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『イン・ビトウィーン・ドリームス』 『ドラゴン』

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『イン・ビトウィーン・ドリームス』 『ドラゴン』
塚本 弘
世界が戦場になる恐怖
映画は時代を映す鏡ともいわれる。特に、
超大作には、時代の風潮が反映する傾向が
強いように思える。9年前の「インディペ
ンデンス・デイ」では、もはや地球上に敵
を見出せなくなったアメリカが、宇宙から
の脅威に立ち向かう姿が描かれた。大統領
をはじめ、国家としてのアメリカの毅然た
る姿勢が印象的であった。
それに対して、この映画は、戦争の恐ろ
しさをひたすら描いている。こうした国家
の危機に断固立ち上がる指導者の姿はまっ
たく見えない。その光景は、9.11の際に、
なすすべなく逃げ回り、電気や水道の停止
にとまどった人々の姿をほうふつさせる。
対岸にニューヨークが見えるニュージャ
ージーの町が物語の発端だ。コンテナ船の
積み荷をクレーンで運搬する仕事をしてい
るレイ(トム・クルーズ)が主人公だ。あ
る週末、離婚した妻がレイの家に来て、用
事があるので、息子と娘レイチェル(ダコ
タ・ファニング)を預かってほしいと言う。
突然、空が荒れ模様になり、激しく雷鳴が
轟く。何が始まるのか、不気味な雰囲気を
盛り上げるスピルバーグ監督のテクニック
を十分味わっていただきたい。
最初の舞台が、ニューヨークを見渡せる
場所に設定されているのも、象徴的な気が
する。さらに、恐怖心を高めるという点で
は、クレーン操縦者として、高いところか
ら見下ろすことに慣れているレイにとっ
て、それよりもはるかに高い位置から攻撃
されることの恐ろしさは、普通の人よりも
ずっと大きいのかもしれない。
そんな演出上の工夫など見終わった後に
しか思いつかないほど、迫力ある爆音や映
像で、どっぷりと観客を「WAR OF THE
WORLDS」の世界に引き込んでくれる。
■ 監督:スティーヴン・スピルバーグ ■ 出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング、
ティム・ロビンス、ジャスティン・チ
ャットウィン、ミランダ・オットー
■ 配給:UI P映画
邦題では『宇宙戦争』だが、原題は地球全
体が戦争に巻き込まれるという意味で、
『世界戦争』とされている。
もう1つの見どころは、家族の愛情とい
う視点だ。この点に関しても、現代の時代
背景を踏まえて、すでに離婚した後、ある
日急に子供の世話を頼まれるというなかな
か難しい設定の中での展開が興味深い。
当然のことながら、容易に心を開こうと
しない2人の子供に手を焼くレイの姿がこ
っけいだ。また、本当は甘えたいのだが、
ふだんまったく会っていない父親に簡単に
は打ち解けた気分になれない少女の微妙な
心理を、さりげなく演じているダコタ・フ
ァニングの演技もすばらしい。
ロンドンの7.7の連続テロに見られるよ
うに、日常生活が突然戦争に巻き込まれる
ことは世界的現象になってきた。何とか映
画だけのことにしたいものだ。
『ドラゴン』
ジェイク・シマブクロ
2,940円/Epic Records
『イン・ビトウィーン・ドリームス』
ジャック・ジョンソン
2,548円/ユニバーサル
いよいよ本格的な夏。というわ
ジャック・ジョンソンも、ジェイク・シマブクロと同じハワイの
けで今回は、
「大人が楽しめるサマ
生まれで、サーファー出身。サーフィンで大ケガをしたのを機に本
ー・ミュージック」をテーマに、
格的に音楽活動を始め、関係筋に見出されて2002年にメジャー・
2枚のアルバムをピック・アップ
デビュー。以降、音楽好きのサーファーを中心に、着実にファン・
させていただいた。
ベースを拡大してきた。
まずは、ハワイ在住で、ハワイ
彼の音楽の魅力は、何といっても「緩さ」
。ナチュラルな柔らかさ
州観光局のイメージ・キャラクタ
を湛えたアコースティック・サウンドと、ほどよく脱力したヴォー
ーとしても知られ、日本でも人気
カルからなる音世界に包まれると、南国の穏やかな海の上にのんび
の高いウクレレ奏者、ジェイク・
りと浮かんでいるような、そんなハッピーでピースフルな気分で心
シマブクロの最新作。
が満たされ、癒されていく。
速弾きをはじめとする超絶テク
ともに、まるでハワイの風と香りが詰まっているかのような快い
ニックを駆使した熱く激しく力強いプレイで、ウクレレという楽器
美作。この2枚があれば、熱い夏に清々しく涼しげなひとときを過
の概念を一変させたといっても過言ではないジェイクだが、今作で
ごせることは確実だ。
はよりメロディーに重点を置いたメロウでムーディーなサウンドへ
ちなみに、ジェイク・シマブクロは8月にジャパン・ツアーを行
とシフト。全編、明るく爽やかな空気感に満ちあふれた、実に心地
なうので、作品を気に入った方は、ぜひともお近くの会場に足を運
いいアルバムだ。収録されている楽曲の多くが、フジテレビ系ドラ
んでいただきたい。ライヴもまたすばらしいですよ。
マ『離婚弁護士Ⅱ』で大フィーチャーされていたので、耳になじみ
のある曲も多いはず。
そしてもう1枚は、昨年あたりから、ここ日本でも大旋風が巻き
起こっているジャック・ジョンソンの最新アルバム。
57
Shokokai ● 2005.8
鈴木ヒロカズ:広告営業マン、広告制作、エンターテインメント雑誌の編集
を経て、フリーランスの音楽ライターに。現在、『POPEYE』『ぴあ』
『ELLE』での連載をはじめ、雑誌やサイトでのインタビュー、アーティスト
単行本の編集、CDのライナー・ノーツなどを手がけている。
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