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継続審査に向けた取り組み

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継続審査に向けた取り組み
継続審査に向けた取り組み
山中
三四郎 1)
The Examination for Continuous Accreditation
Sanshiro YAMANAKA1)
Abstract
The Department of Electrical and Electronic Engineering have received the Examination for Continuous Accreditation
in JABEE in November, last year. The evaluation for the education system was high, and the recognition for 6years was
got. In this paper, education improvement activity for 6 years of this Department is mainly reported.
1.
はじめに
くまで学生への教育効果改善を目指すものであり,
JABEE の認定をとるための改善は行わない.
電気電子工学科は平成 15 年に JABEE の試行審査を受
JABEE で求められている教育水準は電気科が想定し
けた.この審査はあくまでも試行なので審査というより
ている最低レベルに設定する.すなわち,電気電子工学
も指導の意味合いが強かった.電気科ではこの審査結果
科の卒業生であれば持っていなければいけない最低レベ
を参考にしてシステムを改善し,
平成 16 年に本審査を受
ルを水準とし,全卒業生がこの水準を超えることを基本
信審した.このとき,審査チームと我々の間に JABEE
方針とした.
に対する基本的な考え方の違いがあり,多くの D 判定を
ただし,平成 15 年当時,理工学部には他学部,他学
受けることになった.これに対し,異議申し立ておよび
科履修の精度が存在していた.これは文科省の方針に基
改善報告書の提出により D 判定は覆り,2 年間の認定を
づき大学が設定した制度であり,電気科だけがこの制度
得ることができた.2 年後の平成 18 年に中間審査を受け
から離脱することはできなかった.他学部他学科履修を
て 3 年間の延長が認められた.平成 21 年に JABEE の認
JABEE の制度に組み込むことは事実上不可能であった
定期間(5 年間)が終了したので,継続審査を受けることに
ので,その回避策として1学科2プログラムを両立させ
なった.
ることになった.すなわち,電気科の中に技術創造プロ
電気科では今回の継続審査にあたって,最大のポイン
トはPDCAのサイクルを使って恒常的に教育改善を続け
グラムと技術応用プログラムを設け,技術創造プログラ
ムを JABEE 対応プログラムとした.
ていることを審査員に納得させることに絞って,証拠資
3.
料の収集およびを自己点検書の作成作業に入った.
組織
その結果,今回の審査では証拠資料の不備等はあった
ものの,電気科の 5 年間にわたる恒常的な教育改善の努
力が認められて 6 年間の認定が得られた.
本報告では継続審査に向けた電気電子工学科の取り
最初に述べたように電気科では JABEE の認定を得る
ための教育改善は行わないことが確認されているが,審
査のための自己点検書の作成や証拠資料の収集等
JABEE の方針に沿った作業は欠かせない.そこで,電気
組みを紹介する.
科では既存の委員会とは別に下記の WG を立ち上げて,
2.
基本方針
電気科では平成 15 年に試行審査を受けるにあたり,
JABEE の審査に備えた.
教育改革 WG:本 WG は学習・教育目標,教育方法,
基本的な方針の確認を行っている.まず第 1 に JABEE
総合評価,学生支援等の自己点検等の改善策について検
の認定を得るための特別な教育システムは導入しない.
討し,その結果を学科会議に提案することを目的として
すなわち,電気科でこれから行うであろう教育改善はあ
いる.
1) 電気電子工学科
1) Department of Electrical and Electronic Engineering
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継続審査に向けた取り組み
名城大学理工学部研究報告 No.51 2011
実際に本 WG では,おもに教育点検システムの改善お
プログラム運営 WG:この WG は毎年1月下旬に2年
よび継続審査に向けての準備について話し合われた.こ
生に対してプログラム説明会を実施し,技術創造プログ
れ以外に,本 WG では卒研の従事時間を学生自身が記録
ラムの参加を呼び掛けると共に,応募者の面接にあたっ
した行動記録表の保存,管理も行っている.また,学生
ている.たとえば,平成 21 年1月 13 日に 2 年生を対象
自身が学習教育目標の到達度をチェックする学習教育目
に技術創造プログラムの説明会を開催している.ここで
標達成チェックシートを配布し,学生自身に達成度を確
技術創造プログラムの詳細な説明をし,プログラム履修
認させている.さらに,総合評価の結果を,学科会議に
者を募っている.また,履修希望者に面接をし,適当と
諮っている.
認めたものだけを履修者候補として学科会議に諮ってい
る.
教育点検 WG:本委員会は卒業生が多く就職している
企業に対する意見聴取,卒業生・在学生へのアンケート・
ヒアリングを実施し,結果を教育改革 WG に報告するこ
情報発信 WG:この WG はホームページなどの情報発
信コンテンツの作成を行っている.
とを目的としている.また,各種資料(たとえば,成績原
簿および関連記録)の保存,管理を行うこともこの WG
の仕事である.
申請書作成 WG:この WG は審査のための自己点検書
作成を統括する WG である.これまでの自己点検書の作
成はこの WG を中心として行われた.
教員間連絡ネットワーク:このネットワークは専門性
を考慮して下記のように構成されている.
「基礎系教員間
また学外の点検システムとして下記の委員会を設けた.
連絡ネットワーク」として「電気磁気」
「電気回路」
「電
子回路」
「情報基礎」の 4 グループ,
「分野別教員間連絡
EE(Engineering Education)外部評価委員会:EE外
ネッワーク」として「電気エネルギー」
「制御システム」
部評価委員会は卒業生と企業人,他大学教員からなり,
「物性・電子応用」「情報通信」4 グループ,共通科目の
教育点検システムを点検する外部委員会である.この委
教員間連絡ネットワークとして
「ゼミナール」
「学生実験」
員会は,教育点検システムを点検すると共に,社会の要
「卒業研究」の 3 グループがある.
求や教育の水準についての提言を行う委員会としての役
基礎系,分野別教員間連絡ネットワークでは各科目の
割も担う.
単位修得率を学科に開示している.特に,電気磁気学お
よび電気回路は同時に 4 人の教員で講義を行うため,教
4.
改善活動
員間の教育水準等のレベルを調整するために大事な資料
となる.また,この資料をもとに講義の問題点,改善点
等も話し合われる.
分野別教員間連絡ネットワークでは複数科目の教育
内容に関する分担の調整,確認も行われている.
JABEE の継続審査では PDCA のサイクルを使った恒
常的な教育改善を重視している.電気科では前回の本審
査から 5 年の間に数々の教育改善を行ってきた.
しかし,
これらの改善は JABEE のために行われたのではないの
一方,ゼミナール,学生実験,卒業研究の共通科目の
で,JABEE が求めている証拠資料が十分そろっていると
教員間連絡ネットワークは実務的な WG である.ゼミナ
はいえない状態であった.そこで,自己点検書ではこの
ールの教員間連絡ネットワークは 2 年生前期に開講され
状態を正直に書くことにした.以下に改善活動の実施状
ているゼミナールⅠと 3 年生後期に開講されているゼミ
況を教育点検システムのシステム自体の改善と,教育の
ナールⅡの計画を行っている.また,学生実験の教員間
改善に分けて説明する.
連絡ネットワークでは電気電子工学実験Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの実
(a) 教育点検システムの改善
施計画,非常勤講師および TA の配置,成績の取りまと
め等を行っている.
卒業研究の成果を報告するための卒業研究発表会は
教育改革 WG は教育点検システムの改善を行い,変更
が必要な場合は学科会議に提案することになっている.
これまでに,教育点検システムについて,教育改革 WG
卒業研究の教員間連絡ネットワークで実施計画が練られ
で検討した内容を以下に示す.
る.また,このネットワークでは卒業研究の最終成績の
① 卒業研究の従事時間の記録方法について前回の中間
取りまとめや学科会議への優秀発表者の報告等も行って
審査の時に改善を求められた.教育改革WGではこれを
いる.
受け,記録方法について審議をし,改善された行動記録
表を学科会議に提案することになった.改善の要点は,
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従来実験,データ整理,文献調査,ゼミ等の項目だけを
通して,多くの教育改善を行ってきた.現在進行してい
記載していたが,これらの項目の具体的な内容を明記す
る教育改善の活動は教育水準の維持,基礎学力重視,発
るようにした.学科会議では教育改革WGからの提案を
表能力の向上,実感教育の4分野に大別される.それぞ
審議し,承認した.これ以降,卒研の従事時間の記録は
れの分野における具体的な改善例を下記に示す.
教育改革WGから提案された行動記録表に記録すること
になった.
○教育水準の維持
② 教育改革 WG では現在の学習・教育目標の改正につ
①基礎科目の小テスト,レポート,中間試験
いて審議した.その結果,改正は必要であるが,近々,
学生の基礎学力向上を目指して,電気磁気学,電気回
学部学科再編,カリキュラム改正の可能性があり,カリ
路理論等の基礎科目を中心にして小テストの実施あるい
キュラム改正に合わせて学習・教育目標の改正を考える
はレポートの提出を求めることが多くなった.また,中
ことで意見が一致した.
間試験も実施している.
③ 電気電子工学科では現在,技術創造プログラムと技
②個人面談
術応用プログラムの2つのプログラムが動いている.教
近年,電気電子工学科では成績不良の学生が急増して
育改革WGでこの2つのプログラムを統合して,学科内
いる.一方,卒業生等の意見では教育水準を維持するよ
で1プログラム(JABEE プログラム)にすることが検討
うにとの強い要望が多い.そこで,電気電子工学科では
された.審議の結果,プログラムの統一は教育上望まし
成績不良の学生に対して,親子面談を実施している.こ
いが,近々,学部学科再編,カリキュラム改正の可能性
の面談は親も交えて勉学の意思を確認することにある.
があり,カリキュラム改正に合わせてプログラムの統合
また,勉学の意思のない学生には退学等の進路変更を勧
を考えていくことで意見が一致した.
めている.
④ 教育改革 WG で,現在実施されている総合評価につ
○基礎学力重視
いて改善の提案(数値化の提案)があった.審議の結果,
①主要必修科目 4 クラス制(少人数教育)
現在実施されている総合評価の方法は実施後日が浅く,
電気磁気学と電気回路理論の主要必修科目は基礎学
しばらく現在の方法で実施し,実績を蓄積することが確
力向上の観点から4クラス編成で少人数教育を実施して
認された.
いる.特に,電気磁気学Ⅰおよび演習では,今年さらに
⑤ 教育改革WGでは教育点検システムの見直しを行い,
新2年生のクラスと再履修(留年した2年生,3,4年
WG の統廃合,委員の交代等を学科会議に提案した.学
生対象)
クラスに分けて習熟度別のクラス編成を行った.
科会議では審議の結果,教育会改革WGからの提案を承
②再履修制度(2 期連続履修)
認し,教育点検システムを変更することとなった.
電気電子工学科では基礎学力向上の観点から,今年度
⑥ 教員間連絡ネットワークの活動を活性化させる方法
から,電気磁気学および電気回路理論の主要必修科目に
について審議した.その結果を教室会議に提案し,承認
ついて,半期の学習で単位を修得できなかった学生に,
された.
引き続き,次の学期で再履修科目として同じ科目を履修
⑦ 講義に対する学生からの意見聴取方法について審議
できる制度(2期連続履修制度)を実施することになっ
された.アンケート方式では無記名となるので無責任な
た.
結果になりかねないこと,学生の様々な意見を吸い上げ
○発表能力
ることができないことなどが指摘された.その対策とし
①電気電子ゼミナールⅠ
て,
「学習到達目標の達成度に関する調査」の自由記入欄
電気電子ゼミナールⅠでは 4 回にわたって日本語,レ
を充実させ,学生からの意見を積極的に吸収する方法が
ポートの書き方を指導している.1 回目は報告書の構成
提案された.この提案は学科会議で承認され,現在実施
や書くときの心構えを教える.2 回目は日本語の作文技
されている.
術を教える.3 回目はグラフ・図の描き方を教える.4
⑧ 総合評価のためのスケジュールを明確にする作業が
回目は電気電子工学実験の計画書,報告書の書き方を習
行われ,学科会議に提案された.学科会議でこの提案が
得する.
承認され,現在このスケジュールに沿って総合評価が実
②電気電子工学実験Ⅱ・Ⅲ
施されている.
電気電子工学実験Ⅱ・Ⅲでは学生の発表能力向上のた
めに,実験結果についてのプレゼンテーションを実施し
(b) 教育の改善
電気電子工学科ではこれまでに構築したシステムを
ている.電気電子工学実験Ⅱでは2回,電気電子工学実
験Ⅲでは4回実施している.このプレゼンテーションに
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よって資料の作成,発表方法,質疑応答について学ぶ.
名城大学理工学部研究報告 No.51 2011
5.
おわりに
③卒業研究
電気電子工学科の卒業研究では学生1人に1テーマ
電気科では初回の審査から 5 年間,さまざまな教育改
を与え,卒業論文を作成させる.また,1年間の研究成
善を行ってきた.これらの改善は個々の先生が自分の教
果を卒業研究発表会で発表させる.この発表会は2月下
育体験に基づいた提案が多い.個々の先生の提案を改善
旬(卒業論文提出後)に2日間かけて学会の発表と同じ
につなげていくためには広い意味で,普段からの教員間
形式で実施する.発表の結果を複数の教員で審査し,成
連絡ネットワークを通した話し合いが欠かせない.
績優秀者を卒業式の時に表彰している.
各先生方の地道な努力が実り去年 11 月の継続審査で
○ 実感教育
は非常に高い評価を得ることができた.その結果,たま
①電気電子工作
たま継続審査の現場責任者を任された私が平成 21 年度
電気電子工学科では学生の電気電子工学への興味を
名城大学理工学部教育貢献表彰をいただくことができた.
引き出すための実感教育に力を入れている.この一環と
これも電気科の先生方の努力のたまものであり,電気科
して電気電子工作を取り入れている 1 年生に対しては理
の初先生方に改めて感謝いたします.
工学概論Ⅱに設けられているオープンラボで,うそ発見
器,デジタル時計,電子ピアノ,ラジコン送信機の中か
(原稿受理日 平成 22 年 9 月 30 日)
ら 1 つを選んで作らせている.2 年生になる直前の 3 月
には学科配属後のセミナーの中で半日かけてスモウ・マ
ンを作らせている.また,電気電子ゼミナールⅠでは6
回をテスター,DCモーター,Geラジオの製作にあて
ている.
②電子回路の製作
基礎通信工学と電子回路Ⅱでは講義の学習内容を実
感させるために,ブレッドボードを使って,簡単な回路
を作らせ,電子回路の動作確認をさせている.基礎通信
工学では発振回路と変調回路,パルス幅変調回路(サー
ボモータ制御回路)を製作する.電子回路Ⅱではオペア
ンプを用いた増幅回路,MOSFET と IC を用いた直列制
御電源回路を作らせている.回路製作のための組立キッ
トは学生 1 人に 1 セット準備している.
②MATLAB/simulink によるシミュレーション
制御工学Ⅰでは制御理論を仮想体験させるために,
MATLAB/simulink の使い方を教え,シミュレーションを
させている.
③電卓の設計
デジタル回路Ⅱではデジタル回路を実感的に習得さ
せるため,電卓の設計を課している.
④外部講師による単発の講義
電気電子工学科では授業の活性化を図るため,授業内
容が実社会においてどのように役立っているのかを実感
的に理解させ,授業に対する学習動機を高めるため,1
日限りの外部講師を招聘している.特に,制御工学Ⅰ,
Ⅱの講義は数式の多い抽象的な授業内容になりがちであ
るが,これが自動車などの制御において,なくてはなら
ない重要な技術であることを多くの実例とともに教え,
学生の理解を深めることに寄与している.
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