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公開 - 高知工科大学

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公開 - 高知工科大学
卒 業 研 究 報 告
題
目
音波干渉を用いた左右安全確認システムの検討
指 導 教 員
山本 真行
助教授
報 告 者
学籍番号: 1050280
氏名: 森岡
信繁
平成 19 年 2 月 20 日
高知工科大学
電子・光システム工学科
目次
1章
序論 .......................................................................................................................... 2
1.1 研究背景 ................................................................................................................... 2
1.2 研究目的 ................................................................................................................... 2
2章
基礎理論 ................................................................................................................. 3
2.1 音速 .......................................................................................................................... 3
2.2 ドップラー効果 ........................................................................................................ 3
2.3 相互相関関数 ............................................................................................................ 3
3章
実験方法 ................................................................................................................. 5
3.1 使用装置 ................................................................................................................... 5
3.2 録音実験 ................................................................................................................... 6
4章
結果と考察 .............................................................................................................. 9
4.1 実験1結果................................................................................................................ 9
4.2 実験2結果.............................................................................................................. 12
4.3 実験 3 結果 ............................................................................................................. 15
5章
考察 ........................................................................................................................ 17
6章
まとめ .................................................................................................................... 20
謝辞 .................................................................................................................................... 21
参考文献 ............................................................................................................................. 22
1
1章
序論
1.1 研究背景
左右の見通しの悪い狭い路地の交差点での出会い頭の事故は、警視庁のホームページ
(http://www.npa.go.jp/)によると車対車の事故原因の第 1 位となっている。周囲の状況に
関係なく車載の装置で左右の状況がわかれば事故減少につながる。
1.2 研究目的
本研究は、通過する自動車の走行音を録音して、左右2点で測定した音波干渉から自動
車の到来方向を判定し、音波干渉を用いた計測が車載の左右安全確認システムとしての有
効かどうかを検討することを目的とする。
2
2章
基礎理論
2.1 音速
音速は温度が高くなるにつれて大きくなる性質があり、空気中で、絶対温度 T[K]の時の
音速cは、
c = 331.5
T
[m/s]・・・式(1)
273
と表すことができる。
また、音速c[m/s]、波長λ[m]および周波数 f [Hz]の間には、
c = λ f ・・・式(2)
の関係がある。
2.2 ドップラー効果
音源が動いていたり、観測者が動いていたりすると周波数が変化し、音が高くなったり
低く聞こえたりする現象のことである。
Vs を音源の移動速度、V0 を観測者の移動速度とする時、観測者の観測する周波数 f 0 と元の
周波数 f s との関係は、
f0 = fs
V − V0
・・・(式3)
V − Vs
と表すことができる。
2.3 相互相関関数
二つの信号の類似性を時間のずれに関係なく判定するばあい相互相関関数が利用される。
対象としている二つの関数 f (t ), g (t ) が周期関数で、その周期が T であるとき、その相互相
関関数は、
3
R fg (τ ) =< f (t ), g (t + τ ) >
=
1
T
∫
t/2
−t / 2
f (t ) g (t + τ ) dt ・・・式(4)
と定義される。この式は f (t ) の時間軸をそのままにして、 g (t ) の時間軸を τ だけずらして
両者の内積をとっている。内積は関数間の相関の強さを表すので、この相関値を時間軸の
ずれ τ を変数とする関数として表したものと言える。
4
3章
実験方法
3.1 使用装置
以下の装置を使い自動車の走行音の音波計測実験を行った。
測定に使った自動車・・・マツダ
平成 13 年式
スクラム
型式 GF-DG52W
長さ:3.4m
幅:1.5m
高さ:1.9m
ホイルベース:2.4m
原動機の型式:F6A
マイク・・・ELECOM 型番 MS-STM55
マイク形式:コンデンサマイクでモノラルタイプバッシブ方式
指向性:無指向性
周波数特性:20~16,000Hz
入力インピーダンス:2.2KΩ 以下
入力感度:-54±3dB
アンプ・・・オーディオテクニカ
型番 AT-MA2
定格出力レベル:-10dBV
最大出力レベル:+2dBV(1kHz、T.H.D1%時)
周波数特性:20Hz~20,000Hz(-3dB)
利得:+20dB(GAIN が MIN の時)、
+50dB(GAIN が MAX の時)
最大許容入力:-18dBV(GAIN が MIN の時)
全高調波歪率:0.05%(GAIN が MIN の時)
、
0.2%(GAIN が MAX の時)
入力換算ノイズレベル:
-110dBV(GAIN が MIN の時)
、
-120dBV(GAIN が MAX の時)
サウンドカード・・・玄人志向
型番 AUDIO7.1-USB
USB7.1 チャンネルオーディオアダプタ
5
再生:8 チャンネルアナログ再生、光出力
入力:ライン入力×1、MIC×2、光入力×1
インターフェース:USB1.1
USB バスパワー対応
EAX2.0 対応
デジタル DV カメラ・・・SONY 型番 DCR-PC101
3.2 録音実験
実験 1
写真 3.1 に示すように、2本のマイクを 2.5m間隔で 0.6mの高さに設置した。パソコン
と接続し音声処理ソフト「音声工房」の録音機能で左右から来る自動車の走行音を様々な
条件で録音した。
写真 3.1 実験の様子
図 3.1のようにパソコンとマイクの接続にはサウンドカードを使用した。また、マイク
だけでは音波がはっきりとれなかったためアンプを通しパソコンとの接続を行った。
6
図 3.1
配線図
今回の実験は表 3.1 の条件で良好なデータが得られるまで録音を行った。
表 3.1 実験条件
アンプゲイン
自動車の向き
右→左
最小
左→右
右→左
中
左→右
右→左
最大
左→右
マイク間の距離
2.5m
2.5m
2.5m
次に、図 3.2 に実験概念図を示す。今回の実験では歩道に設置したマイクから道路の中央
線までは 3m であり、写真 3.1 のように周りに障害物のない場所で行った。2 本のマイクの
中央を中間地点とし様々な条件で観測地点から何 m 離れているか、また何秒離れていたか
を録音した音の波形から調べた。
図 3.2 実験概念図
実験 2
音だけでは、移動する自動車がどの位置にいる音なのか判断する事が難しいのでビデ
オカメラで撮影し音と映像の両方で調べてみる事にした。接続はカメラのマイク端子か
らアンプを通してマイクに接続した。
7
今回は、写真 3.2 のようにマイク間 1.5mで図 3.2 の中間地点にカメラを設置し撮影を
行った。
写真 3.2 カメラ設置状況
実験3
図 3.3 に示すように、2本のマイクを 1.5m間隔で設置し、対向車が来た場合を想定した
録音を駐車場にて行った。自動車の速度は、30km/s で実験装置は実験 1 と同じ物を使用し
た。実験 1 よりアンプゲイン最大の場合が一番測定しやすい事がわかったのでアンプゲイ
ン最大で測定を行った。
図 3.3 実験 3
8
4章
結果と考察
4.1 実験1結果
実験1では右方向から左方向に時速30km の一定速度で移動する自動車の場合につい
て、図 3.2 の条件で録音した。
この時気温は 10℃であったので音速を式(1)から計算すると 337.57m/s となる。
図の横軸は時間(右が正方向)であり縦軸は瞬時振幅を示している。図の L,R はマイク
の左右を示す。
図 4.1~4.3 では、録音全体の波形を(a),右方向から車が近づいてくる時間帯の波形を
(b),マイクから左方向へ遠ざかっていく時間帯の波形を(c)として示す。
本実験では様々な条件で録音したが、例としてアンプゲイン最小で右方向から左方向に
走る自動車の走行音を図 4.1(a),
(b),(c)としてそれぞれ示す。
図 4.1(a)
アンプゲイン最小時
9
図 4.1(b)
図 4.1(c)
アンプゲイン最小時
アンプゲイン最小時
図 4.1(a)全体波形をみると右のマイクの方が音を早く拾っているのがわかるが、拡大
すると波形が複雑で振幅も小さく L,R の対応判断が困難である。
次の例としてアンプゲイン最大で右方向から左方向に走る自動車の走行音を図 4.2(a),
(b),(c)としてそれぞれ示す。
10
図 4.2(a)
アンプゲイン最大時
図 4.2(b)
アンプゲイン最大時
11
図 4.2(c)
アンプゲイン最大時
図 4.2(a)全体図をみると図 4.1(a)と比べると振幅が大きく見えにくい。しかし、図
4.2(b),(c)をみるとアンプゲインを最大にしたことにより飽和し所々矩形波となってい
る。さきほどのアンプゲイン最小の時と比べると L,R の対応がわかりやすく測定しやすい
ことがわかる。左右の差はそれぞれ 4.9ms,7.8ms と計測できた。
4.2 実験2結果
実験2は、映像情報から映像ファイル(AVI 形式)から静止面(bmp 形式)を切り出し、
かつ音声情報を取り出すために、音声(WAV 形式)を分離できるフリーソフト「AVI2BMP」
(http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se156008.html)を用い音声情報だけを取り出し
た。結果を、図 4.3(a),(b),(c)に示す。
12
図 4.3(a)
ビデオ音声録音波形
図 4.3(b)
ビデオ音声録音波形
13
図 4.3(c)
ビデオ音声録音波形
図 4.3(b),
(c)をみると L,R 音の時間差が全く無く、本実験で意図するような録音が
できていないことがわかった。次に実験の様子として映像から切り出した静止画を写真 4.1
に示す。
写真 4.1 を見ると、映像と音声情報により音声情報単体よりは正確にマイクからの距離が
わかるが、カメラの音声入力端子が L,R が独立していなかったため正確に録音できていな
いことが判明した。独立した入力端子を持つカメラで撮影すればより正確な情報が得られ
距離の検証ができそうである。
写真 4.1
14
4.3 実験 3 結果
対向車による音波干渉の実験として、図 3.3 に示すようなマイク配置で録音した音声の全
体波形を図 4.4(a)に、自動車がマイクに近づいていく時の音を図 4.4(b)に、自動車が
マイクから遠ざかっていく時の音を図 4.4(c)にそれぞれ示す。左右の差はわずかであり、
それぞれ 0.9ms,2.4ms を計測できた。
図 4.4(a)
対向車による音の全体波形
15
図 4.4(b)
図 4.4(c)
対向車による音(近づく場合)
対向車による音(遠ざかる場合)
16
5章
考察
実験1では、当初は録音レベルの適切なアンプゲイン最小の波形(図 4.1)の解析を試み
たが波形が複雑で L,R の対応の判断が困難であった。アンプゲイン中の場合も同じような
結果であった。これらの場合でも両信号の相互相関関数を計算すれば差異は検出できるか
もしれない。
次にアンプゲイン最大の場合、図 4.2 で明らかなように矩形波になっている。そのため図
4.1 と比べると位相差が明瞭であった。その結果、L,R に対応した波形を簡単にみつける
ことができた。図 4.1(b),
(c)では左右のマイクでそれぞれ 4.9ms、7.8ms の到達時間差
が検出できた。ドップラー効果を考慮した音速から、左右のマイクに入る音の時間差を計
算すると、図 4.2(b),
(c)に対してそれぞれ 7.23ms、7.59ms の差があるべきである。
図 4.2(c)の場合は計算結果と測定値がほぼ同じだが図 4.2(b)の場合は、2.69ms の差
がある。これは、図 4.2(b)ではよりマイクに近い位置での測定値であり到来角の影響が無視
できないためと考えられる。それ以前の波形は矩形波でないため測定できなかった。この
ことから、適切にアンプゲインを稼ぐように収録系を調整し波形を長時間飽和させること
でより確実に測定できる可能性が高い。
また、実験 3 より、対向車が来た場合は自動車が近づいてくる時は 0.9ms の差、遠ざか
る時は 2.4ms の到来時間差があることがわかった。このことから左右からの音と比べると
マイクの前方からの音は到来時間差が少ないといえる。実験 1 より少し離れた位置での到
来時間差はほぼ計算通りとなっている。この2つを利用する事で左右安全確認システムを
構築することができるはずである。
例えば、マイクの L,R に右からの音が入ってきた場合を考える。式(4)で示した f (t )
を L の信号、g (t ) を R の信号とする。実験 1 より到来時間差は 7ms 前後とわかっている。
式(4)の τ に ± 7ms の値を代入し計算すると右から音がしていれば L の方が約 7ms 遅く
信号が入ってくるので-7ms の時相関が強く、+7ms の時は相関が弱くなるはずである。
反対にもし左方向から音がしていれば+7ms の時の相関が強くなる。この処理をパソコン等
でソフトウェア的に処理すれば左右2点で測定した音波干渉から自動車の到来方向を判定
することができそうである。実験 3 より対向車等、前方からの音はほとんど到来時間差が
無い事がわかっているので、この場合はうまく相関がとれないため左右からの音でないこ
とがわかる。問題点としてこの 7ms の到来時間差が自動車の速度や気温の変化による音速
の変化で変わる事があるということがある。しかし、自動車の速度を 2 倍の 60km/h、気温
を真夏の 30℃として計算しても到来時差は 6.99ms となるためほとんど差がない。
よって τ
を 7ms で固定しても問題無いといえる。
最後に、図 4.2 の波形(b),(c)について平均スペクトルをとると図 5.1(L),(R)のよう
17
になった。これは他のデータのスペクトルをとってもほぼ同じ結果となった。50Hz 付近に
あるピークがアンプゲイン最大のとき矩形波となり現れたと言える。
図 5.1(L)
平均スペクトル
図 5.1(R)
平均スペクトル
図 5.1 の(L)
,
(R)より周波数 50Hz~100Hz 付近の音の成分が多い事がわかる。50Hz
18
の波長は音速を 340m/s とすると 6.8m となる。これは今回の実験で用いた自動車の車長
3.4m がその半波長に一致するためエンジンの振動や走行振動とボディとの共振で何らかの
共鳴波が生じている可能性が考えられる。共鳴波であるか調べるため車長 4.69m の自動車
を使い同条件で録音を行ってみたが図 5.1 とほぼ同じ結果となった。この自動車の場合の車
長が半波長となる周波数は約 72Hz でありやはり 50Hz~100Hz の帯域となる。本研究では
この音の成因についての明確な答えに至っていないが、別の自動車でも同じような音が出
ているということになり本実験に使用した 2 台の自動車だけではなく他の自動車にも対応
できそうだということがわかった。更に大きな車体の自動車による実験は免許の関係等で
実施できなかったが、今後の実験での解明が期待される。
本実験では、一般的な農村環境レベルの静かな状況下にマイクを置き録音を行ったが、
実際に車載した場合は自車のエンジン音、走行音やその共鳴波がノイズとなる。しかし音
波干渉では L,R2つのチャンネルの波が打ち消し合うため問題は少ないと考えた。
この種の音は比較的長距離伝搬可能であり、音の回折により見通しのきかない壁に囲ま
れた狭い路地でも計測できると期待されるが、実用化に至るにはそのような状況下での今
後の実験とデータ蓄積が必要である。
19
6章
まとめ
本実験により、車載マイクと高ゲイン増幅回路を用いた簡単な機材による音波干渉計測
により、接近する自動車の検出が可能であることが示された。本結果を用いて見通しのき
かない交差点での左右安全確認に特化した非常に安価な危険回避車載装置が開発できる可
能性を示すことができた。
20
謝辞
本研究、論文制作を行うにあたり、毎晩遅くまで御指導いただきました高知工科大学
学部
電子・光システム工学科
工
山本真行助教授に深く感謝いたします。
最後に、本実験の手伝いをしてくれた高知工科大学
知能機械システム工学コース
藤真弘氏、並びに山本研究室の大学院生・学部生の方々にも御礼申し上げます。
21
近
参考文献
・電子・情報工学入門シリーズ2
古井
貞煕
株式会社
音響・音声工学
著
近代科学社
発行
・物理学の基礎[2]波・熱
D.ハリディ
R.レスニック
J.ウォーカー
共著
株式会社
培風館
発行
・図解雑学音のしくみ
中村
健太郎
株式会社
著
ナツメ社
発行
・図解メカトロニクス入門シリーズ
佐藤
幸男
株式会社
信号処理入門
著
オーム社
発行
22
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