...

2010 年度 公開臨海実習 - 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

2010 年度 公開臨海実習 - 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
2010 年度 公開臨海実習
(海洋生態学コース) テキスト
2010年
2010年8月5日〜8
日〜8月13日
13日
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所
1
【スケジュール】
8 月 5 日(木) 18:00 集合(宿泊所食堂)、夕食、ガイダンス
8 月 6 日(金) 海洋観測実習
8 月 7 日(土) 海鳥・海獣の行動観察
8 月 8 日(日) 沿岸生態系の長期変動の解析(「モニタリングサイト 1000」)
8 月 9 日(月) アマモ場の生物群集
8 月 10 日(火) ヤドカリの行動生態学
8 月 11 日(水) 自由研究
8 月 12 日(木) 自由研究まとめ、発表、大掃除、懇親会
8 月 13 日(金) 朝食後解散
注:実習予定は、海況・気象条件に応じて大幅な変更がありうる。
注:各日の実習項目のガイダンスは原則として前日の夕方に行う(2Fの黒板に指示する)。
【厚岸湾における干潮時刻と潮位】
日付
干潮時刻
潮位(cm)
8 月 6 日(金)
6:20
27
8 月 7 日(土)
7:20
20
8 月 8 日(日)
8:08
15
8 月 9 日(月)
8:49
13
8 月 10 日(火)
9:25
14
8 月 11 日(水)
9:59
17
8 月 12 日(木)
10:30
24
2
【実習およびレポートについて】
1:実習は原則として 2~3 人で1班となって行う。レポートは各日の項目それぞれについて、各班で
1つを提出する。レポートの分担方法は各班で相談して決めること。
2:レポートの〆切は 8 月 31 日
提出方法は下記のいずれかにする
a)
電子メールの添付書類として送信(email: [email protected]、メールのタイトル
は「公開臨海実習レポート_氏名」とすること)]
b)
郵送(〒088-1113 北海道厚岸郡厚岸町愛冠 北海道大学北方生物圏フィールド科学
センター厚岸臨海実験所 仲岡雅裕宛)
【スタッフ】
仲岡 雅裕 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・教授)
鎌内 光宏 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・博士研究員)
渡辺 健太郎 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・学術研究員)
【実習生】
氏名
所属
学年
山本 茜
筑波大学
1
仲田 顕識
東京海洋大学
1
平野 晴野
東京海洋大学
1
辺見 智佳子
東京海洋大学
1
糠信 元太郎
東京海洋大学
2
松島 里穂子
東京海洋大学
2
前田 陽一
東京海洋大学
3
中郡 翔太郎
帯広畜産大学
1
小牧 春菜
帯広畜産大学
3
松下 美紅
帯広畜産大学
1
百田 恭輔
北海道大学
4
3
班
1: 海洋観測実習
本実習では、海洋環境の基礎的な観測方法を学ぶ。厚岸湾の定点において、船上から
以下のような気象、海洋観測作業を行う。
1. 位置観測-天体観測、海図の見方
2. 気象観測-天候、雲量、風向、風力
3. 測深
4. 水質-透明度、水温、塩分、溶存酸素、クロロフィルa
5. 水中照度
6. プランクトン採集-動物プランクトン定量
7. 採泥-泥温、粒度分析、ベントス定量
【準備するもの】
記録用紙とクリップボード、鉛筆、時計、海図、観測表、コンパス、六分儀、ロープ、錘、表面水採
水用バケツ、棒状温度計、透明度板、STメーター、酸素瓶、サイフォン、固定液(A,B)、500ml 瓶、
光量子計、プランクトンネット、採集用瓶、ホルマリン、スミス・マッキンタイヤー型採泥器、篩(1mm メ
ッシュ)、ビニール袋、輪ゴム
【溶存酸素量の定量方法】
大気と直接接している水は、水温と塩分によって決まる一定量の酸素を溶解する。海水中の溶存
酸素は、一般に表面で飽和し、深さとともに減少するが、ある深さで極小となる。表面に近いところ
ではしばしば過飽和になる。これは特に寒流系の海に多い。
ウインクラー法 Winkler Method
原理:
一定量の試水に塩化マンガン水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を加えて水酸化マンガン
の沈殿を作る。
Mn+++20H-→Mn(OH)2↓ コロイド状白色沈殿
このとき、水中に溶けている酸素により水酸化マンガンの一部が酸化される。
Mn(OH)2+1/2O2 →MnO(OH)2↓ かっ色沈殿
これにヨウ化カリウムと塩酸とを加えると、酸化されていたマンガンイオンは酸性においてヨウ
化カリウムによって還元され、ヨウ素を遊離する。
4
MnO(OH)2+2I-+4H+→Mn+++I2+3H2O
この遊離したヨウ素を、濃度のわかっているチオ硫酸ナトリウムの水溶液で滴定すれば、間接
的に酸素量が求められる。
I2+2S2O3--→2I-+S4O6-結局、チオ硫酸ナトリウムの1ノルマルは、酸素の1/4分子すなわち酸素の1/2原子に相当す
る。 これを実際に行なうには、現場で試水に塩化マンガン水溶液と、ヨウ化カリウムー水酸化
ナトリウム混液を順々に加えて溶在液素と反応させておき(これを酸素の固定という)後に塩酸
酸性にしてヨウ素を遊離させ、それをチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定すればよい。
器具・試薬
1) 必要な器具
自動ビュレット、ビーカー250ml、ピペット、採水サイフォン、酵素びん(共栓びんの栓を斜
めに切り下げてすり合わせをよくしたもので、普通の試薬びんと違ってなで肩である。び
んの胴および栓には共番号が刻んである。 容量は約100ml。内容量を精密に量って胴
体に記載してある)。
2) 試薬
1: 塩化マンガン水溶液
塩化マンガン(MnCl2・4H2O 特級)200gを蒸留水500mlに溶かし、これに純濃塩酸2
mlを加えておく。
2: ヨウ化カリウムー水酸化ナトリウム混液
500mlの蒸留水に180gの純水酸化ナトリウムを溶かし、これに純粋なヨウ化カリウム50
gを溶かす。
3: 6N塩酸
純濃塩酸(約12N)を2倍に薄めて作る。Prepare 6N HCl
4: でんぷん溶液
でんぷん1gを少量の水で練って均等なかゆ状にし、100mlの沸騰蒸留水の中に注加
してよくかき回し、透明になるまで煮る。冷えてからびんに入れる。加える量は1mlで
十分である。
5: N/10ヨウ素酸カリウム標準液
3.567gの純ヨウ素酸カリウム(KIO3)を蒸留水に溶かして全体を正確に1lにすればよ
い。これを原液としてかっ色びんに入れ、なるべく冷暗所にたくわえる。
6: チオ硫酸ナトリウム水溶液
5
純チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)約2.5gを新たに沸騰した後、冷却した蒸留水に溶か
して約1lとすれば、だいたいN/100 チオ硫酸ナトリウム水溶液となる。これに安定剤と
して炭酸ナトリウムを少量(0.1gくらい)加えておく。この溶液は24時間以上放置後、
正確な濃度をヨウ素酸カリウム標準液で標定する。たとえば、N/100ヨウ素酸カリウム
水溶液10mlを滴定するのに、チオ硫酸ナトリウム水溶液9.85mlを要したとすれば、チ
オ硫酸ナトリウムの濃度は
N/100×f=N/100×10.00/9.85=N/100×1.02
となる。この濃度に掛かった係数(この場合は1.02)がチオ硫酸ナトリウムの濃度更正
値である。
測定法
1) 溶存酸素の固定
酸素の定量は採水現場で行なう。試水は、外気に触れたり水温が変わらないように注意し、
採水器が海中から上がったらなるべくはやく酸素用の採水をする。それには採水器の水の出
口に採水用ゴム管をはめ、コックを用いて試水を酸素びん中に注入する。1/4ほど注入してせ
んをしてからよく振ってびんを洗い、試水を捨てる。これを2回くり返した後、ビニール管の先
端をびんの底近くに入れ、ゴム管を軽く指で押えて試水を注加し、満水にした後、1/3ぐらい余
分に加えてあふれ出させながら静かにビニール管を抜き去る。ビニール管は常にびんの水面
下に入れて採水しなければならない。また、採水器の外壁に付着している海水が混入しない
ように注意する。もし途中で気ほうが混入したら、酸素びんの採水をやり直す。
以上は採水器からの採水であるが、海面海水から採水するには、海面採水用バケツの中
に、採水した海水からサイフォンを使って酸素びんに採ればよい。試水が満たされたら、直ち
に塩化マンガン水溶液およびヨウ化カリウムー水酸化ナトリウム混液を順々にピペットを用い
て、0.5mlずつ静かに注入する。注入の際には、ピペットの先端が液面下にあればよい。ことさ
ら液中に差し込む必要はない。このときもピペットから気ほうを入れないように注意する。これら
の試薬は重いから底に沈み、合計1.0mlの試水がびんよりあふれ出たことになる。そこで直ち
にせんをし、気ほうの存在しないことを確かめた後、せんをしっかり指で押えて約30回びんを
上下に転倒して、沈殿と水とをよく混合させる。その後、水温のあまり変化しない暗所に静置し、
沈殿を全部びんの底へ沈降させる。溶存酸素が多量にあれば沈殿の色はかっ色になり、酸
素があまり溶解していないときは白色に近いから、沈殿の色でだいたいの見当がつく。
以上で酸素の固定を終わり、次に分析に移る。
2) 固定後1時間~数時間内に滴定する。あまり早く滴定したり、また長時間放置したものを滴
定しては正しい値が得られない。
まず、分析用の器具と試薬を準備する。酸素びんの番号を野帳と照合してから栓を取り、上
澄み液を5mlぐらいガラス棒に沿わせ、ビーカー中にあける。次に6N塩酸3mlを駒込ピペット
で酸素びん中に注加し、ガラス棒をびんの中に差し込んで軽くかき混ぜて沈殿を完全に溶か
6
す。液はヨウ素が遊離するため薄い紅茶のような色になるから、これをガラス棒に沿わせてフ
ラスコ中に注意して入れ、酸素びんには蒸留水を半分ほど入れ、栓をしてよく振り、洗液も同
じフラスコにあける。次に、フラスコの内容をスターラーでかき混ぜながら、N/100チオ硫酸ナト
リウム水溶液をビュレットから滴下し、ヨウ素の色がごく淡い黄色になったときにでんぷん溶液1
mlを加えると試水が青色を呈するから、さらに滴定を続け、最後の半滴で青色が消える点を
終点として、チオ硫酸ナトリウムの消費量を読み取る。
なお、滴定終点に達して、ヨウ素-でんぷんの青色が消えてからまた次第に青くなってゆく
のは、ヨウ化物が空気中の酸素によって酸化されてヨウ素が析出するためと考えられるから、
これは滴定する必要はない。
また、もしチオ硫酸ナトリウム水溶液を滴下しすぎて液が無色となったら、N/100ヨウ素酸カリ
ウム水溶液またはN/100ヨウ素水溶液0.5mlをメスピペットで採って加え、再び青色になった液
を滴定する。もちろん、このとき加えたN/100標準液0.5mlに相当するチオ硫酸ナトリウムの容
量を滴定値から差し引かなければならない。
計算法
N/100チオ硫酸ナトリウム水溶液の1mlは
32(O2の分子量)/4×1/100=0.08mg
の酸素に相当する。これはまた0℃、1気圧の下において0.05597mlのO2に相当する。
酸素びんの容積をVml,消費したN/100×fチオ硫酸ナトリウム水溶液をnmlとすれば、試水1l
中の酸素量は
0.08×n×f×1000/(V-1) mg
あるいは、0.05597×n×f×1000/(V-1)=55.97/(V-1)×f×n ml(0℃、1気圧)で与えられる。溶存酸
素の表現法としては後者(ml/l)を使用している。Vから1を減じてあるのは、試水Vmlから注加
した塩化マンガン水溶液およびヨウ化カリウム-水酸化ナトリウム混液の合計量に相当する1
mlだけがあふれでるからである。Vmlの値は各酸素びんによって一定だから、各びんごとの定
数[55.97/(V-1)]をあらかじめ計算しておく(これを酸素びん係数という)。そうすれば、チオ硫
酸ナトリウム水溶液の読み取り値にビュレットの器差更正をした値nに濃度の更正値fを乗じ、
酸素びん係数をかけて酸素量を求めることができる。
酸素の飽和度
酸素が海水に溶けて飽和する量は圧力・水温・塩素量によって異なるが、1気圧の下で
種々の塩素量の海水1lに対し、種々の水温のもとで溶解できる酸素の飽和量を標準状態に
換 算 し た も の を 酸 素 飽 和 量 と い い 、 O2 ml/l で 表 す 。 飽 和 量 に つ い て は ヤ コ ブ セ ン
(J.P.Jacobsen)およびフォックス(C.I.J.Fox)の実験式があるが、海洋観測では、フォックスのも
のを使用している。
フォックスの式
7
O2 ml/l=10.291-0.2809t+0.006009t2-0.000063t3-CI(0.1161-0.003922t+0.0000631t2)
tは水温(℃)、CIは塩素量 ppmを示す。
この式により水温0℃から30℃の範囲で、水温の1℃ごとに塩素量の0ptmから20ptm まで
のものに対して各飽和量を算出してある(常用表第16表)この酸素飽和量で実際その海水中
に溶存している酸素量を除して100倍にしたもの、すなわち
O2 ml(測定した海水中の酸素量)/O2 ml(FOX式から求めた酸素量)×100
を試水の酸素飽和度という。
【クロロフィルaの定量】
今回は蛍光光度計を用いた定量法(Welschmeyer 法)により定量を行う。有機溶媒にはヂメチルホ
ルムアミド(2-4-4 dimethylholmamid (DMF))を用いる
1. メスシリンダーでよく攪拌した一定量(今回は50ml)の海水をとり、グラスファイバーフィルター
(GF/C)で濾過する。
2. フィルター上に残った植物プランクトンをフィルターと共にザルステッドチューブに入れ、6mlの
ヂメチルホルムアミドを加え、暗所に常温で1時間以上保存する。(注:ヂメチルホルドアミドは、
有害なので皮膚等につけないように十分注意する。廃液は、廃液入れに保存し、使ったチップ
や紙等の廃棄物は、ビニール袋に入れて焼却する。)
3. ザルステッドチューブのヂメチルホルムアミドをターナー蛍光光度計用チューブセルに入れ、光
度計で測定する(F0)。
4. ブランクとして、ジメチルホルムアミドを入れたチューブセルの値を測定する(0点)。
5. クロロフィル濃度の計算方法は、次のとおり。
Chlorophyll a (mg/m3)=(F0-0点)*v/V*1.066
v: クロロフィル抽出に用いた有機溶媒量(ml), V: 濾過した水の量(ml)
【溶存酸素と植物プランクトンの変動】
1. 水中の溶存酸素は、多くの物理的・生物的な要因によって変動する。まず、空気中から物理拡
散によって酸素は海水中に溶け込む。波などによる撹乱は、この過程を促進する。表面から溶
け込んだ酸素は、物理的な拡散によってより深い層の海水中にもたらされる。このときに、拡散
の速度は、流れの存在や上下混合の速度(温度・塩分によって主に規定されている)によって
大きく変化する。
2. 植物プランクトンや海草・海藻も、光の存在下で光合成を行って酸素を放出する。この酸素は
海水中に溶け込む。一方、動物プランクトンやベントス・魚類などは呼吸によって酸素を消費す
る。また、すべての生物の死骸は、バクテリアによって分解されるが、その時に酸素を消費する。
水中に懸濁している有機物はやがて海底に沈降堆積するため、海底における酸素消費は最も
大きい。
8
3. 植物プランクトンの生産は、光と栄養塩濃度に大きく支配されている。光は常に上方から入って
くる。表面から入った光は、水中に入って明るさを減じる。その減少のしかたは、
I = I0 e-kD (Lambert-Beerの公式)
で表される。I0は、水面における照度、Iは、水深D(m)における照度を表す。kを吸光係数と呼び、
I0が一定のときには、log IとDとは直線関係になる。kは、純水では0.039であるが、海水中では溶
存物質や浮遊物質、プランクトンなどによる吸光・散乱によって増加し、沿岸で0.15-0.3くらいと
なる。
4. 以上のことを考えて、測定結果を考察すること。
【底質粒度分析】
ベントスは海底の堆積物の性質にその生活を大きく依存している。そのために、海底堆積物の
特性として、粒度組成を分析することが一般に行われている。粒度分析には、タイラー型標準篩
(2mm, 1mm, 0.5mm, 0.25mm, 0.125mm, 0.063mm)を使用する。堆積物を乾燥させた後、篩を通し
秤量する。
分析手順:堆積物を100g程度とり、重量を測ったのち、篩に通す。各篩に残った堆積物の重量
を測定する。全体の重量に対する各画分の割合を頻度分布で表す。粒度は、粒度 Ф=-log2(粒
径;mm)で表す。つまり、1mm は Ф=0。
粒径(mm)
Ф
Name
2
-1
>2mm: Granule
1
0
1-2mm: Very coarse sand
0.5
1
0.5-1mm: Coarse sand
0.25
2
0.25-0.5mm: Medium sand
0.125
3
0.125-0.25mm: Fine sand
0.063
4
0.063-0.125mm: Very fine sand
<0.063: Silt-clay
9
【天候・雲量・風力・風向の測定】
天候:快晴、晴れ、曇り、霧、雨、雪、その他
雲量:0-9
風向・風力:風向・風力計を用いて測定する。無い場合は、風力階級表(下記参照)から目視によ
って決定する。
10
11
2: 海鳥類の行動観察
厚岸湾内の無人島、大黒島において、オオセグロカモメのコロニーについて、一定時間
行動を観察、記録し、個体、家族の行動の時間配分とその意味について考える。
【準備するもの】
記録用紙とクリップボード、鉛筆、双眼鏡、時計、ストップウオッチ、
服装:ズボン、靴、手袋、
【観察とまとめ】
各班ごとに1-2のファミリーを決め、ファミリー全員の個体を識別し、設定された時間におこる行
動学的な出来事をすべて観察記録する。その他、参考になるようなものがあれば、それらについて
も記録しておく。
そのフィールドノートから、特定のテーマについてまとめて、考察を行なう。まとめるテーマについ
ては、当日指示する。
12
13
3: 沿岸生態系の長期変動のモニタリング
一口に海洋といってもその範囲は広い.海洋生物群集と海洋生態系は,陸域からの距離
(沿岸および外洋),水深(浅海および深海),あるいは生物の生活型(プランクトン,ネ
クトン,ベントス)を基準に,さまざまな形で分類されており,その生態学的特性や環境
から受ける影響も大きく異なっている.海洋において沿岸域が占める割合は 8%以下とわず
かであるが,ここには,藻場,サンゴ礁,マングローブなど,生産性と生物多様性の高い
生物群集が存在し,人間活動との関わりも大きい。
人間の経済活動は,野生生物の乱獲,水質の化学的汚染,生息場所の物理的な開発,外
来種の侵入、地球規模の気候変動などさまざまな影響を海洋生態系に与えている。これら
の影響を正確に評価して、海洋生物や生態系の変化を予測するためには、何よりもまず,野外
モニタリングによる長期データの集積が必要である.
環境省は、
「モニタリングサイト 1000」と呼ばれるプログラムにより、沿岸域を含む日本
の重要な生態系の長期モニタリングに取り組んでいる。沿岸域では、干潟、アマモ場、磯、
海藻藻場を対象に、主要な海洋生物を対象とした定量的なモニタリングが行われている。
調査地点は、北海道から南西諸島に至る日本各地の主要な海域を網羅するように設けられ
ている。調査方法は、国際的に標準的にな方法を採用することにより、沿岸海域の生物多
様性および生態系の変動について、日本国内だけでなく国際的な比較も可能にし、広域的
な要因解析を実現することを目指している。
本実習では、岩礁潮間帯のモニタリングサイト 1000 の調査地(浜中町藻散布)で、実際の野外
観測に参加することにより、長期かつ広域にわたる生態系・生物多様性観測の進め方を学ぶ。また、
実際の長期観測で得られたデータを入力、解析することにより、群集の種多様性の空間変異と変
動様式について基礎的な理解を深める。
【準備するもの】
長靴、雨具、記録用紙とクリップボード、筆記用具、採集用品(スクレーパー、磯ガネ、ピンセット
等)、バケツ、ポリ袋
【野外調査】
1: 早朝の干潮時間に合わせて藻散布の磯に行く。ここでは、「モニタリングサイト 1000」沿岸域磯
調査のために設定された 30 の調査点があり、毎年、生物群集の構成と被度のデータが取られてい
る。
2: 今回は、調査点に出現する海藻、固着動物(フジツボやイソギンチャクなど)、移動性動物(巻
貝類やヒトデなど)の種名と数(被度)を記録する。実習生は、調査担当の専門家について、記録
14
係を担当する。また、デジタルカメラで調査区の写真を撮影する。
3:各場所の環境条件について気がつくことを各自記録する(岩質、傾斜、凸凹度、波あたり、日当
たり、水温・気温・岩温、捕食者の密度 etc.)。特に数値データとして記録する必要はないが、レポ
ート作成時に環境間の変異を考察できるようにすること。
【種多様性の解析】 →詳細は補足資料を参照
各調査区で得られたデータから、次の変数を求め、環境の異なる調査区間で比較してみる。
1:種数(種の豊富さ、species richness): 一定の面積(50cm×50cm)に出現する種の総数
2:多様度指数(diversity index): Simpson の多様度指数を利用する
3:群集の類似度(意欲がある人向け)
15
4:アマモ場の生物群集
海の潮間帯から潮下帯に生息する大型植物(海藻や海草)が主体となった景観的なまとまり
を「藻場」と呼ぶ。藻場のうち、種子植物である海草類(アマモなど)が主体となるものは「アマ
モ場(Seagrass bed)と呼ばれる。アマモ場には多様な動物が生息し、その現存量も大きい。動
物各種はアマモ場を生息空間、餌場、隠れ家、産卵場所などさまざまな用途で利用しており、
その結果、複雑な種間相互作用が成立している。
本実習では、環境の異なる厚岸湖・厚岸湾のアマモ場において、同じ方法を用いてアマモ場の
動物を採集する。その生物量と種多様性を計測・比較することにより、アマモ場の生物群集のなり
たちと変動様式を理解する。
【準備するもの】
野外:方形枠、スコップ、大型の篩、ポリ袋、ホルマリン、持ち運び用バケツ、ポリ袋、記録用紙
(耐水性のものがよい)、そりネット、氷を入れたバケツ、篩 (1 mm メッシュ)、GPS
実験室:トレイ、小型の篩、ピンセット、シャーレ、濾紙、電子天秤
データ解析:電卓、ノートパソコン
【野外調査】
1. 午前中に小型ボート(船外機)および車に分乗して、厚岸湖南岸、および厚岸湾東岸のアマモ
場に行く。各班がどちらのアマモ場を担当するかは事前に決めておく。現地では、それぞれ3
人ずつボートに乗って、そりネットでアマモ場の動物を採集する。
2. 船を待っている間にアマモ場の干潟部分のアマモ類を観察する。詳しい説明は現地で行う。
3. 実験室に戻った後、ソーティングを行い、生物を分類群ごとに分け、個体数を数えると
共に湿重量を測る。分類群への同定は、図鑑などを用いて、外部形態でわかるところま
で行う。
4. 得られたデータを下に、アマモ場の動物の種多様性や生物量の変異を統計的に解析する
(別紙資料を参照のこと)
。
5. もし時間に余裕があったら、代表的な魚類やエビ類について、解剖して胃内容物を調べ
てみる。それを元に、アマモ場における食物網を図に表してみる。
6. 以上の結果をもとに、アマモ場の生物多様性および食物網構造がどのような要因に影響され
て決まっているかについて考察する。
16
5: テナガホンヤドカリの行動観察と実験
動物の行動は、多くの場合、資源の獲得や防衛に関係している。本実習ではテナガホンヤドカリ
を用いて、貝殻選択行動と個体間関係を観察する。
【準備するもの】
テナガホンヤドカリ、クロタマキビの貝殻、バット、ノート、鉛筆、時計、ストップウォッチ
【実験方法:貝殻選択実験】
1. バットに大きさの異なるクロタマキビの貝殻を50個入れた後で、バットの深さの2/3程度の深さ
になるように、海水を入れる。気泡が入って浮き上がっている貝殻があれば、その貝殻を水中で
細かく振って気泡を抜く。貝殻がバットの縁付近にもまんべんなく散らばるように配置を調整す
る。
2. あらかじめ飼育していたヤドカリを1個体、飼育時の海水とともに入れて、行動を1時間観察して、
ヤドカリが貝殻の引っ越しをした時間を記録する。貝殻の引っ越し後に、もともと背負っていた
旧居の貝殻を手放したら、ヤドカリを驚かせないように注意しながら、ピンセットでそっと旧居の
貝殻を取り出し、サイズを測定して、もとの場所に戻す。貝殻の引っ越しをするたびに同じ作業
を繰り返す。
3. 観察を終えるときに、ヤドカリをバットから取り出して、観察終了時に背負っていた貝殻のサイズ
を測定する。
【実験方法:個体間関係】
1. ヤドカリを5個体用意して、個別の容器に入れ、体の大きさ、触覚、貝殻の特徴などに基づいて
個体識別する(各個体はこれまでお互いに接触したことがないものの組み合わせになるように、
異なる水槽から取り出す)。5個体のうち1個体については、背負っている貝殻を万力で丁寧に
割る。貝殻を割ってから最低でも10分間は個別に静置して、その間に個体識別の練習を心が
ける。5個体全てに馴染みのある名前をつけるとよい。
2. バットに海水を入れた後で、ヤドカリ5個体を個別飼育時の海水とともに入れて、行動を観察す
る(最長30分×2セット)。
3. 2個体が遭遇した場合の結果をノートに記録し、すべての個体同士が最低5回遭遇するまで観
察する。
4. 観察終了後に5個体のサイズと各個体の貝殻のサイズを測定して、雌雄を判別する。
5. 行動の結果を、表にまとめた後で、サイズや性と対応させて、各個体が相手に対してどのような
行動戦略をとっているかを、この結果から考察する。例えば、戦略(1):自分より大きい個体に
対しては常に逃げる、相手が自分より小さいと思った場合は攻撃する。戦略(2):自分より小さ
い個体に対しては常に逃げる、相手が自分より大きいと思った場合は攻撃する。戦略(3):相手
17
の大きさにかかわらず、常に攻撃する、もしくは逃げる。戦略(4):相手が異性の場合は攻撃し
ないが、同性の場合は攻撃する。戦略(5):常に平和を求める。戦略(6):・・・・・
6. 時間の余裕がある人は、以上の結果と推論から、ヤドカリの行動を説明するための実験を自由
に計画して、実験を行なってみてもよい。
【補足説明】
資源とは生物の生存や繁殖に必要だが無制限に獲得することができないものを指す。人間と同
様に、動物の資源選択方法は様々である。例えば、資源選択に際して何らかの基準を設けて、基
準をクリアした資源だけを獲得する場合もあれば、複数の資源のなかで最良のものを選ぶ場合もあ
る。動物の記憶力や認知能力は限られているため、実行可能な選択方法も制限される。また、空
腹な人と満腹な人、薄着の人と厚着の人で振る舞いが異なるように、動物の行動は獲得できた(あ
るいは現在所有している)資源によって影響を受ける。
ヤドカリは巻貝の貝殻を背負って生活するユニークな甲殻類である。ヤドカリにとって宿貝は重要
な資源であり、宿貝の種類やサイズはヤドカリの成長、生存、繁殖に大きな影響を与える。例えば、
小さすぎる貝殻を背負ったヤドカリでは、成長率が低下すると同時に、乾燥等のストレスに対する
耐性も低下する。また、貝殻の種類(巻貝の種)によって、捕食者に対する防御力が変化する。
18
6: 公開臨海実習 海洋生態学自由研究
自由研究のテーマを決める上で注意すること:
・
時間と道具を検討して、できるかどうかよく考えて行う。とくに、干潮の時間と潮位に注意(小潮
なのであまり引かない)。
・
場所はどこでするか。アクセスが可能かどうか。交通手段も考慮する。
・
データのまとめの時間も予定する。
自由研究のために利用できる施設および機器:
・
船(みさご丸・えとぴりか・カヤック・カナディアンカヌー・ゴムボート)
・
実習室(秤、顕微鏡、実体顕微鏡、観察用拡大型テレビ・ビデオ、図鑑、飼育施設)
・
採集観測用具(プランクトンネット、採水器、針金枠、海老漕ぎ用網、採泥器、塩分・温度メータ
ー、かご型トラップ、冷凍サンマ)
・
係留用具(ボンデン、ロープ、アンカーなど)
・
計測機器など(プロミナー、三脚、折尺、ノギス、酸素瓶、酸素滴定装置、水中照度計、ターナ
ー蛍光光度計、カウンター、ふるい、ストップウオッチ)
・
データ整理用(パソコン、OHP 用紙、コピー機)
・
交通手段(スタッフに個人的に車を貸してくれるか頼んでみる)
※なんでもスタッフに相談してみること
自由研究の発表を行うための注意点:
・
各班15分(時間厳守)
・
図表は OHP を利用できる。用紙は各班で2枚以内にまとめる(1 枚目にタイトル、目的、方法。
2 枚目が結果と考察)。
・
議論は活発に。
19
Fly UP