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!.その他の痴呆
!.その他の痴呆
1.皮質下性痴呆(Subcortical dementia)
分類される症状と,AD と同様の高度の痴呆および病初期か
ら幻覚や妄想が前景にでる DLB と共通点を有するタイプに
皮質下性痴呆は,最初は進行性核上性麻痺(PSP)の痴呆
分類され,その病理学的背景として,神経変性とレビー小体
症状を特徴づける用語として使用され1),徐々にその他の錐
出現が黒質や脳幹に限局する古典的 PD,大脳皮質広範に
2)
体外路疾患に併存する精神症状に一般化された .すなわ
AD 病変を合併するもの,皮質にもレビー小体が多発するも
ち,皮質下核である大脳基底核に病変の首座を持つパーキン
のが該当する7).
ソン病(PD),ハンチントン病(HD)などに出現する痴呆や
PD にみられる皮質下性痴呆は bradyphrenia(精神活動緩
精神症状がふくまれることになった.しかし,PSP, PD, HD
慢)
とほぼ同義にもちいられ8),認知操作緩慢, 集中力低下,
の間で痴呆や精神症状や痴呆は同質ではないし,PD には多
無気力,記憶障害,言葉の流暢性障害がめだつが,言語と社
彩な精神症状がふくまれる.さらに,SPECT や PET をもち
会的行動は比較的よく保たれる.これら認知機能障害は,患
いた研究により,これらの疾患では皮質下核だけでなく前頭
者の QOL や社会活動の低下の要因になるが,患者や介護者
葉の機能低下も顕著であることが確認され,皮質性痴呆であ
を悩ませたり,医学的・社会的問題になることは少ない.そ
る前頭側頭型痴呆(FTD)やピック病の痴呆との共通性も指
のためか,PD の皮質下性痴呆や bradyphrenia の治療や改善
3)
摘されている .また,臨床的・病理学的に PSP と皮質基底
法について,多数例を対象にした対照研究は文献検索でみい
核変性症(CBD)との中間型も報告され,皮質下性痴呆と皮
だされない.しかし,精神症状の悪化要因である薬物,中で
質性痴呆の境界はかなり曖昧になっている.
も抗 PD 薬の副作用についての後ろ向きコホート研究はか
以上の知見から,皮質下性痴呆という概念自体に対する批
なり報告されており,抗コリン薬とアマンタジンに記銘力低
判もある4)5)が,大脳基底核疾患にみとめられる精神症状は
下や幻覚・せん妄誘発作用が多く,認知機能障害を有する
AD とは明らかにことなった特徴を有する.従来の概念にし
PD 患者や高齢 PD 患者には避けるべきであることが言及さ
たがって,運動障害性神経疾患に随伴する精神症状と定義し
れている9)10).
て扱う.具体的症状は疾患ごとにことなるが,共通した特徴
したがって,患者データに基づかない専門家の意見とし
は,認知機能の処理速度の低下,想起障害,概念形成障害,
て,妥当なものと広く受け入れられているのは,PD 患者に認
感情・気分の障害であり,その背景にあるのは,覚醒度・機
知機能障害や痴呆がみとめられた時に,全身疾患や悪化要因
敏さ・順序立ての機能,運動のプログラム化,動機付け,気
を取り除く方式と,抗 PD 病薬に関し,精神的副作用が強く
2)
分・感情という基本的な神経心理学的機能の障害である .
て抗 PD 作用が弱い抗コリン薬とアマンタジンから減薬し
a)パーキンソン病(PD)
6)
.
ていく方法である(表 1)
PD の精神症状には,抑うつ症状,痴呆,幻覚・妄想などの
PD 治療指針11)でも上記の方針が勧められている.AD の治
精神症状がある6).PD にみられる痴呆には,皮質下性痴呆に
療薬ドネペジルにより,DLB 9 例中の 7 例で認知機能障害や
表1 PD 痴呆に関連した認知機能障害の対策
ステップ 1
背景にある悪化要因の治療・補正:感染症,脱水,電解質異常,他の代謝性
異常の是正
ステップ 2
薬物の見直しと抗 PD 薬以外の薬物の中止:特に鎮静薬,抗不安薬,抗うつ
薬は可能なら中止
ステップ 3
抗 PD 薬の漸減または中止:次の順番で反応を見ながら減量・中止する.抗
コリン薬,アマンタジン,セレギリン,dopamine 作用薬
ステップ 4
レボドパの漸減(昏迷や幻覚が消失しない場合)
:最終的には,レボドパ減量
による精神症状の改善と PD 症状の悪化を勘案して,適切な方を選択する.
ステップ 5
ドネペジル投与を検討(保険適用外)
:DLB の認知機能障害改善の少数例報
告12) があるので,同様の効果を期待できる可能性がある.
幻覚が改善されたという報告がある12)ので,PD の精神症状
合併する頻度が高く, 抑うつや躁状態が約半数にみられる.
に関しても症例によっては試みる価値があろう(保険適用
まれに統合失調症様症状が出現することがある.精神症状は
外)
(お勧め度 C)
.
運動障害に先行して出現することもある.
b)進行性核上性麻痺(PSP)
HD の認知機能障害や行動障害に有効な治療は報告され
PSP は歩行障害
(姿勢反射障害による易転倒性)
,錐体外路
ていない.対症的に神経遮断薬や抗不安薬が使用される.抑
症状(筋強剛,体軸性ジストニー),偽性球麻痺症状(嚥下障
うつ症状や躁症状,統合失調症様症状は,うつ病,躁病,統
害,発話障害,感情失禁)
,核上性眼球運動障害,痴呆を主徴
合失調症に準じて治療される.
とする慢性進行性疾患である.痴呆は 50% 以上の患者に出
現するが,その特徴は忘れっぽさ,思考過程の緩慢化,感情
や人格の変化,獲得した知識の操作障害であり,失語・失行
・失認という大脳皮質症状はほとんどみられないことから,
1)
2.レビー小体型痴呆(Dementia with Lewy
bodies ; DLB)
DLB は臨床・病理診断基準が提唱されて20)以来,臨床診断
Albert ら はこれを AD やピック病の痴呆と区別する意味
がより容易になり,AD に次いで二番目に多い老年期の痴呆
で,皮質下性痴呆と命名した.PSP の痴呆の特徴は FTD
疾患であるといわれるようになった21).しかし,DLB には
の特徴と共通点が多く,SPECT や PET でも前頭葉機能低下
種々の病型があり,また老人性変化が混在する通常型とそれ
を示唆する所見がえられることから,前頭葉―皮質下性痴呆
をともなわない純粋型に区別され22),臨床診断は容易でな
3)
という概念もある .
く,AD や VD などと誤診されることが少なくない.
1996 年の国際会議による PSP 診断基準13)では,認知機能
障害は支持的項目にふくまれ, 無気力, 抽象的思考の障害,
DLB にはその主要症状である進行性痴呆と,PD 症状など
の神経症状や幻視・妄想などの精神症状といった随伴症状
発話の流暢性の障害,強迫的道具使用行為あるいは模倣行
がみられる.したがって,DLB の治療には痴呆の治療と随伴
為,前頭葉の脱抑制症状のうち,初期から 2 つ以上が出現す
症状の治療が必要になる.ここでは,これらの薬物療法につ
るとされている.
いて述べることにする.
PSP の治療は,運動障害,認知機能障害・痴呆のいずれも
a)痴呆の薬物治療
確立したものの報告はない.運動障害については,抗 PD
DLB ではアセチルコリン(ACh)の起始核である Meyn-
薬,抗うつ薬が使用されているが,一定した効果はえられて
ert 基底核にレビー小体が出現し,神経細胞の変性・脱落が
おらず14),認知機能障害や痴呆を取り上げた治療成績の報
AD よりも強く23)24),大脳皮質の ACh 濃度も AD より低い
告はほとんどない.ドネペジル(10mg)の認知機能,運動障
こと25)から,AD の治療薬であるアセチルコリン・エステ
害,日常生活動作におよぼす効果を 6 例の PSP 患者におい
ラーゼ(AChE)阻害薬が AD よりも効果的であることが想
て,投与前と 3 カ月投与後で比較し,いずれの症状に対して
定された.さらに,最初にアメリカで認定されたタクリンが
15)
も,効果はみとめられなかった .
著効した AD 例がその後剖検により DLB(通常型 DLB)で
最近,Litvan ら16)は 21 例の PSP 患者を対象に,ドネペジ
あることが明らかにされたこと26)27)から,AChE 阻害薬が
ルと偽薬の効果を 1 カ月間のウオッシュアウト期間をおく
DLB に使用されるようになり,その効果がいくつか報告さ
クロスオーバー法によって,無作為化二重盲検法で検討し
れている28)29).
た.その結果,ドネペジル投与群では認知機能は改善がみら
DLB への AChE 阻害薬の最初の試みはタクリン 40∼120
れたが,ADL!
動作スコアは有意に悪化したので,PSP の治
mg!
日の治験で,AD 20 例,DLB 19 例のうち AD,DLB 各
療には推奨できないと結論した.うつ病治療に使用される電
11 例で認知機能に効果がみられたと報告された28).AD 6 例
気ショックを PSP 5 例におこない,1 例で運動障害が一過性
と DLB6 例にタクリン 80mg!
日の投与で,DLB 例では AD
に著効し,2 例でやや改善したと報告し,精神的抑うつ症状
例よりも効果があったとの報告もある29).
の改善による活動性改善であろうと推定している17).磁気
本邦では未発売であるが,リバスチグミンに関する報告も
刺激も近年, 運動障害の治療に試験的に導入され出したが,
最近いくつかある.McKeith ら30)は多施設での二重盲検対照
効果の評価はなされていない.最近,Litvan18)は PSP の痴呆
比較試験を行った.120 例(リバスチグミン 59 例,偽薬 61
と症状の上で類似性のある FTD の治療について,現時点で
例)に 6∼12mg!
日を 20 週間投与し,認知機能に効果がえら
は系統的な対処法や治療法はないと結論している.
れ,精神症状にも改善がみられ,副作用はあってもほとんど
c)ハンチントン病(HD)
の例で服薬の継続が可能な程度であった.24 週投与で認知
HD は常染色体優性遺伝の疾患で,遺伝子座 4p のハンチ
ンチン遺伝子の CAG repeat 数の増加が原因である.臨床症
機能が改善し,96 週まで続けたが悪化しなかったとの記載
もある31).
状は運動障害(舞踏運動など)と,痴呆・精神症状を主徴と
ドネペジルの DLB に対する効果の報告が最近増えている
する.認知機能障害の特徴は,集中力,視空間認知能力,記
が,まとまった報告はない.ドネペジル 5∼10mg!
日を DLB
憶力,遂行能力低下であり,言語,行為,認知機能は比較的
9 例に投与し,7 例で認知障害が改善したが,3 例で PD 症状
18)
よく保たれる .行動障害として,人格変化,無気力,不安
が悪化したとの報告がある32).リスペリドンとの併用によ
焦燥,衝動性,脱抑制行為が出現する.さらに,感情障害を
る効果も報告されている33).AD 12 例,DLB 4 例にドネペジ
ル 5mg!
日を投与し,DLB では AD より MMSE が著明に改
34)
善したとの報告 や,ドネペジルを 12 週間もちいた 9 例の
35)
同じ非定型神経遮断薬オランザピンの効果も最近報告さ
れている.Walker ら51)はオランザピン(2.5∼7.5mg)をもち
うち 7 例で認知障害が改善したとの報告がある .ドネペ
いた 8 例中 2 例で BPSD が著明に改善し,3 例で軽度改善し
ジルが認知障害に効果があった症例報告もされてい
たが,3 例で中止したと報告し,Parsa ら52)は 10 例で 25∼300
36)
∼38)
る
.
mg!
日のケチアピンにより精神病症状が著明に改善したが,
b)パーキンソン病(PD)様症状の薬物治療
DLB では PD 症状で始まる例も少なくなく,このばあい
は,PD と同じくレボドパなどの抗 PD 薬が少なくとも早い
時期には効果がある.PD 症状が後発する例ではより複雑で,
運動機能の悪化はなく,6 例では運動機能が改善したと報告
した.
d)おわりに
現時点では DLB に対する治療法はまだ確立されていな
レボドパによる精神症状の悪化が危惧される.DLB 例のレ
い.あえていえば,AChE 阻害薬が認知障害や精神症状の改
ボドパ治療についてのまとまった報告はないが,Gyrne ら39)
善にもっとも推奨されようが,系統的な検討が必要であろ
は 15 例の DLB 剖検例(PD 症状が先行する例も後発する例
う.DLB は頻度の高い痴呆性疾患であり,今後のさらなる研
もふくむ)のうち 11 例ではレボドパが効果的であったと報
究の発展が期待される.なお,ごく最近 Campbell ら53)による
40)
41)
告した.Williams や Geroldi ら も同様の報告をしている
が,精神症状が悪化した例も少数あったと記載した.
c)BPSD の薬物治療
AChE 阻害薬は,認知機能障害に効果があるばかりでな
DLB 治療についての総説が報告された.
3.大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration ; CBD)
く,痴呆に随伴する行動異常や精神症状(BPSD)にも効果が
Rebeiz ら,Gibb ら,Rinne ら に よ っ て 記 載 さ れ て き た
あることが知られている.McKeith ら42)による preliminary
CBD は比較的定型的な症候と経過を示し,臨床診断は困難
open study では,DLB11 例にリバスチグミン 3∼12mg!
日を
ではないと考えられてきた.すなわち,緩徐進行性かつ一側
12 週間投与し,73% で妄想が,63% で無欲が,45% で焦躁
優位の皮質徴候(とくに肢節運動失行)と錐体外路徴候(と
が,27% で幻視が減少し,11 例中 5 例(45%)ではいちじる
くに無動・筋強剛)を示し,痴呆は末期に出現する(古典型
しい効果があったという.McKeith ら30)の多施設二重盲検試
または典型型という)
.痴呆の多くは前頭−皮質下性痴呆で
験でもリバスチグミンは精神症状への効果を示し,AChE
ある.上記の神経症候を示す古典型は病理学的にもほぼ
阻害剤が抗精神病薬より合理的な選択薬であろうと述べて
. しかし,
CBD であることが証明されている54)(レベル IV)
いる.Grace ら31)もリバスチグミンが神経精神症状にも効果
症例の蓄積にともない,早期から痴呆を示す病型が少なくな
があったと記載している.
いことが証明された.このばあい,前頭型痴呆,前頭側頭型
ドネペジルが 8 例中 3 例で行動障害を著明に改善し,残り
43)
痴呆,あるいは側頭型痴呆を示し,生存中は PSP,ピック病,
の 5 例でも軽度に改善したとの報告がある .9 例中 8 例で
あるいは AD と区別しにくい(非古典型または非典型型とい
幻覚が改善したとか32),認知機能の改善に加えて,幻視も著
う)
.非古典型も進行にともない錐体外路徴候をふくむ運動
明に改善した症例の報告35)38),妄想,焦躁,幻視が改善した
症状を示すが,必ずしも一側優位性を示さない.この非古典
44)
型については現在,適当な臨床診断基準がない55)(レベル
2 例の報告もある .
DLB ではしばしば抗精神病薬に過敏に反応し,症状が悪
IV)
.
化することが知られている20).したがって,BPSD に対して
CBD の治療法について,現在集積されている成績は主に
従来の D2 受容体遮断作用の強い定型神経遮断薬の使用は
古典型に関するものである.それらも一般に運動障害(無動
慎重でなければならない.最近では錐体外路症状が出にくい
・筋強剛,ミオクローヌス,振戦など)に対する retrospec-
非定型神経遮断薬が好んで使用され,クロザピン,リスペリ
tive な分析である.そのうちパーキンソニズムに対してはレ
ドン,オランザピンなどの使用報告がいくつかみられる.
ボドパ,ミオクローヌスに対してベンゾジアゼピン系薬物が
クロザピンは非定型神経遮断薬であるが,本邦では未発売
(レベル IV)
.本症
20% 程度の有効性を示している56)(表 2)
である.その効果もまとまった報告はなく,精神病症状が著
の痴呆に対する薬物治療については,ドネペジルをふくめて
明に改善した報告45)も,悪化したとの報告46)もある.
有効とする薬物の報告が見当たらない.
本邦で最初に発売された非定型神経遮断薬リスペリドン
に関する報告がある.一例報告として,少量のリスペリドン
が認知および精神状態を改善させたことが示された47).0.5
∼1mg のリスペリドンにより幻覚や妄想が改善した 3 例の
48)
49)
4.前頭側頭型痴呆(frontotemporal dementia ; FTD)
ピック病などの FTD の頻度は AD と比較して,とくに超
報告もあるが ,McKeith ら はリスペリドン(0.5mg×2)
高齢者ではまれである.FTD は早期から人格変化,実行機能
により錐体外路症状が悪化した 3 例を示し,D2 受容体遮断
障害,社会的技能の低下,感情の平板化,脱抑制,独特の言
薬が DLB に最適な神経遮断薬であろうと述べている.リス
語障害などの症状を示す.FTD は症状から,!前頭葉型痴呆
ペリドンにより悪性症候群がおこった DLB の家族例の報告
(社会的行動や人格の異常)"意味痴呆(言語の表出や理解に
もある50).
必要な基礎的概念の障害)#進行性非流暢性失語に分類され
表2 CBD に対する薬物治療の効果(文献 56 より)
治療薬
被投与
例数*
レボドパ/カルビドパ
臨床的
改善**
パーキン
ソニズム
ジストニー
1( 1%)
ミオク
ローヌス
他人の
手徴候
錐体路徴候
128(87%)
33(26%)
25(20%)
―
1(1%)
―
D2 アゴニスト
33(25%)
2( 6)
1( 3)
―
―
―
―
セレギリン
30(20%)
3(10)
1( 3)
―
―
―
―
アマンタジン
24(16%)
3(13)
3(13)
―
―
―
―
ベンゾジアゼピン薬
47(32%)
19(40)
9(19)
4( 9)
11(23%)
―
―
抗コリン薬
38(27%)
8(21)
4(10)
3( 8)
―
―
―
バクロフェン
28(19%)
2( 7)
2( 7)
2( 7)
―
―
2(7)
抗うつ薬
16(11%)
1( 6)
―
―
―
―
―
抗痙攣薬
13( 9%)
3(23)
3(23)
―
―
―
―
プロプラノロール
11( 8%)
2(18)
2(18)
―
―
―
―
抗精神病薬
6( 4%)
4(67)
―
―
1(17)
―
―
ボツリヌス毒素
9( 6%)
6(67)
―
6(67)
―
―
―
*
CBD 臨床的 147 例中の被投与例数と %.
**被投与例数のうち何らかの改善を示した例数と %.
―:改善例の報告なし
アブストラクト・テーブル
リサーチ・クエスチョン
CBD 患者に対する薬物効果
解析方法
臨床例に対する回顧的分析
報告者
Kompoliti ら(2000)
患者
8 施設,147 臨床例(診断基準は各施設依存)
分析法
一定のアンケート用紙に使用薬物と効果を記載.最終的な効果判定はデータ集積者(Kompoliti)が
行う.
結果
被使用例数 20 例以上ある特定の薬物については,何らかの臨床的改善は 6 ∼ 40% にみられた.症
候別の有効率はパーキンソニズムに対してレボドパ 20%,ベンゾジアゼピン 19% , ミオクローヌスに
対してベンゾジアゼピン 23% であった.なお,ジストニー 9 例にボツリヌス毒素を用いて 6 例(67%)
有効性を認めた.ただし,本論文中には有効の程度および持続期間は示されていない.
る57).AD と比較して記憶障害や失行は初期には軽度で中期
患者家族への攻撃的行為は大きな問題であるが,ベンゾジ
以降に現れる.前頭葉徴候(口尖らし反射,吸引反射,把握
アゼピン系薬剤や高用量の神経遮断薬は不都合な効果や,副
反射などの原始反射)がよくみとめられる.中期以降は無関
作用のため避けるべきである.神経遮断薬としては少量のリ
心になり,激しい焦燥を示すこともある.言語,行動,注意
スペリドンやオランザピンが従来の神経遮断薬より勧めら
力が障害され,家族や社会にかける迷惑は AD よりいちじる
れる62).トラゾドンは行動障害に63),バルプロ酸やカルバマ
しいことが多い.
ゼピンなどの抗てんかん薬も興奮や攻撃性に使われる62).
FTD の診断は困難で,剖検により FTD と診断された患者
で AD の診断基準を満たすものが多い.FTD と AD の鑑別
は Lund-Manchester group に よ る criteria で は 100% と 報
58)
告されている .無自覚,口唇傾向,常同傾向,保続の初期
59)
Kl!ver-Bucy 症候群にカルバマゼピンや64)SSRI が有効との
報告もあり65),FTD でも検討する必要である.
AD と異なりドネペジルなどの choline 作動薬の効果は期
待しがたいとされている66)が,FTD でも choline 作動系活性
での出現が FTD の診断上重要である .言語の流暢性,抽
が Meynert 基底核で低下している67)ので,試みる価値はあ
象化,実行機能に関する前頭葉機能検査は有用である.FTD
る68).SPECT では FTD 上前頭回脳血流や D2 受容体結合
患者の画像検査では前頭・側頭葉萎縮が顕著で,相対的に頭
能は正常群や AD 群より低いが,dopamine 作動薬や阻害薬
頂・後頭葉が保たれる.
の FTD への効果は一致しない.bromocriptine は保続など
FTD に対する EBM に基づいた,有効な治療法の報告は
ないが60),可能性のある薬物の検討が望まれる.FTD 前頭葉
を改善させ69),外傷後の実行障害患者にも有効であるので,
FTD での検討が望ましい(お勧め度 C)
.
の serotonin 受容体数減少を代償する目的で,FTD 患者 11
4 repeat tau の発現や沈着を予防する薬剤の開発も期待さ
名にセルトラリンを 3 カ月間投与し,9 例中 6 例で脱抑制
れる.さらに,FTD の発症機序解明によって free radical
が,9 例中 5 例で炭水化物への渇望が,7 例中 4 例で衝動が改
消去薬や抗炎症薬の可能性も検討されるであろう.
善した61).
FTD に有効な決定的な介護法はなく,AD に準ずると考
えてよい.患者の行動異常による弊害を避けるため,判断力
の必要な立場や経済的な決定を下す機会を減らす.介護者が
toms of Parkinson’
s disease. Neurology 1998 ; 50(suppl
6): S33―8
親の役をし,自動車の運転は見合わせる69).性的に不適切な
7.小阪憲司,松下正明,小柳新策,他.
“Lewy 小体病”の
攻撃的行為が社会的規範を超える時もあるので,FTD 患者
臨床神経病理学的研究.精神神経誌 1980 ; 82 : 292―
に子供の世話をさせない方がよい.認知機能は治療に反応し
311
がたいが,ターゲットを周辺症状に限定して,少しでも改善
8. Rogers D . Bradyphrenia in Parkinson ’s disease , In :
する介入を導入すれば,異常行動は軽減できる.介入は直接
Huber SJ, Cummings JL, eds, Parkinson’s disease. Neu-
的であっても,強制せず,穏やかに,断固とした態度で臨む.
robehavioral aspects . Oxford University Press , New
通常,介護はパートタイムであるが,フルタイムの介護をお
York, 1994 ; 86―96
こなう時には,予め計画を練り,感染症の治療や,誤嚥の少
9.De Smet Y, Ruberg M, Serdaru M, et al. Confusion, de-
ない摂食法を考慮する.FTD の診断が容易になったので,
mentia and anticholinergics in Parkinson ’s disease . J
FTD の介護に精通した介護グループの形成が望まれる.
Neurol Neurosurg Psychiatry 1982 ; 45 : 1161―4
FTD は異常行動や運動障害をともない,転倒による外傷
10.Cooper JA, Sagar HJ, Doherty SM, et al. Different ef-
の危険があり,患者や介護者にストレスや社会的困惑を与え
fects of dopaminergic and anticholinergic therapies on
るので,しばしば施設入所させる.最善の QOL や対人関係の
cognitive and motor functions in Parkinson’s disease : a
維持には,平易な行動や方法が要求され,介護ネットワーク
follow-up study of untreated patients. Brain 1991 ; 114 :
の組織が必要である.できれば無償の家族・友人・隣人・ボ
2095―122
ランティアーの協力を仰ぐとよい.学習・記憶機序の科学的
11.Olanow CW, Watts RL, Koller WC. An algorithm(deci-
解明に基づく新しい行動学的治療法が認知機能低下に対し
sion tree)for the management of Parkinson’s disease :
て検討されている.練習のくりかえしが注意力を増強するの
treatment guidelines. Neurology 2001 ; 50(suppl 5): S
70)
で FTD のリハビリテーションに適している .介護提供者
ネットワークに参加して,ロール・プレイ等の介護法を学習
する.
47―54
12.Shea C, MacKnight C, Rockwood K. Donepezil for treatment of dementia with Lewy bodies : a case series of
リハビリテーションは直に改善がみられなくても,ダウン
nine patients. Int Psychogeriatr 1998 ; 10 : 229―38
ヒルの経過を遅らせ,安定化する点で価値があり,FTD 初期
13.Litvan I, Agid Y, Calne D, et al. Clinical research criteria
に有効と思われる.患者の学習能改善は限界があり,患者の
for the diagnosis of progressive supranuclear palsy
社会精神的環境の改善に努める.円滑なリハビリテーション
(Steele-Richardson-Olzewski syndrome): report of the
には,患者や介護者の精神的ケアが有効であり,物理的な環
NINDS-SPSP International Workshop. Neurology 1996 ;
境改善も患者の安全には必要である.傾斜・移動洗面台・便
器の改善・リモートコントロールが患者の生活の場での
QOL の改善につながる.
47 : 1―9
14.Jackson JA, Jankovic J, Ford J. Progressive supranuclear palsy : clinical features and response to treatment
文
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