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岐阜県営水道水安全計画 概要版
概要版 岐阜県営水道水安全計画 岐阜県 都市建築部 平成28年4月 1 策定の目的 岐阜県営水道では、これまでも安全でおいしい水の供給のために、適正な水処理や 水源から給水地点までのきめ細かな水質検査を実施し、常に水質管理に万全を期して きた。しかし、今なお水源河川での油・薬品等の水質汚染事故、施設への不法侵入行 為などが発生しており、また、病原性生物や未規制(環境ホルモン、医薬品等)物質 による汚染は、今後、顕在化する可能性もあるといったように、水道水を供給するう えで、さまざまなリスクが存在している。 基本的には、原水の水質状況に応じて整備された浄水施設と適切な運転管理及び定 期的な水質検査によって正常な水の供給が確保されているが、水質基準項目数に比べ、 常時監視可能なものは少なく、また、定期検査により結果を得るにはそれなりの時間 を費やすなど限界がある。 そこで、厚生労働省が策定を推奨している「水安全計画」(WHOが提唱した)を策 定することとした。これにより、水道システムを構成する水源管理、浄水管理、送水 管理及び水質管理の個別要素を包括する品質管理システムを構築することで、危害の 重要管理点を重点的かつ継続的に監視することが可能となり、これまで以上に良質で 安全な水道水の供給に努めるものである。 2 水道システムの現状把握 (1)概要 東濃地域及び可茂地域の約 50 万人へ、中津川浄水場、山之上浄水場及び川合浄 水場の 3 浄水場から水道水を供給している。 ① 水源及び水利権水量 ア)中津川浄水場 牧 尾 ダ ム 1.3m3/s 味噌川ダム 0.3m3/s 阿木川ダム 0.8m3/s イ)山之上浄水場 岩屋ダム 0.75m3/s ウ) 川合浄水場 岩屋ダム 0.3m3/s 味噌川ダム 0.1m3/s 阿木川ダム 0.1m3/s いずれかのダムから 1.642m3/s 山之上浄水場 いずれかのダムから 中津川浄水場 川合浄水場 0.1m3/s ② 給水地域 ア)中津川浄水場 東濃地域の5市へ供給している。各市への給水地点は23箇所であり、地点数 の内訳は次のとおりである。 中津川市(6) 、恵那市(4)、瑞浪市(4)、土岐市(4) 、多治見市(5) イ)山之上浄水場及び川合浄水場 可茂地域の2市4町へ供給している。各市への給水地点は14箇所であり、地 点数の内訳は次のとおりである。 美濃加茂市(3) 、可児市(6)、坂祝町(1)、富加町(1)、川辺町(1)、 御嵩町(2) 【管内図】 (2)水源の汚染源の情報 ① 中津川浄水場 下水処理場 11 箇所(長野県 10 箇所、岐阜県1箇所) 畜産業 4 事業所 工業等 特定事業場(排水 400m3 以上)2 箇所、発電所 28 箇所 ゴルフ場 4 箇所(長野県) 水質事故(直近 10 年) 油流出 54 件、薬品流出 2 件、魚類へい死 3 件、不法投棄 0 件 ② 山之上浄水場 下水処理場 16 箇所 畜産業 96 事業所 工業等 特定事業場(排水 400m3 以上)3 箇所、発電所 18 箇所 ゴルフ場 2 箇所 水質事故(直近 10 年) 油流出 25 件、薬品流出 2 件、魚類へい死 6 件、臭気1件 ③ 川合浄水場(下表に加え中津川浄水場分についても注意が必要) 下水処理場 18 箇所 畜産業 86 事業所 工業等 特定事業場(排水 400m3 以上)12 箇所、発電所 9 箇所 ゴルフ場 16 箇所 水質事故(直近 10 年) 油流出 42 件、薬品流出 7 件、魚類へい死 5 件、不法投棄 1 件 (3)浄水場に関する情報 ① 浄水処理方式 凝集沈澱-急速濾過方式 沈砂池 ② 施設能力 着水井 凝集沈澱池 急速濾過池 浄水池 166,000m3/日(中津川浄水場) 53,600m3/日(山之上浄水場) 32,800m3/日(川合浄水場) ③ 排水処理方式 加圧脱水(中津川浄水 場・山之上浄水場) 、天日乾燥(川合浄水場) (4)送水施設 ① 中津川浄水場 送水本管 50km 送水支線 34km 給水地点 23 箇所 ② 山之上浄水場 送水管 47km 給水地点 12 箇所 ③ 川合浄水場 送水管 2km 給水地点 2 箇所 ④東濃西部 送水幹線 中津川系 18.5km 川合系 11.7km 【水源調査地点(飛騨川)】 (5)水質管理 ①水質検査 ア) 水源 水道水源となる河 川、ダムの水質状況 を把握(汚染監視) するため、木曽川、 飛騨川の各取水地点、 上流域の本支川及び 水源ダムの水質検査 を実施している。 イ) 浄水場 浄水処理が適正に 行われていることを 確認するため、浄水 場の入り口(原水) 、 出口(浄水)及び各 浄水処理工程におい て水質検査を実施し ている。 ウ) 給水地点 代表的な給水地点 【水源調査地点(木曽川)】 4 箇所に水質自動計 測器を設置し、毎日「色」、「濁り」及び「消毒の残留効果」を連続監視している。 ②水質検査計画 水道法に基づく水質検査項目及び検査頻度で検査を実施するよう年度ごとに水 質検査計画を策定し、ホームページで公表している。これに基づき実施した検査 結果についても、同様に公表している。 3 危害(リスク)分析 (1) 危害抽出 上記2で収集・整理した情報により、水源から給水地点に至るまでのあらゆる過 程において、過去の発生事例だけでなく、水道水質に影響を及ぼす可能性のあるす べての危害を対象として抽出した。 【危害抽出結果】 危害原因事象 発生箇所 流域・ 水源 関連水質項目 ・下水処理施設からの放流水 耐塩素性病原生物、大腸菌等 ・生活、工場、畜舎排水 界面活性剤、油、有機溶媒、ウイルス等 ・農薬、肥料の散布 農薬、窒素、リン ・車両事故 油等 ・火山の噴火 濁度、色度、pH 値、臭味、金属類、無機イオン ・降雨、渇水、富栄養化 濁度、pH 値、有機物、ジェオスミン等 ・テロ、不法投棄、原発事故 シアン、その他毒性物質、放射性物質等 ・薬品注入不足、過剰注入 残留塩素、濁度、鉄、マンガン、アルミニ 取水・ ・施設の故障 浄水 ウム、pH 値等 ・ろ過池洗浄不足 耐塩素性病原生物、濁度等 ・資器材からの溶出 臭味等 薬品・ ・薬品の劣化(長期保存) 計器 送水 残留塩素、濁度、塩素酸、臭味等 ・モニタリング機器異常 残留塩素、濁度、pH 値等 ・鉄さび、マンガンの剥離 異物、濁度、色 ・残留塩素の不足 一般細菌 ・モルタルからの溶出 pH 値 ・滞留時間大、水温高 総トリハロメタン、クロロホルム ・クロスコネクション 残留塩素、大腸菌等 (2) 危害評価 抽出した危害について、その発生頻度と被害の影響程度から、リスクレベルの高 いものについて5から1まで5段階に分類した。 【リスクレベルの定義】 危害原因事象の影響程度 発 生 頻 度 頻繁に 起こる 起こり やすい やや起こり やすい 起こり にくい めったに起 こらない 取るに 足らない 考慮を 要す やや重大 重大 甚大 A b c d e 毎月 E 1 4 4 5 5 1 回/数ヶ 月 1 回/1~ 3年 1 回/3~ 10 年 1 回/10 年 以上 D 1 3 4 5 5 C 1 1 3 4 5 B 1 1 2 3 5 A 1 1 1 2 5 4 管理措置の設定 (1)管理措置の設定 それぞれの危害に対して、管理措置(監視方法及び処理方法)を設定した。現状 の監視方法及び処理方法により、想定される危害に対応可能となっている。特にリ スクレベルの高い(5~3)の危害については、自動水質計器による連続監視の実 施により、被害の軽減を図っている。 【危害に対して実施している管理措置】 リスク 危害原因事象 レベル テロ、不法投棄 水質項目 (監視方法・処理方法) シアン、毒物、放 ・進入警報装置 射性物質 5 実施している管理措置 ・金魚槽の監視 ・水質計器での常時監視 水道管の誤接合 残留塩素 ・水質計器での常時監視 畜舎排水、浄水処理薬 耐塩素性病原生物 ・凝集沈澱、急速ろ過処理 品の過不足 ・濁度計(精密)の常時監視 ・油膜計による常時監視 車両事故等の際の油 4 流出 ・活性炭処理により除去 ・事故情報等の連絡網の整備 ・職員による臭気確認(毎日) 洪水等による原水の 高濁 3 臭味、油 濁度、色 ・凝集沈澱、急速ろ過処理 ・濁度の常時監視 薬品注入設備異常に 濁度、色 ・各処理工程ごとの濁度等の常時監視 よる凝集沈でん不良 ・予備設備の整備 停電による機器異常 水量 ・自家発電装置の整備 活性炭(処理剤)の劣 ジェオスミン、フ ・職員による臭気確認(毎日) 化 ェノール、臭味等 ・活性炭の定期的な性能試験 工場等排水による汚 重金属、有機溶媒、 ・凝集沈澱、急速ろ過処理 染 ろ過池の長期休止に 2 よる生物の発生 シアン等 生物(ユスリカ等) ・金魚槽の監視 ・目視による確認(毎日) ・ろ過池の洗浄(濁度 0.1 度以下まで) ろ過池の洗浄不足 ・濁度計(精密)による洗浄管理 沈澱池、ろ過池の各種 濁度、色 ・各設備の定期点検 設備の故障等 原発事故による放射 放射性セシウム ・凝集沈澱、急速ろ過処理 性物質の放出・拡散 ・活性炭処理により除去 (セシウム 134 及び 137) リスク 危害原因事象 レベル 火山の噴火 水質項目 実施している管理措置 (危害の予防と浄水処理) 濁度、色度、pH ・水質計器での常時監視 値、臭味、金属類、 ・金魚槽の監視 無機イオン ・凝集沈澱、急速ろ過処理 ・活性炭処理による除去 2 ・事故情報等の連絡網の整備 ・職員による臭気確認(毎日) ・目視による確認(毎日) ・定期的な水源の水質調査 水源の富栄養化 ジェオスミン 下水処理場の放流水 畜舎排水 ウィルス 送水時間の長期化 1 アンモニア態窒素 クロロホルム ・活性炭処理による除去 ・定期的な水源の水質調査 ・塩素による不連続点処理 ・定期的な水質監視 ・塩素消毒 ・凝集沈澱、急速ろ過処理 ・塩素注入量の低減 ・夏期を中心に定期的な水質監視 塩素注入の不足 一般細菌、大腸菌 ・残留塩素計による常時監視 配管等の劣化時の錆 異物 ・目視による確認(毎日) 水道管モルタル溶出 pH値 ・pH計での常時監視 地質由来 ヒ素、フッ素 ・凝集沈澱、急速ろ過処理 ・定期的な水質監視 (2)管理基準の設定 管理措置が機能しているかどうかを判断するために、次表のように水道水の管理 基準を設定した。安全でおいしい水の供給を確実にするため、水質基準の 2 分の 1 までの値を基本として水質項目ごとに、過去の水質検査結果等をもとに設定した。 管理基準逸脱時の対応については、危機管理マニュアルを整備済みである。 【管理基準と管理基準逸脱時の対応】 監視項目 管理基準 管理基準逸脱時の対応 濁度 0.1 度未満 薬品注入量、濾過状況の確認 残留塩素 0.3~0.6 程度 薬品の追加注入 監視項目 管理基準 管理基準逸脱時の対応 pH値 6.7~7.7 アルカリ剤の注入 臭味、外観、異物 異常がないこと 粉末活性炭による除去 重金属、シアン、有機 溶媒、一般細菌 トリハロメタン 水質基準の 10 分の 1 水質基準の 3 分の 1 必要に応じ取水停止 浄水処理、消毒の強化 塩素注入方法の変更 粉末活性炭処理による除去 有機物、硝酸態窒素、 フッ素、塩素酸、ジェ オスミン、界面活性剤、 水質基準の 2 分の 1 粉末活性炭処理による除去 浄水処理の強化 フェノール 農薬、マンガン、アル ミニウム、ウラン 耐塩素性病原生物 水質管理目標設定値 浄水処理・消毒の強化 検出されないこと 浄水処理の強化 (濁度は 0.1 度で管理) 給水停止 行政機関との連携 毒性物質 金魚に異常な動きがないこと 放射線物質 1Bq/kg 以下(暫定) 粉末活性炭処理 (セシウム 134 及び 137) 目標値の 10 分の 1 浄水処理の強化 水量 所定量 水量の確認 浄水処理薬品 所定値 保存状態の確認 設備・機器 所定値 設備・機器の点検 必要に応じ取水停止 5 管理措置等の妥当性の確認 水安全計画の管理措置、監視体制、管理基準について、技術的観点から妥当性の確 認を行った。これについては、各種法令、通知及び指針並びに経験的知見等に基づい て行い、その根拠を確認した。 【技術的根拠】 管理措置 技術的根拠 浄水処理方法 ・水道施設設計指針 監視方法 (自動測定計器の種類 ・水道維持管理指針 ・過去の事故事例、経験的知見 と設置箇所) ・水道水質基準 ・水質管理目標設定項目の指針値 管理基準 ・クリプトスポリジウム対策指針 ・水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等に ついて(厚生労働省通知) 【参考文献】 (1)法令 ・水道法、施行令、施行規則 ・水質汚濁防止法、施行令、施行規則 ・水質基準に関する省令 ・水道施設の技術的基準を定める省令 (2)各種の通知、指針 (3)施設設計、維持管理に関する指針 ・水道施設設計指針(2012 日本水道協会) ・水道維持管理指針(2006 日本水道協会) 6 レビュー 水道施設の変更を行った場合や水安全計画のとおり管理を実施したにも関わらず不 具合を生じた場合には、見直しを行う。 また、水道施設の経年劣化や新技術の動向を考慮し、3年に1回内容を確認し、必 要により改訂を行う。 7 水質管理の更なるレベルアップ 今後、水道事業を取り巻く環境が変化するなか、将来にわたってよりレベルの高い 安全性、おいしさを確保していくため、技術の向上を図る。 水質監視で大きな役割を果たす水質計器での水質監視、最新の浄水技術について調 査・研究を実施する。 未規制物質など新たな水質汚染物質に対応するため、情報収集、実態調査、浄水場 での処理性についても評価する。