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6.4 電池
6.4 電池 6.4.1 電池の原理 è 接触電位 2種類の金属を接触させると,その金属間に電位差が生ずる。この金属間に生ずる電位差を 接触電位という。接触電位は,白金に対する電位差で表示する。この接触電位の大きさの順 序はイオン化傾向と同様の傾向にある。 金 属 接触電位差 (V ) 表 6.2: 接触電位 Mg Al Zn Fe 1.47 1.04 0.64 0.24 Cu 0.10 Ag 0.05 è 電池の原理 フェノールフタレインを含む寒天ゲルに2種類の金属板を接触させて埋めると,イオン化傾 向の小さな方の金属板の表面が赤くなり,[H+ ] の値が減少したことが観察される。 図 6.7: Zn と Cu を埋め込んだ寒天 6.4.2 ダニエル電池 è 電池を表わす化学式 (Ä)Zn j ZnSO4 aq j CuSO4 aq j Cu(+) è 起電力 ( 1.10 V ) è 電池の構造 (負 極) (正 極) (電解液) ZnjZnSO4 水溶液 (Zn/Zn2+ ) CujCuSO4 水溶液 (Cu/Cu2+ ) 硫酸亜鉛水溶液 j 素焼き板 j 硫酸銅水溶液 116 (6.28) v è 放電の機構 (負極) (正極) Zn 2+ Cu + 2eÄ Zn + Cu2+ Ä! Ä! Ä! Zn2+ + 2eÄ Cu 2+ Zn + Cu 亜鉛 板 銅板 è 起電力 [Zn2+ ] の値が小さいほど起電力は大きく [Cu2+ ] なる。このことは,起電力と濃度の間に関 係があることを示しているが,これを利用 した電池に濃淡電池と呼ばれるものがある。 硫酸亜鉛水溶液 硫酸銅水溶液 素焼き板 図 6.8: ダニエル電池の構造 (Ä)Cu j 0:1[ mol /` ]CuSO4 j 0:5[ mol /` ]CuSO4 j Cu(+) (6.29) è 充電 外部から電気エネルギーを加えて,電池に放電とは逆の変化を生じさせる操作のことを充電 という。ダニエル電池における充電での化学変化は次のようになる。 (負極) (正極) 6.4.3 Cu 2+ Zn + 2eÄ Zn2+ + Cu Ä! Ä! Ä! Cu2+ + 2eÄ Zn Zn + Cu2+ 乾電池 (ルクランシェ乾電池) 正極合剤 (MnO2 + ZnCl2 (NH4 Cl) - H2 O è 電池を表わす化学式 炭素 (集電体) (Ä)Zn j NH4 Cl(ZnCl2 )ÄH2 O j MnO2 ; C(+)(6.30) è 起電力 ( 1.5 V ) Zn è 電池の構造 (負 極) (正 極) (電解液) Zn (Zn/Zn2+ ) MnO2 酸化還元反応を担うのは MnO2 炭素棒は電子を集める役割 MnO2 は減極剤という見方も ある。 塩化亜鉛を含む塩化アンモ ニウム飽和水溶液 セパレータ ペースト層 (ZnCl2 (NH4 Cl) + デンプンなど) 図 6.9: 塩化亜鉛乾電池 è 放電の機構 放電の機構についてはよく分からない点が多いが,電池内での全反応は, 117 Zn + 2MnO2 + 2NH4 Cl Ä! 2MnOOH + Zn(NH3 )2 Cl2 (6.31) と言われている。 電解液の主成分を,ZnCl2 としたものを塩化亜鉛乾電池という。1970 年代に開発され,放 電中の内部抵抗の増加が少なく,放電にともない水を消費することから耐漏液性に優れてい る。この電池の電池内での全反応は, 4Zn + 8MnO2 + ZnCl2 + 8H2 O Ä! 8MnOOH + ZnCl2 Å4Zn(OH)2 (6.32) である。 アルカリマンガン乾電池は,電解液として濃厚水酸化カリウム水溶液を用いたものであ る。1965 年以降に開発されたが,負極に亜鉛粉末を水銀でアマルガム化したものを用いて いたが,環境の水銀汚染の懸念をなくすために,Pb,In,Ga,Al などを添加した合金が使 われている。このタイプの電池では,中心に黄銅 (Cu - Zn 合金) の集電体を配置したインサ イドアウト構造となっている1 。 (+)MnO2 j KOH(ZnO) Ä H2 O j Zn (6.33) この電池内での全反応は, Zn + 2MnO2 + H2 O Ä! 2MnOOH + ZnO (6.34) である。 6.4.4 ボルタ電池 è 電池を表わす化学式 (Ä)Zn j H2 SO4 aq j Cu(+) 2eÄ (6.35) 亜鉛 板 è 起電力 ( 1.10 V ) H2 H+ Zn2+ è 電池の構造 亜鉛板 ( Zn/Zn2+ ) 水 素 ( H2 /H+ ) 希硫酸 (負 極) (正 極) (電解液) 銅板 H+ 図 6.10: ボルタ電池 è 放電の機構 (負極) (正極) 1 Zn + 2eÄ Zn + 2H+ 2H+ Ä! Ä! Ä! Zn2+ + 2eÄ H2 2+ Zn + H2 二酸化マンガン-亜鉛乾電池については第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.717∼720 を参考にした。 118 è 分極作用 ボルタの電池では,時間とともに電池の起電力が低下する。これは,正極における気体の水 素の発生によって,電極表面に水素の泡が生じ,電子の授受を阻害したり,イオン化しよう とする反応が生じ易くなるためである。この現象を分極もしくは分極作用という。分極を防 ぐには,発生した気体を除けばよい。 そのためには,正極表面に酸化剤を加えて置くことにより,発生した水素ガスは水に酸化さ れ,分極は起こらない。このような目的で加えられる酸化剤を減極剤というが,電極におい て直接電子を授受する物質を指すことが多い。 使用する酸化剤としては,過酸化水素,過マンガン酸カリウム,酸化銅などがある。 è 局部電流 負極に純粋な亜鉛を用いていれば,亜鉛がイオンに変化したときの電子は外部に取り出され るが,不純物として鉄が存在すると,鉄との間に電池が形成され,負極表面の鉄を通して, 電子が電解液中のイオンに渡されていく。そのため,溶解した亜鉛の量に比べて取り出せる 電流が小さくなる。この時の電流を局部電流という。金属表面の腐食や電池の自己放電など において見られる。 6.4.5 その他の一次電池 è アルカリ電池 { 水銀電池 ( 1.35,1.4V ) (+)Hg(MnO2 ) j KOH(ZnO) Ä H2 O j Zn(Ä) (6.36) (+)Ag2 O j KOH(ZnO) Ä H2 O j Zn(Ä) (6.37) { 銀電池 ( 1.55V ) { 空気電池 ( 1.3,1.4V ) O2 j KOH(ZnO) Ä H2 O j Zn(Ä) (6.38) { ニッケル電池 ( 1.6V ) (+)NiOOH j KOH(ZnO) Ä H2 O j Zn(Ä) (6.39) è リチウム電池 { フッ化黒鉛-リチウム電池 ( 3.0V ) (+)(CF)n j LiBF4 Ä BL j Li(Ä) (6.40) { 二酸化マンガン-リチウム電池 ( 3.0V ) (+)MnO2 j LiClO4 Ä PC=DME j Li(Ä) (6.41) { 塩化チオニル-リチウム電池 ( 3.6V ) (+)SOCl2 j LiAlCl4 Ä SOCl2 j Li(Ä) 119 (6.42) 6.4.6 鉛蓄電池 100 年以上の歴史を持つ電池で,自動車用電池や非常用電源の電池として用いられてきた。エ ネルギー密度 (単位重量あたりから取り出せる電力) が低く,サイクル寿命が短いなどの欠点をも つが,価格に対する性能は十分に高く,容積が問題にならない場合にはローコストの電池として よく使用されている2 。 è 電池を表わす化学式 (Ä)Pb j H2 SO4 aq j PbO2 (+) (6.43) 負極板 (Pb) セパレーター 正極板 (PbO2 ) 希硫酸 比重 1.260∼1.280 è 起電力 ( 2.1 V ) è 構造 (負 極) (正 極) (電解液) Pb PbO2 希硫酸 図 6.11: 鉛電池 è 放電の機構 (負極) (正極) Pb + SO2Ä 4 Ä PbO2 + 4H+ + SO2Ä 4 + 2e Pb + PbO2 + 2H2 SO4 Ä! Ä! Ä! PbSO4 + 2eÄ PbSO4 + 2H2 O 2PbSO4 + 2H2 O PbSO4 は白色不溶性の固体で,電極表面に付着する。 鉛畜電池において,2.00molの電子が移動した場合,正極,負極および電解液の重量 はどの程度変化するか。なお,原子量として次の値を用いよ。 H=1.00 O=16.0 S=32.0 Pb = 207 è 充電 放電により起電力が 1.8 V まで低下したときに行うと,起電力を回復させることができ る。鉛畜電池のように,充電によって,電気エネルギーを化学物質に変換して貯蔵すること ができる電池を二次電池という。 充電における化学変化は次のようになる。 (負 極) (正 極) 2 PbSO4 + 2eÄ PbSO4 + 2H2 O 2PbSO4 + 2H2 O Ä! Ä! Ä! 第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.720 120 Pb + SO2Ä 4 PbO2 + 4H+ + SO2Ä 4 + 2eÄ Pb + PbO2 + 2H2 SO4 6.4.7 その他の二次電池 è アルカリ蓄電池 電解液にアルカリ性の水溶液を用いた蓄電池のことで,電解液としてはおもに水酸化カリウ ム水溶液を用いる3 。 おもなアルカリ二次電池にはニッケル−カドミウム,ニッケル−鉄,ニッケル−亜鉛,酸化 銀−亜鉛,酸化銀−カドミウム蓄電池などがある。 { ニッケル−カドミウム蓄電池 ( 1.32 V ) (Ä)Cd j KOH j NiOOH(+) (6.44) { 酸化銀−カドミウム蓄電池 ( 1.37 V ) (Ä)Cd j KOH j AgO(+) (6.45) 正極での反応 NiOOH + H2 O + eÄ Ä! Ni(OH)2 + OHÄ (6.46) 負極での反応 CdO や Cd(OH)2 を生成する。 è ニッケル−水素電池 アルカリ二次電池の一つで,負極に水素吸蔵合金を用いる。作動電圧約 1.2 V であり,負 極での放電,充電にともなう変化を次に示す。なお,M は水素吸蔵合金を表わすものとす る4 。 Ä MHx + xOHÄ Ä! Ä M + xH2 O + xe (6.47) また,全体の反応は次のようになる。 xNiOOH + MHx Ä! Ä xNi(OH)2 + M (6.48) このように,充放電において溶液の濃度変化が起こらない。 6.4.8 燃料電池 1800 年代初頭に H.Davy(英国) が燃料電池の原理を初めて示した。1839 年には W.R.Grove(英 国) が燃料電池による水の電気分解の実験を行い,これが発電装置として作動しうることを実証し た。1950 年代に F.T.Bacon(英国) が開発したカルボニルニッケルを電極に用いた水素−酸素燃料 電池は,米国のジェミニ計画,アポロ計画において宇宙船の電源用電池の原形となった5 。 日本では,平成4年 (1992) において,東芝 (水素−酸素型,670kW /1 基,リン酸型),北陸電力 (LPG利用の水素−酸素型,50kW /1 基,リン酸型),三菱−中部電力 (天然ガス利用,1.32kW , 固体電解質型 [セラミックを電解質として使用]) が開発に成功している6 。 3 第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.722 第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.726 5 第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.728 6 北陸中日新聞より 4 121 è アルカリ型燃料電池 燃料として純水素のみ利用可能で,宇宙,軍事用に使用されている7 。 { 電池を表わす化学式 (Ä)H2 j KOHaq j O2 (+) { 放電の機構 (負極) 2H2 + 4OHÄ (正極) O2 + 2H2 O + 4eÄ 2H2 + O2 4H2 O + 4eÄ 4OHÄ 2H2 O Ä! Ä! Ä! è リン酸型 燃料として,天然ガス,LPG,メタノール,ナフサなどが利用可能。 { 放電の機構 (負極) 2H2 (正極) O2 + 4H+ + 4eÄ 2H2 + O2 4H+ + 4eÄ 2H2 O 2H2 O Ä! Ä! Ä! 負 荷 2eÄ + H2 電解質 (リン酸 水溶液) 2eÄ 2H+ 2H+ 2H+ + O2 + 1/2O2 H2 7 H2 O 第 5 版化学便覧応用化学編 Ip.729 122 (6.49)