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論 システム開発論文特集 文 画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発* 齊藤 剛史† a) 今村 将訓† 福井 幸美†† Development of Initial Inspection System for Wooden Chopsticks by Image Processing∗ Takeshi SAITOH†a) , Masanori IMAMURA† , and Yukimi FUKUI†† あらまし 本研究では割り箸生産における選別工程の機械化を目標とし,画像処理による割り箸原形の外観検 査システムの開発を目的とする.本論文で処理対象とする割り箸原形は杉材である.この原形に対して 2 台のカ メラで撮影した画像を用いて (A) 目込み・目粗,(B) 皮付き・非皮付き,(C) 半赤・非半赤の 3 項目を検査する 手法を提案する.検査項目 (A) に対しては,輝度値波形の解析により木目数を計測する手法,検査項目 (B) に対 しては,HS 色空間において判別分析を適用する手法,検査項目 (C) に対しては,輝度値波形の傾きを定量化し て判別する手法をそれぞれ提案する.試作機を稼働させて 2000 本の原形画像を撮影して判別実験を行った.そ の結果,全ての項目において 0.96 以上の高い正解率を確認し,提案手法の有効性を確認した. キーワード 外観検査システム,画像処理,割り箸,木目 1. ま え が き 箸自動選別装置を開発し,品質評価及び選別試験の結 割り箸の製法は原料により大きく 2 種類に分けられ 工程を考慮しているため,粗大片や短尺箸・小片の除 る.一つは端材や間伐材を原料とする製法,もう一つ 去機構が含まれている.選別は断裁直後と乾燥直後の 果を報告している [2].彼らのシステムは断裁直後の は大量生産が可能な原木を丸ごと全て割り箸にする製 2 工程を行っており,形状に関しては,反り,曲がり, 法である [1].前者は高級箸として利用される国産箸の カップ,ねじれ,材幅大,材薄,割裂面不整,段違い, 製法であり,後者は安価な大衆箸として利用される海 材短,面粗,その他の 11 項目,色に関しては,腐れ, 外産の製法である.これら 2 製法とも,原料の切断, 汚れ,変色,木口汚れの 4 項目,生き節の大きさ,な 煮沸などの工程には機械が導入されているが,木目な どを項目として報告している.しかし,2. 1 で後述す どによる良品・不良品の選別工程の機械化は進まれて る本研究で対象とする 3 検査項目は [2] で提案されて おらず,選別作業は人手で行われている.これまで機 いる工程の後工程であり,詳細検査に位置付けられる. 械化が検討されていない要因として,国内の割り箸生 著者らが知る限り,その他の割り箸生産における外観 産メーカが少なく,かつ小規模な家内工業が多いこと 検査に関する報告はない.つまり,本論文では従来取 が考えられる.本研究では,割り箸生産の選別工程の り組まれていない外観検査を対象とする. 機械化を目標とし,本論文では画像処理による割り箸 原形の外観検査システムの開発を目的とする. 白川らは割り箸製造工程の省力化を目的とした割り 一方,割り箸ではないが,岡本と米澤は画像処理に より木目方向を検出するシステムを開発している [3]. 彼らは木材加工における仕上工程の一つである目止作 業において,木目方向と直交する方向に目止剤を擦り † †† 九州工業大学大学院情報工学研究院,飯塚市 込ませることを目的としている.Sobel によるエッジ Kyushu Institute of Technology, 680–4 Kawazu, Iizuka-shi, 検出と 2 値化処理により木目画素を検出してモーメン 820–8502 Japan トを求めることにより木目方向を検出する手法を提案 東郷電機製作所,鳥取県 Togo Electronics Works Co., LTD, 906–1 Kadota, Yurihamacho, Tohaku-gun, Tottori-ken, 689–0736 Japan a) E-mail: [email protected] * 本論文はシステム開発論文である. 2570 電子情報通信学会論文誌 している. 本田と三高は,木質床材製造工程の外観検査におい て,その欠陥を木目欠陥,単板破損欠陥(表面つや異 c 一般社団法人電子情報通信学会 2013 D Vol. J96–D No. 10 pp. 2570–2579 論文/画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発 常),表面の凹凸欠陥の三つに大別する自動検査方法 れている以下の 3 項目である.全ての原形は (A)∼(C) を提案している [4]. の項目において,いずれかに判別される. Ruz らは 900 枚のラジアタパイン板画像から生き (A) 目込み・目粗:木目の間隔が狭く,木目が込み 節や死に節,穴など 10 種の欠陥を検出する手法 [5], 入っている原形を目込みと呼ぶ.逆に,木目の間隔が Todoroki らはアメリカトガサワラのベニア板画像か 広く,目が粗い原形を目粗と呼ぶ.両者は木目数で判 ら節を検出する手法 [6],Hietaniemi らは木材の強度 別される. を分類することを目的とし,松材画像を用いて節を分 (B) 皮付き・非皮付き:原形は背板を利用するため, 類する手法 [7] をそれぞれ提案している.木材に対す 原形に木の皮が残っていることがある.皮が付いてい る画像処理の観点では本研究と同じであるが,処理対 る原形を皮付きと呼び,皮が付いていない原形を非皮 象は明瞭な節などの欠陥部である. 付きと呼ぶ. 本研究では割り箸原形の良品・不良品を判別する検 (C) 半赤・非半赤:樹木の構造上の特徴として,木 査システムの開発を目的とし,本論文では輝度値波形 部(木材)周辺部には着色が少ない若い木部(辺材と の解析に基づき木目数を計測する手法,HS 色空間に 呼ばれる),中心部には着色した古い木部(心材と呼 おいて判別分析により皮付きと非皮付きを判別する手 ばれる)が存在する [8].杉の辺材は白色,心材は淡紅 法,及び輝度値波形の傾きを定量化して半赤と非半赤 色∼暗赤褐色である.原形は端材であり,概して白色 を判別する手法をそれぞれ提案する.これらは従来の であるが,中には赤みのある心材が含まれており,こ 木材に対する画像処理では対象とされていない.そこ れらが含まれている原形を半赤と呼ぶ.一方,赤みが で本論文では処理対象の割り箸原形の性質を効果的に ない原形を非半赤と呼ぶ.割り箸生産では,半赤と呼 利用して,高い精度を達成する新しい判別法を提案す ばれるが,一般的に用いられる変色と同じ意味をもつ. る.試作機を構築し,2000 本の原形画像に対して提 これらの検査項目をもとに,原形は高級品や 2 級品, 案手法を適用し,高精度を得られることを確認した. あるいは組箸用として 1 本の箸に加工される. 2. 外観検査システムの概要 全ての検査項目に対して適した判別基準を設けるこ とが望ましい.しかし,木材は自然物であり,かつ生 2. 1 割り箸原形 産地,伐採時期などによる個体間のばらつきが大きい. 本研究で検査対象とする割り箸の原形は杉材であり, そのため,実際には作業者が生産量に応じた判断基準 丸太から角材や板等に引いたあとに残る皮の付いた端 を設けている.本研究で開発する外観検査システムを 材(背板と呼ばれる)を加工したものである.この原 実利用する場合,作業者が判別基準を容易に修正でき 形を検査して,天削箸や元禄箸のような 2 本に割らず ることが望ましい.(A) は木目数で判断されるため, に溝を入れた割り箸,利休箸のような 1 本ずつの組箸, 作業者によるしきい値を設定する方針を採用する.一 あるいは不良品のいずれかに判別される.本研究で検 方,(B)(C) に関しては,システムを利用する前に,作 査対象とする割り箸原形を図 1 に示す.標準的な原 業者が複数の原形サンプルを目視で判定し,その結果 形のサイズは全長 240mm,幅は持ち手側 14∼15mm, を用いて最も精度の高い判別条件を算出する方針を採 先端側 7∼8mm,厚さは約 5mm である. る.通常,目込み,かつ非皮付き,かつ非半赤が良品 本研究で対象とする検査項目は従来,人手で選別さ として利用される.しかし,良品・不良品の判断に用 いる検査項目は作業者が決めるため,本論文は 3 項目 を高精度に判別する手法の提案を目的とする. 2. 2 検査システム 本研究で開発した外観検査システムの試作機を図 2 に示す.システムの処理の流れは以下のとおりであ る.(1) ホッパーに材料である割り箸原形を投入する. (2) ホッパーから 1 本ずつ原形を搬送コンベアに乗せ る.(3) サーボモーターは運転モードになり,搬送コ 図 1 代表的な原形サンプル Fig. 1 Typical samples. ンベア上の原形を検査位置に搬送する.(4) 検査位置 に着くとモーターは休止モードに変わりコンベアが 2571 電子情報通信学会論文誌 2013/10 Vol. J96–D No. 10 図 2 外観検査システムの試作機外観 Fig. 2 Overview of developed system. (a) C1 image Fig. 3 図3 撮影機構 Photograph mechanism. 停止する.(5) 休止モードに変更後,実験的に決めた 0.1sec の待機時間を経過した後にカメラで原形を撮影 する.(6) モーターは再び運転モードに変わり,次の (b) C2 image 図4 撮影画像 Fig. 4 Captured images. 原形を検査位置に搬送するためコンベアが動く.運転 モードの間に提案手法を適用し原形を検査し,検査結 位置は,原形側面のどの部分であるか不明である.こ 果をモニタに表示する.(7) 検査結果をもとに後方の のため側面全体を撮影する.また,これら原形は搬送 仕分け位置で原形を振り分ける. コンベアの制御によってほぼ同じ場所に位置している つまりストップ・アンド・ゴーを繰り返しながらコ ため,撮影画像の特定範囲内のみを解析すればよい. ンベアが動く.ここでコンベアの 1 回の搬送時間は 試作機では原形の片側のみを撮影し検査する.反対側 0.4sec であり,この間に加減速を行う.平均搬送速度 については,現在の撮影機構と同じものを用意して原 は 75mm/sec である. 形を反転させる機構を組み込むことで検査可能となる. 試作機では図 3 に示すように,原形と並行に設置し 本システムは,割り箸とカメラ及び照明の位置関係 た白色 LED 2 本を照明として,2 台のカメラ(C1: 等が整備された環境での運用を想定する.異なる場 Point Grey Research 社製 Flea2,C2:Buffalo 社製 所においても外光にロバストで安定に動作するため, BSW32K02HRD)で検査対象の原形を同時に撮影す 図 3 で示す撮影機構を固定するユニットに,カバー る.これらの機器は図 2 に示すユニット内に固定され を装着している.正面のみユニット内が観察できるよ ている.C1,C2 により撮影された画像例を図 4 に示 うにグレースモークを採用し,その他 4 面は不透明カ す.C1,C2 の画像サイズはそれぞれ 1024 × 768 画 バーを採用している.これにより実環境下で本システ 素,2048 × 1536 画素である.撮影画像にはコンベア ムを設置・運用する際のコストを考慮しなくてもよい. 上で搬送される複数本の原形が写る.C1 は持ち手側, C2 は側面全体を撮影対象とする.C1 画像は (A)∼ 3. 境界線検出 (C) の全ての検査項目で利用するが,特に木目数を正 図 4 に示すように,撮影画像には複数本の原形が写 確に計測するために近接して撮影する.一方,C2 画 る.前述のとおり,原形の位置は全てのサンプルでほ 像は検査項目 (B) のみに利用するが,皮が付いている ぼ同じ位置で観測できるため,事前に観測範囲を設定 2572 論文/画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発 Fig. 5 図 5 C1 画像の境界線抽出 Border detection for C1 image. Fig. 6 図 6 C2 画像の境界線検出 Border detection for C2 image. し,観測範囲内のみで処理を適用することにより処理 時間の短縮を図る.ただし,検査するために観測範囲 内において,C1 画像では背景と原形の境界,C2 画像 では上面と側面の境界を検出する必要がある.以下で はそれぞれの画像に対する境界線検出について説明す (a) Target stripped sections (b) Intensity change (c) Power spectrum (d) I(y) and IL (y) る.観測範囲は図 4 の白枠内であり,この観測範囲の サイズと位置は実験的に設定した. 3. 1 C1 画 像 C1 画像は木目数を計測するために正確な原形領域 の抽出が要求される.ここで原形の背後は青色背景で あり,原形と背景の境界部分の輝度変化は大きい.そ こで垂直成分と水平成分それぞれにおいて赤成分にお ける Sobel フィルタを適用して平均エッジ値を求め, 最大エッジ値となる位置を境界点として検出する. 図7 木目検出 Fig. 7 Grain detection. 図 4 (a) の画像に対して原形領域の境界線を検出し た結果を図 5 に示す.図中,左側のグラフは上下境界 るく写る.そのため両面の境界では輝度値の変化が生 を検出するための赤成分の平均エッジ値である.この じてエッジ値が大きくなる.この性質を利用し,C1 画 グラフで境界付近に大きな極大点が観測される.そこ 像と同様に中央付近のエッジ値の最大点を境界線とし で,このグラフより上下二つの極大点を検出すること て検出する.図 6 右側の画像に描かれている水平線は で境界を検出する.ただし,原形境界はほぼ直線で表 検出された境界線である. 現できるが,画像空間に対して傾斜して写ることがあ る.そのため上下境界点を観測領域の左右両側におい 4. 判別アルゴリズム てそれぞれ検出し,左右の境界点を直線で接続するこ 4. 1 目込み・目粗 とで境界線を得る.左側境界線も上下境界線と同様の 目込みと目粗の判別基準には木目が用いられる.原 手段で検出する. 形の木目はおおよそ水平方向に流れている.しかし木 3. 2 C2 画 像 材は自然物であるため,木目は一様でなく,色の変動 C2 画像は検査項目 (B) のみで利用するが,C1 画像 や木目の太さの変動もある.また木材を裁断し原形を と異なり正確な原形と背景の境界線の検出は不要であ 作る際,断面は裁断により微小な凹凸ができる.これ る.C2 画像では,原形上面と側面の境界線を基準に をカメラで撮影すると凹凸による輝度値変化がノイズ 皮付きを計測するための色観測領域を設ける.そこで として観測される.これらの影響を軽減するため,本 C2 画像に対してはこの境界線を検出する. 図 5 と同様に Sobel フィルタによる平均エッジ値の 変化を観測した結果を図 6 に示す.図 6 右側の画像 は,視認性を高めるために C2 画像の観測範囲の一部 論文では画素単位で木目を検出せず,図 7 (a) に示す ように横幅 Ws の短冊領域に等分割し,各短冊領域内 で木目を検出する. 3. の境界線検出にはエッジ値を用いていた.しか のみを切り出して表示している.原形の上面と側面は, し木目には,不明瞭なエッジが観測されることがあ 同じ材質であるが照明の影響を受け上面は側面より明 る.一方,垂直方向 y の輝度値変化 I(y) を観測する 2573 電子情報通信学会論文誌 2013/10 Vol. J96–D No. 10 と図 7 (b) に示すように木目に応じた波形が観測され る.そこで I(y) を利用して木目を検出する.ここで (a) Bark observed region 本論文では周波数解析による木目検出法(method1) と波形解析による木目検出法(method2)の 2 手法を 提案する. I(y) は周期関数として観測できる.そこで method1 は,I(y) に対してフーリエ変換を適用し,スペクトル 波形を求める.図 7 (b) より求まるスペクトル波形を (b) Distributions of HS space 図 7 (c) に示す.図 7 (b) の原形の木目数は 7 本であ り,スペクトル波形で周波数 7 の位置にピークが観測 Fig. 8 図 8 皮付き判別処理(C2 画像) Discrimination process of NB and B for C2 image. される.つまりスペクトル波形で最大値となる周波数 が木目数 Ng として得られる. I(y) において木目は極小値の位置に観測できる.そ こで method2 は I(y) の極小値を木目として検出する 手法である.ただし,様々な太さの木目があり,一つ の木目の中に複数の極小値が検出されることがある. そこでしきい値を与え,しきい値以下の区間に木目が 一つあると判断し Ng を計測する.このとき,本論文 では一定のしきい値を用いず,I(y) に対してローパス (a) Bark observed region Fig. 9 (b) Distributions of HS space 図 9 皮付き判別処理(C1 画像) Discrimination process of NB and B for C1 image. フィルタ(LPF)を適用して得られる低周波波形 IL (y) をしきい値として利用する.つまり I(y) < IL (y) の て設ける.皮は側面のどこに付いているか不明である 区間数を Ng と定義する.図 7 (d) に I(y) と IL (y) を ため,観測領域は (I)∼(IV) の 4 等分した領域とする. 示す.この図より Ng = 7 が求まる. method1,method2 ともに一つの短冊領域から求 まる木目数では,ノイズなどによる影響を受けやすい. そのため本論文では複数の短冊領域より得られる木目 数の最頻値を Ng として定義する. 目込みと目粗を判別するため,しきい値木目数 Tg 各観測領域内に含まれる画素色を RGB 色空間から HSV 色空間に変換して HS 色空間の分布の重心 G2i (i = {I, II, III, IV}) を求める. 図 8 (a) の 4 領域における HS 色空間分布を図 8 (b) に示す.このサンプルでは (I) から (II) の 2 領域に 渡って皮が付着している.この影響を受け,領域によっ を用意する.Ng ≥ Tg の場合は目込み,Ng < Tg の て HS 色空間分布及び重心の位置に違いが観測される. 場合は目粗に分類する. 本論文ではこの性質を利用して皮付きを判別する. 4. 2 皮 付 き 皮の色は黒褐色であり,原形の側面に付いているが, 皮付きを判別するために,学習用サンプルを用い て HS 色空間の分布重心座標に対して線形判別分析 皮の位置や大きさには様々なパターンがある.そこで を適用し判別関数 f (x, y) を求める.各領域の重心 本論文では,皮領域を抽出するのでなく,側面付近に 座標 (xg , yg ) を求め,f (xg , yg ) > 0 ならば皮付き, 観測領域を設け,観測領域内の色分布を用いて皮らし f (xg , yg ) ≤ 0 ならば非皮付きと判定する. さを判定する手法を提案する.C2 は皮付き判別のため 4. 2. 2 C1 画 像 に用意したカメラであるため皮付き判定に C2 画像を C1 は原形の持ち手側のみを上面のみ撮影するため, 用いることは必然である.一方,皮は側面のみからで 側面に付く皮を正確に観測することができない.しか なく上面からでも観測できる場合がある.そこで C2 し,サンプルによっては図 9 (a) に示すように皮を観 画像だけでなく C1 画像も用いて皮付きを判別する. 測できるものがある.そこで C1 画像に対しても皮付 4. 2. 1 C2 画 像 きの判別処理を適用する.判別方法は C2 画像とほぼ 3. 2 で検出した上面と側面の境界線を上辺として, 同じであるが,色空間分布を得るための観測領域が異 図 8 (a) に示すような側面側(画像空間では下側)に なる.3. 1 により原形の境界線が検出される.C1 画像 一定距離 dC2 離れた位置までの矩形を観測領域とし では検出された境界線を中心に上下 dC1 離れた範囲ま 2574 論文/画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発 (a) Intensity change (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) (h) (i) (j) (b) I(y) and IL (y) 図 10 半赤サンプルの輝度値プロファイル Fig. 10 Intensity profile of reddish sample. での矩形を観測領域として設ける.観測領域は図 9 (a) の上下境界線付近にある塗りつぶされた領域である. この上下二つの領域内に含まれる画素より HS 色空間 分布の重心を求める(図 9 (b)).4. 2. 1 と同様に線形 判別分析により皮付きと非皮付きを判別する. 4. 3 半 赤 C1 で撮影した半赤のサンプルを図 10 (a) に示す. 図 7 (b) では木目間の輝度値はほぼ一定であるが,半 赤のサンプルは輝度値が変化している.この変化を定 量的に表現して半赤を判別する手法を提案する. 本論文では木目検出法 method2 で得られた低周波 波形 IL (y) に対して最小 2 乗法を適用して近似直線の 傾き a を求める.図 10 (b) は図 10 (a) における I(y) と IL (y) の波形である.次に半赤判別用にしきい値 TS を用意し,a ≥ TS の場合は半赤,a < TS の場合 は非半赤と分類する.I(y) でなく IL (y) を利用するこ とで木目の影響を軽減する.ただし,全区間の IL (y) を用いると誤差が生じるため,原形の上下それぞれの 境界付近 10%を除いた区間に対して最小 2 乗法を適用 する.図 7 (b) と図 10 (a) のサンプルの a はそれぞれ 図 11 C1 画像例 Fig. 11 C1 images. 0.010,0.612 であり,a に差異が生じることを確認で きる. 5. 評 価 実 験 みの代表的なサンプルである.図 11 に示すようにサ 5. 1 実 験 条 件 に対して実験を実施した. ンプルには個体間のばらつきがあり,本論文はこれら 開発した検査システムを稼働させて 2000 本の原形 2000 本の原形に対して 3. で提案した境界線検出法 を撮影した.これらはある時期に一つの生産地で伐採 を適用した.検出結果が正しく得られているか目視で された木材をもとに加工された原形である.撮影画 確認した結果,C1 画像の上側境界線,下側境界線,左 像を解析したところ,C1 画像の持ち手側の平均縦幅 側境界線の検出成功率はそれぞれ 99.95%,99.80%, は 178 画素であり,C2 画像の原形領域の平均横幅は 99.90%であった.また C2 画像の左側境界線,右側境 1678 画素,持ち手側の平均縦幅は 84 画素,先端側の 界線,上面と側面の境界線の検出成功率はそれぞれ 平均縦幅は 58 画素であった. 図 11 に C1 で撮影された原形のサンプルを示す. 図 11 (a)∼(c) は木目数の少ない目粗,その他が目込 99.97%,99.95%,99.90%であった.2000 本に対して 検出失敗は高々5 本であり,提案手法の高い検出精度 を確認した. 2575 電子情報通信学会論文誌 2013/10 Vol. J96–D No. 10 次に 4. で提案した判別アルゴリズムの精度を定量 た.その結果を表 2 に示す.method2 は method1 よ 的に評価するため,全ての画像に対して検査対象の 3 り高い精度を得た.特に method1 は F P < F N の傾 項目に関する正解を目視で求めた.判別結果をもとに, 向であるのに対し,method2 は F P > F N であり, True Positive(T P ),False Negative(F N ),False method2 は目込みの取りこぼしが少ない傾向にあっ Positive(F P ),True Negative(T N )を求めて下式 た.また目視で与えた木目数と提案手法で検出した木 で定義される正解率 ACC を算出した [6]. ACC = TP + TN TP + FP + TN + FN ACC の値域は [0, 1] であり,1 に近づくほど精度が高 いことを意味する. 2000 枚の撮影画像のうち,目込み FG は 1907 枚, 目粗 RG は 93 枚であった.これらを表 1 に示すよ うに均等に二つのグループ Gg1 と Gg2 に分類した. 図 12 に両グループにおける目視で計測した木目数の 分布を示す.最小の木目数は 3,最大木目数は 25 で あり,木目数 8 のサンプルが最も多いことがわかる. 4. 1 で述べた method1 は学習を必要としない.一方, method2 では 2 グループをそれぞれ学習データとし て用いた際に最も良好な精度を得られた LPF の遮断 周波数 3 を採用した.またしきい値木目数は作業者が 選んだ Tg = 6 とした.木目検出に用いる短冊領域幅 は経験的に Ws = 18 画素とした. 前述の条件のもと Gg1 を学習用データと Gg2 をテ スト用データとして提案手法を適用した.更に学習用 データとテスト用データを入れ替えて実験を実施し 表 1 目込み・目粗のサンプル数 Table 1 Numbers of samples of FG and RG. Gg1 953 47 1000 この結果からも method2 の方が高い精度であること がわかる. method2 で誤判別された結果例を図 13 に示す. 図 13 (a) は上下境界に接した木目が検出されずに目粗 5. 2 目込み・目粗判別実験 group FG RG total 目数の差を計算した結果,method1,method2 の木 目数の平均誤差はそれぞれ 1.40 本,0.66 本であった. Gg2 954 46 1000 に誤判別された目込みサンプル,図 13 (b) は木目が 二重線状に現れたため目込みに誤判別された目粗サン プルである.本論文で撮影した画像は 2. 2 で述べた とおり原形の片側のみである.そのため前者の問題に 対しては反対側を観測することで解決が期待できる. また後者の問題に対しては木目の粗密状況を解析する ことが考えられる.一方,method1 は輝度変化を周 期関数と仮定して周波数解析を適用している.木目間 の間隔が不均一で周期関数に見られないサンプルがあ り,この要因により method2 より method1 の精度が 低かった. 5. 3 皮付き・非皮付き判別実験 2000 枚の撮影画像のうち,非皮付き NB は 1874 枚, 皮付き B は 126 枚であった.これらを表 3 に示すよ うに均等に二つのグループ Gb1 と Gb2 に分類した. Table 2 表 2 目込み・目粗の実験結果 Experimental results of FG and RG. (a) method1 test data Gg1 Gg2 TP FP FN 907 11 47 903 15 50 (b) method2 TN 35 32 ACC 0.942 0.935 test data Gg1 Gg2 TP 948 951 TN 16 19 ACC 0.964 0.970 FP 30 28 FN 6 2 (a) Fine grain sample (FG) (b) Rough grain sample (RG) Fig. 12 2576 図 12 木目数の分布 Grain distribution of all samples. Fig. 13 図 13 目込み・目粗の誤判別例 Misclassification samples of FG and RG. 論文/画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発 表 3 皮付き・非皮付きのサンプル数 Table 3 Numbers of samples of NB and B. group NB B total Gb1 937 63 1000 Gb2 937 63 1000 表 4 皮付き・非皮付き判別結果 Table 4 Result accuracy of NB and B. C2 (I) C2 (II) C2 (III) C2 (IV) C2 all C1 C1 +C2 (a) C2(I) test data Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 Gb1 Gb2 TP 53 52 33 29 17 21 11 16 55 56 39 38 57 58 FP 1 22 2 18 2 9 0 7 1 25 0 0 1 24 FN 8 5 6 10 4 4 4 4 8 7 10 4 12 6 TN 938 921 959 943 977 966 985 973 936 912 951 958 930 912 ACC 0.991 0.973 0.992 0.972 0.994 0.987 0.996 0.989 0.991 0.968 0.990 0.996 0.987 0.970 (b) C2(II) 実施した.これらの結果を表 4 に示す.表中 C2 の all は (I)∼(IV) の 4 領域において一つでも皮付きと判定 された場合に皮付きに分類した場合,C1+C2 は,C1 あるいは C2 のいずれかで皮付きと判定された場合に 皮付きに分類した場合の結果である.C1+C2 で平均 0.979 の正解率を得られた. (c) C2(III) (d) C2(IV) 誤判別例を図 15 と図 16 に示す.図 15 (a) は C2 画像において皮付きと誤判別された非皮付きサンプル, 図 15 (b) は C2 画像において非皮付きと誤判別された 皮付きサンプルである.前者の原形は側面が木目の断 面になっていたため皮に似た色に見えている.後者は 側面の下端に少しだけ皮が付いていたが皮部分が小さ いために正しく判別されなかった.この問題に対して (e) C1 図 14 HS 色空間の重心分布 Fig. 14 Distributions of gravity points in HS color space. は反対側の画像を解析することで対処可能である.ま た図 16 は C1 画像において非皮付きと誤判別された 皮付きサンプルである.これも皮の量が少ないため判 別が難しい例であった. 5. 4 半赤・非半赤判別実験 また HS 色空間の分布重心を計算するための観測領域 のサイズは撮影画像における原形サイズを考慮して決 定した dC1 = 5 画素,dC2 = 30 画素とした. 2000 枚の撮影画像のうち,非半赤 NR は 1963 枚, 半赤 R は 37 枚であった.これらを表 5 に示すように 均等に二つのグループ Gr1 と Gr2 に分類した.2 グ Gb1 を学習用データとして,C2 画像の 4 領域と C1 ループをそれぞれ学習データとして用いて,LPF の遮 画像に対する NB と B の HS 色空間の重心分布をそ 断周波数及び判別のしきい値 Ts を変化させた場合の れぞれ求めた.五つの重心分布を図 14 に示す.図中, 両グループにおける ACC を求めた.図 17 は Ts を × 印は NB,+ 印は B に属する画像の重心点を意味す 0.30∼0.60 に変化させた場合の ACC である.その結 る.これらの分布図より,NB と B で異なる分布を形 果,遮断周波数 5,Ts = 0.35 で最も良好な結果を得 成していることがわかる. られた.この条件における実験結果を表 6 に示す.平 図 14 より判別関数 f (x, y) をそれぞれ求め,Gb2 をテスト用データとして実験した.また学習用データ を Gb2,テスト用データを Gb1 に入れ替えた実験も 均正解率は ACC = 0.991 であった.これより提案手 法は高い精度を得られることを示した. 誤判別例を図 18 に示す.図 18 (a) は大きな節が 2577 電子情報通信学会論文誌 2013/10 Vol. J96–D No. 10 (a) Non-defective sample (NB) (b) Unpeeled sample (B) 図 15 C2 画像の皮付き・非皮付きの誤判別例 Fig. 15 Misclassification samples of NB and B (C2 image). 図 16 C1 画像の皮付き・非皮付きの誤判別例 Fig. 16 Misclassification samples of NB and B (C1 image). 表 5 半赤・非半赤のサンプル数 Table 5 Numbers of samples of NR and R. group NR R total Gr1 982 18 1000 Gr2 981 19 1000 (a) Non-reddish sample (NR) Fig. 18 (b) Reddish sample (R) 図 18 半赤・非半赤の誤判別例 Misclassification samples of NR and R. いう点では失敗であるが,節は良品に判断されないサ ンプルであり良品・不良品の判別という点で正しい結 果である.一方,後者の例は境界付近に赤みがあるが, この部分は最小 2 乗法を適用しない除去した区間に含 まれているために提案手法では判別が困難なサンプル であった. 5. 5 処 理 時 間 提案手法を用いて C1 画像と C2 画像の二つの画像 を用いた 1 サンプルあたりの処理時間は,PC(CPU: Core i3-530 2.93GHz)を用いたところ平均 0.067sec であった.人手による外観検査の場合,8 時間で 20,000 膳検査されている.つまり 1 本あたり 0.694sec であ る.2. 2 で述べた待機時間 0.1sec を含めると,本シス テムは人手の約 4 倍の速度で検査でき,効率化を図れ ることを確認した. 図 17 Ts と C1 画像の皮付き・非皮付きの誤判別例 Fig. 17 Misclassification samples of NB and B (C1 image). 6. む す び 本論文では,画像処理による割り箸原形の検査シス 表 6 半赤・非半赤の実験結果 Table 6 Experimental results of NR and R. test data Gr1 Gr2 TP 11 11 FP 2 1 FN 8 7 TN 979 981 ACC 0.990 0.992 テムの開発を目的とし,試作検査システムの開発及び 目込み・目粗,皮付き・非皮付き,半赤・非半赤の 3 検査項目を判別する手法を提案した.提案手法は原形 の性質を効率的に利用した.2000 本の原形を撮影して 判別実験を行い,提案手法を定量的に評価した.その あったため輝度変化が大きくなり半赤と誤判別された 結果,いずれの項目においても 0.96 以上の高い正解率 非半赤サンプル,図 18 (b) は非半赤と誤判別された半 を確認し,提案手法の有効性を確認した.更に処理時 赤サンプルである.前者の例は半赤・非半赤の判別と 間に関しては人手に比べ約 4 倍の高速化を達成した. 2578 論文/画像処理による割り箸原形の外観検査システムの開発 実験に用いた原形は特定の生産地・伐採時期の木材 を利用している.本システムを実利用する場合,複数 の生産地・伐採時期の原形を用いる.そのため今後の 課題としてこれらのサンプルを用いた実験を通じて提 今村 将訓 2013 九州工業大・情工・システム創成 情報卒.在学中,画像処理に関する研究に 従事. 案手法の有効性を評価するとともに本システムの実利 用が挙げられる. 謝辞 本研究を進める上で目視評価やプログラム作 成に協力してくれた末富康寛君(現在,九州工業大学 大学院生命工学研究科)に感謝します.また本研究の 遂行に御理解,御協力頂いた株式会社東郷電機製作所 の前田和雄氏に感謝致します. 文 [1] [2] [3] 献 福井 幸美 1968 倉吉工業高等学校・電気卒.1979 株式会社東郷電機製作所入社.現在,同社, 生産技術部部長.自動化設備の設計製作に 従事. 環境三四郎,“割り箸から見た環境問題 2006, ” http://www.sanshiro.ne.jp, 2006. 白川真也,伊藤博之,齊藤光雄,“割箸自動選別装置の開 ” 林産試験場報,vol.8, pp.1–11, 1994. 発, 岡本裕幸,米澤 洋,“木目方向検出用画像処理システム ” 精密工学会誌,vol.57, no.10, pp.1763–1767, の開発, 1991. 本田達也,三高良介,“化粧木質床材の自動外観検査法, ” パナソニック電工技報,vol.57, pp.51–56, 1996. [5] G.A. Ruz, P.A. Estevez, and C.A. Perez, “A neuro- [4] fuzzy color image segmentation method for wood surface defect detection,” Forest Products Journal, vol.55, no.4, pp.52–58, 2005. [6] C.L. Todoroki, E.C. Lowell, and D. Dykstra, “Automated know detection with visual post-processing of Douglas-Fir veneer images,” Computers and Electronics in Agriculture, vol.70, pp.163–171, 2010. [7] R. Hietaniemi, J. Hannuksela, and O. Silven, “Camera based lumber strength classification system,” Proc. IAPR Conference on Machine Vision and Applications (MVA2011), pp.251–254, 2011. [8] 日本木材学会,木質の物理,文栄堂出版,2008. (平成 25 年 1 月 10 日受付,5 月 9 日再受付) 齊藤 剛史 (正員) 1999 豊橋技科大・工・情報卒.2004 同 大大学院博士後期課程了.工博.同年鳥取 大学工学部電気電子工学科助手.2010 九州 工業大学大学院情報工学研究院准教授.画 像処理,認識に関する研究に従事.IEEE, 情報処理学会,電気学会,計測自動制御学 会各会員. 2579