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山田篤裕 慶應義塾大学経済学部教授 配付資料(PDF)
資料3 高齢者の就業の妨げをなくすために 山田篤裕 (慶應義塾大学経済学部) 2016年2月19日(金)19時~19時半 1 ①日本の男性の就業率は高いが、②女性の就業率との格差が際立つ 【なぜか】 モデル老齢厚生年金の所得代替率 約30%もの差 出所:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2015』 • • • • • 横軸に賃金水準(平均賃金の0.5~3倍で表現) 縦軸に賃金水準毎のモデル老齢厚生年金÷賃金(=所得代替率) 日本は低所得(平均賃金の0.5倍)でも所得代替率は50%程度 国際比較でも、所得代替率が低いほど、労働力率は高い傾向 「働かざるを得ない状況」が男性の高い就業率の一因 2 Source: OECD (2015) Pension Policy Notes: Japan (OECD Pension Model) 中年期の就業率が高齢期の就業率を決める 女性の就業率(2012年)の国際比較 • 日本の女性の就業率は【M字型】である。 • 国際的にみてM字型の谷(中年期における就業率の落ち込み) が深い国(日本、韓国)ほど、高齢期における男女間の就業率の 格差は大きい傾向。 • 高齢期の就業率は中年期の就業率で決まる。女性の高齢期の 就業を促進するには中年期の就業促進が重要。 • 高齢期における就業促進の政策手段は限られている。 出所:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2014』 女性の雇用形態別就業率(2012年) • 女性の正規の職員・従業員としての就業率は25~29歳をピーク とする【キリン型】である。 • 中年以降の就業はパート・アルバイト等の非正規雇用が中心。 • 非正規雇用の多くは,被用者保険の適用を受けていない. 出所:総務省「平成26年労働力調査(基本集計)」 3 雇用者における中高齢期の家族介護と必要な支援 介護をしている雇用者数と雇用者総数に占める割合(2012年) 仕事と介護の両立に必要な勤務先による支援(複数回答) 出典:厚生労働省『平成24年版 働く女性の実情』p.57より引用。 • 男女とも就業率の上昇が期待されている年齢層と重なっている. • 家族介護を提供する雇用者の割合は中高年期に急激に高まり, 55-59歳女性で13%,男性で8%と最も高くなっている. • また総数は女性137万人と男性103万人,【(家族)介護をしている 雇用者は計240万人】となっている. • 比較的,若い年齢層(40歳前後)でも家族介護は発生していること にも留意. 出典:厚生労働省『平成24年版 働く女性の実情』p.69より引用。 • 育児と仕事の両立だけでなく,【介護と仕事】の両立も重要. • 両立を考える際には、育児・介護を受ける側の生活サイクルを中心 に考える必要(たとえば,育児と仕事の両立の場合,遅くとも午後7 時過ぎに退社しないと,通勤時間などによっては保育所に間に合 わず,さらに子どもの入浴・就寝時間にも間に合わない). 4 • 例えば介護デイサービスの一般的提供時間(8h)で介護と仕事の 両立が可能か疑問(保育所の基本開所時間11hとの比較で自明). 高齢者の貧困率の予測と厚生年金の適用拡大 男女別でみた高齢者の貧困率の将来見通し 出典:稲垣誠一(2013)「高齢者の同居家族の変容と貧困率の将来見通 し」『季刊社会保障研究』48(4)より引用.社人研「日本の将来推計人口」, 年金局「財政検証結果」に基づく,マイクロ・シミュレーション結果. • 現役時代の男女の雇用格差(女性の就業率は低く,雇用者に占 める非正規雇用割合は高く,賃金は低い)により女性の年金額は 低い. • 遺族厚生年金・第3号被保険者のメリットを享受できる専業主婦 は少数派(3割弱). • 未婚(現在,男性2割、女性1割)・離別(現在,3組に1人)率の上 昇に伴い,低年金の高齢女性が増加する結果,女性の貧困率 は今後40年間に2倍近く上昇. 適用拡大による貧困率の将来見通し 出典:稲垣誠一(2015)「年金改正・物価上昇が将来の高齢世帯の貧困に もたらす影響」『貧困研究』15より引用.社人研「日本の将来推計人口」,年 金局「財政検証結果」に基づく,マイクロ・シミュレーション結果.2024年4月 から220万人(週20時間以上の短時間労働者)と1200万人(一定以上の収 入のある全雇用者)への適用拡大を想定. • 2024年4月から1200万人まで適用拡大した場合でも,2030年代後 半以降にようやく効果が表れる. • 1200万人への適用拡大により,年金財政が改善し,基礎年金の マクロ経済スライドを早期に終了することが可能になるため,恩恵 は1200万人のみならず,全高齢者に波及(=貧困率低下の主要 因). • 220万人への適用拡大では,マクロ経済スライドは早期に終了す ることができないため,貧困率低下効果は限定的. • 週20時間未満就労に抑えようとするインセンティブを企業に与え る恐れ.社会保険料がかからない非正規を雇おうとする企業のイ 5 ンセンティブ解消にも1200万人適用拡大は必要. 高年齢者雇用安定法による雇用確保措置の抜け穴 定年到達時と比較した再雇用・勤務延長制度活用者の年収水準・賃金および継続雇用率 年収水準 定年到達時の年収 とほぼ同程度 の8~9割程度 の6~7割程度 の半分程度 の3~4割程度 の3割未満 (N=519) 構成比(%) 5.0 14.8 48.4 22.2 8.9 0.8 100.0 賃金(万円) 30.7 30.3 22.2 16.6 10.2 3.6 21.5 継続雇用率 64.8 69.2 65.8 55.3 50.3 31.3 62.3 出典:労働政策研究・研修機構(2006)『高年齢者の継続雇用の実態に関する調査』 (非農林水産業を除く、ランダム選択された従業員100人 以上規模企業、3000社対象)に基づく筆者推計. • 高年齢者雇用安定法は,65歳までの雇用確保措置を義務付けている.雇用確保措置には(65歳までの)定年延長,再雇用, 定年撤廃,などの方法がある. • 多くの企業が採用しているのは,大幅な賃金切り下げが可能な再雇用である. • したがって,企業は賃金の大幅な切り下げで高齢者に再雇用を断念させることが可能【雇用確保措置の抜け穴】. • 現在,報酬比例部分支給開始年齢引上げで60歳以降に低収入になるリスクを抱えており,このような抜け穴があるとすれば,早 急に塞ぐ必要がある. • そのためには,不公正な再雇用時の賃金引き下げを禁止するため,現在,進行中の同一労働・同一賃金の議論と合わせ検討 6 する必要がある. 高齢者の就業の妨げをなくすために必要な政策 • 介護と仕事の両立が可能なように • せめて子育てと同程度は介護に対するサービス支援が行われるように • • たとえば保育所の開所時間は11時間であるのに対し、一般的な介護デイサービスは8時間。しかし、フルタイム就労8時間(昼休み 入れ9時間)+通勤時間2時間=11時間は必要ではないか 併せて介護施設の拡充も重要 • 貧困による就労促進を避けるため • 厚生年金の適用拡大を1200万人まで早急かつ大胆に進める • • 年金財政を改善し,給付水準改善の恩恵は全高齢者まで波及 社会保険料支払い回避のため非正規雇用を増大させてきた,これまでの歪んだ企業の雇用インセンティブも改善可能 ※220万人の適用拡大(週20時間以上の短時間労働者)では,週20時間未満の雇用を増大させるような,企業の雇用インセン ティブにつながってしまうのではないか • 高齢期の就労を公的年金額の上昇に結び付け,貧困リスクを下げるよう,基礎年金給付算定時の納付年数の上 限を現在の40年(20~60歳)から45年(20~65歳)に延長することが必要 • 企業が再雇用時の賃金の大幅切り下げにより,高齢者に就業を断念させることのないように • 同一労働・同一賃金の議論の整理に基づき,再雇用時の不公正な賃金切り下げを禁止 • たとえば継続雇用時の賃金再設定のガイドラインを策定する • 雇用と年金の空白を避けるため • 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げに合わせ、定年年齢の延長を段階的に進める • 健康寿命の延びに合わせ自動的に雇用確保措置の上限年齢を65歳を超えて引き上げる仕組みも視野に • 従来のように,年金制度改革の後から追随し,高齢者の雇用政策を進めるのではなく,「あるべき社会」に向かっ て,高齢者の雇用政策の方が率先する時代になっているのではないか 7 参考:なぜ定年制(強制退職)が生じるのか Why is there mandatory retirement? • Lazear (1979)の論文に基づく,雇用確保措置への企業の対応 8