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コンクリート工学年次論文集 Vol.33
コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,2011 論文 沖縄の海洋飛沫帯に長期間暴露したエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた コンクリートの防食効果に関する研究 星野 富夫*1・上久保 通夫*2・岸 利治*3 要旨:本論文では,海洋暴露実験によりエポキシ樹脂塗装鉄筋の防食効果を明らかにするために,塗膜への 損傷を付与した鉄筋や曲げ加工を施した鉄筋を用いたコンクリート梁などにより,これらの要因が鉄筋コン クリートの耐久性におよぼす影響などを検討したものである。わが国の腐食環境としては,最も過酷な環境 下である沖縄沿岸での 10 年間の海洋暴露実験の結果,コンクリート中の鉄筋周辺に発錆限界塩分量(1.2kg/ m3)の 10 倍程度の塩化物が浸透している場合でも,エポキシ樹脂塗装鉄筋に変状は全く認められなかった。 また,節間に跨るような損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋では,損傷部表面に腐食は認められるものの 孔食のような状態は認められず,コンクリートにひび割れを誘引するような状態は認められなかった。 キーワード:エポキシ樹脂塗装鉄筋,海洋暴露実験,損傷付与,耐久性,防食効果 1. はじめに エポキシ樹脂塗装鉄筋は,コンクリートのみでは鉄筋 の腐食を防げないような過酷な塩分環境下に設置され る鉄筋コンクリート構造物の最も信頼のおける防食方 法として,多くの構造物に適用されている。 この「エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コンクリー トの設計施工指針:土木学会」は,1986 年に制定され 1) 2003 年に改定がなされたが,エポキシ樹脂塗装鉄筋の耐 久性については明らかにされていない面もある。 本報告では,暴露試験における基本的な項目であるコ ンクリートの品質とかぶりの検討の他に,エポキシ樹脂 塗装鉄筋に様々な損傷を模擬的に付与したものや各種 の鉄筋に曲げ加工を施した鉄筋を用いて作製したコン クリート梁の長期の海洋暴露実験を行い,その防食効果 や耐久性を明らかにしようとしたものである。 海洋暴露実験は,わが国の腐食環境としては最も過酷 な環境下である沖縄県東海岸沿岸(沖縄県浦添湾,写真 -1,飛来塩分量:60~1320Clmg/dm2/月 2))で 10 年間 行ったものであり,暴露 3 年時点でも一部の試験体につ いての解体実験を行い報告 3)している。なお,塩分の浸 透や腐食性状を比較・検討するために,沖縄で作製した 試験体を静岡県伊東市の伊豆海洋公園内の海洋暴露場 に搬送し,暴露実験を行っている。 写真-1 水率:1.65%,粗粒率:2.26)の海砂と本部産(密度: 2.68g/cm3,吸水率:0.83%,粗粒率:3.55)の石灰石砕 砂を 6:4 の割合で混合使用したものであり,粗骨材は 最大粗骨材寸法が 20mm の本部産(密度:2.70g/cm3, 吸水率:0.40%,粗粒率:6.69)の石灰石砕石を使用し た。 コンクリートの基準の配合は,表-1に示すような水 セメント比:50%,単位水量:170kg/m3,スランプ:10 ±1cm,空気量:4±0.5%のコンクリートを用いた。また, 素材の腐食性状などを検討するために,水セメント比: 40%と 60%のものも作製した。 表-1 2.実験概要 2.1 コンクリートの使用材料と配合 コンクリートには,沖縄県産の普通ポルトランドセメ ント(R 社製,密度:3.16g/cm3,比表面積:3.260g/cm2) を用い,細骨材としては新川産(密度:2.64g/cm3,吸 *1 東京大学 生産技術研究所 *2 安治川鉄工(株) *3 東京大学 海洋暴露実験場(沖縄県浦添湾内) (正会員) 技術研究所主管 生産技術研究所教授 (正会員) 博士(工学) (正会員) -1151- W/C (%) 40 50 60 s/a (%) 43 47 51 コンクリートの配合 W 173 170 170 単位量(kg/m3) C S 433 744 340 853 283 951 G 999 975 926 2.2 鉄筋 もの(E1)と節間に付与したもの(E2)であり,節上へ エポキシ樹脂塗装鉄筋には,黒皮鉄筋(SD295A,D13) の損傷(E1)の付与は,上述の 2 と 9 ならびに 15 の位 にブラスト処理を施し,黒皮部分を落とした鉄筋に 2 社 置のエポキシ樹脂塗装鉄筋の節上に直径が約 1mm 程度 の粉体エポキシ樹脂塗料(主剤:約 60%,硬化剤:22 のものをカッターやグラインダーにより,鉄筋に損傷を ~28%,顔料:9~17%)を静電塗装したものを用いた。 与えないように 3 連、3 箇所付与した。節間への損傷(E2) この静電塗装したエポキシ樹脂塗装鉄筋の膜厚,ピンホ の付与は,2 の位置に 5×5mm 程度のものを 3 連付与し, ール,曲げ加工性等の品質は,土木学会規準に適合した 1×1mm 程度のものを 9 の位置に 3 連,3×3mm 程度の ものである。比較のために用いた黒皮鉄筋と亜鉛めっき ものを 15 の位置に 3 連付与した。 鉄筋は,エポキシ樹脂塗装鉄筋に用いたものと同種のも 3.実験結果と考察 のであるが,亜鉛めっき鉄筋には溶融亜鉛めっきを行っ 2 3.1 コンクリートの強度性状 たものであり,亜鉛の付着量は 600~800g/m であった。 2.3 試験体 コンクリート梁の打設時に作製した圧縮強度試験用 実験に用いたコンクリート梁は,シリーズ 1~3 に大 (D10×20cm)コンクリートの海洋暴露材齢と圧縮強度 別され,図-1~3に示すような形状の矩形梁を用いた。 の関係を図-4に示す。暴露開始から半年程度は強度の シリーズ 1 では,図-1 に示すようなコンクリート梁 増加は顕著であるが,その後の強度の増進は緩やかであ を用い,鉄筋の素材とかぶりの影響を検討したものであ ったが,今回の暴露 10 年では強度の低下が明らかに認 って,15×15×53cm の矩形梁にかぶりが 2.5cm と 4.5cm められた。 となるように 4 本の鉄筋を埋め込んだものである。 3.2 コンクリート梁の鉄筋の腐食性状 シリーズ 2 では,曲げ加工を施した鉄筋の性状を検討 表-2には,鉄筋の素材とかぶりの影響を検討したシ するために,図-2に示すような 15×20×60cm の矩形 リーズ 1 のコンクリート梁から取り出した鉄筋の腐食面 部のかぶりが 2.5cm となるように同種の鉄 ② ④ 60 鉄筋(D13) ③ 筋を固定した。この場合の底面側からのか 20 筋を用いたスターラップ(D6)を用いて鉄 20 コンクリートの打設面 ① 50 430 25 ぶりは 3cm と端部のかぶりよりも大きく した。この曲げ加工により,亜鉛めっき鉄 50 25 25 60 20 530 筋の場合には,亜鉛めっきが剥げ落ちるこ 150 定める 2D で曲げ加工した 2 本の鉄筋の端 25 のコンクリート梁を用い,土木学会規準で 150 20 とからジンクリッチペイントで補修して 試験に供した。 図-1 暴露試験体の形状と寸法(かぶりの検討,単位:mm) シリーズ 3 は,エポキシ樹脂塗装鉄筋に 10 0 1 00 10 0 100 1 00 10 0 コ ン ク リー トの 打 設 面 影響を検討するための ス ター ラ ップ D 6(80x130) 補 強 用 鉄 筋 (D13) 60 52 試験体であり,図-3 40 78 r=2 D r=2 D 試 験 用 鉄 筋 (D13) 25 39 直 線 部 (472) に同種の鉄筋を 2 本埋 電気化学的な測定位置 リード線② リード線① に対応させた 2 と 9 な らびに 15 の箇所に施 1 50 暴露試験体の形状と寸法(曲げ性状の検討,単位:mm) 測定面(かぶり側よりスケッチ) ① ② ③ ④ 50 50 50 50 100 30 鉄筋(D=13) ⑤ ⑥ 100 ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ 70 50 50 50 50 100 1070 ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ 30 100 50 50 50 50 70 30 1200 した。損傷の形状とし ては,節上に付与した 35 25 図-2 80 打設面 筋への損傷の付与は, 35 6 00 め込んだものである。 エポキシ樹脂塗装鉄 39 25 図-3 暴露試験体の形状と寸法(損傷付与の検討,単位:mm) -1152- 50 りが 2.5cm となるよう 30 リート梁を用い, かぶ 95 150 25 120cm の矩形のコンク 200 に示すような 10×15× 25 100 損傷を付与した場合の 積率を示す。かぶりが 2.5cm のコンクリート梁の底面側 60 1 と打設面側 2 ならびにかぶりが 4.5cm の底面側 3 と打 圧縮強度(N/mm2) 設面側 4 である。この表中では,腐食が全く認められな かった鉄筋とエポキシ樹脂塗装鉄筋については削除し てある。 黒皮鉄筋のコンクリート梁については,水セメント比 が 40,50,60%のものを示している。水セメント比が 50%,60%の場合には,何れのかぶりの場合にも全面腐 50 40 30 W/C=40% W/C=50% W/C=60% 20 食を呈し,60%のコンクリート梁の解体前のコンクリー 10 ト表面には大きなひび割れが認められ,剥落寸前の状態 0 であった。このコンクリート梁から取り出した鉄筋には、 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 大きな断面欠損も認められた。一方,水セメント比が 海洋暴露材齢(年) 図-4 40%のコンクリート梁の場合には,何れの鉄筋にも腐食 は認められるもののかぶりと配置による腐食面積率の 表-2 影響が顕著に認められる。 圧縮強度の経時変化 コンクリート梁中の鉄筋の腐食状態 (海洋暴露 10 年) 一方,比較に用いた亜鉛めっき鉄筋を用いたコンクリ W/C 測定位置 かぶり 鉄筋種 (%) (cm) ① 2.5 ② 2.5 40 ③ 4.5 ④ 4.5 ① 2.5 ② 2.5 黒皮鉄筋 50 ③ 4.5 ④ 4.5 ① 2.5 ② 2.5 60 ③ 4.5 ④ 4.5 ① 2.5 ② 2.5 亜鉛めっき 50 ③ 4.5 ④ 4.5 ① 2.5 黒皮鉄筋 ② 2.5 沖縄作製 50 ③ 4.5 伊豆暴露 ④ 4.5 ート梁の場合には,水セメント比は 50%のコンクリート であるが,かぶりの影響は認められ同種の黒皮鉄筋より も腐食面積自体は小さな値を示している。しかし,鉄筋 表面には腐食と判定されない白濁した生成物が全面に 認められた。 エポキシ樹脂塗装鉄筋コンクリート梁から取り出し た鉄筋には全く変状が認められなかった。 3.3 エポキシ樹脂塗装鉄筋塗膜の性状(シリーズ 1) この試験体から取り出したエポキシ樹脂塗装鉄筋の ピンホールをホリデーディテクター(印加電圧:1kV) により調べ,かぶりが 2.5cm の鉄筋から検出されたピン ホールを写真-2の右側に示す。写真の下側に示したメ ジャーの間隔は 1mm であることから,このように検出 されるピンホールは 0.2mm 程度であることが分かる。こ のように検出されたピンホールは,腐食を誘引するよう 腐食面積率 (%) 100 10 61 6 100 100 100 100 100 100 100 100 75 50 5 15 99 90 15 29 な欠陥そのものでないことがこの写真からも分かる。ま た,写真-2の左側に示したピンホールは,コンクリー ト打設前の段階で鉄筋のピンホールを調べ,マークした ものを示しているが,長期間の暴露期間中にピンホール の開口部が閉塞したような状態を呈し,この開口部の塗 暴露後に検出 暴露前に検出 写真-2 ピンホールの検出(横軸の単位:mm) 膜が浸食されたり腐食の原因となるような兆候は全く 認められない。 このエポキシ樹脂塗装鉄筋の塗膜を削り取り,示差走 劣化は認められない。 IRの測定結果は図示していないが,エポキシ樹脂塗 査熱量測定(DSC)や赤外分光法(IR)により塗膜の性 膜を構成する結合部の吸収値の変化は認められず,塗膜 状を調べた。 図-5には,海洋暴露 10 年のコンクリート梁から取 の劣化は認められないと推察された。今回の暴露実験に り出したエポキシ樹脂塗装鉄筋の塗膜部を削り取り, は,2 社のエポキシ樹脂粉体塗料を用い,塗膜性状の分 DSC 測定したものの一例(N 社)を示したものである。 析結果は N 社のものであるが K 社のエポキシ樹脂塗膜の 一般的に塗膜劣化が進行すると化学結合の切断が発生 分析結果でも同様な傾向を示している。 し架橋密度の低下を招き,ガラス転移温度の低下を誘発 3.4 コンクリートへの塩分の浸透 するが,100℃近辺の静的ガラス転移温度からは塗膜の -1153- 図-6には,シリーズ 1 のコンクリート梁の塩分分析 結果を示す。 -1.000 このシリーズでは,黒皮鉄筋や亜鉛めっき鉄筋を用い DDSC -0.000 -3.000 -2.000 ポキシ樹脂塗装鉄筋コンクリート梁から採取したコン -4.000 DDSC(mV/min) 塩分の浸透がひび割れの影響を受けていることから,エ DSC(mV) たコンクリート梁では,ほぼ全長にひび割れが認められ, 2.000 -2.000 DSC クリート粉を分析した結果を示す。 -4.000 -5.000 塩分の分析試料は,コンクリート梁を割裂して鉄筋を 60 取り出した中央部分を深さ方向に切断し,粉砕して分析 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 Temp Cel したものであって,JCI―SC5 の分析方法による全塩分で 図-5 ある。 DSC測定結果 塩分含有率(Wt・%,NaCl換算) 1.6 この図には,暴露 3 年時の分析結果と伊豆海洋暴露場 に搬送して暴露(11 年)したものについても示している。 コンクリート梁の底面側を暴露上面としたこともあ り,打設面側よりも底面側からの塩分の浸透が著しく, 底面側のかぶり位置(2.5cm)では,NaCl 換算で 1.0% (Cl-:約 15kg/m3)の塩分量となっている。 沖縄で作製して伊豆の海洋暴露場に搬送した暴露場 は常時海水飛沫を受ける環境であるが,この沖縄の暴露 場が写真-1で示すように岸壁の内側に設けられてい KE52-暴露10年 1.4 KE75-暴露3年 1.2 KE57-伊豆暴露11年 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 るにも関わらず,塩化物の浸透が大きいことが分かる。 0 2 3.5 曲げ加工した鉄筋の性状(シリーズ 2) 写真-3には,曲げ加工して埋め込んだコンクリート 図-6 4 6 8 10 底面側からの距離(cm) 12 14 コンクリートへの塩分の浸透 梁の端部を割裂して取り出した鉄筋の性状を示す。 この曲げ加工部の鉄筋の曲げ半径は 2D であるが,エ ポキシ樹脂塗装鉄筋の塗膜表面には,ひび割れの発生や 変色などは全く認められず,暴露開始時の様相を保って いる。一方,黒皮鉄筋を用いた場合には,曲げによる鉄 筋の降伏状態が認められるとともに断面欠損を伴う全 エポキシ樹脂 面腐食の状態を呈し,側面のかぶり側のコンクリートに 写真-3 黒皮鉄筋 亜鉛めっき 曲げ加工した鉄筋の外観(暴露10年) も大きなひび割れが発生していた。この黒皮鉄筋に比し, 塩分含有率(Wt・%,NaCl換算) 亜鉛めっき鉄筋の場合には,全面腐食の状態にはなって いないものの非腐食部も白濁と黄褐色した生成物で覆 われている。 この亜鉛めっき鉄筋の曲げ加工時には,曲げ部の皮膜 が全面的に剥げ落ちたことから,その部分をジンクリッ チペイントで補修し試験に供した。このことから,厳密 には亜鉛めっきの腐食状態であると断定出来ない。 このコンクリート梁の端部鉄筋の曲げ部のかぶりは 2.5cm であるが,図-7に示した塩分分析結果からはこ 1.0 側面かぶり位置 0.8 底面 0.6 0.4 0.2 0.0 の位置での塩分量は 0.3%(Wt・%,NaCl 換算)となっ 0 ている。 この塩分分析も,黒皮鉄筋や亜鉛めっき鉄筋の場合に 側面 図-7 2 4 6 8 10 側面・底面側からの距離(cm) 12 曲げ加工した鉄筋コンクリートへの塩分浸透 はひび割れの影響を受けていると思われることからエ ポキシ樹脂塗装鉄筋のコンクリート梁を分析したもの して分析した。 である。また,このように鉄筋に挟まれている部分から このシリーズ 2 の試験体の場合も暴露面はコンクリー の塩分分析試料は,切断や割裂から採取するのが難しい ト梁の打設底面を上側にして暴露したことから,底面側 ことからドリル形式の採取装置により深さ方向に採取 からの塩分の浸透が卓越している。 -1154- 3.6 損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋の性状と電 損傷付与個所 600 気化学的性質(シリーズ 3) 500 分極抵抗(kΩ・cm 2) エポキシ樹脂塗装鉄筋に損傷を付与したコンクリー ト梁の電気化学的性質を明らかにするとともに鉄筋腐 食・劣化等の耐久性の判定への適用を視野に検討してい るものである。 電気化学的測定としては,自然電位,分極抵抗,コン 400 300 E①-75-1 E①-75-2 E②-78-1 E②-78-2 N-81-1 N-81-2 200 クリート抵抗等であるが,これらの値に大きく関与する 100 コンクリートの含水率の測定は必ず行い,乾燥の影響を 0 受けていないことを確認した(6~8%)。 0 20 図-8,9は,二重対極センサー式腐食診断器により 図-8 測定した分極抵抗とコンクリート抵抗の測定結果を示 したものであり,かぶりが 2.5cm の底面側に面したエポ 40 60 80 端部からの距離(cm) 100 120 分極抵抗(海洋暴露10年) 20 損傷付与個所 キシ樹脂塗装鉄筋の節上に損傷を付与したもの(E1)と 15 コンクリート抵抗(kΩ) 節間に付与したもの(E2)である。なお,電気化学的測 定はコンクリート梁試験体の乾燥による影響を排除す る目的で,沖縄の暴露場周辺で採取した海水を 1 週間散 水し、湿潤状態を保ちながら測定した。 図-8に示した分極抵抗には,コンクリート梁中の 2 本の鉄筋について示しているが,参考として黒皮鉄筋の 10 5 凡例は図-8と同じ 0 データも図示している。この黒皮鉄筋は,シリーズ1の 0 結果と同様に全面が腐食し、断面欠損を生じている部分 20 40 60 80 100 120 端部からの距離(cm) もあり,コンクリートには大きなひび割れも生じている。 図-9 この黒皮鉄筋の分極抵抗値としては,鉄筋腐食が進行 塩分含有率(Wt・%,NaCl換算) している他の構造物などで測定される値と同様な値を 示している。一方,エポキシ樹脂塗装鉄筋の場合には, 何れも黒皮鉄筋よりも非常に大きな値を示している。こ の損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋の場合には,損 傷の程度が小さい E1 の分極抵抗が大きな値を示し,節 間に異なる損傷を付与した E2 の場合には,損傷の程度 が大きなものものほど分極抵抗は小さくなり,大きな損 傷(□5×5mm)を付与した 13cm の位置では,黒皮鉄筋 コンクリート抵抗(海洋暴露10年) 1.6 E0-海洋暴露10年 1.4 鉄筋位置 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 の値に近くなるような値を示している。しかし,何れの 0 場合にも損傷の付与個所に対応して変化している。この 2 4 6 8 10 12 14 底面側からの距離(cm) ように損傷付与個所に対応して分極抵抗が測定される 図-10 ことは,腐食状態・腐食の程度に対応しているのではな コンクリートへの塩分の浸透 く,コンクリート抵抗の影響を受けているものと思われ 抵抗が低下していることが分かる。損傷個所の面積とコ ることからコンクリート抵抗を図-9に示す。 ンクリート抵抗の関係には,必ずしも直線的な傾向が認 黒皮鉄筋のコンクリート抵抗は 1~3kΩと損傷を付与 められないことから,腐食の要因を加味した値を示して したエポキシ樹脂塗装鉄筋よりも著しく小さな値を示 いるとも考えられる。このようなことから,エポキシ樹 している。また,この鉄筋は,断面欠損を伴う全面腐食 脂塗装鉄筋の損傷個所を検証する場合には,コンクリー を呈していることからコンクリート抵抗の変化は殆ど ト抵抗による測定が有意義であることを示唆している。 認められない。 3.7 損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋の腐食性状 この図では,エポキシ樹脂塗装鉄筋に損傷を付与した 個所がコンクリート抵抗と良く対応し,損傷付与個所の この損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋コンクリ ート梁の塩分の分析結果を図-10に示す。 コンクリート抵抗は,健全部の 1/3 程度となり,分極抵 このコンクリート梁の場合も底面側を暴露面とした 抗よりも鮮明に損傷の大きさに比例してコンクリート ことから打設面側よりも底面側の塩分含有率は大きく, -1155- 鉄筋のかぶり位置では 1.0%(Wt・%,NaCl 換算)と非 常に多くの塩分が浸透している。このような塩分環境下 での損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋の腐食性状 を写真-4,5に示す。写真-4は,節間に大きな損傷 (□5×5mm)を付与したものであるが、腐食した錆び 汁がかぶり側のコンクリートに認められるが,損傷付与 個所の錆の状態を観察すると腐食が生じていない領域 があることが分かる。また,この腐食は損傷を付与した 鉄筋表面のみのものであり,孔食のような性状は認めら 写真-4 れなかった。 損傷付与部分の腐食状態(節間:□5mm) 写真-5には,節上に約 D1mm 程度の損傷を付与した エポキシ樹脂塗装鉄筋の腐食性状を示すが、この場合も かぶり側のコンクリートに錆び汁が認められるが,大き な損傷を付与したものよりも腐食していない領域が少 ない。これらの腐食状態を写し取り、腐食領域を一覧に したものを表-3に示す。 この腐食面積率は,2本の鉄筋に付与した6ヶ所の腐 食面積の平均の割合を示したものである。損傷の大きさ による傾向が認められないが,このように腐食していな い領域が存在していることが分かる。この腐食状態は, 写真-5 損傷付与部分の腐食状態(節上:○1mm) コンクリート梁を解体した時点で測定したものであり, しばらく放置して観察したところ非腐食部分にも新た な錆の発生が認められた。 4.まとめ エポキシ樹脂塗装鉄筋の防食効果を明らかにするた めに,わが国の腐食環境としては最も過酷な環境下であ る沖縄沿岸での 10 年間の暴露実験を行い,各種の調査・ 測定による検討を行った。 その結果,コンクリート中の鉄筋周辺に鉄筋の発錆限 写真-6 損傷部の拡大写真(節間:□3mm) 界塩分量の 10 倍程度の塩化物が浸透している場合でも, エポキシ樹脂塗装鉄筋に変状は全く認められなかった。 表-3 また,コンクリート中のエポキシ樹脂塗膜の物性上の経 端部からの距離(mm) 13 60 100 損傷形状 φ1mm φ1mm φ1mm 節上 腐食面積率(%) 75 55 45 損傷形状 □5×5mm □1×1mm □3×3mm 節間 腐食面積率(%) 58 30 33 年劣化も認められなく,エポキシ樹脂塗装鉄筋の節間に 跨るような損傷を付与したエポキシ樹脂塗装鉄筋でも, 損傷部表面に腐食は認められるものの孔食のような状 付与した損傷の腐食状態(海洋暴露10年) 態は認められなく,コンクリートにひび割れを誘引する 参考文献 ような状態は認められなかった。 1) クリートの設計施工指針,1986.2 謝辞:本実験の遂行に際しては,琉球大学大城武名誉教 授ならびに東京大学魚本健人名誉教授には,ご指導・ご 2) 大城,伊部,近藤,成底:塩害環境下における RC 構造物の劣化過程について:コンクリート工学年次 協力を頂きました。また,素材の化学分析等を日本ペイ 論文集,Vol.16,No.1,pp.947-952,1994.7 ント(株)工業用塗料事業本部ならびに関西ペイント(株) 粉体塗料開発部に引き受けて頂きました。ここに記して、 土木学会:エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コン 3) 星野,大城,山田,魚本:エポキシ樹脂塗装鉄筋を 用いたコンクリートの防食効果に関する研究,土木 厚く御礼申し上げます。 学会年次学術講演会,V-022, pp.43-44, 2003 -1156-