Comments
Description
Transcript
移動式ICTユニットの無線アクセスネットワーク 構成技術
遠隔制御 Wi-Fiネットワーク 集 M2M無線アクセス 特 大規模災害など突発的ICT需要に即応可能な「移動式ICTユニット方式」の研究開発 移動式ICTユニットの無線アクセスネットワーク 構成技術 NTT未来ねっと研究所では,大規模災害時にICT環境の即時回復を可能に する移動式ICTユニットの研究開発に取り組んでいます.本稿では,M2M 無線アクセスを制御網として活用し,移動式ICTユニットの周囲の無線LAN アクセスポイントを中継接続して無線アクセスネットワークを迅速かつ柔 軟に構築する無線アクセスネットワーク構成技術について紹介します. M2M無線アクセスの災害時活用 近年,家庭内では設置や設定の容易 さから無線LANを利用する人が増え し み ず よしたか くまがい ともあき ※ 1 清水 芳孝 熊谷 智明 す ず き や す お ご と う か ず と※2 /鈴木 康夫 /後藤 和人 NTT未来ねっと研究所 り,無線アクセスネットワークの構築 に示します.本システムでは,災害時 に時間を要してしまうという問題があ に被災地に運び込んだM2M無線アク ります. セスの基地局とM2M無線アクセスの そこでNTTでは,移動式ICTユニッ (1) , *1 端末を搭載した無線LANアクセスポ ています.また,屋外においても,無 ト とユーザを結ぶ無線アクセス イントを無線接続して遠隔制御し,無 線LAN機能を具備するスマートフォ ネットワークの迅速かつ柔軟な構築を 線LANアクセスポイント間を中継接 ンの普及や2020年に向けた外国人観 目指して,移動式ICTユニットから周 続することによって,M2M無線アク 光客の増加に向け,今後,屋内外にお 辺の無線LANアクセスポイントを直 セスの基地局周辺の半径500 mの広い いて無線LANの利用機会がさらに増 接的に遠隔制御するために必要となる エリアをカバーする無線アクセスネッ えることが予想されます. 無線アクセスネットワーク構成技術に トワークを迅速に構築します.このと NTTでは,このように普及拡大し ついて研究開発を行ってきました.遠 き,無線LANのみを用いて無線アク ている無線LANを災害時にも活用す 隔制御にはNTTが研究開発を進めてい セスネットワークを構築しようとする ることが望ましいと考えています.災 る低速だが広域をカバーできるM2M と,広いエリアをカバーするために多 害時には,無線LANアクセスポイン *2 くの無線LANアクセスポイントを中 トに接続している光ファイバなどのア を制御網として活用します.具体的に 継接続することが必要となり,伝送遅 クセス回線が断絶するなど,日常とは は,移動式ICTユニットに半径500 m 延時間や処理量が増加し,スループッ 異なったネットワーク環境に迅速に対 程度の広いエリアをカバーするM2M トなどの伝送特性が劣化します.その 応する必要があります.例えば,アク 無線アクセスの基地局を設置し,無線 ため,準ミリ波FWA(Fixed Wireless セス回線断絶時に,隣接無線LANア LANアクセスポイントにはM2M無線ア *3 Access) を無線エントランス回線と クセスポイントにマルチホップで接続 クセスの基地局と無線通信を行うM2M して利用することにより,無線LAN するためには,無線LANアクセスポ 無線アクセス端末を設置することで, イントの設定を変更する必要がありま 災害時であっても移動式ICTユニット す.そのためには,利用者 ・ 保守者が 側からの遠隔制御が可能となります. 複数の無線LANアクセスポイントに 対して,各設置場所まで出向いて周辺 状況に応じた設定処理を行う必要があ (Machine to Machine)無線アクセス M2M無線アクセスを用いた無線 アクセスネットワークシステム 移動式ICTユニットの無線アクセス ※1 ※2 現,国際電気通信基礎技術研究所 現,NTTブロードバンドプラットフォーム ネットワーク構成技術を具現化した無 線アクセスネットワークシステムを図 1 *1 移動式ICTユニット:ICTサービス提供に 必要なリソースを搭載した可搬型のユ ニットおよび同ユニットを用いたサービ ス 展 開 方 式 の こ と.MDRU(Movable and Deployable ICT Resource Unit)と いう呼称が使われることもあります. *2 M2M無線アクセス:自営無線で用いられる 標準方式を活用しつつ,ネットワーク主導 でアクセスポイントや端末を制御すること で運用管理を簡素化し,通信品質を向上さ せます. *3 FWA:位置が固定した離れた拠点間を無線 接続するのに適した固定無線アクセス装置. NTT技術ジャーナル 2015.3 17 大規模災害など突発的ICT需要に即応可能な「移動式ICTユニット方式」の研究開発 アクセスポイントによる中継接続数を 適した制御情報伝送技術が必要となり に搭載された制御サーバが一元的に扱 減らし,より広いエリアをカバーする ます.また,設定変更の対象となる無 うことができるようにする情報変換技 ことを可能とします. 線LANアクセスポイントとしてさま 術も併せて必要となります. 移動式ICTユニットのプロトタイプ ざまな機種を想定する必要がありま 無線アクセスネットワーク構成技術 として開発された車載型移動式ICTユ す.そのため,機種ごとに多様な様式 を実現するため,試作開発した制御プ ニット(ICTカー)では,M2M無線 で規定される無線LANアクセスポイ ラットフォームを図 2 に示します.本 ア ク セ ス の 無 線 装 置 に 加 え, 無 線 ントの制御情報を移動式ICTユニット プラットフォームでは,コマンド体系 LANアクセスポイントを屋外の電源 の取れない場所でも配備できるよう に,ソーラーパネルとバッテリを搭載 中継: 5 GH z した可搬型無線LANアクセスポイン トモジュールとFWAモジュールを複 数台搭載しています.被災地到着後, アクセス:2.4 GHz 25 GHz 分散配置し,ICTカーからの遠隔制御 により災害時用の無線アクセスネット ワークを構築できるため,エンジニア M2M無線 アクセス 基地局 が出向いて設定作業を行ったりする必 技術的課題と実装技術 制 御 : 92 0 M Hz ソーラーパネル FWA 無線LANアクセス ポイント バッテリ サービス ゲートウェイ 要がなく,効率良く迅速にICTサービ ス提供環境が整います. スマートフォンなど の無線LAN端末 FWA ICTカー周辺にこれらのモジュールを (小型ボードPC) 外部ネットワーク 大型・中型・小型ユニット 制御 サーバ M2M無線 アクセス 端末 可搬型無線LANアクセスポイントモジュール 図 1 M2M無線アクセスシステムを用いた無線アクセスネットワークシステム 移動式ICTユニットからの迅速かつ 柔軟な遠隔制御を実現するには,移動 式ICTユニットから短い時間で効率良 制御サーバ側 く多数の無線LANアクセスポイント に対する多種多様な設定変更を行う必 要があります.しかしながら,M2M 無線アクセスは,広いエリアをカバー しつつ端末局の消費電力を極めて小さ く抑えるために,伝送速度が低速であ り伝送遅延も大きいという特徴があり ます.そのため,M2M無線アクセス を介して短時間で効率良く多数の無線 LANアクセスポイントの設定変更を 行うためには,M2M無線アクセスに 18 NTT技術ジャーナル 2015.3 無線LANアクセスポイント側 制御 アルゴリズム 無線LAN アクセスポイント 共通コマンド ライブラリ コマンド インタプリタ (共通⇔個別) 無線アクセスネット ワーク情報管理 コマンド・データ 処理 制御サーバ M2M無線アク セス基地局 M2M無線 アクセス端末 機種別コマ ンド辞書 TEエミュレータ サービスゲートウェイ (小型ボードPC) 可搬型無線LANアクセスポイントモジュール 図 2 無線アクセスネットワーク構成技術を実装した制御プラットフォーム 特 集 が異なる複数機種の無線LANアクセ に複数のコマンドを統合することで, 約147秒)を要しますが,今回実装し スポイントを一元的に扱うことができ 伝送シーケンス数を少なくしてい た高効率伝送(圧縮)により応答デー るよう,制御サーバ側では新たに規定 ます. タ長を1550 Byteへ削減でき,完了時 した機種非依存の共通コマンドを制御 コマンドライブラリとして実装しま す.そして,制御コマンドのみを使用 無線アクセスネットワーク構成 技術の評価検証 間が68秒(伝送時間:約45秒)となり, 3 分の 1 程度に短縮できることを確認 しました. し,制御先の無線LANアクセスポイ 試作開発した本プラットフォームを さらに,本フィールド実験では,A ント側のサービスゲートウェイのコマ 用いて東北大学キャンパスで無線LAN 社とB社製の 2 機種の無線LANアクセ ンドインタプリタにて機種ごとに異な アクセスポイント 8 台を用いた小規模 スポイントを用いた無線アクセスネッ る 1 つあるいは複数の個別コマンドに のフィールド実験を行いました.本評 トワークの構築を行いました.測定対 変換するコマンド変換処理を行うこと 価実験で用いたM2M無線アクセスの主 象の無線アクセスネットワークトポロ で,無線LANアクセスポイントの機 要諸元を表に示します.本フィールド ジを図 3 に示します.構築可能なWDS 種を隠ぺいしたかたちでの制御を実現 実験により,M2M無線アクセスの基地 *4 (Wireless Distribution System) 機 しています.また,広域をカバーでき 局から直線距離で約430 m離れた建物 能を利用したアクセスポイント間接続 る一方,伝送速度が低速なM2M無線 内に設置した無線LANアクセスポイ (WDS接続)の中で最大接続数を有す アクセスを多数の機器の制御網として ントの設定を変更できることを確認し るトポロジを測定対象としました.本 利用するため,上下リンクとも,制御 ました.また,制御サーバから複数の 実験では,制御サーバから周辺情報取 に必要な情報量を絞り込んで伝送する 制御を実行することで,無線LANアク *5 得,SSID(Service Set Identifie) ことで,制御情報の高効率伝送を実現 セスポイント間を中継接続した無線ア 設定,WDS接続設定,疎通確認の複 し,無線LANアクセスポイントの設 クセスネットワークが構築できること 数の制御を行うことで無線アクセス 定変更に要する時間を短縮していま を確認しました. ネットワークを構築します. す.上りリンクでは,無線LANアク データ圧縮の効果を検証するため, 本トポロジに対する無線アクセス セスポイントからの取得情報をサービ 無線LANアクセスポイントから周辺 ネットワーク構築時間を図 4 に示しま スゲートウェイのコマンドインタプリ 情報を取得する制御を実行し,本処理 す.共通コマンドを利用することで無 タで必要最小限の情報のみを抽出(圧 完了までの時間を評価しました.非圧 線LANアクセスポイントの機種を隠 縮) して伝送します.下りリンクでは, 縮時,取得したデータ長が5177 Byte ぺいしたかたちでの制御が可能である 制御サーバから伝送する共通コマンド の場合, 完了までに167秒(伝送時間: こと,無線LANアクセスポイント設 置後,両機種とも 8 台の無線LANア 表 実験で使用したM2M無線アクセスシステムの主要諸元 無線周波数 280 MHz(実験用) 送信出力 1 W(基地局), 10 mW(端末) アクセス方式 TDMA/TDD 変復調方式 π/ 4 シフトQPSK−同期検波(基地局), 遅延検波(端末) 誤り訂正 畳込符号−ビタビ復号, 符号化率 1 / 2 クセスポイントによる無線アクセス ネットワークを30分以内に構築でき ることを確認しました.なお,サービ スゲートウェイでの無線LANアクセ TDMA: Time Division Multiple Access TDD: Time Division Dultiplex QPSK: Quadrature Phase Shift Keying *4 WDS:本機能を利用することでアクセスポ イント間接続を形成します. *5 SSID:無線LANの通信規格で定められてい るアクセスポイントの識別子. NTT技術ジャーナル 2015.3 19 大規模災害など突発的ICT需要に即応可能な「移動式ICTユニット方式」の研究開発 び「被災地への緊急運搬及び複数接続 1アクセスポイント 場合 (ネットワーク なし) 2アクセスポイント (最大WDS数=1) 3アクセスポイント (最大WDS数=2) 運用が可能な移動式ICTユニットに関 する研究開発」によるものです. ■参考文献 5アクセスポイント (最大WDS数=4) 6アクセスポイント (最大WDS数=5) 7アクセスポイント (最大WDS数=6) 8アクセスポイント (最大WDS数=7) (1) 坂野 ・ 小田部 ・ 小向:“移動式ICTユニット方 式 の 全 体 概 要,” NTT技 術 ジ ャ ー ナ ル, Vol.27,No.3,pp.12-16,2015. (2) 小田部 ・ 小向 ・ 坂野:“移動式ICTユニットの ICTサービス提供技術, ” NTT技術ジャーナ ル,Vol.27,No.3,pp.29-32,2015. (3) 西沢 ・ 坂野 ・ 高橋 ・ 山口:“移動式ICTユニッ トのグローバル展開——フィリピンにおける 国連プロジェクトと標準化活動,” NTT技術 ジャーナル,Vol.27,No.3,pp.33-36,2015. 図 3 測定対象のネットワークトポロジ 無線アクセスネットワーク構築時間 (分) 30 25 20 15 10 A社製 5 0 B社製 1 2 3 4 5 6 7 8 無線LANアクセスポイント数 図 4 無線アクセスネットワーク構築時間 スポイントからの応答待ち時間を適切 テムの有用性も検証しつつ,国内だけで に調整することでさらなる短縮化が期 なく,国外においても国ごとの規格や 待できます. ニーズに対応したシステムを目指します. 今後の展開 ※本研究成果の一部は,総務省委託研 Wi-Fiベースの無線アクセスネット 究「大規模災害時における通信ネット ワークを迅速に構築できるシステムとし ワークに適用可能なリソースユニット (3) て,海外での実証実験 を通じて本シス 20 NTT技術ジャーナル 2015.3 構築 ・ 再構成技術の研究開発」 ,およ (上段左から) 清水 芳孝/ 鈴木 康夫 (下段左から) 熊谷 智明/ 後藤 和人 本無線アクセスネットワーク構成技術は, 災害時はもちろんですが,例えば,イベン ト会場などでのWi-Fiベースの無線アクセス ネットワーク構築等の平常時利用にも適用 できます. ◆問い合わせ先 NTT未来ねっと研究所 企画担当 レジリエントネットワーク戦略担当 TEL 046-859-3131 FAX 046-855-1284 E-mail resilient-mirai lab.ntt.co.jp