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よりよい人間関係づくりで学校改革を!
「よりよい人間関係づくりで学校改革を!」 采女 隆一(小牧市立応時中学校) 『スクールカウンセリングと発達支援』 宮川充司・津村俊充・中西由里・大野木裕明編 ナ カ ニ シ ヤ 出 版 ( 2009 年 3 月 刊 行 予 定 ) よ り 1 学校を改革したい 数年前、本校では、生徒間・生徒と教師間の人間関係の希薄さが起因す る生徒指導上の諸問題を多く抱えていました。不登校生徒は、全校生徒の 5%を超え、その中にはいじめにより、登校を渋る生徒もいました。保健 室は、人間関係のトラブルで噴出するさまざまなストレスのはけ口の場と 化し、心に病をもつ生徒や問題傾向のある生徒たちの溜まり場として繁盛 していました。本校にとって、生徒と生徒、生徒と教師の人間関係づくり を土台から組み立て直すことは、まさに急務でした。互いに信頼関係のな いところに、教育は成り立たず、また、経験に頼る手法だけでは荒れる生 徒に対応しきれないという現実がありました。そこで、科学的に人間関係 を見つめ直し、互いの信頼を築き上げていく過程において、生徒の自己指 導力の育成を図ることが必要であると考えました。 2 ラボラトリー方式の体験学習の導入 本校では、生徒指導方針の柱に「よりよい人間関係」を掲げ、平成15 (2003)年度より、人間関係づ くりの専門研究機関である南山大学 と連携し、 「ラボラトリー方式の体験 学習」による人間関係づくりを学校 教育活動に取り入れました。 ラボラトリー方式の体験学習によ る人間関係づくりとは、右図のよう に 、体 験 (体 験 す る ) → 指 摘 (何 が 起 こ っ た か ) → 分 析 (な ぜ 起 こ っ た か ) → 仮 説 化 (次 に ど う す る か )と い う 4 つ の ス テ ッ プ を 循 環 さ せ る こ と に よ って、感受性・思考力・応用力・行動力を育成しようとするものです。本 校では、この循環の過程を人間関係づくりの授業を通して繰り返し実践す ることで、生徒相互に共感的な人間関係を構築し、自己指導力を育成する ことをねらいとしています。学級や学年での温かい人間関係づくりを通し て、個々の生徒の自己存在感を高め、生徒自らが自己決定できる場を多く 設定することで、生徒の自己指導力を向上させたいと考えました。 3 人間関係づくりの授業 ラ ボ ラ ト リ ー 方 式 の 体 験 学 習 に よ る 人 間 関 係 づ く り の授業は 、 毎 学 期 の 始 め 、学級・道徳および総合的な学習の時間などを活用して実施しています。授業 では、GWT(グループワークトレーニング)やSGE(構成的グループエンカウンタ ー)にみられる実習やエクササイズを主に行うこととしました。実施にあたっては、 学年や学校全体で統一した時間を設定し、学年や学級独自のカリキュラムに沿って 実施しています。以下に、人間関係づくりの授業の年間実施計画例をあげます。 エクササイズ(実習名) 学期 1学期 2学期 3学期 4 1年 2・3年 内容・種類 探偵物語 探偵物語 対人間コミュニケーション(非言語) わたしたちのお店やさん 先生の住むマンション グループによる課題解決(情報紙) サバイバル サバイバル2 個人の意思決定(解のあるコンセンサス) 僕らのクラス 僕らのクラス 個人の意思決定(解のないコンセンサス) 一方通行・双方通行 名画鑑賞 対人間コミュニケーション(言語・非言語) 学校が変わった! 人間関係作りの授業を取り入れた成果として、平成14(2002)年 度~平成18(2006)年度における本校の生徒指導事項に関わる変容 を 、問 題 行 動 発 生 件 数 、不 登 校 生 徒 数 、相 談 活 動 の 件 数 、ま た 、平 成 1 7 ・ 18年度の欠席率の比較の4つの側面から述べます。 (1 ) 問 題 行 動 発 生 件 数 の 推 移 生徒指導上の問題行動のうち主 なものを生徒指導日誌から抽出し て、その推移をグラフに表しまし た。問題行動発生件数の量的変化 は、右のようになっています。質 的な変化について以下に述べます。 14年度は、暴力・授業エスケー プ・喫煙・器物破損・シンナーに関わる問題行動が目立っていたが、1 5年度は、自傷行為や火遊びなど、ストレスを抱えた心の問題がクロー ズアップされました。これは、この年にストレスを抱えた問題が増加し たというのではなく、問題行動の数が減少するに伴い、教師が生徒ひと りひとりの様子に目を向けられるようになり、今まで見えにくかった生 徒の心の姿が見え始めたことによるものと思われます。16年度は、家 出・怠学・菓子類の持ち込みという問題行動が目立ちました。この頃か ら、問題行動を起こす生徒が限定され始め、個人レベルでの問題行動が 多くなってきました。そして、17・18年度は、口論や不要物の持ち 込みなどが目立ち始めるとともに、深夜徘徊や家出など、家庭での生活 のあり方や親子関係に起因する問題の占める割合が増加しています。 (2 )不 登 校 生 徒 数 の 推 移 次に不登校生徒数の推移を挙げ ます。右のように14年度から 徐々に減少しています。不登校の 問題は、一概に人間関係に起因す るものとは言えず、様々な要因が 挙げられるので、数の問題で片づ くものではないと考えています。 しかし、おおむね全校生徒の1% 程度以内に抑えられることを目安に生徒との関わりを大切にしています。 (3 ) 相談活動の件数の推移 相 談 活 動 の 件 数 と は 、本 校 の「 心 の教室相談員」が受けた相談件数 です。右のグラフを見ると、15 年度は、14年度の倍になってい ま す 。 こ れ は 、 (1 )の 問 題 行 動 の 件数の項目でもふれましたが、1 4年度は問題行動が激しく、相談 室は問題行動生徒に占拠され、相 談室が相談室になり得なかったという現実がありました。しかし、その 後、問題行動の減少に伴い、相談室が本来の機能を取り戻し、相談活動 が可能になったことや、教師自身も生徒の心のプロセスや生徒同士の人 間関係に目を向け始めたことが、相談件数の倍増の要因として考えられ ます。その後、16年度以降は、相談件数自体も減少しています。 (4) 2年間の欠席率の推移(平成17・18年度の比較) 上にあげたように、生徒相互の関係性の向上を図る取り組みによって、問題行 動や不登校生徒・相談生徒数の数を減少させることができました。しかし一方で、 不登校におちいる前や相談に至る前の生徒の状況に目を向けることも大切です。 そこで、生徒の様子を客観的に把握する1つのデータとして、日々の欠席者数が どのように変化しているのか、検証を試みました。17年度と18年度の2年間 にわたり、全校の欠席者数を集計し、集計した日数を各月ごとの授業日数で割っ て各月の欠席率を算出しました。下のグラフがその推移です。グラフをみると、 1学期は、18年度の欠席率が17年度を若干上回り、同じような傾きで上昇を 続けていることが分かります。それに対して、18年度の2学期は欠席率が上昇 していません。さらに、5月~1月までは、およそ 2.00%~2.50%で推移してい ることが分かります。これは、学級 や学年の中での穏やかな人間関係 が、個々の生徒の自己存在感や互い の関係性を高め、そのことが欠席率 を増加させなかったものと考えて います。 以上のことから、本校では、生 徒相互の共感的な人間関係を礎と して、個々の生徒の自己指導力が 向上し始め、学校変革の第1ステ ップを成し遂げたと考えています。 5 明日に向けて 人 間 関 係 づ く り の 授 業 実 践 で得られた成果をより確かなものにし、真の自己 指導力を育むために、学級や学年の集団で高められた質の向上を、すべての生徒へ 還元させなければならないと考えています。そのためには、人間関係づくりの授業 で得られた個々の生徒の学び(考えや経験)を、互いに共有することが不可欠である と思います。生徒相互が共感的な人間関係を通して高め合う中で、それぞれが学び とったり、感じ取ったりしたことを見える形で交流させ、集団での学びを個々の生 徒の学びへと帰着させる手だてを講じることが必要です。 また、家庭での生活習慣と学校での生活習慣をリンクさせることも必要であると 考えています。上でも述べたように、現在、本校が抱えている生徒指導上の問題行 動は、家庭での生活のあり方や親子関係に起因する割合が増加しています。学校と 家庭・地域が、相互にもつ情報を交換するなどして、生徒にとって健全な地域環境 を提供し、より好ましい生活習慣をすべての生徒に保障しようとする取り組みを模 索しなければならないと感じています。 ■参考文献■ ○ 横 浜 市 学 校 GWT 研 究 会 ( 1989) 学校グループワーク・トレーニング (遊戯社) ○ 横 浜 市 学 校 GWT 研 究 会 ( 1994) 協力すれば何かが変わる-続・学校 グループワーク・トレーニング(遊戯社) ○ 日 本 学 校 GWT 研 究 会 ( 2003) 学校グループワーク・トレーニング3 (遊戯社) ○ 星 野 欣 生 ・ 津 村 俊 充( 2003) ク リ エ イ テ ィ ブ ス ク ー ル( プ レ ス タ イ ム 社) ○ 国 分 久 子 他( 編 )( 1999) エ ン カ ウ ン タ ー で 学 級 が 変 わ る( 図 書 文 化 )