマーであるノルボルネンとスチレンとの共重合技術を開発し、光学特性と低
吸水性に優れた耐熱透明樹脂の事業化も目指す。
Ⅲ―4
(2) 目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
結晶‐非晶ブロックコポリマーを用いて、温度などの
外場やポリマーの一次構造に起因する構造形成因子を
精密に制御することにより、結晶化度を自由に規制する
技術を開発し、熱可塑性樹脂でありながら、ガラス材料
を代替できる耐熱性(熱変形温度>150℃)
、透明性
(全光線透過率>90%)を有する表示、通信、記録分
野の新規耐熱光学材料を創出する。
さらに、光学特性、耐熱性向上を目的にノルボルネン
/スチレン共重合技術を開発し、複屈折≒0、熱変形温
度>200℃を有する高耐熱光学材料を創出する。
結晶性ポリマーで、光学的に透明な材
料存在しない。それに対し、ミクロ相分
離構造内で結晶化させることができれ
ば、既存の光学樹脂にない機械特性、光
学特性、耐熱性、環境安定性を有する全
く新しい精密光学樹脂となると考えら
れる。光学樹脂の基本物性として左の目
標を設定した。
さらに、絶対的に複屈折の出ない究極
の光学樹脂および、透明電極、薄膜トラ
ンジスタ、ハンダなどの形成時の高温に
耐え得る高耐熱光学材料として左の目
標を設定した。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
(1)結晶‐非晶ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造内での結晶化制御に成功し、全光線
透過率>90%の光学材料を開発した。さらに、結晶ブロックの融点と非晶ブロックのガラス転
移温度を設計することにより、熱変形温度=120~150℃の材料と熱変形温度>200℃の
材料を合成できた。
(事業原簿 P.Ⅲ―7,8)
(2)ミクロ相分離した結晶‐非晶ジブロックコポリマーフィルム(結晶ブロックがシリンダー
構造)を50%延伸してシリンダーを延伸方向に配向させることができることがわかった。
(事業原簿 P.Ⅲ―8)
(3)ミクロ相分離した結晶‐非晶ジブロックコポリマー成形体(結晶ブロックと非晶ブロック
がラメラ構造)の線膨張係数が、結晶、非晶ホモポリマーの値よりも大幅に小さくなることを見
出した。
(事業原簿 P.Ⅲ―9)
さらに、波及効果として下記二種類の樹脂を開発した。
(4)ノルボルネン/スチレン/エチレン三元共重合において、三元モノマー組成比の制御技術
を開発し、熱変形温度=120~150℃の三元共重合体の合成に成功した。モノマー組成比の
制御により、複屈折ゼロの光学樹脂の開発に成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―9,10)
(5)高分子量のノルボルネン/スチレン共重合体の合成に初めて成功し、熱変形温度>250℃
の耐熱光学樹脂の合成に成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―10)
②実用化に向けての達成度:
光学ガラス代替材料として、光学特性、耐熱性に優れた新規光学プラスチックの事業化検討を
開始した。市場の要求に見合った製品設計、製造技術の開発研究を進めている。
Ⅲ―5
(3) 研究開発計画・課題
H13-16年
年 度
1.結晶制御による
H17年
るガラス代替樹脂の
開発
H19年
終了後
開発した新
結晶―非晶ジブロ
ック コポ リマーの
合成
ミクロ相分離構造
内で の結晶化制
御
低線膨張性能を有す
H18年
外場によるミクロ
相分離構造配向
制御
規光学樹脂
のサンプル
ミクロ相分離構造
制御による線膨
張制御
ワークと製
品設計を進
め る と 共
に、製造技
課
題
2.光学特性に優れ
N/E/S 三
元共重
合体
るガラス代替樹脂の
光学特
性 の 評
価、改良
開発
術開発、製
造設備投資
を 検 討 す
る。
3.高耐熱性を有す
N/S 二元共重
合体
るガラス代替樹脂の
開発
年度別目標
熱特性
の評価、
改良
ポリマー合成技術と結
複屈折率=
熱変形温
線膨張率
晶化制御技術の基盤確
0を達成
度≧200℃
≦30ppm を
を達成
達成
立
年度別目標達成度
△
(○、△、×)
( H19 年 度
に達成)
○
○
備考)
N : ノルボルネン
E : エチレン
S : スチレン
Ⅲ―6
○
(4)研究開発成果
1.結晶制御による低線膨張性能を有するガラス代替樹脂の開発
①結晶‐非晶ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造内での結晶化と外場による配向制御
環状オレフィン系ポリマーは、光学特性、低吸湿性、成形性に優れるため、広く光学樹脂とし
て使用されている。そこで、環状オレフィンからなる結晶‐非晶ジブロックコポリマーをモデル
コポリマーとして合成し、ミクロ相分離構造制御および結晶化制御の検討を行った。
モデルコポリマーは、リビング開環メタセシス重合技術を利用して、結晶性のノルボルネン(N
B)ブロックと非晶性のノルボルネン誘導体(NBX)ブロックからなる結晶‐非晶ジブロック
コポリマーを得た(表1)
。
表 1.構造制御に用いたNB‐NBXジブロックコポリマー
Vol.
Tm
Tc
Sample NB/NBX ratio
fract. of (℃)
(℃)
(mol/mol)
B20
20/80
0.12
111
50
B30
30/70
0.18
109
58
B39
39/61
0.25
103
56
B45
45/55
0.30
114
60
B49
49/51
0.33
117
65
B65
65/35
0.49
127
64
B75
75/25
0.61
131
98
B79
79/21
0.66
133
100
B80
80/20
0.68
135
110
B88
88/12
0.79
143
116
B89
89/11
0.81
143
115
NB
100/0
1.00
137
107
NBX
0/100
0.00
a) : Not detected..
b) : Determined by GPC in THF
Tg
Mnb)
Mw/Mnb)
(℃)
139
20,600
1.26
120
28,200
1.23
127
24,600
1.29
127
25,400
1.14
130
25,200
1.25
a)
ND
22,800
1.12
46,300
1.20
NDa)
NDa)
52,200
1.21
31,000
1.13
NDa)
NDa)
43,900
1.09
59,900
1.13
NDa)
57,900
1.10
144
14,900
2.02
before hydrogenation.
<ミクロ相分離構造内での結晶化>
結晶‐非晶ジブロックコポリマーを溶融温度から徐々に冷却したサンプルの光線透過率、DS
C測定、放射光小角X線散乱(SR-SAX)測定、電子顕微鏡(TEM)観察を行った。図1(a),(b)
にTEM観察、SR-SAX測定を示す。結晶‐非晶ジブロックコポリマーは、きれいなミクロ相
分離構造を形成し、モノマー組成比にしたがって、球状、シリンダー状、ラメラ状構造が形成さ
れていることを確認した。さらに、DSC測定でTmが観測されることからNBポリマーブロッ
クが結晶化していることを確認した。図1(c)には、サンプル B39 と NB ホモポリマーの厚さ 10mm
の成形品を並べた。NB ホモポリマーが白色であるのに対して、サンプル B39 は透明である。すな
わち、結晶‐非晶ジブロックコポリマーは、数百 nm サイズのミクロ相分離構造内で結晶化が進行
するため、結晶性ポリマーであるにも係わらず、透明な成形体が得られる。
<外場によるミクロ相分離構造の配向>
結晶性ブロックがシリンダー構造を形成しているコポリマーフィルムを延伸させながら、二次
Ⅲ―7
元検出器を有するSAX装置を用いて散乱パターンを観測すると、シリンダー構造の配向度を評
価することができる(図2参照)
。その結果、50%程度延伸すると、延伸方向にシリンダーがほ
ぼ 100%配向することが明らかとなった。すなわち、延伸方向に結晶ドメインが配向した透明フィ
ルムを作製することができることがわかった。
(b)SR-SAX測定結果(シリンダー構造)
(a)TEM写真撮影結果(シリンダー構造)
サンプル B30
NB ホモポリマー
(c)厚さ 10mm の成形体
図1.サンプル B30 のミクロ相分離構造及びミクロ相分離構造内での結晶化
図2.50%延伸したサンプル B45 フィルムの
SAXパターン
②結晶‐非晶ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造制御による低熱膨張化
上述の結晶‐非晶ジブロックコポリマーを用い、ミクロ相分離構造と線膨張係数の相関を調べ
た。その結果、図3に示す通り、NB組成比が体積分率で 0.33~0.70 のとき、NBホモポリマー
Ⅲ―8
及びNBXホモポリマーの線膨張係数よりも小さくなることを見い出した。この領域は、ミクロ
構造がラメラ構造を形成している領域とよく合致していた。線膨張係数が大幅に低下する機構は
十分に解明できていないが、溶融状態から冷却させたときに、最初に非晶ブロックがガラス状態
になり、マトリックスが固定された状態で結晶性ブロックの結晶化が起こるため、結晶化による
収縮応力が保持されているためと
想像される。結晶性ブロックの融
点や結晶化の制御、ミクロ相分離
160
構造の形成条件の最適化により、
140
を達成した。
結晶‐非晶ジブロックコポリマ
ーとNBXホモポリマーの成形体
について、屈折率の温度依存性を
線膨張係数(ppm)
線膨張係数(30~70℃)=30ppm
評価した(表2)
。その結果、ジ
120
100
80
60
40
ブロックコポリマーは、屈折率変
動が極めて小さく、光学精度が極
20
0
0.2
めて高い光学樹脂であることが明
らかとなった。
0.4
0.6
NB組成比(容積換算)
0.8
1
図3 NB-NBX ジブロックコポリマー組成比
低線膨張係数の大きな効果の
と線膨張係数(30~70℃)の関係
ひとつである。
表2. 結晶‐非晶ジブロックコポリマーの屈折率の温度依存性
屈折率
サンプル
(23℃)
(40℃)
(55℃)
NBXホモポリマー
1.583
1.582
1.580
サンプルB65
(ラメラ構造)
1.556
1.555
1.555
2.光学特性に優れるガラス代替樹脂の開発
環状オレフィン系重合体は光学的等方性が高く、
低複屈折性に優れていることが知られている。
しかしながら、小さいながらも正の複屈折性を有するため、より高い精度が求められる光学材料
用途では光学ガラスが使用されている。そこで、負の複屈折性を有するポリスチレンを組合わせ
て複屈折ゼロのポリマー設計、すなわち、NB/ST/E 三元共重合体が考えられるが、これまでの重
合触媒技術では、NB 組成比が低くてガラス転移温度(Tg)低かったり、ST が重合阻害して分子
量が上がらないなどの問題があり、目的の三元共重合体は合成できなかった。
本プロジェクトでは、連携先の広島大学塩野先生の Ti フルオレニルアミド錯体を用いて、本三元共
Ⅲ―9
重合体の合成に初めて成功した。得られた三元共重合体フィルムを延伸すると、延伸応力が生じ
るにも関わらず、複屈折はほとんど発生せず、複屈折≒ゼロを達成できることがわかった(図4
参照)
。
10
8
NB-E共重合体
Birefringence Δn (x10-4 )
6
4
2
NB-ST-E三元共重合体
0
-2 0
1
2
3
4
-4
-6
-8
-10
-12
PS
N-E cop
N-E-S tep (S=6%)
N-E-S tep (S=8%)
N-E-S tep (S=12%)
単独ポリスチレン
Draw Ratio
図4.NB/ST/E 三元共重合体フィルムの延伸時の複屈折
3.高耐熱性を有するガラス代替樹脂の開発
上述の三元共重合体は、Tg=120~150℃で溶融成形による光学製品の製造を目指して設計され
た。一方、フラットパネルディスプレイや電子回路部品においては、薄膜トランジスタの形成や
ハンダ接続など、200℃以上の耐熱性が要求される。そこで、耐熱性と低複屈折性に優れるポリマ
ーとして NB/ST 二元共重合体が考えられる。しかしながら、NB と ST の重合反応性が異なるため、
これまでは極めて分子量の低いポリマーしか合成できていなかった。本プロジェクトでは、上述
の Ti フルオレニルアミド錯体を重合触媒とし、重合溶媒などの重合条件を最適化することにより、初めて
分子量 10 万以上の共重合体の合成
6000
に成功した。
5000
共重合体は、一般溶剤に対する溶
解性に優れるため、キャスト法に
よって容易にフィルム成形が可能
である。得られたフィルムは透明
性が高く、全光線透過率>90%で
あった。さらに、耐熱性について
TMA (μm)
今回合成に成功した NB/ST 二元
4000
PMMA
PC
NB-ST copolymer1
NB-ST copolymer2
3000
2000
1000
0
50
100
200
250
300
o
Temperature ( C)
は、図5のように軟化温度>280℃
と極めて高く、シリコン薄膜トラ
150
図5.NB/ST 共重合体の軟化温度測定
ンジスタやハンダリフローに十分に耐える耐熱性を有している。
Ⅲ―10
350
4.連携研究
<東京工業大学野島准教授>
結晶‐非晶ジブロックコポリマーのミクロ相分離構造および相分離構造内での結晶化挙動を
小角X線散乱測定により明らかとすると共に、ミクロ相分離構造と結晶化を制御する因子の解明
および相分離構造変化および結晶化/溶融挙動に対する温度依存性の解析を進め、
低熱膨張化の現
象を見い出し、制御因子の解明を進めることができた。
<広島大学塩野教授>
塩野先生が開発した Ti フルオレニルアミド錯体を用いることによって初めて、B/ST/E 三元共
重合および NB/ST 二元共重合の共重合組成の制御、高分子量化に成功し、優れた光学的、熱的特
性を有する新規の光学ポリマーの合成に成功した。
(5)外部発表成果(件数)
年 度
H13−16 年
H17 年
H18 年
H19 年
特 許
(国内)
2
1
1
0
特 許
(海外)
0
0
0
0
0
0
0
0
2
2
2
2
1
2
4
2
試 料
提 供
展示、プ
レス発表
等
論 文
(6)特記事項
なし
Ⅲ―11
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.1.2 水性塗料材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(a)構造材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(東燃化学)
水性塗料材料の開発
<東工大、広島大、産総研>
(1)背景・目的等
我が国においても大気への有機溶剤放出に関する規制が始まる中、産業界において放出削減の
検討が広く進められている。中でもその溶剤の使用量が多い塗料メーカーは水性化への移行を急
いでいる。塗料使用量の多い産業分野としては建築材料、自動車が挙げられる。自動車における
塗装は下塗り、中塗り、上塗り(ベースコート・クリアコート)と多層構造から成り立っている。
塗料から大気に放出する有機溶剤の9割以上を中塗り、上塗りが占めており、中でも上塗りの一
部であるベースコートはその削減が急務であった。一方、自動車用部品として軽量なプラスチッ
ク材料の使用が進められており、その中でもポリプロピレンの使用量が増加している。その理由
としては安価であるにも関わらず機械的物性バランスに優れており、様々な材料との複合化によ
り更に物性面での改良が推し進められているからである。このような背景の下、VOC 対策の一環
として塗装しステムの改良も進められており、その一つとしてプラスチック材料を車体と一体で
塗装するシステムも開発が進められている。従って、ベースコート用塗料においてポリプロピレ
ンにも適した水性塗料の開発が塗料メーカー、
自動車メーカーにおいて進められてきた。
しかし、
一般にポリプロピレンは極性に乏しく塗装が難しいとされてきた。ポリプロピレン材料向けに現
在検討されている水性化ベースコートは塩素化ポリプロピレンを用いているが、産廃処理時にお
けるダイオキシンの発生が危惧されることから塩素を含まない材料の開発が要望されている。ま
た、塩素化ポリプロピレンは溶剤への溶解性を持たせるためにポリプロピレンへの付着性が一部
犠牲になっている。最近進められている自動車用ポリプロピレン材料の剛性化、
(すなわちポリプ
ロピレン部分の高剛性化)において、付着性が不十分であるとの指摘が塗料メーカーからなされ
てきた。
以上のことから、我々は環境負荷低減と自動車用ポリプロピレン材料への高い付着性を同時に
満たすような環境調和型塗料材料として、従来の塩素化ポリプロピレンでは困難な高剛性(高規
則性)でありながら極性を有するポリプロピレン系材料の開発を目的とした。
Ⅲ―12
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
極性基を有する立体規則性ポリオレフィンを合成し、こ
の材料を用いてポリオレフィン部材表面の化学的性質
を制御することにより、JIS5400 に規定されている接着
強度試験の合格レベルを達成する新規ポリオレフィン
系水性塗料材料を開発する。
塗料としての評価の指標として広く用
いられている JIS5400 を材料の評価指標
に用いて合格レベルの結果を達成する
ことにより、当該水性塗料材料の性能を
市場において明確に位置づけることが
可能となる。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
• 立体規則性と分子量が制御された側鎖に極性基を有するポリプロピレンの合成に成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―15)
• 水酸基含有ポリプロピレンを用いて平均粒径 200~300nm のエマルション合成に成功した。
(事
業原簿 P.Ⅲ―17)
• AFM による水酸基含有ポリプロピレンの表面凝着力測定において、材料表面のナノレベルにお
ける定量的な解析に道筋を立てることに成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―18)
• JIS5400 に規定されている接着強度試験の合格レベルを達成した。
(事業原簿 P.Ⅲ―16,17)
• 水酸基を有するポリプロピレンの特異的な力学特性を見出した。
(事業原簿 P.Ⅲ―18)
②実用化に向けての達成度:
一部塗料メーカーの溶剤系社内テストでも剥離は見られず、JIS5400 に準拠した JCII 内部評価に
加えて市場での評価においても実用化レベルを達成した。また、水性化についても一部塗料メー
カーにて評価を行い、安定なエマルションの生成と基板との良好な密着性については一定の評価
を得ている。今後塗膜強度を向上させることで水性化塗料自体の達成も可能。
Ⅲ―13
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年
度
H13-16年
H17年
H18年
H19年
1)極性基含有ポリプロピレン
基本技術開発
・成果の技術
パッケージ
化(課題も含
めて)
・重合・エマ
ルション化
のスケール
アップ検討
新規構造制御技術開発
の開発
水酸基化技術の開発
2)極性基化技術の開発
新規変性法の開発
課
題
3)水酸基含有 PP 生産性
1 バッチ当たりの生産性向上
改良
安価なモノマー探索
4)水性塗料としての基本
水性塗料基本物性評価
エマルション物性・接着強度
物性評価
5)試作による材料評価
年度別目標
年度別目標達成度
水性塗料総合物性評価
片末端/側鎖に
二重結合を導入
する基本技術の
開発
反応部位導入型
ポリプロピレン
の開発
水性塗料
用材料評
価サイク
ルの確立
接着性の改
良
最終目標
○
○
○
○
(○、△、×)
Ⅲ―14
終了後
達成
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4)研究開発成果
1)H13-H16 の成果概略
プロピレンとブタジエンの共重合により、立体規則性(イソタクチック)を有し炭素-炭素
二重結合の数及び位置を規制して導入したポリプロピレン系共重合体の製造方法の開発に成
功した。
片末端にビニル基を有するポリマーの合成では、その選択性は約 80%で数平均分子量が6千
から3万の範囲で制御可能であり、1 時間平均、ジルコニウム触媒活性点(投入した触媒の全
てが活性点になると仮定)あたりで、約 16 本のポリマー鎖が生成した。
主鎖中に高選択的(90%以上)に二重結合を有する共重合体は新規であり、これを利用した
高分子量(数平均分子量で数万)の両末端ビニル化ポリプロピレンの合成も世界初である。ま
た側鎖にビニル結合を有する直鎖のポリプロピレン系共重合体は世界で始めてである。これら
の技術により数平均分子量 1 万以上で側鎖、主鎖、両末端に 90%以上の選択性で二重結合を導
入することを達成した。
2)極性化技術の開発
塗料業界から導入すべき官能基として特に要望が高かった水酸基について優先的に導入方
法を検討した。水酸基への変換にはビニル基へ付加する効率が高く、水酸基への変換率も高い
ことが知られている反応を採用した。これまでこの反応を高分子反応へ適用した例は少なく変
換効率も 70~80%程度であったため、反応条件の最適化を行ったところ、95%の変換効率を達
成することができた。
ブタジエン
ビニル基
Si Zr Cl
Cl
+ H2
従来:~80%
水酸基
Conv. ≧99%
+
ビニル化PP
Scheme 1
一方、他の極性基導入法としてヒドロシリル化を用いたシラン化合物の導入も検討した。ヒ
ドロシリル化反応の際に反応性の高いクロロシランを使い2段階でアルコキシシランを導入
する方法と、トリアルコキシシランを使い1段階で導入する方法を検討した。トリクロロシラ
ンを用いてヒドロシリル化反応を検討した。シリル化後にモノメチルエーテルポリエチレング
リコール(PEG350)を加え、クロロシラン
と反応させ、アルコキシシリル基に変換し
PEG 350
Si
c
1
た。得られた生成物の H NMR スペクトルを
O a
d
b O c
c O
3
この繰り返しが
6回又は7回
示す。ピーク a~d の積分強度比は
d
24:35:412:45 となり、理論値(2:2:25:3)
a
に近い値を示した。またビニル基に基づく
4.0
3.8
b
3.6
3.4
3.2
PPM
3.0
ピークが消滅していることから、ほぼ全量
10
8
6
4
2
PPM
0
反応し PEG 化シリル基が導入されたポリプ
Fig.1
Ⅲ―15
1
H NMR spectra of PP copolymer after hydrosilylation.
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ロピレンの合成に成功したことがわかった。
一方、トリエトキシシランを用いた検討結果を Table 2 にまとめた。トリクロロシランでは
溶媒(キシレン)存在下でも反応が進行したが、トリエトキシシランでは転化率が低いことが
判明した。文献調査の結果、アルコキシシランを使う場合には、無溶媒で行うことが多いこと
から、トリエトキシシランを溶媒として用いた(entry3)ところ、90%を超える転化率で反応
が進行した。反応前後のサンプ
Tab.1 Results of hydrosilylation of pendant vinyl polypropylene
13
ルの C NMR スペクトルではビ
ニル基に基づく 100ppm 以上の
copolymers with triethoxysilane
entry
solvent
シグナルが消失し、トリエトキ
Time
f 1,2-BD
Conv.
h
mol %
%
シシリル基に起因するシグナ
raw material
ルが新たに観測された。この結
1
xylene
24
1.7
19
果からアルコキシシランを用
2
xylene
48
1.8
16
いたシリル基付与の方法を見
raw material
いだすことができたと結論づ
3
2.1
4.1
HSi(OEt)3
8
0.3
93
けることができる。
3)水酸基含有ポリプロピレンの生産性改良
コモノマーの原料である 5-Hexene-1-ol は単価が高く生産コストの多くを占めている。そこ
でクラレより市販されておりより安価な 7-Octen-1-ol とトリイソブチルアルミニウムの反応
物(BO1)をコモノマーとしてジルコノセン触媒によりプロピレンとの共重合を行い、コモノ
マー原料の代替によるコスト削減の可能
性を検討した。BO1 を用いた場合の重合活
OH
性は BH1 を用いた場合とほぼ同等であり、
得られた共重合体の水酸基含有率・規則
性・分子量についても BH1 を用いた場合と
OH
i-Bu
i-Bu
Al
i-Bu
Al
i-Bu
i-Bu
i-Bu
TIBA
TIBA
i-Bu
比べ顕著な差は見られなかった。このこと
から、BO1 を使用する場合でも BH1 の場合
7-Octen-1-ol
(7-OEA)
5-Hexen-1-ol
O
i-Bu
Al
O
i-Bu
BH1
Al
i-Bu
BO1
と同様の条件で共重合体の合成が可能で
Scheme 2 Synthesis of BH1 and BO1
あることが明らかとなった。
4-1)マクロ物性評価技術開発
水性塗料用材料として開発している、極性基の導入されたポリプロピレン共重合体の他の材
料への接着挙動を調べる手法を確立することを目標とした。接着強度の評価に用いたサンプル
は、極性基導入されたポリプロピレンのモデル物質として新たな末端修飾法により合成された
末端水酸基導入ポリプロピレン、有機アルミニウムによりマスクされた極性モノマーとの共重
合手法により得られた側鎖に水酸基が導入されたポリプロピレンなどで、市販されている iPP
やアクリル樹脂への接着性を評価する手法を検討した。
接着性評価手法としてクロスカット法を採用し、本系で接着性の評価に用いることが出来る
Ⅲ―16
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ことを見いだした。また、樹脂の構造と接着性との間に関係を見いだし、アイソタクチックポ
リプロピレン樹脂及びアクリル樹脂への接着性の優れる構造を明らかにした。さらに、サンプ
ルの構造を最適化することにより JIS5400 規定の剥離試験合格レベルを達成したことを確認
した。
4-2)エマルション化技術の開発
今後の事業化を見据えてエマルジョン化手法の検討を行った。
(Table2)Mw=15 万、水酸基含
量 6mol%の水酸基含有ポリプロピレンを有機溶媒に溶解した後水を添加し撹拌すると単独溶媒
系ではポリマーが析出してしまうが、THF など一部の極性溶媒との混合系では析出が見られな
かった。キシレン・シクロヘキサン・メチルシクロヘキサンと THF の混合溶媒系が良好な結果
を示した。脱 VOC の観点からシクロヘキサン・THF 系において界面活性剤の影響を調べたとこ
ろ、ノニオン系では HLB 値が高い方がエマルション粒径が小さく、モノアルキルポリエーテル
グリコールタイプのNL-600が最も優れていることが判明した。アニオン系ではNL60
0よりも若干劣るもののラムテルE150、ラムテルE118が良好なエマルジョンを形成し
た。固形分濃度は NL600 でも 20%が限界だが、樹脂の分子量を下げると固形分濃度 30%のエマ
ルションを得ることに成功した。
Table 2
Effect of surfactant on the water-base emulsion concentration of
PP with pendant hydroxy group
SA
5%
10%
15%
20%
30%
NL-600
103
158
171
260
NG
EA-167
95
158
NG
NLSS
77
NG
210*
NL-600
Unit : nm (Z average diameter of each emulsion concentration)
Remarks * : PP with pendant hydroxy group: Mw 56000(synthesized from PP
with pendant vinyl group)
5)試作による材料評価
大量合成サンプルの接着性評価を塗料メーカーに依頼したところ、溶剤系では JIS5400 に規
定された接着強度レベルを達成していることがわかった。従って、JCII 内部評価のみならず
市場評価においても本プロジェクトの最終目標を達成したことが確認出来た。水系については
安定なエマルションが生成し、PP 基盤との接着性も良好であることがわかった。今後水性塗
料として製品化していくためには、我々の提供したサンプルに適した配合の最適化を行う必要
がある。
Ⅲ―17
Ⅲ
公開
研究開発成果について
また、水酸基含有ポリプロピレンは共重
Table3
properties
of
massive
production
合により弾性率を低下させることなく高
サンプル
試作量
分子量
(Mw)
い耐衝撃性を有する材料として特異な力
サンプルA
2kg
53万
1.3
98
学特性を示した。また、ホモ PP とのアロ
サンプルB
6kg
15万
6.4
98.4
水酸基含有率 イソタクチック規
(mol%)
則性(mm / %)
イでは結晶ドメインサイズを小さくする効果があるなど高分子系核剤のような働きをするこ
とも分かってきており更なる用途展開の可能性を見出した。
6)連携研究
合成については精密合成技術開発をプロジェクト前半から継続して行ってきた。広島大学・
塩野教授との連携では主鎖又は側鎖に反応部位を有するポリマーを高い共重合性を有する高
速リビング重合により合成することに成功している。産総研との連携ではモデル化合物として
の末端官能基化ポリプロピレンの合成や生産性改良のための新規モノマー探索に成功してい
る。これらの合成技術により得られたポリマーは新規用途開発、実用物性評価や界面評価技術
開発などに用いることが可能である。
東工大・西教授との連携では、これまでブラックボックスとなっていた接着強度などのマク
ロ物性と樹脂の 1 次構造との相関を見出すことを目的とした。分子量及び水酸基量の異なる水
酸基含有ポリプロピレン樹脂表面の凝着力を測定において、PP 基盤との接着強度のシミュレ
ーションとなる疎水探針-水酸基含有 PP 間の凝着力は水酸基量にほぼ依存せず分子量が 15 万
を超えるような場合に特異的に高い凝着力と狭い凝着力分布を示すことが分かった。このよう
に接着現象を界面においてナノレベルで定量的に解析し分子レベルで接着現象を理解するこ
とにより、材料設計に必要な 1 次構造へフィードバックするシステムの構築が達成出来た。
Ⅲ―18
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果(件数)
年 度
H13−16年
H17 年
H18 年
H19 年
特 許
(国内)
6
―
―
1
1
―
―
―
試 料
提 供
―
―
3社
3社
展示、プ
レス発表
等
3
1
1
1
論 文
4報
1報
―
―
特 許
(海外)
(6)特記事項:
特になし
Ⅲ―19
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ-1.1.3 低誘電損失材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(b)光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(日立製作所)
低誘電損失材料の開発
<東工大、九大、産総研>
(1)背景・目的等
近年、電子機器は更なる情報の高速化・大容量化へ対応するため、電子回路の高密度化と共に
GHz帯域の高周波信号の利用が進んでいる。一方、信号が高周波化すると絶縁体の分子振動が誘
起されやすくなり、信号の伝送損失が上昇する。そのため、高周波回路基板では発熱や信号の減
衰といった配線基板内部での問題が生じやすい。伝送損失の要因として、主に配線による導体損
失と絶縁材料による誘電損失が挙げられる。このうち、誘電損失αは絶縁材料固有の値である比
誘電率ε’、誘電正接 tanδ、信号の周波数 f から、次式で求められる。
α ∝ ε ' ⋅ f ⋅ tan δ
配線基板を高周波領域で使用するためには、絶縁材料の比誘電率 ε’ 、誘電正接 tanδ を低く抑え
る必要がある。また、絶縁材料の成型プロセスで必要となる溶解性や成膜性、さらには、はんだ
リフロで必要な耐熱性(250℃以上)等の性能も必要である。低誘電損失材料としてポリフェニレ
ン系材料、脂環式高分子材料、含フッ素系樹脂などが挙げられるが、製造プロセス適合性や耐熱
性の点で課題が多く、電子部品への用途は限られる。本研究では、上記の背景を踏まえ、ε’ およ
び tanδ が低く、かつ製造プロセスに適合するような特性を持つ新規の低誘電損失樹脂材料の実
現を目的とする。
Ⅲ―20
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
結合位置選択性に優れた酸化カップリング反応を用い
て、芳香族モノマーから 10GHz における誘電正接 0.001
以下ではんだ耐熱性を兼ね備えた樹脂材料合成法を確
立し、電気信号伝転送特性に優れた電子機器配線基板材
料を開発する。
エンプラ並の強度と耐熱性、フッ素系樹
脂(PTFE)に匹敵する低誘電損失を併せ
持つ樹脂の開発により、高周波用電子部
品分野で 1000 億円/年の市場が期待さ
れる。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
・低誘電損失樹脂として新規にアリル化 PPE を開発し、その量産化に向けた大量合成法を確立し
た。また、開発樹脂を用いて誘電正接=0.001 のプリント基板用低誘電損失樹脂組成物を開発する
とともに世界最高レベルの低損失性を有する大型多層プリント基板(□500mm)の試作に成功し、
開発目標を 100%達成した。
(事業原簿 P.Ⅲ―23,24,25,26)
②実用化に向けての達成度:
・ 水相と有機溶媒相の混合系による不均一系酸化カップリング重合法により、開発した熱硬化性
PPE 樹脂(アリル化 PPE)の分子量を任意に制御可能な重合方法を開発した。また、外注によ
るキログラムスケールの樹脂製造に成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―23,24)
・ アリル化 PPE を用いたプリプレグにより多層積層板の試作を実施した結果、従来のエポキシ基
板製造プロセスによる積層板の製造に成功した。また、外注試作により積層板の大判化(□
500mm)にも成功した。
(事業原簿 P.Ⅲ―26)
・ 多層積層板について高周波信号の伝送特性を評価した結果、市販品で最も優れた性能を示し
た。また、誘電正接はフッ素樹脂基板とほぼ同等の値を示した。
(事業原簿 P.Ⅲ―26)
・ 新規低誘電損失樹脂材料として、複数のユーザーからコンタクトを受け、電子部品材料や低誘
電損失被覆材等への応用について検討を実施予定である。
・ 上記材料の実用化を進めるため、電子部品への応用クレームを包含する特許を7件出願した。
・ 不均一系酸化カップリング重合によるスケールアップ対応、製造条件の確立後、当該樹脂材料
を用いた電子部品材料の実用化についての検討を行い、開発材についてプロジェクト終了後 3
年後の本格展開を図る。
Ⅲ―21
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年 度
1)高分子骨格構
造決定
2)物性により分
課 子構造を最適化
3)量産に対応し
題
た合成条件の確
立
4)小規模基板試
作
年度別目標
年度別目標達成度
(○、△、×)
H13-16 年
H17 年
H18 年
分子構造の
最適化
H19 年
大量合成
条件確立
誘電正接:tanδ≦0.001 (10GHz)
構造探索
小規模
試作
連携(界面接着技術の開発)
連携(樹脂界面構造の観察)
tanδ≦0.002
(10GHz)の達成
tanδ≦0.001
(10GHz)の達成
アリル化 PPE
大量合成条件の
確立
開発材を用いた
多層積層板の
小規模試作
○
○
○
○
Ⅲ―22
終了後
開発材料を用い
た低コストコン
ポジット材開発、
量産試作評価、信
頼性試験、用途展
開、市場検討につ
いて化学品メー
カー、電子部品メ
ーカーと協議を
重ねた上で PJ 終
了後 3 年後の本
格展開を図る。
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4) 研究開発成果
① 分子構造の最適化(熱硬化性アリル化 PPE の開発)
低誘電損失材料として、本研究ではベンゼン環と酸素原子が交互に結合したポリ(フェニレン
エーテル)
(PPE)骨格を有する樹脂に着目した。PPE の改良方法として、本研究では酸化カップ
リング共重合を利用した PPE 共重合体の検討を行ってきた。その結果として、PPE の側鎖に熱硬
化性のアリル基を導入したアリル化 PPE 共重合体の開発に成功した(式 1)
。アリル化 PPE はアリ
ル基の効果により溶剤への親溶媒性が高まり、室温でトルエンに可溶な樹脂となった。また、硬
化後は樹脂の軟化が抑制されて成型物の高温安定性が高くなり、従来の PPE 樹脂と比較して電子
部品の製造プロセス適合性が格段に向上した。
分子量分布の広いアリル化 PPE の誘電正接は、分岐構造によって PPE よりも高い値(tanδ =0.003
(10GHz)
)を示した。対策として狭分子量分布化のために塩化銅とピリジンの配合比を精査し、
ピリジンの配合量を増すことで樹脂の分子量分布を狭くした(図 1)
。これにより分子量分布が狭
く、誘電正接の低い(tanδ =0.002(10GHz)
)アリル化 PPE を得た(表 1)
。
O2
OH
分子量分布 Mw / Mn
1000
+
OH
O
Copper-amine
catalyst
O
m
100
n
式1 アリル化 PPE の酸化カップリング共重合
10
表1 アリル化 PPE の分子量、分子量分布
および誘電損失特性の関係
1
Mw / Mn = 2
0.1
10
100
1000
ピリジン / 塩化銅(Ⅰ) モル比
10000
図1 ピリジン/塩化銅(Ⅰ)のモル比と分子量分布
モル比
Mn
MWD
66
660
44,000
47,000
15.6
2.4
(10 GHz)
ε’
tan δ
(10 GHz)
2.5
2.4
0.003
0.002
DMP 3.30 g (27.0 mmol), AMP 0.44 g (3.0 mmol),
CuCl(I) 0.42 g (4.0 mmol), Toluene 150 mL,
Pyridine 21.2 mL (0.264 mol), 212.4 mL (2.64 mol),
Magnesium sulfate 20.0 g (16.6 mmol),
30 ℃, 90 min,
under a stream of oxygen (50 mL/min)
Molding: 260 ℃, 60 min
DMP 3.30 g (27.0 mmol), AMP 0.44 g (3.0 mmol),
CuCl(I) 0.042 - 0.42 g (0.04 - 4.0 mmol),
Pyridine 10.6 - 212.4 mL (0.132 - 2.64 mol),
Toluene 150 mL, Magnesium sulfate 20.0 g (16.6 mmol),
30 ℃, 90 min, under a stream of oxygen (50 mL/min)
② 大量合成条件の確立 (アリル化 PPE の不均一系重合法)
酸化カップリング共重合について、精製処理の簡素化などを目的として、Cu-TMEDA 触媒を用い
た水とトルエンの不均一系による重合を検討した。図2にトルエンを溶媒とした銅-TMEDA 錯体触
媒系における、アリル化 PPE の分子量変化の比較を示した。不均一系の重合においても、均一系
と同様に反応時間に比例して分子量が増加しており、酸化カップリング重合が進行したと推定で
きる。また、水の添加量によって得られた分子量が異なっており、重合条件によって分子量制御
が可能であると推定できる。また、いずれの条件でも分子量分布は狭く、分岐等は形成されにく
いと推定できる。重合溶液を光学顕微鏡によって観察した結果、1~5μm 程度の水滴が、樹脂を
溶解したトルエン相をマトリックスとして分散しており、水量の増加に従って水滴の数が増える
様子を確認することができた。図3に水の添加量とアリル化 PPE の 10GHz における誘電率、誘電
正接への水添加の影響を示した。再沈殿により精製したアリル化 PPE は、水を加えずに重合を行
Ⅲ―23
Ⅲ
公開
研究開発成果について
った場合、誘電率、誘電正接が高いものの、水の添加量が増すにつれて精製効率が高まり、誘電
特性が改善した。また、アリル化 PPE の銅イオン濃度測定を行った結果、水の添加量が増えるに
したがって銅イオン量が減少し、
水添加量 2ml 以上では銅イオン量は 2ppm 付近でほぼ一定となっ
た。不均一系重合は精製プロセスの簡略化が可能で、量産化などのスケールアップに適した重合
法であると推定できる。
(a)数平均分子量変化
(b)分子量分布変化
4
分子量分布 Mw/Mn
数平均分子量 Mn
50000
40000
30000
20000
10000
0
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
0
6
1
2
3
4
5
6
反応時間(hr)
反応時間(hr)
図2 水の添加量とアリル化 PPE の数平均分子量および分子量分布の変化
分子量分布変化の比較 (◆ 添加なし、● 水 1mL、■ 水 2mL、▲ 水 4mL 添加)
2.55
0.004
2.50
0.003
2.45
0.002
2.40
0.001
2.35
誘電正接 tanδ
誘電率 ε'
DMP 9.90 g (81.1 mmol), AMP 1.34 g (9.0 mmol), Cu-TMEDA 0.464 g (1.0 mmol),
H2O 0 – 4mL, TMEDA 1.0 mL, Toluene 50 mL, 40 ℃, 6 h, under oxygen
0.000
0
1
2
3
水添加量 (ml)
4
5
図3 アリル化 PPE の誘電率、誘電正接への水添加の影響(測定周波数:10GHz)
(◆:誘電率、■:誘電正接)
DMP 9.90 g (81.1 mmol), AMP 1.34 g (9.0 mmol), Cu-TMEDA 0.464 g (1.0 mmol),
H2O 0 – 4mL, TMEDA 1.0 mL, Toluene 50 mL, 40 ℃, 6 h, under oxygen,Molding: 260℃, 60min
③ 誘電正接:tanδ≦0.001 (10GHz)構造探索 (BVPE-アリル化 PPE 複合化物の開発)
アリル化 PPE の更なる低誘電損失化の方法として、
スチレン系樹脂材料との複合化に着目した。
本研究ではアリル化 PPE の更なる低誘電損失化を目的として、多官能スチレン架橋剤であるビス
ビニルフェニルエタン(BVPE)との樹脂複合化物について検討を行った。BVPE と PPE、BVPE とア
リル化 PPE についてそれぞれ樹脂複合化物を調製し、
高温安定性について評価を行った結果、
BVPE
が増すことで樹脂の貯蔵弾性率変化が小さくなり、樹脂の高温安定性が高まった。また、PPE 複
合化物と比較して、アリル化 PPE 複合化物の貯蔵弾性率変化が小さくなる傾向を示した。BVPE と
アリル化 PPE の樹脂複合化物は架橋基を持たない PPE の複合化物と比較して樹脂同士の親和性が
高く、高温安定性の高い樹脂硬化物が得られたと考えられる。
また、図4に複合化物の引っ張り強度および伸び率を示した。アリル化 PPE 複合化物は架橋反
応によって樹脂同士の結びつきが PPE よりも強く、樹脂の強度が高くなった。また、PPE 複合化
物は PPE 含有量が低下するに従って引張り強度は低下したが、アリル化 PPE 複合化物は樹脂含量
が50重量%以下となるまで、
引張り強度はアリル化PPEのみの硬化物とほぼ同等の強度を示した。
Ⅲ―24
Ⅲ
公開
研究開発成果について
一方、樹脂の延びは PPE 複合化物がわずかに高い値を示した。
また、微小な相分離構造を観察するために、EF-TEM(エネルギーフィルター透過型電子顕微鏡)
による酸素原子のマッピングを行った(図5)
。PPE 複合化物と比較して、アリル化 PPE 複合化物
は相分離構造が小さく不明瞭になり、アリル化 PPE が 50 重量%以上になると EF-TEM で相分離構
造を確認することができなかった。これは、BVPE とアリル化 PPE の架橋反応によって、相分離の
形成が抑制されたためと推定される。また、これにより物理特性の向上にも寄与したと考えられ
る。
図5に BVPE-PPE および BVPE-アリル化 PPE の樹脂複合化物の誘電特性を示した。PPE、アリル
化 PPE とも誘電率はほぼ直線的に変化し、BVPE と PPE 樹脂の混合比を反映した。一方、誘電正接
は PPE 樹脂導入量が 50 重量%以下の条件では誘電正接が 0.0015 以下となり、BVPE の誘電特性に
近い値を示した。
いずれの複合化物も BVPE の複合化によって樹脂の誘電特性が大幅に向上したと
考えられる。
また、BVPE と PPE、アリル化 PPE の樹脂複合化物についてはんだ耐熱性(288℃20sec)を評価
した結果、アリル化 PPE 複合化物は PPE 含量 75 重量%以上のサンプルでも変形が見られず、優れ
たはんだ耐熱性を示した。一方、PPE 複合化物は PPE 樹脂含量が 50 重量%以上のサンプルでは変
形が起こり、十分なはんだ耐熱性を示すことができなかった。この結果から、BVPE とアリル化 PPE
の複合化物は、はんだリフロープロセスに対応可能な高耐熱樹脂材料であると推定できる。
以上の結果から、アリル化 PPE と BVPE を複合化した硬化物は極めて優れた誘電特性(ε’ = 2.4、
tanδ = 0.001(10GHz))を示す樹脂材料であることを見出した。また、耐熱性や引っ張り強度などの
物理特性も高く、高周波用の絶縁樹脂材料として優れた性能を示した。
20
60
15
40
10
20
5
0
0
0
20
40
60
80
PPE樹脂含有量 (%)
PPE/BVPE
伸び率 (%)
25
80
引張り強度 (MPa)
100
100
図4 BVPE-PPE,アリル化 PPE 樹脂複合化物の
引張り強度試験結果
(◆:アリル化 PPE、◇:BVPE-PPE)
PPE-25wt%
PPE-50wt%
PPE-75wt%
600nm
200nm
200nm
oxygen map
O-rich/O-poor ratio
2.23
1.41
1.41
Allyl-PPE/BVPE
Allyl-PPE-25wt%
Allyl-PPE-50wt%
Allyl-PPE-75wt%
oxygen map
0.0030
PPE
アリル化PPE
2.40
0.0025
2.38
0.0020
2.36
0.0015
2.34
0.0010
0
25
50
75
PPE樹脂含有量(%)
200nm
誘電正接 tanδ
誘電率 ε’
2.42
O-rich/O-poor ratio
2.52
200nm
200nm
(not detected)
(not detected)
図5 BVPE-PPE,アリル化 PPE 樹脂複合化物の
EF-TEM 観察結果(酸素マッピング)
PPE: Mn = 23,000, Mw/Mn = 2.7
Allyll-PPE: Mn = 24,000, Mw/Mn = 2.4
Molding: 230℃, 60min
100
図6 BVPE-PPE,アリル化 PPE 樹脂複合化物の
複合化条件と誘電率、誘電正接の関係(10GHz)
④ 小規模試作 (多層積層板の試作評価、伝送特性評価)
アリル化 PPE、BVPE 複合化物をベースとして、低誘電損失樹脂プリプレグおよび銅張積層板の
Ⅲ―25
Ⅲ
公開
研究開発成果について
試作および積層板の評価を行った。BVPE とアリル化 PPE を溶解した樹脂ワニスに難燃剤やシリカ
フィラー等を混合し、
プリプレグ調製用の樹脂溶液を調製した。
樹脂溶液を均一に分散させた後、
NE ガラスクロスを樹脂溶液に含浸させて樹脂プリプレグを得た。6層に重ねたプリプレグとロー
プロファイル銅箔を真空プレスによって成型を行い、銅張積層板を作成した(成型条件:230℃/
1時間、成型圧力:2MPa)
。銅張積層板の特性を表2に示した。PTFE 基板と比較して高温安定性
に優れ、誘電特性も PTFE 基板に匹敵する優れた特性を示した。また、積層板はピール強度、はん
だ耐熱性、難燃性についても積層板の要求特性を満たしており、低誘電損失銅張積層板として十
分な性能を示した。
また、□500mm の大型多層配線板の試作およびそれを用いた伝送特性評価を行った。図7に大
判化を行った銅張積層板を示した。銅張積層板は汎用の多層基板製造プロセスによって多層化、
電子回路描画が可能であり、□500mm の多層積層板中に伝送特性評価用の回路を形成した。図8
に試作を行った□500mm 多層積層板の伝送特性評価結果を示した。試作積層板は市販の低誘電損
失積層板と比較して伝送損失が低く、優れた伝送特性を示した。特に 1~6GHzの高周波領域
において、試作品は PTFE 基板に匹敵する低誘電特性を有することから、PTFE 代替基板としても
使用できるものと推定する。本低誘電損失多層積層板は、高周波信号を利用した無線デバイスの
用途拡大や、高速サーバ、通信システム用ルータなど、信号の高速大容量化に対応可能な次世代
基幹材料として大きな役割を果たすものと期待される。
表2 開発材を用いた銅張積層板の特性
PTFE基板
(比較材)
目標値
開発基板
Tg (℃、TMA)
180≦
188
30
α1(ppm/℃)
≦50
48
173
0
ε’ (10GHz)
≦3.0
3.1
2.7
-5
tanδ (10GHz)
≦0.002
0.002
0.002
0.6≦
0.8
0.8
2.5
変形なきこと
変形なし
変形なし
難燃性 (UL-94)
V-0
V-0
V-0
プロセス性
加工温度≦230℃
多層化容易
180~230
○
300≦
×
材料コスト
≦10k\/kg
12
20≦(推定)
伝送損失 / dB/m
ピール強度 (kN/m)
はんだ耐熱(260℃20s)
試作品
(tanδ =0.001)
-10
市販品①
(tanδ =0.002)
-15
-20
市販品②
(tanδ =0.005)
-25
-30
FR-4
(tanδ =0.021)
-35
-40
0
1
2
3
4
5
6
周波数 / GHz
図8 各積層板の伝送特性評価結果
(積層板の誘電正接:1GHz)
500mm
(銅箔:18 μm、8層基板)
図7 伝送特性評価用多層積層板(□500mm)
(ロープロファイル銅箔、NE ガラスクロス)
⑤ 連携研究
平滑銅箔と樹脂材料の接着技術:表皮効果による導体損失の低減を目的として、平滑銅箔と樹
脂の接着について検討した。アンカー効果のない平滑銅箔は接着性に乏しいため、平滑銅箔表面
にカップリング剤等による処理を行った。その結果、銅の表面にアクリル系のシランカップリン
Ⅲ―26
Ⅲ
公開
研究開発成果について
グ剤層、Co 層を設けることで、優れたピール強度を示すことが明らかとなった(0.8kN/m at
Rz=2.0μm)
。今後の課題として、更なる平坦化、接着強度の向上に関する検討が挙げられる。
EF-TEMを用いた樹脂複合化物の相分離構造の観察:BVPEとアリル化PPE硬化物の界面構造検討、
PPE 硬化物との比較を詳細に検討し、樹脂耐熱性や樹脂強度向上の原因として相分離サイズの違
いが挙げられることを明らかにした。詳細は BVPE-アリル化 PPE 複合化物の項に示した。
(5)外部発表成果(件数)
年 度
H13−16 年
特 許
(国内)
2件
H17 年
2件
(海外1件含む)
特 許
H19 年
2件
1件
1件
(海外)
1件
試 料
提 供
展示、プ
レス発表
等
H18 年
(3種)
2件
1件
論 文
(6)特記事項:
特になし
Ⅲ―27
1件
3件
4件
2報(連携によ
1報
る1報含む)
(+1 報提出中)
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.1.4 ホログラム記録材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(日東電工)
ホログラム記録材料の開発
<東工大、産総研>
(1)背景・目的等
大規模情報を記録再生できる次世代記録技術として、ホログラム記録技術の実現が熱望されて
いる。この候補材料として無機塩材料、フォトリフラクティブ材料、フォトポリマー、さらにア
ゾベンゼンなどの光異性化材料が提案されている。フォトポリマーは書き込み感度に優れている
がライトワンスであり記録時の重合収縮が問題となっている。アゾベンゼン系では感度は劣るも
ののリライタブルであり記録方式が分子配向に基づくため収縮の問題がない。そこで、アゾベン
ゼン系の技術をベースとし、その感度が高く、情報書き込み密度向上につながる厚膜形成可能な
材料の開発を行った。フィルム化を目的としたポリマー材料として、これまでいくつかのグルー
プによりアゾベンゼン含有ポリマー材料(分子量1万程度以上)が報告されているが、フィルム
形成することが目的であれば、分子鎖のからみ合いの少ないと期待される分子量1000程度の
オリゴマー材料でも十分にフィルム形成能があるということを我々のグループでは見出している。
そこで、本研究では、液晶機能と光異性化機能の複数成分を同一のオリゴマー分子構造に導入す
ることで、配向性や光記録感度特性に優れたフィルム化可能なガラス化液晶材料を開発すること
を目的とした。このような精密に設計されたガラス化液晶化合物により、液晶配向固定化がより
高レベルで達成可能になり、フィルム加工性、記録書き換え性、光記録感度特性などに優れた配
向固定フィルムやホログラム記録材料の実現に貢献するものと考えられる。
Ⅲ―28
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
配向構造が 10μm 以上連続する液晶部位含有多分岐体の合 当該液晶多分岐体が実現できれば、配向
成技術とその配向の光可変技術の確立により、感度 0.1cm2 性や光記録感度特性に優れた光学フィ
/J 以上の物性を有する書き換え可能なホログラム記録材 ルムの作製が可能になり、高感度で書き
換え可能なホログラム記録材料の創出
さらに、配向性、透明性、光感度特性に優れる液晶多分 が期待される。
岐体を獲得し、光書き込み感度の高感度化(0.5cm
2
/J)を目指す。さらに、ホログラム記録の上市へ向け
て業界標準規格における多重記録、感度評価、繰り返し
記録性の評価を行う。また、連携においては、記録材料
の最適な材料設計、配向条件および光記録条件を決定す
べく、高感度な液晶多分岐体の分子設計および液晶フィ
ルムの厚み成分ごとの配向構造秩序評価を行う。
料を開発する。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
・ガラス化特性を持つことでフィルム塗布性に優れた、複数の機能基を持つ単一分子量オリゴマ
ー化合物(3,4,5,6,8,12量体)を簡便に合成する手法を確立した。
(事業原簿 P.Ⅲ―
31)
・この手法によって得られたガラス化液晶を用いることで、透明かつ均一配向した薄膜を作製す
ることに成功した(最大100μm)
。
(事業原簿 P.Ⅲ―31)
・液晶配向薄膜へのレーザー干渉露光による光書込み評価において、従来型のポリマー薄膜にお
(事業原簿
ける光書き込みよりも書き込み感度に優れる特性(0.57cm2/J)を達成した。
P.Ⅲ―32)
・業界標準規格での多重記録、感度評価、繰り返し記録特性を持つことを確認した。
(事業原簿 P.
Ⅲ―32)
②実用化に向けての達成度:
フィルム自立性と書き込み応答性に優れた中分子ガラス化液晶の骨格構造を設計できたことは
高い価値を創出したといえる。また、この研究によって得られた材料を元に、ホログラム記録業
界標準での評価を行ったとともに、リライタブル記録材料における最高の書き込み感度特性を達
成した。
(事業原簿 P.Ⅲ―32)
Ⅲ―29
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年 度
H13-16年
H17年
H19年
H18年
ガラス化液晶材料骨格合成
高効率合成手法開発
①材料合成技術
の確立
高感度光異性化剤合成
高感度液晶光異性化剤合成
課
題
素子作製
②配向(評価)技術
の確立
③光記録性能の評
膜厚10μm
UV露光
価および改良
膜厚100μm
二光束干渉露光
多重露光干渉
年度別目標
年度別目標達成度
・中分子ガラス
化液晶の基本骨
格の構築。
・配向フィルム
のUV照射によ
る配向シフト。
○
・膜厚10μ
m以上の配向
した液晶膜を
得る。
○
(○、△、×)
・感度 0.5
cm2/J 以上
△
(H18 では
0.27 、 H 19
に達成)
Ⅲ―30
・多重記録、
リライタビリ
ティ特性を有
する。
・膜厚10μ
m以上の配向
した液晶膜を
得る。
○
終了後
ホログラム標
準規格目標ス
ペックとの整
合確認した
上、メディア
メーカーとの
協業と素材技
術供与を並行
検討し、5年
後の商品化を
目指す。
波及成果の光
学補償フィル
ムへの適用に
ついても、光
学設計、実用
特性を検討
し、4年後の
上市を目指
す。
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4)研究開発成果
① 単一分子量オリゴマー液晶材料の合成検討
フィルム塗布性と配向性‐光書き込み感度特性を併せ持った中分子ガラス化液晶材料として、
単一分子量オリゴマー骨格(3,4,5,6,8,12量体)を簡便に合成する手法を確立した。
従来からアクリルポリマーの原料として用いている液晶アクリルモノマーを原料として用い、シ
アノ酢酸エステル類とのマイケル付加反応によって、簡便(室温で温和な触媒反応)
、高速(3
0分以内)
、定量的(収率90%以上)に目的の単一分子量ガラス化液晶化合物を獲得した。
3
4
O
O
NC
O
O
O
O
O
O
5
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
CN
O
O
NC
O
O
O
O
O
CN
O
O
O
O
NC
O
O
O
O
O
O
O
O
O
6
O
O
O
O
O
NC
O
O
O
O
O
CN
O
CN
O
O
12
O
O
8
O
O
O
O
O
O
O
O
NC
O
O
CN
NC
O
O
CN
O
O
O
O
O
O
O
CN
O
O
O
CN
NC
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
CN
O
CN O
O
O
O
O
O
O
O
O
O NC
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
液晶アクリルモノマー
O
O
O
O
O
O
O
O
O
② ガラス化液晶の配向技術
上記手法によって得られたオリゴマー液晶化合物の中の三量体(トリマー)において、均一配
向した薄膜を作製することに成功した。従来型のポリマー型液晶を用いた配向薄膜化のいては、
せいぜい3μm程度の均一配向薄膜化が可能でありそれ以上の膜厚では白濁してしまっていた
が、当検討によって得られたトリマー液晶を用いレベリング剤添加や加熱配向条件検討により、
溶液塗布手法において最大20μm、配向膜挟み込み法においては最大100μm厚の白濁のな
い均一配向フィルムを作製することに成功した。
③ ホログラム光書き込み検討(二光束干渉露光記録評価)
作製した液晶配向フィルムに対してホログラム記録を行い、その光書き込みの感度を評価した。
波長 532nm レーザー二光束干渉露光のエネルギー量に対する回折効率値の立ち上がりの評価結果
を下図に示す。吸収波長が比較的長波長の赤色アゾベンゼントリマー(azo-red)を用いて作製
した5μm厚サンプルと、黄色アゾベンゼントリマー(azo-yellow)を用いて作製した100μm
厚サンプルにおいて、露光エネルギー量に対する回折効率値の立ち上がりはいずれも文献等で公
開されている他グループのアゾベンゼンポリマー材料の立ち上がりよりも大きく、回折効率とエ
Ⅲ―31
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ネルギー値から算出される感度(cm2/J)での比較においても、azo-red、azo-yellow、他グ
ループ材料における値はそれぞれ0.57、0.28、0.09であり、本検討において得られ
たアゾベンゼン材料が光書き込み感度に優れるものであることが判明した。なお、書き込みの感
度0.57は、当初目標としていた値0.5を超えるものであり、これらの結果から、ホログラ
ム書き込み感度向上に関する目的は達成されたといえる。
azoazo-red
H
100 μm
O
35
30
azoazo-yellow
CN
O
2
25
O
O
NC
N
N
N
20
NO2
azo-red
15
H
2
O
NC
azo-yellow
O
O
O
CN
O
5 μm
10
5
other group
0
N
N
O
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
Energy [mJ/cm2]
④ ホログラム業界標準規格での評価
ホログラム記録の業界標準規格での評価を行うべく、この分野の第一人者の豊橋技術科学大学
井上教授(有限会社フォトネット)の指示の下、ホログラム書き込みの多重記録評価、感度評価
(③の内容参照)
、追記録特性の評価を検討した。二光束干渉露光を同一箇所に多重記録する評
価においては、59多重記録が可能であることが判明したとともに、追記録特性についても10
回の熱モード書き換えが可能であることを確認し、既存リライタブル記録材料と同様の特性の発
現を確認した。
⑤ 連携研究
上田研究室との連携検討においては、光応答性と自己支持性に優れた液晶部位を有する多分岐
中分子液晶化合物を単一分子オリゴマー構造として簡便に合成する手法の指導して頂いた。
産総研横山研究員との連携検討においては、透過エリプソメトリーおよびリアクティブエッチ
ングの併用等によって、液晶フィルムの配向構造の深さ方向分割での膜内部配向構造の乱れを解
明して頂き、配向フィルムの配向限界の見極めをして頂いた。さらに、配向性向上の検討の中で、
溶媒雰囲気での加熱による厚膜フィルムの配向促進の手法についても指示して頂いた。
Ⅲ―32
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果(件数)
年 度
H13−16年
特 許
(国内)
H17
H18
2
3
特 許
H19
6
(海外)
試 料
提 供
展示、プ
レス発表
等
2
1
1
論 文
1
2
(6)特記事項:
IDW/AD'05 (2005/12/7)にて、”Outstanding poster award”を受賞。
Ⅲ―33
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.1.5 反射防止膜材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(b)光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
産総研
反射防止膜材料の開発
<九大、日東電工、名大>
(1)背景・目的等
プラズマディスプレー、液晶ディスプレーをはじめとして様々なディスプレーが開発され、大
型化している。ディスプレーの形式を問わず、最表面に要求される性能は、低反射率化による視
認性の向上である。従来からある蒸着によるマルチコートでは、反射率を十分低下できるが、大
型化したディスプレーへの対応が難しい。一層コーティングにより低反射率化することが望まれ
ているが、一層のコートにより低反射率化するためには、現在の低屈折率材料(1.36~1.45)の
更なる低屈折率化が不可欠である。しかしながら、既存の材料で屈折率 1.36 を切るのは極めて困
難であり、空気(屈折率 1.0)の導入による低屈折率化が唯一の手段である。しかしながら、100nm
程度の薄膜に空孔を導入すること自体が困難であり、また空孔が光の波長よりもはるかに小さく
なければ、光の散乱による白濁化で光学フィルムとしては使えない。ナノサイズの空孔を導入す
る手法が望まれている。
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
ブロック共重合体テンプレートと超臨界二酸化炭素
プロセスを利用したナノ多孔化により、屈折率を 1.3
以下の超低屈折率ポリマー薄膜を実現し、機械的
強度、密着性等のバランスのとれた反射防止膜用
材料の開発する。
従来品の反射防止膜の屈折率は 1.4 程度であり、
反射率は約 2%であった。反射率 0.5%以下を達
成すれば、実質的にほぼ無反射の高付加価値反射
防止膜が期待されることから、反射率 0.5%以下
に対応する屈折率 1.3 以下を達成目標とした。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
1.屈折率1.3以下を達成し、可視光領域での反射率は 0.5%以下を達成した。
(事業原簿 P.Ⅲ―38)
2.可視光領域において十分な透明性を実現した。
(事業原簿 P.Ⅲ―37)
②実用化に向けての達成度:
1.屈折率の目標を達成するための超臨界二酸化炭素処理の条件を確立した。
(事業原簿 P.Ⅲ―36,37)
2.反射防止膜材料以外の複数の用途を対象とする開発共同研究も進捗中である。
Ⅲ―34
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年
度
①超臨界二
課
酸化炭素基
H13-16年度
H17年度
H18年度
H19年度
PJ 終了後
研究試料提供
屈折率・気泡形状・
契約、技術情報
気泡サイズの制御
開示契約、等産
本プロセス
総研の技術移
の確立
転プロセスに
題
より、産総研イ
屈折率で 1.3 の実現
他物性の制御
ノベーション
ズと企業との
共同研究継続
②屈折率等
等を含めて契
の制御
約。
反射防止膜材
料以外の用途
開発に関する
企業との共同
気泡形状・
年度別目標
サイズの制御 実現す条件、 評価
手法の確立
年度別目標達成度
(○、△、×)
屈折率 1.3 を 総合的な性能 研究を計画。
材料の絞込。
○
○
Ⅲ―35
○
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4) 研究開発成果
① 超臨界二酸化炭素プロセスの確立
高分子の発泡体は発泡スチロールに代表されるように、古くからよく知られている。発泡スチ
ロールのような通常の発泡体では、発泡径は数百ミクロンから、数ミリにまでおよぶ巨視的な発
泡である。発泡のサイズを制御する様々な試み、また、発泡のメカニズムの解析がおこなわれて
きている。特に近年、環境への配慮より、超臨界の二酸化炭素を利用した発泡プロセスの研究が
盛んに行われている。超臨界状態とは臨界温度・圧力を超えて液体と気体の中間的な性質を示す
状態である。このような超臨界状態を含むプロセスの研究により、ミクロ発泡(数ミクロンある
いはそれ以下)の発泡体の形成が可能になってきている。しかしながら、発泡体は、発泡の核形
成・成長というプロセスで進行するため、熱力学的に与えられる核の最小サイズよりも小さくす
ることはできない。また、核のサイズ程度の制御ができたとしても、発泡の数密度は低い状態(発
泡間の距離が大きい状態)となってしまうという問題がある。
本チームでは、以上の二つの興味深い現象・技術を組み合わせることで、ナノ多孔体を形成す
ることを研究した。すなはち、ブロック共重合体のナノ相分離構造により形成される、球状ナノ
ドメイン(場合によりそれ以外の形状)を核として利用し、二酸化炭素をそのドメイン内で発泡
させることを狙って研究を行った。ブロック共重合体としては、二酸化炭素との親和性の高いフ
ッ素含有のブロックをその一成分として導入した。二酸化炭素によるプロセスを工夫することに
より、フッ素含有のブロックより構成されるナノドメイン内でのみ発泡化が起こり、直径で 10
-30nm 程度のナノ発泡体を形成させることに成功した。また、この場合の発泡体の数密度は従来
の発泡体の 1000 倍以上にまで及んだ。このように得られた多孔薄膜を図1に示す。
図1 ナノ多孔薄膜の走査型電子顕微鏡像
(ドライエッチングにより内部の多孔構造を露出して観察。
)
Ⅲ―36
Ⅲ
公開
研究開発成果について
このように形成されたナノセル構造は、テンプレートとなっているブロック共重合体の球状ナ
ノドメインの数密度と非常に近く(特に 10MPa などの低圧で処理したものでは)
、球状ドメイン
一つ一つが、発泡によってナノセルに変換されていることが示唆された。そのナノセル構造形成
の模式図を図2に示す。球状のナノセルは PFMA ドメインに囲まれ、PS ドメインが連続ドメイン
として繋がっている。セル構造が閉じたセルになっていることは、多孔体にもかかわらず、BET
吸着表面積が無視できるほど小さいことから証明されている。ブロック共重合体の特定のブロッ
クを分解するなどの方法で多孔体を作成することが報告されているが、分解生成物が抜けるパス
が必要であるため、このような方法で閉じたセル構造を得ることは困難である。本研究の方法で
は、超臨界二酸化炭素のポリマー中での早い拡散により、閉じたナノセル構造が形成されている。
我々は、超臨界二酸化炭素を用いて、ブロックコポリマーのナノサイズのドメイン中で発泡させ
る手法を開発した。この手法により、直径 10~30nm 程度の空孔を1016 個/cm3 で導入でき、透明
性を維持したまま屈折率を低下させることが可能である。
50 nm
ブロック共重合体
のミクロ相分離
アンチリフレクション(AR)処理
光の干渉を利用し、反射率を低減させる
超臨界 CO2 による
膨潤
n1
光学薄膜
減圧による CO2 の
除去→透明多孔体
基材フィルム
n2
n3
反射率2.5%→1%
最外層に低屈折率層が必要
エッチングにより
表面にナノ多孔が
表面に出現
位相条件:d=(1/4)
(λ/n2)
振幅条件:n2=(n1・n3)1/2
n1=1.0 n3=1.5 とすると
n2=1.24 が最小の反射率を与える。
図2 超臨界 CO2 による
ナノ多孔化のイメージ
図3 反射率を低減させる条件
② 屈折率制御
超臨界二酸化炭素による従来の発泡方法では、本研究の空孔径と数密度を達成することは不可
能であった。また、ブロックコポリマーのドメインの分解による多孔化では、閉じた空孔構造を
得ることは困難であり、また、オゾン・強アルカリなどを使うが、本研究では環境に影響の少な
い二酸化炭素を用いて多孔体が形成できる点で優れている。図3に示すように、基材フィルムの
屈折率が 1.5 とすると空孔率を調節してn2=1.24 に近づければ、反射率をほぼ0にすることが
できる。これまでに、屈折率 1.30 を反射防止膜に用いられる 1/4λ薄膜(約 120nm)で達成した。
Ⅲ―37
Ⅲ
公開
研究開発成果について
単層の 1/4λ薄膜の場合では、反射率で 0.275%(550nm)に相当する。これは、業界で目標とさ
れている一層コーティングによる反射率 0.5%を十二分に達成し、単層であるため複層コーティン
グに見られる着色の影響も少ない。最適化した条件では、図4に示すようにガラス基板の反射率
を、550nm の波長でほぼ 0(屈折率 1.26)を達成している。
9
Glass + AR 1.34
Glass + AR 1.29
Glass + AR 1.26
Glass
8
反射率(%)
7
6
5
4
3
2
1
0
目標
400
450
500
550
600
650
波長 (nm)
図4 反射率の波長依存性
(屈折率 1.26 で反射率ほぼゼロを実現)
Glas
Nanofoam
図5 白熱電灯の写りこみの様子
(反射防止処理(左半面)と未処理ガラス(右半面)
)
Ⅲ―38
700
Ⅲ
公開
研究開発成果について
実際にナノ多孔膜で表面を反射防止処理したガラス板と未処理のガラス板を並べて白熱電燈
の下に置いて反射光の写りこみを見てみると、図5に示すように反射防止効果は歴然としている。
可視光領域で反射率が実質的にほぼ0であることが感覚的にもよく理解できる。
③ 超薄膜の特性評価
光学的な特性において目標値をクリアする条件下で、薄膜の弾性率の測定と耐摩傷性の評価を
行った。数 100 nm 厚の膜の弾性率を通常の方法で測定することは困難である。そこで弾性率測
定には、SIEBIMM と呼ばれる薄膜のバックリングアンスタビリティの現象を利用した測定法を用
いることにした(図6)
。測定結果は図7に示すように、材料そのものの弾性率2GPa から 1GPa
Young Modulus (GPa)
への最小限の低下になっていることがわかった。これは、球状の空孔がランダムに分布したモデ
1.6
1.2
0.8
0.4
0.0
図6 SIEBIMM 弾性率測定の概念図
No process
0
10
20
Porosity (%)
30
図7 弾性率と空孔率の関係
3%
1%
di40
spherical voids
solid spheres
2.0
4.5%
Nanocellular
図8 大変形時の追従性の試験結果
(1%(a)、 3%(b)、 4.5%(c) 伸長した時の破壊状態を示す。左は未多孔化膜、右は多孔化膜)
Ⅲ―39
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ルの有限要素法による予測(点線)とよく一致し、マクロスコピックな力学の予想が有効である
ことを示した。さらに興味深いのは、図8に示すように未多孔化薄膜は2%程度の変形で破壊し
伸長垂直方向に亀裂が発生するのに比べて多孔化薄膜は大変形しても破壊せず柔軟に伸長し、最
大 60%まで伸長しても破断しない。顕微鏡で観察するとクラック端部においてナノ多孔構造がク
レーズのフィブリルへ変化し、クラックの生成を抑えていることが観察された。その結果、60%
まで伸長しても破断しない非常にユニークな特性が発現したと考えられる。
Ⅲ―40
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果(件数)
H13−16 年度
年 度
特 許
(国内)
H17 年度
1
H18 年度
H19 年度
1
特 許(海外)
1
試料提供
展示、プレス発表等
論 文1)
3
1
1
1
4
3
2
2
(注)外部発表に関するコメント:
1)Impact factor 5以上の論文 4報。高いインパクトファクターの(引用の多い)雑誌に4
報掲載されたことが示すように、
「ナノ発泡」を先駆的に研究したことが高く評価されている。こ
れらの研究により、
「ナノ発泡」という従来には無い新しい分野を開拓した。
(6)特記事項:
特になし。
Ⅲ―41
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.2 溶融構造制御による高強度繊維の開発(東京工業大学集中研2)
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(a)構造材料の研究
集中研テーマ名
実施場所
溶融構造制御による高強度繊維の開発
東工大集中研2
(1)集中研の基本概念
ポリエチレンテレフタレート(以下、ポリエステル)
・ナイロンは、繊維が具備すべき多くの基
本特性を高いレベルで満たした優れた合成繊維であり、市場の占有率も極めて高い。しかし、繊
維の高次構造制御による高性能化を考えたとき、現在市販されている高強度タイプのポリエステ
ル・ナイロン繊維の強度は、理想的な分子配列を仮定した理論強度のたかだか 5%程度である。
そこで本研究開発では、ポリエステルやナイロンなどの半剛直性の汎用ポリマーからなる高強
度繊維のさらなる高強度化を目指した。具体的には、「繊維の強度を市販高強度繊維の 2 倍の値
である 2 GPa とし、これを現状の2倍以下のコストで実現する」ことを最終目標とした。
高強度繊維開発
特殊流動場
外場
絡み合い構造
粗視化モデル
溶融構造制御技術
溶融紡糸
分子量制御技術
高効率高分子量化
分子量分布制御
汎用繊維の強度2倍を
2倍以下のコストで
延伸・熱処理技術
評価・解析技術
2 GPa
非晶構造解析
欠陥のモデリング
繊維破断機構
結晶分散温度
高温・高圧延伸
レーザ加熱延伸
図1. 高強度繊維の研究開発目標とその開発方針
汎用繊維の高強度化を達成するための方針として、①「溶融構造制御技術」という新規概念を
導入した繊維構造制御技術を通じ、延伸・熱処理により高強度化するポテンシャルを有する未延
伸繊維を開発すること、②「分子量および分子量分布の制御」や「異流動性成分添加」という材
料設計の概念に基づいて,
溶融ポリマーの流動性や繊維の延伸性を改善する技術を開発すること、
Ⅲ―42
Ⅲ
公開
研究開発成果について
③直接紡糸延伸法や高効率加熱延伸法等の、紡糸プロセスから延伸・熱処理プロセスに至る過程
の最適化により繊維の高強度化を図る「延伸・熱処理技術」を開発すること,という三つの基本
的な技術開発課題を掲げ、さらに、これら要素技術の組み合わせにより高強度化へのアプローチ
を行うこととした。一方、上記3課題を推進するために、④繊維製造プロセス中で起こる現象を
運動力学的および分子論的視点に基づいて理解するための実験及び理論解析、および得られた繊
維の構造・物性の詳細な解析を通じた、高強度化に結びつく高次構造の特徴、繊維の破断機構の
解析などを行った。
これらの繊維製造プロセスの改良と得られる繊維の構造・物性解析に、近年の学術的な発展を
ベースとした理論的な検討を併せて、単なる経験則の積み重ねではない、プロセス(Processing)
-構造(Structure)-特性(Properties)という、
高分子材料の成形プロセスの根源的な図式に沿っ
た繊維の構造・物性の新規な制御技術を見出していくことが,本研究の基本コンセプトである。
特に本研究開発では、ポリエステル・ナイロンなどの製品コストを重要視する汎用繊維材料を
対象とすることから、必然的に溶融成形プロセスの採用が技術開発の基本指針となる。そこで、
溶融状態での分子鎖の絡みあい状態の制御を基本概念に据えた「溶融構造制御技術」という物理
的なアプローチを試みたところに,本研究の新規性と特長がある。すなわち,ポリエステル・ナ
イロンなどの比較的分子鎖が剛直で分子量も中程度の縮合系ポリマーは、従来、このような概念
の適用外の材料と考えられがちであったが、幾つかの過去の検討例に基づいて得た、溶融紡糸過
程の制御が溶融構造制御に対し有効に作用するとの知見をベースに、これを新規高性能繊維の開
発に適用しようとするところに、本研究の有意性がある。
これらの技術開発の結果、紡糸線を炭酸ガスレーザーで加熱する新規な紡糸法に、他のさまざ
まな技術開発成果を組み合わせることによって、強度 1.72 GPa を有するポリエステル繊維を作製
することができた。
(2) 実用化テーマへの展開
本研究では、研究計画の段階から製造コストを考慮した技術開発を目指しており、実用化に向
け、コスト面での障害はないと考えている。
溶融紡糸プロセスの特徴として、1本の紡糸線の挙動に注目すると、生産現場の条件を実験室
で再現することが可能であり、スケールアップ則の概念の適用を必要としない点があげられる。
従って,繊維の高次構造制御に関わる製造条件の本質的な部分について、本研究で見出された高
性能化への指針は,そのまま実用化レベルへの適用が可能である。
一方、本研究開発の主要テーマである溶融構造制御については、紡糸線の温度,応力履歴を外
場刺激により行うなど、紡糸プロセスの改変を伴うものが多い。ここでは、単糸の紡糸に適用で
きる技術が多糸条に必ずしも適用できるとは限らない。そこで本研究開発では,紡糸線の改変に
より繊維の高性能化が確認された技術については、少なくとも6本以上の多糸条の紡糸に適用可
能な紡糸技術の開発を行い、その効果の確認を行った。これに対し、添加剤などの材料面の改良
により高性能化を達成する技術については、溶融押出系の大型化に伴って、生産量増加の影響が
顕在化する可能性がある。このような技術は、逆に装置の改変は不要であるため、パイロットプ
Ⅲ―43
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ラントレベルで技術の適用性の確認を試みた。
ところで、本研究では繊維の強度を開発課題の数値目標として掲げているが、単糸強度にバラ
ツキがある場合、統計的な観点から、繊維束の引張り試験において最大荷重から見積もられる強
度は、単糸強度の測定値の平均値に比べ低下することが知られている。また、多糸条の紡糸では
繊維間の僅かな紡糸条件の差異によっても、構造・物性のバラツキが生じる。このバラツキは、
延伸プロセスにおける最大延伸倍率の低下を招き,その結果強度の最大値は低下する。これらの
点を考慮して、本研究では、技術のポテンシャルを示す単糸強度の平均値とともに,実験室レベ
ルで達成された多糸条紡糸による繊維束の強度も提示している。後者については、生産現場での
条件の最適化により数値の増加が見込まれる。
さらに本研究開発の成果として注目すべき点として、繊維強度の増加のみでなく,より本質的
な物性である繊維のタフネスの増加に結びつく未延伸繊維を製造するための技術開発がなされた
点があげられる。このことは、延伸・熱処理条件の選択により、現状に比べ,破断強度・破断伸
度の組み合わせにおいて、幅広い製品設計を可能とする技術が開発されたことを意味している。
プロジェクト後、参加企業 5 社がそれぞれ、要素技術の実用化・事業化を検討する
1.72 GPa
1.60 GPa
1.50 GPa
多糸条
多糸条
多糸条化へ向けた
新規レーザー照射方式
1.55
1.55
レーザー
レーザー GPa
GPa
照射紡糸
照射紡糸
多糸条
多糸条
多糸条
多糸条
NCA添加
NCA添加 1.46
1.46
紡糸
紡糸
GPa
GPa
CO2 Laser
SpinSpinLine
Line
Drawing
Drawing
1.46
1.46
GPa
GPa
新規光学系
高分子量化技術
高分子量化技術
細孔径ノズル・高温紡糸技術
細孔径ノズル・高温紡糸技術
溶融紡糸技術
溶融紡糸技術
図 2.実用化テーマへの展開-モノフィラメントから多糸条へ
Ⅲ―44
多糸条化
・大型紡糸機への
熱ロール設置
・融着紡糸ノズル
開発
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ-2.2.1 高強度繊維の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
テーマ名
(a)構造材料の研究
実施先
<共同研究実施先、再委託先>
JCII(旭化成せんい、帝人ファイバー、
高強度繊維の開発
東洋紡績、東レ、ユニチカファイバー)
、
<東工大、九大、信州大、京工大、京大>
(1)背景・目的等
現在市場に出ている高強強繊維は,ポリエチレン(PE)などの柔軟な分子鎖のポリマーの絡み
合い状態を溶液中で制御して延伸性を改善したものと,ポリパラフェニレンテレフタルアミド
(PPTA)などの剛直な分子鎖のポリマーの液晶状態を利用して分子鎖の高配向化を実現したもので
あり,分子鎖が中間的な剛直性を有し,繊維としての消費量が最も大きいポリエステル,ナイロ
ンなどの汎用ポリマーからは,高強度繊維が開発されていない(図1).
主要な用途の中でも取分け、自動車
用途における軽量化(燃費の向上)
・省
資源化(原料使用量抑制)は極めて重
要な課題であり、本研究は、タイヤの
柔軟鎖
軽量化・省資源化を狙って、産業繊維
(ゲル紡糸)
として最も需要量の多い自動車用タイ
ヤコードに適した、ポリエステルやナ
イロンの市販高強度繊維の 2 倍に相当
する強度 2GPa を有する繊維を、コスト
半剛直鎖
PET
(紡糸・延伸・
熱処理)
PEN
TLCP
(Vectran)
発することである。平成16年までに
溶融構造制御の効果を解析し、繊維構
PVA
(K-II)
Nylon
を2倍以下に抑えて製造する技術を開
開発した主要な高強度化技術を組合せ、
PE
(Dyneema)
剛直鎖
PPTA
(Kevlar)
(液晶紡糸)
PBO
(Zylon)
造・繊維特性の両面から検討し、実用
0
化の見通し得ることに注力すると共に、
2
4
繊維強度 (GPa)
本プロジェクトの最終目標である強度
2GPaを有する繊維の実現を目指し、
図1 市販高強度繊維の強度と分子鎖の剛直性の関係
超高分子量ポリマー、その他の技術等
との組み合わせにより飛躍的に強度アップ可能な技術を開発することである。
また、平成16年までの再委託先の繊維構造評価・解析に加え、繊維の表面・界面が物性に与
える影響等についても連携下に評価・解析を進めることにした。
Ⅲ―45
6
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
半剛直性の汎用ポリマ
ーの製糸過程における
溶融構造制御技術を確
立し、タイヤコード用
途に適した、ポリエス
テルやナイロンの市販
高強度繊維の2倍の強
度2GPaを有し、現
状の2倍以下のコスト
で実現可能な高強度繊
維を開発する。
本研究の最終目標が達成できれば車両用タイヤ等の資材用途において、
同じ耐荷重を得るための繊維使用量が半減でき、最終製品の軽量化によ
る省エネルギー、廃棄物量の削減による環境負荷の低減などに貢献し得
る。例えば小型トラック用の2プライを1プライに半減できることにつ
ながる。ポリエステル繊維強度の従来知見として、湿式紡糸法による繊
維の強度が、約 2GPa まで到達することが、特許情報で知られているが、
この方法は、実験的には可能であるが、工業的にはコストが高く、困難
である。
一方、ポリエステル市販高強度繊維の強度は、開発当初の1950年代
から現在までに、10%程度の増加しか達成されていない。本研究では、
これを2倍(100%増加)の約 2GPa まで到達するという極めてチャレ
ンジングな目標を掲げた。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度 (△)
:
・設定した最終目標である(1)ポリエステル繊維強度 2GPa 達成、
(2)コストアップ2倍以下
に対し、下記の通り、達成した。
(1)繊維強度:チャレンジングな繊維強度目標に対し、繊維強度を 1.72GPa まで達成した。こ
の値はタイヤコード用としては、工業的に、十分満足の行くレベルに到達しており、実質的には、
ほぼ目標を達成した。
(事業原簿 P.Ⅲ―49)
(2)コスト:本研究の成果として得られた技術に関するコストアップは、2倍以内に抑えるこ
とが可能であり、目標を達成した。
② 実用化に向けての達成度:
・実用化の見通しを得るために、各要素技術の問題点を抽出し、選択と集中を行い、高強度化の
ポテンシャルを有する技術の複合化、多糸条化を達成した。
・レーザー照射紡糸技術に、高分子量化、高温紡糸、細孔径吐出等の要素技術を複合化すること
により、下記の繊維を低コストで製造する技術を確立した。
<モノフィラメント繊維強度 1.72GPa、多糸条(6fil.)繊維強度 1.55GPa>
・上記レーザー照射紡糸技術により試作した繊維をタイヤメーカーにおいて、タイヤコード特性
評価をした結果、実用に耐え、従来品対比優れた特性を有することを確認した。
・異流動性成分添加技術に関して、参加企業でスケールアップ試作を行い、実用化に向けて問題
点を抽出した。
・主要要素技術について、国内17件、海外 1 件の特許出願をした。
(事業原簿 P.Ⅲ―61)
・参加企業はプロジェクト終了後、各社独自に実用化・事業化を目指す。
③ その他の成果
・独自の評価解析の他、再委託先、連携先、または外部機関の協力を得て、新たな繊維構造解析
手段の開発を含め、開発繊維の特性や繊維構造を評価解析し、研究を加速した。
(事業原簿 P.Ⅲ―
56~60)
Ⅲ―46
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年度
H13-16 年度
H17 年度
H18 年度
H19 年度
分子量制御および分
子量分布制御
PJ
終了後
参加企
業にお
装置立ち上げ
ノズル近傍溶融構造
制御
(複合紡糸装置)
異流動性成分添加
課
レーザー紡糸
装置立ち上げ
基礎検討
レーザー紡糸応用検討
ける実
(多重反射装置導入等)
用化、
応用検討
事業化
量産化検討
紡糸機改造
(分散法・紡糸法) (新規剤・混練法)(技術複合化)
題
紡糸線制御
溶融構造制御 紡糸線制御
(装置設計製作)
超臨界流体利用
革新技術探索
延伸機改造
量産化検討
(液体恒温槽装置製作)(技術複合化)
紡糸延伸装置
基本設計等
超臨界CO2注入
(装置設計製作)
紡糸延伸システム導入
(多ホール化)
他技術との融合
(分子量分布制御・
ノズル近傍流動制御等)
外部評価
年度別目標
・紡糸機設計
・各種要素技
・量産化設備
・量産化技術
・各種技術の装置開発
術の選択と
の設計・設置
確立
・各種技術の基礎検討
集中
の複合化・最
・各種要素技
適化
術の複合
・各種要素技術の応用検討
化・最適化
年度別目標達成度
(○、△、×)
○
○
○
○
:試作したサンプルについて、外部企業において、タイヤコード特性を評価した。
Ⅲ―47
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4)研究開発成果
1.分子量制御技術および分子量分布制御技術による高強度繊維開発
(1)研究概要
分子量制御技術および分子量分布制御技術については、H16 年度までに熱媒体内固相重合によ
り従来対比 2 倍の高分子量 PET 原料を得るとともに、その高分子量 PET と中~低分子量 PET との
芯鞘・海島複合紡糸によって、繊維断面方向の分子量分布を制御することにより、特徴的な延伸
特性を有する繊維が得られることを確認した。H17 年度以降は、力学的物性の向上に効果的な高
分子量化に一層焦点を当てて検討を行い、原料 PET の高分子量化、および得られた高分子量 PET
の溶融紡糸過程における分子量低下抑制の各技術について、量産化を意識したスケールで検討を
行なった。
PET ペレット
粉砕・分級
3~4mm 角
溶融押出・紡糸
固相重合
0.5~1mm 径
図2 分子量、分子量分布制御技術の概念図
(2)研究成果と達成レベル
固有粘度(IV:GPC 測定 Mw より換算)≒1 の PET 樹脂をプレポリマーとして、固相重合条件(原
料径、重合温度等)を詳細に検討することで、高コストな熱媒処理を実施することなく、IV=2
(従来対比 2 倍)
を超える高分子量 PET 樹脂が数十 kg オーダーで得られることを確認した
(図3)
。
また、溶融押出過程における熱分解特性の把握、および 2 軸押出機におけるスクリュー構成なら
びに押出条件の検討を行った結果、せん断発熱を抑制する押出条件を整えることで IV=1.38(従
来対比 1.5 倍)の高分子量 PET 溶融体を kg/h オーダーで押し出せることが確認出来た(図4)
。
2.4
95
A
B
C
IV holding ( % )
2.2
換 算 IV
2.0
1.8
1.6
1.4
3~4mm 角
0.5~1mm 径
1.2
90
85
80
原料 PET IV=1
1.0
75
3.5
4.0
4.5
5.0
40
Mw/Mn
図3 固相重合における粒径と
到達分子量・分子量分布
50
60
screw rotation (rpm)
70
図4 各押出スクリュー構成と
押出後の分子量保持率
(3)今後の実用化に向けた課題と対策
小粒径 PET 樹脂については、試料の嵩高さに起因する取扱性悪化(静電気による付着、押出機
内でのエア噛み等)の懸念があり、実用化にあたっては樹脂搬送系の改造、除電装置やベント装
置設置等の対策が必要である。
Ⅲ―48
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4)成果の波及効果
高分子量化技術については、縮重合系ポリマーによる溶融押出プロセスにて製造され、かつ高
い機械的物性が要求される繊維以外の分野(フィルム等)へも適用可能と考える。
2.溶融紡糸ノズル近傍流動制御による溶融構造制御
(1)研究概要
Polymer
H16年度までの検討で、レーザー照射紡糸によるPE
Extruder
T繊維の高強度化(LIS)を見出し、
モノフィラメントで強度
10.5cN/dtex, 伸度 17.3%の繊維を得て、1.5 倍の高強度化
を達成した。H17年度以降は、他の要素技術(小孔径ノ
ズル、高分子量体利用)との組合せにより、ポリマーの熱
分解を抑制しつつ高温細化を促進させることで、強度
CO2 laser system
Laser irradiation
Wave length :10.6mm
Position : 10 mm below
spinneret
Beam spot : 4mmφ
12.5cN/dtex, 伸度 11.4%の繊維を得て、
1.72GPa を達成し、
Sampler
比較繊維対比 1.7 倍の高強度繊維を得た。
Take-up
Roller
(2)研究成果と達成レベル
①高強度化検討
紡糸工程において炭酸ガスレーザーを吐出孔直下で溶融
ポリマーに照射し、
高温変形を促進する紡糸手法によって、
図5 紡糸装置概要
繊維の高強度化を達成した(図5)
。同様に高温細化を促進するノズルの小孔径化、従来の高強
度化方策である高分子量体の利用と組み合わせることで、従来の1.7倍の高強度化を達成した
(図6、7)
。
図6 未延伸糸応力―歪曲線
図7 延伸糸強伸度特性
また、多糸条に均一にレーザー照射する新規照射装置により、量産化方式の基礎技術を確立し、
6フィラメントでの紡糸検討により、レーザー照射繊維強度 1.55GPa(11.3 cN/dtex), 伸度 10%
の繊維を得て、通常繊維対比強度 1.5 倍を達成した。
(3)今後の課題と対策:レーザー照射紡糸した繊維について、自然延伸比が大きい構造特性を
活かした延伸技術を開発する。また、糸条化に伴う単糸間斑の抑制手法を検討し、実用化へ向け
Ⅲ―49
Ⅲ
公開
研究開発成果について
たスケールアップを進める。
(4)成果の波及効果:紡糸機のノズル直下部に、炭酸ガスレーザー用のレンズ系を設置する小
規模の改造で現行装置に導入できる。また、紡糸線でのレーザー照射により、延伸糸に捲縮を付
与することが可能であり、風合い変化や他素材との親和性向上などの特性を付与する事が可能と
推定される
3.溶融紡糸・延伸における異流動性成分添加による高次構造制御
(1)研究概要: 工程の概念を図8に示す。異流動性成分添加技術による最高到達物性は強度
1.6 GPa、 伸度 9.1 %(IVf = 0.83 ベース)
、強度 1.6 GPa、伸度 11.4 %(IVf = 0.91 ベース)
であった。
<紡糸工程>
PET/添加剤
<延伸工程>
二軸押出機
GP
口金
熱延伸ゾーン
メルトゾーン
混練ゾーン
巻取装置
巻取装置
未延伸糸
加熱ロール
加熱ロール
加熱ロール
冷ロール
図8 異流動性成分添加による高次構造制御の概念図
(2)研究成果と達成レベル:
合成繊維の高強力化には、高分子量樹脂の高配向化が有効であることは周知であるが、そのま
ま単純に紡糸しても製糸性の悪化や低延伸性の為、高強度化は困難である。 本研究では、異流
動性成分添加剤としてポリカルボン酸系アミド化合物に着目し、種々紡糸延伸検討した結果、延
伸倍率を向上させ(第 9 図)
、また減粘効果(第 10 図)も併せ持つ新規な化合物を見出した。こ
の添加剤(以後 NCA と記載)は、15N 同位体元素でラベル化した化合物を用いた固体 NMR 等の実
験から、ナノスケールでの PET との相溶化も確認した。現在 PET の高分子量化及び紡糸条件の最
12
9
Blan k
NCA 2 0 0 0 ppm
NCA 4 0 0 0 ppm
11
10
Pac k圧 (MPa)
Tensile strength (cN/dtex)
適化により、強度 1.6 GPa を達成している。また本技術は、既存設備をそのまま利用できる可能
9
8
7
6
8
TSP=3 30℃
7
6
Blank
NCA添加
5
4
5
5
15
25
35
Elongation at break (%)
図 9 破断伸度と強度の関係
Ⅲ―50
0 .7
0.9
1 .1
IVf 値
図 10 糸 IV 値と Pack 圧の関係
Ⅲ
公開
研究開発成果について
性が大きく、多糸条化・太繊度化も比較的容易である。 実用化の見通しを得るため、添加剤マスタ
ーバッチ化やそれを用いた現有試験機での多糸条化(1 本⇒6 本、12 本)
、及び混練条件を検討中であ
るが、現在、12 本マルチで強度 1.46 GPa まで達成している。 同時に参加企業試験機での量産化検
討も進めており、実用化の際の課題抽出を進めている。
(3)今後の実用化に向けた課題と対策:
実用化に向けて効果を最大限引出す為、添加方法(マスターバッチ法、粉添加法)
・混練方法(単軸、2 軸押
出機、その他)
、及び混練条件の最適化検討を行い、量産化の為の安定紡糸技術を確立する。
(4)成果の波及効果:
繊維製造以外のモノフィラメント・フイルム・成形加工等の分野でも適用が可能と考える。また減粘
効果もあるため、プロセス負荷が低減され、紡糸時の安定吐出にも寄与できると期待される。
Spin-Line Drawing
4.紡糸線制御技術による高次構造制御
(1)研究概要:紡糸線上での変形挙動を操作
口金
2軸スクリュー押出し機
するために、液体恒温槽技術の他、熱ロールを
設置して溶融中に積極的に延伸するSpin-Line
Drawing(SLD)技術を確立した(図 11)
。この
技術は、溶融中の温度と変形速度の履歴を大幅
熱ロール
引取りロール
かつ比較的容易に制御可能な技術である。これ
により未延伸糸のタフネスが大幅に向上し、延
伸糸でもタフネス向上を示した。
(2)研究成果と達成レベル:SLD技術によって
未延伸糸タフネスは大幅なタフネス向上を達成
した。未延伸糸のタフネスは比較最大 474J/gと
比較糸の1.7倍である。また、延伸糸におい
てもタフネス及び強度の向上を達成した。到達
強度は 1.5GPa(11.3%、67J/g)である
急冷ノズル ガイドロール
ワインダー
図 11 Spin-Line Drawing の概念図
(図 12,13)
。このタフネス向上のメカニズム
としては、絡み合い構造の変化が考えられ、引張り特性と収縮特性から求められる絡み合い点密
度が減少傾向であることが明らかとなり、絡み合い構造が変化している事が示唆された。さらに、
工業化の基礎検討として12本まで多糸条化する検討を行った。その際、糸条の融着を防ぐため
に特殊なノズルを制作した。その結果、多糸条化しても高タフネス化の傾向は確認され、諸条件
を変更した際の挙動も単糸での検討時と一致している事を確認した。
Ⅲ―51
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)今後の課題と対策
図 12
未延伸糸の SS 曲線
未延伸糸のSS曲線
比較
350
Stress (MPa)
250
Take - u p ve l.
(m/ min )
250
200
1000
200
比較
300
SLD
300
図 13
延伸糸の強伸度特性
延伸糸の強伸度特性
1.6
Tensile strength (GPa)
400
500
150
100
250
SLD
1.4
1.2
1.0
50
0.8
0
0
200
400
Strain (%)
600
5
10
15
20
Elongation at break (%)
25
糸斑が比較的大きく、プロセスの特性上冷却部における改善も行いにくい。また、延伸性が低
く、延伸倍率をあげるほどタフネスが低下する減少が見られる。そのため未延伸糸の高タフネス
に対して延伸糸の強度、タフネスが対応しない。今後、延伸性低下のメカニズム解明と冷延伸等
の手法を適用する必要がある。
(4)成果の波及効果:周期的に繊維直径を変更させることが可能であり、繊維の風合い改良、
他素材との複合化等高機能繊維素材の開発に有用であると考える。繊維成形以外にも、フイルム
成形加工等の分野でも適用が可能と考える。
5.溶融紡糸における超臨界二酸化炭素利用技術
(1)研究概要:超臨界流体をポリマー中に練りこむことによって、高分子量ポリマーを可塑化
することを試みた(図 14)
。その結果溶融体に対しても固体に対しても可塑化効果のあることが
確認された。しかし、十分な可塑化効果を得るためには大量の二酸化炭素をポリマー中に溶解さ
せる必要があることも同時に分かった。減圧時の発泡を抑制しつつ安価に大量の二酸化炭素を溶
解させることが非常に困難であるため、検討を中止した。
上記検討の過程で、高圧炭酸ガスを充満させた紡糸塔中で冷却固化させることによって繊維の
物性を向上させる可能性のあることがわかった。これは高圧流体中で冷却することによって、冷
却挙動が変化すること、および高圧紡糸塔から大気中に繊維が排出される際に周辺の気体によっ
て牽引されることが要因と考えられた。
(2)研究成果と達成レベル:詳細検討の結果、高圧炭酸ガスを充満させて紡糸塔を用いること
によって、紡糸が非常に不安定になり、太細斑が発生することが分かった。詳細検討の結果、太
細斑の発生を抑制できる条件でも強度を上げることができることが分かった(10cN/dtex:15%)
(図 15)
。しかし、値としては不十分な値であり、かつこれ以上の強度向上も見込めないことか
ら検討を中止した。
Ⅲ―52
Ⅲ
公開
研究開発成果について
超臨界流体の持つ溶解性を利用したプロセス
超高分子量樹脂押出技術
-超臨界二酸化炭素による可塑化効果の利用
流量計
2軸押出機
超臨界二酸化炭素中紡糸技術
-紡糸筒内高圧化による二酸化炭素注入押出時の
発泡阻止。
-紡糸線上の糸張力、冷却コントロール。
-可塑化効果による内外層差低減。
超臨界二酸化炭素中延伸技術
-可塑化効果による延伸倍率向上
-結晶からの分子鎖引き抜きによる分子配列促進
バルブ
糸
巻き取り装置
減圧
図 14 超臨界流体の持つ溶解性を利用したプロセスの概念図
True stress at break (cN/dTex)
12
10
太細斑発生領域
8
6
減圧部なし
4
2
0
0
1
2
3
4
Pressure (MPa)
図 15 紡糸筒内圧と得られた糸の破断真応力
(3)今後の実用化に向けた課題と対策:検討を中止しているため、特になし
(4)成果の波及効果:溶融体の可塑化に関しては、溶融押し出し工程をもつプロセスにとっ
ては非常に有用であると考えられる。実際に発泡材料等で用いられている技術であり、用途は広
い。
Ⅲ―53
Ⅲ
公開
研究開発成果について
6.高強度化革新技術探索
6-1.高圧流体利用
(1)研究概要
高圧紡糸筒の検討では、高圧気体が大気中に排出される際の噴流が繊維を牽引することが高強
度化の要因として考えられた。そこで、この効果をより有効に利用するために高圧流体紡糸を試
みた。具体的には図 16 に示されるように、ノズルの直下に下向きに高温高圧の気体が噴出され
るような Jet 装置を組み込み、気体によって繊維の高温での変形を促進させる様にした。
(2)研究成果と達成レベル
詳細検討の結果、図 17 に示すように適切な条件を
とることによって、未延伸糸の破断エネルギーを大
幅に向上させることのできる可能性があることがわ
かった(最大 470J/g)。ただし、噴流の制御が困難で
あり、長手方向に太細斑が生じやすい技術であるこ
ともわかった。レーザー照射紡糸等の構造制御技術
Compressor
Heater
と同じコンセプトであることもあり、より制御が容
高温気体を用いた牽引
易でかつ効果の高いそれらの技術に集約して注力す
による紡糸線制御
ることとなり検討を中止した。
(3)今後の実用化に向けた課題と対策
研究途中でテーマの選択と集中を実施したために、
検討を中止したが、加熱噴流により繊維化する方法
であり、将来的に、気体のコントロール技術等が確
立されれば実用化の可能性があると考えられる。
図 16 高圧流体利用プロセス概念図
(4)成果の波及効果
現有設備に対する小改造で生産可能な技術である。コンセプトとしては間違いのない技術であ
り、かつ未延伸糸での効果も確認されている。スパンボンド等の技術を導入することによって安
Tensile_Strength (cN/dtex)
定的に高強度繊維を作成することができる可能性がある。
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
normal
高圧紡糸
0
200
400
600
Elongation (%)
図 17 未延伸糸の応力-ひずみ曲線
Ⅲ―54
800
Ⅲ
公開
研究開発成果について
6-2.高温紡糸
(1) 研究概要
溶融構造制御の考え方として、変形を高温部分に集中させるという考え方がある。これを実
現するために二つの方策を検討した(図 18)
。
・
紡糸温度を高温にする。
・
ノズル孔径を小さくする。
但し、紡糸温度を高温にすると、分子量低下がはなはだしい。そのため、原料ポリマーの分子
量を上げておくことによって、繊維の分子量を保てるように工夫した。
(2) 研究成果と達成レベル
検討の結果、高温での紡糸はやはり分子量低下を引き起こすことが分かった。しかし、高温
で紡糸したり、ノズル孔径を下げたりすることによって、延伸困難な高分子量繊維が延伸され
やすくなることがわかった。高分子量の原料とこれら技術を組み合わせることによって
10.8cN/dtex(9.6%)の繊維が得られることがわかった(図 19)
。
(3) 今後の実用化に向けた課題と対策
本要素技術は確立され、既に他の要素技術に組み込まれて利用されている。
(4) 成果の波及効果
溶融構造制御の考え方を端的に用いた方策であり、汎用性は高い。技術的には加工温度を上
げるだけである。繊維だけでなくフィルムなどにも展開可能と考える。ただし、成果にも書い
てある通り、分子量低下が大きい技術でもあるため、分子量を維持するための方策が必要であ
る。
高分子量ポリマー
12
310℃ 以上の高温での吐出
細孔径ノズルからの吐出
Tenacity (cN/dtex)
11
10
高
温
紡
糸
9
8
7
高分子量化
6
5
4
0
10
20
30
Elongation at break (%)
図 19 延伸糸強伸度特性
図 18 高温紡糸プロセス概要
Ⅲ―55
40
Ⅲ
公開
研究開発成果について
7.再委託先および連携先の研究成果
7-1)高強度化に向けた新規延伸・熱処理法の開発(再委託先:信州大)
これまでの検討では、PET/PS 系複合繊維を紡糸することにより、PET 芯成分の変形プロフ
ィールを制御することで、分子鎖の絡み合い構造を積極的に改変した PET 繊維を作成して、
レーザー延伸後の繊維構造・物性を評価してきた。具体的には、まず芯鞘型複合紡糸を行っ
た後、鞘成分の PS を有機溶媒によって溶出した繊維に関するレーザー延伸により効果を確
認後、溶媒を用いない方法を狙って PET/PS 系によるサイドバイサイド型複合紡糸繊維の紡
糸から機械的に分離して得られた PET 繊維についてレーザー加熱延伸を行い、最大強度
1.27GPa の繊維が得られている。今年度は、サイドバイサイド型複合紡糸により複合相手の
制限が無くなった点を利用し、複合相手として PS よりも高い固化温度を示す Vectra®を複
合相手として研究を行った。すなわち、PET/Vectra 系のサイドバイサイド型複合紡糸によ
り紡糸線での変形プロフィールを制御し、機械的に剥離して得られた PET 繊維についてレー
ザー延伸を行い、得られた繊維の力学物性と構造を評価した。この結果、PS より高い固化
温度を持ち、より強く紡糸線の変形プロフィールを制御できる PET/Vectra 系では、PET/PS
系と比べてより顕著な強度向上効果が得られた。すなわち、(図 20 に示すように)Vectra
と複合紡糸後剥離して得た PET 繊維では、単成分で溶融紡糸して得た PET 繊維と比較して、
同じ延伸応力に対して明瞭に大きな強度を持つ繊維が得られた。PS と複合紡糸して得た PET
繊維の強度は両者の中間に位置する。また 1 段延伸によって高強度の繊維が得られるため、
再延伸時にも高い延伸応力化での延伸が可能になり、結果としてより高い強度を持つ繊維が
得られる。すなわち、繊維を 2 段延伸することにより 1.14 Ntex-1(1.57 GPa)の最大強度
を持つ繊維が得られた。
以上の結果、複合紡糸による紡
1.2
糸線制御により、明瞭に高い強度
1.1
示すことができた。特に、IV1.0
程度の PET の 2 段延伸によって
1.57 GPa の強度が得られたことは
注目に値する。
1.0
Tensile Strength / N tex-1
を持つ PET 繊維が得られることを
0.9
0.8
0.7
0.6
PET
0.4 km/min
PET/PS
0.5 km/min
PET/PS
0.75 km/min
PET/PS
1
km/min
PET/Vectra 0.25 km/min
PET/Vectra 0.5 km/min
PET/Vectra 0.75 km/min
PET/Vectra 1
km/min
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
-1
Drawing Stress / N tex
図20 延伸応力と得られた繊維の強度
(中抜きの点は 2 段延伸時の延伸応力と強度を意味
する。)
Ⅲ―56
0.6
Ⅲ
公開
研究開発成果について
7-2)高強度繊維のシンクロトロンX線散乱法による精密構造解析と汎用繊維の高強度化ナノ
構造モデル構築(再委託先:京工繊大)
高強度繊維を開発するためには、それに寄与するナノ構造因子を精密に特定し、高強度繊維の
具備すべきナノ構造の特徴を精密に調べることが不可欠である。繊維構造の定量的な解析はX線
散乱法によって行うことができる。しかしながら、これまでに克服できなかった高強度化の障害
となる繊維構造上の問題点を明確にするためには、従来用いられてきた汎用のX線発生装置では
X線の強度が弱すぎて限界がある。特に、繊維中の結晶相、非結晶相、中間相内部での構造やこ
れらの構造を基本的要素として形成される階層構造の詳細は、X 線強度の限界ゆえに解明されて
いない。近年、いわゆる第3世代の大規模シンクロトロン放射光研究施設(SPring-8)が整備さ
れ、これにともなって、精密な構造解析に有効なさまざまな手法の開発がなされている。そこで
本研究では、シンクロトロン放射光の特徴を利用したマイクロビームなど新規技術を応用して、
精密構造解析を行うことによって、高強度繊維の具備すべきナノ構造の特徴を明らかにし、汎用
高分子の溶融紡糸過程でのナノ構造形成の理想的目標モデルの構築を目標とした。
Figure 21 SAXS and WAXS patterns for
annealed PET fibers, which were
originally prepared by the spin-line
drawing technique. (a) and (b) are
SAXS results, and (c) and (d) are
WAXS results. The as-prepared
fibers were annealed at 210℃ for
about 10 min. with fixed length ((a)
and (c)). For (b) and (d), the
as-prepared fibers were
pre-stretched by 4.5 times and then
annealed at 210℃ for about 10 min.
with keeping the stretched state.
紡糸線制御技術を用いて作製された PET 繊維は、高強度・高タフネスのポテンシャルを有し、
中程度の複屈折を有する非晶繊維であることが示されているが、いまだ高強度・高タフネスの達
成には至ってはいない。その証拠が図 21 の SAXS パターンに現れている。すなわち、SAXS パター
ンは 4 点ストリークパターンを呈しており、通常強度の PET 繊維と同様の不規則なバンドル構造
であることが判明した。高強度繊維の SAXS パターンとは明らかに異なっており、紡糸線制御技術
を用いて作製されたポテンシャルの高い繊維を、その後いかに熱処理するかが高強度化のキーポ
イントである。すなわち、図 21(a)と(b)を比較すると、4.5 倍延伸の方が繊維軸と垂直方向のス
ポット間隔が広がっている(ここで、繊維軸方向のスポット間隔はほとんど等しいことに注意さ
れたい)ことがわかるが、これはむしろ高強度繊維の呈する SAXS パターンとは逆行しているよう
である。
本研究では、高強度化に向けた指針として、2次元 SAXS パターンの明確な基準を示すことが出
Ⅲ―57
Ⅲ
公開
研究開発成果について
来た。この基準の妥当性と理想的繊維構造の詳細提示が今後の課題である。また、紡糸過程にお
ける広角 X 線オンライン測定を行うことに成功し、紡糸線上での結晶化度の変化や結晶配向度な
どの構造解析を行うことができた。
7-3)繊維の力学特性を支配する要因の解析(再委託先:東工大)
平成 16 年度までの研究では,主として既存の PET 繊維に含まれる欠陥の解析を行うとともに,
小角 X 線散乱(SAXS)測定によって変形・破断過程における PET 繊維の構造変化を解析するための
基礎として,構造モデルに基づいた散乱パターンのシミュレーションを行った。平成 17-19 年度
の研究では,これらの研究結果を踏まえて,本プロジェクトで開発された新規紡糸 PET 繊維に含
まれる欠陥の解析を行うとともに,変形・破断過程における PET 繊維の構造変化を解析した。集
束イオンビームミリング装置を用いてノッチを導入した繊維の強度から欠陥を除去した繊維の強
度を推定した結果,
レーザー照射紡糸繊維は 2GPa を超える強度を発現するポテンシャルを有して
いることが明らかとなり,この紡糸方法の有効性が示された。繊維強度分布の引張速度依存性に
ついて検討した結果,粘弾性における緩和時間と類似の概念で破断現象が整理できることがわか
った。更に,比較的破断伸度が大きい繊維の変形・破壊過程における時分割 SAXS 測定から,長周
期構造への有効な応力伝達が破断伸度の確保に重要であること及び形状異方性が顕著なミクロボ
イドが高ひずみ領域で生成することなどが得られた。新規紡糸繊維の欠陥敏感性及び強度のポテ
ンシャルを明らかにする目的は達成された。
変形・破断過程における構造変化の解析に関しては,
破断伸度が低い繊維に対しては今後の検討の余地を残しているが,破断伸度が高い繊維に対して
は所定の成果が得られた。
ノッチ
強度のポテンシャル
2.1 GPa
レーザー照射の有効性
図22 欠陥・強度分布の解析
Ⅲ―58
Ⅲ
公開
研究開発成果について
7-4)繊維の絡み合い構造の制御性に関する計算機シミュレーションの基礎検討
(再委託先:京大)
PET 繊維の溶融紡糸過程において、紡糸線上での高分子のからみあい構造の様子を明らかにす
る事は高強度発現のメカニズムを検討する上で重要である。本研究では、分子レオロジーシミュ
レーターNAPLES と定常紡糸シミュレーターとの連携により、紡糸線上での流動場制御が溶融高分
子のからみあい構造に与える影響を解析した。
その結果、
紡糸ノズル直下での LASER 照射により、
紡糸線上におけるからみあい点密度の減少が抑制されることを明らかにした。また、LASER 照射
によって、紡糸線下流における分子鎖上のからみあい点分布が均一化することも明らかになった
(図 23)
。さらに、紡糸ノズル直下で流動場を制御する方法として考案されていた紡糸ノズル径
を変更する手法の効果を、連携シミュレーションにより検討した。この結果、紡糸ノズルの小孔
径化が、紡糸線上のおけるからみあい点密度の減少を抑制する事が分かった。また、LASER 照射
とノズル小孔径化とを同時に適用した条件での紡糸についても、その効果を評価する事に成功し
た。
紡糸シミュレーション
紡糸シミュレーション
デボラ数[-]
からみあい指数
分布
ひずみ速度[/s]
分布
0.01
温度[℃]
X=0
末端
末端
0
0
からみあい点位置 [-]
1
からみあい点位置 [-]
1
位置[cm]
位置
[cm]
分子鎖上のからみあい点位置
0.01
=
分布 分布
紡糸線
一軸伸張場
【ノズル温度】
300℃
360℃(溶融構造制御)
100
300 0
10
10-1 100
0
0
9
10
図 23 溶融紡糸過程のシミュレーションと粗視化分子シミュレーションの連携による絡み合い構
造評価。高温紡糸により,絡み合い点数の減少が抑制されるとともに,絡み合い点間分子量
分布が均一化する。
からみあいに着目した粗視化分子シミュレーションと化学工学的な熱流動場計算を連成させる
ことにより,マクロな紡糸過程と分子構造を関連づけるツールを提案できたと考えている.今後
の課題として,以下の諸点が挙げられる。高分子の物性は熱や流動条件で変化するため,ここで
行った紡糸過程の解析においても,分子シミュレーションと熱流動場計算との間でフィードバッ
クループを形成して定常解を得るべきである.また,固化過程や高速流動場下でのガラス的物性
の影響が取り入れられていないため,糸としての物性を求めることまでできていない.これは異
Ⅲ―59
Ⅲ
公開
研究開発成果について
なる分子シミュレーションを組み合わせることで原理的には実現可能である.これらは将来の課
題として残されているが,粗視化分子シミュレーションと熱流動場計算を組み合わせることによ
って高分子の分子レベルの挙動と成形条件との関係を示した世界でも最初の研究として本研究の
意味は大きく,高分子物性計算の基盤技術として今後の発展が期待できる.
7-5)繊維の表面・界面が物性に与える影響の評価・解析(連携先:九大)
表面・微小領域の構造評価手法である走査プローブ顕微鏡を用い、高強度繊維の強度向上の指
針を検討した。繊維構造の解析には、微小領域(数百 nm オーダー)の解析が可能で、かつ結晶性
等の熱特性を高感度に評価できることが期待できる nanoTA を用いた。
レーザー照射紡糸繊維
(LIS
繊維)について、レーザー照射が繊維構造に与える影響とその分布を明らかにすることを目標と
した。
図 24 はレーザー照射を施していない繊維と一方向、
三方向からレーザー照射を施した繊維試料
の断面の熱特性分布の評価結果である。レーザー照射により紡糸後の試料の軟化温度が低下する
ことが確認された。また、一方向からのレーザー照射では、繊維断面内にレーザーの照射方向に
応じた傾斜構造が生じるのに対し、三方向からのレーザー照射では構造が平均化されることが明
らかとなった。
現状、繊維の微小領域の構造解析法として一般的に用いられているのはラマン分光法や複屈折
率測定法である。複屈折率測定法では、今回のような傾斜構造をもつ試料の解析は困難である。
また、ラマン分光法では繊維内の傾斜構造は検出できるもののレーザー照射による構造変化を明
確に捉えることはできていない。本結果は、熱特性に感度の高い nanoTA を用いたことにより得ら
①
②
③
④
⑤
中心ラインを測定
繊維断面の形状像
Softening temperature / K
れた成果であると考える。
530
①
⇒
⑤
レーザー照射条件
520
レーザー
照射なし 一方向
510
■
▲
500
Position
各繊維の中心ラインの
軟化温度(K)
図 24 異なるレーザー照射条件で作製され LIS 繊維断面の熱特性評価
Ⅲ―60
三方向
●
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5) 外部発表成果(件数)
年度
特許
(国内)
特許
(海外)
論文・雑誌
(国内)
論文・雑誌
(海外)
口頭発表
(国内)
口頭発表
(海外)
総説・著書
H13-16
H17
H18
H19
合計
6件
7件
0件
4件
17件
0件
0件
1件
0件
1件
10件
2件
5件
4件
21件
17件
6件
5件
3件
31件
98件
15件
31件
33件
177 件
15件
3件
10件
7件
35件
20件
0件
1件
8件
29件
7件
1件
3件
3件
・国際シンポジウム
:1 件
展示会
・nanotech 展:4 件
プレス発表等 ・新聞報道 :2 件
(H15.2.3 日本合成
繊維新聞)
、
・H15.12.3 日経産業
新聞)
試料提供
(タイヤコード
8件
特性)
・nano tech
2006 :1 件
0件
・繊維学会 :
・受賞実績
サブセッション「繊維のミラクル
:2 件
イノベーション」で一括成果
(繊維学会賞、
14件
:1 件
SAS2006 功績賞) 発表
・nano tech 2007 ・新聞報道 :1 件
(8/2 日経産業新聞)
:1 件
・nano tech 2008
・
:1 件
4件
2件
14件
(注)外部発表に関するコメント:
1)学会発表・論文発表により技術をアピールし、注目された。
2)H19.8.2 日経産業新聞に「PET繊維の強度 1.7 倍」
「タイヤ軽量化や走行性向上に」
の見出しで、レーザー照射紡糸技術の記事が掲載され、反響を呼んだ。
3)H19.10.26 京都工芸繊維大学において繊維学会の主催で開催された平成 19 年度繊維学
会秋季研究発表会のサブセッション「精密高分子プロジェクト 高強度繊維開発研究
成果発表」でプロジェクト期間中の研究成果を纏めて発表し、好評であった。
Ⅲ―61
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.3 相構造制御による高性能・高機能材料の開発(山形大学集中研)
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (a)構造材料の研究
(b)光・電子材料の研究
集中研テーマ名
実施場所
相構造制御による高性能・高機能材料の開発
山大集中研
(1)集中研の基本概念
構造制御により材料の高性能化・高機能化をはかることは常に高分子工学の主題である。構造
制御をナノ次元で行うによって一層の高性能化が期待される。高分子多成分系におけるリアクテ
ィブブレンド、反応誘起型相分解、動的架橋などにより nm 次元の相分離構造を形成させ高性能材
料を開発することを目的とした。
高分子/低分子混合系は一般に UCST(上限臨界共溶温度)型相図を有する。低分子成分がエポ
キシであれば、
その硬化初期でのエポキシ成分の分子量増大により UCST が上昇するために系は二
相領域に突入してスピノーダル分解する。このように反応によって誘起される相分解を反応誘起
型相分解と呼ぶ。高分子成分としてエポキシと反応する官能基を有するものを採用すれば、スピ
ノーダル分解初期過程で 10nm 次元の構造に固定できるはずである。
非相溶な高分子対 A/B を溶融混練する際、界面で A と B が反応して A-B ブロック共重合体やグ
ラフト共重合体が生成すれば、共重合体は A/B に対して界面活性剤になる。このような界面反応
をともなう混練をリアクティブブレンドという。最近、共重合体が界面から引抜かれて 10nm 次元
のミセルになることも分かってきた。これはせん断場における機械的な引抜現象であると考えら
れる。引抜きの極限を見極めるとともに、それを材料設計に応用するためには、長時間にわたっ
て高せん断場を付与できる二軸押出機の開発が必須である。
PP などの熱可塑性プラスチックと EPDM などのゴムを混練する際に、ゴム成分とのみ反応する
架橋剤を添加しておけば、熱可塑成分が少量であっても連続相(海)となって架橋ゴム粒子が分散
相(島)となる。この混練方法は動的架橋と呼ばれている。しかし硬質の熱可塑成分が海なので、
動的架橋物は柔軟性に劣るのが一般的である。軟質化を計る方策として、ゴム成分を海に部分相
溶化させることが考えられる。非相溶系高分子対において、高せん断場で相図の移動により一相
領域が拡大して相溶することも見出だされ、近年その背景となる物理にも発展がみられる。この
せん断誘起相溶化を動的架橋プロセスに繰り込めば、可とう性に優れた熱可塑性エラストマーを
創製できるはずである。
以上の基本原理にそって市場ニーズに応えるべく材料開発を実施すれば、効率よく高性能材料
の開発が期待される。新しいシーズと最先端ニーズの組合せれば、世界に例のない新規材料を開
Ⅲ―62
Ⅲ
公開
研究開発成果について
発できるはずである。
(2)実用化テーマへの展開
山形大学集中研では図1に示すように、成型加工プロセスにおける相分解制御による高次構造
制御を基盤技術として、4つの構造材料、光・電子材料の開発をおこなう。
高性能ダイボンドの開発
自動車構造材の開発
半導体多層実装用接着剤の開発
目標:剥離強度>1.0 KN/m
(膜厚10μm、剥離角度60-90°)
高L/D押出機による耐衝撃性ポリアミド系
ナノアロイの創出
目標:耐衝撃性>50 KJ/m2
反応誘起相分解
によるナノ構造
制御技術
リアクティブ
ブレンド技術
成型加工技術
成型加工プロセスにおけ
る相分解制御によるナノ
リアクティブ
ブレンド技術
動的架橋技術
高次構造制御技術
可とう性電線被覆材の開発
絶縁フィルムの開発
非ハロゲン、難燃性エコ電線被覆材の開発
目標:硬さ<2 MPa(10%モジュラス)、
難燃性JIS60°傾斜燃焼試験合格
引張強度>10 MPa
易加工性、耐衝撃性PPE系ナノアロイの創出
目標:耐熱性>180℃、耐衝撃性>N.B.
誘電率<2.5
図1 山形大集中研における実用化テーマへの展開
高性能化への要求が留まるところのない半導
体分野に反応誘起型相分解を応用することとし
た。半導体パッケージの集積度を向上させるた
Semiconductor chip
25μm
Die bonding film
3~10μm
めには、チップの多層化(例えば図2の20層パ
ッケージ)
、そのためにはチップならびに接着剤
であるダイボンドの薄肉化が必要である。薄肉化
しても高接着性を維持し充分な熱応力の低減が可 図2.近未来(2010年)半導体パッケージ
能なダイボンドの開発が要求されている。熱応力
低減のためにはゴム成分リッチ系を、そしてゴム成分として汎用接着剤であるエポキシ樹脂との
相溶性がよいアクリルゴム(ACM)を選定した。
ACM/エポキシ系は UCST 型相図を有する混合系であること、硬化初期でのエポキシ成分の分
子量増大により UCST が上昇するために系は二相領域に突入してスピノーダル分解し、
最終硬化物
では数μm 次元の相分離構造に至ること、反応基としてのエポキシ基を有するACMを用いると
スピノーダル分解初期過程で 10nm 次元の構造に固定できることなどを明らかにした。すなわち、
Ⅲ―63
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ACM/エポキシ系で成分ポリマー・硬化剤の選択や硬化温度の選定により、10μm~10nm にわた
って構造制御が可能であることが判った。構造制御による高接着性の達成、ならびに薄膜(10μm
程度)ダイボンドにおいても高接着強度を実現できた。また高接着性発現のメカニズムも解明で
きた。これらの体系的知見は随時ダイボンドの新規グレード設計に活用され販路拡大に繋がって
いる。
リアクティブブレンドによってナノ構造を形成させるための装置“ナノ構造形成マシン”とし
て、スクリュー径(D)と長さ(L)の比L/D が極めて大きい(L/D=100)二軸押出機を設計・
試作に成功した。この二軸押出機の使用によって、界面で生成する共重合体を分散粒子内に引き
込むことができる(図3)という新規な界面科学的知見を得るに至った。引き込み現象の応用に
より、ナイロン(PA)/EGMA(エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体)系および PPE(ポ
リフェニレンエーテル)/EGMA 系で、それぞれナノサラミ構造とコア・シェルサラミ構造を形成
させることに成功した。
PA
EGMA
C. 引き込み(新)
成分ポリマー種の選定
高せん断混合
Pull-in
“Pull-in”
Fine salami
Pull-out into Dispersed Particles
Nano salami str.
PA系非粘弾性エンプラ
(自動車材料)
Core-shell salami str.
PPE系スーパーエンプラ
(絶縁フィルム)
図3. グラフト共重合体の引き込みによる新規サラミ構造の形成
PA/EGMA 系アロイは、高速変形を受けるほど柔らかい物体として振舞うことがわかった。これは
「非粘弾性」である。非粘弾性高分子材料が存在すること存在自体、誰も考えていなかった。NOVA
(Non-Viscoelastic Alloy:非粘弾性ポリマーアロイ)というニックネームをつけた。NOVA は、
通常使用(低速変形)時は一般のプラスチックと同等の強度・剛性を有しながら、高速変形時に
はゴム材料のように柔軟に変形して衝撃を吸収する能力を持っている。すなわちプラスチックと
ゴムの長所を兼ね備えた革新的材料として位置づけられる。自動車用部品やスポーツ用品への用
途展開を図ることとした。
PPE/EGMA 系アロイは高耐衝撃性と高耐熱性(熱変形温度 HDT=181ºC)を示し、スーパーエンプラ
に位置づけされることが判った。低誘電率であるという特長を考慮して電子部品関連の絶縁フィ
ルムとしての応用を検討することになった。
近年の環境保全に対する意識の高まりに呼応して軟質ポリ塩化ビニルの代替を図るべく、動的
架橋による非ハロゲン系難燃材料の開発を目指した。通常の動的架橋による熱可塑性エラストマ
ーに、難燃性付与剤としての Mg(OH)2 を大量の(70phr 以上)に添加すると可とう性がなくな
ると共に機械的強度も著しく低下する。この問題解にあたって、せん断誘起相溶化技術を採用す
る事とした。ゴム成分として EPDM、樹脂成分としてエチレン系共重合体(PE) を用いた動的架
Ⅲ―64
Ⅲ
公開
研究開発成果について
橋により、熱可塑性成分添加量が 10wt%であるにもかかわらず、大量(∼20%)の PE リッチマ
トリックス(海)にできた。これは高せん断場での相溶解により EPDM を PE 中に取り込めたことを
意味する。またマトリックス中のPE結晶はTEMで観察できないほど微細であった。高分子不
純物としての EPDM がラメラ晶としての成長を阻止したためであろう。これらにより柔軟性が発
現したものと考えられる。 同様のことを、結晶性EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)/
非晶性EVA系に応用した結果、可とう性電線被覆として要求される特性のすべてを満足する材
料を開発することができた。これにより当該分野での新規格の制定が可能となった。量産性の確
認もほぼ終了した。電線被覆の他にも自動車内装材料への応用が期待される。
Ⅲ―65
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.3.1 高性能ダイボンドの開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(b) 光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(日立化成)
高性能ダイボンドの開発
<山形大学、京工大、九大>
(1)背景・目的等
半導体実装の高密度化が進む中で、ダイボンドフィルムには、極薄半導体チップの三次元実装
に適用するため極薄で高接着性の要求が極めて強くなっている。本テーマは、接着特性評価技術
の向上を図るとともに、このような要求に対応可能な、高性能接着材料の設計手法を確立し、次
世代の高機能性フィルムの実用化見通しをうることを目的とし、反応誘起相分解性の熱硬化性樹
脂成分と高分子ゴム成分とのポリマーアロイ系接着材料において、材料・プロセス開発を進める
とともに、特に被着物との界面近傍領域に着目して、ナノ相分離構造と高接着性発現機構の関係
解明に関する研究を行った。
Ⅲ―66
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠及び達成度
最終目標
設定根拠
反応誘起相分解によ
る相分離構造制御技
術を用いて、半導体
実装用途の接着剤に
適した、60~90°の
剥離強度 1.0kN/m 以
上の接着性を有する
高信頼性極薄ダイボ
ンドを開発する。
将来の超高密度半導体パッケージに用いられる接着材料は、従来の材料・
プロセス開発技術だけでは対応が困難と考えられる。本テーマでは、反応
誘起相分解制御技術による巧妙なナノ相分離構造制御によって次世代の半
導体パッケージへの対応を目指すこととした。また、半導体パッケージ内
で起こる剥離は、実装面に対し 90°以下の鋭角に発生しているため、従来
から行われてきたT字剥離試験では実態に即した評価とは言い難い。そこ
で剥離評価手法の改良も同時に進めることとした。数値的には、研究当初
の膜厚 50μm における 60~90°剥離強度は 600N/m 程であったが、十分な
信頼性が得られると考えられる剥離強度 1.0kN/m 以上を膜厚 10μm におい
ても達成することを目標として設定した。
達
成
度
①最終目標に対する達成度(○)
:
・ダイボンドフィルム使用環境の接着不良を想定した評価を行うため、任意に剥離角度を変化で
きる角度可変式剥離試験装置を開発した。この装置を用いて評価することで、膜厚 10μm におけ
る 60~90°剥離強度が 1.0kN/m を超える 4,4'-ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化接着材料を
開発し、最終目標を 100%達成することができた。
(事業原簿 P.Ⅲ―69)
②実用化に向けての達成度:
・開発した DDM 硬化接着材料で被着体であるポリイミド界面付近に反応誘起相分解によって自発
的にエポキシ樹脂リッチ粒子を多く偏在させ、その内側は逆に少ないナノ相分離構造制御に世界
で初めて成功した。また、この構造制御技術により、接着性と応力緩和性を両立する接着材料を
開発できる見通しが得られた。
(事業原簿 P.Ⅲ―70)
・大きな剥離エネルギーを吸収できる相分離構造を形成させることで高剥離強度のダイボンドフ
ィルムを開発できることが世界で初めて示唆された。(事業原簿 P.Ⅲ―72)
・相構造の制御技術などの本プロジェクトの結果と日立化成の従来技術の融合により、売上高の
大幅拡大及び将来的な用途の拡大のための先行サンプル供給などへ大きく寄与できた。
Ⅲ―67
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3) 研究開発計画・課題
年 度
1)相分離過程の検討
2)剥離評価手法の改良
研
究
3 ) ポ リ マ ー ア ロ イの
課
機能性発現
題
機構の解明
①新規ポリ マ ー
ア ロ イの 設 計
H13-16
年度別目標達成度
(○、△、×)
H18
H19
・相分離過程解明の
た めの 、 そ の 場 観 察
・相図評価
・温度可変式剥離強度
・角度可変式剥離強度
・ 材 料 及 び 成 形 プロ セ ス
による相分離の解析
・高接着材料の開発
・相分離生成機構の解明
・相分離構造制御
( 相分離による機能付与)
・相構造制御技術の構築と
相分離評価法の確立
・高接着材料の
・接着機構解明
開発
および
(6 0 ~ 9 0 °
高接着技術の
剥離強度:
確立
1 k N/ m )
○
○
Ⅲ―68
○
終了後
高密度半導体
パ ッ ケ ージ に
対 応 する
高性能
ダ イボ ン ド を
実 用 化 する 。
・接着性発現機構の解明
(接着界面相構造と接着性の関係)
②接着性と
相構造の相関
年度別目標
H17
・接着界面付近
の相構造と
接着性の関係
把握
○
これ に よ り
H2 3 年 に は
470億円/年
と予想される
ダ イボ ン ド 市 場
の シ ェア 8 0 %
以上を
目 指 す。
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4) 研究開発成果
①角度可変式剥離強度
半導体チップ接着用途のダイボンドフィ
ルムを考えた場合、実際の使用環境におい
て剥離が発生するときの応力は、従来から
行われてきた T 字剥離試験のように 180o で
剥離が起こることはなく、剪断応力の要因
を多分に含んだ 90°より小さい角度で剥
離すると考えられる。実使用条件で起こる
剥離に近い条件で測定することは非常に重
要である。図 1 に開発した角度可変式剥離
試験装置の写真と概略図を示す。
図 1 角度可変式剥離試験装置
②高接着材料の開発(膜厚と剥離強度の関係)
従来品及び DDM 硬化接着材料の膜厚を 2
4000
~52μm に変化させてポリイミドフィルム
3500
(PI)でサンドイッチ構造とし、120oC で 1
剥離強度 (N/m)
3000
目
標
領
域
2500
2000
時間硬化させた試料を、
幅 10mm の短冊状に
60°
切り抜き剥離強度 4 測定に供した。
90°
剥離角度 180o の T 字剥離強度測定結果と
1500
角度可変式剥離試験装置を用いた剥離角度
目標達成
1000
90o と 60o の測定(室温 23℃)結果を図 2 に
剥離角度:180°
従来品
500
0
0
10μm
示す。従来品は剥離角度によらず、接着力
が低い傾向を示したのに対して、DDM 硬化
20
40
60
膜厚 (μm)
接着材料は実使用条件に近い 90°以下の
角度で接着力が著しく増大する傾向を示し、
図 2 膜厚と剥離強度の関係
厚さ 10μm で目標値の 1kN/m を満足した。
これは従来品がエポキシ樹脂リッチ相が
均一に分散しているのに対して、DDM 硬化接着材料では界面に凝集しているという構造の違いに
起因すると考えられる。
③相分離構造制御
図 3 に DDM 硬化接着材料の断面 TEM 像と表面弾性率像を示す。TEM 像は、京都工芸繊維大学の
電界放電形透過電子顕微鏡、表面弾性率像は、九州大学の走査粘弾性顕微鏡(Scanning
Viscoelasticity Microscope;SVM)によって得られたものである。どちらにも、反応誘起相分解
で形成された海島構造が観察された。この島相にあたる粒子構造は、表面弾性率像で明るく高弾
性であるとことからエポキシ樹脂リッチな組成、その周囲の海相の領域は、暗く低弾性であると
Ⅲ―69
Ⅲ
公開
研究開発成果について
ことからアクリルゴムリッチな組成であることが分かった。ここで特筆すべき点は、エポキシ樹
脂リッチ粒子が、接着材料の中心付近の図に A で示した領域に比べ、被着体である PI 界面近傍の
C で示した領域に多く存在し、A と C の間の B の領域では少ないことである。この相分解構造を世
界で初めて反応誘起相分解によって自発的に形成することに成功した。
図 3 DDM 硬化接着材料の断面像
エポキシ樹脂リッチ粒子が偏在した PI 界面近傍の領域は、接着性に寄与し、その内側のエポキ
シ樹脂リッチ粒子が少ない、すなわちアクリルゴムリッチな領域は、応力緩和性に寄与すると考
えられる。この構造制御技術により、薄くても高い接着性と半導体チップの反りを防止する応力
緩和性を両立する接着材料を開発できる見通しが得られた。
④接着性発現機構の解明
1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(2PZ-CN)で硬化させた接着材料の断面 TEM 像を図
4 に示す。DDM 硬化でみられたような、エポキシ樹脂リッチ粒子の PI 界面近傍への偏在は認めら
れなかった。
DDM 硬化接着材料の T 字剥離強度は 720・N/m であり、2PZ-CN 硬化の 3N/m 以下に比べ高い。そ
こで、この界面近傍のエポキシ樹脂リッチ粒子の偏在する構造が、接着性にどう影響するかにつ
いて調べた。
DDM 硬化接着材料の T 字剥離中のサン
プルを、2 液のエポキシ樹脂で包埋した
試料の断面 TEM 像を図 5 に示す。剥離に
より、接着材料の中心付近の相構造には
変化がなかったが、エポキシ樹脂リッチ
粒子が偏在した PI 界面近傍の相構造は、
非常に細かい構造に大きく変化している
ことが分かった。また、剥離起点付近で
は、エポキシ樹脂リッチ粒子は細長く引
図 4 2PZ-CN 硬化接着材料の
断面 TEM 像
き伸ばされていた。
Ⅲ―70
Ⅲ
公開
研究開発成果について
図 6(a)に T 字剥離した DDM 硬化接着材
料破壊部相構造を拡大した断面 TEM 像を
被着体(PI)
示す。アクリルゴムリッチ領域は、多様
ポ
接 リイ
着
ポ 材 ミド
リイ 料
ミド
細長く引き伸ばされた
エポキシ樹脂リッチ粒子
非常に細かい構造に
大きく変化した
PI界面近傍の相構造
包埋エポキシ
接着材料
(2液ビスフェノール系)
な形状の微細な島状構造として観察され
た。また、剥離表面から 700~1100nm の
深さまでの領域が全体的に黒化していた。
このことは、剥離によりこの深さまでの
相構造が大きなダメージを受け、包埋エ
ポキシ樹脂がこの部分に浸透し硬化反応
したものと考えられる。一方、PI 界面近
図 5 T 字剥離した DDM 硬化接着材料の
断面 TEM 像
傍に多く存在していたエポキシ樹脂リッ
チ粒子の一部は、その形状を留めておら
ず、破壊され微細化されたものと考えら
れる。これによって発生した空隙中に包埋エポキシ樹脂が浸透し黒化したものと考えられる。ま
た図 6(b)に示す PI 側に付着した接着材料には、エポキシ樹脂リッチ粒子が微細化された痕跡と
見られる部分も確認できた。
包埋エポキシ
PI
アクリルゴム
接着材料
微細化された
エポキシリッチ粒子
アクリルゴム
包埋エポキシ
(a)エポキシ樹脂リッチ粒子の偏在側
(b)PI側
図 6 T 字剥離した DDM 硬化接着材料の断面 TEM 像(拡大)
このような観察結果をもとに推定した DDM 硬化接着材料の剥離機構を図 7 に示す。
図 7 推定した DDM 硬化接着材料の剥離機構
Ⅲ―71
Ⅲ
公開
研究開発成果について
PI 界面近傍のアクリルゴムリッチ領域は、剥離による膨
500nm
包埋エポキシ
張応力でキャビテーションが起こり、スポンジ状になり、
エポキシ樹脂リッチ粒子は、三次元架橋体であるにもかか
わらす、大塑性変形したのちキャビテーションをともなっ
て寸断化されたと推定した。
図 8 に剥離強度の低い T 字剥離した 2PZ-CN 硬化接着材料
接着材料
の断面 TEM 像を示す。包埋エポキシ樹脂が浸透し硬化反応
したことによって現れたと考えられる黒化部は、剥離表面
から 20nm 程の深さまでである。すなわち、剥離によりダメ
図 8 T 字剥離した 2PZ-CN 硬化
接着材料の断面 TEM 像
ージを受けた領域は非常に浅いものであったことが分かっ
た。
以上の TEM 観察結果より、開発した DDM 硬化接着材料が優れた接着性を発揮できるのは、PI
界面付近での構造破壊によって剥離エネルギーを大きく吸収できるからであると考えられる。な
お、剥離強度の単位は〔N/m〕であるが、分子・分母に長さ〔m〕をかけると下記のようになる。
剥離強度〔N/m〕=エネルギー〔N・m〕/面積〔m2〕
すなわち、新しい剥離面をつくるのに必要なエネルギー(単位面積あたり)である。本研究によ
って、大きな剥離エネルギーを吸収できる相分離構造を形成させることで、高剥離強度のダイボ
ンドフィルムを開発できることが世界で初めて示唆された。
Ⅲ―72
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果
年 度
H13−16 年
H17 年
H18 年
H19 年
特 許
(国内)
1件
―
1件
4件
―
―
―
―
1件
―
―
1件
3件
6件
展示会 1件
口頭発表 2 件
展示会 1 件
口頭発表5件
―
1件
1件
特 許
(海外)
試 料
提 供
展示、プレス
発表等
7件
論 文
1件
1件
展示会 1件
(注)外部発表に関するコメント:
1)学会発表:H19 年度 第 57 回ネットワークポリマー講演討論会(合成樹脂工業協会)
「反応誘起相分解性アクリルゴム/エポキシ樹脂系接着材料の相分離構造制御」
について
発表し、発表内容が新規性の高いものであり、好評で、ベストプレゼンテーション賞を
受賞した。(受賞者:郷豊)
(6)特記事項:
特になし
Ⅲ―73
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.3.2 自動車用構造材の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(a)構造材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(東レ)
自動車用構造材の開発
<山形大、東工大、京工大、産総研>
(1)背景・目的等
本研究は、新規高分子アロイ化技術、ナノアロイ化技術を開発することによって新規
高性能材料を創出し、自動車用部品等に代表される構造材料分野へ応用することを通し
て、産業の発展に貢献することを目的としている。
高分子アロイ化技術としては、お互いに反応する官能基を有するポリマーを押出機中で反応さ
せながら溶融混練する「リアクティブプロセッシング」に着目した。スクリュー長 L をスクリュ
ー径 D で割った L/D が 50 未満である一般の二軸押出機に対して、
本研究ではリアクティブプロセ
ッシングの極限追求を行うべく、L/D=100 の高 L/D 二軸押出機(図1)を世界で初めて導入し、
長い反応時間と高剪断賦与を利用して新規高性能材料を創出する検討を進めた。更に高 L/D 押出
機の広範囲に超臨界状態を形成させることによる高性能化検討も進めた。
具体的には、ポリアミドと多種多様な反応性高分子との組み合わせにおいて、数十 nm オーダ
ーで構造制御し、①従来材料では得られない高速変形ほど柔軟に振る舞う非粘弾性特性を有し
た耐衝撃材料、および②耐熱性と耐衝撃性を兼備した材料を開発することを目的とした。
図1
L/D=100 二軸押出機
Ⅲ―74
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
新規リアクティブプロセッシング技術を開発し、①バン
パー、エンジン周辺部品、内装部品等に適した特異な粘
弾性特性を有する耐衝撃ポリアミド系ナノアロイ、②フ
ェンダー等の外板部品に適した耐衝撃性 50kJ/m2 以上か
つ現行材料以上の耐熱性を有する耐衝撃・耐熱ポリアミ
ド系ナノアロイを創出する。
①従来材料には無かった高速変形ほど柔
軟に振る舞う耐衝撃材料、および②耐熱
性と耐衝撃性を兼備した材料を開発でき
れば、
自動車内装、
外板材料分野等で 2012
年に約 5 億円/年の市場創出が期待でき
る。
達
①
・
②
・
・
・
・
・
成
度
最終目標に対する達成度(○)
:
設定した最終目標を 100%達成することができた。
(事業原簿 P.Ⅲ―77,78,79,80)
実用化に向けての達成度:
特異な粘弾性特性を有する耐衝撃ポリアミド系ナノアロイ(NOVA)に関してプレスリリースを
実施。20 社以上にサンプル提供を行い、実用化に急速に近づくことができた。
(事業原簿 P.Ⅲ
―81)
自動車関連メーカーにおいて、実際の自動車部品を模擬した成形品を使用して側突衝突試験お
よび頭部傷害試験を実施した結果(図2)
、乗員保護に適した材料であるとの評価を得た。
スポーツ用品用途ではヨネックス(株)のテニスラケットストリング(図3)で実用化するこ
とに成功した。
上記実用化を進めるために、国内 15 件、外国 1 件の特許出願を行った。
(事業原簿 P.Ⅲ―81)
高 L/D 押出機における温度・圧力解析をもとに一般の二軸押出機での製造技術を確立し、スケ
ールアップ対応、量産型機械の設備投資等を行い、プロジェクト終了 2 年後の本格生産を目指
す。
図 2 NOVA の高速落錘衝撃試験結果
(重り 193kg、衝突速度 11.3km/h でも破壊せずに柔軟に変形して衝撃を吸収)
(硬式用)
(軟式用)
テニスラケットストリング
中間層(NOVA)
図3
NOVA のテニスラケットストリング(2007 年 2 月に上市)
Ⅲ―75
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3) 研究開発計画・課題
年度
①汎用的ナノ構造制御
技術の開発
②反応および構造制御
の極限追求
課
題
③ナノ構造と材料物性
との相関マッピング
④適用可能な系の探索
H13~16 年
H17 年
H18 年
H19 年
ナノ構造制御のた
めの新規リアクテ
ィブプロセッシング
技術の確立
ナノ構造と材料物
性とのマッピング
を活用したナノ構
造制御可能な系の
探索
ナノ構造形成により発現する特性の明確化
ユーザーへのサンプル供試と実用特性評価
連携 (ナノ構造形成による特性発現機構の解明 )
新規ナノ構造制御技術の確立と新規ナノ構造材料の創
出
年度別目標
年度別目標達成度
(○、△、×)
高 L/D 押出機内で
のナノ構造形成過
程の解明、材料物
性との相関明確
化、系の選定
○
・テストピー ・実用形状での
スレベルでの 特性明確化
・プレスリリー
特性明確化
・ユーザーワ スによるユー
ザーワークの
ーク開始
大幅加速
○
Ⅲ―76
○
・ナノ構造形成
による特性発
現機構の解明
・耐熱性・耐衝
撃性を兼備し
た材料の創出
○
終了後
開発した新規
材料の市場で
の反応を見極
めた上、PJ 終
了 2 年後の本
格生産化を目
指し、スケー
ルアップ対
応、量産型機
械の設備投資
等の検討を行
う。
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(4)研究開発成果
① ナノ構造制御のための新規リアクティブプロセッシング技術の確立
本研究は、新規高分子アロイ化技術(ナノアロイ化技術)を開発することによって新
規高性能材料を創出し、自動車用部品等に代表される構造材料分野へ応用することを通
して、産業の発展に貢献することを目的としている。高分子アロイ化技術としては、お互い
に反応する官能基を有するポリマーを押出機中で反応させながら溶融混練する「リアクティブプ
ロセッシング」に着目した。スクリュー長 L をスクリュー径 D で割った L/D が 50 未満である一般
の二軸押出機に対して、
本研究ではリアクティブプロセッシングの極限追求を行うべく、
L/D=100
の高 L/D 二軸押出機(MOMOKO)を世界で初めて導入し、長い反応時間と高剪断賦与を利用して新
規高性能材料を創出する検討を進めた。
② ナノ構造と材料物性とのマッピングを活用したナノ構造制御可能な系の探索
代表的エンプラ材料であるポリアミド 6(PA6)とエポキシ基含有衝撃改良材料である反応性ポ
リオレフィン
(エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体:EGMA)
を MOMOKO で溶融混練すると、
PA6 マトリックス中に分散する EGMA ドメインの中に、更に約 20nm の PA6 と EGMA の反応物である
ナノミセルを数多く内蔵するという特異なモルホロジーを形成させることに成功した(図4)
。ま
たこの材料の引張試験からは、引張速度を上昇させると、弾性率が低下し破断伸びが増大すると
いう、従来材料には見られない非粘弾性挙動を発現することが分かり(図5)
、衝撃吸収部品等に
展開できる可能性が示唆された。本材料を非粘弾性アロイ(Non-Viscoelastic Alloy)の頭文字
を取って NOVA と命名する。
200nm
20nm
200nm
PA6・EGMA反応物
(ナノミセル)
マトリックス : PA6
ドメイン : EGMA(サブミクロン)
図4
( MPa
)
Stress
60
50
40
30
100mm/min
1000mm/min
20
10
0
0
図5
Ⅲ―77
100
150
200
Strain (%)
引張速度
NOVA の TEM 写真
50
弾性率
NOVA の引張特性(23℃)
伸び
Ⅲ
公開
研究開発成果について
③ ナノ構造形成により発現する特性の明確化
NOVA を自動車の衝撃吸収部品に展開するためには、より実用に近い高速度領域における評価が
必要である。そこで 0.36~36km/h の速度で引張試験を実施した結果、NOVA は既存材料である PA6
や高衝撃ナイロンと比較して低応力で変形し、破断伸びが大きく、ネッキング強度もほぼ一定で
140
120
120
PA6
100
高衝撃ナイロン1
80
高衝撃ナイロン2
60
NOVA
40
20
140
PA6
高衝撃ナイロン1
100
80
高衝撃ナイロン2
60
NOVA
40
20
40
60
Strain(%)
80
100
高衝撃ナイロン2
80
NOVA
60
40
0
0
0
高衝撃ナイロン1
100
20
20
0
PA6
120
Stress(%)
Stress(MPa)
140
Stress(%)
Stress(MPa)
Stress(%)
Stress(MPa)
あることが判明した(図6)
。
0
Stress(%)
20
40
60
Strain(%)
80
100
0
20
(a)6000mm/min(0.36km/h)
(b)60000mm/min(3.6km/h)
図6
40
60
80
100
Strain(%)
Stress(%)
Stress(%)
(c)600000mm/min(36km/h)
高速引張試験結果(テストピース)
また自動車用構造材、特に外装品に展開するには、低温領域での衝撃吸収性も必要である。そ
こで-20℃および 0℃の低温における引張特性を評価した結果、NOVA は、PA6 や高衝撃ナイロン
と比較して低応力で降伏し、破断伸びが大きく、衝撃吸収エネルギーが大きいことが分かった(図
7)
。これらの結果より、実用に近い高速度/低温領域においても、既存の材料と比較して、NOVA
の衝撃吸収の優位性が明らかとなり、自動車用構造材等の衝撃・振動吸収材料としての展開が期
待できることが分かった。
100
10
120
100
80
高衝撃ナイロン1
高衝撃ナイロン2
60
-10
0
NOVA
60
高衝撃ナイロン2
40
高衝撃ナイロン1
20
NOVA
40
-20
80
Energy absorb‘d (J)
PA6
Elongation (%)
Yield stress (MPa)
140
8
NOVA
6
高衝撃ナイロン2
4
高衝撃ナイロン1
2
PA6
PA6
10
20
Temp.(℃)
0
-20
-10
0
10
20
Temp.(℃)
(a)降伏点強度
(b)破断伸び
図7
0
-20
-10
0
10
Temp.(℃)
(c)衝撃吸収エネルギー
引張特性の温度依存性(3.6km/h、テストピース)
次に自動車の衝撃吸収部品を模擬した形状で、大荷重かつ高速度の衝撃吸収性の評価
Ⅲ―78
20
Ⅲ
公開
研究開発成果について
を日本自動車研究所において実施した。試験には高速落錘衝撃試験機を使用し、最外直
径 50mm×厚さ 2mm×高さ 150mm の円筒状試験体を用いて、重り 193kg、衝突速度 11.3km/h、
衝突エネルギー945J の条件で衝撃試験を実施した。
その結果、既存材料である PA6 では重りが接触すると即座に破壊し、また PA6 にゴム
成分を添加した高衝撃ナイロンでも試験途中に割れが発生するのに対して、NOVA は試験
最後まで割れることなく柔軟に変形し、大荷重、高速度の試験においても衝撃吸収性に
優れることを実証できた(図8)。
図8
高速落錘衝撃試験結果
表 1 に NOVA と従来材料との物性比較を示す。NOVA は、通常使用時は、一般のプラスチックで
ある高衝撃ナイロンと同等の曲げ強度・剛性を有しながら、高速変形時にはゴム材料のように柔
軟に変形し衝撃を吸収する。
すなわちプラスチックとゴムの長所を両立する革新的材料と言える。
表1
NOVA と従来材料との比較
開発材料
(NOVA)
通常使用時
特性
高速変形時
特性
従来材料
プラスチック
ゴム
高衝撃ナイロン
熱可塑性
エラストマー
曲げ強度
MPa
○
(53)
○
(55)
×
(15)
曲げ弾性率
GPa
○
(1.3)
○
(1.5)
×
(0.3)
シャルピー衝撃強度
kJ/m2
(@23℃)
○
(80)
○
(105)
×
(23)
高速引張破断伸度
%
(@3.6km/h)
○
(70)
△
(45)
○
(60)
-
○
(柔軟に変形)
×
(割れ)
○
(柔軟に変形)
回復性
○
×
○
高速圧縮特性
④ 連携(ナノ構造形成による特性発現機構の解明)
NOVA の三次元 TEM 観察を行ったところ、PA6 マトリックス中に分散する EGMA ドメインの中に
は、約 20nm の PA・EGMA 反応物であるナノミセルが一部連結構造を形成して存在することが分か
り、この特殊な構造が特異な衝撃吸収性に関与している可能性が示唆された(図9)
。
また引張変形させて TEM 観察したところ、高速変形ほど、EGMA が局所的に伸長されていること
が分かり、更に偏光顕微鏡観察からは、高速変形時には引張方向から±45°方向にシアバンド(局
所的大塑性変形領域)を形成しながら変形することが明らかとなった(図 10)
。
更に AFM による弾性率マッピングからは、NOVA は EGMA ドメイン周辺に PA6 と EGMA の中間の弾
性率の相(緑)を有し、PA6 と共連続構造を形成していることが分かった(図 11)
。またサーモ
Ⅲ―79
Ⅲ
公開
研究開発成果について
グラフィーにより引張変形時の蓄積熱を観察したところ、高速変形では試験片に熱を蓄積して、
2 倍変形時に表面温度で EGMA の融点以上である 60~70℃まで上昇することが分かった。この 2
つから、低速変形時にはマトリックスを形成する PA6 から変形するが、高速変形時には熱を蓄積
して EGMA が膨張し、もう一つの連続相である中間層および EGMA 分散相から変形しやすくなり、
このように低速変形、高速変形で変形モードが異なることが非粘弾性特性発現に寄与していると
考えられる。
硬
150μm
μm
EGMA
ドメイン(赤)
PA6
マトリックス(青)
軟
100nm
引張方向
図9 EGMA ドメイン中のナノミセル
(三次元 TEM 観察)
μm
図10 高速引張後の偏光顕微鏡写真
図11 AFM による弾性率マッピング像
⑤ 新規ナノ構造制御技術の確立と新規ナノ構造材料の創出
新規ナノ構造制御技術として、可塑化効果による混練性改良と高圧反応場による反応促進効果
が期待できる超臨界流体に着目し、
先に開発した高 L/D 押出機の広範囲に超臨界状態を形成させ、
新規ナノ構造材料を創出する検討を行った。用途は自動車外板部品を想定し、PA/ポリフェニレ
ンエーテル(PPE)系で耐熱性と耐衝撃性を兼備した材料の創出に挑戦した。
最初に超臨界状態形成無しの系で、高 L/D 押出機による効果を調べた結果、一般押出機混練と
比較してポリマー間の反応が著しく進行し、PA マトリックス中に存在する約 20nm の PPE ナノ粒
子が増加して、耐熱性を向上できることが分かった(図 12)
。更に高 L/D 押出機の上流部(L/D=
25)から炭酸ガスを導入したところ、押出機中の広範囲で超臨界圧力を達成し、耐熱性を更に 8℃
向上させることに成功した(図 12)
。この超臨界押出アロイでは PA マトリックス中のみならず、
分散する PPE 中にもナノ粒子が多く存在し、その結果、PPE ドメインの体積が増加し PA と PPE が
共連続構造を形成することが TEM 観察から判明した。
超臨界押出を行うことで耐熱性を改良できる知見を得たため、次に PA66/無水マレイン酸変性
PPE 系に、衝撃改良材料として EGMA を添加して、超臨界押出により高耐熱・高衝撃アロイを作製
する検討を行った。その結果、50kJ/m2 以上の耐衝撃性を有しながら、自動車フェンダー部品とし
て最も多く市販されている Noryl GTX のいずれのグレードよりも耐熱性に勝る材料を創出するこ
熱変形温度(℃、0.45MPa)
熱変形温度(℃、0.45MPa)
とに成功した(図 13)
。
194
192
190
超臨界押出により
更に耐熱性向上
188
186
184
182
180
40
70
L/D
100
CO 2無
100
CO 2有
200
開発材料
195
190
185
GTX918WR
GTX6013 GTX6601
180
175
170
GTX600
165
GTX6011
160
0
10
20
30
40
50
60
Izod衝撃強度(kJ/m2)
Ⅲ―80
70
Ⅲ
公開
研究開発成果について
図12
超臨界押出による耐熱性の向上
図13
(5)外部発表成果(件数)
開発材料の耐熱性と耐衝撃性
(既存材料との比較)
年 度
H13−16 年
H17 年
H18 年
H19 年
特 許
(国内)
6件
5件
1件
3件
特 許
(海外)
0件
0件
1件
0件
試 料
提 供
0件
3件
5件
16件
24件
展示、プレ
ス発表等
10件
3件
口頭発表:1件
展示会:2件
プレスリリース:1件
テレビ放映:1件
新聞・雑誌報道:21 件
展示会:1件
論 文
1件
0件
2件
7件
口頭発表:2件
新聞・雑誌報道:2件
展示会:3件
2件
(注)外部発表に関するコメント:
1)特異な粘弾性特性を有する耐衝撃ポリアミド系ナノアロイ(NOVA)に関して、2007 年 1 月
31 日に「世界初 衝撃吸収プラスチックの開発」の題目で記者会見方式のプレスリリースを
実施。当日はテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」のトレンドたまごで放映された
他、日経新聞、朝日新聞等、合計 20 以上の新聞・雑誌でピックアップされ、反響は良好であ
った。
2)プレスリリース後、50 社以上から詳細な技術プレゼンの依頼を受けた。現在までに 24 社に
サンプルを提供し実用特性評価中である。
(6)特記事項:
なし
Ⅲ―81
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ-2.3.3 可とう性電線被覆材料の開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」
(a)構造材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(日立電線)
、
可とう性電線被覆材の開発
<山形大、東工大、京工大>
(1)背景・目的等
電源コードやキャブタイヤケーブルに使用される電線被覆材料には、優れた可とう性を持つポ
リ塩化ビニル(PVC)などのハロゲン系ポリマーが主に使用されている。しかし、近年の環境保全
に対する意識の高まりから環境負荷が小さくリサイクル性の高い電線被覆材料が望まれており、
この要求に応えるため、燃焼時に有害ガスを発生するハロゲン物質を含まず、熱可塑性でマテリ
アルリサイクルの可能な材料の開発が課題となっている。
ハロゲンを含まない難燃材料としては、
樹脂中に多量の無機難燃剤を添加した組成物が一般的であるが、機械的強度を高めるには結晶性
の高い樹脂を用いる必要があり硬くなる。一方、柔らかくするには結晶性の低い樹脂を用いるた
め機械的強度が低くなるという問題があった。このため可とう性が要求されるような用途では、
柔らかくて機械的強度の高いハロゲン系材料を代替するのは困難であった。
この問題を解決するため、本研究では動的架橋によって得られる熱可塑性エラストマーの構造
を精密に制御することで、新規可とう性非ハロゲン材料の開発を目指した。具体的には、機械的
強度および流動性を担う結晶性樹脂の連続相中に柔軟性を付与する架橋ゴム相を分散させ、
また、
難燃剤は結晶性樹脂中に分散させると特性低下が著しいため、フィラー受容性の高いゴム相に分
散させた材料の創製を目指す(図1)
。最終目標は、電源コードやキャブタイヤケーブルなどの可
とう性が要求される分野でのPVCの代替を可能にすることである。
結晶性樹脂
架橋ゴム(ナノ~サブミクロン)
難燃剤(ナノ~サブミクロン)
図1 目標とする相構造
Ⅲ―82
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(2) 目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
軟質ポリ塩化ビニルと同等の可とう性を有す 将来の循環型社会においては、環境負荷が小さ
る難燃性熱可塑性エラストマーを動的架橋技 くリサイクル性に優れた電線が望まれている。
術により開発する。電源コード、キャブタイヤ この要請に応えるため、PVCと同等の可とう性
ケーブル等の電線被覆材料として適用する。目 を有する非ハロゲン難燃材料の基盤技術を開
標性能は、硬さが4MPa(10%モジュラス)以下、 発する。
難燃性がJIS60°傾斜燃焼試験で合格レベルで
あること。
具体的には下記性能を持つPVCを代替可能な可
とう性非ハロゲン電線
被覆材料の開発
・引張強さ ≧ 10MPa
・伸び ≧ 350%
・硬さ ≦ 2MPa(10%モジュラス)
・難燃性 : JIS60゚傾斜燃焼試験合格
達成度
①最終目標に対する達成度(○)
:
設定した最終目標を100%達成した。
(事業原簿P.Ⅲ―88)
②実用化に向けての達成度:
・開発材料を被覆したキャブタイヤケーブルを試作した結果、可とう性が従来のPVCケーブルと
ほぼ同等、従来の非ハロゲン難燃ケーブルと比べ大幅に上回るものが得られた。
(事業原簿
P.Ⅲ―88)
・エコキャブタイヤケーブル規格(2007年施行)で規定される難燃性や機械的強度などの特性
はいずれも合格しており、他社に先駆けて認定を取得し、実用化の見通しを得た。
(事業原
簿P.Ⅲ―88)
・材料混練のスケールアップ、サンプルワーク、量産型機械の設備投資等を検討し、プロジェ
クト終了後に本格生産化を目指す。
Ⅲ―83
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3) 研究開発計画・課題
年度
①構造制御
技術
H13-16年
H17年
H18年
H19年
・小型混練機に
よる基礎検討
・動的架橋技術に
よる相構造制御
②成形加工
技術
・二軸押出機、大型
混練機による検討
・電線試作
課
③評価技術
題
・モルフォロジー評価
・実用特性の評価
連携(相構造形成過程、結晶構造解析等)
④用途展開
年度別目標
終了後
サンプルワ
ーク、量産
設備導入等
によりプロ
ジェクト終
了後に本格
生産を目指
す。
・さらなる高性能化検討
・量産性確認
・信頼性評価
・量産コスト評価
・シートサンプルで ・大型機で試 ・低コスト化 ・低コスト化
基本特性OK
作評価OK
検討
検討
・小型機で試作評価 ・ 実 用 特 性 ・ケーブル試 ・量産化技術
OK
OK
作評価
の確立
年度別目標達成度
(○、△、×)
○
○
○
○
(4)研究開発成果
基本計画における最終目標はいずれもクリアすることができた
(引張強さ:12.9MPa、
伸び:390%、
10%モジュラス:0.8MPa、難燃性(JIS60゚)
:合格)
。以下、各研究課題に対する成果を述べる。
①構造制御技術
<H16年度までの検討結果>
・ゴム成分としてエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)
、結晶性樹脂成分としてポリエチレン
(PE)
、難燃剤として微粒子の水酸化マグネシウムを用い、さらには動的架橋の架橋剤として硫
黄を適用することで目標とする相構造がほぼ達成できることを見出した。
・問題点として、1)耐油性が低い、2)材料表面のベタツキおよび着色・臭気があることが分か
った。
<耐油性およびベタツキの改良>
・原料ポリマーを最適化することによって改良した。鉱物油(無極性)との親和性が小さく、粘
Ⅲ―84
Ⅲ
公開
研究開発成果について
着成分が表面に移行しにくいポリマーとして極性基をもつエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)
に着目した。
・EVAは酢酸ビニル含有量によって物性が大きく変わることを特徴とし、酢酸ビニル含有量が多く
耐油性に優れる非晶性のEVAをゴム成分、酢酸ビニル含有量が少なく結晶性のEVAを樹脂成分と
して選定した。
<着色・臭気の改良>
・架橋手法を変えることで対応した。動的架橋技術における架橋手法にはゴム成分のみを選択的
に架橋できること、および混練中の短時間(数分)で架橋反応が完了することが要求される。
硫黄の他に一般的な手法としてパーオキサイド架橋が考えられるが、
これは結晶性EVAをも架橋
してしまうため適用することができない。
・本研究では、新たにシラン架橋を動的架橋へ適用できることを見出した。すなわち、あらかじ
めゴム成分にシラン化合物をグラフト共重合させることによって、結晶性成分と混ぜ合わせた
後でも選択的にゴム成分をシラン架橋することができる。
またこの反応は温度などの混練条件、
架橋促進剤の濃度などを最適化することによって混練中に完了させることができる。シラン架
橋の概略を図2に示す。
<開発材料の相構造>
上記改良の結果、
・シラン架橋を用いた動的架橋によって混練中に相反転を起こして、結晶性樹脂の連続相中に架
橋ゴムが分散した相構造を得る技術を開発した(図3)
。
・架橋ゴムの分散相中に選択的に難燃剤を局在化させる技術を開発した。
物性に関しては、用途展開の項で説明する(事業原簿P.Ⅲ―88)
。
図2 シラン架橋
架橋ゴム
<分散相>
結晶性樹脂
<連続相>
難燃剤
1µm
図3 開発材料のTEM観察結果
Ⅲ―85
Ⅲ
公開
研究開発成果について
②成形加工技術
開発材料の混練手法の確立を目標とし、二軸押出機を用いた検討をおこなった。作製にはゴム
にシランをグラフト共重合させた後に、結晶性樹脂および水酸化マグネシウムを添加し、動的架
橋をおこなう必要がある。まず、グラフト工程と動的架橋工程の2工程に分けて作製する方法を
検討し、混練条件、原料添加順序、スクリュー構成等の最適化をおこなった。その結果、図4に
示したような作製手順で、目標とする材料が得られることを確認した。次に、量産性の追求を目
的として、二軸押出機をタンデム型に構成し、上記工程を連続的におこなう方法も検討し、同等
の材料が得られる目処を得た。
図4 混練工程およびモルフォロジーの変化
③評価技術
開発材料の相構造、物性、成形条件等の関係を明らかにすることを目的に共通基盤技術(構造評
価・ダイナミックス)チームとの連携をおこなった。
1)三次元TEM (京都工繊大 陣内准教授)
本プロジェクトで開発した三次元TEM観察により、難燃剤がゴム分散相に選択的に内包されて
いる様子が確認できた(図5)
。
2) AFMによる弾性率マッピング (東工大 西教授)
本プロジェクトで開発したAFM観察により、ゴム/結晶性樹脂の動的架橋後の相反転(図6)
、
単体とブレンドにおける弾性率の変化(相溶の影響を示唆)
、動的架橋による相分離の進行などを
確認できた。
3) 小角X線散乱による結晶構造解析 (東工大 野島准教授)
小角X線散乱によりゴム/結晶性樹脂の結晶構造のせん断速度依存性を測定した結果、結晶性
EVAの結晶中にはゴムが相溶していないことが確認できた(図7)
。
Ⅲ―86
Ⅲ
公開
研究開発成果について
結晶性樹脂 (黒)
架橋ゴム (緑)
難燃剤 (青)
図5 三次元TEM観察結果
図6 弾性率マッピング結果
図7 結晶長周期とせん断速度の関係
④用途展開
開発材料をケーブル被覆材料へ適用すべく、試作評価をおこなった。ケーブルの種類として、
可とう性が求められるキャブタイヤケーブル(屋内外の移動用機器や工場設備、一般家電・機器
などの電源供給に使用)を選定した。試作ケーブルの構造を図8に示す。以下に試作ケーブルの
主な特性について概説する。
1)押出成形性・外観
開発材料の押出成形性は良好であり、ケーブルの外観は図9に示すように滑らかである。
11mmΦ
シース(厚さ1.8mm)
⇒開発材料を適用
銅導体
絶縁体(厚さ0.8mm)
キャブタイヤケーブル
図8 試作ケーブル構造
図9 試作ケーブル外観
Ⅲ―87
Ⅲ
公開
研究開発成果について
2)可とう性
ケーブル可とう性をPVCおよび従来非ハロゲン難燃材料を被覆した同一サイズのケーブルと
比較した。結果を図10に示す。従来非ハロゲン難燃ケーブルと比べ格段にたわみやすく、PVCケ
ーブルとほぼ同等である。このように開発ケーブルはPVCケーブル同様の優れた取扱性が期待で
きる。
従来非ハロゲン
難燃ケーブル
固定
開発
ケーブル
ケーブル
PVC
ケーブル
図10 ケーブル可とう性評価結果
3)特性
特性目標値はエコキャブタイヤケーブル規格(2007年4月施行)および基本計画に準拠した。
表1に開発ケーブルシースの主な評価結果を示す。基本計画の目標値および規格特性は全て満足
し、他社に先駆けて認定(
(社)電線総合技術センター)を取得することができた。
表3 開発ケーブルシースの主な特性
項目
引張り
規 加熱 (90゚C, 96h)
格
特
耐油 (70゚C, 4h)
性 加熱変形 (75゚C, 15N)
耐寒 (-15゚C)
引張強さ(MPa)
伸び(%)
引張強さ残率(%)
伸び残率(%)
引張強さ残率(%)
伸び残率(%)
厚さ減少率(%)
難燃 (60゚傾斜燃焼試験) ※ケーブルで評価
取
扱 可とう性
性
10%モジュラス(MPa)
*基本計画目標値
Ⅲ―88
目標値
開発品
PVC
10≦*
350≦*
80≦
65≦
60≦
60≦
12.9
390
120
95
78
80
19.3
350
101
100
98
90
10≧
8.7
7.9
割れなし
合格
合格
60秒以内*
合格
合格
2≧*
0.8
0.8
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果
年 度
H13−16 年
H17 年
H18 年
H19 年
特 許
(国内)
1件
1件
2件
2件
―
―
2件
2件
―
―
―
―
5件
2件
4件
口頭発表 3 件
展示会 2 件
口頭発表1件
展示会 1 件
口頭発表 3 件
―
―
1件
特 許
(海外)
試 料
提 供
展示、プレス
発表等
8件
論 文
2件
展示会 1件
(注)外部発表に関するコメント:
1)展示会:H17 年 10 月ゴム・エラストマー展(主催:ゴム協会、場所:パシフィコ横浜)
においてサンプル・パネルを展示し、好評であった。
2)
学会発表:H19 年 9 月第 56 回高分子討論会 フォーカスセッションで成果発表した結果、
多くの参加者があり、盛況であった。
(6)特記事項:
特になし
Ⅲ―89
Ⅲ
公開
研究開発成果について
Ⅲ―2.3.4 絶縁フィルムの開発
研究開発項目① 「高機能高分子材料の実用化技術開発」 (b)光・電子材料の研究
実施先
テーマ名
<共同研究実施先>
JCII(住友化学)
、
絶縁フィルムの開発
<山形大、東工大、京工大、産総研>
(1)背景・目的等
産業界、なかでも高速通信分野において、耐熱性に優れ、低誘電率であり、しかも安価な樹脂
が強く求められていた。既存の樹脂では得られないこのような特性を、エンジニアリングプラス
チックのアロイ化により成就することができれば、その成果は工業的に幅広く適用されるであろ
う。本プロジェクトにおいては、リアクティブプロセッシングに基づき、上記の特性を有する新
規材料、具体的には、ポリフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ基含有エチレン共重合体(住友化
学㈱製 EGMA)からなる PPE ナノアロイを創製するとともに、その基本的成形加工技術を確立し、
その実用化の可能性を探求することを目的とした。
(2)目標、設定根拠および達成度
最終目標
設定根拠
リアクティブプロセッシング技術を活用し、回路基板・
コンデンサー等の絶縁フィルムに適した、目標性能とし
て耐熱性が 180℃以上かつ誘電率を 2.5 未満とするエン
プラナノアロイを開発する。
加えて耐衝撃性 N.B(非破壊)を達成する。
一般にエンプラは耐熱性が高い反面、耐
衝撃性が劣り、誘電率も高い。これらの
特性が共生する新規材料ができれば市
場へのインパクトは大きい。
達
成
度
① 最終目標に対する達成度(○)
:
・耐熱性は目標値を達成できた。耐衝撃性も基本試験で目標値を達成、誘電率も 2.6 とほぼ目標
を達成できた。
(事業原簿 P.Ⅲ―94)
②実用化に向けての達成度:
・ PPE 系の成形加工の基本技術を確立するとともに、その知的財産化を促進できた。
(事業原簿
P.Ⅲ―96,97)
・ 学会発表、展示会、新聞などを介して PPE ナノアロイの成果を実用化に向けて普及させること
ができた。
(事業原簿 P.Ⅲ―97)
・ 実用基礎評価により、PPE 系の特徴、および問題点を明確にし、実用化に向けて検討が進んだ。
プロジェクト連携各社の協力により EGMA の適用拡大がなされた。
Ⅲ―90
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(3)研究開発計画・課題
年 度
1)新規エンプラアロイ
探索のための少量評価
H13-16年
H18年
H17年
H19年
終了後
新規エンプラアロイの探索研究
住友化学は本プロジェ
混練のシミュレーション技術構築
クト終了後、さらに用
技術確立
途展開の可能性を探求
するとともに、
PPE原料
課
2)エンプラアロイの
題
ナノ構造制御技術&
成形加工技術
せん断ーナノ構造相関把握
成形加工基本技術深化
ナノ構造解析技術深化
実用性評価システム開発
精密成膜,射出成形基本技術確立
メーカーなどに対して
も積極的に働きかけ
る。また、具体的なビ
ナノ構造・界面評価(連携)
ジネスモデル構築を目
指していく。
3)エンプラアロイのナノコン
探索研究
ポジット化技術
ナノコンポジット高機能化研究
耐熱性
>180℃
年度別目標
衝撃値 N.B.
エンプラアロ
誘電率
イ基本技術確
衝撃値>30
<2.5
立&用途基本
○
○
検討
年度別目標達成度
(○、△、×)
○
(4)研究開発成果
① 新規エンプラアロイの探索研究
プロジェクトで購入した Haake Mini Labo 押出し機を使用、各種エンプラアロイの探索を促進し、
PPE/LDPE ブレンド系と比較して、PPE/EGMA 系において、混練時間とともに溶融粘度が著しく増加す
ること、これが両成分間で反応が進行することに起因することを明らかにした(図1)
。 ここで、
原料 PPE としては、三菱エンプラ㈱製の[η]=0.4 の PPE を、EGMA は住友化学㈱製のボンドファー
スト 7L(C2/GMA/MA=67/3/30 wt 比、MFR(190℃,10min)=8g)を使用した。
Ⅲ―91
Ⅲ
公開
研究開発成果について
290ºC, 50rpm
ΔP (Pa)×10-6
10
PPE/LLDPE=80/20
5
0
0
500
1000
Mixing time (s)
2000
1500
ΔP (Pa)×10-6
10
5
PPE/EGMA=80/20
0
0
500
1000
Mixing time (s)
1500
2000
図1 混練時間による溶融粘度変化
さらに、東工大の連携チームは、原料 PPE,EGMA,および PPE ナノアロイの溶液 1H‐NMR 測定を行
い、押出し機内での PPE と EGMA との反応は、PPE の OH と EGMA のエポキシ基との反応によること、
EGMA のエポキシ基の約 30%が PPE と結合していることを明らかにした。
東工大 との連携研究成果
PPE/EGMA=70/30系のNMRによる解析
x
n
PPE
PPE-EGMA
co
co
H +
O
EGMA
新しく出現したシグナル
(反応性物による)
O
COO y
CO 2Me z
O
エポキシ環
(30%減少)シグ
ナル
O
n-1
O
H
EGMA
リアクティブプロセッシング
・エポキシ環の減少量&PPE
のOHの減少量から反応率を
推定
・反応生成物のピークを確認
PPEのOH
(30%減少)
EGMA
リアクティブプロセッシング
による反応生起を確認!
PPE
1H
NMR スペクトル
ppm
EGMAのエポキシ基の~30%がPPEと結合している
図2
1
H-NMR による PPE ナノアロイの構造解析
② PPE ナノアロイのナノ構造解析
京工大連携チームが、PPE ナノアロイに関して、三次元透過型電子顕微鏡像(TEM,3-d TEM)解
析を行った結果を図 3 に示す。 アロイのドメインが図の中心にあり、界面で PPE/EGMA の反応生
成物である約 10nm 径のナノ粒子が形成され、溶融混練に伴い、ナノ粒子が EGMA 内部へ移行したこ
とが分かる。 このようなナノ粒子はドメイン中で立体的に配列している。 これはエンプラアロ
Ⅲ―92
Ⅲ
公開
研究開発成果について
イとして、初めてそのナノ構造を三次元的に把握した画像である。 さらに東工大連携チームは
PPE ナノアロイの粘弾性マッピング解析を行い、PPE 相とドメインとの接着性が良好であることを
明らかにした。
( 3D-TEM評価:
連携 京工繊大との成果
(PPE/EGMA=95/5)
core-shell salami model
Shell
PPE domain (5nm)
In EGMA
Core
EGMA domain
(10nm)
In PPE
100 nm
エンプラアロイのナノ粒子を初めて確認
図3 PPE ナノアロイの三次元透過型電子顕微鏡像
③ PPE ナノアロイの変形機構
PPE/HIPS ブレンド物においては、衝撃試験後には、(図 4)、多数のクレーズが系内に発生するこ
とが知られている。 ところが、PPE ナノアロイにおいては、図5に示すように、衝撃試験後に
もクレーズ、シェアバンドなどが認められず、ドメイン中にキャビテーションが発生している。
即ち、PPE ナノアロイは非晶マトリックスが均一変形するという、従来の樹脂にない特異な変形
挙動を示すことが分かった。
200nm
④
図4 PPE/HIPS の TEM 像
PPE ナノアロイの
Physical Aging の効果
(衝撃試験後)
200nm
図5 PPE ナノアロイの TEM 像
(衝撃試験後)
PPE ナノアロイはハロゲン系溶媒などへの耐薬品性に問題があった。 しかし、PPE ナノアロ
イを Tg 付近で Physical Aging することにより PPE ナノアロイの耐薬品性が著しく向上した。産
総研の連携チームが、Physical Aging 後の PPE ナノアロイの DSC 測定、小角 X 線解析を行い(図
6)
、
Physical Aging により PPE ナノアロイ中に数百Å径の高次構造が新たに形成され、
その結果、
Ⅲ―93
Ⅲ
公開
研究開発成果について
PPE ナノアロイの耐薬品性が向上することを明らかにした。
産総研との連携研究成果
2h
70h
8000
6000
Intensity
Heat flow / mW
70 hours
30
10
2
0
200ºC, physical aging
4000
2000
quench
0
200
210
220
230
0.2
240
0.4
o
2θ ( )
Physical aging 時間とDSC曲線
Physical aging 時間と小角X線
図6 Physical aging による PPE ナノアロイの構造変化
⑤ PPE ナノアロイの基本特性
PPE ナノアロイの耐熱性、耐衝撃性、誘電率などの基本特性を評価し、市販の各種ポリマーと
の位置づけを明確にした。図7に示すように、耐熱性に優れ、しかも誘電率<3 である樹脂は PPE
ナノアロイのみである。特に、PPE ナノアロイはスーパーエンプラ並みの耐熱性示し、低誘電率
であり、そのうえ価格がスーパーエンプラの数分の一以下である(表1)ことから、工業的に適
用範囲が広いものと考えられる。
250
190
PEI
PPE
200
EGMA30%
PES
(oC )
EGMA5%
150
130
PC (1/4')
PC (1/8')
POM
110 PPE/HIPS
150
PPS
PC
PPE/PS
POM
100
PBT
ABS
PA6
50
PBT
90
PSU
EGMA30%
PPS
HDT
HDT [18.5kg·f] (ºC)
PPE
EGMA5%
170
PTFE
PA6
PVC
PE
0
70
0
10
20
30
40
50
60
70
Impact strength [Izod/Notched] (kg·cm/cm)
0
1
2
図7 PPEナノアロイの物性の位置づけ
表1 PPE ナノアロイとスーパーエンプラとの比較
Ⅲ―94
3
4
Dielectric constant (1 KHz)
5
Ⅲ
公開
研究開発成果について
HDT (˚C)*
1
2
Izod (kg·cm/cm)*
PSU
PES
PEI
PPS
PPE alloy
174
200
198
100~135
5~7
7
5~7
3
181
20
640
Tensile strength (kg/cm2) 710~810
810
50~100
6~80
60
1~6
3.1
3.5
3.2
3.6
Elongation at break (%)
Dielectric constant*3
1070 490~870
*1)18.5kgf
100
2.6
*2)notched *3)1kHz
PPE ナノアロイの組成(EGMA 含量)と物性の相関を図8に示す。EGMA 含量が 30%になると PPE
ナノアロイの流動性が急速に向上する。TEM によるモルフォロジー的検討から、EGMA30%のアロ
イではドメインが強く配向した相構造を形成するのがわかった。一方、EGMA 量が増加してもア
ロイの耐熱性はあまり低下しない。 PPE ナノアロイの用途の要求特性に応じてアロイの組成を
30
MFR(280℃)
HDT(℃,18.5k
gL.)
200
40
20
100
20
10
流動性急向上
0
0
0
10
20
30
cm/cm2)
60
Izod Impact (kgf・
決定することが必要である。
0
EGMA content (wt%)
TEM像
Scale:500nm
EGMA5%
EGMA30%
図8 PPE ナノアロイの組成と特性
⑥ 成形加工基本技術の確立
プロジェクトにおいては、得られた PPE ナノアロイの成形加工の基礎検討も推進した。
PPE ナノアロイを T ダイ成膜法によって、フィルム化を試み、厚さ 20~40μm の外観良好なフィ
ルムを得ることが出来た。さらに得られた PPE ナノアロイフィルムを銅スパッタリングしたのち、
めっき、エッチング処理することで、基本的回路基板を作製することができた 。
さらに、PPE ナノアロイの射出成形品、押し出し成形品、ケーブル成形品、繊維および繊維
を使用した不織布などの成形加工にも成功した(図9)
。
これらの事実は PPE ナノアロイが各種の成形加工に適合することを意味するものである。従来
Ⅲ―95
Ⅲ
公開
研究開発成果について
PPE 単体を連続相とする樹脂の成形加工は極めて困難とされていたが、本プロジェクトにおいて、
そのナノアロイ化により、各種の成形加工品へ展開できることが明らかにされた意義は大きいも
のがある。
銅スパッタリングフィルム
回路
ケーブル
フィルム
射出成形品
押し出し成形品
繊維、不織布
図9 PPE ナノアロイの各種成形品
Ⅲ―96
Ⅲ
公開
研究開発成果について
(5)外部発表成果
年 度
H13−16年
H17 年
H18 年
特 許
(国内)
8件
2件
1件
―
―
―
試 料
提 供
2件(2社)
2件(2社)
3件(2社)
展示、プ
レス発表
等
10件(内新聞発表2件*)
3件
3件
論 文
―
―
―
特 許
(海外)
* 2004 年 3 月 5 日 日経産業新聞「ナノ加工で耐熱性高く」
* 2004 年 5 月 12 日 日刊工業新聞「高耐熱の PPE アロイ開発」
(6)特記事項:
なし
Ⅲ―97
H19 年
Fly UP