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都市交通計画策定にかかる プロジェクト研究

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都市交通計画策定にかかる プロジェクト研究
Japan International Cooperation Agency
The Research on Practical Approach for Urban Transport Planning
都市交通計画策定にかかる
プロジェクト研究
JICA は、アジア諸国を中心に、これまで 60 以上の都市で都市
交通マスタープランの策定やフィージビリティ調査を実施し、都
市交通計画策定に関する支援を行ってきた。これらハード面、
ソフト面での計画は、都市の発展段階を踏まえて策定され、着
実に、かつ計画的に事業実施されることが必要である。本研究
は、都市の発展段階等を踏まえた、中・長期的な都市交通戦略
を策定するための基礎的情報を整理することを目的として実施
されたものである。
独立行政法人 国際協力機構
都市交通戦略素案策定
ガイドライン
都市交通戦略とは、約 20 年程度の長期的な政策目標=ビジョンを踏まえ
たうえで、概ね 5∼10 年後に実現可能な施策を組み合わせたものであり、さ
らには、その実施管理まで含めたものと捉えることができる。
本格的・総合的な都市交通戦略を策定するために、通常のマスタープラン
の策定のように膨大な時間と費用を投入する代わりに、最小限の情報と簡
単な分析で、その都市が必要としている交通開発戦略に至る簡便法を開発
する試みを「都市交通戦略素案策定ガイドライン」としてまとめた。
都市交通戦略素案策定ガイドライン
都市交通戦略素案策定のための情報収集
(INPUT)
都市交通の診断
チェックリスト
都市情報シート
インタビューシート
都市交通戦略素案策定ツール
(PROCESS)
都市交通問題の診断
都市交通の診断・
処方マトリクス
主要交通戦略の
選択フロー
都市交通問題の処方
主要交通戦略の選択
都市交通戦略素案
(OUTPUT)
都市交通戦略素案策定の
ための情報収集(INPUT)
都市交通戦略素案策定に必要な情報は、社会経済指標や交通状況、交通
問題の程度、問題の原因と対策可能性など広範にわたる。
そこで必要最低限の情報を整理し、情報収集の手段別に3つのフォーマッ
トに整理した。
情報収集シートと情報収集の進め方
都市交通の診断チェックリスト
⃝都市交通問題の深刻度を尋ねる
⃝簡易アンケートなので専門家や行政
担当者のみならず市民を対象とする
こともできる
⃝個人毎の問題認識の差を打ち消す
ために多くのサンプルを集め、平均
値を用いるのが望ましい
1
都市情報シート
インタビューシート
⃝都市構造、社会経済指標、交通手段
⃝都市交通問題や都市交通政策に関
分担率や車保有台数に関する数値
⃝対象都市 / 都市圏の交通関係資料
にアクセスできる運輸交通コンサル
タントなどから情報収集する
する専門家(10 数名程度)の意見を
抽出する
⃝実施の際は、先だってプレインタビュ
ーを実施し、インタビューシートの
調査項目について最終化を行う
コラム 途上国の都市では人口密度、公共交通分担率、自家用車保有率の相関性が小さい
世界の大都市での最も根本的で共通の課題は、
「個人交通手段(乗用車)の交通需要を、いかに公
共 交 通 手 段 に 誘 導 す る か」で あ る と い え る。UITP Millennium Cities Database for
Transport(1995)のデータを使って公共交通分担率と自家用車保有率の関係を分析した。
図 1 人口密度と公共交通分担率(100 都市、1995)
一人当りGDP が 10,000USD を超えた都市では人口密度が
ほとんど相関が見られない(図 1)。
一方、都市人口増加ポテンシャルが高いのは一人当りGDP
が 10,000 USD 未満の都市である(図 4)。
一人当りGDP が 10,000USD を超えた都市では人口密度が
高いほど自家用車保有率は低下するが、10,000 USD 未満
90
Percentage of motorised public modes
over mechanized trips (%)
高いほど公共交通分担率が高いが、10,000 USD 未満では
40
30
20
10
0
50
100
150
200
250
300
350
400
800
シンガポール 100 台からアトランタ750 台と差は大きい。経
700
GDP per capita
(R2)
(0.6598)
(0.7298)
(0.1205)
(0.2346)
> 25,000 USD
10,000-25,000 USD
3,000-10,000 USD
< 3,000 USD
600
Passenger cars per 1000 people
10,000USD を超えた都市では逆比例の関係がみられるが、
50
(R2)
(0.7024)
(0.6291)
(0.0563)
(0.0327)
図 2 人口密度と自家用車保有率(100 都市、1995)
似曲線からのバラツキは大きく、例えば 30,000USD でも、
自 家 用 車 保 有 率と公 共 交 通 分 担 率も、一 人 当りGDP が
GDP per capita
> US$25,000
US$ 10,000-25,000
US$ 3,000-10,000
< US$3,000
60
Urban Density (people/ha)
一人当りGDPと自家用車保有率の相関は強いが(図 5)、近
が鍵である。
70
0
ではほとんど相関が見られない(図 2)。
済開発にあわせていかにコンパクトな都市開発を実現するか
80
500
400
300
200
100
10,000USD 未満ではほとんど相関が見られない(図 3)。
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
Urban Density (people/ha)
図 3 自家用車保有率と公共交通分担率(100 都市、
1995)
90
Percentage of motorised public modes
over mechanized trips (%)
80
本研究の都市タイポロジーからみた都市交通分析から、以下
⃝一人当りGDP が 10,000USD を超えた先進国の都市では
人口密度が高いほど、自家用車保有率が低く公共交通利
用率が高い傾向がある。
⃝しかし、一人当りGDP が 1,000 ∼ 10,000USD の開発途
上国の都市ではこうした傾向は見られない。
⃝開発途上国の都市では経済的発展につれ自家用車保有率
が上昇する。また、郊外での無秩序な開発により都市がス
プロール化する可能性があり、渋滞等の交通問題を生み出
60
50
30
20
10
0
100
200
300
400
6.00%
700
800
Africa
East&SE-Asia
EU
Latin America
Middle East
North America
South$Cen.Asia
5.00%
4.00%
3.00%
2.00%
1.00%
0.00%
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
40,000
45,000
-1.00%
GDP per capita (USD)
図 5 一人当り都市 GDPと自家用車保有率
800
Atlanta
Passenger cars per 1000people(1995,UITP MCDB)
から公共交通利用への転換をいかに誘導するかが課題で
ある。
600
図 4 一人当りGDPと人口増加ポテンシャル(250 都市、
UN)
の大都市での共通の都市・交通政策であるといえる。
タリゼーション前の段階である。経済成長とともに二輪車
500
Passenger cars per 1000people
な都市人口密度の高い都市構造を形成することが途上国
る。一人当りGDP が 1,000USD 未満の都市であり、モー
(0.6598)
(0.4577)
(0.1347)
(0.0769)
40
す一因となる。公共交通の利便性を向上して、コンパクト
⃝アジアには特に二輪車の分担率が高い二輪都市が存在す
5
> 25,000 USD
10,000-25,000 USD
3,000-10,000 USD
< 3,000 USD
0
Population Growth Potential (2010-2025)
の知見が得られた。
*'3 SHU FDSLWD
70
y = 0.4459x0.6693
R² = 0.6425
Calgary
700
600
SanFrancisco
Dusseldorf
Geneva
Munich
Frankfurt
500
Prague
Warsaw
400
300
Tokyo
Helsinki
Cracow
Osaka
Copenhagen
200
Harare
Lisbon
Casablanca
Singapore
100
Chennai
Hongkong
Guangzhou
0
100
1,000
10,000
100,000
Metro politan gross domestic product per capita(USD,1995,UITP MCDB)
2
都市交通戦略素案策定
策定ツール(PROCESS)
都市交通診断・処方マトリクス
縦軸に「都市交通問題」、横軸に「都市交通問題への対応」を並べたマトリク
スを作成した。そしてマトリクスの要素(セル)には、行の交通問題に対して列
の対応策を、その有効な度合い3 段階に分け、それぞれに3∼1 点をあたえた。
都市交通問題への対応策
都市交通問題
2
1
3
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(C)
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(D)
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主要交通戦略の選択フロー
都市交通の中心的役割を担う公共交通として何を選定すべきか、ならびに、都市
交通の基幹インフラである軌道系システムや都市高速道路が導入できるレベルに
都市が成熟しているかどうか、を判断する方法をフローチャートの形で示した。
基幹公共交通の選択
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軌道系導入計画の妥当性
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コラム メトロ開業時期と一人あたりGDPと都市人口
メトロの開業時期は都市の経済規模と密接に関係している。人口が多ければ一人当りGDP
が低い時期でも導入しており、人口が少なくても一人当りGDP が高い都市では導入している。
下図によると、当該都市人口と対象国の一人当りGDP の積が 30 億∼300 億 USD の間でメ
トロが開業しており、この段階でメトロ整備が可能な段階に達したと判断できる。
備考)
メトロとは、高頻度・大量輸送を行う
軌道系の旅客輸送用都市内交通システ
ムで、他の交通や道路、歩行者と完全
に分離された専用空間を運行するもの
と定義する。地下鉄、LRT、モノレール
を含む。
GDP per capita (USD 2000 constant, WDI)
100,000
Tokyo
都市GDP
30億USD
都市GDP
300億USD
Seoul
Hangzhou
Chongqing
Dalian
Chengdu
Beijing
10,000
Shanghai
Guangzhou
Ulaanbaatar
Manila
Davao
Hà Noi
Ho Chi Minh City
1,000
VienƟane
Phnom Penh
Bangkok
Kuala Lumpur
Johore Bharu
Singapore
100
100
metro open
1,000
10,000
Population (x1000, UN)
100,000
4
都市交通戦略素案
(OUTPUT)
都市交通問題の診断
「都市交通の診断チェックリスト」を使ったアンケート結果を集計し、調査対象の都
市で、どのような問題が発生しているか、それはどの程度深刻かを判定する。交通問
題の深刻度に応じてそれぞれ点数を与え、評価結果を中項目、大項目ごとに集計する
(A 非常に深刻である/緊急に対策が必要(3 点)、B 深刻である/対策が必要(2 点)、
C 深刻ではない(0 点))。この値が大きいほど、その大項目の問題は深刻であり、小項
目の全てが A(3 点)であれば 100%となり、全てが C(0 点)であれば 0%である。
(例)ジャカルタとハノイの都市交通問題(深刻度評価)
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75 %
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73 %
75 %
11
28
9
20
3
5
76
(例)都市交通問題の診断
Jakarta
73 %
55 %
30 %
83 %
17 %
17 %
45 %
Hanoi
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診断
コラム 世界の都市における都市交通問題
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Dhaka
Brasilia
Sao Paulo
Phnom Penh
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100%
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Cairo
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Bogota
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都市交通問題の処方
交通問題対応策の重要性を、都市交通問題の深刻度と都市交通診断・処方マトリ
クスの積で定義した。対象都市に関する各対応策の重要度を集計して、サブセクター
ごとのポイントを算出する。その都市における各サブセクターの得点を比較すると、そ
の都市の対応策の相対的重要性(処方)がわかる。
(例)都市交通問題への対応(相対的重要性)
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23
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14
14
97
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58
58
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30
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13
29
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75 %
94 %
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75 %
63 %
77 %
83 %
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63 %
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62 %
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63 %
33 %
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69 %
38 %
264
227
111
625
(例)都市交通問題の処方
142
178
81
415
85 %
80 %
76 %
82 %
46 %
62 %
55 %
54 %
Jakarta
Hanoi
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䐟 㐨㊰䜲䞁䝣䝷
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処方
Dhaka
Brasilia
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100%
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80%
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Nairobi
UlaanBaatar
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Bogota
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Phnom Penh
Sao Paulo
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JICA が実施する総合都市交通計画・プロジェクトにおいて、各国の研修生が自分の都市を評価した例
6
都市交通戦略素案の選択
交通戦略を具体的に検討する対象として、インド、ベトナム、インドネシアの3カ
国のそれぞれから2 都市を選び、合計 6 都市の都市交通現況および交通政策・計
画に関する情報収集を行った。それらをインプットしてフローを辿り、選択された戦
略が、その都市の実際の交通戦略に一致するかどうかを確認した。すなわち、主要
交通戦略の選択フローが実際に役立つかどうかを検証した。
各都市の戦略検討フローと都市交通マスタープランとの検証結果は表に示す通
りである。ほとんどの都市で提案された事業が都市交通マスタープランに盛り込ま
れており、高い精度を示した。
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まとめ
本研究では都市交通戦略素案策定ガイドライン
れた交通戦略と一致する結果を得られることが確
の各ツールを示した。ある都市の交通を観察して、
たため、論理の展開が荒削りであることは否めない。
として、
「情報収集」および「診断」、
「処方」、
「選択」
何が問題であるかを手早く診断し、どの交通サブセ
クター部門の整備がその都市にとって重要である
認できた。しかし、どのツールも容易と簡明を旨とし
今後、改善を図り、より実用性の高いものにして
いくために、
「診断」、
「処方」をより客観的な形に、
かを判断し、次いで、都市交通開発戦略の中核をな
また「情報収集」、
「選択」をより汎用性の高い形に
重要な情報を手軽に得られるという点で便利な
に改善していくことが肝要である。
す課題について見通しを得るためのツールである。
ツールであり、都市交通マスタープランに盛り込ま
それぞれ進化させるとともに、使い込みながら次第
本稿は、独立行政法人国際協力機構・経済基盤開発部において
実施した「都市交通計画策定にかかるプロジェクト研究」の成果
としてとりまとめたものである。
アドバイザー
兵藤 哲朗 教授 東京海洋大学流通情報工学科
花岡 伸也 准教授 東京工業大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻
調査団
西宮 宜昭
小泉 幸弘
北口 喜教
島田 亜弥
涌井 哲夫
庄山 高司
矢島 充郎
金子 素子
(以上 経済基盤開発部)
岡澤 裕子
西勝 克明
(以上 株式会社アルメック)
伊藤 桃子
独立行政法人 国際協力機構
経済基盤開発部
〒102-8012 東京都千代田区二番町 5-25 二番町センタービル
【表紙写真】
上段:幹線道路の渋滞(ラホール/パキスタン)、KTM 通勤電車
(クアラルンプール/マレーシア)
中段:混合交通による道路渋滞に巻き込まれるバス(ハノイ/ベ
トナム)、BRTサトーン駅(バンコク/タイ)
下段:パラトランジットの路上駐車や歩行者の道路横断(ラホー
ル/パキスタン)、バンコク・スカイトレインのモーチット駅
に設置されたパークアンドライド駐車場(バンコク/タイ)
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