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金子千慧
「女性の就業継続のすすめ」
経営学部公共経営学科
4 年 19 組 9 番
黒田ゼミナール
金子 千慧
2013 年 1 月 30 日
1
目次
はじめに
第 1 章 働くママ(女性)の時代
第 1 節 女性の社会進出
(1) 性別役割分業意識の変化
(2) 女性の高学歴化
(3) 女性の労働力の変化
第 2 節 働くママの変化
第 2 章 働くママを支援する制度・サービス
第 1 節 法制度による支援
(1) 産前・産後休業
(2) 育児休業
(3) 短時間勤務制度
第 2 節 保育サービスによる支援
(1) 認可保育所と無認可保育所の違い
(2) 認可保育所と待機児童
第 3 章 働くママが抱える問題
第 1 節 出産・育児後の女性の社会復帰まで
第 2 節 社会復帰後の働くママ
第 4 章 働くママであり続けるために
第 1 節 待機児童ゼロを目指して
(1) 横浜市の子育て支援対策―待機児童をゼロに―
(2) 待機児童ゼロで働くママを救う
第 2 節 働くママに理解を示す社会へ
おわりに
あとがき
参考資料・参考文献
2
はじめに
近年、先進諸国では時代の流れと共に女性が社会進出を遂げてきた。我が国日本では、
そのような「働く女性」を指す言葉として「ワ-キングウーマン」や子どもがいれば「働
くママ」というようなフレーズが使われている。
女性の社会進出の背景はいくつかあると考えられる。まず、性別役割分業の意識の変化
が挙げられる。従来の「男は仕事、女は家庭」という性別役割の考え方への反対意識から、
女性も社会に出て働く方が良いという考えが広まってきた。次に、夫一人の稼得役割によ
る生活が不安定な状況になり、本人も職業生活に参入せざるを得ないという現状が挙げら
れる。子育て中の女性の中には、子どもを育てていくために「仕事と家庭の両立」を強い
られている女性も少なくないだろう。これでは女性に家庭責任が集中し、その負担は計り
知れない。
女性が社会進出する上で、切っても切り離せないのが子育ての問題である。出産・育児
を機にほとんどの女性が一旦職場を離れてしまう。日本には、女性を支援するための法制
度やサービスが既に存在するのにも関わらず、女性の苦労が解消されたとは言えない。そ
れはなぜだろうか。何が女性の壁になっているのかという点を明らかにすることは極めて
重要である。
女性が仕事と子育ての両立を実現させるには、国の法制度と共に家族や保育所・託児所、
企業のサポートが必要となってくる。そして、そのサポートが誰にでも有効かつ活用しや
すいものでなければならない。待機児童の問題、子育ての担い手が減少している問題など、
子どもを預ける環境が整備されていない限り、まず両立は難しいだろう。それに加えて、
一旦職場を離れていた女性が労働市場に復帰しやすい環境を整備することも重要である。
つまり、子どもを預ける環境と女性が再び仕事を探すためのサポートが整備していくこと
が課題であると私は考える。子育てをしながら働く女性がどのような困難にぶつかってい
て、どのようなサポートを必要としているのか、実態を把握した上で、ベストな解決策を
導き出していきたい。
最後に、私がこのテーマを選んだ理由をまとめたい。出産・育児期において、働きたい
女性や働かなくてはならない女性に、
「仕事と子育ての両立」か「今は仕事を諦める」とい
う二者択一のレールがひかれてしまっていることに疑問を感じたからだ。女性が仕事と子
育てを両立できる環境が整っているのかというと、実際は整いきれていないのが日本の現
状。だとしたら、当然仕事を諦めるしかないという選択肢しか残らない。それが「しょう
がない」で済まされていることがおかしいと思う。
「出産」や「母であること」は女性の特
権である。だが、それを理由に仕事を諦めて欲しくない、諦めたくないという私自身の願
いも込めて、このテーマを選んだ。私自身、将来は素敵な家庭を持ち、幸せに生きていく
3
一女性として、どうすれば女性が「働くママ」になっても自分らしく働き続け、輝くこと
ができるのかを考えていきたい。
第1章
働くママ(女性)の時代
第 1 節 女性の社会進出
(1)性別役割分業意識の変化
序章でも述べたように、近年女性の労働力は上昇の傾向にあり、ママになっても働く社
会となった。今や男性と同じようにバリバリと働き、結婚後も子育てと両立させながらキ
ャリアを重ねていく女性も特別な存在ではなくなった。
そのように女性も働く社会へと少しずつ変化してきた要因は何なのだろうか。日本は昔
から、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業意識が根強い国である。しかし、1970
代以降からその意識は一貫して減少を続けている。図表 1-1 では、1972 年には実に 8 割
もの男女が「夫は仕事、妻は家庭」に「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えているが、
男女とも「賛成」が少しずつ低下し、「反対」が増加していることが分かる。得に女性の回
答においては、
「賛成」の答えが 25 年間で 30%以上も減少しており、
「どちらかといえば賛
成」の答えを合わせると 41.9%まで減少している。男性も「賛成」の答えは減少している
ものの、
「どちらかといえば賛成」の答えを合わせても 64.9%で、意識変化のスピードに男
女で大きな開きがあることが分かる。
図表 1-1「夫は仕事、妻は家庭」
性別役割分業意識についての賛否
どちらかとい
どちらかとい
賛成(%)
反対(%)
えば賛成(%) えば反対(%)
1972 年
48.8
34.4
7.6
2.6
1979 年
29.1
41.0
18.3
4.5
1992 年
19.8
35.8
26.4
11.9
1997 年
17.9
34.0
26.9
16.7
女性
4
1972 年
52.3
31.5
6.3
2.4
1979 年
35.1
40.5
13.4
4.0
1992 年
26.9
38.8
20.9
7.7
1997 年
23.9
41.0
20.5
10.3
男性
出所 尾嶋史章
2000 年
(注)総理府(現・内閣府)が過去に過去に行った四つの世論調査、
「婦人に関する世論調査」(1972 年、1979
年)、
「男女平等に関する世論調査」(1992 年)、
「男女共同参画社会に関する世論調査」(1997 年)につい
ての結果をまとめたものである。
出典 http://www.geek.sc/archives/307
(2)女性の高学歴化
女性の社会進出の表れとして、女性の高学歴化の要因も挙げられる。図表 1-2 は、男
子と女子の大学等進学率の推移を表したグラフである。
2011 年度卒者の現役大学進学率(短期大学を含む)は前年比をやや上回る 55.4%である。
男女比でみると、男子が 52.4%、女性が 56.5%と、短期大学を含む進学率では、女子が男
子を 4.1%も上回っていることが分かる。男女の差は確実に縮まってきている。
女性の大学進学率の推移をみると、1985 年男女雇用機会均等法が施行された頃は、短
期大学への進学が一般的で、4年制大学は 12%ほどであった。男女平等が推し進められ、
女子の学歴志向が高まり、1996 年には4年生大学と短期大学の進学率が逆転した。
この分析から、女性の進学欲の向上をうかがわせる動きが見てとれる。この動きは、社
会に出てキャリアを積みながら働きたい、一生困らないような職を手に付けたいという、
女性の一つの通過点になっているようだ。
しかし、これだけ女性の高学歴化が進んではいるものの、その動きが進学後の一生の働
き方に、直接結び付くものではないということを忘れてはいけない。男女共通して言える
ことであるが、いくら高学歴でも社会状況に連鎖して雇用形態が多様化している今、結果
として非正規雇用になってしまう場合もまったく少なくない世の中である。ただ女性にと
って将来働くというビジョンが広がったということをここでは認識してほしい。
5
図表 1-2
男子と女子の大学進学率の推移
出典 http://www.worldtimes.co.jp/wtop/education/data/dt110829.html
(3)女性の労働力の変化
では、女性の労働力はどのように変化してきたのだろうか。総務省「労働力調査(基本集
計)」(平成 23 年)によると、労働力人口総数は 6,261 万人と 36 万人減少した。その内、女
性の労働人口は 2,632 万人と前年に比べ 11 万人減少し、労働力人口総数に占める女性の割
合は 42.0%(前年同)となった。図 1-3 を見てみると、昭和 60 年から 10 年間で一度勢いよ
く女性の労働力人口が上昇し、現在に至るまでは多少の増減のみで、ほぼ横ばいになって
いることが分かる。
6
図 1-3
労働人口及び労働人口総数に占める女性割合の推移
資料出所:総務省統計局
「労働力調査」
出典 厚生労働省 「働く女性の実情 平成 22 年版」
このように女性の労働力人口が上昇し、女性の社会進出が浸透するようになった要因を
考える上でまず挙げられるのが 1986 年の「男女雇用機会均等法」の施行である。募集・採
用・配置・昇進において女性を差別しないという目的により、職場における男女の雇用機
会の平等が努力義務として位置づけられた。この均等法が施行以降、2 回の改正均等法も施
行され、確かに少しずつではあるが女性の社会進出のレールが少しずつ整備された証拠だ
と言える。しかし、働く女性が増えたというのは事実にしろ、それと共に浮き彫りになっ
ていく女性が抱える問題が解消されたのかという点では大分疑問がある。なぜなら、単に
働く女性という概念だけで問題を捉えてはいけないからだ。今や、働く女性は多様なライ
フコースを選択する時代となった。仕事を始めてから、
「結婚する・しない」、「結婚を機に
仕事を辞める・続ける」、
「子どもを持つ・持たない」、「子どもを持てば仕事は辞める・続
ける・辞めてから再び働く」というように、女性は社会状況や家庭環境、職場環境などに
左右されるごとく、それぞれが持つ事情で自身のライフコースに二者択一の選択を迫られ
てしまうことがあるのが現状である。
7
次に、図表 1-4 の女性の年齢階級別労働力のグラフを分析していく。昭和 50 年のグラ
フを見てみると、25~29 歳と 30~34 歳の年齢階級がその前後(20~24 歳、35~39 歳)の年齢
階級に比べて極端に労働力率が低くなり、グラフはM字カーブを描いている。その要因は、
女性が結婚・出産を機に一旦仕事を辞め、家庭・育児に専念した後、再び仕事を始めてい
ることを示している。
昭和 50 年のグラフでは、25~29 歳と 30~34 歳の二つの年齢階級が底となっていたが、
25~29 歳の労働力率は次第に上昇し、平成 22 年では、年齢階級で最も高い労働力率となっ
ている。平成 22 年の年齢階級のM字の底は、35~39 歳になっている。昭和 50 年のグラフ
に比べると、平成 22 年のグラフはM字カーブの底が浅くなっており、少しずつ台形へと変
化してきていることが分かる。
しかし、中間年齢において落ち込み、その後上昇に転じるというパターンは残存してい
る。このことが意味するものは、女性の就業継続の実現というよりも、近年の女性の晩婚
化・未婚化、高齢出産などの要因の方が強く結びついているようだ。これでは女性が仕事
をしながら家庭・育児を両立できるようになったとは断言できないのが現状である。女性
の就業継続と出産・育児との関係においての問題が垣間見える。
図表 1-4
女性の年齢階級別労働力率の推移
出典 http://www.gender.go.jp/whitepaper/h23/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html
8
第 2 節 働くママの変化
今は女性でも、ママになってからも働く社会になった。働くママにとって、切っても切
り離せないのが「仕事と家庭・子育ての両立」である。前節では、おおまかに働く女性の
意識の変化や、働き方の変化を述べてきたが、第 2 節では、子どもを持ちながら働く女性
「働くママ」が働く理由やその現状を述べていきたい。
個人的なことになってしまうが、私もつい最近までは両親が共働き世帯であった。私と
兄を育て上げるために、父はもちろんのこと、母も働きに出てくれていた。近年、そのよ
うな共働きの世帯は増えている(図表 1-5)。グラフを見ても分かるように、昭和 55 年から
今日に至るまでの間に、少なかった共働き世帯のグラフと多かった男性だけが働く世帯の
グラフとが平成 3 年あたりで交差し、その後は共働き世帯が上昇を続けていることが分か
る。今や社会では「働く妻」はごく普通であるとされる時代になってきているのだ。
図 1-5
共働き等世帯数の推移
出典 http://www.gender.go.jp/whitepaper/h23/gaiyou/html/honpen/b1_s02.html
9
序章にて、女性の社会進出の背景として、夫一人の稼得役割による生活が不安定な状況
になり、本人も職業生活に参入せざるを得ないという現状を挙げた。
日本ヒーブ協議会が 2010 年に行った「働く女性と暮らしの調査―女性が前向きに働き続
けるために―(第 8 回)」によると、女性が仕事をする理由の第 1 位が「生計を維持する」と
いう回答が 56.6%で調査開始以来、最も高い回答率になったそうだ。前回(2006 年実施)の
調査でも女性が働く理由の第 1 位は「生計を維持する」という回答だった。この結果から
も分かるように、働く女性が家計を支えるという責任は大きくなってきているのだ。他の
理由には「社会との関わりを持っていたい」、
「専業主婦は嫌だ」などが挙げられるが、
私が最も問題視したいのは、家計を支えるために働かなくてはならない女性にのしかかる
負担である。働くママの「仕事と家庭・育児の両立」が当たり前のようになってきている
が、それぞれの女性があらゆる事情を抱えており、その解消に頭を悩ませている人も多い
だろう。
第2章
働くママを支援する法制度・サービス
これまでも述べてきたように、社会に出て働く女性は独身女性ばかりではない。結婚し
ても、出産しても仕事をしたいと望む女性は多いのだ。しかし、その現実は苦労の連続で
あろう。そこで、この章では、働くママを支援するためにどのような法制度やサービスが
既に存在しているのか、また働くママはそれらの法制度やサービスをどのように利用・活
用しているのかを明らかにしていきたい。
第 1 節 法制度による支援
(1) 産前・産後休業
仕事をしながら、出産して育児をしていくという場合、どうしても一定の期間は体のこ
とも考えて休む必要が出てくる。そのような女性のために、出産ための休み「産休」の制
度がある。この産休の制度を取る権利は労働基準法において全ての労働者に認められてい
るものであり、出産を控えたまたは出産後の女性労働者は、事業主に申請することで産前・
産後休業をそれぞれ取ることができる。また、その産休を取る権利というのは雇用形態と
は無関係であり、アルバイトでもパートにも保障されている。法律上は、産休を取ってい
る期間も労働契約を継続し、その期間内の解雇は禁止されている。
産前休業は、出産予定の 6 週間前(双子の場合は 14 週間前)から請求すれば取得すること
10
ができる。一方、産後休業は出産の翌日から 8 週間は就業することができない。ただし、
産後 6 週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができる。
女性が妊娠してから産後までの産休取得の流れを分かりやすくまとめたのが図 2-1 であ
る。
図表 2-1
産前・産後休暇のしくみ
• 6週間前から申請すれば取得可能。
産前休業
•産休は全ての女性労働者に認められた権利である。
出産
•基本的に8週間は就業できない。
産後休業 •医師の許可があれば、6週間経過後から就業できる。
出典 http://www.roudousha.net/Child/Work3child001.html より作成
(2) 育児休業制度
育児休業制度とは、簡単に言えば、労働者が育児のために子どもが 1 歳になるまで休暇
をとれる制度である。労働者(日々雇用される労働者を除く)は、事業主に申し出ることによ
って、子どもが 1 歳に達するまでの間、育児休業を取ることが出来るようになっている。
「仕
事と家庭・育児の両立」を実現させることを目的に始まったこの制度であるが、数回の改
正がされ、同時に育児休業給付制度も見直しが行われてきた。
平成 22 年 4 月 1 日には、これまでの「育児休業基本金」と「育児休業者職場復帰給付金」
が統合され、
「育児休業給付金」として、全額育児休業中に支給されるようになった。
また、育児・介護休業法改正により創設される「パパ・ママ育休プラス制度」に対応し、
給付金制度も変更された。この制度は、父母ともに育児休業を取得する場合の育児休業取
得可能時期の延長ができるという内容である(図表 2-2)。この制度の利用により、育児休
業を取得する場合には、一定の条件を満たすと、子が 1 歳 2 カ月に達する日の前日までに、
11
最大 1 年まで育児休業給付金が支給される。
図表 2-2 パパ・ママ育休プラス制度の例
出典
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201006/4.html
また、配偶者の出産後 8 週間以内の期間内に、父親が育児休業を取得した場合には、
特別な事情がなくても、再度の取得が可能になった(図表 2-3)。
これによって女性は、大変な産後 8 週間以内も父親の一度目の育児休業取得によって
協力し合いながら子育てができ、その後の育児休業も安心して取得できるようになった
のだ。働くママにとって、子育てを父親が協力してくれることは、また再び働きたいと
いうきっかけになる。女性だけではなく、男性も積極的に育児休業が取れるような環境
が整備され始めているようだ。
図表 2-3 育児休業再取得の例
出典
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201006/4.html
12
このように、男女問わず、労働者が「仕事と家庭・育児の両立」の実現ために、育児
休業制度が利用しやすいように、何度も制度の在り方が見直されていることはとても良
いことだと私は感じる。女性にとってこの環境の変化は、とても大きなメリットがあり、
また社会に出て働きたいと願う女性の選択肢の可能性を広げることが実現したと言え
るのではないだろうか。
その証拠に、図表 2-2 を見てほしい。女性の育児休業取得率は平成 8 年では 49.1%
と、女性の半数しか育児休業制度を利用していなかった。しかし、その後女性の取得率
は上昇を続け、
平成 23 年には約 90%もの女性が育児休業を取得することができている。
図表 2-2 育児休業取得率の推移
出典 http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51934282.html
※ただし、この取得率は妊娠・出産後も勤務を継続している人のうち、育児休業を取得した人の割合をい
うのであって、当り前ではあるが、それ以前に退職してしまった人は含まれない。このことに留意する
べきだろう。
一方、男性の取得率は、女性に比べては依然として低いものの、平成 23 年には初めて 2%
台に乗ったということで、これからもっと育児休業を取る男性が増えていくという期待を
持てるような結果となった。これからは、いかにして男性の育児休業取得率を伸ばしてい
くかというところに課題が集まっていくだろう。
(3) 短時間勤務制度
働くママにとって、勤務時間の制約は頭を悩ます問題である。その悩みを解消すべく、
13
育児・介護休業法が改正されたことによって、短時間勤務制度(所定労働時間の短縮)が事業
主の義務になった。労働者の仕事と子育ての両立支援などを一層進めるため、3歳までの子
どもを養育する労働者について、一日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を義務
付けるという内容である。女性が育児と両立しながら仕事を続けることができるようにと、
最も多くの企業が導入してきたのがこの短時間勤務である。厚生労働省の「平成20年度雇
用機会均等基本調査」によれば、導入企業の割合は平成17年度の31.4%から、平成20年度
には38.9%にまで増加したという結果が出ている。
第 2 節 保育サービスによる支援
働くママが仕事と育児を両立させるためには、子どもを預ける環境が整っていなければ
ならない。子どもをしっかり預かってくれる代表的な施設が保育所であり、重要な役割を
持っている。では、現在日本にどのような種類の保育所があり、働くママがどのようにそ
れらの保育所を利用しているのかを明らかにしていきたい。好ましい傾向ではあるが、一
方では義務づけられても、制度化されてないところが6割もあるという実態が浮き彫りにな
ったと言える。
(1)認可保育所と無認可保育所の違い
保育所を大きく分類するとき、もっとも重要視されるのが「認可」されているかどうか
という点である。認可するかどうかを決めるのは、その保育所がある国や自治体(都道府県)
である。保育所が認可を受けるためにはまず、その施設が児童福祉法で定められた「保育
所最低基準」を満たしていることが絶対条件となる。「保育所最低基準」では、たとえば、
子ども1人あたりに最低限度必要な保育室の面積や、年齢ごとに子どもの人数に対して何
人の保育士がつかなければならないか、といったことが細かく定められている。これらの
基準を満たせば、認可され、認可保育所として認められるのだ。基準を満たしていない、
あるいは満たしていても申請していない保育所が無認可保育所として区分される(図表2-
3)。
認可保育所は、たとえば保育室は子ども1人あたり3.3平米のスペースが必要で、0歳の赤
ちゃんなら、3人に対して保育士1人が必ずつかなければならない。さらに、都道府県や自
治体ごとに、さまざまな工夫があり、最低基準を上回る手厚い保育を実施しているところ
もたくさんある。認可保育所のメリットは、子どもにとって最低限の安心・安全が確保さ
れている可能性が高いという点である。初めての子育てに悩むママにとっては、認可保育
所を選ぶのが安心である。
次に、無認可保育所(認可外保育所)とは、国や自治体が定めた保育所最低基準を満たして
いないために、国や自治体から認可されていない保育所のことである。無認可保育所は、
その基準を満たしていないため、設備が不十分な場合が多い。一方で無認可保育所は個人
14
や民間業者が運営していることが多いため、融通が利きやすいなどのメリットがある。認
可保育所の場合、夜7時までしか延長がないところも多いため、親が働く時間に合わないこ
ともある。そうした時に頼りになるのが無認可保育所である(図表2-4)。認可保育所は基本
開所時間が11時間であるのに対して、無認可保育所はその施設によって開所時間が異なる
ため、自分の働き方に合った保育所を選ぶことができる。無認可保育所は、設備などで認
可に比べて十分ではないところもあるが、高い目標と愛情を持って保育にあたっている姿
勢というのは認可と変わりないのである。
図表2-3
保育サービスの種類
広さや設備、職員の数
市区町立で、職員は公務員。市区町村内で
や資格、保育内容につい
人事異動があるので、園による違いが少な
て、国が設けた最低基準を
公立
い。労働条件がよくベテランの保育士が多
クリアして認可された施設。
いのも特徴。最近、公設公営だった園が公
認
国や自治体から運営費が
設民営になるケースがふえている。
可
大幅に補助されている。ほ
保
とんとのところで園庭や調
設備・人手などハード面の基準、保育料は
育
理設備が整い、保育料は
公立と同じだが、保育内容は園長先生のカ
園
所得に応じて軽減される。
幼稚園教育要領と同様の
認
可
外
保
育
園
ラーで個性があり、よいところとイマイチ
私立
のところの差が大きい。延長保育、産休明
保育所保育指針に基づい
けの実施率が高く、日常的にもいろんな面
た保育が行われている。
で融通が利きやすい園が多い。
認可保育園以外の保育
東京都の認証保育所や保育室などのよう
施設を総称して認可外(無
に、自治体が補助金を出している施設。自
認可)保育園と言う。保育マ
治体によって、小規模保育施設、横浜保育
マに近い託児もあれば、か
なりの補助金を受ける準認
可園的施設もある。ベビー
自治体の助成施
設
室などの名称はさまざま。施設や人員につ
いて基準がある。小規模・少人数で低年齢
児を預かるところが多いが、ビルの中の保
ホテルのチェーン店もここ
育で、園庭がないところも多いので、散歩
に含まれる。園庭がないこ
など、施設面を補う保育をしているかどう
ともあり、設備が不十分な
かが、チェックポイントになる。
15
施設も多いが、小規模の利
事業主が従業員のために設ける保育園。企
点を生かして家庭的な保育
業内保育所もあるが、院内保育所が多い。
を行って評判の高い施設も
事業所内保育所 都市部では子連れ通勤がネック。いざとい
ある。施設の名称だけで
(企業内・院内)うときに、すぐに駆けつけられること、職
は、認可・認可外、補助金
場の勤務時間や勤務日に合わせた保育をし
の有無などの種別はわかり
てくれるのがメリット。
にくい。
補助金を受けていない託児施設で夜間や
24 時間の保育や一時的に預かってくれる
ところを、ベビーホテルと呼ぶ。個人運営、
ベビーホテルな 企業運営などがあって、質も料金もさまざ
ど
ま。運営費は利用者の払う保育料のみに頼
っており、役所の干渉も少ないため、子ど
もの心身の発育に望ましくない施設もあ
る。十分な見学が必要。
出典 http://www.eqg.org/oyanokai/hoikukiso.html
図表2-4
保育園の開所時間
出所 http://www.eqg.org/oyanokai/hoikukiso.html
(3) 認可保育所と待機児童
先ほど、認可保育所と無認可保育所の違いとメリットを述べたが、gooベビーによる
ママたちの意識調査によると、働くママに人気があるのはやはり認可保育所のようだ(図
表2-5)。グラフを見ると、
「私立認可保育所」(44%)と「公立認可保育所」(39%)を合わ
せると、8割以上が認可保育所に通っていることが分かる。
16
図表2-5
今預けている保育園の形態は?
出典 http://baby.goo.ne.jp/member/ikuji/hoikuen/3/01.html
その保育所を選んだ理由には、
「家から近いから」という多数回答に次いで、
「園の雰囲
気」
、
「保育士と子どもの様子」という回答も多かった。この結果から多くの女性が安心し
て預けられる認可保育所へ子どもを通わせることを望んでいることがうかがえる。
このように、多くの働くママが認可保育所を望んでいるにも関わらず、認可保育所に入
れない「待機児童」の問題がここ毎年のようにニュースで取り上げられている。特に、首
都圏や近畿圏などの大都市では、認可保育所に入りたくても入れない子どもが大勢出てき
ているのだ。厚生労働省のデータによると、平成23年における待機児童数は、25,556人
で、4年ぶりの減少となった。(図表2-6)。保育所の総利用率と3歳未満の利用率を見てみ
ると、共に毎年上昇していることが分かる。女性の社会進出に加え、働くママが増えたこ
とにより、保育所の利用が増えてきているのだ。待機児童数は平成16年から20年にかけ
て減少の傾向が見られるが、今日に至るまでにまた上昇してきている。
17
図表2-6
保育所待機児童数及び保育所利用率の推移
出典 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q77g.html
また、その待機児童を年齢区分別に見てみると、1、2歳児の低年齢児の割合が全体の
82.6%を占めていることが分かる(図表2-7)。
図表2-7
年齢区分別の待機児童数
出典 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q77g.html
18
人気の認可保育所は増やすのが難しいという問題がある。なぜなら先ほどから何度も述
べているが、認可保育所は規模も大きく、子どもの安心・安全を確保するために保育士さ
んはじめ、多くのスタッフが働いているため、当然のことながら多くの運営費が必要とな
ってくる。認可保育所の運営費は、自治体によって多少の違いはあるものの、おおむね、
国、都道府県、市区町村が4分の3を負担し、子どもを預けている親が支払う保育料は、
わずか残りの4分の1程度にあてられるに過ぎない。つまり、認可保育所をつくれば作る
ほど、自治体の負担は増えていくことになる。そのため、最低基準を満たしていて、認可
申請をしているにも関わらず、なかなか認可されない保育所もたくさんあるのが現実なの
である。
第 3 章 働くママが抱える問題
第 3 章では、働くママの経験から働く女性の実態を明らかにすることで、出産・育児後
の女性が社会復帰するまでの問題と働くママとして社会復帰してからの問題を挙げていき
たい。
第 1 節
出産・育児後の女性が社会復帰するまで
今どき働くママたちは、出産、育児後の女性の社会復帰をどのようにとらえているのだ
ろうか。
図表3-1
ぱどが2010年に「働くママ」557人を対象に行った意識調査1
出典 http://www.pado.co.jp/pado/link/voice/back/index0019.html
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図表3-1を見て分かるように、男性と異なり、女性にとって結婚、出産は働き続けるか
辞めるべきかを考える重要なターニングポイントとなっているようだ。初めての妊娠で、
フルタイムの仕事を辞めた人が43%を占める結果となり、働く女性が増えたとはいえ、出
産を機に仕事から離れる女性がまだまだ多いことが分かる。
図表3-2
ぱどが2010年に「働くママ」557人を対象に行った意識調査2
次に、出産・育児後の社会復帰の難易度の調査結果である図表3-2を見てみると、
「とて
も難しい」(42%)と「やや難しい」(51%)を合わせて93%の今働くママが出産、育児後の女
性の社会復帰に対して「難しい」という意見を持っていることが分かる。働くママが難し
いと答えた理由で挙げられた意見をいくつか紹介したい。
・働くママAさんの場合
「まず、預かってくれる保育所が見つからなかったりすること。保育所は選べるくら
いの数があってほしいと思う。自分が働いて得た給料と保育料があまり変わらなか
ったとしたら、家事もあるし、ほんとにへとへとになってしまいそう。」(30 歳)
・働くママHさんの場合
「いくら復帰の機会があっても、それは建前に近く、実際には復帰しても、子どもの
予定や体調にあわせて仕事に支障がでてしまうため、職場の人に迷惑をかけたりし
てしまう。実際に前に勤めていた仕事は、制度上は復帰できても同僚の理解を得づ
らかった。
」(39 歳)
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・働くママKさんの場合
「働き始めても、どうしても子どもが熱を出せば体調が悪いとお休みしたりす
ることになる事があるので、やはり子どもへの理解がある職場でないとやりづ
らい気がします。又、比較的家から近い方が通いやすいので、そういったいろ
んな面を考えると出産・育児後は自分に合った仕事を見つけるのは難しい気が
します。」(38 歳)
他にも、
「ブランクができたことによる自分のスキル不足に不安を感じた」など一旦社会
から離れ、育児や家事のみに携わっていると、再び社会復帰したときに変わった環境につ
いていけないのではないかという不安を持っていたことへの意見も挙げられた。しかし、
最も多かったのは、
「子どもの預け先がなかなか見つからなかった」という意見だった。今
まさに保育所の少なさ、待機児童の問題に直面しているママも少ない。これらの意見を読
む限り、子どもを持つママたちが働くことに対する周囲の理解はまだまだ低く、働きたい
と願うママたちが仕事を再開するためのハードルはまだまだ高いのが現実である。
第 2 節 社会復帰後の働くママ
出産・育児を経て、社会復帰を果たした働くママが抱える問題とは何なのだろうか。実
際に働くママの実態を明らかにすることで、私なりに社会復帰後の働くママの問題点を指
摘したい。
ベビータウンが会員の働くママ917名を対象に行った「先輩ママの大アンケート」では、
「現在の仕事を続けたいですか?」という質問に対して、7割もの女性が「続けたい」と答
えた。そして続けたいママのうちの7割が「続けられる状況にある」と答えているが、残
りの3割は「続けたいのに難しい状況」だったり、
「続けたいけれどまだどうなるかわから
ない」という不安や悩みを持っていることが分かった。
「現在の仕事を続けたいのに厳しそうと感じる理由」を尋ねたのが図表3-3である。
「パ
パが忙しそうで、育児に協力してもらえなさそう」という回答が37.9%ともっとも多く、次
いで「育児との両立が不安」という回答が33.9%、
「子どもを預ける保育所が見つからない」
という回答が30.6%だった。
以上の結果から見てとれるのは、働くママは、仕事と育児の両立に困難を感じていると
いうことだ。子どもを預ける環境がないことや家庭責任が働くママに集中していることが、
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仕事を続けるのは難しいと答える理由となっているようだ。
図表3-3
出典 http://www.babytown.jp/life_money/work_dream/002/index.html
今回のアンケートでは少数派ながら、約1割のママは現在の仕事を辞めようと思ってい
ると答えていた。その理由を尋ねたのが図表3-4のグラフである。仕事の内容や職場の人
間関係など、一般的な退職理由ではなく、「現在の仕事内容や職場環境では育児との両立
が難しいから」と答えている人が過半数を占めた。「その他」の理由でも、「子どもと一
緒にいる時間を増やしたい」、「子どものそばにいてあげたい」の意見が多数だった。働
くママにとって仕事を続けるかどうかの岐路に子育てが深く関わってきていることが分か
る。
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図表3-4
出典 http://www.babytown.jp/life_money/work_dream/002/index.html
では、仕事を続けたいと思っていても、現在の職場や業務内容では育児との両立が難し
いと感じたとき、ママたちはどのような選択をするのだろうか。最も多かったのが「働く
こと自体をあきらめる」という回答だった(図表 3-5)。次に「子どもの預け先を再検討す
る」の回答が多かった。
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図表3-5
出典 http://www.babytown.jp/life_money/work_dream/002/index.html
以上のようなアンケートの結果から、社会復帰後の働くママが抱える問題は主に子育て
に集中していることが分かった。私が一番気になった働くママの回答が「仕事を続けたい
と思っていても、仕事と育児の両立が難しくなれば、仕事を諦めてしまう」という回答で
ある。働くママにとって仕事と育児の両立が難しいのはなぜだろうか。働くママが不満に
感じていること、求めていることは何なのだろうか。同アンケートの中で働くママが不満
に思っていることへの回答には、「保育所の数が少ない」、「育児休業を取得する制度は
あっても、得に男性においては、現実は取得しにくいという職場の風土があること」など
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が挙げられた。そこで、(1)での実態も踏まえて、働く女性がママになっても仕事を続けて
いくためには、今から挙げる2つの問題を改善する必要があると私は考える。
① 保育所が少なく、待機児童が減らない。
② 男性社会が根強く、働くママへの理解が低い。
この2点が、女性がママになっても仕事を続けていくことにおいて、壁になっている問
題であると私は考える。続く第4章では、この問題に対しての私なりの解決策を提案して
いきたい。
第 4 章
働くママであり続けるために
第 1 節 待機児童ゼロを目指して
先ほど第3章で挙げた① 保育所が少なく、待機児童が減らないという問題に対する改善
策を挙げたい。最近、ニュースで横浜市の待機児童が2013年4月1日には限りなくゼロにな
るという話題を見かけた。そこで横浜市の待機児童減少への取り組みを例に挙げて、解決
策を導き出すヒントにしたい。
(1) 横浜市の子育て支援対策―待機児童をゼロに―
安心して子育てができる街を目指し、横浜市では「保護者のニーズ」にあわせた様々な
取り組みにより、待機児童ゼロという目標達成に近づいている。市の林文子市長は読売新
聞のインタビューに応じ、重点課題と位置付けている待機児童問題について、従来の保育
所や保育所定員を増やしていく対策に加え、今後は保育の質の確保にも力を入れていく考
えを示した。3年前の2010年4月に、認可保育所の待機児童が全国の市区町村で最も
多い1,552人を記録した横浜市だが、今年の4月には待機児童をゼロにするとのことだ。
一体どのような取り組みが行われたのだろうか。
横浜市では、解消策の一環として11年度から市内全18区に専門相談員「保育コンシ
ェルジュ」を配置した。保育コンシェルジュは、従来市が把握していなかった認可外保育
所や幼稚園の預かり保育など、子どもを預けられるあらゆる施設の情報を把握する。潜在
化している保育ニーズを聞き取り、事情に合わせて認可保育所以外の選択肢も提案してい
る。
例えば、週2~3日のパートなら幼稚園の預かり保育で足りるのに、認可保育所しか知
らない親は無理をして週4日以上働き、預けようとする。情報提供だけで待機児童になる
のを防ぐことができるため、保育制度の説明会も毎月開いている。
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共働き家庭の増加で、認可保育所への入所を待つ待機児童は0~2歳児を中心に全国で
2万5千人を超える一方、少子化で3歳以上を預かる幼稚園では定員割れの施設が増える
など、幼い子どもを持つ親の希望と施設の実態が合っていない。
社会保障と税の一体改革では、保育所と幼稚園の機能を併せ持った施設を増やす方向だ
が、横浜市の待機児童対策は、運用面でこうしたミスマッチの解消を図った。
認可保育所や市独自の基準を満たす認可外施設「横浜保育室」の新設のほか、3歳以上
で定員割れの既存保育所では部屋割りの見直しなどで0~2歳児の枠を拡充した。また、
幼稚園による午後6時半までの預かり保育は2008年には実施が65園だったが、市の
職員が園を訪ねる“営業活動”を展開。12年4月に実施園は110園となり利用者は約
千人増えた。
一方、課題もある。保育所事業費は12年度予算で677億円と、5年間で4割近く増
大。月額保育料を1,819円増の平均2万7,044円と7年ぶりに引き上げることとな
った。
(2)待機児童ゼロで働くママを救う
横浜市の取り組みは、わずかな期間で待機児童を減少させたという点で評価すべきとこ
ろが沢山ある。
「保育コンシェルジュ」は、働くママが自分の働き方に合わせて、どの保育
サービスに子どもを預けるのがベストであるのか専門家の視点から提案してくれる。この
保育コンシェルジュの存在は、待機児童を減らす取り組みにおいて、もっとも重要かつ大
きな意味を持つしくみだと私は考える。単に保育所や保育士の数を増やすのではなく、働
くママの真にニーズを把握した上でのこのようなしくみは、効率的で実効性のある取り組
みだと言える。横浜市のような子育て支援対策のしくみが整ってさえいれば、働くママが
子どもを預ける環境がないために、仕事は諦める必要はないのである。働くママが働き続
けることができるのである。
人口減少が進む中、待機児童対策は時間との闘いである。保育所不足などを理由に、出
産期の女性が安心して子どもを産めなければ少子化はさらに深刻化する。政府は認定こど
も園や認可保育所を拡充する方針だが、自治体では横浜市のようにできる対策から行うこ
とが求められている。
横浜市の取り組みのポイントは、保育コンシェルジュによる親への効果的な情報提供に
よって既存施設を有効活用した点にある。幼稚園の預かり保育などで待機児童を解消でき
る余地は大きい。横浜市での取り組みは、他の自治体でも直ちに採用を検討できる取り組
みである。
待機児童をゼロにすることを成し遂げた林市長は、女性である。自身が働くママなので
ある。そこにこの取り組みの大きな意義があると私は考える。林市長が拓いたこの歴史を
つぎつぎと追いかける取り組みが、国に頼ることなく、各地方自治体で動き出すことに期
待したい。
26
第 2 節 働くママに理解を示す社会へ
働くママが増え続けている今、そろそろ育児は女性だけのものという認識をなくすべき
だと私は考える。育児をする男性を「イクメン」と呼ぶように、少しずつ男性の育児休暇
についての話題が高まっているが、だからといってこれから多くの男性が育児休暇を取得
しだすという現状では未だない。
男性が育児休暇を取得しない理由の第1位は「育児を1人でしたくない」である(図表4
-1)。
「育児を一人でしたくない」という理由にどのような意味が込められているのが全
てを読み取ることは難しい。私なりの解釈としては、家事や育児をするのは、女性が当た
り前であり、男性がするのはちょっと変、周りにモデルがいないからやり方が分らない、
相談相手がいないなどの面で男性は、特に育児において躊躇しているところがあるのでは
ないだろうか。子育てをする女性の間で聞こえてくる「ママ友」という言葉。「パパ友」な
んてなかなか聞いたことがない。このような社会の流れも、男女の役割分業がいまだに根
強く残っていることを物語っているように感じる。
図表4-1
男性の育児休暇取得をしない理由
1位 育児を1人でしたくない。
2位 仕事場での理解が得られない、仕事を抜け出せない。
3位 仕事を休みたくない、復帰後の居場所が心配。
4位 妻が育児休暇を取得した。
5位 経済的な面で心配だから。
6位 男性も育児休暇が取得出来るとは知らなかった。
出典 http://jyouhoukan.jp/workingwoman/man_ikuji.html
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育児休暇を取る男性がもっと増えれば、男性が子育てを一人でしているという気持ちも
変わるように思うが、現実は圧倒的に少ない。
また、男性として一番気になるのは職場の反応ではないだろうか。実際に育児休業を取
りたいと申し出た場合、ほとんどが良い顔をされないであろう。まだまだ男性社会が根強
く残る日本では、男性の育児休暇への意識が低いため、育児休暇を取りづらいというのも
納得できる。
また、育児休暇後に自分の居場所が仕事場にあるのかという心配もあるだろう。これは
男性だけでなく女性も抱えている問題だと思うが、企業側の男女を問わない育児休暇への
意識が必要とされているのが事実である。いくら女性が男性にサポートを求め、女性を積
極的にサポートしていきたいという男性が多くいても、その男性の意識の変化を認めてく
れない企業の風土がある限り、男性の育児休業の取得率が増えることはないと私は考える。
その要因に、今の育児休業制度の内容では、男性の働き方に合っていないという指摘もさ
れている。
働くママとそのサポートをするパパ、このように「仕事と育児の両立」において夫婦は
パートナーであることが社会でも企業でも理解されるべきであると私は考える。その上で
働くママとパートナーは自分たちの働き方に合った法制度や保育サービスを選択する必要
があるだろう。
おわりに
仕事と家事と育児を全てこなすのは、大変なことだ。まだ法制度やサービスが整備され
る前の時代で働いていたママたちは、本当に苦労したと思う。「女は強し」という言葉に、
改めて納得がいく。
論文を書き進める内に、さまざまな女性の働く実情を知り、たくさんの苦労とあること
が分かった。女性がママになっても働く社会の実現には、社会の意識の向上、まだほとん
どの企業に残る根強い男性社会の意識を変えて、働くママへの理解を示していくことが求
められる。
第4章で横浜市の取り組みを例に挙げたが、私が一番素晴らしいと思うのは、林市長は
女性が社会に出ることの重要性を、自らが待機児童をゼロにするという行動力によって示
したことである。なかなか女性が先をゆくという社会の流れがない中、先陣を切って道を
開拓された林市長のように、私も前向きに働くママになりたいと感じた。
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あとがき
今回、卒業論文を執筆するにあたって、この「女性の就業継続のすすめ」というテーマ
を選んで良かったと思っています。将来、私にも一つの家庭ができ、大切な赤ちゃんを授
かる時がくるでしょう。実は、私も仕事か子育てかという二者択一の選択を迫られたとし
たら、もちろん子どもを愛情込めて育てることが優先であり、支障が出て迷惑になるよう
であれば仕事は辞めなくてはならないと考えていた一人であります。
このテーマで考えを深めていくと、子どもを育てるのは母親一人という考えがごく自然
で当り前かのようになっていますが、本当はそうではないのだということに気付かされま
した。父親のサポートはもちろん、保育所だって母親をサポートする大切な支援施設です。
父親が働く母親をサポートするためには、会社の理解ある制度やサポートが必要になって
きます。横浜市のように、子どもを預ける環境に悩む母親には、自治体によるサポートと
して保育所コンシェルジュが親身になって保育所選択の知恵やアドバイスをくれます。
日本は、国として子育てをする環境が整ったとはまだまだ言えません。以前に、どこか
の国のお偉いさんが「日本は女性に冷遇な国である」と指摘していたのを耳にしたことが
あります。しかし、国としてではなく、横浜市のように自治体ごとに見た時、女性の子育
て支援に力を入れている自治体は多くあります。努力している地域やコミュニティがあり
ます。そのような地道な取り組みがもっと活発になり、いつか横浜市のように、何か一つ
大きなことを目標に掲げ、その先陣を切り開くような自治体が現れ始めるのではないかと
私は期待しています。
女性の活躍が期待される今、女性ももっともっと能力を発揮していくべきです。仕事を
続けるためには家庭、子育てという壁に立ち向かう強さが必要です。あらゆる制度やサポ
ートをかしこく利用できるように、知識や知恵を身につけておくことも必要でしょう。
私も、
「仕事と子育て」の両立ができるように、頑張りたいです。かしこい働くママにな
りたいです。
今回、卒業論文を書きすすめるにあたって、横浜市長の林文子氏との対談を予定してい
ましたが、実現できずに終わってしまいました。私の力不足でございます。対談内容を論
文に載せることはできませんでしたが、林氏の取り組みは、テレビでも本でもインターネ
ットでも幅広く取り扱われていましたので、そこから得た情報から横浜市の取り組みを紹
介することができました。
最後に、黒田先生、みんな、こんな私でしたが、仲良くしてくれて有難うございました。
楽しく、貴重な時間が過ごせました。これからもどうぞよろしくお願いします。
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参考資料
http://www.geek.sc/archives/307
(アクセス 2012/11/20)
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-h/html/g1221030.html
(アクセス 2012/11/20)
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(アクセス 2012/11/29)
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(アクセス 2012/12/2)
日本ヒーブ協議会
http://www.heib.gr.jp/news/pdf/cyosa_news1006.pdf#search='%E5%A5%B3%E6%80%A
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(アクセス 2012/12/2)
http://tt110.net/03ikuji/D-ikuji-kyugyou.htm
(アクセス 2012/12/2)
http://hojokin.m-ouen.com/kaisei/2010-h.html
(アクセス 2012/12/2)
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http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201006/4.html
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(アクセス 2012/12/6)
30
http://allabout.co.jp/gm/gc/303197/
(アクセス 2012/12/14)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q77g.html
(アクセス 2012/12/27)
・ぱどのホームページ
http://www.pado.co.jp/pado/link/voice/back/index0019.html
(アクセス 2012/12/27)
http://matome.naver.jp/odai/2135765530127945401
(アクセス 2013/1/10)
http://www.worldtimes.co.jp/wtop/education/data/dt110829.html
(アクセス 2013年1/30)
参考文献
・佐々木さつみ 『女性のライフコース選択の困難』 クリエイツかもがわ,2012年
・阿部 彩他 『現代思想
特集―女性と貧困』 青土社,2012年 vol. 40-15
・大沢真知子・鈴木陽子 『妻が再就職するとき』 NTT出版株式会社,2012年
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