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フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント
フランス保険経営におけるマーケテイング ・マネジメント ーBadocの「銀行・保険におけるマーケテイング ・マネジメント」論(1989)を中心に− 亀井 克之 (関西大学大学院) はじめに 1.マーケテイング・マネジメントの理念 1.1.マーケテイング・マネジメントの諸定義 1.2.Lambinの『戦略的マーケテイング』論におけるマーケ テイング・マネジメント 2.Badocの「銀行・保険におけるマーケテイング・マネジメン ト論 2.1.脅威に直面する保険経営とマーケテイング 2.1.1.技術的脅威 2.1.2.環境変化による脅威 2.2.ヨーロッパ保険経営におけるマーケティング・マネジメ ントの黎明 2.2.1.ヨ一口ッノヾ保険経営における計画 2.2.2.構造改革 2.2.3.意識改革 −161− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 2.2.4.保険経営におけるマーケティング機能の新しい役割 2.3.保険経営におけるマーケティング政策 2.3.1.売上高指向マーケテイングから収益率指向マーケ ティングへ 2.3.2.マーケティング情報システム 2.3.3.多角化・販売チャネルの多様化 おわりに はじめに 1993年に入り、ECの統合市場が誕生した。1987年7月発効の単 一欧州議定書(Acte unique europeen)に基づき、財・サービス・ 資本・労働力のEC城内における移動が自由化され、3億2,000万人 から成る一大市場が完成したわけである。保険統一市場が現実のもの となり、EC各国の保険企業を取り巻く環境変化には著しいものがあ る。21世紀の保険自由化社会を生き抜くための必須条件として、フ ランスのマーケテイング研究者Michel Badocは、保険経営におけ るマーケティング・マネジメントの強化を主張している。 本稿では、Badocの「銀行・保険におけるマーケティング・マネ ジメント(Marketing management pourla banque etl’assur・ 1) ance)」論を中心にして、現代から未来のフランス保険経営におけ るマーケテイング・マネジメントのあり方について考えてみたいと思 う。 注1)Michel Badoc,≪Marketing management pourla banque etl’assurance≫, Enqclopedie du Gestion,Tome2,Economica,1989,pp.1788−1802. −162− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント Badocは、Centre fIEC−ISA教授で、上記論文は、1986年発表の著書Market− ing manqgement pourla banque etlbsurance Ewopeennes,Les Editions d’Organisationに基づいている。 1.マーケテイング・マネジメントの理念 Badocの保険マーケティング・マネジメント論について考察する 前段階として、本章において、マーケテイング・マネジメントの理念 についてまとめておきたいと思う。まず内外のマーケテイング研究者 による諸定義を踏まえた後、ベルギー(フランス語圏)におけるマー ケテイング研究第一人者JeanrJacques Lambinの『戦略的マーケ ティング』論とフランス経営管理論の古典HenriFayol『産業並び に一般の管理』論に基づいて、本稿におけるマーケテイング・マネジ メントについての考え方を走めたいと思う。 1.1.マーケティング・マネジメントの諸定義 AMA(American Marketing Association)によるマーケテイン グの定義は、1935年発表の「生産地点から消費地点に至る商品およ びサービスの流れに携わる諸々のビジネス活動」というマクロ的定義 から、25年後の1960年に発表された「生産者から消費者または使用 者に至るまで商品とサービスを移行せしめるビジネス活動の遂行」と いうミクロ経済的視点に立った定義へと変遷した。そして、さらに 25年を経た1985年に、経営環境の進展を考慮し、かつソーシャル・ 2) マーケテイングなどの概念を取り入れて、より幅広い定義が新たに発 表された。1985年の定義は、「マーケテイングとは、個人及び組織 の目的を満足させる交換を生み出すためにアイディア、商品、サーピ ー163一 フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント スのコンセプトづくり、価格付け、プロモーション、流通を計画し実 3) 施するプロセスである」としている。この新定義には、現代マーケ テイングの主要概念である顧客の満足(customer satisfaction),す なわち顧客志向(customer orientaiton)が反映されている。同時 に、マーケテイングを計画を起点とするプロセスと把握していること がわかる。将来的には、コミュニケーションや、情報などの概念が、 AMAの定義に登場するものと推測される。 AMAのマーケテイング新定義を踏まえ、以下に内外のマーケ テイング研究者によるマーケテイング・マネジメントの定義を掲げた い。 ①Philip Kotlerの定義: マーケテイング・マネジメントとは、利益、売り上げ成長率、市 場占拠率などのような組織の目標を達成するために、標的市場(購 買者)との間に有益な交換および関係を創出し、確立し、維持しよ うとするプログラムの分析、プランニング、実施、コントロールの 4) 全体である。 ②William Lazerの定義: マーケティング・マネジメントとは、組織目標を達成するため に、マーケテイング・コンセプトをベースとして市場機会を分析・ 評価し、そこにおいて選定した標的市場(target market)にたい して望ましい成果をあげるために、マーケテイング活動を計画し、 組織し、実施し、コントロールすることであり、それは、マーケ テイング目標、ポリシー、プラン、プログラム、標準の設定、マー ケテイング資源の配分さらにマーケテイング諸活動の成果の評価な 5) どを内包しているものである。 ③J.A.Howardによる説明: −164− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント マーケティング・マネジメントは、マーケティング・マネジャー の統制可能要因(販売員活動、製品、マーケティング・チャネル、 価格、広告)による統制不可能要因(競争、需要、非マーケテイン グ・コスト、流通機構、公共政策、会社の組織)への適応のプロセ 6) スである。 ④森山典孝による定義: 消費者のニーズを満たすような商品企画および計画は、販売後の アフターサービス(A)に対し、ビフォアーサービス(B)に相当 する。販売はこれらA,Bのサービス内容をいかに伝達するかとい う活動である。これはコミュニケーション(C)の問題である。 だが、消費者の需要喚起だけで終わってしまっては、マーケテイ ング・マネジメントの体系としては不十分である。消費者が欲しい 時に、欲しい場所へ、欲しい量を供給しなければならない。つまり 輸送や保管という物的流通(ディストリビューション、D)も重要 な要素なのである。 マーケテイング・マネジメントとは「商的流通のABC」と「物 的流通のD」から成り立ち、A、B、C、Dのサイクルを回転させ 7) ながら繰り返し需要を創造していくことである。 ①、②、④の説は、いずれもマーケティング・マネジメントを顧客 ・市場の分析に基づく計画・組織・指導・統制のプロセスとして把握 している。③と⑥、特に⑥においては、マーケティング・マネジメン トの機能の一つとして、コミュニケーションが取り上げられているこ とに注目したい。 注2)ソーシャル・マーケティングという言葉は、論者によって異なる意味に用いられ る。大別すると、2つの意味がある。 −165− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 一つは、企業活動と社会とのかかわりを問題とするもので、環境問題に対する配慮 や消費者保護など、企業の社会的責任を重視したマーケティング活動を指す。 もう一つは、従来、マーケティングは企業の活動と考えられていたが、官庁、学 校、病院、政党、宗教団体などの組織における問題解決のためにも利用できるとい うものである。 (相原修『マーケティング入門』、日本経済新聞社,1989,p.29.) 3)田内幸一・村田昭治編『現代マーケティングの基礎理論』同文館、1989,p.9よ り。 4)Philip Kotler,Marketing EksentiaLs,(宮澤永光・十合胱・浦郷義郎共訳、東海大 学出版社、1989,p.12)およびKotler,Princit,les qf Marketing,(村田昭治監修 和田充夫・上原征彦訳、ダイヤモンド社、1988,p.27.) 5)William Lazer,Marketing Man嘩㌍menl−Ana如is,Phmning and ControL(田 内幸一・村田昭治編『現代マーケティングの基礎理論』同文鋸、1989,p.38より。) 6)J.A.Howard,Markeling ManLWment:CDerating,StYUlegic and Adminisfra一 級鳩(三浦信・釆住元朗・市川責『新版マーケティング』、ミネルヴァ書房、1991, p.94より。) 7)森山典孝「マーケティングとは何か」、(斎藤毅憲桶『経営学を楽しく学ぶ』、中 央経済社、1992)pp.142−143. 1.2.Lambinの『戦略的マーケテイング』論におけるマーケ ティング・マネジメント ここでは、ベルギーのカト・)ック・ルーバン大学(l,Universit昌 Catholique de Louvain)教授で、フランス語圏の指導的マーケテイ ング研究者であるJean−Jacques Lambinによる『戦略的マーケ 8) ティング(山A如磁物g血血醜聞)』におけるマーケティング・ −166− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント マネジメント論に注目したい。 Lambinの戦略的マーケティング論は、買い手の欲求の分析、す なわち市場の分析に基づく思想の体系としての戦略的マーケテイング (marketing strategique)と、市場獲得のための販売手法の集合 体、つまり市場における行動の体系としての業務的マーケティング (marketing operationnel)の2つをはっきりと区別している。一 般に、マーケティングは販売促進活動と考えられ、消費者の需要を供 給側にとって都合の良い方向に向かわせるための方策と同一視する傾 向がある。このような誤解に見られるように、マーケテイングはしば 9) しば行動の体系としての次元だけでとらえられている。 こういった現状を踏まえて、Lambinは、思想の体系としては、 マーケテイング過程は、市場経済の本質である買い手主権の原則を、 経営の道具や手段として、実施可能な形に変換したものに過ぎないと 10) し、これを戦略的マーケテイング論の拠り所としている。つまり、本 質的には、消費者指向である戦略的マーケテイングについて、正しい 理解を促すために、Lambinは業務的マーケテイングとの違いを提 唱しているのである。 Lambinによると、戦略的マーケテイングは、本来、分析の過程 であり、その狙いは、企業にとって魅力的な経済的機会となる欲求の 満足へとその企業を導くことにある。買い手たちの関心をひく購買動 機をみたすことによって、企業は成長と収益性に関する自己の目的を 11) 最も良く実現できる。 Lambinによれば、業務的マーケテイングの方は、マーケテイン グ過程の行動の次元に相当する。これは企業の営業力であり、それ無 しには最良の戦略計画も優れた成果を達成できない。業務的マーケ ティングは、販売活動、広告、プロモーションなどに支えられてお −167− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント り、マーケティング過程の最も派手で目立つ部分である。しかし、業 務的マーケティングの効果は、企業が前もって行う戦略的マーケティ ングの質に依存している。つまり企業の供給が市場の欲求に十分適合 していればいるほど、業務的マーケテイングは円滑に遂行されるので ユ2) ある。 三浦信「戦略的マーケテイングの構造」(三浦信・来住元朗・市川 頁『新版マーケテイング』)においては、Lambinの言う業務的 マーケテイングが、マーケテイング・マネジメントに相当すると解釈 13) されている。私は、この解釈を支持し、三浦前掲書における主とし てLambinの理論に基づいたマーケテイング・マネジメントの考え 方を以下に紹介しておきたい。 「戦略的マーケティングの役割は経営戦略に基本的方向づけを与え ると共に、マーケテイング・マネジメントないし業務的マーケティ ングの枠組みを設定することである。マーケティング諸活動の統合 的管理という意味での、在来型のマーケテイングを、一応、マーケ テイング・マネジメントと呼ぶことにするが、その基本的仕組み は、まず市場標的を選定し、それに合った製品、価格、流通経路、 広告、販売員活動等々の組み合わせ(マーケティング・ミックス) 14) を構成することである。」 以上の考え方は、Lambinによって示された図1のような企業の 戦略的マーケテイングと業務的マーケテイング(マーケテイング・マ 15) ネジメント)過程の見取り図に要約されている。図1下部に明示さ れたLambinによるマーケティング・マネジメント過程の考え方 に、フランス経営管理論の古典HenriFayolのマネジメント・サイ 16) クルの考え方を加味したものを、本稿第2章においてBadocの理 論を考察する際の理論的枠組みとしたい。つまり、本稿では、マーケ ー168− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント ティング・マネジメントを、顧客・市場の分析を中心とする戦略的 マーケテイングの成果に基づいて、製品、流通、価格、コミュニケー ションというマーケテイング活動を立直し、マーケティング計画に基 づいて追越し、マーケテイング計画を実施(但導)し、コトンロール (堪剋)するという4つのプロセスから成る マーケティング・マネジ メント・サイクルとして、把握することにする。 図1 マーケテイング過程 LE DEMARCHE DU MARKETING マクロおよびミクロ細分化による 欲求の分析 Analyse des besolnS macro et mlCrO SegZDentaHons Source:Jean−Jacques Lambln.Le〟arbeti7WStγategtque,deuxi加e紬tion. 瑚cgraw一打‖1.1989p.Ⅷ −169− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 注8)Lambinの戦略的マーケティング論の特徴は、①各種マーケティング概念や手法に ついて、それぞれの妥当性と限界を明確にしておl)、特定の観点を誇張していない こと、②諸研究者の業績を適切に導入、配置しており、その出典も明確にしている こと、③日本では、比較的なじみの薄い、フランスやベルギーなどフランス語圏の 業績も紹介していることである。(ジャンージャック・ランバン『戦略的マーケ ティング』三浦信、三浦俊彦訳、嵯峨野書院、1990,pp.400−401.) 出版後3年を経て、1989年に、Lambinの戦略的マーケティング論の第2版(エビ Markelingstrategique,deuxi昌me昌dition,Macgraw−Hill,1989.)が刊行された。 第2版は、初版に大幅加筆されて455頁の大部となり、理論の一層の充実が図られ ている。『戦略的マーケティング」論第2版における、初版からの主な変更箇所 は、Lambinが第2版の前書き(p.Vl)で指摘している次の7点である。 ①全く新しい章として、第13章が書き加えられたこと。第13章は、マーケティン グ計画の入念な作成を最終的に行う戦略的マーケティング監査の構造を呈示しなか ら、戦略的マーケテイング過程の全体像をまとめている。 ②初版の第5章から、第2版において、2つの章が発展、編成されたこと。すなわ ち、市場の細分化による消費者の要求の分析を扱う第5章と製品の魅力度の分析に 関する第6章がそれである。 ③戦略的マーケティングが、国際的な視点から展開されていること。 ⑥新たに書き加えられた節があり、その主な項目は、以下のとおりである。 グローバル・マーケティング(第1章第6節)、マクロ細分化(第5章第2節)、 商標のモデル化(第3章第4節)、国際的細分化(第5章第6節)、グローバル需要 予測の方法(第6章第4節)、戦闘的マーケティング(第8章第4節)、国際的開発 戦略(第8章第5節)、品質戦略(第9章第5節)、ダイレクト・マーケティング (第10章第7節)、流通業者の戦略的マーケティング(第10章第6節)、価格に対 する感性の決定要因(第11章第3節1)、広告における創造的アプローチ(第12 章第3節4)、戦略的マーケティング監査(第13章第2節)。 −170− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント ⑤例示や図表として、各事業の新しい領域や、最新の状況を扱っていること。 (む統計資料の公表と業界の新傾向の分析がなされていること。 ⑦各章末にその章の参考文献を示したこと。(初版においては、すべての参考文献 が末尾に列挙されていた。) 9)Jean−JacquesLambin,Le Marketingslrdegique,deuxi昌me昌dition,Macgraw −Hill,1989,p.Ⅴ.(三浦信、三浦俊彦訳『戦略的マーケティング』、嵯峨野書院、 1990,pp.i−ii.) 10)蕗が. 11)蕗材. 12)蕗が. 13)三浦信「戦略的マーケテイングの構造」(三浦信・釆住元朗・市川貫『新版マーケ ティング』ミネルヴァ書房、1991)、pp.136−140およびp.156. 14)蕗辺りpp」_36−139. 15)Lambin,OP.czt.,p.VII. 16)フランス経営管理論の始祖HenriFayolは、『産業ならびに一般の管理(Ad− ministarationindustrielle et generale)』の中で、管理・アドミニストレーション (administration)を計画(prevision),組織(organisation),命令(commande, ment),調整(coordination),統制(contr;le)の5つの要素に分けている。この考 え方は、後に管理過程(マネジメント・プロセス)として把握され、様々な研究者に よって修整を施されて、「計画・組織・指導・統制」や「Planrdo−See」などの形で 理論的に定着している。Fayolは、管理の要素の中でも、予算作成を中心とする「計 画」と「組織」を特に重視している。 2.Badocの「銀行・保険におけるマーケテイング・マネジメン ト」論 一171− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 21世紀に備える銀行・保険会社は、技術(technologie),環境 (environnement),市場(marche),競争(concurrence)などによ る相乗的な脅威(defis)にさらされ、収益性(rentabilite)の確保に 苦慮している。様々な脅威を克服するために、競争力のある経営管理 (gestion performante)手法の導入が、必要となっている。Badoc は、新時代の銀行・保険経営の成功の鍵として、マーケテイング・マ 17) ネジメント・システムの確立を提起している。 Badocによれば、このマーケティング概念は、全般管理の戦略に 統合されており、次の5点のような問題解決に優先事項とする。すな わちそれは、①収益性の改善、②現場従業員に対する支援、③情報処 理の充実、⑥商品・サービス流通チャネルの改善、⑤内部および外部 コミュニケーション・システムの開発などの諸問題である。マーケ ティング・マネジメントにおいては、経営陣から現場における販売活 動に至るまで、綿密な計画に基づいた厳密な管理が要求される。さら に、経営者には、未来の市場に対処するのにふさわしい構造改革や、 従業員の意識改革の遂行が望まれる。Badocは、改革された新しい 組織におけるマーケティング機能(fonction marketing)の役割を 18) 的確に見定めることが必要だとしている。 なおBadocのマーケテイング・マネジメント論は、銀行と保険会 社の双方を対象にしているが、本稿では、後者を中心に論及する。 2.1.脅威に直面する保険経営とマーケティング (Le.marketingdel,assuranceconfront昌aux d昌fisdedemain) Badocは、保険経営ならびにマーケテイングをおぴやかす要因 を、科学技術によるものと環境変化によるものとに大別している。前 者は、特に情報化社会の進展に関係するものであり、後者は、要求の −172− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 19) 多い顧客(client昌Ieexigeante)の出現と競争の激化などである。 2.1.1.技術的脅威(Led昌fitechnologique) 情報関連の技術革新は、システム開発や情報サービス・機器導入を 巡る競争の激化を招いている。例えば、保険会社は、リスクマネジメ ントの情報システム(systemesinformatis昌sdeRiskmanage・ 20) ment)の開発に鏑を削っているのが現状である。 一方で、情報・通信の進化は、顧客に対する、従業員の販売能力の 強化に貢献している。その例として、Badocは、次の3点の実現可 21) 能性を示している。それは、(》顧客への迅速な情報提供、②ビデオ テックス(vid昌otex)等のダイレクトマーケティング・システムを 用いた24時間サービスの提供、③マイクロコンピューター、テレビ 電話による、査定などの専門的部門の地方分散化である。 フランス人は、従来クレディット・か−ドを好まないと言われてき た。しかし、21世紀に向けて、フランスにおいても、カード社会つ まりキャッシュレス社会(cashless society)が進展するものと予想 される。これも、フランスにおける保険マーケテイングの伝統的体系 22) を変革する可能性を有している。 2.1.2.環境変化による脅威(d昌fidel,environnement) Badocは、環境変化として、市場の変化、競争の激化、規制緩和 23) の3点を重視している。Badocは、まず、市場変化の貴たる例とし て、顧客の意識の変化を挙げる。情報化社会の進展に伴い、顧客の商 品・サービスに関する知識が向上しており、その結果、顧客は、購買 Z4) に際して、販売者に様々な要求をする傾向にある。このような状況 は、市場が飽和傾向にある銀行に特にあてはまる。保険市場は、多く −173− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント 25) のヨーロッパ諸国においてなお発展段階にあり、保険会社にとって 深刻な環境変化は、市場よりも、規制緩和に伴う競争の激化によると 26) ころが大きいと Badocは指摘している。 Badocは、競争を保険事業内部(interne)の競争と外部(exter− ne)の競争の2つに大別している。 事業内部の競争は、EC諸国への外国保険会社の進出と、EC諸国 の保険会社による市場相互参入から成る。 事業外部の競争は、他業種企業の保険市場への参入によるものであ る。フランスでは、銀行、信販会社、流通全社による、何らかの形で の保険市場への参入が実現しつつある。さらに、旅行代理業、ホテル ・チェーン、両替業者、自動車製造業などが、この傾向に追随してい る。例えば、ルノー公団(La R昌gieRenault)なども保険市場進出 に意欲を示している。近年、フランスにおいては、金融機関以外によ るものとしては、流通会社の動きが活発である。Carrefour,1a FNAC,Habitat,La Redouteなどの大規模小売店や通信販売会社 27) が保険市場参入を開始しており、この傾向は他のヨーロッパ諸国にも 28) 及ぶものと推測される。 しかし、やはり特筆すべきは、ヨーロッパにおける、銀行による生 29) 命保険市場参入の動きである。ユニバーサル・バンクとしての充実、 さらには、ドイツにおいてアルフイナンツ、フランスにおいてバンカ シュランスまたはアシュルフィナンスと呼ばれている業容拡大の概念 に基づいて、この動きはますます顕著になってきている。ドイツで は、ドイツ銀行が、シェア拡大戦略の一環として、1989年9月か ら、子会社を通じて、生命保険商品を銀行の支店網と顧客情報とを利 30) 用して販売することに着手し、大きな販売成果をあげている。 フランスにおいても、銀行は子会社を通じて生命保険業務を行うこ −174− フランス保険経営におけるマーケイング・マネジメント とが認められており、銀行と保険会社は、従来から競合関係にあっ 31) た。フランスの銀行による、保険市場への進出例としては、BNP (Banque Nationale de Peris,パリ国立銀行)によるUAP(Union 32) des Assurances de Paris)との提携が代表的であった。しかし、そ の後1989年半ばにインドスエズ銀行(BanqueIndosuez)を中核と する総合金融グループの筆頭であるスエズ金融会社(Compagnie 33) financi昌redeSuez)が、フランス民間保険会社最大手のVictoire 社を買収したことが、フランス保険企業のみならずフランス経済界全 体に大きな衝撃をもたらす結果となった。SuezがVictoireに仕掛 34) けたTOBは、フランス革命200周年の興奮もさめきらぬ1989年の 8月から9月にかけて連日、新開の金融面をにぎわせた。この株式公 開買い付けをめぐる攻防も、Victoire側に逆TOBをかけるだけの 資金力がなく、救済者も現れず、結局Victoireの社長が持ち株をす べてSuezに譲渡する形で、Suez側が成功を収めたわけである。 Victoireは、旧西ドイツ保険業界第2位のColoniaを買収する契約 になっていたので、Suezはヨーロッパにおける保険の一大グループ 35) を傘下に収めたことになった。 注17)Michel Badoc,≪Marketing management pourla banque etl’assurance≫, Encycbpedie du Gestion,Tome2,Economica,1989,p.1788. 18)蕗通. 19)地腹 20)蕗idリp.1789. 21)フランスでは、コンシューマリズムの影響を受け、保険契約者(保険消費者)の利 益保護の観点から、保険契約法において、契約締結前の保険者の情報提供が義務化 されている。(山野義朗「保険契約法と契約者利益の保護−フランス法の分析を中 一175− フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 心にして−」『文研論集』第99号、1992年6月、p.184およびp.205). 22)Badoc.pp.cil. 23)崩れpp.1789−1790. 24)妨材.,p.1790. 25)フランスの保険会社は、その組織網を利用して、保険加入者に情報を提供したり、 苦情などに対する個人的な回答を行っている。苦情処理専門の「消費者」サービス を実施した企業もある。同時に、フランスでは、CDIA(Centre de documenta・ tion et d’information de Passurance,保険文書センター)が、消費者に保険に関 する情報を提供したり、質問や苦情を受け付けたりして、保険における消費者保護 に努めている。(「フランスの生命保険の現状−フランス保険協会・年報1991年版 から−」『文研海外情報』No.40,生命保険文化研究所、1992年9月、p.56.) 26)飽和状態のアメリカや日本の市場に比較すると、ECの一人当たり平均保険料およ び保険料の国内総生産に占める比率は低く、大きな進展の見込みを残している。 ヨーロッノヾ南部の諸国など、保険の利用がヨーロッパの平均よりも少ない市場ほ ど、大きな可能性を提供している。(「フランスの生命保険の現状−フランス保険 協会・年報1991年版から−」、p.27.) 27)Badoc,坤.Cit.,pP.1790−1791. 28)蕗id. 29)ドイツにおいても同傾向にある。「按数の金融・保険企業が協定を介して金融サー ビスの提供を行うことは従来からなされてきた。住宅貸付に保険が付帯せしめられ たのがその典型例である。しかし、今日では旅行会杜、百貨店、スーノヾ−マーケッ ト、クレジット・カード会社、自動車販売会社ないしはリース会社など、さまざま なカップリングが存在している。これもまた実質的に新たなアルフイナンツの地平 と呼ぶことが可能である。」(今井薫「ドイツにおける保険規制とアル7イナン ツ」、『文研論集」第95号、1991年6月、pp.33−34.) 30)EC市場統合によって、EC統一の銀行免許ができ、銀行、証券、信託の各業務を −176− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント すべてカバーできる「ユニバーサルバンク」か、EC各国で営業できるようになっ た。ドイツには、ドイツ銀行、ドレスナー銀行などの有力なユニバーサルバンクが 存在する。フランス・イギリスにおいても、銀行と証券の兼業が認められている が、ドイツの銀行に規模やノウハウの両で一歩リードされている。現在、フランス やイギリスの銀行がM&Aなどによって業容を拡大しているのは、いかにEC統合 市場において生き残り得るユニバーサルバンクになるかが問題となっているからで ある。(日本経済新聞社編『ヨーロッパ経済入門』、日経文庫ベーシック、1993、 pp.88−89.) 31)今井薫「EC保険市場統合と締約国の一般的利益保護」、『保険学雑誌』第538 号、日本保険学全、1992年9月、pp.24参照。ドイツ銀行のアルフイナンツの動向 については、相沢幸悦「ドイツ銀行の生命保険業務への参入」『文研論集』第97 号、1991年12月)に詳しくまとめられている。 32)相沢幸悦、『ユニバーサルバンキング』、日本経済新聞社、1989、pp.248−249. この点に関して、下記引用し、補足しておきたい。 「フランスにおいても、近年、信用機瀾(銀行、相互銀行または協同組合銀行等) と生命保険全社の間で相互参入をめぐる動きが活発になってきている。フランスで は、信用機関・生命保険全社の本体による相手側業務の兼営は禁じられている(84 年法第1∼7条、保険法典政令第322−2条)ものの、子会社方式等による相互参入、 信用機関本体の店舗による生保商品の販売などは、法制上、原則として可能となっ ている。このような制度的枠組みのなか、相互乗り入れは従来部分的に行われてい たが、ここ数年の間に、上記の四大銀行グループによる生保業務進出を中心に、相 手側業務への本格的な参入をねらった動きが相次いで表面化してきている。なお、 こうした動向をフランスでは、バンカシュラーンスと呼んでいる。」(宇恵勝也 「フランスーEC統合へ向けての急速な改革」、太陽神戸三井総合研究所編『世界 の金融自由化 先進7カ国・ユーロ市場の比較』、東洋経済新報社、1991、p.194) 33)パリ国立銀行と保険業界第1位で国有のUAP(L’Union des Assurances −177− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント de Paris)の「提携の形態は、共通の持株会杜の設立によるものではなく、両者が それぞれ増資を行い、増資分の株式を政府を通じて互いに持ち合うというものであ る。…フランスの最大規模の銀行と第1位の保険会社が提携し、協力に向かった 最大の要因は、やはりECの市場統合である。…この提携によって、両社は、金 融と保険の両分野の商品をお互いに提供しあうことによって、顧客へのサービスを 向上できる。さらに、フランスだけでなくヨ一一1コッノヾ全域の営業拠点を共有するこ とによって経営基盤を拡大していくことが可能となる。 ちなみに、第5位の国有保険会社GAN(le Group des Assurances Nationales) も中堅銀行CIC(Cr昌ditlndustrieletCommercial)との提携を強め、CICへ の資本参加比率を1989年5月に、34%から51%に高めた。」(相沢幸悦、「ユニ バーサルバンキング』、日本経済新聞社、1989、pp.248−249より) 「パリバグループにしてもスエズグループにしても、傘下に保険会社をかかえてい る。1987年の純資産のうち保険部門は8.0%であるが、純収益の比率は30,4%とかな り高く、グループ全体の収益拡大に大いに貢献している。」(前掲書、p.262 より) 34)TOB,take over bid(株式公開買い付け)は、フランスでは、OPA(offre pub− lique d’achat)と呼ばれる。 35)Suez社は、1982年、Mitterrand政権の国有化政策によって国有化され、1987年 に、政府の政策転換によって再び民営化された。1988年には、ベルギーの巨大な持 株会社Soci昌t昌G;n昌ralede Belgiqueの削又に成功し、ヨーロッパ有数の企業グ ループをそっくり傘下に収めている。(井上隆一郎、『世界のビッグビジネス』講 談社、1990,pp.297−298.) Suez と常に比較されるフランスの総合金融グループに パリバ(Paribas)がある。 SuezのVictoire買収については、三浦信孝「実戦経済フランス語」8,『ふら んす』1989年11月号、pP.84−87および「同」9、『同』1989年12月号、pp. 84−87を参照。 −178− フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 2.2.ヨ一口ッノヾ保険経営におけるマーケテイング・マネジメント の黎明 (Lessoci昌t昌sd,assuranceeuropeennes;1,aubedumarket・ ing management) 前節で取り上げたような脅威に対処するために、ヨーロッパの保険 会社は、より良いマーケテイング政策を実践しなければならない。そ のためには、次の3つの事項が達成されねばならない。①販売業務的 マーケテイング(マーケティング・マネジメント)の出発点である マーケティング計画の確立。およびマーケテイング計画の基盤となる 戦略的マーケテイング段階の充実。②組織の構造改革。③従業員の活 36) 性化・意識改革。 上記3点について、Badocの見解に基づき、以下の3節において まとめてみたい。 2.2.1.ヨーロッパ保険経営における計画 (Versunegestion planifi昌e dela soci昌t昌d,assurance eur− OpeenneS) マーケテイング・マネジメントの出発点は、マーケテイング計画の 策定である。Badocは、企業内のマーケテイング業務のあらゆる意 思決定のレベルにおいて、短、中、長期、あらゆる規模の計画が、立 案・実践されねばならないとしている。つまり、経営管理者レベルに おけるマーケテイングの一般的計画に基づいて、業務的マーケテイン グのレベルにおいても、個別に計画化することの有効性を説いている のである。Badocは、これを分権的マーケティング計画(plans de marketingdさcentralisさes)と呼んでいる。このような分権的傾向の 計画化システムを採用している保険会社として、Badocは、フラン ー179− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント スのGroupama(Assurances mutuelles agricoles:農業共済保険 37) 組合)、スイスのHelvetia保険会社の名前を挙げている。 Badocにおける、計画のプロセスをまとめると、図2のようにな る。 図2 保険企業における展開計画の内容 (Le conIenu du plan de d帥eloppenenl pour une enlreprise d’assurance) 情報の分析、総合段階(PhaSe d.analyse et de synlh色Se desinfo柑ations) 環塙 の評価 ← E v a l u a l io n des co 雨 ra intes d e l’e n v i r o n n e m e m t qp 外冨 部≡ 診… lコ 断貫 .tコ リ ス ク (H e n a c e s R i sq u e s ) 機会 (0 pportuniはS): 分析結果の表示 Pr色Senla=on sous rorule 市 場の分 析 A n a ly s e 面目m r C h 色 ac lue l e l de S O n e V O lu l l O n l 競 争相手の 評価 E v a lu a t io n de la conc urren ce 戦略的意思決定段階 (Phase de prise de d色Cision slrategique) d’un tableau de syntbeSe 商品計画と 使命の選択 Choix ← 「我々の保険会社は 現在どこに位置づけ られるのか?将来の 可能性はいかなるも のか?」 予測の策定 Elaboratiorl d’un posi=onneme雨 et d.uIle mission 目標の設定 Fixation des objeclirs 「いかなる成果を 我々は獲得したい のか?」 du pronoslic 内≡ 部 ≡ U 珍 芸 CI 斬.萱 保険企業の 内部診断の評価 EvallはHon du dlagnOSticinle川e de rentreprise 「我々の組織はどの 方向に進むのか? 問題(Forces Faiblesses Probl(畑eS) d’assurarlCe .‘ロ Source:H.Badoc,胞γとel用g爪mge飢gn上知γld伽et P’α55址rα肛e eⅡγ0如enlleS,Les 別i=ons d’organisation,1986. (《Markeli昭わana宮川enl pourla banque etl’assurance》p.1793.) −180− 標的の限定 Deter皿Inal10n des cibles r我々は何をねら っているのか?」 フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 2.2.2.構造改革(Desr昌formes a prevoir auniveaudes StruCtureS) Badocは、21世紀の保険経営においてマーケテイング・マネジメ ントを充実させるためには、組織の構造改革が必要であると主張して いる。Badocの組織構造改革論は、主として、①市場ごと、あるい は製品ごとに担当管理者を設定するという概念に基づいて、保険会社 38) の組織を再編成すること、および②各部門の責任者に権限を委譲す る「分権的構造(structured昌centralisee)」の採用という2点から 39) 成る。Charbonnierも、『保険マーケテイング(Marketing en °一 一− 1−−l ̄  ̄ 一 一 一一−1−14 諸方策の実践段階 (Phase de uHSe en OeUVt ̄e des moyens) −−−1−1 − 一・一Ill.4 結果の統制段階 (Phase de co巾r61e) des resullats) 戦術の策定 ElaborallOn des tacOques 諸方策の実践 MISe en OeuVre deslnOyenS 「マーケテイング・ミックス」 成果の統制 Contrのe des realis針目ons 《Le marketing mlX》 「いかなる活動が 誰によって、いつ 実施されるべきか? −181− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント ASS〟相乃Cg,1976)』において、より良いマーケティング・マネジメ ントに適応した保険会社組織のあり方として、伝統的構造(struc− ture traditionnelle)からの脱皮と分権的構造の採用を主張してい 40) る。 Badocによれば、製品・市場ごとの分権的事業部制組織を採用し た最初の金融機関はCitibankである。Citibankは、1970年代半ば に、組織を5大市場(国際企業、大企業、中小企業、高額所得者、一 般大衆)を中心としたものに再編成した。Citibankは、5つの市場 毎に、特定の責任者と独自の流通システムを配備した。同業者の様々 な批判にもかかわらず、Ctitibankの試みは一応の成功を収め、スカ ンディナビアの保険会社SkandiaおよびBalticaが、同様の構造 改革に着手している。フランスにおいても、AGF,GAN,UAPのよ 41) うな大手保険企業グループが、関心を払い始めている。 Badocは、Citibankのように完全に市場の細分化に基づいて組 織を再編成するのは困難である場合においても、保険会社における分 42) 権的構造の採用は推進すべきであると主張している。 2.2.3.意識改革(Faudra−t−ilr昌formerlesassureurs?) 前節で触れた分権化(decentralisation)指向の組織改革も、それ が従業員の意識改革を伴わなければ、その効果は、不十分なものと なってしまう。つまり、従業員の能力や意欲が高い場合は、管理職が 権限を委任することによって、従業員のアイデアを十分生かすことが できるが、逆に従業員があまり仕事に習熟していなかったり、意欲が 43) 低い場合は、分権化しても効果は期待できない。管理職は、権限を 委任した従業員に対しては自覚を促し、仕事の習熟度や意欲の低い従 業員に対しては動機づけを行う。いずれの場合も、コミュニケーショ ー182一 フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント ンが肝要となる。前者とのコミュニケーションは、信頼関係に基づく 相談型・助言型といったスタイルになる。一方、後者とは、一方的に 44) 指導を行うという厳格型のスタイルになる。 組織外部とのコミュニケーションばかりが注目される傾向にある が、Badocは、今後は、従業員の活性化・動機づけのために、組織 の内的コミュニケーションの充実が図られねばならないと主張してい 45) る。 2.2.4.保険経営におけるマーケティング機能の新しい役割 (LenouveaurSledumarketingdansl,assurancedufutur) 現場への権限委譲による分権化が実現すると、保険経営における マーケティング機能(職能)の果たす役割は、階層的なもの(hi昌・ rarchique)から、より機能的(職能的)なもの(fonctionnel)に移 行すると Badocは推測している。図3に見るように、Badocは、 マーケティング機能の新しい役割として、全般管理に対する「助言・ 忠告(eclairer)」,組織内部コミュニケーションによる従業月への 「情報提供(informer)」,販売網の「活性化(animer)」と「援助 (assister)」,顧客との「コミュニケーション(communiquer)」, および政策が正しく実践されているかどうかを予防・救済の両側面か 46) ら「監査(auditer)」することの6つを挙げている。 −183− 図3 保険経営におけるマーケテイング・マネジメントの役割 仕e r6le血mr如hng爪止れαgemenl血nsl’cSS址r肌Ce de de爪α川J 」 、Jt \‘ 〉J 束 5琴 詩 聖 IJ 紡 、」一 0、1 財務・7クチュ71ト部門 (Direclion rinanci色re ou acluariale) 流通網 助言・忠告 (Bclairer) ・販売網および市場の ニーズに基づいた商 品政策の決定・・・・・ (Le reSeaU de distrtbutioll) マーケテルグ機能 (FoncHon 眼rketing) ・現場における マーケテイング・販売援助 4 [ 、寸 11 Jヽ \‘ 、勺 マーケテイング 情報提供 コミュ二トのン マネジルトの業務的役割 (lnforu把r) (CoⅧlUniquer) 4 斗 \’、 、ヽ、 内的コミュ二トシフン (Co加Mnica110ninlerlle) ・研修・情報・動機づけ‥・ 外的コミュ二トション (CoⅧlunicaHon exlerne) ・広告・ダル州販売・PR ・ス君雄リンダ…・・・ hurce:8adoc,側arketi昭mnage耽nlpourla banque etl’assurance》,p.1795. \!  ̄7 ̄ フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 注36)Badoc,砂Cifリp.1791. 37)蕗idリpp.179ト1792. 38)「かつて、収入保険料の伸び率が高く、マーケテイング予算の制約もそれほどな かった時期には、市場なり商品をいわゆる「特化」する必要性は小さく、商品、市 場の成長可能性をそれほど考慮することはなく、…・=すべての商品、市場をカバー していくという考え方が通用していた。 しかし、低成長経済への移行とともに、計画的な経営企画が必要となってきた現況 下では、……商品と市場の集中、商品の特化、市場の特化、選択的特化といった各 特化が重要となってくる。」(上田和勇『保険マーケティング入門−その考え方と戦 略一』損害保険企画、1983,pp.48−50.) 39)Badoc,坤.citリp.1792et p.1794. 40)Jacques Charbonnier,Marketing en Assurunce,L’Argus,1976.(拙稿、「Char・ bonnierの保険マ,ケティング論一保険の市場調査を中心にr」,『文研論集』第 97号、1991年12月、pp.131−166参照。)Charbonnierは、フランスにおけるリス クマネジメント研究の第一人者で、近著に月ゐヴ〝gS e′必S〟用乃Cの(わs P血管一戸凡打 (『中小企業におけるリスクと保険』),L’Argus/Dunod,1991がある。 41)Badoc,坤.cJJ‥ 42)蕗材. 43)斉藤毅憲「企業の仕組みとは」『経営学を楽しく学ぶ』斎藤毅憲編著、中央経済 社、1990)pp.92−93, 44)蕗id. 45)Badoc,OP.cit.,p.1794 46)蕗idリpp.1794l−1795. −185− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント 2.3.保険経営におけるマーケテイング政策 (Quellespriorit昌spourlespolitiquesmarketingetcommer− Ciales dansl’assurance de demain?) 新時代の保険経営におけるマーケティングおよび販売政策上の優先 事項として、Badocは、売上高指向マーケテイングから収益率指向 マーケテイングへの転換、構造改革・権限委譲、マーケティング情報 システムの構築、多角化・販売チャネルの多様化、内部・外的コミュ 47) ニケーションの充実を指摘している。分権的組織指向の構造改革と それに伴う意識改革およびコミュニケーションの充実については、 2.2.において既に述べた。ここでは、収益率指向マーケティング (marketing versle profit),マーケティング情報システム(SIM, Systemes d’Informations Marketing),多角化(diversification)・ 販売チャネルの多様化を取り上げることにする。 2.3.1.売上高指向マーケテイングから収益率指向マーケティン グへ (D,unmarketing orient昌verslavente a unmarketingdir− ige versle profit) Badocは、新時代の保険経営におけるマーケテイング・販売政策 上の優先事項の第一に、収益率の重視を挙げている。すなわち保険料 収入増大指向から、ROI(投資収益率)などの指標に基づいた収益 48) 率指向のマーケテイングへの転換を説いている。この論点に関して、 日本における数少ない保険マーケティング専門書のひとつより、補足 しておきたい。 「経済環境の変化は、クレーム・コストと人件費が増大する反面、 収入保険料の伸び率、利益率、そして投資収益率が鈍化するという状 −186− フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 況をつくっている。この困難な局面を乗り越えていくには、収入保険 料の増大のみで企業の発展を期そうとする考え方から、収益率の増大 を通じた企業発展へと企業戦略そのものの考え方を転換させる必要が ある。そのためには、企業利益を極大化させるための基本的な図式に 基づいた保険マーケテイングが考えられなければならない。つまり、 マーケテイングもただ単に消費者一人ひとりのマーケテイングに対す る個人的な反応でみていただけではおぼつかず、企業全体の観点から 企業の成長を長期にわたり戦略的に考え、企業収益の極大化に寄与し うる戦略がどうあるべきかという点が明確にされなければならない。 この間題は、「経営レベルの保険マーケテイング」として捉えてみる ことができる。」(上田和勇『保険マーケテイング入門−その考え方 と戦略−』、損害保険企画、1983,p.48.) 2.3.2.マーケテイング情報システム(Vers un marketingin− formatise) Badocは、未来の保険企業従業員は、情報処理技術を習得し、日 常業務において、マーケテイング・販売計画上の各種情報処理システ ムを使いこなせるようになると同時に、顧客にシステム利用について 説明できるようにならねばならないと一般的に論じている。次に、 Badocは、情報処理の向上が保険経営にもたらす各種の可能性を示 49) している。 Badocは、情報処理の進展が保険経営・マーケテイングにもたら す可能性・効用として、主に①顧客開発・市場調査の迅速化、②コン ピューターを通じたダイレクト・マーケテイング・システムによる販 売能力の向上、③企業におけるマイコン、家庭におけるビデオテック スの一般化による顧客と保険会社の連携、⑥サービスの多様化の4点 −187− フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント 50) を挙げている。 (Dの顧客開発・市場調査において、将来的には、図4のような SIM(Systemes d’Informations Marketing)・マーケテイング情報 システムの充実によって、市場におけるリスクや収益性に関しても、 かなり洗練した情報が獲得されると Badocは推測している。③の例 としては、ビデオテックスによって、顧客と代理店綱を結ぶことに着 手した、旧西ドイツの保険会社Iduna社が挙げられている。⑥の サービスの多様化としては、Badocによると、ヨーロッパの保険経 営において次のような動きが見られる。それは、大企業・中小企業・ 農業従事者・小売商・熟練工・自由業者・一般大衆といった顧客のカ テゴリーごとに情報サービス提供するなど、顧客に対する情報サービ スの幅を拡大しようという動きである。将来的には、リスクマネジメ ントに関する情報サービスなども開発されるだろうと Badoc は予 51) 想している。 さて、ここでは、SIM・マーケティング情報システムと普及率世 界一を誇るフランスのビデオテックス・システムであるミニテル (minitel)についてもう少し詳述し、Badocのマーケテイング情報 論を補足しておきたい。 SIMの基本的構成は、図4に示すようなものである。SIMは、 顧客・市場といったマーケテイング環境とマーケティング・マネ ジャーの中間に位置し、両者の仲介をする。SIMの役割は、マーケ テイング環境からデータ(donn昌es)を獲得して、データベースを構 築し、さらにそのデータを加工分析して、マーケティング・マネ ジャーの意思決定に役立つような情報に変換することにある。このよ うに獲得された情報に基づいて、マーケテイング・マネジャーは、 マーケテイング計画を立案・実行し、それがマーケティング意思決定 −188− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント やコミュニケーション活動を通じて、マーケテイング環境にフィード 52) バックされる。 図4 保険企業におけるSIM(マーケテイング情報システム)の構成 (La configura=on d.un S川dans une soclt色 d’assurance) So】rCe:〟訂短tかぼ振方l丘gmt如ldb肌恥eetI’お皿rmCe飢γ㊥細肌払 Les 紬110nS d’or細nlSalion,1986. (《ぬrketing皿anage肥れ=)OUr h ba瑚Ue et】’assurance》.p.17粥.) 図4におけるSIMは、データ・バンク(bamquededonn昌es), 統計技法バンク(banque d’outils detraitements statistiques), モデル・バンク(banquedemod昌les)およびコンソール(con・ −189− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント SOles)すなわちディスプレイ・ユニットの4点から構成されてい る。データ・バンク(データ・ベース)には、マーケテイング環境か ら獲得されたデータが収められる。統計技法バンクには、データを分 析加工する際に利用される種々の統計的技法が収容される。統計技法 として利用されるものには、平均値を求めるというごく簡単なものか ら、相関分析、重回帰分析、判別分析、因子分析、主成分分析、クラ スター分析、数量化理論やベイズの理論、ゲームの理論などの複雑な 53) 手法までがある。モデル・バンクには、マーケテイング意思決定に役 立つ様々なモデルが保管される。モデルには、AIDAモデルのよう な単純なものの外に、予測モデル、市場行動モデル、商圏モデル、流 通機能モデル、製品計画モデル、広告モデル、価格モデルなどがあ 54) る。コンソール(ディスプレイ・ユニット)は、マーケテイング・マ ネジャーがSIMとコミュニケーションを持つための手段である。 ディスプレイ・ユニットは、カード・リーダー、カード・プリン 55) ター、テレタイプ、CRT(ブラウン管)などから成る。 データ・バンクと言う場合、大量のデータを蓄積しておいて、利用 56) 者にサービスする情報銀行、すなわち外部データ・ベースを指す が、ここでは、自社データ・ベースを含むより包括的なデータ・ベー スと同概念であると理解したい。従って、SIMによるマーケティン グをデータ・ベースに基づくマーケティング、すなわちデータベース ・マーケテイングと把握したい。データ・ベースとは、データを整理 統合し、コンピュータで効率的に検索できるようにした情報ファイル 57) (集合体)のことである。マーケテイングに優れた企業は、SIMに 見るように、意思決定にかかわるマーケティング・マネジャーが、い つでも、どこでも、即座に最高の情報を引き出せるようなシステム作 りを目指している。 −190− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント データ・ベースを自社内に作ることも、その努力の一つである。人 事や会計などの内部情報をデータベースにしている企業があるが、こ 58) れをマーケテイングの情報までに広げようとするものが、データベー ス・マーケテイングである。 データベース・マーケテイングは、ルディー和子『データベース ・マーケテイングの実際』(日本経済新聞社、1993年)によると、 次のように定義される。 「市場と双方向性のあるコミュニケーションを築き、そこで獲得し たデータをコンピュータに誰もがアクセスしやすい形で保持蓄積 し、それを同じくコンピュータの助けを借りて加工分析して有益な 情報に変え、現在のマーケテイング活動をたえず修正・変更するこ とにより、顧客の長期継続化やマーケテイングの投資効果をあげる 59) という目的を達成する。」 データベース・マーケティングにおけるデータ獲得手段には様々な ものがあるが、フランスで貴も有望視されるのが、ビデオテックスの ミニテルである。 ビデオテックスとは、電話回線を用いて、情報センターにある大型 コンピュータに記憶してある情報を、テレビ受像機のブラウン管の上 に文字と図形によって映し出すシステムである。フランスにおけるビ 60) デオテックスであるテルテルの中の簡易型の端末をミニテルと言う。 現在、フランスにおけるミニテルの普及台数は約600万台で、4家庭 に1台の割合で普及していることになる。これは、電話以外のエレク 61) トロニック・メディアの家庭普及率として、世界最大である。2000 62) 年には、1,450万台普及するものと予測されている。 ミニテルによって、電話番号検索(annuaire electronique),チ ヶット予約、ホームショッピング、メサジュリ・ローズ(messager− −191− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント ies roses)と呼ばれるチャッティング型のパソコン通信など、10,000 63) 以上のサービスが提供されている。フランスにおけるミニテルの大成 功は、PTT(Postes,Telegraphes et Telephones,郵便電信電話 64) 局)が、端末を無償で配布したことが要因であると思われる。 1987年のデータによると、ミニテルの総接続時間に占める金融 65) サービスの割合は6%であった。この数字を多いと判断するか少ない と判断するかは別として、今後のフランス保険経営におけるマーケ テイング・マネジメントの鍵は、SIMの核としてのミニテルの利用 にあると言っても過言ではないであろう。 2.3.3.多角化(La diversification oul’acquisition d’un autrem昌tier)・販売チャネルの多様化(L,ouverturedel,assur・ ancead,autrescanauxdedistribution) 66) 多角化に関する Badocの論旨は、2点に要約される。第1点目 は、前節で扱った情報面の充実を図るための顧客データベースの構築 や情報関連サービスとの提携など、情報関連の多角化である。第2点 目は、販売方式において近年大幅な変貌を遂げているフランス保険市 67) 場を生き抜くための販売チャネル関連の多角化である。 販売チャネルに関連して、Badocは、市場セグメントごとに、販 売チャネルを整備することを提起している。具体的な方法として、 Badocは、顧客にとっての陳腐さ(banalisation)のレベルに応じ て、商品・サービスを3つのカテゴリーに分け、それぞれについて販 68) 売チャネルを整備するという方法を紹介している。 まず第1のカテゴリーは、「プレタポルテ(pret−a−pOrter)」的な 性格を持つ月並みな(banal)商品である。保険においては、自動車 保険や生命保険などの規格化された商品がこの範噂に属する。これら −192− フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメント には、あまり特殊化されておらず広く普及した販売チャネルが充当さ れる。大規模店舗における販売、自動販売機によるもの、ダイレクト 販売などがその例である。 第2のカテゴ))−は、「イージーオーダー(mesureindus・ trielle)」的な性格を持つやや月並みな(semトbanal)商品である。 保険においては、カピタリザシオン債券などがこの範疇に属する。こ のような商品の販売には、保険代理店などの従来からある販売チャネ ルが利用される。第1、第2のカテゴリーにあてはまる商品・サービ スは、基本的には、個人市場を対象としたものである。しかし、同時 に小売商、熟練工、小企業、農業従事者、自由業者などの市場をも対 象にしている。 第3のカテゴリーは、顧客の「注文に応じて(sur mesure)」提 供しなければならない複雑な(complexe)商品・サービスである。 保険においては、リスクマネジメントに関するサービス、団体および 企業保険などが、この範噂に属する。このカテゴリーの商品・サービ スは、地方の本店または支店、専門的支社などの販売チャネルを通じ て提供される。このカテゴリーは、主として、企業などの産業顧客市 場を対象にしている。 近年、フランスの保険商品の販売組織は根本的に変貌を遂げ、 Badocの主張通り、マーケット・セグメントや商品に合わせて販売 チャネルを再構築し、販売方法を商品のタイプや顧客のカテゴリーに 合わせるという方向に進んでいる。新たな販売方法の出現、つまり販 売方法の多様化は、そのまま現在のフランス保険業界の特徴となって いる。新しい販売方法として、進境著しいのが、生命保険商品の窓口 販売とダイレクト販売である。銀行や他の金融機関の窓口における生 命保険商品販売の発展は、バンカシュランス・コンセプトに基づく銀 −193一 フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント 行の生命保険業務進出の動きによるところが大きいものと考えられ る。ダイレクト販売は、クーポン制度、通信販売、電話またはミニテ ルによる販売を指し、ダイレクト販売に特化した保険会社も登場して 69) いる。 具体的には、フランスにおける生命保険・カピタリザシオン販売に 占める各販売チャネルの比率は、1982年に代理店・ブローカー・保 険会社の営業職男による販売が73%、窓口販売が20%、ダイレクト 販売が7%であったのが、1991年には、代理店・ブローカー・営業 70) 職員52%、窓口42%、ダイレクト6%と推移している。この10年間 で、生命保険商品の窓口販売は、販売チャネル全体に占める比率が 20%から42%に倍増しており、その急成長ぶりがはっきりとわか る。なおフランスの生命保険・カピタリザシオンの総販売高は、1982 年から1991年の10年間でおよそ3倍に増加している。ダイレクト販 売について言えば、販売チャネルに占める比率は7%から6%に微減 しているとはいえ、ダイレクト販売自体は、約3倍に規模を拡大した わけであり、市場に定着していることがわかる。ちなみに、1991年 のフランス損害保険市場における販売チャネルの比率は、代理店 46%、媒介人なき共済組合・農業組合28%、ブローカー18%、営業 職員4%、ダイレクト3%、窓口1%であり、代理店による販売が主 71〉 流となっている。 注47)Badoc ゆCわりpp.1795−1802. 48)蕗idリpp.1795−1796. 49)蕗がリpp.1797−1799. 50)蕗材. 51)誠は −194− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント 52)市川貴「マーケティング情報と意思決定」(三浦信・釆住元朗・市川責『新版マー ケテイング』ミネルヴァ書房、1991)pp.116−117. 53)相原修、坤.ciJリpp.74−75. 54)蕗idリp.75. 55)市川寅、q夕.dL pp.119−120. 56)増田米二「情報化社会用語の解説」(『現代用語の基礎知識』、自由国民社、1992, p.609) 57)相原修、坤J前.,p月9. 58)蕗おりp.76. 59)ルディー和子『データベース・マーケティングの実際』、日本経済新聞社、1993 年、p.12. 60)前野和久「ニューメディア用語の解説」、(『現代用語の基礎知識』、自由国民 社、1992)pp,638−639, 61)ルディー和子、砂Cれp.115. 62)Dominique Roux≪Vid昌otex≫,Encyclopedie de Gesfion,Tome3, Economica,1989,p.3045. 63)ル肋α〟彿nO3,東京日仏学院・(財)フランス語教育振興協会、1989,pp. 15−19. 64)ルディー和子、坤.C〟リp.115−116. 65)Dominique Roux,坤.cit.,p.3046. 66)今井薫「ドイツにおける保険規制とアルフイナンツ」(『文研論集』第95号、1991 年6月、p.30)によれば、(アルフイナンツ)バンカシュランス・コンセプトに基づ く業容拡大によって、金融機関および保険企業にもたされる利点として、①顧客関係 の強化と相互売り込み(cross−Selling)を介しての集中的販売 ②商品拡大による顧 客の開拓(診共通商品開発やマーケテイングによるシナジー効果、ないしパッケージ 商品などからのイノベーション効果、販売システムの効率的運用 ⑧経費の節約など が予測される。 −195− フランス保険経営におけるマーケティング・マネジメント 67)Badoc,坤.Citりpp.1797−1798. 「過去2、3年間、フランスの生命保険業界の発展は、新たな段階に入っている。 その理由は、保険業界とそのサービスの規制緩和、国有企業の民営化、フランス金融 市場の好転、生命保険商品の需要の増加にある。 これに加えて、市場参入者が急増し、その結果販売ルートか拡大している。」 (「最近のフランス保険事情」、『生命保険経営』第56巻第三号、生命保険経営学 会、1985年5月、p.156.) 68)Badoc,qP,Cit.,pp.1800−1801. 69)「フランス生命保険の現状−フランス保険協会・年報1991年版から一」『文研海 外情報』No.40,1992年9月、pp,5ト52.なお保険マーケティングにおけるダイレク ト・マーケティング戦略については、上田和勇扉はれpp.117−124に詳しい。 70)妨材. 71)妨材. おわりに フランス保険経営におけるマーケテイング・マネジメントは、生命 保険の窓口販売増加などによる販売チャネルの変化、ミニテル普及に 伴うマーケテイング情報システムの進展といった固有の状況下にあ る。21世紀のEC保険統一市場において、さらに成長を遂げるため に、Badocの主張する「計画」の強化、「組織」改革など「マーケ テイング・マネジメント・サイクル」の充実が、未来のフランス保険 経営に望まれる。 (本稿は、生命保険文化研究所より受けた研究助成金による研究・資 料収集に基づいている。) −196−