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カナダ国際私法における子の監護
Kobe University Repository : Kernel Title カナダ国際私法における子の監護(Custody of Children in Canadian Private International Law) Author(s) 西, 賢 Citation 神戸法学年報 / Kobe annals of law and politics,3:165204 Issue date 1987 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81005108 Create Date: 2017-03-28 カナダ国際私法における子の監護 西 賢 I 序 言 見 E 連邦離婚法 E 離婚法以外のコモン・口一規則 N 離婚法以外のコモン・口一州制定法 V 離婚法以外のケベ、ック州法 V I 国際条約 V I I 結 量 回 ロ 五 時 一 戸 I 序 説 ‘ 、 1 問題の所在 離婚した夫婦その他の者による子の奪取が国境又は州境をこえて争われると きは、深刻な国際私法問題、すなわち、裁判管轄権、準拠法及ぴ外国裁判の承 認、執行の問題を生ずる O わが国においても近年、国際的な子の奪取に関する 事件がいくつか報ぜられ、その適切な解決が追られている O ここでは比較国 ( 1 ) 最高判昭和 6 0年 2月2 6日、家庭裁判月報 3 7巻 6号 2 5頁。最高判昭和 5 3年 6月2 9日 、 判例タイムズ 3 6 8 号2 0 6頁。大阪地決昭和 5 5年 6月1 6日、判例タイムズ 4 1 7号 1 2 9頁。東 4 年 6月2 0日、家庭裁判月報2 2巻 3号 1 1 0頁。なお、大森政輔、「離婚後の 京家審昭和 4 2巻 4号 l 頁。海老沢美広、「子の州際 子の国際的奪い去りについて」、家庭裁判月報3 4 3号 9 3頁。道垣内正人、「イタリアから連れ去 的奪い去りと監護裁判」、ジュリスト 8 8巻 5号 7 1頁などを参照。 られた子の人身保護請求事件」、法律のひろば3 1 6 6 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 際私法の立場から、カナダ法を考察し、カナダ国際私法における子の監護問題 の所在とその解決を探求する D この研究によってカナダ国際私法の最近の動向 を理解し、あわせてわが国際私法上の解決にも参考として資することができれ ば幸いである O はじめに、具体的な問題点を明らかにするために、国際的な子の奪取に関す るカナダ法の指導的先例であるマッキ一対マッキ一事件を提示しよう O アメ リカ合衆国人夫婦につき、 1942年カリフォルニア州裁判所の離婚判決により、 長男の監護権がいったん父に与えられたが、 1945年に母に変更する命令が宣告 された。その変更命令の発効前に、父が子をオンタリオ州に伴ったので、母は オンタリオ州裁判所に人身保護令状を求める D オンタリオ州裁判所の第一審は、 1947年に、オンタリオ州における子の居所に基づく管轄権を行使し、子の最善 の利益にかんがみ、父を監護権者と決定した。オンタリオ州の控訴院もそれに 同意した D しかし、カナダ最高裁判所は、カリフォルニア州裁判所の判決に従 うことを回避することのみを目的として越境し、再審を求めることは許せない、 ( 2 ) 参 考 文 献 :J .G .C a s t e l,CanadianC o n f l i c to fLaws,2nde d .,1986,p p .3 3 3 .C a s t e l, D r o i ti n t e r n a t i o n a l p r i v e q u e b e c o i s, 1980, p p . 2 3 9 . C a s t el . ‘ Custody O r d e r s ,A l b e r t aLaw Review,Vo. l1 1( 1 9 7 3 ),p p .1 5 .E .C o l i n, J u r i s d i c t i o n and R e c o g n i t i o n' ‘ CustodyOrdersu n d e rt h eC o n s t i t u t i o n' ,TheC anadianBarReview,Vol .56( 1 9 7 8 ),p p . ‘I n t e r p r o v i n c i a lCustody' , TheC a n a d i a nBarReview,Vol . 56( 1 9 7 8 ),p p . 1 .C . D a v i e s, ,U niformL e g i s l a t i o n:TheI n t e r s t a t eandI n t e r p r o v i n c i a lC h i l d' ,U n i v e r s i t y 1 7 .D a v i e s‘ l29( 1 9 7 9 ),p p .1 3 8 .O . M .S t o n e ‘ ,J u r i s d i c t i o no v e rG u a r d o fT o r o n t oLawJ o u r n a l,Vo. ,A l b e r t aLawReview,Vo. l 17( 1 9 7 8 ), i a n s h i pandCustodyi nCanadaandi nEngland' p p .5 3 2 .J .M. E e k e l a a r, ‘I n t e r n a t i o n a lC h i l dA b d u c t i o n by P a r e n t s' ,U n i v e r s i t yo f l32( 1 9 8 2 ),p p .281 T o r o n t oLawJ o u r n a l,Vo. ) A.C.352.S . C . R .[ 19 5 0 )7 0 0 .本件に関し、 S . F .Sommerfeld ( 3 ) McKeev .McKee [ 1 9 51 及ぴ F . S .Wheatherstonの評釈、 TheC a n a d i a nBarReview,Vo. l26( 1 9 4 8 ),p p .1368, 1372.Vo. 127( 1 9 4 9 ),p .9 9 .Vo. l29( 1 9 5 1 ),p .536を参照。枢密院司法委員会への上 訴は 1949年に廃止されたので、本件はおそらくカナダ、国際私法上最後の枢密院への上 . G .P i e r s o n,Canada 訴であろう。なお、カナダ法に対する枢密院の影響について C andt h eP r i v yC o u n c i l,1960を参照。 カナダ国際私法における子の監護 1 6 7 と母の上告を認める O そこで、父が枢密院へ上告した結果は、オンタリオ州裁 判所には管轄権があり、独自の判断をなしうる O 外国の監護命令は外国判決の 効力を有せず、カリフォルニア州判決当時から二年間の顕著な事情の変更が考 慮され、父に監護権を許与するのが子の利益にかなう、と最終的に判示された。 2 憲法問題と法源 カナダは、連邦法のほか、十州の法が相違する異法地域であり、子の監護命 令を宣告すべき裁判所の管轄権及び州外命令の承認、執行に関する国際私法の 規則は複雑である O それはカナダ裁判所の権限が種々の法源に由来する事実に 基づく D しかし、至上の考慮は子の福祉に与えられる O 1 8 6 7年憲法第 9 1条 2 6号により「婚姻及び離婚 J ( M a r r i g ea n dD i v o r c e ) の事 項は連邦議会に、同法第 9 2条 1 3号により、「州内における財産権及び、市民権」 ( P r o p e r t ya n dC i v i lR i g h t si nt h eP r o v i n c e ) は州立法府に専属し、子の監護 に関する立法を制定する権限は、連邦議会及ぴ州立法府がともにこれを有する D 連邦の立法と州の立法との抵触を回避するために、連邦議会は、子の監護に関 し、それが離婚による婚姻解消の付随的救済として生ずる場合についてのみ立 法し、単に市民権としての監護については立法しない。連邦立法のもとで監 護を付与すべき裁判所の権限には、しかし、若干の制限がある O 第一に、監護 命令は離婚判決がなされない場合には付与されない。第二に、監護命令は「婚 c h i l d r e no ft h em a r r i a g e ) に関してのみ宣告されうる。離婚に関 姻による子 J ( ( 4 ) 1 8 6 7年英領北アメリカ法が、 1 9 8 2年憲法 5 3条及び付表により 1 8 6 7年憲法と改称され、 法として存続する。 ( 5 ) 1 9 6 7 6 8 年離婚法 1 0条( b ) 及び1 1条 。 1 9 8 5年離婚法 1 6条を参照。 ( 6 ) 1 9 6 7 6 8年離婚法 2条は「婚姻による子」を定義し、夫婦の子で問題の時に、十六 歳未満の者、又は十六歳以上で夫婦の責任のもとにあり、疾病、無能力その他の理由 で夫婦の責任を免れえず、もしくは生活必需品を自給できない者とする。 1 9 8 5年離婚 法 2条 1項も同旨である。 1 6 8 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) する連邦立法は、カナダにおける付随的救済命令の承認及ぴ執行の規定を含む が 、 1985年法はさらにその変更、取消及び停止に関する新しい規定を設けた O 連邦離婚法以外に、種々の州制定法が子の監護を規定する O のみならず、カ ナダ裁判所は、国王への忠誠によりその保護を受ける権利を有する未成年者の 監護と後見に関する命令を宣告すべき「国の親J ( 仰r e n spαt r i a e ) たる主権者 の地位に由来する固有の管轄権を有する O この管轄権は、カナダに住むすべて の未成年者に適用され、その者の国籍又は住所のいかんを問わず、管轄権内に おける財産の有無を問わない。短期であれ、移動中であれ、管轄権内における 未成年者の現存で十分であ弘この固有の管轄権は連邦立法に服さ字、また ある程度、州の立法にも含まれている O 法源の多様性にかかわらず、第一至上の考慮は子の福祉に与えられる。ひと たび裁判所が監護に関して管轄権をもつや、それは内国の法廷地法 ( J e xf o r i ) を適用す 2 0裁判所はいかなる他州ないし外国法の規定にもかかわらず、子 の最善の利益により導かれなければならないから、このことは論理的である O 子の福祉について裁判所は自らの評価をしなければならない。関連する他州な いし外国法の規定又は他州ないし外国裁判所の宣告する命令は正当な比重が与 ( 7 ) 1967-68年離婚法 1 、 1 。 1 7条を参照。 4条 5条 9 8 5年離婚法 1 ( 8 ) ReP .( G . E . )(AnI n f a n t ) ( 1 9 6 5 J C h .568a t582,588,5 9 2 .後掲注闘を参照。 ( 9 ) 固有の管轄権は州裁判所に存すると解するのが多数説で、判例上、連邦の立法管轄 権、なかんずく、 1967-68年離婚法 1 1条 2項との並存による調整が図られる。たとえ ば 、 Emersonv .Emerson( 1 9 7 2 )27D .( .L 3 d )278は、婚姻による子に関し付随的救 .R 済を与えるニュー・プランズウイック州離婚判決は、オンタリオ州における婚姻及び 離婚に依存しない子の監護についてのオンタリオ州の通常の管轄権の行使を妨げな い、とする。 C o l v i n,o p .c p .3 p .536を参照。 i p .c i , . tp .S t o n e,o , . tp ( 1 0 ) C a s t e l,C a n a d i a nC o n f l i c to fLaws,o p .c i , . tp .3 4 3 .C a s t e l,D r o i ti n t e r n a t i o n a lp r i v e q u e b e c o i s,o .2 4 5 . p .c i , . tp カナダ国際私法における子の監護 1 6 9 えられるべきであるが、決定的ではない O 準拠法は法廷地法であるから、カナダにおける子の監護に関する国際私法問 題は、もっぱら、裁判管轄権の決定と他州ないし外国監護命令の承認、執行と に集中する D それゆえ、以下には、裁判管轄権及ぴ州外監護命令の効果を中心 に、カナダ法の法源の相違に応じて、子の監護に関する国際私法の問題をやや 詳しく f 食言すしよう O 今 一d ‘ セ ( l l ) M c K e ev .M c K e e( 19 51 ] A .C .3 5 2a t3 6 5 .前掲注 ( 3 )を参照。オンタリオ州の 1 9 8 2 年法により修正された 1 9 8 0年の少年法改正法 2 4条 1項は、「子の監護又は面接交渉に 関する本編による申立の本案は、子の最善の利益に基づいて決定されるものとする」 と定める。 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 87 ) 1 7 0 E 連邦離婚法 1 1967年一68年離婚法 カナダに統一的な離婚法を導入した 1967-68年離婚法(離婚に関する法律) は、破綻主義に立つ 1985年離婚法(離婚及び付随的救済法)によって改正さ れたが、離婚の付随的救済としての子の監護は、新法の内容を理解するために も 、 1967-68年法の考察から始める必要があろう O 1967-68年離婚法第 5条 1項は、離婚法の管轄権として、申立人がカナダに 住所 (domicile) を有すること、及ぴ申立人又は相手方が申立の直前にその州 に一年間通常居所 (ordinaryresidence) を有し、その期間のうち少くとも十ヵ 月は現実居所 ( a c t u a lr e s i d e n c e ) を有することを要件とする D 離婚管轄権の基礎たる住所は定義されないので、制定法の別段の規定がない かぎり、それはコモン・ローの原則に従って確定される o 1967-68年法はカナ ダ住所の存在を承認する。カナダ裁判所の離婚管轄権を樹立するすべての目的 のために、第 6条 1項は、既婚婦人に夫の住所からの独立住所を取得する能力 を付与する。すなわち、既婚婦人の住所は、彼女が未婚であったかのごとく、 かつ、未成年であるときは成年に達したかのごとく確定されるものとする。 ( 12 ) D i v o r c eA c t1967-68( A c tr e s p e c t i n gD i v o r c e ),R . S . C .1970,c .D-8.村井衡平、「カ 、 1 7 7頁以下。 1967-68年離婚法までは連 ナダ、の離婚法」、神戸学院法学 9巻 2 ・ 3号 邦の立法権限は行使されず、各州、│はカナダ連合に加入当時のイギリス法を保存し、一 般には 1 8 5 7 年の離婚及ぴ婚姻訴訟法によった。ケベック州とニューファンドランド州 9 6 8年までは住所を基準に法 では離婚はできず、カナダ議会の特別な決定によった。 1 廷地法が適用され、 1 9 3 0年連邦の離婚管轄権法 D i v o r c eJ u r i s d i c t i o nA c t1930,c .1 5 . R .S . C .1952 c .84により、二年間遺棄された妻に遺棄までの夫の住所地州におけ る離婚訴訟の提起が認められた。 ( l 3 ) D i v o r c eA c t1985( A c tr e s p e c t i n gd i v o r c ea n dc o l l o r a r yr e l i e f ),S . C .1986,c .4 . n H . J .R e i n h a r d ‘ ,D asn e u ek a n a d i s c h eS c h e i d u n g s r e c h t ' ,P r a x i sd e sl n t e r n a t i o n a l e n g .( 1 9 8 7 ),S .258を参照。 P r i v a t u n dV e r f a h r e n s r e c h t,7J カナダ国際私法における子の監護 1 7 1 通常居所、現実居所及ぴ居所につき規定される期間は、 1 967-68年離婚法は これを定義せず、裁判所によって解釈される O 離婚法はカナダ居所でなく、個々 の州における居所を想定していることは明らかである O 離婚申立が夫婦問で競合的に管轄権を有する二つの裁判所に係属する場合に は、申立が異なる日に提起され、最初に提起された申立が申立後三十日以内に 取下げられないときは、申立が最初に提起された裁判所が専属管轄権を有し、 他の申立は取下げられたものとみなす。申立が同じ日に提起されて、いずれの 申立も申立後三十日以内に取下げられないときは、連邦裁判所事実審理部が当 事者間に救済を許与すべき専属管轄権を有し、他の裁判所に係属中の申立は、 連邦裁判所の命令により連邦裁判所事実審理部に移送されるものとする(5条 2項)。 離婚法第 5条により管轄権を有する裁判所は、婚姻による未成年の子がどこ にいようとも、また州、同しくは外国の立法又は国の親たる国王大権に基づく当 該裁判所その他裁判所による子の監護に関する決定が以前になされているにも 1条により監護の争点 かかわらず、離婚仮判決討を許与するに際して、離婚法第 1 につき決定しうる D この解決は、監護命令はそれを宣告した裁判所が、時に応 じて、これを変更し、又は取消しうると規定する離婚法第 1 1条 2項、及ぴ同法 1条に基づく監護命令をカナダの他の上位裁判所の命令と同様に執行するた 第1 めに当該他の上位裁判所への登録を規定する同法第 1 5条によって支持される。 たとえば、 1 9 7 3年のニュー・プランズウイック州最高法院控訴部によるギレ スピ対ギレスピ事件の判決は、オンタリオ州にいる子の監護を父に認めるオ ンタリオ州裁判所の命令に優先して、ニュー・プランズウイック州裁判所に提 起した離婚の付随的救済としての監護の管轄権を認め、その行使には子の所在 のいかんを問わないとする O その判示にいわく、「連邦議会が、離婚法第 1 0条 む4 ) Gi 1 1e s p i ev .G i l l e s p i e( 1 9 7 3 ),3 6D .L . R .( 3 d )4 2l . 1 7 2 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) b号、第 1 1条 1項 C 号、第 1 1条 2項及び第 1 5条に含まれる婚姻による子の監護 に関する付随的規定を制定したとき、これまで州立法にその権限が由来する裁 判所のみが行使してきた監護に関する一般管轄権から、解消が求められる婚姻 による子に限定される管轄権の部分を切り分け、離婚管轄権を行使する裁判所 にかかる婚姻によるいかなる子にも適用される命令を宣告する権限を付与し た」と O ギレスピ事件におけるこの判示が、 1 9 7 6年のブリティッシュ・コロンピア州 控訴院のホール及ぴホールに関する事件において適用される O 同控訴院は、 ブリティッシュ・コロンピア州に子を連れてきた父に監護を認めたブリティッ シュ・コロンピア州裁判所の命令の後に、ケベック州の裁判所により妻に許与 された離婚に付随的な監護命令は、以前に宣告されたブリティッシュ・コロン ピア州の命令に優先する、と判示した。 9 7 6年にラムジ対ラムジほか事件においてオンタリオ州控訴院は、 また、 1 マニトノサト│女王座裁判所の離婚判決により妻に認められる子の監護及び扶養料 命令がオンタリオ州に登録された事案において、オンタリオ州の上位裁判所は マニトパ州命令を変更する管轄権がない、と判示した。しかし、同裁判所は、 離婚法第 1 1条 2項に基づき付随的救済として発せられた監護命令によっては、 属地的管轄権内の子の監護に関する国の親たる州管轄権は剥奪されない、との 見解である。 離婚に付随して裁判所により宣告される監護命令は、カナダを通じて法的効 1 4条)、監護に関し、州の制定法に基づくにせよ、国の親としての 果を有し ( 裁判所の役割に基づくにせよ、他のすべてのカナダ裁判所の管轄権に優先する D 1967-68年法のもとでは、離婚に伴う監護命令は、当該命令を宣告した裁判所 ( l 5 ) a t430 ( l 6 ) ReH a l landH a l l ( 19 7 6 ) 70D .L . R .( 3 d )4 9 3 . ( 1 カ Ramsayv .Ramsaye ta . l( 1 9 7 6 ),70D .L .R .( 3 d )4 1 5 . カナダ国際私法における子の監護 1 7 3 のみがこれを変更しうるのであり、他の裁判所は、おそらく、監護と区別され る後見手続において、又は連邦の命令を法廷地州に登録すべき手段がとられな いかぎり国の親たる裁判所の管轄権が行使できるとの理由で仮監護の申立がな されるとき、又は緊急時に暫定的な保護監護命令が求められる場合以外には監 護命令を宣告しえない O 1967-68年離婚法に基づく連邦管轄権は、州、│の管轄権に優先する D 同法第 1 1 条により監護命令を宣告すべき権限は、離婚管轄権に付随的であり、さように 宣告された命令を変更又は取消すべき権限も当然に主たる離婚の管轄権に付随 的と解されるのである o しかし、なかんずく、監護命令が子の居住する他州に おいて登録されるとき、子をめぐる事情又は環境の変更による当事者の便宜は 大いに無視され、子の最善の利益が妨げられるおそれがあり、法改正の必要性 が指摘された O 2 1 9 8 5年離婚法 ‘匂 住所の確定はしばしば困難である。それゆえ、 1 9 8 5年離婚法は離婚管轄権の ための連結素たる住所を廃止して管轄規則を単純化する O すなわち、同法第 3 条 1項は、離婚の管轄権を手続開始の直前少くとも一年間、夫婦のいずれかが ( 1 8 ) ReH a l landH a l l ( 19 7 6 J 70D .L . R .( 3 d )493前掲注閥抗 504において、裁判所は、 0条又は 1 1条に基づき監護命 法廷地にいる子の安全に影響する緊急の場合に、離婚法 1 令を発した裁判所の専属管轄権に対する例外が存し、子の保護のための暫定的監護命 令が宣告されうる、との見解を表明する。 ( 1 9 ) ReH u t c h i n g s( 1 9 7 6 ),71D .L .R .( 3 d )356において、ニューファンドランド州控訴院 は、オンタリオナ1 ' 1で離婚に伴う監護権を許与された母は、ニューファンドランド州で 子を監護する第三者に対し絶対的権利を主張できない、と判示する O グシェー裁判官 は、オンタリオ州で宣告された監護命令がニューファンドランド州裁判所に登録され た場合には、命令の目的物がニューファンドランド州に居住するとき、これを変更す る権利はニューファンドランド州裁判所に存すべきで、現行法上存しないこの権利を t3 7 1 . 連邦議会が解決すべきである、との意見を述べる。 a 1 7 4 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 通常居所 (ordinaryresidence) を有する州内における裁判所に認める o 州内 における通常居所という単純な管轄基準は、裁判所により定義されるべきであ り、裁判所の判断が注目される D けだし、その定義は、カナダ住所と十ヵ月の 現実居所の廃止を償うために、以前よりも厳格に定義されるかもしれない。も ちろん、立法者の意思は離婚の取得を容易にするために管轄基準を緩和するこ とであるから、通常居所は住所と同視されえないことは明らかである O 競合管轄の規則は 1967-68 年法と実質的に相違しない。すなわち、同じ夫婦 問の離婚手続が二管轄裁判所に係属して、異なる日に開始し、最初に開始した 手続が三十日以内に取下げられない場合には、手続が最初に開始された裁判所 が専属管轄権を有し、第二の手続は取下げられたものとみなす。同じ夫婦問の 離婚手続が二管轄裁判所に係属し、同じ日に開始し、開始後三十日以内に取下 げられない場合には、連邦裁判所事実審理部が専属管轄権を有し、離婚手続は 連邦裁判所の指令に基づき連邦裁判所事実審理部に移送される(3条 2項 、 3 項 ) 。 離婚の管轄裁判所は、夫婦のいずれかもしくは双方、又は第三者の申立に基 づき、いかなる又はすべての婚姻による子の監護もしくは面接交渉、又は監護 及び面接交渉に関する命令又は仮命令を宣告しうる ( 4条 。 1 6条 1項 、 2項) 0 管轄裁判所はまた、従前の夫婦のいずれかもしくは双方、又は第三者の申立 に基づいて、監護命令又はそのいかなる規定をも、将来にわたり又は遡及的に、 変更、取消又は停止する命令を宣告しうる ( 1 7条 1項 b号) 0 従前の夫婦以 外の第三者は、裁判所の許可なしに申立をなしえない(17 条 2項 ) 。 同 草 案 C-47は、ハーグ会議の常居所 ( h a b i t u a lr e s i d e n c e ) の語を使用したが、最終 的に通常居所に確定された。 信1 ) 草案 C-47は、申立権者の範囲を夫婦の一方に限ったが、双方又は第三者にも拡大 される。 凶 草 案 C-47は、申立権者を従前の夫婦の一方に限っていた。 カナダ国際私法における子の監護 1 7 5 変更手続における裁判管轄権は第 5条及び第 6条が入念に規定する O まず、 変更手続における管轄権は、従前の夫婦のいずれかが手続開始当時、州内に通 常居所を有するとき、又は従前の夫婦の双方が裁判所の管轄権を承諾するとき に、その州の裁判所にある(5条 1項)。管轄権の競合に際して、変更手続が 異なる日に二裁判所に係属する場合には、最初に開始した手続が三十日以内に 取下げられないときは、手続が最初に開始した裁判所が専属管轄権を有し、二 手続が同じ日に開始した場合には、三十日以内にいずれの手続も取下げられな いときは、連邦裁判所事実審理部が専属管轄権を有する(5条 2項 、 3項 ) 。 6条による監護、面接交渉命令の申立が離婚手続又は付随的救済手続にお 第1 いて州内裁判所になされ、異議が申立てられ、かっ命令が求められる子が他州 と最も実質的に関連しているときは、裁判所は以前の夫婦の一方による申立に 基づき、又は職権により離婚手続又は付随的救済手続を当該他州の裁判所に移 送しうる (6条 1項 、 2項)。監護命令に関する変更命令の申立が変更手続に おいて州内の裁判所になされる場合も同様に移送しうる(6条 3項)0 かよう な手続が移送される他州の裁判所は、この手続を審理、決定すべき専属管轄権 を有する(6条 4項 ) 。 裁判所が他の裁判所により宣告された監護命令に関する変更命令を宣告する 場合には、裁判官又は裁判所職員により認証される変更命令の謄本を、当該他 の裁判所に送付するものとする。 ( 1 7条 1 1項) 0 第2 0条によれば、監護命令は、 最初の命令であれ、変更、取消又は停止された命令であれ、カナダを通じて法 的効果を有し、州内のいかなる裁判所にも登録されて当該裁判所の命令と同様 に執行されうる、又は当該州の法律が定めるいかなる他の方法によっても執行 されうる O 1 9 8 5年離婚法第 1 7条による監護命令変更の管轄権は、 1967-68年離婚法の硬 直性を是正し、監護命令宣告後の婚姻による子をめぐる事情と環境の変更を考 慮、して、従前の夫婦が管轄権を承諾する他州裁判所による変更を認め、また子 1 7 6 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) が最も実質的に関連している州への手続の移送を認めることによって、なかん ずく、子の最善の利益をめざす改正である D もちろん、それは離婚法以外のコ モン・ロー及ぴ州制定法による子の所在に基づく管轄権とは異なるけれども、 子の利益保護を図る点では共通性を有し、この改正のもつ意義は非常に大きい。 1 7 7 カナダ国際私法における子の監護 E 離婚法以外のコモン・口一規則 1 裁判管轄権 コモン・ロー諸州において、裁判所が連邦離婚法以外で行動するとき、特別 な制定法規がなければ、通常の抵触規則による O 裁判管轄権の第一の基礎は、州内における子の通常居所 (ordinaryresidence) である O ピー(ジー・イー) (未成年者)に関する事件において、 1965年イギ リス控訴院は、 1957年にユダヤ人の父母が子とともにイングランドに来ていた ところ、 1962年に父が母の同意なしに子をイスラエルに連れ出す場合に、子の 通常居所がイングランドにあり、子が英国民であると否とを問わず、イギリス 裁判所は国の親たる管轄権を有する、と判示する O デニング卿のこの判示は、 1 9 7 1年ニールセン対ニールセン事件においてオンタリオ州高等法院がこれに 従う。扶養料、監護の訴訟提起当時、子とその両親はオンタリオ州に居所を有 していた。 1970年父により子はブリティッシュ・コロンピア州に移動させられ た。裁判所は、たとい子の現存地の裁判所に管轄権があっても、子の通常居所 の裁判所が管轄権を有し、通常居所はそこからの子の内密の移動により変更し ない、と判示して、オンタリオ州の管轄権を認める D かくして、子がもはや州内に通常居所を有せず、子の移動がなんら誘拐の要 素を伴わないときは、裁判所は、管轄権を辞退するであろう O 他方、子が州 内に通常居所を有していたが、強制的に一方の親によって移動させられたとき は、裁判所は、州における通常居所が継続するとの理由で、しばしば管轄権を ω R eP .( G . E . )( A nI n f a n t ) ( 1 9 6 5 ) C h .5 6 8 . ( 2 4 ) N i e l s e nv .N i e l s e n ( 1 9 7 1 ) 16D .L .R .( 3 d )33 位 。 M anningsv .Warford( C o s t e l l o )( 1 9 7 9 ),9 R . F .L .( 2 d )153において、オンタリオ州に 居住する未婚の母が、ニュー・ヨーク州における婚外子の父の姉夫婦の監護におかれ た子に対する監護権を主張したが、オンタリオ州高等法院は、子の通常居所がオンタ リオ州にないことを理由に管轄権なし、と判示する。 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) 1 7 8 行使するのである。 命令の宣告が子の最善の利益であると裁判所が認定するときは、州内におけ る子の所在を理由に管轄権を行使しうる O たとえば、ウォーカ一対ウォーカ一 事件において、 1 9 7 4年 ブ リ テ ィ ッ シ ュ ・ コ ロ ン ビ ア 州 最 高 法 院 は 、 ア ル コ ー ルの影響下にある妻からブリティッシュ・コロンピア州に連れてきた子の監護 を夫たる父が求めた事案において、カリフォルニア州裁判所による離婚判決及 び母に認める監護命令にかかわらず、ブリティッシュ・コロンピア州裁判所は 子の福祉を最高に考慮すべきであり、母の監護は子に有害であって、カリフオ ルニア州判決は監護問題を十分に審理しないで、宣告されたことにかんがみ、父 に監護を認める。 州内における子の現存又は通常居所は、管轄権の排他的基準ではない。裁判 所は州内における子の監督者の居所を根拠に管轄権を行使することもできる D 州内における子の住所は裁判所に管轄権を与えうるが、それは近年信用されな くなっている O 通常居所は子が両親と居住した最後の場所と定義されている。通常居所はそ H a r n i s hv .H a r n i s h( 1 9 7 7 ),4 R . F .L .( 2 d )105において、サスカチュワン州女王座裁 判所は、子とそれを現実に統制する父が裁判所の属地的管轄権の外たるアルパータ州 にいても、子の通常居所は、母の同意なしに一方の親たる父によって変更されえず、 サスカチュワン州にあるから、管轄権あり、と判示する。 制 Walkerv .Walker ( 1 9 7 4 J,3W.W.R.4 8 . 凶 D e s i l e t sv .D e s i l e t s( 1 9 7 5 ),60D .L .R .( 3 d )546において、マニトパ州裁判所が妻に 監護権、夫に面接交渉権を与えたのちに、妻が子をサスカチュワン州に移動させて一 方的監護命令をえた場合に、マニトパ州控訴院は、サスカチュワン州に子がいるゆえ にその州の裁判所も監護の管轄権があり、また子の住所が父の住所に従い、マニトパ 州に子が関連を有するからマニトパ州裁判所も管轄権ありと判示し、サスカチュワン 州裁判所の命令を尊重して父の求めるマニトノサト│における新しい審理を命じない。 ReVaderaandVadera ( 1 9 7 2 J 23D .L . R .( 3 d )289においてオンタリオ州高等法院は、 父が母の同意なしに子をインドに連れ出し、自らはオンタリオ州にとどまる場合に、 本案審理継続中、子を母の監護に復帰させる命令を宣告した。 同 カナダ国際私法における子の監護 1 7 9 こから一方の親による子の内密な移動によって変更されえない。しかし、子 が両親又は監護する一方の親の同意をえてその管轄地域から移動させられたと きは、子はもはやその管轄権内に居所を有しない。子の監督者と子が裁判所 の属地的管轄権の外にあるとき命令を執行することができない事実は、管轄権 を行使する裁判所によって大きな比重が与えられなければならない。かかる場 合における命令の宣告は裁量的である D 裁判所が管轄権内に通常居所も所在を も有しない子に監護命令を宣告するのは、例外的な事情がある場合のみであ るO 子がナト比真実かつ実質的な関連を有する場合には、裁判所は管轄権を行使し うる O 子が奪取された場合には、子が連れてこられた州の裁判所は、その管轄権の 行使を辞退するか、又は子が通常居所を有した州へ復帰されるべきことを命令 するであろう O 子が通常居所を有する州の裁判所は、子が連れてこられた州 , ‘持 同 N i e l s e nv .N i e l s e n( 1 9 7 1 J 16D .L . R .( 3 d )3 3 .前掲注凶 a t38-39.ReP .( G . E . )(An t586におけるデニング卿の判示を参照。デニン I n f a n t )( 1 9 6 5 JC h .568前掲注側 a グ卿はいわく、子の通常居所は一方の親の同意なしに他方の親により変更できない。 子を連れ去られた親が変更を黙認するか、又は六ヵ月、事情によれば三ヵ月の提訴の 遅延が黙認とみなされるまでは、変更されない、と。 倒 H a r n i s hv .H a r n i s h( 19 77),4R .F .L .( 2 d )1 0 5 .前掲注闘を参照。 1 ) N o r d w a l lv .N o r d w a l l( 1 9 5 9 ),28W.W.R.260a t262においてブリティッシュ・コ ロンピア州最高法院は、 Hopev .Hope( 1 8 5 4 ),4DeG.M.&G.328に言及して、「子及 ぴ子の監督者が裁判所の命令が対人的に執行されうる領域内にいない事実は、裁判所 から管轄権を奪わないが、裁量の行使に較量すべき事項である」と判示し、婚姻の子 とデンマークに住む妻の監護申立に対し、命令執行の不可能な事情を考慮して、それ e s i l e t sv .D e s i l e t s を拒絶した。誘拐のごとき違法行為は例外的事情となる。なお、 D .L . R .( 3 d )546,前掲注闘を参照。 ( 1 9 7 5 ),60D 同 D e s i l e t sv .D e s i l e t s( 1 9 7 5 ),60D .L .R .( 3 d )546前掲注闘を参照。さらに後掲の州外 監護命令執行法を参照。 功 。 Jonassonv .J o n a s s o n( 1 9 7 7 ),2R . F .L .( 2 d )311において、ブリティッシュ・コロン ピア州最高法院は、シンガポールに通常居所を有する子を父がブリティッシュ・コロ ンピア州に誘拐して監護権の許与を求めた事件において管轄権を辞退する。 。 1 8 0 1 9 8 7 ) 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( の裁判所が管轄権を行使して奪取者に監護を付与するときは、管轄権の行使を 辞退するであろう。言い換えれば、奪取の争点は、事件の審理が子の最善の 利益にかなうときは、無視されうる O 以上のごとき規則は、今日、その大部分は、制定法規によって代られている O 2 州外友び外国監護命令の執行 コモン・ローでは、連邦離婚法の規定とは別に、他州又は外国で許与された 監護命令は、取消又は変更することができない。唯一の争点は間接的な承認又 は執行である O 管轄ある外国裁判所により宣告された監護命令に関し、他の争 点にかかわらず、至上の考慮は子の福祉であり、監護事項は特に公判裁判官の 裁量に属する D かくて、子の監護に関する他国裁判所の命令は、カナダの公判 裁判官に拘束的ではなく、公判裁判官は、外国の命令であることを含む関連す る諸要素を考慮して、事項に独立な判判を行うべく要求される D 関連するすべての要素に照らし、競合するあらゆる考慮、を正当に較量したの ちに形成されるカナダ公判裁判官の監護に関する意見は、上訴の結果、かれが 言呉った原則に基づいて行動し、又は重大な証拠を無視したのでなければ、妨害 されるべきではない。従って、かれが子の福祉という至上の考慮、に従い、かっ 他方の親のための外国監護命令を較量したのちに、一方の親に監護を付与する 場合には、かれの監護命令はそのまま認められる o かれは子の最善の利益の観 点から事項を独立に探求する権能がある D 有効な外国の命令は外国判決の効果を有しない。従って、礼譲はその執行を 要求しないで、適切な監護の決定においてそれに大きな比重が与えられるべき 同 倒 同 D e s i l e t sv .D e s i l e t s( 1 9 7 5 ),60D .L .R .( 3 d )546前掲注闘を参照。 Walkerv .Walker ( 19 7 4 J ,3W.W.R .48前掲注闘を参照。 McKeev .McKee ( 1 9 71 ] A . C .3 5 2 .Walkerv .Walker ( 1 9 7 4 J ,3W.W.R.48前掲 注闘がこれに従う。 カナダ国際私法における子の監護 1 8 1 ことのみを要求する。それゆえ、外国裁判所によって宣告された監護命令は、 カナダ裁判所がその子に関して適切と考える監護命令をカナダにおいて宣告す ることを排除しない。そこで、外国の監護命令は、本来かっ外観上も最終的で ないことが認められる O それは、宣告当時以外には、子の監護に関して何事も 決定しない。けだし、それはいずれの当事者にも新しい命令を申立てる自由を 留保する O 今日、これらの規則は、たいてい、特別な立法規定によって代られている O ~ 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) 1 8 2 U 離婚法以外のコモン・口一州制定法 近年、若干のコモン・ロー州は、裁判所に対する監護、監護の付随的事項及 ぴ面接交渉の申立は、子の最善の利益に基づいて決定しなければならない、と 特に規定する新しい制定法を採択した。この制定法はまた、同一の子の監護に 関して、二以上の州による競合的な管轄権の行使が回避されるべきことを認め るO かくて、裁判所は、例外的事情のないかぎり、事案が子の密接な関連を有 する他の場所において管轄権を有する裁判所によって決定されるのが一層適切 な場合には、管轄権の行使を慎しみ、又は辞退する、と規定される O 立法はま た、正当な手続による監護権の決定に代えて子を奪取するのを思いとどまらせ るべく試みる O 最後に、それは監護、面接交渉命令の一層効果的な執行と州外 で宣告された監護、面接交渉命令の承認、執行とを規定する O 新しい制定法の なかでは、後に述べる 1 9 8 1年の統一監護管轄権及ぴ執行法のモデルとなった オンタリオ州の 1 9 8 0年少年法改正法が重要である O 1 裁判管轄権 オンタリオ州の 1 9 8 0年少年法改正法第2 2条(統一法 3条 1項)は次のごとく 規定する O 第2 2条 1項 裁判所は次の場合にのみ子の監護又は面接交渉の命令を宣告 すべき管轄権を行使するものとする O ( a ) 命令の申立開始当時、子がオンタリオ州(制定管轄権)内に常居所 UniformC u s t o d yJ u r i s d i c t i o nandE n f o r c e m e n tAct.この統一法の本文は ] . G .C a s t e l, C o n f l i c to fLaws,C a s e s,N o t e sandM a t e r i a l s,5 t he d .,1984,9-36以下に採録されて いる。 ( 3 8 ) C h i l d r e n ' sLawReformAct,R . S . O .1980,c .68a sa m .1982,c .2 0 .な お、 Childand . N . B .1980,c .C-2.1の1 3 0条以下を参照。 F a m i l yS e r v i c e sandFamilyR e l a t i o n sAct,S 倒 カナダ国際私法における子の監護 1 8 3 ( h a b i t u a lr e s i d e n c e ) を有するとき O ( b ) 子がオンタリオ州(制定管轄権)内に常居所を有しなくとも、裁判所が 次の事項を確信するとき D ( i ) 命令の申立開始当時、子がオンタリオ州(制定管轄権)内に現存する こと O ( i i ) 子の最善の利益に関する実質的証拠がオンタリオ州(制定管轄権)内 において利用できること O ( i i i ) 子の監護又は面接交渉のいかなる申立も子が常居所を有する他の場所 における州外裁判所に係属していないこと O ( 川 子の監護又は面接交渉に関するいかなる州外命令もオンタリオ州(制 定管轄権)の裁判所により承認されていないこと O ( v ) 子がオンタリオ州(制定管轄権)と真実かつ実質的な関連 ( ar e a l ands u b s t a n t i a lc o n n e c t i o n ) を有すること O い ) i 便宜を考慮して、管轄権がオンタリオ州(制定管轄権)内で行使され るのが適切であること O 真実かっ実質的な関連は、居所のごとき連結素であるか、又は管轄権内にお ける祖父母の居所又は子がその地で学校へ行く事実のごとき社会的な関連であ るのかが問われる D おそらく、その両者であろう D 子は、かれが両親と居住する場所に常居所を有する ( 2 2条 2項 a号。統一法 3条 2項 a号) 0 両親が別居中には、別居協定により、又は他方の親の同意、 黙示の同意もしくは黙認、又は裁判所の命令により、一方の親と居住する場所 2 2条 2項 b号。統一法 3条 2項 b号 ) 。 に常居所を有する o ( 倒 マニトパ州の住所及び常居所法は、子の住所及ぴ常居所は両親の共通住所及び共通 常居所とすると規定し、住所と常居所を統一的に把握する。 TheD o m i c i l ea n dH a b i t . M .1982-83-84,c .80,s .9 .マニトパ州法改正委員会の報告書 u a lR e s i d e n c eA c t,S .1 5 .を参照。 R e p o r tonTheLawo fD o m i c i l e,1982,p 1 8 4 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) 子はまた、重要な期間中、恒常的基礎にもとづき、一方の親以外の者と居住 する場所に常居所を有しうる ( 2 2条 2項 C 号。統一法 3条 2項 C 号 ) 。 子の監護者の同意なき子の移動又は引取は子の常居所を変更しないことは注 目すべきである O 但し、子がその許から移動又は引取られた者による黙認又は 訴訟開始の不当な遅延があったときはこの限りでない ( 2 2条 3項。統一法 3条 3項 ) 。 オンタリオ州の裁判所はまた、次の場合には、子の監護又は面接交渉に関す る州外命令を宣告又は変更する管轄権を行使しうる O すなわち、 第2 3条(統一法 4条) …・・ ( a ) 子がオンタリオ州(制定管轄権)内に現存し、かつ、 ( b ) 裁判所が、以下のいずれかの場合に、蓋然性を考慮して、子が重大な損 害をこうむるであろうことを確信するとき D ( i ) 子が子の法律上の監護権者の監護にとどまるとき。 ( i i ) 子が子の法律上の監護権者の監護に復帰させられるとき O ( iリ 子がオンタリオ州(制定管轄権)から移動させられるとき O 監護又は面接交渉の管轄権を有する裁判所は、管轄権がオンタリオ州(制定 管轄権)外で行使されるのが一層適切であるとの意見であるときは、管轄権の 行使を辞退することができる ( 2 5条。統一法 5条)。連邦離婚法上の離婚訴訟 が開始されると、オンタリオ州のこの制定法に基づく子の監護又は面接交渉に 関する申立で未決定のものは、裁判所の許可をえないかぎり、中止される ( 2 7 条 ) 。 興味深いのは、裁判所が決定を宣告する前にオンタリオ州(制定管轄権)外 の場所からさらに証拠を受領する必要があるとの意見をもっときは、裁判所は、 オンタリオ州(制定管轄権)外の場所の法務長官、司法大臣その他の適切な司 法職員に必要な支持資料を送付し、指名された者がその場所の適切な法廷に出 頭して申立の主題に関する証拠を提出することを要求するために、当該法務長 カナダ国際私法における子の監護 1 8 5 官、司法大臣その他の可法職員が必要な行為をすること、及び当該法務長官、 司法大臣その他の司法職員又は法廷が当該法廷に提出された証拠の認証謄本を 裁判所に送付することを要請できることである o ( 3 3条 1項。統一法 1 3条 1項)。 逆に、法務長官が州ザトの法廷から上記の要請に類似の要請及び必要な支持資料 を受領するときは、この要請と資料を適切な裁判所に付託するのが法務長官の 3 4条 1項。統一法 1 4条 1項)。 義務である ( オンタリオ州のこの制定法はまた、州から不法に移動させられようとする子 を探求し、つかまえることを規定する ( 3 7条 、 3 8条。統一法 1 1条 、 1 2条)。申 立に基づき、子がオンタリオ州(制定管轄権)内に違法に移動させられ、又は 違法に拘留されると確信する裁判所、又は管轄権を行使しえない、もしくはそ の行使を辞退した裁判所は、次のいずれかー又は二以上をなしうる O すなわち、 第4 1条(統一法 6条)・…・ 1.裁判所が子の最善の利益と考えるごとき監護又は面接交渉の中間命令を 宣告すること。 2 . 次の条件のーに服して申立を中止すること D 申立当事者が州外裁判所において類似の手続を急速に開始するとの条 件 。 11. 裁判所が適切と考えるごとき他の条件。 3 .裁判所が適切と考える場所に子を復帰させることを当事者に命じ、かつ、 裁判所の裁量において、子及び申立審理の当事者又は証人の合理的な旅費そ の他の費用の支払を命ずること O 1 8 6 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 2 州外監護命令執行法 アルバータ州、ノパ・スコシア州、サスカチュワン州その他のコモン・ロ} 数州は、 1 9 7 4年の統一州外監護命令執行法を採択した O 統一州外監護命令執 行法は、白州裁判所は、申立に基づき、監護命令がその裁判所により宣告さ れたごとく州外監護命令を執行するものとし、かつそれに効果を与えるために 必要と考える命令を宣告しうる、と定める。但し、提示された証拠に基づき、 当該監護命令の影響を受ける子が、監護命令の宣告時に、監護命令の宣告さ れた州又は国と真実かつ実質的な関連を有しなかったと確信する場合はこの限 りでない(アルパータ州法 3条、サスカチュワン州法 3条) 0 裁判所は、監護命令の影響を受ける子が、当該監護命令の宣告され、又は最 後に執行された州又は固と、変更申立の時に、真実かっ実質的な関連を有しな いこと、及び、子が法廷地州と真実かつ実質的な関連を有するか、又は監護命 令により影響を受けるすべての当事者が法廷地州に居所を有することを確信す るときは、申立に基づき、当該監護命令がその裁判所により宣告されたごとく、 位 。 E x t r a p r o v i n c i a lE n f o r c e m e n to fCustodyOrdersAct,R . S . A .1980,c .E 1 7 .R e c i p r o c a lE n f o r c e m e n to fCustodyOrdersAct,S . N . S . 1976,c . 15E x t r a p r o v i n c i a lCustody . S .1978,c .E-18( S u p pふ D a v i e s ‘ ,I n t e r p r o v i n c i a lCustody' , OrdersE n f o r c e m e n tAct,S o p .c i , . tp p .17を参照。 仰裁判所」とは子の監護を許与する権限を有する制定州の裁判所をいう。 「監護命令」とは、いかなる者にも子の監護を許与する、又は他人に子との面接交 渉権を許与する州外裁判所の命令又は命令の部分をいう。この統一法は監護取極には 言及しない。州外裁判所とは子の監護を許与する権限を有する制定州外の裁判所をい う。離婚法により許与された監護命令を変更する管轄権は、この統一法上、存しない。 凶 「子」とは十八歳未満の者をいう。 凶 G e r g e l yv .G e r g e l y( 1 9 7 8 ),89D .L .R .( 3 d )359において、サスカチュワン州女王座 部裁判所は、問弁│の州外命令執行法 3条に定める子と監護命令の宣告州との真実かっ 実質的な関連について、子が夫によりサスカチュワン州からブリティッシュ・コロン ピア州に移動させられ、ブリティッシュ・コロンビアナト比の唯一の関連が夫の両親の 居所である場合に、ブリティッシュ・コロンピア州裁判所により夫に許与された監護 命令はサスカチュワン州においては執行できない。けだし、子はプリティッシュ・コ ロンピアナト山真実かつ実質的な関連を有しない、と判示した。 同 カナダ国際私法における子の監護 1 8 7 州外監護命令を命令により変更することができる(アルバータ州法 3条 1項 、 サスカチュワン州法 4条 ) 。 人はこの制定法に基づく申立をなすか、又はそれに異議を申立てる目的のみ で法廷地州にいるときは、法廷地州に居所を有するとはみなされない(アルパー ) 。 タ州法 3条 2項、サスカチュワン州法 5条 州外監護命令の変更において、裁判所は、変更を求め、又はそれに異議を申 立てるいかなる者の希望又は利益にもかかわらず、子の福祉に第一の考慮を与 えるものとする O そして、監護問題を至上に重要なものとして扱い、面接交渉 の問題を第二次的なものと扱う O さらに、子が州外監護命令に指名された者の監護にとどまり、又はそれに回 復されると、子が重大な損害をこうむると裁判所が確信するときは、裁判所は この監護命令を変更し、又は子の監護のために必要と考える他の命令を宣告し ) 。 うる(アルパータ州法 4条、サスカチュワン州法 6条 申立は州外監護命令の真実の認証謄本を伴わなければならない(アルパータ 州法 5条、サスカチュザン州法 7条)。州外監護命令の執行は相互性に依存し ない。執行手続は各州にゆだねられる。 この制定法の長所は、現行のコモン・ロ一規則を明確にし、ある程度変更す ることである O それは監護に関する州外命令の自動的承認及び執行を予定しな い。けだし、裁判所はつねに子の幸福及ぴ福祉を考慮しうる状態にあるべきで ある。したがって、この制定法のもとで、子が制定州の領域に違法にもたらさ れた場合に、子がなお他州の管轄権と真実かつ実質的な関連を有するかぎり、 裁判所は子をつかまえて、州外裁判所により監護が付与された者に回復させる ことを命じうる D 1 8 8 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 3 統一監護管轄権友び執行法 1974年の統一州外監護命令法は、 1981年の統一監護管轄権及び執行法により 修正されたが、上述のように、オンタリオ州の 1980年少年法改正法が統一監護 管轄権及び執行法のモデルであり、この統一法は、国際的な子の奪取の民事 的側面に関するハーグ条約に言及しないが、カナダによるこの条約の採択のた めにも意図された。かくて、州外裁判所により、その者のために子の監護又 は面接交渉の命令が宣告された者の申立に基づいて、裁判所はその命令を承認 するものとする o 但し、裁判所は次のいずれかを確信するときはこの限りでな い、と定められる D すなわち、 第4 2条 1項(統一法 7条 1項)・ ( a ) 命令の宣告された手続開始の合理的通知が相手方に与えられなかったこ とO ( b ) 命令の宣告される前に相手方は州外裁判所により審理の機会が与えられ なかったこと O ( c ) 命令の宣告された場所の法は州外裁判所が子の最善の利益を考慮すべき ことを要求しなかったこと O ( d ) 州外裁判所の命令がオンタリオ州(制定管轄権)の公共の政策に反する こと O ( e ) 第2 2条(統一法 3条)により、州外裁判所は、それがオンタリオ州(制 定管轄権)裁判所であれば、管轄権を有しなかったこと D 同前掲注闘を参照。 C h i l d r e n ' sLawR e f o r mAmendmentA c t1982,S . O . 1982,c .2 0 . 他州の立法として C h i l dC u s t o d yE n f o r c e m e n tA c t,S . M .1982,c .27a s .a m .1982- .5 9 .C u s t o d yJ u r i s d i c t i o na n dE n f o r c e m e n tA c t,S . N .1983,c .3 0 .C h i l da n d 83-84,c . N .B .1980,c .C-2.1 . , s .130a sa m .1982, F a m i l yS e r v i c e sa n dF a m i l yR e l a t i o n sA c t,S c .1 3などを参照。 附 「州外裁判所」は、オンタリオ州 1 8条 1項 c号(統一法 1条 1項 c号)により、あ る者に子の監護又は面接交渉を許与する管轄権を有するオンタリオ州(制定管轄権) 外の裁判所と定義される。 カナダ国際私法における子の監護 1 8 9 申立に基づき、裁判所は、子の最善の利益に影響する、又は影響しようとす る事情に重大な変更があること、及び次のいずれかを確信するときは、子の監 護又は面接交渉に関する州外命令を命令によって置換えることができる O す なわち、 第4 3条 1項(統一法 8条 1項)… ( a ) 子が命令の申立開始当時オンタリオ州(制定管轄権)内に常居所を有す ること O ( b ) 子がオンタリオ州(制定管轄権)内に常居所を有していなくとも、裁判 所が次のことを確信すること。 ( i ) 子が命令の申立開始当時、オンタリオ州(制定管轄権)内に現存して いること。 ( i i ) 子が州外命令の宣告された場所ともはや真実かつ実質的な関連を有し ないこと。 ( i i i ) 子の最善の利益に関する実質的証拠がオンタリオ州(制定管轄権)に おいて利用できること O i ( サ 子がオンタリオ州(制定管轄権)と真実かつ実質的な関連を有するこ とO ( v ) 便宜を考慮してオンタリオ州(制定管轄権)において管轄権が行使さ れるのが適切であること D 裁判所は、管轄権がオンタリオ州(制定管轄権)外で行使されるのが一層適 切であるとの意見であるときは、本案に基づく管轄権の行使を辞退できる ( 4 3 条 2項。統一法 8条 2項 ) 。 申立に基づき、裁判所は、次のいずれかの場合において、蓋然性を考慮して、 制 「州外命令」は、オンタリオ州法 1 8 条 1項 b号(統一法 1条 1項 b号)により、あ る者に子の監護又は面接交渉を許与する州外裁判所の命令又はその一部と定義され る 。 1 9 0 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) 子が重大な損害をこうむると確信するときは、子の監護又は面接交渉に関する 州外命令を命令によって置換えることができる ( 4 4条。統一法 9条)。すなわち、 ( a ) 子が子の監護に法的に権利ある者の監護にとどまるとき O ( b ) 子が子の監護権者の監護に復帰されるとき D ( c ) 子がオンタリオ州(制定管轄権)かち移動されるとき O 命令を宣告した裁判所の裁判官その他統轄官もしくは登録官、又は裁判所の 命令を保存すべき責任者により真実の謄本として認証された州外命令の謄本 は、命令の宣告、命令の内容、裁判官、統轄官、登録官その他の者の任命及び 署名の一応の証拠である ( 4 5条。統一法 1 7条 ) 。 州外命令に関係する申立の目的上、裁判所は形式的証明を要求しないで、オ ンタリオ州(制定管轄権)外の管轄権の法及び州外裁判所の判決を知ることが できる ( 4 6条。統一法 1 8条 ) 。 カナダ国際私法における子の監護 1 9 1 V 離婚法以外のケベ、ツク州法 1 裁判管轄権友び監護決定の承認、執行 連邦離婚法以外の裁判管轄権に関し、ケベック州裁判所は、特別な立法規定 がないので、管轄権抵触の通常の規則を適用する O 一般的に認められる原則は、 住所地法主義を宣言する民法第 6条 4項及び対人訴訟に関する民事訴訟法第 6 8条 1号によって管轄のある住所である D すなわち、下カナダ民法第 6条 4項は、「下カナダの住民は、住所をそこに 保持するかぎり、不在のときでも、人の身分及ぴ能力を支配する法律による。 しかし、この法律は下カナダに住所を有しない者には適用されない。その者は 身分及ぴ能力に関しその者の属する国の法律による」と定める D また、民事訴 訟 法 第 70条、第 71条、第 74条及び第 75条の規定に従い、かつ反対の合意にか 8条 1号によれば、純粋の対人訴訟は、被告の現実の住所、 かわらず、同法第 6 又は民法第 8 5条の場合には、選定住所の裁判所に提起できる O 被告がケベック 州に住所を有せず、居所又は財産を有するときは、その者の通常居所、財産の 所在地又は訴訟が対人的に送達される場所の裁判所に訴えうるのである O しか し、子の利益が支配的であるこの分野において、裁判所は裁量を有し、住所の 管轄はしばしば無視される。 子の監護に関するケベック州裁判所の管轄権は、監護問題が別居又は婚姻無 位8 ) C a s t e l,D r o i ti n t e r n a t i o n a lp r i v eq u e b e c o i s,o p .c i , . tp p .242,2 4 9 . 同 ケベック民法の特性について、大島俊之、「ケベック民法の性格」、比較法研究48号 1 9 8頁以下を参照。 1 9 8 0年に新しい民法典が第二編家族についてのみ成立し、村井衡平、 6巻 2号 1 4 9頁以下がこれを邦訳する。但し、 「ケベック州の新家族法」、神戸学院法学 1 9 8 1年 3月 4日及び1 9 8 2年1 0月 6日の布告により、そのすべてが 新家族法の規定は、 1 発効しているわけではない。たとえば、連邦離婚法との関連で、離婚原因、離婚手続 に関する 538条から 554条まで、離婚の効果に関する 5 5 0条 、 560条から 567条まで、 569 条及び5 7 1条は発効していない。 P . . A .C r e p e a u,L e sC o d e sC i v i l s,1983を参照。 .K e l a d a,Coded ep r o c e d u r ec i v i l eduQuebec,1980を参照。 同民事訴訟法の規定は、 H 1 9 2 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 効訴訟に付随的であるか、又は主たる訴訟の対象であるかによって区別すべき である D まず、民事訴訟法第7 0条は、「別居又は別産のみの訴訟及び婚姻無効訴訟は、 夫の住所地の裁判所又は夫婦の最後の居所地の裁判所に提起できる O しかし、 夫が見出しえない場合には、妻は彼女の居所地の裁判所に提起できる」と定め るD 同条により別居又は婚姻無効を宣告すべき管轄権のある裁判所は、すべて の証拠がそこにあるので、子の監護宣告の管轄権を有することは明らかである。 離婚又は別居の後に、両親の一方が子の監護を求めるため、又は監護条件の 変更のために提訴するときは、ケベック州裁判所はしばしばその管轄権をケ ベック州における両親の一方の居所又は子の所在にのみ基礎づけて非常に柔軟 である。特に、子を求める当事者が人身保護令状の手続を利用するとき、裁判 所は住所の欠如によって無管轄を宣告することはできない。 1 9 7 7年のシェイヌ 対シェイヌ事件において、夫婦が事実上、別居し、夫は二人の子をオンタリ オ州で監護していたが、妻が詐欺により子をケベック州へ移動させた。そこで 父母の監護権の優劣が争われた。ケベック州控訴院は、現在廃止されているが、 婚姻中に父にのみ親権の行使を認める当時効力のある民法第 243条に基づき、 子の復帰を求める父に人身保護令状の権利を認めた。 いずれにせよ、監護については、子の身分の決定が問題ではなく、子の福祉 が問題であるから、受訴裁判所の管轄区域内における子の現存又は常居所も しくは通常居所が十分であるべきなのである O 連邦離婚法の規定以外でケベック州における州外監護決定の承認、執行の問 題は、監護に関する州外決定にケベック州民事訴訟法第 1 7 8条以下の州外判決 承認の通常の規則を適用すべきか、又はこれに反し、州外決定にはなんらの価 ( 5 1 ) C h e y n ev .C h e y n e( 1 9 7 7 ),8 4D .L .R .( 3 d )8 6 . McKeev .M c K e e( 1 9 51 ]A . C .3 5 2 .前掲注( 3 )を参照。 同 カナダ国際私法における子の監護 1 9 3 値を付与せず、子の利益のみを考慮するために新しく進むべきかである O この問題に関し、民事訴訟法第 1 7 8条以下に訴えるならば、カナダ外で宣告 された決定と、カナダの他州で宣告された決定とを区別すべきである O すなわ ち、民事訴訟法第 1 7 8条によれば、カナダ外で宣告された判決に基づく訴訟に 対しては、原訴訟に対してなされた、又はなされうるいかなる抗弁も主張しう る。これに反し、カナダの他州において宣告された判決に基づく訴訟に対して は、同法第 1 7 9条により、原訴訟に対してなされたいかなる抗弁も主張できるが、 それは被告がその州の訴訟に直接に送達されず、又は当該訴訟に出頭しなかっ た場合に限られる。さらに同法第 1 8 0条は、被告が他州において直接送達され、 又は原訴訟に出頭した場合は、上のごとき抗弁は、その州の不動産に関する権 利について決定する訴訟、又は不動産の権利に関する外国裁判所の管轄権の決 定を含む事件の場合のほかは、主張できない、と定めている O かくて、カナダ外で宣告された監護に関する決定は、通常は、外国裁判所の 裁判管轄権がひとたび確定されるや、離婚、婚姻無効又は別居判決と同様に、 承認されることが期待できる。しかし、子の福祉と利益は、外国裁判所の国際 管轄の考慮に優先する O それゆえ、外国の監護決定の承認及び執行は、子の福 祉が守られる場合にのみ理由があるだろう O カナダの他州で宣告された監護決定については、ケベック州裁判所は、矛盾 する決定の危険を回避して、新しく審理しないが、子がケベック州に居所を有 するときは、他州決定の変更又は取消の可能性があろう。他州、│の監護決定は、 既判事項としての効果を有せず、ケベック州裁判所を拘束しないけれども、子 の監護に関してよき根拠となり、ある法的価値を有することが推定される O 神 戸 法 学 年 報 第 3号 ( 1 9 8 7 ) 1 9 4 2 改正法草案 ケベック州民法改正局は、民法草案の第九編国際私法において、子の監護に 関する準拠法、裁判管轄権及び外国決定の承認、執行に関する以下のごとき改 正法の規定を提案した O 法律紙触に関し、第 1 3条は「子の監護権は受訴裁判所の法律による」と定め るO 受訴裁判所は何人が未成年者たる子の監護権を有すべきかを決定するため に法廷地法を適用すべきである D けだし、法廷地法はその領域内に存在する子 の真の利益を評価するために最もよい状態にあるように思われる O ケベック州裁判所の管轄権に関し、第 5 9条は「子の監護につきケベックの裁 判所は、子がケベックに住所を有するか、又はそこに存在するときに管轄権を 有する」と定める D 本条は、ケベック州裁判所に公序の事項たる少年少女の保 護に一層有効な統制を行使することを許す。 外国の監護決定の承認及び執行に関し、第 78条は次のように定める O すなわ ち 、 第78条 ケベックの裁判所は、次のいずれかの場合に、子の監護及び親権 についてケベック外で宣告された決定を承認する O ( 1 ) 申立のときに、子が受訴官憲の管轄区域内に住所を有した、又はその地 に存在した場合。 ( 2 ) 申立のときに、子が受訴官憲国の国籍を有した場合。 前項の規定にかかわらず、当該決定は、子の利益が要求するときは、ケベッ クの裁判所による再審の対象となりうる O 子の保護のために、ケベック州裁判所は i子の利益が要求する場合に、外国 お 功 O f f i c ed er e v i s i o nduCodec i v i l,R a p p o r ts u rl eCodec i v i lduQuebec,Vol . 1,1978, L i v r en e u v i e m e,p p . 599,6 0 9 .6 1 5 . なお、 M.A b r e l l,Der Quebecer Entwurfe i n e r K o d i f i k a t i o nd e sI n t e r n a t i o n a l e nP r i v a t r e c h t s,1978を参照。本書は国際私法委員会に よる 1975年草案を解説する。 1 9 5 カナダ国際私法における子の監護 の決定によって拘束されないことが好ましいと考えられ、本条はこの分野で確 5条の規定、す 立され始める実務を確認する。それは、民法人事編の改正案第 2 なわち、「子の利益は、親、それに代る者もしくは監護者又は司法官憲により なされるにせよ、子に関するすべての決定の決定的な考慮たるべきである O こ とに、年齢、性、宗教、子の性格、家庭環境、子をめぐるその他の諸事情を考 慮するものとする」の思想に一致する O 管轄の事項に関し、ケベック州裁判所の直接管轄に関する第 5 9条の規定を再 び見出す。しかし、国際的な実務、なかんずく、フランス民法第 1 4条及び第 1 5 条を考慮するために、子が国籍を有する国の裁判所により宣告された決定の承 認を保証すべきことが信ぜられた。 さらに、ひとしく第 8 1条及び第 8 2条に言及する必要があろう 第8 1条 O 婚姻無効、離婚、別居、親子関係、養子縁組、監護及び扶養義務 0条 3項ならびに に関し、ケベック外で宣告された決定の承認及び執行は第 6 5項、第 6 1条、第 6 2条、第 6 4条、第 6 8条及び第 7 0条の規定にも服する O ちなみに、第 6 0条は外国判決の承認、執行の拒否事由を列挙し、そのうち同 条 3項は外国判決が宣告地で執行力が与えられないこと、 5項は外国判決が手 続上なされた詐欺に由来することをあげる O 第6 1条によれば、欠席判決の承認、 執行は訴訟開始令状が宣告地法上、欠席当事者に適法に通知又は送達されたこ とを原告が証明する場合のみなされうるが、欠席当事者が事情によりその令状 を知りえず、又は抗弁を主張すべき十分な期間をもちえなかったことを証明す 2条は、承認、執行は原裁判所 るときは裁判所は承認、執行を拒否しうる。第 6 がケベック国際私法規則による準拠法と異なる法律を適用したことのみを理由 に拒否しえない、と定め、第 6 4条は、原裁判所の管轄権の評価においてケベッ ク裁判所は、欠席判決の場合は別として、管轄を基礎づける原裁判所の事実の 確定に拘束される、と定める O 第6 8条は外国判決の承認、執行を求める当事者 が提出すべき書類に関する規定であり、第 7 0条は裁判所が確認し、かっ本源地 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 1 9 6 で執行されるべき和解に関し、外国判決の承認、執行の要件が適用されるかぎ り、判決と同じ条件で執行力が与えられることを規定する O 第8 2条 身分及ぴ能力に関しケベック外で宣告された決定は、執行文の付 与なしに、ケベックでその効果を生ずる O 但し、当該決定が身体に対する強 制行為又は財産に対する物的執行を生ずる場合はこの限りでない。 民法典改正局により樹立される上のごとき規則は、裁判所の実務を確認する のみである。その採択は、裁判実務において欠如する安定と一貫性をもたらす ことが期待できょう O 何はともあれ、子の利益が他のすべての考慮に優先し、 受訴裁判所の管轄区域内における現存が、子の利益の存するとぎに決定すべき 支配的要因なのである O カナダ国際私法における子の監護 1 9 7 U 国際条約 1 司法上の相互援助に関するフランスとケベックの協定 フランスとケベック州聞の 1977年 9月 9日の司法上の相互援助に関する協定 の施行を確保する 1978年のケベック州、法は、未成年者の保護と子の監護に関 する決定の承認、執行とを容易にすることを目的とする規定を協定第六編及び 第七編に含む。 かくて、未成年者の監護又は保護に関する手続の範囲内で、中央機関たるフ ランス及びケベックの司法省は、協定第六編第 2条により、司法上の援助とし て、次の行為をする O すなわち、 ( a ) 相互の申請に基づいて、未成年者の監護又は保護のためにとられた措置、 かかる措置の実施及びその未成年者の物質的及び精神的状態に関するすべて の情報を相互に通報する。 ( b ) 監護権が単に無視されているときは、その領域での探求及び移動された 未成年者の自発的引渡のために相互の援助を提供する D 監護権が争われるときは、中央機関は、事件のすべての要素、ことにフラ ンス又はケベックの可法官憲によりすでにとられた決定及ぴ措置を考慮し て、必要な保護措置をとるため、及ぴ未成年者の復帰の申立につき決定する ために、即時にそれを管轄官憲に付託する O ( c ) 監護を有しない親のために面接交渉権を取極め、かっこの交渉権の実行 及び自由な行使のためにそれぞれの官憲により定められた条件及びその親に 関する当事者の約束が尊重されるために協力する O 協定第七編第 1条は、フランス及びケベックに所在する裁判所によりそれぞ ( 5 4 ) AnA c tt os e c u r et h ec a r r y i n go u to ft h eE n t e n t eb e t w e e nF r a n c ea n dQ u e b e cr e g a r d . .2 0 .この法律は 1 9 7 8年 1 2月2 2日に承認 i n gm u t u a la i di nj u d i c i a lm a t t e r s .S . Q .1978,c され、 1 9 7 7年 9月 9日に遡及効をもっ。 1 9 8 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) れ宣告された子の監護に関する決定は、それが執行されるべき官憲の領域でみ とめられる管轄権、準拠法その他の承認条件をみたすときに、両国で既判事項 の権威を法上当然にみとめる。 監護決定は、執行力付与の宣言がなされるのでなければ、その承認官憲によ るなんらの強制執行をも生じさせない(2条)。しかし、執行を求められる司 法官憲は、本案の実質審査をなんら行うことなしに、それが第 1条に定める要 件をみたすかどうかを確認するのに限られる(3条 ) 。 最後に、子の監護について命ずるフランス又はケベックの司法上の決定の執 行をえようする申立は、中央官憲によって送付される(5条 ) 。 以上のごとき協定の規定は、一般法又は特別法のいかなる規定及びかかる法 ) 。 に基づくいかなる規制の規定にもかかわらず、効果を有する(同法 1条 ケベック州の国際条約締結権の問題はさておき、ケベック州及びフランス で人の身分、能力、ことに子の監護及び扶養義務に関する決定の承認及び執行 を容易にすべきこの法律は、外国判決の承認及び執行についての既存の実務を 確認するのみである。監護の分野では、子の利益における実質審査がありえな いから、この法律は有害な効果をもちうるであろう O 決定を援用する承認国に おける公序に訴えることのみがそれを排除しうる D これに反し、この法律は、 子の誘拐を抑制し、監護に関する決定の承認及び執行の若干の要件を正確にす る長所を有する。最後に、この法律は連邦立法管轄の領分に入る事項に適用さ れうるかどうか、を尋ねうる O 同 この問題について、 G .L .Morris,' C a n a d i a nF e d e r a l i s mandI n t e r n a t i o n a lLaw' ,C a n a p .5 5 .M o r r i s, ‘T he d i a nP e r s p e c t i v e sonI n t e r n a t i o n a lLawandO r g a n i z a t i o n,1974,p Treaty.Making Power A Canadian Dilemma' ,T he Canadian Bar Review,Vol . 45 p .478を参照。 ( 1 9 6 7 ),p カナダ国際私法における子の監護 1 9 9 2 国際的な子の奪取の民事的側面に関する条約 カナダは 1980年10月 25日、国際的な子の奪取の民事的側面に関するハーグ条 約に署名した。条約第40条の連邦条項に基づき、いまやブリティッシュ・コ ロンピ 7州、マニトパ州、ニュー・プランズウイック州、ノパ・スコシア州、 オンタリオ州などの諸州によって批准、履行されているこの条約は、子が違 法に移動又は保有される場合(条約 3条)、すなわち、子が常居所を有する国 の法のもとで監護権の違反がある場合には、その監護権が違反された者は、可 能ならば自発的に、そうでなければ裁判判決によって、子の復帰をうるために、 その者の国又は子が見出される国の中央機関に申立てることができる(条約 8 条)。その者はまた、中央機関を通じて申立てず、子が見出される国の裁判機 関に直接に申立てることもできる(条約 29条)0 条約当事国の中央機関は、子 の迅速な復帰を確保するため、及び一般に条約の目的を達成するために、相互 に協力しなければならない(条約 7条 ) 。 , " ‘ ( 5 6 ) C o n f e r e n c ed e La Haye d ed r o i ti n t e r n a t i o n a lp r i v e,A c t e se t Documents d el a q u a t o r z i e m es e s s i o n,t o m . 1982.南敏文、「ヘーグ国際私法会議第十四回会期の概 巻 2号 4頁以下を参照。この条約は、カナダ、フランス、ポルトガル、 要」、民事月報3 8 スイスの聞に発効している。この条約の批准はカナダにとり最初のハーグ条約の批准 であることに注目すべきである。なお、連合王国は国際的な子の奪取の民事的側面に 関するハーグ条約及ぴ1 9 8 0年の子の監護決定の承認執行及び子の監護の回復に関する 欧州条約の批准のために 1 9 8 5年子の奪取及び監護法 C h i l dAbductionandCustodyAct .60を制定する。さらに、連合王国内の管轄権規則の改正のため 1 9 8 4年に法 1985,c 委員会及びスコットランド法委員会は、その報告書において子の監護法案を提示する。 Custody o fC h i l d r e n J u r i s d i c t i o n and Enforcement w i t h i nt h eU n i t e d Kingdom,Law c ot .LawCom.N o .91 Com.N o .138,S ( 5 7 ) F amilyR e l a t i o n sAmendmentAct,1982.S . B . C . 1982,c .8 .C h i l dCustodyE n f o r c e . mentAct,1982.S . M .1982,c .2 7 .l n t e r n a t i o n a lC h i l dAbductionAct,S . N .B .1982,c .1 . .C h i l dA b d u c t i o nAct,S . N . S . 1982,c .4 .C h i l d r e n ' sLawReformAmendmentAct, 1 2 .1 1982,S . O . 1982,c .2 0 .連邦条項に関し、 H . A .L e a l, ‘F e d e r a lS t a t eC l a u s e sandt h e , The D a l h o u s i e C o n v e n t i o n so ft h e Hague C o n f e r e n c e on P r i v a t el n t e r n a t i o n a l Law' m l8( 1 9 8 4 ),p p .257を参照。 LawJ o u r n a l,Vo. 2 0 0 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) カナダにとって特別に関心がある事項として、連邦国家は、条約第 6条によ り、二以上の中央機関を指定することができる O しかし、かような場合に、連 邦国家は、囲内の適切な中央機関に転送するために、中央機関のうち、外国か らの申立が受領されるーを指定しなければならない。 奪取された子の復帰を確保するための申立は、申請された国の管轄官憲が申 立の有効性を確認することができるために、監護に関するいかなる判決又は協 定をも含むすべての関連文書を伴わなければならない(条約 8条)。条約は、 申請された国の官憲が子が違法に移動又は保有されていることを確証する子の 常居地図の判決又は証明の提出を要求することを許している(条約 1 5条)。 申立が違法な移動又は保有の日から一年以内に申請された国の司法又は行政 官憲になされた場合には、官憲は即時の復帰を命ずるであろう O 手続が一年の 経過後に開始された場合でも、子がいまやその新しい環境に定着しているので なければ、官憲はまたその復帰を命ずるものとする(条約 1 2条 ) 。 監護権に違反して子を移動又は保有した者が利用できる条約に定める唯一の 抗弁事由は、条約第 1 3条に見出され、その者はこの理由を証明すべきである。 すなわち、主張される違反の当時、申立人が実際に監護権を行使していず、又 は子の移動又は保有に同意又は黙諾した(言い換えれば、これは真の奪取では ない)こと、又は復帰は子を物理的又は心理的な損害にさらす、その他子を忍 び難い状態に置く大きな危険がある(言い換えれば、子の復帰を命ずるのは子 の利益でない)ことを証明すべきである O 同条 2項はまた、司法官憲は、子が 復帰に反対し、かつ子の意見を考慮するのが適切な成熟の年齢と程度に達して いる場合には、子の復帰を拒否しうる、と定める O 条約の目的は、移動前に存した状態を再び樹立するために、移動された子の 迅速な復帰を単純に保証することである(条約 1条)。したがって、子の復帰 に関する決定は監護の本案を妨げないことを想起すべきである(条約四条)。 「子の誘拐者」はなお自己の監護権を主張できるが、子が復帰される国におい カナダ国際私法における子の監護 2 0 1 てこれを主張すべきであろう D 条約を履行するオンタリオ州の少年法改正修正法は、女王は、裁判所の手 続への弁護士又は助言者の参加から条約上生ずるいかなる費用も、「法律扶助 j 去」に従ってでなければ、引受ける義務はない、と定める(オンタリオ州法47 条 3項)。法務大臣は、オンタリオ州の中央機関である(同州法47条 4項)。条 約の意図及ぴ目的を達成するために必要な規則が作成されうる(同州法47条 8 項)。条約と他の法令との聞に抵触があるときは、条約の規定が優先すること も規定されている(同州法47条 9項 ) 。 " ・ ♂4 同 C h i l d r e n ' sLawReformAmendmentAct,1 9 8 2 .S . O .c .20の47条 2項を参照。 202 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 87 ) 1 直 結 語 子の監護に関するカナダ国際私法の規則は、カナダ法の法源の多様性を反映 して非常に多岐にわたり複雑で、はあるが、近時のカナダ国際私法の動向を察知 するに最も適した分野であるといえよう O 連邦及び各州の法の相違にかかわら ず、離婚に伴う子の監護は連邦離婚法によって統一的に解決され、連邦離婚法 以外の各州のコモン・ロー及ぴ制定法の相違は、統一監護管轄権及び執行法に 見られるごとく、その調和をめざす展開が顕著である O また、国際的な子の奪 取の民事的側面に関する条約の批准は、カナダのハーグ国際私法条約加入の端 緒となり、カナダ国際私法の国際化への意欲を表明する O かように、カナダ国 際私法において、法源の相違と多様性にかかわらず、調和と統ーへの強い意向 を指摘することができる O 1 9 8 5年離婚法は、離婚に関する裁判管轄権の基準の緩和とともに、離婚に伴 う監護命令について、事情の変更があるときは他州裁判所による変更を認め、 また、子が他州、│と最も実質的に関連しているときに、当該他州への手続の移送 を定めることによって、 1967-68 年離婚法の硬直を是正し、当事者の便宜をふ まえて監護制度の運用を弾力化することは、子の利益と福祉の増進にとって画 期的であると言えよう O 離婚に伴う子の監護に関し、わが国裁判所の先例として、 1967-68 年離婚法 0日判決及ぴ東京家庭裁判所の との関連で、岡山地方裁判所の昭和 44年 3月 2 昭和 44年 6月 1 3日審判をあげることができる D 岡山地裁判決は、連邦離婚法 を考慮、しないで、離婚につきブリティッシュ・コロンピア州法を適用し、子の 監護については法例第 2 0条によるプリティッシュ・コロンピア州法からの反致 倒 岡山地裁昭4 3 (タ) 1 7号、家庭裁判月報2 2巻 5号9 4頁 。 側 東 京 家 裁 昭4 3 (家イ) 5 4 0 2 号、家庭裁判月報22 巻 3号 1 0 4頁 。 カナダ国際私法における子の監護 2 0 3 を肯定する O 東京家裁審判は連邦離婚法に言及するが、この規定の解釈を誤り、 離婚に関してオンタリオ州法からの反致を認め、子の監護に関して法例第2 0条 によりオンタリオ州法を適用する O 離婚法は連邦法としてカナダ全土に共通で あるから、カナダ人夫の離婚に関しては、法例第2 7条 3項による夫の所属州の 967-68年裁判所のもとでは、同法 決定は不必要なのである D 反致の成立は、 1 第 5条 1項に基づく隠れた反致の理論によるほかはなく、この二つの事案にお いては、相手方たる夫のドミサイルではなく、むしろ申立人たる妻のドミサイ ル、さらに申立人又は相手方の通常居所と現実居所が日本にあるかが決定的で 9 8 5年離婚法の管轄連結は夫婦のいずれかの一年間の通常居所で ある O 現行の 1 あるから、カナダ人を夫とする離婚では、現在ほとんどすべての場合に、隠れ た反致が成立すると言ってよいであろう。 離婚に伴う子の監護に関して、岡山地裁も東京家裁も、法例第2 0条及び第2 7 条 3項を介して父の所属州たるブリティッシュ・コロンピア州法又はオンタリ オ州法によるが、父の所属州を決定したところで、この問題には連邦離婚法を 適用するほかない。J,-j,I.(の二事件における離婚に伴う子の監護は、いわゆる準 拠法説による法性決定のように、離婚に伴う子の監護は離婚の効果として直接 6条により連邦離婚法を適用する方が、親子関係として法例第20条及 に法例第 1 び第2 7条 3項の迂路を介して、その結果、所属州の親子法として連邦離婚法を 適用するよりも、法の適用関係が単純明快となる利点は否定できないであろう O いずれにせよ、カナダ国際私法における子の監護問題は、わが国における法 律関係性質決定、反致及び不統一法国法の適用の問題について多くの議論をよ ぴおこすであろう O 子の監護に関する最近のカナダ国際私法の動向は、子の監護問題の法律関係 性質決定のみならず、子の利益と福祉を優先する子の監護に関する裁判管轄権、 準拠法の決定及び外国監護命令の承認、執行要件の判断、さらには、国際的な 子の奪取の民事的側面に関するハーグ条約の批准などの問題についても、わが 2 0 4 神 戸 法 学 年 報 第 3号(19 8 7 ) 国の国際私法がとるべき措置について実際上きわめて有益な示唆を与えるであ ろう D