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「ジェネリックの本当のこと」

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「ジェネリックの本当のこと」
新潟市議会議員
中山均
政務調査費委託研究(2012)
「ジェネリックの本当のこと」
新潟大学医歯学系准教授 川瀬知之
目次
1. まえがき
2. 新薬開発に関する背景
3. 患者および医療機関の受け止め方
4. 医療機関の信頼を得るためには
5. 国の考え方と政策
6. 国がなすべきこと
7. 現状のジェネリックの許認可制度
8. ジェネリック許認可制度の現状
9. まとめ
**********************************************************************
1. まえがき
近年テレビコマーシャルでも頻繁に「ジェネリック」の宣伝が流されているので、あま
り薬に縁がない人でも言葉として耳に残っていることと思われる。さらに、少しその宣伝
文句を聞いてみると「同じ効き目なら、安い方がたすかる」
「国の医療費削減にも貢献する」
という論法であることがわかる。しかし、この「同じ効き目なら」というのが、実は安易
に聞き流せない重要な「条件」であること、さらに「有害作用」のことは巧妙に隠されて
いることに気がついてほしい。また、わが国はジェネリックを普及させるにふさわしい体
制が整えられているのか、また整えようとしているのか、と多少懐疑的な気持ちを持って
CM を見てもらいたい。
話が前後したが、ジェネリック薬とは先発薬とも呼ばれるブランド薬に対比される一群
の後発薬の総称であり、特許の切れたブランド薬を模倣した薬のことである(図 1)。ただ、
模倣といっても、すべての特許が切れたケースばかりではないので、微妙に有効性分以外
の細部でブランド薬と異なる仕様にしなければならないことも多い。最近では、錠剤のコ
ーティングなどに最新技術を投入して、逆手にとって「独自色」を出すという戦略に出て
いるジェネリックメーカーもある。いずれにせよ、詳細は後で述べるが、安く提供できる
ことを最大の売りとしている。
本レポートでは、新薬を開発して販売するまでの仕組みをベースとして、世界的な潮流
と政府の戦略を交えて現状を俯瞰し、資本主義経済の発展と国民の健康の維持増進が同じ
価値観の上に両立できるか考察しつつ、今後のあり方を提言していきたい。
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政務調査費委託研究(2012)
2. 新薬開発に関する背景
医薬品市場は、世界的規模で 78 兆円を超える巨大な市場である。特に、先進国で高齢化
が進んでいる現在、生活習慣病のような慢性疾患に対する薬はまさにドル箱である。一発
当てれば、それでひとつの製薬会社の屋台骨を十分支えていけるからだ。しかし、だから
と言って、温泉や金鉱を掘り当てるのとは異なり、化学合成やバイオの技術をもったメー
カーであっても簡単に参入できる世界ではない。
図1
図 1 にジェネリックの要点をまとめたが、まず新薬開発には、研究開発能力はもとより、
膨大な資金と時間とマンパワーが必要である。これは国の認可を受ける際も同様である。
しかし、古典的ともいえる低分子薬剤はすでに開発し尽くされている感があり、現在、特
効薬を必要としているのは、いわばこのような古典的な薬では「治りにくい病気」なので
ある。したがって、大手といわれる製薬会社は、膨大な研究開発費に見合った成果をあげ
にくくなり、合併や研究所の閉鎖を繰り返している。一方、それと反するようにバイオベ
ンチャーが多数立ち上げられ、遺伝子・抗体・細胞を武器として、新しいタイプの「薬」
を開発しようとしている。うまくいけば、特許だけではなく、会社ごと製薬会社に買収さ
せようという目論見もあるようだが、実態としては、多くのベンチャーが数年を持たずに
倒産や撤退している。すなわち、新薬ができにくい世の中であるということをまず頭に入
れておいていただかなければならない。
図2
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政務調査費委託研究(2012)
特許の話が出てきたので、ここで医薬品に関する特許の解説をしよう。特許制度は知的
財産権の保護に関する制度ひとつであり、世界中のほとんど国でそれぞれの法律・制度の
もと実施運用されている。わが国では経産省管轄の特許庁がそれを担っている。保護の対
象は多岐にわたり薬も当然そこに含まれる。しかし、これを実際に商品として販売するに
は、厚労省の認可が必要になっている。これが一般的な工業製品とは大きく異なる点であ
り、コストをあげる要因となっている。それはともかく、莫大な資本を投入して開発した
ものだけに、それが特許によって保護され「独占権」が認められなければとてもやってい
けない。しかし、保護される期間は 20 年であり、製薬会社にとっては短すぎる年限である。
保護の対象をカテゴリー別にみると、医薬品の場合、物質特許・用途特許・製法特許・
製剤特許の 4 つに大別される。製薬会社は、戦略的にこれらすべてを同時にではなく、わ
ざとずらして出願することもあるし、有効成分や製法などの肝心なところをあいまいにし
て出願することもある。これは容易に模倣されないための対抗手段であり、これが後述す
るがはたしてジェネリックが本家と同等と言えるかどうかという疑問につながっていく。
図3
3. 患者および医療機関の受け止め方
前提となる新薬を開発するブランドメーカーの事情を説明したので、つぎにジェネリッ
クメーカーの考え方や基本的スタンスを説明したい。しかし、こちらはブランド薬と多少
事情が異なり、メーカー・医師・患者の三者が経済的な面も含めて複雑に絡まっている。
ジェネリックメーカーは国策にうまく乗っているだけというのが実態と思われるので、患
者と医師を中心に現状を俯瞰しよう。
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政務調査費委託研究(2012)
図4
沢井製薬のアンケートをもとに
http://www.ghc-j.com/1161.html
12/8/2012 アクセス
図 4 はわが国の有力なジェネリックメーカーのひとつである沢井製薬が患者から得た
「ジ
ェネリックと聞いて連想すること」というアンケートの結果である。上位 5 項目が 50%を
超える回答率であった。これを簡単にまとめると、宣伝文句にあった「安くて同じ効き目」
ということになる。
では、実際に使用した経験があるかという実態調査を行なったところ、これは 2006 年の
調査結果であるが、14%強であった(図 5 左)。しかし、希望者は 70%近くもあり(図 5 右)、
ジェネリックへの国民の期待は政府や各自治体の啓蒙の効果が上がっているためか、長引
く不況とデフレの成果は定かではないが、今後のシェア増大を予見する結果であった。
図5
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/research/12/index4.html
12/8/2012 アクセス
しかし、わが国の政府が独自の判断でジェネリックの導入に動いているわけではない。
世界的な潮流なのだ。たとえば、欧米先進国と比較した場合、わが国におけるジェネリッ
クの市場割合は数量ベースでは明らかに低い(図 6)。ただ、金額ベースではアメリカを除い
てほぼ横一線であることから、単価がそれほど安くなっていないことの表れとも解釈でき
る。
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政務調査費委託研究(2012)
図6
http://www.jga.gr.jp/medical/generic06.html
12/8/2012 アクセス
このような統計的データを突き付けられ、あるいは外圧もあり、医療費削減という至上
命題がのし掛かってきくると、わが国の政府も様々な手を打ってジェネリックの普及に努
めざるを得なくなっている。テレビ CM もその一環であり、インターネットでの情報発信
も近年ますます盛んである。ジェネリック医薬品学会という学術団体も活発に活動してい
るようである。その結果もあって図 5 で示したように希望者数は使用経験者をはるかにし
のぐ割合で推移し、実際ジェネリックの使用量は着実に右肩上がりで増加してきた(図 7)。
おそらく、もう一度患者アンケートを取ると、「安くて同等」という回答はさらに増えてい
るものと想像される。
図7
http://www.jga.gr.jp/medical/generic06.html
12/8/2012 アクセス
では、医師サイドではどうかというと、図 7 からもわかるようにジェネリックの処方が
増えているのは間違いない。この辺の仕組みは若干解説を要するが、数年前は医師が処方
する際に「ジェネリックでもよいか?」というところにチェックを入れるか入れないかとい
う選択方式であったわけで、そこから先は調剤薬局の薬剤師の裁量と患者の選択の余地が
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政務調査費委託研究(2012)
あった。しかし、最近の様式変更で「ブランド薬でなければならない理由を記述する」方
式になったため、それでなくともいろいろと考えなければならないことが多い医師にとっ
ては、これは過重負担でしかない。特別の場合を除いては、
「ジェネリック薬でいいです」
という方向に誘導されることになる。結果的に患者の選択権は完全に消滅したことになる
わけだが、患者サイドは上述のように「安くて同等」という宣伝が十分浸透してきている
ので、たとえ選択肢があってもジェネリックを選ぶ比率はたいして変わらないかもしれな
い。
しかし、医師らは本当にジェネリックを信用しているかというとそうではないのである。
図 8 は医療機関への同様のアンケート結果の一部であるが、
「情報が不足しているため、安
心して使用できない」という回答が圧倒的多数を占め、効果に疑問を感じているという回
答も少なくなかった。少なくとも積極的に導入したいというような回答はわずかであった。
図8
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/09/7_9.html
12/8/2012 アクセス
4. 医療機関の信頼を得るためには
医師の中には、金銭的な側面を含めてブランド薬に対して盲信するものも含まれないわ
けではないが、ジェネリック薬に対して絶対的な情報量不足が不安が大きくしているのは
事実である。情報とは導入に際しての比較検討の資料だけでなく、副作用などの有害事象
に関するデータの蓄積とその遅滞ない提供も含む。ブランド薬の場合、厚労省の認可を得
るために治験という臨床研究の期間が必要であり、これに協力して入れる医療機関には開
発当初から基礎研究データを開示することになる。当然、認可を得て商品化された場合も、
同様な他社製品との競争があるわけであるから、情報提供は怠れない。実際に臨床で使用
されるようになってから発生した有害事象に対しても、各社独自の情報蓄積・分析システ
ムを駆使して、さらなる事故の発生を未然に防ぐように働くことになる。
実際に、医師らにこれらの情報を提供しているのは各製薬会社が抱える MR といわれる
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政務調査費委託研究(2012)
ひとたちである。図 9 から図 12 に MR の職務内容などをまとめたので参照していただきた
いが、医師らが必要とする情報(関連性のうすい論文などのコピーも含む)を随時提供してい
る。またクレーム処理や有害事象の収集も担っている。しかし、それゆえに医師サイドか
らは、昔から「小間使い」のように扱われてきた例も少なくない。売り込む側としては、
必死なので逆らえないという事情は想像に難くない。
図9
図 10
http://www.arkstar.co.jp/medical/MR_
whatis.html
12/8/2012 アクセス
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政務調査費委託研究(2012)
図 11
http://www.arkstar.co.jp/medical/MR_
whatis.html
12/8/2012 アクセス
図 12
http://www.jpma.or.jp/about/basis/
promo/pdf/12pro.pdf
医療用医薬品プロモーションコー
ド 12/9/2012 アクセス
当然、このような情報のやり取りを広範囲で円滑に進めるためには、相当数のマンパワ
ーが必要になってくる。人件費が負担となって、大手といわれる製薬会社でないと十分な
数の MR を確保しきれないのが実情である。
このような関係は統計上もはっきり出ている。
図 13 は全体としての医薬品生産金額と MR 数との関係であるが、正の相関関係にあるのが
わかる。
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図 13
http://blogs.dion.ne.jp/lou/archives/1
0369712.html
12/8/2012 アクセス
このような相関性は製薬会社単位でも明らかである。図 14 は会社別の医薬品売上高(すな
わち会社の規模)と雇用している MR 数との関係を示したものである。ここでもきれいな正
の相関関係が確認される。ただ、ここで注目しなければならないのは、ジェネリックメー
カーが抱える MR 数が圧倒的に少ないということである。これが医療機関のジェネリック
に対する不安視の裏付けになっているともいえる。図 15 はさらにジェネリックメーカーだ
け抽出して、売上高と一部その MR 数を表にしたものである。これから売り上げが伸びて
会社規模が大きくなれば、この点も改善される可能性もあるが、現状では不足している。
本来は、テレビ CM ではなく、MR の増員による情報提供・収集システムの補強を優先す
るべきと思うが、そうなのである。
図 14
http://www.mixonline.jp/Article
/tabid/55/artid/42635/Default.
aspx
12/8/2012 アクセス
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図 15
http://www.beagle-hc.com/Kusuri_kusuri/Ranking.html
12/8/2012 アクセス
5. 国の考え方と政策
気にしなければ全然気がつかないことではあるが、そもそも医療機関で使用するような
医薬品や医療機関自体の宣伝は大きく制限されてきた。しかし、近年では、規制緩和の流
れを受けて、この辺の制限が緩んできている。もちろん、これはある意図を受けてのこと
である。ジェネリックの CM などはその典型的な例であり、わが国が国策としてジェネリ
ックを普及させたいからである。具体的には厚労省の HP にあるので参照してもらいたい
(http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2012/03/01.html)。だから、医療機関での不安視が解消方
向にあるとは言い難い現状においても右肩上がりで売り上げを伸ばしているわけだ(図 16)。
図 16
国民の医療費削減は大きな課題であるとともに喫緊の課題である。安くていい薬があれ
ば、それを使うべきである。でなければ、早晩わが国の財政は破綻するか、国民皆保険制
度を放棄するしかなくなる。実は、そこには薬漬け・検査漬け(検査薬の比率も小さくない)
というわが国の悪しき医療体質が根底にあり、さらに医療訴訟の増加という社会的な背
景・因子も関連しているものと分析されるが、本レポートの趣旨から外れるので触れない
ことにする。
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政務調査費委託研究(2012)
図 17
医療行政に限らず他の行政についてもそうであるが、わが国は中央集権化が極度に発達
しているため、許認可権が中央官庁の巨大な権力の源泉になっている。企業は、たとえ正
当な理由があっても、それに逆らわないようにし、さらに日頃からの覚えをめでたくする
ために喜んで天下りを受け入れる。そんな構図が出来上がっている(図 17)。
ジェネリックに関して取った厚労省の戦略は、前述のテレビ CM や処方箋様式の変更の
ほかに、ジェネリック販売促進のためのキックバック制度やジェネリック研究推進のため
の研究助成制度の新設などで、薬剤師の教育養成機関である薬学部や薬剤師の職場である
調剤薬局を取り込もうとしている。実は、これらの制度がジェネリックの単価を期待ほど
下げ切れていない要因になっていると指摘されている。しかし、いずれにせよ、やるべき
ことは本来、このような懐柔策ではなく、薬剤師にも十分な情報と教育の機会を提供する
ことである。
現場の薬剤師のほとんどは、ブランド薬とそれに対応するジェネリック(複数ある場合も
ある)を症例に応じて比較・選択する情報を持っていない。そのような能力を養成された経
験もない。ほとんどマニュアル通りに仕事しているだけといっても過言ではない。ジェネ
リックに疎い医師が、ただブランド薬を選択する理由を書くのが億劫という理由でジェネ
リックの処方可とし、それを複数のジェネリック薬から選択する能力が不足している薬剤
師が処方している。そんな光景を想像してもらいたい(これは某薬学部の教授の言である)。
6. 国がなすべきこと
4 項ではジェネリックメーカーやるべきことを書いたが、本項では国がやるべきことを考
えてみたい。要点を図 18 にまとめたが、まず「同等性」の担保である。実際は、有効成分
の量が同じであるということを主たる根拠として、治験などのプロセスを完全に免除され
ている(図 19)が、これでよいのだろうか? 新薬並みの許認可プロセスを踏むとしたら、また
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新潟市議会議員
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政務調査費委託研究(2012)
その情報を供給するシステム(MR などの拡充)を整備するとしたら、薬価はほとんど安くな
らないと考えるかもしれない。現状の制度や科学技術のもとでは、たぶんその通りであろ
う。
図 18
図 19
参考文献 #1
しかし、医学的な問題に対して経済学的な観点から回答することが正しいと言えるだろ
うか(図 20)? 市場原理がすべてをコントロールする社会が、幸福度の高い社会の実現につな
がるだろうか? これは突き詰めていくと、社会とは? 国家とは? という根本的理念に関する
課題につきあたるもので、本レポートで議論するテーマとしては重すぎる。ただ、物づく
りを捨てた国アメリカでおこったリーマンショックはそれを考察するに十分な教訓である
と思う(図 21)。
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政務調査費委託研究(2012)
図 20
図 21
また、国はジェネリックが持つもうひとつの、案外知られていない、安くできる仕組み
に対してのなんかしらの規制をかけて担保する必要がある。開発費や人件費については先
に書いたとおりである。それらに比べると、割合としては低いかもしれないが、原材料費
のコストダウンは安全性の観点から無視できないものである(図 22)。
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政務調査費委託研究(2012)
図 22
では、具体的に原材料費を安くするということとはどういうことか、簡単に解説を加え
る。図 23 に列記したが、方法に関しては、基本的に発展途上国で不純物の多い原材料を安
く買いつけてくるという手段に集約できる。したがって、有効成分の量をブランド薬と同
じにすることができるとしても、混入する不純物の量が格段に多くなるというケースがあ
る。問題は、その不純物が本来の有効成分の薬効に悪影響を及ぼす可能性が考えられるこ
とであり、より深刻なケースとしてはその不純物自体が毒性を発揮して健康に悪影響を及
ぼす可能性もあるということだ。厚労省はその HP (http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/
2r98520000026nso-att/2r98520000026nu5.pdf) で「アレルギー反応などは先発薬にも同
様に起こりうることである」と書いているが、統計学的有意差の概念が欠如している。
図 23
参考文献 #1
例をふたつほどあげると、ひとつは胃薬として CM でもおなじみのガスター(一般名: フ
ァモチジン)について、本家については混入物が 0.002%以下であるのに対して、そのジェネ
リックのなかで多いものは 0.09%以上の不純物を含んでいることが報告されている(図 24)。
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政務調査費委託研究(2012)
図 24
参考文献 #1
また、もうひとつの例は、厳密に意味では混入不純物と分けて考えるべきものであり、
有効成分以外の添加物という意味で紹介するが、それは安定化剤である(図 25)。ランソプ
ラゾールの本家とジェネリックでは、特許の問題から異なる添加剤が使用されている。結
果として、有効成分の安定性維持能力に欠けるジェネリックがあることがわかる。これは、
在庫管理の問題と関連し、必要な時に即座に出荷できないということになってくる(安定供
給性に対する不安)。
真のジェネリック普及を考えているとしたら、これらの問題に対して、国は適正なガイ
ドラインを引く必要がある。
図 25
参考文献 #1
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政務調査費委託研究(2012)
7. ジェネリック許認可制度の現状
こう見てくると、ジェネリックに対する国の定義も患者の認識も大きくずれているわけ
ではないことがわかる。しかし、前述のように、患者には肝心な情報が流されていない。
医師・薬剤師といった専門家にも肝心な情報は流されていないことと考え合わせると、中
立に立ってみたとしても片手落ち感は否めない。医療費削減という大義のもと、誘導とい
う意図があからさまですらある。しかし、後述するが、ジェネリックのシェア拡大は、大
資本アメリカの望むところでもあるわけで、今のジェネリック政策を継続していても将来
的に国益にまで結び付くことはないであろう。国内の中小ジェネリックメーカーは簡単に
アメリカ資本に飲み込まれると想像されるからだ。
図 26
図 27 にジェネリックが許認可に必要な試験や書類を提示した。生物学的同等性に関する
基本データの提出だけでパスできる仕組みが一目瞭然である。しかも、この同等性試験で
評価しているのは、薬効成分が体循環に載って組織に分布してから代謝・排泄されるまで
の過程についてだけである。消化管内での吸収性などについてのデータは求められていな
い。これは生物学的有効性を評価する上でわずかな差と思われる方も多いかもしれないが、
胃酸の分泌量が大きく低下する高齢者では大きな差になりうるものであるし、即効性を求
める場合や多剤併用の場合には看過できない問題となりうるので、けっして些細な問題で
はない。
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新潟市議会議員
中山均
政務調査費委託研究(2012)
図 27
参考文献 #1
図 28
参考文献 #1
日本版オレンジブック(「医療用医薬品品質情報集」の呼称)もネットで閲覧できるような
環境に移行しているので(図 29)、ここを丹念にあたって情報収集することは可能である。
しかし、上記のような基礎データを入手することはほとんど困難である。したがって、認
可後の後追いであったとしても、自分たちにとってあまり好ましくないようなデータであ
ったとしても、ジェネリックメーカーは随時情報を開示していくべきである。許認可制度
の改革を求める前に企業自らこのような姿勢に転じてくれると、逆に許認可制度の変更が
容易になるように思う。
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政務調査費委託研究(2012)
図 29
http://www.jp-orangebook.gr.jp/
12/8/2012 アクセス
8. ブランド薬メーカーとジェネリック薬メーカーの関係
最後に、ブランドとジェネリックの関係を説明しておきたい。本レポートの趣旨から外
れると思われるかもしれないが、経済の仕組みを垣間見るような思いがするので、補足的
に加えることとした。これまで述べてきたことをそのまま受け取ると、ブランドとジェネ
リックは敵対関係にあり、常に特許侵害訴訟などを通して権利を争っているのではないか
と想像されるかもしれないが、案外そうでもないのである。実際、訴訟も電化製品などと
同様に数多いことは事実である。しかし、ブランド側からジェネリック側を不用意に訴え
ることは、国策に対してたてついているという印象を監督官庁に与える恐れもあり、あま
り得策ではない(図 30)。
図 30
しかし、実態はもっとしたたかで、ブランドメーカーがジェネリックの製造を手掛ける
ようになったり、ジェネリックメーカーを買収したりという手段で一体化を図っているの
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新潟市議会議員
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政務調査費委託研究(2012)
である。そうすると、もしかしたら不純物や添加物の問題はあっさり解決するかもしれな
いという期待も出てくるが、ブランドメーカーの開発力、あるいは新薬開発に掛ける熱意
が低下していくという危惧の方が大きい。たとえば、ファイザーの場合である(図 31, 32)。
図 31
http://tamiyataku2.blog.fc2.com/
blog-entry-104.html
12/8/2012 アクセス
図 32
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/comp
any/press/2012/2012_08_23.html
12/8/2012 アクセス
http://www.sankeibiz.jp/business/n
ews/120824/bsc1208240501005-n
1.htm
12/8/2012 アクセス
ファイザーは、メルクと並ぶ世界のトップ製薬会社である。強力な研究所をもつ巨大企
業である。一般的にはバイアグラを出しているメーカーというとわかりやすいかもしれな
い。その社是ともいえる基本的スタンスは、90 年代に社長や CEO であった William Steere,
Jr. が述べているように「全力で、誰も成し遂げなかったような、新しい薬を開発する」こ
とであった。Steere は、さらに資源集中によりその方針を先鋭化させて、ファイザーを世
界一の製薬会社にした。そのファイザーが、日本に限定してとのことであるが、ジェネリ
ックブランドを立ち上げたのは今年のことである。これがファイザーの販売網・MR を駆使
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政務調査費委託研究(2012)
して本格的に売り込みを掛けてきたら、日本のジェネリックメーカーは壊滅的な状況にな
りかねないし、主力商品の特許切れで苦戦しているブランドメーカーにとっても大きな打
撃になる可能性は高い。TPP 問題とも関連してくると思う。
9. まとめ
企業が研究開発や設備投資に資本を投入しようとしたら、それに見合った収益が必要で
ある。ブランド製薬会社の場合、これまでのような科学的アプローチでは新薬が作れなく
なってきたという状況のもと、どうやって収益をあげるか悩んでいる。開発できないから
収益が上がらない、収益が上がらないから開発にお金をつぎ込めないという悪循環に入っ
ている。経済的な観点からの解決策として、世界的な規模での合併があげられる。得意分
野が相補的であれば収益の増加が見込まれる一方、人件費や施設維持費を大幅に削減でき
る。もう一つの解決策は、ジェネリック分野への参入である。ただし、これは体力次第の
低価格競争の引き金となりかねない危険性を含んでいる。ジェネリックメーカーは、ブラ
ンドメーカーが軽視してきた飲みやすさなどの部分で付加価値をつけ独自色を打ち出そう
としている(図 32)。患者のコンプライアンス向上にどれくらいつながっていくか、どれく
らいの経済効果をもたらすかは、今後の動向を注視する必要がある。
図 32
特許制度の基本理念から言って、ジェネリックを推進していくことは間違っていない。
これが国の財政にとって望ましいものであれば、さらに推進していくべきものであろう。
しかし、わが国の現状は、ジェネリックの安全性を担保したうえで推進するシステムを構
築しきれていない。また、皆保険制度のもとで安住してきた国民は、(善しあしは別として)
欧米のように「自己責任で、自分の経済力に見合った、薬を含めた医療の質を選択する」
という発想がない。
格差社会化がすすむわが国は、早晩、欧米のように医療難民を生み出すようになるのか
もしれないが、そうしないためには生活困窮者と裕福な高所得者を同一に扱うという考え
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政務調査費委託研究(2012)
方から替えていかなければならないだろう。図 33 にまとめたが、それは根本的には税制の
問題であり、より直接的には医療費負担の問題である。日本は「最も成功した社会主義国」
といわれた時代に作られた国民皆保険制度を、欧米的市場原理優先国に変貌しつつある現
状で維持発展させるためには、どこかを劇的に変革する必要がある(図 34)。政府には、こ
れをまじめに考えてもらいたい。
図 33
画像は
http://www.ge-academy.org/
12/8/2012 アクセス
図 34
少なくとも「価格は安いのに、効き目は同じ」というようなトリッキーでステレオタイ
プな啓蒙の仕方は、ジェネリックの持つポジティブな価値すら歪めかねないのでやめた方
がいい。
■参考文献
1) 「あなたの薬代が半額になる!」中野次郎、祥伝社、2004 年.
2) 「ジェネリック医薬品 Q&A」松山賢治、柳川忠二、堀美智子(編)、じほう、2006 年.
3) その他インターネット情報、薬学部関係者からの取材.
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