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総合型地域密着スポーツクラブのすゝめ

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総合型地域密着スポーツクラブのすゝめ
「総合型地域密着スポーツクラブのすゝめ」
慶應義塾大学
経済新人会
マーケティング研究部
1
○目次
第0章
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第1章
消費者側の問題意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
第2章
1-1
スポーツのかたちの変化
1-2
地域におけるコミュニティの崩壊や教育力の低下
1-3
健康志向の高まり
スポーツクラブの現状分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2-1
スポーツクラブの市場規模
2-2
スポーツクラブをとりまく環境
2-3
都市型、郊外型の特徴
2-4
スポーツクラブの加入状況
2-5
スポーツクラブに対するニーズ
第3章
スポーツクラブ事業の成立要件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第4章
W.T の現状分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4-1
施設概要
4-2
サービス内容
4-3
利用者分析
4-4
競合分析
第5章
目標の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
第6章
政策提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
6-1
政策提言を述べるにあたり
6-2
健康測定器具の導入、カルテの作成
6-3
イベントの活性化
6-4
細かなサービス
第7章
最後に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第8章
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
2
第0章 はじめに
「日本人は不健康になっている」
。確かにそうかもしれません。昔と比べて、生活習慣
も不規則になっていますし、食生活も欧米型のものに変わってきています。健康志向も
高まり、世の中には様々な健康食品、サプリメントが溢れています。
「健康をお金で買う」。
こんな考え方が生まれつつあります。
「日本人はスポーツ文化を持っていない」。確かにそうかもしれません。欧米と比べま
すと、生活の中にスポーツは存在していません。あくまでも、教育の中にスポーツが存
在しているか、あるいはただ観戦する楽しみのためか。
「自分自身が自らスポーツを楽し
む」。この考え方はあまり一般的でないかもしれません。
「日本人は絆が薄くなっている」
。確かにそうかもしれません。平穏な日々に突然訪れ
る凶行。その悔恨として、
「地域で連携して、安全に配慮していれば・・・。」との声もあが
ります。しかし、その改善策は未だ明確には提示されていません。
これらの難題を解決するのは難しいように思われますが、決して不可能ではありませ
ん。今回、我々が出した回答は「スポーツクラブ」です。その根拠と提案をこれからの
論文で提示していきたいと思います。
この論文では、主体をある公共施設のスポーツクラブに置きます。その公共施設は、
あと5年で民間に売却されることが決まっています。今は黒字を出していますが、仮に
赤字に転じた場合、その機能が維持できるかは不透明です。
そこで、私たちは高い利益率を出し続け、現状で地域の人に愛されているその施設を
維持し続ける。それを目標にした論文を発表したいと思います。
さて、21 世紀型スポーツクラブのご案内です。
3
第1章 消費者側の問題意識
1-1
スポーツのかたちの変化
戦後の日本スポーツ界は「学校体育」と「企業スポーツ」が牽引役となって競技種目
の拡大、競技水準の向上が図られてきた。
しかし近年、人々のスポーツに対するニーズは多様化し、競技ばかりではなく楽しみ
やレクリエーション、あるいは健康増進の手段としてその価値が認められるようになっ
てきた。一方少子化による生徒数や教員数の減少(=部活動指導者の減少)、生徒の生
活の中での受験やアルバイトのための時間の増加などによる、運動部活動の停滞傾向も
見られた。また企業が社会経済の構造的な変化により、スポーツ支援を他の事業活動に
変更するなど、企業スポーツのあり方にも大きな変化が見られるようになってきた。つ
まり、子供・大人がスポーツに親しむ機会が減ってきており、また、単一種目型のスポ
ーツのかたちは、今の時代のニーズ・価値に追いつかなくなったのである。21世紀の、
多様化するニーズ、動機に応えられるシステム、環境が求められている。
1-2
地域におけるコミュニティの崩壊や教育力の低下
地域においては、核家族化や都市化などにより住民間の交流機会が減少し、コミュニ
ティの崩壊が見られる。子供は同年齢との遊びが主流で、異年齢間の交流が減少した。
また、子供の遊び場が屋外から屋内へという変化が顕著である。よって、今世代を超え、
地域住民間で交流する場が必要だと考えられる。
1-3
健康志向の高まり
ここ最近、消費者の健康志向が高まっている。テレビ番組の後押しによる健康志向の高
まりに加え、昨年 4 月に健康保険の本人負担がそれまでの 2 割から 3 割に引き上げられ
たことが、病気を未然に防ごうという意識の高まりにつながっている。消費者の健康を
サポートする機能性食品が相次いで市場に投入され、健康志向がブームになっているこ
とを裏付けている。また、フィットネス業界でシニア層の会員数が急増していることも、
健康志向の高まりによるものと考えられる。
4
第2章
2-1
スポーツクラブの現状分析
スポーツクラブの市場規模
表 1.市場規模の推移(単位:億円、%)
平成 12 年
平成 13 年
平成 14 年
平成 15 年
平成 16 年
売上高
3,648
3,648
3,575
3,675
3,796
伸び率
1.5
0.0
▲2.0
2.8
3.3
フィットネスビジネス編集部(http://www.cmnw.com/industry/trend/trend_2004.pdf)
スポーツクラブ市場は、14 年まで停滞したが、15 年から急回復した。原因としては、
既存店のリニューアルや 15 年以降の新規開店ラッシュがあると考えられている。だが、
今後も市場はゆるやかに伸びていくと思われる。
2-2
スポーツクラブを取り巻く環境
平成12年に「スポーツ振興基本計画」が文部大臣より告示された。本計画の掲げる
目標の一つに、平成13年度から概ね10年間で全国の各市町村において少なくともひ
とつは「総合型地域スポーツクラブ」を育成するというものがある。その特徴として、
① 単一のスポーツ種目だけでなく、複数の種目が用意されている。
② 子供から高齢者まで、初心者からトップレベルの競技者まで、地域の誰もが年齢、
興味、関心、技術・技能レベルなどに応じていつまでも活動ができる。
③ 活動拠点となる施設を持ち、定期的・継続的なスポーツ活動を行なうことができる。
④ 質の高い指導者の下、個々のニーズに応じたスポーツ指導が行われる。
⑤ スポーツ活動だけではなく、できれば文化的活動も準備されている。
表2:地域におけるスポーツ振興の効果
50
40
30
20
10
0
5
高齢者の生きがいづくり
地域コミュニティー活性化
家族の交流
子供の体力づくり
余暇時間の有効利用
世代間交流の促進
青少年の健全育成
スポーツ施設の有効利用
地域の健康水準の改善
その他
効果はない
分からない
2-3
都市型、郊外型の特徴
日本の繁盛クラブの収支構造には主に以下の二つのタイプがある。
*都市型:首都圏近郊駅前立地/延床面積 800 坪/会員数約 4,000 名
*郊外型:地方郊外ロードサイド立地/延床面積 600 坪/会員数約 3,000 名
共通点
●施設アイテム
ジム、スタジオ、プール、ロッカールーム、バスルーム、マッサージルーム
●料金体系
会員種別
入会金
月会費
個人会員
20,000 円
8~9,000 円
平日会員
10,000 円
5,500~6,000 円
家族会員
10,000 円
7~8,000 円
法人会員
30,000 円
20,000 円
表3
施設アイテムは都市型も郊外型もほとんど差はない。一方、料金体系に関しては郊外
のほうが若干安めだが、こちらも基本的には全国的に価格は変わらない。
相違点
項目
都市型
郊外型
敷地面積
400 坪
1,500 坪
初期出資(千円)
153,522
451,278
経常収入(千円)
434,430
290,503
費用(千円)
312,738
235,126
利益(千円)
121,692
55,378
表4
敷地面積に関しては、郊外型のほうが圧倒的に広い敷地を確保できることが分かる。ま
た、費用に関しても郊外型のほうが少なく済んでいる。しかしその一方で郊外型よりも
都市型のほうが初期出資、が安く済み、経常収入や利益も郊外型より高くなっているこ
とが分かる。
6
2-4
スポーツクラブの加入状況
SSF「スポーツライフ・データ」(2004)によると、わが国成人でスポーツクラブ
に加入している割合は 19.2%で、2割にも満たない状況だ。
(下図参照)
表 5 スポーツクラブの加入状況
全体
男性
女性
20歳台
30歳台
40歳台
50歳台
60歳台
70歳以上
0
20
40
60
80
100
加入者 加入経験者 未加入者
年代別にみると、加入者の割合は 20 歳代で 25.6%と最も高く、4 人に 1 人の割合で加
入していることがわかる。一方未加入者で 20 歳代~40 歳代が 5 割弱であるのに対し、50
歳代以降は年代が上がるにつれてその割合が高まっていることがわかる。
性別ごとにみると、スポーツクラブへの加入者は男性が 22.7%と女性の 15.9%を 6.8
ポイント上回っている。一方、未加入者では女性が 59.4%と男性の 52.4%を 7.0 ポイン
ト上回っている。
また、このグラフからわかることは、若年層での加入経験者の多さだ。これは、高齢
者層に比べて、若年層の退会率が高いことを意味すると考えられる。
実際に下の表6を見ると、若年層の退会率が高いことが裏付けられる。
表6:性別・年代別の月間平均退会率
~29 歳
30~39 歳
40~49 歳
50~59 歳
60~69 歳
70 歳~
男性
9.8
7.5
5.4
4.5
3.9
2.9
女性
11.3
7.9
5.7
5.3
4
2.6
7
このことから、
1.この若年層を手放さない工夫
2.同時に高齢者層を今後もリピーターとして定着させる工夫
が必要と考えられる。
また、スポーツクラブに現在加入していない者のうち、加入を希望するものは図4に
示すように4割を占めている。性別では女性が、年代別では 30 歳代、20 歳代の若年層の
割合が高いことがわかる。
このように表7を見ると若年層の加入希望者は多いのにもかかわらず、表6をみると
実際には若年層の退会率が最も高くなっている。これは加入しても実際に続かない、何
らかの理由があると考えられる。
表7 スポーツクラブへの加入希望・条件
全体
男性
女性
20歳台
30歳台
40歳台
50歳台
60歳台
70歳以上
0
20
40
加入したい
60
加入したくない
8
80
100
2-5
スポーツクラブに対するニーズ
ではどのような条件が整えば、スポーツクラブへの加入が促進されるだろうか。
表8.スポーツクラブの加入条件
順位
加入条件
割合
1
時間的に余裕ができれば
78.2
2
会費(入会金、月会費)が安くなれば
50.6
3
近くにスポーツクラブや同好会・チームがあれば
36.6
4
一緒に加入する仲間がいれば
31.3
5
健康に関する専門指導を受けることができれば
21.1
6
家族の理解が得られれば
14.8
7
家族みんなで入れるスポーツクラブや同好会・チームがあれば
14.1
スポーツ以外のプログラムが楽しめるスポーツクラブや同好会・チーム
8
があれば
11.5
9
スポーツの専門指導を受けることができれば
11
10
託児施設が利用できれば
8.2
11
複数の種目が実施できれば
5.7
12
その他
2
「時間的に余裕ができれば」が 78.2%と最も高く、次いで「会費(入会金、月会費)
が安くなれば」と続く。会費や身近なクラブの存在を条件にあげる者の割合は 2000~2004
年にかけていずれも増加傾向にある。
このようなニーズを受けて、実際のスポーツクラブは現在、特に以下のように展開し
ている。
1:早朝、深夜も使えるクラブ
しばらく前までは営業時間が午前 10 時から午後 10 時までというクラブばかりだっ
たのに対し、最近は早朝や深夜にも使えるクラブが多くなっている。実はこれは既に
アメリカではあたり前になってきているという現状である。
2:プログラムが、簡単・豊富・短時間
スポーツクラブに来る人は、以前まではかなりアクティブな人が多かったが、最近
では普通の人たちが多く来るようになってきている。したがってクラブ側も今の顧客
に合ったプログラムを提供するために、内容がシンプルで時間が短く、バリエーショ
ン豊富なプログラムを多数用意するようになってきている。
中高年でも、運動が始めての人でも気軽に参加でき、多くのプログラムの中から、
自分に合ったものを探すことが出来る。
9
3:熟年層―特に女性―の参加が加速
近年中高年齢者のフィットネスクラブの参加がますます加速してきている。現在、クラ
ブにおける 40 歳以上の会員構成比率はおよそ 50%前後であり、この比率は、都市部と近
郊クラブのものだが、これが地方のクラブとなると 70%を超えるところもある。実際に
午前中のクラブを訪れると本当に年輩が多いことが分かる。特にプールは女性が多く利
用している。
4:付帯サービスが充実
施設や料金、プログラムなどを均一化する傾向にありがちな日本のスポーツクラブ
は、顧客に対して自クラブの特徴を訴求したり、同一商圏内の競合クラブに対して差
異化を図ろうと「付帯サービス」を充実させてきている。
例えば、契約ロッカーが挙げられる。これはシューズやシャンプーをしまっておけ
る小さな個人専用ロッカー(有料。相場は月 1,000 円程度)のことである。しかし実
際、あってもキャンセル待ちで順番がまわってこない、面倒なところにあると言う現
状もある。最近オープンしたクラブはこの契約ロッカーをロッカールーム内に多く置
くようになってきている。
また、保育士のいる託児所や、広めで雨に濡れない駐車場や駐輪場、手頃な価格の
レンタルタオルセットやドリンクサービス、パーソナルトレーニングやマッサージな
どの「付帯サービス」も備えるクラブが多くなってきている。
5:フィットネスクラブのアリーナ
これまでスポーツジムの運動施設では、ジム・プール・スタジオという3つが定番で
あった。しかし最近はこれにバスケットボールコートが一面とれる程度の「多目的スタ
ジオ」などが加えられるようになってきている。クラブ側の意図を一言でいえば、集客
と定着を促進するためということだが、次のような背景要因がその成立可能性を高めて
いる。
①目的が同じ人々が気軽に楽しめるため、参加者間でコミュニケーションをとりや
すく、クラブに定着しやすい。
(フットサル、バスケット、バレーなどのスポーツ
種目の他に卓球とバトミントンが今、流行している)
②チームスポーツに参加する人々は、物販購入やイベント参加など生涯顧客価値
(LTV)が高い。
③これまでに「クラブ」にはいきたくなかったが、
「チームスポーツ」には興味のあ
る消費者の参加を促すことができる。
10
第3章
スポーツクラブ事業の成立要件
フィットネスビジネス編集部によると、以下のような立地条件を満たすクラブが成功
可能性が高いとしている。
1 居住人口が多い
比較的所得水準の高い生活者が多く居住しているエリアが最も成立可能性が高いとい
える。投資効率や事業の安全性、安定性を考えると、都心や地方の郊外よりも、首都圏
あるいは近畿圏中心部の近郊駅前が理想的。周辺に川や鉄道、交通量の多い幹線道路な
どの「商圏分断要素」や田畑や池、刑務所などの「対象顧客ゼロ地帯」が少ないことも
事業成立の可能性を高める。
首都圏近郊駅前立地における居住人口の目安は次の通り。
居住人口
参加率
会員数
会員構成比
0~1km
1~2km
2~3km
3 万人超
7 万人超
10 万人超
(10 万人超) (20 万人超)
3km 以上 備考
―
括弧内は累計
―
3.5~5.0% 1.25~2.0%
0.5~0.75%
―
1,200
1,100
600
700
(2,300)
(2,900)
(3,600)
30%
17%
20%
(63%)
(80%)
(100%)
33%
括弧内は累計
括弧内は累計
表9
2 人口増が進んでいる
居住人口が増加しているエリアは成立可能性が高いといえる。間違えてはいけないの
は、
「将来人口増が期待できそう」という憶測を抱くことである。あくまで現時点の人口
と直近の人口増減率をベースに判断しなければならない。
3 人通りが多く、通いやすい
クラブの周辺を通る生活者が多く、また仮にクラブを造った場合、施設が見つけやす
いこと、見やすいことが大切になります。ショッピングセンター等の大きな商業集積が
近くにあることも好要因となります。
車でもアプローチしやすい、車を止めやすい、女性でも安心して行ける、夜でも明る
くクラブへと向かいやすい、駅からの距離が気分的に短く感じられるなど、通いやすい
11
場所、施設、駐車場であるかどうかが重要になります。
4 必要キャパシティを満たせる
事業を成功させるためには建築上一定のキャパシティが必要になる。首都圏近郊駅前
立地であれば、延床面積 850~1,100 坪の施設と 75~100 台分程度の駐車場が必要となる。
また地方郊外ロードサイド立地であれば、延床面積 550~650 坪の施設と 200~300 台分
程度の駐車場が必要となります。いずれの立地タイプとも、プールを設置するために、1
フロアの面積が最低 200 坪以上必要となります。
⇒以上の条件を考慮して、W.T という施設を提案したい。
W.T 周辺の基本事項は以下の通りだ。
1.2.人口について
人口
820,000
810,000
800,000
790,000
780,000
770,000
760,000
平
成
12
平 年
成
13
平 年
成
14
平 年
成
15
平 年
成
16
平 年
成
17
年
平
平
成
成
1
8
20
年 年
(予
想
)
人口
表10
W.T の存在する世田谷区は所得水準も高く、人口も緩やかに上昇している。
3.通いやすさ
表11 施設までの所要時間
40
15分以内
15~30分
30~45分
45~60分
60~90分
90分以上
無回答
30
20
10
0
12
利用者の施設までの所要時間を見ると、徒歩 30 分圏内が 3 分の 2 と圧倒的に多く、ほと
んどが世田谷区周辺の住民に利用されていることがわかる。
13
第4章
4-1
W の現状分析
施設概要
W とは、財団法人
厚生年金事業財団が運営するスポーツ施設である。全国に系列施設
は 100 箇所以上あり、スポーツ施設だけにとどまらず、病院、老人ホーム、厚生年金会
館などがある。基本的には、厚生年金の受給者、被保険者のための福利厚生施設である。
このため、会員制は設けていない。もちろん、一般の人も利用はできる。
ただ、社会保険庁は保険料の無駄遣いとの指摘を受けていた健康福祉センター(S)、
厚生年金病院など約 6300 億円の評価損を生じていることを明らかにした。大幅な評価損
の原因には不動産価格の低迷もあるが、あらためて事業の採算性の悪さがある。これら
の厚生年金系施設は、2005 年 10 月 1 日に発足した独立行政法人年金・健康保険福祉施設
整理機構に出資の形で移し、売却する。同整理機構の中期計画によると、機構はこれら
の施設を時価評価額で5年以内に売却する。
14
W.T(正式名称:東京厚生年金スポーツセンター)
営業開始:昭和 38 年 7 月
ゴルフ練習場
110 打席(1F=53,2F=57) 106~137 ヤード
体育館
1080 ㎡(30m×36m)
テニスコート
9 面(砂入り人工芝)
アスレチック
594.0 ㎡(16.5×36m)
宿泊
6 室(和 12.5 畳 X5、和 6 畳×1) 収容人員 27 名
プール
流水、子供用、ウォータースライダー(夏季のみ)
レストラン
130 席
喫茶
25 席
会議室
1 室(収容人員 20 名)
表12
バレー・バスケ 2 面可
夜間照明あり
※駐車可能台数 171 台(第一駐車場 28 台、第 2 駐車場 143 台)
建物の敷地は、公園の一部に属しており、都市公園法を遵守している。よって、建物を
現状より拡大することはできない。
表13:厚生年金スポーツセンター施設別損益計算書
収益合計
費用合計
経常利益
法人税など
当期剰余金
東京
1,008,132,521
666,945,201
341,187,320
122,269,500
218,917,820
宮城
346,797,025
324,631,121
22,165,904
7,801,500
14,364,404
新潟
509,459,794
485,473,741
23,986,053
3,533,300
20,452,753
福岡
445,463,553
409,603,599
35,859,954
12,765,200
23,094,754
合計
2,309,852,893
1,866,653,662
423,199,231
146,369,500
276,829,731
これを見てもわかるように、他地域の利益率が 1 割~2割ほどなのに対し、W.T は 3
割もの利益率を出している。これは、厚生年金系施設の中でも、トップクラスの業績
を誇っていることを示す。
しかし、留意しなくてはならないのが、厚生年金施設の土地や建物は国が建設したた
め、減価償却の考え方が除外されていることである。
15
4-2
サービス内容
アスレチック
一般
被保険者・受給者
アスレチック
730 円
680 円
回数券(11 枚)
7300 円
6800 円
学生割引
520 円
アスレチックサウナ付
1260 円
1150 円
回数券(11 枚)
12600 円
11500 円
一ヶ月利用料金
13650 円
12600 円
三ヶ月利用料金
3990 円
36750 円
営業時間
平日
12:00~20:30
土・日・月
10:00~20:00
体育館
一般
被保険者・受給者
平日(半面一時間)
2310 円
1830 円
土・日・祝(〃)
2520 円
2100 円
平日(全面一日)
46200 円
36600 円
土・日・祝(〃)
50400 円
42000 円
照明料(半面一時間)
520 円
冷暖房料(全面一時間)
2100 円
営業時間
9:00~22:00
プール
大人(中学生以上)
一般
被保険者・受給者
1000 円
900 円
小人(4 才~小学生)
営業時間
営業期間
450 円
土・日・祝
9:30~17:00
平日
10:00~17:00
七月中旬~八月末頃
16
テニスコート
一般
被保険者・受給者
平日
2310 円
1990 円
土・日・祝
3250 円
2730 円
照明料
520 円
営業時間
9:00~22:00
早朝テニス
6:00~9:00
ゴルフ練習場(ボール使用料)
早朝ゴルフ
入場料無料
1階打席
12 円
2階打席
11円
通常ゴルフ
入場料 420 円
1 階打席(平日)
一般
16 円
〃(土・日・祝)
〃
17 円
2 階打席(平日)
一般
15 円
〃(土・日・月)
〃
16 円
営業時間(早朝ゴルフ)
営業時間(通常ゴルフ)
被保険者・受給者
〃
被保険者・受給者
〃
3 月~11 月
5:00~8:00
12 月~2 月
6:00~8:00
平日
9:00~22:00
土・日・祝
8:30~22:00
17
15 円
16 円
14 円
15 円
・スクール教室の開催(アスレチック内)
曜
11:00
12:00
13:00
14:00
14:30
15:00
16:00
17:00
18:00
18:30
19:10
~11:30
~12:40
~13:20
~14:20
~14:50
~15:40
~16:30
~17:30
~18:20
~19:00
~19:40
エア
すっ
スト
リズ
スト
ロビ
きり
ムウ
ダン
スト
レッ
エア
レッ
クス
体幹
ォー
ベル
レッ
チ体
ロビ
チ体
ク
体操
チ体
操
クス
操
操
スト
日
レッ
チ体
操
ダン
月
ベル
体操
ボデ
火
ィメ
イク
エア
水
ロビ
クス
ボデ
木
ィメ
イク
ダン
金
ベル
体操
スト
土
レッ
チ体
操
エア
すっ
ロビ
きり
クス
体幹
スト
レッ
チ体
操
エア
スト
ロビ
レッ
クス
チ
スト
エア
レッ
ロビ
チ体
クス
操
スト
レッ
チ体
操
スト
スト
レッ
レッ
チ体
チ体
操
操
エア
ロビ
クス
スト
スト
レッ
レッ
チ体
チ体
操
操
スト
リズ
スト
レッ
ムウ
レッ
ジャ
レッ
チ体
ォー
チ体
ズ
チ体
操
ク
操
スト
ダン
ベル
体操
エア
レッ
ロビ
チ体
クス
操
スト
レッ
チ体
操
18
スト
すっ
レッ
きり
チ体
体幹
操
スト
操
スト
スト
レッ
レッ
チ体
チ体
操
操
ボク
ダン
ササ
ベル
イズ
体操
スト
レッ
チ体
操
エア
ロビ
クス
ボデ
ィメ
イク
・文化福祉事業
また、W では、国から文化福祉事業を行う施設に指定されている。この運営は全て W 側
で行っている。数年前までは、国からの助成金が出ていたが、7 年前から独立採算に変わ
った。この活動で生じた利益は全て地域還元という形になっている。ここでは、主にイ
ベントを行っているが、スポーツイベントだけではなく、様々な文化活動を通して地域
文化の向上に寄与することを主眼としている。盆踊りや著名人による講演会、世代別の
各種スポーツ大会などを行っている。
ほかにも、厚生年金受給者を対象にした健康体操教室を開催し、親睦も兼ねた楽しい
コミュニケーションづくりに貢献している。また、さわやか大学と称し、生涯居行くに
ついての教養講座を開講している。
売上の内訳
ゴルフが売り上げの 5 割強を占める。次に、売り上げを占めるのがテニスで、稼働率
は 80%を誇る。基本的にハード面が充実しているゴルフ・テニスが黒字で、人件費や材
料費がかかるレストラン、アスレチックは赤字となっている。
民間施設との違い
民間施設との違いは、元手・資本金が厚生年金から出ている点である。よって、施設
の利用料金が安い。以前は、サービス面で民間との差が指摘されていたが、近年社員教
育に力を入れており、教育トレーナーが厚生年金事業振興団から派遣されサービスの向
上に努めている。したがって、実施されているサービス内容自体は民間のスポーツクラ
ブに引けをとらないものになっている。しかし、4-3で述べるように、それでも利用
者が減少するのはサービス内容の認知度が低いからであると考えられる。
また、料金システムに関しては、民間のスポーツクラブのほとんどが会員制で会員料
を取るのに対して、W は一回ごとに料金を支払うことができ、会員制特有
の束縛感が無いというメリットがある。
19
4-3
利用者分析
利用状況の推移(平成11年度~17年度)
650000
640000
630000
620000
610000
600000
590000
平
成
12
年
平
度
成
13
年
平
度
成
14
年
平
度
成
15
年
平
度
成
16
年
平
度
成
17
年
度
利用状況の推移(平
成11年度~17年
度)
表14
⇒このグラフ(表14)から、利用者が平成16年度をピークに減少傾向にあることが
わかる。五年後の売却に向け、これを増加傾向に維持することが求められる。
しかし、第三章のデータにもあるように、世田谷区全体の人口は増加傾向にあり、利
用者の減少は人口の減少によるものではないことがわかる。
利用者の構成
表15 利用者の年齢
表16 世田谷区の人口構成比
25
20
15
10
5
0
25
20代
30代
40代
50代
60代以上
20
15
10
5
20代
30代
40代
50代
60代以上
0
利用者の年代別グラフと世田谷区の年代別人口グラフを比べてみると、20
代の利用者・世田谷区の人口は共に少なく、30 代~50 代の利用者が区の人口
構成比からみても多いことがわかる。60 代は人口構成比が最も高いに関わら
ず、利用者にうまく結びついていないといえる。
20
表17 一ヶ月あたりの利用回数
40
1~3回
4~5回
6~9回
10~14回
15~19回
20回以上
無回答
30
20
10
0
上のデータは、1 ヶ月あたりの利用回数を示している。これを見ると、月に4、5回、つ
まり週に1、2 回のペースで使用している人が多い。また、月に10回以上通う割合も多
く、ヘビーユーザーが存在することもわかる。
4-4
競合分析
ここでは、距離的に近く、同じような総合的なスポーツ施設である世田谷区立総合運
動場を競合として分析してみた。
施設概要
平日料
概要
営業時間
ナイター照明有、天然芝
6:30~21:00
\1,200
\1,500
16 面(うちナイター設備 4 面)
7:00~21:00
\850
\1,000
9:00~21:00
\7,700
\9,200
9:00~16:30
\1,000
\1,200
72 畳、剣道、少林寺拳法が可能
9:00~21:00
\1,500
\1,800
和弓
27.5m、5 座射
9:00~21:00
\1,000
\1,200
アーチェリー
距離 30m、8的
9:00~21:00
\1,400
\1,400
距離 10m。6座射
9:00~21:00
\1,400
\1,400
野球場
テニスコート
金
休日料金
体育館
アリーナ
柔道場
剣道場
観客席 672 席、40×29m 競技フロ
ア
72 畳、柔道、少林寺拳法、合気道、
空手道可
弓道・射撃
エアーライフ
ル
21
陸上競技場
温水プール
3on3
スケート
全天候型・3 種公認競技場
400
m×8コース
50m×8 コース、25m プール×6 コ
ース
9:00~17:00
9:00~21:00
\9,200
\11,000
大人
子供
¥400
¥150
コート&ゴール2基
9:00~21:00
Free
Free
専用コート 500 ㎡
9:00~21:00
Free
Free
9:00~21:00
Free
Free
BMX/スケボ
ー
W.Tとの比較
W との違いとして、ハード面では野球場、体育館、弓道・射撃場、陸上競技場、プール
などの施設の数・種類において世田谷区立総合運動場の方が充実していることが分かる。
一方、宿泊施設・レストラン、アスレチックなどは存在しないので、サービスの幅とし
ては、W のほうが広い。ソフト面としてはヨガ教室など、両方似通った教室を開講してお
り、大差はない。
総合的にみると、両者はそれぞれ互いに無いものを補い合っていて、うまく住みわけ
ができているといえる。
22
第5章 目標の設定
地域に根付いている施設を売却することによって、その後、既存の機能が維持される
かは不透明である。また、公共施設という立場ではなくなることで、国からの援助もな
くなり、減価償却費等予算がかさむことも事実である。基本的には、現状で赤字採算の
施設は機能維持が難しいと考えられる。そうなった場合、雇用の維持も問題になる。こ
うした中で民間に委託された後も現状の雇用・機能を維持できるようなシステムの構築、
本施設のみの予算で行える予算設定が求められる。
目指すべき目標
そうした中で、W.T としての目標は、「5年以内に、民間主導の経営においても機能・
雇用をそのまま維持できるようなシステムを現状のハードを基盤としながら発展・構築
する」こととする。
23
第6章
6-1
政策提言
政策提言を述べるにあたり
分析の結果、
「現状のリピーターの CS を向上させ、その上に基づいた口コミによる新
規顧客開拓を目指す。」ことを主眼とすべきと考えた。
具体案として、まず健康測定器具の導入、それに基づいたカルテの作成があげられる。
健康志向が高まる中、利用者が手軽に現在の健康状況を把握できる機会を提供し、それ
と同時にイベント(後述する)の PR を行うものである。
また、文化福祉事業として行っている現在のイベントを、現状の地域還元の視点に加
えて、さらなる新規顧客開拓のために行うことも提案したい。
他には、より身近に、簡単に施設を利用してもらうために、web 予約システムの導入、
会議室を託児所に改築することも提案したい。
この理由は以下に通りである。
現状の利用者層は、主に 30 代~60 代の中年層・高齢者層が多い。問題意識で述べたよ
うに、この層は特に健康志向が強く、それに見合ったサービスを提供する必要がある。
また、施設の利用状況は月に4,5回使われることが多いが、1~3回しか利用して
いない層も多い。この問題の解決には、日常的に訪れたいという動機付け、W.T の利用者
であるという意識の促進が有効であると考える。
さらに、施設の状況として、なかなか新規顧客がつかめない問題もある。この改善策
としては、イベントなどを通した地域コミュニティ内での宣伝効果が期待される。
最後に、W.T の長所は、会員制ではなく個々のサービスを単独で安価に受けることがで
きる点である。その一方で、サービス単価が安くまた、多くのサービスを組み合わせて
利用する人が少ないため、会員制のクラブに比べ安定した収益が得られないところが弱
点である。よって、新規顧客、既存の利用者に、様々なサービスを知り利用してもらう
ためのシステムが構築されるべきである。つまりは、それぞれのサービス間で連携しあ
い、双方向に顧客が流れるよう紹介するのである。
また、政策提言をするにあたり、赤字のレストラン部門、アスレチック部門の活性化
に留意する必要もある。以上を踏まえて政策提言を述べて行きたいと思う。
24
表18 公共スポーツ施設についての要望
利用時間の拡大
90
スポーツ教室・行事の充実
80
手続き、支払方法の簡略化
70
広報の充実
60
健康・スポーツ関連情報の充実
50
指導者の配置
40
アフタースポーツの施設
30
託児施設の充実
20
その他
10
特にない
0
6-2
施設数の増加
分からない
健康測定器具の導入、カルテの作成
表19は、W.T を利用する人にとられたアンケートの結果である。この表からわかるよ
うに、利用の動機で一番多いのは、
「健康・美容のため」である。
表19 利用の動機
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
健康・美容のため
スポーツを楽しむため
体を鍛えるため
ストレス解消のため
25
表20は、W.T利用者の年齢を表すグラフである。20代は若干少なく、
30代~50代、60代以上は、ほぼ同じ割合で存在する。
表20 利用者の年齢
25
20
15
10
5
60
代
50
以
上
代
代
40
30
20
代
代
0
次に、W.Tの主な利用者である世田谷区住民の人口構成比、将来人口の推計を見る。
表21 人口構成比
25
%
20
15
10
5
60
代
以
上
代
50
代
40
代
30
20
代
0
平成17年
平成22年
平成27年
平成32年
0~14歳
87089
91273
93246
91270
15~64歳
579138
573377
564761
568064
65歳以上
136251
149792
163150
164301
26
130
125
120
115
0~14歳
15~64歳
65歳以上
110
105
100
95
90
平成17年
平成22年
平成27年 平成32年
表22
表21からわかるように、世田谷区の人口構成比は、60代が23%と最も高い。さらに、
の世田谷区将来人口推計によると、他の世代に比べ、65歳以上の増加率が顕著である。
以上から、W.T の利用者は健康意識が高く、30代から60代以上が多いことがわかる。
また、世田谷区の人口構成比、将来人口の推計を見ても、今後高年齢層の利用者が増え
ていくことが予想される。しかし現状では、健康に重きを置いたサービスを提供はされ
ていない。そこで、W.T の問題点であるアスレチックの赤字、スポーツクラブ業界全体と
しての問題点である退会率の高さを視野にいれ、健康ニーズを満たすような新サービス
を提案したい。
体成分分析器の導入およびカルテの作成
体成分分析器とは、体内に異なった周波数の微電流を流し、その抵抗値を測定するこ
とで体にまつわる様々な分析を行なうことができる計測機械である。体脂肪測定器のよ
うな家庭用のものより正確なデータを得ることができ、測定結果を管理プログラムに取
り込むことによって、体成分の分析と照合し、その人に適した食事処方、運動処方、正
しいダイエット方法やシェイプアップの処方を知ることができる。現在は医療機関・老
人ホーム、薬局などの健康管理関連施設にも導入されている。
27
製品名
ZEUS9.9
製造元
株式会社 JAWON MEDICAL
測定項目
・
体脂肪率
・
体脂肪指数
・
肥満度
・
体系評価
・
身体年齢
・
無機質量
・
体水分量
・
部位別筋肉量など全 25 項目
測定時間
1分以内
価格
2,000,000 円
先にも述べたように、スポーツクラブ業界全体の問題点として退会率の高さがあげら
れる。この問題を解決するためには、一度得た顧客を離れさせないための仕組みを構築
することが有効である。
【具体案】
アスレチック施設内に体成分分析器に設置する。
(1)
利用者は、アスレチックの使用料(一般 730 円)を支払い、体成分分析器での測定
を行なう。
※アスレチックを利用せず、体成分分析器での測定のみに行うことも可能で、その価
格はアスレチックの使用料金より低く設定する
(2)
測定結果から、無料でカルテの作成を行なう
(3)
定期的に測定を行なうと、結果の推移をグラフ化される
体成分分析器を現在赤字であるアスレチック内に設置することで、施設の活性化を図
る。また、カルテ作成においては、体の状態を視覚化し、目標値を具体的に設定するこ
とによって、利用者のモチベーション向上を図る。運動継続は、目的・目標を明確に持
っている人ほど長続きするものである。そして、定期的に測定し、結果の推移をグラフ
28
化することで、既存顧客の三日坊主を防止し、継続率のアップや利用頻度の上昇を狙う。
カルテで運動効果が視覚化・数値化されることによって、利用者は実際に運動効果をわ
かりやすく確認することができ、また、カルテの作成・管理など積極的なプログラム展
開をすることで、他社スポーツ施設への差別化につながり、利用者を囲い込むことがで
きると考えられる。
また、W.T 内の施設・イベントと関係性を持たせることで、シナジーを持たせることも
できると考える。
【具体案】
カルテを利用者に渡す際、施設・イベントのプロモーションを行なう
利用者の必要とする運動・サービスを one-to-one で提供する。例えば、測定の結果、
足腰が弱いということがわかれば、足腰を鍛えるためのアスレチック器具・スポーツイ
ベントの紹介を行う。この場合個々人に対して適切なマーケティングが行えることが強
みとなる。
また、先に述べたように W の利用者は高年齢層が多く、今後も利用者の高年齢化が進
むと予想される。高齢または健康状態が原因で、利用を断念した人、今まで利用してこ
なかった人も存在すると考えられる。そういった人たちが、安心して施設を利用できる
ようにし、さらなる顧客を獲得する。そこで、医療機関と提携関係を結ぶことが有効だ
と考える。
【具体案】
地元の病院と提携し、お互いに紹介しあうシステムを構築する
測定結果から医療的なアドバイスが必要な場合、提携先の病院の W.T 指定の医療相談
員を紹介するサービスを提供し、また、提携先の病院では、運動施設として W.T を紹介
してもらうことで、win-win(相互利益)の関係を築くことができる。
29
6-3
イベントの活性化
現在、W.T は優良なハードを低価格で提供することができている。よって、我々として
は現状の利用顧客層を手放さずに、さらに近隣住民の W.T への認知度を上げ、新規顧客
を獲得することを目標にしたい。そのためには、ソフト面を強化し、スポーツに親しみ
を持つような場、W.T に親しみを持つような場を提供する必要がある。そこで、我々は現
在行われている文化福祉事業をより活性化させ、イベント来訪者の満足度を高め、その
後の施設利用の活発化につながるイベントを開催したい。
<文化福祉事業の活性化>
・フリーマーケット・名産品展・祭・盆踊りなどの行事と健康カウンセリング
地域住民が年齢などにとらわれず、全年齢層が集まれる機会を提供することで家族
というグループ顧客を確保する。このようなイベントでは、当然参加料も無料なの
で、多くの来客数が見込める。その際に、一つのアトラクションとして専門トレー
ナーによる無料健康カウンセリングコーナーを設ける。そのカウンセリングの中で、
顧客のニーズに沿った、施設のサービスを紹介する。これらを通し、施設の認知度、
親しみやすさ、利用してみたいという動機を高める狙いがある。
・家庭でできる運動などの教育講座
現在、文化福祉事業として行っている厚生年金さわやか大学のように、医療・体育
の専門家を呼び、体育館で講演を行う。この医療専門家は原則、前述の医療相談員
とする。医療相談員が講演することで、医療アドバイスへの信頼性は増し、利用者
数も増加すると考えられる。また、対象を各年齢層に分けた講演を行う。例えば高
齢者層には「健康体操講座」などを開催し、老後に向けての身体作りの必要性を訴
える。これらは、施設内のアスレチックやスクールの紹介、活性化につながる。
・モニタリング
5人程の顧客をモニターとして、前述の医療相談員のアドバイスに基づいた運動プ
ログラムを設定する。そのプログラムは、施設にあるアスレチック器具やプールな
どを利用して行う。プログラムの中で得られたデータの中の成功例を本人に了承を
得た上で入り口付近に掲示する。この効果として、利用者のサービス・器具への認
知度を向上させ、競争意識を高めることで顧客離れを防ぐことができると考えられ
る。また、有料の医療アドバイスの利用率も向上すると考えられる。
30
・競技別の大会
ゴルフコンペやテニス大会、バレーボール大会などを部門別・レベル別に行うこと
で、それぞれのセグメントの CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)向上を図る。
また大会についての情報を地域の広報誌において告知してもらうことで W.T の存在
の認知度を上げる。大会参加者には各施設の優待券、大会優勝者にはアスレチック
などの全施設利用無料サービスを提供するなど、一定のインセンティブを与える。
また、W 杯と称して近隣スポーツ施設と合同の大会を W.T において開催することで施
設への親しみ・帰属意識を深め、普段からの体育館利用につなげる。この際、サー
クルとしての参加者を募ることで仲間意識を強化し、顧客離れの防止・団体での利
用数増加を図る。
・広報誌の作成
イベントの告知やモニタリングの情報、部門別の大会についての情報を載せた広報
誌を作成し、近隣住民に対しハンディング、また、近隣のスーパーや駅、コンビニ
などに設置することで W.T の認知度を上げる。また、誌面上に地域の情報を載せる
ことで地域住民との交流を促進させる。
・レストランのシェフによる健康食・食育講座
健康食・アンチエイジングなどについて講座を行うことで、スポーツ以外の目的を
持つ顧客を獲得する。また、日ごろから健康を意識している顧客に対し講座を行う
ことで、食と組み合わさった、家庭でもできる運動プログラムの情報を提供するこ
ともでき、CS 向上につながる。また、現在赤字であるレストランの経営状況の改善
にも寄与できる。
6-4
その他のサービス
・web 予約の導入
現在、W ではテニスコートの予約、体育館の予約、テニススクールやゴルフスクールの
予約は全て電話によるものとなっている。しかし、多くのスポーツ施設で web 予約が当
たり前となっており、日本のインターネット世帯浸透率は年々増加し、2006 年には 85%
以上にもなる現在では、web 予約は顧客獲得のための重要なツールであり、W でも取り入
れる必要があると考えられる。特に 13~29 歳のインターネット利用率は 90%を越えてお
り、現在少ない 20 代以下の若者の利用者増加にも効果があると考えられる。
・スクール内の親交を深める
スクールやジムのプログラムに通い始めたもののいわゆる三日坊主になり、すぐに行
31
かなくなって退会してしまう人も多い。特に若年層では月 10%近い退会率と非常に高い。
そのような三日坊主を防ぐのが一緒に通っている仲間の存在である。一緒のクラスの
人と仲良くなれば、スクールやジムに通うのが楽しくなり、また途中で抜け辛くなり三
日坊主は起こりにくくなると考えられる。実際、
「どのような条件があればスポーツ施設
に通いたいか」というアンケート調査を行うと、
「一緒に加入する仲間がいれば」と答え
た人の割合は 31.3% で 4 位であった。ここからも仲間の大切さがわかる。よってスクー
ル内、ジム内の親交というのが重要になってくる。
そこで考えたのが、スクールのクラス内での定期的な親睦会である。クラス内の人が
計画した企画では、その人と親しくない人が行きにくくなってしまうため、W.T 側からの
企画とする。その際、集まった後はクラスの人だけで進行するのではなく、司会者を W
の職員が担い、ある程度、定期的に交流を持たせるように工夫する。W.T にはレストラン
があり、親睦会はそこでの食事会という形で開くことでスクール・レストラン間にシナ
ジーを持たせることも可能となる。
・会議室を託児所に改装する
スポーツ施設に対する内閣府の調査によると、公共スポーツ施設に対する要望の第9
位、都市型民間スポーツ施設に対する要望の第4位が託児施設の充実となっている。特
に都市型民間スポーツ施設に対する要望においては第4位である。男女合わせた調査で
のこの数字である。この調査から託児所の需要は大きいと考えられる。また、近年、実
際託児所付のスポーツ施設は増えつつある。
このように託児所の需要は大きく、会議室は総合型地域スポーツクラブの概念に必ず
しも必要のないものであるので、託児所は会議室に比べ必要度が高いと考えられる。よ
ってこのスペースをより需要のある託児所に改装する。
託児所は許可保育施設と許可外保育施設があるが、許可保育施設の場合は助成金が出
るものの厳しい基準があるため、許可外保育施設とする。この施設は非合法なわけでは
なく届け出も必要である。託児所には保育士を雇うが、東京都における許可外保育施設
の場合、人員の 3 分の 2 は無資格者でも良いので、資格者を数名公募した上で、残りを
子供好きの地域住民の雇用で補う。これは地域交流の促進につながると考えられる。
32
第7章
最後に
スポーツクラブと聞いて、
「えっ、あの会員制のやつ?」と思った人は多いと思う。実
際、インターネットで検索してみるとまあ、そっちの方が多い。総合型スポーツクラブ
と入力してみると、ちょっと「会員制のやつ」の件数は減る。総合型地域スポーツクラ
ブと入力するとようやく私たちが約二ヶ月かけて調べたスポーツクラブが多数を占める
わけで。
何を言いたいか、って言うと総合型地域スポーツクラブというものは、まだ全国的に
認知されていない、スポーツビジネスの中でも発展途上の分野だということ。発展途上
ということはまだまだ成長する余地があるということであり、自分たちのような大学生
でも何らかの影響を与えることができるということである。日頃から、
「机上の空論」
「自
己満足」と言われてきたサークルの一部員として、現実に社会的影響を与えうるという
事実は、
「これぞ、汚名を払拭する機会!!」とメンバーを奮い立たせるきっかけともな
った。
初めの頃は、そんなこんなでやる気が凄かった。しかし、なかなか主体とすべきもの
が見つからない。普通のフィットネスクラブにしても面白みが無いし、公共施設をその
まま借りるのじゃあ芸が無い。さあ、どうしようと思っていたその時・・・
私たちは幸運に恵まれていた。W.T という施設を偶然ネット上で見つけたのもそう。そ
の W が 2010 年までに売却されるというのもそう。そして、W.T から総支配人自ら取材に
応じてくださったことも・・。
完全にリアルタイムで起こっている事象を調べる。しかも論文を発表することで何ら
かの影響を与えられるかもしれない。そんなことが解ったら、黙ってはいられない。班
員総出で調査に向かった。膨大な量のデータがグループページに集まった。ときどき
SKYPE も活用した。
この班とても出席率がいいのだ。一回メーリスで集合の合図が出るとまあ、ほとんど
のメンバーが集まった。各々仕事を与えられると完璧にではないにしろ一定の仕事はす
る。それを全員が集合する場において修正していく。
まあ、なんにせよリーダーの存在が大きかったのだろう。ありがとう流王。
発表日の前々日にこんな体たらくの文章が書けるのも君の綿密な計画と統率力のおかげ
だ。班員も全体的に仲良く出来たと思う。しっかり役割分担して、集まるときは集まっ
て。みんなで、W.T には行けなかったけどね。行こうね、いつか。
最後に、煮詰まったときにちょうどいいタイミングで、差し入れして下さり、また、適
切なアドバイスを下さった先輩方に感謝の意を表します。
スポーツクラブ班:スペシャルコーディネーター
33
岩嵜修平
第8章
参考文献
『地域を変えた総合型地域スポーツクラブ』山口泰雄著
『テキスト
総合型地域スポーツクラブ
大修館書店
増補版』鈴木一行著
2006
大修館書店
2004
『ジグソーパズルで考える総合型地域スポーツクラブ』黒須充,水上博司編著 2002
『平成 18 年版 国民生活白書』 内閣府 2006
『スポーツ白書~スポーツの新たな価値の発見~』笹川スポーツ財団
『スポーツ白書 2010』笹川スポーツ財団
2006
2001
「スポーツライフ・データ 2004」笹川スポーツ財団 2004
「スポーツ振興基本計画」文部科学省
2000
「体力・スポーツに関する世論調査」内閣府大臣官房政府広報室
「国勢調査」総務省統計局
2004
2005
「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法案」
「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構中期計画」
「体育・スポーツ施設の整備・運営方法が都市の持続性に与える影響に関する研究」
高橋宏和
共同通信社
2003
2005 年 10 月 16 日
世田谷区役所ホームページ(www.city.setagaya.tokyo.jp)
JAWON MEDICAKL(http://www.jawon.co.kr)
総合型地域スポーツクラブ育成マニュアル(http://www.mext.go.jp/ )
フィットネスビジネス編集部(http://www.fitnessclub.jp/cmn.html)
厚生年金スポーツセンター
ウェルサンピア東京(http://www.kjp.or.jp/hp_56/)
○製作メンバー
1 年:岩嵜 修平、大井 文月、木下 義寛、木村 尚志、佐久間 直也、清水 麻由、
松田
能亜、流王
友彬
34
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