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第3回 - 広島県環境保健協会

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第3回 - 広島県環境保健協会
転倒予防講演集
第3回ひろしま転倒予防セミナー
日
時:平成15年7月6日(日)10:00∼15:30
会
場:広島医師会館(広島市西区観音本町一丁目1番1号)
主
催:広島転倒予防研究会
広島大学医学部保健学科
社団法人広島県医師会
財団法人広島県環境保健協会
目
序にかえて
次
∼チームワークと「人生の質」と転倒と∼
第3回ひろしま転倒予防セミナー会長
(1)
新小田幸一
一般演題Ⅰ
(1)地域高齢者を対象とした運動介入の効果
広島大学医学部保健学科
(2)
砂堀仁志
(2)転倒予防運動介入が高齢者の下肢筋出力機構に与える影響
広島大学医学部保健学科
(5)
前島 洋
(3)高齢者の運動認知とその運動パフォーマンス及び転倒との関係
老人保健施設ベルローゼ
(6)
小川真寛
(4)加齢による姿勢変化と転倒の関係
広島大学医学部保健学科
(7)
佐藤春彦
一般演題Ⅱ
(5)転倒予防のためのバリアフリー住宅の啓蒙活動
はたのリハビリ整形外科副院長
(10)
中西
徹
(6)地域住民主体の健康増進活動である
「エンジョイ・ヘルスアップ大作戦 in 鞆」の紹介
(12)
−日常生活場面での行動変容を如何に促すか−
広島県立保健福祉大学
甲田宗嗣
(7)転倒予防教室の地域での展開
財団法人 広島県環境保健協会
(16)
岡田一彦
ランチョンセミナー
「介護最前線∼IT と携帯電話の活用∼」
(株)NTT ドコモ中国モバイルマルチメディア推進部専任部長
(19)
山口雅明
研修講演Ⅰ
「地域在住高齢者に対する運動介入の報告」
川嶌整形外科病院リハビリテーション科長
(21)
木藤伸宏
研修講演Ⅱ
「素材と Hip Protector」
畿央大学健康科学部理学療法学科教授
(22)
佐々木久登
特別講演
「転ばぬ先の杖と知恵−転倒予防教室の実際と今後」
東京厚生年金病院リハビリテーション科主任理学療法士
(25)
田中尚喜
チームワークと「人生の質」と転倒と
第 3 回ひろしま転倒予防セミナー 会長
新小田 幸一
(広島大学医学部保健学科 運動・代謝障害理学療法学講座)
平成13年4月から広島大学に勤務している筆
ろうか.さらに人それぞれが自分の人生で何に
者は,それまで 20 年間,九州の某私立医科大学
対して価値観を見出しているかを把握すべきで
の大学病院で理学療法士として勤務していた.
ある.若い人にはたった一度の転倒や躓きは何
そこでは毎年の誕生月の職場検診では,前もっ
てことはなくても,身の回りが自分で出来ない
て1週間の生活日誌の提出が義務づけられた.
高齢者や障害者にとってはそのことが動くこと
その中には万歩計による複数日の歩数の記録も
への自信の喪失に繋がり,
「閉じこもり」から体
含まれ,1日当たりの歩数は約 25,000 歩であっ
力の低下,再度の転倒へと悪循環を生み出すこ
たと記憶している.院内の階段はスキップする
とが多い.このことを「・・・が出来なくなった」
ように軽やかにスイ,スイ,スイであった.と
とか,
「いっそう人の手を借りるようになった」
ころが広島大学ではめっきり階段を使うことは
などの身体的な側面だけで捉えれば話はお終い
なくなった.加齢とともに記憶力が低下してい
である.quality of life の尊重が叫ばれて久しい.
く,筋力が弱る,神経の応答が鈍る.
.
.
.など仕
私たちはこれまで「生活の質」の視点には立っ
事柄よく理解してはいたことであるが,最近は
ていても,長い人生のスパンの中で,その人が
階段を下りていて以前のように軽やかにいかな
今を望み,今後は自分の人生にどのような足跡
いことを実感している.日常の業務上での身体
を残したいのかという,
「人生の質」にまでは踏
運動の量がめっきり少なくなり,運動習慣がな
み込んで来なかったのではないだろうか.この
くなった現在では,このようなことを自覚する
ような観点からも,私たち保健・医療・福祉に
ことは当然であろう.しかし,加齢のもたらす
身を置く人間は,自らの専門領域の枠を越え,
マイナス面はこのような筆者の実体験の大きな
ともに手を携えながら,高齢者や障害者の転倒
要素となっていることであろう.
を予測,かつ予防して「人生の質」を失わずよ
さて,はなしを本来の転倒に変えよう.最近
り高めるように力を注ぐべきであろう.そこで
読んだ転倒に関する本の中に医療の世界では当
はじめてチームワークの進化が問われてくるの
然のことであるが,高齢者の転倒を防止する上
ではないかと思う.本セミナーを通じて多くの
で,他職種スタッフ間のチームワークが重要で
関係者がこの 21 世紀的テーマに手を携えて前
あることが謳われていた.筆者は日頃から思っ
進することを望んでいる.
ているのだが,私たちは協同作業という意味で
のチームワークに加え,単に高齢者であるとか
障害者であるからという十把一絡げで捉えるこ
とをやめ,それぞれには多様性があり,すべて
の人が同レベルの機能障害,能力障害をもって
いるのではないことを十分考慮した上で転倒を
どのように予防するかを考えるべきではないだ
(1)地域高齢者を対象とした運動介入の効果
砂堀仁志1) 金只悠司2) 前島洋1) 高石あずさ3) 吉村理1)
1)広島大学保健学科 2)由布院厚生年金病院 3)高陽中央病院
Ⅰ.はじめに
転倒は大腿骨頸部骨折の原因の 80%を占めると
た.重心動揺計はアニマ社製グラビコーダー
GS-10 タイプ CIV を使用した.重心動揺は開脚立
いわれ,度重なる転倒の恐怖心から活動性が低下
位にて,開眼と閉眼の 2 条件で 30 秒間計測した.
し QOL の低下を招くともいわれる.わが国におい
評 価 の 指 標 と し て 総 軌 跡 長 (LNG) , 外 周 面 積
ては大腿骨頸部骨折の新発生患者数は,1987 年か
(ENV.AREA),ロンベルグ率を用いた.片脚立ち時
ら 10 年間に 1.7 倍に増加し,こうした背景から,
間は裸足立位で両手を腰部に位置させ,一側下肢
転倒予防に関する関心が高まっている.
高齢者の転倒・平衡機能に関する報告は数多い.
を挙上後,30 秒間を上限として計測した.
③随意運動時のバランス制御
高齢者を対象としたコーホート研究,外乱刺激時
評 価 指 標 と し て 随 意 的 足 圧 中 心 (Center of
の反応の加齢変化1),など多岐に渡り,運動介入の
Pressure ; CoP)移動量・Functional Reach Test(FRT)・
効果についての報告もなされている.その多くは
最大一歩幅・Get up & Go Test (GUG)・10m 歩行時
片脚立ち時間,歩行速度,静止立位時の重心動揺
間を用いた.
といった平衡機能評価で効果を判定したものであ
る
2)
.一般に転倒は偶発的に生じるといわれてい
るが,転倒時の反応により近い外乱刺激時の反応
を運動介入前後に計測したものは少ない.
随意的 CoP 移動量は床反力計上で安静位から、
前後左右に最大限に重心を移動させるよう指示し、
CoP 移動距離を計測した.
FRT は開脚立位にて上肢を前方へ 90 度挙上位
そこで本研究では長期的運動介入の効果につい
で静止後,足部固定にて最大限前方へリーチし,
て,広範に用いられているバランス評価テストと
その移動距離を計測した.左右 1 回ずつ実施後,
平行し,独自に開発した床面動揺機を用い,外乱
左右の平均値を求め,身長で除した値を用いた.
刺激時の身体反応の変化から検討することとした.
最大一歩幅は開脚立位から左右 1 回ずつ最大限
前方へ踏み出したときの距離の平均値を求め,身
Ⅱ.対象と方法
1.
対象
長で除した値を用いた.
GUG は被験者が椅子から立ち上がり 3m 前方の
H 県 K 町在住の独歩可能な高齢者 26 名(平均年
目標に向かって歩行し,方向転換後,再び 3m 歩
齢 69.8±2.8 歳,男性 13 名,女性 13 名)を対象と
行し,再び椅子に座る一連の動作を行い,その時
した.
間を計測した.
2.
方法
10m 歩行時間は合計 16m を歩行し、中間 10m の
計測に先立ち,身長・体重・体脂肪・血圧を計
歩行時間を計測した.歩行速度は最大速度(10mM)
測し,転倒暦を問診した.評価項目は大きく①総
と被験者が普段歩く快適な速度(10mP)の 2 パター
合的なバランス評価,②静的姿勢保持,③随意運
ン行った.
動時のバランス制御,④外乱負荷応答の 4 つに分
④外乱負荷応答
類した. 3 ヶ月間の運動介入後に再度評価を行い,
初回と 3 ヵ月後の計測値を比較した.
1)
計測項目
①総合的バランス評価
独自に開発した床面動揺機を用い,移動速度
150mm/s,移動距離 50mm にて前後水平方向の床
面外乱刺激を加えた.被験者はこの動揺機上に裸
足にて開脚立位(踵間距離 7cm、
開脚 16 度)となり、
日常生活動作と関連のある 14 項目から構成さ
上肢の反応を防ぐため,胸部前方で腕を組んだ.
れる Berg Balance Scale(BBS)を用い,各項目をそ
前後方向に各一回練習後,ランダムに前後各 5
れぞれの基準に従って 0 点∼4 点の 5 段階で評定
回,計 10 回,予告は行わず外乱刺激を加えた.そ
した.
の際ステッピングは禁止とした.外乱刺激時の反
②静的姿勢保持
応については,床面動揺機に付随する重心動揺計
開脚立位時の重心動揺と片脚立ち時間を計測し
にて CoP を記録した.また同時に,右下肢の前脛
骨筋(TA),大腿直筋(RF),腓腹筋外側頭(Gastro),
(p<0.01,p<0.05),ロンベルグ率は有意に減少した
大腿二頭筋長頭(Ham)に電極中心間距離 4cm にて
(p<0.01).片脚立ち時間には有意差が認められなか
表面電極(Vitrode L-150 日本光電工業株式会社)
った.
を貼布し,双極誘導法により筋電図(Electromyo
③随意運動時のバランス制御:随意的な CoP 移動
-graphy;EMG)を導出した.CoP・EMG のデータを
量は左右方向及び後方向に有意な増加が認められ
サンプリング周波数 2000Hz で A/D 変換し(Power
た(p<0.05,p<0.01)(図 2).FRT は有意に増加した.
Lab/8s AD Instruments,PtyLtd),PC に取り込んだ.
(p<0.05)10mM,10mP は有意に減少したが(p<0.01,
CoP は最大移動距離と外乱開始から最大 CoP 移
p<0.01),
GUG は有意差が認められなかった(表1).
前方
1.20
1.20
動時までの時間を計測した.EMG は外乱刺激から
筋活動が起こるまでの時間と反応開始後1秒間の
積分値を求めた.この積分値を最大等尺性収縮時
の積分値で除した値(%IEMG)を求めた.(図1)
0.96
1.10
*
左
右
0.97
1.14
*
0.80
0.99
後方
前方
RF
反応潜時
8月
11 月
*p <0.05, **p <0.01
**
単位;
図 2 随意 CoP 移動 平均値の比較(上段 8 月、下段 11 月)
TA
0
0.1
0.2
0.3
0.4
CoP移動量
CoP
0.5
後方
図1外乱時の反応 重心後方動揺の例 EMG・CoP
8月
11 月
FR/身長 *
0.204±0.020
0.217±0.023
最大一歩幅/身長
0.656±0.066
0.679±0.064
GUG [秒]
7.5±0.9
10mM [秒] **
5.5±0.5
5.1±0.5
10mP [秒] **
7.2±0.8
6.4±0.7
表1
⑤筋力
徒手筋力計(Power Track 日本メディクス社製)
を用い足関節底屈・背屈,膝関節伸展・屈曲の最
大等尺性収縮時の筋力を測定した.同時に筋電計
にて TA,RF,Gastro,Ham の EMG を導出した.
3)介入運動内容
参加者は健康運動指導士による転倒予防教室に
て 2 週間に1度,90 分間の運動を行った.運動の
内容は自重を利用した筋力トレーニング,バラン
ス練習,協調運動,ストレッチングなどであった.
また,2 日に 1 度の運動課題が与えられ,実施状
況の確認も行った.課題内容は足趾把握運動,ス
クワット,20 分以上の歩行などであった.
4)分析・統計
対応のある t 検定またはウィルコクソンの符号
付順位和検定により、初回と 3 ヵ月後の計測値の
随意運動時のバランス制御
* p<0.05, **p<0.01
(数値は平均±標準偏差)
④外乱負荷応答
CoP の測定項目では,重心後方動揺時の左右
CoP 移動幅に有意差が認められた(p<0.05)(表 2).
床面が前方に移動した時,重心は後方に変移し,
それを回復するために TA・RF が遠位から近位へ
と筋反応が伝播する.主動作筋である TA・RF の
反応潜時には有意な差が認められなかったが,拮
抗筋である Gastro・Ham の反応潜時は有意に減少
した(p<0.05).%IEMG は主動作筋である TA・RF
と,拮抗筋である Ham が有意に減少した(p<0.01,
p<0.01,p<0.05)(図 3).
動揺機後方移動,つまり重心前方動揺時に,反
応潜時に有意な変化は認められなかった.%IEMG
は拮抗筋である TA・RF が有意に減少した(p<0.05).
比較を行った.有意水準は 5%未満とした.
Ⅲ.結果
A-P BS
26 名の被検者のうち計測不能となった1名を
除外し,25 名を分析対象とした.運動教室への出
席率は 94.5%,課題実施率は 83.0%であった.
①BBS は全員がほぼ満点(初回 55.5 点、2 回目 55.6
点)であり,有意差は認められなかった.
②静的姿勢保持:静止立位時の重心動揺(LNG、
ENV.AREA)は開眼,閉眼ともに有意に増加したが
7.3±0.7
FS
M-L BS *
8月
11 月
移動量[V]
-1.18±0.16
-1.11±0.24
時間[s]
0.38±0.05
0.38±0.05
移動量[V]
1.11±0.14
1.10±0.23
時間[s]
0.40±0.05
0.38±0.07
0.51±0.15
0.46±0.21
移動範囲[V]
表2
外乱刺激時の CoP
A-P;前後方向 M-L 左右方向
FS;重心前方動揺 BS;重心後
方動揺 *p<0.05 (数値は平均±標準偏差)
順序が逆転する例が観察されている.また,外乱
0.8
8月
0.7
0.6
11月
**
0.5
股関節で対応する股関節戦略,ステッピングを行
*p <0.05
**p <0.01
う踏み直り反応を使い分けるとされているが,高
*
齢者は,足関節戦略よりも股関節戦略を選択する
0.4
**
0.3
刺激の量に応じ,足関節で対応する足関節戦略,
傾向があると報告されている.
0.2
しかし,今回の実験では,運動介入前後では反
0.1
応潜時,TA,RF の反応順序とも有意差は認めら
0
TA
RF
Gastro
Ham
れなかった.つまり,外乱に対する戦略,ストラ
テジーの変化は認められなかった.一方で%IEMG
は TA,RF ともに減少しており,より少ない反応
図 3 %IEMG 重心後方動揺時
量で応答が可能になったことを示している.また,
⑤筋力
足関節底屈・背屈,膝関節伸展筋力には変化が
随意 CoP 移動範囲が増加した(図 2)にも関わらず,
認められなかったが,膝関節屈曲筋力は有意に増
外乱時の CoP 移動量には差が認められない(表 1).
加した(p<0.0001).
従って,同じ移動量でも本人の感覚では介入前と
Ⅳ.考察
比べ,移動が小さいと認識され,筋活動量が減少
1.静的姿勢保持
したと推察される.外乱時の左右方向の CoP 移動
本研究の運動介入の結果,ロンベルグ率の減少
幅の減少も認められた.移動幅減少は外力に対し
が認められた.ロンベルグ率の減少は立位保持に
適切な入力と出力が可能になった結果あり,これ
おいて視覚の寄与する割合が減少したことを示す.
も%IEMG の減少に寄与していると考えられる.
また足趾トレーニングはメカノレセプターを賦活
今回の介入内容は総合的な運動であるが,計測
させると報告されている3).このことから足趾把
時のような外乱刺激に対する運動は行っていない.
握運動によりメカノレセプターが賦活され,体性
しかし外乱負荷応答にも改善が認められた.外乱
感覚の入力が改善されたために,ロンベルグ率が
刺激より評価した姿勢反応が有効に働くかは,転
減少したと考えられる.
倒を最終的に防止できるかという点で重要な機能
一方で LNG・ENV.AREA が増加しているが,変
2)
である.今回の結果は外乱刺激に対する反応は通
動が大きいと報告されている ことや,運動介入
常の運動介入によっても改善する事を示しており,
によってより柔軟に立位を保つようになったとも
一般的な転倒予防介入の有効性が確認された.
考えられ,長期的な観測後に判断すべきであろう.
Ⅴ.まとめ
地域在住の高齢者を対象に3ヶ月間運動介入効
2. 随意運動時のバランス制御
随意 CoP 移動範囲は加齢とともに減少すると報
4)
果を計測した結果,従来のバランス評価のみなら
告されている .これは加齢による中枢神経、抹
ず,外乱刺激に対する姿勢反応にも改善が認めら
消固有受容器の機能低下によるものと考えられる.
れた.一般的に行われている転倒予防介入は多面
5)
転倒は動作中に頻発するとされており ,動作
的にバランス機能を改善させることが確認された.
時の安定性は転倒に大きく関連すると考えられ,
この項目に改善が認められたことは今回の運動介
参考文献
入の転倒予防に対しての有効性を示唆している.
1)Woollacott MH : Aging and posture control : Changes in
3) 外乱負荷応答
sensory organization and muscular coordination Aging and
同等の床面動揺量の場合,足部の形態,運動学
human development 23 2:97-114,1986
的理由から,重心後方動揺への対応がより困難で
2) 木藤伸宏 , 他 : 高齢者の転倒予防としての足指トレーニ
あり,後方・後側方への転倒は高齢者の骨折の中
ングの効果, 理学療法学 28 7:313-319,2001
でも重篤な,脊椎圧迫骨折・大腿骨頸部骨折を招
3)井原秀俊著:関節トレーニング 改定第 2 版 89-107 共同医
きやすい.以上のことから重心後方動揺の反応を
書出版社
中心に検討した.
4) 橋詰謙 他 : 立位保持能力の加齢変化 , 日本老年医学会雑
1)
Woollacott ら の先行研究において,健常成人の
誌 23 1: 85-92,1986
床面動揺に対する筋反応は遠位から近位へと移行
5)三次圭:転倒による骨折予防に対する理学療法の効果とそ
するが,高齢者では反応潜時が遅延し,この反応
の限界, 理学療法 18 1:157-161,2001
(2)転倒予防運動介入が高齢者の下肢筋出力機構に与える影響
前島洋1) 高石あずさ2) 砂堀仁志1) 金只悠司3) 吉村理1)
1)広島大学医学部保健学科 2)高陽中央病院 3)湯布院厚生年金病院
【目的】
3 ヶ月間の運動介入の結果、ハムストリングに
近年、高齢者における転倒防止を目的とする転
おいて有意な筋力の増加が認められたが、大腿四
倒予防教室が各地域で行われ、運動介入とその効
頭筋、前脛骨筋においては認められなかった。一
果が検討されている。心身機能に由来する転倒の
方、平均周波数は全ての計測筋において有意に減
内的要因のひとつとして下肢筋力の改善は重要
少し、特に筋力増強の認められたハムストリング
と考えられ、効果判定の指標として多く用いられ
スにおいて著しい減少が生じた。また、全ての筋
ている。そこで本研究では高齢者への転倒予防運
において高周波数帯域平均周波数が有意に減少
動介入による筋力への影響に加えて、筋電図周波
し、高周波数帯域率も減少していた。
数解析による下肢筋出力時の神経制御への影響
【考察】
について検討した。
【対象と方法】
3 ヶ月間の運動介入により、筋力増強の有無に
かかわらず平均周波数の低下が認められた。この
広島県加計町在住の重篤な疾患のない在宅高
ことは同等または以前以上の筋力をより少ない
齢者 24 名(男性 13 名、女性 11 名、平均年齢
周波数帯域の興奮により発揮できるようになっ
69.8±2.7 歳)を対象とした。対象者は初期評価
たことを意味している。対象者から「体が軽くな
の後、月 2 回の転倒予防教室に参加し、健康運動
った」との旨を多く耳にするが、この言葉の裏に
指導士による在宅トレーニングの指導を受けた。
はより少ない興奮・努力により筋出力ができるよ
在宅トレーニングの内容は毎日行なうストレッ
うになったという本研究の結果が影響している
チング、スクワット等の自重を用いた筋力増強運
ものと考えられる。
動、足指把握運動、更に 2 日に一度の 20 分以上
のウォーキングにより構成されていた。3 ヶ月間
の介入の後、再度評価を行なった。下肢筋力の評
価として、大腿四頭筋、前脛骨筋、ハムストリン
グスの等尺性最大筋力を徒手筋力測定器(Power
Track 日本メディックス社製)を用いて計測した。
同時に各筋の最大等尺性収縮時の表面筋電図
(EMG)を計測した。計測した EMG に対して、高
速フーリエ変換を用いた周波数解析を行った。平
均周波数を求めるとともに、80Hz を境に低・中周
波数帯域と高周波数帯域に分類し、各周波数帯域
の平均周波数と総周波数帯域パワースペクトル
積分値に含まれる高周波数帯域積分値の割合(高
周波数帯域率)を算出した。
【結果】
(3)高齢者の運動認知とその運動パフォーマンス及び転倒との関係
ー跨ぎ動作におけるアフォーダンスの
臨界値と実際の臨界値からの分析ー
小川真寛1) 常本浩美1) 中島清美2) 村上恒二3)
1) 老人保健施設ベルローゼ 2)西城町立病院 3)広島大学医学部保健学科
【はじめに】
転倒経験者より,「跨げると思っていたのに失
【考察】
敗した」としばしば耳にする.これは,それらの
人は障害物を跨ぐとき,一定の Safety Margin
人の運動認知と運動パフォーマンスが乖離して
を必要とすると考えられている.若年群では
いることを示していると考えた.その研究方法と
Perceived Ht.より Actual Ht.が高く,Safety
して,心理学領域で用いられるアフォーダンス研
Margin が保持されていると考えられる.逆に高齢
究の手法が考えられた.しかし,高齢者を対象と
者群では,Perceived Ht.より Actual Ht.が低い
した先行研究はほとんどみられなかった.そこで, 者もみられ,Safety Margin が保持されていない
本研究の目的は,アフォーダンス研究の手法を用
ことが推察される.また,年代間の比較から,
いて,研究1で,高齢者と若年者の比較を行い,
Perceived Ht.には,違いが認められなかった.
研究 2 で高齢者の転倒との関係を知ることとした. その一方で,Actual Ht.は,年代が高くなるにつ
研究 1
れて,低下していた.認知の構築が,パフォーマ
年代間での比較
【方法】
ンス構築後起こることを考えると,多くの高齢者
対象は,20 歳代 15 名,60 歳代 18 名,70 歳代
では運動認知と運動パフォーマンスの間に“ず
26 名,80 歳代 15 名でした.測定項目は,またぎ
れ”が生じることが推測される.
動作を課題として,跨げる最高の高さの予測(ア
研究 2
フォーダンスの臨界値:Perceived
【方法】
Ht.)と実際
に跨げる最高の高さ(実際の臨界値:Actual Ht.)
転倒との関係
対象は転倒群 15 名,非転倒群 41 名でした.
および脚長(大腿長+下腿長) の 3 項目であった.
Perceived Ht.,Actutal Ht の差を AP 値とし,転
分析には Perceived Ht. Actual Ht.を脚長で除し
倒との関係を分析した.
た値を用いた.これらの変数を指標とし,年代間
【結果】結果
と年代内での比較を行った.
【結果】
年代内の比較の結果,20 歳代のみ Perceived Ht.
が Actual Ht.より,有意に低値を示した.年代間
t-test とロジスティック回帰分析より,AP 値
は転倒に対して有意に影響していた.
【考察】
AP 値が,転倒と有意に関係していたことから,
の比較の結果,Perceived Ht.では,年代間に有
転倒には,運動認知と運動パフォーマンスの“ず
意差が認められなかった.一方,Actual Ht.は,
れ”が関与していることが示唆された.AP 値は転
20 歳代より 70,80 歳代,60 歳代より 80 歳代が
倒のリスクを予測し,転倒予防のための重要な手
有意に低値を示した.
がかりとなると考えられた.
(4)加齢による姿勢変化と転倒の関係
広島大学医学部保健学科
はじめに
助手
佐藤
春彦
筋力が大きいと歩くのが速いので,転倒の危険が高
年齢を重ねるに連れ,背中を丸め,膝を曲げて歩
まるというのが,その理由として挙げられている.
くような姿勢変化が見られる.こうした屈曲姿勢へ
このように,筋力強化運動の転倒予防に対する効果
の変化が起きる高齢者は,時に転倒することがある
は,あまり明確ではない.
が,若年者ではめったに転ぶことはない.その考え
2. 屈曲姿勢は転倒しやすいのか?
ると,転倒のしやすさと姿勢は強く関係しているか
屈曲姿勢は転びやすいということを印象づけるい
もしれない.しかしながら,転倒予防としては,筋
くつかの報告がある.O'Brien ら 5)は,転倒経験の
力やバランスに注目が集まり,姿勢はあまり気に留
あるグループとないグループを比較し,転倒経験の
められていない.
あるグループに屈曲姿勢の傾向がある人が多く見
そこで,まず転倒と姿勢の関係を明らかにするた
られたと報告している.また,Pavol ら 6)は,屈曲
めに,文献のレビューを行った.その上で,下肢筋
姿勢だと転びやすいとというメカニズムとして,つ
力と姿勢の関連性について実験を通して検討した.
まずいた際の立ち直りのしやすさを挙げている.重
ここでは,その文献レビューと,実験結果の一部を
心位置を安定した位置に戻すのに,屈曲姿勢は直立
報告する.
姿勢より,長い距離が必要であり,立ち直るのに時
間がかかる,というのがその理由である(図 1).屈
文献レビュー
曲姿勢は転びやすいということが真実ならば,姿勢
1. 筋力強化で転倒は防げるのか?
の改善は転倒予防につながる可能性がある.
転倒予防として筋力強化運動が行われているが,
そのよりどころとなっているのは,転倒経験のある
人は,そうでない人より下肢の筋力低下が見られた
という,研究結果
1, 2)
に基づいている.しかし,こ
の報告は転倒予防の効果を保証するものではない.
筋力低下が転倒を引き起こしたという面が強調さ
れているが,逆に,転倒した後に筋力低下が起きた
とも捉えられる.こうした疑問に答えるため,筋力
強化で転倒発生率が変わるのかを検討した研究が
ある.Nowalk ら 3)は実際に筋力強化などの運動をさ
せて,転倒発生率が変わるのかを調べてみた.する
と,筋力の向上は見られたものの,転倒発生率は変
図1
屈曲姿勢の重心位置と立ち直り
3. 加齢による姿勢変化の要因
加齢による姿勢変化は,一般的には背骨が曲がる
7, 8).し
わらなかったという結果であった.さらに,下肢筋
脊柱の変形によるものだと認識されている
力が大きい人ほど転びやすいという報告もある 4).
かし,それ以外にも股関節の拘縮 9, 10)や,膝関節の
筋力低下
11)といったことも原因として挙げられて
中の平均体幹屈曲角度と最大膝屈曲角度で姿勢の
いる.また,バランスの低下も屈曲姿勢の要因では
屈曲程度を表した.また床反力データと合わせ,足,
ないかと指摘されている 12).屈曲姿勢に至る姿勢変
膝,股関節の関節モーメントを算出した.
化の要因は,個人により様々であることが伺われる.
結果
歩行の際,姿勢屈曲の程度が増すほど膝関節
伸展モーメントが有意に大きくなることが確認さ
高齢者の身体機能と歩行姿勢の関係
目的
れた(r = 0.567,p = 0.043)(図 2)
.また,
姿勢と転倒に関する文献のレビューから,屈
曲姿勢の改善は,転倒予防につながることが示唆さ
れた.また,筋力強化運動による転倒予防の効果も,
まだはっきりしていない現状が浮き彫りになった.
1.4
1.2
1
とはいえ,もし,膝伸展筋力の低下が姿勢の屈曲を
0.8
引き起こすのなら,膝伸展筋力を強化することで,
姿勢の改善が見込めるのかもしれない.それならば,
筋力強化は,姿勢の改善を通して転倒予防に貢献し
ていると言えるだろう.
高齢者に見られる屈曲姿勢が,筋力低下によって
0.6
0.4
0.2
0
0
5
起きるのかは不明である.そこで,膝伸展筋力と歩
行姿勢の関係を調べた.
対象と方法
図2
10
15
20
屈曲姿勢指数(度)
25
30
姿勢屈曲程度と膝関節モーメント
高齢女性 13 例(平均年齢 64.2 歳)を
被験者にした.被験者うち 6 例は骨粗鬆症と診断さ
れていた.これらの被験者に対して,胸椎の後彎,
下肢の関節可動域,膝関節筋力の測定と歩行分析を
行った.胸椎後彎の測定は被験者に直立位を取らせ,
自由定規を用いて胸椎の彎曲をトレースし,彎曲の
高さと底辺の長さから後彎の程度を算出した 13).下
肢の関節可動域は股関節,膝関節,足関節について
それぞれ屈曲と伸展の可動域を測定した.筋力は筋
力測定器(Biodex)を用い,膝関節の屈曲,伸展に
ついて最大等尺性筋力を測定した.歩行分析は三次
元運動解析装置(Motion Analysis)と床反力計
(Kistler)を使って行った.被験者の身体各部に
図3
関節モーメントの比較
マーカーをつけた後,床反力計が埋め込まれている
約 10 メートルの歩行路の上を自由な速度で歩いて
屈曲姿勢の程度によって被験者を軽度屈曲群と直
もらった.この時のマーカーの動きを 120 フレーム
立群に分けて比較すると,軽度屈曲群では直立群よ
/秒で記録した.体幹の屈曲は股関節を通る鉛直線
り膝関節伸展モーメントが有意に大きかった(p =
と股関節と肩関節を結ぶ線の角度で定義し,立脚期
0.001)(図 3).歩行時の姿勢の屈曲と胸椎の後彎,
関節可動域,膝関節筋力の間には有意な関係が認め
in healthy older adults. J Gerontol A Biol Sci Med
られなかった.
Sci 56(7):M428-37., 2001.
考察
大腿四頭筋筋力と姿勢の屈曲には関係が見
7. Notelovitz M, Ware M, Tonnessen D, et al. Stand
られないことから,大腿四頭筋の筋力低下は姿勢の
tall! every woman's guide to preventing and
変化と直接的に結びつかないことは伺えた.さらに,
treating osteoporosis.Florida: Triad Publishing
屈曲姿勢だと歩行時の膝伸展筋への負荷は増加す
Company, 1998
ることから,屈曲姿勢は筋力低下を補う適応にはな
8. Lundon KM, Li AM, Bibershtein S: Interrater and
らないことがわかった.以上より,姿勢の屈曲は筋
intrarater reliability in the measurement of
力低下に起因するものではないことが明らかとな
kyphosis
った.よって,下肢の筋力強化では姿勢改善の効果
osteoporosis. Spine 23(18):1978-85., 1998.
は期待できない.筋力強化の転倒予防に対する効果
は,バランスの改善にあるのかもしれない.
in
postmenopausal
with
9. Neumann DA. Arthrokinesiologic considerrations
in the aged adult. In: AA G, ed.
Physical Therapy.
参考文献
women
Geriatric
St. Louis: Mosby, 2000:
56-77.
1. Gehlsen GM, Whaley MH: Falls in the elderly:
10. Shimada T: Factors affecting appearance patterns
Part II, Balance, strength, and flexibility. Arch
of hip-flexion contractures and their effects on
Phys Med Rehabil 71(10):739-41., 1990.
postural and gait abnormalities. Kobe J Med Sci
2. Wolfson L, Judge J, Whipple R, et al.: Strength is
a major factor in balance, gait, and the occurrence
42(4):271-90., 1996.
11. Shumway-Cook
A,
Woolacott
MH.
Motor
of falls. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 50 Spec
control : theory and practical applications. (2nd ed.
No:64-7., 1995.
ed.) Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins,
3. Nowalk MP, Prendergast JM, Bayles CM, et al.: A
2001
randomized trial of exercise programs among
12. Cunha U, Leduc M, Nayak US, et al.: Why do old
older individuals living in two long-term care
people stoop? Arch Gerontol Geriatr 6(4):363-9.,
facilities: the FallsFREE program. J Am Geriatr
1987.
Soc 49(7):859-65., 2001.
13. Yanagawa TL, Maitland ME, Burgess K, et al.:
4. Pavol MJ, Owings TM, Foley KT, et al.: Influence
Assessment of thoracic kyphosis using the
of lower extremity strength of healthy older adults
flexicurve for individuals with osteoporosis. Hong
on the outcome of an induced trip. J Am Geriatr
Kong Physiotherapy Journal 18(2):53-7, 2000.
Soc 50(2):256-62., 2002.
5. O'Brien K, Culham E, Pickles B: Balance and
skeletal alignment in a group of elderly female
fallers and nonfallers. J Gerontol A Biol Sci Med
Sci 52(4):B221-6., 1997.
6. Pavol MJ, Owings TM, Foley KT, et al.:
Mechanisms leading to a fall from an induced trip
(5)転倒予防のためのバリアフリー住宅の啓蒙活動
はたのリハビリ整形外科副院長
1.はじめに
住み慣れた我が家でも年をとると,わずかな
段差がつまずきのもととなり,大きな段差は行
動範囲を狭める原因になります.
安全なはずの住宅がお年寄りにとってはむ
中西
徹
ングで連続しており,段差がないように作って
あります.
部屋の入り口は転倒の危険が大きい開き戸
ではなく,車椅子に乗ったままでも開閉しやす
い引き戸にしています.
しろ危険であり,転倒して骨折し,寝たきりに
段差を 3 ㎜以内にするため,引き戸の敷居を
なるということも決して珍しい事ではありま
埋込み,段差を解消しています. 部屋の壁面
せん.
には伝い歩きしやすいよう,人の平均的な大転
2.われわれの取り組み
われわれの法人では住環境整備が転倒予防
子の高さである 80cmに手すりを取り付けて
います.
や在宅生活支援に重要であると考え,平成 9 年
白内障で視力が低下した人にも見えやすい
より在宅介護支援センターをバリアフリーの
よう,手すりの色を赤色にしました. 照明の
モデル住宅として一般に公開し,転倒予防や在
スイッチは車椅子に座ったままでも押せる高
宅生活支援のための住環境整備を提案してき
さ(1m)に設置し,押しやすい大きなものを
ました.
使用しています.
今回は,そのような取り組みについて報告い
和室は車椅子に坐ったままで平行移動しや
たします. 在宅介護支援センターの設置基準
すい高さ,つまり平均的な車椅子の座面の高さ
では,介護機器の展示コーナーを設ける事が義
である45cmに床面を設定しました.
務付けられています. 介護機器の展示だけで
縁側状の張り出しを設置することにより,足
は実際の生活の場でどのように介護機器が役
を引くスペースができ,坐位から立ち上がるの
立つのか,利用者にわかりにくいと考え,在宅
が容易になります.
介護支援センター内にバリアフリーのモデル
台所は動線が短く動きやすい L 字型とし,車
住宅を建設しました. われわれの法人の在宅
椅子に座ったままでも台所仕事ができるよう
介護支援センターは,平成 9 年に開設された老
流しの下に高さ約 68cmの空間を設けていま
人保健施設の中にあります.
す.
3.バリアフリーモデル住宅
トイレは車椅子と介助者が入れる 2 メートル
在宅介護支援センター内のバリアフリー住
四方のスペースとしました. 便器の横には坐
宅は2LDKで,総床面積は75平方メートル
位を安定させる横手すりと立ち上がりを助け
です.
る縦手すりを設置しました.便器は車椅子が近
床レベルのバリアフリーと車椅子レベルの
バリアフリーに配慮して建築されています.
リビングとキッチンの間はおなじフローリ
付けて,立ち上がる際に足が引けるよう前面が
くぼんだタイプを設置しています.
洗濯機は床に埋め込み,車椅子に座ったまま
でも出し入れがしやすいようにしました.
洗面台も車椅子座位の高さに合わせて設置
しました.浴室には車椅子のまま入れるように
し,浴槽の縁には移乗用の腰掛け台を設置しま
した.
4.元気な時にしておく備え
や福祉用具購入の際に参考となる施設の有効
利用や,住宅改修費と福祉用具購入費の給付制
度を有効に利用してもらうことが重要です.
さらに,建築や福祉用具に詳しい専門家のチ
ームを利用者ごとに編成して難しい問題の解
決にあたることが必要と考えます.そして,利
元気な時にしておくと良い住宅改修の例と
用者が安心して業者を選べるための情報を提
して,新築時に寝室となる部屋に,給水と排水
供し,悪質な業者を排除できるような制度が必
の配管,電気の配線を取り付けておくことを提
要と考えます.
案してきました.
元気な時にはなんでもなかったトイレまで
6.まとめ
住環境整備をすすめて,身体障害に配慮した
の距離が,障害を負うと長く,遠く感じます.
住宅をつくることで,転倒を予防し,一生涯を
人の手を借りず,人に気兼ねすることなくトイ
住み慣れた住宅で過ごすことも出来るのでは
レに行くためには,まずトイレが近くにないと
ないかと考えます. 身体障害に配慮した住宅
いけません.
は,住み続けることが出来る生涯住宅であるこ
新築時に配管工事が済んでいたら,ベッドの
そばにトイレや洗面台を後から容易に設置す
ることができます.
5.考察
海外のランダム化比較試験によると,過去 1
年間に転倒歴のある人の住環境を改善するこ
とは,更なる転倒を予防する効果があると証明
されています.転倒リスクの高い人は重点的に
住環境整備を受けるべきであると考えますが,
住環境整備をすすめる際に,以下のような問題
点があるように思います.
1)住宅改修のモデルとして見学できる施設が
少ない
2)住宅改修費や福祉用具購入費の申請が事後
申請(償還払い制)で,手続きが煩雑であ
る
3)在宅ケアの知識のない業者でも参入できる
4)テクニカルエイドセンターが整備されてい
ない
今後住環境整備をすすめるためには,まず転倒
予防は住環境整備からという考え方を広めて
いくことが大切と考えます. また,住宅改修
とを強調して,われわれの取り組みの報告を終
わります.
(6)地域住民主体の健康増進活動である
「エンジョイ・ヘルスアップ大作戦 in 鞆」の紹介
−日常生活場面での行動変容を如何に促すか−
甲田宗嗣1) 辻下守弘1) 鶴見隆正2) 岡崎大資1) 川村博文1) 佐々木春美3) 山本勉4)
1) 広島県立補面福祉大学理学療法学科 2) 神奈川県立保健福祉大学理学療法専攻
3) アクアメイト沼南 4) サンスクエア沼南
1.はじめに
平成 13 年度の内閣府の世論調査によると,国
民の多くが将来の自分あるいは家族の健康につ
ポートに徹する,③健康増進のための行動変容が
十分地域に浸透するために 10 年間の長期間の関
わりを計画している,という 3 点である.
いて高い関心を持っている.そのため,我々保健
本稿では,地域住民の持つ健康増進への意識や
医療福祉従事者は今後ますます地域住民の健康
本活動への感想についての調査を報告すること
増進に寄与することが期待されている.
と,体力測定の結果から本活動の効果について分
また,地域在住高齢者に対する転倒予防のため
析することを目的とした.
の介入については,運動介入に加えて医学的介入
や環境整備,転倒予防教育など多角的介入がより
2.アンケート結果より
効果的であるという報告が増えている1).転倒予
アンケートは,平成 14 年度のヘルスアップ参
防における中長期的な運動機能の維持・向上や予
加者を対象に,直接聞き取りによる選択式及び自
防医学的教育は,とりもなおさず健康増進であろ
由記述式にて行った.対象の内訳は,男性 59 名
う.これまで地域で行われてきた転倒予防教室な
(平均年齢 64.8±14.8 歳),女性 154 名(平均年
どは単発的・散発的なものが多く,教室終了後も
齢 66.2±10.9 歳)であった.
如何に住民自身で活動を継続できるかが課題と
参加回数では図 1 に示すように 7 回すべてに参
なっている.住民生活の場である地域に一次予防
加している者が最も多く,次いで 6 回が多くなっ
としての健康増進を根付かせ,中長期的視点から
ていた.平成 14 年度が初めての参加という者も
転倒予防介入をすることは保健施策として重要
8%と少ないながら存在した.
このようなことから我々は「地域住民の健康は
地域住民が主体となり守らなければならない」と
いう視点に立ち,平成 8 年より「エンジョイ・ヘ
65 歳未満の非高齢群,65 歳以上 75 歳未満の前
期高齢群,75 歳以上の後期高齢群の 3 群に分類し
[%]
であると思われる.
25
ルスアップ大作戦 in 鞆」と称し健康増進活動に関
20
わっている.本活動のフィールドは,広島県内に
15
ある人口約 6,000 人,高齢化率 29.3%の町で,主
10
な産業は漁業,鉄工業,観光業などである.本活
5
動の特徴は,①地域住民が主体となって行う活動
である,②そのため我々は年一回の体力測定・健
康増進アドバイスなどあくまでも側面からのサ
0
1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目 7回目
図1
総参加回数の分布
[人]
100
転倒者
非転倒者
80
うように結果として変容した行動に対して役立
p=.002
ったと回答している内容とに分類することがで
60
きた(図 3)
.
40
「日頃行っている運動は何ですか?」という質
20
問に対しては,散歩・ウォーキングが 91 名で最
も多く,ラジオ体操やその他体操 36 名,ダンス
0
非高齢群
図2
前期高齢群
後期高齢群
14 名,グランドゴルフ・ゴルフ 12 名,バレー・
加齢に伴う転倒経験の増大
ソフトバレー8 名,水泳 6 名,その他 12 名とい
たところ,3 群間で高齢になるに従い有意に転倒
う回答を得た.これらは,散歩やラジオ体操など
経験が増大していた(p=.002).この結果より,
いわゆる運動療法の要素が強い運動と,ダンス,
非高齢群という転倒経験の少ない,即ち身体機能
ゴルフ,バレー,水泳など健康増進と娯楽の要素
が良好な時期より一次予防として健康増進に取
を兼ね備えたスポーツに分類できた.
り組む必要性を改めて認識した(図 2)
.
「この活動についてどう思いますか?」という
「この活動で役に立ったことは何ですか?」と
質問に対しては 85%が大変良いと回答し,12%が
いう質問に対しては,「自分の体力が分かった」
まぁまぁ良いと回答した.「来年も参加したいで
「腰痛・膝痛の運動が分かった」などというよう
すか?」という質問に対しては 95%が是非参加し
に本活動で得た情報について役だったと回答し
たいと回答し,4%ができれば参加したいと回答し
ている内容と,「健康について意識できた」「栄
た.
[人]
養・生活習慣に留意するようになった」などとい
180
150
120
90
60
30
本活動で得た情報について役だったと回答しているもの
結果として変容した行動について役だったと回答しているもの
図3
この活動で役に立ったことは何ですか?
そ の他
骨 密 度 が分 か った
腰 痛 ・膝 痛 の運 動 が
分 か った
運 動 す る よ う にな っ
た
生 活 習 慣 に留 意 す る
よ う にな った
栄 養 に つ いて留 意 す
る よ う にな った
健 康 に つ いて意 識 で
きた
自 分 の体 力 が分 か っ
た
0
アンケートを実施した対象のうち,60 歳以上の
[ml ]
3.体力測定より
3500
2800
女性 54 名(平均年齢 68.0±4.9 歳)を対象に,
体力測定の一部項目について過去 5 年間の経年変
*
2100
化を分析した.
結果,肺活量において 2132.2±437.4 から
1400
2441.9±730.0[ml]へ有意な増大(p<.01)を示
700
し,座位ステップテストにおいて 40.4±10.4 から
47.0±8.6[回/30sec]へ有意な増大(p<.001)を
0
98
示した(図 4-a,b).また,平均値において 5 年間
で低下を示した握力(22.1±4.8 から 21.4±4.2
加齢に伴う低下
2)
より,低下の度合いが低いこと
が示された(図 4-c).
[年]
a) 肺活量
[回/30sec]
[kg])については,横断的調査による日本人の
02
60
**
40
4.考察
20
アンケート結果より,多くの参加者が毎年のよ
うに本活動に参加しており,地域に根付いた活動
であると言えよう.また,新規参加者も少ないな
0
98
がら確実に存在しており住民の中に本活動が浸
透していることが明らかになった.
る内容は,自分の体力や健康増進アドバイスとい
30
東京都立大
体力標準値より
60→70 歳の推移
った情報を得ることができたことと,その結果行
動変容できたことの 2 点に分類できた.このこと
は,情報を提供するというサポートが行動変容に
20
本対象における
5 年間の推移
つながったと考えられ,側面からのサポートとい
う当初の目標が達成されていると示唆された.
住民が日頃行っている健康増進活動では,ウォ
ーキングや体操など,いわゆる運動療法の要素が
強い活動に加え,ダンスやグランドゴルフなど,
[年]
b) 座位ステップテスト
[kg ]
住民が本活動について役に立ったと感じてい
02
10
98
02
[年]
c) 握力
娯楽要素を含んだ住民相互援助型の活動も行わ
れていた.これらは地域住民の健康は,地域住民
が主体となり共同して守るという現れであると
思われる.
このように,住民に対して情報提供など側面か
らサポートすることで,行動変容が生じ体力測定
* :p<.01
**:p<.001
図 4 5 年間における体力測定値の推移
値が向上したのではないかと推察された.
海をする護送船団のことをコンボイというが、そ
Rollnick ら
によると行動変容を促すには,行動
の比喩として個人が周りのいろいろな人たちに
を変えることについての重要性を認識してもら
支えられて生活をしていることを示している(図
うことと,行動を変えることができるという自信
6).
3)
を持ってもらうことの 2 つの要素が必要不可欠で
病院
あるとされている(図 5).本活動においては,重
隣人
要性を認識してもらうために,体力測定の結果を
家族
個々に十分説明し個別相談で健康増進アドバイ
スをすることにより,適切な情報を提供した.ま
本人
た,自信を持ってもらうために住民間のソーシャ
親友
ルサポートを重要視し,あくまでも住民主体の活
同僚
動に我々が側面から協力しているという立場を
施設
取った.
図 6 ソーシャルサポートと社会的コンボイ
行動変容
図 6 からも見て取れるように我々保健医療従事者
は,地域住民個々にとってあくまでも外枠の存在
であることを十分認識する必要がある.その上で,
地域住民に対する健康増進活動においては,地域
住民が主体となり活動できるように我々はあく
重要性
情報の提供:
体力測定の結果
健康増進アドバイス
図5
自信
までも側面からのサポートに徹し,しかし,住民
住民主体:
相互援助型の運動
ソーシャルサポート
行動変容に必要な要素
からはなくてはならない存在になることが肝要
であると思われる.
文献:
ソーシャルサポートについて House ら4)は 4
種類に分類している.即ち①情緒的サポート(共
感したり,愛したり,世話をしたりすること),
②道具的サポート(仕事を手伝ったり,お金を貸
1)
PT ジャーナル 36:315-322,2002
2)
3)
行動変容―保健医療従事者のためのガイド.法研.
東京,2001
4)
House JS., et al: Work stress and social support.
Reading, MA. Addison Wesley, 1981
を与えること)である.我々が地域住民に対して
的サポートであるといえる.
Rollnick S., et al(原著),地域医療振興協会公衆衛
生委員会 PMPC 研究グループ(訳):健康のための
(問題解決に必要な情報や知識を与えること,④
行ったサポートは特に情報的サポート及び評価
東京都立大学体力標準値研究会・編:新・日本人の
体力標準値.不昧堂出版.東京,2000
したりなどの直接的手助け),③情報的サポート
評価的サポート(個人の仕事や業績に適切な評価
島田裕之,他:高齢者の転倒予防に対する介入効果.
5)
Kahn R.L., et al: Convoys over the life course:
Attachment, roles, social support. In P. B. Balters
& O. G. Brim, Jr. (Eds), Life-span development
また,ソーシャルサポートのネットワークは社
5)
会的コンボイであると呼ばれている(Kahn ら )。
これは,母艦や商船が多くの護送船に守られて航
and behavior, Vol.13. Academic Press. New York,
1980
(7)転倒予防教室の地域での展開
岡田一彦1) 青木陽一郎1) 大岡亜由美1) 阿南雅也2) 新小田幸一2) 吉村理2) 村上恒二2)
1)(財)広島県環境保健協会 2)広島大学医学部保健学科
1.はじめに
広島県環境保健協会は,平成 13 年 11 月より広島大学
医学部保健学科の指導により,地域巡回転倒予防教室を
回
数
実施日
開始した.現在までに,平成 13 年度2市町,平成 14 年度
3町の合計5市町で実施し,終了したのでその要約を報
告する.
1
回
目
2.目 的
介護予防の一手段として,健康運動指導士・理学療法
士が,転倒予防の正しい知識の提供と,転倒しない体づ
くりに必要な運動指導を行い,正しい運動の生活習慣化
2
回
目
1回目より
7∼10日後
3
回
目
2回目より
7∼10日後
4
回
目
3回目より
4∼6週間後
を図り,さらに転倒による骨折を持続的に予防することに
より将来医療費の低減を図る.
3.対象者
主として50才から前期高齢者に相当する人のうち,運
動制限のない人を対象とする.(定員:20名)
4.転倒予防教室の内容
転倒予防教室は4回シリーズで,転倒予防のための知
識の提供と,運動指導や生活指導を行った.運動指導は,
内
容
○オリエンテーション
○問診 ○身体計測
○転倒予防講話
○身体機能測定
(健脚度・平衡機能)
○運動状況アンケート
○運動指導(1)
●レクリエーション的運動
●歩行指導
●つぎ足歩行
○ワンポイント講義(靴について)
○運動指導(2)
●筋力トレーニング指導
●ストレッチ指導
●バランス訓練
●ボール運動
○ワンポイント講義(バリアフリー)
○身体機能測定
(健脚度・平衡機能)
○評価
○今後の目標設定
○運動状況アンケート
○最終アンケート
自宅で簡単に行える内容のものを指導し,教室およびそ
れ以外で実施した運動を,自分でチェックシートに記録
することにより,運動への理解と生活習慣化を図った.1
回目と4回目に身体機能測定とアンケート調査を実施し,
その結果に基づいて事業評価を行った.
統計学的解析は対応のある t-検定を用いて有意水準
5%を有意とした.
転倒予防講話
つぎ足歩行
歩行指導
ストレッチ
(3)身体機能の変化
初回と最終回の身体機能を比較した結果,最大1歩幅
(左右),起立−歩行検査,機能的リーチ検査(右)は最終
回に有意な改善が認められた.10m全力歩行(歩数),機
能的リーチ検査(左)は統計学的な有意差は認められな
筋力トレーニング
かったが改善傾向を示している.
項 目
バランスレク
ボール運動
初 回
最終回
有意義
10m 全力
歩行(S)
5.56
5.32
有り
健脚度
最大1歩幅
右足 (cm)
101.6
106.9
有り
最大1歩幅
左足 (cm)
101.9
105.8
有り
平衡機能
機能的リーチ
検査
右 (cm)
34.2
35.2
有り
機能的リーチ
検査
左 (cm)
33.0
34.4
有り
(1)身体機能の評価
簡単な身体測定とともに,歩行に関連した身体機能
を総合的かつ簡潔に評価するために,健脚度として「1
項 目
起立-歩行
検査 (S)
初 回
最終回
有意義
6.98
6.27
有り
0m全力歩行」と「最大1歩幅」を測定し,平衡機能として
「起立−歩行検査」と「機能的リーチ検査」を行いその変
化を定量的評価とした.本手法の信頼性は立証されて
おり,高齢者に起こる転倒についての高い予測性を示
すとされている.
(4)心理的・身体的・行動の変化
・ 参加前と参加後で身体に変化は?
ある:53人(84.1%)
ない :10人(15.9%)
主な感想
「体が軽くなり動きがよくなった」(21人)
「しっかりと速く歩けるようになった」(13人)
健脚度 「10m全力歩行」
「最大1歩幅」
「階段の昇り降りが楽になった」「身のこなしが楽になっ
た」
・ 参加前と参加後で気持ちの変化は?
ある:63人(100%)
ない :0人(0%)
主な感想
「正しい歩き方を意識するようになった」(14人)
平衡機能 「起立−歩行検査」
「機能的リーチ検査」
「体を動かすことを常に意識するようになった」(13人)
「何事もやれば出来ると思えるようになった」「歩くことに自
(2)心理的・身体的・行動変化の評価
教室の1回目と4回目に運動状況アンケートを行い,
信がもてるようになった」
・ 日常生活での行動の変化は?
参加前と参加後の運動状況の変化をみる.また教室の
ある:59人(93.7%)
4回目に最終アンケートを行い,参加する前と比べての
未回答:1人(1.5%)
心理的・身体的・行動の変化をみ,これらを定性的評価
とした.
ない :3人(4%)
主な感想
「ウォーキングが習慣になった」(32人)
7.考 察
身体機能については,5 週間という短期間ながら,10m
「気づけばどこででも筋トレやストレッチをしている」
全力歩行,最大1歩幅(左右),起立− 歩行検査(左右),
(20人)
機能的リーチ検査(左右)のすべての項目で有意な改善
「つまずかないように気をつけて歩くようになった」
がみられ,本教室の有用性の一端を示しているものと思
(18人)
われる.これは毎日の簡単な運動実施記録を行うことを含
「積極的に外出するようになった」
め,運動習慣の認識が高まったことによると思われる.
アンケート結果については,参加前と参加後での気持
5.改善点
ちの変化があると答えた人が100%.また,日常生活で
平成13年度の経験をふまえて以下の点を改善した.
の行動の変化に関しては93%という結果であった.この
(1)参加率向上のための工夫
ことは,参加者の運動への意欲が高まると同時に,日常
・毎回の教室で参加するよう声かけを行う
生活の行動変容につながり,高齢者にとって「やれば出
・参加者の送迎や開催通知を送付するなどの支援
来る」という十分な励みになったと考えられる.
(2)欠席者へのフォロー
初年度(平成13年度)に問題点として挙げた,回を重
・1回目の欠席者は2回目に身体機能測定を実施
ねるごとの参加率の低下については,毎回の教室で継続
・保健師や健康運動指導士が個別指導を実施
して参加するよう動機づけを行ったり,町の保健師の協力
を得て参加者の送迎や開催通知を出すなどの工夫をし
6.実施結果
た結果,最終回(4回目)が多少低下したものの,平成14
(1)参加者数
年度に実施した3町においては87%と向上した.今後は
①A市:21 名(女性19 名,男性2 名)平均年齢 64.8 歳
更に地域の環境,実施時期や期間なども考慮しながら再
②B町:21 名(女性 20 名,男性 1 名)平均年齢 75.5 歳
検討を行い100%の参加率を目指す.
③C町:17 名(女性 17 名,男性 0 名)平均年齢 63.4 歳
今後は追跡調査を含めたフォロー研修や,リーダ養成
④D町:18 名(女性16 名,男性2 名)平均年齢69.4 歳
的な内容を組み込むなど,より信頼性の高い事業を創り
⑤E 町:17 名(女性14 名,男性3 名)平均年齢 73.3 歳
上げ更なる地域展開を推し進めていく.なお,平成 15 年
度については7町で実施する予定.
(2)参加率
平成 13 年度(2町)は,教室参加登録者 41 名,平均
年齢 70.1 歳(女性 39 名,男性 3 名),全参加率 71.9%
(初回:75.6%,2 回目:90.2%,3 回目:70.7%,最終
回:51.2%),有効データ数 20 名(48.7%)であった.
平成 14 年度(3町)は,教室参加登録者 52 名,平均
年齢 68.7 歳(女性 47 名,男性 5 名),全参加率 89.9%
(初回:96.2%,2 回目:88.5%,3 回目:92.3%,最終
回:87.2%),有効データ数 43 名(82.7%)であった.
合計:教室参加登録者 94 名,平均年齢 69.3 歳(女
性 86 名,男性 8 名),全参加率 81.1%(初回:86.2%,
2 回目:88.3%,3 回目:81.9%,最終回:68.1%),有
効データ数 63 名(67.0%)
介護最前線∼ITと携帯電話の活用∼
㈱NTTドコモ中国
MM事業本部
山口 雅明
1.モバイル通信の進歩
MM推進部
専任部長
2.第3世代移動通信サービス「FOMA」
携帯電話をはじめとする移動体通信端末
携帯電話の世界は10年で世代が変わる
は 2000 年に固定電話(有線電話)の加入
と言われています.従来の携帯電話(第2
数を超え,その利用形態も音声通話のみか
世代:デジタル方式)は大きく分けて世界
らメールやインターネット,イントラネッ
に3つの方式があり,それらはお互いのエ
トアクセスへと変化しています.
リアで接続することは出来ませんでした.
i モードを始めとするインターネットに
自分の携帯電話を世界中で使えるように,
アクセス可能な携帯電話はそのなかにソフ
そして動画や大量のデータの送受信などが
トウエアをダウンロードすることによって
可能な電話,これが次世代の携帯電話(第
自分用や会社用などにカスタマイズするこ
3世代の携帯電話:図2)と呼ばれている
とが出来るようになって来ています.しか
ものです.音質が向上するとともに,現時
しながら,情報化の進展は社会問題も引き
点では最大で384Kbpsのデータ通信
起こしており,その対策などが必要になっ
が可能です.
てまいりました.事業者も国もいろいろと
また,第3世代の携帯電話では映像通信
対策を講じてはおりますが,自分の身は自
などで大量のパケット通信が想定されるこ
分で守るといったことが,インターネット
とから,パケット料金が大幅に安くできる
の社会では一番大切な事になります.
ネットワークの構築が必要となります.各
また,パケット通信の出現は携帯電話技
術の利用範囲を格段に広げています.メー
事業者ともパケット単価の値下げに向けた
取組みを行っています.
ルやインターネットアクセスで利用されて
いる他,データ通信の分野ではパケット通
信のみを行う端末モバイルark(図1)
の出現により自動車や自動販売機などへの
設置が可能となり,対機械との通信を増大
させています
図1
図2
モバイルARK
第3世代の携帯電話
3.医療分野におけるモバイルソリューショ
ン事例
医療分野における携帯電話の最初の利用
事例の1つは救急車からの心電図伝送でし
カスタマイズ化してご利用頂ける仕組みを
た.図3に衛星携帯電話を利用したシステ
利用した腹膜透析患者向けシステムや,空
ムを示します.
きベット等の情報を携帯電話用のインター
ネットサイトで紹介するシステムなど,携
帯電話の新しい機能を利用したサービスが
次々と生まれています.
更に,ユニバーサルサービスの一環とし
て低車高路面電車(グリーンムーバ)の位
置情報システム(車椅子の乗客が,自分い
るの電停に電車があと何分で来るかが判
る)や介護センターなどへの送迎バスが自
宅に近づいたらメールで通知してくれるシ
ステムなどが運用されています.
徘徊老人などが今どこにいるかを知ら
せるシステムもいろいろ運用されていま
す.
4.ドコモの携帯電話505iシリーズ
携帯電話の進化はとどまることを知り
ません.ドコモの新しい携帯電話(505
図3
衛星電話を利用した心電図伝送シス
i)は全機種にカメラが付き,メモリーカ
テム
ードが装備されています.また指紋認証機
能付き携帯電話まで登場しました.カメラ
最近では静止画や動画による遠隔診断や,
付き携帯電話は驚くべきスピードで普及し
電子カルテとの連動,PHSによる院内通
ていますが,カメラ機能により二次元バー
信システムなどの利用が行われています.
コードを読み取ったり,写真や指紋により
また,携帯電話へソフトをダウンロードし,
生体認証を行うことも行われ始めました.
今後はこれらの機能を利用した病院の受け
付けシステムなどが提供されるでしょう.
手術室
他病院
他 他病 院
手術室
病院
リアルタイム
ストリーミング
サーバー
他病院
専門医師
他病院医師・スタッフ
地域在住高齢者に対する運動介入の報告
医療法人玄真堂
川嶌整形外科病院
木藤伸宏
近年の社会的問題でもある高齢者の転倒や転
実施した.12 月より 2 地区で健康教室を実施.
倒に関連する外傷は,高齢者の生活機能を脅かす
2000 年 5 月に地域のボランティア情報誌に健康
問題として最も予防に取り組まれている.高齢者
教室を紹介される.10 月には NHK 大分にて健康教
の転倒は偶発的側面を有するものの,加齢とその
室が放映される.11 月より新たに一地区が加わり
他の要因により進行してきた身体機能の衰えの
3 地区となる.2001 年 9 月に中津市市報に紹介さ
結果として起こる現象として捉えることができ
れる.
る.Nevitt は転倒危険因子の実証の強さを報告し
(2)健康教室の運営
ている.それによると,身体内的要因として歩
サれぞれの教室は月 2 回開催し,実施時間は約 1
行・バランスの臨床テストの不良,身体パフォー
時間である.それぞれの教室に責任者がおり,そ
マンスの不良,下肢関節の筋力低下,歩行速度の
の責任者を中心に運営されている.われわれは運
低下は転倒との関連性が強いとされている.
営には関与せず,教室の内容についてアドバイザ
政府や自治体は,高齢社会→要介護老人増チと
ーとして参加している.当初 A 地区 10 人,B 地区
いう図式を描き介護の問題を優先的な政策課題
14 人で開始したが,参加者が増え現在 A 地区 14
としてきた.しかしながら増大する医療費,介護
人,B 地区 28 人となっている.この活動が地域の
費を食い止めるには介護を必要としない元気な
情報誌に紹介され,新たに C 地区(12 人)から依
高齢者を増やすことの方が得策と考えられ,特に
頼があり開催する運びとなった.
高齢者の転倒によって生じる大腿骨頚部骨折の
(3)健康教室の内容
予防に関する関心は高まっている.厚生省ヘ,予
運動療法を主体としており,1 回は下肢・体幹の
防を重視し 2001 年度より介護予防・転倒予防事
筋力トレーニングを主体に,1 回はバランストレ
業を各市町村で実施している.予防のターゲット
ーニング,歩行訓練,転倒防止を目 I とした動作
も生活習慣病から骨関節疾患に至る幅広いター
訓練を実施している.また,1 年に一度,身体運
ゲットが求められる.
動テストを実施しそれをフィードバックしてい
われわれはそれに先立ち,1999 年より運動機能
維持・改善を目的とした地域住民主導による健康
教室を開催している.
【Ⅰ】健康教室の紹介
(1)健康教室の成り立ち
1999 年 8 月に中津市・豊前市の地域在住高齢者に
転倒調査と身体運動能力の測定を実施した.その
時に健康教室開催に関する相談を受ける.10 月に
地区代表者より運動療法を主体とした健康教室
の定期的開催を依頼を受け,具体 I 打ち合わせを
る.
Hip Protector と 素材
畿央大学
健康科学部理学療法学科
佐々木 久登
1. はじめに
2001 年度国民生活基礎調査によると要介護状態
発生原因は脳血管疾患,衰弱,骨折・転倒,痴呆,
関節疾患,パーキンソン,その他の順になっている.
高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折,腰椎圧迫骨折や
コリーズ骨折につながる.我が国の大腿骨頸部骨折
患発生数は年間9万人とも言われている.今後,後
期高齢者の増加により大腿骨頸部骨折の発生数は
現在の2倍以上になると予想されており,医療費削
Cochrane
学科長
reviews においても大腿骨頸部骨折
予防に対して Hip Protector は evidence が高い方法
とされている.
表1
Hip Protector の発表例
HP HP 相対
無作 参加
on off 危険
為化 者
群 群 度
Lauritzen 1993 デンマーク老人ホーム 棟別
665 3.5% 8.1% 0.44
Ekman 1997 スウェーデン老人ホーム 施設別 744 1.4% 4.2% 0.34
Kannus 2000 フィンランド在宅ケア 在宅別 1801 2.1% 4.6% 0.34
2002 日本 老人ホーム 部屋別 252 2.4% 7.8% 0.31
原田
居住施設 個人別 174 6.2% 5.3%
Cameron 2001
NS
発表者
発
表
年
国
場所
オーストラリア
減,QOL 低下予防の立場からも転倒予防の取り組
原田
敦:the BONE vol 17より
みが各地で行われている.
転倒の頻度から言えば高齢者より幼児の方が圧
表1に示された Hip Protector 使用群の骨折者数
倒的に多く,今回は転倒予防の立場ではなく,転倒
は Hip Protector 非使用者群では 2217 名中 134 名
による大腿骨頚部骨折予防に焦点を当て,近年注目
(6%)であるのに対して使用群では 1419 名中 37
を浴びている Hip Protector の有用性を文献考察し,
名(2.6%)であった.しかも 37 名の中には転倒時
各種素材の衝撃吸収率の違いを加速度計により計
に Hip Protector を装着していなかった者が 32 名
測した.
含まれていた.Hip Protector を着用していたにも
かかわらず骨折したものは,わずか5名であり Hip
2.Hip Protector の効果
Protector の骨折防止効果は明らかである.また,
デンマークの Lauritzen により 1993 年に Hip
Hip Protector の着用により転倒恐怖が減少し“閉
Protector が初めて報告された.老人ホームで 1991
じこもり高齢者”の 17%が外出するようになったと
年より臨床試験が開始され,衝撃荷重が 53%減少し,
の報告もあり,単に骨折予防に止まらず QOL の改
有意に Hip Protector 着用群で骨折が減少したと報
善にも役立っている.
告している.その後,表1に示すような報告が各地
しかし,排泄時の着脱が困難であったり,体動に
で行われており cameron を除いて,すべて大腿骨
より Hip Protector がずれるなど装着感に難点があ
頸部骨折に対して Hip Protector は有用であると報
る.また,痴呆症の方には適応がなく,今後,装着
告されている.Cameron の報告では症例数 174 名
方法の工夫や素材の改良が必要である.
に対して無作為化試験を行っているため症例数が
少なく有意差が出なかったものと考えられる.
3. Hip Protector の構造
表 2 国内の各種 Hip Protector
Lauritzen が開発した Hip Protector は内側の
軟質層と外側の硬質層からなる二重構造となって
いる(ヘルメット方式)
.その他,軟質層のみの構
造のもの(座布団方式)などが開発されている.
会社名
連絡先
製品名
1
帝三製薬(テイジングループ) セーフヒップ
0120ー215ー213
2
グンゼ
ヒッププロテクター「こつこつ」
0120ー46ー4000
3
デアマイスター
転ばぬさきのパンツ
03ー5483ー3800
4
東京エンゼル本社
クッションパンツ
03ー3606ー7178
今後の開発としては転倒時の加速度を感知して腰
部の周囲に取り付けたエアーバックが開く方式の
もの(エアーバック方式)がある.また,自動車
は衝突時の衝撃を車体がつぶれる事により衝撃を
吸収して運転者を保護するように設計してあるが,
この理論を利用する方法も有用であると考える
1
2
3
4
(シャーシ方式).(図1)
ソルボ
ヘルメット方式
軽量ソルボ
ショックノン
座布団方式
メモリーフォーム
図2
特殊マット
段ボール
各種素材
エアーバック方式
シャーシ方式
図1
Hip Protector の各種構造
国内で開発されているもの(表2)の多くは座布
団方式であり,装着感は良いが衝撃吸収率はヘルメ
(実験1) 1kg の錘を下図のように1mの高さ
から各種衝撃吸収素材(厚さ 10mm)の上に自然落
下した時の最大衝撃度(G)を協和電業社製加速度
変換器 AS-500HA にて 5 回計測し,その平均値を
ット方式の 46%に比べ座布団方式のものは 30%と
1kg
やや劣る.
accelerometer
4.素材の違いと衝撃吸収率
素材(図2)の違いによる衝撃吸収率を調査する
ために,市販されている 5 種類の衝撃吸収材と段ボ
ールを組み合わせた衝撃吸収材(シャーシ方式)に対し
て 2 種類の衝撃実験を加速度計を用いて行った.
素材
コンクリート
実験1
求めた.
また,落下角度の違いでショック吸収が大きく変化
(実験2) 実際の転倒時には上肢,体幹による防
すると考えられる.これらの欠点の解決策としては
御反応が出現する.その影響が衝撃度に影響するの
蜂の巣状に段ボールを組み合わせて球状のものを
ではないかと考えて,被験者(体重 62kg)の足関
作成すれば解決されると思われる.実験2でショッ
節内果部に加速度計をゴムバンドで固定し,50cm
クの吸収が少なかったのは 1kg と 62kg の違いや,
の高さから各種衝撃吸収材の上に飛び降りた時の
落下形態の違いが影響したものと考えられる.以上
最大衝撃度を計測した.実験 1 と同様にそれぞれ 5
のことから,市販の衝撃吸収材は瞬間的な衝撃吸収
回の平均値を求めた.
には効果的であるが転倒に関連するような衝撃に
は不向きと考えられる.素材が潰れる事により衝撃
エネルギーを吸収するシャーシ方式の今後の開発
が待たれるところである.
P<0.01
(G)
実験2
5.結果
図3は実験 1 の結果を示したものである.衝撃吸
400
350
300
250
200
150
100
50
0
ン,メモリーフォーム,特殊マット,段ボールで有
意に衝撃度が低下していた.また,素材間の違いも
多く現われていた.しかし,段ボールに落下した時
図3 衝撃度の違い(実験1)
のバラツキは大きかった.
各素材ともショックの吸収がされていたが,実験
2 では実験 1 ほどの吸収はされていなかった.しか
し,ダンボールのショック吸収率は実験1,実験 2
の両方で優れていた.
ル
ー
ボ
ト ム
段
ッ ー
マ ォ
殊 フ
特 ー
ン
リ
ノ
モ
ク
メ
ッ
ョ
ボ
シ
ル
ソ
量
軽
ボ
ル
ときの衝撃が約 350G であるのに対してショックノ
ソ
床
収素材を置かないコンクリート床に直接落下した
P<0.01
(G)
30
25
20
15
6.まとめ及び考察
10
実験 1 で,段ボールに落下したときのバラツキ
5
が大きかったのは,落下する円筒の直径が約 2cm と
0
床
小さかったため段ボールが交差している所に落下
したときはショックの吸収が良いが,そうでないと
ソル
ボ
シ ョ メモ
段
特
ック
リー 殊マ ボー
ル
ノン
フォ ット
ー
ム
きはショックの吸収が低下するためと考えられる.
図4
衝撃度の違い(実験2)
「転ばぬ先の杖と知恵―転倒予防教室の実際と今後」
東京厚生年金病院
リハビリテーション科
田中
1.転ぶということ
人は,転びながら歩くことができるようになり,
主任理学療法士
尚喜
2. 特別な運動より日々の生活の中でいかに身体
を動かすこと,継続していくことの方が大切.
歩行能力の低下とともに,転びやすくなる.したが
易転倒性の高齢者の特徴としては,運動機能の低
って,2 本の足で立って歩くという人間にとって転
下と動脈硬化傾向があることでありともに運動不
ぶということは宿命といっても過言ではない.転ぶ
足に起因している.したがって,まず運動の動機付
ことが日常茶飯事の幼児では,骨格や関節が未完成
けを図っていくことが必要となる.また,三日坊主
であること,少頭身のために低重心であることによ
にならないように継続していくためには,簡単な運
って,筋肉や平衡機能が十分に機能していないにも
動であること,楽しい運動であること,できれば,
かかわらず,転んだとしても大事には至らない.一
道具を使わず,どこでも誰とでもできる運動が理想
方,高齢者においては,骨の脆弱化にあいまって,
です.また,できれば上・下,左・右に重心を移動
平衡機能の低下,姿勢反射の減弱など内的要因によ
するような運動が望ましいといわれています.そん
って,転倒は単なる骨折には留まらず,寝たきりの
な運動はあるのでしょうか?例えば,太極拳は骨塩
要因となることさえある.他方,超高齢者では,特
量を増加させるなどとも言われたことがありまし
有の体幹・下肢屈曲,前傾,円背となり,低重心と
たが,実際にやってみると遠心性収縮(筋肉が収縮
なるため,転倒しても大事には至らないこともある.
しながら,長さとしては伸ばされる状態)が多く,
人と転ぶという事象は,切っても切り離せない関係
運動の効果は十分ですが,身体に与えるストレスも
にあるといっても過言ではない.
大きく高齢者向けには,調整しながら導入する必要
また,多くのスポーツでは,転び方から学習する
があるでしょう.もっと簡単なものはないかという
ものが多い.柔道や相撲などの武道,スキーなどで
と,踊りもひとつの運動として考えると,非常にい
も受け身をはじめに学習する.したがって,転んで
い運動です.
も十分に対処ができれば,本来問題がないのです.
フラダンスなども中高年を中心に非常に多くの
リハビリテーションでも転倒訓練は,転んでしまう
愛好家がいます.しかし,膝が曲がった状態でのス
ことそのものよりも,転んだあとどのようにして体
テップが多く,後期高齢者などでは困難なことも予
勢を立て直すかが大切で,このことができなければ,
測されます.他方,盆踊りなどで高齢者も参加可能
自立したとはいえないのです.
な踊りがあり,「転倒予防踊り」などと銘打って改
しかし,高齢者に対して,受身の練習をしたらい
めて踊りを考えるより,地域色豊かな踊りを活用し
ったいどうなるでしょう?練習中に骨折というこ
ていくのも一つのアイデアでしょう.
ともありえるわけで,直接受身の練習をするという
3.どうせつくならおしゃれな杖
よりも転ばないように工夫する,転んでも問題のな
いように対処するということが大切です.
世界中で最も有名ななぞなぞに「生まれたときに
は4本足,大人になると 2 本足,年をとると 3 本足
なんだ?」というのがあります.はるか紀元前より
くことが必要である.また,あおり足と呼ばれる,
続くこのなぞなぞが示すとおり,人は年を取ると杖
歩行中の足部の左・右への重心移動を考えるとカウ
を付くものなのだということです.しかし,多くの
ンターなどの補強構造がどんなに強くても,足の幅
人は「杖をつくのは,年寄りじみていやだ」と敬遠
と靴のワイズが大きく異なっていればまったく機
することが多いようです.「転ばぬ先の杖」という
能せず横方向の安定性にも影響を与え,転倒しやす
言葉のように,前もって用心していれば失敗するこ
い状況となってしまうことにもつながります.です
とはない,転ぶようになるほど足元が危なくなる前
から機能性など構造上の問題を云々する前に,まず
に杖や歩行補助具を使用することも大切です.
フィットしていることが大切なのです.
骨折後に杖の練習をしようとしても中々上手く
このほか,靴底を滑りにくい工夫をしたり,いわ
杖をつけない方がいらっしゃいますが,年を取って
ゆるトゥスプリング,つま先を持ち上げたりするこ
から新しいことを覚えるのは,一苦労です.まして
とでも転倒を予防することにつながるものと思わ
や痛い脚をかっばて歩くなどは非常に難しいこと
れる.しかし,既にすり足で歩行している老人にと
でしょう.ですから,しっかりと歩けるうちから杖
っては,滑り止めを設置した靴ほどつまずきやすく
をついて練習する必要もあるのです.
なってしまう.したがって,サイズのみならず,個
杖は,本来武士や騎士が脇差,サーベルを捨てた
人個人に合わせた調整が必要となるものと思われ
のを契機につき出した歴史があるため,男性用の杖
る.
が非常に多く,特に女性若年者には不向きなデザイ
4.オーダーメイドの対応の必要性
ンが多かったのですが,最近では,非常にカラフル
モータリゼーションの流れの中,高齢者に限らず,
な杖も売られるようになり,敬遠する方の顔も緩む
日本人は非常なまでに運動不足に陥っています.こ
ことがあります.どうしてもつくのはいやだとおっ
の状況から脱出する最も簡単な方法は,歩くことで
しゃる方は,雨の日,もしくは雨の降ったあとに傘
はないでしょうか?これも立派な運動でしょう.と
を杖代わりについてみるのはいかがであろうか.
ころで,歩き方は十人十色,さらに超高齢者と一般
重要性であるとの認識はあるものの質・量とも十
人でも歩き方は異なるため,その人に合わせた,歩
分な供給が得られていないのが履物であろう.高齢
行指導,運動指導が必要となります.現代の遺伝子
者向けの履物として売られている靴の多くは介護
治療は,遺伝子情報を用いた薬物療法,いわゆるオ
用で普段履きとして,高齢者向けに作られている靴
ーダーメイド医療が行われている.当然,転倒の予
はないに等しい.また,高齢者に限った話ではない
防にとってもオーダーメイドの運動指導は必要と
が,自分の足のサイズを理解して靴選びを行ってい
なるわけです.しかし,遺伝子を調べるわけではあ
る人は少ないと思われる.しかし,どんな高機能な
りません.対象者の年齢,性別,身体状況,家屋環
靴であっても,脚にフィットしていない靴を着用す
境すべてを含めた対応が必要とされるのです.です
ることは,転びやすいだけではなく,外反母趾など
から単にこの運動をすればよいというわけではな
の足部の問題をも引き起こす可能性がある.特に,
いのです.
外反母趾の予防に関しては,高齢者特有の前傾姿勢
一般的には高齢者にとって「バリアフリー住宅」
に関連して,重心が前足部にかかる事が原因とする
は,適しているのでしょうか.既に何らかの障害を
開張足などに連動していることが多く,予防してい
有している方,室内でも車椅子での移動を余儀なく
くためにも自分の足の幅に合った靴を着用してい
されている方,超高齢者では非常に適した住環境と
いえます.しかし,前期高齢者など特に身体的な問
転倒予防教室が当院に開設されてから 5 年の月日
題を有しない高齢者にとっては,活動性の低下を招
が経過した.言い換えれば本邦での転倒予防への対
き,長い年月の間にはかえって転倒しやすいからだ
応はまだ始まったばかりである.当院では,自力で
を作る住環境となってしまうのである.
病院に通える高齢者に対して,身体能力別に運動を
古典的な日本家屋では入り口から非常に大きな
実施してきたが,地域の中でいわゆる「閉じこもり」
障壁・バリアがあった.敷居である.この敷居高け
の状態にある高齢者に対してどう対処していくの
れば高いほどバリアに対する認識が高まり転ばな
か.長期にわたって,身体能力の変化する高齢者に
いのである.逆に,人間が転ぶ段差は,畳の縁や横
対して,継続して運動を実施していくことは非常に
断歩道のインクの高さ位で転倒するのである.した
困難であると思われる.
がって,畳には構造上必ずしも必要ではないステッ
また,住環境をどの時期にどの程度改善していく
チをして,バリアに対する認識を高めているのであ
のかについても今後解決していかねばならない問
る.また,畳の縁の周囲は転びやすいという経験上
題であるものと思われる.
の転倒予防の知恵を「畳の縁を踏まない」という作
転倒予防事業は,介護予防事業の一環として各自
法として,先人たちが後世に伝えているのである.
治体に活動の場が拡がり,オーダーメイドの対応が
これらの事実からバリアがあることが問題なので
可能な状況が整備されつつある.前述してきたよう
はなく,視力や認識力の低下する高齢者に対してバ
な様々な事象を通じて,少しでも転倒を未然に防げ
リアを認識できない状況にしないことの方が大切
るような社会が構築されるよう微力ながら尽力し
なのである.
ていきたい.
視力の衰えとともに高齢者で問題となるのが視
最後に,転倒予防に関して積極的に取り組みセミ
野の狭小化が問題となる.単に視力が低下してきて
ナーを開催されてきた事務局ならびに関係団体に
いる場合には,光量を上昇させることで対応できる
対して敬意を表するともに,このような貴重なセミ
が,緑内障や白内障では,光量が多すぎるとかえっ
ナーの席にお招き頂いた広島転倒予防研究会新小
て識別性が低下し,バリア等の認識の見落としにつ
田会長に深く感謝申し上げます.
ながる.
滑りにくい床は,スリップに伴う転倒には有効な
ように思える.しかし,パーキンソン氏病患者の歩
容のようにすり足の場合にはかえって危険である.
また,浴槽内などに滑り止めを設置する場合も滑り
止めを認識できなければ,つまずきの原因となる.
これらの状況を総合的に判断すると,転倒予防に
関する対応は,年齢,身体能力,認知能力など様々
な要素に応じて,まさにオーダーメイドの対応が要
求されているのであって,ステレオタイプの対応で
は不十分であること,身体を動かすことも重要であ
るが家庭での生活環境,社会環境をも含めた対応が
必要とされているのである.
広島転倒予防研究会
〈代表世話人〉
広島大学医学部保健学科
教
授 村上恒二
広島大学医学部保健学科
教
授
大成 浄志
広島大学医学部保健学科
教
授
吉村
広島大学医学部保健学科
教
授
新小田 幸一
広島市立安佐市民病院
技師長
富樫
誠二
はたのリハビリ整形外科
院
長
畑野
栄治
中電病院整形外科
院
長
岩森
洋
平松整形外科病院
院
長
平松
伸夫
常務理事
迫田
邦子
〈世話人〉
理
(リハビリテーション科)
広島県看護協会
(浜脇整形外科病院)
広島県環境保健協会
理
事
青木 陽一郎
(健康クリニック)
広島県環境保健協会
センター長
薦田
直紀
(地域活動支援センター)
〈事務局〉
財団法人広島県環境保健協会 健康科学センター内
川野 則光 (代表) 大岡 亜由美
岡田 一彦
編集・発行
広島転倒予防研究会
代表世話人
事務局
村上 恒二
財団法人広島県環境保健協会 健康科学センター内
TEL 082-293-1513 FAX 082-293-2214
〒730-8631 広島市中区広瀬北町9−1
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