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PDF/ 1142KB - 三菱電線工業株式会社
三菱電線工業時報 第 106 号 2009 年 10 月 極軟質型インターコネクタの開発 Development of Super Soft Interconnector 三菱マテリアル株式会社 堺工場 石田 徳和 ■ N. Ishida ケーブル事業部 電線システム部 林 隆行 ■ T. Hayashi 技術本部 生産技術部 技術本部 総合研究所 和田 睦 本田 照一 ■ M. Wada ■ T. Honda 結晶シリコン系太陽電池のセルは薄型化が進んでおり,モジュール化工程でセルとインターコネクタをはんだ接続す る時にセルが反る問題が深刻になっている。このため,インターコネクタは低耐力であることが要求されている。さらに, 導体サイズの縮小や環境対応として鉛フリーはんだへの対応も求められている。我々は,インターコネクタに適した導体 材料から開発を行い,この材料に適した圧延,はんだめっきなど各工程での製法や製造ラインの構成を検討し,0 .2%耐 力を大幅に低減した極軟質型のインターコネクタの開発を行った。 太陽電池,セル,インターコネクタ,0 .2%耐力,はんだめっき平角銅線 〔キーワード〕 電線・ケーブル As Crystalline Silicon Solar Cells become thinner, warping of the cells is a serious problem when cells are soldered to interconnectors during the modulation process. Therefore, an interconnector with low proof stress characteristics is in demand. In addition, there are demands to reduce the conductor size and to use lead-free solder alloys for the environment. We examined the conductive material, and examined each stage, such as the rolling condition, the solder plating condition, and the composition of the production line. As a result, we developed a super soft interconnector that largely decreased the 0 .2 % proof stress. 〔Key words〕 Solar Battery ,Cell ,Interconnector ,0 .2% Proof Stress ,Solder Coated Rectangular Copper Wire また,断面積縮小の要求があり,はんだ材料について 1 まえがき も鉛フリー化への対応が求められている。これらの要求 太陽光を吸収し電気エネルギーに変換する太陽電池 は,温暖化ガス削減のためにクリーンエネルギーとして に対して我々は素材からの検討を行い,0 .2%耐力を低 減したインターコネクタの開発を行った。 普及しつつあり,今後も太陽電池市場は拡大することが 見込まれている。 2 インターコネクタの課題 −低耐力の重要性− 現在,太陽電池は結晶シリコン系が主流であるが,シ インターコネクタとは平角形状の導体にはんだをめっ リコンは深刻な品不足の問題やコストダウンの取り組み としてシリコンセルの薄型化が進んでいる(1)。 きした線材であるが,太陽電池用セルの厚さは薄くなる方 太陽電池のモジュール化工程でセル同士を接続するイ 向にますます進んでおり,インターコネクタをセルにはん ンターコネクタ(図1)に対しては,セルの破損,変形を だ接続した際のセル(Si)とインターコネクタ(Cu)の線 抑えるためにこれまで以上に軟らかい特性を求められて 膨張係数の違いによるセルの反りや破損の不良率が上が いる。 る問題は深刻になっている。これを回避するために,イン ターコネクタはセルに沿って変形しやすいことが重要で, 機械的特性の指標として 0 .2%耐力を低減させる必要性が 従来にも増して高くなっている。 また,インターコネクタの仕様はモジュールメーカーに より異なり,導体のサイズ,はんだの種類,めっき厚さは さまざまである。これらは 0 .2%耐力低減を妨げる要因と して複雑に関連しあっており,すべてをバランスさせて製 造することが必要であり,我々は導体材料,平角線の製造 インターコネクタ 図1 セル同士を接続するインターコネクタ Interconnectors for cells 方法,めっき方法,製造ライン全体の構成,出荷リールへ の巻取り方法など全てに亘って検討を重ね,極軟質型イン ターコネクタを開発することができた。 − 13 − 太陽電池,セル,インターコネクタ,0 .2%耐力,はんだめっき平角銅線 Solar battery ,Cell ,Interconnector ,0 .2% proof stress ,Solder coated rectangular copper wire 極軟質型インターコネクタの開発 3 極軟質型インターコネクタ用導体材料 インターコネクタは,セルを接続して直列回路を形成 する集電配線材である。ここで問題となるのは,先に述 べたように,セルとインターコネクタの熱膨張係数の違 いにより,接合時に熱応力が発生し,セルを変形,破損 させてしまうことである。接合時の熱応力は不可避であ り,何らかの対策を必要とする。 そこで,インターコネクタの熱膨張係数を低くするた めに異種材料とのクラッド化なども考案されているが, 現在,対策の主流は,極めて低い耐力を有する材料を使 図 2 C10200(700℃× 30 min.)の金属写真 用し,熱応力による変形を吸収するという方法である。 Microstructure of C10200(700℃× 30 min.) 素材の耐力を低減するために用いられる手段は,材料 を高純度化すること,および Hall-Petch の法則を利用し て結晶粒を粗大化することである。 そのためには,高純度の無酸素銅を高温で熱処理する 必要があるが,一般品である C10200 無酸素銅はもちろ ん,C10100 無酸素銅の場合も,高温で熱処理しただけ ですべての結晶粒が粗大化するとは限らず,図 2 のよう な混粒組織となる。一方,Class1 無酸素銅の場合は,図 3 のようにすべての結晶粒が均一に粗大化した組織とな り,低耐力化に有効な素材と言える。 三菱マテリアル(株)では,表 1 に示すような各種無酸 素銅の製造が可能であり,インターコネクタに最も適す 図 3 Class1(700℃× 30 min.)の金属写真 Microstructure of Class1(700℃× 30 min.) る無酸素銅として MOF Class1 を使用することとした。 ® 表 1 各種無酸素銅の規格と MOF® の分析例 Standards of various kinds of oxygen free copper and analyzed data of MOF® Standard Oxygen Free Copper Copper O Pb Zn Cd Hg P S Bi Se Te > 99 .95% ≦ 10 NS ASTM B170(Grade2) > 99 .95% ≦ 10 NS CDA C10200 2 2 0 .2 < 0 .1 - > 99 .99% ≦5 ≦5 ≦1 ≦1 ASTM B170(Grade1) > 99 .99% ≦5 ≦5 ≦1 ≦1 MOF® OF > 99 .997% - 3 Sb As Mn Sn Fe Ag Si H Ni - 0 .2 3 0 .1 0 .1 0 .1 0 .2 0 .1 8 .2 NS NS 0 .9 ≦1 ≦ 3 ≦ 15 ≦ 1 ≦3 ≦2 ≦4 ≦ 5 ≦ 0 .5 ≦ 2 ≦ 10 ≦ 25 NS NS ≦ 10 NS ≦ 3 ≦ 15 ≦ 1 ≦3 ≦2 ≦4 ≦ 5 ≦ 0 .5 ≦ 2 ≦ 10 ≦ 25 NS NS ≦ 10 OFC for Electron Devices CDA C10100 MOF® for Electron > 99 .997% 1 1 .8 0 .2 < 0 .1 < 0 .1 1 4 0 .1 0 .1 0 .1 0 .2 0 .2 < 0 .1 0 .1 1 .8 8 1 0 .5 0 .9 MOF® for Magnetron > 99 .998% 1 1 0 .2 < 0 .1 < 0 .1 1 3 0 .1 0 .1 0 .1 0 .1 0 .2 < 0 .1 0 .1 0 .7 8 < 1 .0 0 .3 0 .5 NS NS ≦ 10 MOF for Superconductivity Stabilizer for superconductivity RRR>300(RRR>500) RRR: Residual Resistivity Ratio ® Class1 OFC Total 40 ppm CDA C10100 > 99 .99% ≦5 ≦5 ≦1 ≦1 ≦1 ≦ 3 ≦ 15 ≦ 1 ≦3 ≦2 ≦4 ASTM F68 Class1 > 99 .99% ≦5 ≦5 ≦1 ≦1 ≦1 ≦ 3 ≦ 15 ≦ 1 ≦3 ≦2 - - - - - - - - - MOF® Class1 > 99 .998% 1 .5 1 0 .1 < 0 .1 < 0 .1 0 .1 0 .1 0 .1 0 .1 < 0 .1 0 .1 1 8 < 0 .1 0 .4 0 .5 1 3 0 .1 − 14 − ≦ 5 ≦ 0 .5 ≦ 2 ≦ 10 ≦ 25 三菱電線工業時報 第 106 号 2009 年 10 月 この合金層は,はんだ付温度,はんだ付時間,はんだ 4 はんだめっきプロセス 付後の加熱などによって成長することから,はんだ種類 インターコネクタを製造するにあたって,低 0 .2%耐力 実現を阻害する要因は素材,伸線・平角圧延,はんだめっ に応じたはんだ付温度,パスラインに注意を払って製造 ライン,条件を決定した。 きなど各工程であり,これが複雑に関連しあっている。 これら要因を抽出し,検討・改善を行ってきた主な要 4 .3 ガイドロール,シーブ めっき工程では,平角線の送り出しからめっき線の巻 因を図 4 にまとめた。 伸線・平角圧延工程 き取り間にいくつかのガイドロール,シーブが配置され はんだめっき工程 サイズ ている。この箇所では,平角線,めっき線は曲げ加工が加 めっき時間 えられるため 0 .2%耐力が上昇することを確認し,この めっき厚さ 圧延条件 伸線条件 熱処理条件 上昇を抑えるべく最適な径,接触角を見出して配置した。 はんだ種類 また,配置する場所についても張力への影響も考慮す はんだ温度 0.2%耐力 上昇 鋳造条件 ボビン径 圧延条件 素材 我々は,ライン構成全体を見直し,送り出しから巻き 送出し張力 巻取り張力 不純物 熱処理 る必要がある。 取りまで線材を硬化させないラインを作り出した。 シーブ,ガイド径 シーブ,ガイド との接触抵抗 4 .4 巻き取り張力 製造ライン インターコネクタの 0 .2%耐力はめっき後のインター 図 4 低 0 .2%耐力実現を阻害する要因 コネクタの荷重をめっき前の導体断面積で除して算出す Factors preventing 0 .2% proof stress るため,めっきを行うことで 0 .2%耐力は上昇する。こ のめっき後の 0 .2%耐力以上の負荷を加えないように巻 4 .1 伸線・平角圧延工程 インターコネクタの 0 .2%耐力は,平角銅線そのもの き取り張力を制御する必要がある。巻き取り張力を低く の特性が大きく支配しており,素材の開発は前項で述べ すると出荷リールでの巻き不良,運搬・輸送時の巻き乱 たとおりでこの特性を生かした製造方法を確立すること れ,モジュールメーカーでの送り出し不良の発生が増加 が重要である。母線サイズから必要とする平角線サイズ することとなる。 に伸線,圧延を行う場合,その加工率,熱処理条件,熱処 また,サイズ(断面積)縮小化への方向もあり,断面積 理回数など種々検討し,0 .2%耐力の低い平角線が得ら が小さくなると巻取り張力の影響もより大きくなり 0 .2 れる条件,方法を見出した。 %耐力の上昇につながる。そのため,サイズ,巻き取り 張力,0 .2%耐力,巻き状態,出荷リールなどの関係につ いての検討と輸送実験および送出し実験を行うことで, 4 .2 はんだめっき工程 はんだの種類により,融点が異なることからめっき温 度も異なる。銅にはんだが付着すると Sn-Cu の合金層 低 0 .2%耐力を保持したままで輸送・運搬できる巻き取 り方法を開発した。 (図 5)が生成する。合金層の生成は銅にはんだを付着さ せるには不可欠なものであるが,この合金層は Cu6 Sn5 5 極軟質型インターコネクタの特性 金属間化合物と言われており硬く・脆いため 0 .2%耐力 の低減の妨げとなる金属間化合物である(2)。 これまでの検討,対策を行ったことで 0 .2%耐力を低 減したインターコネクタが得られた。主要な仕様を表 2 に,表 3 に諸特性とその断面写真の一例を示す。 合金層 表 2 インターコネクタの主要な仕様 銅 Main specifications of interconnector 導体サイズ 厚さ 幅 はんだ種類 はんだ めっき厚さ 図 5 はんだ−銅界面の合金層 Alloy layer of solder and copper interface − 15 − 0 .1 ∼ 2 .0 mm 1 .0 ∼ 3 .0 mm Sn-Ag-Cu Sn-Pb Sn-Pb-Ag 20 ∼ 40 μm 極軟質型インターコネクタの開発 表 4 幅広サイズの例 表 3 極軟質型インターコネクタの諸特性と断面写真 Wide size example of solder coated rectangular copper wire Various characteristics and section photographs 導体サイズ はんだ めっき 0 .2% 厚み×幅 0 .2 × 1 .5 mm 種類 Pb-Sn 厚 40 μm 耐力 48 MPa 導体サイズ 伸び めっき厚 厚み×幅 0 .1 × 4 .0 mm 30% 20 μm 荷 姿(リール巻き) 0 .2 × 1 .0 mm 20 μm Sn-Ag-Cu 50 MPa 24% 荷 姿(ボビン巻き) 6 まとめ インターコネクタの開発にあたって複雑に絡み合う 素材,平角線製造,めっき工程,製造ライン構成,巻き 取り方法に至るまで細部に亘って検討を重ね,極軟質型 インターコネクタの製造に成功し,低耐力を保ったまま モジュールメーカーに届けることができる。 ところで,我々の平角線製造方法は丸線をロールで圧 延する圧延製法である。スリット方式の平角線製造方法 注) 「MOF」は,三菱マテリアル(株)の登録商標です。 ではエッジ部にバリが生じることがあるが,圧延方式で は丸みを有しておりバリの発生はない。図 6 に示すよう 参考文献 にさまざまなサイズの平角線製造が可能で幅広サイズも a 日経マイクロデバイスほか編.太陽電池2008/2009. 対応可能である。この幅広サイズをめっきした一例を表 b 伊藤貞則.鉛フリーはんだの疲労寿命と拡散の関係 4 に示す。 一考察.信頼性シンポジウム発表報文集.第16回春季, 1.0 0.5 厚み mm 日経BP社.2008. 2008,p47-50. ○:実績 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 10.0 幅 mm 図 6 圧延可能範囲 Range of rolling − 16 −