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学術コーナー 「バリデサポート試薬」について

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学術コーナー 「バリデサポート試薬」について
◇
学術コーナー
◇
「バリデサポート試薬」について
和光純薬工業株式会社
臨床検査試薬
学術部
はじめに
臨床検査データの精度保証や国際的な標準化を進めるためには、検査室で使用している測
定法のバリデーションを確認し、明確化することが今後は必要と考えられています。ISO
1)
の認定プログラムにおきましても
15
189「臨床検査室―品質と能力に関する特定要求事項」
測定法のバリデーションは、重要な位置を占めていることは言うまでもありません。そこで
弊社も精度保証の観点に注力し、試薬メーカーとしての役割を果たすべく、日本臨床化学会
2)
に準じて、
クオリティマネジメント委員会での「定量測定法に関するバリデーション指針」
測定法(項目)ごとにバリデーションを確認し「バリデーション結果報告書」を2
0項目作成
しました。バリデーションを確認した試薬であることを位置付けするために「バリデサポー
ト試薬」とネーミングしました。
今回は、「バリデーション結果報告書」が具体的にどのような点に利用できるかを紹介し
ますので、バリデーションの各評価項目についての用語解説は、文献等2.6−8)に詳しく示され
ていますので、それらを参照にしていただけると幸いです。
バリデーション(妥当性確認)とは:
客観的証拠を提示することによって、特定の意図する用途又は適用に関する要求事項が満
たされていることを確認する3−4)。
バリデーションの目的:
定量測定法が意図した用途に合致し要求事項を満足する信頼性の高い結果が得られること
が保証されている必要がある。その妥当性を客観的な根拠を示し確認する。
一般的に測定法の信頼性は、トレーサビリティ連鎖に対する整合性が満足な場合に、信頼
性があると言えます。しかしながら臨床検査では測定環境、測定者の技量などが異なります
ので、それらを前提としたバリデーションが必要と考えられています。そこで日本臨床化学
2)
を示しまし
会クオリティマネジメント委員会が「定量測定法に関するバリデーション指針」
た。
測定法におけるバリデーションの具体的な評価項目には、
「特異度、真度、精度(併行精
度・室内再現精度・室間再現精度)
、検出限界、定量限界、直線性、範囲、頑健性、トレー
44
2)
サビリティ、不確かさ」
があり、バリデーションを確認するのはメーカーだけではなく、測
定法のベリフィケーション(検証)として検査室でもバリデーションを確認する必要があり
ます3−5)。そのためにも「バリデーション結果報告書」が必要不可欠なものとなると考えて
います。
バリデーション結果報告書
目次
・臨床的意義
・測定対象
・測定原理
・吸収曲線
・反応タイムコース
・検量線
・バリデーション結果
1.特異性、選択性(Specificity, Selectivity)
2.真度、正確さ(Trueness)
3.精度(Precision)
3―1.併行精度(Repeatability)
3―2.室内再現精度(Intermediate Precision)
3―3.室間再現精度(Reproducibility)
4.検出限界(Limit of Detection)と定量限界(Limit of Quantitation)
4―1.ブランク上限(LOB: Limit of Blank)
4―2.検出限界(LOD: Limit of Detection)
4―3.定量限界(LOQ: Limit of Quantitation)
5.直線性(Linearity)
6.範囲(Range)
7.頑健性(Robustness)
7―1.分析装置間差
7―2.開封後の安定性
7―3.試薬希釈による影響
7―4.試薬pHの影響
7―5.試薬保存安定性
7―6.試薬液量比の影響
7―7.反応温度の影響
8.トレーサビリティ(Traceability)と不確かさ(Uncertainty)
45
8―1.トレーサビリティ
8―2.不確かさ
・クロスコンタミ
・試薬の種類、標準試料、QC試料、およびそれらの調製方法
1.バリデーション結果報告書
弊社で作成しましたバリデーション結果報告書は、バリデーション確認の結果データだけ
ではなく、測定法(項目)ごとに臨床的意義、測定原理、反応タイムコース、吸収曲線、ク
ロスコンタミなどの情報も追加をしています。
日常検査を行なっている場合、遭遇するいくつかの異常事例があるかと思います。たとえ
ば管理血清がいつも通りの測定値が出ない、ばらつく、マイナス値になる検体がある、関連
項目との不一致検体があるなどいろいろあるかと思います。特に最近、薬物などの影響は、
測定法によって影響度合いが異なり、注意が必要となっています。
それらの要因を特定する上で、試薬の基本的な特性、性能などを理解することでスムーズ
な対応に繋げられると考えられます。基本的な確認事項は、反応タイムコースが最適なもの
となります。反応タイムコースを確認し、異常事例を見つけられることは少なくありませ
ん。正常な反応タイムコースパターン(図1)を把握することで、異常を見極めできますの
で、報告書には正常な反応タイムコースを記載しています。また、吸収曲線(図2)
、クロ
スコンタミ情報なども記載をしていますので有効な情報と考えています。
図1
反応タイムコース(LタイプワコーALP・J2)
46
図2 吸収曲線(LタイプワコーTP)
2.頑健性(または堅牢性)
バリデーションの評価項目の中に「頑健性」とあります。これは、あまり知られていない
用語と思います。頑健性は、
「測定法の条件を小さい範囲で故意に変動させた時、測定値が
2)
と
影響を受けにくい能力のことであり、通常の状態における測定法の信頼性の指標となる」
なっています。
測定値は分析装置、試薬、キャリブレーターでの測定システムで結果を出していますが、
分析装置による何らかの要因で期待した結果が得られないことがあるかと思います。その場
合、この頑健性のデータを参考にすると、ある程度の絞込みができ、解決の糸口になること
があります。
測定法によっては、緩衝液のpHが変動しやすいもの(開栓)
、また反応セル内に洗浄液が
残った場合、又は試薬ノズルに洗浄水が付着し反応液が見かけ上希釈され変動しやすいもの
などがあります。それ以外にも要因はありますが、変動の程度は要因ごと、測定法ごとにも
影響の度合いが異なりますので、不良な項目のデータを解析するときに共通条件を探すにも
有用な情報と考えます。
試薬のpHの変化(LD、γGT)
試薬のpHの影響を確認するためにR1及びR2、各々pHを±0.
1変化させた試薬を作製し確
認していますが、状況に応じてその幅を広げて確認する場合があります。
ここではLD、γGTでの事例で説明をします。R1のpHを変化させるとLDは酸性側で感度
が低くなり、またアルカリ性側では感度が高くなります。酵素キャリブレーター(ヒト赤血
球)とヒト血清、管理血清(ニワトリ心)と同様な挙動を示す場合には、pHが変動したと
してもキャリブレーションを行なうことで改善します。
しかし、γGTのように管理血清の添加成分(ウシ腎)によっては、酵素キャリブレーター
(ヒト肝組換)及びヒト血清と同様な挙動を示さない場合があります。この場合、キャリブ
レーションを行なっても改善しないことになりますので、使用する管理血清の添加成分を把
47
握していることが重要と言えます。
LD
図3
γGT
R1のpH変化に対する試料ごとの感度変化
3.特異性、選択性
患者検体に共存する可能性のある物質、あるいは反応系に影響を与える可能性のある干渉
物質としてビリルビン、乳び、溶血、抗凝固剤、薬物などがあります11−12)。これらは、測定
原理法が仮に同じであっても影響度合いが異なりますので、使用試薬での影響度合いを把握
する必要があります。
下記に2例の薬物の影響を紹介します。
・薬物の影響(ドブタミン)
:クレアチニン
ドブタミンは、合成カテコールアミンとして急性循環不全改善剤として利用されていま
す。これらカテコールアミン類は構造が過酸化水素―POD反応系に用いる発色剤と類似し
ていることもあり、生成した過酸化水素と反応し負誤差となります9−10)。特にクレアチニン
では測定感度が低いこともあり、影響を受ける度合いが大きいことになります。
48
図4
・薬物の影響(アカルボース)
:アミラーゼ
アカルボースは糖尿病の食後過血糖改善剤でα―グルコシダーゼやα―アミラーゼの阻害剤
として働きます。アミラーゼの測定法は現在JSCC標準化対応法が多くなっていますが、使
用している基質は多種多様であります。共役酵素(α―グルコシダーゼ)の添加量もそれら
の測定系に応じて異なっていますので、阻害率も変化することになります。弊社アミラーゼ
の測定法は、BG5PNP基質を用いていますが、負誤差となります。
図5
4.まとめ
測定法のバリデーションを確認することで検査データの信頼性の向上に繋げられ、維持管
理する場合にでも必要なことと考えています。ローテーションなどで生化学検査の業務経験
が少ない技師の方、また新人教育などにも
「バリデーション結果報告」
を利用していただき、
試薬の基本的特性、性能を把握することで、迅速、的確な臨床医へ信頼ある結果報告が可能
になるものと考えています。
1)ISO 15
189: 20
0
7. Medical laboratories ― Particular requirements for quality and competence.
49
2)日本臨床化学会クオリティマネジメント専門委員会:定量測定法に関するバリデーショ
5
7、2
0
1
1
ン指針、臨床化学、4
0:14
9―1
3)ISO9000:20
0
0. Quality management system ― Fundamentals and vocabulary.
4)JIS Q200
0:20
0
0. 品質マネジメントシステム―基本及び用語.
5)NATA Technical Note 17: Guidelines for the validation and verification of chemical
test methods,20
0
9
6)日本化学試験所認定機構テクニカルノート¼:試験法に関する妥当性の評価:JCLA品
4(5)
、20
0
6
質システム文書 JCLA PR―2
7)薬審第338号:測定法バリデーションに関するテキスト(実施方法)について、1
9
9
7
8)日本薬局法解説書編集員会:1
4。分析法バリデーション。第十四改正 日本薬局法解説
3
1、2
0
0
1
書、廣川書店、F1
1
4―F1
9)花田寿郎:酵素法によるクレアチニン測定試薬におけるカテコールアミンの影響、臨床
化学、39¸:8
0、2
0
1
0
1
0)Amy K. Saenger, et al.: Catecholamine Interference in Enzymatic Creatinine Assays,
7
3
6,20
0
9
Clin Chem,55(9)
:1
7
3
2―1
11)細萱茂実:臨床検査の標準化・精度管理・基準値。臨床検査法提要 改訂第3
3版、金原
1
0
出版、1―30、20
002
12)NCCLS EP7―A: Interference testing in clinical chemistry; Approved guideline,2
50
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